説明

インダクタンス式回転角度センサ及びその製造方法

【課題】温度変化に起因する基板の板厚変化を抑え,回転体の角度変化の検出精度を安定させ得るインダクタンス式回転角度センサを提供する。
【解決手段】ステータ25を,環状に形成される励磁導体27と,この励磁導体27に隣接配置される受信導体28とをガラスエポキシ樹脂製の基板26にプリントして構成する一方,ロータ23に励磁導体27に対向する励起導体24を付設したインダクタンス式回転角度センサにおいて,基板26の表裏両面に,この基板26の周辺部及び,この基板26が有する貫通孔34を通して互いに連結する熱硬化性樹脂製の被覆層32をモールド形成すると共に,この被覆層32のうち,励磁導体27及び受信導体28を被覆する部分を,肉厚が他の部分より薄い薄肉部32aに形成し,この薄肉部32aを露出状態にして,ステータ25を熱可塑性樹脂製の制御ハウジング1bに埋設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,検出対象の回転体に取り付けられるロータと,非回転の制御ハウジングに取り付けられるステータとからなり,そのステータを,環状に形成される励磁導体と,この励磁導体に隣接配置される受信導体とをガラスエポキシ樹脂製の基板にプリントして構成する一方,ロータに前記励磁導体に対向する励起導体を付設し,その励起導体の回転に伴なう励磁導体のインダクタンスの変化を回転体の回転角度変化として受信導体より検出するインダクタンス式回転角度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝるインダクタンス式回転角度センサは,特許文献1に開示されるように知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−96231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝるインダクタンス式回転角度センサでは,ステータの励磁導体及び受信導体と,ロータの励起導体との対向間隙を極力狭く且つ安定させることが,回転体の角度変化の検出精度を高める上で重要であるが,励磁導体及び受信導体をプリントしたガラスエポキシ樹脂製の基板では,その内部のガラス繊維の方向により,板面方向では線膨張係数が極めて小さいが,板厚方向では線膨張係数が比較的大きいため,エンジン周囲のような温度変化の激しい環境でインダクタンス式回転角度センサを使用する場合には,基板の板厚の変化により前記対向間隙が変化し,回転体の角度変化の検出精度が低下することがある。しかしながら,従来のインダクタンス式回転角度センサでは,温度変化に起因する基板の板厚変化を防ぐ配慮が殆ど払われていないのが実情である。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,温度変化に起因する基板の板厚変化を抑え,回転体の角度変化の検出精度を安定させ得るインダクタンス式回転角度センサを提供すること,並びにその回転角度センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,検出対象の回転体に取り付けられるロータと,非回転の制御ハウジングに取り付けられるステータとからなり,そのステータを,環状に形成される励磁導体と,この励磁導体に隣接配置される受信導体とをガラスエポキシ樹脂製の基板にプリントして構成する一方,ロータに前記励磁導体に対向する励起導体を付設し,その励起導体の回転に伴なう励磁導体のインダクタンスの変化を回転体の回転角度変化として受信導体より検出するインダクタンス式回転角度センサにおいて,前記基板の表裏両面に,この基板の周辺部及び,この基板が有する貫通孔を通して互いに連結する熱硬化性樹脂製の被覆層をモールド形成すると共に,この被覆層のうち,前記励磁導体及び受信導体を被覆する部分を,肉厚が他の部分より薄い薄肉部に形成し,この薄肉部を露出状態にして,前記ステータを熱可塑性樹脂製の前記制御ハウジングに埋設したことを第1の特徴とする。尚,前記回転角度センサは後述する本発明の実施例中のスロットル開度センサ22に対応し,また前記回転体はスロットル弁3に対応する。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記被覆層を,前記基板の板厚方向の線膨張係数より小さい線膨張係数を有する熱硬化性樹脂で構成したことを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第1の特徴に加えて,一端部をカプラ端子とする複数のバスバーを前記基板上のバスバー接続部に接続すると共に,それらバスバー接続部を前記被覆層に埋設し,前記カプラ端子を保持するカプラを前記制御ハウジングに一体に形成したことを第3の特徴とする。
【0009】
さらにまた本発明は,第1の特徴のインダクタンス式回転角度センサの製造方法であって,前記ステータを被覆層成形用の固定型及び可動型間にセットして,固定型及び可動型間に画成されるキャビティに熱硬化性樹脂を充填することにより,前記基板の表裏両面を被覆する熱硬化性樹脂製の被覆層を成形するに当たり,前記複数本のバスバーを,前記基板の外側縁に近接した箇所でタイバーを介して相互に一体に連結すると共に,最外側に位置するバスバーに前記タイバーと並んで外側方に突出する耳部を形成する一方,前記バスバー,タイバー及び耳部を緩く収容する保持溝を固定型及び可動型の一方に形成しておき,前記ステータを固定型及び可動型間にセットして両型を閉じたとき,両型を前記バスバー及びタイバーの上下両面に密着させると共に,前記耳部を押し潰して,それら耳部と,それら耳部に対向する前記保持溝の内側面との間の隙間を埋め,次いで前記キャビティに熱硬化性樹脂を充填したとき,そのキャビティから前記保持溝に流出する樹脂を前記タイバー及び耳部により堰き止めることを第4の特徴とする。前記タイバーは,後述する本発明の実施例中の第1タイバー36に対応する。
【0010】
さらにまた本発明は,第1の特徴のインダクタンス式回転角度センサの製造方法であって,前記ステータを被覆層成形用の固定型及び可動型間にセットして,固定型及び可動型間に画成されるキャビティに熱硬化性樹脂を充填することにより,前記基板の表裏両面を被覆する熱硬化性樹脂製の被覆層を成形するに当たり,前記複数本のバスバーの各外側面に,前記基板の外側縁に近接した箇所でこれらバスバーの配列方向に突出する一対の耳部を突設する一方,これらバスバー及びを耳部を緩く収容する保持溝を固定型及び可動型の一方に形成しておき,前記ステータを固定型及び可動型間にセットして両型を閉じたとき,両型を前記バスバーの上下両面に密着させると共に,前記耳部を押し潰して,それら耳部と,各前記保持溝の内側面との間の隙間を埋め,次いで前記キャビティに熱硬化性樹脂を充填したとき,そのキャビティから前記保持溝に流出する樹脂を前記耳部により堰き止めることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,基板の表裏の熱硬化性樹脂製の被覆層が協働して基板の板厚方向の熱膨張を抑制することができる。しかも被覆層において,励磁導体を覆う薄肉部は,肉厚が他の部分より薄いので,励磁導体とロータの励起導体との対向間隙を狭めることができ,また環境の温度変化によるも,ステータの励磁導体と,ロータの励起導体との対向間隙の変化をなくし,もしくは極小に抑えることができ,インダクタンス式回転角度センサの回転角度検出精度を高めると共に安定させることができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,被覆層を,線膨張係数が基板のガラスエポキシ樹脂の板厚方向の線膨張係数より小さい熱可塑性樹脂で成形することにより,基板の板厚方向の熱膨張を一層効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,一端部をカプラ端子とするバスバーの基板との接続部を前記被覆層に埋設することにより,バスバーと基板との接続不良や,水分の浸入によるバスバー相互の短絡を防ぐことができ,しかも制御ハウジングのモールド成形と同時に基板及びカプラ端子の保持を行うことができ,構造の簡素化を図ることができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば,キャビティに熱硬化性樹脂を充填した際,各バスバーの根元と,各保持溝の内側面との間の隙間にバリとして流出しても,それを耳部付きのタイバーによって堰き止めることができ,したがって熱硬化性樹脂のタイバー以降への流出を防ぎ,バリの形成を最小限に押えることができる。
【0015】
本発明の第5の特徴によれば,キャビティへの熱硬化性樹脂の充填時,キャビティから各バスバーの根元の隙間に流出した熱硬化性樹脂を,耳部によって堰き止めることができ,バリの形成を最小限に押えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施したスロットル開度センサを備えるエンジンの吸気制御装置の断面図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】図1中の制御ハウジングのハウジングカバー内側面図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】図3中のステータを,被覆層の破断状態で示す平面図。
【図7】上記ステータへの被覆層の成形時,そのステータを被覆層成形用金型にセットした状態を示す平面図。
【図8】図7の8−8線断面図で,(A)は金型を開いた状態,(B)は金型を閉じた状態を示す。
【図9】図7の9−9線断面図で,(A)は金型を開いた状態,(B)は金型を閉じた状態を示す。
【図10】図7の10−10線断面図で,(A)は金型を開いた状態,(B)は金型を閉じた状態を示す。
【図11】被覆層成形直後のステータの平面図。
【図12】ステータへの被覆層の別の成形方法を示す図7と対応ず。した状態を示す平面図。
【図13】図12の13−13線断面図で,(A)は金型を開いた状態,(B)は金型を閉じた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0018】
図1及び図2において,自動二輪車,自動車等の車両用エンジンの吸気マニフォルドMにスロットルボディ1が複数のボルト7により取り付けられる。このスロットルボディ1は,吸気路2を内側に有する吸気胴1aと,この吸気胴1aの水平方向一側から下部にかけて連設される制御ハウジング1bとよりなっている。吸気胴1aには,吸気路2を開閉するスロットル弁3が,その弁軸3aを吸気胴1aの左右両側壁に軸受4,5を介して回転自在に支承させることで,取り付けられる。
【0019】
スロットルボディ1の右側壁には,弁軸3aの右端部の外端及び軸受5を覆うキャップ6が嵌装される。弁軸3aの左端部は,スロットルボディ1の左側壁外方に突出しており,その突出端部に,スロットル弁3を開閉駆動するための電動モータ8が減速ギヤ機構9を介して連結される。
【0020】
減速ギヤ機構9は,電動モータ8の出力軸10に固着される1次駆動ギヤ11,中間軸15に回転自在に支承されて1次駆動ギヤ11と噛合する1次従動ギヤ12,この1次従動ギヤ12の一側に一体に形成される2次駆動ギヤ13,弁軸3aの左端部に固着されて2次駆動ギヤ13と噛合するセクタ型の2次従動ギヤ14とで構成され,電動モータ8の出力軸10の回転を2段階減速して弁軸3aに伝達して,スロットル弁3を開閉し得るようになっている。減速ギヤ機構9の各ギヤはスパーギヤであり,弁軸3a,出力軸10及び中間軸15は,これらの軸線が前記吸気路2の軸線と直交して互いに平行に並ぶように配置される。2次従動ギヤ14には,これをスロットル弁3の閉じ方向に付勢する,捩じりコイルばねよりなる閉じばね17が接続される。
【0021】
制御ハウジング1bは,吸気胴1aと一体に成形されるハウジング本体19と,このハウジング本体19の開放面に複数のビス35により接合される合成樹脂製のハウジングカバー20とで構成される。ハウジング本体19及びハウジングカバー20の接合面は,弁軸3aの軸線と直交するもので,それらの接合面間にはシール部材21が介装される。ハウジング本体19内の下部には電動モータ8が収容され,減速ギヤ機構9はハウジングカバー20からハウジング本体19にかけてそれらの内部に収容され,中間軸15は,ハウジング本体19及びハウジングカバー20により両端部が支承される。
【0022】
スロットル弁3の弁軸3a及びハウジングカバー20間には,スロットル弁3の開度を検出するインダクタンス式のスロットル開度センサ22が構成される。このスロットル開度センサ22及びその周辺部の構成について,図1〜図6により説明する。
【0023】
図1において,弁軸3aの左端部には,それより小径のねじ軸3bが環状段部3cを介して一体に連設されている。一方,合成樹脂製の2次従動ギヤ14のボスは,その内周側に埋入されて一体化された金属製で環状の取り付け板14aを備えており,この取り付け板14aに上記ねじ軸3bを挿通させた後,そのねじ軸3bの先端部にソケットナット23を螺合緊締することにより,取り付け板14aは,前記環状段部3cとナット23間で挟持,固定される。そのソケットナット23の外端部外周にスロットル開度センサ22の合成樹脂製のロータ23が固着され,このロータ23の外端部に励起導体24が配設される。
【0024】
図1,図3〜図6に示すように,スロットル開度センサ22のステータ25は,ガラスエポキシ樹脂製の基板26の表面に環状の励磁導体27と,その内側に隣接配置される環状の受信導体28とをプリントすると共に,その裏面に一対のマイクロコンピュータ29,29′を実装してなるもので,その励磁導体27が,前記ロータ23の励起導体24に間隙を存して対向配置される。而して,電源から励磁導体27に電流を供給し,ロータ23の励起導体24の回転に伴なう励磁導体27のインダクタンスの変化により,受信導体28に三相の交流電流波形を発生させ,コンピュータ29,29′は,その交流電流波形を処理して,ロータ23を取り付けた弁軸3aの回転角度,即ちスロットル弁3の開度に対応する信号を,電動モータ8の作動を制御する電子制御ユニット(図示せず)に出力する。
【0025】
基板26の一隅部に集中的に配設されるバスバー接続部33a〜33dには,基板26の周縁外方に並んで突出する4本のバスバー30a〜30dが半田付けされ,これらバスバー30a〜30dの外端はカプラ端子31a〜31dに形成される。これらカプラ端子31a〜31dのうち,2本31a,31cは電源との接続に,残る2本31b,31dは回転角度信号の取り出しに供される。
【0026】
基板26の表裏両面には,基板26の周辺部及び貫通孔34(図3,図4参照),並びに導線挿通用の多数のスルーホールとを通して互いに連結する熱硬化性樹脂製の被覆層32がモールド成形され,この被覆層32に,前記励磁導体27,受信導体28,マイクロコンピュータ29,29′及び,バスバー30a〜30dの基板26との接続部が全て埋設される。これによって基板26上での配線の接続不良や水分の浸入による電気的短絡を防ぐことができる。その際,被覆層32のうち,前記励磁導体27及び受信導体28を被覆する部分は,他の部分より肉厚が薄い薄肉部32aに形成される。
【0027】
また基板26の貫通孔34を通して基板26表裏の被覆層32を互いに連結するということは,貫通孔34に充填した熱硬化性樹脂により,基板26表裏の被覆層32が一体に連結されることである。上記貫通孔34は励磁導体27及び受信導体28の中心部に設けられる。
【0028】
こうして被覆層32を形成された基板26を持つステータ25は,熱可塑性樹脂製のハウジングカバー20のモールド成形時,そのハウジングカバー20に埋設されるもので,その際,上記薄肉部32aは,これを挟んで励磁導体27をロータの励起導体24に対向させるべく,ハウジングカバー20から露出した状態に置かれる。このハウジングカバー20には,上記バスバー30a〜30dの先端に形成されるカプラ端子31a〜31dと,前記電動モータ8の給電用カプラ端子52a,52bとを収容,保持するカプラ20aが一体成形される。したがって,ハウジングカバー20の成形と同時に,基板26及びカプラ端子31a〜31dの保持を行うことができ,構造の簡素化を図ることができる。
【0029】
基板26の構成材料のガラスエポキシ樹脂としては,線膨張係数が,板面方向で12〜14PPM/度,板厚方向で35PPM/度の材料が使用される。このように,基板26のガラスエポキシ樹脂の線膨張係数は,板面方向で小さく,板厚方向で大きいのは,基板26の成形時,エポキシ樹脂に複合されるガラス繊維が基板26の面方向に配向することに起因する。
【0030】
一方,被覆層32の構成材料の熱硬化性樹脂としては,線膨張係数が16PPM/度のものが使用される。即ち,被覆層32の熱硬化性樹脂は,その線膨張係数が基板26のガラスエポキシ樹脂の板厚方向の線膨張係数より小さいことが重要な点である。
【0031】
而して,ガラスエポキシ樹脂製の基板26の表裏には,基板26の周辺部及び貫通孔34を通して互いに連結する熱硬化性樹脂製の被覆層32がモールド成形されるので,基板26の表裏の熱硬化性樹脂製の被覆層32が協働して基板26の板厚方向の熱膨張を抑制することができる。
【0032】
特に,被覆層32を,線膨張係数が基板26のガラスエポキシ樹脂の板厚方向の線膨張係数より小さい熱硬化性樹脂で成形することにより,基板26の板厚方向の熱膨張を一層効果的に抑制することができる。しかも被覆層32において,励磁導体27及び受信導体28を覆う薄肉部32aは,肉厚が他の部分より薄いので,励磁導体27及び受信導体28とロータ23の励起導体24との対向間隙を狭めることができ,また環境の温度変化によるも,ステータ25の励磁導体27と,ロータ23の励起導体24との対向間隙の変化をなくし,もしくは極小に抑えることができ,インダクタンス式スロットル開度センサ22の開度検出精度を高めると共に安定させることができる。さらに基板26の前記貫通孔34は,被覆層32の薄肉部32aで被覆する励磁導体27の中心部に設けられるので,貫通孔34に充填される熱硬化性樹脂により薄肉部32aを効果的に強化でき,したがってこの薄肉部32aによっても励磁導体27周辺部の基板26の板厚方向の熱膨張を抑制することができる。
【0033】
次に,図7〜図11を参照して,前記ステータ25の製造方法について説明する。
〔1〕ステータ25の組み立て(図7参照)
先ず,ガラスエポキシ樹脂製の基板26の一側面に,環状に形成される励磁導体27と,その内側に隣接配置される受信導体28とをプリントし,また一対のマイクロコンピュータ29,29′を実装する。基板26は方形をなしており,その四隅には位置決め孔41を設けておく。
【0034】
次いで,先端部をカプラ端子31a〜31dとした4本のバスバー30a〜30dを用意する。これらバスバー30a〜30dはAl等の導電板から打ち抜きにより製作するもので,その製作時,基板26の外側縁に近接した箇所においてバスバー30a〜30dを相互に一体に連結すべく直線状に並ぶ複数の第1タイバー36と,この第1タイバー36と直線状に並んで最外側のバスバー30a,30dの外側面より突出する一対の耳部37,37と,カプラ端子31a〜31dの近接した箇所においてバスバー30a〜30dを相互に一体に連結すべく直線状に並ぶ複数の第2タイバー38とが同時に形成される。そして基板26の一隅部に配設されたバスバー接続部33a〜33dに,これらバスバー30a〜30dの基端部を半田付けし,ステータ25の組み立てを完了する。
〔2〕被覆層32の成形準備(図7〜図10参照)
図7及び図8に示すように,ステータ25を,被覆層成形用金型40を構成する固定型40a及び可動型40b間にセットする。その際,基板26の三隅に設けられた位置決め孔41には,固定型40aに設けられた位置決めピン42が嵌合されると共に,位置決め孔41の周辺部は,固定型40a及び可動型40bに設けられた押えボス43,44によって挟持される。
【0035】
一方,図7,図9及び図10に示すように,基板26から突出した4本のバスバー30a〜30d,耳部37,37,第1及び第2タイバー36,38は,固定型40aに設けられた保持溝15に収容されると共に,可動型40bの押え面46によって保持溝15の溝底側に押えつけられる。こうしてバスバー30a〜30d,耳部37,37,第1及び第2タイバー36,38の下面は固定型40aに,それらの上面は可動型40bにそれぞれ密着することになる。
【0036】
固定型40aの保持溝15は,バスバー30a〜30dや耳部37,37の収容及び位置決めを容易にすべく,両内側面が外開きに傾斜しており,その結果,各保持溝15の傾斜した内側面と,バスバー30a〜30d及び耳部37,37の外側面との間には隙間48ができる。一方,可動型40bには,前記耳部37,37との対応箇所において保持溝15に向かって突出する突起49,49が形成されており,固定及び可動型40a,40bを閉じたとき,これら突起49,49により耳部37,37を押し潰して,各耳部37,37の外側面と,それに隣接する保持溝15の傾斜した内側面との間の隙間48を埋めることになる(図10(B)参照)。
〔3〕被覆層32のモールド成形(図8(B)参照)
上記のように固定型40a及び可動型40bを閉じると,基板26の表裏両面及び周縁部,並びに励磁導体27,受信導体28及びマイクロコンピュータ29,29′等が臨むキャビティ50が形成される。而して,キャビティ50の,励磁導体27及び受信導体28に対応する部分の深さは,他の部分の深さより浅く形成される。そのキャビティ50に図示しないゲートから熱硬化性樹脂を充填することにより,基板26の周囲に熱硬化性樹脂製の被覆層32を成形すると共に,基板26の貫通孔34を熱硬化性樹脂で埋めることができ,しかも被覆層32において,励磁導体27及び受信導体28を被覆する部分は,他の部分より肉厚が薄い薄肉部32a(図4参照)となる。
【0037】
その際,キャビティ50に充填された熱硬化性樹脂は,各バスバー30a〜30dの根元の外側面と,各保持溝15の内側面との間の隙間48にバリとして流出するが,これらバスバー30a〜30dは,第1タイバー36を介して相互に一体に連結すると共に,第1タイバー36と並んで最外側に位置する耳部37,37が前述のように潰されて,これら耳部37,37の両側の隙間を埋めてしまっているから,バスバー30a〜30dの根元の前記隙間48に流出した熱硬化性樹脂を,耳部37,37及び第1タイバー36によって堰き止めることができる。したがって熱硬化性樹脂の第1タイバー36以降への流出を防ぎ,バリの形成を最小限に押えることができる。
〔4〕第1,第2タイバー36,38の切除(図6参照)
被覆層32の成形後,固定型40a及び可動型40bを開いて,ステータ25を取り出し,バスバー30a〜30dを連結していた第1及び第2タイバー36,38をプレスにより切除してバスバー30a〜30dをそれぞれ独立させ,ステータ25の製作を完了する。
〔6〕ハウジングカバー20のモールド成形(図3及び図4参照)
ハウジングカバー20を熱可塑性樹脂によりモールド成形する際には,その成形用金型(図示せず)内にステータ25をセットするが,被覆層32の,励磁導体27及び受信導体28を被覆する薄肉部32aをハウジングカバー成形用のキャビティ外に配置する。こうして,ハウジングカバー20を熱可塑性樹脂によりモールド成形することにより,上記薄肉部32aをハウジングカバー20の内側面から露出した状態でステータ25をカプラ20a付きのハウジングカバー20に埋設することができ,またインダクタンス式回転角度センサ22用の4本のカプラ端子31a〜31dと前記電動モータ8用の2本のカプラ端子52a,52bとをカプラ20aに保持させることができる。
【0038】
次に,図12及び図13に示す本発明の別の実施例について説明する。
【0039】
この別の実施例は,キャビティ50から保持溝15へ流出する熱硬化性樹脂の堰き止め方法において前実施例と相違する。即ち,複数のバスバー30a〜30dには,前記第1タイバー36に代えて,それぞれの外側面より突出する一対の耳部37,37を形成する一方,被覆層成形用金型40の可動型40bには,各耳部37,37との対応箇所において各保持溝15に向かって突出する複数の突起49,49…を形成しておき,固定及び可動型40a,40bを閉じたとき,各突起49,49…により各耳部37,37…を押し潰して,各耳部37,37と,それらに隣接する保持溝15の傾斜した内側面との間の隙間を埋める。こうすることで,キャビティ50への熱硬化性樹脂の充填時,キャビティ50から各バスバー30a〜30dの根元の隙間48に流出した熱硬化性樹脂を,耳部37,37によって堰き止めることができ,バリの形成を最小限に押えることができる。その他の構成は,前実施例と同様であるので,図12及び図13中,前実施例と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0040】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明は,スロットル開度センサ22以外の回転体の回転体の角度変化の検出するセンサにも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1b・・・制御ハウジング
20・・・ハウジングカバー
20a・・カプラ
22・・・回転角度センサ(スロットル開度センサ)
23・・・ロータ
24・・・励磁導体
25・・・ステータ
26a・・基板
27・・・励磁導体
28・・・受信導体
30a〜30d・・・・バスバー
31a〜31d・・・・カプラ端子
32・・・被覆層
32a・・薄肉部
33a〜33d・・・・バスバー接続部
34・・・貫通孔
36・・・タイバー(第1タイバー)
37・・・耳部
40・・・被覆層成形用金型
40a・・固定型
40b・・可動型
45・・・保持溝
48・・・隙間
50・・・キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の回転体(3)に取り付けられるロータ(23)と,非回転の制御ハウジング(1b)に取り付けられるステータ(25)とからなり,そのステータ(25)を,環状に形成される励磁導体(27)と,この励磁導体(27)に隣接配置される受信導体(28)とをガラスエポキシ樹脂製の基板(26)にプリントして構成する一方,ロータ(23)に前記励磁導体(27)に対向する励起導体(24)を付設し,その励起導体(24)の回転に伴なう励磁導体(27)のインダクタンスの変化を回転体(3)の回転角度変化として受信導体(28)より検出するインダクタンス式回転角度センサにおいて,
前記基板(26)の表裏両面に,この基板(26)の周辺部及び,この基板(26)が有する貫通孔(34)を通して互いに連結する熱硬化性樹脂製の被覆層(32)をモールド形成すると共に,この被覆層(32)のうち,前記励磁導体(27)及び受信導体(28)を被覆する部分を,肉厚が他の部分より薄い薄肉部(32a)に形成し,この薄肉部(32a)を露出状態にして,前記ステータ(25)を熱可塑性樹脂製の前記制御ハウジング(1b)に埋設したことを特徴とするインダクタンス式回転角度センサ。
【請求項2】
請求項1記載のインダクタンス式回転角度センサにおいて,
前記被覆層(32)を,前記基板(26)の板厚方向の線膨張係数より小さい線膨張係数を有する熱硬化性樹脂で構成したことを特徴とするインダクタンス式回転角度センサ。
【請求項3】
請求項1記載のインダクタンス式回転角度センサにおいて,
一端部をカプラ端子(31a〜31d)とする複数のバスバー(30a〜30d)を前記基板(26)上のバスバー接続部(33a〜33d)に接続すると共に,それらバスバー接続部(33a〜33d)を前記被覆層(32)に埋設し,前記カプラ端子(31a〜31d)を保持するカプラ(20a)を前記制御ハウジング(1b)に一体に形成したことを特徴とするインダクタンス式回転角度センサ。
【請求項4】
請求項1記載のインダクタンス式回転角度センサの製造方法であって,
前記ステータ(25)を被覆層成形用の固定型(40a)及び可動型(40b)間にセットして,固定型(40a)及び可動型(40b)間に画成されるキャビティ(50)に熱硬化性樹脂を充填することにより,前記基板(26)の表裏両面を被覆する熱硬化性樹脂製の被覆層(32)を成形するに当たり,
前記複数本のバスバー(30a〜30d)を,前記基板(26)の外側縁に近接した箇所でタイバー(36)を介して相互に一体に連結すると共に,最外側に位置するバスバー(30a,30d)に前記タイバー(36)と並んで外側方に突出する耳部(37,37)を形成する一方,前記バスバー(30a〜30d),タイバー(36)及び耳部(37,37)を緩く収容する保持溝(45)を固定型(40a)及び可動型(40b)の一方に形成しておき,前記ステータ(25)を固定型(40a)及び可動型(40b)間にセットして両型(40a,40b)を閉じたとき,両型(40a,40b)を前記バスバー(30a〜30d)及びタイバー(36)の上下両面に密着させると共に,前記耳部(37,37)を押し潰して,それら耳部(37,37)と,それら耳部(37,37)に対向する前記保持溝(45)の内側面との間の隙間(48)を埋め,次いで前記キャビティ(50)に熱硬化性樹脂を充填したとき,そのキャビティ(50)から前記保持溝(45)に流出する樹脂を前記タイバー(36)及び耳部(37,37)により堰き止めることを特徴とする,インダクタンス式回転角度センサの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のインダクタンス式回転角度センサの製造方法であって,
前記ステータ(25)を被覆層成形用の固定型(40a)及び可動型(40b)間にセットして,固定型(40a)及び可動型(40b)間に画成されるキャビティ(50)に熱硬化性樹脂を充填することにより,前記基板(26)の表裏両面を被覆する熱硬化性樹脂製の被覆層(32)を成形するに当たり,
前記複数本のバスバー(30a〜30d)の各外側面に,前記基板(26)の外側縁に近接した箇所でこれらバスバーの配列方向に突出する一対の耳部(37,37)を突設する一方,これらバスバー(30a〜30d)及びを耳部(37,37)を緩く収容する保持溝(45)を固定型(40a)及び可動型(40b)の一方に形成しておき,前記ステータ(25)を固定型(40a)及び可動型(40b)間にセットして両型(40a,40b)を閉じたとき,両型(40a,40b)を前記バスバー(30a〜30d)の上下両面に密着させると共に,前記耳部(37,37)を押し潰して,それら耳部(37,37)と,各前記保持溝(45)の内側面との間の隙間(48)を埋め,次いで前記キャビティ(50)に熱硬化性樹脂を充填したとき,そのキャビティ(50)から前記保持溝(45)に流出する樹脂を前記耳部(37,37)により堰き止めることを特徴とする,インダクタンス式回転角度センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−21940(P2011−21940A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165727(P2009−165727)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】