説明

アークプラズマ堆積による多層物品の製造方法

【課題】多層物品及びアークプラズマ堆積による製造方法を提供する。
【解決手段】物品上に複数の層を形成する方法は、陰極と陽極との間でアークを形成することによりプラズマを発生させる段階と、有機化合物からなる第一の材料をプラズマ中に注入して物品上に第一の層を堆積させる段階と、有機金属物質からなる第二の材料をプラズマ中に注入して第一の層の上に第二の層を形成する段階と、ケイ素含有有機化合物からなる第三の材料をプラズマ中に注入して第二の層の上に第三の層を堆積させる段階とからなる。また、基材110と、基材上に配置された中間層120と、中間層上に配置された紫外線吸収性無機物質からなる第二の層と、第二の層上に配置された耐摩耗性物質からなる第三の層とからなる製品にも関する。中間層を重合有機ケイ素物質又は重合炭化水素物質、第二の層を金属酸化物又は硫化亜鉛、第三の層を酸化した有機ケイ素物質とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に多層物品の製造方法に関し、特に陰極と陽極の間のアークで発生したプラズマを用いて物品上に多数の層を設ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックその他のポリマーは、広範な用途に有用な物理的性質と化学的性質をもつ市販の材料である。例えば、ポリカーボネートは、その優れた破壊耐性のため自動車ヘッドライト、安全シールド、アイウエア及びウインドウのような多くの製品でガラスに取って代わっているポリマーである。しかし、多くのポリカーボネートは、低い摩耗耐性及び紫外(UV)光に曝されたときの劣化し易さといったようにある種の用途では欠点となり得る性質ももっている。したがって、ポリカーボネートは、紫外光や様々な原因による物理的接触に曝される自動車やその他のウインドウのような用途には一般的には使われていない。
【0003】
低い摩耗耐性やUV劣化の問題を最小にするために知られているポリカーボネートの処理方法では、耐摩耗性物質の層やUV吸収性物質の層をポリカーボネート基材に設ける。例えば、Rzadらの米国特許第5156882号には、UV光や摩耗から保護する改良された保護層を有する透明なプラスチック物品の製造方法が開示されている。この物品は、ポリカーボネート基材と、プラズマ増強化学蒸着(PECVD)によってポリカーボネート基材に設けた多層コーティングとをもっている。プラズマ増強化学堆積PECVDは、プラスチックのガラス転移温度よりも低い温度で従来の化学蒸着(CVD)では一般に堆積できなかったポリカーボネートのようなプラスチック基材に物質を堆積させることができるので、CVDよりも大幅に進歩している。PECVDでは、印加された電場が電離化学種の生成を増強し、ずっと高割合の電離化学種が得られるので、低い堆積温度、例えば室温程度の低温を使用することが可能である。
【0004】
ポリカーボネートの別の処理法では、従来からシリコーンハードコートとして知られている層をポリカーボネート基材に設ける。シリコーンハードコートの例は、例えば米国特許第4842941号、同第4927704号及び同第5051308号(援用により本明細書に含まれているものとする)に記載されている。このシリコーンハードコートは、湿式プロセスにより、例えばシリコーン浴にポリカーボネートを漬けたり、又はシリコーンをポリカーボネートに噴霧したりすることによって設けられる。このシリコーンハードコートにより耐摩耗性がポリカーボネートに与えられ、しかもこのハードコートにはUV放射線を吸収する成分を含ませることもできる。
【0005】
しかし、上記のポリカーボネートの処理法には幾つかの欠点がある。例えば、PECVDでは一般に、UV吸収層と耐摩耗層とでコートされたポリカーボネートを用いる多くの用途に工業的に適用することができるほどに十分高い堆積速度が得られない。シリコーンハードコーティングの場合、シリコーンハードコートは乾燥・硬化しなければならず、これは数時間もかかることがあり得るので、このプロセスも比較的遅い。またシリコーンハードコーティングには、溶液の貯蔵寿命が限られること、化学薬品廃棄物が発生すること、そして乾燥・硬化中に流体のコーティングが移行するため不均一な厚さになる可能性があることといった別の欠点もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、摩耗とUV放射線から物品を保護するのに有効であり、迅速・有効に実施できて製造コストを下げることができる多層物品の製造方法があれば望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの実施形態によると、物品上に複数の層を形成する方法は、1以上のプラズマ発生チャンバよりも圧力が低く物品が配置された堆積チャンバと連通した1以上のプラズマ発生チャンバにプラズマガスを流す段階、1以上のプラズマ発生チャンバ内で1以上のアークを発生させて、堆積チャンバ中に流入する1以上のプラズマを発生させる段階、1以上のプラズマ中に第一の材料を注入して物品上に第一の層を形成する段階、及び気体状の反応剤を含む第二の材料を1以上のプラズマ中に注入して第一の層上に第二の層を形成する段階を含む。
【0008】
また、本発明は、基材と、基材上に配置された重合有機物質からなる中間層と、中間層上に配置された紫外線吸収性無機物質からなる第二の層と、第二の層上に配置された耐摩耗性物質からなる第三の層とからなる製品にも関する。この中間層は、例えば重合有機ケイ素物質又は重合炭化水素物質からなることができる。第二の層は、例えば金属の酸化物又は硫化物からなることができる。第三の層は、例えば酸化した有機ケイ素物質からなることができる。
本発明の一つの実施形態によると、3つの層は、比較的速い堆積速度のため、例えば中間層の場合は約5〜30、典型的には6〜15ミクロン/分、UV吸収層の場合は約2〜8、典型的には5〜8ミクロン/分、そして耐摩耗層の場合は約5〜20、典型的には12〜15ミクロン/分であるので連続して短時間で設けることができる。例えば、3つの層は、層間で冷却することなく、45秒未満の合計堆積時間で連続して設けることができる。この方法は、高いUV吸収性と高い耐摩耗性とを有する物品を製造することができる。また、この方法では、発散ノズルを用いることにより、比較的大きい表面積をコートすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一つの実施形態による多層物品を示す。
【図2】アークプラズマ堆積装置の一例を示す。
【図3】図2のアークプラズマ堆積装置のノズルとプラズマ発生器を示す。
【図4】反応剤の蒸発のためのるつぼを有するアークプラズマ堆積装置の別の実施形態を示す。
【図5】ワイヤ供給機構と蒸発器を有する本発明の別の実施形態を示す。
【図6】複数のプラズマ発生チャンバを有する本発明の別の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の他の特徴と利点は以下の詳細な説明と添付の図面から明らかとなろう。
本発明の態様〔1〕〜〔73〕を以下に示す。
〔1〕物品上に複数の層を堆積させる方法であって、1以上のプラズマ発生チャンバよりも圧力が低く物品が配置された堆積チャンバと連通している1以上のプラズマ発生チャンバにプラズマガスを流す段階、1以上のプラズマ発生チャンバ内で1以上のアークを発生させて、堆積チャンバ中に流入する1以上のプラズマを発生させる段階、1以上のプラズマ中に第一の材料を注入して物品上に第一の層を形成する段階、及び気体状の反応剤を含む第二の材料を1以上のプラズマ中に注入して第一の層上に第二の層を形成する段階を含んでなる方法。
〔2〕第一の材料が有機ケイ素物質を含み、第二の材料が有機ケイ素物質を含み、当該方法がさらに第二の材料と共に酸化剤を注入する段階を含んでいる、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕第一の材料が有機ケイ素物質を含み、第二の材料が有機金属物質を含み、当該方法がさらに第二の材料と共に酸化剤を注入する段階を含んでいる、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕第一の材料が有機金属物質を含み、第二の材料が有機ケイ素物質を含み、当該方法がさらに第一の材料と共に酸化剤を注入し、第二の材料と共に酸化剤を注入する段階を含んでいる、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕第一の材料又は第二の材料が蒸発した原子状金属を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕さらに、第三の材料をプラズマ中に注入して第二の層上に第三の層を形成する、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕第一の材料が有機ケイ素物質を含み、第二の材料が蒸発した原子状金属を含み、第三の材料が有機ケイ素物質を含み、当該方法がさらに第二の材料と共に酸化剤を注入し、第三の材料と共に酸化剤を注入する段階を含んでいる、前記〔6〕に記載の方法。
〔8〕第一の材料がオクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルジシロキサン及びヘキサメチルジシロキサンの少なくとも1種を含み、第二の材料が亜鉛を含み、第三の材料がオクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルジシロキサン及びヘキサメチルジシロキサンの少なくとも1種を含む、前記〔7〕に記載の方法。
〔9〕第一の材料が有機ケイ素を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔10〕第一の材料がオクタメチルシクロテトラシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔11〕第一の材料がテトラメチルジシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔12〕第一の材料が炭化水素を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔13〕第一の層が重合有機ケイ素物質を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔14〕第一の層が重合オクタメチルシクロテトラシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔15〕第一の層が重合テトラメチルジシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔16〕第二の材料が有機金属物質を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔17〕第二の材料が蒸発した原子状金属を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔18〕第二の材料が亜鉛及びインジウムの少なくとも1種を含む、前記〔17〕に記載の方法。
〔19〕第二の材料が亜鉛を含み、当該方法がさらに亜鉛と共にイオウを注入する段階を含んでいる、前記〔17〕に記載の方法。
〔20〕さらに、第二の材料と共に酸化剤を注入する段階を含んでいる、前記〔6〕に記載の方法。
〔21〕第二の材料がジメチル亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔22〕さらに、ジメチル亜鉛と共に酸素を注入する段階を含んでいる、前記〔6〕に記載の方法。
〔23〕第二の材料がジエチル亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔24〕第二の材料がチタンイソプロポキシドを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔25〕第二の材料がセリウムIVテトラブトキシドを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔26〕第二の層が酸化亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔27〕第二の層が二酸化チタンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔28〕第二の層が二酸化セリウムを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔29〕第二の層が硫化亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔30〕第二の層が無機物質を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔31〕 第三の材料が有機ケイ素物質を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔32〕さらに、第三の材料と共に酸化剤を注入する段階を含んでいる、前記〔6〕に記載の方法。
〔33〕第三の材料がオクタメチルシクロテトラシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔34〕第三の材料がテトラメチルジシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔35〕第三の材料がヘキサメチルジシロキサンを含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔36〕さらに第二の材料と共に酸素をプラズマ中に注入する段階を含んでおり、酸素の流量が結晶形態の第二の層を形成するのに十分な大きさである、前記〔6〕に記載の方法。
〔37〕さらに第二の材料と共に酸素をプラズマ中に注入する段階を含んでおり、酸素の流量が第二の材料を完全に反応させるのに必要な酸素の化学量論流量以上である、前記〔6〕に記載の方法。
〔38〕第一、第二及び第三の層を堆積させる合計堆積時間が45秒未満である、前記〔6〕に記載の方法。
〔39〕第一、第二及び第三の層を堆積させる合計堆積時間が30秒未満である、前記〔6〕に記載の方法。
〔40〕第一、第二及び第三の層を堆積させる合計堆積時間が20秒未満である、前記〔6〕に記載の方法。
〔41〕第一、第二及び第三の層を、それぞれの層の堆積の間に冷却することなく堆積させる、前記〔38〕に記載の方法。
〔42〕3つの層の2つを、その間に冷却期間を設けることなく連続して堆積させる、前記〔38〕に記載の方法。
〔43〕第二の層の紫外吸光度が少なくとも1.0である、前記〔38〕に記載の方法。
〔44〕第二の層の紫外吸光度が少なくとも2.0である、前記〔38〕に記載の方法。
〔45〕第三の層が、CS−10Fタイプの2つの摩耗輪に均等に分配された1000グラムの荷重を用いた1000サイクルのテーバー摩耗試験、すなわちアメリカ材料試験協会(ASTM)の試験法D1044で4.0%以下のΔ曇り価を有する、前記〔38〕に記載の方法。
〔46〕第三の層が、CS−10Fタイプの2つの摩耗輪に均等に分配された1000グラムの荷重を用いた1000サイクルのテーバー摩耗試験、すなわちアメリカ材料試験協会(ASTM)の試験法D1044で2.0%以下のΔ曇り価を有する、前記〔38〕に記載の方法。
〔47〕第一の材料を流し終わる前に第二の材料を注入して第一の層と第二の層との間に傾斜遷移部を生成させる、前記〔6〕に記載の方法。
〔48〕第二の材料を流し終わる前に第三の材料を注入して第二の層と第三の層との間に傾斜遷移部を生成させる、前記〔6〕に記載の方法。
〔49〕さらに、アークを発生させるために使用される陽極から延びているノズルを用いてプラズマの流れを制御する段階を含んでいる、前記〔6〕に記載の方法。
〔50〕ノズルが円錐形状を有している、前記〔49〕に記載の方法。
〔51〕第一の材料と共に酸化剤を注入しない、前記〔6〕に記載の方法。
〔52〕物品がポリカーボネートを含む、前記〔7〕に記載の方法。
〔53〕第二の層が少なくとも1.0の紫外吸光度を有する紫外線吸収性物質を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔54〕第二の層が少なくとも2.0の紫外吸光度を有する紫外線吸収性物質を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔55〕第三の層が4.0%以下のΔ曇り価を有する耐摩耗性物質を含む、前記〔53〕に記載の方法。
〔56〕第三の層が2.0%以下のΔ曇り価を有する耐摩耗性物質を含む、前記〔54〕に記載の方法。
〔57〕基材がガラスを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔58〕第二の材料が原子状亜鉛、原子状インジウム及び原子状アルミニウムの少なくとも1種を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔59〕第二の層がインジウムドープ酸化亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔60〕 第二の層がドープ酸化亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔61〕第二の層がアルミニウム、フッ素、ホウ素、ガリウム、タリウム、銅及び鉄の少なくとも1種をドープ酸化亜鉛を含む、前記〔6〕に記載の方法。
〔62〕基材と、 基材上に配置された、重合炭化水素物質を含む中間層と、 中間層上に配置された紫外線吸収性無機物質を含む第二の層と、 第二の層上に配置された耐摩耗性物質を含む第三の層とを含んでなる製品。
〔63〕耐摩耗性物質が酸化した有機ケイ素物質を含む、前記〔62〕に記載の物品。
〔64〕基材と、 基材上に配置された、重合有機物質を含む中間層と、 中間層上に配置された硫化亜鉛を含む第二の層と、 耐摩耗性物質を含む第三の層とを含んでなる製品。
〔65〕耐摩耗性物質が酸化した有機ケイ素物質を含む、前記〔64〕に記載の物品。
〔66〕基材と、 基材上に配置された、重合有機物質を含む中間層と、 中間層上に配置された無機紫外線吸収層を含む第二の層と、 酸化した有機ケイ素を含む第三の層とを含んでなる製品。
〔67〕中間層が重合有機ケイ素を含む、前記〔66〕に記載の物品。
〔68〕中間層が重合炭化水素を含む、前記〔66〕に記載の物品。
〔69〕基材と、 ZnO層と、 耐摩耗層とを含んでなり、65℃の水に7日間浸漬した後のZnO層の曇りの上昇率が1.7%未満であり、65℃の水に21日間浸漬した後のZnO層の光学密度の平均一日上昇率が0.016以下である、多層物品。
〔70〕さらに、基材とZnO層との間に重合有機ケイ素の中間層を含んでいる、前記〔69〕に記載の多層物品。
〔71〕ZnO層が、原子状亜鉛を蒸発させ、蒸発した原子状亜鉛をプラズマ中に向けることによって設けられている、前記〔70〕に記載の多層物品。
〔72〕ZnO層の厚さが200nm〜1ミクロンである、前記〔71〕に記載の多層物品。
〔73〕耐摩耗層の厚さが2〜6ミクロンである、前記〔72〕に記載の多層物品。
【0011】
図1に、本発明の一つの実施形態による多層物品の断面図を示す。多層物品100は基材110、中間層120、紫外(UV)線吸収層130、及び耐摩耗層140からなる。これらの層120、130、140は、通常、図2と3に関連して以下に説明するようにアークプラズマ堆積によって連続して基材110上に堆積される。図1に示した3層の物品が好ましい実施形態であるが、本発明の他の実施形態は3層未満、例えばUV吸収層と耐摩耗層とを含んでいてもよい。
【0012】
このアークプラズマ堆積プロセスでは、第一のチャンバ内に位置する陰極と陽極との間でアークを発生させる。陽極は通常、例えば発散円錐の一部の形態をした中央開口をもっており、この開口は低圧の第二のチャンバと連通している。陰極の近くに導入される不活性キャリヤーガスは陰極と陽極間のアークによって電離してプラズマを形成する。このプラズマは、第一と第二のチャンバの圧力差のためプラズマジェットとして高速で第二のチャンバ中に流入する。第二のチャンバに入ったら、1種以上の材料をプラズマ中に供給すると、このプラズマがその材料を基材上に投射し、また、これらの材料は重合、酸化、分解などのような反応をすることが可能になる。第二のチャンバは、陽極の発散開口から延びる発散する、例えば円錐状のノズルをもっていることがある。このノズルはその狭い端部にプラズマと堆積材料を集中させて化学反応を促進する。ノズルの広い端部では、プラズマの面積が実質的に大きくなってよりも広い堆積面積を提供する。
【0013】
図2に、本発明の実施形態による多層物品を形成するのに使用することができるアークプラズマ堆積装置の一例を示す。この装置10は堆積チャンバ1、プラズマ発生チャンバ2、及びノズル8をもっている。プラズマ発生チャンバ2には、ガス供給ライン3を介して、窒素、アンモニア、二酸化炭素、水素、又は希ガス、例えばアルゴンもしくはヘリウム、又はこれらの混合物のようなイオン化可能なガスを供給する。ノズル8は、別々に又は組み合わせて作動させることができる酸素供給ライン12と2つの反応剤供給ライン14、16をもっている。真空ポンプ系(図示してない)が出口23を介して堆積チャンバ1内の低圧を維持する。基材110は堆積チャンバ1内で温度制御された支持体22上に支持される。この支持体は、例えば堆積前の基材110の温度を制御するのに使用できる。開閉シャッタ24は、プラズマジェットの進路内で基材110とノズル8との間にハンドル25により手操作で又は自動的に位置決めできるようになっている。
【0014】
図3は、図2のプラズマ発生チャンバ2とノズル8の拡大図である。図3で、プラズマは、1以上の陰極5から陽極4に流れる電子の流れによって発生する。通常装置は等間隔に配置された複数、例えば3つの陰極をもっているが、図3にはそのうちの1つのみを示した。陰極5は水冷することができる。陰極5は、プレート6上に装着された陰極ハウジング7内に装着される。プレート6は、図示してない送水ラインを介して供給される冷却水のチャンネル9をもつことができる。陽極4用の冷却水は送水ライン42によって供給され、陽極4の本体内の導管45を通って流れる。
【0015】
プレート6は、図3に示したように発散する、例えば円錐状の形状の中央ガスプラズマチャンネルをもっている。銅製とすることができるプレート6は陽極4及び陰極5から電気的に絶縁されている。カスケードプレートといわれることもあるプレート6により、陰極5から陽極4までのプラズマの電圧降下の空間分布に影響する従来「カスケード式アーク」形状として知られているものが得られる。プレート6の電圧は、通常、陰極5の電圧と陽極4の電圧のほぼ中間である。陰極5と陽極4との間の電圧降下の空間分布をさらに制御するために追加のプレート6を設けることができる(図3には1つのみを示した)。陰極5と陽極4の間の全体の電圧降下はプレート6の数プラス1に対応して幾つかの分離した降下に分割される。カスケード式アーク形状により、陰極5と陽極4の間のガスがイオン化することができる面積が大きくなる。カスケード式アーク形状はまたアークの安定性を助長する。
【0016】
イオン化可能なガス、例えばアルゴンはガスライン3を介してプラズマ発生チャンバに供給される。堆積チャンバ1内の真空度は、部分的にO−リング15と17によって保たれる。酸素は、円形導管18及びスリットインジェクター28と連通したライン12を介してノズル8に供給される。反応剤は、空間的に均等に配置された注入ホール26を有する導管46につながったライン14を介して供給される。ノズル8は、空間的に均等に配置された注入ホール34を有する導管32に連結された二次反応剤供給ライン16をもっていることがある。この二次反応剤供給ライン16は、ノズル8内の活性化ゾーン又は反応ゾーンに別の反応性ガス又は希釈ガスを供給するのに使うことができる。
【0017】
ノズル8は一般に円錐状の形状であり、その広い端部が基材110に向いている。ノズルは(一つの内壁から反対の内壁まで測定した)発散角が、例えば25〜60度、通常は40〜50度である。ノズル8は、プラズマと反応性化学種をコートしようとする基材110の方向に向かわせる延長部40をもっていることができる。この延長部40はノズル8と一体になった一部であることもできるし、或いは取り外し可能な部材として設計することもできる。図3に示してあるように、延長部40はノズル8と同じ発散角をもっている。延長部40は陽極プラズマチャンネル及びノズル8の形状・幾何学的大きさと変わっていることができ、例えば裾広がり又はベル形の口をもつことができる。
【0018】
一般にノズル8と延長部40は、特に2つの目的を達成するように設計されている。まず、ノズル8は狭い端部をもっており、すなわち陽極4に隣接する端部が狭く、これがプラズマを部分的に封入又は閉じ込める。このプラズマの部分的な封入又は閉じ込めにより、プラズマ及び注入された反応剤を相対的に小さい領域に集中させることができる。反応剤はプラズマのエネルギーの高い活動領域の近くに導入するのが好ましく、その結果、プラズマ中に高割合の活性化学種が生成し、それに応じて基材上への高い堆積速度、例えば数〜数十ミクロン/分が得られる。
【0019】
次に、ノズル8は広い端部をもっており、すなわち陽極4と反対側が広くなっており、そのためプラズマが基材の比較的広い面積を覆うことができ、大面積、例えば直径10〜20センチメートルの面積の堆積が可能になる。これら2つの要因の組み合わせにより、堆積の速度を劇的に、例えばPECVDと比べて100倍にまで増大することができる。アークプラズマ堆積装置のこれ以上の詳細は、1998年3月3日にBarry Yangによって出願された「Nozzle−Injector for Arc Plasma Deposition Apparatus」と題する本願出願人に譲渡された米国特許出願第09/033862号(援用により本明細書に含まれているものとする)に記載されている。
【0020】
ここで再び図1を参照すると、本発明の実施形態による基材110は一般にポリマー樹脂からなる。例えば、基材はポリカーボネートからなることができる。この基材を形成するのに適したポリカーボネートは当技術分野でよく知られており、通常次式の繰返し単位を含んでいる。
【0021】
【化1】

【0022】
ここで、Rはポリマー生成反応で使用した二価フェノール又は有機カルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、など)の二価の芳香族残基(例えば、ビスフエノールAともいわれる2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンの残基)である。これらのポリカーボネート樹脂は、1種以上の二価フェノールをホスゲン、ハロホルメート又はカーボネートエステルのようなカーボネート前駆体と反応させることによって製造できる芳香族カーボネートポリマーである。使用することができるポリカーボネートの一例はGeneral Electric社製のLEXAN(登録商標)である。
【0023】
芳香族カーボネートポリマーは、例えば米国特許第3161615号、同第3220973号、同第3312659号、同第3312660号、同第3313777号、同第3666614号、同第3989672号、同第4200681号、同第4842941号及び同第4210699号(いずれも援用により本明細書に含まれているものとする)に記載されている当技術分野で周知の方法によって製造できる。
【0024】
また基材は、カーボネート前駆体、二価フェノール、及びジカルボン酸又はそのエステル形成性の誘導体を反応させることによって製造することができるポリエステルカーボネートからなっていてもよい。ポリエステルカーボネートは、例えば米国特許第4454275号、同第5510448号、同第4194038号及び同第5463013号に記載されている。
【0025】
基材はまた熱可塑性又は熱硬化性の物質からなることもできる。適切な熱可塑性物質の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリメタクリレートエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルクロライド、フッ素含有樹脂及びポリスルホンがある。適切な熱硬化性物質の例としてはエポキシ及び尿素メラミンがある。
【0026】
基材を形成できる他の材料は、同様に当技術分野で周知のアクリルポリマーである。アクリルポリマーはアクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのようなモノマーから製造することができる。アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、2−エチルヘキシルアクリレート及びn−ブチルアクリレートのような置換アクリレート及びメタクリレートも使用できる。
【0027】
ポリエステルも基材を形成するのに使用することができる。ポリエステルは当技術分野で周知であり、有機ポリカルボン酸(例えば、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、ドデカン二酸など)又はこれらの無水物と、第一級又は第二級のヒドロキシル基を含有する有機ポリオール(例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノール)とのポリエステル化によって製造できる。
【0028】
基材を形成するのに使用することができる他の種類の材料はポリウレタンである。ポリウレタンは当技術分野で周知であり、ポリイソシアネートとポリオールとの反応によって製造される。有用なポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、MDI、イソホロンジイソシアネート、及びビウレット、並びにこれらのジイソシアネートのトリイソシアヌレートがある。有用なポリオールの例としては、低分子量の脂肪族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、脂肪アルコール、などがある。
【0029】
基材を形成できるその他の材料の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ガラス、VALOX(登録商標)(ポリブチレンフタレート、General Electric社から入手可能)、XENOY(登録商標)(LEXAN(登録商標)とVALOX(登録商標)のブレンド、General Electric社から入手可能)、などがある。
【0030】
基材は通常の方法で、例えば射出成形、押出、冷間成形、真空成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファー成形、熱成形などによって形成することができる。物品はいかなる形状でもよく、最終商品である必要はない。すなわち、切断したり、大きさを調節したり、機械的に賦形したりして最終製品にされるシート材又はフィルムであってもよい。基材は透明であっても透明でなくてもよい。基材は硬質でも可撓性でもよい。
【0031】
基材は、所望によりプラズマ堆積の前に、所望であれば、例えばイソプロピルアルコールで洗浄し、約80℃で一晩減圧乾燥することができる。また、基材は、アルゴン又はアルゴン及び酸素を用いてプラズマを発生させて堆積前の基材表面の汚染物を除去又は酸化するプラズマ前処理クリーニング段階(「エッチング」ともいう)によりその場で清浄化することもできる。
【0032】
基材110の形成後、その基材110を堆積チャンバ1内の支持体22上に載せる。次に、堆積チャンバ1内の圧力を約0.133Pa(1ミリトル)以下に下げる。次いで、供給ライン3を通してアルゴンを流し始め、陰極5と陽極4に直流(DC)電圧を印加してプラズマを発生させる。堆積チャンバ1内の圧力降下のため、プラズマはノズル8を通って拡がり、プラズマジェットを形成する。作動中ノズル8の温度は通常約200℃である。作動中の基材は通常約20〜130℃である。
【0033】
通常、基材110とノズル8との間に挿入したシャッタ24によってアルゴンプラズマを確立する。第一の層の堆積を開始するには、シャッタ24を引っ込め、第一の材料をプラズマ中に注入する。
【0034】
本発明の一つの実施形態では第一の層が中間層からなる。「中間層」という用語は、基材110とUV吸収層130との間に位置する層120を指していう。中間層120は通常熱膨張係数(CTE)が基材110のCTEとUV吸収層130のCTEとの間である。この中間層120は、通常無機質であるUV吸収層130と通常有機質である基材110との間の接着を改善する。適合性の中間層120がないと、有機の基材、例えばポリカーボネートと、無機のUV吸収層、例えば金属酸化物との接合部は、主として2種類の物質の化学的性質及び熱膨張係数の違いのために亀裂、層間剥離及びふくれを起こし得る。
【0035】
通常、中間層120は、プラズマ内で重合することができる1種以上のケイ素含有有機物質からなる。また中間層120は、プラズマで重合する1種以上の炭化水素からなることもできる。プラズマによるモノマーの重合を指していうプラズマ重合は通常の重合と比較して有効な重合法である。すなわち、プラズマ重合では、通常の重合の場合には一般的である不飽和結合がモノマー中に存在する必要がないからである。
【0036】
通常、中間層120を形成するためにプラズマ中に注入される材料は酸化されない。というのは、酸素が導入されると、熱膨張係数がUV吸収層のCTEに近くなることがあり、したがって中間層の機能が低下するからである。しかし、中間層の形成中にいくらかの酸素が導入され得ることは本発明の範囲内である。例えば、酸素の体積流量と有機ケイ素の体積流量の比は0:1〜約3:1の範囲とすることができる。
【0037】
中間層120を形成するためにプラズマ中に注入することができる材料の例としては、有機ケイ素、並びにエチルベンゼン及びブタンなどの直鎖の炭化水素のような炭化水素がある。本明細書で使用する「有機ケイ素」とは、少なくとも1個のケイ素原子が少なくとも1個の炭素原子に結合している有機化合物を包含して意味しており、シリコーン材料並びに一般にシラン、シロキサン、シラザン及びオルガノシリコーンといわれている材料が包含される。本発明の方法と物品に適した有機ケイ素の多くはK.Saunders著,「Organic Polymer Chemistry」(1973年,Chapman and Hall Ltd.刊)に記載されている。
【0038】
本発明に有用な有機ケイ素組成物の非限定例は次の一般式で表される化合物である。
1nSiZ(4-n)
ここで、R1は一価の炭化水素基又はハロゲン化一価の炭化水素基を表し、Zは加水分解可能な基を表し、nは0〜2である。特に、Zはハロゲン、アルコキシ、アシルオキシ又はアリールオキシのようなものであるのが典型である。このような化合物は当技術分野で周知であり、例えばSchroeterらの米国特許第4224378号(援用により本明細書に含まれているものとする)に記載されている。
【0039】
本発明の範囲内に入る他の有機ケイ素の例としては次式を有するシラノールがある。
2Si(OH)3
ここで、R2は約1〜約3個の炭素原子を含有するアルキル基、ビニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基及びγ−メタクリルオキシプロピル基より成る群の中から選択され、シラノールの少なくとも約70重量%はCH3Si(OH)3である。このような化合物は米国特許第4242381号(援用により本明細書に含まれているものとする)に記載されている。
【0040】
中間層120を形成するための有機ケイ素化合物の例として、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)及びヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)がある。
【0041】
プラズマ重合中、モノマー前駆体は重合して、例えば重合D4、HMDSO又はTMDSOを形成することになる。中間層は約12ミクロン/分の堆積速度で堆積させることができる。中間層の厚さは、例えば10nm〜10ミクロンでよい。通常中間層の厚さは約250〜750nmである。本発明の一つの実施形態によると中間層は約500nmの厚さでよい。
【0042】
UV吸収層130もまた、アークプラズマ堆積によって中間層120上に堆積する。UV吸収層を堆積させるには、有機ケイ素又は炭化水素のプラズマ中への流れを止め、別の材料を流し始める。中間層120の形成とUV吸収層130の形成との間の遷移部は、プラズマの発生を中断することなく単に別の材料を注入することによって作成することができる。
【0043】
また遷移は、物質間に漸進遷移、すなわち傾斜組成を生じるように行うこともできる。このためには、中間層の材料の注入を終了する前にUV吸収層用の材料の注入を開始すればよい。傾斜遷移により、異なる性質を有する物質間に急激な遷移がなくなるので、中間層とUV吸収層との間の接着が改善されるという利点を得ることができる。
【0044】
UV吸収層を形成するためにプラズマ中に注入することができる材料の例としては、例えば亜鉛、チタン又はセリウムを含有する有機金属化合物がある。有機金属化合物とは炭素に直接結合した金属を含む有機化合物を指していう。有機金属化合物の好ましい例としてはジエチル亜鉛(DEZ)又はジメチル亜鉛(DMZ)のような亜鉛含有化合物がある。通常、亜鉛を酸化してUV吸収性の酸化亜鉛層を形成するために亜鉛含有化合物と共に酸素を注入する。或いは、DEZ又はDMZと共にイオウを注入してUV吸収性の硫化亜鉛層を形成することができる。他のUV吸収層としては、チタンイソプロポキシド(Ti−IPO)と酸素から形成される二酸化チタン(TiO2)、セリウムIVテトラブトキシド(C16364Ce)と酸素から形成される二酸化セリウム(CeO2)、並びにインジウム、アルミニウム、フッ素、ホウ素、ガリウム、タリウム、銅及び鉄のようなドーパントの1つをドープしたZnOを挙げることができる。インジウムドープZnOによると、本出願と同日出願に係るIacovangeloの「Infrared Reflecting Coatings」と題する米国特許出願(GE整理番号RD−25973)(援用により本明細書に含まれているものとする)に記載されているように、良好な赤外(IR)放射線反射、接着及び安定性の利点が得られる。インジウムは、IZO層の全金属含量の2〜15原子%であるのが適切である。
【0045】
UV吸収性の金属酸化物層は一般に厚さが100nm〜10ミクロンであり、通常は200nm〜1ミクロンであり、より一般的には300〜600nmである。一般にUV吸収層の吸光度は1を超え、通常は2を超える。ここで、「吸光度」はlog(Ii/Io)で定義され、Iiは堆積物に入射する350nmの光の強度であり、Ioは出力の強度である。UV吸収層は、無機物質が一般の有機物質の場合のようにUV放射線を吸収する際に消耗したり劣化したりしないという利点を享受できるように、金属酸化物のような無機物質からなるのが好ましい。
【実施例】
【0046】
実施例1〜7
表1に、いろいろな条件下でアークプラズマ堆積により形成したUV吸収性酸化亜鉛層の特性の例を示す。表1で、「Zn源」は亜鉛の起源であり、「Zn速度」は1分当たりの標準リットル(slm)で表した有機金属材料の注入速度であり、「O2速度」はslmで表した酸素注入速度であり、「O:Zn」は酸素の注入速度(モル)と亜鉛の注入速度(モル)の比である。「O:St」は酸素の注入速度(モル)と化学量論反応を達成するのに理論的に必要とされる酸素の速度の比であり、「WD」は陽極から基材表面までの作動距離(センチメートルcm)であり、「圧力」は堆積チャンバ内の圧力(ミリトルmT)であり、「基材温度」は堆積中の基材表面の最高温度(摂氏)であり、「堆積時間」は秒で表した堆積時間であり、「厚さ」はオングストローム(Å)で表した堆積物の厚さであり、「吸光度」は350ナノメートルの波長を有する光(UV)の吸光度であり、log(Ii/Io)で定義され、Iiは堆積物に入射する光の強度であり、Ioは出力の強度である。堆積物はガラス基材上に作成した。アルゴン注入速度は1.25slmであった。プラズマ電流は50アンペアであった。注入成分がアルゴンだけである前処理時間は5秒であった。
【0047】
【表1】

【0048】
一般にUV吸光度(「光学密度」又は「OD」ともいう)はUV吸収層の最も重要な性質である。多くの用途で吸光度の値は1より大きく、通常は1.5より大きく、さらに一般的には2.0より大きい。表1の実施例6と7に示されているように、亜鉛源としてジメチル亜鉛を用い、比較的大きい酸素流量、例えば約6.7slmで高いUV吸光度、例えば2.0より大きい吸光度を達成することができる。この酸素流量、すなわち6.7slmは、下記化学量論反応を実施するのに必要とされる理論流量2.9slmより2.295(O:St)倍大きい。
(CH32Zn + 4O2 → ZnO + 2CO2 + 3H2
一般に、酸素の流量は、より低い流量の酸素で形成される非晶質の酸化亜鉛層とは反対に、結晶性の酸化亜鉛層の形成を可能にするように十分に大きいのが好ましい。比O:Stは通常1より大きく、例えば2より大きくてもよい。
【0049】
生産上重要であり得る別の要因は堆積速度である。例えば、UV吸収層の堆積プロセスが迅速に行われれば、基材に対する熱負荷は少なくなり、これはガラス転移温度が低いポリカーボネートのような基材では重要であり得る。熱負荷が十分低下すると、中間冷却をすることなく連続的に層を堆積させることができるので製造プロセスを短縮することができる。表1に示されているように、厚さが約0.5ミクロンのUV吸収層は約4秒で堆積させることができる。この堆積速度7〜8ミクロン/分は、表に示されているように出発物質としてDMZを用いて達成することができる。
【0050】
陽極4から基材110までの作動距離は堆積に影響を与える別の要因である。一般に、作動距離が短くなると、堆積面積が減り基材に対する熱負荷が増大する。作動距離が長くなると、堆積速度(ミクロン/分)が遅くなりコーティングの幾つかの特性が低下し得る。例えば、基材上における反応剤の温度が低下するため亀裂が発生することがあり、堆積チャンバへの酸素の損失が大きくなるため結晶質ではなくより低い吸光度を有する非晶質の酸化亜鉛層が生じ得る。一般に、作動距離は、基材に対する熱的損傷を回避するのに十分大きく、かつ反応剤の過度の冷却と堆積チャンバへの酸素の損失に伴う問題(例えば亀裂の発生や非晶質の生成)を避けるのに十分小さくなるように選択する。通常、作動距離は約20〜40センチメートルである。
【0051】
本発明の別の実施形態では、亜鉛と、インジウムもしくはアルミニウム又はその他上記のもののような所望の亜鉛ドーパントとを蒸気の形態でプラズマに供給する。例えば、Zn、In及びAlをプラズマ中に熱的に蒸発させることによって、ZnOコーティング、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)コーティング、及びアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)コーティングを高速でポリカーボネート基材上に堆積することができる。
【0052】
一般に、適切な流量を与えるのに十分な(例えば0.1トルより高い)低温蒸気圧を有する金属を使用することができる。より低い蒸気圧を有する金属も利用することができるが、ノズルの温度をそれより高い温度に保たなければならない。
【0053】
金属蒸気を発生させるには、金属供給ラインを図4に示したように変更するとよい。金属供給ライン14(又は必要に応じて12もしくは16)をステンレス鋼管のような管又はチューブ144と交換する。チューブ144は蒸発器145につながっている。この例では、蒸発器145はタンタルライナーを有するニッケル製るつぼのようなるつぼからなる。このるつぼは、高抵抗線や無線周波数(RF)コイルのような加熱エレメント147で囲まれている。この加熱エレメントはまたチューブ144の回りにも巻かれている。加熱エレメントは、反応体金属がチューブ144内で凝固するのを防ぐのに十分な温度に保つ。また加熱エレメント147は金属がノズル8内で凝固するのを防ぐためにノズルまで延びている。例えば、ノズル8を熱的に包囲して、蒸気がその凝縮相に戻る温度にまで冷却される場合のように閉塞するのを防止するのに十分な温度を維持することができる。
【0054】
金属反応体148がパイプ144に接するようにこの反応体を蒸発器145中に装填する。加熱エレメントを賦活化して金属反応体148をパイプ144中に蒸発させる。次いで金属反応体はパイプ144からチャンネル135と開口134を通ってプラズマ150中に供給される。例えば、ZnO薄膜を堆積するには、金属反応体は亜鉛であり、これはZnスラグの形態で市販されている。IZO薄膜を堆積するには、金属反応体148は2.5%In:ZnのようなIn:Zn合金でよい。
【0055】
また、インジウム蒸気は亜鉛蒸気と別の導管を介して供給してもよい。この実施形態の場合、第二の金属供給ライン16は、第二のチューブ146及びインジウムを収容した第二のるつぼと交換する。亜鉛及び/又はインジウムの蒸気はプラズマ中に入り、そこで供給ライン12から供給された酸素と混合される。金属反応体と酸素反応体はプラズマ150中で混合してZnO又はIZOを形成し、プラズマが基材に衝突すると薄い膜として基材110上に堆積する。
【0056】
本発明の別の実施形態を図5に示す。上述したように、Znのような金属反応体を蒸発チャンバからなる蒸発器145中で蒸発させる。蒸発器145は導管144に接続されており、蒸発した反応体が注入ホール134に向かって流れる。この実施形態では、Znスラグを用いる代わりに、例えばZnワイヤのスプールのようなワイヤ供給サプライ153に接続されたワイヤ供給導管又は中空チューブ151を介してZnワイヤ152を蒸発器145に供給する。もちろん、前述したように、金属反応体として他の金属を使用することができる。
【0057】
ワイヤ供給サプライ153は通常のモーター154で巻き戻すことができる。一つの実施形態では、モーター154は一定の速度で駆動されてワイヤ152を連続的に蒸発器145に供給する。また、チューブ157を介してArガスを導管151に供給することもできる。アルゴンは、酸素の逆拡散を減らし、亜鉛蒸気を運搬し、注入ホール134のところでプラズマに入る亜鉛の活性を薄めるために用いられる。
【0058】
図4と5に示した2つの実施形態はまた許容できる結果が得られる2つの作動モードも示している。例えば、本発明のプラズマ増強堆積装置はバッチモードで使用することができる。バッチモードでは、Znスラグ又はインジウム−亜鉛合金(In:Zn)のような金属反応体を蒸発器145内に入れる。ノズル8を熱平衡にする一方で蒸発器を迅速にオンオフして反応体の堆積を開始・停止する。また、連続モードでは、加熱エレメント147により蒸発器145とノズル8を平衡にする。ワイヤ152を蒸発器145に供給するとワイヤは、ワイヤの供給速度及び蒸発器温度における反応体の蒸気圧に比例する一定の速度で融解しプラズマ150中に蒸発する。この連続モードは、蒸発した反応体の浪費が最小になるという意味で有利である。蒸発器は、ユーザーが望むだけの時間適正な高温に保つことができる。それに応じて反応体ワイヤの供給速度も変えることができる。もちろん、本明細書の開示に基づいて当業者には明らかなようにこれらの作動モードの変形又は組合せを利用して許容可能な堆積を実行することもできる。
【0059】
ZnOの安定性は、一般に、固体の亜鉛をプラズマ中に蒸発させるアークプラズマ堆積(APD/蒸発)を利用することによって改善される。この方法によると、下記表2の実施例8〜11に示されているように、ZnO堆積物は化学量論より過剰の酸素(すなわち、50%を超える酸素)を含有している。対照的に、アークプラズマと共に有機金属亜鉛源を使用した場合(実施例12〜13)又はスパッタリングを使用した場合(実施例14〜16)、ZnO堆積物は通常化学量論より不足の酸素を含有している。実施例8〜16の酸素と亜鉛の含量はX−線光電子分光法(XPS)で測定した。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例17〜20
次の実施例17〜20で、各種方法で堆積したZnO層の水浸漬安定性の差を例証する。実施例17では、亜鉛をプラズマ中に蒸発させたアークプラズマ堆積によってZnO層を設けた。実施例18と19では、亜鉛源がジエチル亜鉛(DEZ)であるアークプラズマ堆積(APD)によってZnO層を設けた。実施例20では、18%O2/Arプラズマ中でZnO源を用いた反応性スパッタリングでZnO層を設けた。21日間の一日当たりΔODとは、65℃の水に21日にわたって浸漬したときの光学密度における一日当たりの平均低下を指しており、ODは既に定義した通り350nmの吸光度と等価である。このODの損失は、ZnOコーティングの溶解に起因している。7日後のΔ%曇りとは、65℃の水に7日間浸漬した後の曇り価の増大率を指している。1日当たりΔODとΔ%曇りの値が低いほどコーティングは安定である。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示されているように、蒸発した亜鉛を用いてアークプラズマ堆積によって形成したZnO層は、スパッタリングによって形成したZnO層及びDEZを用いてアークプラズマ堆積によって形成したZnO層と比較して、1日当たりの光学密度の低下がずっと低かった。また、蒸発した亜鉛を用いてアークプラズマ堆積によって形成したZnO層は、スパッタリングによって形成したZnO層及びDEZを用いてアークプラズマ堆積によって形成したZnO層と比較して、曇り価の増大率がずっと低かった。表2と3の実施例は、化学量論より過剰の酸素を有するZnOコーティングの堆積により、改善された水浸漬安定性をもつZnO層が生成し得ることを示唆している。
【0064】
再び図1を参照すると、耐摩耗層140が、同様にアークプラズマ堆積によってUV吸収層130の上に形成されている。この耐摩耗層を設けるには、プラズマ中への有機金属材料又は金属材料の流れを止め、別の材料を流し始める。UV吸収層の形成と耐摩耗層の形成との間の遷移部は、プラズマの発生を中断することなく単に別の材料を注入することによって作成することができる。
【0065】
また遷移は、物質間に漸進遷移、すなわち傾斜組成を生じるように行うこともできる。このためには、UV吸収層の材料の注入を終了する前に耐摩耗層用の材料の注入を開始すればよい。傾斜遷移により、異なる性質を有する物質間に急激な遷移がなくなるので、UV吸収層と耐摩耗層との間の接着が改善されるという利点を得ることができる。
【0066】
耐摩耗層を形成するためにプラズマ中に注入する材料としては、上で説明したように、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)その他の有機ケイ素を挙げることができる。これらの有機ケイ素モノマーは通常プラズマ中で酸化され重合して、ケイ素、炭素、酸素及び水素を含有する酸化D4、TMDSO又はHMDSOの層からなる耐摩耗層を形成する。
【0067】
耐摩耗層に適した材料の他の例としては、例えば二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムがある。
【0068】
耐摩耗層は一般に厚さが約1〜10ミクロンであり、通常は約2〜6ミクロンであり、最も普通の場合は約3〜4ミクロンである。耐摩耗層の堆積速度は、厚さ4ミクロンの層を約20秒以内に堆積することができるように約12〜15ミクロン/分とすることができる。
【0069】
以下の実施例で、本発明の実施形態の様々な特徴と利点をさらに例示する。
【0070】
実施例21
この実施例の3層物品は、良好な耐摩耗性と良好なUV吸収性を示した。
【0071】
LEXAN(登録商標)ポリカーボネート物品(4インチ×4インチ×1/8インチ)を、下記表4に掲げる条件下、1)厚さ0.6ミクロンの重合D4の中間層、2)厚さ0.5ミクロンのZnOのUV吸収層、及び3)厚さ4ミクロンの酸化したD4の耐摩耗層で、アークプラズマによりコートした。これら3つの層は各層の堆積の間に30分の遅れをもって直接堆積した。表4と5で、「プラズマ暴露」、「前/中/後」とは、それぞれの層の堆積の前、堆積中及び堆積後のプラズマ暴露を指している。中間層の場合、堆積前と堆積後のプラズマはアルゴンからなっていた。UV吸収層と耐摩耗層の場合、堆積前と堆積後のプラズマはアルゴンと酸素からなっていた。陽極から基材までの作動距離は28cmであった。アーク電流は60Aであった。
【0072】
こうしてコートした物品は光学的に透明であり、アメリカ材料試験協会(ASTM)試験法ASTMのD1003に従ってGardner haze−gard plusモデルHB4725で測定した初期曇り価(光散乱の割合%)が0.6%であった。次に、サンプルをアメリカ材料試験協会(ASTM)の試験法D1044によるテーバー摩耗試験にかけた。このテーバー摩耗試験では、2つの摩耗輪(CS−10Fタイプ)に均等に分配された1000グラムの荷重を1000サイクルかける。その後、再び曇り価を測定してΔ曇り価を得る。このΔ曇り価が低いほどサンプルは耐摩耗性である。この実施例ではΔ曇り価が1.2%であった。
【0073】
UV吸収層のUV吸光度は、同じZnO層をガラス基材上にコートすることによって測定した。ZnOコーティングはUV吸光度が350ナノメートル(nm)光に対して1.5より大きかった。ポリカーボネートはUV光をいくらか吸収するので、UV吸光度を測定する基材としてガラスを用いた。
【0074】
【表4】

【0075】
実施例22
下記表5に掲げる条件下で、LEXAN(登録商標)ポリカーボネート基材(4インチ×4インチ×1/8インチ)に3層コーティングを設けた。陽極から基材までの作動距離は28cmであった。アーク電流は60Aであった。この実施例の3層コーティングは、良好な耐摩耗性、良好なUV吸収性を示し、熱サイクルによるダメージはなかった。
【0076】
このコーティングのGardner haze−gard plusモデルHB4725で測定した初期曇り価は1.2%であった。次に、コーティングを実施例21に記載したテーバー(Taber)試験にかけた。このサンプルのΔ曇り価は2.0%であった。
【0077】
次いで、コートした物品をゼネラル・モーターズ工学規格(General Motors Engineering Standards)の自動車環境サイクル(Automotive Environmental Cycles)GM9505P(1992)に定められている熱サイクル試験にかけた。この熱サイクル試験(ゼネラル・モーターズ工学規格(General Motors Engineering Standards)にサイクル1として規定されている)では、サンプルを−30℃と80℃に5サイクル加熱・冷却する。この熱サイクル試験の終了時サンプルにはコーティングの微細亀裂も層間剥離もなかった。
【0078】
同じZnO層をガラス基材上にコートすることによってUV吸収層のUV吸光度を測定した。ZnOコーティングはUV吸光度が350ナノメートルの光に対して約1.6であった。
【0079】
【表5】

【0080】
実施例23
下記表6に掲げる条件下で、LEXAN(登録商標)基材に3層コーティングを設けた。この3層コーティングは中間層、UV吸収層及び耐摩耗層を含んでいた。耐摩耗層は2つの段階で設けた。この実施例は、中間層、UV吸収層及び第一の耐摩耗層が、冷却することなく連続して短時間で設けることができて、LEXAN(登録商標)基材上の熱負荷を低減できることを立証している。
【0081】
表6に記載されているように、LEXAN(登録商標)基材をアルゴンプラズマで4秒間前処理した。次に、中断することなく、アーク内にTMDSOを流すことにより中間層を堆積させた。次いで、中断することなく、アーク内にDMZと酸素を流すと共にTMDSO流を止めることによりUV吸収性ZnO層を堆積させた。その後、中断することなく、アーク内にTMDSOを流し、DMZ流を止め、そして酸素流を減らすことにより第一の耐摩耗層を堆積させた。次に、サンプルを約5分間で40℃に冷却させた。次いで、第二の耐摩耗層を設けた。陽極から基材表面までの作動距離は25.5センチメートルであった。
【0082】
これらの条件により、0.5ミクロンの重合TMDSOの中間層と、0.5ミクロンの酸化亜鉛のUV吸収層と、3.6ミクロンの酸化したTMDSOの耐摩耗層とを有する3層構造体が得られた。このサンプルを65℃の水に7日間浸漬した後、層間剥離も曇り価の増大も見られなかった。曇り価は水浸漬の前後にガードナー曇り計モデルXL835で測定した。
【0083】
【表6】

【0084】
実施例24
下記表7に掲げる条件下で、LEXAN(登録商標)基材に3層コーティングを設けた。この実施例は、2.66の高い紫外吸光度を立証している。これらの層は、中間に冷却段階を用いることなく、合計13秒以内に連続して堆積させた。コーティング全体の厚さは1.8ミクロンであった。陽極と基材表面との間の作動距離は25.5センチメートルであった。
【0085】
【表7】

【0086】
実施例25
下記表8に掲げる条件下で、LEXAN(登録商標)基材に3層コーティングを設けた。このコーティングは2.29という比較的高いUV吸光度を示した。これらの層は、中間に冷却段階を用いることなく、合計32秒以内に連続して堆積させた。コーティング全体の厚さは3.6ミクロンであった。陽極と基材表面との間の作動距離は25.5センチメートルであった。
【0087】
【表8】

【0088】
以上の実施例と説明から、本発明により、中間層、UV吸収層及び耐摩耗層を含む複数の層をポリマー基材上に迅速に形成する改良された方法が提供されることが明らかである。各層の堆積の間に冷却してもしなくても、1分未満、通常は45秒、30秒、20秒又は15秒未満の合計堆積時間内に連続して3層を設けることができるので、達成することができるタイミングは特に有利である。UV吸光度は、例えば2又は2.5以上とすることができる。テーバー摩耗試験で測定される耐摩耗性はΔ曇り価が、例えば2%、1.5%、又は1.2%以下の値とすることができる。また、図3に例示したノズルでは、比較的大きい表面積を迅速にコートすることも可能になる。
【0089】
図6に示した別の実施形態では、アークプラズマ堆積装置160が、堆積チャンバ200内の基材165の両側に配置された複数のプラズマ発生チャンバ181〜190をもっている。プラズマ発生チャンバ181〜190と堆積チャンバ200は図2〜5に関して説明したのと同様に作動する。
【0090】
図6の実施形態は、車両のウインドウのような基材165の片面をコートすることもできるし、両面を同時にコートすることもできる。この複数のアークプラズマ発生チャンバは堆積チャンバ200の片側にのみ配置してもよいし、図6に示したように両側に配置してもよい。基材165の両側に5つのプラズマ発生チャンバが示してあるが、そのようなチャンバは基材165のいずれかの側に1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ以上あってもよい。装置160は、例えば、単一の基材の複数の領域を別々にコートしたり、複数の基材をコートしたり、又は単一の基材上に複数の層をコートしたりするのに利用できる。これらプラズマ発生チャンバ181〜190は所望の材料又は材料の組合せを基材165上に投射するような形状・配置にすることができる。
【0091】
図6示した例では、基材165は複数の重なった層でコートされる。基材165は放出されるプラズマジェットの進路に対して垂直な方向191に沿って移動することができる。この方向は垂直、水平その他任意の方向でよい。例えば、基材は位置192から位置193に向かって、チャンバ181〜185から放出されるプラズマアーク又はジェット50の方向に対して垂直に動くことができる。一つの例では、プラズマ発生チャンバ181を用いて中間層222を堆積し、プラズマ発生チャンバ182を用いてUV吸収層225を堆積し、プラズマ発生チャンバ183を用いて耐摩耗層を堆積する。もちろん、活動プラズマ発生チャンバ(すなわちプラズマを放出するチャンバ)の数は所望の構造が形成されるように変化させることができる。また、プラズマ発生チャンバ181〜190の1つ以上を、表4と5に記載した前処理や後処理暴露のようなプラズマ処理に使用することもできる。
【0092】
基材165の裏側をコートしたい場合には、プラズマ発生チャンバ186〜190を活動させることができる。すなわち、一つのプロセス実行中に同一のチャンバ内で任意の組合せの層を形成することができる。また、基材165がチャンバ181〜185に同時に面する程長ければ、2つ以上〜5つ全部の活動チャンバ181〜185からのプラズマで基材165を同時に照射して任意の組合せの層を同時に形成することができる。
【0093】
また、コーティング層は順次堆積してもよい。例えば、堆積チャンバ181〜183のいずれかを別々の時間に作動させて、他の2つの堆積チャンバを不活動状態にして、中間層、UV吸収層及び耐摩耗層を順次堆積することができる。基材165は、各々の堆積の際に適した位置、すなわち活動状態の堆積チャンバの前に配置する。
【0094】
本発明の別の実施形態によると、UV吸収層に隣接して銀又はアルミニウムの接着促進層を堆積することができる。適切な銀又はアルミニウムの接着促進層は、例えば、本出願と同日出願に係るIacovangeloの「Adhesion Layer of Metal Oxide UV Filters」と題する米国特許出願(GE整理番号RD−25972)(援用によりその全体が本明細書に含まれているものとする)に記載されている。
【0095】
本発明のさらに別の実施形態によると、例えば、本出願と同日出願に係るIacovangeloの「Infrared Reflecting Coatings」と題する米国特許出願(GE整理番号RD−25973)(援用によりその全体が本明細書に含まれているものとする)に記載されているように、多層物品に、例えばUV吸収層に隣接して、銀又はアルミニウムの赤外反射層を設けることができる。
【0096】
本方法は押出又は射出成形によって製造される物品をコートするのに特に適している。というのは、これらのプロセスもまた迅速に実施することができるからである。例えば、物品を形成するのにかかる時間がその物品をコートするのにかかる時間とほぼ等しければ、これらのプロセスを連続的に行うことができるので、製造のロジスティックスが簡単化される。対照的に、シリコーンハードコートを設ける際のような処理段階が2時間かかる従来法では、非常に多くの物品を同時に処理しなければならず、製造ロジスティックスが複雑になる。また、すべての層をアークプラズマ堆積によって設けると、いろいろな層を堆積する間にその物品を取扱い、輸送し、又は清浄にする必要がないという利点も得られる。
【0097】
本明細書に開示した本発明の説明から当業者には本発明の他の実施形態が明らかであろう。本明細書の説明及び実施例は単なる例示であって本発明の範囲は特許請求の範囲によって定められるものである。
【符号の説明】
【0098】
1 堆積チャンバ
2 プラズマ発生チャンバ
3 ガス供給ライン
4 陽極
5 陰極
8 ノズル
10 プラズマ堆積装置
12 酸素供給ライン
14、16 反応剤供給ライン
100 多層物品
110 基材
120 中間層
130 紫外線吸収層
140 耐摩耗層
150 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品上に複数の層を堆積させる方法であって、
プラズマ発生チャンバよりも圧力が低く物品が配置された堆積チャンバと連通しているプラズマ発生チャンバにプラズマガスを流す段階、
プラズマ発生チャンバ内でアークを発生させて、堆積チャンバ中に流入するプラズマを発生させる段階、
プラズマ中に有機ケイ素または炭化水素を含む第一の材料を注入して第一の材料を反応させて、有機ケイ素または炭化水素の反応物を含む中間層を物品上に形成する段階、及び、
第二の材料をプラズマ中に注入して第二の材料を反応させて、無機紫外線吸収材料を含む第二の層を中間層上に形成する段階を含んでなり、
中間層が物品の熱膨張係数と第二の層の熱膨張係数の間の熱膨張係数を有する、方法。
但し、第二の材料は、気体状の反応剤と有機金属化合物とを含み、有機金属化合物は、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、チタンイソプロポキシド、セリウム(IV)テトラブトキシド、または炭素に直接結合した金属を含む。
【請求項2】
物品上に複数の層を堆積させる方法であって、
プラズマ発生チャンバよりも圧力が低く物品が配置された堆積チャンバと連通しているプラズマ発生チャンバにプラズマガスを流す段階、
プラズマ発生チャンバ内でアークを発生させて、堆積チャンバ中に流入するプラズマを発生させる段階、
プラズマ中に有機ケイ素または炭化水素を含む第一の材料を注入して第一の材料を反応させて、有機ケイ素または炭化水素の反応物を含む中間層を物品上に形成する段階、及び、
第二の材料をプラズマ中に注入して第二の材料を反応させて、無機紫外線吸収材料を含む第二の層を中間層上に形成する段階を含んでなり、
中間層が物品の熱膨張係数と第二の層の熱膨張係数の間の熱膨張係数を有する、方法。
但し、第二の材料は気体状の反応剤と有機金属化合物とを含み、有機金属化合物は、亜鉛含有化合物、チタン含有化合物又はセリウム含有化合物を含む。
【請求項3】
物品上に複数の層を堆積させる方法であって、
プラズマ発生チャンバよりも圧力が低く物品が配置された堆積チャンバと連通しているプラズマ発生チャンバにプラズマガスを流す段階、
プラズマ発生チャンバ内でアークを発生させて、堆積チャンバ中に流入するプラズマを発生させる段階、
プラズマ中に有機ケイ素または炭化水素を含む第一の材料を注入して第一の材料を反応させて、有機ケイ素または炭化水素の反応物を含む中間層を物品上に形成する段階、及び、
第二の材料をプラズマ中に注入して第二の材料を反応させて、無機紫外線吸収材料を含む第二の層を中間層上に形成する段階を含んでなり、
中間層が物品の熱膨張係数と第二の層の熱膨張係数の間の熱膨張係数を有する、方法。
但し、第二の材料は、気体状の反応剤、並びに、亜鉛含有化合物、チタン含有化合物及びセリウム含有化合物の少なくとも一種を含む。
【請求項4】
物品上に複数の層を堆積させる方法であって、
プラズマ発生チャンバよりも圧力が低く物品が配置された堆積チャンバと連通しているプラズマ発生チャンバにプラズマガスを流す段階、
プラズマ発生チャンバ内でアークを発生させて、堆積チャンバ中に流入するプラズマを発生させる段階、
プラズマ中に有機ケイ素または炭化水素を含む第一の材料を注入して第一の材料を反応させて、有機ケイ素または炭化水素の反応物を含む中間層を物品上に形成する段階、及び、
第二の材料をプラズマ中に注入して第二の材料を反応させて、無機紫外線吸収材料を含む第二の層を中間層上に形成する段階を含んでなり、
中間層が物品の熱膨張係数と第二の層の熱膨張係数の間の熱膨張係数を有する、方法。
但し、第二の材料は、気体状の反応剤と金属蒸気とを含む。
【請求項5】
前記金属蒸気が金属とドーパントとを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属が亜鉛を含み、前記ドーパントが、インジウム、アルミニウム、フッ素、ホウ素、ガリウム、タリウム、銅及び鉄から選ばれる一種のドーパントを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第二の材料が、インジウム、アルミニウム、フッ素、ホウ素、ガリウム、タリウム、銅及び鉄から選ばれる一種のドーパントを含み、さらに前記第二の材料と共に酸素を注入する段階を含む、請求項1〜4のいずれかの一項に記載の方法。
【請求項8】
有機ケイ素モノマー、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムを含む第三の材料をプラズマ中に注入して第三の材料を反応させて、耐摩耗性材料を含む第三の層を第二の層上に形成する段階を更に含む、請求項1〜4のいずれかの一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の材料が、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルジシロキサン及びヘキサメチルジシロキサンの少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれかの一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第二の材料がジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、チタンイソプロポキシド及びセリウム(IV)テトラブトキシドの少なくとも1種を含む、請求項2〜4のいずれかの一項に記載の方法。
【請求項11】
前記気体状の反応剤が酸素であり、さらに第二の材料と共に酸素をプラズマ中に注入して酸素を第二の材料と反応させて、酸化物である第二の層を形成する段階を含んでおり、酸素の流量が結晶形態の第二の層を形成するのに十分に多い、請求項1〜4のいずれかの一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−208282(P2011−208282A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105743(P2011−105743)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【分割の表示】特願2000−605804(P2000−605804)の分割
【原出願日】平成12年2月7日(2000.2.7)
【出願人】(309001610)サビック イノベーティブ プラスチックス イーペー ベスローテン フェンノートシャップ (16)
【Fターム(参考)】