説明

イミダゾール基含有ホスフィンボラン化合物とイミダゾール基含有ホスフィンボラン化合物の製造方法

本発明は、イミダゾール含有ホスフィノボラン化合物と、それを用いて製造する光学活性な配位子、このような配位子を含む遷移金属錯体、このような遷移金属錯体を含む触媒に関する。本発明はまた、上記のホスフィノボラン化合物、光学活性配位子、遷移金属錯体及び触媒の特定の製造方法と、これらの触媒の有機変換反応への利用に関する。本発明はまた、イミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を用いてイミダゾール含有リン化合物を含む光学活性な配位子を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾール含有ホスフィノボラン化合物と、これらを用いて製造した光学活性な配位子、このような配位子を含む遷移金属錯体、このような遷移金属錯体を含む触媒に関する。本発明はまた、これらのホスフィノボラン化合物や光学活性配位子、遷移金属錯体、触媒の特定の製造方法とこれらの触媒の有機変換反応への利用に関する。本発明はまた、イミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を用いてイミダゾール含有リン化合物を含む光学活性な配位子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不斉水素化やヒドロホルミル化または重合などの有機変換反応は、大規模化学産業において重要な反応である。これらの有機変換反応は、主に均一に触媒されている。
【0003】
高活性で高エナンチオ選択性の触媒を得るためには、しばしば複雑な多段であって、このため高コストとなる合成を行う必要がある。通常、金属錯体の反応性を左右することとなる配位子の合成が、最も難しい工程である。化学触媒のコストを下げるためには、容易に入手可能な出発原料に由来し及び/又は簡単な合成方法で製造可能な配位子を、常に求め続ける必要がある。
【0004】
例えば、不斉水素化での立体選択性を、あるいは重合におけるタクチシチーを制御できるようになるには、キラル配位子が必要である。キラル配位子の出発骨格の一つは、NHCP配位子であり、これは、立体的に保護された燐原子と強いo−供与体としてのカルベンのため大きな可能性がある。
【0005】
この出発ベースにもかかわらず、現在まで、先行技術では、アキラルのNHCP配位子と数個のキラルNHCP配位子を開示しているのみである。Organometallics 2007, volume 26, pages 253 to 263と、Chemistry − A European Journal 2007, volume 13, pages 3652 to 3659、Journal of Organometallic Chemistry 2005, volume 690, pages 5948 to 5958、 Organometallics 2003, volume 22, pages 4750 to 4758には、例えば、以下の種類のアキラルNHCP配位子が開示されている。
【0006】
【化1】

【0007】
式中、「Ph」はフェニルを表し、「Ar」は2,6−ジイソプロピルフェニルまたは2,4,6−トリメチルフェニルを表す。これらの系の触媒的変換での利用が、以下の文献に記載されている:Organic Letters 2001, volume 3, pages 1511 to 1514, Advanced Synthesis & Catalysis 2004, volume 346, pages 595 to 598, Inorganica Chimica Acta 2004, volume 357, pages 4313 to 4321, Journal of Organometallic Chemistry 2006, volume 691, pages 433 to 443、およびOrganometallics 2005, volume 24, pages 4241 to 4250。
【0008】
現在までに、ほんの数個のキラルNHCP配位子が記載されているのみである。例えば、先行技術((a) S. Nanchen, A. Pfaltz // Helvetica Chimica Acta 89 (2006) 1559−1573, (b) E. Bappert, G. Helmchen // Synlett 10 (2004)1789−1793, (c) H. Lang, J. Vittal, P−H. Leung // Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions (1998) 2109−2110)には、燐原子とイミダゾール基成分の窒素原子の間にエタノブリッジをもつことを特徴とする配位子が開示されている。他のNHCP配位子が以下の文献に記載されている: ((a) H Seo, H. Park, B. Y. Kim, J. H. Lee, S. U. Son, Y. K. Chung // Organometallics (22) 2003, 618−620, (b) T. Focken, G. Raabe, C. Bolm // Tetrahedron: Asymmetry 15 (2004) 1693−1706, (c) T. Focken, J. Rudolph, C. Bolm // Synthesis (2005) 429−436, (d) R. Hodgson, R. E. Douthwaite // Journal of Organometallic Chemistry 690 (2005) 5822−5831)。この場合にも、燐原子とイミダゾール基成分の窒素原子間に比較的長いブリッジが選ばれている。しかしながら、現在までに報告されているすべてのキラルNHCP配位子のエナンチオ選択性は大きくない。
【0009】
アキラルNHCP配位子は、通常、燐原子の上に二個の同じ置換基をもつ。これ対して、キラルNHCP配位子は、燐原子上に異なる配位子をもつ。このような場合、この燐原子自体がキラル中心となる。これらのキラル化合物は、特にエナンチオ選択性触媒、例えばエナンチオ選択性水素化の触媒用の配位子として好適である。エナンチオ選択性の触媒には、実質的にエナンチオマー的に純粋な形で存在する、即ちエナンチオマーの一つの形で存在するキラル化合物を用いることができる。
【0010】
残念ながら、燐原子上の対称的な置換基の交換で製造されたキラル燐原子をもつ化合物は、ナンチオ選択性の触媒に用いることができない。従来の合成法で得られるこれらの化合物が、両方の配位子のエナンチオマー形の両方をラセミ体として含んでいるためである。
【0011】
また、先行技術(WO03/022812 A1; WO2006/087333 A1; WO03/037835 A2; EP 1182196 A1)には、以下の下式に示すイミダゾリウムカチオンを有するがNHCP結合を含まないイオン性液体が含まれている。
【0012】
【化2】

【0013】
式中、R1基は、a)水素と、b)1〜20個の炭素原子をもつ直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和脂肪族基または脂環式アルキル基、c)ヘテロアリール基中に3〜8個の炭素原子と、NとOとSから選ばれる少なくとも一種のヘテロ原子とをもち、C1−C6−アルキル基及び/又はハロゲン原子から選ばれる少なくとも一種の基で置換されていてもよいヘテロアリール基とヘテロアリール−C1−C6−アルキル基、d)アリール基中に5〜16個の炭素原子をもち、必要なら少なくとも一種のC1−C6−アルキル基及び/又はハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基やアリール−C1−C6−アルキル基からなる群から選ばれ、R基は、a)1〜20個の炭素原子をもつ直鎖又は分岐鎖の,飽和又は不飽和脂肪族アルキル基または脂環式アルキル基と、b)ヘテロアリール基中に3〜8個の炭素原子と、NとOとSから選ばれる少なくとも一種のヘテロ原子とをもち、C1−C6−アルキル基及び/又はハロゲン原子から選ばれる少なくとも一種の基で置換されていてもよいとヘテロアリール−C1−C6−アルキル基、c)アリール基中に5〜16個の炭素原子をもち、必要なら少なくとも一種のC1−C6−アルキル基及び/又はハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基やアリール−C1−C6−アルキル基からなる群から選ばれる。
【0014】
これらの文書は、上記イオン性液体のいろいろな製造方法を開示している。また、これらのイオン性液体は、溶媒として、相間移動触媒、抽出剤、熱媒体、プロセス機器または作業機器の運転流体、抽出媒体、または分極可能な不純物/基質の抽出用反応媒体の成分として使用できると報告されている。
【0015】
国際特許出願PCT/EP2009/051677には、下記式で表わされるイミダゾール含有リン化合物と、それから製造される配位子、遷移金属錯体、触媒が報告されている。
【0016】
【化3】

【0017】
式中、Wはリンまたはホスフィットである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO03/022812 A1
【特許文献2】WO2006/087333 A1
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Organometallics 2007, volume 26, pages 253 to 263
【非特許文献2】Chemistry − A European Journal 2007, volume 13, pages 3652 to 3659
【非特許文献3】Organic Letters 2001, volume 3, pages 1511 to 1514
【非特許文献4】Advanced Synthesis & Catalysis 2004, volume 346, pages 595 to 598
【非特許文献5】S. Nanchen, A. Pfaltz // Helvetica Chimica Acta 89 (2006) 1559−1573
【非特許文献6】E. Bappert, G. Helmchen // Synlett 10 (2004)1789−1793
【非特許文献7】H Seo, H. Park, B. Y. Kim, J. H. Lee, S. U. Son, Y. K. Chung // Organometallics (22) 2003, 618−620
【非特許文献8】T. Focken, G. Raabe, C. Bolm // Tetrahedron: Asymmetry 15 (2004) 1693−1706
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、新規光学活性配位子とそれによる触媒を提供することである。これらの配位子は、装置的にあまり複雑でなく、工業的に安価に入手可能な出発原料と反応剤とから合成できる必要がある。これらの配位子または触媒は、一段プロセスで製造できることが好ましい。特に、特定の配位子の両方のエナンチオマーが、同程度の収率で製造できるべきである。また、これから製造される配位子や触媒は、高立体選択性及び/又は高位置選択性の有機変換反応での使用に適している必要がある。また、これらの有機変換反応の効率が先行技術に劣らないことが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
驚くべきことに、下に詳述するNHCP配位子から製造した触媒の効率が先行技術に較べて優れ、また合成コストがかなり小さいことが明らかとなった。NHCP配位子は製造が簡単で安価であるだけでなく、例外的に強固である。また、簡単に両方のエナンチオマーを製造することができる。
【0022】
本発明の方法で、二つのエナンチオマーの量が異なるキラル化合物を合成することができる。また特に、本発明の方法で、これらのエナンチオマーを分別し、実質的に合成用途での影響がほとんどなくなるまで望ましくないエナンチオマーの形成を抑制することができる。
【0023】
本発明の説明において、「アルキル」は、直鎖状および分岐状アルキル基の両方を含む。これらは、好ましくは直鎖状または分岐状のC1−C20−アルキルであり、より好ましくはC1−C12−アルキル、特に好ましくはC1−C6−アルキル、極めて好ましくはC1−C4−アルキル基である。アルキル基の例としては、特にメチルやエチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、2−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、2−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−エチル−2−メチルプロピル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、2−エチルペンチル、1−プロピルブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル、ノニル、デシルがあげられる。
【0024】
「アルキル」はまた、一般的には1、2、3、4または5個この置換基を、好ましくは1、2または3個の置換基、より好ましくは1個の置換基をもつ置換アルキル基を含む。これらは、好ましくは、アルコキシやシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシル、ハロゲン、NE12、NE123+、カルボキシレート、スルホネートから選ばれる。好ましいペルフルオロアルキル基はトリフルオロメチルである。
【0025】
本発明において、「アリール」は、無置換及び置換アリール基を含み、好ましくはフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、フェナンスレニルまたはナフタセニルであり、より好ましくはフェニルまたはナフチルであり、これらのアリール基は、置換の場合、アルキルとアルコキシ、カルボキシレート、トリフルオロメチル、スルホネート、NE12、アルキレン−NE12、ニトロ、シアノ、ハロゲンからなる群から選ばれる1、2、3、4または5個の置換基を、好ましくは1、2または3個の置換基を、より好ましくは1個の置換基を有していてもよい。好ましいペルフルオロアリール基はペンタフルオロフェニルである。
【0026】
本発明において、「カルボキシレート」と「スルホネート」は、好ましくはそれぞれカルボン酸官能基とスルホン酸官能基の誘導体を示し、特に、金属カルボキシレートまたはスルホネート、カルボン酸エステルまたはスルホン酸エステル基、カルボキサミドまたはスルホンアミド基を示す。これらには、例えば、メタノールやエタノール、N−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどのC1−C4−アルカノールとのエステルが含まれる。
【0027】
上記の「アルキル」と「アリール」の説明は、「アルコキシ」や「アリールオキシ」にも適用される。
【0028】
本発明において、「アシル」は、一般的には2〜11個の炭素原子を、好ましくは2〜8個の炭素原子をもつアルカノイルまたはアロイル基であり、例えばホルミル、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、2−エチルヘキサノイル、2−プロピルヘプタノイル、ベンゾイルまたはナフトイル基を示す。
【0029】
1〜E3基は、それぞれ独立して、水素とアルキル、シクロアルキル、アリールから選ばれる。NE12基は、好ましくは、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジプロピルアミノ、N,N−ジイソプロピルアミノ、N,N−ジ−n−ブチルアミノ、N,N−ジ−t−ブチルアミノ、N,N−ジシクロヘキシルアミノまたはN,N−ジフェニルアミノである。
【0030】
ハロゲンは、フッ素と塩素、臭素、ヨウ素を表し、好ましくはフッ素と塩素、臭素を表す。
【0031】
本発明において、「脱離基」は、求核剤による攻撃で、あるいは求核剤との反応で置換される構造要素を表す。これらの脱離基は、一般的には当業界の熟練者には公知であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、トリフルオロアセチル、アセチル、ベンゾイル、トシル、ノシル、トリフレート、ノナフレート、しようのう−10−スルホネート等が用いられる。
【0032】
本願特許の記載においては、簡便のために一種のみのエナンチオマーを指定しても、両方のエナンチオマーが含まれているものとする。
【0033】
本発明は、一般式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を提供する。
【0034】
【化4】

【0035】
式中、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ水素とアルキルとアリールからなる群から選ばれる同一であるか異なる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、それぞれ水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれる同一であるか異なる基であり、
R8とR9はそれぞれ独立して、水素またはアルキルであり、
Xは脱離基である。
【0036】
R1とR2基がアルキルとアルキルの組合せである場合(組合せ例α)、一つのアルキル基は、好ましくはアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチルまたはイソプロピルであり、特にtert−ブチルであり、他のアルキル基はメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルであり、特にメチルまたはエチル、より好ましくはメチルである。
【0037】
R1とR2基がアリールとアルキルの組合せの場合(組合せ例β)、アリール基は好ましくはフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、特にフェニルであり、アルキル基はメチル、アダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソプロピルであり、特にtert−ブチルとメチルである。
【0038】
アルキルとアルキルの組合せ(組合せ例α)がアルキルとアリールの組合せ(組合せ例β)より好ましい。
【0039】
R3とR4は、好ましくはそれぞれ独立して、水素、メチル、エチルまたはベンジルであり、特に水素である。
【0040】
R5は、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチル、メシチル、2,6−ジイソプロピルフェニル、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニルであり、特にメチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチル、メシチル、または2,6−ジイソプロピルフェニルである。
【0041】
R6とR7は、好ましくはそれぞれ独立して、水素または六員の芳香族環である。
【0042】
R8とR9は、好ましくはそれぞれ独立して、水素、アルキル、特にメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチル、(CH24鎖またはアリールであり、特にフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、またはアントラセニルである。より好ましくは、R8とR9は、それぞれ独立して、水素、フェニルまたは(CH24鎖である。
【0043】
本発明のイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物は、光学活性であることが好ましい。
【0044】
特に好ましいのは、上記カチオンのエナンチオマー形に由来するエナンチオマーとジアステレオマーの両方であり、また以下のイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物のエナンチオマーである
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
本発明はまた、一般式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物の製造方法であって、一般式A:
【0049】
【化8】

の化合物を、一般式BまたはC:
【0050】
【化9】

の化合物と、−80℃〜40℃の温度で、少なくとも一種のリチウムイオン含有塩基の、例えばアルキルリチウム化合物の存在下で一種以上の溶媒を用いて反応させる方法に関する。
【0051】
本発明はまた、一般式IまたはIIの光学活性なイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物の製造方法であって、一般式A:
【0052】
【化10】

の化合物を、一般式BまたはC:
【0053】
【化11】

の化合物と、−80℃〜40℃の温度で、少なくとも一種のリチウムイオン含有塩基と少なくとも一種のキラル助剤、例えば(−)−スパルテインまたはその誘導体、例えば(1R,2S,9S)−11−アルキル−7,11−ジアザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカン、(1R,2S,9S)−11−メチル−7,11−ジアザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカン、(なおこの場合、アルキルは好ましくはメチル、エチル、ブチル、ベンジル、イソプロピル、2,2,2−トリメチルエチル、1−シクロプロピルメチルまたは1−シクロヘキシルメチルである)の存在下で、一種以上の溶媒を用いて反応させる方法に関する。
【0054】
化合物Bを使用すると化合物Iを与え、化合物Cを使用すると化合物IIを与える。
【0055】
反応を−40〜40℃の温度で行うことが好ましく、特に−20〜30℃の温度で行うことが好ましい。反応時間は通常1〜48時間であり、好ましくは4〜24時間である。最適反応時間は、当業界の熟練者により簡単な試験で決定できる。用いる溶媒は、当業界の熟練者には既知のすべての溶媒である。特に適当な溶媒は、THF、ジエチルエーテルまたはtert−ブチルメチルエーテルである。
【0056】
一方のエナンチオマーを多くしてこれらの化合物を製造する場合、化合物BまたはCと化合物Aとの反応の前に、リチウムイオン含有塩基の存在下で化合物Aを少なくとも一種のキラル(光学活性な)助剤を反応させることが好ましい。その後、BまたはCとの反応を上述のように実施できる。
【0057】
この前処理を以下に述べるように行うことが好ましい。即ち、化合物Aを少なくとも一種の光学活性な助剤と少なくとも一種のリチウムイオン含有塩基と、−80℃〜0℃の温度で少なくとも一種の溶媒中で、好ましくはエーテル溶媒中で反応させ、10℃〜40℃の温度まで加熱し、この温度で0.5〜4時間で維持する。なお、この温度は好ましくは15℃〜30℃でありその滞留時間は0.5〜2時間である。その後、この混合物を化合物BとCとの反応に適した温度にもっていく。
【0058】
一般式IとIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物は、一般式IIIとIVの光学活性な配位子(カルベン)の製造用の前駆体となる。
【0059】
【化12】

【0060】
式中、Wはリン(P)またはホスフィノボラン(P−BH3)であり、他の定義は、一般式IとIIで説明したものと同じである。
【0061】
本発明はまた、一般式VとVIの光学活性な配位子を提供する。
【0062】
【化13】

【0063】
式中、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ水素とアルキル、アリールからなる群から選ばれる同一であるか異なる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、それぞれ水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれる同一であるか異なる基であり、
R8とR9は、それぞれ独立して、水素またはアルキルである。
【0064】
R1〜R9基の選択は、上記の一般式IまたはIIで詳細に説明した選択に相当する。
【0065】
以下の光学活性配位子の両エナンチオマーが特に好ましい。
【0066】
【化14】

【0067】
【化15】

【0068】
本発明はまた、一般式IIIまたはIVの化合物の製造方法であって、
【0069】
【化16】

【0070】
(式中、
Wはリン(P)またはホスフィノボラン(P−BH3)であり、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ水素とアルキル、アリールからなる群から選ばれる同一であるか異なる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれる同一であるか異なる基であり、
R8とR9は、それぞれ独立して、水素またはアルキルである)、
一般式IまたはIIの化合物を、いずれの場合も少なくとも一種の強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用いて、−80〜+20℃の温度で一般式IIIまたはIV(工程(ii))の化合物に変換することからなる製造方法であり、一般式IIIまたはIV中のWがホスフィノボランの場合、一般式IまたはIIの化合物が、工程(ii)の前または後で、(a)第三級または二級アミン、または(b)ポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と、少なくとも一種の溶媒の存在下で、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間、脱保護され;一般式IまたはIIの化合物が工程(i)の前に脱保護される場合、用いる反応剤が(c)非配位酸であってもよい(工程(i))製造方法に関する。
【0071】
工程(i)で用いる反応剤(a)は、DABCO(ジアザビシクロ[2.2.2]ノナン)、N−メチルピロリジン、モルホリンまたはジエチルアミンであることが好ましい。用いる反応剤(b)は、Sayalero et al. Synlett、2006,2585に記載のように、N−メチルピペリジノポリスチレンであることが好ましい。用いる反応剤(c)は、メタンスルホン酸または4フッ化ホウ酸であることが好ましい。
【0072】
工程(i)で用いる溶媒は、好ましくは、安定な溶媒、または安定な溶媒の混合物であり、例えばエーテル系溶媒、ハロゲン化溶媒または芳香族溶媒であり、具体的にはTHFやジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、トルエン、ヘキサン、クロロベンゼン、クロロホルムであり、好ましくはTHF、ジエチルエーテル、クロロベンゼン、クロロホルムである。
【0073】
工程(i)の反応温度は、好ましくは0℃〜80℃であり、特に10℃〜50℃である。
【0074】
工程(i)の反応時間は、通常5〜100時間であり、好ましくは10〜80時間である。一般的な情報が、例えば、(a) Imamoto, T.; Kusumoto, T.; Suzuki, N.; Sato, K. J. Am. Chem. Soc. 1985, 107, 5301; (b) Imamoto, T.; Oshiki, T.; Onozawa, T.; Kusumoto, T.; Sato, K. J. Am. Chem. Soc. 1990, 112, 5244; (c) Stoop, R. M.; Mezzetti, A. Organometallics 1998, 17, 668−675; (d) Yang, H.; Lugan, N.; Mathieu, R. Organometallics 1997, 16, 2089−2095; (e) Stoop, R. M.; Bauer, C; Setz, P.; Worle, M.; Wong, T. Y. H.; Mezzetti, A. Organometallics 1999, 18, 5691−5700; (f) Maienza, F.; Spindier, F.; Thommen, M.; Pugin, B.; Malan, C; Mezzetti, A. J. Org. Chem. 2002, 67, 5239−5249; (g) Brisset, H.; Gourdel, Y.; Pellon, P.; Le Corre, M. Tetrahedron Lett. 1993, 34, 4523; (h) Tsuruta, H.; Imamoto, T. Synlett 2001, 999−1002; (i) McKinstry, L; Livinghouse, T. Tetrahedron Lett. 1994, 35, 9319; (j) McKinstry, L; Livinghouse, T. Tetrahedron Lett. 1994, 50, 6145に見出される。
【0075】
あるいは、本方法を、ポリマーに結合している反応剤で行うことができる。この方法に関する一般的な情報が、当業界の熟練者により、Sayalero, S; Pericas, M.A. Synlett 2006, 2585−2588に見出される。
【0076】
工程(ii)では、当業界の熟練者には公知で、好ましくはpKaが少なくとも14である典型的な強塩基が使用される。例えば、KOt−BuやKOEt、KOMe、KOH、NaOt−Bu、NaOEt、NaOMe、NaOH、LiOH、LiOtBu、LIOMeが、特にKOt−BuやKOEt、KOMe、NaOt−Bu、NaOEt、NaOMeが用いられる。
【0077】
工程(ii)では、当業界の熟練者には既知のすべてのエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒が使用可能であり、例えばTHFやジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、トルエンまたはこれらの混合物が使用可能である。
【0078】
工程(ii)の反応時間は、通常1分〜10時間であり、好ましくは5分〜5時間、特に10分〜1時間である。
【0079】
工程(ii)の反応温度は、好ましくは−60〜40℃であり、特に−20〜30℃である。
【0080】
本発明はまた、配位子として一般式VまたはVIの化合物を含む遷移金属錯体を提供する。
【0081】
これらの遷移金属錯体は、一般式VIIまたはVIIIに相当する。
【0082】
【化17】

【0083】
用いる遷移金属(M)は、好ましくは8〜11族の金属であり、特にRu、Fe、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、CuあるいはAuであり、より好ましくはRu、Rh、Ir、NiあるいはPdである。
【0084】
Xは、他の、場合のよっては異なる配位子であり、好ましくはcod(シクロオクタジエン)やノルボルナジエン、Cl、Br、I、CO、アリル、ベンジル、Cp(シクロペンタジエニル)、PCy3、PPh3、MeCN、PhCN、dba(ジベンジリデンアセトン)、アセテート、CN、acac(アセチルアセトネート)、メチル、Hであり、特にcodやノルボルナジエン、Cl、CO、アリル、ベンジル、acac、PCy3、MeCN、メチル、Hである。nは0〜4で変動し、選ばれる遷移金属に依存する。
【0085】
R1〜R9基の定義及び選択は、一般式IIIの化合物と一般式IとIIの化合物の選択に相当する。
【0086】
本発明はまた、一般式IXとXの遷移金属錯体の製造方法であって、
【0087】
【化18】

【0088】
(式中、
R1とR2は、異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ水素とアルキル、アリールからなる群から選ばれる同じであるか異なる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、それぞれ同じであるか異なり、水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれ、
R8とR9はそれぞれ独立して、水素またはアルキルである)、
(a)一般式IIIまたはIVの光学活性配位子を、−80℃〜+120℃の温度で少なくとも一種の溶媒を用いて5分〜72時間、金属錯体と反応させ、
一般式IIIまたはIV中のWがホスフィノボランの場合、一般式IIIまたはIVの化合物が、工程(a)の前または後で、第三級または二級アミン、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒の存在下で、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間、脱保護する;
あるいは
(b)式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を、いずれの場合も少なくとも一種の強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用いて、−80℃〜+120℃の温度で5分〜72時間金属錯体と反応させて、その前またはその後に、これらを、第三級または二級アミンまたはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒と+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間反応させることからなる製造方法に関する。
【0089】
適当な金属錯体、特にその脱離する配位子の選択は、当業界の熟練者により簡単な試験で実施可能である。有用な金属錯体の例としては、[Ir(cod)Cl]2や、[Rh(cod)Cl]2、[Ir(ノルボルナジエン)Cl]2、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2、Rh(cod)acac、[RhCl(C81422、Rh(cod)(メタリル)、Rh(cod)2X、Rh(ノルボルナジエン)2X、Ir(cod)2X(ただし、X=BF4、ClO4、CF3SO3、CH3SO3、HSO4、B(フェニル)4、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4、PF6、SbCl6、AsF6、SbF6)、Rh(OAc)3、Rh(acac)(CO)2、Rh4(CO)12、RhCl(PPh33、[RhCl(CO)22、RuCp2、RuCp(CO)3、[RuI2(シメン)]2、[RuCl2(ベンゼン)]2、Ru(cod)(メタリル)2、RuCl2(PCy32CHPh、(PCy3)Cl2RuCl(OiPrO−Ph)、RuCl2(C21242)(C1510)(PCy3),[Pd(アリル)Cl]2、Pd2(dba)3、Pd(dba)2、Pd(PPh34、Pd(OAc)2、PdCl2(MeCN)2、PdCl2(PhCN)2,Pd(cod)ClMe、Pd(tmeda)Me2、Pt(cod)Me2、Pt(cod)Cl2、SnCl2、CuCl、CuCl2、CuCN、Cu(CF3SO32、[Ni(アリル)Cl]2、Ni(cod)2があげられる。[Ir(cod)Cl]2、[Rh(cod)Cl]2、[Ir(ノルボルナジエン)Cl]2、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2、Rh(cod)acac、Rh(OAc)3、Rh(cod)2X、Rh(ノルボルナジエン)2X、Ir(cod)2X(ただし、X=BF4、ClO4、CF3SO3、CH3SO3、HSO4、B(フェニル)4、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4、PF6、SbCl6、AsFe、SbF6)、Rh(acac)(CO)2、[RhCl(CO)22、RuCp2、RuCp(CO)3、[RuCl2(シメン)]2、RuCl2(PCy32CHPh、(PCy3)Cl2RuCl(OiPrO−Ph)、Ru(cod)(メタリル)2、[Pd(アリル)Cl]2、Pd2(dba)3、CuCN、Cu(CF3SO32、[Ni(アリル)Cl]2、Ni(cod)2が好ましく、特に[Ir(cod)Cl]2、[Rh(cod)Cl]2、Rh(cod)acac、Rh(cod)2X、Rh(ノルボルナジエン)2X、Ir(cod)2X(ただし、X=BF4、ClO4、CF3SO3、CH3SO3、HSO4、B(フェニル)4、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4、PF6、SbCl6、AsF6、SbF6)、Rh(acac)(CO)2、[RuCl2(シメン)]2、RuCl2(PCy32CHPh、Ru(cod)(メタリル)2、[Pd(アリル)Cl]2、Cu(CF3SO32、[Ni(アリル)Cl]2、Ni(cod)2が好ましい。
【0090】
オプション(a)では、反応温度は−80℃〜+120℃であることが好ましく、0℃〜+50℃がさらに好ましい。この反応時間は5分〜72時間がよく、1〜24時間が好ましい。用いる溶媒は、当業界の熟練者が通常用いるすべての溶媒であってよく、例えばTHFやジエチルエーテル、ヘキサン、ペンタン、CHCl3、CH2Cl2、トルエン、ベンゼン、DMSOまたはアセトニトリルがあげられ、THFやジエチルエーテル、CH2Cl2、トルエン、ヘキサンが好ましい。
【0091】
オプション(b)では、強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒が工程(ii)のものに相当し、また反応剤とそのプロセスパラメーターが工程(i)のものに相当する。オプション(b)では、反応温度は−80℃〜+120℃が好ましく、0℃〜+50℃がより好ましい。反応時間は5分〜72時間が好ましく、1〜24時間がより好ましい。
【0092】
本発明はまた、配位子として少なくとも一種の一般式VまたはVIの化合物をもつ遷移金属錯体の少なくとも一種を含む触媒に関する。
【0093】
好ましい遷移金属は8〜11族のものであり、特にRu、Fe、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag又はAuであり、より好ましくはRu、Rh、Ir、NiまたはPdである。
【0094】
以下の触媒が好ましい:(触媒例1)式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を、いずれの場合も少なくとも一種の強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用いて、−80℃〜+120℃の温度で5分〜72時間、金属錯体と反応させ、その前またはその後、これらを第三級または二級アミン、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒と、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間反応させて製造したもの
または
(触媒例2)一般式IIIまたはIVの光学活性な配位子を、−80℃〜+120℃の温度で少なくとも一種のエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用いて5分〜72時間、金属錯体と反応させて製造したもので、一般式IIIまたはIV中のWがホスフィノボランの場合、一般式IIIまたはIVの化合物が、第三級または二級アミン、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒の存在下で、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間、脱保護されたもの;
または
(触媒例3)式VII〜Xの遷移金属錯体を少なくとも一種の溶媒に溶解して製造したもの。
【0095】
触媒例(a)が特に好ましい。この触媒例は、均一触媒のインシチュ合成の可能性を与える。
【0096】
触媒例1と2の好ましい反応パラメーターは上述のとおりである。
【0097】
本発明はまた、(上述のように)配位子として少なくとも一種の一般式IIIまたはIVの化合物を含む遷移金属との錯体を少なくとも一種含む触媒の有機変換反応への利用を提供する。有機変換反応は、例えば水素化やヒドロホウ素化、ヒドロアミノ化、ヒドロアミド化、ヒドロアルコキシル化、ヒドロビニル化、ヒドロホルミル化、ヒドロカルボキシル化、ヒドロシアン化、ヒドロシリル化、カルボニル化、クロスカップリング、アリル置換、アルドール反応、オレフィンメタセシス、C−H活性化、重合を意味するものとする。
【0098】
不飽和有機化合物の不斉水素化のためには、その直接の前駆体が1−((tert−ブチル(メチル)ホスフィノボラニル)メチル)−3−メシチルイミダゾール−2−イリデンと、3−tert−ブチル−1−((tert−ブチル(メチル)ホスフィノボラニル)メチル)−イミダゾール−2−イリデン、3−アダマンチル−1−((tert−ブチル(メチル)ホスフィノボラニル)メチル)−イミダゾール−2−イリデン、1−((tert−ブチル(フェニル)ホスフィノボラニル)メチル)−3−メシチルイミダゾール−2−イリデン、3−tert−ブチル−1−((tert−ブチル)フェニル)ホスフィノボラニル)メチル)イミダゾール−2−イリデン、3−アダマンチル−1−((tert−ブチル(フェニル)ホスフィノボラニル)メチル)イミダゾール−2−イリデンからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を配位子としてもつ遷移金属錯体を含む触媒を使用することが特に好ましい。
【0099】
従って、本発明は、非常に安価で、効率が先行技術にほぼ同等である配位子を提供することができる。
【0100】
特に有利なのは、強固なカルベン単位を含む、異なるエナンチオマー用均一触媒を製造する可能性があることである。
【実施例】
【0101】
1)式Iのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物の合成
1.1)(Rp)−及び(Sp)−3−メシチル−1−[(tert−ブチル(フェニル)ホスフィノ)メチル]−イミダゾリデンの合成
1.1.1)N−tert−ブチルイミダゾール(1)とN−メシチルイミダゾール(2)
【0102】
【化19】

【0103】
N−tert−ブチルイミダゾール(1)とN−メシチルイミダゾール(2)は、文献[A. J. Arduengo, III et al. US Patent, No. US 6,177,575 B1]. の方法で合成した。
【0104】
1.1.2) rac−P(BH3)(H)(Ph)(t−Bu)
rac−P(BH3)(H)(Ph)(t−Bu)は、文献[Imamoto, T.; Oshiki, T.; Onozawa, T.; Kusumoto, T.; Sato, K. J. Am. Chem. Soc. 1990, 112, 5244]の方法で合成した。
【0105】
1.1.3)3−(ハロメチル)−1−メシチル−1H−イミダゾール−3−イウムクロリド/ヨージド
【0106】
【化20】

【0107】
CH2ICl(10ml、137mmol)に溶解したメシチルイミダゾール(530mg、2.85mmol)を40℃で3日間攪拌した。この混合物を減圧下で濃縮した。残渣を1H−NMR(CDCl3)で分析したところ、9(85%)と10(15%)の混合物であった。この白色固体をEt2Oで洗浄し(3×5ml)、CHCl3(5ml)中に懸濁し、ガラスフィルターでろ過した。388mg(38%収率)の白色粉末が得られた。NMRと元素分析から、生成物は、クロロメチルメチルイミダゾリウム塩とヨードメチルイミダゾリウム塩のおよそ1:1混合物であった。
【0108】
131622(9−I)としての計算値:C,34.39;H,3.55;N,6.17。
131622(9−Cl)としての計算値:C,43.06;H,4.45;N,7.72。
測定値:C,38.46;H,4.00;N,6.84。
あるいは、9と10の粗製混合物をカラムクロマトグラフィーで精製できる(3:1アセトン:Et2O;Rf=0.31)。
9−1.1−NMR(CDCl3):10.30(1H、イミド),8.11(m、1H、イミド),7.23(m、1H、イミド),7.03(2H、Ar),6.72(2H、CH2),2.36(3H、Me),2.14(3H、Me),2.12(3H、Me)ppm。
元素分析:C1316I2N2(9−I)としての計算値:C,34.39;H,3.55;N,6.17。
実測値:C、34.82;H、3.61;N、6.21。
【0109】
1.1.4)1−((tert−ブチル(フェニル)ホスフィノボラニル)メチル)−3−メシチル−1H−イミダゾール−3−イウムヨージド(8)
【0110】
【化21】

【0111】
アルゴン下でラセミ体の(BH3)PH(Ph)(t−Bu)(498mg、3mmol)を、(−)−スパルテイン(914mg、3.9mmol)のEt2O(50ml)溶液に加えた。混合物が−78℃に冷却された後、n−BuLi(トルエン中2.6M、1.2ml、3mmol)を注射器から投与した。この反応混合物を室温まで暖め、この温度で1時間攪拌した。この混合物をもう一度−78℃に冷却後、アルゴン下で、9−I(1.09g、2.4mmol)のTHF(50ml)溶液を加えた。この反応混合物をゆっくりと−20℃まで暖め、この温度で16時間攪拌した。その後、この混合物を5%硫酸水液(60ml)で洗い、水相をCH2Cl2で抽出し(3×50ml)、有機相を集めて水(50ml)と飽和塩化ナトリウム溶液(50ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、減圧下で濃縮して、850mg(71%収率)の白色固体を得た。
【0112】
1H−NMR(CDCl3):δ9.53(1H、イミド),8.13−8.05(m、2H),7.74(1H),7.47(m、3H)、6.96(1H、Ar)、6.86(1H、Ar)、6.82(1H、Ar)、6.59(dd、J=14.10、1H、CH2)、5.25(d、J=14、1H、CH2)、2.21(3H、Me)、1.92(3H、Me)、1.54(3H、Me)、1.21(d、JP-H=14,9H、t−Bu)。
13C{1H}NMR(CDCl3):δ141.4(quat.)、138.2、134.8(d、JC-P=10)、134.1(d、JC-P=19、quat.)、132.5(d、JC-P=3)、130.2(quat)、129.7(d、JC-P=14)、129.1(d、JC-P=10)、124.7、122.2(quat)、121.8,121.2(quat.)、42.7(d、J=31、P−CH2)、30.5(d、JC-P=31、P−CMe3)、25.8(d、JC-P=3、CMe3)、21.0(Me)、17.6(Me)、16.7(Me)。
31P−NMR(CDCl3):δ37.4(ブロード)ppm。
元素分析、C2333BIN2Pとしての計算値:C、54.57;H、6.57;N、5.53。
実測値:C、56.72;H、6.89;N、5.75。
HRMS(ESI)C2333BN2Pとしてのm/z計算値(BH3−M+):379.2473、実測値:379.2468。
HRMS(ESI)C23302Pとしてのm/z計算値(M+):365.2141、実測値:365.2140。
【0113】
1.1.5)ボランで保護したフリーカルベン(11)とフリー配位子(1)の製造
【0114】
【化22】

【0115】
11の合成:
KOt−Bu(7mg、0.062mmol)のTHF−d8(0.5ml)溶液に、8(25.3mg、0.05mmol)を固体として加えた。直ちにスミレ色溶液の生成が観測された。この反応を1H及び31P−NMR(THF−d8)スペクトロスコピーで追跡した。この反応は3分後には終了していた。
【0116】
1H−NMRのいくつかの(THF−d8)シグナル:δ8.01−7.91(m、2H、Ar)、7.50−7.38(m、3H、Ar)、7.34(d、J=2,1H、カルベン主鎖)、6.89(2H、Ar)、6.79(d、J=2,1H、カルベン主鎖)、5.23(dd、J=14.2、1H、P−CH2カルベン)、5.08(dd、J=14,6、1H、P−CH2カルベン)、2.28(3H、Me)、1.97(ブロード、3H、Me)、1.19(d、J=14,9H、CMe3)。
13C{1H}NMRのいくつかの(THF−d8)シグナル:δ229.1、137.9、135.9、135.5(d、J=8)、132.3(d、J=3)、129.4、129.0(d、J=10)、126.7、125.7、121.9、121.6、45.0(d、J=34)、30.7(d、J=29)、21.2、18.2。
31P−NMR(THF−d8):30.5(m、P−BH3)ppm。
【0117】
1の合成:
このようにして得た溶液に、DABCO(5.6mg、0.05mmol)を固体として加えた。この反応を、1H及び31P−NMR(THF−d8)スペクトロスコピーで追跡した。3時間後に前駆体11のシグナルに加えて1のシグナルが認められた(比率1:2)。24時間後にはこの比率は2:1であった。48時間後にはこの比率が7:1であった。同様に、約20%の副生成物が認められた。
【0118】
1H−NMRのいくつかの(THF−d8)シグナルs:δ7.67−7.59(m、2H、Ar)、7.36−7.33(m、3H、Ar)、7.25(d、J=2、1H、カルベン主鎖)、6.93(2H、Ar)、6.82(d、J=2、1H、カルベン主鎖)、5.04(dd、J=14.6、1H、P−CH2カルベン)、4.76(dd、J=14.2、1H、P−CH2カルベン)、2.27(3H、Me)、1.91(3H、Me)、1.04(d、J=12、9H、CMe3)。
31P−NMR(THF−d8):1.4ppm。
【0119】
1.1.6)イミダゾリウムホスフィン(6)−Iと(6)−Iを経由するフリー配位子(1)の製造
【0120】
【化23】

【0121】
6−1の合成:
DABCO(5.6mg、0.05mmol)のTHF−d8(0.5ml)溶液に、8(25.3mg、0.05mmol)を固体として加え、この混合物をNMRチューブに入れ、反応の進行を1H及び31P−NMRスペクトロスコピーで追跡した。24時間後では、この混合物は88%の6−Iを含んでいた。さらにDABCO(1.7mg、0.015mmol)を添加後、混合物をさらに2日間攪拌した。31P−NMRスペクトロスコピーでは、8に由来するいずれのシグナルも認められなかった。
【0122】
1H−NMR(THF−d8)シグナルs:δ10.51(1H、イミド)、8.27(1H、イミド)、8.04−7.96(m、2H、Ar)、7.54(1H、イミド)、7.39−7.37(m、3H、Ar)、7.02−6.99(m、2H、Ar)、6.14(d、J=14、1H、P−CH2−イミド)、5.57(dd、J=14.12、1H、P−CH2−イミド)、2.29(3H、Me)、2.00(3H、Me)、1.78(3H、Me)、1.12(d、J=12、9H、CMe3)。
31P{1H}NMR(THF−d8):11.2ppm。
【0123】
1の合成1:
DABCO(92.2mg、0.821mmol)のTHF(1ml)溶液を、8(320mg、0.632mmol)のTHF(20ml)懸濁液に加えた。3日間の反応後、31P−NMRスペクトロスコピーで出発原料に由来するシグナルがいずれも認められなかった。次いで、KOt−Bu(78mg、0.695mmol)を固体として加え、溶媒を減圧下で除き、残渣をペンタンで抽出した。セライトで濾過後、溶媒を減圧下で除き、残渣を1としてNMRスペクトロスコピーで分析した。
【0124】
1H−NMR(THF−d8):7.67−7.59(m、2H、Ar)、7.36−7.33(m、3H、Ar)、7.25(d、J=2,1H、カルベン主鎖)、6.88(2H、Ar)、6.82(d、J=2、1H、カルベン主鎖)、5.04(dd、J=14.6、1H、P−CH2−イリデン)、4.76(dd、J=14.4、1H、P−CH2−イリデン)、2.27(3H、Me)、1.91(3H、Me)、1.11(3H、Me)、1.04(d、J=12、9H、CMe3)。
31P{1H}NMR(THF−d8):1.4。
1H−NMR(C66):67.64−7.56(m、2H、Ar)、7.20−7.15(m、3H、Ar)、7.10(d、J=2、1H、カルベン主鎖)、6.79(2H、Ar)、6.40(d、J=2、1H、カルベン主鎖)、5.01(dd、J=14.6、1H、P−CH2−イリデン)、4.72(dd、J=14.2、1H、P−CH2−イリデン)、2.51(3H、Me)、2.16(3H、Me)、1.31(3H、Me)、1.04(d、J=12、9H、CMe3)。
13C{1H}NMR(C6D6):δ215.5(s、NCN)、139.3(quat)、137.5(quat)、135.4(d、JC-P=20、Ar)、134.7(d、JC-P=19、quat)、129.8、129.4、128.6(d、JC-P=8)、121.5、119.5(d、JC-P=8)、46.5(d、JC-P=15、CH2)、32.4(CH3)、30.1(d、JC-P=15、P−Cquat)、27.9(d、JC-P=14、CH3)、21.4(CH3)、18.4(CH3)。
31P{1H}NMR(C66):δ1.7ppm。
【0125】
2)式IXとXの遷移金属錯体の合成
2.1)[Pd(28)Cl2](31)の合成
【0126】
【化24】

【0127】
0.1mmolの配位子28をアルゴンガス雰囲気下で5mlのTHFに溶解し、カニューレで0.1mmolの[Pd(cod)Cl2]の5mlのTHF懸濁液中に加えた。この混合物を室温で一日攪拌し、次いで濃縮乾固させた。得られた黄色の固体をペンタンで洗って過剰のcodとカルベンを除き、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0128】
収率:50mg、91%;黄色の結晶性の固体;
31P−NMR(CDCl3)、δP=66.1。
13C−NMR(CDCl3)、δC(JC,P)、Hz)17.7(s、CH3)、18.6(s、CH3)、21.2(s、CH3)、27.0(d、J=3.5、PC(CH33)、31.2(d、J=10.5、PC(CH33)、45.7(d、J=33.8、PCH2N)、138.8−125.5(CHIm+CAr)、162.4(s、CIm)。
1H−NMR(CDCl3)、δH(JH,HとJH,P)、Hz)、0.96(d、J=6.6,9H;PtBu)、1.39(s、3H;Me)、1.70(s、3H;Me)、2.02(s、3H;Me)、4.78(d、J=14.8、1H;PCH2N)、5.41(d、J=14.5、1H;PCH2N)、7.19(s、2H;ChAr)、7.25−7.37(m、5H;CHIm+CHAr)、8.09(m、2H;CHAr)。
MS(ESI):m/z(%):505(100)[M−Cl]+
HRMS(TOF MS ES):m/z計算値:505.0786(C23292PPdCl)。
m/z測定値:505.0778。
【0129】
2.2)[Pt(28)Cl2](32)の合成
【0130】
【化25】

【0131】
0.1mmolの配位子28をアルゴンガス雰囲気下で5mlのTHFに溶解し、カニューレで、0.1mmolの[Pt(cod)Cl2]の5mlTHF懸濁液に移した。この混合物を室温で一日攪拌し、次いで濃縮乾固させた。得られた黄色の固体をペンタンで洗って過剰のcodとカルベンを除き、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0132】
収率:55mg、88%;黄色の結晶性の固体;
31P−NMR(CDCl3)、δP(JP,Pt)、Hz)46.1(s+sat、J=3651)。
13C−NMR(CDCl3)、δC(JC,PとJC,Pt)、Hz)、17.3(s、CH3)、18.4(s、CH3)、20.9(s、CH3)、26.6(d、J=2.6、J=28.1、PC(CH33)、29.7(d、J=3.5、J=18.1、PC(CH33)、45.3(d、J=40.2(PCH2N)、141.8−124.8(CHIm+CAr)、160.5(s、CIm)。
1H−NMR(CDCl3)、δH(JH,HとJH,P)、Hz、1.32(d、J=16.9,9H;PtBu)、1.58(s、3H;Me)、2.06(s、3H;Me)、2.22(s、3H;Me)、4.63(m、2H;PCH2N)、7.11−8.13(m、9H;CHIm+CHAr)。
MS(ESI):m/z(%):595(100)[M−Cl]+
HRMS(TOF MS ES):m/z計算値:594.1399(C23292PPTCl)。
m/z測定値:594.0505。
【0133】
2.3)[Ni(28)(アリル)]Cl(33)の合成
【0134】
【化26】

【0135】
0.075g(0.28mmol)の[Ni(アリル)Cl]2と0.212g(0.58mmol)の配位子28をともに評量してシュレンクチューブに入れ、撹拌下で15mlのヘキサンと混合した。室温で3時間攪拌後、沈殿した錯体を濾別し、三回10mlのペンタンで洗浄し、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0136】
収率:0.227g、81%;黄色の結晶性の固体;
31P−NMR(CDCl3)、δP=74.3(50%)、72.4(50%)。
MS(ESI):m/z(%):463(100)[M−Cl]+
HRMS(TOF MS ES):m/z計算値:463.1807(C26342PNi)。
m/s測定値:463.0682。
【0137】
2.4)[Ni(28)アリル]B(Arf4(34)の合成
【0138】
【化27】

【0139】
55mg(0.11mmol)の錯体33と102mg(0.12mmol)のNaB(Arf4をともに評量してシュレンクチューブに入れ、−78℃に冷却した。撹拌下で、同温度に冷却した10mlのジエチルエーテルをカニューレでこの混合物に移し、混合物を攪拌下でゆっくりと室温まで暖めた。この溶液を濾過し、減圧下で濃縮乾固した。
【0140】
収率:0.105g、72%;黄色の結晶性の固体;
31P−NMR(CDCl3)、δP=78.8(50%)、77.0(50%)。
13C−NMR(CDCl3)、δC(JC,P)、Hz)17.2(s、CH3)、17.4(s、CH3)、21.1(s、CH3)、26.7(d、J=6.0、PC(CH33)、33.0(s、PC(CH33)、46.4(d、J=27.2、PCH2N)、56.9(d、J=33.4、CH*2,allyl)、67.5(s、CH2,allyl)、114.6(d、J=18.1、CHallyl)、140.9−117.7(CHIm+CAr)、160.4(s、CAr)、161.4(s、CAr)、161.5(s、CIm)、162.4(s、CAr)、163.3(s、CAr)。
1H−NMR(CDCl3)、δH(JH,HとJH,P)、Hz)、1.08(d、J=15.8,9H;PtBu)、1.53(s、3H;Me)、1.82(s、3H;Me)、1.91(s、3H;Me)、3.19(m、2H;CH2,allyl)、4.22(m、2H;CH2,allyl)、4.73(m、2H;PCH2N)、6.93(bs、1H;CHallyl)、7.48−7.67(m、12H;CHIm+CHAr)。
MS(ESI):m/z(%):463(100)[M−BARF]+
【0141】
3)触媒としての利用
3.1)[Ni(28)ally]]B(Arf4(34)での1−ヘキセンのオリゴマー化
【0142】
【化28】

【0143】
シュレンクチューブ中で2mg(1.5×10-5mol)の[Ni(28)アリル]B(Arf4(34)を50mlのトルエンと5mlの1−ヘキセンと混合した。この混合物を50℃で一日攪拌し、オリゴマーをGC−MSで同定した。二量体と三量体が同定された。
【0144】
3.2)エチレンのオリゴマー化
【0145】
【化29】

【0146】
触媒の[Ni(28)アリル]B(Arf4(34)(2mg、1.5×10-6mol)を評量してグローブボックス中のオートクレーブに入れた。50mlのトルエンを加えた。次いでこのオートクレーブを圧力装置に連結し、エチレンで繰り返しパージして所望の温度と圧力で攪拌した。所望の反応時間後オリゴマー化を停止し、オートクレーブを放圧した。得られた溶液をGC−MS分析で分析した。12時間後のオリゴマー分布は2時間後の分布と同じであった。


【0147】
3.3)プロピレンのオリゴマー化
触媒の[Ni(28)アリル]B(Arf4(34)(2mg、1.5×10-6mol)を評量してグローブボックス中のオートクレーブに入れた。50mlのトルエンを加えた。次いでこのオートクレーブを圧力装置に連結し、プロピレンで繰り返しパージして所望の温度と圧力で攪拌した。所望の反応時間後、オリゴマー化を停止し、オートクレーブを放圧した。得られた溶液をGC−MS分析で分析した。反応2時間後では二量体のみが同定された。反応24時間後では、n=3〜7のオリゴマーが同定された。
【0148】
3.4)α−アセトアミドアクリル酸メチルの水素化
【0149】
【化30】

【0150】
S/Rh=基質/ロジウム錯体比率[mol/mol];
t=時刻;
L/[Rh(cod)2]BF4=用いたNHCP配位子(L)と用いた金属錯体の比率;
ee=エナンチオマー過剰;
ee[%]=(エナンチオマー1−エナンチオマー2)/(エナンチオマー1+エナンチオマー2);なお、エナンチオマー1とエナンチオマー2は、二つの可能なエナンチオマー生成物を表わす。
【0151】
グローブボックス中で、不活性条件下で、5ml(2×10-6mol)の配位子28のCH2Cl2ストック溶液を、5mlの2×10-6molの[Rh(cod)2]BF4のCH2Cl2溶液に添加した。この混合物を室温で5分間攪拌した。次いで1.0mmolのα−アセトアミドアクリル酸メチルの10mlのCH2Cl2溶液を加えた。
【0152】
オートクレーブを三回水素でパージし、溶解しているアルゴンを除いた。20℃で、30barのH2で20時間水素化を行った。触媒を除くため、溶液を短いシリカゲルカラムにかけてCH2Cl2で溶出させた。エナンチオマー過剰量をガスクロマトグラフィーで決定した。
【0153】
【表1】

【0154】
先行技術の配位子は、合成が複雑であり、特に二つの光学異性体の合成が複雑である。本発明の配位子は、両方の光学異性体の形で、簡単に同程度の効率で製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式IまたはII:
【化1】

[式中、
R1とR2は、異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ同じであるか異なり、水素とアルキル、アリールからなる群から選ばれる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、それぞれ同じであるか異なり、水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれる基であり、
R8とR9はそれぞれ独立して、水素またはアルキルであり、
Xは脱離基である。]
で表されるイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物。
【請求項2】
組合せ例αの場合、
R1がアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチルまたはイソプロピルであり、R2がメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルであり、
組合せ例βの場合、
R1がフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニルまたはアントラセニルであり、R2がアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソプロピルまたはメチルであり、R3とR4が、それぞれ独立して、水素、メチル、エチルまたはベンジルであり、R5が、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチル、メシチル、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、フルオレニルまたはアントラセニルであり、
R6とR7が、それぞれ独立して、水素または六員の芳香族環であり、R8とR9が、それぞれ独立して、水素、アルキルまたはアリールであり、Xが脱離基である
請求項1に記載のイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物。
【請求項3】
組合せ例αの場合、
R1がtert−ブチルであり、R2がメチルまたはエチルであり、
組合せ例βの場合、
R1がフェニルであり、
R2がtert−ブチルまたはメチルであり、
R3とR4がそれぞれ水素であり、
R5がメチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチルまたはメシチルであり、
R6とR7が、それぞれ独立して、水素または六員の芳香族環であり、
R8とR9が、それぞれ独立して、水素、フェニルまたは(CH鎖であり、
Xが脱離基である
請求項1に記載のイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物。
【請求項4】
一般式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物の製造方法であって、一種以上の溶媒を用いて少なくとも一種のリチウムイオン含有塩基の存在下で、−80℃〜40℃の温度で、一般式A:
【化2】

の化合物を、一般式BまたはC:
【化3】

の化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
一般式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物の製造方法であって、一種以上の溶媒を用いて少なくとも一種のリチウムイオン含有塩基と少なくとも一種のキラル助剤の存在下で、−80℃〜40℃の温度で、一般式A:
【化4】

の化合物を、一般式BまたはC:
【化5】

の化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
一般式Aの化合物を、−80℃〜0℃の温度で少なくとも一種の溶媒中で少なくとも一種のキラル助剤及び少なくとも一種の塩基と反応させ、10℃〜40℃の温度に加熱して0.5〜4時間維持し、次いで得られる混合物を−80℃〜40℃の温度で一般式BまたはCの化合物と反応させる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
一般式V:
【化6】

[式中、
R1とR2は、異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ同じであるか異なり、水素とアルキル、アリールからなる群から選ばれる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、それぞれ同じであるか異なり、水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれる基である。]
で表される光学活性な配位子。
【請求項8】
組合せ例αの場合、
R1がアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチルまたはイソプロピルであり、
R2がメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルであり、
組合せ例βの場合:
R1がフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニルあるいはアントラセニルであり、
R2がアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソプロピルまたはメチルであり、
R3とR4が、それぞれ独立して、水素、メチル、エチルまたはベンジルであり、
R5がメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチル、メシチル、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、フルオレニルまたはアントラセニルであり、
R6とR7が、それぞれ独立して、水素または六員の芳香族環である
請求項7に記載の光学活性配位子。
【請求項9】
組合せ例αの場合、
R1がtert−ブチルであり、
R2がメチルまたはエチルであり、
組合せ例βの場合、
R1がフェニルであり、R2がtert−ブチルまたはメチルであり、
R3とR4がそれぞれ水素であり、
R5がメチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチルまたはメシチルであり、
R6とR7が、それぞれ独立して、水素または六員の芳香族環である
請求項7に記載の光学活性配位子。
【請求項10】
一般式IまたはIIの化合物を、いずれの場合も少なくとも一種の強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒とを用いて−80〜+20℃の温度で一般式IIIまたはIVの化合物に転化する工程(工程(ii))を含む一般式IIIまたはIVの化合物の製造方法であって、一般式IIIまたはIVのWがリンである場合、一般式IまたはIIの化合物を、工程(ii)の前又は後に、(a)第三級または二級アミンの形または(b)ポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒との存在下に、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間脱保護する工程(工程(i))を含み;一般式IまたはIIの化合物が工程(i)の前に脱保護される場合、用いる反応剤が、(c)非配位酸であってもよいことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
配位子として、少なくとも一種の一般式VまたはVI:
【化7】

[式中、
R1とR2は、異なる基であり、アルキルとアルキルからなる群から選ばれる(組合せ例α)か、
R1とR2は異なる基であり、アルキルとアリールからなる群から選ばれ(組合せ例β)、
R3とR4は、それぞれ同じであるか異なり、水素、アルキル、アリールからなる群から選ばれる基であり、
R5はアルキルまたはアリールであり、
R6とR7は、それぞれ同じであるか異なり、水素とアルキル、アリール、六員の脂肪族環または芳香族環からなる群から選ばれる基であり、
R8とR9はそれぞれ独立して、水素またはアルキルである。]
で表される化合物を含む遷移金属錯体。
【請求項12】
組合せ例αの場合、
R1がアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチルまたはイソプロピルであり、
R2がメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルであり、
組合せ例βの場合:
R1がフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニルあるいはアントラセニルであり、
R2がアダマンチル、tert−ブチル、sec−ブチル、イソプロピルまたはメチルであり、
R3とR4が、それぞれ独立して、水素、メチル、エチルまたはベンジルであり、
R5がメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチル、メシチル、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、フルオレニルまたはアントラセニルであり、
R6とR7が、それぞれ独立して、水素または六員の芳香族環であり、
R8とR9が、それぞれ独立して、水素、アルキルまたはアリールである
請求項11に記載の遷移金属錯体。
【請求項13】
組合せ例αの場合、
R1がtert−ブチルであり、
R2がメチルまたはエチルであり、
組合せ例βの場合、
R1がフェニルであり、R2がtert−ブチルまたはメチルであり、
R3とR4がそれぞれ水素であり、
R5がメチル、イソプロピル、tert−ブチル、アダマンチルまたはメシチルであり、
R6とR7が、それぞれ独立して、水素または六員の芳香族環であり、
R8とR9が、それぞれ独立して、水素、フェニルまたは(CH鎖である。
請求項11に記載の遷移金属錯体。
【請求項14】
配位子として、1−(tert−ブチル(メチル)ホスフィノメチル)−3−メシチルイミダゾール−2−イリデン、3−tert−ブチル−1−(tert−ブチル(メチル)ホスフィノメチル)イミダゾール−2−イリデン、3−アダマンチル−1−(tert−ブチル−(メチル)ホスフィノメチル)イミダゾール−2−イリデン、1−(tert−ブチル(フェニル)ホスフィノ−メチル)−3−メシチルイミダゾール−2−イリデン、3−tert−ブチル−1−(tert−ブチル(フェニル)ホスフィノ−メチル)イミダゾール−2−イリデン、または3−アダマンチル−1−(tert−ブチル(フェニル)ホスフィノメチル)−イミダゾール−2−イリデンを含む
請求項11〜13のいずれか一項に記載の遷移金属錯体
【請求項15】
用いる遷移金属が、Ru、Fe、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、CuまたはAuである請求項11〜14のいずれか一項に記載の遷移金属錯体。
【請求項16】
(a)一般式IIIまたはIVの光学活性配位子を、少なくとも一種の溶媒を用い、−80℃〜+120℃の温度で5分〜72時間、金属錯体と反応させ(工程(a))、一般式IIIまたはIV中のWがホスフィノボランの場合、一般式IIIまたはIVの化合物を、工程(a)の前または後で、第三級または二級アミンの形、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒の存在下に、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間、脱保護する工程を含むか;
あるいは
(b)式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を、いずれの場合も少なくとも一種の強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用いて、−80℃〜+120℃の温度で5分〜72時間金属錯体と反応させて、その前またはその後に、これらを、第三級または二級アミンの形、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒と、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間反応させる工程(工程(b))を含む請求項11〜14のいずれか一項に記載の遷移金属錯体の製造方法。
【請求項17】
遷移金属を有する少なくとも一種の錯体を含む触媒であって、配位子として、請求項7〜9のいずれか一項に記載の少なくとも一種の一般式Vの化合物を含む触媒。
【請求項18】
請求項17に記載の触媒であって、
(組合せ例1)式IまたはIIのイミダゾール含有ホスフィノボラン化合物を、いずれの場合も少なくとも一種の強塩基とエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用い、−80℃〜+120℃の温度で5分〜72時間、金属錯体と反応させ、その前またはその後に、これらを、第三級または二級アミンの形、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒とに、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間反応させることにより、
または
(組合せ例2)一般式IIIまたはIVの光学活性な配位子を、少なくとも一種のエーテル系溶媒または他の非プロトン性溶媒を用い−80℃〜+120℃の温度で5分〜72時間、金属錯体と反応させ、一般式IIIまたはIV中のWがホスフィノボランの場合、一般式IIIまたはIVの化合物を、第三級または二級アミンの形、またはポリマーに結合しているアミンの形の少なくとも一種の反応剤と少なくとも一種の溶媒の存在下で、+20℃〜+100℃の温度で1〜200時間、脱保護することにより;
または
(組合せ例3)式VII〜Xの遷移金属錯体を少なくとも一種の溶媒に溶解することにより製造した触媒。
【請求項19】
請求項17または18に記載の触媒の有機変換反応への利用。
【請求項20】
請求項17または18に記載の触媒を、水素化、ヒドロホウ素化、ヒドロアミノ化、ヒドロアミド化、ヒドロアルコキシル化、ヒドロビニル化、ヒドロホルミル化、ヒドロカルボキシル化、ヒドロシアン化、ヒドロシリル化、カルボニル化、クロスカップリング、アリル置換、アルドール反応、オレフィンメタセシス、C−H活性化または重合に使用する方法。
【請求項21】
請求項11に記載の遷移金属錯体を含む触媒を不飽和有機化合物の不斉水素化に使用する方法。

【公表番号】特表2013−500949(P2013−500949A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522176(P2012−522176)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061075
【国際公開番号】WO2011/012687
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】