説明

エレベーター装置

【課題】長距離検出が必要とされるエレベーターの昇降路(高階床)であっても、かごの異常速度に対して精度高く過速度を検出する。
【解決手段】昇降路1内のかご3の速度を検出し、検出されたかご3の速度が設定速度17を越えた場合、かご3を強制的に減速停止させるエレベーター装置において、昇降路1の頂部あるいは底部から予め設定した終端距離内にかご3があることを検出する範囲検出装置9,11と、かご3が終端距離内にある場合、昇降路1の頂部または下部からかご3までの距離を検出する終端距離検出装置10,12と、を備え、設定速度17は、終端距離検出装置10,12により検出された距離に応じて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かごの速度を検出し、設定速度を越えた場合にブレーキを動作させてかごを強制的に減速停止させるエレベーター装置に関し、特にエレベーターを終端階に強制的に減速停止させるものに好適である。
【背景技術】
【0002】
エレベーターのピットに設置される緩衝器は、故障等でかご又は釣合いおもりが全速で緩衝器に衝突したときにも、十分緩衝させることができるストロークにする必要がある。このストロークを浅くしたり、ブレーキトルクを小さくしたり、することが望まれ、そのためには、ブレーキを動作させる設定速度、つまり、かごの異常速度に対して精度高く過速度を検出する必要がある。
【0003】
従来、かごの終端からの距離に対応して過速度を精度高く設定するため、終端からの距離を連続的に検出し、終端からの距離に対応して連続的に過速度レベルを可変して設定することが知られ、例えば、特許文献1に記載されている。
【0004】
また、かごの位置及び速度を簡単な構成で容易に検出するため、ガバナシーブにかごの昇降に同期して移動するガバナロープを巻き掛け、ガバナシーブには、かごの位置及び速度を検出するための検出部であるエンコーダを設けることが知られ、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−123279号公報
【特許文献2】国際公開第WO2005/102899号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術において、終端からの距離を連続的に検出するものでは、レーザ光を用いるなど、光学的な検出が必須となる。したがって、短距離で検出する場合は比較的に高精度な検出が可能となるが、エレベーターの昇降路のように長距離で検出を行う場合、光の減衰により測定が困難になる。また、レーザ発射口ないし反射板を昇降路内で上向きに配置せざるを得なく、埃や油などの汚れが付着しやすく、かごと乗り場とのすきまから物が落下して検出部の故障となる恐れがある。
【0007】
一方、ガバナとエンコーダを用いた距離検出装置では、かごとガバナを同期させるガバナロープを昇降路全体に張り渡す必要があり、昇降路が長くなればなるほど地震などでガバナロープが昇降路内の機器に引っかかる可能性が高まる。さらに、ガバナロープが損傷していないかなど、状態を確認する必要がある。
【0008】
本発明の目的は上記従来技術の課題を解決し、長距離検出が必要とされるエレベーターの昇降路(高階床)であっても、高精度な検出を可能とし、かごの異常速度に対して精度高く過速度を検出することのある。
【0009】
また、他の目的は、かごの異常速度に対する過速度を精度高く設定し、エレベーターを終端階に強制的に減速停止させるときのストロークを浅くし、エレベーターのピット寸法を小さくすることにある。
【0010】
さらに、エレベーターの昇降路が長い場合でも、保守頻度が低く、保守に要する労力が少ないものにすることにある。
【0011】
なお、本発明は上記目的の少なくともいずれかを達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、昇降路内のかごの速度を検出し、検出されたかごの速度が設定速度を越えた場合、前記かごを強制的に減速停止させるエレベーター装置において、前記昇降路の頂部あるいは底部から予め設定した終端距離内に前記かごがあることを検出する範囲検出装置と、前記かごが前記終端距離内にある場合、前記昇降路の頂部または下部から前記かごまでの距離を検出する終端距離検出装置と、を備え、前記設定速度は、前記終端距離検出装置により検出された距離に応じて決定されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、かごが終端距離内にある場合、設定速度を終端からかごまでの距離に応じて決定するので、長距離となる昇降路であっても、かごの異常速度に対して精度高く過速度を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による一実施の形態を示すエレベーター装置のブロック図。
【図2】一実施の形態におけるかご位置と運転速度,設定速度の関係を示すグラフ。
【図3】本発明による他の実施の形態を示すブロック図。
【図4】本発明によるさらに、他の実施の形態を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1はエレベーター装置の構成を示し、エレベーター装置は昇降路1内壁面に備えられた一対のガイドレール2A,2Bに沿って昇降する。乗客が乗り降りするかご3には主ロープ4で釣合い錘5が連結され、主ロープ4を巻き掛けた駆動シーブが巻上機6により回転されることで、かご3は昇降路1内を昇降する。
【0016】
かご3の下部にはガイドレール2A,2Bと対向するように非常止め装置7が設けられている。また、かごの移動方向および速度を検出する速度検出装置8と、かご3が昇降路1の頂部からあらかじめ設定した頂部終端距離内にいるかを検出する頂部範囲検出装置9と、かご3が頂部終端範囲内にいる場合にかご3と頂部までの距離を連続的に検出する頂部終端距離検出装置10と、がそれぞれ設置されている。
【0017】
同様に、かご3が昇降路1の底部からあらかじめ設定した底部終端距離内にいるかを検出する底部範囲検出装置11と、かごが底部終端範囲内にいる場合にかご3と底部までの距離を連続的に検出する底部終端距離検出装置12を備える。
【0018】
速度検出装置8が検出したかご3の速度があらかじめ設定速度を越えた場合、巻上機6に設置された図示しないブレーキあるいは非常止め装置7を作動させる非常制動指令が制御装置13より出力され、かご3に制動を加え、強制的に制動・停止させる。
【0019】
設定速度は、かご3が昇降路1の頂部終端範囲内ないしは底部終端範囲内にあるとき、頂部終端距離検出装置10あるいは底部終端距離検出装置12が検出した昇降路1の終端までの距離に応じて設定速度変更装置14により、連続的に変化するように決定される。
【0020】
エレベーター装置は、頂部範囲検出装置9と頂部終端距離検出装置10が正しく機能しているかを次のように確認する。
【0021】
(1)頂部範囲検出装置9がかご3を検出したときに、頂部終端距離検出装置10が検 出した距離と、あらかじめ把握している頂部の終端から頂部範囲検出装置9まで の距離を比較する。
(2)底部範囲検出装置11がかご3を検出した時に、底部終端距離検出装置12が検 出した距離と、あらかじめ把握している底部の終端から底部範囲検出装置11ま での距離を比較する。
【0022】
その後、それぞれの両者の距離差が許容距離を越えた場合、異常が発生しているとみなし保守管理会社へ異常発生を連絡する。
【0023】
15は、巻上機6を制御してかご3を最寄階に移動・停止させる異常判定装置であり、かご3が頂部範囲検出装置9により検出されたにもかかわらず頂部終端距離検出装置10が距離を検出しない場合、逆に頂部範囲検出装置9がかご3を検出していないにもかかわらず頂部終端距離検出装置10が距離を検出する場合、かご3を最寄階に移動・停止させると共に、保守管理会社へ異常発生を連絡する。底部範囲検出装置11と底部終端距離検出装置12についても同様である。
【0024】
頂部範囲検出装置9および底部範囲検出装置11には、光電センサやフォトカプラと遮蔽板からなるポジテクタ,接触式のリミットスイッチが望ましく、昇降路1内の特定の位置にレーザ光や音波,磁気を設置して検出装置としても良い。
【0025】
頂部終端距離検出装置10および底部終端距離検出装置12には、レーザ光や音波,磁気を用いた非接触式、ガイドレール2A,2Bや、昇降路1の壁面にエンコーダ付のローラを押し付ける接触式の検出装置とする。なお、頂部終端距離検出装置10と底部終端距離検出装置12は、速度検出装置8を兼ねることが望ましい。
【0026】
距離検出装置としてレーザ光や音波などの反射を利用したセンサを用いる場合、頂部終端距離検出装置10を昇降路1の頂部に、底部終端距離検出装置12をかご3の底部に設置し、検出部分(検出方向)が下向きとなるようにすれば、頂部終端距離検出装置10をかご3に、底部終端距離検出装置12を昇降路1の底部にした場合に比べて埃や上部からの落下物による汚れにくいものとすることができる。
【0027】
速度検出装置8と、頂部範囲検出装置9,頂部終端距離検出装置10および、底部範囲検出装置11,底部終端距離検出装置12は各々1つ設けて1重系とすれば構成が簡単となるが、各々複数設けることで多重系とすれば、信頼性をより高めることができる。また、頂部範囲検出装置9と底部範囲検出装置11は昇降路の高さ方向に2個以上、所定距離だけ離れた位置に設置することで、かご3の移動方向を検出することができるため、速度検出装置8はかご3の移動方向を検出できない装置でも良く、より簡単な構成となる。
【0028】
図2は昇降路1の頂部から底部までの距離を横軸として、エレベーターの通常運転速度16および、設定速度を示す非常制動設定速度17を縦軸に示したものである。図中の頂部終端範囲外および底部終端範囲外にかご3がある場合、かご3の定格速度より大きい所定値、より具体的には、非常制動設定速度17は通常運転速度16の定格速度に所定の係数(例えば1.3や1.4)を乗じた一定の値となる。
【0029】
頂部終端範囲内または底部終端範囲内にかご3がある場合、非常制動設定速度17はかご3に加わる減速度と昇降路1の頂部または下部の終端からかご3までの距離を基準として以下の式のように設定する。ただし、非常制動設定速度17はかご3の位置によらず、頂部終端範囲外および底部終端範囲外にかご3がある時の値を越えない値とする。
【0030】
【数1】

V:設定速度
α:かご3に加わる減速度
x:頂部または底部終端からかご3までの距離
頂部終端範囲および底部終端範囲は以下の式のように定める。
【0031】
【数2】

X:頂部および底部終端範囲
MAX:非常制動設定速度17の最高速度
Δx:余裕距離(正の値)
【0032】
頂部範囲検出装置9は図2中の頂部終端範囲と中間範囲の境界ないし、境界から式2の余裕距離内に設置する。底部範囲検出装置11も同様である。
【0033】
エレベーター装置の非常制動は、階床高さに応じて以下のようになる。
かご3が頂部および底部終端範囲外にある場合、非常制動設定速度17は一定の値に設定されているため、かご3が異常運転により通常運転速度16よりも速い状態となり、速度検出装置8が検出した速度が非常制動設定速度17を越えたときに制御装置13より非常制動指令が出力され、巻上機6に設置された図示しないブレーキ、又は、非常止め装置7によりかご3が強制的に減速・停止される。したがって、仮に主ロープ4が切断されるなどが巻上機6に設置されたブレーキによる制動がかご3に影響を与えない場合でも、かご3は昇降路1の頂部ないしは底部に衝突することなく停止することができる。
【0034】
かご3が頂部に近づき頂部範囲検出装置9により検出されたとき、頂部終端距離検出装置10は頂部の終端からかご3までの距離を測定する。この時、測定された距離と、あらかじめ把握されている頂部の終端から頂部範囲検出装置9までの所定距離を比較し、両者の距離差が許容距離を越えていたとき、異常判定装置15は保守管理会社へ異常発生を連絡するとともに、巻上機6を制御してかご3を最寄階に移動・停止させる。
【0035】
両者の距離差が許容距離内であった場合、設定速度変更装置14は測定された距離に応じて、非常制動設定速度17を変更する。非常制動設定速度17は式1より、頂部からの距離が短くなるほど低くなるため、かご3が頂部に近づくほど非常制動指令が、より早い段階で出力される。したがって、かご3が頂部終端範囲内で異常運転状態となったとしても、巻上機6に設置されたブレーキや非常止め装置7により、かご3が頂部に衝突することなく停止することができる。なお、昇降路1の底部付近についても同様である。
【0036】
図3は、頂部範囲検出装置9と底部範囲検出装置11をかご3の通過を離散的に検出する装置ではなく、終端範囲内にかご3があることを常に検出する装置で構成したものである。
【0037】
頂部範囲検出装置9と底部範囲検出装置11は、かご3側にフォトカプラを、昇降路1側の頂部および底部にそれぞれの終端範囲と同じ長さの遮蔽板を備えること、かご3ないし釣合い錘5、または主ロープ4を検出するレーザ光や電波,音波を用いること、で構成する。
【0038】
頂部範囲検出装置9と底部範囲検出装置11は、頂部終端距離検出装置10と底部終端距離検出装置12と同様、頂部終端ないし底部終端からかご3までの距離を測定することでも良く、この場合、頂部終端距離検出装置10および底部終端距離検出装置12より測定できる距離が短く、精度が同等以下の距離検出装置を用いれば良い。
【0039】
図4は、頂部範囲検出装置9と頂部終端距離検出装置10は、昇降路1の頂部ではなく底部に備えるようにしたものである。頂部範囲検出装置9はかご3が頂部終端範囲内にいるかを検出するのでなく、釣合い錘5が底部終端範囲内にいるかを検出する。同様に頂部終端距離検出装置10は頂部からかご3までの頂部終端距離ではなく、底部から釣合い錘5までの底部終端距離を測定する。かご3と釣合い錘5は主ロープ4でつながっていることから主ロープ4が切断されない限り、釣合い錘5が底部終端範囲内にあるとき、かご3が頂部終端範囲内にあるためである。これにより、頂部範囲検出装置9と頂部終端距離検出装置10と、底部範囲検出装置11と底部終端距離検出装置12をいずれも昇降路1の底部に置くことができる。したがって、それぞれの検出装置の保守点検が容易となり、費やす時間を短縮することができる。なお、同様にすべての検出装置を昇降路1の頂部に置く構成とすることもできるが、この場合主ロープ4が切断されるとかご3が落下した場合にかご3から底部までの距離を測定する手段を失うため、主ロープ4の切断を検出し非常制動信号を出力する装置を備えることが望ましい。
【符号の説明】
【0040】
1 昇降路
2A,2B ガイドレール
3 かご
4 主ロープ
5 釣合い錘
6 巻上機
7 非常止め装置
8 速度検出装置
9 頂部範囲検出装置
10 頂部終端距離検出装置
11 底部範囲検出装置
12 底部終端距離検出装置
13 制御装置
14 設定速度変更装置
15 異常判定装置
16 通常運転速度
17 (非常制動)設定速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内のかごの速度を検出し、検出されたかごの速度が設定速度を越えた場合、前記かごを強制的に減速停止させるエレベーター装置において、
前記昇降路の頂部あるいは底部から予め設定した終端距離内に前記かごがあることを検出する範囲検出装置と、
前記かごが前記終端距離内にある場合、前記昇降路の頂部または下部から前記かごまでの距離を検出する終端距離検出装置と、
を備え、前記設定速度は、前記終端距離検出装置により検出された距離に応じて決定されることを特徴としたエレベーター装置。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記範囲検出装置は、光電センサやフォトカプラと遮蔽板とを備えたポジテクタであることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記終端距離検出装置は、レーザ光あるいは音波の反射を利用したものであり、前記昇降路の頂部から前記かごまでの距離の検出において、前記終端距離検出装置が前記昇降路の頂部に設置され、検出方向が下向きとなるようにされていることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記かごが前記終端距離外にある場合、前記設定速度は前記かごの定格速度より大きい所定値であり、前記かごが前記終端距離内にある場合、前記設定速度は前記昇降路の頂部または下部から前記かごまでの距離が短くなるほど小さな値とされることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、前記かごが終端に近づき前記範囲検出装置により検出されたとき、前記終端距離検出装置により検出された距離と、終端から前記範囲検出装置までの所定距離と、を比較し、両者の差が許容値を越えていた場合、異常と判定されることを特徴とするエレベーター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−269854(P2010−269854A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120459(P2009−120459)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】