説明

エアバッグ用基布およびその製造方法

【課題】
目開きを抑制したエアバッグ用基布とその製造方法を提供する。
【解決手段】
織物および少なくとも一部に熱可塑性樹脂を含む樹脂層が積層されてなり、ASTM ASTM D 6479−02(2003)に基づき測定した滑脱抵抗力が300N以上、空気圧19.6kPaにおける通気度が0.5L/cm・min以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ用基布に対する要求性能には低通気性、機械特性、収納性などがあるが、抗目ズレ性に対する要求も厳しくなってきている。エアバッグ用基布を裁断・縫製して得られたエアバッグにおいて、エアバッグ展開時に縫い目がズレことを目ズレと呼ぶが、エアバッグ展開時の内圧を向上させ、事故発生時の乗員拘束性能を向上させるためには、この目ズレに対する耐性、すなわち抗目ズレ性を向上させることが重要となるからである。
【0003】
エアバッグに用いられるエアバッグ用基布は、大別すると、織物表面に樹脂を塗布せずそのまま用いるノンコートエアバッグ、および織物表面に樹脂を塗布して用いるコートエアバッグが広く実用化されている。しかし両者のいずれについても、低通気性、機械特性、収納性を維持しつつ更に抗目ズレ性を向上させることは困難であった。
【0004】
一方、織物の表面にフィルムを積層したエアバッグ用基布が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし当該技術でも、縫製部からフィルムが破損しやすいという問題があり、抗目ズレ性を向上させるものではなかった。
【0005】
また、織物とフィルムとの接着性を改善するため、極性を有する熱可塑性樹脂よりなる樹脂フィルムを直接積層してなるエアバッグ用シートが開示されている(特許文献2参照)。しかし、縫製部を有するエアバッグに対して、抗目ズレ性を向上させるものではなかった。
【特許文献1】特開平5−213136号公報
【特許文献2】特開2003−246253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗目ズレ性を向上させたエアバッグ用基布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、織物および少なくとも一部に熱可塑性樹脂を含む樹脂層が積層されてなり、ASTM D 6479−02(2003)に基づき測定した滑脱抵抗力が300N以上、空気圧19.6kPaにおける通気度が0.5L/cm・min以下であることを特徴とするエアバッグ用基布である。
【0008】
また本発明は、本発明のエアバッグ用基布を製造する方法であって、前記樹脂層が含む熱可塑性樹脂の融点よりも高い温度で前記織物上に前記樹脂層を熱圧着させる工程を含むことを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低通気性、軽量性などを維持しつつ、抗目ズレ性を向上させたエアバッグ用基布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のエアバッグ用基布における織物のタテ糸およびヨコ糸を構成するポリマーの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルや、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリカプラミド等のポリアミドや、ポリアクリロニトリルや、ポリビニルアルコールや、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、芳香族ポリアミドや、芳香族ポリエステル等が挙げられる。中でも、ポリアミドが機械的特性、耐薬品性の点で好ましく、ポリヘキサメチレンアジパミドが耐熱性の点で特に好ましい。
【0011】
また、タテ糸およびヨコ糸を構成する繊維は、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐侯剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などを含むことも好ましい。
【0012】
単繊維の断面形状としては、丸形の他、楕円形、長方形、菱形、繭型でもよく、左右非対称型のものでもよい。また、突起や凹みや部分的に中空部があるものであってもよい。
【0013】
単繊維の繊度としては、エアバッグ用基布の機械的特性と収納性の点から、1〜12dtexが好ましく、より好ましくは3〜8dtexである。単繊維繊度が1dtexよりも小さい場合、収納性の点では問題ないが、製糸段階で強力の高いマルチフィラメントを得ることが難しく、織物の機械的特性が悪化する。また、製糸工程で糸切れ、毛羽などの欠点が発生しやすく、製糸時および製織時の生産性が悪化する。一方、単繊維繊度が12dtexよりも大きい場合、マルチフィラメントの剛性が高くなることにより収納性が悪化する。
【0014】
タテ糸およびヨコ糸のマルチフィラメントの単繊維数としては、12〜192本が好ましく、より好ましくは24〜154本である。
【0015】
マルチフィラメントの総繊度としては、織物の機械的特性と収納性の点から100〜700dtexが好ましく、より好ましくは150〜600dtex、さらに好ましくは210〜500dtexである。総繊度が100dtexよりも小さい場合には、収納性の点では問題ないが、総繊度が細いため耐引裂性が悪化する。総繊度が700dtexよりも大きいと、機械的特性は問題ないが、織物の厚みが大きくなるため収納性が悪化する。
【0016】
織物の織組織としては、平組織、斜文組織および朱子組織などを採用することができ、なかでも、均一な機械的特性、大量生産の容易さ、高速生産によるコストダウン、織組織構造の安定性等の点から、平組織が好ましい。
【0017】
織物のカバーファクター(CF)としては、機械的特性と収納性の点から1000〜2100が好ましく、より好ましくは1400〜1900、さらに好ましくは1600〜1800である。カバーファクター(CF)が1000より小さい場合には、収納性の点では問題ないが、織物の機械的特性に劣るため、エアバッグ展開時にバーストする。カバーファクター(CF)が2100より大きい場合には、機械的特性においては問題ないが、収納性に劣るため、バッグの折り畳み収納時の作業性が悪化する。
カバーファクター(CF)は、次式により定義される。
CF=CF1+CF2
CF1=(Dw×0.9)1/2×Nw
CF2=(Df×0.9)1/2×Nf
ここに、CF:カバーファクター
CF1:タテ糸のカバーファクター
CF2:ヨコ糸のカバーファクター
Dw:タテ糸の総繊度(dtex)
Df:ヨコ糸の総繊度(dtex)
Nw:タテ糸の織密度(本/2.54cm)
Nf:ヨコ糸の織密度(本/2.54cm)。
【0018】
本発明のエアバッグ用基布は、織物および少なくとも一部に熱可塑性樹脂を含む樹脂層が積層されてなることが重要である。そうすることで、抗目ズレ性に優れたエアバッグ用基布とすることができる。その理由としては、織物表面上に熱可塑性樹脂層を形成させることで、樹脂層が織物の構造を維持させる役割を果たし、縫製による針や糸の突き刺しに対しても、熱可塑性樹脂の弾性回復により、その穴から樹脂層や織物の構造が破壊されにくくなるためと考えられる。
【0019】
さらに、エアバッグ展開時には、熱可塑性樹脂がインフレーターから発生する熱ガスによって流動化し、その穴を塞ぐ様に回復し、展開時の抗目ズレ性を向上させることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等のホモポリマーまたはコポリマーを用いることができる。
【0021】
また樹脂層は、単一の熱可塑性樹脂のみで形成しても良いし、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を混合および/又は積層により併用して形成しても良い。
【0022】
熱可塑性樹脂を含む樹脂層は、単一の層でもよいが、織物との接着性の高い接着層と、当該接着層を酸化等から保護したり難燃性を向上させるための他の層(保護層)との複数層構成とすることも好ましい。
【0023】
接着層に用いる熱可塑性樹脂としては、融点が200℃以下のものであることが好ましく、また、接着層を構成する熱可塑性樹脂の融点が、樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の中で最も低融点であることが好ましい。そうすることで、接着層が樹脂層の一部として、後述するように織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端に到達することができる。
【0024】
接着層に用いる熱可塑性樹脂としては例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタンの、ホモポリマーまたはコポリマーで融点200℃以下のものを好ましく採用することができる。
【0025】
また、接着層に用いる熱可塑性樹脂と混合したり保護層として組み合わせるポリマーとしては例えば、コストの点でポリエステルが好ましく、また後述するドリップ難燃を達成する上でポリエステルのコポリマーを好ましく採用することができる。
【0026】
また樹脂層には、架橋剤、結合剤、無機成分等の添加剤を用いても良い。
【0027】
本発明のエアバッグ用基布は、樹脂層の一部が織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端(図2中8−8’)に到達していることが好ましい。そうすることで、樹脂層と織物とのより強固な接着を確保できる。さらに、針や糸の突き刺しに対してもその箇所における織物組織の乱れを抑制することができる。
【0028】
また、樹脂層の一部がタテ糸またはヨコ糸を構成する単繊維の一部を包囲していることが、樹脂層と織物とのより強固な接着を確保し、織物組織の乱れを抑制できる点で好ましい。
【0029】
樹脂層の厚さとしては、織物における糸の頂上部から樹脂層表面までの厚さ(図2中H参照。以下、「糸頂上−樹脂層表面間厚さ」とも呼ぶ。)で平均3〜80μが好ましく、より好ましくは5〜60μm、さらに好ましくは8〜50μmである。3μm以上とすることで、抗目ズレ性向上の実効を得ることができる。
また、80μm以下とすることで、収納性の低下を防ぐことができ、また、後述するような、樹脂層の一部が織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端に到達する態様を作業上容易に達成することができる。また、80μm以下とすることで、特に難燃剤等を添加しなくても優れた難燃性を得ることができる。
【0030】
本発明のエアバッグ用基布は、ASTM D 6479−02:2003に基づき測定した滑脱抵抗力が300N以上であり、好ましくは400N以上、より好ましくは500N以上である。滑脱抵抗力を300N以上とすることで、エアバッグ展開時の縫い目ズレを抑制することができるため、確実に乗員を保護するために十分な内圧を確保できる。滑脱抵抗力が300N未満の場合には、縫い目ズレが大きいため、空気漏れが起こり、バッグ展開時の内圧保持が不十分となる。
【0031】
本発明のエアバッグ用基布は、空気圧19.6kPaにおける通気度が0.5L/cm・min以下であり、好ましくは0.3L/cm・min以下、より好ましくは0.1L/cm・min以下である。通気度を0.5L/cm・min以下とすることで、バッグ本体からの空気漏れを抑制することができるので、確実に乗員を保護するための内圧を確保できる。
【0032】
本発明のエアバッグ用基布は、FMVSS302法に準拠して測定した燃焼速度が100mm/min以下であることが好ましく、より好ましくは80mm/min以下である。燃焼速度100mm/min以下とすることで、自動車事故や車内火災に対する安全基準を満足する。
【0033】
次に、本発明のエアバッグ用基布の製造方法としては、樹脂層が含む熱可塑性樹脂の融点よりも高い温度で織物上に樹脂層を熱圧着させる工程を含むことが重要である。そうすることで、熱によって溶融、軟化した熱可塑性樹脂が、織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端に到達し、織物と樹脂層とを強固に接着させることができる。但し、織物を構成するポリマーの融点の近くまで高温とすると、織物の物性が劣化するので、織物を構成するポリマーの融点よりも低い温度とすることが好ましい。例えば、ナイロン6,6で構成された織物に対しては、熱圧着時のロール温度は220℃以下とすることが好ましい。
【0034】
織物上に樹脂層を熱圧着させる方法としては、押出ラミネート法やサーマルラミネート法などを採用できる。
【0035】
押出ラミネート法は、樹脂層の押出成形と織物へのラミネートとを同時に行うことができるため、生産効率を向上させることができる点で好ましい。
【0036】
サーマルラミネート法は、あらかじめフィルム状に製膜した樹脂層を作成してから積層・熱圧着させる方法で、ピンホールの有無や品位物性を確認した上で織物との積層ができるため、安定した品質・品位を有するエアバッグ用基布を得ることができる点で好ましい。
【0037】
サーマルラミネート法において織物への熱圧着に供するフィルムの伸度としては、80%以上が好ましく、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上である。80%以上とすることで、エアバッグ展開時に織物の伸びにも樹脂層が追随し、樹脂層が先に破断することなく内圧を保持できる。
【0038】
押出ラミネート法およびサーマルラミネート法のいずれにおいても、熱圧着温度はロール温度にて制御することができる。
【0039】
熱圧着の圧力としては、10kg/cm以上が好ましく、より好ましくは15kg/cm以上である。そうすることで、溶融した熱可塑性樹脂が織物の凹凸に追随するように被覆し、前述のような、樹脂層の一部が織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端に到達している態様を得ることができる。
【0040】
熱圧着の送り速度としては、樹脂層の一部が織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端に到達している態様を得る上で、80m/min以下が好ましく、より好ましくは40mm/minである。
【実施例】
【0041】
[測定方法]
(1)織糸の総繊度
JIS L1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5mの小かせをサンプル数3にて作り、そしてそれらの質量を測定し、その平均値(g)に10000/112.5をかけ、見掛け繊度に換算した。見かけ繊度から、以下の式に基づいて正量繊度を算出した。
=D×(100+R)/(100+R
ここに、F:正量繊度(dtex)
D:見かけ繊度(dtex)
:公定水分率(%)
:平行水分率。
【0042】
(2)目付
JIS L1096:1999 6.4.2 に基づき、外形寸法が20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0043】
(3)織物およびエアバッグ用基布の厚さ
JIS L 1096:1999 8.5に基づき、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0044】
(4)滑脱抵抗力
ASTM D6479−02に則り測定した。
【0045】
(5)通気量
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準拠して、試験差圧19.6kPaで試験したときの通気量を測定した。試料の異なる5か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、口径100mmの円筒の一端に試験片を取り付け、取り付け箇所から空気の漏れが無いように固定し、レギュレーターを用いて試験差圧19.6kPaに調整し、そのときに試験片を通過する空気量を流量計で計測し、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0046】
(6)融点
Seiko Instrument(株)製 示唆熱走査熱量分析装置DSCII型を用い、試料5mgを室温より昇温速度10℃/分で昇温していった際の吸熱融解曲線のピーク温度を融点(Tm)とした。
【0047】
(7)フィルムの破断伸度
JIS K 7127:1999に規定された方法に準じて、樹脂層の長手方向および巾方向のそれぞれについて、測定方向に長さ150mm、幅10mmに3枚ずつサンプリングし、定速伸長型の試験機に、つかみ間隔100mmで取り付け、引張速度200mm/minで、試験片が破断するまで引っ張り、破断時の長さLを読み取り、下記式によって、樹脂層の長手方向および巾方向についてそれぞれについて平均値を算出した。
E=[(L−L)/L]×100
ここに、E:破断伸度(%)、
L:破断時の長さ(mm)、
:つかみ間隔(100mm)。
【0048】
(8)糸頂上−樹脂層表面間厚さ
試料の異なる箇所より、1cm×1cmの試験片を6枚採取した。ヨコ糸およびタテ糸方向のそれぞれについて、試料数3で、図1のA線またはB線に沿って切断したサンプルをそれぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)(日立社製 S−4000型)にて倍率100倍で断面観察し、糸頂上−樹脂層表面間厚さ(図2中H)を測定し、視野内において最も厚さの薄い値を測定し、6つの試料の平均値を算出した。
【0049】
(9)織物と樹脂層の接着状態
上記(8)の走査型電子顕微鏡によるヨコ糸方向に沿った断面(図1中A線)の観察において、樹脂層の一部が織物のタテ糸の幅方向両端(図2中8−8’)に到達しているかどうかを観察し、以下の基準を基に織物と樹脂層の接着状態を判定した。
◎:3枚の試料の視野内において全ての織物のタテ糸の幅方向両端に樹脂層の一部が到達している。
○:3枚の試料の視野内において、樹脂層の一部が織物のタテ糸の幅方向両端に到達していない箇所が1つある。
△:3枚の試料の視野内において、樹脂層の一部が織物のタテ糸の幅方向両端に到達していない箇所が2つある。
×:3枚の試料の視野内において、樹脂層の一部が織物のタテ糸の幅方向両端に到達していない箇所が3つ以上ある。
【0050】
(10)引張強力
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法のラベルドストリップ法に基づき、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を5枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るまでの最大荷重を測定し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
【0051】
(11)破断伸度
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法のラベルドストリップ法に基づき、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を5枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、これら試験片の中央部に100mm間隔の標線を付け、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るときの標線間の距離を読み取り、下記式によって、破断伸度を算出し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
E=[(L−L)/L]×100
ここに、E:破断伸度(%)、
:初期の標線間の距離(100mm)
L:切断時の標線間の距離(mm)。
【0052】
(12)引裂強力
JIS K 6404:4 6.試験方法B(シングルタング法)に準じ、長辺200mm、短辺76mmの試験片をタテ、ヨコ、両方にそれぞれ5個の試験片を採取し、試験片の短辺の中央に辺と直角に75mmの切込みを入れ、つかみ間隔75mm、引張速度200mm/minで試験片が引ききるまで引裂き、その時の引裂き荷重を測定した。得られた引裂き荷重のチャート記録線より、最初のピークを除いた極大点の中から大きい順に3点選び、その平均値をとった。最後にタテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、平均値を算出した。
【0053】
(13)燃焼性(FMVSS302)
FMVSS302法に準拠して測定した。巾102mm、長さ356mmの試験片を織物のタテ方向およびヨコ方向のそれぞれについて5枚ずつ作成し、試験を行い、次式より燃焼速度を算出した。
B=60×(D/T)
ここに、B:燃焼速度(mm/min)
D:炎が進行した距離(mm)
T:炎がDmm進行するために要した時間(秒)
10枚の試験片の燃焼速度の中で、最も速度の早い値を、本測定の燃焼速度とした。
【0054】
(14)収納性(パッカビリティー)
ASTM D−3885に則り測定した。
【0055】
[実施例1]
(織物)
ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度6.5dtex、フィラメント数72、総繊度470dtex、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%で、無撚りの合成繊維マルチフィラメントを、タテ糸およびヨコ糸として使用した。
上記タテ糸およびヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸の織り密度が46本/2.54cm、ヨコ糸の織り密度が46本/2.54cm、カバーファクターが1892の平織物を製織した。この織物の目付は175g/m、厚さは0.28mm、樹脂層を設ける前の滑脱抵抗力はタテ256N、ヨコ183N、通気度は3.3L/cm・minであった。
【0056】
(樹脂層用フィルム)
融点160℃の熱可塑性樹脂である、PBTとポリエーテルとのブロック共重合体(東レ・デュポン社製“ハイトレル”(登録商標)SB654(柔軟タイプ))を厚さ12.5μmの無延伸のフィルム状に製膜した。次いで、融点125℃の熱可塑性樹脂である、官能基をポリオレフィンに導入した変性ポリオレフィン(三井化学製 “アドマー” (登録商標)SF715)を厚さ12.5μmの無延伸のフィルム状に製膜した。これらのフィルムを積層して、樹脂層用フィルムとした。
【0057】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール温度150℃、ロール圧力30kg/cm、送り速度20m/minにて、サーマルラミネート法により熱圧着した。
【0058】
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性および収納性に優れ、さらに抗目ズレ性にも優れていた。
【0059】
[実施例2]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0060】
(樹脂層用フィルム)
“ハイトレル”/“アドマー”の厚さをそれぞれ5μm、7μmとした以外は実施例1と同様にして、樹脂層用フィルムを得た。
【0061】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール圧力20kg/cmとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0062】
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性および収納性に優れ、さらに抗目ズレ性にも優れていた。
【0063】
[実施例3]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0064】
(樹脂層用フィルム)
“ハイトレル”/“アドマー”の厚さをそれぞれ55μm、40μmとした以外は実施例1と同様にして、樹脂層用フィルムを得た。
【0065】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール圧力20kg/cmとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0066】
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性および収納性に優れ、さらに抗目ズレ性にも優れていた。
【0067】
[実施例4]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0068】
(樹脂層用フィルム)
実施例1で用いたものと同様の“ハイトレル”を厚さ12.5μmの無延伸のフィルム状に製膜して、樹脂層用フィルムとした。
【0069】
(熱圧着工程)
実施例1で用いたのと同様の“アドマー”を150℃に溶融させ、厚さ12.5μmのフィルム状に上記の織物の上に押出し、さらにその上に上記フィルムを重ね(層構成は、“ハイトレル”/“アドマー”/織物。)、一旦巻き取ることなく、ロール温度150℃、ロール圧力20kg/cm、送り速度40m/minにて、押出ラミネート法により熱圧着した。
【0070】
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性および収納性に優れ、さらに抗目ズレ性にも優れていた。
【0071】
[実施例5]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0072】
(樹脂層用フィルム)
厚さ7.5μmの熱硬化性のポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製“カプトン”(登録商標))を積層の構成として用いた。また、実施例1で用いたものと同様の“アドマー”を厚さ12.5μmの無延伸のフィルム状に製膜した。これらのフィルムを積層して、樹脂層用フィルムとした。
【0073】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“カプトン”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0074】
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性および収納性に優れ、さらに抗目ズレ性にも優れていた。
【0075】
[実施例6]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0076】
(熱圧着工程)
実施例1で用いたのと同様の“ハイトレル”を180℃に溶融させ、厚さ25μmのフィルム状に上記の織物の上に押出し、一旦巻き取ることなく、ロール温度180℃、ロール圧力20kg/cm、送り速度20m/minにて、押出しラミネート法により熱圧着した。
【0077】
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性および収納性に優れ、さらに抗目ズレ性にも優れていた。
【0078】
[比較例1]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0079】
(樹脂層用フィルム)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0080】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール温度110℃、ロール圧力20kg/cmとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0081】
得られたエアバッグ用織物の特性を表3に示す。このエアバッグ用基布は、滑脱抵抗力が300N以下であり、エアバッグとした時の縫製部の目開きを抑制できず、バッグ展開時に縫製部が破損していた。
【0082】
[比較例2]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0083】
(樹脂層用フィルム)
“ハイトレル”/“アドマー”の厚さをそれぞれ4μm、4μmとした以外は実施例1と同様にして、樹脂層用フィルムを得た。
【0084】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール圧力20kg/cmとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0085】
得られたエアバッグ用織物の特性を表3に示す。このエアバッグ用基布は、通気度が0.5L/cm・min以上、滑脱抵抗力が300N以下であり、バッグ展開時に基布表面および縫製部からの空気漏れが発生し、乗員を受け止めるだけの内圧が得られなかった。
【0086】
[比較例3]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0087】
(樹脂層用フィルム)
“ハイトレル”/“アドマー”の厚さをそれぞれ55μm、50μmとした以外は実施例1と同様にして、樹脂層用フィルムを得た。
【0088】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール圧力20kg/cmとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0089】
得られたエアバッグ用織物の特性を表3に示す。このエアバッグ用基布は、滑脱抵抗力が300N以下であり、エアバッグとした時の縫製部の目開きを抑制できず、バッグ展開時に縫製部が破損していた。また、収納性が悪く、エアバッグの折りたたみ収納作業が困難であった。
【0090】
[比較例4]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0091】
(樹脂層用フィルム)
厚さ12μmの熱硬化性のポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製“カプトン”(登録商標))を樹脂層用フィルムとした。
【0092】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“カプトン”/織物の層構成となるように重ねて、ロール温度200℃、ロール圧力20kg/cmとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0093】
このエアバッグ用基布は、滑脱抵抗力が300N以下であり、エアバッグとした時の縫製部の目開きを抑制できず、バッグ展開時に縫製部が破損していた。
【0094】
[比較例5]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0095】
(樹脂層用フィルム)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0096】
(熱圧着工程)
上記の織物と上記の樹脂層用フィルムとを、“ハイトレル”/“アドマー”/織物の層構成となるように重ねて、ロール温度115℃、ロール圧力8kg/cm、送り速度90m/minとした以外は実施例1と同様の条件で、熱圧着した。
【0097】
得られたエアバッグ用織物の特性を表3に示す。このエアバッグ用基布は、滑脱抵抗力が300N以下であり、エアバッグとした時の縫製部の目開きを抑制できず、バッグ展開時に縫製部が破損していた。
【0098】
[比較例6]
(織物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0099】
(塗液)
粘度12Pa・s(12,000cP)の熱硬化性樹脂である、無溶剤系メチルビニルシリコーン樹脂液を塗液として用いた。
【0100】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で20g/mを塗布した。続いて、このコート織物をピンテンター内で190℃で2分間乾燥を行った。
【0101】
得られたエアバッグ用織物の特性を表4に示す。このエアバッグ用基布は、滑脱抵抗力が300N以下であり、エアバッグとした時の縫製部の目開きを抑制できず、バッグ展開時に縫製部が破損していた。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のエアバッグ用織物は、特に運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグなどに好適に用いることができるが、その適用範囲がこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明に係るエアバッグ用基布の平面図である。
【図2】図1の基布のA−A矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 エアバッグ用基布(本発明)
2 織物
3 タテ糸
4 ヨコ糸
5 樹脂層
6 接着層
7 表層
8,8’糸の両端部
A、B 切断線
H 樹脂層厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物および少なくとも一部に熱可塑性樹脂を含む樹脂層が積層されてなり、ASTM D 6479−02(2003)に基づき測定した滑脱抵抗力が300N以上、空気圧19.6kPaにおける通気度が0.5L/cm・min以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
前記織物が総繊度100〜700dtexのマルチフィラメントから構成されている、請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
前記樹脂層の一部が前記織物のタテ糸およびヨコ糸の幅方向両端に到達している、請求項1または2記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
FMVSS302により測定した燃焼速度が100mm/min以下である請求項1〜3のいずれか記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のエアバッグ用基布を製造する方法であって、前記樹脂層が含む熱可塑性樹脂の融点よりも高い温度で前記織物上に前記樹脂層を熱圧着させる工程を含むことを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−150754(P2008−150754A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342270(P2006−342270)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】