説明

アナログ作動およびデジタル作動される電圧制御発振回路

【課題】電源電圧を小さくした場合でも、出力周波数の同期範囲を十分に大きくすることのできる電圧制御発振回路を提供する。
【解決手段】VCO回路(20)は、コイル(21)と、このコイルに並列の一定容量値の容量素子(24)と、調整可能な容量素子(22、23)とを有する。第1容量素子(22)は、1つまたは複数のバラクタ−から形成され、その容量は、アナログ制御電圧(Vtune)により調整可能である。第2容量素子(23)は、デジタルビットワードVCWD[N:1]により作動可能な複数の容量素子の配列部から形成される。VCO(20)のデジタル較正は、現時点の制御電圧が、特定の電圧の範囲内にあるか否かを判定し、特定の電圧範囲内でない場合、デジタルビットワードが、1ビット値ずつ上昇または低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載された電圧制御発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、多数の電子回路が、電圧制御発振器(VCO)を利用している。この応用の具体的に重要な1つの分野は、移動通信の分野であり、ここでは電圧制御発振器を位相同期回路中に用いて、安定性および精度の高い出力周波数を生成する。
【0003】
今日、システムオンチップ(SOC)応用における最も重要なチップ技術はCMOS技術である。この技術において、クリティカルディメンジョンが絶えず小さくなるにつれ、電源電圧も低減されている。しかし、アナログ回路技術には、このデジタル回路技術で行なわれるスケーリングを適用することはできない。電源電圧が回路寸法に応じて小さくなる場合の、VCO回路における最大の欠点は、同期範囲が狭まることである。これにより、小さな周波数範囲しかカバーされず、その結果、大量生産では技術上の誤差および温度の変動により問題が生じる。
【0004】
従来技術のVCO設計では、通常、同期範囲が広いバラクタダイオードが用いられ、所望の周波数範囲をカバーしている。図1に従来技術の電圧制御発振回路10を概略的に示す。この電圧制御発振回路10が備えるLC共振回路は、1つの回路パスに、コイル素子1.1・1.2を有し、前記回路パスに対して並列に接続されている回路パスに、バラクタ2.1・2.2を有する。バラクタ2.1・2.2は、容量値が印加電圧に依存する容量素子であり、ここでは、前記容量素子の各ソース入力に供給されるアナログ電圧信号Vtuneにより、所定の範囲内で容量値を可変調整できる。このように、共振回路は、誘導コイル素子1.1・1.2と、バラクタ2.1・2.2とから形成される。交差接続ゲートを有する2つのトランジスタ3.1・3.2の正帰還作用により、必要なループ利得が確保される。VCO発振器からの出力電圧信号は、出力端子A・Bにおいて得ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
VCO回路の動作周波数範囲を決めるバラクタ2.1・2.2の容量値の範囲の設計においては、最初から温度およびプロセス誤差の影響を見込む必要がある。しかし、上述の従来のVCO設計では、例えば、0.13μmのクリティカルディメンジョンを有するサブミクロンのCMOS技術では、電源電圧の大きさが変更される、すなわち低下することに基づく欠点が生じる。その欠点の1つは、電源電圧が低下することにより、VCO回路中の同期範囲も同様に小さくなってしまうことである。バラクタダイオードの容量比Cmax/Cminは以前のままほぼ一定であるので、電源電圧が低下することにより、出力周波数の同期範囲が小さくなってしまう。したがって、所望の周波数範囲全体に渡ってVCO回路の性能を十分確保しつつ、生産誤差および温度変動を考慮に入れるための、適切な方策が必要である。
【0006】
これゆえに、本発明は、電源電圧を小さくした場合でも、出力周波数の同期範囲を十分に大きくすることのできる電圧制御発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、請求項1の特徴部により達成される。より良い形態およびより洗練された形態については、従属請求項に示す。
【0008】
本発明に係る電圧制御発振回路は、少なくとも1つの誘導素子と、印加電圧に依存する容量値を有するとともに、アナログ制御電圧が印加されて前記容量値が制御されるように作動される少なくとも1つの第1容量素子とを、発振周波数を決定する共振回路の少なくとも一部を構成するように備える電圧制御発振回路において、複数の第2容量素子からなる配列部を備え、前記配列部は、入力されるデジタルビットワード(VCWD[N:1])に応じて、所定数の前記第2容量素子を前記共振回路の一部として前記共振回路に組み込むように作動される。
【0009】
このように、本発明は、デジタルビットワードによる動作により、電圧制御発振回路を同期させることを提供している。
【0010】
また、電圧に依存する容量値を有する前記第1容量素子が複数設けられていてもよい。この複数の第1容量素子は、例えば、バラクタ、または、バラクタダイオードである。
【0011】
第2容量素子の配列部は、例えば、互いに並列接続された複数のキャパシタなどの、複数の容量素子で構成することができる。この配列部の一部をなす各容量素子すなわち各第2容量素子は、例えば、前記誘導素子と前記第1容量素子とに並列に接続されるようになっている。前記第2容量素子の各々の容量値は、例えば互いに等しい大きさとする。この配列部は、デジタルビットワードにより作動可能であり、ビット位置の設定が0であるか1であるかに応じて、このビット位置により指定されたキャパシタが、スイッチにより接続される、または、接続を切断される。
【0012】
電圧制御発振回路の好適な実施形態の一つとして、バラクタに供給される現時点のアナログ制御電圧が、所定の電圧範囲内にあるか否かを判定する制御装置を備えた構成が挙げられる。制御装置は、この判定結果に応じて、第2容量素子の配列部に供給されるデジタルビットワードを現在の値のままとするか、1ビット値ずつ上昇または低下させる。制御装置は、このために比較器を備えていてもよい。例えば、この比較器の第1入力には現時点の制御電圧が供給され、比較器の第2入力には、前記所定の電圧範囲の上限値または下限値が供給される。
【0013】
以上の本発明に係る電圧制御発振回路は、通常、位相同期回路の一部となる。この電圧制御発振回路のデジタル制御は、位相同期回路または送受信回路の、様々な状況下または様々な動作時点において行われる。調整可能な周波数範囲の全体は、いくつかのグループに分けられ、それぞれのグループが、特定の数の送信チャネルまたは受信チャネルを有するようにすることができる。例えば、送信動作または受信動作を開始する前に、まず、デジタル制御を、各グループの各チャンネルに対して実施することができる。デジタル制御を実施するときには常に、まず、現時点のVCO設定を有する位相同期回路が、ロック時間が終了するまで待機し、その後、修正されたデジタルビットワードを算出して保存する。その後、送信/受信装置が、送信または受信の能動モードに変われば、特定の周波数チャネルを選択する度に、レジスタから保存された各デジタルビットワードが呼び出され、VCOへ供給される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、添付の図面を参照し、例示した実施形態を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
図1は、従来の電圧制御発振回路の構成を示す図である。
【0016】
図2は、本発明の実施形態を示し、デジタル容量アレイとアナログ制御バラクタとを有する電圧制御発振回路の構成例を示す図である。
【0017】
図3は、複数の参照電圧を生成し、参照電圧のうちの1つと、制御電圧とを比較器に入力するという構成例を示す図である。
【0018】
図4は、デジタル制御の流れを示すフローチャートの例を示す図である。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態を示す電圧制御発振回路(VCO)20の構成を示す図である。電流源35の入力は、電源VDDに接続され、電流源35の出力はコイル21に接続されている。コイル(誘導素子)21は、一定の容量値を有するキャパシタ24と、それぞれ印加される電圧に応じて容量値が制御されるように作動する可変容量値の容量素子22・23とに並列接続されている。コイル21と、容量素子22〜24とは、LC共振回路を形成している。トランジスタ25・26は、これらの回路素子に並列接続されていて、交差接続ゲートを有するが、これらのトランジスタ25・26により、正帰還による必要なループ利得が確保される。
【0020】
アナログ制御電圧Vtuneにより作動される容量素子(第1容量素子)22は、例えばバラクタ、すなわち、印加電圧に依存する容量値を有するキャパシタを備える素子である。電圧制御発振回路20はこの容量素子22を1つまたは複数備えている。容量素子(第2容量素子)23は、デジタルビットワードVCWD[N:1]により作動されるキャパシタであり、電圧制御発振回路20は複数の容量素子23からなる配列部すなわちアレイを備えている。この中に含まれる各容量素子23すなわちキャパシタは、例えば、標準的な所定の容量値を有し、それぞれ、ビット毎に作動させることができる。例えば、デジタルビットワードを1ビット値上昇させると、あるキャパシタが接続可能になり、デジタルビットワードを1ビット値低下させると、あるキャパシタの接続が切断される。
【0021】
このように、本実施形態では、コイル21と容量素子22とは、電圧制御発振回路の発振周波数を決定する共振回路の少なくとも一部を構成しており、容量素子23の配列部は、入力されるデジタルビットワードVCWD[N:1]に応じて、所定数の容量素子23を前記共振回路の一部として前記共振回路に組み込むように作動される。
【0022】
制御電圧により同期範囲を選択する場合には、送信または受信の能動モードに切り替わる前に、VCOを制御して発振周波数をその範囲の中間の周波数に合わせるとよい。あるいは、能動モード中に、VCOを連続的に制御して、発振周波数の上記中間の周波数への合わせ込みを行うことも可能である。VCOによりカバーされる周波数範囲を、いくつかのグループに分け、それぞれのグループが、例えば、8つの周波数チャネルを有するようにしてもよい。
【0023】
本実施形態におけるVCOのデジタル制御すなわち較正は、ある周波数範囲内で調整される各周波数に対するアナログ制御電圧を、所定の電圧の範囲内に収めるということを基本としている。すなわち、比較器を用いて、現時点で使用しているアナログ制御電圧を、所定の周波数範囲の上限値または下限値と比較する。比較の結果に応じて、デジタルビットワードVCWD(N:1)を、1ビット値ずつ上昇または低下させる。
【0024】
図3は、2つの参照電圧の生成、および、該参照電圧とアナログ制御電圧との比較を説明するためのブロック図である。この回路を用いて、現時点のアナログ制御電圧が、所定の電圧の枠内(範囲内)にあるか否かをチェックする。このために、2つの参照電圧として、電圧Vref,low(枠の下限値)と電圧Vref.high(枠の上限値)とを、バンドギャップ回路30と、その下流にある参照電圧回路31とにより生成する。参照電圧回路31から得られたこれらの参照電圧は、個々のVCOにおける代表的な周波数値に対応するものである。スイッチの位置により、2つの参照電圧のうちの1つが比較器32の第1入力に入力され、一方、この時点でのアナログ制御電圧Vtuneが、比較器32の第2入力に入力される。位相同期回路(PLL)(VCOは、この位相同期回路の一部分である)がロックするのに要するPLLのロック時間すなわち制御時間が経過した後に、アナログ制御電圧すなわち同期電圧が参照電圧値Vref,low・Vref.highと比較されるような制御が、繰り返し行われる。同期電圧が枠内の電圧である場合に制御は完了し、VCOの調整が完了する。同期電圧が、参照電圧値Vref,highよりも高い、または、Vref.lowよりも低い場合には、容量素子23の配列部全体の容量値が、デジタルビットワードによって増加または減少する。
【0025】
図4は、制御の流れを示す概略フローチャートである。図中のVCOMUXの値が1である場合には、同期電圧は高い方の参照電圧値と比較され、VCOMUXの値が0である場合には、同期電圧は低い方の参照電圧値と比較される。VCOADJCompの値は、比較器からの出力値である。調整アルゴリズムは以下のように実行される。
工程1.PLLのロック時間すなわち制御時間を設定する。
工程2.参照電圧は、(図3のスイッチの位置により)低い方の電圧値(下限値)または高い方の電圧値(上限値)に調節される。
工程3.所望の中間の周波数MidFreqおよびそれに対応するグループ番号GroupNoを選択する。
工程4.較正が始まる。:内部カウンターを、ロック時間に基づいてONする。
工程5.内部カウンターの値が「0」になれば、PLLがロックされて比較器32の出力がデジタル部により読み取られたことを意味する。比較された電圧値に基づき(工程2参照)VCWD[N:1]が、1ビット値ずつ上昇または低下する。内部カウンターは、再びロック時間をロードする。比較器の出力により、限界値を上回ったこと、または、下回ったことが示されれば、すぐに参照電圧が他方の限界値に切り替わる。
工程6.所望の同期電圧が電圧枠内に入るまで、工程5を繰り返す。
工程7.VCWD[N:1]の最後の値を、対応するレジスタに保存する。
【0026】
上述の一連の工程を、各グループの各チャネルに対して実施する。能動モードでは、PLLを作動させる前に、各所望のチャネル用に、デジタルビットワードVCWD[N:1]の適切な値がVCOに与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の電圧制御発振回路の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、デジタル容量アレイとアナログ制御バラクタとを有する電圧制御発振回路の構成例を示す図である。
【図3】図3は、複数の参照電圧を生成し、参照電圧のうちの1つと、制御電圧とを比較器に入力するという構成例を示す図である。
【図4】デジタル制御の流れを示すフローチャートの例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
20 電圧制御発振回路
21 コイル(誘導素子)
22 容量素子(第1容量素子)
23 容量素子(第2容量素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの誘導素子(21)と、
印加電圧に依存する容量値を有するとともに、アナログ制御電圧(Vtune)が印加されて前記容量値が制御されるように作動される少なくとも1つの第1容量素子(22)とを、発振周波数を決定する共振回路の少なくとも一部を構成するように備える電圧制御発振回路(20)において、
複数の第2容量素子からなる配列部を備え、前記配列部は、入力されるデジタルビットワード(VCWD[N:1])に応じて、所定数の前記第2容量素子を前記共振回路の一部として前記共振回路に組み込むように作動されることを特徴とする電圧制御発振回路(20)。
【請求項2】
前記第1容量素子(22)は複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電圧制御発振回路。
【請求項3】
前記第1容量素子(22)はバラクタであることを特徴とする請求項1または2に記載の電圧制御発振回路。
【請求項4】
現時点の前記アナログ制御電圧が所定の電圧範囲内にあるか否かを判定し、その判定結果に応じて、前記デジタルビットワードを現在の値のままとするか、1ビット値ずつ上昇または低下させる制御装置(30−32)を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電圧制御発振回路。
【請求項5】
前記制御装置(30−32)は比較器(32)を備え、前記比較器の第1入力には現時点の前記アナログ制御電圧が供給され、前記比較器の第2入力には、前記所定の電圧範囲の上限値または下限値が供給されることを特徴とする請求項4に記載の電圧制御発振回路。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電圧制御発振回路を有する位相同期回路(PLL)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−174455(P2006−174455A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357369(P2005−357369)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(501209070)インフィネオン テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト (331)
【Fターム(参考)】