説明

エポキシ樹脂組成物および半導体封止装置

【課題】 高融点半田浴浸漬後の耐湿性、半田耐熱性に優れ、封止樹脂と半導体チップあるいはリードフレームとの剥がれや内部樹脂クラックの発生がなく、長期信頼性を保証できるエポキシ樹脂組成物および半導体封止装置を提供する。
【解決手段】 (A)軟化温度が60〜90℃、重量平均分子量が1000以上で、メチロール基を有するフェノール樹脂であって、該フェノール樹脂単独で硬化させた成形品の抽出水電導度が100μs/cm以下である高純度フェノール樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化促進剤および(D)無機充填剤を必須成分とし、樹脂組成物全体に対して前記(D)無機質充填剤を25〜93重量%の割合で含有してなるエポキシ樹脂組成物であり、その樹脂組成物の硬化物によって半導体チップが封止された半導体封止装置である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐湿性、半田耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物およびその組成物によって半導体チップが封止された半導体封止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、半導体集積回路の分野において、チップの高集積化、高信頼性化の技術開発と同時に半導体装置の実装工程の自動化が推進されている。例えば、フラットパッケージ型の半導体装置を回路基板に取り付ける場合に、従来、リードピン毎に半田付けを行っていたが、最近では、半田浸漬方式や半田リフロー方式が採用されている。しかし、環境に対する影響から、鉛フリーの半田が検討されており、鉛フリーにすることで半田の融点が従来よりも20℃以上も高くなることから、封止樹脂の耐熱性に問題が生じている。
【0003】一般的なレゾール樹脂は、その高い耐熱性から様々な用途に使用されているが、イオン性不純物濃度が高い等、純度問題から半導体封止用の材料としては不向きであった。さらにその成形材料は、成形幅が狭い、保存安定性が悪いなどの欠点があった。
【0004】また、フェノール樹脂の分子量を上げることにより、樹脂の軟化温度が上がることで不純物除去が容易になり、高純度で保存安定性に優れた材料ができるが、市販のものでは分子量が大きくなり過ぎてしまい、硬化しづらくなるため、成形サイクルが長くなるという欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の欠点を解消するためになされたもので、特に半田浴浸漬後の耐湿性、半田耐熱性に優れ、封止樹脂と半導体チップ、あるいは封止樹脂とリードフレームとの剥がれや内部樹脂クラックの発生がなく、また電極の腐食による断線や水分によるリーク電流の発生もなく、長期信頼性を保証できるエポキシ樹脂組成物および半導体封止装置を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の目的を達成しようと鋭意研究を重ねた結果、特定のフェノール樹脂をエポキシ樹脂と硬化促進剤を用いて硬化させることよって、成形サイクル、耐湿性、半田耐熱性に優れた樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0007】即ち、本発明第1のエポキシ樹脂組成物は、(A)軟化温度が60〜90℃、重量平均分子量が1000以上で、フェノール核に関するオルソパラ3方向に縮合したメチレン結合を含むとともにメチロール基を有するフェノール樹脂であって、該フェノール樹脂単独で硬化させて得られる成形品の抽出水電導度が100μs/cm以下である高純度フェノール樹脂、(B)エポキシ樹脂および(C)硬化促進剤を必須成分とすることを特徴とし、また、本発明第2のエポキシ樹脂組成物は、上記第1のエポキシ樹脂組成物におけると同じ(A)〜(C)成分とともに(D)無機充填剤を必須成分とし、樹脂組成物全体に対して前記(D)無機質充填剤を25〜93重量%の割合で含有してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0008】そしてまた、本発明の半導体封止装置は、上記第1あるいは第2のエポキシ樹脂組成物の硬化物で、半導体チップが封止されてなることを特徴とするものである。
【0009】以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】本発明に用いる(A)成分の高純度フェノール樹脂は、軟化温度60〜90℃、重量平均分子量1000以上のものである、高純度フェノール樹脂の構造としては、フェノール核に関するオルソパラ3方向縮合したメチレン結合を含むとともに若干のメチロール基を有するフェノール樹脂であって、例えば下記の一般式化1で示されるものが代表的なものである。
【0011】
【化1】


また(A)高純度フェノール樹脂は、その樹脂単独で硬化させて得られる成形品の抽出水電導度が100μs/cm以下のものである。さらには、イオン性不純物濃度が低ければ、フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂、その他の一般公知のフェノール樹脂を併用することができる。
【0012】本発明で採用した抽出水電導度の測定は、硬化物を粉砕したサンプル5gに500mlのイオン交換水を加え、180℃2時間の条件で熱水抽出した抽出液について、電導度計で測定した。
【0013】本発明に用いる(B)エポキシ樹脂としては、(A)フェノール樹脂のフェノール性水酸基と反応し得るエポキシ基を分子中に2個以上有するものであればよい。また、このエポキシ樹脂には、一般公知のエポキシ樹脂を併用することができる。具体的な化合物として、例えば
【化2】


(但し、式中、nは0又は1以上整数を表す)
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


等が挙げられ、これらは単独又は2種以上併用することができる。
【0014】本発明に用いる(C)硬化促進剤としては、リン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、DBU系硬化促進剤、その他の硬化促進剤等が広く使用される。これらは単独又は2種以上併用することができる。硬化促進剤の配合割合は、樹脂組成物に対して0.01〜5重量%含有するように配合することが望ましい。その割合が0.01重量%未満では樹脂組成物のゲルタイムが長く、硬化特性も悪くなり、また、5重量%を超えると極端に流動性が悪くなって成形性に劣り、さらに電気特性も悪くなり耐湿性に劣り好ましくない。
【0015】本発明に用いる(D)無機質充填剤としては、一般に使用されているものが広く使用されるが、それらの中でも不純物濃度が低く、平均粒径30μm以下のシリカ粉末が好ましく使用することができる。平均粒径が30μmを超えると耐湿性および成形性が劣り好ましくない。無機質充填剤の配合割合は、全体の樹脂組成物に対して25〜93重量%の割合で含有することが望ましい。その割合が25重量%未満では、樹脂組成物の吸湿性が大きく、半田浸漬後の耐湿性に劣り、また、93重量%を超えると極端に流動性が悪くなり、成形性に劣り好ましくない。
【0016】本発明のエポキシ樹脂組成物は、前述した特定のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、無機質充填剤および硬化促進剤を必須成分とするが、本発明の目的に反しない限度において、また必要に応じて、例えば天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド類、エステル類、パラフィン類等の離型剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤、シランカップリング剤、ゴム系やシリコーン系の低応力付与剤等を適宜、添加配合することができる。
【0017】本発明のエポキシ樹脂組成物を成形材料として調製する場合の一般的な方法としては、前述した特定のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、無機質充填剤および硬化促進剤その他の成分を所定の組成比に選択した原料成分を配合し、ミキサー等によって十分均一に混合した後、さらに熱ロールによる溶融混合処理又はニーダ等による混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して成形材料とすることができる。こうして得られた成形材料は、半導体装置をはじめとする電子部品あるいは電気部品の封止、被覆、絶縁等に適用すれば、優れた特性と信頼性を付与させることができる。
【0018】本発明の半導体封止装置は、上述した成形材料を用いて、半導体チップを封止することにより容易に製造することができる。封止を行う半導体チップとしては、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード等で特に限定されるものではない。封止の最も一般的な方法としては、低圧トランスファー成形法があるが、射出成形、圧縮成形、注型等による封止も可能である。成形材料は封止の際に加熱して硬化させ、最終的にはこの硬化物によって封止された半導体封止装置が得られる。加熱による硬化は、150℃以上に加熱して硬化させることが望ましい。
【0019】
【作用】本発明のエポキシ樹脂組成物および半導体封止装置は、前述した特定のフェノール樹脂、エポキシ樹脂および硬化促進剤を用いたことによって、成形性に優れ、熱機械的特性が向上し、高融点半田浸漬、高融点半田リフロー後の樹脂クラックの発生がなくなり、耐湿性劣化が少なくなるものである。
【0020】
【実施例】次に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において「%」とは「重量%」を意味する。
【0021】実施例1高純度フェノール樹脂としてベルパールS99W(鐘紡株式会社製商品名、軟化温度70℃、抽出水電導度85μs/cm)を60%、前記化5のo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(軟化温度80℃)を37.2%、硬化促進剤として2MZ−A(四国化成社製、商品名)を1.0%、およびエステル系ワックス1.5%、カーボンブラック0.3%を常温で混合し、さらに85〜95℃で混練してこれを冷却、粉砕して成形材料(A)を製造した。
【0022】実施例2高純度フェノール樹脂としてベルパールS99W(鐘紡株式会社製商品名、軟化温度70℃、抽出水電導度85μs/cm)を12.0%、前記化4のテトラメチルビフェニルエポキシ樹脂を7.0%、硬化促進剤として2MZ−A(四国化成社製、商品名)を0.1%、エステル系ワックス0.3%、カーボンブラック0.3%、溶融シリカ80.0%、およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3%を常温で混合し、さらに85〜95℃で混練してこれを冷却、粉砕して成形材料(B)を製造した。
【0023】実施例3高純度フェノール樹脂としてベルパールS99W(鐘紡株式会社製商品名、軟化温度70℃、抽出水電導度85μs/cm)を12.0%、前記化3のビフェニルエポキシ樹脂2.0%、前記化4のテトラメチルビフェニルエポキシ樹脂を5.0%、硬化促進剤として2MZ−A(四国化成社製、商品名)を0.1%、エステル系ワックス0.3%、カーボンブラック0.3%、溶融シリカ80%、およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3%を常温で混合し、さらに85〜95℃で混練してこれを冷却、粉砕して成形材料(C)を製造した。
【0024】比較例1高純度フェノール樹脂としてベルパールS99W(鐘紡株式会社製商品名、軟化温度70℃、抽出水電導度85μs/cm)を98.2%、エステル系ワックス1.5%、カーボンブラック0.3%を常温で混合し、さらに85〜95℃で混練してこれを冷却、粉砕して成形材料(D)を製造した。
【0025】比較例2レゾール樹脂(抽出水電導度550μs/cm)を98.2%、エステル系ワックス1.5%、カーボンブラック0.3%を常温で混合し、さらに85〜95℃で混練してこれを冷却、粉砕して成形材料(E)を製造した。
【0026】比較例3フェノール樹脂ノボラック樹脂(軟化温度80℃、抽出水電導度200μs/cm)を6.0%、前記化6の多官能型エポキシ樹脂13.0%、硬化促進剤として2MZ−A(四国化成社製、商品名)を0.1%、エステル系ワックス0.3%、カーボンブラック0.3%、溶融シリカ80%、およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3%を常温で混合し、さらに85〜95℃で混練してこれを冷却、粉砕して成形材料(F)を製造した。
【0027】こうして製造した成形材料(A)〜(F)を用いて、170℃に加熱した金型内にトランスファー注入し、硬化させて半導体チップを封止して半導体封止装置を製造した。これらの半導体封止装置について、諸試験を行ったのでその結果を表1に示したが、本発明のエポキシ樹脂組成物及び半導体封止装置は、耐湿性、半田耐熱性に優れており、本発明の顕著な効果を確認することができた。
【0028】
【表1】


*1:180℃の熱板上に1gの成形材料を載せ、ゲル化するまでの時間を測定した。
【0029】*2:JIS−K−6911に準じて試験した。
【0030】*3:アルミニウム配線を有する8×8mmシリコン製チップをQFP(14×14×1.4mm)パッケージに納め、成形材料を用いて、175℃で2分間トランスファー成形した後、175℃で8時間の後硬化を行った。こうして製造した半導体封止装置を85℃,60%,24時間の吸湿処理をした後、IRリフローマシーン(Max240℃)に通し、外部樹脂クラック、パッケージフクレの有無を評価した。(従来のリフロー条件)。
【0031】*4:*3と同様の試験で、IRリフローマシーンのMax温度を280℃とした。(高融点半田リフロー条件)
*5:*4の試験の良品サンプルを用いて、127℃,2.5気圧の飽和水蒸気中で耐湿試験を行い、アルミニウム腐食による50%断線(不良発生)の起こる時間を評価した。
【0032】
【発明の効果】以上の説明及び表1から明らかなように、本発明のエポキシ樹脂組成物及び半導体封止装置は、耐湿性、高融点半田による半田耐熱性に優れ、成形サイクルをおとすことなく、電極の腐食による断線や水分によるリーク電流の発生等を著しく低減することができ、しかも長時間にわたって信頼性を保証することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)軟化温度が60〜90℃、重量平均分子量が1000以上で、フェノール核に関するオルソパラ3方向に縮合したメチレン結合を含むとともにメチロール基を有するフェノール樹脂であって、該フェノール樹脂単独で硬化させて得られる成形品の抽出水電導度が100μs/cm以下である高純度フェノール樹脂、(B)エポキシ樹脂および(C)硬化促進剤を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 (A)軟化温度が60〜90℃、重量平均分子量が1000以上で、フェノール核に関するオルソパラ3方向に縮合したメチレン結合を含むとともにメチロール基を有するフェノール樹脂であって、該フェノール樹脂単独で硬化させて得られる成形品の抽出水電導度が100μs/cm以下である高純度フェノール樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化促進剤および(D)無機充填剤を必須成分とし、樹脂組成物全体に対して前記(D)無機質充填剤を25〜93重量%の割合で含有してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1または請求項2に記載したエポキシ樹脂組成物の硬化物によって、半導体チップが封止されてなることを特徴とする半導体封止装置。

【公開番号】特開2000−336150(P2000−336150A)
【公開日】平成12年12月5日(2000.12.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−149374
【出願日】平成11年5月28日(1999.5.28)
【出願人】(390022415)東芝ケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】