説明

ウェハボックス

【課題】ウェハ収納および取り出し性能を損なうことなく、輸送中のウェハ把持能力を上げることで、輸送中の振動から発生する異物によるウェハの汚染を抑制をできるウェハボックスを提供する。
【解決手段】複数の半導体ウェハ12を間隔を隔てて保持するスリット溝17が両側面に複数形成されたウェハカセット13と、半導体ウェハ12を保持したウェハカセット13を収納するケース14とからなるウェハボックス11において、両側面の間隔を半導体ウェハ12の外径より狭く形成して、スリット溝17から半導体ウェハ12の径方向両端18を突出させて保持するウェハカセット13と、両側面とケース14との間に挿入されると共に、エアGが注入されて膨張し半導体ウェハ12の径方向両端18をウェハカセット13と共に把持する一対のエアバッグ19とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの保管、輸送等のために使用されるウェハボックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハには、その表面にデバイス用微細パターンが形成されるため、表面凹凸の極めて小さい鏡面であること、また表面に付着する異物、不純物が非常に少ないことが必要とされる。
【0003】
そのために、製造装置精度や冶工具類が精密に制御された鏡面加工、洗浄液および製造雰囲気中のパーティクル、不純物質を除去するための精密洗浄が実施され、清浄鏡面が形成されて半導体ウェハが完成する。
【0004】
この半導体ウェハ上に微細回路パターンを形成するまでの保管あるいは他の場所への輸送の際に、この清浄鏡面が維持されることが重要である。
【0005】
この目的のため、一般に、完成した半導体ウェハはウェハ容器、特に収納効率を上げるために多数枚ウェハを収納可能なウェハカセットに保持され、さらに半導体ウェハを外力や汚染から保護するためのケースに収容して保管あるいは輸送が行われる(例えば、特許文献1)。
【0006】
図5、6に示すように、従来のウェハボックス51の構成は、半導体ウェハ52を保持するウェハカセット53と、半導体ウェハ52を保持したウェハカセット53を収納するケース54とからなる。
【0007】
さらにケース54はウェハカセット53を収容する下ケース54aと、半導体ウェハ52の径方向の一端(図5では上端)を保持するためのウェハ保持部55を有する上ケース54bとからなる。
【0008】
ウェハカセット53の両側面にはスリット溝57を形成するためのガイド部材56が所定の間隔を置いて複数設けられ、スリット溝57に半導体ウェハ52が間隔を隔てて複数枚保持される。さらに上ケース54bにあるウェハ保持部55により、半導体ウェハ52はウェハボックス51内に固定して収納される。
【0009】
さらに、輸送時の衝撃から半導体ウェハ52を保護するために、ウェハカセット53とケース54の間には多数の緩衝材(図示しない)が充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−355392号公報
【特許文献2】再表2007/066384号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のウェハボックス51においては、ウェハカセット53はケース54内に固定されるものの、ウェハカセット53の構造はウェハ収納および取り出し性能を重視しており、スリット溝57が半導体ウェハ52の厚さに対して広く形成されているため、輸送時の振動により半導体ウェハ52がウェハカセット53を擦り、ウェハカセット53より発生した異物がウェハ表面を汚染するおそれがある。
【0012】
従来のウェハボックス51を構成するウェハカセット53およびケース54は、量産性を目的とし、ポリプロピレンやポリカーボネイトなどの高分子体材料を射出成型して形成されており、特に、大サイズ化によりウェハの重量が重くなってきた近年では、輸送時の振動によってウェハカセット53から異物が発生しやすく、ウェハ表面を汚染するおそれが無視できない問題となっている。
【0013】
この問題を解決するため、特許文献2では、ウェハの厚さ方向に拡縮可能なウェハカセットが備えるガイド部材に支持部材を設け、ガイド部材にウェハを載置させた後にウェハカセットを前後方向(ウェハ厚さ方向)に縮小することで、支持部材によりウェハを押圧しながら固定するなどの工夫が為されている。
【0014】
しかし特許文献2では、大サイズ化したウェハに応じてウェハを固定するための支持部材をウェハカセットに多数設けるようにすると、ウェハカセットの部品点数が大幅に増大するため、ウェハカセットの製造コストを上昇させるという問題がある。
【0015】
さらに、従来のウェハボックスでは、ウェハカセットと、そのウェハカセットを収納するケースとの間にも、輸送中の振動によって異物が発生する可能性があり、それを防ぐために多量の緩衝材が使用されるが、半導体ウェハの製造コストの上昇と、緩衝材の焼却処分による環境性能の低下が課題となる。
【0016】
本発明は上記課題を解決するために為されたものであり、ウェハ収納および取り出し性能を損なうことなく、輸送中のウェハ把持能力を上げることで、輸送中の振動から発生する異物によるウェハの汚染を抑制できるウェハボックスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、複数の半導体ウェハを間隔を隔てて保持するスリット溝が両側面に複数形成されたウェハカセットと、前記半導体ウェハを保持した前記ウェハカセットを収納するケースとからなるウェハボックスにおいて、前記両側面の間隔を前記半導体ウェハの外径より狭く形成して、前記スリット溝から前記半導体ウェハの径方向両端を突出させて保持する前記ウェハカセットと、前記両側面と前記ケースとの間に挿入されると共に、エアが注入されて膨張し前記半導体ウェハの前記径方向両端を前記ウェハカセットと共に把持する一対のエアバッグとを備えたことを特徴とするウェハボックスである。
【0018】
前記ウェハカセットは、その両側面の外壁それぞれにエアバッグを収納させるエアバッグ溝が形成されてもよい。
【0019】
前記ウェハカセットは、板状或いは枠状に形成された前後部材と、その前後部材の両側上部を結ぶ一対の連結部材と、その連結部材の下部に、下方に延びるよう前後方向に間隔をおいて一体に設けられ、両側面にスリット溝を形成するためのガイド部材と、で構成されてもよい。
【0020】
前記両側のガイド部材は、側面に垂直に延びてスリット溝を形成するための垂直部と、その垂直部と連結し、中心に向かうように形成される傾斜部とからなり、その傾斜部に前記半導体ウェハを載置するストッパー部が前後方向に延びて設けられてもよい。
【0021】
前記エアバッグ溝は、前記連結部材と、前記連結部材の幅よりも狭く形成した前記垂直部と、その垂直部より広く形成された傾斜部でコ字状に形成されてもよい。
【0022】
前記エアバッグは、エアを注入するためのチューブを備え、前記チューブを加熱溶着して前記エアバッグを密封するようにされてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウェハボックスによれば、ウェハ収納および取り出し性能を損なうことなく、輸送中のウェハ把持能力を上げることで、輸送中の振動から発生する異物によるウェハの汚染を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る断面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】従来のウェハボックスの構造を示す断面図である。
【図6】図5のC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の好適な実施形態について図面に基づき詳述する。
【0026】
図1は、本実施形態に係るウェハボックスの構造を示す断面図であり、図2は図1のA−A線断面図を示している。
【0027】
また図3は、本実施形態に係る半導体ウェハの収納方法を示す説明図であり、図4は図3のB−B線断面図を示している。
【0028】
本発明のウェハボックス11は、半導体ウェハ12を保持するためのウェハカセット13と、半導体ウェハ12を保持するウェハカセット13を収納するためのケース14からなる。
【0029】
さらにケース14は、ウェハカセット13を収容するための下ケース14aと、半導体ウェハ12の径方向の一端(図1では上端)を保持するためのウェハ保持部15を有する上ケース14bとからなる。
【0030】
ウェハカセット13の両側面にはスリット溝17を形成するためのガイド部材16が間隔を置いて複数設けられ、スリット溝17に半導体ウェハ12が、間隔を隔てて複数枚保持される。
【0031】
本実施形態においては、ウェハカセット13の両側面の間隔を、半導体ウェハ12の径方向両端18よりも狭く形成される。すなわち、スリット溝17から、半導体ウェハ12の径方向両端18が突出するようにされる。
【0032】
ウェハカセット13の両側面と、ケース14の間には、半導体ウェハ12の径方向両端18を、ウェハカセット13と共に把持し、ケース14内に固定するための一対のエアバッグ19が挿入される。
【0033】
エアバッグ19はチューブ20を備え、ここからエアGを注入することにより、エアバッグ19が膨張するようにされる。
【0034】
本発明はエアバッグ19の形状および寸法を特に限定するものではないが、例えば、萎んだ状態のエアバッグ19aの上部および下部を蛇腹状あるいは波状とし、エアGを注入する際の膨張方向が主にケース14の両側方向(図では左右方向)となるようにされると、エアバッグ19aを挿入する際の位置決めが容易となる。
【0035】
エアバッグ19の材質については、輸送中にエアバッグ19より放出される不純物ガスや、輸送中の気圧変動によるエアバッグ19の過剰な膨張を抑制するべく、その使用環境毎に適切なものを選定するようにされる。
【0036】
また、チューブ20の材質については、エアバッグ19の膨張後に(すなわちエアバッグ19へのエアGの注入後に)加熱溶着できるものを用い、膨張したエアバッグ19が密封できるようにされる。
【0037】
本実施形態のウェハカセット13では、その両側面の外壁に、膨張したエアバッグ19を収納するためのエアバッグ溝21が形成される。
【0038】
ここで、本実施形態に係るウェハカセット13の形状について、より具体的に詳述する。
【0039】
本実施形態に係るウェハカセット13は、板状或いは枠状に形成された前後部材22と、前後部材22の両側の上部分を結ぶ一対の連結部材23と、その連結部材23の下部から、下方に延びるように、かつ前後方向(ウェハ厚さ方向)に所定の間隔をおいて一体に設けられ、両側面にスリット溝17を形成するためのガイド部材16から構成される。
【0040】
さらにガイド部材16は、ウェハカセット13の側面に垂直に延びてスリット溝17を形成する垂直部24と、その垂直部24と連結して中心に向かうように傾斜して形成される傾斜部25とからなり、その傾斜部25には、半導体ウェハ12を載置するための板状のストッパー部26が前後方向に延びて設けられる。
【0041】
また、連結部材23と、連結部材23の幅よりも狭く形成した垂直部24と、垂直部24よりも広く形成された傾斜部25により、ウェハカセット13の両側面の外壁にコ字状のエアバッグ溝21を形成するようにされる。
【0042】
次に、本発明の作用を説明する。
【0043】
図3、図4に示すように、ウェハカセット13は予め下ケース14aに収容され、このウェハカセット13の両側面に形成された複数のスリット溝17に、半導体ウェハ12が、間隔を隔てて保持される。
【0044】
半導体ウェハ12の収納、取り出し時は、一対のエアバッグ19aは萎んだ状態であり、半導体ウェハ12はスリット溝17に従い従来と遜色なく、容易に取り扱うことが出来る。
【0045】
全ての半導体ウェハ12を収納した後、チューブ20よりエアバッグ19aに所定の圧力までエアGを注入して、エアバッグ19aをウェハカセット13の両側面の外壁に形成したエアバッグ溝21に収納させながら膨張させ、半導体ウェハ12をウェハカセット13と共に、下ケース14a内に固定する。
【0046】
チューブ20はエアGの注入後に加熱溶着できるものとされるため、エアバッグ19を膨張させたまま容易に密封させることが出来る。
【0047】
また溶着後にエアバッグ19から延びるチューブ(図示しない)は、ウェハカセット13とケース14との隙間に、半導体ウェハと接触しない位置に保持される。
【0048】
その後、図1および図2に示すように、上ケース14bのウェハ保持部15により、半導体ウェハ12の径方向一端(図では上端)を保持させつつ、上ケース14bにより下ケース14aを密閉することで、半導体ウェハ12が収納される。
【0049】
これにより半導体ウェハ12は、ウェハカセット13と共にエアバッグ19でケース14内に確実に把持されるため、半導体ウェハ12がウェハカセット13と擦れることなく、異物の発生とウェハ表面の汚染を押さえて保管あるいは輸送することができる。
【0050】
保管あるいは輸送後、ケース14からウェハカセット13およびそれに保持される半導体ウェハ12を取り出す際には、エアバッグ19を再び萎んだ状態にすることで、容易に取り出しの作業を行うことが出来る。
【0051】
本発明はエアバッグ19を再び萎んだ状態にする手段を限定するものではないが、エアバッグ19から延びるチューブ(図示しない)の溶着部分を切り離すことにより、エアGが排出されてエアバッグ19が萎むようにされると、チューブから再度エアGを注入することでエアバッグ19を再利用できるため、製造コストおよび環境性能の観点から好ましい。あるいはカッターなどの切欠工具により、エアバッグ19を直接切り欠いてエアバッグ19が萎むようにされてもよい。
【0052】
以上説明したように、本発明のウェハボックス11においては、エアバッグ19を用いて、半導体ウェハ12をウェハカセット13と共にケース14内に確実に固定させるため、輸送中の異物発生が押さえられ、輸送後の表面クリーニングといったプロセスを省略する事が出来る。
【0053】
さらには、輸送中に発生する不慮の衝撃から半導体ウェハ12を保護する能力をエアバッグ19が有することから、これまで衝撃吸収用としてウェハカセットとウェハボックスの間に配置していた緩衝材(図示しない)を減らすことが出来、輸送効率の向上や緩衝材の削減といったコスト、環境性能を向上することが出来る。
【0054】
本発明は以上の実施の形態に限るものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、例えば、エアバッグ溝21の形状はC字状の曲面からなるようにされてもよい。
【符号の説明】
【0055】
11 ウェハボックス
12 半導体ウェハ
13 ウェハカセット
14 ケース
17 スリット溝
18 半導体ウェハの径方向両端
19 エアバッグ
G エア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体ウェハを間隔を隔てて保持するスリット溝が両側面に複数形成されたウェハカセットと、前記半導体ウェハを保持した前記ウェハカセットを収納するケースとからなるウェハボックスにおいて、
前記両側面の間隔を前記半導体ウェハの外径より狭く形成して、前記スリット溝から前記半導体ウェハの径方向両端を突出させて保持する前記ウェハカセットと、
前記両側面と前記ケースとの間に挿入されると共に、エアが注入されて膨張し前記半導体ウェハの前記径方向両端を前記ウェハカセットと共に把持する一対のエアバッグと
を備えたことを特徴とするウェハボックス。
【請求項2】
前記ウェハカセットは、その両側面の外壁それぞれにエアバッグを収納させるエアバッグ溝が形成される請求項1記載のウェハボックス。
【請求項3】
前記ウェハカセットは、板状或いは枠状に形成された前後部材と、
その前後部材の両側上部を結ぶ一対の連結部材と、
その連結部材の下部に、下方に延びるよう前後方向に間隔をおいて一体に設けられ、両側面にスリット溝を形成するためのガイド部材と、
で構成される請求項1または2に記載のウェハボックス。
【請求項4】
前記両側のガイド部材は、側面に垂直に延びてスリット溝を形成するための垂直部と、その垂直部と連結し、中心に向かうように形成される傾斜部とからなり、その傾斜部に前記半導体ウェハを載置するストッパー部が前後方向に延びて設けられる請求項3記載のウェハボックス。
【請求項5】
前記エアバッグ溝は、前記連結部材と、前記連結部材の幅よりも狭く形成した前記垂直部と、その垂直部より広く形成された傾斜部でコ字状に形成される請求項4記載のウェハボックス。
【請求項6】
前記エアバッグは、エアを注入するためのチューブを備え、前記チューブを加熱溶着して前記エアバッグを密封する請求項1〜5いずれかに記載のウェハボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25408(P2012−25408A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163701(P2010−163701)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】