説明

インクジェットヘッド

【課題】 後端にチャンネル溝内部を満たす導電性樹脂を備えるインクジェットヘッドにおいて、導電性樹脂とチャンネル壁との間のクラック発生を防止する。
【解決手段】 インクジェットヘッドは、チャンネル壁3に隔てられる複数のチャンネル溝4を前端と後端とを結ぶように形成されたベース部材1と、このベース部材1の、複数のチャンネル溝4を有する側の面に対向するようにベース部材1と接して配置されたカバー部材2と、チャンネル溝4の内面の少なくとも一部に配置された駆動電極としての電極5と、この電極5と電気的に接続されるように、後端においてチャンネル溝4の内部を満たすように配置された導電性樹脂26とを備える。ただし、チャンネル溝4の深さは前端におけるよりも後端における方が浅くなっている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プリンタなどに用いられるインクジェットヘッドに関する。より詳しくは、圧電部材を含む壁によって規定されたインク室の内部に貯まったインクを、この圧電部材に電圧を印加して変形させ、インク室内に圧力振動を生じさせることによって、噴出させる方式のインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、プリンタにおいては、インパクト印字装置に代わって、カラー化、多階調化に対応しやすいインクジェット方式などのノンインパクト印字装置が急速に普及している。これに用いるインク噴射装置としてのインクジェットヘッドとしては、特に、印字に必要なインク滴のみを噴射するというドロップ・オン・デマンド型が、噴射効率の良さ、低コスト化の容易さなどから注目されている。ドロップ・オン・デマンド型としては、カイザー(Kyser)方式やサーマルジェット方式が主流となっている。
【0003】しかし、カイザー方式は、小型化が困難で高密度化に不向きであるという欠点を有していた。また、サーマルジェット方式は、高密度化には適しているものの、ヒータでインクを加熱してインク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを利用して噴射させる方式であるため、インクの耐熱性が要求され、また、ヒータの長寿命化も困難であり、エネルギー効率が悪いため、消費電力も大きくなるという問題を有していた。
【0004】このような各方式の欠点を解決するものとして、圧電材料のシェアモードを利用したインクジェット方式が開示されている。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネルの壁(以下、「チャンネル壁」という。)の両側面に形成した電極を用いて、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を生じさせることで、シェアモードでチャンネル壁を変形させ、その際に生じる圧力波変動を利用してインク滴を吐出するものであり、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。
【0005】図14を参照して、このようなシェアモードを利用したインクジェットヘッドの構造について説明する。このインクジェットヘッドは、図14の上下方向に分極処理を施した圧電体材料に複数のチャンネル溝4が形成されたベース部材1と、インク供給口21とマニホールド空間24が形成されたカバー部材2と、ノズル孔10があけられたノズル板9を張り合わせることで、インクチャンネルを形成している。「インクチャンネル」とは、チャンネル溝4の内部の空間を利用して形成される圧力室の部分をいう。チャンネル壁3には、電界を印加するための電極5が上半分のみに形成されている。以下、インクジェットヘッドにおいて、ノズル板9のある側を前とし、これと反対側を後ろとする。このインクチャンネルの場合、チャンネル溝4の後端部は、溝加工時に使用されるダイシングブレードの直径に対応したR形状に加工されており、さらに外部との電気的接続のための電極引出し部としての浅溝部6が同じくダイシングブレードにより加工されている。浅溝部6に形成された電極は、浅溝部6の後端で、たとえばフレキシブルプリント基板11の外部電極8とボンディングワイヤ7によって接続されている。このような構造のインクジェットヘッドでは、マニホールド空間24からR形状の領域を経由してインクが供給されるが、本来の吐出に必要な圧力は、ベース部材1に設けられたチャンネル壁3の上部がカバー部材2と接着固定されている領域で発生するものであり、R形状の領域は本来不要な部分であり、静電容量の増加の原因となっている。
【0006】このような静電容量を低減できるインクジェットヘッドとして、R形状の領域をなくした構造が、特開平9−94954号公報に開示されている。しかし、同公報に開示されたインクジェットヘッドでは、チャンネル壁から電極を外部に引出す際に、ベース基板の底面から接続を行なうので、接続用の電極を形成するために複雑な工程が必要であった。
【0007】そこで、インクジェットヘッドの静電容量を低減でき、かつ、チャンネル壁からの電極引出しも容易な構造として、図15、図16に示すような構造が提案されている。図15は、このインクジェットヘッドを途中で切断し、さらに分解した状態の斜視図である。このインクジェットヘッドを組立てた状態の断面図を図16R>6に示す。このインクジェットヘッドでは、チャンネル溝4が同一の深さでベース部材1の前端から後端まで貫通するように設けられていることが特徴である。この構造においては、R形状の領域をなくすことができ、静電容量を低減できている。また、圧電材料の使用量も削減できている。チャンネル溝4の後端近傍では、チャンネル溝4内が導電性樹脂26で封止されることによって、同一チャンネル溝4に面する電極5同士は同電位になるように、電気的接続が行なわれている。導電性樹脂26はチャンネル溝4の後端にまで達しており、ベース部材1の後端は、異方性導電性フィルム(以下、「ACF」という。)12を挟みこむようにしてフレキシブルプリント基板11が接続されている。フレキシブルプリント基板11の表面の外部電極8と導電性樹脂26とは、ACF12を挟み込んで厚み方向に圧迫することによって、それぞれ電気的に接続されている。ただし、ACF12の特性により、各インクチャンネルごとに電気的な独立が保たれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来のインクジェットヘッドでは、導電性樹脂26は、チャンネル溝4の後端近傍に液状のまま塗布され、硬化させて形成されるものであったので、導電性樹脂26の硬化収縮によって、導電性樹脂26とチャンネル壁3との間にクラック(亀裂)が生じる場合があった。また、導電性樹脂26は昇温した状態で硬化させられるが、導電性樹脂26の線膨張係数は、ベース部材1として用いられている圧電材料の線膨張係数より大きいので、硬化後の冷却時に生じる熱収縮によっても、導電性樹脂26とチャンネル壁3との間にクラックが生じる場合があった。これらの原因で生じたクラックの例を図17に示す。導電性樹脂26とチャンネル壁3との間にクラック16が生じている。このようなクラックは、電極5と外部電極8との間の電気的接続不良の原因となる。
【0009】そこで、本発明は、導電性樹脂とチャンネル壁との間のクラック発生を防止できるインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明に基づくインクジェットヘッドは、前端と後端とを有し、圧電材料を含むチャンネル壁に隔てられるようにして複数のチャンネル溝を上記前端と上記後端とを結ぶように形成されたベース部材と、上記ベース部材の、上記複数のチャンネル溝を有する側の面に対向するように上記ベース部材と接して配置されたカバー部材と、上記チャンネル溝の内面の少なくとも一部に配置された駆動電極と、上記駆動電極と電気的に接続されるように、上記後端において上記チャンネル溝の内部を満たすように配置された導電性樹脂とを備え、上記チャンネル溝の深さは上記前端におけるよりも上記後端における方が浅くなっている。この構成を採用することにより、前端近傍ではチャンネル壁の十分なシェアモード変形を確保しつつも、後端においては使用する導電性樹脂の体積を小さくすることができる。したがって、導電性樹脂の硬化収縮あるいは熱収縮の際に導電性樹脂とチャンネル壁との界面に生じる応力を小さくすることができ、クラックが生じることを防止できる。
【0011】上記発明において好ましくは、上記チャンネル溝の深さは、上記前端から上記後端に向かって連続的に浅くなっていく。この構成を採用することにより、マニホールド空間からインクチャンネルへのインクの流れが円滑になり、インクを安定して吐出することができる。
【0012】上記発明において好ましくは、上記チャンネル溝は、上記前端を起点として上記チャンネル溝の長手方向に沿って延びる前部領域を含み、上記チャンネル溝の深さは上記前部領域においては一定であり、上記前部領域における上記チャンネル溝の深さよりも、上記後端における上記チャンネル溝の深さの方が浅い。この構成を採用することにより、インク吐出に特に深く関わる部分におけるチャンネル溝の深さが一定となるので、チャンネル壁のシェアモード変形の効率を高くすることができ、インクを効率良く吐出することができる。
【0013】上記発明において好ましくは、上記前端から上記チャンネル溝の長手方向途中までの領域において上記チャンネル壁の上端が上記カバー部材に固定された壁固定領域を有し、上記チャンネル溝の長手方向に沿った長さを比較したとき上記前部領域の長さは上記壁固定領域の長さ以上となっている。この構成を採用することにより、壁固定領域の全域においてチャンネル溝の深さが一定となるので、壁固定領域の全域においてシェアモード変形の効率を高くすることができる。
【0014】上記発明において好ましくは、上記チャンネル溝は、上記後端を起点として上記チャンネル溝の長手方向に沿って延びる後部領域を含み、上記チャンネル溝の深さは上記後部領域においては一定であり、上記前端における上記チャンネル溝の深さよりも、上記後部領域における上記チャンネル溝の深さの方が浅い。この構成を採用することにより、硬化前の導電性樹脂がチャンネル溝に沿って前側に不所望に流れてしまうことを防止できる。したがって、導電性樹脂の塗布効率を上げることができ、導電性樹脂の使用量を低減することができる。
【0015】上記発明において好ましくは、上記ベース部材の上記後端に固定された外部電極を備え、上記外部電極と上記導電性樹脂とは間に異方性導電性フィルムを挟みこむことによって電気的に接続されており、上記後端における上記チャンネル溝の断面は、断面積が2300μm2以上である。この構成を採用することにより、異方性導電性フィルムを介して外部電極と接続する際にも、導電性樹脂の接する部分に最低限必要な面積を確保できるので、電気的接続を確実に行なうことができる。
【0016】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)
(構成)図1〜図3を参照して、本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの構成について説明する。図1、図2に示すように、このインクジェットヘッドでは、図15、図16に示した従来のものと同様に、ノズル板9が取付けられる前端と、その反対側である後端とを有し、ベース部材1とカバー部材2とを備える。図1はわかりやすくするために途中で切断し、さらに各部を分解した状態を示している。図2は、このインクジェットヘッドをチャンネル溝4の中心線においてチャンネル溝4の長手方向と平行に切断した場合の断面図である。
【0017】ベース部材1は圧電材料からなり、複数のチャンネル溝4が前端と後端とを結ぶように平行に形成されている。チャンネル溝4同士の間は、ベース部材1の一部であるチャンネル壁3によって隔てられている。チャンネル壁3の側面すなわちチャンネル溝4の内面のほぼ上半分には、チャンネル壁3をシェアモード変形させるための駆動電極としての電極5が薄く形成されている。後端においては、チャンネル溝の内部に導電性樹脂26が満たされており、この結果、導電性樹脂26は電極5と電気的に接続されている。導電性樹脂26はACF12を介在してフレキシブルプリント基板11の表面の外部電極8と電気的に接続されている。
【0018】カバー部材2には凹部を形成することでマニホールド空間24bが設けられている。一方、マニホールド部材20は、内部にマニホールド空間24aを有し、前側が開放され、後ろ側にインク供給口21を備える。ベース部材1とカバー部材2とを貼り合せ、後端にフレキシブルプリント基板11を配置したもののさらに後端を覆い、塞ぐようにマニホールド部材20がさらに取付けられることによって、マニホールド空間24aとマニホールド空間24bとはつながり、連続したマニホールド空間24を構成する。
【0019】ここまでは図15、図16に示した従来のインクジェットヘッドと同様であるが、このインクジェットヘッドでは、従来のインクジェットヘッドと異なり、チャンネル溝4の深さは前端におけるよりも後端における方が浅くなっている。前端より後端の方がチャンネル溝4が浅くなっていることが本発明の基本であり、後端が前端より浅くなっていることだけでも一応の効果を奏する。ただし、図2に示すように前端から後端に向かって連続的に浅くなっていくことがより好ましい。「連続的に」とは、途中で平坦な箇所を含むことを排除するものではなく、チャンネル溝4の深さに注目して前端から後端に向かうときに途中で深さが増大する部分がないことを意味する。
【0020】図3にこのインクジェットヘッドからマニホールド部材20を取り去った状態で後ろ側から見た状態を示す。チャンネル溝4が後端において浅くなっているため、導電性樹脂26が後端に露出する面積は、前端におけるチャンネル溝4の断面積(破線で示したもの)に比べて小さくなっている。
【0021】(製造方法など)このインクジェットヘッドの各部の具体的な寸法や製造方法について以下に述べる。チャンネル溝4は深さ300μm、幅77μm、ピッチ169μmである。ベース部材1とカバー部材2とが接している部分の長さ、すなわち図2における領域Aの長さは1.1mmであり、チャンネル溝4の上方がマニホールド空間24bとなっている部分の長さ、すなわち領域Bの長さは2.4mmである。なお、各領域に言及する際に「長さ」とは、原則としてチャンネル溝4の長手方向に沿った長さをいう。
【0022】電極5は、材料としてAlを用い、斜め蒸着法によって形成されたものであり、厚みが1.0μmである。電極5の材料としては、Al以外に、Cu、Ni、Tiなどの導電性材料を用いてもよい。
【0023】ノズル板9には、厚み50μmのポリイミドフィルムを用い、ノズル孔10は、エキシマレーザ加工によって設けられている。ノズル板9としては、ポリイミドフィルムに代えて、ポリエチレン系の高分子樹脂フィルムを用いることとしてもよい。あるいは、ステンレス板などの金属板に打抜加工によりノズル孔10をあけてもよい。
【0024】カバー部材2は、分極されていない圧電体基板を用いており、サンドブラスト加工によってマニホールド空間24bが形成されている。カバー部材2としては、セラミック基板などを用いることもできる。マニホールド空間24bの形成には、フライス加工や成形加工を用いてもよい。
【0025】チャンネル溝4の後端近傍には導電性樹脂26が埋めこまれており、外部電極8と導電性樹脂26との接続には、ACF(異方性導電性フィルム)12が用いられている。
【0026】上述のように前端から後端に向かうにつれてチャンネル溝4が連続的に浅くなったインクジェットヘッドを製造するには、以下のようにすればよい。
【0027】まず、図4に示すように、ベース部材1の材料である圧電基板30にダイシングブレード15を真上から下ろすことによって円弧状に加工する。こうして得たチャンネル溝4の内面すなわちチャンネル壁3の側面の上半分にAlの斜め蒸着によって電極5を形成した後の様子を図5に示す。
【0028】図6に示すように、チャンネル溝4の両端に導電性樹脂26をディスペンサ(図示省略)によって流し込み、硬化させる。図7に示すように、上面に研磨加工を施すことによって、チャンネル溝4からあふれていた導電性樹脂26を除去する。この結果、隣接するチャンネル溝4同士の導電性樹脂26はそれぞれ分離され、電気的に独立となる。図8に示すように圧電基板30を切断し、ベース部材1の断片を得る。この方法では、左右対称に加工を進められるので同時に2個のベース部材1が得られる。
【0029】ダイシングブレード15の半径が25.4mmの場合、インクジェットヘッドの前端となる位置で深さ300μmとすると、前端から3.5mm離れた位置で切断すれば、後端でのチャンネル溝4の深さは約60μmとすることができる。
【0030】(作用・効果)本実施の形態におけるインクジェットは、チャンネル溝4の深さが前端より後端で浅くなっているので、前端近傍では十分深いチャンネル溝4によってチャンネル壁3の十分なシェアモード変形を確保しつつも、後端においてはチャンネル溝4が浅くなっていることによって使用する導電性樹脂26の体積を小さくすることができる。したがって、導電性樹脂26の硬化収縮あるいは熱収縮の際に導電性樹脂26とチャンネル壁3との界面に生じる応力を小さくすることができ、導電性樹脂26とチャンネル壁3との間にクラックが生じることを防止できる。このクラックを防止できることによって、電極5と外部電極8との間の電気的接続を確実にすることができる。
【0031】チャンネル溝の深さが前端から後端に向かって連続的に浅くなっていく場合には、マニホールド空間24からインクチャンネルへのインクの流れが円滑になり、インクを安定して吐出することができる。
【0032】本実施の形態では、後端でのチャンネル溝4の深さを60μmとしている。この深さが浅い方が使用する導電性樹脂26の体積を小さくするという意味では好ましいが、あまりに浅くしすぎると、ACF12を介して外部電極8と接続する際に導電性樹脂26の接する面積が小さくなりすぎて十分な電気的接続をとれなくなってしまうので、一定以上の面積が必要である。たとえば、チャンネル溝4の幅が約77μmの条件下では、深さは30μm以上である場合に電気的接続を確保することができた。これは、後端におけるチャンネル溝4の断面積が2300μm2以上となったことによる。すなわち、十分な電気的接続を確保するには、導電性樹脂26の接する面積が2300μm2以上必要であるといえる。
【0033】(実施の形態2)
(構成)図9を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの構成について説明する。このインクジェットヘッドは、基本的には実施の形態1におけるものと同様であるが、前端を起点として一定の長さだけチャンネル溝4の深さが一定となっている領域Cを有する。この部分を「前部領域」ともいう。領域Cの後ろ側に続く領域Dにおいてはチャンネル溝4は後端に向かうにつれて連続的に浅くなっている。
【0034】(製造方法など)このインクジェットヘッドの各部の具体的な寸法や製造方法について以下に述べる。領域Aの長さは1.1mm、領域Bの長さは3.1mmである。領域Cの長さは1mmである。後端におけるチャンネル溝4の深さは100μmである。領域Cを形成するには、図10に示すように、ベース部材1の材料である圧電基板30にダイシングブレード15を真上から下ろした後にチャンネル溝4の長手方向に沿って平行移動させることで図11に示すように容易に形成することができる。本実施の形態では、前端におけるチャンネル溝4の深さが300μmで領域Cの長さが1mmであるので、ダイシングブレード15を300μm切り込ませた状態で水平方向に1mm移動すればよい。図10R>0、図11の例では、領域Cを1つ分しか形成していないが、図7、図8に示したように左右対称に形成して同時に2個のベース部材1を製造しようとする場合には、領域Cの長さの2倍に切断代を加えた長さだけダイシングブレード15を水平方向に移動すればよい。
【0035】(作用・効果)領域Aは、チャンネル壁3の上端がカバー部材2に固定された壁固定領域である。領域Aはチャンネル壁3がシェアモード変形してインク吐出に必要な圧力を発生させる部分である。この領域Aにほぼ重なるようにチャンネル溝4の深さが一定の領域Cが存在することで、実施の形態1で述べた効果と同様の効果が得られるだけでなく、さらに、チャンネル壁3のシェアモード変形の効率を高くすることができる。したがって、インクを効率良く吐出することができる。
【0036】図9に示した上述の例では、領域C(前部領域)の長さは壁固定領域(領域A)の長さより短いが、図12に示すように領域Cの長さが領域Aの長さと同じか領域Cの長さより長い方がより好ましい。こうすれば、領域Aの全域においてチャンネル溝4の深さが一定となるので、領域Aの全域においてシェアモード変形の効率を高くすることができるからである。
【0037】(実施の形態3)
(構成)図13を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの構成について説明する。このインクジェットヘッドは、基本的には実施の形態1におけるものと同様であるが、後端を起点として一定の長さだけチャンネル溝4の深さが一定となっている領域Fを有する。この部分を「後部領域」ともいう。領域Fの前側に続く領域Eにおいてはチャンネル溝4は後端に向かうにつれて連続的に浅くなっている。
【0038】(製造方法など)このインクジェットヘッドの各部の具体的な寸法や製造方法について以下に述べる。領域Aの長さは1.1mm、領域Bの長さは2.4mmである。領域Fの長さは0.5mmである。領域Fにおけるチャンネル溝4の深さは60μmである。領域Fの部分は、圧電基板を加工する際にダイシングブレード15を水平方向に平行移動させることで容易に得ることができる。
【0039】(作用・効果)本実施の形態におけるインクジェットヘッドには、後端近傍の導電性樹脂26が配置された領域にチャンネル溝4の深さが一定の領域Fが存在する。したがって、導電性樹脂26をディスペンサで流し込む際に、硬化前の導電性樹脂26がチャンネル溝4に沿って前側に不所望に流れてしまうことを防止できる。その結果、実施の形態1で説明した効果と同様の効果が得られるだけでなく、さらに、導電性樹脂26の塗布効率を上げることができる。塗布効率を上げることは、導電性樹脂26の使用量を低減することにつながる。
【0040】なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば、前端近傍ではチャンネル壁の十分なシェアモード変形を確保しつつも、後端においては使用する導電性樹脂の体積を小さくすることができる。したがって、導電性樹脂の硬化収縮あるいは熱収縮の際に導電性樹脂とチャンネル壁との界面に生じる応力を小さくすることができ、導電性樹脂とチャンネル壁との間にクラックが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図2】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの断面図である。
【図3】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドを、マニホールド部材を取り去った状態で後ろ側から見た図である。
【図4】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの製造工程の第1の説明図である。
【図5】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの製造工程の第2の説明図である。
【図6】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの製造工程の第3の説明図である。
【図7】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの製造工程の第4の説明図である。
【図8】 本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの製造工程の第5の説明図である。
【図9】 本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの断面図である。
【図10】 本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの製造工程の第1の説明図である。
【図11】 本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの製造工程の第2の説明図である。
【図12】 本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドのさらに好ましい例の断面図である。
【図13】 本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッドの製造工程の第2の説明図である。
【図14】 従来技術に基づく第1のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図15】 従来技術に基づく第2のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図16】 従来技術に基づく第2のインクジェットヘッドの断面図である。
【図17】 従来技術に基づく第2のインクジェットヘッドにおいてクラックが生じた例を示す図である。
【符号の説明】
1 ベース部材、2 カバー部材、3 チャンネル壁、4 チャンネル溝、5電極、6 浅溝部、7 ボンディングワイヤ、8 外部電極、9 ノズル板、10 ノズル孔、11 フレキシブルプリント基板、12 異方性導電フィルム(ACF)、15 ダイシングブレード、16 クラック、20 マニホールド部材、21 インク供給口、24,24a,24b マニホールド空間、26導電性樹脂、30 圧電基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 前端と後端とを有し、圧電材料を含むチャンネル壁に隔てられるようにして複数のチャンネル溝を前記前端と前記後端とを結ぶように形成されたベース部材と、前記ベース部材の、前記複数のチャンネル溝を有する側の面に対向するように前記ベース部材と接して配置されたカバー部材と、前記チャンネル溝の内面の少なくとも一部に配置された駆動電極と、前記駆動電極と電気的に接続されるように、前記後端において前記チャンネル溝の内部を満たすように配置された導電性樹脂とを備え、前記チャンネル溝の深さは前記前端におけるよりも前記後端における方が浅くなっている、インクジェットヘッド。
【請求項2】 前記チャンネル溝の深さは、前記前端から前記後端に向かって連続的に浅くなっていく、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】 前記チャンネル溝は、前記前端を起点として前記チャンネル溝の長手方向に沿って延びる前部領域を含み、前記チャンネル溝の深さは前記前部領域においては一定であり、前記前部領域における前記チャンネル溝の深さよりも、前記後端における前記チャンネル溝の深さの方が浅い、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】 前記前端から前記チャンネル溝の長手方向途中までの領域において前記チャンネル壁の上端が前記カバー部材に固定された壁固定領域を有し、前記チャンネル溝の長手方向に沿った長さを比較したとき前記前部領域の長さは前記壁固定領域の長さ以上となっている、請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】 前記チャンネル溝は、前記後端を起点として前記チャンネル溝の長手方向に沿って延びる後部領域を含み、前記チャンネル溝の深さは前記後部領域においては一定であり、前記前端における前記チャンネル溝の深さよりも、前記後部領域における前記チャンネル溝の深さの方が浅い、請求項1、3または4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】 前記ベース部材の前記後端に固定された外部電極を備え、前記外部電極と前記導電性樹脂とは間に異方性導電性フィルムを挟みこむことによって電気的に接続されており、前記後端における前記チャンネル溝の断面は、断面積が2300μm2以上である、請求項1から5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2003−246058(P2003−246058A)
【公開日】平成15年9月2日(2003.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−50866(P2002−50866)
【出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】