説明

インクジェットヘッド及びインク室構成部材の製造方法

【課題】インクジェットヘッドが有するインク室構成部材において、製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室構成部材を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドにおいてインクを収容するインク室となる穴を有するインク室構成部材を、プレート113A〜113Cの積層体の熱拡散接合によって接合して形成するにあたり、前記プレートの短手方向に細長く開口する第一の長穴210と、長手方向の両端部において長手方向に細長く開口する第二の長穴221、222とを前記プレートに形成し、これらの長穴に位置決めピンを挿通されている前記プレートの積層体を形成し、位置決めされている状態で前記プレートを熱拡散接合によって接合してインク室構成部材を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット装置においてインクを吐出するインクジェットヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年インクジェット技術を用いて電子デバイスを製造する方法が注目を集めている。インクジェット技術による製造は、蒸着技術等に比べ、設備構成がシンプルで安価な製造が可能である。またインクジェット技術は直接パターニング技術であるため、蒸着技術におけるマスクが不要で大型化が可能である。例えば表示電子デバイスにおいては大画面への市場要求が高まり、インクジェット塗布による電子デバイス製造技術への期待は高まっている。
【0003】
以下、有機ELディスプレイを例に、塗布による製造技術について説明する。図12に有機ELディスプレイの構造を示す。
【0004】
図12の有機ELディスプレイは、基板1、陰極32、発光層301R、301G、301B、陽極33、隔壁31からなる。基板にはディスプレイを駆動するためのTFTが内蔵されているが、ここでは図示しない。また陰極の上層には封止膜やカラーフィルター等が適宜配置されるが、ここでは図示していない。
【0005】
有機ELディスプレイの場合、発光層としてRGBの3色に対応した3種類があり、図12ではそれぞれを301R、301G、301Bで表している。
【0006】
隔壁31は、次の製造工程の説明において述べるインクジェット塗布において各画素に塗布するインクのパターニングに使用される。隔壁としては、フッ素を含む樹脂が使用される。このため、隔壁は撥インク性を持っている。
【0007】
インクとは、有機ELの発光層材料を溶媒に溶かした溶液のことをいう。
有機ELの発光層材料としては、ポリフルオレン系、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系等の高分子材料が挙げられる。溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキシルベンゼン、アルコキシベンゼン、アルキルベンゼン等の単独又は混合溶媒が挙げられる。
【0008】
隔壁31が形成されているので、塗布されたインクは所望の画素領域にとどまり、混色することなく高品位なディスプレイを実現できる。このように構成されたデバイスは、陰極からの電子と陽極からの正孔とが発光層内で結合し発光することで、ディスプレイとしての機能を果たす。
【0009】
図13は、有機発光層の配置状態を示す有機ELディスプレイの平面図である。図13は、RGBともピクセル状にパターニングしてある例を示している。それぞれのピクセル(画素ともいう)を発光させることで、有機ELディスプレイがテレビ等の表示装置として機能する。このピクセルが形成されている領域を表示領域という。画素の幅及びピッチは50〜100μmと微細であるので、有機ELディスプレイの製造には、インクジェットのような精密塗布技術が必要となる。
【0010】
次に有機ELディスプレイの製造工程について説明する。
まず、フォトリソグラフィの技術を用いて基板上に陽極を作製する。
次にフォトリソグラフィの技術を用いて隔壁を作製する。
その後、インクジェット印刷法によりRGBの発光層のインクを塗布する。塗布されたインクは、塗布工程及び次の工程で乾燥され、発光層のパターンが形成される。
さらにその後、発光層の上にスパッタリング等の方法で陰極を形成する。
【0011】
以下インクジェット装置によるインクの塗布について説明する。
図14は、インクジェット装置(又は液滴吐出装置)の概観図である。
図14に示すように、インクジェット装置は、架台41と、その上に設置された基板搬送ステージ42と、基板搬送ステージ42に対向するインクジェットヘッド50とからなる。インクジェットヘッド50は、基板搬送ステージ42を跨ぐ門型のガントリー43に設置されている。
【0012】
塗布される基板1の大きさは、いわゆる第8世代のガラスではおよそ2m×2.5mである。
【0013】
インクジェットヘッド50は、例えば図1に示されるように、インクを吐出する複数のノズル100、ノズルに連通する収容部110、異なるノズルに対応する収容部110を隔てる隔壁111、インク室の一部をなすダイヤフラム112、ダイヤフラムを振動させる圧電素子130、隔壁を支える圧電部材140、圧電素子に電圧を印加する共通電極120、個別電極121、駆動回路122を有する。他に図示しないインクの導入口を有する。また、インクを循環する種類のインクジェットヘッドにおいては、図示しないインクの排出口を有する。圧電素子130と隔壁を支える圧電部材140は一つの圧電部材からダイシングによって分離されている。収容部110及び隔壁111は、インク室構成部材によって形成されている。
【0014】
このように構成されたインクジェットヘッドは、次のように動作する。共通電極120と、個別電極121の間に電圧を印加すると、圧電素子130が図1(a)の状態から図1(b)の状態に変形する。圧電素子130が変形すると、収容部110の容積が小さくなりインクに圧力を加えることができる。その圧力でインクが吐出する。
【0015】
次にインクジェット装置の塗布動作について説明する。
基板搬送ステージ42は、図14(a)から図14(b)のように移動する、この時、基板搬送ステージ42上に載置された基板1にむけて、インクジェットヘッド50からインクが吐出され、基板1の塗布領域44にインクが塗布される。基板搬送ステージ42の速度は20〜400mm/sである。またインクの吐出周波数は、1,000〜5,000Hzである。基板搬送ステージ42の位置が検出され、吐出タイミングが制御されることで、ピクセルパターンの塗布が行われる。
【0016】
ピクセルパターンの塗布を正確に行うために、ノズルから吐出される液滴の吐出角度バラツキを小さくする必要がある。一般的な吐出角度バラツキの最大許容値は10〜50mradである。
【0017】
ところが、前記プレートの積層によってインクジェットヘッドにおけるインク室構成部材を製造する際、収容部110を形成する穴の中心が合わないような位置ズレが発生すると、吐出角度のバラツキが発生する。このようなインク室を有するインクジェットヘッドを有機ELディスプレイの製造に用いると、有機ELパネルにおいて、混色等の不良を引き起こすことがある。今後、有機ELディスプレイの高精細化に伴い、吐出バラツキの抑制がさら重要になる。このため、インクジェットヘッドのインク室構成部材の製造の精度の向上が求められる。
【0018】
インクジェットヘッドにおけるインク室構成部材を前記プレートの積層体から構成する場合では、前記プレートを積層して組み立てる時の位置決めが重要である。このような位置決め用の技術としては、位置決め穴とピン使って、前記プレートの積層体における前記プレートの位置を決める方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0019】
図15は、特許文献1に示される前記プレートを示す平面図である。図15において、11はチャンバープレート(前記プレート)である。チャンバープレート11は、インクチャンバー12と位置決め用の穴13とを有する。チャンバープレート11にはシリコンウェハが用いられ、インクチャンバー12と位置決め用の穴13はエッチングにより形成されている。位置決め用の穴13は、平行四辺形の穴であり、位置決めピンとのクリアランスが2μm以下となる大きさを有している。インク室構成部材は、一番高精度を必要とするチャンバープレート11を基準に、積層するより精度の低い他の部品の穴とピンとのクリアランスを広くして組み立てられる。
【0020】
ところが、位置決め用の穴13の配置及び形状であると、前記プレートの製造時における位置を規定するためには、クリアランスを小さくする必要がある。このため、インク室構成部材の製造時の作業性及び歩留まりが低くなる。
【0021】
また、特許文献1ではチャンバープレートを積層する際に、接着剤を使用しているが、接着剤の厚みバラツキが組立精度を悪化させ、吐出バラツキを発生させることがある。接着剤による吐出バラツキを抑えるためには、前記プレートを、接着剤を使用しない熱拡散接合によって接合することが望ましい。
【0022】
熱拡散接合では、接合される各部材が熱膨張する。特許文献1のような従来の位置決め用の穴で前記プレートの位置を規定する場合では、各部材やピンの温度差による熱膨張の差によって、前記プレートがひずむという問題点があった。
【0023】
より詳しく説明すると、熱拡散接合の際に、1)前記プレートがひずみ、波打ってしまう、2)ピンと前記プレートの位置決め穴とが取外しの際、こじってしまいインク室構成部材がひずみ曲がってしまう、という問題があった。このようなインク室構成部材ではインクジェットヘッドではインクが漏れるので使用できない。
【0024】
このように、熱拡散接合でインク室を製造する場合には、前記プレート同士の位置のずれやひずみ、インク室とノズルとの位置のずれにより、インクジェットヘッドにおいて、液滴量が少なくなる、液滴が曲がって吐出されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2003−1831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、インクジェットヘッドが有するインク室構成部材において、製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室構成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上記目的を達成するために、インク室構成部材を構成する複数の前記プレートに、前記プレートの位置を決めるための位置決め用の穴の形状及び配置が特定された前記プレートを用いる、インクジェットヘッドを提供する。
【0028】
すなわち本発明は、以下のインクジェットヘッドを提供する。
[1] インクを吐出するノズルと、前記ノズルに連通しインクを収容するインク室と、前記インク室内に圧力を加える加圧装置と、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク室は、インク室用の穴を有する複数の細長なプレートが積み重ねられて構成され、
前記複数のプレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するように、複数の前記プレートが前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である、インクジェットヘッド。
[2] 前記プレートは、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する、前記プレートの長手方向に配列した複数の前記インク室用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の、前記インク室用の穴が設けられている範囲の両端部に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向と平行かつ一直線上にある、[1]に記載のインクジェットヘッド。
[3] 前記プレートは、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する、前記プレートの長手方向に配列した複数の前記インク室用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の中央に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の、前記インク室用の穴が設けられている範囲の両端部に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向と平行かつ一直線上にある、[1]に記載のインクジェットヘッド。
[4] 前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の中央に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向に平行である、[1]に記載のインクジェットヘッド。
[5] 前記プレートは、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する、前記プレートの中央部を除いて前記プレートの長手方向には配列した複数の前記インク室用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における中央であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、個々の前記第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向に平行である、[1]に記載のインクジェットヘッド。
[6] 前記熱圧着が熱拡散接合である、[1]に記載のインクジェットヘッド。
[7] 複数の前記プレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートが、前記インク室を形成しない、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の第三の穴をさらに有する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【0029】
また本発明は、前記プレートを用いるインク室構成部材の第一の製造方法を提供する。
[8] インク室内を加圧してノズルからインクの液滴を吐出するインクジェットヘッドのインク室構成部材を製造する方法であって、
(1)積み重ねることによってインク室構成部材を形成する複数の前記プレートであって、前記プレートが、
1)複数の前記プレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するインク室用の穴を有し、
2)前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、
3)前記第一の位置決め用の穴が前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、
4)前記第二の位置決め用の穴が、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である、
前記プレートを準備する工程と、
(2)複数の前記プレートを積み重ね、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている前記プレートの積層体を得る工程と、
(3)前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを、前記プレートの決められた位置関係を維持したまま熱圧着によって接合する工程と、を含む、インク室構成部材の製造方法。
[9] 前記接合する工程が、前記積層体に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程である、[8]に記載のインク室構成部材の製造方法。
[10] 前記接合する工程が、
前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを仮止めする工程と、
仮止めされた前記積層体の前記第一及び第二の位置決め用の穴から前記位置決め用のピンを取り外す工程と、
前記位置決め用のピンが取り外された前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程と、を含む、[8]に記載のインク室構成部材の製造方法。
[11] 前記接合する工程における熱圧着が熱拡散接合である、[8]〜[10]のいずれか一項に記載のインク室構成部材の製造方法。
[12] 複数の前記プレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートに、前記インク室を形成しない、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の第三の穴をさらに有する前記プレートを用いる、[8]〜[11]のいずれか一項に記載のインク室構成部材の製造方法。
【0030】
さらに本発明は、前記プレートを有する前記枠体付きプレートを用いるインク室構成部材の第二の製造方法を提供する。
[13] インク室内を加圧してノズルからインクの液滴を吐出するインクジェットヘッドのインク室構成部材を製造する方法であって、
(1)細長の前記プレートと、前記プレートから離間して前記プレートの周囲を囲む枠体と、前記プレートと枠体とを接続するブリッジとを有し、積み重ねることによってインク室構成部材を形成する複数の前記枠体付きプレートであって、前記枠体付きプレートが、
1)複数の前記プレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するインク室用の穴を有し、
2)前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、
3)前記枠体が、前記第一及び第二の位置決め用の穴の少なくとも一つを有し、
4)前記第一の位置決め用の穴が前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、
5)前記第二の位置決め用の穴が、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である、
前記枠体付きプレートを準備する工程と、
(2)複数の前記枠体付きプレートを積み重ね、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている前記枠体付きプレートの積層体を得る工程と、
(3)前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを、前記プレートの決められた位置関係を維持したまま熱圧着によって接合する工程と、
(4)接合された前記枠体付きプレートの積層体から前記プレートの積層体を切り離す工程と、を含む、インク室構成部材の製造方法。
[14] 前記接合する工程が、前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程である、[13]に記載のインク室構成部材の製造方法。
[15] 前記接合する工程が、前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを仮止めする工程と、
仮止めされた、前記枠体付きプレートの積層体の前記第一及び第二の位置決め用の穴から前記位置決め用のピンを取り外す工程と、
前記位置決め用のピンが取り外された、前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程と、を含む、[13]に記載のインク室構成部材の製造方法。
[16] 前記接合する工程における熱圧着が熱拡散接合である、[13]〜[15]のいずれか一項に記載のインク室構成部材の製造方法。
[17] 複数の前記枠体付きプレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記枠体付きプレートに、前記インク室を形成しない、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の第三の穴を前記プレートにさらに有する前記枠体付きプレートを用いる、[13]〜[16]のいずれか一項に記載のインク室構成部材の製造方法。
【0031】
[本発明のインクジェットヘッド]
本発明のインクジェットヘッドは、インクを吐出するノズルと、ノズルに連通しインクを収容するインク室と、インク室内に圧力を加える加圧装置と、を有する。本発明のインクジェットヘッドは、本発明の効果が得られる範囲において、インクジェットヘッドの部品として知られている他の装置や部材をさらに有していてもよい。
【0032】
前記ノズルは、インク室に収容されたインクを液滴として吐出する部材である。ノズルには、インク室構成部材に接合される、インクジェットヘッドに用いる公知のノズルを利用することができる。
【0033】
前記加圧装置は、ノズルからインクの液滴を吐出させるために、インク室に収容されたインクに圧力を加える装置である。加圧装置は、インク室に収容されたインクに圧力をかけて、インク室内に直接圧力をかける装置であってもよいし、インク室に連通する通路中のインクに圧力をかけて、インク室内に間接的に圧力をかける装置であってもよい。加圧装置には、例えば圧電素子、インク室中のインクを加熱するためのヒータが挙げられる。このように加圧装置には、インクジェットヘッドに用いる公知の加圧装置を用いることができる。
【0034】
前記インク室は、複数の細長な前記プレートが積み重ねられてなる。以下、本発明において、前記プレートの接合体を「インク室構成部材」とも言う。このようなプレートの積み重ねは、積み重ねられた前記プレートを熱圧着によって接合することによって形成することができる。前記熱圧着は、前記プレートに熱応力を生じさせる加熱と加圧とを伴う接合方法である。熱圧着には、例えば熱拡散接合、熱接着が挙げられる。熱拡散接合は、加熱加圧条件下で、接着剤を用いず、前記プレートの材料間の原子移動のみにより前記プレート同士を接合させる方法である。熱接着は、熱硬化型接着剤を介して前記プレートを重ね、加熱により接着剤を硬化させ、前記プレート同士を接合させる方法である。
【0035】
本発明では、高温を要する熱圧着であると、後述する位置決め用の穴の形状と配置によって熱応力によるひずみの発生を抑制する効果がより顕著に得られる。また、前記プレート間には接着剤等のような接着時にプレート間に介在する成分を有さないことが、前記プレートの接合時における位置のずれを防止する観点から好ましい。このような観点から、前記熱圧着は熱拡散接合であることが好ましい。
【0036】
前記プレートは、熱圧着によって接合される、すなわち接した状態で合体する材料からなる。このような材料としては、例えば、SUS304TAやSUS329J4L等のステンレス鋼、ニッケル、及びニッケル・コバルト合金、が挙げられる。
【0037】
前記プレートは、細長に形成される。前記プレートの形状や大きさは、インクジェット装置に求められる塗布能力や、インクジェットヘッドの形態に基づいて決めることができる。前記プレートは、加工のしやすさ等の観点から、一般に矩形に形成される。また前記プレートの厚さは、一般に、前記プレートの厚さは、10〜500μmである。
【0038】
前記プレートは、インク室用の穴と、第一及び第二の位置決め用の穴とを有する。
【0039】
前記インク室用の穴は、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する。インク室用の穴は、複数の前記プレートが積み重ねられた時にインク室を形成する。インク室用の穴は、一枚の前記プレートにおいて、二以上の穴の組として形成されることがある。本発明では、一つのインク室を形成するために、二以上の穴の組としてインク室用の穴が形成されている場合には、この二以上の穴の組を一つのインク室用の穴とする。
【0040】
インク室用の穴は、通常、複数設けられる。この場合、インク室用の穴は、通常、前記プレートの長手方向に沿って配列される。インク室用の穴の配列は、一枚の前記プレートにおいて、一つであってもよいし、直列に二以上であってもよい(図8参照)。また。インク室用の穴の配列は、一枚の前記プレートにおいて、一列であってもよいし、並列に二列以上であってもよい。
【0041】
複数の前記プレートにおいて、インク室用の穴の形状は、前記プレートごとに同じであってもよいし異なっていてもよい。また個々の前記プレートにおいて、インク室用の穴の形状は、前記プレートごとに同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0042】
このように、インク室用の穴については、本発明の効果が得られる範囲において、インク室用の穴における公知の形状や配置を採用することができる。
【0043】
前記第一及び第二の位置決め用の穴は、積み重ねられる複数の前記プレートの全部が有する。第一及び第二の位置決め用の穴は、複数の前記プレートが積み重ねられた時にインク室を形成するように、前記プレートの表面に平行な面内方向における前記プレートの位置を規定するための細長な穴である。
【0044】
特許文献1にも記載されているように、前記プレートを積み重ねて接合する場合には、前記プレートの面内方向における前記プレートの位置を規定するために、位置決め用の穴に、位置決め用のピンが挿通される。そして位置決め用のピンの挿通によって位置が決められた前記プレートが、その積み重なり状態を維持したまま接合される。
【0045】
前記位置決め用の穴の幅は、前記プレートの面内方向における前記プレートの位置を高い精度で規定する観点から、位置決め用の穴に挿通されるべき位置決め用のピンの太さと公差との和であることが好ましい。公差は、前記プレートの面内方向における前記プレートの位置を高い精度で規定する観点から、±20μmであることが好ましく、+1〜16μmであることがより好ましい。
【0046】
前記位置決め用の穴の長さは、前記の幅よりも長い。位置決め用の穴の長さは、熱圧着による前記プレートの熱膨張によるひずみの発生を防止する観点から、位置決め用の穴に挿通されるべき位置決め用のピンの太さと、熱圧着による前記プレートの熱膨張による面内方向における変形長さとの和以上であることが好ましい。位置決め用の穴の長さは、位置決め用の穴への位置決め用のピンの挿通や抜き取り作業による前記プレートの変形や破損を防止する観点から、位置決め用の穴の幅の1.5倍以上の長さを有することが好ましい。位置決め用の穴の長さは、これらの観点に基づき、また本発明の効果が得られる範囲において決めることができる。
【0047】
前記位置決め用の穴は、通常、積み重ねられるべき複数の前記プレートにおいて、挿通されるべきピンが同じである穴が、同じ形状に形成される。前記位置決め用の穴は、個々の前記プレートにおいては同じであってもよいし、異なっていてもよい。第一及び第二の位置決め用の穴は、前記プレートの両面のそれぞれからのエッチングによって形成することができる。プレートの両面からのエッチングによって第一及び第二の位置決め用の穴を形成する場合には、形成される穴の断面形状は、プレートの肉厚方向の中央部に出っ張りを生じる。第一及び第二の位置決め用の穴の幅や長さは、前記の出っ張りのような断面方向における凹凸を穴が有する場合には、凹凸部で決めてもよいし、表面の端縁で決めてもよい。
【0048】
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの短手方向に細長く開口する。すなわち、第一の位置決め用の穴の長軸が前記短手方向に対して45°以上の角度をなすように、第一の位置決め用の穴が前記プレートに開口する。第一の位置決め用の穴の向きが前記の範囲にあるとき、熱圧着時における前記プレートの長手方向への熱膨張による変形が十分に規制される。前記短手方向に対する第一の位置決め用の穴の長軸の向きは、前記の変形を規制する観点から、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましく、0°(すなわち平行)であることがさらに好ましい。
【0049】
前記第一の位置決め用の穴は、個々の前記プレートにおいて、一つ又はそれ以上設けられる。第一の位置決め用の穴の数は、前記プレートの大きさや形状に応じて決めることができる。第一の位置決め用の穴を二以上設ける場合には、熱圧着時における前記プレートの長手方向への熱膨張によるひずみの発生を防止する観点から、前記プレートの長手方向における個々の第一の位置決め用の穴同士の長軸の距離は、近いほど好ましい。また前記の観点から、個々の第一の位置決め用の穴同士の長軸は一直線上にあることがより好ましい。
【0050】
前記プレートにおける第一の位置決め用の穴の位置は、前記プレートの長手方向における中央であることが、熱圧着時における前記プレートの長手方向への熱膨張による変形長さを小さくする観点から好ましい。
【0051】
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である。第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置される。第二の位置決め用の穴の数は、前記プレートの大きさや形状に応じて決めることができる。本発明において、前記プレートの長手方向における端部とは、前記プレートの端から、前記プレートにおけるインク室用の穴が形成されている領域の端部までを含む。
【0052】
前記第二の位置決め用の穴は、第二の位置決め用の穴の長軸が前記長手方向に対して10°以下の角度をなすように、前記プレートに開口する。第二の位置決め用の穴の向きが前記の範囲にあるとき、熱圧着時における前記プレートの短手方向への熱膨張による変形が十分に規制される。前記長手方向に対する第二の位置決め用の穴の長軸の向きは、前記の変形を規制する観点から、5°以下であることが好ましく、0°(すなわち平行)であることがより好ましい。
【0053】
前記プレートの短手方向における個々の第二の位置決め用の穴同士の長軸の距離は、熱圧着時における前記プレートの短手方向への熱膨張によるひずみの発生を防止する観点から、近いほど好ましい。また、前記の観点から、個々の第二の位置決め用の穴同士の長軸は、前記プレートの長手方向に平行な一直線上にあることがより好ましい。
【0054】
前記プレートにおける第二の位置決め用の穴の位置は、前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲であることが、前記プレートの幅をより小さくする観点から好ましく、前記プレートの短手方向の中央であることがより好ましい。
【0055】
前記プレートは、本発明の効果が得られる範囲において、さらなる構成要素を有していてもよい。このようなさらなる構成要素としては、例えば、前記インク室用の穴以外であって、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の、第三の穴が挙げられる。
【0056】
前記第三の穴は、複数の前記プレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートに形成される。
【0057】
インク室構成部材は、複数の前記プレートを積み重ねて形成される。通常、ノズル側に積み重ねられる前記プレートは比較的小さな開口比を有し、ノズルと反対側に積み重ねられる前記プレートは比較的大きな開口比を有する。このよう開口比の異なる前記プレートを積み重ねて熱圧着で接合すると、積み重ねられた前記プレート間で、熱膨張による変形長さが異なり、インク室構成部材においてひずみを発生させることがある(図9参照)。
【0058】
開口比が比較的小さな前記プレートに第三の穴を形成することは、積み重ねられた前記プレート間での熱膨張による変形長さの差によるひずみの発生を抑制する観点から好ましい。
【0059】
第三の穴が形成される前記プレートは、インク室用の穴と第一及び第二の位置決め用の穴とによる開口比が最も大きな前記プレート以外の前記プレートの一以上である。第三の穴は、前記プレートの積み重ね方向において隣接する前記プレート間の熱膨張による変位長さの差を緩和するように形成される。例えば第三の穴は、前記プレートの積み重ね方向において隣接する前記プレート間の熱膨張による最大の変位長さの差が0〜0.5%となるように形成される。インク室用の穴、及び第一及び第二の位置決め用の穴を形成しない限り、個々の前記プレートにおける第三の穴の数及び形状は特に限定されない。
【0060】
本発明における前記プレートは、前述した構成要件を適宜に組み合わせて構成することができる。例えば前記プレートには、1)積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が、前記プレートの長手方向に配列した複数の前記インク室用の穴を有し、2)前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、3)前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の、前記インク室用の穴が設けられている範囲の両端部に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向と平行かつ一直線上にある、形態が挙げられる(実施の形態1参照)。
【0061】
また前記プレートには、1)積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が、前記プレートの長手方向に配列した複数の前記インク室用の穴を有し、2)前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の中央に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、3)前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の、前記インク室用の穴が設けられている範囲の両端部に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向と平行かつ一直線上にある、形態が挙げられる(実施の形態2参照)。
【0062】
また前記プレートには、1)前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の中央に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、2)前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向に平行である、形態が挙げられる(実施の形態3参照)。
【0063】
また前記プレートには、1)積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が、前記プレートの中央部を除いて前記プレートの長手方向には配列した複数の前記インク室用の穴を有し、2)前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における中央であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、3)前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、個々の前記第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向に平行である、形態が挙げられる(実施の形態4参照)。
【0064】
本発明のインクジェットヘッドは、前記ノズルと、前記インク室構成部材と、前記加圧装置と、必要に応じて設けられる公知の他の装置や部材とを、公知のインクジェットヘッドと同様に組み立てることによって得られる。
【0065】
[本発明におけるインク室構成部材の第一の製造方法]
本発明における前記インク室構成部材は、以下に説明する第一の製造方法によって製造することができる。
【0066】
第一の製造方法は、インク室内を加圧してノズルからインクの液滴を吐出するインクジェットヘッドのインク室構成部材を製造する方法であって、(1)積み重ねることによってインク室構成部材を形成する複数の前記プレートを準備する工程と、(2)複数の前記プレートを積み重ね、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている前記プレートの積層体を得る工程と、(3)前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを、前記プレートの決められた位置関係を維持したまま熱圧着によって接合する工程と、を含む。
【0067】
前記準備する工程における前記プレートは、1)複数の前記プレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するインク室用の穴を有し、2)前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、3)前記第一の位置決め用の穴が前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、4)前記第二の位置決め用の穴が、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である。この前記プレートには、前述した本発明のインクジェットヘッドの前記プレートを用いることができる。
【0068】
前記準備する工程では、積み重ねたときにインク室を形成するインク室用の穴を有する複数の前記プレートの組が準備される。この前記プレートには、インク室用の穴を有さないプレートが含まれていてもよい。また、前記準備する工程では、積み重ねられる複数の前記プレートの全部の第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されたときに、積み重ねられた複数の前記プレートによってインク室が形成されるように、前記プレートの表面に平行な面内方向における前記プレートの位置を前記位置決め用のピンによって規定する第一及び第二の位置決め用の穴を有する、複数の前記プレートの組が準備される。
【0069】
前記準備する工程において、複数の前記プレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートに、前述の第三の穴をさらに有する前記プレートを用いてもよい。第三の穴を有する前記プレートを用いることは、積み重ねられた前記プレート間での熱膨張による変形長さの差によるひずみの発生を抑制する観点から好ましい。
【0070】
前記積み重ねる工程では、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている複数の前記プレートの積層体を得る。前記プレートの積層体は、位置決め用のピンを、第一及び第二の位置決め用の穴に挿通しながら前記プレートを重ねることによって得ることができる。あるいは前記プレートの積層体は、積み重ねられた複数の前記プレートの第一及び第二の位置決め用の穴のそれぞれに、位置決め用のピンを挿通することによって得ることができる。
【0071】
前記接合する工程では、前記プレートの積層体の熱圧着によって、それぞれの前記プレートを接合する。接合する工程では、前記プレートの決められた位置関係が維持されていれば、前記プレートの積層体において位置決め用のピンは挿通されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0072】
例えば前記接合する工程は、前記積層体に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合することによって行うことができる。この場合、位置決め用のピンを抜き取ることなく前記プレートの積層体の接合体が得られる。このため接合作業の簡略化の観点から好ましい。
【0073】
あるいは、前記接合する工程は、1)前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記プレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを仮止めする工程と、2)仮止めされた前記積層体の前記第一及び第二の位置決め用の穴から前記位置決め用のピンを取り外す工程と、3)前記位置決め用のピンが取り外された前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程と、によって行うことができる。
【0074】
前記仮止めする工程は、前記位置決め用のピンが挿通されている前記プレートの積層体の複数の前記プレートを、互いに固定することによって行うことができる。前記プレートの仮止め方法としては、例えばスポット溶接が挙げられる。スポット溶接は、位置決め用のピンによって規定されている前記プレートの位置関係を維持する観点から、位置決め用のピンが挿通されている第一及び第二の位置決め用の穴の近傍、又は第一又は第二の位置決め用の穴に最も近い前記プレートの縁で行うことが好ましい。
【0075】
前記接合する工程は、熱拡散接合や、熱接着によって行うことができる。
熱拡散接合は、例えばステンレス鋼の前記プレートを用いる場合では、800〜1,200℃、1〜20MPaの条件で行うことができる。
【0076】
熱接着は、UV硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、あるいはこれらの混合物を用いて行うことができる。熱硬化性接着剤には、メラミン系接着剤、フェノール系接着剤、エポキシ系接着剤等の公知の熱硬化性接着剤を用いることができる。
【0077】
前記接合する工程における熱圧着は、熱応力によるひずみの発生を抑制する効果がより顕著に得られる観点、及び、接着剤等の、接着時にプレート間に介在する成分による接合時における前記プレートの位置のずれを防止する観点から、熱拡散接合であることが好ましい。
【0078】
第一の製造方法で製造されたインク室構成部材と、前述した本発明のインクジェットヘッドにおける前記ノズルと、前記加圧装置と、必要に応じてインクジェットヘッドに設けられる公知の他の装置や部材とを組み立てることによって、インクジェットヘッドを製造することができる。これらの装置や部材の組み立ては、公知のインクジェットヘッドの製造と同様に行うことができる。
【0079】
[本発明におけるインク室構成部材の第二の製造方法]
本発明は、インク室構成部材の製造方法として、以下の第二の製造方法を説明する。
インク室構成部材の第二の製造方法は、前記プレートに代えて枠体付きプレートを用い、接合後に前記プレートの接合体を切り離す工程をさらに含む以外は、前述した第一の製造方法と同様に行うことができる。
【0080】
第二の製造方法は、インク室内を加圧してノズルからインクの液滴を吐出するインクジェットヘッドのインク室構成部材を製造する方法であって、(1)複数の枠体付きプレートを準備する工程と、(2)複数の前記枠体付きプレートを積み重ね、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている前記枠体付きプレートの積層体を得る工程と、(3)前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを、前記プレートの決められた位置関係を維持したまま熱圧着によって接合する工程と、(4)接合された前記枠体付きプレートの積層体から前記プレートの積層体を切り離す工程と、を含む。
【0081】
前記準備する工程における前記枠体付きプレートは、細長の前記プレートと、前記プレートから離間して前記プレートの周囲を囲む枠体と、前記プレートと枠体とを接続するブリッジとを有する。複数の前記枠体付きプレートが積み重ねられることによって、枠体の内側にインク室構成部材が形成される。
【0082】
前記準備する工程における前記枠体付きプレートは、1)複数の前記プレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するインク室用の穴を有し、2)前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、3)枠体が第一及び第二の位置決め用の穴を少なくとも一つ有し、4)前記第一の位置決め用の穴が前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、5)前記第二の位置決め用の穴が、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である。
【0083】
前記枠体付きプレートにおける前記プレートは、前述した前記プレートと同様にインク室用の穴を有する。
【0084】
前記枠体は、前記プレートから離間して前記プレートを囲む。枠体は、前記プレートの少なくとも一端縁とそれに隣接する一側縁とを囲む。枠体は、熱圧着時における熱膨張による前記プレートの変形に枠体の変形を追従させる観点から、枠体前記プレートの一側縁とそれに隣接する両端縁とを囲むことが好ましく、前記プレートの周囲の全てを囲むことがより好ましい。枠体の形状は、前記プレートを等距離で囲む形状であることが前記の観点から好ましい(図8参照)。
【0085】
前記ブリッジは、前記プレートと枠体とを接続する。前記枠体付きプレートにおけるブリッジの数及び位置は、前記プレートの大きさや形状に応じて決めることができる。例えばブリッジは、前記プレートが矩形の場合では、前記プレートの長手方向における端縁の端部や中央部、前記プレートの長手方向における側縁の端部や中央部、に適宜設けられる。
【0086】
前記枠体付きプレートでは、第一及び第二の位置決め用の穴の少なくとも一つが、前記プレート及び枠体のうちの枠体に形成される。すなわち、第一及び第二の位置決め用の穴の少なくとも一つが枠体に形成されていれば、その他の第一及び第二の位置決め用の穴は、枠体に形成されていてもよいし、前記プレートに形成されていてもよい。前記枠体付きプレートにおいて、前記プレートが第一及び第二の位置決め用の穴を有することは、熱圧着時における前記プレートの熱膨張による変形長さを小さくする観点から好ましい。前記枠体付きプレートにおいて、枠体が第一及び第二の位置決め用の穴を有することは、前記プレートの小型化やインク室の高集積化の観点から好ましい。
【0087】
前記枠体付きプレートに形成される第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向の中央に形成されることが、熱圧着時における前記プレートの長手方向への熱膨張による変形長さを小さくする観点から好ましい。また、枠体に設けられる第二の位置決め用の穴は、前記プレートが第二の位置決め用の穴を有する場合には、枠体における第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートにおける第二の位置決め用の穴の長軸と同一直線上にある位置に形成されることが、前記枠体付きプレートの短手方向への熱応力によるひずみを防止する観点から好ましい。
【0088】
前記枠体付きプレートに形成される第二の位置決め用の穴は、前記プレートの短手方向の中央に形成されることが、熱圧着時における前記プレートの短手方向への熱膨張による変形長さを小さくする観点から好ましい。
【0089】
前記枠体付きプレートの前記プレートに第一及び第二の位置決め用の穴を形成する場合は、前述した前記プレートと同様の観点から、第一及び第二の位置決め用の穴を形成することができる。
【0090】
前記準備する工程では、積み重ねたときにインク室を形成するインク室用の穴を有する複数の前記枠体付きプレートの組が準備される。また、前記準備する工程では、積み重ねられる複数の前記枠体付きプレートの全部の第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されたときに、積み重ねられた複数の前記プレートによってインク室が形成されるように、前記プレートの面内方向における前記プレートの位置を前記位置決め用のピンによって規定する第一及び第二の位置決め用の穴を有する、複数の前記枠体付きプレートの組が準備される。これらの前記枠体付きプレートは、インク室用の穴を有さない前記枠体付きプレートを含んでいてもよい。
【0091】
前記準備する工程において、複数の前記枠体付きプレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートに、前述の第三の穴をさらに有する前記枠体付きプレートを用いてもよい。第三の穴を有する前記プレートを用いることは、積み重ねられた前記プレート間での熱応力によるひずみの発生を抑制する観点から好ましい。
【0092】
第二の製造方法における前記枠体付きプレートを積み重ねる工程は、前記プレートに代えて前記枠体付きプレートを用いることにより、前述した第一の製造方法における同工程と同様に行うことができる。
【0093】
第二の製造方法における接合する工程も、前記プレートに代えて前記枠体付きプレートを用いることにより、前述した第一の製造方法における同工程と同様に行うことができる。第二の製造方法では、接合する工程において、前記プレートのみを接合してもよいし、前記プレート及び枠体の両方を接合させてもよい。
【0094】
また第二の製造方法における接合する工程において、前記枠体付きプレートの前記プレートを仮止めする場合は、枠体を仮止めしてもよいし、前記プレートを仮止めしてもよいし、枠体と前記プレートの両方を仮止めしてもよい。
【0095】
前記切り離す工程では、接合された前記枠体付きプレートの積層体から前記プレートの積層体を切り離す。前記プレートの積層体の切り離しは、プレス加工によって行うことができる。
【0096】
第二の製造方法で製造されるインク室構成部材では、第一及び第二の位置決め用の穴の一つ以上又は全部の穴がインク室用プレートに形成されない。しかしながら、前述した本発明のインクジェットヘッドにおけるインク室や、第一の製造方法で得られるインク室と同様に、本発明の効果を奏するインク室が、第二の製造方法によって得られる。
【0097】
第二の製造方法においても、第一の製造方法と同様に、第二の製造方法で製造されたインク室構成部材と、前述した本発明のインクジェットヘッドにおける前記ノズルと、前記加圧装置と、必要に応じてインクジェットヘッドに設けられる公知の他の装置や部材とを組み立てることによって、インクジェットヘッドを製造することができる。これらの装置や部材の組み立ては、公知のインクジェットヘッドの製造と同様に行うことができる。
【発明の効果】
【0098】
本発明では、熱圧着によって接合されてインク室構成部材を形成する前記プレートが、前記の第一及び第二の位置決め用の穴を有する。このため、位置が決められた前記プレートの積層体における熱圧着時の熱膨張による変形を、第一及び第二の位置決め用の穴で逃がすことができる。このため、熱拡散接合においても、前記プレートの熱応力によるひずみが発生しない。よって、インクジェットヘッドが有するインク室構成部材において、製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室構成部材を提供することができる。
【0099】
また、第一及び第二の位置決め用の穴が細長く開口する穴であることから、第一及び第二の位置決め用の穴から位置決め用のピンを抜き取る場合に、作業性が高く、製造時における前記プレートの破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施の形態1におけるインクジェットヘッドの、インク室の配列方向における断面の要部の概略を示す図である。
【図2】実施の形態1の前記プレートを示す平面図である。
【図3】実施の形態1における熱拡散接合時の前記プレートの概略を示す図である。
【図4】実施の形態2の前記プレートを示す平面図である。
【図5】実施の形態1と実施の形態2のX方向への熱膨張の変位量の違いを示す図である。
【図6】実施の形態3の前記プレートを示す平面図である。
【図7】実施の形態4の前記プレートを示す平面図である。
【図8】実施の形態5の前記枠体付きプレートを示す平面図である。
【図9】実施の形態6の前記プレートを示す平面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態の前記プレートを示す平面図である。
【図11】本発明のさらなる実施の形態の前記プレートを示す平面図である。
【図12】有機ELディスプレイの断面図である。
【図13】有機ELディスプレイの有機発光層の配置状態を示す図である。
【図14】有機ELディスプレイの製造に用いられているインクジェット装置の概観を示す図である。
【図15】従来の前記プレートの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0102】
[実施の形態1]
本発明のインクジェットヘッドの一態様を図1に示す。
図1(a)に示すインクジェットヘッドは、インクを吐出する複数のノズル100、ノズルに連通する収容部110、異なるノズルに対応する収容部110を隔てる隔壁111、隔壁111間に張られてノズル100の反対側で収容部110を塞ぐダイヤフラム112、ダイヤフラム112を振動させる圧電素子130、ダイヤフラム112を介して隔壁111を支える圧電部材140、圧電素子130に電圧を印加する共通電極120、個別電極121、及び駆動回路122を有する。図1(a)に示すインクジェットヘッドは、他に図示しないインクの導入口を有する。また、インクを循環する種類のインクジェットヘッドにおいては、図示しないインクの排出口を有する。収容部110及び隔壁111は、インク室構成部材によって構成されている。
【0103】
ノズル100は、吐出側の直径が20〜50μmの穴を複数有する。これら穴は、100〜300個形成されており、100〜500μmのピッチで並んでいる。
【0104】
圧電素子130は本発明における加圧装置である。圧電素子130と隔壁111を支える圧電部材140とは、一つの圧電部材のダイシングによる切削によって形成されている。
【0105】
インク室を隔てる隔壁111は、例えば三枚の前記プレート113A、113B、113Cの積層体によって構成されている。この積層体が本発明におけるインク室構成部材である。
【0106】
図1(a)のインクジェットヘッドは、次のように動作する。共通電極120と、個別電極121の間に電圧を印加すると、圧電素子130がダイヤフラム112に向けて進出し、図1(a)の状態から図1(b)の状態に変形する。圧電素子130が変形すると、収容部110の容積が小さくなりインクに圧力を加わる。その圧力でインクがノズル110から液滴として吐出する。
【0107】
インク室構成部材を構成する三枚の前記プレート113A、113B、113Cを図2(a)図2(b)、図2(c)に示す。前記プレート113A、113B、113Cは、それぞれ、図2(a)、図2(b)、図2(c)に示す平面形状を有する。前記プレート113A、113B、113Cは、それぞれ、矩形に形成されている。前記プレート113A、113B、113Cの材質はステンレス鋼が一般的である。厚みは30〜300μm、長辺は30〜200mm、短辺は5〜10mmである。前記プレート113A、113B、113Cは、ステンレス鋼の圧延によって形成される。前記プレート113A、113B、113Cは、圧延方向が前記プレートの短手方向(図2中のY方向)となるように形成される。
【0108】
前記プレート113A、113B、113Cは、長手方向(図2中のX方向)に配列する複数の貫通孔114A、114B、114Cと、短手方向(図2中のY方向)に細長く開口する一つの第一の長穴210と、長手方向に細長く開口する二つの第二の長穴221、222とを有する。
【0109】
貫通孔114A、114B、114Cは、本発明におけるインク室用の穴である。第一の長穴210は、本発明における第一の位置決め用の穴である。第二の長穴221、222は、本発明における第二の位置決め用の穴である。
【0110】
貫通孔114A、114B、114Cは、例えばそれぞれ矩形に形成されている。貫通孔114A、114B、114Cは、前記プレート113A、113B、113Cを重ねたときに、それぞれの前記プレートにおけるそれぞれの貫通孔が連続して、それぞれの収容部を形成する位置に形成されている。図示されているように、貫通孔114A、114B、114Cの短辺の長さは等しい。貫通孔の長辺の長さは、ノズル100に向かって順に短くなるように、貫通孔114Aの長辺がより長く、貫通孔114Bの長辺が次いで長く、貫通孔114Cの長辺がより短くなっている。貫通孔114A、114B、114Cはステンレス鋼をエッチングして作製される。
【0111】
前記プレート113Aが有する貫通孔114Aは、例えばインク供給口やインク排出口とつながる流路であり、収容部110の一部をなす。貫通孔114Aの大きさは、長辺が3〜8mm、短辺が50〜200μmである。
【0112】
前記プレート113Bが有する貫通孔114Bは、圧電素子130が発生する圧力の拡散を防ぐ部分であり、収容部110の一部をなす。貫通孔114Bの大きさは、長辺が50μm〜4mm、短辺が50〜200μmである。
【0113】
前記プレート113Cが有する貫通孔114Cは、圧電素子130が発生する圧力の絞り込む部分であり、収容部110の一部をなす。貫通孔114Cの大きさは、長辺が50μm〜2mm、短辺が50〜200μmである。
【0114】
第一の長穴210は、前記プレート113A〜113Cにおいて、X方向における一端部であって、X方向において貫通孔114と並ぶ位置に、形成されている。第一の長穴210は、前記プレート113A〜113Cのいずれにおいても、同じ形状に形成され、一端側の貫通孔114長辺からの距離が同じであり、前記プレートの側縁からの距離が同じ位置に形成されている。
【0115】
第一の長穴210は、前記プレート113Aにおいて、貫通孔114Aの長辺の範囲(図2(a)中のRa)に形成されており、前記プレート113Bにおいて、貫通孔113Bの長辺の範囲(図2(a)中のRb)に形成されており、前記プレート113Cにおいて、貫通孔114Cの長辺の範囲(図2(a)中のRc)に貫通孔114Cに並んで形成されている。第一の長穴210は、例えば貫通孔114Cのように貫通孔114の長辺の範囲に含まれない場合があるが、例えば前記プレート113A等の他の前記プレート113において貫通孔114の長辺の範囲(貫通孔が設けられている範囲)に位置する場合は、第一の長穴210は、貫通孔114の長辺の範囲に含まれない前記プレート113においても、貫通孔114の長辺の範囲に含まれているものとする。
【0116】
第二の長穴221、222は、前記プレート113A〜113Cにおいて、X方向の一側部であって、X方向において貫通孔114が設けられている範囲の両端部にそれぞれ形成されている。第二の長穴221、222は、前記プレート113A〜113Cのいずれにおいても、同じ形状に形成され、X方向における、配列する貫通孔114群の端から距離が同じであり、前記プレートの側縁からの距離が同じ位置に形成されている。
【0117】
第一及び第二の長穴210、221、222はいずれも同じ形状に形成されている。第一及び第二の長穴210、221、222はいずれも、一対の直線とその端同士を繋ぐ円弧とからなるトラック様の形状に形成されている。第一及び第二の長穴210、221、222は、長さが1.2〜2mm、幅が1mmであり、幅方向における公差が0.001〜0.016mmのプラス公差で形成されている。第一及び第二の長穴210、221、222はステンレス鋼をエッチングして作製されている。
【0118】
なお、図1に示した断面は、前記プレート113A、113B、113Cを積層した後の、図2におけるx−x線で切断したときの断面の一部である。
【0119】
次に、図3を用いて、インク室の製造方法を説明する。図3は、製造過程にあるインク室及びその製造装置を、図2におけるx−x線で切断したときの断面を概略的に示している。
【0120】
図3において、420と430は押圧プレート、410は位置決めピンである。
まず、前記プレート113A、113B、及び113Cを用意する。
【0121】
次いで、前記プレート113A、113B、113Cにおける第一及び第二の長穴210、221、222のそれぞれに位置決めピン410を通しながら前記プレート113A、113B、113Cを積み重ね、押圧プレート420,430で挟み込む。あるいは、前記プレート113A、113B、113Cを積み重ね、次いで前記プレート113A、113B、113Cにおける第一及び第二の長穴210、221、222のそれぞれに位置決めピン410を通し、次いで押圧プレート420、430で挟み込んでもよい。こうして、第一及び第二の長穴に位置決め用のピンが挿通されている前記プレートの積層体が得られる。位置決めピン410は、直径1mmの円柱状の鋼材(例えば焼き入れステンレス鋼)である。
【0122】
第一の長穴210及び第二の長穴221に位置決めピン410を挿通することによって、それぞれの前記プレートのおよその位置は決めることができるが、長穴の公差の分だけ回転の自由度が残る。さらに第二の長穴222に位置決めピンが挿通されることによって、前記プレートの面内方向において、より高精度にそれぞれの前記プレートの位置が決められる。第二の長穴221、222は前記プレート113のX方向における両端部に形成されているため、積層体における個々の前記プレートの回転の自由度が抑えられる。
【0123】
次いで前記プレート113A〜113Cを熱拡散接合によって接合する。
例えば前記プレート113A〜113Cの積層体は、位置決めピンが第一及び第二の長穴に挿通されている状態で、大気中にて、1〜5MPaの押圧力をかけながら徐々に(3時間程度の時間をかけて)1,000〜1,200℃の温度にすることで、熱拡散接合される。
【0124】
熱拡散接合において、前記プレート113は図2中のX方向及びY方向の両方に向けて熱膨張する。X方向については、第一の長穴210が、挿通される位置決めピンの太さに公差を加えた幅を有することから、前記プレート113は、第一の長穴210を固定端として熱膨張する。X方向に前記プレート113が熱膨張すると、同じく位置決めピンが挿通されている第二の長穴221、222も熱膨張によってX方向に移動する。しかしながら、第二の長穴221、222は、位置決めピンが挿通されていてもなお熱膨張による変形量に比べて十分に大きな長さの開口を有している。このため、位置決めピンが挿通されている第一の長穴210と第二の長穴221との間、及び第二の長穴221、222間において、熱膨張による変形や熱応力によるひずみは生じない。このように前記プレートのX方向への熱膨張は、第二の長穴221、222によって吸収される。
【0125】
一方、Y方向については、第二の長穴221、222が、挿通される位置決めピンの太さに公差を加えた幅を有することから、前記プレート113は、第二の長穴221、222を固定端として熱膨張する。Y方向に前記プレート113が熱膨張すると、同じく位置決めピンが挿通されている第一の長穴210も熱膨張によってX方向に移動する。しかしながら、第一の長穴210は、位置決めピンが挿通されていてもなお熱膨張による変形量に比べて十分に大きな長さの開口を有している。このため、第二の長穴221、222と第一の長穴210との間において熱膨張による変形や熱応力によるひずみは生じない。このように前記プレートのY方向への熱膨張は、第一の長穴210によって吸収される。
【0126】
またY方向については、第二の長穴221、222は、長軸がX方向に平行かつ一直線上にある。このため、Y方向における第二の長穴221、222間の位置が異なると、第二の長穴221、222間の変形やひずみが生じない。
【0127】
その後、接合されてなるインク室は、24時間かけて炉冷される。熱拡散接合によって前記プレート113A〜113Cを接合した場合には、前記プレート間で大きな温度差を生じると、熱膨張差を生じ、ひずみが発生する。このため、24時間かけて炉冷する。
【0128】
冷却後、インク室の第一及び第二の長穴210、221、222から位置決めピンを抜き取る。
【0129】
図15に示した特許文献1の位置決め用の穴13の場合では、位置決めピンが前記プレートの熱膨張を妨げるので、前記プレートにひずみが生じてしまう。また、位置決め用の穴13に公差よりも大きな隙間がないことから、位置決めピンを抜き取る際にインク室をこじってしまいやすく、ひずみが生じやすい。
【0130】
これに対して本実施の形態では、位置決めピンの抜き取りでは、位置決め用の穴がすべて長穴で構成されているので、作業性が高く、位置決めピンから取り出す際にこじってインク室をひずませることがない。
【0131】
以上によって、本実施の形態によれば、製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインクジェットヘッドを提供することができる。
【0132】
また本実施の形態において、貫通孔114A、114B、114Cは、短辺の長さが等しく、長辺の長さが、ノズル100に向かって順次短くなるようになっている。このため、インク室からのインクの吐出を効率よく行うことができる。
【0133】
また本実施の形態において、第一の長穴210は、前記プレート113の長手方向において貫通孔114と並ぶ位置に形成され、第二の長穴221、222は、前記プレート113の長手方向における貫通孔114の配列の範囲内に形成されている。このため、後述する実施の形態2等の、貫通孔114の配列の範囲外に第一及び第二の長穴を形成する形態に比べ、第一及び第二の長穴210、221、222を配置するための区域を小さくできる。その結果、前記プレート113A、113B、113Cの面積も小さくできるので、インク室におけるひずみをより発生しにくくすることができる。
【0134】
また本実施の形態において、前記プレート113A、113B、113Cは、圧延方向が前記プレートの短手方向(図2中のY方向)となるように形成される。このため、前記プレート113A、113B、113Cは、それぞれ、熱膨張により、Y方向(すなわち圧延方向)に比べて、X方向へ変形しにくい。したがって、インク室におけるひずみを抑制する観点からより効果的である。
【0135】
よって、製造時のひずみの少ない、また使用時、液滴量のばらつきが少なく、吐出される液滴が曲がりにくいインクジェットヘッドを提供できる。
【0136】
本実施の形態において、熱拡散接合は、位置決めピンが第一及び第二の長穴210、221、222に挿通されている前記プレート113A〜113Cの積層体をスポット溶接で仮止めし、仮止めされた前記プレート113A〜113Cの積層体の第一及び第二の長穴210、221、222から位置決めピンを抜き取り、その後に行ってもよい。スポット溶接は、例えば位置決めピンが第一及び第二の長穴に挿通されている前記プレート113A〜113Cの積層体を、例えば最大電圧を500V、最大出力を160Wで0.1〜4秒間スポット溶接することによって行うことができる。スポット溶接には、コンデンサ式溶接電源を用い、またCr−Cu電極を用いることができる。スポット溶接における前記の溶接電源の電極の太さは直径1.0〜2.0mmである。
【0137】
このようなスポット溶接による仮止めを行う場合では、熱拡散接合の前に位置決めピンを回収することができる。このため、位置決めピンの熱拡散接合による変形や損傷が抑制され、位置決めピンの再利用に有利である。
【0138】
また本実施の形態では、前記プレート113A〜113Cの接合は、熱拡散接合に代えて、熱接着によって行ってもよい。熱接着は、プレート間に接着剤層が介在し、位置決めピンを第一及び第二の長穴に挿通されている前記プレート113A〜113Cの積層体を形成し、この前記プレートの積層体を、大気中にて、1〜5MPaの押圧力をかけながら1〜3時間、100〜150℃の温度にすることで行うことができる。熱接着における前記積層体は、前記プレート113B及び113Cの表面(図2に示される平面)に接着剤(例えばエポキシ樹脂)を塗布して前記プレート113A〜113Cを積み重ねることによって、形成することができる。
【0139】
このような熱接着によって前記プレート113A〜113Cを接合する場合には、熱拡散接合ほどの高温を必要としないことから、熱拡散接合に比べて熱応力によるひずみの発生をより抑制することができる。
【0140】
[実施の形態2]
図4に本実施の形態における前記プレートを示す。なお、実施の形態1における図2(a)で示した、前記プレート113Aに相当する前記プレートのみを図4に示している。図4において、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0141】
図4に示す前記プレート213Aは、第一の長穴220以外は、実施の形態1における前記プレート113Aと同様に構成されている。
【0142】
第一の長穴220は、前記プレート213Aの一側部の中央に位置している。また第一の長穴220の長軸はY方向に平行である。第一の長穴220は、実施の形態1における第一の長穴210と同じ大きさ及び形状に形成されている。
【0143】
本実施の形態において、インク室構成部材は、実施の形態1と同様に製造される。
【0144】
本実施の形態では、X方向における前記プレート213Aの熱膨張の固定端は、前記プレート213AのX方向における中央に形成されている第一の長穴220となる。このため、本実施の形態では、実施の形態1に比べて、前記プレートのX方向への熱膨張による変形がより抑制される。この点を、図5を用いて説明する。
【0145】
実施の形態1における前記プレート113Aの熱膨張前の状態を図5(a)に示す。そして前記プレート113Aが熱膨張した結果、図5(b)に示すように、一端側にある第一の長穴210を固定端として、前記プレート113Aの他端が「A」だけ変位する。
【0146】
一方、本実施の形態の前記プレート213Aの熱膨張間の状態を図5(c)に示す。前記プレート113Aに対する熱処理と同じ熱処理を前記プレート213Aに行った場合、前記プレート213Aは、図5(d)に示すように、第一の長穴220を固定端として、熱膨張によって、前記プレート213Aの両端がそれぞれ「A/2」だけ変位する。このように、本実施の形態では、X方向における前記プレート213Aの熱膨張による最大の変位量は実施の形態1の1/2となる。
【0147】
本実施の形態は、第一の長穴220が前記プレート213Aの長手方向における一側部の中央に形成されていることから、実施の形態1に比べてX方向におけるひずみの抑制により効果的である。
【0148】
また、本実施の形態は、第一の長穴220が前記プレート213Aの長手方向における一側部の中央に形成されていることから、第一の長穴を配置する場所の分だけ、実施の形態1に比べて前記プレートのX方向の長さを削減できる。X方向は熱膨張の変位が大きいので、X方向の長さがより削減される観点からも、本実施の形態は、実施の形態1に比べてひずみの抑制により効果的である。
【0149】
また本実施の形態は、実施の形態1と同様に、1)位置決めピンの抜き取りを含む作業性が高く、位置決めピンから取り出す際にこじってインク室をひずませることがなく、2)製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室を提供することができ、3)貫通孔の長辺の長さの設定によりインク室からのインクの吐出を効率よく行うことができ、4)製造時のひずみの少ない、また使用時、液滴量のばらつきが少なく、吐出される液滴が曲がりにくいインクジェットヘッドを提供できる。
【0150】
[実施の形態3]
図6に本実施の形態における前記プレートを示す。なお、実施の形態1における図2(a)で示した、前記プレート113Aに相当する前記プレートのみを図6に示している。図6において、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0151】
図6に示す前記プレート313Aは、第二の長穴231、232以外は、実施の形態2における前記プレート213Aと同様に構成されている。
【0152】
第二の長穴231、232は、前記プレート313AのX方向における両端部であって、Y方向において貫通孔114Aが設けられている範囲の中央(前記プレート313AのX方向における中央でもある)に位置している。第二の長穴231、232の長軸はX方向に平行である。第二の長穴231、232は、それぞれ、実施の形態1における第一の長穴210と同じ大きさ及び形状に形成されている。
【0153】
本実施の形態において、インク室構成部材は、実施の形態1と同様に製造される。
【0154】
本実施の形態は、実施の形態2と同様に、第一の長穴220が前記プレート313Aの長手方向における中央に形成されていることから、前記プレート313Aの熱膨張によるX方向の変位をより一層抑えることができる。
【0155】
また、本実施の形態では、第二の長穴231、232が前記プレート313AのX方向における両端部であってY方向における中央に形成されていることから、前記プレート313AのY方向への熱膨張の固定端が、Y方向における中央となる。よって、実施形態1及び2に対して、前記プレート313Aの熱膨張によるY方向への変位をより一層抑えることができる。
【0156】
また本実施の形態は、実施の形態1及び2と同様に、1)位置決めピンの抜き取りを含む作業性が高く、位置決めピンから取り出す際にこじってインク室をひずませることがなく、2)製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室を提供することができ、3)貫通孔の長辺の長さの設定によりインク室からのインクの吐出を効率よく行うことができ、4)製造時のひずみの少ない、また使用時、液滴量のばらつきが少なく、吐出される液滴が曲がりにくいインクジェットヘッドを提供できる。
【0157】
[実施の形態4]
図7に本実施の形態における前記プレートを示す。なお、実施の形態1における図2(a)で示した、前記プレート113Aに相当する前記プレートのみを図7に示している。図7において、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0158】
図7に示す前記プレート413Aは、貫通孔114Aが前記プレート413Aの中央には形成されておらず、第一の長穴230が前記プレート413Aの中央に形成されている以外は、実施の形態3における前記プレート313Aと同様に構成されている。
【0159】
第一の長穴230は、前記プレート413Aの中央に位置する。第一の長穴230の長軸はX方向に平行である。第一の長穴230は、実施の形態1における第一の長穴210と同じ大きさ及び形状に形成されている。
【0160】
本実施の形態において、インク室構成部材は、実施の形態1と同様に製造される。
【0161】
本実施の形態は、実施の形態3と同様に、第一の長穴230が前記プレート413Aの長手方向における中央に形成されていることから、前記プレート413Aの熱膨張によるX方向の変位をより一層抑えることができる。また、第二の長穴231、232が前記プレート413AのX方向における両端部であってY方向における中央に形成されていることから、前記プレート413Aの熱膨張によるY方向への変位をより一層抑えることができる。
【0162】
また本実施の形態では、第一の長穴230が前記プレート413Aの長手方向の一側部には形成されないことから、実施の形態2や実施の形態3に比べて、前記プレートのY方向の長さを小さくすることができる。
【0163】
本実施の形態で形成されるインクジェットヘッドには、中央部にノズルが配置されない。したがって、本実施の形態は、協同する複数のインクジェットヘッドを得る観点で好適である。このような複数のインクジェットヘッドは、使用時に互いの塗布領域を補完することで、隙間のない塗布に用いることができる。
【0164】
また本実施の形態は、実施の形態1〜3と同様に、1)位置決めピンの抜き取りを含む作業性が高く、位置決めピンから取り出す際にこじってインク室をひずませることがなく、2)製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室を提供することができ、3)貫通孔の長辺の長さの設定によりインク室からのインクの吐出を効率よく行うことができ、4)製造時のひずみの少ない、また使用時、液滴量のばらつきが少なく、吐出される液滴が曲がりにくいインクジェットヘッドを提供できる。
【0165】
[実施の形態5]
図8に本実施の形態における前記枠体付きプレートを示す。なお、実施の形態1における図2(a)で示した、前記プレート113Aに相当する前記枠体付きプレートのみを図8に示している。図8において、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0166】
図8に示す前記枠体付きプレート800Aは、矩形の前記プレート513Aと、前記プレート513Aから離間して前記プレート513Aの周囲を囲む枠体500と、前記プレート513Aと枠体500とを接続するブリッジ501とを有している。
【0167】
前記プレート513Aは、第二の長穴を有さない以外は、実施の形態4の前記プレート413Aと同様に構成されている。すなわち、前記プレート513Aは、中央部を除いてX方向に配列する複数の貫通孔114Aと、中央部に位置する第一の長穴230とを有している。第一の長穴230の長軸はY方向に平行である。
【0168】
枠体500は、前記プレート513Aが囲まれる矩形の開口部と、X方向における両端部であってY方向における中央に位置する第二の長穴241、242とを有する。第二の長穴241、242の長軸は、X方向と平行である。
【0169】
ブリッジ501は、前記プレート513Aの両端であってY方向における両端部である四カ所で、前記プレート513Aと枠体500とを連結している。
【0170】
本実施の形態においで、インク室構成部材の製造は以下のように行われる。
まず前記枠体付きプレート800A、及び、前記プレート113B及び113Cに対応する前記枠体付きプレートを準備する。
次いで、これらの前記枠体付きプレートを積み重ね、第一及び第二の長穴230、241、242に位置決め用ピンが層通されている前記枠体付きプレートの積層体を得る。
次いで、前記枠体付きプレートの積層体を熱拡散接合や熱接着によって接合する。
次いで、接合された前記枠体付きプレートの積層体を冷却する。
前記枠体付きプレートの準備から前記積層体の冷却までは、実施の形態1と同様に行うことができる。
【0171】
なお、本実施の形態では、前記枠体付きプレートを接合する場合には、前記プレートのみを接合させてもよいし、枠体及び前記プレートの両方を接合させてもよい。また、前記枠体付きプレートを仮止めする場合には、前記プレートのみを仮止めしてもよいし、枠体を仮止めしてもよい。
【0172】
次いで、前記枠体付きプレートの積層体の枠体から、前記プレートの積層体を切り離す。前記プレート513Aの切り離しは、プレス加工によって行うことができる。
【0173】
本実施の形態では、実施の形態3及び4と同様に、第一の長穴230が前記プレート513Aの長手方向における中央に形成され、第二の長穴241、242が前記枠体付きプレート800AのY方向の中央に形成されていることから、前記プレート513Aの熱膨張によるX方向及びY方向の変位をより一層抑えることができる。
【0174】
また本実施の形態では、枠500に第二の長穴241、242が形成されるので、流路構成の都合等のインクジェットヘッドの設計の都合で、前記プレート513内に第二の長穴241、242が配置できない場合でも、第二の長穴241、242を形成することができる。また得られるインク室は、前記プレートの端部に第二の長穴を有さないことから、前記プレートが第一及び第二の長穴を有する形態に比べて、前記プレートをより小さくすることができ、熱応力によるひずみを抑制する観点からより一層効果的である。
【0175】
また本実施の形態は、実施の形態1〜4と同様に、1)位置決めピンの抜き取りを含む作業性が高く、位置決めピンから取り出す際にこじってインク室をひずませることがなく、2)製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室を提供することができ、3)貫通孔の長辺の長さの設定によりインク室からのインクの吐出を効率よく行うことができ、4)製造時のひずみの少ない、また使用時、液滴量のばらつきが少なく、吐出される液滴が曲がりにくいインクジェットヘッドを提供できる。
【0176】
[実施の形態6]
図9に本実施の形態における前記プレートを示す。なお、実施の形態1における図2(c)で示した、前記プレート113Cに相当する前記プレートのみを図9に示している。図9において、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0177】
図9に示す前記プレート613Cは、X方向に配列する複数の第三の穴600をさらに有する以外は、実施の形態1における前記プレート113Cと同じに構成されている。
【0178】
第三の穴600は、前記プレート613Cの長手方向における一側部であって、前記プレート613Cと前記プレート113Bとを重ねたときに、貫通孔114Bと連通しない位置に形成されている。すなわち、第三の穴600は、収容部110を形成しない穴である。
【0179】
本実施の形態において、インク室構成部材は、実施の形態1と同様に製造される。
【0180】
本実施の形態では、前記プレートの積み重ね方向において、最も開口比が小さかった前記プレートCが第三の穴を有することから、前記プレート113Aや113Bに対する前記プレート613Cの開口比の差が、実施の形態1〜5に比べて小さくなっている。このため、前記プレートの熱圧着による接合によって、前記プレート間での熱応力が緩和され、この熱応力によるひずみが抑制される。このように本実施の形態は、熱応力によるひずみを抑制する観点から、実施の形態1〜5に比べてより効果的である。
【0181】
また本実施の形態は、実施の形態1〜5と同様に、1)位置決めピンの抜き取りを含む作業性が高く、位置決めピンから取り出す際にこじってインク室をひずませることがなく、2)製造時の作業性に優れ、かつひずみの少ないインク室を提供することができ、3)貫通孔の長辺の長さの設定によりインク室からのインクの吐出を効率よく行うことができ、4)製造時のひずみの少ない、また使用時、液滴量のばらつきが少なく、吐出される液滴が曲がりにくいインクジェットヘッドを提供できる。
【0182】
[その他の実施の形態]
図10に示す前記プレートは、第一の長穴250と第二の長穴251、252とを有する。第一の長穴250は、前記プレートの長手方向の一端部の中央に形成されている。第二の長穴251、252は、前記プレートの長手方向の一側部であって、インク室が配列する範囲の両端部に形成されている。第一の長穴250の長軸は、例えば前記プレートの短手方向に対して5°の角度をなしている。第二の長穴251、252の長軸も、例えば前記プレートの長手方向に対して5°の角度をなしている。
【0183】
図11に示す前記プレートは、第一の長穴260と第二の長穴261、262とを有する。第一の長穴260は、前記プレートの長手方向の一端部の中央に形成されている。第二の長穴261、262は、前記プレートの長手方向の一側部であって、インク室が配列する範囲の両端部に形成されている。第一の長穴260の長軸は、例えば前記プレートの短手方向に対して5°の角度をなす第一の直線上にある。第二の長穴261、262の長軸は、前記プレートの長手方向に対して5°の角度をなし、かつ前記第一の直線と直交する第二の直線上にある。
【0184】
本発明では、熱圧着によるひずみを抑制することができ、かつインク室をこじらずに位置決めピンを容易に抜き取れる範囲において、図10や図11に示す形態の前記プレートを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明は、有機ELの発光層塗布やカラーフィルターの色材料の塗布に使用されるインクジェット装置に適用できる。本発明は、インクジェットヘッドのインク室について、ひずみのないインク室の製造における歩留まりを高めることができる。よって、有機EL素子やカラーフィルター、太陽電池の配線等の、インクジェット装置による塗布工程を含む方法で製造される製品の生産性のさらなる向上に寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0186】
1 基板
11 チャンバープレート
12 インクチャンバー
13 位置決め用の穴
32 陰極
301R、301G、301B 発光層
33 陽極
31、111 隔壁
41 架台
42 基板搬送ステージ
43 ガントリー
44 塗布領域
50 インクジェットヘッド
100 ノズル
110 収容部
112 ダイヤフラム
113A、113B、113C、213A、313A、413A、513A、613C プレート
114A、114B、114C 貫通孔
120 共通電極
121 個別電極
122 駆動回路
130 圧電素子
140 圧電部材
210、220、230、250、260 第一の長穴
221、222、231、232、241、242、251、252、261、262 第二の長穴
410 位置決めピン
420、430 押圧プレート
500 枠体
501 ブリッジ
600 第三の穴
800A 枠体付きプレート
Ra 貫通孔114Aの長辺の範囲
Rb 貫通孔114Bの長辺の範囲
Rc 貫通孔114Cの長辺の範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、前記ノズルに連通しインクを収容するインク室と、前記インク室内に圧力を加える加圧装置と、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク室は、インク室用の穴を有する複数の細長なプレートが積み重ねられて構成され、
前記複数のプレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するように、
複数の前記プレートが前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である、インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記プレートは、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する、前記プレートの長手方向に配列した複数の前記インク室用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の、前記インク室用の穴が設けられている範囲の両端部に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向と平行かつ一直線上にある、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記プレートは、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する、前記プレートの長手方向に配列した複数の前記インク室用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の中央に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の、前記インク室用の穴が設けられている範囲の両端部に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向と平行かつ一直線上にある、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における一側部の中央に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、個々の第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向に平行である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記プレートは、積み重ねられる複数の前記プレートの一部又は全部が有する、前記プレートの中央部を除いて前記プレートの長手方向には配列した複数の前記インク室用の穴を有し、
前記第一の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における中央であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、第一の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの短手方向と平行であり、
前記第二の位置決め用の穴は、前記プレートの長手方向における両端部であって前記プレートの短手方向におけるインク室用の穴が設けられている範囲に位置し、個々の前記第二の位置決め用の穴の長軸が前記プレートの長手方向に平行である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記熱圧着が熱拡散接合である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
複数の前記プレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートが、前記インク室を形成しない、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の第三の穴をさらに有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
インク室内を加圧してノズルからインクの液滴を吐出するインクジェットヘッドのインク室構成部材を製造する方法であって、
(1)積み重ねることによってインク室構成部材を形成する複数の前記プレートであって、前記プレートが、
1)複数の前記プレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するインク室用の穴を有し、
2)前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、
3)前記第一の位置決め用の穴が前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、
4)前記第二の位置決め用の穴が、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である、
前記プレートを準備する工程と、
(2)複数の前記プレートを積み重ね、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている前記プレートの積層体を得る工程と、
(3)前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを、前記プレートの決められた位置関係を維持したまま熱圧着によって接合する工程と、を含む、インク室構成部材の製造方法。
【請求項9】
前記接合する工程が、前記積層体に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程である、請求項8に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項10】
前記接合する工程が、
前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを仮止めする工程と、
仮止めされた前記積層体の前記第一及び第二の位置決め用の穴から前記位置決め用のピンを取り外す工程と、
前記位置決め用のピンが取り外された前記積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程と、を含む、請求項8に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項11】
前記接合する工程における熱圧着が熱拡散接合である、請求項8に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項12】
複数の前記プレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記プレートに、前記インク室を形成しない、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の第三の穴をさらに有する前記プレートを用いる、請求項8に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項13】
インク室内を加圧してノズルからインクの液滴を吐出するインクジェットヘッドのインク室構成部材を製造する方法であって、
(1)細長の前記プレートと、前記プレートから離間して前記プレートの周囲を囲む枠体と、前記プレートと枠体とを接続するブリッジとを有し、積み重ねることによってインク室構成部材を形成する複数の前記枠体付きプレートであって、前記枠体付きプレートが、
1)複数の前記プレートが積み重ねられた状態でインク室を形成するインク室用の穴を有し、
2)前記インク室用の穴とは異なる細長な第一及び第二の位置決め用の穴を有し、
3)前記枠体が、前記第一及び第二の位置決め用の穴の少なくとも一つを有し、
4)前記第一の位置決め用の穴が前記プレートの短手方向に細長く開口する一つ以上の穴であり、
5)前記第二の位置決め用の穴が、前記プレートの長手方向における両端部にそれぞれ一つ以上配置され、前記プレートの長手方向に細長く開口する二つ以上の穴である、
前記枠体付きプレートを準備する工程と、
(2)複数の前記枠体付きプレートを積み重ね、前記第一及び第二の位置決め用の穴に位置決め用のピンが挿通されている前記枠体付きプレートの積層体を得る工程と、
(3)前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを、前記プレートの決められた位置関係を維持したまま熱圧着によって接合する工程と、
(4)接合された前記枠体付きプレートの積層体から前記プレートの積層体を切り離す工程と、を含む、インク室構成部材の製造方法。
【請求項14】
前記接合する工程が、前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程である、請求項13に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項15】
前記接合する工程が、前記第一及び第二の位置決め用の穴に前記位置決め用のピンが挿通された状態で、前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを仮止めする工程と、
仮止めされた、前記枠体付きプレートの積層体の前記第一及び第二の位置決め用の穴から前記位置決め用のピンを取り外す工程と、
前記位置決め用のピンが取り外された、前記枠体付きプレートの積層体における複数の前記プレートのそれぞれを熱圧着によって接合する工程と、を含む、請求項13に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項16】
前記接合する工程における熱圧着が熱拡散接合である、請求項13に記載のインク室構成部材の製造方法。
【請求項17】
複数の前記枠体付きプレートのうち、前記プレートにおけるインク室用の穴の開口比がより小さな一以上の前記枠体付きプレートに、前記インク室を形成しない、前記第一及び第二の位置決め用の穴以外の第三の穴を前記プレートにさらに有する前記枠体付きプレートを用いる、請求項13に記載のインク室構成部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−39507(P2013−39507A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176860(P2011−176860)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】