説明

エアバッグ開裂溝及びその形成方法

【課題】所定の順序で開裂することにより、エアバッグ・リッドの所期の展開動作を担保することができる、エアバッグ開裂溝とその形成方法を提供する。
【解決手段】エアバッグの展開時には、先ず、内溝5と外溝4のうち、内溝破断溝8と外溝破断溝6、7が形成された部位から開裂が進み、少し遅れて、外溝4のヒンジ・ティア・ライン9が開裂する。前方リッド部3aと後方リッド部3bは、展開したエアバッグに押されて、前方リッド部3aは車両の前方に向かって展開し、後方リッド部3bは車両の後方に向かって展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用エアバッグカバーにリッド部を画成するエアバッグ開裂溝及びその形成方法に関する。本発明は、特に、車両のインストルメント・パネルの表面から目視できないように、インストルメント・パネルの裏面にエアバッグ展開口の破断溝(ティア・ライン)を形成した、所謂、シームレス・インストルメント・パネルに使用される、エアバッグ開裂溝及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シームレス・インストルメント・パネルに、エアバッグ展開口の破断溝を形成するには、例えば、特開2004-149016号公報に開示されているように、加工刃に互いに隣接した二つの方形加工部を形成し、この加工刃を高周波加熱して、インストルメント・パネルの裏面からインストルメント・パネルの肉厚内の所定深さまで圧入し、これらの方形加工部に対応する部位に破断溝を形成する方法が知られている。
更に、特開平10-202600号公報や特開2003-33967号公報に開示されているように、加熱された加工刃を空気で冷却することにより、樹脂材の切り込み加工又は溝付け加工後に、それらの加工部の樹脂を固化させ、加工刃を樹脂材から引抜く際の樹脂の糸引きやバリの発生を防止し、また、加工部の変形を防止するという提案がなされている。
【特許文献1】特開2004−149016号公報
【特許文献2】特開平10-202600号公報
【特許文献3】特開2003-33967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特開2004−149016号公報に開示されたインストルメント・パネルの破断溝(ティア・ライン)とは、エアバッグユニットに対応する部位を囲むようにインストルメント・パネル裏面に形成され、溝の内側の部位をエアバッグ・リッドとして提供する溝を意味する。この溝は、加工刃をインストルメント・パネルの裏面に、直接、押し込むことによって形成されるから、例えば、インストルメント・パネルの剛性を向上させるため、インストルメント・パネルの肉厚を増加させた場合には、加工刃の押し込み量(距離)を増加させないと所期の破断機能を備えた破断溝を形成することができない。加工刃の押し込み量(距離)を増加させると、加工刃はインストルメント・パネルの自体の温度によって冷却される。加工刃の温度が低下すると加工刃の移動抵抗が増大するから、加工刃を所期の深さまで押し込むためには、より大きな力で押し込まなければならない。しかし、加工刃を大きな力で押し込むと、インストルメント・パネルの表面に不要な力が作用して、インストルメント・パネルの表面形態を損なうおそれがあるばかりでなく、インストルメント・パネルや加工刃が変形して、所期の形状及び寸法を備えた破断溝を形成できない場合がある。
【0004】
特開2004−149016号公報に開示された加工刃は、方形の枠状を成す外部加工刃と、この外部加工刃の内部空間を二分する内部加工刃とによって構成されている。この内部加工刃は外部加工刃によって囲繞されているため、温度制御が困難である。このため、加工刃を加熱したとき、内部加工刃の温度が外部加工刃の温度とは異なる温度になるおそれが高い。部分的に温度差を有する加工刃によって破断溝を形成すると、破断溝の部分によってその加工程度に差異を生じる。この結果、破断溝の深さ寸法や幅寸法にバラツキを生じた場合には、破断溝の破断開始部分を所期の位置に設定できないおそれがある。
特開平10-202600号公報に開示されているように、型台(治具)の内部に高周波誘導加熱装置を設けると、加工刃の大きさや形状の変更に対応することが困難である。
特開2003-33967号公報に開示されているように、加工刃に沿って高周波誘導加熱コイルを配置するときには、外部加工刃と内部加工刃とによって画成された閉鎖空間内に高周波誘導加熱コイルを配置する必要がある。
また、内部加工刃は外部加工刃によって囲繞されているため、破断溝の加工が終了した後、加工部位を空気等で冷却する場合にも、外部加工刃と内部加工刃とによって画成された閉鎖空間に空気等の吹出しノズルを配置する必要がある。加工刃の一部に冷却むらが生じると、破断溝から加工刃を引抜くときに溶融バリの糸引きを起こし、破断溝の形状や寸法等にバラツキを生じる場合がある。更に、溶融バリがインストルメント・パネルの裏面から突出した状態で硬化すると、エアバッグ展開時にエアバッグがバリに接触し、エアバッグを損傷させるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、所定の順序で開裂することにより、エアバッグ・リッドの所期の展開動作を担保することができる、エアバッグ開裂溝とその形成方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、エアバック開裂溝を形成する熱可塑性部材の肉厚寸法に拘わらず、良好な表面状態を備えたシームレス・インストルメント・パネルのエアバッグ装着部に適用することができる、エアバッグ開裂溝とその形成方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、良好な加工性を有し、加工程度にバラツキを生じない、エアバッグ開裂溝とその形成方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、エアバッグ展開時に所望の部位から破断を開始させることができる、エアバッグ開裂溝とその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアバッグ開裂溝は、熱可塑性部材の一方の側面に、エアバッグ開裂部を画成する外溝と、外溝に連続し、かつ、エアバッグ開裂部を二つ又はそれ以上のセグメントに区画する、内溝を形成し、外溝の底部の一部に外溝に沿って延在する外溝破断溝を形成し、内溝の底部の全部又は一部に、内溝に沿って延在し、かつ、外溝破断溝に連続する、内溝破断溝を形成したことを特徴とする。
外溝と内溝は、通常、同一の深さ及び横幅を有するように形成されるが、これらの溝の深さ及び横幅は別個に設定することもできる。
内溝破断溝と外溝破断溝は、通常、同一の深さ及び横幅を有するように形成されるが、これらの溝の深さ及び横幅も別個に設定することもできる。
内溝破断溝と外溝破断溝は、外溝と内溝の底部に形成されるから、内溝破断溝と外溝破断溝の幅は、外溝と内溝の幅よりも小さい幅に形成される。
内溝破断溝と外溝破断溝は、熱可塑性部材の他方の側面(インストルメント・パネルの表面)から視認することができないように、熱可塑性部材の他方の側面から所定深さに形成される。
エアバッグの展開時には、先ず、外溝と内溝のうち、内溝破断溝と外溝破断溝が形成された部位が開裂し、次いで、これらの破断溝が形成されていない部位が開裂する。換言すれば、この開裂は、内溝破断溝と外溝破断溝が形成された部位から、これらの破断溝が形成されていない部位に伝播する。
【0007】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、熱可塑性部材の一方の側面に、エアバッグ開裂部を画成する外溝と、外溝に連続し、かつ、エアバッグ開裂部を二つ又はそれ以上のセグメントに区画する、内溝とを形成し、外溝に進入する外溝加工部と、内溝に進入する内溝加工部と、外溝加工部の内側面と内溝加工部の側面を外溝加工部の外部に開放する開口部とを有する加工刃を、加熱した状態で、熱可塑性部材の一方の側面に向かって移動させ、外溝加工部を外溝の底部に差込むことによって、外溝の底部に外溝破断溝を形成し、内溝加工部を内溝の底部に差込むことによって、内溝の底部に、外溝破断溝に連続した内溝破断溝を形成し、前述の開口部を外溝及び内溝のうちのいずれか一方又は双方の内部に位置させることによって、外溝及び内溝のいずれか一方又は双方に、外溝破断溝又は内溝破断溝が存在しない部分を形成することを特徴とする。
外溝と内溝は、例えば、インストルメント・パネル等の熱可塑性部材の成形時に一体成形することができる。
外溝と内溝によって画成される複数のセグメントは、それぞれ、エアバッグ・リッドを構成する。
外溝と内溝の幅及び深さは、これらの溝の底部に内溝破断溝と外溝破断溝を形成する加工刃の寸法や加熱温度や加工量を考慮して決定される。また、外溝と内溝の幅及び深さは、内溝破断溝と外溝破断溝を形成するときに生じる加工バリが、外溝と内溝の外部に突出しないような寸法であることが好ましい。
加工刃は外溝加工部と内溝加工部と開口部を備え、外溝加工部の内側面と内溝加工部の両側面は開口部を介して外溝加工部の外部に開放されている。したがって、加工刃の外溝加工部と内溝加工部によって囲繞された閉鎖空間は存在しない。
【0008】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法の特徴は、また、加工刃は、外溝加工部と内溝加工部とに沿って配置された加熱手段によって加熱されることを特徴とする。
この加熱手段は、加工刃の外溝加工部と内溝加工部に沿って配置された高周波誘導加熱コイルによって構成することができる。
【0009】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、また、外溝破断溝と内溝破断溝とを加工した後、前記加工刃に供給された冷却流体を前記開口部から放出させることによって、熱可塑性部材の加工部を冷却することを特徴とする。
この冷却流体は冷却エア等の流体によって構成され、加工刃の開口部に配置されたノズルから、加工刃の内溝加工部と外溝加工部の内側面に向けて噴出可能である。このノズルは、加工刃の外溝加工部と内溝加工部に沿って配置された高周波誘導加熱コイルと干渉しないように設置される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエアバッグ開裂溝は、エアバッグの展開時に、先ず、外溝と内溝の内溝破断溝と外溝破断溝が形成された部位が開裂し、次いで、これらの破断溝が形成されていない部位が開裂するから、内溝破断溝と外溝破断溝の形成位置を選択することにより、エアバッグ開裂部に画成された複数のエアバッグ・リッドを、それぞれ、所定の方向に、所定の順序で、展開させることができる。
【0011】
本発明のエアバッグ開裂溝は、エアバッグの展開時に、エアバッグ開裂部に画成された複数のエアバッグ・リッドを、それぞれ、所定の方向に、所定の順序で、展開させることができるから、エアバッグの所期の展開動作を担保することができる。
【0012】
本発明のエアバッグ開裂溝は、熱可塑性部材の一方の側面に形成された外溝と内溝の底部に、外溝破断溝と内溝破断溝を形成することによって構成されるから、外溝と内溝の深さを適当な大きさに設定すれば、大きな肉厚を有する熱可塑性部材に対しても、所定の加工深さで、外溝破断溝と内溝破断溝を形成することができる。よって、外溝破断溝と内溝破断溝の加工時に、熱可塑性部材に大きな力が作用することを防止することができる。
【0013】
本発明のエアバッグ開裂溝は、熱可塑性部材の肉厚寸法に拘わらず、所定の力で外溝破断溝と内溝破断溝を加工することができるから、熱可塑性部材に変形等の不具合を生じない。よって、良好な表面状態を備えたシームレス・インストルメント・パネルのエアバッグ装着部を提供することができる。
【0014】
本発明のエアバッグ開裂溝は良好な加工性を有し、その加工程度にバラツキを生じないから、所期の展開性能を備えたエアバッグ開裂部を提供することができる。
【0015】
本発明のエアバッグ開裂溝の外溝と内溝の幅及び深さを、内溝破断溝と外溝破断溝を形成するときに生じる加工バリが、外溝と内溝の外部に突出しないように形成すれば、エアバッグの展開時に、エアバッグが加工バリに接触して、エアバッグが損傷を受けることを防止することができる。
【0016】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、加熱手段を、加工刃の外溝加工部の外側面に沿う位置のみでなく、開口部を介して、外溝加工部の内側面と内溝加工部の両側面に沿う位置にも配置することができる。したがって、加工刃の外溝加工部と内溝加工部の全体を均一に加熱することができる。よって、本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法によれば、高品質の内溝破断溝と外溝破断溝を確実に形成することができる。
【0017】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、加工刃に付設した加熱手段により加工刃を均一に加熱しながら、加工刃を熱可塑性部材の加工面に向かって移動させることができる。したがって、加熱工程の開始から加工工程の終了までに要する時間を短縮することができる。更に、熱可塑性部材に加工刃を差込む直前まで加工刃を加熱し続けることができるから、所期の加工品質の加工溝を容易に形成することができる。
【0018】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、加工刃の開口部に配置されたノズルから前記加工刃に供給された冷却流体を前記開口部から放出させることによって、熱可塑性部材の加工部を均一に冷却することことができるから、熱可塑性部材の加工部に温度が異なる部分が発生する、所謂、冷却ムラを防止することができる。したがって、加工刃を熱可塑性部材から離隔させるときに、冷却ムラが発生した部分に溶融樹脂の糸引きを起こしたり、内溝破断溝や外溝破断溝に部分的な変形や破壊が生じることを確実に防止することができる。よって、所期の形状及び寸法の加工溝を容易に形成することができる。
【0019】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、加工刃に付設された加熱手段によって加工刃を加熱するから、加工刃と加熱手段を一つのユニットとして構成することができる。加工刃と加熱手段を一つのユニットとして構成すれば、加工刃と加熱手段を同時に交換することができるから、異なる形態の加工溝の形成に短時間で容易に対応することができる。
【0020】
本発明のその他の目的、構成、作用効果等の特徴は、図面を参照して行う、以下の実施例の説明から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
熱可塑性樹脂からなるインストルメント・パネルの裏面に、予め、エアバッグ開裂部を規定する外溝と内溝を一体成形し、このパネルをその裏面を上側にして治具に固定する。次いで、外溝加工部と内溝加工部と開口部とを有する加工刃を均一に加熱しながらパネル方向に移動させ、加工刃がパネルに接触する直前に加工刃の加熱工程を終了する。次に、加熱された加工刃の外溝加工部をパネルの外溝の底部に差込み、外溝の底部の一部に外溝破断溝を形成すると同時に、加工刃の内溝加工部をパネルの内溝の底部に差込み、内溝の底部の全長にわたって内溝破断部を形成する。次に、加工刃の開口部に配置されたノズルから冷却エアを噴射させて加工刃全体を均一に冷却し、加工刃の温度が所定の温度まで低下したときに冷却工程を終了する。そして、加工刃をパネルから離隔させ、パネルを治具から取り外す。
【実施例1】
【0022】
図1乃至4は、本発明のエアバッグ開裂溝1を車両のシームレス・インストルメント・パネル(以下、パネルという。)2に適用した実施例を示す。エアバッグ開裂溝1はパネル2の裏面2aに形成され、パネル2の表面2bからは視認できない。この実施例のエアバッグ開裂溝1は、パネル2の裏面2aに全体として長方形のエアバッグ開裂部3を画成し、更に、エアバッグ開裂部3を前方リッド部3aと後方リッド部3bとに区画する。エアバッグ開裂部3は車両の助手席(図示せず。)の前方に位置する。
【0023】
本発明のエアバッグ開裂溝1をパネル2等に適用するに際し、エアバッグ開裂溝1によって規定されるエアバッグ開裂部3の形状は、図示の長方形に限定されずに、任意の形状にすることができる。同様に、エアバッグ開裂部3に画成されるリッド部3a、3bの数及び形状は、エアバックの展開動作を考慮して任意の数及び形状にすることができる。
【0024】
エアバック開裂溝1は、エアバッグ開裂部3を囲繞する外溝4と、エアバッグ開裂部3を前方リッド部3aと後方リッド部3bとに画成する内溝5を有する。内溝5の両端部は外溝4に連続する。外溝4と内溝5は、パネル2を金型で成形する時に、パネル2とともにパネル2の裏面2aに一体形成されることが好ましい。エアバック開裂溝1は、また、外溝破断溝6、7と内溝破断溝8とを有する。外溝破断溝6、7は、エアバッグ開裂部3の左右側縁部に対応する外溝4の底部に形成され、エアバッグ開裂部3の上下辺縁部に対応する外溝4の底部には形成されない。これに対し、内溝破断溝8は、内溝5の底部に、内溝5の全長にわたって形成され、内溝破断溝8の両端部は外溝破断溝6、7に連結されている。
【0025】
図示のように、内溝破断溝8は内溝5の底部に形成されるから、内溝破断溝8の幅は内溝5の幅よりも小さい。また、内溝破断溝8の底部は、内溝5の底部よりも、パネル2の表面2bに近接して位置する。内溝5と内溝破断溝8の幅寸法及び深さ寸法は、内溝破断溝8の加工性、パネル2のシームレス性、エアバッグの展開性能等を考慮して定められる。なお、内溝破断溝8の開口縁には突条8a、8bが形成されている。突条8a、8bは、内溝破断溝8を形成するときに内溝5の底部が隆起して生成される。内溝5の深さは、内溝破断溝8の加工に伴う突条8a、8bやバリ等の不要物が、内溝5の外部に突出しない寸法に設定されることが好ましい。エアバッグの展開時に、エアバッグが突条8a、8bやバリ等に接触して破損することを防止するためである。
【0026】
外溝4と外溝破断溝6、7の幅寸法及び深さ寸法は、前述の内溝5と内溝破断溝8の幅寸法及び深さ寸法と同様に定められる。外溝4の底部に外溝破断溝6、7が形成されていない部分は、外溝4のみによって形成されたヒンジ・ティア・ライン9を構成する。
【0027】
エアバッグ開裂部3の前方リッド部3aと後方リッド部3bは、外溝4と内溝5によってパネル2に画成されるということができる。前方リッド部3aと後方リッド部3bは、また、外溝破断溝6、7と内溝破断溝8とヒンジ・ティア・ライン9によって、パネル2に画成されるということもできる。
【0028】
パネル2の裏面には、補強ブラケット10が振動溶着等の手段によって固着される。補強ブラケット10は、エアバック(図示せず。)を収容するための円筒状のケーシング11と、エアバッグ開裂部3の周縁部を補強するための開口補強部12と、前方リッド部3aと後方リッド部3bに固着されるリッド補強部13と、外溝4のヒンジ・ティア・ライン9を跨いで、開口補強部12とリッド補強部13を連結する、ヒンジ部14とによって構成されている。
【0029】
エアバッグの展開時には、先ず、内溝5と外溝4のうち、内溝破断溝8と外溝破断溝6、7が形成された部位から開裂が進み、少し遅れて、外溝4のヒンジ・ティア・ライン9が開裂する。前方リッド部3aと後方リッド部3bは、展開したエアバッグに押されて、前方リッド部3aは車両の前方に向かって展開し、後方リッド部3bは車両の後方に向かって展開する。すなわち、前方リッド部3aと後方リッド部3bは、補強ブラケット10のヒンジ部14を中心にして観音開きに展開する。前方リッド部3aと後方リッド部3bは、いずれも、補強ブラケット10によってパネル2に連結されているから、パネル2から離脱することなく、パネル2の表面2bの上に展開する。
【0030】
図5は、エアバック開裂溝1の外溝4と内溝5に、外溝破断溝6、7と内溝破断溝8を形成するための加工装置15の概略図である。また、図6は、加工装置15の要部を表す断面図である。加工装置15は、パネル2が固定される治具16と、外溝破断溝6、7と内溝破断溝8を形成するための加工刃17と、加工刃17を高周波誘導で加熱する高周波誘導加熱コイル18と、加工刃17を冷却するための冷却空気噴出ノズル19を有する。加工刃17と高周波誘導加熱コイル18と冷却空気噴出ノズル19は、治具16の上方に配置された支持プレート20に固定されている。支持プレート20は、図示しないアクチュエータによって、治具16に対して往復動可能である。
【0031】
治具16の上面の略中央部に、パネル2が嵌合する凹部21を有し、パネル2は、その裏面2aを上方にして、凹部21に固定される。加工刃17は、全体として略H字形状をなし、内溝破断部8を形成するための内溝加工部17aと、外溝破断部6、7を形成するための外溝加工部17b、17cと、外溝加工部17bの側端縁Aと外溝加工部17cの側端縁Cの間、及び、外溝加工部17bの側端縁Bと外溝加工部17cの側端縁Dの間にそれぞれ形成された、開口部E、Fを有する。これらの開口部E、Fには、加工刃17の外溝加工部17b、17cは存在しない。高周波誘導加熱コイル18は、加工刃17の全体を均一に加熱するため、開口部E、Fから加工刃17の内部に挿入され、外溝加工部17b、17cの内側面及び外側面並びに内溝加工部17aの両側面に沿って延在するように配置される。一対の冷却空気噴出ノズル19の噴出口19aは、それぞれ、加工刃17の開口部E、Fに開口し、冷却空気を加工刃17の中心部に向けて噴出することができる。
【0032】
以下、本発明のエアバッグ開裂溝1の形成方法を説明する。前述のように、エアバッグ開裂溝1は、外溝4と、内溝5と、外溝破断溝6、7と、内溝破断溝8とを有する。このうち、外溝4と内溝5は、パネル2の裏面2aに一体形成されているものとする。既に外溝4と内溝5が形成されているパネル2に、加工装置15を用いて、外溝破断溝6、7と内溝破断溝8を形成する工程は、次のとおりである。
【0033】
パネルのセット工程
パネル2の裏面2bを上側にして、治具16の凹部21にパネル2を設置し、必要な場合には、支持プレート20の位置を調節して、加工刃17をパネル2の外溝4と内溝5に対応する位置の上方に配置する。
【0034】
加工刃の加熱工程
高周波誘導加熱コイル18に電流を流し、磁力線を発生させて加工刃17に渦電流を作用させ、加工刃17を発熱させる。加工刃17の加熱温度は、加工刃17をパネル2の裏面2aに差込むときの加工性と、パネル2の表面2bへの温度の影響を考慮し、更に、次工程における加工刃17のパネル2への差込み量及びパネル2の外溝4と内溝5の部分の肉厚を考慮して設定される。高周波誘導加熱コイル18は加工刃17の外溝加工部17b、17cの内側面及び外側面並びに内溝加工部17aの両側面に沿って延在するから、加工刃17の全体を均一な温度に加熱することができる。よって、加工刃17に加熱ムラは発生しない。
【0035】
外溝破断溝と内溝破断溝の加工工程
加工刃17が所定の温度まで加熱されたところで、支持プレート20をパネル2の裏面2aに向かって移動させる。そして、加工刃17の内溝加工部17aと外溝加工部17b、17cが、それぞれ、内溝5と外溝4の底部に接触する直前に、高周波誘導加熱コイル18への通電を遮断し、その余熱を使用して、加工刃17の内溝加工部17aを内溝5の底部に差込むことにより、内溝破断溝8を形成し、同時に、加工刃17の外溝加工部17b、17cを外溝4の底部に差込むことにより、外溝破断溝6、7を形成する。
パネル2の内溝5と外溝4の底部に加工刃17を差込んだとき、加工刃17の内溝加工部17aの両側と外溝加工部17b、17cの両側に、それぞれ、溶融バリが生じるが、これらのバリが内溝5と外溝4の内部からパネル2の裏面2aよりも上に突出することがないように、内溝5と外溝4の深さ寸法を設定しておく。これにより、エアバッグの展開時にエアバッグがこれらのバリに接触して、不具合を起こすことを防止することができる。
図5及び6に示した加工装置15は、加工刃17を高周波誘導加熱コイル18と共に下降させることができるから、加工刃17によってパネル2の加工を開始する直前まで、加工刃17の加熱と移動を並行して行うことができる。これにより、加工時間の短縮を図ることができる。また、加工刃17をパネル2に差込む直前まで加工刃17の加熱を行うことができるから、全ての外溝破断溝6、7と内溝破断溝8の加工品質を一定にすることができる。
【0036】
冷却工程
パネル2に外溝破断溝6、7と内溝破断溝8が形成されると、加工刃17の内溝加工部17aと外溝加工部17b、17cを対応する外溝破断溝6、7と内溝破断溝8に差込んだままの状態で、冷却空気噴出ノズル19の噴出口19aから加工刃17の開口部E、Fに冷却空気を噴出させ、パネル2の外溝破断溝6、7と内溝破断溝8を冷却する。噴出口19aから加工刃17に供給された冷却空気は、加工刃17の開口部E及びFから放出されるから、パネル2の外溝破断溝6、7と内溝破断溝8は均一に冷却され、これらの外溝破断溝6、7及び内溝破断溝8に冷却ムラが生じることを防止することができる。したがって、加工刃17をパネル2から離隔されるときに、冷却ムラが発生した部分に溶融樹脂の糸引きを起こしたり、外溝破断溝6、7及び内溝破断溝8に部分的な変形や破壊が生じることを確実に防止することができる。これにより、所期の形状及び寸法の外溝破断溝6、7及び内溝破断溝8を形成することができる。
【0037】
パネル取り出し工程
加工部の冷却が完了した後、支持プレート20をパネル2から離隔する方向に駆動し、加工刃17をパネル2から離脱させる。支持プレート20が初期位置に復帰した後、治具16からパネル2を取り出す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のエアバッグ開裂溝の形成方法は、熱可塑性部材一般に良好な品質の溝を形成するために広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のエアバック開裂溝を形成したシームレス・インストルメント・パネルの表面側の斜視図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】図1のシームレス・インストルメント・パネルの裏面側の斜視図である。
【図4】図3のIV部分の拡大図である。
【図5】本発明のエアバック開裂溝を形成するための加工装置の概略斜視図である。
【図6】図5のVI-VI線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 エアバッグ開裂溝
2 シームレス・インストルメント・パネル
3 エアバッグ開裂部
4 外溝
5 内溝
6 外溝破断溝
7 外溝破断溝
8 内溝破断溝
9 ヒンジ・ティア・ライン
10 補強ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性部材の一方の側面に、エアバッグ開裂部を画成する外溝と、前記外溝に連続し、かつ、前記エアバッグ開裂部を二つ又はそれ以上のセグメントに区画する、内溝を形成し、前記外溝の底部の一部に前記外溝に沿って延在する外溝破断溝を形成し、前記内溝の底部の全部又は一部に、前記内溝に沿って延在し、かつ、前記外溝破断溝に連続する、内溝破断溝を形成したことを特徴とする、エアバッグ開裂溝。
【請求項2】
熱可塑性部材の一方の側面に、エアバッグ開裂部を画成する外溝と、前記外溝に連続し、かつ、前記エアバッグ開裂部を二つ又はそれ以上のセグメントに区画する、内溝とを形成し、前記外溝に進入する外溝加工部と、前記内溝に進入する内溝加工部と、前記外溝加工部の内側面と前記内溝加工部の側面を前記外溝加工部の外部に開放する開口部とを有する加工刃を、加熱した状態で、前記熱可塑性部材の一方の側面に向かって移動させ、前記外溝加工部を前記外溝の底部に差込むことによって、前記外溝の底部に外溝破断溝を形成し、前記内溝加工部を前記内溝の底部に差込むことによって、前記内溝の底部に、前記外溝破断溝に連続した内溝破断溝を形成し、前記開口部を前記外溝及び前記内溝のうちのいずれか一方又は双方の内部に位置させることによって、前記外溝及び前記内溝のいずれか一方又は双方に、前記外溝破断溝又は前記内溝破断溝が存在しない部分を形成することを特徴とする、エアバッグ開裂溝の形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエアバッグ開裂溝の形成方法において、前記加工刃は、前記外溝加工部と前記内溝加工部とに沿って配置された加熱手段によって加熱されることを特徴とする、前記エアバッグ開裂溝の形成方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のエアバッグ開裂溝の形成方法において、前記外溝破断溝と前記内溝破断溝とを加工した後、前記加工刃に供給された冷却流体を前記開口部から放出させることによって、前記熱可塑性部材の加工部を冷却することを特徴とする、前記エアバッグ開裂溝の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−183950(P2008−183950A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17159(P2007−17159)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(591115877)森六株式会社 (15)
【Fターム(参考)】