説明

インキュベータ

【課題】消費電力が小さく且つコンパクトなインキュベータを提供する。
【解決手段】インキュベータ40を、ヒータユニット17と、ベース板20と、トレイ3とから構成する。ベース板20上には第1レール21を設ける。トレイ3上には第2レール23を設ける。分析素子は、トレイ3の開口22にセットされる。分析素子は、下面を第1レール21に支持される。これにより、分析素子とベース板との間に空気層が形成される。ヒータユニット17は、下面を第2レール23に支持される。これにより、ヒータ27とトレイ3との間に空気層が形成される。トレイ3を後方に向かって押し込むと、ヒータユニット17が、第2レール23から外れ、分析素子に接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインキュベータに関し、さらに詳しくは検体が点着された分析素子を収容して恒温保持するインキュベータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、診察室、診療所、及びベッドサイドなどの患者に近いところで行われるポイントオブケア検査(Point Of Care Testing:POCT)が注目されてきている。ポイントオブケア検査は、病院での通常の検査に比べて、検査結果を即座に医師等が判断して迅速な処置を施すことができるという利点を有している。ポイントオブケア検査は、内部電源で駆動するとともに手軽に持ち運ぶことができるハンディタイプの生化学分析装置を用いて行うことが好ましい。
【0003】
従来のハンディタイプの生化学分析装置として、例えば、指先から採取した全血を用いて測定を行う血中アンモニア測定器や血糖測定器などが知られている。これらの測定器は重量が数十グラム〜数百グラムと軽量であり携帯性に優れている。しかしながら、測定項目が1種類に限られており、ポイントオブケア検査をより効率的に行うためには、多種類の測定項目を備えた生化学分析装置の開発が望まれる。
【0004】
乾式タイプの分析素子を用いた生化学分析装置においては、多種類の測定項目を備えるためには、分析素子を恒温保持するインキュベータを備えることが必要とされる。本出願人は、インキュベータを備えた持ち運びの可能な生化学分析装置として、富士ドライケム100(商品名)を開発し提供している。富士ドライケム100は、重量が約2キログラムであり、3種類の測定項目を備えており、外部電源で駆動する。しかし、富士ドライケム100は、外部電源を用いる必要がある上、測定項目の数が充分なレベルには達していない。また、本出願人は、インキュベータを備えた卓上タイプの生化学分析装置として、富士ドライケム3500(商品名)を開発し提供している。富士ドライケム3500は、重量が約20キログラムであり、27種類の生化学・免疫項目及び3種類の電解質検査項目を備えており、外部電源で駆動する。富士ドライケム3500は、多種類の測定項目を備えるものの、重量が大きくハンディタイプというレベルには達していない。
【0005】
多種類の測定項目を備えるとともに内部電源で駆動するハンディタイプの生化学分析装置を開発するためには、装置の消費電力をできる限り抑え、装置の構造をコンパクトにしなければならない。本発明では、生化学分析装置に備えられるインキュベータに着目している。
【0006】
上述した富士ドライケム100に関する技術は、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載されたインキュベータは、実際には、分析素子を収容したときに、分析素子の上面を温める上ヒータと、下面を温める下ヒータとの2つのヒータを備えている。これらの2つのヒータには、外部電源から電力が供給される。
【0007】
特許文献2に記載されたインキュベータは、分析素子を上方から押える押え部材と、この押え部材を上下移動可能に支持する上円盤部材と、この上円盤部材の上面に設けられたヒータとを有している。ヒータからの熱は、上円盤部材及び押え部材を介して分析素子に伝えられる。
【0008】
特許文献3に記載されたインキュベータは、分析素子の上面に接する上ブロックと、分析素子の下面に接するとともにヒータを備えた下ブロックと、を有している。下ブロックは上下方向に移動が可能である。分析素子が収容される前に、下ブロックが上ブロックに接触して上ブロックを予熱する。分析素子が収容されると、上ブロックと下ブロックとで分析素子を挟み込んで分析素子を加熱する。
【特許文献1】特開昭64−18047号公報
【特許文献2】特開2002−207044号公報
【特許文献3】特開2004−3962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたインキュベータでは、分析素子が両面から温められることから分析素子からの放熱を防ぐような構造としなくてもよい反面、ヒータを2つ備えなければならなかった。特許文献2に記載されたインキュベータでは、ヒータからの熱が、分析素子よりも体積が大きな上円盤部材及び押え部材を介して分析素子に伝えられるため、ヒータは、分析素子以外の部材も温めなければならず、熱効率が悪くなり、ヒータに熱容量の大きなものを用いなければならなかった。
【0010】
特許文献3に記載されたインキュベータでは、ヒータは、分析素子より体積が大きい上ブロック及び下ブロックを温めなければならず、この場合もヒータに熱容量の大きなものを用いなければならなかった。特許文献3の段落[0064]〜[0066]、図8において、凹部断熱層をもっていることが記載されているが、上下から分析素子を加熱している構造であるため、分析素子を押さえている上ブロックは放熱するので、その分必要以上の熱量を必要とし、ヒータの熱容量を大きくしなればならない。
【0011】
特許文献1〜3のような構成のインキュベータであると、ヒータの熱容量が大きくなるため消費電力が大きくなる。また、インキュベータが大型化する。これらの問題は、内部電源を用いるハンディタイプの生化学分析装置を開発する場合に、大きな障害となる。
【0012】
本発明は、消費電力が小さく且つコンパクトなインキュベータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、分析素子を収容して恒温保持するインキュベータに関し、前記分析素子の収容時に前記分析素子の一方の面に接触するヒータと、前記分析素子の他方の面に断熱層を形成する第1断熱層形成手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
前記第1断熱層形成手段は、前記分析素子の前記他方の面側に配された支持部材と、前記分析素子と前記支持部材との間に配されて前記分析素子を前記他方の面側から支持する第1レールとから構成され、前記分析素子と前記支持部材との間の空気層によって断熱層を形成することが好ましい。
【0015】
本発明は、分析素子を収容して恒温保持するインキュベータに関し、前記分析素子の収容時に前記分析素子の一方の面に接触する接触位置と、前記一方の面から離れる退避位置との間で変位が可能なヒータと、前記ヒータが前記退避位置にあるときに、前記ヒータの前記分析素子と接触する面に断熱層を形成する第2断熱層形成手段とを備えたことを特徴とする。ここで、前記分析素子の他方の面に断熱層を形成する第1断熱層形成手段を備えることが好ましい。
【0016】
前記第2断熱層形成手段は、前記分析素子の側部を保持して搬送する分析素子搬送部材と、この分析素子搬送部材上に設けられて前記ヒータを前記分析素子と接触する面側から支持する第2レールとから構成され、前記ヒータと前記分析素子搬送部材との間の空気層によって断熱層を形成し、前記ヒータは、前記分析素子搬送部材に向けて付勢されており、前記第2レールに支持される退避位置と、前記分析素子搬送部材の変位に伴って前記第2レール上から外れて前記分析素子の前記一方の面に押し付けられる接触位置との間を変位することが好ましい。
【0017】
また、前記第1断熱層形成手段は、前記分析素子の前記他方の面側に配された支持部材と、前記分析素子と前記支持部材との間に配されて前記分析素子を前記他方の面側から支持する第1レールとから構成され、前記分析素子と前記支持部材との間の空気層によって断熱層を形成しすることが好ましい。
【0018】
前記第1レール及び前記第2レールは、前記分析素子に接触する部分で、接触面積が小さくなるような形状とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインキュベータによれば、分析素子の収容時に分析素子の一方の面に接触するヒータと、分析素子の他方の面に断熱層を形成する第1断熱層形成手段とを備えたので、ヒータからの熱が直接且つ効率的に分析素子に伝達され、熱損失が少なくなるため、ヒータの熱容量を小さくすることができる。これにより、インキュベータの消費電力を小さくすることができる。また、分析素子の一方の面側にのみヒータを配するので、インキュベータを小型化することができる。
【0020】
分析素子の収容時に分析素子の一方の面に接触する接触位置と、一方の面から離れる退避位置との間で変位が可能なヒータと、ヒータが前記退避位置にあるときに、ヒータの分析素子と接触する面に断熱層を形成する第2断熱層形成手段とを備えたので、退避位置にあるヒータから熱が逃げにくくなる。したがって、ヒータの熱容量を小さくすることができ、インキュベータの消費電力を小さくすることができる。
【0021】
消費電力が小さく且つコンパクトなインキュベータを用いることにより、多種類の測定項目を備えるとともに内部電源で駆動するハンディタイプの生化学分析装置を開発することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ハンディタイプの生化学分析装置2を図1に示す。図1(A)は、トレイ(分析素子搬送部材)3を手動で手前方向に引き出して、乾式タイプの分析素子4をセットした状態の本分析装置2である。この状態で、分析素子4に検体の点着が行われる。
【0023】
図1(B)は、トレイ3を手動で奥方向に押し込み、検体が点着された分析素子4を収容した状態の本分析装置2である。収容された分析素子4は、所定時間恒温保持された後、呈色度合が光学的に測定される。なお、以降では、手前方向を前方向と呼び、奥方向を後方向と呼ぶことにする。
【0024】
図2に示すように、分析素子4は、多層フィルム5と、この多層フィルム5を保持する保持枠6とから構成される。保持枠6には、点着領域を制限する円孔6aが形成されている。多層フィルム5は、下から順に、透明支持体、反応層、反射層、展開層が積層されて構成されている。反応層は、ドライ状態の試薬によって構成されている。分析素子4に検体が点着されると、検体は、展開層で均一に展開されて反射層を通過した後、反応層の試薬と反応して発色する。発色濃度は、検体中の検査対象物質の量に比例したものとなる。検体は、全血、血清、血漿、尿等である。
【0025】
図3に示すように、本分析装置2は、装置本体10と、上カバー11と、操作装置13とから構成される。上カバー11は、装置本体10の上面に取り付けられる。操作装置13は、装置本体10にケーブル12を用いて接続される。操作装置13には、市販の携帯情報端末(PDA)が用いられる。操作装置13には、表示部14と操作部15とが設けられている。表示部14には、操作者に操作を促す旨の表示や、分析素子4に点着した検体の分析結果などが表示される。操作者は、表示部14の表示に基づいて操作部15を操作することにより、各種処理を行うことができる。なお、装置本体10と操作装置13とが無線LANを用いてデータを送受信するような構成としてもよい。
【0026】
図4に示すように、装置本体10は、本体基部16と、トレイ3と、ヒータユニット17と、このヒータユニット17を上下方向に移動可能にガイドするヒータユニットガイド板18と、から構成される。
【0027】
本体基部16には、ヒータ27の下方に設けられ上方へ光を照射して測光する測光部19、制御部24(図5参照)、内部電源(図5参照)等が組み込まれている。これらに関しては詳細を後述する。
【0028】
本体基部16は、トレイ3が載置されるベース板(支持部材)20を有している。このベース板20の上面には、2本の第1レール21が前後方向に延びるようにして設けられている。第1レール21の互いの間隔は、分析素子4の幅よりも少し狭くされている。第1レール21は、上端に向かうに従って、その断面の幅が狭くなるような形状とされている(図8参照)。ベース板20と第1レール21の材質には、ポリカーボネートを用いている。なお、ベース板20と第1レール21の材質には、熱伝導率の低い樹脂を用いればよく、例えば、アクリル、ABS樹脂、ポリスチレン等を用いてもよい。
【0029】
トレイ3の中央部には、分析素子4が嵌め込まれる開口22が形成されている。この開口22は、分析素子4のサイズよりも若干大きいサイズとされている。トレイ3をベース板20に取り付けると、開口22から、2本の第1レール21が露出する状態となる。分析素子4をトレイ3の開口22に嵌め込むと、分析素子4の側部がトレイ3に保持され、分析素子4の下面4aが第1レール21の上端に支持される状態となる(図8参照)。これにより、分析素子4とベース板20との間には空気層が形成され、この空気層が断熱層とされる。ベース板20と、第1レール21とによって、第1断熱層形成手段が構成される。また、第1レール21の上端の幅は狭くされているため、分析素子4と第1レール21との接触面積は非常に小さい。
【0030】
トレイ3の上面には、2本の第2レール23が前後方向に延びるようにして設けられている。第2レール23の互いの間隔は、ヒータ27の幅よりも少し狭くされている。第2レール23は、第1レール21同様、上端に向かうに従って、その断面の幅が狭くなるような形状とされている(図8参照)。
【0031】
ヒータユニット17は、ヒータ27と、断熱部材28と、ヒータカバー29と、2本のバネ30とから構成される。ヒータ27は、略直方体の形状とされている。ヒータ27の下面の面積は、分析素子4の上面4aの面積とほぼ同じ大きさとされている。断熱部材28は、略直方体の形状とされ、下面に溝28aが形成されている。この溝28aには、ヒータ27の上部が嵌め込まれて固定される。これにより、ヒータ27の側面及び上面が断熱される。ヒータカバー29は、断熱部材28の上面及び側面を覆うものであり、断熱部材28に固定される。ヒータカバー29の上面には、円柱状の2本の突起31が前後方向に並べられて設けられている。この突起31には、それぞれバネ30が装着される。
【0032】
ヒータ27の内部には、ヒータ温度検出センサ25が設けられている。このヒータ温度検出センサ25には、サーミスタが用いられる。なお、ヒータ温度検出センサ25には、サーミスタの替わりに、他の公知の温度センサを用いてもよい。
【0033】
ヒータユニットガイド板18は、ヒータユニット17を、本体基部16の中央上部で、上下方向に移動可能にガイドするものである。ヒータユニットガイド板18の中央部には、ヒータカバー29のサイズより少し大きいサイズの開口32が形成されている。この開口32は、周囲をガイド壁33〜36によって囲まれている。開口32の前方に設けられたガイド壁33の中央部には、ヒータカバー29の爪29aと係合する溝33aが設けられている。また、開口32の後方に設けられたガイド壁35の中央部には、ヒータカバー29の爪29bと係合する溝35bが設けられている。ヒータユニットガイド板18は、4本のネジ37によって、ベース板20に固定される。ヒータユニット17は、ヒータユニットガイド板18にガイドされるが、水平面上において前後方向と直交する方向に延びる軸線まわりに、多少回転させることが可能とされている。
【0034】
ヒータユニットガイド板18の上面の前部には、本分析装置2が用いられる環境における温度を検出する環境温度検出センサ26が設けられている。この環境温度検出センサ26には、サーミスタが用いられている。なお、環境温度検出センサ26には、サーミスタの替わりに、他の公知の温度センサを用いてもよい。
【0035】
装置本体10を組み立てた状態で、上カバー11(図3参照)を閉じると、バネ30が圧縮される。このバネ30の付勢力により、ヒータユニット17は、トレイ3の第2レール23に向けて押し付けられる状態となる。ヒータユニット17が、トレイ3の第2レール23上にある状態においては、ヒータ27とトレイ3との間に空気層が形成され、この空気層が断熱層とされる。トレイ3と第2レール23とによって、第2断熱層形成手段が構成される。また、第2レール23の上端は幅が狭くされているため、ヒータ27と第2レール23との接触面積は非常に小さい。
【0036】
ヒータユニット17と、トレイ3と、ベース板20とによって、インキュベータ40が構成されている。
【0037】
トレイ3の後部において、前面側からみて右側の端部には、右方へ突出する爪41が設けられている。この爪41は、トレイ3が前方に引き出されたときに、ベース板20に設けられたストッパ42に当接するものである。これにより、トレイ3がベース板20から前方に離脱するのを防ぐことができる。
【0038】
トレイ3の中央部において、開口22より後方には、円盤状の黒板43が設けられている。また、トレイ3の中央部において、黒板43より後方には、円盤状の白板44が設けられている。各色板43、44は、それぞれトレイ3の下面から嵌め込まれてトレイ3に固着されている。各色板43、44は、濃度基準板として用いられるものである。各色板43、44は、トレイ3が移動する際に、測光部19によって測光される。各色板43、44の測光のタイミングは、制御部24(図5参照)によって判断される。後述するように、制御部24では、各位置センサ52〜53からの検出信号に基づいてトレイ3の位置を把握しており、各色板43、44が測光部19の上方に位置するときのタイミングが分かるようにされている。
【0039】
トレイ3において、前面側からみて左側の端部には、上下に貫通する矩形状の位置検出孔45〜47が、前後方向に並べられるようにして設けられている。また、トレイ3の右側の端部には、上下に貫通するスリット状の位置検出孔48〜51が、前後方向に並べられるようにして設けられている。
【0040】
ベース板20において、前面側からみて左側の端部には、第1位置センサ52が設けられている。第1位置センサ52の前方には、第2位置センサ53が設けられている。また、ベース板20の右側の端部には、第3位置センサ54が設けられている。
【0041】
各位置センサ52〜54には、フォトインタラプタが用いられている。フォトインタラプタは、発光素子と受光素子とを有している。発光素子と受光素子は互いに対向するように設けられており、発光素子と受光素子との間には検出溝が形成されている。各位置センサ52〜54は、検出溝にトレイ3の端部が挿入されるようにして、ベース板20の上面に固定されている。各位置センサ52〜54は、受光素子が発光素子からの光を検出しないときにOFF信号を発し、光を検出したときにON信号を発する。
【0042】
すなわち、第1位置センサ52の検出溝に、トレイ3の各位置検出孔45〜47が位置するときに、第1位置センサ52はON信号を発する。第2位置センサ53も第1位置センサ52と同様である。また、第3位置センサ54の検出溝に、トレイ3の各位置検出孔48〜51が位置するときに、第3位置センサ54はON信号を発する。各位置センサ52〜54から発されたこれらの信号は、制御部24へ送られ、測光部19及びヒータ27の制御に用いられる。
【0043】
ここで、簡易のため、各位置センサ52〜54から制御部24へ送られる信号を、「(第1位置センサ52からの信号、第2位置センサ53からの信号、第3位置センサ54からの信号)」という形式でまとめて表現することとする。ON信号を「ON」で表し、OFF信号を「OFF」で表すこととする。
【0044】
トレイ3が所定の位置まで引き出され、「(OFF、OFF、ON)」となると、制御部24では、トレイ3に分析素子4がセットされるタイミングであると認識する。このときのトレイ3の位置を点着位置と呼ぶ。位置センサ54の検出溝には、位置検出孔48が位置する。「(ON、OFF、ON)」の状態が所定時間継続されると、制御部24では、白板44を測光するタイミングであると認識する。位置センサ54の検出溝には、位置検出孔49が位置する。このときのトレイ3の位置を白板測定位置と呼ぶ。「(OFF、ON、ON)」の状態が所定時間継続されると、制御部24では、黒板43を測光するタイミングであると認識する。位置センサ55の検出溝には、位置検出孔50が位置する。このときのトレイ3の位置を黒板測定位置と呼ぶ。「(ON、ON、ON)」となると、制御部24では、分析素子4が収容されており分析素子4を測光するタイミングであると認識する。このときのトレイ3の位置を測定位置と呼ぶ。なお、爪41がストッパ42に当接するまで前方に向かって引き出されたときのトレイ3の位置を排出位置と呼ぶ。
【0045】
トレイ3の上面には、前面側からみて右側の端部に、前後方向に並べられるようにして、4本の切り欠き溝60〜63が形成されている。各切り欠き溝60〜63は、断面が逆三角形の形状とされている。各切り欠き溝60〜63は、トレイ3が移動する際に、摺動片(図示なし)に順に係合する。摺動片は、ヒータユニットガイド板18の下面に、圧縮バネを介して固定されており、トレイ3の上面に向けて付勢されている。摺動片の下部の断面は逆三角形状とされている。トレイ3が移動すると、摺動片の下端がトレイ3の上面を摺動する。切り欠き溝60は点着時に、切り欠き溝61は白板測定時に、切り欠き溝62は黒板測定時に、切り欠き溝63は分析素子測定時に、それぞれ摺動片に係合する。これにより、操作者は、各処理が行われるときのトレイ3の位置を触覚により感じることができる。また、摺動片と各切り欠き溝60〜63を係合させることにより、トレイ3の位置が微調整される。これにより、簡易な構成により、大型自動生化学分析装置と同じように、トレイ3がどの処理位置にあるか明確に分かるようになっている。
【0046】
図5の本分析装置2の電気的構成図に示すように、制御部24には、操作装置13、各位置センサ52〜54、測光部19、環境温度検出センサ26、ヒータ温度検出センサ25、ヒータ27等が接続されている。測光部19は、LEDからなる投光器66とフォトダイオードからなる受光器67とを有し、投光器66は駆動部68を介して制御部24に制御されている。投光器66によって上方へ光が照射され、この照射光の散乱反射光の光量が受光器67によって測定されると、測光信号は制御部24を介して操作装置13へと送られ、光学濃度データとされる。ヒータ27は、駆動部69を介して制御部24に制御されている。制御部24は、各温度検出センサ25、26からの検出信号に基づいて加熱量を算出している。
【0047】
操作装置13には、測定した光学濃度データを基準光学濃度データと比較して較正する較正機能や、光学濃度データを検査対象物質濃度データに換算する換算機能等が備えられている。これらの機能は、各種検査対象物質毎に用意されている。これらの機能は、操作装置13に組み込まれたソフトウェアを入れ替えるだけで変更が可能である。
【0048】
本分析装置2に備えられる内部電源65は、電圧変換部64を介して制御部24に電力を供給するとともに、ヒータ27の駆動部69や投光器66の駆動部68に電力を供給する。内部電源65の電圧が低下して所定電圧より低くなったときには、操作装置13の表示部14に警告を表示する。なお、ランプを点灯させたり、ブザーから音声を発することにより、操作者に知らせてもよい。
【0049】
本実施形態の内部電源65には、市販の単三のニッケル水素電池(1.2V、1200mh)が4本直列につなげられて用いられる。また、ヒータ27には、容量が4.6Wのものが用いられている。ヒータ27の容量は特に限定されないが、1〜5Wのものを用いることが好ましい。なお、本出願人が既に開発し提供している富士ドライケム100(商品名)のヒータには、5V、1.7Wのものが用いられている。
【0050】
上記のニッケル水素電池を4本用いて、約21枚の分析素子の測定が可能である。この枚数は、1日(約8時間)の中で、電源をオンにして数枚の分析素子の測定を行った後に電源をオフにする工程を断続的に繰り返したときのものである。本分析装置2の立ち上がり時間は、25℃の環境下において約10分である。ニッケル水素電池の充電には、1〜2時間を要する。
【0051】
上記構成による作用について、図6のフローチャートに沿って説明する。本発明の本分析装置2は、手軽に持ち運ぶことができるとともに内部電源で駆動するため、自由な場所で手軽に使用することができる。
【0052】
装置本体10の電源スイッチをONにして操作装置13を装置本体10に接続すると、操作装置13の表示部14に、トレイ3を引き出す旨の指示が表示される。トレイ3を点着位置まで引き出すと、操作装置13の表示部14に、分析素子4をセットして検体を点着する旨の指示が表示される。また、ヒータ27の制御駆動がONにされる。ヒータ27は、分析素子4が収容されたときに分析素子4に接触し、分析素子4を目標温度に昇温させることができるような温度に加熱される。この温度は、環境温度検出センサ26からの検出値等に基づいて制御部24で算出される。
【0053】
図7は、トレイ3が各位置にあるときの、図4のVI−VI線に沿う切断面における断面図である。図8は、トレイ3が測定位置にあるときの、図4のVII−VII線に沿う切断面における断面図である。図7(A)に示すように、トレイ3が点着位置にあるときには、ヒータユニット17は、バネ30の付勢力によりトレイ3に押し付けられており、第2レール23上にある。このときのヒータユニット17の位置を退避位置と呼ぶ。ヒータユニット17が退避位置にあるときには、ヒータ27とトレイ3との間に空気層が形成されるとともに、ヒータ27と第2レール23との接触面積は非常に狭いものとされる。また、ヒータ27は上面及び側面を断熱部材29に覆われる。これにより、ヒータ27から熱が逃げにくくなるため、ヒータ27は効率よく温まる。
【0054】
分析素子4をセットして検体を点着して、トレイ3を前述した白板測定位置まで押し込み、所定時間待つと白板44が測光部19によって側光される。次いで、トレイ3を前述した黒板測定位置まで押し込み、所定時間待つと黒板43が測光部19によって測光される。各測光信号は、制御部24を介して操作装置13へと送られ、基準光学濃度データとされる。操作装置13では、この基準光学濃度データを記憶する。
【0055】
図7(B)に示すように、黒板43が測光されるときには、ヒータユニット17の前部が第2レール23から外れる。ヒータユニット17の前部は前方のバネ30の付勢力によって下方に移動し、ヒータユニット17が少し傾く。
【0056】
図7(C)及び図8に示すように、トレイ3が測定位置に移動すると、ヒータユニット17の後部も第2レール23から外れる。ヒータユニット17は、前方及び後方のバネ30の付勢力によって、分析素子4の上面(一方の面)4aに押し当てられる。このときのヒータユニット17の位置を接触位置と呼ぶ。トレイ3が押し込まれ測定位置に移動すると、分析素子4が測光部19の上方に位置する。
【0057】
分析素子4が収容され、ヒータユニット17が接触位置に移動すると、ヒータ27の制御駆動が一旦OFFにされる。ヒータ27は分析素子4の目標温度より高い温度にされており、ヒータ27から分析素子4へ熱が直接に徐徐に伝えられる。ヒータ27は制御駆動がOFFにされているため、分析素子4の温度が不安定になることはない。また、分析素子4は第1レール21上にあり、分析素子4とベース板20との間に空気層が形成されるとともに、分析素子4と第1レール21との接触面積は非常に狭いものとされる。これにより、分析素子4の下面(他方の面)4bから熱が逃げにくくなるため、分析素子4は効率よく温められる。
【0058】
分析素子4が収容されて所定時間(例えば、60s)が経過すると、ヒータ27と分析素子4が目標温度で熱平衡状態となり、ヒータ27の制御駆動が再びONにされる。前記所定時間は、前もって測定されて制御部24に記憶されている時間である。ヒータ27が温調制御され、分析素子4が目標温度で一定時間保たれると、分析素子4の反応層が、検査対象物質の量に比例した濃度で発色する。
【0059】
目標温度を一定時間保った後、分析素子4が測光部19によって測光される。この測光信号は、制御部24を介して操作装置13へと送られ、光学濃度データとされる。操作装置13では、この光学濃度データを、上述した基準光学濃度データと比較して較正する。較正された光学濃度データは、操作装置13に備えられた換算機能により、検査対象物質濃度データに換算される。この検査対象物質濃度データは、分析結果として、操作装置13の表示部14に表示される。
【0060】
トレイ3を引き出して排出位置に移動させると、トレイ3の開口22が排出口56(図1参照)の上方に位置することとなる。これにより、トレイ3の開口22にセットされた分析素子4は、自重により下方へ落下し、排出口56(図1参照)から排出される。
【0061】
測定を継続する場合には、トレイ3を点着位置に移動させ、上述した動作を繰り返す。これらの動作を行う間、トレイ3が測定位置以外の位置にあれば、ヒータ27は退避位置にあり断熱されている。このため、トレイ3が手動で移動されても、その移動速度に関係なく、ヒータ27の温度を安定させておくことができる。測定を終了する場合には、トレイ3を押し込んで、電源スイッチをOFFにする。
【0062】
なお、上記実施形態の第1レール21に、図9に示す切り欠き溝21aを設けてもよい。切り欠き溝はこの形状の限られない。これにより、分析素子4が収容されたときに、分析素子4と第1レール21との接触面積がより小さくなり、分析素子4から熱が逃げにくくなる。また、上記実施形態の第2レール23に、図9に示す切り欠き溝23aを設けてもよい。切り欠き溝はこの形状に限られない。これにより、ヒータ27と第2レール23との接触面積がより小さくなり、ヒータ27から熱が逃げにくくなる。図9は、上記実施形態の図7に対応するものである。
【0063】
上記実施形態では、第1レール21をベース板20に設けたが、図10に示すように、第1レール72をトレイ70に設けてもよい。トレイ70は、ベース板71上を前後方向に移動する。図10は、上記実施形態の図8に対応するものである。
【0064】
上記実施形態では、第1レール72を設けて、分析素子4とベース板20との間に空気層を形成することによって、分析素子4の下面4bを断熱したが、分析素子4とベース板20との間に空気以外の断熱層、例えば、パックされた気体(酸素、窒素等)、非金属固体(羊毛、絹等)を配置することによって、分析素子4の下面4bを断熱することとしてもよい。
【0065】
また、第2レール23を設けて、ヒータ27とトレイ3との間に空気層を形成することによって、ヒータ27の下面を断熱したが、ヒータ27とトレイ3との間に空気以外の断熱層、例えば、パックされた気体(酸素、窒素等)、非金属固体(羊毛、絹等)を配置することによって、ヒータ27の下面を断熱することとしてもよい。
【0066】
上記実施形態では、ヒータをトレイの上方に配置したが、ヒータをトレイの下方に配置してもよい。この場合、ヒータを、その側面及び下面を断熱部材によって囲んだ状態で、ベース板に固定する。そして、トレイが押し込まれると、分析素子がヒータ上に位置し、分析素子の下面にヒータの上面が接触するようにする。なお、この場合には、ヒータ上での分析素子の位置を安定させるため、分析素子を下方向に付勢する付勢手段を設けることが好ましい。また、付勢手段及びヒータの中央部には穴を設け、下方に配置された測光部による分析素子の測光を可能にすることが必要となる。
【0067】
上記実施形態では、生化学分析装置の周囲の環境温度を、環境温度検出センサによって検出することとしたが、測定前の段階で、操作者が収容前の周囲の環境温度を測定し、この測定値を操作装置から入力するようにしてもよい。
【0068】
上記実施形態では、制御部に所定時間(例えば、60s)を記憶させておき、分析素子が収容されてからこの所定時間が経過すると、ヒータと分析素子が熱平衡状態になっていると判断したが、ヒータ温度検出センサによって検出された温度に基づいて熱平衡状態を判断してもよい。さらには、別途分析素子の温度を検出するセンサを設け、このセンサに検出された温度に基づいて熱平衡状態を判断してもよい。
【0069】
上記実施形態では、トレイが白板測定位置及び黒板測定位置で所定時間停止したときに白板及び黒板の測光を行ったが、トレイが白板測定位置及び黒板測定位置を通過した瞬間に白板及び黒板の測光を行ってもよい。この場合には、トレイを搬送中に停止させる必要がなくなる。この実施形態のフローチャートを図11に示す。
【0070】
上記実施形態では、インキュベータによって恒温保持する対象物として比色タイプの分析素子を用いたが、電極タイプの分析素子を用いてもよい。
【0071】
上記実施形態では、インキュベータは内部電源で駆動したが、外部電源を併用可能としてもよい。
【0072】
本発明のインキュベータは、ハンディタイプの生化学分析装置に用いると有利であるが、外部電源で駆動する生化学装置や、設置型の生化学分析装置にも用いることができる。また、本発明のインキュベータは、生化学分析装置に限らず、他の装置にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明のインキュベータを備えた生化学分析装置の外観斜視図である。
【図2】分析素子の外観斜視図である。
【図3】上カバーを外したときの生化学分析装置の外観斜視図である。
【図4】装置本体の分解斜視図である。
【図5】生化学分析装置の電気的構成図である。
【図6】各処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】インキュベータの動きを示す説明図である。
【図8】インキュベータの断面図である。
【図9】別の実施形態におけるインキュベータの断面図である。
【図10】別の実施形態におけるインキュベータの断面図である。
【図11】別の実施形態における各処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
2 生化学分析装置
3、70 トレイ
4 分析素子
4a 上面
4b 下面
17 ヒータユニット
20、71 ベース板
21、72 第1レール
23 第2レール
27 ヒータ
40 インキュベータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析素子を収容して恒温保持するインキュベータにおいて、
前記分析素子の収容時に前記分析素子の一方の面に接触するヒータと、
前記分析素子の他方の面に断熱層を形成する第1断熱層形成手段とを備えたことを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
分析素子を収容して恒温保持するインキュベータにおいて、
前記分析素子の収容時に前記分析素子の一方の面に接触する接触位置と、前記一方の面から離れる退避位置との間で変位が可能なヒータと、
前記ヒータが前記退避位置にあるときに、前記ヒータの前記分析素子と接触する面に断熱層を形成する第2断熱層形成手段とを備えたことを特徴とするインキュベータ。
【請求項3】
前記分析素子の他方の面に断熱層を形成する第1断熱層形成手段を備えたことを特徴とする請求項2記載のインキュベータ。
【請求項4】
前記第1断熱層形成手段は、前記分析素子の前記他方の面側に配された支持部材と、前記分析素子と前記支持部材との間に配されて前記分析素子を前記他方の面側から支持する第1レールとから構成され、前記分析素子と前記支持部材との間の空気層によって断熱層を形成することを特徴とする請求項1記載のインキュベータ。
【請求項5】
前記第2断熱層形成手段は、前記分析素子の側部を保持して搬送する分析素子搬送部材と、この分析素子搬送部材上に設けられて前記ヒータを前記分析素子と接触する面側から支持する第2レールとから構成され、前記ヒータと前記分析素子搬送部材との間の空気層によって断熱層を形成し、
前記ヒータは、前記分析素子搬送部材に向けて付勢されており、前記第2レールに支持される退避位置と、前記分析素子搬送部材の変位に伴って前記第2レール上から外れて前記分析素子の前記一方の面に押し付けられる接触位置との間を変位することを特徴とする請求項2記載のインキュベータ。
【請求項6】
前記第1断熱層形成手段は、前記分析素子の前記他方の面側に配された支持部材と、前記分析素子と前記支持部材との間に配されて前記分析素子を前記他方の面側から支持する第1レールとから構成され、前記分析素子と前記支持部材との間の空気層によって断熱層を形成し、
前記第2断熱層形成手段は、前記分析素子の側部を保持して搬送する分析素子搬送部材と、この分析素子搬送部材上に設けられて前記ヒータを前記分析素子と接触する面側から支持する第2レールとから構成され、前記ヒータと前記分析素子搬送部材との間の空気層によって断熱層を形成し、
前記ヒータは、前記分析素子搬送部材に向けて付勢されており、前記第2レールに支持される退避位置と、前記分析素子搬送部材の変位に伴って前記第2レール上から外れて前記分析素子の前記一方の面に押し付けられる接触位置との間を変位することを特徴とする請求項3記載のインキュベータ。
【請求項7】
前記第1レール及び前記第2レールは、前記分析素子に接触する部分で、接触面積が小さくなるような形状とされていることを特徴とする請求項6記載のインキュベータ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−126161(P2006−126161A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31598(P2005−31598)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】