説明

アンテナ取付構造

【課題】 電波の送受波を行うアンテナの開口を対象に向けられて、アンテナの基端付近に設けられた取付フランジが被取付部に固定されるアンテナ取付構造において、簡単に延長パイプを取り付けることができる構造とする。
【解決手段】 延長パイプ30の一端のフランジ30aがアンテナ12の基端付近に設けられた取付フランジ14に取り付けられ、他端側が、該取付フランジ14から、アンテナ12の周囲を包囲すると共にアンテナ12を超えて液面20aの方へ延びており、アンテナ12の外壁と延長パイプ30の内壁との間に径方向の空間32が存在し、取付フランジ14と延長パイプ30の一端30aとの間には、アンテナ12と空間32とが結合することによって発生する残響反射を放射させるための誘電体で充填された隙間34が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の送受波を行うアンテナの開口を対象に向けて、アンテナの基端付近に設けられた取付フランジを被取付部に固定するアンテナ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンテナ取付構造として、例えば電波レベル計のアンテナ取付構造では、アンテナの基端付近に設けられた取付フランジを、測定対象である液面の上方に離間したタンク上面にある被取付部に固定している。このとき、被取付部から液面までが大きな自由空間となっている場合には測定に支障がないが、タンク上側がコンクリートスラブのような厚い壁面となっており、被取付部から液面までの間が厚い壁面に穿設された細い貫通孔になっている場合等には、電波が貫通孔の周面を構成するコンクリートスラブに吸収されてしまう、という問題があり、かかる問題を回避するために貫通孔の内側に金属製延長パイプを配設することが行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、電波レベル計のコーンアンテナの先端に延長パイプを取り付けており、これによって、コーンアンテナから送信される電波が、延長パイプ内を通り、液面に向けて効率良く放射されるようにしている。
【0004】
【非特許文献1】Saab Rosemount Tank Control ”Technical Description Saab TankRader Pro” [online]、2003年5月、インターネット <URL:http://www.saabrosemount.com/upload/downloads/Pro_techn_descr_Ed2_Eng.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コーンアンテナに一体的に延長パイプを取り付けるには、コーンアンテナの一端と延長パイプの端部との間を溶接などで隙間なく接合する必要があるが、コーンアンテナ及び延長パイプともに薄肉であり、接合作業が大変で費用がかかる、という問題がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、延長パイプを増設したアンテナとする場合に、簡単に延長パイプを取り付けることができるアンテナ取付構造を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、電波の送受波を行うアンテナの開口が対象に向けられて、アンテナの基端付近に設けられた取付フランジが被取付部に固定されるアンテナ取付構造において、
前記取付フランジに延長パイプの一端が取り付けられて、延長パイプの他端側が、該取付フランジから前記アンテナの周囲を包囲すると共にアンテナを超えて対象の方へ延びており、
前記アンテナの外壁と延長パイプの内壁との間に径方向の空間が存在しており、
前記取付フランジと延長パイプの一端との間には、前記アンテナと前記空間とが結合することによって発生する残響反射を放射させるための誘電体で充填された隙間が設けられることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の前記隙間が、取付フランジ及び延長パイプの一端との間での水密性または気密性を保持するスペーサ部材によって密封されることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の前記隙間の寸法が、該隙間の比誘電率をεとしたときに、送受波する電波の中心波長λ0 に対して、0.15λ0/√ε〜0.4λ0/√εの範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、延長パイプをアンテナの先端等に取り付けるのではなく、アンテナの基端付近に設けられた取付フランジに取り付け、アンテナの外壁と延長パイプの内壁との間に径方向の空間を残しておくために、延長パイプの取付作業を簡単に行なうことができる。その一方で、該径方向の空間が存在しているためにアンテナと該空間とが結合することによる残響反射が発生するが、取付フランジと延長パイプの一端との間に隙間を設けることによって、かかる残響反射を隙間を通して逃がすことができ、残響反射の影響を低減させることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、隙間をスペーサ部材によって密封することにより、水密性または気密性を保ち、隙間を通した外部からの浸水等を防ぐことができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、隙間の寸法を所定の範囲にすることによって、効果的に残響反射の影響を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1及び図2は本発明のアンテナ取付構造が適用されるアンテナを有する電波レベル計の概略図である。図において、電波レベル計10は、その先端にアンテナとしてのコーンアンテナ12を備えている。コーンアンテナ12は、下方に向って開口が漸次大きくなる円錐形状をなしており、その開口が液面レベルの測定対象である液体20に向いている。そして、コーンアンテナ12の基部付近には、コーンアンテナ12から一体的に外径方向に広がる金属製の取付フランジ14が設けられており、取付フランジ14は、液体20を貯留するタンク22の上面に設けられた被取付部である取付フランジ24にボルト等によって固定される。
【0014】
この例では、タンク22の上壁にコンクリートスタブの厚壁26が形成されており、この厚壁26に形成された小さな貫通孔26aを通して、電波レベル計10のコーンアンテナ12と液面20aとの間の電波の往復所要時間を測定して、対象である液面20aまでの距離を測定するようになっている。
【0015】
貫通孔26aの影響を受けないようにするために、貫通孔26aの内側に金属製の延長パイプ30が配設される。延長パイプ30には、その一端にフランジ30aが形成されており、フランジ30aは取付フランジ14に取り付けられる。また、延長パイプ30の他端側はコーンアンテナ12の周囲を包囲して液面20aの方へと延びており、延長パイプ30の他端30bはコーンアンテナ12及び貫通孔26aのそれぞれの下端よりも下方に位置づけられている。
【0016】
延長パイプ30の内壁とコーンアンテナ12の外壁との間には、径方向に隙間が形成されて、両者の間に空間32が存在している。この空間32は、可能な限り小さい方が好ましいが、延長パイプ30の内径とコーンアンテナ12の下端縁の外径とを完全に一致させることが困難であるために、生じることになる。
【0017】
また、延長パイプ30の一端のフランジ30aと取付フランジ14との間には、取付フランジ14のフランジ面に直交する方向に隙間34が形成される。この隙間34は以下で説明する目的により積極的に設定する隙間であり、前記空間32と外部空間とを繋ぐものである。そして、この隙間34にはリング状の誘電体からなるスペーサ部材36が設けられて、スペーサ部材36が隙間34を密封している。
【0018】
隙間34は、空気(比誘電率1)を含む任意の誘電体で充填することができるが、スペーサ部材36として水密性または気密性を保持する部材とすることにより、スペーサ部材36に、隙間34を密封する機能も兼用させることができる。具体的にはPTFE(比誘電率2.1)を用いると、湿度の高い環境下においても耐環境性に優れ、耐久性、気密性、水密性も良好にすることができる。
【0019】
この実施形態においては、延長パイプ30のフランジ30aと取付フランジ14とを取り付けるだけで、延長パイプとコーンアンテナとの間の溶接といった作業は一切不要であるので、取付作業は非常に簡単になっている。取付作業は、取付フランジ14及びフランジ30aを取付フランジ24に対して共締めすることで行なうこともできる。そして、延長パイプ30の内壁とコーンアンテナ12の外壁との間に形成される空間32によって発生する残響反射の影響を、隙間34の寸法を調整することによって低減させている。この隙間34の作用について以下説明する。
【0020】
延長パイプ30の内周面とコーンアンテナ12の下端縁との間に形成される空間32がコーンアンテナ12に結合し、高いQの共振器として動作することにより、不要な残響が残る。結合する共振器のQが高いほど残響の残る時間は長くなる。
【0021】
即ち、時間的に短いパルスが帯域幅Δfに帯域制限されると、パルスの長さΔtは、Δt=1/Δfとなる。共振器のQと周波数f及び帯域幅Δfの関係は、Q=f/Δfであるから、残響の長さΔtは、Δt=Q/fとなる。
【0022】
図3(a)に示すように、コーンアンテナ12と延長パイプ30とに囲まれた空間32を、特性インピーダンスZ0、長さLの伝送線路と見なす。また、上記空間32とアンテナ12との結合部の特性インピーダンスをZ、取付フランジ14と延長フランジ30のフランジ30aとの間の隙間34の特性インピーダンスをZ2とする。このとき、この共振回路は図3(b)のように表される。
【0023】
ここで、通常のコーンアンテナ12で使用される長さLに対して、電波パルスの周波数の広がりの中には、L=(nλr/2)(nは整数)を満足する共振周波数fr=c/λr(cは電波の速度)が通常存在する。また、Z1、Z2≪Z0であるから、共振器は図4に示す等価回路で表すことができる。
【0024】
図3(b)の回路は、概ねショートスタブとみなすことができるので、その入力インピーダンスZiは、ショートスタブの場合の
i=jZ0tanθ (1)
で表される。ここで、θ=2πL/λである。
【0025】
L=nλr/2とすると、θ=πnλr/λ=πnf/frとなる。
【0026】
f=fr+δfとおくと、θ=πn+πnδf/frとなり、上記(1)式に入力すると、
=jZ0tan(πn+πnδf/fr)=jZ0tan(πnδf/fr
となる。Z1+Z2=Z0tan(πnδf/fr)のとき、Δf=2δfとなる。
【0027】
1≪Z2とすれば、
2=Z0tan(πnΔf/2fr
であり、Z2≪Z0であるから、
2=Z0πnΔf/2fr
となり、よって、
Δf=(Z2/nπZ0)×2fr
となる。
【0028】
隙間34の寸法をbとし、取付フランジの内半径をdとすると、
2=120πb/(2πd)=60b/d
であるから、残響の長さΔtは、
Δt=1/Δf=nπZ0/2fr2=nπZ0d/120bfr
と表され、間隔bが大きくなるほど、長さΔtは短くなることが分かる。
【0029】
一方、隙間bが広くなりλ/2になると、隙間34に導波管モードが発生する。導波管モードのカットオフであるb=λ/2付近では、隙間に残響が残り、コーンアンテナ12に戻ってくると考えられる。従って、上限としては、λ/2程度となると考えられる。
【0030】
電波パルスの周波数成分は、中心周波数f0に対してf=0.7f0〜1.3f0程度存在する。従って、電波パルスの有する最短波長λminは、λmin=λ0/1.3である。
従って、間隔bの上限bmaxは、
max=λ0/(1.3×2)=0.38λ0 ≒0.4λ0
となる。
【0031】
また、コーンアンテナ12の取付フランジ14と延長パイプ30のフランジ30aとの間の隙間34に装着されたスペーサ部材36の比誘電率をεとすると、波長は、1/√εに圧縮されるため、
max≒0.4λ0/√ε
となる。
【0032】
隙間34の寸法を様々に変化させたときの実験結果を図5及び図6に示す。図3(a)に示すコーンアンテナ12を上向きにして、スペーサ部材36として発泡材(比誘電率=1)とし、周波数4.3〜7.3(GHz)、中心周波数5.8GHz(中心波長約52mm)、とし、ベクトルネットワークアナライザを用いて、隙間34の寸法を0mmから30mmまで2mmまたは3mmきざみで変化させたときの反射の時間軸特性を調べた。偏波は延長パイプ30の他端30bの斜めカット面に対して45度とした。また、コーンアンテナ12の長さはL=150mm、最大外径は92mm、延長パイプ30の内径は100mmである。
【0033】
図5は、代表として隙間34の寸法を0mm、10mm、20mm、30mmとした場合の反射強度の時間軸特性を表している。延長パイプ30と実験室天井からの反射があり、これらの反射に対応する反射ピークが6nsと13ns当たりに現れる。このため、残響反射電力として、これらの2つの反射ピークの間にある8〜12nsでの平均反射電力を求めた。図6は、間隔bと該平均反射電力との関係を示したグラフである。図6から明らかなように、間隔8mm=0.15λ0(より好ましくは間隔10mm)から20mm=約0.40λ0程度で反射電力が小さくなっている。これらの範囲では、S/N比が高く実用上十分なものとなっていた。
【0034】
以上のことから、間隔bを0.15λ0/√ε〜0.4λ0/√εの範囲に設定することにより、効果的に残響の影響を排除することができることが分かった。
【0035】
こうして、隙間34の寸法を上記範囲に設定することにより、延長パイプ30を簡単に取り付けることができ、延長パイプ30を取り付けることにより発生する残響の影響を効果的に排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明によるアンテナ取付構造を表す概略側面図(部分断面図)である。
【図2】図1のアンテナの斜視図である。
【図3】(a)コーンアンテナと延長パイプとに囲まれた空間を模式的に表した図であり、(b)はその等価回路である。
【図4】コーンアンテナと延長パイプとに囲まれた空間によって構成される共振器の等価回路である。
【図5】取付フランジと延長パイプとの間の隙間の寸法を0mm、10mm、20mm、30mmとした場合の反射強度の時間軸特性を表すグラフである。
【図6】取付フランジと延長パイプとの間の隙間と、図5における8〜12nsの平均反射電力との関係を表すグラフである(縦軸の値は反射/入力に対するdBを表す)。
【符号の説明】
【0037】
12 コーンアンテナ(アンテナ)
14 取付フランジ
20a 液面(対象)
24 取付フランジ(被取付部)
30 延長パイプ
30a フランジ(一端)
30b 他端
32 空間
34 隙間
36 スペーサ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の送受波を行うアンテナの開口が対象に向けられて、アンテナの基端付近に設けられた取付フランジが被取付部に固定されるアンテナ取付構造において、
前記取付フランジに延長パイプの一端が取り付けられて、延長パイプの他端側が、該取付フランジから前記アンテナの周囲を包囲すると共にアンテナを超えて対象の方へ延びており、
前記アンテナの外壁と延長パイプの内壁との間に径方向の空間が存在しており、
前記取付フランジと延長パイプの一端との間には、前記アンテナと前記空間とが結合することによって発生する残響反射を放射させるための誘電体で充填された隙間が設けられることを特徴とするアンテナ取付構造。
【請求項2】
前記隙間は、取付フランジ及び延長パイプの一端との間での水密性または気密性を保持するスペーサ部材によって密封されることを特徴とする請求項1記載のアンテナ取付構造。
【請求項3】
前記隙間の寸法は、該隙間の比誘電率をεとしたときに、送受波する電波の中心波長λ0に対して、0.15λ0/√ε〜0.4λ0/√εの範囲にあることを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ取付構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−287528(P2006−287528A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103715(P2005−103715)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003388)株式会社トキメック (103)
【Fターム(参考)】