説明

インライン式蒸着装置および成膜方法

【課題】被処理基板に対して複数の蒸着エリアで順次、蒸着を行うインライン式蒸着装置、および成膜方法において、特定の蒸着エリアで成膜される薄膜の膜厚のみを容易かつ確実に調整することのできる構成を提供すること。
【解決手段】インライン式蒸着装置100において成膜を行なった際、各蒸着エリア51〜53で被処理基板20に形成される薄膜の膜厚バランスがずれている場合、被処理基板20の搬送速度、および坩堝45での蒸着材料の加熱温度は変更せずに、蒸気流供給量制御用シャッタ11、12、13のスリット状開口部14の幅寸法を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板に対して複数の蒸着エリアで順次、蒸着を行うインライン式蒸着装置、および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置や電気光学装置を製造するにあたっては、真空蒸着やスパッタ蒸着等の蒸着法を用いて被処理基板上に薄膜を成膜することがある。例えば、有機エレクトロルミネッセンス装置を製造する際は、被処理基板上に低分子材料や金属を真空蒸着により成膜して有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各層(正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、陰極など)を形成する。
【0003】
このような成膜を行なうにあたって、被処理基板の搬送経路に沿って複数の蒸着エリアを配置するとともに、複数の蒸着エリアの各々において蒸着源から供給された成膜材料の蒸気流を被処理基板に供給するインライン式蒸着装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなインライン式蒸着装置では、例えば、図5(a)、(b)に示すように、被処理基板20の搬送方向(矢印Lで示す)に沿って複数の蒸着エリア51X〜53Xが直線的に配置され、複数の蒸着エリア51X〜53Xの各々には蒸着源41X〜43Xが配置されている。従って、被処理基板20を一定速度で搬送すると、複数の蒸着エリア51X〜53Xの各々において被処理基板20に対して所定厚の薄膜が形成される。それ故、蒸着源41X〜43Xに装填される蒸着材料の種類を変えておけば、被処理基板20には、複数種類の薄膜が各々、所定の膜厚で積層されることになる。ここで、複数の蒸着エリア51X〜53Xにおいて被処理基板20に形成される各薄膜の膜厚は、従来、蒸着源41X〜43Xでの蒸着材料の加熱温度を調整し、蒸着源41X〜43Xから被処理基板20に向かう蒸着材料の蒸気流供給量を制御することにより行なわれる。
【特許文献1】特開2005−285576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5(a)、(b)に示すインライン式蒸着装置100Xにおいて、複数の蒸着エリア51X〜53Xの間で形成される各薄膜の膜厚バランスを微調整する必要が発生した場合に蒸着源41X〜43Xでの蒸着材料の加熱温度を調整する方法では、調整に長い時間がかかるなどの問題点がある。例えば、蒸着エリア51X〜53Xのうち、蒸着エリア52Xにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚が薄いのに対して、他の蒸着エリア51X、53Xにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚が適正である場合、被処理基板20の搬送速度を遅くすると、蒸着エリア52Xにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚が適正になるが、他の蒸着エリア51X、53Xにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚が厚くなりすぎる。従って、被処理基板20の搬送速度を変更せずに、蒸着源42Xでの蒸着材料の加熱温度を高める方法を採用せざるを得ないが、加熱温度を変更すると、定常状態になるまで時間がかかる。また、加熱温度を調整しても蒸着エリア52Xにおいて形成される薄膜の膜厚が適正にならないことがあり、この場合、再度、蒸着源42Xでの蒸着材料の加熱温度を再調整する必要がある。さらに、蒸着源42Xでの加熱温度を高めようにも、蒸着材料の種類によっては、これ以上、加熱温度を高めると材料が変質してしまうという問題点もある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、被処理基板に対して複数の蒸着エリアで順次、蒸着を行うインライン式蒸着装置、および成膜方法において、特定の蒸着エリアで成膜される薄膜の膜厚のみを容易かつ確実に調整することのできる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、被処理基板を連続的に搬送する基板搬送手段と、前記被処理基板の搬送経路に沿って配置された複数の蒸着エリアとを有し、当該複数の蒸着エリアの各々には、移動していく前記被処理基板に向けて成膜材料の蒸気流を供給する蒸着源が配置されたインライン式蒸着装置において、前記複数の蒸着エリアの少なくとも1つには、前記被処理基板と前記蒸着源との間に介在して当該蒸着源から前記被処理基板への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタが配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、被処理基板の搬送方向に沿って配置された複数の蒸着エリアの各々において蒸着源から供給された成膜材料の蒸気流を前記被処理基板に順次供給する成膜方法において、前記複数の蒸着エリアの少なくとも1つには、前記被処理基板と前記蒸着源との間に当該蒸着源から前記被処理基板への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタを配置し、当該蒸気流供給量制御用シャッタにより、該蒸気流供給量制御用シャッタが配置された蒸着エリアにおいて前記被処理基板に形成される薄膜の膜厚を調整することを特徴とする。
【0009】
本発明では、複数の蒸着エリアの少なくとも1つには、被処理基板と蒸着源との間に介在して蒸着源から被処理基板への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタが配置されているため、蒸気流供給量制御用シャッタが配置された蒸着エリアにおいては、蒸気流供給量制御用シャッタにより、被処理基板に形成される薄膜の膜厚を調整することができる。従って、被処理基板が複数の蒸着エリアを一定速度で連続的に通過するようなインライン式蒸着装置において、特定の蒸着エリアにおいて被処理基板に形成される薄膜の膜厚が適正でない場合には、他の蒸着エリアにおいて被処理基板に形成される薄膜の膜厚を変更せずに、当該特定の蒸着エリアにおいて被処理基板に形成される薄膜の膜厚のみを微調整することができる。また、蒸気流供給量制御用シャッタにより、蒸着源から被処理基板への蒸気流供給量を制御する構成であれば、蒸着源での蒸着材料の加熱温度などを調整する構成と比較して、調整が容易かつ確実である。
【0010】
本発明においては、前記複数の蒸着エリアの各々に前記蒸気流供給量制御用シャッタが配置されていることが好ましい。このように構成すると、複数の蒸着エリアの間において被処理基板に形成される薄膜の膜厚バランスが微妙にずれている場合でも、かかるずれを容易かつ確実に微調整することができる。
【0011】
本発明において、前記蒸気流供給量制御用シャッタは、前記被処理基板の面内方向において前記被処理基板の搬送方向に対して交差する方向に延びたスリット状開口部を備え、当該スリット状開口部の開口幅を調整することにより蒸気流供給量を制御することが好ましい。このように構成すると、被処理基板の面内方向において被処理基板の搬送方向と交差する方向へはスリット状開口部が所定の寸法で延びている状態のまま、被処理基板の搬送方向ではスリット状開口部の開口幅を調整することができる。従って、スリット状開口部の開口幅を調整して蒸気流供給量を制御した場合でも、被処理基板の面内方向において被処理基板の搬送方向に対して交差する方向における蒸気流供給量のバランスが崩れることを回避することができる。
【0012】
本発明において、前記蒸気流供給量制御用シャッタは、前記被処理基板と前記蒸着源との間で前記被処理基板の搬送方向に変位して前記スリット状開口部の開口幅を調整するシャッタ板を備えていることが好ましい。このように構成すると、簡素な構成でスリット状開口部の開口幅を容易に調整することができる。
【0013】
本発明において、前記シャッタ板は、前記被処理基板の面内方向において前記被処理基板の搬送方向に対して交差する方向に延びた軸線周りに回転することにより前記被処理基板の搬送方向に変位することが好ましい。このように構成すると、シャッタ板を被処理基板の搬送方向に変位させるのに必要な空間が狭くてよいので、蒸着エリアにシャッタ板を配置する場合でも、蒸着エリアを拡張する必要がない。
【0014】
本発明において、前記蒸気流供給量制御用シャッタは、前記シャッタ板として、前記スリット状開口部を介して双方が近接する方向、および離間する方向に変位する一対のシャッタ板を備えていることが好ましい。このように構成すると、1枚のシャッタ板を用いる場合と違って、被処理基板と蒸着源との間からシャッタ板を大きく退避させた状態を実現することができる。
【0015】
本発明を適用したインライン式蒸着装置および成膜方法は、特に、有機エレクトロルミネッセンス装置などを製造する際に用いると効果的である。低分子有機EL材料を蒸着材料として被処理基板に対して蒸着を行う際、有機物である有機EL材料は無機物と比べて熱伝導性が低いため、蒸着材料の温度を調整することにより蒸着レートを微調整する方法では困難が多い。しかるに本発明によれば、蒸気流供給量制御用シャッタにより膜厚の制御を行なうため、蒸着材料として有機物を用いた場合でも、膜厚の微調整を容易に行うことができる。それ故、本発明では、前記複数の蒸着エリアのうち、前記蒸気流供給量制御用シャッタが配置された蒸着エリアには、有機材料を蒸着するための蒸着エリアが含まれていることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面を参照して、本発明を適用したインライン式蒸着装置および成膜方法について説明する。なお、以下の実施の形態では、本発明のインライン式蒸着装置を用いて有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)を製造する場合を例示する。
【0017】
(有機EL装置の構成例)
図1は、本発明が適用される有機EL装置の要部断面図である。図1に示す有機EL装置1は、表示装置や、電子写真方式を利用したプリンタに使用されるラインヘッドとして用いられるものであり、複数の有機EL素子3を配列してなる発光素子群3Aを備えている。有機EL素子3は、例えば、陽極として機能するITO(Indium Tin Oxide)膜からなる画素電極4と、この画素電極4からの正孔を注入/輸送する正孔注入輸送層5と、有機EL物質からなる発光層6と、電子を注入/輸送する電子注入輸送層7と、アルミニウムやアルミニウム合金からなる陰極8とを備えている。陰極8の側には、有機EL素子3が水分や酸素により劣化するのを防止するための封止層や封止部材(図示せず)が配置されている。素子基板2上には、画素電極4に電気的に接続された駆動用トランジスタ2aなどを含む回路部2bが有機EL素子3の下層側に形成されている。
【0018】
有機EL装置1がボトムエミッション方式である場合は、発光層6で発光した光を画素電極4の側から出射するため、素子基板2の基体としては、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)などの透明基板が用いられる。その際、陰極8を光反射膜によって構成すれば、発光層6で発光した光を陰極8で反射して透明基板の側から出射することができる。これに対して、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合は、発光層6で発光した光を陰極8の側から出射するため、素子基板2の基体は透明である必要はない。但し、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合でも、素子基板2に対して光出射側とは反対側の面に反射層(図示せず)を配置して、発光層6で発光した光を陰極8の側から出射する場合には、素子基板2の基体として透明基板を用いること必要がある。また、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合において、素子基板2の基体と発光層6との間に反射層を形成して、発光層6で発光した光を陰極8の側から出射する場合には、素子基板2の基体は透明である必要はない。
【0019】
なお、素子基板2を形成するにあたっては、単品サイズの基板に以下の工程を施す方法の他、素子基板2を多数取りできる大型基板に以下の工程を施した後、単品サイズの素子基板2に切断する方法が採用されるが、以下の説明ではサイズを問わず、被処理基板20と称する。
【0020】
有機EL装置1を製造するには、被処理基板20に対して成膜工程、レジストマスクを用いてのパターニング工程などといった半導体プロセスを利用して各層が形成される。但し、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7などは、水分や酸素により劣化しやすい低分子有機材料からなるため、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7を形成する際、さらには、電子注入輸送層7の上層に陰極8を形成する際、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行うと、レジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7が水分や酸素により劣化してしまう。そこで、本形態では、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7を形成する際、さらには陰極8を形成する際には、以下に詳述する蒸着装置を用いてマスク蒸着を行い、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行わない。
【0021】
(インライン式蒸着装置の全体構成)
図2(a)、(b)は各々、本発明を適用したインライン式蒸着装置の構成を模式的に示す平面図および断面図である。なお、以下では、被基板基板20の搬送方向を矢印Lで示してある。
【0022】
図2(a)、(b)に示すように、本形態のインライン式蒸着装置100では、被処理基板20を搬送する基板搬送手段として、被基板基板20の搬送方向に沿って複数のローラ18(図2(b)では図示を省略)が直線的に配置されており、ローラ18は、被処理基板20の面内方向において被基板基板20の搬送方向と直交する方向に2列、配置されている。また、インライン式蒸着装置100では、複数のローラ18によって規定された被処理基板20の搬送経路に沿って、複数の蒸着エリアが配置されており、図2(a)、(b)には、3つの蒸着エリア51〜53が配置されている例を示してある。各蒸着エリア51〜53は各々、平面形状が矩形状のチャンバー61〜63を備えている。これらのチャンバー61〜63のうち、最も上流側のチャンバー61には、被処理基板20を搬入するための導入口101が形成され、最も下流側のチャンバー63には、被処理基板20を搬出するための導出口102が形成されている。また、チャンバー61、62の間、およびチャンバー62、63の間には各々、基板通路103が形成されている。なお、導入口101、基板通路103および導出口102には、チャンバー61〜63内の雰囲気が汚染されることを防止するためのシャッタ(図示せず)が配置されることがある。また、各チャンバー61〜63には各々の内部の真空度を調整可能な真空引き装置(図示せず)が接続されている。
【0023】
各チャンバー61〜63において、複数のローラ18により規定された被処理基板20の搬送経路の下方位置には蒸着源41〜43が配置されている。本形態において、蒸着源41〜43は、各チャンバー61〜63において、被処理基板20の搬送方向と直交する方向で隣接するように2つずつ配列されている。蒸着源41〜43は各々、蒸着材料が装填された坩堝45と、坩堝45内の蒸着材料を加熱するための加熱装置46とを備えている。また、図2(b)に一点鎖線で示すように、蒸着源41〜43の各々に対しては、坩堝45の開口を開閉可能なセルシャッタ71〜73(図2(a)では図示を省略)が配置されている。
【0024】
このように構成したインライン式蒸着装置100において、被処理基板20にマスク蒸着を行うには、被処理基板20の下面にマスク部材30を重ねた状態のまま搬送する必要がある。従って、本形態において、被処理基板20およびマスク部材30は、重なった状態で矩形枠状の搬送トレイ19に保持され、この状態で搬送される。マスク部材30は、図3(a)、(b)を参照して以下に説明するように、被処理基板20に形成する蒸着パターンに対応する複数のマスク開口部310が構成されている。
【0025】
(蒸着用マスク31の構成)
図3(a)、(b)は蒸着用マスクの説明図である。図2(a)、(b)に示すマスク部材30は例えば、図3(a)、(b)に示す構成を有している。図3(a)、(b)に示すマスク部材30A、30Bのうち、図3(a)に示すマスク部材30Aは、厚さが約0.25〜0.5mmの矩形薄板状の蒸着用マスク31を矩形枠状の枠体33に取り付けた構成となっている。蒸着用マスク31および枠体33は各々、金属材料(例えばステンレス、インバー、42アロイ、ニッケル合金等)、ガラス、セラミックス、シリコンなどからなり、蒸着用マスク31についてはシリコンからなることが好ましい。蒸着用マスク31は、被処理基板20に形成する蒸着パターンに対応する複数のマスク開口部310が、並行かつ一定間隔に形成されている。枠体33は、蒸着用マスク31と略同等の大きさの開口領域340が形成された支持基板34と、蒸着用マスク31のマスク開口部310の間に配置されてマスク開口部310の間を支持する梁部35と、梁部35に対して長手方向の張力を付与させて支持基板34に固定する固定部材36とを備えている。梁部35は、マスク開口部310の間のうち、マスク開口部310の長手方向に沿うように配置されており、マスク開口部310で挟まれた領域よりも狭い幅寸法を備えている。梁部35は、金属材料(例えばステンレス、インバー、42アロイ、ニッケル合金等)、ガラス、セラミックス、シリコン、SUS430などにより構成されている。
【0026】
図3(b)に示すマスク部材30Bは、ベース基板をなす支持基板37に、複数のチップ状の蒸着用マスク31を取り付けた構成を有しており、複数の蒸着用マスク31は各々、アライメントされて支持基板37に陽極接合や接着剤などの方法で接合されている。支持基板37には、複数の開口領域370が平行、かつ一定間隔で設けられており、複数の蒸着用マスク31は各々、開口領域370を塞ぐように支持基板37上に固定されている。蒸着用マスク31には、被処理基板20に対する蒸着パターンに対応する長孔形状のマスク開口部310が複数一定間隔で平行に設けられている。蒸着用マスク31は、面方位(100)を有する単結晶シリコンや、面方位(110)を有する単結晶シリコンなどからなり、マスク開口部310は、フォトリソグラフィ技術、およびテトラメチル酸化アルミニウムなどの有機系の水酸化物、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの無機系の水酸化物などのアルカリ水溶液を用いたウエットエッチング技術により形成される。支持基板37としては、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英などからなる透明基板が用いられている。
【0027】
(インライン式蒸着装置の詳細な構成)
再び図2(a)、(b)において、本形態のインライン式蒸着装置100では、3つの蒸着エリア51〜53の各々において、チャンバー61〜63内には、被処理基板20と蒸着源41〜43の間に介在して蒸着源41〜43から被処理基板20への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタ11、12、13が配置されている。
【0028】
本形態において、蒸気流供給量制御用シャッタ11、12、13はいずれも、被処理基板20の搬送方向に直交する方向に延びた軸線周りに回転可能な2枚のシャッタ板15a、15bを備えている。2枚のシャッタ板15a、15bはいずれも、外部からの駆動により、互いに近接する方向、および離間する方向に変位するとともに、所定の姿勢で保持される。ここで、シャッタ板15a、15bは、回転中心軸150から上方に延びた第1の平板部151と、この第1の平板部151の上端から互いに近接するように直角に折れ曲がった第2の平板部152とを備えており、2枚のシャッタ板15a、15bにおいて、互いの第2の平板部152の先端部の間には、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向と直交する方向に延びたスリット状開口部14が形成される。本形態において、スリット状開口部14の幅寸法(2枚のシャッタ板15a、15bにおいて、互いの第2の平板部152の先端部が被処理基板20の搬送方向で離間する寸法)は、被処理基板20の面内方向における被処理基板20の搬送方向と直交する方向において一定である。なお、シャッタ板15a、15bは、金属製、セラミックス製、あるいは耐熱樹脂製であり、いずれの場合も、蒸気流の温度に耐え得る材料からなる。
【0029】
(動作)
図4(a)、(b)は各々、本発明を適用したインライン式蒸着装置において、図2に示す状態から、蒸気流供給量制御用シャッタのスリット状開口部の開口幅を調整した様子を模式的に示す平面図および断面図である。
【0030】
図2(a)、(b)において、本形態のインライン式蒸着装置100では、まず、各チャンバー61〜63内にて、坩堝45の各開口部をセルシャッタ71〜73で覆った状態で坩堝45内の蒸着材料を所定の温度になるまで加熱した後、セルシャッタ71〜73を開位置に移動させ、蒸着源41〜43より各チャンバー61〜63内に蒸気流を放出する。そして、被処理基板20およびマスク部材30を保持した搬送トレイ19をローラ18によって各蒸着エリア51〜53に順次、搬送すると、蒸着源41〜43から放出された蒸着材料の蒸気流がマスク部材30のマスク開口部310を介して被処理基板20に供給される。従って、被処理基板20は移動していくうちに、マスク開口部310に対応するパターンをもって、複数の蒸着エリア51〜53で成膜された薄膜が積層されることになる。
【0031】
ここで、図2(a)、(b)では、蒸気流供給量制御用シャッタ11、12、13のスリット状開口部14の幅寸法が各々、d1、d2、d3になっている。この状態で、各蒸着エリア51〜53で被処理基板20に形成される薄膜の膜厚は、被処理基板20の搬送速度、坩堝45からの蒸気流の放出速度、および蒸気流供給量制御用シャッタ11、12、13のスリット状開口部14の幅寸法d1、d2、d3により規定される。
【0032】
このような状態で成膜を行なった際、各蒸着エリア51〜53で被処理基板20に形成される薄膜の膜厚バランスがずれている場合には、その結果をフィードバックして微調整を行なう。かかる微調整を行なうにあたって、本形態では、被処理基板20の搬送速度、および坩堝45での蒸着材料の加熱温度(坩堝45からの蒸気流の放出速度)については変更せずに、蒸気流供給量制御用シャッタ11、12、13のスリット状開口部14の幅寸法のみを調整する。
【0033】
例えば、蒸着エリア51〜53のうち、蒸着エリア51において被処理基板20に形成された薄膜の膜厚が適正である一方、蒸着エリア52において被処理基板20に形成された薄膜の膜厚が厚すぎ、蒸着エリア53において被処理基板20に形成された薄膜の膜厚が薄すぎる場合には、以下の微調整を行ない、図4(a)、(b)に示す状態とする。すなわち、蒸気流供給量制御用シャッタ11のスリット状開口部14の幅寸法はd1のままで変更しない。これに対して、蒸気流供給量制御用シャッタ12についてはシャッタ板15a、15bを互いに近接する方向に変位させて、蒸気流供給量制御用シャッタ12のスリット状開口部14の幅寸法をd2からd4に狭める。一方、蒸気流供給量制御用シャッタ13についてはシャッタ板15a、15bを互いに離間する方向に変位させて、蒸気流供給量制御用シャッタ13のスリット状開口部14の幅寸法をd3からd5に広げる。その結果、蒸着エリア51における成膜速度は変化しないのに対して、蒸着エリア52における成膜速度は低下し、蒸着エリア53における成膜速度は上昇する。それ故、各蒸着エリア51〜53における被処理基板20に対する成膜速度が適正化されるので、各蒸着エリア51〜53において被処理基板20に形成された薄膜の膜厚バランスが調整される。
【0034】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のインライン式蒸着装置100において、蒸着エリア51〜53の各々には、被処理基板20と蒸着源41〜43との間に介在して蒸着源41〜43から被処理基板20への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13が配置されている。このため、蒸着エリア51〜53においては、蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13のスリット状開口部14の幅寸法を、例えば、図2(a)、(b)に示す条件から図4(a)、(b)に示す条件に調整することにより、被処理基板20に形成される薄膜の膜厚を調整することができる。従って、被処理基板20が複数の蒸着エリア51〜53を一定速度で通過するようなインライン式蒸着装置100において、特定の蒸着エリアにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚が適正でない場合には、他の蒸着エリアにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚を変更せずに、当該特定の蒸着エリアにおいて被処理基板20に形成される薄膜の膜厚のみを微調整することができる。
【0035】
また、蒸気流供給量制御用シャッタ13により、蒸着源41〜43から被処理基板20への蒸気流供給量を制御する構成であれば、蒸着源41〜43での蒸着材料の加熱温度を調整する構成と比較して、調整が容易かつ確実である。特に有機材料の蒸着の場合、熱伝導性が低いため、蒸着材料の温度を調整することにより蒸着レートを微調整するのが困難な場合が多い。しかるに本形態によれば、蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13により膜厚の制御を行なうため、蒸着材料として有機物を用いた場合でも、膜厚の微調整を容易に行うことができる。
【0036】
また、本形態では、複数の蒸着エリア51〜53の各々に蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13が配置されているので、蒸着エリア51〜53の間において被処理基板20に形成される薄膜の膜厚バランスが微妙にずれている場合でも、かかるずれを容易かつ確実に微調整することができる。
【0037】
さらに、蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13は、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向に対して交差する方向に延びたスリット状開口部14を備え、スリット状開口部14の開口幅を調整する。このため、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向と交差する方向へはスリット状開口部14が等幅で延びている状態のまま、被処理基板20の搬送方向でスリット状開口部14の開口幅を調整することができる。従って、スリット状開口部14の開口幅を調整して蒸気流供給量を制御した場合でも、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向と交差する方向における蒸気流供給量のバランスが崩れることを回避することができる。
【0038】
また、蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13は、シャッタ板15a、15bを被処理基板20の搬送方向に変位させてスリット状開口部14の開口幅を調整するため、簡素な構成でスリット状開口部14の開口幅を容易に調整することができる。
【0039】
しかも、シャッタ板15a、15bは、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向に対して交差する方向に延びた軸線周りに回転するので、シャッタ板15a、15bを被処理基板20の搬送方向に変位させるのに必要な空間が狭くてよい。それ故、蒸着エリア51〜53にシャッタ板15a、15bを配置する場合でも、蒸着エリア51〜53を拡張する必要がない。
【0040】
さらに、蒸気流供給量制御用シャッタ11〜13は各々、双方が近接する方向、および離間する方向に変位する一対のシャッタ板15a、15bを備えているため、1枚のシャッタ板を用いる場合と違って、例えば、図4(a)、(b)に示す蒸気流供給量制御用シャッタ13のように、被処理基板20と蒸着源43との間からシャッタ板15a、15bを大きく退避させた状態を実現することができる。
【0041】
[他の実施の形態]
上記形態では、2枚のシャッタ板15a、15bを変位させたが、一方のシャッタ板が固定で他方のシャッタ板のみが変位する構成を採用してもよい。また、蒸着エリア51〜53に空間的な余裕がある場合には、シャッタ板15a、15bについては、回転させる構成に代えて、被処理基板20の搬送方向にスライドさせる構成を採用してもよい。
【0042】
上記形態では、スリット状開口部14が等幅で、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向と直交する方向に延びていたが、例えば、蒸着源41〜43との位置関係によって、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向と直交する方向で膜厚ばらつきが発生するような場合、かかるバラツキを解消するように、被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向と直交する方向でスリット状開口部14が変化しているような構成を採用してもよい。また、上記形態では、スリット状開口部14が被処理基板20の面内方向において、被処理基板20の搬送方向と直交する方向に延びていたが、スリット状開口部14が被処理基板20の面内方向において被処理基板20の搬送方向に対して斜め方向(交差する方向)に延びている構成を採用してもよい。
【0043】
上記形態では、複数の蒸着エリア51〜53で異なる種類の薄膜を形成する場合であったが、同一種類の薄膜を形成する複数の蒸着エリア51〜53において、膜厚バランスを調整するのに本発明を適用してもよい。例えば、大型基板に薄膜を形成する場合、面内の膜厚ばらつきが発生しやすいので、蒸着源の位置を変えた複数の蒸着エリアにおいて同一種類の薄膜を形成することにより、膜厚の面内ばらつきを解消する場合において、複数の蒸着エリアにおいて膜厚バランスを調整するのに本発明を適用してもよい。
【0044】
上記形態では、マスク蒸着を行なう場合に本発明を適用した例であったが、マスク蒸着に限らず、被処理基板の全面に蒸着を行なう場合に本発明を適用してもよい。上記形態では、真空蒸着に本発明を適用した例であったが、スパッタ蒸着を行なう場合に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明が適用される有機EL装置の要部断面図である。
【図2】(a)、(b)は各々、本発明を適用したインライン式蒸着装置の構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【図3】(a)、(b)は各々、図2に示す蒸着装置で用いられる蒸着用マスクの説明図である。
【図4】(a)、(b)は各々、本発明を適用したインライン式蒸着装置において、図2に示す状態から、蒸気流供給量制御用シャッタのスリット状開口部の開口幅を調整した様子を模式的に示す平面図および断面図である。
【図5】(a)、(b)は各々、従来のインライン式蒸着装置の構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1・・有機EL装置、3・・有機EL素子、11、12、13・・蒸気流供給量制御用シャッタ、14・・スリット状開口部、15a、15b・・シャッタ板、18・・ローラ(搬送手段)、41〜43・・蒸着源、51〜53・・蒸着エリア、61〜63・・チャンバー、100・・インライン式蒸着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を連続的に搬送する基板搬送手段と、前記被処理基板の搬送経路に沿って配置された複数の蒸着エリアとを有し、当該複数の蒸着エリアの各々には、移動していく前記被処理基板に向けて成膜材料の蒸気流を供給する蒸着源が配置されたインライン式蒸着装置において、
前記複数の蒸着エリアの少なくとも1つには、前記被処理基板と前記蒸着源との間に介在して当該蒸着源から前記被処理基板への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタが配置されていることを特徴とするインライン式蒸着装置。
【請求項2】
前記複数の蒸着エリアの各々に前記蒸気流供給量制御用シャッタが配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインライン式蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸気流供給量制御用シャッタは、前記被処理基板の面内方向において前記被処理基板の搬送方向に対して交差する方向に延びたスリット状開口部を備え、当該スリット状開口部の開口幅を調整することにより前記蒸気流供給量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のインライン式蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸気流供給量制御用シャッタは、前記被処理基板と前記蒸着源との間で前記被処理基板の搬送方向に変位して前記スリット状開口部の開口幅を調整するシャッタ板を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のインライン式蒸着装置。
【請求項5】
前記シャッタ板は、前記被処理基板の面内方向において前記被処理基板の搬送方向に対して交差する方向に延びた軸線周りに回転することにより前記被処理基板の搬送方向に変位することを特徴とする請求項4に記載のインライン式蒸着装置。
【請求項6】
前記蒸気流供給量制御用シャッタは、前記シャッタ板として、前記スリット状開口部を介して双方が近接する方向、および離間する方向に変位する一対のシャッタ板を備えていることを特徴とする請求項4または5に記載のインライン式蒸着装置。
【請求項7】
前記複数の蒸着エリアのうち、前記蒸気流供給量制御用シャッタが配置された蒸着エリアには、有機材料を蒸着するための蒸着エリアが含まれていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のインライン式蒸着装置。
【請求項8】
被処理基板の搬送経路に沿って配置された複数の蒸着エリアの各々において蒸着源から供給された成膜材料の蒸気流を前記被処理基板に順次供給する成膜方法において、
前記複数の蒸着エリアの少なくとも1つには、前記被処理基板と前記蒸着源との間に当該蒸着源から前記被処理基板への蒸気流供給量を制御する蒸気流供給量制御用シャッタを配置し、
当該蒸気流供給量制御用シャッタにより、該蒸気流供給量制御用シャッタが配置された蒸着エリアにおいて前記被処理基板に形成される薄膜の膜厚を調整することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
前記複数の蒸着エリアのうち、前記蒸気流供給量制御用シャッタが配置された蒸着エリアには、有機材料を蒸着するための蒸着エリアが含まれていることを特徴とする請求項8に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−231446(P2008−231446A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68104(P2007−68104)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】