説明

アルミニウム合金及びその製造方法

【課題】高強度と低いヤング率とを兼ね備えたアルミニウム合金を提供する。
【解決手段】少なくともAl相とAlCa相とを含むアルミニウム合金であって、粒子径が10μm以上のAlCa粒の面積率(B)に対する、粒子径が10μm未満のAlCa粒の面積率(A)の比(A)/(B)が1以上である、アルミニウム合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヤング率を低減した金属材料は、負荷応力に対して大きな弾性変位を得ることができ、そのしなやかな特性から、種々の用途に用いられている。例えば、バネ材料に用いた場合スプリングの巻き数を低減できるため、バネを小型化することができる。また、しなやかな特性からメガネに用いると使用感を高めることができる。さらにゴルフクラブに用いると飛距離を向上させることができ、その他ロボット、人工骨補助材などの製品に好適に使用することができる。
【0003】
例えば、ロボットの手や指には鉄鋼等の金属が用いられている。しかし、ロボットが、ステンレス製の手で対象物を掴もうとすると、力の加減が難しく、対象物を破壊してしまい易いという問題がある。従って、低ヤング率の素材を用いてロボットの手や指を作製することが求められる。
【0004】
また、低ヤング率の金属が線膨張係数も同時に低くできた場合、例えば半導体モジュールの配線等の構成部材として用いると、チップとの線膨張係数差により発生する熱歪みを効果的に吸収することが出来る。このように、低ヤング率を有する金属は種々の用途に広く用いることができる。上記を満たす低ヤング率を有する金属材料として、例えば、チタン系合金やNi−Ti形状記憶合金が挙げられる。これらはいずれもチタンをベースとした金属であるため、高価であった。また、Mgは純金属でヤング率が40GPa台と低いが、用途によっては強度が低い、耐熱性、耐食性、耐久性等が低いなどの理由から使用範囲が限られていた。
【0005】
そこで、金属の中では比較的低コストであるアルミニウムをベースとした低弾性合金が求められている。
【0006】
一方、アルミニウムにCaを含有した合金は、従来から知られている。例えば、特許文献1では、0.5〜10重量%のCaを含有するAl−Ca合金であって、断面積が7〜80mmのロッド状であることを特徴とする初晶Si微細化助剤が提案されている。
【特許文献1】特開平6−145865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、特許文献1に記載のAl−Ca合金は、過共晶Al−Si合金の微細化のための添加材としての利用を目的としており、合金の強度やヤング率に着目している技術ではない。そして、本発明者らが検討した結果、低ヤング率の合金を得ようとしてCa量を単純に増加させていくと、曲げ強度等の機械的特性が低下することが判明した。したがって、本発明の課題は、低ヤング率でありながら、機械的特性に優れたアルミニウム合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、AlCa相における粒子径が10μm未満のAlCa粒の面積率が10μm以上のAlCa粒の面積率に対して1以上であるAl合金が上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヤング率が低いアルミニウム合金でありながら、機械的特性に優れた合金を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、少なくともAl相とAlCa相とを含むアルミニウム合金であって、粒子径が10μm以上のAlCa粒の面積率(B)に対する、粒子径が10μm未満のAlCa粒の面積率(A)の比(A)/(B)が1以上である、アルミニウム合金である。
【0011】
図1にAl−Ca合金状態図を示した。図1は、V.P.Itkin,C.B.Alcock,P.J. van Ekeren, and H.A.J.Oonk,Published in Bull. Alloy Phase Diagrams,9(6),Dec 1988.からの引用である。図示したように、平衡状態ではCa量が7.7質量%以上で過共晶となり、初晶としてAlCaが晶出する。AlにCaを添加すると、ヤング率が低下することは従来から知られていた(例えば、JOURNAL OF THE INSTITUTE OF METALS ,(1952−3),Vol.81,No.1,pp49−55,N.Dudzinski.参照)。しかしながら、ヤング率を低下すべく、過共晶側までCa量を増やすと、製造が困難になる上、強度や延性等の種々の機械的特性に悪影響を及ぼしていたため、Ca量を増やすことは困難であった。特に、AlCa相は脆いため、Ca添加量を増やすと脆性的になり、低ヤング率の特性を生かせない欠点があった。この原因として、本発明者らは、従来の合金のAlCa相に存在する粗大なAlCa粒の存在が、合金強度の低下に影響を与えていることを見出した。そして、Ca量を増大させた場合であっても、粗大な粒子径(具体的には10μm以上)のAlCa粒の含有量を一定以下にコントロールすることによって、高強度と低ヤング率とを兼ね備えたアルミニウム合金が得られることを見出したものである。
【0012】
具体的には、本発明の合金は、機械特性に悪影響を及ぼす10μm以上で存在する粗大なAlCa粒の面積率(B)が、10μm未満の微細なAlCa粒の面積率(A)と同じ、または10μm未満の微細なAlCa粒の面積率(A)よりも小さい。このため、微細なAlCa粒の存在が強化機構として働く上、ヤング率も十分に低くすることができる。従って、高い強度と低いヤング率を兼ね備えたアルミニウム合金を得ることができる。
【0013】
本発明では、AlCa相を構成するAlCa粒において、粒子径が10μm以上のAlCa粒の面積率(B)に対する、粒子径が10μm未満のAlCa粒の面積率(A)の比(A)/(B)が1以上である。より好ましくは、1.5以上であり、さらに好ましくは10以上である。(A)/(B)がかような比であると、得られる合金の機械的特性が向上し、また低ヤング率の合金を得ることができる。なお、粒子径が10μm以上のAlCa粒は、その存在が少なければ少ないほど、本発明の効果が顕著に得られるため、(A)/(B)値の上限は特に限定されるものではないが、通常は、100以下程度となる。
【0014】
なお、AlCa粒の「粒子径」とは、AlCa粒の最長径を意味するものとする。また、AlCa粒の面積率、および以下に記載する個数は、次のように求める。実施例に記載のように、まず、アルミニウム合金の棒材の長手方向に対して垂直断面の光学顕微鏡による組織写真の観察結果を元に画像解析により2値化処理を行い、AlCa粒の面積率および個数を求める。さらに、長手方向平行断面も光学顕微鏡写真より同様にAlCa粒の面積率および個数を求め、垂直断面との平均値を求めることにより、AlCa粒の面積率、および個数とする。ここでは、棒材を例に記載したが、その他の場合であっても、垂直方向および平行方向の2方向の断面画像を解析し、各方向の数値を平均化したものを、AlCa粒の面積率および個数とする。面積率は、Al合金を構成する全粒子が占める面積を100%とした場合の、各粒子が占める面積比率を意味する。
【0015】
AlCa相の平均粒子径は、1.5μm以下であることが好ましく、0.2〜1.5μmであることがより好ましい。また、1mmあたりAlCa粒が10万個以上存在することが好ましく、10万〜100万個存在することがより好ましい。平均粒子径が小さく、かつ面積あたりの粒子数が多いことで、微細な粒子が多数存在するため、高い強度と低いヤング率という本発明の効果をより発揮しやすい。AlCa相の平均粒子径は、実施例と同様に、アルミニウム合金の棒材の長手方向に対して垂直断面の光学顕微鏡による組織写真の観察結果を元に画像解析により2値化処理を行い、AlCa粒の平均面積を求める。さらに長手方向平行断面も光学顕微鏡写真より同様にAlCa粒の平均面積を求め、垂直断面との平均値を求める。続いてAlCa粒は球状であると仮定して球の直径を得られた平均面積から計算し、AlCa相の平均粒子径とする。ここでは、棒材を例に記載したが、その他の場合であっても、垂直方向および平行方向の2方向の断面画像を解析し、各方向の数値を平均化したものを、AlCa相の平均粒子径の面積率とする。
【0016】
本発明のアルミニウム合金は、Alを主成分としたCa含有アルミニウム合金からなるものであるが、Alは残部であって、その含有が限定されるものではない。例えば、原子量比率で考えたときに、含有元素中でもっとも多い元素がAlであれば良い。特に、Al合金全体を100質量%としたときに、Al含有量が70質量%以上、好ましくは80質量%以上のAl基合金であると、低密度化、低弾性化を図る上で好ましい。また、当然に、不可避不純物は存在し得る。
【0017】
Caは、AlCaを第2相として分散させ、ヤング率を低下させる元素である。Al合金全体を100質量%としたときに、Ca量は、7.6質量%以上とすることが好ましく、10質量%を超えることが好ましい。Ca量をかような範囲とすることで、AlCa相が適度に形成され、ヤング率を低減する効果が得られる。また、Al合金全体を100質量%としたときに、Ca量は、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましい。Ca量をかような範囲とすることで、AlCa量が多くなりすぎず、素材が脆性的に成り難く、充分な強度が得られる。
【0018】
AlCa相の面積率は、20〜80%であることが好ましく、30〜60%であることが好ましい。AlCa相の面積分率がかような範囲であれば、低ヤング率の合金を得ることができる。この際、AlCa粒子径が10μm以上であるAlCa相の面積分率は30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。また、AlCa粒子径が10μm未満であるAlCa相の面積分率が20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。AlCa相の面積分率をかように制御することによって、低ヤング率で強度の高い合金を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係るアルミニウム合金においては、元素組成でCaとAlと不可避不純物のみからなるものであってもよい。この場合には、本発明の作用効果を発現させる上で、Ca、Al以外にZn等の第3元素を含む場合に比して、Ca含有量の範囲が上記に規定するように広く取れるため、Caの配合量を厳密にコントロールしなくても調製できる範囲が広く取れる点で優れている。また、Ca、Al以外にZn、Zr、Ti等の第3元素を含む場合に比して、これらの第3元素を含まない合金の方が比較的安価に合金化(製品化)できるため、低コストの合金を提供できる点で優れている。
【0020】
一方、本発明に係るアルミニウム合金においては、上記Ca以外にも、以下のような元素(以下、第3元素ともいう)を含有していてもよい。例えば、Mg、Sr、Ba等の第2族元素;Mn、Cu、Fe、Ti、Cr、Zr等の第4〜11族元素(遷移金属元素);Znなどの12族元素(亜鉛族元素);Si等の第14族元素;P等の第15族元素等の元素(第3元素)を含有していてもよい。これらの第3元素を含有する場合には、その含有量は、含まれる第3元素に応じて適宜設定されるが、通常、合金100質量%に対して、0.01〜15質量%程度である。上記第3元素は、1種単独で用いられてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0021】
本発明に係るアルミニウム合金は、少なくともAl相とAlCa相とを含み、より好ましくは、Al相とAlCa相とから構成される。AlCa相は、Alマトリックス中に分散していることが好ましい。より好ましくはAlマトリックス中に均一分散していることである。マトリックスが純Alでネットワーク状につながっていると、十分な延性を確保することができる。また、高い熱伝導率、低電気抵抗特性をネットワーク状のAlが担うことができるため、アルミニウム合金の熱伝導率、電気抵抗への跳ね返りを抑制することが出来る。そのため、例えば半導体モジュールの配線等の構成部材や各種メタルシール等の応力緩衝材料として好適に利用可能である。AlCa相の分散の様子は、組織観察により行うことができる。マトリックスが純Alでネットワーク状につながっている状態であれば、AlCa相がAlマトリックス中に均一分散しているものといえる。ここで、Alマトリックス中に分散されてなるAlCa相の形状(ここでは、適当に切断した際の切断面における形状とする)は、特に限定されるものではない。
【0022】
本発明に係るアルミニウム合金の静的ヤング率は、60GPa以下であると好適であり、50GPaを下回るとさらに好ましく、特に30〜50GPaの範囲である。同様に動的ヤング率は、55GPa以下、好ましくは50GPa以下であり、より好ましくは45GPa以下であり、特に30〜45GPaの範囲である。
【0023】
本発明ではCaの添加により、製造コストが高く高価で、製造工程が複雑で大量生産には不向きな炭素繊維強化Al複合材料を用いなくとも、低コストかつ大量生産に適した合金形態にてアルミニウム合金を得ることができる。そのため、該合金形態では、これを用いたロボットの手や指や人工骨補助材等への成形加工や2次加工(穴あけや切削加工や曲げ加工等)、更には半導体モジュールの配線やメタルシール等の微細加工が非常に容易に行える。そのため、Ca含有アルミニウム合金から種々の形状・形態を有する応力緩衝材料を容易に製造することができることから、各種技術分野での利用拡大を一層図れる点で優れている。一方、Ca含有アルミニウム合金の静的ヤング率が60GPaを上回る場合、従来レベルを超えた十分に低いヤング率とはいえず、所望の用途である応力緩衝材料への利用拡大を図るのが困難となる。ここで、静的ヤング率とは、JIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準じて測定したものである。また、動的ヤング率も、JIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準じて測定したものである。また、静的および動的ヤング率は一般に温度依存性があるが本発明でいう静的および動的ヤング率は室温(20〜25℃)で測定した値とする。
【0024】
本発明に係るアルミニウム合金の製造方法は特に限定されるものではない。好適には、合金の溶湯を急冷凝固する工程を含む。ここでいう急冷凝固とは、高温度より急速に冷却する操作であり、特にその冷却速度を限定するものではないが、好ましくは凝固時に10K/sec以上、より好ましくは10K/sec以上の冷却速度で急冷する。鋳物では10−3〜10K/sec、DC鋳造でも10K/sec以下である。また、急冷凝固は、好適には溶湯が610℃以下、より好ましくは400℃以下になるまで行う。急冷凝固を行うことによって、例え初晶としてAlCaが晶出する組成であっても、十分に早い冷却速度であるため微細かつ多量のAlCa粒で構成されるAlCa相をAl中に分散させることができる。したがって、高強度と低ヤング率を兼ね備えたアルミニウム合金を提供することができる。特に、合金中のCa含有量が7.6質量%〜20質量%の組成範囲では、溶解凝固の際に初晶としてAlCaやAlCaが粗大に現れるため、微細に組織調整するのが困難であった。しかしながら、上記急冷凝固の工程を含む方法によれば微細なAlCa粒が分散された合金を容易に得ることができる。したがって、本発明の好適なアルミニウム合金の製造方法は、少なくともAl相とAlCa相とを含む、Caの含有量が7.6質量%〜20質量%のアルミニウム合金の製造方法であって、溶湯を急冷凝固する工程を含む、アルミニウム合金の製造方法である。合金の溶湯は、通常公知の方法により調製することができる。
【0025】
急冷凝固は、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転電極法等を適用して溶湯を急冷して、合金粉末を得ることにより行うことができる。中でも、工業的生産に適し、また十分に早い冷却速度で製造でき、所望の組織が簡便に得られるため、アトマイズ法またはメルトスピニング法を用いることが好ましい。アトマイズ法としては、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法を用いることができる。ガスアトマイズ法は、溶湯をタンディッシュにより流出させると同時に、噴霧媒(空気または不活性ガス)のジェットを溶湯流に衝突させ、微細に飛散した溶湯(液滴)を凝固させるという手順によって粉末を形成する方法である。噴霧媒として用いられる不活性ガスとしては、Ar、He、N、H等が挙げられ、Ar、Nであることが好ましい。また、水アトマイズ法は、アルミニウム溶湯をタンディッシュより流出させると同時に、水のジェット流を溶湯に衝突させ、急冷凝固させ、比較的非球形な粉末を形成する方法である。
【0026】
また、急冷凝固は、単ロールまたは双ロール法を適用して溶湯を急冷し、薄板または線を形成させることにより行ってもよい。この方法によれば、溶湯から直接板状の素材を得ることが出来るため、薄板で使用する用途の製造方法として好適に用いることができる。単ロール法は、Al合金溶湯液滴を回転単ロール(銅製)に衝突させ、急冷凝固により薄板または線状の急冷凝固材を得る方法である。また、双ロール法は回転ロール(銅製)を対に配置し、両ロールのギャップを任意に調整することで冷却速度を制御することができ、単ロール法と同様に薄板または線状の急冷凝固材を得る方法である。中でも、冷却速度の制御が比較的容易な単ロール法を用いることが望ましい。なお、得られた急冷凝固材を粉砕してもよく、また粉砕、または回転ロールに衝突させる前に、噴霧媒(空気あるいは不活性ガス)のジェット流により断片化した薄片状急冷凝固材を得てもよい。
【0027】
また、アトマイズ法、メルトスピニング法により得られた合金粉末は、焼結して所望の形状とすることができる。この際の焼結温度は特に限定されるものではないが、300〜500℃であることが好ましい。この方法を用いれば、目的の製品形状へニアネットシェイプにて製造することが可能である。なお、ここでいう焼結は、固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱すると固まって焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象なので、例えば下記に記載する成形加工工程における熱間押出、熱間圧延等で焼結が進むこともある。
【0028】
上記合金粉末あるいは単ロールまたは双ロールによって得られた急冷凝固材は、必要により、圧縮成形工程、脱気工程、成形加工工程等を経ることができる。
【0029】
圧縮成形の具体的方法としては、例えば、金型成形、冷間静水圧加圧成形(CIP)、熱間静水圧加圧成形(HIP)等の方法がある。なお、単ロールまたは双ロールによって得られた急冷凝固材は、圧縮成形前に、急冷凝固材を細かく粉砕することが好ましい。
【0030】
脱気工程では、真空中あるいは非酸化性雰囲気中で200〜400℃程度に加熱して表面に吸着している水分などを取り除くことが好ましい。これにより、ガス成分などが残存せず、過熱時に膨れを生じず、特性低下を招かないという効果が得られる。なお、脱気工程に要する時間は通常10分〜5時間程度である。非酸化雰囲気を形成する不活性ガスとしては、例えば、Ar、He等がある。
【0031】
成形加工工程で行われる成形加工の方法としては、熱間押出、鍛造、熱間圧延、冷間圧延、引抜き等が挙げられる。好適には熱間押出で行う。熱間押出法によれば、安定的に低コストで低ヤング率、高強度のアルミニウム合金を得ることができる。また、合金粉末を熱間押出することにより、長手方向に同一の閉断面構造を有する部材を得ることができる。熱間押出法における加熱は、300〜600℃で行われることが好ましい。押出で成形する場合は、押出温度300〜500℃、とすることが好ましい。
【0032】
本発明の合金は、上記に記載の方法以外で製造されてもよい。例えば、溶湯から急速冷却により合金鋳塊を製造して、必要に応じて熱処理、鋳造、均質化等の処理工程を行って製造してもよい。
【0033】
本発明の合金は、低ヤング率で強度が高いため、応力緩衝材として種々の製品に好適に用いられる。例えば、自動車等に用いられるバネ;メガネフレーム;ゴルフクラブ;ロボット;メタルシール;半導体などが挙げられる。該合金を用いてなる応力緩衝材料の製造方法としては、例えば、熱間圧延、熱間鍛造、押出し、冷間圧延、引抜き、超塑性成形、焼結等の方法で成形加工された合金からなる線材、板材などをそのまま応力緩衝材料とすることもできる。また上記鋳塊や成形加工された合金を所望の形状の鋳型や金型などを用いて、ロボットの手や指や人工骨補助材等への成形加工や2次加工(穴あけや切削加工や曲げ加工等)や半導体モジュールの配線やメタルシール等の微細加工することにより得ることもできる。
【実施例】
【0034】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0035】
(実施例1)
表1に示す組成のアルミニウム合金を以下のようにして作製した。
【0036】
純度99.9%以上のAl、Caの純金属を用い、Ar雰囲気中でガスアトマイズ法によって、表1に示す組成の合金粉(平均粒子径:約50μm)を作製した。このときの溶湯の冷却速度は10K/sec程度であった。この合金粉を容器(直径50mm)に充填後、300〜400℃、120分で脱気処理を行い、400℃で直径10mmの棒状に押出した。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造して得られた合金を、400℃で2時間の熱処理を行った後、水焼入れした。
【0038】
(比較例1)
表1に示す組成のアルミニウム合金を以下のようにして作製した。
【0039】
純度99.9%以上のAl、Caの純金属を用い、高周波溶解によりAr雰囲気中で溶解した後、鋳鉄製の鋳型(深さ:約25mm、幅:約40mm、長さ:約220mm)に鋳込んでインゴットを得た。溶湯の凝固速度は、10−1〜10K/sec程度であった。得られたインゴットから、15mm×15mm×100mmに切り出し、500℃で24時間の均質化処理を行った。その後、500℃で板厚2.5mmまで熱間圧延を行い供試材とした。
【0040】
<評価方法>
上記各例のアルミニウム合金について、以下の評価を行った。
【0041】
1.ヤング率
実施例1〜3及び比較例1〜3の各例についてJIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準じて、共振法により長手方向のヤング率を室温で測定した。この結果を表1に示す。
【0042】
2.曲げ試験
実施例1〜3及び比較例1〜3の各例について静的3点曲げ試験を行い強度を測定した。試験片形状は、厚さ1mm、幅2mm、長さ15mmとし、スパン10mm、試験速度0.1mm/分で試験を実施した。
【0043】
3.組織観察
実施例1および2の各例について、棒材の長手方向に対して垂直断面の光学顕微鏡による組織写真を図2および3に示す。また、比較例1について、圧延方向に対して平行断面の光学顕微鏡による組織写真を図4および5に示す。図示したように得られたアルミニウム合金は2相組織であったが、EPMA分析により、図中の濃い部分がAlCaからなる第2相で、薄い部分がAlであることを確認した。観察結果を元に画像解析により2値化処理を行い、AlCaからなるAlCa相の面積分率、粒子径、個数を求めた。さらにAlCaの粒子径が10μmを以上のものと10μmを下回るものとのそれぞれで面積分率を求めた。
【0044】
また、棒材の長手方向平行断面、圧延方向垂直断面も光学顕微鏡写真より同様に画像解析を行い、各方向(平行、垂直)の断面を平均化して、表1に示す面積分率、平均粒子径、個数等を求めた。
【0045】
【表1−1】

【0046】
【表1−2】

【0047】
<評価結果>
実施例1または2の合金は、急冷凝固する工程を経て製造されているため、均質かつ粗大粒が少なく、平均粒子径も1.5μm以下と非常に微細で個数も1mmあたり10万個以上存在しており、低ヤング率でありながら、曲げ強度が400MPaを超える高強度であった。一方、比較例1は、粗大な初晶AlCaが存在しており、曲げ強度が実施例と比較して低い数値であった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】Al−Caの2元系平衡状態図を引用したものである。
【図2】実施例1のアルミニウム合金の断面光学顕微鏡写真である。
【図3】実施例2のアルミニウム合金の断面光学顕微鏡写真である。
【図4】比較例1のアルミニウム合金の断面光学顕微鏡写真である。
【図5】比較例1のアルミニウム合金の断面光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともAl相とAlCa相とを含むアルミニウム合金であって、粒子径が10μm以上のAlCa粒の面積率(B)に対する、粒子径が10μm未満のAlCa粒の面積率(A)の比(A)/(B)が1以上である、アルミニウム合金。
【請求項2】
AlCa粒の平均粒子径が1.5μm以下であり、かつ1mmあたりAlCa粒が10万個以上存在する、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
Caの含有量が7.6質量%〜20質量%である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
少なくともAl相とAlCa相とを含む、Caの含有量が7.6質量%〜20質量%のアルミニウム合金の製造方法であって、溶湯を急冷凝固する工程を含む、アルミニウム合金の製造方法。
【請求項5】
前記急冷凝固は、アトマイズ法またはメルトスピニング法により合金粉末を得ることにより行われる、請求項4に記載のアルミニウム合金の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記合金粉末を焼結する工程を含む、請求項5に記載のアルミニウム合金の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記合金粉末を圧縮成形した後、300〜600℃の温度で熱間押出を行う工程を含む、請求項5に記載のアルミニウム合金の製造方法。
【請求項8】
前記急冷凝固は、双ロール法または単ロール法により、溶湯を急冷することにより行われる、請求項4に記載のアルミニウム合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−126740(P2010−126740A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299883(P2008−299883)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504238806)国立大学法人北見工業大学 (80)
【Fターム(参考)】