説明

エリアニン塩及びその調製方法、並びにそれを含む薬物組成物

【課題】良好な抗腫瘍活性を有し、エリアニンよりも良好な水溶性を有することで、製剤に便利で、且つ、生体内でのさらに高い利用度を有するエリアニンの塩を提供する。
【解決手段】本発明は、下記の一般式(I)を有する化合物であるエリアニン塩及びその調製方法に係り、このうちRは無機酸素酸又は有機酸の一価酸基と、金属、アンモニウム塩又は有機アミンとにより生成される塩である。本発明はさらに、エリアニン塩を含む薬物組成物に係る。エリアニンと比べ、前記エリアニン塩の溶解度は大幅に向上しており、生体利用度を向上させることにより抗腫瘍作用をより良好に発揮させることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリアニン塩及びその調製方法に係る。本発明はさらに、このタイプの化合物を含む薬物組成物に係る。
【背景技術】
【0002】
癌は、人類にとって心臓血管病に次ぐ二番目の致死的な病気となっている。現在、抗癌化学療法及び放射線治療がよく利用されているが、これは人体にとって有害な重い毒性の副作用をもたらす可能性がある。国内外の専門家は、漢方薬のセッコクに抗腫瘍、老化防止及び血管拡張等の作用があることを発見しており、そのエタノール抽出物及びそのビベンジル類化合物は様々なレベルでの生体内抗腫瘍活性作用を有する。セッコクの活性成分はすでに国内外から注目されている。
【0003】
王天山らの研究結果(デンドロビウム・クリソトクスム(dendrobium chrysotoxum)中の化学成分のK562腫瘍細胞株に対する増殖抑制作用体外試験、天然産物研究及び開発(天然産物研究与開発)、1997、9(2)、1〜3)によれば、ビベンジル類化合物及びフェナントレン類化合物は、体外培養のマウス類L1210チューブリンの結合及び有糸分裂、P388細胞株、並びにA−549、MCF−7、HT−29、SKMEL−5、MLM、SK−OV−3及びHL−60のような複数種のヒト腫瘍細胞株に対して、全て抑制作用を有している。デンドロビウム・クリソトクスム中のジヒドロビベンジル類化合物及びフェナントレン類化合物は、腫瘍細胞株K526の増殖に対して様々なレベルでの抑制作用を有し、とりわけエリアニン(Erianin)の活性が最も強い。エリアニンの化学構造式は下記の通りである。
【0004】
【化7】

エリアニンはマウス肝癌に対する作用が最も強く、腫瘍抑制率は50.82%である。関連研究(中国薬科大学学報、1994、25(3)、188〜189)はさらに、エリアニンの毒性副作用は腫瘍化学療法用薬物である5FUのものよりはるかに弱いことを推測している。李運曼らの研究(エリアニンによるヒト白血病HL−60細胞のアポトーシス誘導、中国薬理学報、2001、22(11))によれば、エリアニンはヒト白血病HL−60細胞の増殖を顕著に抑制する。また、その抑制作用は、おそらく細胞のアポトーシス誘導や、HL−60細胞のbcl−2及びbax遺伝子の発現を変化させることによって実現される、とのことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エリアニンの水溶性は低く、水への溶解度は1mg/ml未満に過ぎないため、その製剤性や臨床での使用は限られている。よって、その水溶性を向上させられる塩類について検討する必要があるが、現在のところ、エリアニン塩及びその調製方法に関する文献の発表は未だなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる見地に基づいてなされたものであり、薬学上許容されるエリアニンの塩(以下、単にエリアニン塩と記す)を提供することを一つの目的とする。本発明が提供する化合物は良好な抗腫瘍活性を有し、エリアニンよりも良好な水溶性を有するため、製剤に便利で、且つ、生体内でのさらに高い利用度を有する。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、エリアニン塩の調製方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらにもう一つの目的は、エリアニン塩を含む薬物組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の一つの目的によれば、本発明は下記の一般式(I)を有する化合物であるエリアニン塩を提供する。
【0010】
【化1】

このうち、Rは無機酸素酸の一価酸基と、金属、アンモニウム塩又は有機アミンとにより生成される塩であり、前記金属はアルカリ金属及びアルカリ土類金属の中から選ばれ、前記無機酸素酸はリン酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、炭酸、次亜塩素酸、トリフルオロ酢酸及びスルホン酸の中から選ばれる。
【0011】
前記スルホン酸の一般式はR−SOHであり、このうちRはアルキル基である。前記スルホン酸には、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸等が含まれるが、これらのみに限らない。
【0012】
前記アルカリ金属にはナトリウム、カリウム等が含まれ、前記アルカリ土類金属にはマグネシウム、カルシウム等が含まれる。
【0013】
前記有機アミンは、トリエチルアミン、3−(2−ヒドロキシ)−アミン、N−エチルピペリジン及びN,N−ジエチル−ピペラジン等の中から選ばれる。
【0014】
前記エリアニン塩は、エリアニンが前記酸とエステル化反応を起こした後、さらに金属、アンモニウム塩又は有機アミンと反応して生成される塩である。
【0015】
エリアニン塩は、人体へより吸収・利用されやすいよう水溶性を高めるために、エリアニンのプロドラッグとしてもよい。
【0016】
本発明が述べるエリアニン無機酸素酸エステル塩は、エリアニンが上記無機酸素酸とエステル化反応を起こした後、さらに金属、アンモニウム塩又は有機アミンと反応して生成される塩である。
【0017】
さらに、前記エリアニン塩はエリアニンリン酸エステル塩又はエリアニン硫酸エステル塩である。
好ましくは、Rはリン酸基であってもよく、Rがリン酸基である場合、前記エリアニン塩はエリアニンリン酸エステル塩であり、その一般式は次の(II)に示す通りである。
【0018】
【化2】

このうち、R及びRはH、Na、K又はNHであり、且つ、RとRとは同時にHではない。
【0019】
さらに好ましくは、R及びRが共にNaである、即ち前記エリアニンリン酸エステル塩はエリアニンリン酸エステル二ナトリウムである。
【0020】
好ましくは、Rは硫酸基であってもよく、Rが硫酸基である場合、前記エリアニン塩はエリアニン硫酸エステル塩であり、その一般式は次の(III)に示す通りである。
【0021】
【化3】

このうち、RはNa、K又はNHである。
【0022】
最も好ましくは、RがNaである、即ちエリアニン硫酸エステル塩はエリアニン硫酸エステルナトリウムである。
【0023】
本発明のもう一つの目的によれば、本発明はこのタイプの化合物の調製方法を提供する。
【0024】
当業者は本分野の慣用的な調製の手法を用い、エリアニンを原料として前記一般式(I)の化合物を調製することができる。本発明が提供する調製方法は下記の通りである。
【0025】
前記エリアニンリン酸エステル塩の調製方法は、下記のステップを含む。
【0026】
(A1) 酸結合剤(acid−binding agent)の作用のもと、エリアニン及びリン酸化剤にフェノール性ヒドロキシル基のリン酸化反応を起こさせ、式(IV)のエリアニンリン酸化中間体を生成する。反応温度は25〜80℃で、反応溶媒は不活性有機溶媒である。
【0027】
(A2) ステップ(A1)で得た反応液を直接塩基と反応させ、式(II)のエリアニンリン酸エステル塩を調製する。
合成経路は次の通りである。
【0028】
【化4】

式(IV)中のR及びRはObu、Cl又はBr等であり、このうち、buはt−ブチル基を代表しており、R及びRはH、Na、K又はNHであり、且つ、RとRとは同時にHではない。
【0029】
以上の2ステップの反応は連続して行ってもよい。即ち、ステップ(A1)の反応で得た式(IV)の中間体は、さらなる分離及び純化を行う必要はなく、直接次のステップの反応を行ってよい。
【0030】
さらに、上記調製方法の2つのステップは、下記の通りのものである。
【0031】
(A1) 酸結合剤の作用のもと、エリアニン及び過剰量のリン酸化剤を2〜12時間かけて充分に撹拌し、フェノール性ヒドロキシル基のリン酸化反応を起こさせ、式(IV)のエリアニンリン酸化中間体を生成する。反応温度は25〜80℃で、反応は不活性有機溶媒中で行う。
【0032】
(A2) ステップ(A1)で得た反応液を減圧蒸留して溶媒を除去し、撹拌しながら濃度1〜6mol/Lの無機塩基を当該反応液に滴下して加える。その後、0〜90℃の条件下で引き続き2〜24時間撹拌し、減圧して溶媒を除去すれば、化合物(II)の粗製物が得られる。当該粗製物を再結晶用溶媒で再結晶させれば、純度の高いエリアニンリン酸エステル塩(収率79〜95%、融点266〜269℃(分解))が得られる。
【0033】
ステップ(A1)においては、次のようにする。
【0034】
前記リン酸化剤は、OPCl、OPBr及び(BuO)P(O)Cl等の中から選ばれる1種又は複数種の五価のハロゲン化リンである。
【0035】
前記酸結合剤は、ピリジン類、モノアルキルアミン類、ジアルキルアミン類及びトリアルキルアミン類等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。
【0036】
さらに、充分に撹拌しながら前記酸結合剤を1滴ずつ反応液に滴下して加え、反応が終わったら水洗いして分離し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧蒸留して溶媒を除去する。
【0037】
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、四塩化炭素及びアセトニトリル等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。
【0038】
本発明のある好ましい実施形態において、ステップ(A1)の反応温度は室温である。
【0039】
ステップ(A2)においては、次のようにする。
【0040】
充分に撹拌しながら塩基を当該反応液に滴下して加えた後、好ましくは30〜80℃の条件下で引き続き8〜10時間撹拌する。その後、反応液を冷却するとともにろ過して不溶物を取り除き、減圧蒸留を行って溶媒のほとんどを除去する等、一連の後処理を行って固形の粗製物を得、有機溶媒による再結晶を経て目的とする生成物(II)を得る。
【0041】
前記塩基は、NaOH、KOH、NaOCH、KOCH、NaOCHCH及びKOCHCH等の中から選ばれる1種又は複数種のものであり、塩基の濃度は必要な量及び体積によって1〜6mol/Lの範囲内で設定することができる。
【0042】
前記目的とする生成物(II)の再結晶用溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトン等の中から選ばれる1種又は複数種であり、好ましくはメタノール−アセトン混合溶媒である。
【0043】
本発明のある好ましい実施形態において、前記の調製方法のうち、前記ステップ(A1)中のリン酸化剤はOPCl、酸結合剤はトリエチルアミンであり、前記ステップ(A2)中の塩基はNaOHである。
【0044】
エリアニンを例えばジベンジル亜リン酸エステル((BnO)P(O)H。bnはベンジル基を代表する。)のようなリン酸化剤と反応させる場合、中間体であるエリアニンリン酸ジベンジルエステルを生成してもよく、当該中間体はまずNaIと反応させ、エリアニンのリン酸エステルを生成し、それから塩基と反応させて塩にしてもよい。即ち、本発明はさらに、もう1種類のエリアニンリン酸エステル塩の調製方法を提供する。当該エリアニンリン酸エステル塩の調製方法は、下記のステップを含む。
【0045】
(B1) 不活性ガス雰囲気下で、酸結合剤の作用のもと、エリアニン及びジベンジル亜リン酸エステルにフェノール性ヒドロキシル基のリン酸化反応を起こさせ、式(V)の化合物を調製する。反応温度は−40℃〜−10℃で、反応は不活性有機溶媒中で行う。
【0046】
(B2) 不活性ガス雰囲気下で、活性基保護剤の作用のもと、式(V)の化合物とNaIとを反応させ、式(VI)の化合物を調製する。反応は不活性有機溶媒中で行う。
【0047】
(B3) 式(VI)の化合物を塩基と反応させ、式(II)の化合物を調製する。
合成経路は次の通りである。
【0048】
【化5】

式(V)において、bnはベンジル基を代表する。R及びRはH、Na、K又はNHであり、且つ、RとRとは同時にHではない。
【0049】
ステップ(B1)においては、次のようにする。
【0050】
前記ジベンジル亜リン酸エステルをリン酸化剤とする。
【0051】
前記酸結合剤はピリジン類、モノアルキルアミン類、ジアルキルアミン類及びトリアルキルアミン類等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。本発明のある具体的な実施形態において、前記酸結合剤はジイソプロピルエチルアミン及びジメチルアミノピリジン(DMAP)である。
【0052】
前記不活性ガスは、アルゴンガス、窒素ガス又は一酸化炭素等である。本発明のある具体的な実施形態において、前記不活性ガスはアルゴンガスである。
【0053】
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、四塩化炭素及びアセトニトリル等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。本発明のある具体的な実施形態において、前記不活性有機溶媒はアセトニトリル及び四塩化炭素である。
ステップ(B2)においては、次のようにする。
【0054】
前記不活性ガスは、アルゴンガス、窒素ガス又は一酸化炭素等である。本発明のある具体的な実施形態において、前記不活性ガスはアルゴンガスである。
【0055】
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、四塩化炭素及びアセトニトリル等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。本発明のある具体的な実施形態において、前記不活性有機溶媒はアセトニトリルである。
【0056】
前記活性基保護剤は、トリメチルクロロシラン等である。
【0057】
ステップ(B3)においては、次のようにする。
【0058】
前記塩基は、NaOH、KOH、NaOCH、KOCH、NaOCHCH及びKOCHCH等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。本発明のある具体的な実施形態において、前記塩基はナトリウムメトキシドである。
【0059】
本発明のある好ましい実施形態において、エリアニンから中間体(V)を合成する際は、アルゴンガス雰囲気下でエリアニンをアセトニトリルに溶解させ、−25℃でCClを加えて5分間撹拌し、シリンジでジイソプロピルエチルアミン及びジメチルアミノピリジンを滴下して加え、1分後にジベンジル亜リン酸エステルを滴下して加え、反応温度を−10℃以下に制御する。中間体(V)からエリアニンのリン酸エステルを生成する際は、アルゴンガス雰囲気下で中間体(V)及びNaIをアセトニトリル溶液に溶解させ、強く撹拌しながらトリメチルクロロシランをゆっくり加え、20分間撹拌し、エリアニンリン酸エステル(VI)を調製する。エリアニンリン酸エステル(VI)をナトリウムメトキシドと反応させ、無色の結晶(II)を得る。
【0060】
前記エリアニン硫酸エステル塩の調製方法は、下記のステップを含む。
【0061】
(C1) 酸結合剤の作用のもと、エリアニン及びハロゲン化スルホン酸(halogenosulfonic acid)にフェノール性ヒドロキシル基のスルホニル化反応を起こさせ、式(VI)のエリアニンスルホニル化中間体を生成する。反応温度は−5〜−10℃で、反応溶媒は不活性有機溶媒である。
【0062】
(C2) ステップ(C1)で得た反応液を直接塩基と反応させ、式(III)のエリアニン硫酸エステルナトリウム塩を調製する。
合成経路は次の通りである。
【0063】
【化6】

式(VII)中のRはCl又はBr等である。RはNa、K又はNHである。
【0064】
具体的には、上記調製方法に含まれる2つのステップは次のものである。
【0065】
(C1) 酸結合剤の作用のもと、エリアニン及びハロゲン化スルホン酸を1〜10時間かけて充分に撹拌し、フェノール性ヒドロキシル基のスルホニル化反応を起こさせ、式(V)のエリアニンのスルホニル化中間体を生成する。反応温度は−5〜−10℃で、反応溶媒は不活性有機溶媒である。
【0066】
(C2) 充分に撹拌しながら、濃度5〜15mol/Lの塩基を用いてステップ(C1)で得た反応液のpHを8〜12に調整し、冷却後ろ過し、無水エーテルで洗浄して乾燥させた後、固形の生成物をメタノールに溶解させてカラムクロマトグラフィーを行い、溶媒を減圧蒸留でとばすと、エリアニン硫酸エステルナトリウム塩が得られる。反応温度は室温である。
【0067】
ステップ(C1)については、次のようにする。
【0068】
前記ハロゲン化スルホン酸はクロロスルホン酸又はブロモスルホン酸である。
【0069】
前記酸結合剤はピリジン類、モノアルキルアミン類、ジアルキルアミン類及びトリアルキルアミン類等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。
【0070】
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン及び四塩化炭素等の中から選ばれる1種又は複数種のものである。
【0071】
さらに、ステップ(C1)は次の通りのものである。即ち、丸底フラスコにエリアニン及びN,N−ジメチルアニリンを入れるとともに、N,N−ジメチルアニリンと同体積のジクロロメタンを入れ、氷−食塩水浴の状態で撹拌する(−5〜−10℃)。その後、クロロスルホン酸を1滴ずつ滴下して加え、加え終わったら食塩水浴の状態で引き続き1時間撹拌する。
【0072】
ステップ(C2)については、次のようにする。
【0073】
前記塩基はNaOH、KOH、NaOCH、KOCH、NaOCHCH及びKOCHCH等の中から選ばれる1種又は複数種のものであり、塩基の濃度は必要な量及び体積に応じて調節することができる。
【0074】
さらに、ステップ(C2)は、次の通りのものである。即ち、食塩水浴から移し、室温で24時間撹拌する。撹拌しながら、10mol/LのNaOH溶液で反応液のpH値を10に調整し、冷却後ろ過し、無水エーテルで洗浄して乾燥させた後、固形の生成物をメタノールに溶解させてカラムクロマトグラフィーを行い、溶媒を減圧蒸留によってとばすと、エリアニン硫酸エステルナトリウム塩が得られる。
【0075】
本発明のある好ましい実施形態では、上記の調製方法中のステップ(C1)において、前記ハロゲン化スルホン酸はクロロスルホン酸であり、前記酸結合剤はN,N−ジメチルアニリンであり、不活性有機溶媒はジクロロメタンであり、ステップ(C2)において、塩基は水酸化ナトリウムである。
【0076】
本発明のもう一つの側面によれば、本発明は、治療に有効な量のエリアニン塩並びに薬学上許容される担体及び/又は賦形剤を含む薬物組成物を提供する。
【0077】
さらに、前記薬物組成物は注射製剤又は経口製剤である。
【0078】
エリアニン塩を薬効成分とし、薬学上許容される薬用補助剤を添加するとともに、本分野の慣用的な方法を用いることによって、本発明に用いる薬物製剤を調製することができる。本薬物製剤の種類は、経口製剤の場合、例えば錠剤、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、腸溶性カプセル及びマイクロカプセルを含む)、粉剤、顆粒剤、シロップ剤といった種類を採用することができ、非経口製剤の場合、例えば注射剤、坐剤、丸剤、ゲル剤、パッチ剤といった種類を採用することができる。これらの慣用的な種類のほか、さらに経口の速効性固形製剤(例えば錠剤、顆粒剤等)や、経口または非経口投与に用いる持続性製剤(錠剤、顆粒、微細顆粒、丸剤、カプセル、シロップ、乳剤、スラリー、溶液)を本発明において採用し、慣用的な方法によってこれらの製剤を調製することもできる。本発明における製剤は、コーティングされていても、コーティングされていなくてもよく、必要に応じて決めることができる。本発明は、好ましくはエリアニン塩を注射製剤のタイプに用いる。
【0079】
本発明における薬用補助剤には、固形製剤に用いる賦形剤、潤滑剤、接着剤、崩壊剤、安定剤、発泡剤又はコーティング剤等、或いは半固形製剤や液体製剤に用いる溶剤、可溶化剤、沈殿防止剤、等張化剤、緩衝剤、皮膚軟化剤又は乳化剤等が含まれる。このほか、必要に応じて例えば防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤又は矯味剤等の他の薬用添加剤を使用してもよい。
【0080】
治療の対象や薬の種類、投与方法等によって本発明の薬物製剤の量を適宜選択することができる。
【0081】
エリアニンと比べ、本発明の述べるエリアニン塩の水溶性は大幅に向上しているため、製剤がさらに容易であり、且つ生体内での利用度を向上させることができ、抗腫瘍作用をより良好に発揮させることができる。本発明の述べる癌とは、全ての悪性腫瘍を広く指すものである。
【0082】
薬力学の試験によれば、エリアニンリン酸エステル二ナトリウムは顕著な抗腫瘍作用を有しており、毎日の投与と一日おきの投与とは抗腫瘍作用が同様に有効である。これは、エリアニンリン酸エステル二ナトリウムが効果的で毒性の低い抗腫瘍性化合物であることを示している。エリアニンリン酸エステル二ナトリウムは、他の化学療法用薬物と共に用いることによって、化学療法用薬物の腫瘍に対する殺傷作用を顕著に高めることができる。
【0083】
安全性の評価を行った結果、エリアニンリン酸エステル二ナトリウムのLD50値は1243.0377mg/kgであることが示された。これは、エリアニンリン酸エステル二ナトリウムが良好な臨床用薬剤としての安全性を有していることを表している。
【0084】
本発明が提供するエリアニン塩及びその調製方法は、以下の利点を有している。
【0085】
1.本発明の述べるエリアニン塩は、エリアニンよりも良好な水溶性を有しているため、製剤により便利であり、例えば高濃度の注射製剤を調製することができる。なおかつ、本発明の述べるエリアニン塩は、薬物の生体内での利用度を向上させることができる。
【0086】
2.本発明の述べるエリアニン塩は、効果的で毒性の低い抗癌作用を有する。
【0087】
3.本発明の調製方法は、用いる試薬が全て安価で入手が容易な一般的化学工業製品であり、合成経路が短く、操作方法が簡単であり、大規模工業生産に適している。
【発明の効果】
【0088】
本発明が提供するエリアニンの塩は良好な抗腫瘍活性を有し、エリアニンよりも良好な水溶性を有するため、製剤に便利で、且つ、生体内でのさらに高い利用度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
以下、本発明の本質をよりよく理解するため、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限られない。
【0090】
本発明で用いるエリアニンは、浙江賽爾生物医学研究有限公司(Zhejiang Cell Biomedical Research Co.,Ltd.)により提供されるものであり、その調製方法は下記の2通りの方法から選択することができる。本発明で用いる他の試験用材料は、特に説明のない限り、全て市販の製品である。以下、エリアニンの2通りの調製方法を具体的に説明する。
【0091】
(一) セッコクからのエリアニン抽出方法
中国特許出願番号03115752.1を参照し、超臨界CO抽出とカラムクロマトグラフィー法とを利用し、無水アルコール、メタノール、アセトン等を添加溶剤とし、CO等を抽出媒体として、ラン科の植物であるセッコクから抗腫瘍成分であるエリアニンを抽出する。そして、石油エーテル及び酢酸エチルの溶液を溶離剤として、得られた粗抽出物に対してさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離及び再結晶等のステップを行い、精製抽出物を得る。この精製抽出物は、人体への注射に用いる場合の基準を満たしている。
【0092】
(二) エリアニンの化学合成方法
中国特許出願番号200510083055.4に記載の方法を参照し、3,4,5−トリメトキシベンズアルデヒド(i)及びイソバニリン(iv)を出発原料とし、エリアニンを調製する。このエリアニン調製の合成経路は下記の通りである。
【0093】
【化8】

具体的には、以下のステップを含む。
【0094】
1. 3,4,5−トリメトキシベンジルアルコール(ii)の調製
250mlの三口フラスコに、3,4,5−トリメトキシベンズアルデヒド(i)15g(76.45mmol)と無水アルコール200mlとを入れ、40℃になるよう加熱して溶解させる。そして、水素化ホウ素ナトリウム1.48g(38.23mmol)を加え、45分間加熱・還流を行った後、TLC(薄層クロマトグラフィー)による観測を行う。完全に反応していたら室温まで冷却し、脱イオン水10ml(555.8mmol)を加えて反応を停止させる。その後、吸引ろ過し、残渣を20mlの無水アルコールで洗浄し、洗浄液をろ液と合わせる。その後、ロータリーエバポレーターで乾燥するまで濃縮し、ジクロロメタン100mlを加えて溶解させ、2N水酸化ナトリウム溶液50mlでの洗浄を2回行い、脱イオン水50mlでの洗浄を2回行い、適量の無水硫酸マグネシウムを加えて一晩乾燥させる。ろ過し、ジクロロメタン20mlで残渣を洗浄し、洗浄液をろ液と合わせ、ロータリーエバポレーターで乾燥するまで濃縮し、無色の油状物である3,4,5−トリメトキシベンジルアルコール(ii)14.05gを得る。収率は92.72%である。
【0095】
得られた生成物はさらに純化を行う必要はなく、直ちに次の反応を行ってよい。純度の高い生成物を得たい場合、減圧蒸留を行い、BP(沸点)216〜218℃/12mmHgの留分を収集すればよい。
【0096】
2. 3,4,5−トリメトキシベンジルブロミド(iii)の調製
3,4,5−トリメトキシベンジルアルコール(ii)14.05g(70.89mmol)をジクロロメタン100mlに溶解させ、250mlの三口フラスコに入れる。三臭化リン6.73ml(70.89mmol)をジクロロメタン25mlに溶かし、ゆっくりと反応液に滴下して加え、室温で50分間反応させる。その後、氷浴によって冷却し、脱イオン水18ml(1.0mol)をゆっくり滴下して加え、反応を停止させる。その後、脱イオン水100mlでの洗浄を2回行い、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、残渣をジクロロメタン20mlで洗浄して洗浄液をろ液と合わせ、ロータリーエバポレーターで乾燥するまで濃縮し、真空乾燥させることにより、淡黄色の固体である3,4,5−トリメトキシベンジルブロミド(iii)16.05gを得る。収率は84.44%である。
【0097】
得られた生成物はさらに純化を行う必要はなく、直ちに次の反応を行ってよい。純度の高い生成物を得たい場合、酢酸エチルとn−ヘキサンとを酢酸エチル:n−ヘキサン=1:3の割合で用いて再結晶させ、白色薄片状の結晶を得る。
【0098】
3. 3,4,5−トリメトキシベンジルブロミドトリフェニルホスフィン塩(v)の調製
3,4,5−トリメトキシベンジルブロミド(iii)16.05g(61.47mmol)をトルエン150mlに溶解させ、250mlの三口フラスコに入れ、トリフェニルホスフィン16.12g(61.47mmol)を加えてすぐに溶解させ、1時間加熱・還流を行うと、白色の固体が析出する。室温まで冷却し、吸引ろ過し、ケークをトルエン30mlで洗浄し、真空乾燥を行うと、白色の粉末状固体である3,4,5−トリメトキシベンジルブロミドトリフェニルホスフィン塩(v)27.81gが得られる。収率は86.44%である。
【0099】
得られた生成物はさらに純化を行う必要はなく、直ちに次の反応を行ってよい。純度の高い生成物を得たい場合、アセトンで固体を洗浄すれば、白色の粉末状固体が得られる。
【0100】
4. ベンジル保護されたイソバニリン(vi)の調製
250mlの三口フラスコにイソバニリン(iv)15g(98.59mmol)と無水アルコール200mlとを入れ、40℃まで加熱して溶解させ、炭酸カリウム9g(65.07mmol)を加え、撹拌しながら塩化ベンジル15ml(130.13mmol)を加え、1時間加熱・還流を行い、TLC観測を行う。完全に反応していたら、50℃まで冷却し、冷めないうちにろ過し、ろ液を冷蔵庫に入れ、一晩冷却すると、結晶が析出する。これを吸引ろ過し、ケークを無水アルコール30mlで洗浄し、真空乾燥すると、白色の針状結晶であるベンジル保護されたイソバニリン(vi)19.72gが得られる。収率は82.56%である。
【0101】
得られた生成物はさらに純化を行う必要はなく、直ちに次の反応を行ってよい。純度の高い生成物を得たい場合、無水アルコールで再結晶させれば、白色の柱状結晶が得られる。
【0102】
5. シス−トランス異性体(vii)の調製
250mlの三口フラスコに3,4,5−トリメトキシベンジルブロミドトリフェニルホスフィン塩(v)20.00g(38.21mmol)及びテトラヒドロフラン150mlを入れ、スラリーを撹拌する一方、ベンジル保護されたイソバニリン(vi)10.00g(41.27mmol)をテトラヒドロフラン70mlに溶解させ、100mlの滴下ロートに入れる。反応フラスコに固形のカリウムt−ブトキシド7.46g(66.49mmol)を入れ、反応系の色が真紅になったら室温で5分間撹拌し、氷浴で冷却し、ベンジル保護されたイソバニリンの溶液をゆっくりと滴下して加える。20分かけて滴下し終わったら、室温でさらに30分間撹拌し、TLCによる観測を行う。完全に反応していれば、500mlの分液ロートにつぎ、脱イオン水140mlを加えた後、溶液を層に分け、エーテル300mlを2回加えて抽出し、エーテル層を合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、ケークをエーテル50mlで洗浄し、ろ液をロータリーエバポレーターで乾燥するまで濃縮し、油状の物質25gを得る。これに無水アルコール20mlを加えて固形化させ、吸引ろ過すると、淡黄色の固体12.50gが得られる。収率は80.48%である。
【0103】
6. シス−トランス異性体(vii)の再結晶
50mlの丸底フラスコに、シス−トランス異性体(vii)12.50g(30.75mmol)を入れ、無水アルコール20mlを加え、加熱して固体を一部溶解させる。その後、室温にて撹拌し、吸引ろ過し、ケークを無水エーテル10mlで洗浄後、赤外ランプで乾燥させると、淡黄色の粉末状固体である、高純度のシス−トランス異性体(vii)9.27gが得られる。収率は74.16%である。
【0104】
7. エリアニンの調製
250mlの三口フラスコに高純度のシス−トランス異性体(vii)5.14g(12.56mmol)を入れ、酢酸エチル100ml及び無水アルコール60mlに溶解させてなる淡黄色の溶液に、5%のパラジウム炭素0.50gを加える。その後、撹拌しながら混合液に水素ガスを通し、室温で3時間撹拌してろ過すると、無色のろ液が得られる。このろ液をロータリーエバポレーターで乾燥するまで濃縮すると、油状物であるエリアニン粗製物4.05gが得られる。収率は100%である。
【0105】
8. エリアニンの精製
500mlの丸底フラスコにエリアニン粗製物4.05g(12.72mmol)を入れ、無水エーテル20mlに溶解させ、もし不溶物があればろ過して取り除き、室温で静置すると、結晶が析出する。一晩放置し、溶媒が完全に揮発すると、白色の結晶が大量に析出する。ろ過し、ケークをエーテルで洗浄すれば、白色の結晶3.56gが得られる。収率は100%である。
【0106】
《エリアニン塩の調製》
〈実施例1〉 エリアニンリン酸エステル二ナトリウムの調製(ナトリウム塩への直接の転化)
1. リン酸化反応
100mlの丸底フラスコにオキシ塩化リン4.4ml(47.4mmol)及びジクロロメタン25mlを入れる一方、エリアニン5g(15.7mmol)を前記ジクロロメタンの溶液10mlに滴下して加える。滴下し終わったら、5分間撹拌する。トリエチルアミン3.3ml(23.8mmol)を前記ジクロロメタンの溶液5mlに滴下して加える。室温にて3時間撹拌し、TLCによって観測する。完全に反応していたら、冷水100mlを加えて反応を停止させる。充分に振動させ、有機相を分離させる。さらに水50mlでの洗浄を2回行い、ジクロロメタンで水の層を抽出した後に有機層と合わせ、適量の無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥させる。そして吸引ろ過し、ろ液を減圧蒸留して溶剤をとばすと、粘性を有する液体である塩化アシルの粗製物が得られる。
【0107】
2. 塩生成反応
氷浴で塩化アシルの粗製物を冷却し、撹拌しながら混合液のpH値が8〜10の間になるまで2mol/LのNaOH溶液を加え、50℃〜80℃で8時間撹拌する。ろ過して不溶物を取り除き、減圧蒸留で溶媒をおおかた蒸発させ、冷却すれば、白色の固体であるエリアニンリン酸エステル二ナトリウム塩の粗製物が結晶として析出する。粗製物を加熱してエタノールに溶解させ、冷めないうちにろ過して不溶性の固体を取り除き、ろ液を冷却して結晶を析出させれば、白色の結晶生成物である高純度のエリアニンリン酸エステル二ナトリウム塩約6.0gが得られる。収率は86%である。融点(m.p.)は266〜269℃(分解)であり、水への溶解度は200mg/mlである。
【0108】
3. 物理的性質の検査
調製によって得られた生成物のNMR、赤外線及び質量分析の結果を図1〜図4に示す。
【0109】
HNMR(DO):δ2.77(d,1H,J=13.7Hz,H−1α’),2.81(d,1H,J=13.7Hz,H−1α),3.67(s,3H,4’=OCH),3.69(s,6H,3,5−OCH),3.75(s,3H,4−OCH),6.47(s,2H,H−2,6),6.77(d,1H,J=8.36Hz,H−5’),6.79(d,1H,J=8.36Hz,H−6’),7.27(d,1H,J=1.8Hz,H−2’)。
【0110】
13CNMR(DO):δ152.27,148.05,148.00,143.35,139.54,135.14,134.71,122.32,120.63,120.62,112.89,106.21,61.01,56.30,56.09,37.590,36.70。
【0111】
IR(KBr):υ3852w,3385s,2938m,2839m,1588m,1509m,1464m,1420m,1273m,1124s,987m,cm−1
【0112】
ESIMS: m/z:396.9(M+).Calc.441.97forC1822PNa
【0113】
〈実施例2〉 エリアニンリン酸エステル二ナトリウムの調製(リン酸エステル中間体を生成する必要あり)
1. エリアニンリン酸ジベンジルエステルの合成
乾燥した三口フラスコ内で、アルゴンガス雰囲気下でエリアニン(20g。63.2mmol)をアセトニトリル200mlに溶解させて撹拌し、−25℃まで冷却し、CCl(35ml。316mmol)を加えて5分間撹拌し、シリンジでジイソプロピルエチルアミン(23.13ml。133mmol)を滴下して加える。その後、DMAP(772mg。6.32mmol)を滴下して加え、1分後にジベンジル亜リン酸エステル(20.33ml。92mmol)を滴下して加え、反応温度を−10℃以下に制御し、1時間後にTLCによる観測を行う。完全に反応していたら、0.5MのKHPO50mlを加え、酢酸エチル100mlでの抽出を3回行い、有機層を合わせ、水100ml及び飽和NaCl水溶液100mlで洗浄し、乾燥させてろ過する。減圧蒸留によって溶媒をとばすと、黄色の油状物が得られる。カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=2:3)により、酢酸エチル−ヘキサン混合溶媒を用いて再結晶させれば、無色の針状物質であるエリアニンリン酸ジベンジルエステルが得られる。融点は73℃である。
【0114】
2.エリアニンリン酸エステルナトリウム塩の調製
アルゴンガス雰囲気下で、エリアニンリン酸ジベンジルエステル(20.5g。35.6mmol)及びNaI(10.7g。71mmol)のアセトニトリル溶液100mlを強くかき混ぜながら、トリメチルクロロシラン(9.02ml。71mmol)をゆっくり加えて20分間撹拌し、TLCによる観測で原料スポットがなければ、水を加え(ちょうど塩を溶解させられる量)、10%のチオ硫酸ナトリウム2mlを加え、有機相を分離し、酢酸エチル50mlで水の層を抽出することを4回行い、有機層を合わせ、真空濃縮を行うと、黄色の泡状の物質が得られる。
【0115】
泡状の物質をメタノール100mlに溶解させ、95%のナトリウムメトキシド(4.1g。71mmol)を加えて9時間撹拌し、メタノールを真空下で蒸発させ、固体を水−アセトン及びメタノール−アセトンの混合溶媒を用いて再結晶させると、白色の固体であるエリアニンリン酸エステル二ナトリウムが得られる。融点は266〜269℃である。
【0116】
エリアニンリン酸エステル二ナトリウムの物理的性質の測定結果は実施例1と同じである。分析結果から、本発明の方法によってエリアニンリン酸エステル二ナトリウムの完成品を調製できたことがわかる。
【0117】
〈実施例3〉 エリアニン硫酸エステル塩の調製
250mlの丸底フラスコにエリアニン10mmol及びN,N−ジメチルアニリン75mmolを入れるとともに、N,N−ジメチルアニリンと同体積のCHClを加え、氷−食塩水浴の状態で撹拌(−5℃〜−10℃)した後、クロロスルホン酸12.5mmolを1滴ずつ滴下して加える。加え終わったら食塩水浴にて引き続き1時間撹拌する。その後食塩水浴から移動させ、室温下で24時間撹拌する。撹拌しながら、反応液のpHを10mol/LのNaOH溶液で10になるよう調整し、冷ました(或いは冷蔵庫中で冷却した)後ろ過する。それとともに、無水エーテルで洗浄する。乾燥後、固形の生成物をメタノールに溶解させて、カラムクロマトグラフィーを行う。減圧蒸留により溶媒をとばすと、白色の固体であるエリアニン硫酸エステルナトリウム塩が得られる(吸水性を有する)。
【0118】
物理的性質の検査結果は、次の通りである。
【0119】
HNMR(DO):δ2.79(d,1H,J=13.7Hz,H−1α’),2.80(d,1H,J=13.7Hz,H−1α),3.67(s,3H,4’=OCH),3.74(s,6H,3,5−OCH),3.75(s,3H,4−OCH),6.55(s,2H,H−2,6),6.58(d,1H,J=8.36Hz,H−5’),6.85(d,1H,J=8.36Hz,H−6’),7.33(d,1H,J=1.8Hz,H−2’)。
【0120】
13CNMR(DO):δ152.27,148.05,148.00,143.35,139.54,135.14,134.71,122.32,120.63,114.33,108.03,106.21,61.01,56.30,56.09,37.590,36.70。
【0121】
IR(KBr):υ3539s,3433m,3001w,2939m,2841m,1589s,1508s,1466m,1422m,1330m,1262m,1242s,1174m,1131s,1014m,619m,cm−1
【0122】
ESIMS: m/z:398.427(M+).Calc.421.46forC1822SNa。
【0123】
《エリアニン塩の安全性評価》
〈実施例4〉 エリアニンリン酸エステル二ナトリウムのLD50測定
一、 実験材料
実験動物:昆明(Kunming)種のマウス。上海斯莱克実験動物中心(Shanghai Slac Laboratory Animal Co.,Ltd.)提供。体重18〜22g。雌雄半数ずつ。
【0124】
試薬:0.9%NaCl水溶液、エリアニンリン酸エステル二ナトリウム。浙江賽爾生物医学研究有限公司(Zhejiang Cell Biomedical Research Co.,Ltd.)提供。上記の方法により調製。このほか、ピクリン酸。
【0125】
器材:1ml用使い捨て注射器
二、 実験方法とステップ
1.実験動物:昆明種(KM)のマウスを選別して計7つの群を作る。各群10匹ずつで、雌雄半数ずつである。ピクリン酸でマーキングする。
【0126】
2.各群に対して、それぞれ体重に応じて1300mg/kg、1250mg/kg、1200mg/kg、1150mg/kg、1100mg/kg、1050mg/kg、1000mg/kgを尾静脈注射により試薬投与する。
3.試薬投与後0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間及び24時間の時点でそれぞれ1回ずつ観察し、死亡率を記録する。以後は毎日1回観察し、死亡率を記録する(表1)のを14日間続け、15日目に、死亡していないマウスを安楽死させて病理解剖を行う。
【0127】
【表1】

三、 実験結果
AP(エリアニンリン酸エステル二ナトリウム)のLD50=1243.0377mg/kgであり、信頼区間は1049.9757≦LD50≦1471.5984であった。
【0128】
実験中に死亡したマウスを解剖した結果、明らかな病変は認められなかった。14日経過後に生存しているマウスを安楽死させ、病理解剖を行った結果、病理変化は認められなかった。
【0129】
これは、3,4,5,4’−テトラメトキシジフェニルエタン−3’−O−リン酸二ナトリウム塩の毒性が低く、臨床用製剤としての良好な安全性を有していることを示している。
【0130】
《エリアニン塩の抗腫瘍薬力学試験》
〈実施例5〉 エリアニンリン酸エステル二ナトリウムの抗腫瘍における使用
1. 試験サンプル
サンプル:エリアニンのリン酸エステル二ナトリウム(AP。実施例1に基づいて調製する)を生理食塩水で必要な濃度に調整したもの。
【0131】
対照試料:注射用シクロホスファミド(CTX)。上海華聯製薬有限公司(Shanghai Hualian Pharmaceutical Co.,Ltd.)。ロットナンバーは020806である。配合時には生理食塩水に溶解させる。
【0132】
2. 動物及び腫瘍株
昆明種のマウス50匹、雌、体重19±1g、上海医薬工業研究院(Shanghai Institute of Pharmaceutical Industry)動物房提供。
【0133】
S180腹水腫瘍マウス2匹、上海医薬工業研究院動物房提供。
【0134】
3. 試験方法
S180腹水腫瘍マウスに対し、無菌条件下で腹水を抜き取り、細胞数を数え、生理食塩水で1〜2×107個/mlに希釈し、1匹につき0.2mlをマウスの腋下皮下に接種する。翌日、マウスをランダムに同数ずつ5つの群に分ける。各群はそれぞれ10匹のマウスで構成される。
【0135】
薬剤投与量(mg/kg./d):
AP 25mg/kg、75mg/kg、225mg/kg
薬剤投与経路:静脈注射
対照試料であるシクロホスファミドは、静脈注射の経路によって投与する。薬剤量は30mg/kg×9dである。
【0136】
また、対照群を作る。
【0137】
動物に接種をした翌日から、体重に応じて0.5ml/20gの薬剤を胃ゾンデにより投与し、連続9日間体重に応じて薬剤投与する。接種後10日目に安楽死させ、腫瘍を取り出して重さを量り、腫瘍抑制率を求める。
【0138】
結果の判定には、以下の公式を用いる。
【0139】
【数1】

4. 結果
実験期間中、全ての群において死亡は見られなかった。
【0140】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の述べるエリアニン塩は、エリアニンよりも良好な水溶性を有するため、製剤により便利で、薬物の生体内における利用度を向上させることができ、且つ、効果的で毒性の低い抗癌作用を有する。
【0142】
本発明の述べるエリアニン塩の調製方法は、用いる試薬が全て安価で入手が容易な一般的化学工業製品であり、合成経路が短く、操作方法が簡単であり、大規模工業生産に適している。
【0143】
本発明の好ましい実施形態に関する以上の記述は本発明を制限するものではない。当業者は本発明に基づいて様々な変更や変形を行うことができるが、本発明の精神を逸脱しない限り、すべて本発明の特許請求の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は本発明において調製されるエリアニンリン酸塩のH−NMR(核磁気共鳴)のスペクトルである。
【図2】図2は本発明において調製されるエリアニンリン酸塩の13C−NMR(核磁気共鳴)のスペクトルである。
【図3】図3は本発明において調製されるエリアニンリン酸塩の赤外線スペクトルである。
【図4】図4は本発明において調製されるエリアニンリン酸塩の質量分析のスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリアニン塩であって、
前記エリアニン塩は下記の一般式(I)を有する化合物であり、
【化1】

このうち、
Rは無機酸素酸の一価酸基と、金属、アンモニウム塩又は有機アミンとにより生成される塩であり、
前記金属はアルカリ金属及びアルカリ土類金属の中から選ばれ、
前記無機酸素酸はリン酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、炭酸、次亜塩素酸及びトリフルオロ酢酸の中から選ばれることを特徴とするエリアニン塩。
【請求項2】
請求項1に記載のエリアニン塩において、
前記エリアニン塩はエリアニンリン酸エステル塩又はエリアニン硫酸エステル塩であることを特徴とするエリアニン塩。
【請求項3】
請求項2に記載のエリアニン塩において、
前記エリアニン塩はエリアニンリン酸エステル塩であり、その一般式は次の(II)に示す通りであり、
【化2】

このうち、R及びRはH、Na、K又はNHであり、
且つ、RとRとは同時にHではないことを特徴とするエリアニン塩。
【請求項4】
請求項3に記載のエリアニン塩において、
式(II)中のRはNaであり、RはNaであり、前記エリアニン塩はエリアニンリン酸エステル二ナトリウムであることを特徴とするエリアニン塩。
【請求項5】
請求項2に記載のエリアニン塩において、
前記エリアニン塩はエリアニン硫酸エステル塩であり、その一般式は次の(III)に示す通りであり、
【化3】

このうち、RはNa、K又はNHであることを特徴とするエリアニン塩。
【請求項6】
請求項5に記載のエリアニン塩において、
式(III)中のRはNaであり、前記エリアニン塩はエリアニン硫酸エステルナトリウムであることを特徴とするエリアニン塩。
【請求項7】
エリアニン塩の調製方法であって、
反応温度を25〜80℃とし、反応溶媒として不活性有機溶媒を用い、酸結合剤の作用のもと、エリアニン及びリン酸化剤にフェノール性ヒドロキシル基のリン酸化反応を起こさせ、式(IV)のエリアニンリン酸化中間体を生成するステップ(A1)と、
ステップ(A1)で得た反応液を直接塩基と反応させ、式(II)のエリアニンリン酸エステル塩を調製するステップ(A2)とを備え、
合成経路は次の通りであり、
【化4】

式(IV)中のR及びRはObu、Cl又はBrであり、このうち、buはt−ブチル基を代表しており、
及びRはH、Na、K又はNHであり、且つ、RとRとは同時にHではないことを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項8】
請求項7に記載のエリアニン塩の調製方法において、
ステップ(A1)において、
前記リン酸化剤はOPCl、OPBr及び(BuO)P(O)Clの中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
前記酸結合剤は、ピリジン類、モノアルキルアミン類、ジアルキルアミン類及びトリアルキルアミン類の中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、四塩化炭素及びアセトニトリルの中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
ステップ(A2)において、
前記塩基は、NaOH、KOH、NaOCH、KOCH、NaOCHCH及びKOCHCHの中から選ばれる1種又は複数種のものであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項9】
請求項7に記載のエリアニン塩の調製方法において、
前記ステップ(A1)において、リン酸化剤はOPClであり、酸結合剤はトリエチルアミンであり、
前記ステップ(A2)において、塩基はNaOHであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項10】
エリアニン塩の調製方法であって、
反応温度を−40℃〜−10℃とし、不活性ガス雰囲気下で、酸結合剤の作用のもと、エリアニン及びジベンジル亜リン酸エステルに不活性有機溶媒中でフェノール性ヒドロキシル基のリン酸化反応を起こさせ、式(V)の化合物を調製するステップ(B1)と、
不活性ガス雰囲気下で、活性基保護剤の作用のもと、式(V)の化合物とNaIとを不活性有機溶媒中で反応させ、式(VI)の化合物を調製するステップ(B2)と、
式(VI)の化合物を塩基と反応させ、式(II)の化合物を調製するステップ(B3)とを備え、
合成経路は次の通りであり、
【化5】

式(V)中のbnはベンジル基を代表しており、
及びRはH、Na、K又はNHであり、且つ、RとRとは同時にHではないことを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項11】
請求項10に記載のエリアニン塩の調製方法において、
ステップ(B1)において、
前記酸結合剤はピリジン類、モノアルキルアミン類、ジアルキルアミン類、トリアルキルアミン類及びジメチルアミノピリジンの中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
前記不活性ガスは、アルゴンガス、窒素ガス又は一酸化炭素であり、
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、四塩化炭素及びアセトニトリルの中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
ステップ(B2)において、
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、四塩化炭素及びアセトニトリルの中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
ステップ(B3)において、
前記塩基は、NaOH、KOH、NaOCH、KOCH、NaOCHCH及びKOCHCHの中から選ばれる1種又は複数種のものであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項12】
請求項10に記載のエリアニン塩の調製方法において、
前記ステップ(B1)において、
前記酸結合剤はジイソプロピルエチルアミン及びジメチルアミノピリジンであり、不活性ガスはアルゴンガスであり、
前記ステップ(B2)において、
不活性ガスはアルゴンガスであり、活性基保護剤はトリメチルクロロシランであり、不活性有機溶媒はアセトニトリル及び/又は四塩化炭素であり、
前記ステップ(B3)において、
塩基はナトリウムメトキシドであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項13】
エリアニン塩の調製方法であって、
反応温度を−5〜−10℃とし、反応溶媒として不活性有機溶媒を用い、酸結合剤の作用のもと、エリアニン及びハロゲン化スルホン酸にフェノール性ヒドロキシル基のスルホニル化反応を起こさせ、式(VI)のエリアニンスルホニル化中間体を生成するステップ(C1)と、
ステップ(C1)で得た反応液を直接塩基と反応させ、式(III)のエリアニン硫酸エステルナトリウム塩を調製するステップ(C2)とを備え、
合成経路は次の通りであり、
【化6】

式(VII)中のRはCl又はBrであり、RはNa、K又はNHであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項14】
請求項13に記載のエリアニン塩の調製方法において、
ステップ(C1)において、
前記ハロゲン化スルホン酸はクロロスルホン酸又はブロモスルホン酸であり、
前記酸結合剤はピリジン類、モノアルキルアミン類、ジアルキルアミン類及びトリアルキルアミン類の中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
前記不活性有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン及び四塩化炭素の中から選ばれる1種又は複数種のものであり、
ステップ(C2)において、
前記塩基はNaOH、KOH、NaOCH、KOCH、NaOCHCH及びKOCHCHの中から選ばれる1種又は複数種のものであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項15】
請求項13に記載のエリアニン塩の調製方法において、
前記ステップ(C1)において、ハロゲン化スルホン酸はクロロスルホン酸であり、酸結合剤はN,N−ジメチルアニリンであり、不活性有機溶媒はジクロロメタンであり、
前記ステップ(C2)において、塩基は水酸化ナトリウムであることを特徴とするエリアニン塩の調製方法。
【請求項16】
薬物組成物であって、
治療に有効な量の、請求項1〜6のうちのいずれかに記載のエリアニン塩と、
薬学上許容される担体及び/又は賦形剤とを含むことを特徴とする薬物組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の薬物組成物において、
前記薬物組成物は注射製剤又は経口製剤であることを特徴とする薬物組成物。
【請求項18】
請求項1に記載のエリアニン塩の、抗腫瘍薬物調製における使用。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−502986(P2009−502986A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524345(P2008−524345)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【国際出願番号】PCT/CN2006/001918
【国際公開番号】WO2007/014524
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508034923)チョー チアン セル バイオメディカル リサーチ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】