説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】耐衝撃性に優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、エポキシ樹脂(A)と、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートがε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックされ、前記ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAが含まれているウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)と、を含むエポキシ樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れ、自動車、車両用などの構造用接着剤として用いることができるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物は作業性及びその硬化物の優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性(耐水性)、成形性等に優れている。そのため、従来より、エポキシ樹脂組成物は、電気・電子部品、自動車部品、電気機器、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;FRP)、スポーツ用品、構造用材料、塗料等の分野において様々な異なる基板を結合するための接着剤として広く使用されている。
【0003】
このような接着剤に関連するものとして、例えば、エポキシ樹脂と、ブロックイソシアネートを一部に含むウレタン変性エポキシ樹脂と、液状ゴムと、硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。エポキシ樹脂組成物を高温で加熱することで、ウレタン変性エポキシ樹脂はブロックイソシアネート基の一部が解離して水酸基と反応して水酸基を含有する化合物となり、これがエポキシ樹脂の水酸基と反応して結合することで、自動車用などの構造用接着剤として剪断接着性および剥離強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−148337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物は脆いため密着性や耐衝撃性に劣るという、という問題があった。そのため、特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は衝撃を受けたときに簡単に破壊してしまう。
【0006】
上記のエポキシ樹脂組成物において、これらを補うべく、柔軟成分としてウレタン樹脂やゴムなどのエラストマーを添加する方法もあるが、十分な耐衝撃性を得られるものは少なく、構造用接着剤として接着性を維持しつつ耐衝撃性に優れたエポキシ樹脂組成物は見出されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、耐衝撃性に優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次に示す(1)〜(5)である。
(1) エポキシ樹脂(A)と、
ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートがε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックされ、前記ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAが含まれているウレタン樹脂(B)と、
硬化剤(C)と、
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
(2) 前記ウレタン樹脂(B)が、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートポリオールから選ばれる1種またはそれ以上のポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる1種またはそれ以上のイソシアネート化合物とを反応させて得られることを特徴とする上記(1)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(3) 前記ビスフェノールAの含有量は、前記ポリオールの水酸基のモル数とビスフェノールAの水酸基のモル数とのモル比([ポリオール−OH]/[BisA−OH])が1/0.1以上1/3.0以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(4) 前記ウレタン樹脂(B)の含有量が、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して10質量部以上80質量部以下であることを特徴とする上記(1)から(3)の何れか1つに記載のエポキシ樹脂組成物。
(5) ゴム変性エポキシ樹脂(D)を含むことを特徴とする上記(1)から(4)の何れか1つに記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐衝撃性に優れた硬化物を得ることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明について詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0011】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物(以下、「本実施形態に係る組成物」という。)は、エポキシ樹脂(A)と、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートがε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックされ、前記ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAが含まれているウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)と、を含む。
【0012】
<エポキシ樹脂(A)>
エポキシ樹脂(A)は、分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず使用することができる。エポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型のような多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンのようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm−クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)等を挙げることができる。エポキシ樹脂(A)は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
エポキシ樹脂(A)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂およびウレタン変性エポキシ樹脂からなる群から選ばれるのが好ましい。硬化後の貯蔵弾性率が−20℃で1.0GPa以下、かつ80℃で0.2〜0.7GPaとなる組成である組成物を得やすいからである。
【0014】
(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が180g/eq〜300g/eqの範囲内であるものが好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ジャパンエポキシレジン社製jERシリーズ(827、828、834等)、DIC社製エピクロンシリーズ(840、850等)、ADEKA社製アデカレジンEP−4100シリーズ等から適宜選択して使用することができる。
【0015】
(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が150g/eq〜200g/eqの範囲内であるものが好ましい。ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ジャパンエポキシレジン社製jERシリーズ(806、807等)、DIC社製エピクロンシリーズ(830、835等)、ADEKA社製アデカレジンEP−4900シリーズ等から適宜選択して使用することができる。
【0016】
(ウレタン変性エポキシ樹脂)
ウレタン変性エポキシ樹脂は、分子中にウレタン結合と2個以上のエポキシ基とを有する樹脂であれば、その構造として特に限定されるものではない。ウレタン変性エポキシ樹脂は、1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。ウレタン変性エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、三井化学社製エポギーシリーズ(803、802−30CX、820−40CX、834等)、ADEKA社製アデカレジンEPUシリーズ等から適宜選択して使用することができる。
【0017】
(ゴム変性エポキシ樹脂(D))
ゴム変性エポキシ樹脂(D)は、分子内にエポキシ基を2個以上有し、骨格がゴムであるエポキシ樹脂であれば特に制限されない。骨格を形成するゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、両末端にカルボキシル基を有するブタジエン−アクリロニトリルゴム(カルボキシル基末端ポリブタジエン−アクリロニトリルゴム(carboxyl-terminated butadiene-nitrile:CTBN))、両末端にアミノ基を有するブタジエン−アクリロニトリルゴム(アミノ基末端ポリブタジエン−アクリロニトリルゴム(amino-terminated butadiene nitrile rubber:ATBN))、両末端にカルボキシル基およびアミノ基を有するブタジエン−アクリロニトリルゴム(カルボキシル末端及びアミノ基末端ポリブタジエン−アクリロニトリルゴム)などが挙げられる。ゴム変性エポキシ樹脂(D)は、1種類を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。ゴム変性エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ADEKA社製EPRシリーズ等から適宜選択して使用することができる。
【0018】
ゴム変性エポキシ樹脂(D)は、エポキシ当量が200g/eq〜500g/eqであるのが好ましい。
【0019】
ゴム変性エポキシ樹脂(D)はその製造について特に制限されない。例えば、多量のエポキシ中でゴムとエポキシとを反応させて製造することができる。ゴム変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるエポキシ(例えば、エポキシ樹脂)は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0020】
なお、本実施形態において、ゴム変性エポキシ樹脂(D)のエポキシ当量およびその添加量は製造時に用いる過剰のエポキシ樹脂が含まれるため“そのエポキシを含んだゴム変性エポキシ樹脂”としての量を示すものとする。
【0021】
本実施形態においては、エポキシ樹脂(A)の他に、ゴム変性エポキシ樹脂(D)を含むことが好ましい。ゴム変性エポキシ樹脂(D)は、油成分と馴染みやすい性質を有する。本実施形態に係る組成物を油面を有する鋼板等に用いる場合、ウレタン樹脂(B)は極性が高い成分であるため、本実施形態に係る組成物は油面を有する鋼板等に対して接着性が低下する。そこで、本実施形態に係る組成物はエポキシ樹脂(A)の他にゴム変性エポキシ樹脂(D)を含むことで、油面を有する鋼板等に対して安定した接着性を維持することができる。
【0022】
<ウレタン樹脂(B)>
ウレタン樹脂(B)は、ウレタンプレポリマーと、ビスフェノールAとを含む樹脂である。ウレタン樹脂(B)は、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートがε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックされ、前記ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAが含まれている樹脂である。
【0023】
[ウレタンプレポリマー]
ウレタン樹脂(B)に用いられるウレタンプレポリマーは、従来公知のものを用いることができる。ウレタンプレポリマーは、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを、ポリオール化合物の水酸基(OH基)に対してポリイソシアネート化合物のイソシアネート基(NCO基)が過剰となるように反応させることにより得られる反応生成物である。また、上記ウレタンプレポリマーは、0.5質量%以上10質量%以下のNCO基を分子末端に含有するのが好ましい。
【0024】
(ポリオール化合物)
ウレタンプレポリマーの製造の際に使用されるポリオール化合物は、水酸基を2個以上有するものであれば特に限定されない。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、その他のポリオール、およびこれらの混合ポリオール等が挙げられる。
【0025】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4′−ジヒドロキシフェニルメタンおよびペンタエリスリトール等から選択される多価アルコールの少なくとも1種に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキサイドおよびポリオキシテトラメチレンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種を付加させて得られるポリエーテルポリオール;ポリオキシテトラメチレンオキサイド等が挙げられる。上記ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール等が挙げられる。
【0026】
ポリカーボネートポリオールは、カーボネート結合(−O−CO−O−)と2個以上のヒドロキシ基とを有するものであれば特に限定されない。例えば、ジアルキルカーボネートのアルコキシ基と、ポリオール化合物のヒドロキシ基から水素原子を除いた基とのエステル交換反応により得られうるものが挙げられる。
【0027】
ポリカーボネートポリオールの製造方法は、特に限定されるものではなく。例えば、従来公知の方法に従って行うことができる。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、HO〔(CH26−O−C(=O)−O〕(CH26−OH(mは、2〜50の整数である。)が挙げられる。具体的には、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオールのような炭素数2〜10の鎖状脂肪族炭化水素化合物のジオール体から得られうるポリカーボネートポリオール、シクロヘキサンジオールのような炭素数3〜10の脂環式炭化水素化合物のジオール体から得られうるポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。中でも、密着性、ぬれ性、原料の入手のしやすさの観点から、炭素数2〜10の脂肪族炭化水素化合物のジオール体から誘導されるポリカーボネートポリオールであるのが好ましい。また、ポリカーボネートポリオールは、密着性、ぬれ性の観点から、その重量平均分子量が1000以上であるのが好ましい。ポリカーボネートポリオールは、密着性、ぬれ性の観点から、炭素数6以上の鎖状脂肪族炭化水素化合物のジオール体から誘導され、分子量が1000以上のものであるのがより好ましい。ポリカーボネートポリオールは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
ポリエステルポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、およびその他の低分子ポリオールからなる群から選択される少なくとも1種と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸またはその他の低分子カルボン酸やオリゴマー酸からなる群から選択される少なくとも1種との縮合重合体;プロピオンラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンなどの開環重合体;等が挙げられる。
【0029】
その他のポリオールとしては、具体的には、例えば、ポリマーポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール等;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のような低分子量のポリオール;等が挙げられる。
【0030】
上述したポリオールの中でも、ガラス転移温度、硬化後の物性の点から、数平均分子量1000〜15000、特に1000〜10000のポリエーテルポリオールが好ましい。
【0031】
このようなポリオール化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、特に、ポリテトラメチレングリコールやポリカーボネートポリオールが好ましい。ポリテトラメチレングリコールやポリカーボネートポリオールは、エポキシ樹脂(A)に対する相溶性を良好にすることができ、このウレタンプレポリマーを用いて得られる本実施形態に係る組成物からなる硬化物は高い強度および伸びを有することができる。
【0032】
(ポリイソシアネート化合物)
ウレタンプレポリマーを製造する際に使用されるポリイソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されない。
【0033】
ポリイソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、TDI(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI))、MDI(例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4′−MDI)、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4′−MDI))、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネートこれらの水素添加化合物;エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)のような脂肪族ポリイソシアネート;トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)等のような脂環式ポリイソシアネート;これらのカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネート;キシリレンジイソシアネート等のアリール脂肪族ポリイソシアネートおよびこれらの水素添加化合物;等が挙げられる。このようなポリイソシアネート化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
これらのうち、特に、ポリイソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0035】
ウレタン樹脂(B)に用いられるウレタンプレポリマーは、上述したポリオール化合物と過剰のポリイソシアネート化合物とを反応させて製造することができる。ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との混合比は、ポリオール化合物中のヒドロキシ基に対するポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)が、1.2〜2.5であるのが好ましく、1.5〜2.0であるのがより好ましい。この範囲であれば、ウレタンプレポリマーの粘度および硬化物の物性が適当な範囲になる。また、上記ウレタンプレポリマーの製造は、通常のウレタンプレポリマーと同様の方法で行うことができる。例えば、上述した混合比のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを、50℃〜100℃で加熱撹拌することによってウレタンプレポリマーを得ることができる。また、必要に応じて、有機スズ化合物、有機ビスマス、アミン等のウレタン化触媒を用いることもできる。
【0036】
本実施形態においては、ウレタン樹脂(B)は、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートポリオールから選ばれる1種またはそれ以上のポリオール化合物と、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる1種またはそれ以上のイソシアネート化合物とを反応させて得られるものであることが好ましい。
【0037】
また、ウレタンプレポリマーを製造する際のポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との量は、NCO基/OH基(当量比)が、1.2〜2.5となるのが好ましく、1.5〜2.0となるのがより好ましい。当量比がこのような範囲である場合、得られるウレタンプレポリマーの粘度が適当となり、ウレタンプレポリマー中の未反応のポリイソシアネート化合物の残存量を低減することができる。
【0038】
ウレタンプレポリマーの製造方法は特に限定されず、例えば、上述の当量比のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを、50℃〜130℃で加熱攪拌することによって製造することができる。また、必要に応じて、例えば、有機錫化合物、有機ビスマス、アミンのようなウレタン化触媒を用いることができる。
【0039】
このようなウレタンプレポリマーは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
上記ウレタンプレポリマーの平均官能価(イソシアネート基数)は、1分子当たり2.2〜3.0が好ましく、2.4〜2.8がより好ましく、質量%の割合にすると0.4%以上が好ましく、0.5%以上であることがより好ましい。上記ウレタンプレポリマーの質量平均分子量は2000〜1000000が好ましく、2000〜70000がより好ましい。この範囲であると、得られる本発明の組成物の粘度、接着性、硬化後の特性(例えば、硬度、モジュラス)に優れる。
【0041】
ウレタン樹脂(B)では、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートが、ε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つをブロック剤として用いてブロックされている。ブロック剤としては、ε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の中でもε−ポリカプロラクタムが好ましい。
【0042】
ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートが、ε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つのブロック剤を用いてブロックしておくことで、組成物を硬化させる際、ブロック剤が外れてイソシアネートがエポキシ樹脂(A)や硬化剤に組み込まれて架橋する。
【0043】
本実施形態においては、ウレタン樹脂(B)のビスフェノールAの含有量は、ポリオール化合物の水酸基のモル数とビスフェノールAの水酸基のモル数とのモル比([ポリオール−OH]/[BisA−OH])が1/0.1以上1/3.0以下であることが好ましく、1/0.5以上1/2.5以下であることがより好ましく、1/1.0以上1/2.0以下であることがさらに好ましい。ビスフェノールAの含有量が少ないと、エポキシ樹脂(A)とのなじみが悪くなり、本実施形態に係る組成物から得られる硬化物は脆くなり易い。ビスフェノールAの含有量が多すぎると、ε−ポリカプロラクタムなどのブロック剤の量が多くなってしまい、加熱によりブロック剤が外れなかったり、またブロック剤が組成物中に残存してしまうため十分な強度が得られず物性が低下してしまう。そこで、ウレタン樹脂(B)のビスフェノールAの含有量を上記範囲内とすることで、エポキシ樹脂(A)との相溶性を良好にすることができ、本実施形態に係る組成物から得られる硬化物の強度を維持することができると共に、耐衝撃性を向上させることができる。また、メッキを施した鋼板等に対しても安定して耐衝撃性を維持することができる。
【0044】
ウレタン樹脂(B)は、エポキシ樹脂(A)100質量部に対し、10質量部以上80質量部以下含むのが好ましく、より好ましくは30質量部以上70質量部以下であり、更に好ましくは40質量部以上70質量部以下である。ウレタン樹脂(B)の含有量を上記範囲内とすることで、ウレタン樹脂(B)のよる効果を維持することができる。
【0045】
<硬化剤(C)>
本発明の組成物に含有される硬化剤(C)は、特に限定されず、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものを用いることができる。硬化剤としては、例えばジシアンジアミド、4,4−ジアミノジフェニルスルホン、2−n−ヘプタデシルイミダゾールのようなイミダゾール誘導体、イソフタル酸ジヒドラジド、N,N−ジアルキル尿素誘導体、N,N−ジアルキルチオ尿素誘導体、テトラヒドロ無水フタル酸のような酸無水物、イソホロンジアミン、m−フェニレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、メラミン、グアナミン、三フッ化ホウ素錯化合物、トリスジメチルアミノメチルフェノール、ポリチオールなどを用いることができる。
【0046】
ポリチオールはメルカプト基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。メルカプト基を2個有するチオールとしては、例えば、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオールのようなアルキレンジチオール;ベンゼンジチオール、トルエン−3,4−ジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、4,4′−チオビスベンゼンチオールのような芳香族ジチオール;ベンゼンジメタンチオールのような芳香族を有する炭化水素化合物のジチオール;2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンのような複素環化合物;2−メルカプト−3−チアヘキサン−1,6−ジチオール、5,5−ビス(メルカプトメチル)−3,7−ジチアノナン−1,9−ジチオール、5−(2−メルカプトエチル)−3,7−ジチアノナン−1,9−ジチオールのようなチア化合物;ジメルカプトプロパノール、ジチオエリトリトールのようなヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0047】
メルカプト基を3個以上有するチオールとしては、例えば、トリチオグリセリン、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(トリメルカプト−トリアジン)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、2,4,6−トリス(メルカプトメチル)メシチレン、トリス(メルカプトメチル)イソシアヌレート、トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレート、2,4,5−トリス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオランのようなトリチオール;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトメチル)ベンゼン、テトラメルカプトブタン、ペンタエリトリチオールのようなテトラチオールが挙げられる。
【0048】
ポリチオールとして、例えば、ポリエーテル(例えば、ポリオキシプロピレングリコール)の末端にメルカプト基を導入したポリチオール(例えば、東レ・ファインケミカル社製「QE−340M」)が挙げられる。
【0049】
硬化剤(C)はこれらの中の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
硬化剤(C)の本発明の組成物中における含有量は特に限定されず、最適な量は硬化剤の種類によって異なる。例えば従来公知である各硬化剤ごとの最適量を好ましく用いることができる。この最適量は、例えば「総説 エポキシ樹脂 基礎編」(エポキシ樹脂技術協会、2003年発行)の第3章に記載されている。
【0051】
このように、本実施形態に係る組成物は、エポキシ樹脂(A)と、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートがε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックされ、前記ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAが含まれているウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含むエポキシ樹脂組成物である。ウレタンプレポリマーの末端のイソシアネート基をε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックし、ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAを含めることにより、本実施形態に係る組成物から得られる硬化物の強度を維持することができると共に、十分な伸びを付与することができ、メッキを施していない鋼板、メッキした鋼板等に対して安定して耐衝撃性を向上させることができる。
【0052】
本実施形態に係る組成物は、上述したエポキシ樹脂(A)、ウレタン樹脂(B)、および硬化剤(C)の他に、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、充填剤、反応性希釈剤、硬化触媒、チクソトロピー性付与剤、シランカップリング剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、乾性油、接着性付与剤、分散剤、脱水剤、紫外線吸収剤、溶剤などが挙げられる。これらの中の2種類以上を含有してもよい。
【0053】
本実施形態に係る組成物の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えばエポキシ樹脂(A)、ウレタン樹脂(B)、および硬化剤(C)および必要に応じて硬化促進剤等のその他の成分を、室温で均質に混合することで得ることができる。
【0054】
本実施形態に係る組成物は耐衝撃性に優れることから、本実施形態に係る組成物は構造用接着剤として好ましく用いることができる。ここで「構造用接着剤」とは、長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤(JIS K6800)である。例えば、自動車や車両(新幹線、電車)、土木、建築、エレクトロニクス、航空機、宇宙産業分野の構造部材の接着剤として用いることができる。本実施形態に係る組成物は、特に自動車や車両(新幹線、電車)などの自動車構造用接着剤や車両構造用接着剤として好適に用いることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る組成物は構造用接着剤のほかに一般事務用、医療用、炭素繊維、電子材料用などの接着剤としても用いることができる。電子材料用の接着剤としては、ビルドアップ基板等の多層基板の層間接着剤、光学部品接合用接着剤、光ディスク貼り合わせ用接着剤、プリント配線板実装用接着剤、ダイボンディング接着剤、アンダーフィル等の半導体用接着剤、BGA補強用アンダーフィル、異方性導電性フィルム(ACF)、異方性導電性ペースト(ACP)等の実装用接着剤等が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態に係る組成物は接着剤として用いる他に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用される一般用途向けの物品にも用いることができる。例えば、塗料、コーティング剤、成形材料(シート、フィルム、FRP等を含む)、絶縁材料(プリント基板、電線被覆等を含む)、封止剤、フラットパネルディスプレー用シール剤、繊維の結束剤等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0058】
<ウレタン樹脂(B)1〜(B)9の作製>
[ウレタン樹脂(B)1([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/2.5、ブロック剤:ε−カプロラクタム)の作製]
ポリテトラメチレングリコール(PTMG−2000、三菱化学社製)100質量部と、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(東京化成社製)31.1質量部と、トリメチロールプロパン(東京化成社製)0.45質量部とを、減圧下で110℃で5時間脱水した。その後、60℃まで冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート(50M−HDI、旭化成ケミカルズ社製)を48.3質量部と、ジブチルシンジラウレート(東京化成社製)を5ppm添加し、窒素雰囲気下で90℃、3時間反応させた。反応後60℃まで冷却し、ブロック剤としてε−カプロラクタム(東京化成社製)21.7質量部を添加、90℃で1時間反応させた。反応後FT−IR測定を行ったところ、イソシアネート基に帰属される2265cm-1のピークは観察されなかった。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/2.5であるウレタン樹脂(B)1を得た。
【0059】
[ウレタン樹脂(B)2([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/2.0、ブロック剤:ε−カプロラクタム)の作製]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを23.3質量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートを39.7質量部に、ε−カプロラクタムを17.8質量部に変更したこと以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/2.0であるウレタン樹脂(B)2を得た。
【0060】
[ウレタン樹脂(B)3([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/1.5、ブロック剤:ε−カプロラクタム)の作製]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを17.4質量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートを33.3質量部に、ε−カプロラクタムを15.0質量部に変更したこと以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/1.5であるウレタン樹脂(B)3を得た。
【0061】
[ウレタン樹脂(B)4([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/1.0、ブロック剤:ε−カプロラクタム)の作製]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを11.7質量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートを27.0質量部に、ε−カプロラクタムを12.1質量部に変更したこと以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/1.0であるウレタン樹脂(B)4を得た。
【0062】
[ウレタン樹脂(B)5([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/0.5、ブロック剤:ε−カプロラクタム)の作製]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを5.8質量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートを20.5質量部に、ε−カプロラクタムを9.2質量部に変更したこと以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/0.5であるウレタン樹脂(B)5を得た。
【0063】
[ウレタン樹脂(B)6:[ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/2.5、ブロック剤:メチルエチルケトオキシム)の作製]
ブロック剤として、ε−カプロラクタムに代えてメチルエチルケトオキシム(東京化成社製)16.7質量部に変更した以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/2.5であるウレタン樹脂(B)6を得た。
【0064】
[ウレタン樹脂(B)7([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/1.5、ブロック剤:3,5−ジメチルピラゾール)の作製]
ポリテトラメチレングリコール(PTMG−2000,三菱化学社製)100質量部、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(東京化成社製)17.5質量部とを、減圧下で110℃で5時間脱水した。その後、60℃まで冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート(50M−HDI、旭化成ケミカルズ社製)27.8質量部、ジブチルシンジラウレート(東京化成社製)を5ppm添加し、窒素雰囲気下で90℃、3時間反応させた。反応後60℃まで冷却し、ブロック剤として3,5−ジメチルピラゾール(東京化成社製)16.7質量部を添加し、90℃で1時間反応させた。反応後FT−IR測定を行ったところ、イソシアネート基に帰属される2265cm-1のピークは観察されなかった。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/1.5であるウレタン樹脂(B)7を得た。
【0065】
[ウレタン樹脂(B)8([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/2.5、ブロック剤:メタノール)の作製]
ブロック剤として、ε−カプロラクタムに代えてメタノール(関東化学社製)6.1質量部に変更したこと以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/2.5であるウレタン樹脂(B)8を得た。
【0066】
[ウレタン樹脂(B)9([ポリオール−OH]/[BisA−OH]=1/0、ブロック剤:ε−カプロラクタム)の作製]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを添加せず、ヘキサメチレンジイソシアネートを12.8質量部に、ε−カプロラクタムを5.75質量部に変更したこと以外は、上記のウレタン樹脂(B)1を作製する場合と同様に合成した。これにより、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]比が1/0であるウレタン樹脂(B)9を得た。
【0067】
ウレタン樹脂(B)1〜(B)9の各々の[ポリオール−OH]/[BisA−OH]と、ウレタンプレポリマーの末端のイソシアネートをブロックするために用いたブロック剤を表1に示す。
【0068】
<ゴム変性エポキシ樹脂(D)の合成>
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(商品名:「EP4100E」、ADEKA社製)100質量部、Hycar1300×13(PITジャパン社製)50質量部、触媒としてトリフェニルホスフィン(東京化成社製)1質量部を、110℃で2時間反応させて、ゴム変性エポキシ樹脂(D)を得た。
【0069】
<エポキシ樹脂組成物の作製>
表1に示す各成分を同表に示す添加量(質量部)で配合し、これらを均一に混合して、表1に示される各組成物を調製した。各々の実施例、比較例における各成分の添加量(質量部)を表1に示す。
【0070】
<耐衝撃性の評価>
上記のようにして得られたエポキシ樹脂組成物を、減圧下で5分間攪拌した。非メッキ鋼板(鋼板)、亜鉛溶融メッキ鋼板を被着体とし、エポキシ樹脂組成物を被着体の表面に接着剤の厚さが0.15mm程度となるように塗布した後、170℃で20分間、接着剤を硬化させ、試験片を得た。衝撃剥離強度の試験は、ISO 11343のくさび衝撃法にしたがって、衝撃剥離強度(N/mm)を測定した。被着体は0.8mm×25mm×100mmのものを用いた。衝撃剥離強度の試験結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1に示されるウレタン樹脂(B)1〜(B)9、ゴム変性エポキシ樹脂(D)以外の各成分は、以下のとおりである。
・エポキシ樹脂(A):半固形のエポキシ樹脂(商品名:「JER834」、ジャパンエポキシレジン社製)
・硬化剤(C):ジシアンジアミド(商品名:「DICY15」、ジャパンエポキシレジン社製)
・硬化促進剤:3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレア(「DCMU」、保土谷化学工業社製)
・揺変性付与剤:アエロジル(「RY−200S」、日本アエロジル社製(全樹脂分に対して3質量部添加))
・接着性付与剤:エポキシシラン(「KBM−403」、信越化学社製(全樹脂分に対して1質量部添加))
【0073】
表1に示す結果から明らかなように、比較例1〜3は鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても耐衝撃性を測定することはできなかった。比較例1は、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートをε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックし、ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAを含むウレタン樹脂(B)を樹脂組成物の成分として含んでいないため、樹脂組成物を硬化させても耐衝撃性が十分な硬化物が得られないといえる。比較例2は、エポキシ樹脂(A)のブロック剤としてメタノールを用いているが、メタノールは樹脂組成物を加熱してもウレタンプレポリマー末端のイソシアネートから外れない。そのため、樹脂組成物を硬化させてもウレタン樹脂(B)がエポキシ樹脂(A)中に組み込まれずそのまま独立して残ってしまうので、非常に脆い硬化物となる。これにより、耐衝撃性が十分得られないといえる。比較例3は、ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAを含まないウレタン樹脂(B)を樹脂組成物の成分として含んでいるため、樹脂組成物を硬化させると、得られる硬化物は常温でゴム状態となり非常に柔らかくなる。そのため、得られる硬化物は、強度が低く脆い硬化物となるので、耐衝撃性が十分な硬化物が得られないといえる。
【0074】
これに対し、実施例1〜11は、鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても耐衝撃性を有していた。実施例1〜3を比較すると、実施例3は、実施例1、2より鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が高く、耐衝撃性に優れる。これは、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートをε−ポリカプロラクタムでブロックし、ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAを含むウレタン樹脂(B)の含有量を増大させることで、樹脂組成物を硬化させる際に、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートをブロックしていたε−ポリカプロラクタムが外れる量が増大することで、イソシアネートがエポキシ樹脂(A)と反応する反応量を増大させることができると考えられる。そのため、実施例3のほうが実施例1、2より被着体に対する衝撃剥離強度が高くなったといえる。
【0075】
実施例2、4、5を比較すると、鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が高く、安定した耐衝撃性を有する。これは、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]を所定の範囲内とすることで、硬化物の耐衝撃性を安定して高められるといえる。
【0076】
実施例2、6を比較すると、実施例2の方が実施例6より鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が高く、安定した耐衝撃性を有していた。これは、ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートをキャップするブロック剤としてε−ポリカプロラクタムの方がメチルエチルケトオキシムより好ましいといえる。
【0077】
実施例7、8を比較すると、いずれも鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が高く、安定した耐衝撃性を有する。これは、更にゴム変性エポキシ樹脂(D)を含めても、衝撃剥離強度が高く、安定した耐衝撃性を有するといえる。また、実施例7、9、10を比較しても、いずれも鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が高く、安定した耐衝撃性を有していた。これは、更にゴム変性エポキシ樹脂(D)を含めても、[ポリオール−OH]/[BisA−OH]を所定の範囲内とすることで、硬化物の耐衝撃性を安定して高められるといえる。さらに、実施例11より、ブロック剤として3,5−ジメチルピラゾールを用いても鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が高く、安定した耐衝撃性を有していた。特に鋼板に対しては衝撃剥離強度が高くなった。これは、ε−ポリカプロラクタムに変えて3,5−ジメチルピラゾールを用いてもブロック剤として好適に用いることができるといえる。
【0078】
よって、本発明のエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は、鋼板、合金化亜鉛溶融メッキ鋼板のいずれの被着体に対しても衝撃剥離強度が安定して高められ、耐衝撃性に優れることが分かった。さらに、メッキした鋼板のように、自動車や車両の構造部材のような塗装板に対しても安定して高い耐衝撃性を有する。従って、本発明のエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は、安定して優れた耐衝撃性を有することから、信頼性の高い接着剤、特に構造用接着剤を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、
ウレタンプレポリマー末端のイソシアネートがε−ポリカプロラクタム、オキシム類、ピラゾール類の少なくとも1つでブロックされ、前記ウレタンプレポリマーの骨格にビスフェノールAが含まれているウレタン樹脂(B)と、
硬化剤(C)と、
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂(B)が、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートポリオールから選ばれる1種またはそれ以上のポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる1種またはそれ以上のイソシアネート化合物とを反応させて得られることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビスフェノールAの含有量は、前前記ポリオールの水酸基のモル数とビスフェノールAの水酸基のモル数とのモル比([ポリオール−OH]/[BisA−OH])が1/0.1以上1/3.0以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂(B)の含有量が、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して10質量部以上80質量部以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
ゴム変性エポキシ樹脂(D)を含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−219222(P2012−219222A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88470(P2011−88470)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】