説明

エアリフトポンプ装置及び汚水処理設備

【課題】設備コストや運転コストを低減させながら、送水される被処理水の流量を精度良く計測できるエアリフトポンプ装置を提供する。
【解決手段】エアリフトポンプ装置40は、好気槽30に立設配置された揚水管41と、揚水管41に気泡を放出して好気槽30内の被処理水を揚水する散気装置42と、揚水管41と連通され、揚水管41に揚水された被処理水を水平方向に移送するべく横設配置された送水管43とを備えて構成され、揚水管41の上端高さが処理槽20の最低水位以下の高さに設定され、揚水管41に供給された気泡を大気開放する脱気部44が送水管43に設けられ、送水管43のうち脱気部44の下流側が処理槽20の最低水位より低い高さに配置されるとともに、当該下流側に流速計50が設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽に立設配置された揚水管と、前記揚水管に気泡を放出して、気泡によるエアリフト効果で前記処理槽内の被処理水を揚水する散気装置と、前記揚水管と連通され、前記揚水管に揚水された被処理水を水平方向に移送するべく横設配置された送水管とを備えているエアリフトポンプ装置及び汚水処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
し尿や生活排水等を含む汚水を浄化する汚水処理設備は、嫌気槽または無酸素槽と好気槽が連接して構築され、両処理槽を仕切る隔壁に、嫌気槽または無酸素槽で嫌気処理された被処理水が好気槽に流出し、好気槽で好気処理された被処理水が膜分離装置を介して槽外に取り出され、或は最終沈殿池に流出するように構成され、さらに、好気槽で好気処理された被処理水の一部を汚泥とともに上流側の嫌気槽または無酸素槽に返送するエアリフトポンプ装置が設置されている。
【0003】
嫌気槽では、原水に含まれるBOD成分が嫌気性微生物に取り込まれるとともに、リン化合物が加水分解されて正リン酸としてリンが液中に放出され、無酸素槽では脱窒処理が行われ、さらに、好気槽では好気性微生物によって硝化処理が行われ、さらに、被処理水中の正リン酸が汚泥に取り込まれる好気性処理が行われる。
【0004】
そして、窒素やリンを除去する高度処理では、汚水処理設備に流入する被処理水が変動する場合であっても、その処理効率を高い状態に維持するために、エアリフトポンプ装置によって嫌気槽または無酸素槽に返送する被処理水の量を適正量に調整する必要があり、そのため送水管を通流する被処理水の流量を精度良く計測する技術が求められている。
【0005】
樋状の送水路に流れる被処理水の流量を正確に計測する技術として、水路の途中に、一定の形状と寸法をもつ絞り部を設けて下流側水位に影響されない流れを作り、このときに流量と上流側水位との間に一定の関係が成り立つことを利用して、この水位を測定することにより流量を求めるフリューム式排水流量計が知られている。
【0006】
フリューム式排水流量計では、haをフリュームの上流側水深(m)、K,mをフリュームの形状、サイズ、スロート幅等により決まる定数とした場合に、流量Q(m/h)が以下の数式で求められる。
Q=K・ha・m
【0007】
同様に、水路の途中に一定の形状と寸法をもつ堰板を設けて下流側水位に影響されない流れを作り、このときに流量と上流側水位との間に一定の関係が成り立つことを利用して、この水位を測定することにより流量を求める堰式排水流量計が知られている。
【0008】
三角堰を用いた堰式排水流量計では、Kを水路幅、切欠き幅、切欠き下縁までの高さにより決まる定数、hを堰水頭(堰板の切欠き下縁からの越流水深、ただし全幅堰の場合は上縁からの越流水深)(m)とする場合に、流量Q(m/s)が以下の数式で求められる。
Q=K・h5/2・1/60
【0009】
特許文献1には、堰式排水流量計を用いたエアリフトポンプ装置として、循環水を計量する三角堰と循環水量を調整する戻り堰を備え、揚水管から過剰に揚水された被処理水から必要な循環水量のみを三角堰から越流させる分配計量装置を有するエアリフトポンプ装置が開示されている。
【0010】
また、特許文献1には、揚水管に放出される気泡の量を調整する調整弁を備え、送水管の流出側開口部に循環水量の目安線が形成されたエアリフトポンプ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−104664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、エアリフトポンプ装置で返送される被処理水の流量を、上述したフリューム式排水流量計や堰式排水流量計を用いて計測する場合には、計測に必要な水頭差を確保するために、被処理水の上流側処理槽への返送に必要な水頭差よりも大きな水頭差まで揚水する必要があり、そのために散気装置から過剰な散気量で揚水管に気泡を供給することになりエネルギー効率が悪いという問題があった。
【0013】
さらに、多量の被処理水を浄化処理する必要がある浄水施設に設置される高度汚水処理設備では、コンクリート躯体で構成される大容量の嫌気槽や好気槽が構築され、比較的大型のエアリフトポンプ装置が設置されるため、好気槽からの返送水の流量を計測するために、堰式排水流量計を設けると非常に大型となり設備コストのみならず、散気装置の動力コストも嵩むという問題もあった。
【0014】
そこで、例えば、図7に示すように、好気槽60に立設して配置された揚水管71と、揚水管71に向けて気泡を放出する散気装置72と、気泡により揚水された被処理水を揚水管71の上部から、隔壁62を貫いて好気槽60に隣接する無酸素槽61に移送する略水平姿勢の送水管73を備えたエアリフトポンプ装置70を構成する場合に、無酸素槽61の水面近傍まで揚水された被処理水を移送する樋状の送水管73に流速計80を設置して、当該流速計80で計測した流速に基づいて平均流速を算出し、算出した平均流速と送水管の被処理水が通過する断面積との積で移送量を算出することが考えられる。
【0015】
この場合、自由水面から樋状の送水管73の底面までの深さを1として、自由水面からの水深が0.6の位置に流速計80を設置し、流速計80で計測された流速を平均流速とする。
【0016】
しかし、処理槽の水位が変動すると、それに伴って流速計80が設置された水深が変動するため、算出される送水管73の代表流速に信頼性が確保できないという問題がある。
【0017】
図8(a)には、矩形の送水管73の幅をWとし、処理槽の水位が最低水位LWLのときに、送水管73内の水深をDLとしたときに、水深0.6DLの位置に流速計80を設置し、流速計80で計測された流速vを平均流速vとして算出する例が示されている。平均流速vと流量計50を設置した箇所の通過断面積A(=DL×W)の積から流量Q(=v×A)が算出される。
【0018】
図8(b)に示すように、処理槽の水位が最高水位HWLまで上昇すると、送水管73の水深がDHに上昇する。このとき、平均流速を算出するには水深0.6DHの位置の流速vを計測しなければならない。しかし、流速計80は処理槽の水位が最低水位LWLのときに、水深0.6DLの位置に設置されているため、流量計80により検出される流速は最早平均流速を示す値では無くなるのである。
【0019】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、設備コストや運転コストを低減させながら、送水される被処理水の流量を精度良く計測できるエアリフトポンプ装置及び汚水処理設備を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の目的を達成するため、本発明によるエアリフトポンプ装置の特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、処理槽に立設配置された揚水管と、前記揚水管に気泡を放出して前記処理槽内の被処理水を揚水する散気装置と、前記揚水管と連通され、前記揚水管に揚水された被処理水を水平方向に移送するべく横設配置された送水管とを備えているエアリフトポンプ装置であって、前記揚水管の上端高さが前記送水管が配置された領域における前記処理槽の最低水位以下の高さに設定され、前記揚水管に供給された気泡を大気開放する脱気部が前記送水管に設けられ、前記送水管のうち前記脱気部の下流側が前記処理槽の最低水位より低い高さに配置されるとともに、当該下流側に流速計が設置されている点にある。
【0021】
上述の構成によると、送水管のうち脱気部の下流側が処理槽の最低水位より低い高さに配置されているため、脱気部の下流側の送水管は常に返送水で満たされるようになり、そのような送水管の下流部に配置した流速計によれば、処理槽の水位が変動する場合であっても常に正確な代表流速を算出するための基準流速を計測することができるようになる。なお、この場合、送水管の中心部に流速計を設置することにより、常にその最大流速を基準流速として計測することができる。
【0022】
また、揚水管の上端高さが前記送水管が配置された領域における前記処理槽の最低水位以下の高さに設定されているため、被処理水の返送のために必要となる最小限の揚程だけ揚水すればよいので、散気装置に必要な動力も揚水のための最小の動力で済み、返送水の流量を計測するためにフリューム式排水流量計等を用いる場合に必要となる余分な動力を消費する必要が無くなる。
【0023】
さらに、揚水管に供給された気泡を大気開放する脱気部が、横設配置された送水管に設けられているため、気泡を送水管内で十分に上昇させた後に、脱気部で大気に開放することができ、多量の気泡が混入した状態で送水管を通流することが解消されるため、流速計で計測される返送水の流速が信頼性の高い値となる。なお、揚水管の上端に脱気部を備える場合には、上昇流を効率良く水平流に変換できないうえ、揚水管で十分に気泡が除去されず、一定量の気泡とともに被処理水が送水管に導かれ、流速計で計測される返送水の流速が気泡の影響で変動して正確な値を得ることが困難になる。
【0024】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記送水管のうち少なくとも前記脱気部の上流側が、前記処理槽の最高水位以下で最低水位以上の高さに配置されている点にある。
【0025】
上述の構成によれば、揚水管によって処理槽の最低水位以下の高さまで揚水された被処理水が、処理槽の最高水位以下で最低水位以上の高さに配置されている送水管と連結されるため、処理槽の水位が変動する場合であっても、散気装置に必要な動力も揚水のための動力変動も極めて少なくすることができる。
【0026】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記送水管に、前記脱気部の下流側の上側管壁が上流側の上側管壁より低くなるように段差部が形成されている点にある。
【0027】
上述の構成によれば、送水管の上流側から脱気部に向けて流れる過程で、被処理水に混入した気泡が上昇した後に脱気部で大気に開放されるので、効率的に気泡を分離することができ、気泡が除去された被処理水が脱気部からその下流側に流れるのであるが、脱気部で十分に脱気されず被処理水の表面近傍に存在する僅かな気泡であっても、段差部から下方に被処理水が流下する際に被処理水から確実に分離されるようになり、より確実に正確な流速を計測できるようになる。
【0028】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記送水管のうち、前記脱気部の下流側の断面積が前記脱気部の上流側の断面積よりも小さくなるように構成されている点にある。
【0029】
上述の構成によれば、脱気部の下流側を流れる被処理水の流速が、脱気部の上流側を流れる被処理水の流速よりも大きな値になる。従って、脱気部の上流側では、比較的低い流速で流れる間に効率的に気泡を上昇させることができ、脱気部の下流側では、被処理水が返送管内を比較的高い流速で流れるために、流速計により正確に流速を計測することができるようになる。また、そのような比較的高い流速で返送された処理槽で、被処理水の攪拌効果も向上させることができる。
【0030】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記送水管のうち、前記脱気部の下流側の断面積が前記脱気部の上流側の断面積の0.5倍から2倍の範囲となるように構成されている点にある。
【0031】
送水管のうち、脱気部の下流側の断面積が脱気部の上流側の断面積の0.5倍程度であれば、送水管を流れる被処理水の圧力損失もそれほど大きくならず、被処理水が返送管内を比較的高い流速で流れるために、流速計により正確に流速を計測することができる。また、比較的高い流速で処理槽の被処理水が返送され、処理槽内が局部的に大きく攪拌されることが好ましくない場合には、脱気部の下流側の断面積が脱気部の上流側の断面積の2倍程度に設定すれば、比較的緩やかに被処理水が処理用に返送されながらも、返送量の調整に困難を来たさない程度の精度で流速計により流速を計測することができるようになる。
【0032】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記脱気部の下流側送水管の断面形状が矩形である点にある。
【0033】
上述の構成によれば、断面形状が矩形である送水管の方が製作がし易いため加工費が安価であり、同じ通過断面積の場合断面形状が円形であるより矩形である方が、高さ方向の寸法を小さくすることができる。
【0034】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記流速計により検知された流速に基づいて前記散気装置からの気泡の供給量を調整する制御装置を備えている点にある。
【0035】
上述の構成によれば、制御装置によって、流速計により検知された流速に基づいて散気装置からの気泡の供給量が適正に調整できるようになるので、原水の処理槽への流入量が変動する場合であっても、安定した窒素やリンの除去処理が可能な高度処理が実現できるようになる。
【0036】
本発明による汚水処理設備の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成を備えたエアリフトポンプ装置を備えた点にある。
【発明の効果】
【0037】
以上説明した通り、本発明によれば、設備コストや運転コストを低減させながら、送水される被処理水の流量を精度良く計測できるエアリフトポンプ装置及び汚水処理設備を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】エアリフトポンプ装置を採用した汚水処理設備を説明する平面図
【図2】本エアリフトポンプ装置を採用した汚水処理設備を説明する断面図
【図3】エアリフトポンプ装置の斜視図
【図4】エアリフトポンプ装置の側面図
【図5】エアリフトポンプ装置の概略断面図
【図6】(a)は別実施形態によるエアリフトポンプ装置の概略断面図、(b)は別実施形態によるエアリフトポンプ装置の概略断面図
【図7】返送管に流速計を設置したエアリフトポンプ装置の説明図
【図8】返送管での流速分布の説明図であって、(a)は処理槽の水位が最低水位である場合の流速分布の説明図、(b)は処理槽の水位が最高水位である場合の流速分布の説明図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明によるエアリフトポンプ装置を、汚水処理設備の好気槽内の被処理水を無酸素槽に返送するポンプ装置として適用した場合について説明する。
【0040】
図1,2に示すように、汚水処理設備1は、未処理の被処理水である原水を流入させる嫌気槽10と、嫌気槽10の下流側に隔壁11を介して連接され、嫌気性微生物により被処理水を脱窒する無酸素槽20と、無酸素槽20の下流側に隔壁21を介して配置され、無酸素槽20から流出した被処理水に含まれるアンモニアを好気性微生物で硝化する好気槽30と、好気槽30で硝化された被処理水の一部を無酸素槽20に返送するエアリフトポンプ装置40を備えている。なお、図1,2中の破線で示された矢印は、被処理水の流れを表している。
【0041】
嫌気槽10では、嫌気条件下で微生物により嫌気処理され、原水に含まれるBOD成分が微生物に取り込まれるとともに、リン化合物が加水分解されて正リン酸としてリンが液中に放出される。嫌気槽10で嫌気処理された被処理水は、隔壁11の下部に形成された連通口12を介して無酸素槽20へ移送される。
【0042】
無酸素槽20では、嫌気条件下で微生物により嫌気処理され、脱窒処理つまり硝酸イオン及び亜硝酸イオンの窒素ガスへの還元処理が行われる。無酸素槽20で嫌気処理された被処理水は、隔壁21の下部に形成された連通口22を介して好気槽30へ移送される。
【0043】
好気槽30に、無酸素槽20から流出した被処理水を受け入れる第一領域31と、第一領域31から流入した被処理水を隔壁21に導く第二領域32とに、被処理水の流出方向に沿って好気槽30を分離する分離壁34を設けて、第一領域31に被処理水に散気する複数の散気装置35を設置するとともに、第二領域32に被処理水を固液分離する複数の膜分離装置36を設置し、第二領域32の下流側にエアリフトポンプ装置40が設置されている。なお、分離壁34は、その上縁が水面より上方に突出する略垂直壁で構成され、基端側が隔壁21と接合され、他端側が好気槽30内で開放されている。
【0044】
第一領域31では、散気装置35からの散気による好気条件下で、被処理水に含まれるし尿等由来のアンモニウムイオンが微生物により酸化され、亜硝酸や硝酸に変換される硝化処理が行われ、さらに、被処理水中の正リン酸が汚泥に取り込まれ、ポリリン酸として蓄積される好気性処理が行われる。
【0045】
第二領域32では、膜分離装置36により被処理水から活性汚泥等の固形物が分離され、分離された被処理水が、送水管37によって後段の処理水槽(図示せず)に排出される。なお、嫌気槽10に流入する未処理の被処理水である原水の量は一定ではなく変動するが、膜分離装置36は、図示しない制御部により各処理槽の水位が所定の最低水位LWL以上であって最高水位HWL以下となるように排出量を調整するように構成されている。
【0046】
膜分離装置36に用いられる分離膜として、限外ろ過膜、精密ろ過膜等が好ましく採用される。膜の形態は、中空糸膜、平膜、チューブラー膜などが好ましく採用される。
【0047】
なお、分離壁34で分離された第一領域31の容積は、第二領域32の容積より大きくなるように設定されている。特に、第一領域31の容積が第二領域32の容積の2倍程度大きくなるように分離壁34を形成することが好ましい。このように構成することで、第一領域31で好気処理が良好に行われる。
【0048】
複数の膜分離装置36の下部には、夫々の膜分離装置36の膜表面に付着する汚泥を除去洗浄する散気装置38が配設されている。第二領域32では、散気装置38から供給される空気により、好気条件下で活性汚泥により硝化処理が行われる。第二領域32の活性汚泥は、引抜管39により余剰汚泥として排出される。
【0049】
第一領域31で好気性処理が行われた被処理水が、分離壁34の他端側の開放部から第二領域32に向けてU字状に流下するように構成されているため、散気装置35からの散気の流れ、散気装置38からの散気の流れが相互に干渉することによる被処理水の流れの乱れが発生することがない。
【0050】
図3から図5に示すように、エアリフトポンプ装置40は、処理槽としての好気槽30に立設配置された断面矩形の揚水管41と、揚水管41の下端部に形成された下部開口41aの下方に対向して配置され、下部開口41aに向けて気泡を放出することで、好気槽30内の被処理水を揚水する散気装置42と、揚水管41と連通され、揚水管41に揚水された被処理水を水平方向に移送し、好気槽30に隣接する無酸素槽20へと返送するべく横設配置された断面矩形の送水管43とを備えている。図5中、破線矢印は、被処理水や気泡の流れを表している。
【0051】
揚水管41は、処理槽の底部に配置された架台45に支持されている。処理槽に天井がある場合には、天井から吊るされた支持部に揚水管41や送水管43を支持してもよい。
【0052】
散気装置42は、下部開口41a面積と略等しい面積となる範囲に、微細気泡を略均等に放出するために、同一平面上に分散配置された複数の散気部42aを備え、複数の散気部42aが揚水管41の下部開口41a面と平行に配置されている。
【0053】
揚水管41の上端高さが好気槽30の最低水位LWL以下の高さに設定され、揚水管41と送水管43が曲管46を介して連通されている。そのため円滑な流れが確保でき、送水管43を揚水管41の上端部に直角に連通する場合に発生する圧力損失を補うように散気装置42の駆動動力を高く設定する必要が無い。
【0054】
送水管43には、揚水管41に供給された気泡を大気開放する脱気部44が設けられている。散気管42によって放出された気泡が、脱気部44で被処理水から脱気され、散気装置から供給される気泡がそのまま無酸素槽20に返送されることが無いので、無酸素槽20の溶存酸素濃度が高くなり、脱窒効率が低下するような不都合な事態の発生を回避することができる。
【0055】
このように、脱気部44を送水管43の途中に設けることで、揚水管41内で被処理水の揚水のために散気された気泡が送水管43を流れるうちに、送水管43の上側管壁43bに集まり脱気部44により効率的に脱気することができる。なお、揚水管41の直上に脱気部を設けると、十分に脱気されずに被処理水が送水管43に移送されるので好ましくない。
【0056】
送水管43のうち脱気部44の下流側に流速計50が設置されるとともに、流速計50により検知された流速に基づいて被処理水の流量を算出し、散気装置42からの気泡の供給量を調整して被処理水の流量を目標値に制御するための制御装置51が設けられている。
【0057】
揚水管41により揚水された被処理水に、散気装置42により散気された気泡が多量に含まれた状態で流速を計測すると正確な流速が検知できず、適切に被処理水の循環量を調整することができない虞がある。そこで、脱気部44より下流側の送水管43に流量計50を設置して、脱気された後の被処理水の流速が精度良く計測されるように構成されている。
【0058】
好気槽30から無酸素槽20への被処理水の移送量が多いと無酸素槽30に余分な空気を持ち込むこととなり、溶存酸素濃度が高くなり、脱窒効率が低下し、逆に被処理水の移送量が少ないと被処理水の循環量が低下することにより、脱窒量が低下する。よって、制御装置51により散気装置の気泡の供給量を調整して、被処理水の移送量を適正に調整するのである。
【0059】
脱気部44の下流側の送水管43の高さをH、幅をWとすると、流速計50は、送水管43の高さHの中央、及び、幅Wの中央に配置されている。よって、送水管43内を流れる被処理水の流れが層流であっても乱流であっても最大流速が計測できる。さらに、流速計50は脱気部44の下流側の送水管43の入り口から10H程度離れた位置に配置されている。送水管43内を流れる被処理水の流れが安定する点で好ましい。処理槽の大きさ等の条件により、脱気部44の下流側の送水管43を長く構成できない場合であっても、流速計50は、脱気部44の下流側の送水管43の入り口から3H程度離れた位置に配置することが好ましい。
【0060】
送水管43のうち少なくとも脱気部44の上流側の下側管壁43aは、好気槽30の最低水位LWLより低い高さに配置され、送水管43のうち少なくとも脱気部44の下流側は、無酸素槽20の最低水位LWLより低い高さに配置されている。よって、流速計50が設置された脱気部44の下流側の送水管43は、無酸素槽20の水位の変動によらず、常に水面下に設置され、送水管43内は被処理水に満たされているため、精度良く流速を計測することができるのである。
【0061】
送水管43のうち少なくとも脱気部44の上流側が、処理槽の最高水位HWL以下で最低水位LWL以上の高さに配置されていることが好ましい。処理槽の水位が変動する場合であっても、散気装置に必要な動力も揚水のための動力変動も極めて少なくすることができるからである。
【0062】
送水管43のうち脱気部44の上流側の上側管壁43bは、脱気部44にかけて高さが次第に高くなるように下流側に向けて上方に傾斜する傾斜面で構成されている。従って、散気装置42により放出され揚水管41内を上昇した気泡が、送水管43内で水面に上昇して、傾斜面で構成された上側管壁43bに沿って脱気部44で大気開放されるので、揚水管41で揚水の役割を終えた気泡を、水平姿勢の送水管43内で速やかに上方に分離することができる。
【0063】
送水管43のうち脱気部44の下流側の上側管壁43d及び下側管壁43cは、脱気部44から上側管壁43d及び下側管壁43cにかけて高さが次第に低くなるように下流側に向けて下方に傾斜する傾斜面47b,47aで構成されている。
【0064】
そして、送水管43には、揚水管41から曲管46を介して連通された送水管43の上側管壁43bの最低高さよりも、脱気部44の下流側の上側管壁43dが低い位置となるような段差部が形成されている。
【0065】
当該段差部は、上述した傾斜面47bの一部で実現され、送水管43の上流側から脱気部44に向けて被処理水が流れる過程で、被処理水に混入した気泡が水面に上昇した後に脱気部で大気に開放されるので、揚水管41の直上に脱気部を設ける場合に比較して、被処理水から効率的に気泡を分離することができる。
【0066】
さらに、気泡が除去された被処理水が脱気部44からその下流側の送水管43に流れる際に、脱気部44でも十分に脱気されず、被処理水の表面近傍に僅かな気泡が存在しても、段差部より下方に位置する下流側の送水管43に被処理水が流下する際に、当該段差部で被処理水から気泡が確実に分離されるようになり、より確実に正確な流速を計測できるようになる。
【0067】
散気部42aは、送気管を介してブロワと接続されている。ブロワから供給される空気が、散気部42aから微細気泡となって放出される。なお、微細気泡はφ2mm以下の大きさが好ましい。
【0068】
φ2mm以下の微細気泡を多く含んだ気泡を低コストで放出できる散気装置として、可撓性または弾性を有するチューブやシートに貫通形成した孔またはスリットから気泡を放出するメンブレン型散気装置や、セラミック等の多孔板から気泡を放出するデイフューザー型散気装置を採用できる。
【0069】
図3,4,5に示す散気装置42の散気部42aは、チューブ形状のメンブレン型散気管であり、揚水管の下部開口の下方に最も外側に位置する散気管が揚水管の下部開口41aの一辺の鉛直下方の近傍となるように、等間隔で4本の散気管が分散して配置されている。
【0070】
このように、複数個の散気部42aを間隔を空けて分散配置すれば、散気部42aの下方から散気部42a間を通って揚水管内を上昇する被処理水の流れを誘導することができるため、揚水管内の被処理水及び気泡の流れの偏りが低減され好ましい。
【0071】
エアリフトポンプ装置40には、被処理水の揚水量を調整するために、散気装置42から放出される気泡の供給量をブロワの回転数によって調整する調整用のボリュームを備えた散気量調整機構が設けられている。また、制御装置51には、流速計50で検知された被処理水の流速に基づいて算出した流量を表示する表示部が設けられている。
【0072】
操作者は、表示部に表示された被処理水の返送流量を目視して、その流量が目標流量となるように、ボリュームを操作してブロワの回転数を調整し、散気装置42からの気泡の供給量を調整する。
【0073】
なお、操作者がボリュームを手動操作する構成に限らず、制御装置51が、算出した被処理水の返送流量を目標流量に制御すべく、ブロワの回転数を自動調整するフィードバック制御機構を備えてもよい。
【0074】
好気槽30で硝化処理された被処理水は、上述のように構成されたエアリフトポンプ装置40で無酸素槽20の上流側に返送される。これにより、好気槽30の硝化処理により被処理水に含まれる硝酸イオン及び亜硝酸イオンが、無酸素槽20へ循環されて、脱窒処理が行われる。
【0075】
エアリフトポンプ装置40を、隔壁21の近傍に配置して送水路43を短く、つまり全揚程を短くすることで、被処理水の送水に必要な散気量、つまりブロワの動力を低減することができ、また、散気量を減らすことで溶存酸素濃度が高い被処理水が無酸素槽20に流れ込むことを防止できるので、無酸素槽20の脱窒効率を低減させる虞を低減することができる。
【0076】
さらに、エアリフトポンプ装置40を介して無酸素槽20に返送された被処理水の一部は送水路23を介して嫌気槽10に返送される。リンを取り込んだ膜分離槽30内の微生物が送水路23を介して嫌気槽10へ循環されて、正リン酸としてリンが液中に放出される。
【0077】
好気槽30から活性汚泥を含む被処理水が無酸素槽20に返送され、無酸素槽20から被処理水が嫌気槽10に返送されるように構成されているため、無酸素槽20で脱窒処理され硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を含まず、酸素が消費された被処理水が嫌気槽10に返送され、嫌気槽10でのリンの放出条件である無NOx及び無酸素状態を維持することができる。
【0078】
よって、嫌気槽10ではリン化合物が正リン酸として効率的に放出され、放出された正リン酸が後段の好気槽30において嫌気槽10で放出した量以上に活性汚泥に取り込まれることにより、被処理水からリンを高度に除去することが可能となる。
【0079】
なお、上述した実施形態では、詳述していないが、嫌気槽10及び無酸素槽20には、それぞれの処理が均一に行われるように、被処理水を撹拌する撹拌機構を備えている。
【0080】
以上の構成により、好気槽30から無酸素槽20への返送に必要なエアリフトポンプ装置40の動力を低減でき、効率の良い被処理水の移送が行えるのである。
【0081】
次に、本発明による別実施形態を説明する。
図6(a)に示すように、送水管43のうち脱気部44の下流側の上側管壁43dが、処理槽(無酸素槽30)の最低水位LWLより低い高さに配置されていれば、送水管43のうち脱気部44の上流側の上側管壁43bが、好気槽30の最低水位LWLより高く、最高水位HWLより低い高さに配置されていてもよく、上流側の送水管43より高い位置に設置されていてもよい。
【0082】
また、図6(b)に示すように、送水管43のうち脱気部44の下流側の上側管壁43dが、処理槽(無酸素槽30)の最低水位LWLより低い高さに配置されていれば、送水管43のうち脱気部44の上流側の上側管壁43bが、好気槽30の最高水位HWLより高い位置に配置されていてもよい。また、脱気部44に傾斜面を必ずしも備えなくてもよい。さらに、脱気部44より上流側の送水管43の下側管壁43aと、下流側の送水管43の下側管壁43cが同じ高さに設定されていてもよい。
【0083】
送水管43のうち、脱気部44の下流側の断面積が脱気部44の上流側の断面積よりも小さくなるように構成されていることが好ましい。脱気部44の下流側を流れる被処理水の流速が、脱気部44の上流側を流れる被処理水の流速よりも大きな値になる。従って、脱気部の上流側では、比較的低い流速で流れる間に効率的に気泡を上昇させることができ、脱気部の下流側では、被処理水が返送管内を比較的高い流速で流れるために、流速計により正確に流速を計測することができるようになる。また、そのような比較的高い流速で返送された処理槽で、被処理水の攪拌効果も向上させることができる。
【0084】
また、送水管43のうち、脱気部44の下流側の断面積が脱気部44の上流側の断面積の0.5倍から2倍の範囲となるように構成されていることが好ましい。送水管のうち、脱気部の下流側の断面積が脱気部の上流側の断面積の0.5倍程度であれば、送水管を流れる被処理水の圧力損失もそれほど大きくならず、被処理水が返送管内を比較的高い流速で流れるために、流速計により正確に流速を計測することができる。また、比較的高い流速で処理槽の被処理水が返送され、処理槽内が局部的に大きく攪拌されることが好ましくない場合には、脱気部の下流側の断面積が脱気部の上流側の断面積の2倍程度に設定すれば、比較的緩やかに被処理水が処理用に返送されながらも、返送量の調整に困難を来たさない程度の精度で流速計により流速を計測することができるようになる。
【0085】
上述した実施形態では、第二領域32内の被処理水を無酸素槽20へ返送するエアリフトポンプ装置40と、無酸素槽20内の被処理水を嫌気槽10へ返送する送水路23を備えた構成について説明したが、送水路23に替えてエアリフトポンプ装置40によって、無酸素槽20の被処理水を嫌気槽10に返送するように構成してもよい。また、一台のエアリフトポンプ装置40で送水した第二領域32の被処理水を、無酸素槽20と嫌気槽10の夫々に所定量返送するように構成してもよい。流入量qに対し、好機槽30から無酸素槽20への返送水量は3q、無酸素槽20から嫌気槽10への返送水量はqとなるように設定することが処理効率の観点から好ましい。
【0086】
上述した実施形態では、エアリフトポンプ装置を矩形状の揚水管及び送水管で構成する場合について説明したが、揚水管及び送水管は、矩形状に限らず、丸管であってもよい。また、下部開口や、被処理水の吐出口の形状はベルマウス形状であってもよい。
【0087】
上述した実施形態では、エアリフトポンプ装置を構成する揚水管及び送水管の材質について明示しなかったが、本発明によるエアリフトポンプ装置が設置される処理槽の被処理水の性状によって、耐薬品、耐蝕性等を考慮して適当な材質のものを用いればよい。
【0088】
上述の実施形態では、本発明によるエアリフトポンプ装置が、膜分離装置を備えた膜分離式活性汚泥法を採用した汚泥処理設備の好機槽内の被処理水の一部を無酸素槽へ返送するように設置する構成について説明したが、無酸素槽内の被処理水の一部を嫌気槽へ返送するように設置してもよい。
【0089】
さらに、本発明によるエアリフトポンプ装置は、膜分離式活性汚泥法を採用した汚泥処理設備に備えられる場合に限らず、膜分離式活性汚泥法を採用しない硝化液循環活性汚泥法や生物循環式嫌気好気法を採用した汚泥処理設備、流量調整槽、汚水浄化槽等において隔壁を介して設置された一方の処理槽から他方の処理槽に被処理水を移送する場合のポンプ装置として適用することができ、さらには、移送対象である被処理水の種類や、移送元、移送先に限定はない。
【0090】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、当該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0091】
1:汚水処理設備
10:嫌気槽
11:隔壁
12:連通口
20:無酸素槽
21:隔壁
22:連通口
23:送水路
30:好気槽
31:第一領域
32:第二領域
34:分離壁
35:散気装置
36:膜分離装置
37:送水管
38:散気装置
39:引抜管
40:エアリフトポンプ装置
41:揚水管
41a:下部開口
42:散気装置
42a:散気部
43:送水管
43a:下側管壁
43b:上側管壁
43c:下側管壁
43d:上側管壁
44:脱気部
45:架台
46:曲管
47:段差部
47a:下側管壁
47b:上側管壁
50:流速計
51:制御装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽に立設配置された揚水管と、前記揚水管に気泡を放出して前記処理槽内の被処理水を揚水する散気装置と、前記揚水管と連通され、前記揚水管に揚水された被処理水を水平方向に移送するべく横設配置された送水管とを備えているエアリフトポンプ装置であって、
前記揚水管の上端高さが前記送水管が配置された領域における前記処理槽の最低水位以下の高さに設定され、前記揚水管に供給された気泡を大気開放する脱気部が前記送水管に設けられ、前記送水管のうち前記脱気部の下流側が前記処理槽の最低水位より低い高さに配置されるとともに、当該下流側に流速計が設置されているエアリフトポンプ装置。
【請求項2】
前記送水管のうち少なくとも前記脱気部の上流側が、前記処理槽の最高水位以下で最低水位以上の高さに配置されている請求項1記載のエアリフトポンプ装置。
【請求項3】
前記送水管に、前記脱気部の下流側の上側管壁が上流側の上側管壁より低くなるように段差部が形成されている請求項1または2記載のエアリフトポンプ装置。
【請求項4】
前記送水管のうち、前記脱気部の下流側の断面積が前記脱気部の上流側の断面積よりも小さくなるように構成されている請求項1から3の何れかに記載のエアリフトポンプ装置。
【請求項5】
前記送水管のうち、前記脱気部の下流側の断面積が前記脱気部の上流側の断面積の0.5倍から2倍の範囲となるように構成されている請求項1から3の何れかに記載のエアリフトポンプ装置。
【請求項6】
前記脱気部の下流側送水管の断面形状が矩形である請求項1から5の何れかに記載のエアリフトポンプ装置。
【請求項7】
前記流速計により検知された流速に基づいて前記散気装置からの気泡の供給量を調整する制御装置を備えている請求項1から6の何れかに記載のエアリフトポンプ装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載のエアリフトポンプ装置を備えた汚水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−2124(P2012−2124A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137144(P2010−137144)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】