説明

ウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体

【課題】 ウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体の合成研究及びその誘導体の薬理作用を見出す。
【解決手段】 式(1)で表される化合物又はその塩。式中、R1及びR2は同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基等;R3はヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級シクロアルキルオキシ基等;R4及びR5が同一又は異なって、ハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基等;Xは置換基を有してもよい低級アルキレン基等;Yは単結合又は置換基を有してもよい低級アルキレン基等;W1−W2がN−CH、CH−N等;l、m等は同一又は異なって、0、1等を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬として有用なウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体又はその塩に関する。その誘導体はヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有し、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が有効とされる疾患の予防及び/又は治療剤として期待される。また、その誘導体は線維柱帯細胞に対する形態変化作用及び眼圧下降作用をも併せ持ち、房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患の予防及び/又は治療剤としても有用である。
【背景技術】
【0002】
真核生物の染色体DNAは、コアヒストン蛋白質であるヒストンH2A、H2B、H3、H4等に巻き付いてヌクレオソームとよばれる基本構造をとる。また、そのヌクレオソーム構造が集合することによりクロマチン構造を形成している。このクロマチン構造の構成にはヒストンの翻訳後修飾が密接に関係しており、その翻訳後修飾として、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化等が知られている。
【0003】
例えば、ヒストンのアセチル化は、遺伝子の転写誘導、複製、修復等に関与すると考えられている。
【0004】
このヒストンのアセチル化は、ヒストンアセチル化酵素(以下、「HAT」とする)とヒストン脱アセチル化酵素(以下、「HDAC」とする)により可逆的に制御されている。
【0005】
このHDACを阻害すれば、HATによるヒストンのアセチル化が亢進して、それに続く遺伝子の転写誘導、複製、修復等が活性化され、細胞増殖、老化等が関与するとされる種々の疾患、例えば、癌、自己免疫疾患、神経変性疾患、感染症等の予防及び/又は治療が可能になると考えられている(非特許文献1、特許文献1、特許文献2)。
【0006】
HDAC阻害剤の代表例として、細胞周期停止作用、形質転換細胞の正常化及び分化作用等を有する酪酸(非特許文献2)、細胞周期停止作用、形分化作用等を有する微生物の代謝産物であるトリコスタチンA(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)、細胞増殖抑制作用を有する微生物の代謝産物であるトラポキシン(非特許文献6、非特許文献7)等が知られている。
【0007】
また、眼内における房水循環は眼圧と密接な関係があり、この房水循環が阻害されると眼圧に多大な影響を及ぼす。この房水循環が妨げられると眼圧が上昇して緑内障、高眼圧症等の眼圧が関与するとされる疾患が引き起こされる。
【0008】
通常、房水は血漿成分のろ過や能動輸送により産生されて、その大部分は線維柱帯流出経路で眼球外に流出する。すなわち、薬剤等により線維柱帯細胞の形態を変化させることで、房水流出抵抗を減弱させ、房水流出を亢進させることにより、眼圧が関与するとされる疾患の予防及び/又は治療が可能となる。
【0009】
例えば、線維柱帯細胞の形態を変化させて、房水流出を亢進する薬物として、アクチン重合阻害剤であるラトランキュリンA、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)阻害剤であるH−7、Rhoキナーゼ阻害剤であるY−39983(特許文献3、特許文献4)等が知られている。
【0010】
一方、チオフェンジアミン構造を有する化合物が、腫瘍細胞増殖阻害剤として特許文献5及び特許文献6に開示されている。しかしながら、ウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体に関する具体的な記載は一切なされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−272419号公報
【特許文献2】特表2006−517532号公報
【特許文献3】国際公開第97/30701号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/09162号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/030704号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/030705号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】蛋白質 核酸 酵素 Vol.51.No.14(2006)
【非特許文献2】J.Biol.Chem.,254,1716-1723(1979)
【非特許文献3】Cancer Res.,47,3688-3691(1987)
【非特許文献4】Exp.Cell Res.,177,122-131(1988)
【非特許文献5】J.Biol.Chem.,265,17174-17179(1990)
【非特許文献6】J.Antibiotics,43,1524-1534(1990)
【非特許文献7】J.Biol.Chem.,268,22429-22435(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体又はその塩の合成研究及びその誘導体の薬理作用に関する研究は非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は新たな化学構造、すなわち、ウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体又はその塩の合成研究を行い、数多くの新規化合物を創製することに成功した。
【0015】
さらに、その誘導体又はその塩の薬理作用について研究した結果、本発明者等は、その誘導体又はその塩がHDAC阻害活性を有し、HDAC阻害剤が有効とされる疾患の予防及び/又は治療剤として有用であることを見出した。また、さらなる研究の結果、その誘導体又は塩が、線維柱帯細胞に対する形態変化作用及び眼圧下降作用をも併せ持ち、房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患の予防及び/又は治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は下記一般式(1)で表される化合物又はその塩(以下、「本発明化合物」とする)及びそれを含む医薬組成物に関する。
【0017】
また、その医薬用途における好ましい発明は、HDAC阻害剤が有効とされる疾患、例えば、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、感染症、造血障害、繊維症、循環器疾患、血管新生が関与するとされる疾患等の予防及び/又は治療剤に関する発明であり、また、線維柱帯細胞に対する形態変化作用及び眼圧下降作用をも併せ持つことから房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患、例えば、緑内障、高眼圧症等の予防及び/又は治療剤に関する発明である。
【化1】

【0018】
[R1及びR2は同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基又は下記一般式(2)で表される基を示し;
【化2】

【0019】
3はヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級シクロアルキルオキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、カルボキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシカルボニル基、−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し;
【化3】

【0020】
4及びR5が同一又は異なって、ハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基又は低級アルコキシ基を示し;
6はハロゲン原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、ヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、メルカプト基、置換基を有してもよい低級アルキルチオ基、置換基を有してもよい低級アルキルカルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を示し;
7は置換基を有してもよい低級アルキル基、ヒドロキシ基又は置換基を有してもよい低級アルコキシ基を示し;
a及びRbは同一又は異なって、水素原子又は置換基を有してもよい低級アルキル基を示し;
環Aは環式炭化水素又は複素環を示し;
環Bは窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;
Xは置換基を有してもよい低級アルキレン基を示し;
Y及びZは同一又は異なって、単結合又は置換基を有してもよい低級アルキレン基を示し;
1−W2がN−CH、CH−N又はCH−CHを示し;
l、m、n及びoは同一又は異なって、0、1、2又は3を示す。以下、同じ]
【発明の効果】
【0021】
本発明は医薬として有用なウレア構造を有する新規チオフェンジアミン誘導体又はその塩を提供する。本発明化合物はHDAC阻害活性を有し、HDAC阻害剤が有効とされる疾患の予防及び/又は治療剤として有用であり、特に、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、感染症、造血障害、繊維症、循環器疾患、血管新生が関与するとされる疾患の予防及び/又は治療剤として期待される。また、本発明化合物は線維柱帯細胞に対する形態変化作用及び眼圧下降作用をも併せ持つことから房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患、例えば、緑内障、高眼圧症等の予防及び/又は治療剤としても期待される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中で使用される文言(原子、基、環等)の定義について以下に詳しく説明する。
【0023】
「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子を示す。
【0024】
「低級アルキル基」とは、炭素原子数が1〜8個、好ましくは1〜6個の直鎖又は分枝のアルキル基を示す。具体例として、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル基等が挙げられる。
【0025】
「低級アルケニル基」とは、炭素原子数が2〜8個、好ましくは2〜6個の直鎖又は分枝のアルケニル基を示す。具体例として、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、イソプロペニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチル−2−ブテニル基等が挙げられる。
【0026】
「低級アルキニル基」とは、炭素原子数が2〜8個、好ましくは2〜6個の直鎖又は分枝のアルキニル基を示す。具体例として、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、イソブチニル、イソペンチニル基等が挙げられる。
【0027】
「低級シクロアルキル基」とは、炭素原子数が3〜8個、好ましくは3〜6個のシクロアルキル基を示す。具体例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチル基が挙げられる。
【0028】
「アリール基」とは、炭素原子数が6〜14個の単環式芳香族炭化水素基又は2環式若しくは3環式の縮合多環式芳香族炭化水素から水素1原子を除いた残基を示す。具体例として、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等が挙げられる。
【0029】
「低級アルコキシ基」とは、ヒドロキシ基の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例として、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシルオキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、イソペントキシ基等が挙げられる。
【0030】
「低級シクロアルキルオキシ基」とは、ヒドロキシ基の水素原子が低級シクロアルキル基で置換された基を示す。具体例として、シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシ、シクロオクチルオキシ基が挙げられる。
【0031】
「アリールオキシ基」とは、ヒドロキシ基の水素原子がアリール基で置換された基を示す。具体例として、フェノキシ、ナフトキシ、アントリルオキシ、フェナントリルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
「低級アルキルチオ基」とは、メルカプト基の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例として、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、n−ブチルチオ、n−ペンチルチオ、n−ヘキシルチオ、n−ヘプチルチオ、n−オクチルチオ、イソプロピルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオ、イソペンチルチオ基等が挙げられる。
【0033】
「低級アルキルカルボニル基」とは、ホルミル基の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例としてメチルカルボニル、エチルカルボニル、n−プロピルカルボニル、n−ブチルカルボニル、n−ペンチルカルボニル、n−ヘキシルカルボニル、n−ヘプチルカルボニル、n−オクチルカルボニル、イソプロピルカルボニル、イソブチルカルボニル、sec−ブチルカルボニル、tert−ブチルカルボニル、イソペンチルカルボニル基等が挙げられる。
【0034】
「低級アルコキシカルボニル基」とは、ホルミル基の水素原子が低級アルコキシ基で置換された基を示す。具体例として、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、n−ペントキシカルボニル、n−ヘキシルオキシカルボニル、n−ヘプチルオキシカルボニル、n−オクチルオキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、イソペントキシカルボニル基等が挙げられる。
【0035】
「複素環」とは、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する飽和或いは不飽和単環式複素環又は2環式若しくは3環式の縮合多環式複素環を示す。
【0036】
飽和の単環式複素環の具体例として、窒素原子を環内に有するアジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、トリアゾリジン、ピペリジン、ヘキサヒドロピリダジン、ヘキサヒドロピリミジン、ピペラジン、ホモピペリジン、ホモピペラジン等が、酸素原子を環内に有するテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、[1,4]ジオキサン、[1,2]ジオキシラン等が、硫黄原子を環内に有するテトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン等が、窒素原子と酸素原子を環内に有するオキサゾリジン、イソオキサゾリジン、モルホリン等が、窒素原子と硫黄原子を環内に有するチアゾリジン、イソチアゾリジン、チオモルホリン等が挙げられる。
【0037】
また、それらの飽和の単環式複素環はベンゼン環等と縮合してジヒドロインドール、ジヒドロインダゾール、ジヒドロベンゾイミダゾール、テトラヒドロキノリン、テトラヒドロイソキノリン、テトラヒドロシンノリン、テトラヒドロフタラジン、テトラヒドロキナゾリン、テトラヒドロキノキサリン、2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン、1,3−ジヒドロ−2−ベンゾフラン、クロマン、イソクロマン、ベンゾ[1,3]ジオキソール、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン、ジヒドロベンゾチオフェン、ジヒドロイソベンゾチオフェン、チオクロマン、イソチオクロマン、ジヒドロベンゾオキサゾール、ジヒドロベンゾイソオキサゾール、ジヒドロベンゾオキサジン、ジヒドロベンゾチアゾール、ジヒドロベンゾイソチアゾール、ジヒドロベンゾチアジン、キサンテン、4a−カルバゾール、ペリミジン等の2環式又は3環式の縮合多環式複素環を形成してもよい。
【0038】
不飽和の単環式複素環の具体例として、窒素原子を環内に有するジヒドロピロール、ピロール、ジヒドロピラゾール、ピラゾール、ジヒドロイミダゾール、イミダゾール、ジヒドロトリアゾール、トリアゾール、テトラヒドロピリジン、ジヒドロピリジン、ピリジン、テトラヒドロピリダジン、ジヒドロピリダジン、ピリダジン、テトラヒドロピリミジン、ジヒドロピリミジン、ピリミジン、テトラヒドロピラジン、ジヒドロピラジン、ピラジン等が、酸素原子を環内に有するジヒドロフラン、フラン、ジヒドロピラン、ピラン等が、硫黄原子を環内に有するジヒドロチオフェン、チオフェン、ジヒドロチオピラン、チオピラン等が、窒素原子と酸素原子を環内に有するジヒドロオキサゾール、オキサゾール、ジヒドロイソオキサゾール、イソオキサゾール、ジヒドロオキサジン、オキサジン等が、窒素原子と硫黄原子を環内に有するジヒドロチアゾール、チアゾール、ジヒドロイソチアゾール、イソチアゾール、ジヒドロチアジン、チアジン等が挙げられる。
【0039】
また、それらの不飽和の単環式複素環はベンゼン環等と縮合してインドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ジヒドロキノリン、キノリン、ジヒドロイソキノリン、イソキノリン、フェナントリジン、ジヒドロシンノリン、シンノリン、ジヒドロフタラジン、フタラジン、ジヒドロキナゾリン、キナゾリン、ジヒドロキノキサリン、キノキサリン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、クロメン、イソクロメン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、チオクロメン、イソチオクロメン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾオキサジン、ベンゾチアゾール、テトラヒドロベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾチアジン、フェノキサンチン、カルバゾール、β−カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン等の2環式又は3環式の縮合多環式複素環を形成してもよい。
【0040】
さらにこれらの複素環において、同一の炭素原子上に2つの水素原子を有する複素環の場合、それらの水素原子がオキソ基と置換して、2−ピロリドン、4−ピペリドン、4−チアゾリドン、ピラン−4−(4H)−オン、ピラジン−2−(3H)−オン等の複素環式ケトンを形成してもよく、この複素環式ケトンも本発明の複素環の範囲に包含される。
【0041】
「窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環」とは、前記複素環の内、窒素原子及び/又は酸素原子を1又は複数個、環内に有する複素環を示す。
【0042】
「複素環基」とは、複素環から水素1原子を除いた残基を示す。
【0043】
「環式炭化水素」とは、炭素原子数が3〜10個の飽和又は不飽和単環式炭化水素、2環式若しくは3環式炭化水素を示す。
【0044】
飽和単環式炭化水素の具体例として、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等が挙げられる。
【0045】
飽和2環式炭化水素の具体例として、オクタヒドロペンタレン、オクタヒドロインデン、デカヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0046】
飽和3環式炭化水素の具体例として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等が挙げられる。
【0047】
不飽和単環式炭化水素の具体例として、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0048】
不飽和2環式炭化水素の具体例として、インダン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、ナフタレン等が挙げられる。
【0049】
「低級アルキレン基」とは、炭素原子数が1〜8個、好ましくは1〜6個の直鎖又は分枝のアルキレン基を示す。具体例として、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、メチルメチレン、エチルメチレン基等が挙げられる。
【0050】
「置換基を有してもよい低級アルキル基」、「置換基を有してもよい低級アルケニル基」、「置換基を有してもよい低級アルキニル基」、「置換基を有してもよい低級アルコキシ基」、「置換基を有してもよい低級アルキルチオ基」、「置換基を有してもよい低級アルキルカルボニル基」、「置換基を有してもよい低級アルコキシカルボニル基」及び/又は「置換基を有してもよい低級アルキレン基」とは、ハロゲン原子、低級シクロアルキル基、アリール基、複素環基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、‐ORp、‐SRq、-CORr、-COORs、-CONRtu 及び-NRVW からなる群より選択される1又は複数個の置換基を有してもよい「低級アルキル基」、「低級アルケニル基」、「低級アルキニル基」、「低級アルコキシ基」、「低級アルキルチオ基」、「低級アルキルカルボニル基」、「低級アルコキシカルボニル基」及び/又は「低級アルキレン基」を示す。
【0051】
「置換基を有してもよいアリール基」、「置換基を有してもよい複素環基」、「置換基を有してもよい低級シクロアルキルオキシ基」及び/又は「置換基を有してもよいアリールオキシ基」とは、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、低級シクロアルキル基、アリール基、複素環基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、‐ORp、‐SRq、-CORr、-COORs、-CONRt u 及び-NRvwからなる群より選択される1又は複数個の置換基を有してもよい「アリール基」、「複素環基」、「低級シクロアルキルオキシ基」及び/又は「アリールオキシ基」を示す。
【0052】
ここで、Rp、Rq、Rr、Rs、Rt、Ru、Rv及びRWは同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、低級シクロアルキル基、アリール基及び複素環基からなる群より選択される基を示す。
【0053】
「ヒドロキシ基を置換基として有する低級アルキル基」とは、1又は複数個のヒドロキシ基で置換された「低級アルキル基」を示す。
【0054】
「低級アルコキシ基を置換基として有する低級アルキル基」とは、1又は複数個の低級アルコキシ基で置換された「低級アルキル基」を示す。
【0055】
「低級アルコキシカルボニル基を置換基として有する低級アルキル基」とは、1又は複数個の低級アルコキシカルボニル基で置換された「低級アルキル基」を示す。
【0056】
本発明でいう「複数個の基」とは、夫々の基が同一であっても異なるものであってもよく、その個数は2又は3個の場合が好ましく、特に2個の場合が好ましい。また、水素原子やハロゲン原子もこの「基」の概念に含まれる。
【0057】
本発明において、「l」、「m」、「n」及び/又は「o」が2又は3を示す場合、複数存在する各R4、R5、R6及びR7は同一又は異なっていてもよい。尚、「l」、「m」、「n」及び/又は「o」が0を示す場合とは、各R4、R5、R6及び/又はR7が存在しない、すなわち、それらの置換基を有さない場合を示す。
【0058】
本発明でいう「HDAC阻害剤」とは、HDACを阻害することで、ヒストン等のアセチル化を亢進させて、医薬的作用を発現させる医薬組成物をいう。
本発明でいう「HDAC阻害剤が有効とされる疾患」とは、HDAC阻害剤で治療効果及び/又は予防効果が期待されることが知られている疾患をいい、その具体例として、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、感染症、造血障害、繊維症、循環器疾患等が挙げられる。
【0059】
より具体的には、急性白血病、慢性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、大腸癌、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、膵島細胞癌、腎細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、絨毛癌、甲状腺癌、悪性カルチノイド腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫等の癌;関節リウマチ、腎炎、糖尿病、全身性エリテマトーデス、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性リンパ節症、免疫芽細胞リンパ節症、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、乾癬、変形性関節症、若年性慢性関節炎、移植片対宿主拒絶反応、喘息、アルコール性肝炎、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、膜性糸球体腎炎、椎間板痛、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、角膜炎、結膜炎、ブドウ膜炎、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫等の自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患;アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性、ポリグルタミン病、線条体黒質変性症、進行性核上麻痺、捻転ジストニア、痙性斜頸、家族性振戦、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、びまん性レヴィー小体病、ピック病、脳内出血、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、肥厚性間質性ニューロパシー 、網膜色素変性症、遺伝性視神経萎縮症、遺伝性痙性対麻痺、進行性失調症、シャイ・ドレーガー症候群等の神経変性疾患;真菌感染(カンジダ菌など)、細菌感染、ウィルス感染(単純ヘルペス含む)、原虫感染(マラリアなど)、トキソプラズマ症、コクシジウム症等の感染症;貧血、鎌状赤血球貧血、サラセミア等の造血障害;肝線維症、嚢胞性線維症、血管線維腫等の線維症;心不全、再狭窄、動脈硬化症、心肥大等の循環器疾患;前記癌、関節リウマチ、乾癬、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症等の血管新生が関与するとされる疾患等が挙げられる。
【0060】
尚、前記した具体的な疾患は、本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、HDAC阻害剤が有効とされる疾患であれば、特に制限はない。
【0061】
また、本発明におけるHDACに、ファミリー及び/又はサブタイプが存在する場合、そのファミリー及び/又はサブタイプも本発明のHDACの範囲に含まれる。
【0062】
本発明でいう「房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患」とは、房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患であれば特に制限はないが、好ましくは、緑内障又は高眼圧症が挙げられる
本発明化合物における「塩」とは、医薬として許容される塩であれば、特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等の有機酸との塩、臭化メチル、ヨウ化メチル等との四級アンモニウム塩、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオンとの塩、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、鉄、亜鉛等との金属塩、アンモニアとの塩、トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0063】
本発明化合物に幾何異性体又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。
【0064】
また、本発明化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0065】
本発明化合物にプロトン互変異性が存在する場合には、それらの互変異性体も本発明に含まれる。
【0066】
本発明化合物に結晶多形及び結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体及び結晶多形群(結晶多形システム)も本発明に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存等の条件及び状態(尚、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形及びその過程全体を意味する。
【0067】
(a)本発明化合物の例として、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が以下に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【化4】

【0068】
(a1)R1及びR2は同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基又は下記一般式(2)で表される基を示し;及び/又は
【化5】

【0069】

(a2)R3はヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級シクロアルキルオキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、カルボキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシカルボニル基、−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し; 及び/又は
【化6】

【0070】
(a3)R4及びR5が同一又は異なって、ハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基又は低級アルコキシ基を示し;及び/又は
(a4)R6はハロゲン原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、ヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、メルカプト基、置換基を有してもよい低級アルキルチオ基、置換基を有してもよい低級アルキルカルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を示し;及び/又は
(a5)R7は置換基を有してもよい低級アルキル基、ヒドロキシ基又は置換基を有してもよい低級アルコキシ基を示し;及び/又は
(a6)Ra及びRbは同一又は異なって、水素原子又は置換基を有してもよい低級アルキル基を示し;及び/又は
(a7)環Aは環式炭化水素又は複素環を示し;及び/又は
(a8)環Bは窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;及び/又は
(a9)Xは置換基を有してもよい低級アルキレン基を示し;及び/又は
(a10)Y及びZは同一又は異なって、単結合又は置換基を有してもよい低級アルキレン基を示し;及び/又は
(a11)W1−W2がN−CH、CH−N又はCH−CHを示し;及び/又は
(a12)l、m、n及びoは同一又は異なって、0、1、2又は3を示す。
【0071】
すなわち、一般式(1)で示される化合物において、上記(a1)、(a2)、(a3)、(a4)、(a5)、(a6)、(a7)、(a8)、(a9)、(a10)、(a11)及び (a12)の組み合わせからなる化合物又はその塩が挙げられる。
【0072】
(b)本発明化合物における好ましい例として、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0073】

(b1) R1及びR2が同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基(好ましくはイソプロポキシ基)を置換基として有する低級アルキル基、低級アルコキシカルボニル基(好ましくはエトキシカルボニル基)を置換基として有する低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基又は下記一般式(2)で表される基を示し; 及び/又は
【化7】

【0074】
(b2)R3がヒドロキシ基、低級アルコキシ基、低級シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基、−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し; 及び/又は
【化8】

【0075】

(b3)R6がハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基を置換基として有する低級アルキル基、低級アルコキシ基を置換基として有する低級アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、メルカプト基、低級アルキルチオ基、低級アルキルカルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を示し;及び/又は
(b4)R7が低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示し;及び/又は
(b5)Ra及びRbが同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示し;及び/又は
(b6)環Aが環式炭化水素又は複素環を示し;及び/又は
(b7)環Bが窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;及び/又は
(b8)Xが低級アルキレン基を示し;及び/又は
(b9)Y及びZが同一又は異なって、単結合又は低級アルキレン基を示し;及び/又は
(b10)W1−W2がCH−N又はCH−CHを示し;及び/又は
(b11)l及びmが0を示し、及び/又は
(b12)n及びoが同一又は異なって、0、1、2又は3を示す。
【0076】
すなわち、一般式(1)で示される化合物において、上記(b1)、(b2)、(b3)、(b4)、(b5)、(b6)、(b7)、(b8)、(b9)、(b10)、(b11)及び(b12)からなる群より選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩が挙げられる。また、その選択された条件は、(a)の条件と組み合わせることもできる。
【0077】
(c)本発明化合物におけるより好ましい例として、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0078】
(c1) R1が水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基(好ましくはイソプロポキシ基)を置換基として有する低級アルキル基、低級アルコキシカルボニル基(好ましくはエトキシカルボニル基)を置換基として有する低級アルキル基又は下記一般式(2)で表される基を示し; 及び/又は
【化9】

【0079】
(c2)R2が水素原子を示し;及び/又は
(c3)R3が−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し; 及び/又は
【化10】

【0080】
(c4)R6がハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基を置換基として有する低級アルキル基、アリール基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基を示し;及び/又は
(c5)Rが低級アルキル基を示し;及び/又は
(c6)Ra及びRbが低級アルキル基を示し;及び/又は
(c7)環Aが環式炭化水素又は複素環を示し;及び/又は
(c8)環Bが窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;及び/又は
(c9)X及びYが低級アルキレン基を示し;及び/又は
(c10)Zが単結合又は低級アルキレン基を示し;及び/又は
(c11)W1−W2がCH−N又はCH−CHを示し;及び/又は
(c12)l及びmが0を示し;及び/又は
(c13)nが0、1又は2を示し;及び/又は
(c14)oが0又は1を示す。
【0081】
すなわち、一般式(1)で示される化合物において、上記(c1)、(c2)、(c3)、(c4)、(c5)、(c6)、(c7)、(c8)、(c9)、(c10)、(c11)、(c12) 、(c13)及び(c14)からなる群より選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩が挙げられる。また、その選択された条件は、(a)及び/又は(b)の条件と組み合わせることもできる。
【0082】
(d)環Aの好ましい例として、下記の環が挙げられる。
【0083】
環Aがシクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、インダン、チオフェン、フラン、ベンゾ[1,3]ジオキソール、2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン、チアゾール、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン又はピリジンを示す。
【0084】
また、(d)の条件を有し、かつ、上記(a)、(b)、(c)及び/又は下記(e)の条件を充足する化合物又はその塩がより好ましい。
【0085】
(e)環Bの好ましい別の例として、下記の環が挙げられる。
【0086】
環Bがピロリジン、ピペラジン又はモルホリンを示す。
【0087】
また、(e)の条件を有し、かつ、上記(a)、(b)、(c)及び/又は(d)の条件を充足する化合物又はその塩がより好ましい。
【0088】
(e)本発明化合物における特に好ましい具体例として、下記の化合物又はその塩が挙げられる。
【0089】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−(2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン−6−イル)−1−(2−ジメチルアミノエチル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0090】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−4−[3−(2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ベンズアミド。
【0091】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(チオフェン−3−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0092】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−フェネチルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0093】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−(チオフェン−3−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0094】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−シクロペンチル−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0095】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−イソプロピルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0096】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−イソプロピル−1−[3−(4−メチルピペラジン−1−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0097】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−[4−(モルホリン−4−イル)ブチル]−3−フェネチルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0098】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−シクロペンチル−1−[2−(ピロリジン−1−イル)エチル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0099】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[2−[3−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)]エチル−1−[2−(4−メチルピペラジン−1−イル)エチル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0100】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−[4−(モルホリン−4−イル)ブチル]−3−プロピルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0101】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−エトキシカルボニルメチル−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0102】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(チアゾール−2−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0103】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド。
【0104】
本発明化合物は、以下の方法により製造することができる。尚、個々の具体的な製造方法については、後述の実施例[製造例の項]で詳細に説明する。また、下記の合成経路中で使用されているBocはtert−ブトキシカルボニル基を示す。下記の式中R、R、R、R、Rに酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が含まれる場合には汎用される方法で保護、脱保護することが出来る。
【0105】
本発明化合物の製造方法は、以下に示す方法に大別することができ、置換基の種類に応じて、適宜その方法を選択することができる。
【0106】
1) 本発明化合物(I)は、合成経路1に従い製造することができる。すなわち、本発明化合物(I)は、化合物(II)をメタノール等の有機溶媒中、塩化水素−酢酸エチル等の酸存在下、0℃から室温で30分間から24時間処理することにより得ることができる。
【化11】

【0107】
化合物(IIa,R=H)は、合成経路1−1に従い製造することができる。すなわち、これは、化合物(III)とイソシアネート(IV)を塩化メチレン等の有機溶媒中、0℃から室温で30分間から24時間反応させることにより得ることができる。
【化12】

【0108】
化合物(III)は、合成経路1−2に従い製造することができる。すなわち、これは、スルホネート(V)とアミン(VI)をアセトニトリル等の有機溶媒中、0℃から室温で30分間から24時間反応させることにより得ることができる。
【化13】

【0109】
化合物(V)は、合成経路1−3に従い製造することができる。すなわち、これは、化合物(VII)と塩化メタンスルホニル(VIII)を塩化メチレン等の有機溶媒中、トリエチルアミン等の塩基存在下、0℃から室温で30分間から3時間反応させることにより得ることができる。
【化14】

【0110】
化合物(VIIa,Y=CH)は、合成経路1−4に従い製造することができる。すなわち、これは、化合物(IX)をテトラヒドロフラン(以下、「THF」とする)等の有機溶媒中、テトラヒドロほう素化リチウム等の還元剤の存在下、0℃から室温で30分間から24時間処理することにより得ることができる。
【化15】

【0111】
化合物(IX)は、合成経路1−5に従い製造することができる。すなわち、これは、化合物(X)と化合物(XI)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とする)等の有機溶媒中、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロフォスフェート(以下、「HATU」とする)等の縮合剤及びN−メチルモルホリン等の塩基存在下、室温で1時間から24時間反応させることにより得ることができる。
【化16】

【0112】
化合物(X)は、合成経路1−6に従い製造することができる。すなわち、これは、化合物(XII)と二炭酸ジ−tert−ブチル(XIII)をTHF等の有機溶媒中、トリエチルアミン等の塩基存在下、−20℃から室温で1時間から24時間反応させることにより得ることができる。
【化17】

【0113】
2) 化合物(II)は、合成経路2に従い製造することができる。すなわち、これは、化合物(III)とアミン(XIV)をTHF等の有機溶媒中、1,1’−カルボニルジイミダゾール等のウレア化剤存在下、0℃から60℃で30分間から24時間反応させることにより得ることができる。
【化18】

【0114】
この詳細については、後述の実施例「薬理試験の項」で詳細に説明するが、本発明化合物のHDAC阻害活性をHDAC Fluorimetric Assay/Drug Discovery Kit(BIOMOL社製)を用いて、そのプロトコールに準じて検討した結果、本発明化合物が優れたHDAC阻害活性を有することを見出した。すなわち、本発明化合物は、HDAC阻害剤が有効とされる疾患の予防及び/又は治療剤として有用であり、特に、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、感染症、造血障害、繊維症、循環器疾患、血管新生が関与するとされる疾患等の予防及び/又は治療剤として期待される。
【0115】
また、本発明化合物の線維柱帯細胞に対する形態変化作用、すなわち、The Journal of Clinical Investigation, 103, 1141−1150 (1999)に報告されているCell Shape Index(以下、「CSI」とする)を指標とした評価系において、本発明化合物の線維柱帯細胞の細胞形態変化作用を検討した結果、本発明化合物に優れた線維柱帯細胞の形態変化作用があることを見出した。
【0116】
さらに、雄性日本白色ウサギを用いて、本発明化合物の実際の眼圧下降作用を確認する為、前眼房内投与における眼圧下降作用について検討した結果、本発明化合物に眼圧下降作用があることを認めた。すなわち、本発明化合物は線維柱帯細胞に対する形態変化作用及び眼圧下降作用をも併せ持ち房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患、例えば、緑内障、高眼圧症等の予防及び/又は治療剤としても期待される。
【0117】
本発明化合物は経口でも、非経口でも投与することができる。投与剤型として、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤、点眼剤等が挙げられ、それらは汎用される技術を使用して製剤化することができる。
【0118】
例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤は、乳糖、マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等の賦形剤、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコーン樹脂等のコーティング剤、パラオキシ安息香酸エチル、ベンジルアルコール
等の安定化剤、甘味料、酸味料、香料等の矯味矯臭剤等を必要に応じて、必要量を使用し、調製することができる。
【0119】
また、注射剤、点眼剤等の非経口剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール等の等張化剤、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸,氷酢酸、トロメタモール等の緩衝化剤、ポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシ40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等の界面活性剤、クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤、塩化ベンザルコニウム、パラベン、塩化ベンゾトニウム、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、クロロブタノール、ソルビン酸等の防腐剤、塩酸、クエン酸、リン酸、氷酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤、ベンジルアルコール等の無痛化剤等を必要に応じて、必要量を使用し、調製することができる。
【0120】
本発明化合物の投与量は、症状、年齢、剤型等により適宜選択して使用することができる。例えば、経口剤は通常1日当たり0.01〜1000mg、好ましくは1〜100mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、点眼剤は通常0.0001%〜10%(w/v)、好ましくは0.01%〜5%(w/v)の濃度のものを1回又は数回に分けて投与することができる。
【0121】
以下に本発明化合物の製造例、製剤例及び薬理試験の結果を示す。尚、これらの例示は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0122】
[製造例]
参考例1
3−アミノ−4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン(参考化合物1−1)
氷冷下、3,4−ジアミノチオフェン 2塩酸塩(0.13g、0.71mmol)とトリエチルアミン(0.29mL、2.1mmol)のTHF(4.0mL)溶液に二炭酸ジ−t−ブチル(0.16g、0.72mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応液に水(40mL)を加え、酢酸エチル(30mL、2回)で抽出した。有機層を水(30mL)及び飽和食塩水(30mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製することにより標記参考化合物(87mg)を褐色固体として得た。(収率58%)
【表1】

【0123】
参考例2
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−メトキシカルボニルピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物2−1)
3−アミノ−4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン(参考化合物1−1、0.68g、3.2mmol)、5−メトキシカルボニルピリジン−2−カルボン酸(0.64g、3.5mmol)及びN−メチルモルホリン(0.70mL、6.4mmol)のDMF(20mL)溶液にHATU(1.3g、3.5mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。水(0.30L)及び酢酸エチル(0.40L)を加え、不溶物をろ取することにより標記参考化合物(0.50g)を淡黄色固体として得た。さらに、ろ液を分配し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、析出した固体を酢酸エチル(30mL)でろ取することにより、標記参考化合物(0.30g)を淡黄色固体として得た。(収率67%)
【表2】

【0124】
以下、参考化合物1−1及び市販化合物から選択される化合物を使用し、参考化合物2−1の製造方法に準じて、参考化合物2−2を得た。
【表3】

【0125】
参考例3
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−ヒドロキシメチルピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物3−1)
氷冷下、N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−メトキシカルボニルピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物2−1、24g、64mmol)のTHF(1.3L)−1,4−ジオキサン(1.3L)の混合溶液にテトラヒドロほう素化リチウム(1.5g、70mmol)を加え、同温で一晩撹拌した。テトラヒドロほう素化リチウム(0.30g、14mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。氷冷下、水(0.40L)及び10%クエン酸水溶液(25mL)を加えた。析出物をろ去した後、ろ液を減圧下濃縮した。水(0.30L)を加え、析出物をろ取し、減圧下乾燥することにより標記参考化合物(21g)を淡黄色固体として得た。(収率95%)
【表4】

【0126】
以下、参考化合物2−2及び市販化合物から選択される化合物を使用し、参考化合物3−1の製造方法に準じて、参考化合物3−2を得た。
【表5】

【0127】
参考例4
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−メタンスルホニルオキシメチルピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物4−1)
氷冷下、N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−ヒドロキシメチルピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物3−1、0.32g、0.93mmol)とトリエチルアミン(0.32mL、2.3mmol)の無水塩化メチレン(20mL)溶液に塩化メタンスルホニル(71μL、0.92mmol)を加え、2時間撹拌した。水(0.15L)及び酢酸エチル(0.15L)を加えて分配した。有機層を飽和食塩水(0.15L)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去することにより、標記参考化合物(0.36g)を黄色固体として得た。(収率91%)
【表6】

【0128】
参考例5
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−(2−ジメチルアミノエチルアミノメチル)ピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物5−1)
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−メタンスルホニルオキシメチルピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物4−1、0.36g、0.83mmol)とN,N−ジメチルエチレンジアミン(0.46mL、4.2mmol)を無水塩化メチレン(5.0mL)−無水アセトニトリル(5.0mL)に溶解し、室温で1.5時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(0.10L)と水(0.10L)を加え分配した。有機層を飽和食塩水(0.10L)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより、標記参考化合物(98mg)を褐色アモルファスとして得た。(収率28%)
【表7】

【0129】
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−4−[3−(モルホリン−4−イル)プロピルアミノメチル]ベンズアミド(参考化合物5−2)
氷冷下、N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−4−ヒドロキシメチルベンズアミド(参考化合物3−2、1.51g、4.3mmol)とトリエチルアミン(1.5mL、11mmol)の無水塩化メチレン(70mL)溶液に塩化メタンスルホニル(0.37mL、4.8mmol)を加え、1.5時間撹拌した。アセトニトリル(50mL)、N−(3−アミノプロピル)モルホリン(3.1mL、21mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応液に水(0.20L)及び酢酸エチル(0.20L)を加え分配した。有機層を飽和食塩水(0.20L)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより標記参考化合物(0.81g)を黄色油状物として得た。(収率39%)
【表8】

【0130】
以下、参考化合物3−2、4−1及び市販化合物から選択される化合物を使用し、参考化合物5−1もしくは5−2の製造方法に準じて、参考化合物5−3〜5−12を得た。
【表9−1】

【表9−2】

【表9−3】

【表9−4】

【0131】
参考例6
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−[3−(3,4−ジフルオロフェニル)−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物6−1)
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−[3−(モルホリン−4−イル)プロピルアミノメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物5−12、43mg、0.091mmol)の塩化メチレン(2.0mL)溶液に3,4−ジフルオロフェニルイソシアネート(15μL、0.13mmol)を加え、室温で1.5時間撹拌した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより、標記参考化合物(53mg)を無色固体として得た。(収率92%)
【表10】

【0132】
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(チアゾール−2−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物6−2)
氷冷下、N,N’−カルボニルジイミダゾール(0.10g、0.64mmol)と2−アミノチアゾール(63mg、0.63mmol)をTHF(2.0mL)に溶解し、30分撹拌した。N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−(2−ジメチルアミノエチルアミノメチル)ピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物5−1、79mg、0.19mmol)を加え、50℃で一晩撹拌した。反応液に水(30mL)を加え、酢酸エチル(30mL、2回)で抽出した。有機層を水(30mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより、標記参考化合物(91mg)を無色アモルファスとして得た。(収率84%)
【表11】

【0133】
以下、参考化合物5−1〜5−12及び市販化合物から選択される化合物を使用し、参考化合物6−1もしくは6−2の製造方法に準じて、参考化合物6−3〜6−120を得た。
【表12−1】

【表12−2】

【表12−3】

【表12−4】

【表12−5】

【表12−6】

【表12−7】

【表12−8】

【表12−9】

【表12−10】

【表12−11】

【表12−12】

【表12−13】

【表12−14】

【表12−15】

【表12−16】

【表12−17】

【表12−18】

【表12−19】

【表12−20】

【表12−21】

【表12−22】

【表12−23】

【表12−24】

【表12−25】

【表12−26】

【表12−27】

【表12−28】

【表12−29】

【表12−30】

【表12−31】

【表12−32】

【表12−33】

【表12−34】

【表12−35】

【表12−36】

【表12−37】

【表12−38】

【0134】
参考例7
4−ヒドロキシメチル安息香酸ベンジルエステル(参考化合物7−1)
4−ヒドロキシメチル安息香酸(10g、66mmol)と炭酸セシウム(11g、34mmol)の混合溶媒(DMF0.10L−メタノール30mL−水30mL)懸濁液に、臭化ベンジル(7.8mL、66mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液に水(0.50L)と酢酸エチル(0.50L)を加えて分配した。有機層を飽和重曹水(0.30L)及び水(0.30L)で2回ずつ洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。得られた固体をヘキサンでろ取し、35℃で減圧下乾燥することにより、標記参考化合物(13g)を白色固体として得た。(収率81%)
【表13】

【0135】
参考例8
4−メタンスルホニルオキシメチル安息香酸ベンジルエステル(参考化合物8−1)
氷冷下、4−ヒドロキシメチル安息香酸ベンジルエステル(参考化合物7−1、6.0g、24.8mmol)とトリエチルアミン(7.6mL、54mmol)の塩化メチレン(60mL)溶液に塩化メタンスルホニル(2.1mL、27mmol)を加え、室温で50分間撹拌した。反応液に飽和食塩水(0.30L)を加え、クロロホルム(0.15L)で4回抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去することにより、標記参考化合物(5.8g)を黄色油状物質として得た。(収率73%)
【表14】

【0136】
参考例9
4−(2−ジメチルアミノエチルアミノメチル)安息香酸ベンジルエステル(参考化合物9−1)
4−メタンスルホニルオキシメチル安息香酸ベンジルエステル(参考化合物8−1、2.3g、7.2mmol)とトリエチルアミン(3.0mL、22mmol)のDMF(10mL)溶液にN,N−ジメチルエチレンジアミン(0.90mL、8.2mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液に飽和重曹水(0.15L)を加え、クロロホルム(0.10L)で3回抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去することにより、標記参考化合物を含む混合物(1.2g)を黄色油状物質として得た。
【表15】

【0137】
以下、参考化合物8−1及び市販化合物を使用し、参考化合物9−1の製造方法に準じて、参考化合物9−2を得た。
【表16】

【0138】
参考例10
4−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(インダン−5−イル)ウレイドメチル]安息香酸ベンジルエステル(参考化合物10−1)
4−(2−ジメチルアミノエチルアミノメチル)安息香酸ベンジルエステルを含む混合物(参考化合物9−1、1.2g、3.8mmol)の塩化メチレン(10mL)溶液にインダン−5−イルイソシアネート(0.62mL、4.3mmol)を加え、室温で15時間撹拌した。反応液を濃縮し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより、標記参考化合物(0.98g)を無色油状物質として得た。(2工程、収率29%)
【表17】

【0139】
以下、参考化合物9−2及び市販化合物を使用し、参考化合物10−1の製造方法に準じて、参考化合物10−2を得た。
【表18】

【0140】
参考例11
4−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(インダン−5−イル)ウレイドメチル]安息香酸(参考化合物11−1)
4−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(インダン−5−イル)ウレイドメチル]安息香酸ベンジルエステル(参考化合物12−1、0.97g、2.1mmol)のメタノール(20mL)溶液に10%パラジウム炭素(0.10g)を加え、水素雰囲気下、室温で29時間撹拌した。不溶物をろ去後、減圧下溶媒を留去した。得られた固体を酢酸エチルでろ取することにより、標記参考化合物(0.78g)を白色固体として定量的に得た。
【表19】

【0141】
以下、参考化合物10−2及び市販化合物を使用し、参考化合物11−1の製造方法に準じて、参考化合物11−2を得た。
【表20】

【0142】
実施例1
N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−(2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン−6−イル)−1−(2−ジメチルアミノエチル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド(化合物1−1)
N−(4−t−ブトキシカルボニルアミノチオフェン−3−イル)−5−[3−(2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン−6−イル)−1−(2−ジメチルアミノエチル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド(参考化合物6−4、60mg、0.10mmol)の酢酸エチル(2.0mL)−メタノール(3.0mL)溶液に4.0M 塩化水素−酢酸エチル溶液(5.0mL)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液にクロロホルム(0.10L)と飽和重曹水(0.15L)を加えて分配した。有機層を飽和食塩水(0.10L)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより、標記化合物(38mg)を橙色アモルファスとして得た。(収率77%)
【表21】

【0143】
以下、参考化合物6−1〜6−3及び6−5〜6−120から選択される化合物を使用し、化合物1−1の製造方法に準じて、化合物1−2〜1−120を得た。
【表22−1】

【表22−2】

【表22−3】

【表22−4】

【表22−5】

【表22−6】

【表22−7】

【表22−8】

【表22−9】

【表22−10】

【表22−11】

【表22−12】

【表22−13】

【表22−14】

【表22−15】

【表22−16】

【表22−17】

【表22−18】

【表22−19】

【表22−20】

【表22−21】

【表22−22】

【表22−23】

【表22−24】

【表22−25】

【表22−26】

【表22−27】

【表22−28】

【表22−29】

【表22−30】

【表22−31】

【表22−32】

【表22−33】

【表22−34】

【表22−35】

【0144】
実施例2
N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−4−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(インダン−5−イル)ウレイドメチル]ベンズアミド(化合物2−1)
4−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(インダン−5−イル)ウレイドメチル]安息香酸(参考化合物11−1、77mg、0.20mmol)、3,4−ジアミノチオフェン 2塩酸塩(45mg、0.24mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(77μL、0.44mmol)及びHATU(90mg、0.24mmol)のDMF(2.0mL)溶液を室温で一晩撹拌した。反応液に水(30mL)を加え、酢酸エチル(30mL)で3回抽出した。有機層を水(30mL)及び飽和食塩水(30mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲル(アミン修飾)カラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール)で精製することにより、標記参考化合物(55mg)を茶色アモルファスとして得た(収率58%)。
【表23】

【0145】
以下、参考化合物1−2及び市販化合物を使用し、化合物2−1の製造方法に準じて、化合物2−2を得た。
【表24】

【0146】
[製剤例]
本発明化合物の代表的な製剤例を以下に示す。
【0147】
1)錠剤(150mg中)
本発明化合物 1mg
乳糖 100mg
トウモロコシデンプン 40mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 4.5mg
ヒドロキシプロピルセルロース 4mg
ステアリン酸マグネシウム 0.5mg

上記処方の錠剤にコーティング剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコーン樹脂等の通常のコーティング剤)3mgを用いてコーティングを施し、目的とする錠剤を得ることができる。また、本発明化合物並びに添加物の種類及び/又は量を適宜変更することで、所望の錠剤を得ることもできる。
【0148】
2)カプセル剤(150mg中)
本発明化合物 5mg
乳糖 135mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 4.5mg
ヒドロキシプロピルセルロース 4mg
ステアリン酸マグネシウム 1.5mg

本発明化合物並びに添加剤の種類及び/又は量を適宜変更することで、所望のカプセル剤を得ることができる。
【0149】
3)点眼剤(100ml中)
本発明化合物 100mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 500mg
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量

本発明化合物及び添加物の種類及び/又は量を適宜変更することで、所望の点眼剤を得ることができる。
【0150】
[薬理試験]
1.HDAC阻害活性評価試験
本化合物のHDAC阻害活性の評価は、HDAC Fluorimetric Assay/Drug Discovery Kit(BIOMOL社製)を用い、キットのプロトコールに準じて実施した。キットには、Buffer、HeLa細胞核抽出液(HDACが含まれている)、Substrate、Developer及びTrichostatin A(HDAC Inhibitor)が含まれている。
【0151】
(被験化合物溶液の調製)
被験化合物をジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」とする)に溶解して2mg/mL溶液を調製し、これを5%DMSO含有Bufferで希釈して150μMの被験化合物溶液を調製した。
【0152】
(試験方法及び測定方法)
1)384穴プレートに被験化合物溶液を1穴あたり2μLずつ添加した。
【0153】
2)Bufferにて30倍希釈したHeLa細胞核抽出液を1穴あたり3μLずつ添加し、37℃で2時間インキュベーションした。
【0154】
3)Bufferにて500倍希釈したSubstrateを1穴あたり5μLずつ添加し、37℃で10分間インキュベーションした(被験化合物濃度:30μM)。
【0155】
4)Bufferにて20倍希釈したDeveloper(2μM Trichostatin A含有)を1穴あたり10μLずつ添加し、室温で15分間インキュベーションした。
【0156】
5)マルチラベルカウンター ARVO(Wallac社製)を用いて、各穴の蛍光強度(励起波長:360nm、蛍光波長:460nm)を測定した。
【0157】
6)被験化合物溶液に代えて5%DMSO含有Bufferを用いて、他は前記1〜5)と同じ操作を行い、その結果をコントロールとした。
【0158】
7)被験化合物溶液に代えて5%DMSO含有Bufferを、また、HeLa細胞核抽出液に代えてBufferを用いて、他は前記1〜5)と同じ操作を行い、その結果をブランクとした。
【0159】
(酵素阻害率の計算式)
酵素阻害率(%)は以下の式により算出した。
【0160】
酵素阻害率(%)=100×{1−(被験化合物溶液の蛍光強度−ブランクの蛍光強度)/(コントロールの蛍光強度−ブランクの蛍光強度)}

(試験結果)
被験化合物として、化合物1−1、化合物1−7、化合物1−8、化合物1−18、化合物1−24、化合物1−34、化合物1−43、化合物1−56、化合物1−59、化合物1−71、化合物1−77、化合物1−82、化合物1−88、化合物1−103、化合物1−104及び化合物2−2を使用した場合の酵素阻害率を表Iに示す。
【表I】

【0161】
2.線維柱帯細胞に対する形態変化作用の評価試験
細胞の形態変化を評価する方法の一つとして、Cell Shape Index(以下、「CSI」とする)を指標とした評価系が、The Journal of Clinical Investigation, 103, 1141−1150 (1999)に報告されている。そこで、前記文献記載の方法に準じ、本化合物の線維柱帯細胞に対する形態変化作用を評価した。
【0162】
(使用細胞)
Investigative Ophthalmology & Visual Science, 43, 151−161 (2002)に報告されている、ヒト線維柱帯細胞株(以下、「TM−1細胞」とする)を使用した。
【0163】
(試薬の調製)
培養液1:Dulbecco’s Modified Eagle Medium(以下、「D−MEM」とする)にウシ胎児血清(10%)、L−グルタミン(2mM)、アンフォテリシンB(2.5μg/mL)及びゲンタマイシン(25μg/mL)を添加し、培養液1とした。
【0164】
培養液2:D−MEMにウシ胎児血清(3%)、L−グルタミン(2mM)、アンフォテリシンB(2.5μg/mL)及びゲンタマイシン(25μg/mL)を添加し、培養液2とした。
【0165】
細胞染色液:Calcein−AM溶液(細胞質染色試薬、DOJINDO社製)及びHoechst 33342溶液(核染色試薬、DOJINDO社製)を、L−グルタミン(2mM)、アンフォテリシンB(2.5μg/mL)及びゲンタマイシン(25μg/mL)を添加したD−MEMで希釈し、Calcein−AM(16μM)、Hoechst 33342(40μM)の混合液を調製した。
【0166】
(細胞の調製)
37℃、8%炭酸ガス雰囲気下で継代培養したTM−1細胞を、後述の薬物処理24時間前にトリプシン−EDTA溶液(0.05%トリプシン、0.53mMエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)で処理して96穴培養プレートに播種した。細胞の継代培養には培養液1を用いた。プレート播種後の細胞培養には培養液2を用いた。
【0167】
(被験化合物溶液の調製)
被験化合物をDMSOに溶解して5mM溶液を調製し、これを培養液2で希釈して200μMの被験化合物溶液を調製した。
【0168】
(陽性対照化合物溶液の調製)
Rhoキナーゼ阻害剤であるY−27632が線維柱帯細胞の形態変化を誘導することがInvestigative Ophthalmology & Visual Science,42,137−144(2001)に報告されている。そこでY−27632(国際公開第90/05723号パンフレットに記載の方法に従い製造)を陽性対照として設定し、被験化合物と同様にY−27632をジメチルスルホキシドに溶解して5mM溶液を調製し、これを培養液2で希釈して200μMの溶液の陽性対照化合物溶液を調製した。
【0169】
(試験方法及び測定方法)
1)96穴培養プレートに1.6×10cells/mLに調製したTM−1細胞を1穴あたり95μL(1.5×10cells)ずつ添加した。
【0170】
2)8%炭酸ガス雰囲気下、37℃で24時間培養を行った。
【0171】
3)被験化合物溶液または陽性対照化合物溶液を1穴あたり5μLずつ添加した(被験化合物または陽性対照化合物の最終濃度:10μM)。またコントロールとしては、DMSO(4%)を含有する培養液2を1穴あたり5μLずつ添加した。
【0172】
4)8%炭酸ガス雰囲気下、37℃で24時間培養を行った。
【0173】
5)細胞染色液を1穴あたり10μLずつ添加した。
【0174】
6)8%炭酸ガス雰囲気下、37℃で1時間インキュベーションし細胞を染色した。
【0175】
7)37%ホルムアルデヒド溶液を1穴あたり10μLずつ添加した。
【0176】
8)室温で1時間インキュベーションし細胞を固定した。
【0177】
9)リン酸緩衝生理食塩液による洗浄を行った。
【0178】
10)Array Scan Vti HCS reader(Cellomics社製)を用いて、20倍の対物レンズで、1被験化合物添加群あたり80視野(10視野×8穴)につき染色細胞の画像を取り込んだ。
【0179】
11)各細胞につきCSIを算出し、各被験化合物添加群ごとの平均値を求めた。
【0180】
(CSIの計算式)
CSIは以下の式により算出した。
【0181】
CSI=4π×細胞の面積/(細胞周囲の長さ)

(試験結果)
被験化合物として、化合物1−1、化合物1−7、化合物1−8、化合物1−18、化合物1−24、化合物1−34、化合物1−43、化合物1−56、化合物1−59、化合物1−71、化合物1−77、化合物1−82、化合物1−88、化合物1−103、化合物1−104、化合物2−2及びY−27632を使用した場合のCSIを表IIに示す。
【表II】

【0182】
3.眼圧下降作用の評価試験
本化合物の眼圧下降作用を評価するため、雄性日本白色ウサギを用いた本化合物の前房内投与による眼圧下降作用の評価試験を実施した。
【0183】
(被験化合物投与液の調製)
被験化合物を0.5%のDMSO含有生理食塩液に溶解させ、1mMの被験化合物投与液を調製した。
【0184】
(試験方法及び測定方法)
雄性日本白色ウサギの両眼に0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を一滴ずつ点眼し局所麻酔した後、圧平式眼圧計を用いて眼圧を測定した。次いで、30G針の注射器を用い、片眼に被験化合物投与液(20μL)を前房内投与した。コントロールとしては、被験化合物の溶媒(0.5%DMSO含有生理食塩液)を20μL前房内投与した。被験化合物又は溶媒を投与してから一定時間の後に、投与眼に0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を一滴ずつ点眼し局所麻酔した後、圧平式眼圧計を用いて眼圧を測定した。
【0185】
(眼圧下降率の計算式)
各被験化合物の眼圧下降作用は眼圧下降率を算出することにより評価した。眼圧下降率(%)は以下の式により算出した。
【0186】
眼圧下降率(%)=100×(コントロール群の眼圧の平均値−各被験化合物投与群の眼圧の平均値)/コントロール群の眼圧の平均値

(試験結果及び考察)
被験化合物として、化合物1−43及び化合物1−82を使用した場合の眼圧下降率を表IIIに示す。尚、以下の眼圧下降率は、各被験化合物を投与してから9時間後のものである(一群あたり6例)。
【表III】

【0187】
表Iで示したとおり、本発明化合物は優れたHDAC阻害活性を有しており、HDAC阻害剤が有効とされる疾患、例えば、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、感染症、造血障害、繊維症、循環器疾患、血管新生が関わる疾患の予防及び/又は治療剤として期待される。又、表IIで示したとおり、HDAC阻害作用を有する化合物は線維柱帯細胞に対して、陽性対照としたY−27632よりも優れた細胞形態変化作用を有した(尚、表IIにおいては、CSIが小さい程、細胞形態変化が大きいことを示す)。さらに表IIIで示したとおり、かかる化合物は実際の動物モデル試験においても優れた眼圧下降作用を有していることから、かかる化合物は、房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患の予防及び/又は治療剤、特に緑内障、高眼圧症等の予防及び/又は治療剤として有用であることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】


[R1及びR2は同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基又は下記一般式(2)で表される基を示し;
【化2】


3はヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級シクロアルキルオキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、カルボキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシカルボニル基、−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し;
【化3】


4及びR5が同一又は異なって、ハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基又は低級アルコキシ基を示し;
6はハロゲン原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、ヒドロキシ基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、メルカプト基、置換基を有してもよい低級アルキルチオ基、置換基を有してもよい低級アルキルカルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を示し;
7は置換基を有してもよい低級アルキル基、ヒドロキシ基又は置換基を有してもよい低級アルコキシ基を示し;
a及びRbは同一又は異なって、水素原子又は置換基を有してもよい低級アルキル基を示し;
環Aは環式炭化水素又は複素環を示し;
環Bは窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;
Xは置換基を有してもよい低級アルキレン基を示し;
Y及びZは同一又は異なって、単結合又は置換基を有してもよい低級アルキレン基を示し;
1−W2がN−CH、CH−N又はCH−CHを示し;
l、m、n及びoは同一又は異なって、0、1、2又は3を示す。]
【請求項2】
一般式(1)において、
1及びR2が同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基を置換基として有する低級アルキル基、低級アルコキシカルボニル基を置換基として有する低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基又は下記一般式(2)で表される基を示し;
【化4】


3がヒドロキシ基、低級アルコキシ基、低級シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基、−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し;
【化5】


6がハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基を置換基として有する低級アルキル基、低級アルコキシ基を置換基として有する低級アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、メルカプト基、低級アルキルチオ基、低級アルキルカルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を示し;
7が低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示し;
a及びRbが同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示し;
環Aが環式炭化水素又は複素環を示し;
環Bが窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;
Xが低級アルキレン基を示し;
Y及びZが同一又は異なって、単結合又は低級アルキレン基を示し;
1−W2がCH−N又はCH−CHを示し;
l及びmが0を示し、
n及びoが同一又は異なって、0、1、2又は3を示す請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
一般式(1)において、
1が水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基を置換基として有する低級アルキル基、低級アルコキシカルボニル基を置換基として有する低級アルキル基又は下記一般式(2)で表される基を示し;
【化6】


2が水素原子を示し;
3が−NRab又は下記一般式(3)で表される基を示し;
【化7】


6がハロゲン原子、低級アルキル基、ヒドロキシ基を置換基として有する低級アルキル基、アリール基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基を示し;
が低級アルキル基を示し;
a及びRbが低級アルキル基を示し;
環Aが環式炭化水素又は複素環を示し;
環Bが窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される1又は複数個のヘテロ原子を環内に有する複素環を示し;
X及びYが低級アルキレン基を示し;
Zが単結合又は低級アルキレン基を示し;
1−W2がCH−N又はCH−CHを示し;
l及びmが0を示し;
nが0、1又は2を示し;
oが0又は1を示す請求項1又は2記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
一般式(1)において、環Aがシクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、インダン、チオフェン、フラン、ベンゾ[1,3]ジオキソール、2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン、チアゾール、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン又はピリジンを示す請求項1〜2記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
一般式(1)において、環Aがシクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、インダン、チオフェン、フラン、ベンゾ[1,3]ジオキソール、2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン、チアゾール、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン又はピリジンを示す請求項3記載の化合物又はその塩。

【請求項6】
一般式(1)において、環Bがピロリジン、ピペラジン又はモルホリンを示す請求項1〜2記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
一般式(1)において、環Bがピロリジン、ピペラジン又はモルホリンを示す請求項3記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−(2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン−6−イル)−1−(2−ジメチルアミノエチル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−4−[3−(2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ベンズアミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(チオフェン−3−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−フェネチルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−(チオフェン−3−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−シクロペンチル−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−イソプロピルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−イソプロピル−1−[3−(4−メチルピペラジン−1−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−[4−(モルホリン−4−イル)ブチル]−3−フェネチルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−シクロペンチル−1−[2−(ピロリジン−1−イル)エチル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[2−[3−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)]エチル−1−[2−(4−メチルピペラジン−1−イル)エチル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−[4−(モルホリン−4−イル)ブチル]−3−プロピルウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[3−エトキシカルボニルメチル−1−[3−(モルホリン−4−イル)プロピル]ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)−3−(チアゾール−2−イル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド、及び
・N−(4−アミノチオフェン−3−イル)−5−[1−(2−ジメチルアミノエチル)ウレイドメチル]ピリジン−2−カルボン酸アミド
から選択される化合物又はその塩。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1記載の化合物又はその塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1記載の化合物又はその塩からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有するヒストン脱アセチル化酵素阻害剤。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1記載の化合物又はその塩からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有する、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が有効とされる疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1記載の化合物又はその塩からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有する眼圧下降剤。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1記載の化合物又はその塩からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有する房水循環及び/又は眼圧が関与するとされる疾患の予防及び/又は治療剤。

【公開番号】特開2010−1289(P2010−1289A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124796(P2009−124796)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】