説明

エンジンの制御装置

【課題】エンジンに設けられた空燃比センサを簡素な構成で精度よく基準値補正する。
【解決手段】少なくとも燃焼を伴うことなくエンジンを機械的に駆動するための駆動力を付与可能な電動機を有するエンジン1と、エンジン1の吸排気系に配設され空燃比センサ25,26及び27とを備えたエンジンの制御装置であって、エンジン1を電動アシストする電動機34を制御する電動機制御手段35cと、エンジン1の停止時に電動機制御手段35cに電動機34を作動させ、所定時間経過後に電動機34を停止させて空燃比センサ25,26及び27の基準値補正を実施する補正制御手段35dとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アシストシステムを備えたエンジンに設けられた空燃比センサの基準値補正を実施するエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にエンジンは、その吸気通路や排気通路に設けられる酸素センサで検出した酸素濃度や、空燃比センサで検出した空燃比を利用して、燃料噴射制御や排気浄化制御等を実施する。また、エンジンには、排気を再び吸気通路へ導く排気再循環通路(EGR通路)が設けられたものがあり、このEGR通路を介して排気を循環させることにより、排気温度を制御し、排出されるNOx量を低減させる制御を実施する。
【0003】
EGR通路を流通する排気(EGRガス)の量は、EGR通路に設けられた制御弁の開度によって制御される。この制御弁の開度は、EGRガスの吸気通路への導入口(すなわち、EGR通路と吸気通路との接続部)よりも下流側に設けられる酸素センサや空燃比センサの出力値を用いて制御される。例えば、酸素センサで検出される吸気(新気と排気との混合気)の酸素濃度や空燃比センサで検出される吸気の空燃比に基づいて、気筒内での燃焼状態が推定される。この推定された燃焼状態がその時点で要求される適切な燃焼状態となるように制御弁の開度が制御され、EGRガス量が増減調整される。
【0004】
また、エンジンの排気通路には、排気中の窒素酸化物を浄化するための触媒や、排気中に含まれる粒子状物質を捕集するためのフィルタを備えた排気浄化装置が設けられたものがあり、この排気浄化装置によってエンジンの排気が浄化されて、大気中に排気が排出される。この排気浄化装置で行われる種々の制御(例えば、NOxパージ制御やSパージ制御等)には、排気浄化装置の上流側に配設される酸素センサや空燃比センサの出力値が用いられる。また、排気通路に配設される酸素センサや空燃比センサの出力値から、気筒内での燃焼状態が推定されることもある。
【0005】
これらの酸素センサや空燃比センサは、経時変化によってそのセンサ値に誤差が生じ、正確な酸素濃度や空燃比に対するセンサ値を出力することができなくなる場合がある。そのため、このセンサ値の誤差をなくすために、定期的に補正をする必要がある。この補正は、例えば排気を含まない外気環境下で検出されるべきセンサ値の基準値とのずれを修正する(以下、これを基準値補正という)ものであり、一般的にはゼロ点補正と呼ばれるものに相当する。基準値補正を定期的に実施することで、センサの計測精度を高いまま維持することができる。
【0006】
例えば特許文献1には、エンジンの吸気管の還流ガス導入口よりも下流に配設された酸素センサの出力補正に関する技術が記載されている。この技術では、まず、補正計算を行うのに適した状態にするために、フューエルカットやEGR弁を閉じることにより吸気管内の酸素濃度を既知の値(大気中の酸素濃度≒21%)にする。そして、吸気管に設けた圧力センサの出力値を用いて対圧力変化率を算出し、この対圧力変化率に基づき酸素センサの出力を補正する。これにより、酸素センサのもつ圧力依存性を考慮して補正することができるため、常に正確な酸素濃度を検出することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−176577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1の技術は、酸素センサの出力補正(基準値補正)において、酸素センサのもつ圧力依存性を考慮したものであるが、空燃比センサも同様に周囲の圧力の影響を受け(すなわち、検出する気体の圧力によって出力が変化するという圧力依存性を有し)、圧力によって出力値に誤差が生じる。そのため、空燃比センサの基準値補正を実施する場合も、圧力の影響を考慮することが求められている。
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1の技術では、対圧力変化率という係数を算出して、酸素センサの拡散律速層の厚さや細孔の径等で決まる値(センサ固有値)が、その時の運転状態における酸素センサの固有の値となるように更新しながら補正を行うものであるため、演算が複雑である。また、酸素センサの補正の精度が対圧力変化率という係数の算出精度、すなわち圧力センサの検出精度に依存することになるため、補正精度を向上させることが難しい。
【0010】
本件はこのような課題に鑑み案出されたもので、エンジンに設けられた空燃比センサを簡素な構成で精度よく基準値補正することができるようにした、エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)ここで開示するエンジンの制御装置は、少なくとも燃焼を伴うことなくエンジンを機械的に駆動するための駆動力を付与可能な電動機を有するエンジンと、前記エンジンの吸排気系に配設された空燃比センサとを備えたエンジンの制御装置であって、前記電動機を制御する電動機制御手段と、前記エンジンの停止時に前記電動機制御手段に前記電動機を作動させ、所定時間経過後に前記電動機を停止させて前記空燃比センサの基準値補正を実施する補正制御手段とを備えることを特徴としている。
言い換えると、前記補正制御手段は、前記エンジンが停止しているか否かを判定し、前記エンジンが停止していると判定したら、電動機制御手段に前記エンジンの通路内の空気(吸気や排気)を一掃させた上で(前記通路内を掃気させた上で)、前記空燃比センサの基準値補正を実施することを特徴としている。
【0012】
(2)前記空燃比センサが、前記エンジンの排気通路に配設された排気系空燃比センサであることが好ましい。
(3)前記排気通路の圧力を検出する排気系圧力センサを備え、前記補正制御手段が、前記排気系圧力センサで検出された前記排気通路の圧力が大気圧と同等であれば前記排気系空燃比センサの基準値補正を実施することが好ましい。
【0013】
(4)前記エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する排気還流用の還流通路と、前記還流通路を流通する還流ガス量を制御する還流ガス制御手段とを備え、前記空燃比センサが、前記吸気通路と前記還流通路との接続部よりも下流側の前記吸気通路に配設された吸気系空燃比センサであり、前記補正制御手段が、前記エンジンが停止していると判定したら前記還流ガス制御手段に前記還流ガス量を減少させることが好ましい。
(5)前記吸気通路の圧力を検出する吸気系圧力センサを備え、前記補正制御手段が、前記吸気系圧力センサで検出された前記吸気通路の圧力が大気圧と同等であれば前記吸気系空燃比センサの基準値補正を実施することが好ましい。
【0014】
(6)前記補正制御手段が、前回の前記空燃比センサの基準値補正終了後から走行した距離が予め設定された所定距離以上であれば前記基準値補正を実施することが好ましい。
(7)前記電動機が、車両の駆動源として用いられる駆動用電動機であり、前記車両が、少なくとも前記エンジン及び前記電動機の一方を駆動源として走行可能なハイブリッド車であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエンジンの制御装置によれば、エンジンが停止しているときに電動機を所定時間作動させることによって、エンジンの吸排気系に存在する排気を掃気することができ、吸排気系と大気とを同等の状態にすることができる。また、エンジンが停止しているので、エンジンの吸排気系の圧力も大気圧と同等にすることができる。この状態で空燃比センサの基準値補正を実施するため、簡素な構成で精度よく基準値補正を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係るエンジンの制御装置を例示する構成図である。
【図2】一実施形態に係るエンジンの制御装置を備えた車両の構成図である。
【図3】実際の空燃比に対するセンサ出力の関係を示すグラフである。
【図4】一実施形態に係るエンジンの制御装置による空燃比センサの基準値補正を実施するときの制御内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.装置構成]
本実施形態の制御装置は、外部からエンジンを機械的に駆動するための駆動力を付与可能なシステム(電動アシストシステム)を有するディーゼルエンジン(エンジン)に適用される。ここでは、エンジンに駆動力を付与して電動アシストする電動機が、車両の駆動源として用いられる駆動用電動機である。つまり、車両は、少なくともエンジン及び電動機の一方を駆動源として走行可能なハイブリッド車である。
【0018】
まず、図2を用いてハイブリッド車の構成について説明する。図2に示すように、車両(ハイブリッド車)40は、エンジン1の出力軸(回転軸)1aにクラッチ43を介して電動発電機(以下、電動機という)34の回転軸34aが接続され、電動機34の回転軸34aに変速機(T/M)45の入力軸45aが直結されたパラレル式ハイブリッド自動車として構成されている。また、変速機45の出力軸45bは、プロペラシャフト46,図示しないディファレンシャル及びドライブシャフトを介して左右の駆動輪47に接続されている。
したがって、クラッチ43が接続されているときには、エンジン1の出力軸1aと電動機34の回転軸34aの双方が駆動輪47と機械的に接続され、クラッチ43が切断されているときには、電動機34の回転軸34aのみが駆動輪47と機械的に接続された状態となる。
【0019】
電動機34は、バッテリ42に蓄えられた直流電力がインバータ48によって交流電力に変換されて供給されることにより電動機(モータ)として作動し、その駆動力が変速機45によって適切な速度に変換された後に駆動輪47に伝達される。また、車両減速時には、電動機34が発電機として作動し、駆動輪47の回転による運動エネルギが変速機45を介して電動機34に伝達され、交流電力に変換されることにより回生制動力を発生する。そして、この交流電力はインバータ48によって直流電力に変換された後、バッテリ42に充電され、駆動輪47の回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。
【0020】
エンジン1は、クラッチ43の接続時では、その駆動力が電動機34の回転軸34aを経由して変速機45に伝達され、適切な速度に変速された後に駆動輪47に伝達され、車両40を駆動する。つまり、電動機34がモータとして作動しているときにエンジン1の駆動力が駆動輪47に伝達される場合には、エンジン1の駆動力と電動機34の駆動力とがそれぞれ駆動輪47に伝達されて車両40を駆動する。
【0021】
一方、バッテリ42に蓄えられた電力量(すなわちバッテリ42の充電率)が低下してバッテリ42を充電する必要がある場合は、クラッチ43が接続され、エンジン1の駆動力の一部によって電動機34が駆動される。このとき、電動機34は発電機として作動する。これにより発電が行われて、発電された交流電力がインバータ48で直流電力に変換された後にバッテリ42に充電される。すなわち、電動機34が発電機として作動されているときは、エンジン1の駆動力のみ(エンジン1の駆動力の残りの部分のみ)が駆動輪47に伝達され、車両40を駆動する。
【0022】
なお、変速機45の内部には、エンジン1,電動機34側から伝達される駆動力の伝達を遮断する動力断接機構が設けられる。例えば、変速段(変速レンジ)がニュートラル(Nレンジ)の状態では、駆動力が駆動輪に伝達されない。この状態でクラッチ43を接続した場合、エンジン1と電動機34との間で駆動力の授受が行われ、車両40の走行状態はその影響を受けない。つまり、電動機34は車両40の駆動源としてだけでなく、エンジン1の始動機(スターターモーター)として機能しうる。
【0023】
また、車両40には、これら装置を制御する電子制御装置(Electric Control Unit,以下ECUという)が設けられる。すなわち、車両40には、エンジン1を制御するエンジンECU35,インバータ48を制御するインバータECU49,バッテリ42の管理や駆動源の切り替え、エンジンECU35及びインバータECU49を通じて車両40の統合制御を実施する車両ECU41が設けられる。エンジンECU35,インバータECU49及び車両ECU41は、それぞれメモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータである。なお、車両ECU41及びインバータECU49の各機能については、周知の技術を適用可能であるため、詳細については省略する。
【0024】
次に、図1を用いてエンジン1及びエンジンECU35の各構成について説明する。図1には、エンジン1に設けられる複数のシリンダ2のうちの一つを示すが、他のシリンダ2も同様の構成である。エンジン1のシリンダ2内には、上下方向に往復摺動するピストン3が設けられる。ピストン3は、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続される。ピストン3は、その頂面に燃焼室となるキャビティ3aが形成されている。
【0025】
シリンダ2上部のシリンダヘッドには、燃料噴射用のインジェクタ4が設けられる。インジェクタ4は、その先端部がシリンダ2の筒内空間に突出して設けられ、シリンダ2内に直接燃料を噴射する。インジェクタ4から噴射される燃料の噴射方向は、ピストン3のキャビティ3aに向かう方向に設定される。また、インジェクタ4の基端部には燃料配管が接続され、この燃料配管から加圧された燃料がインジェクタ4に供給される。
【0026】
シリンダヘッドには、シリンダ2の筒内空間と連通する吸気ポート5及び排気ポート6が設けられ、これらの各ポート5,6を開閉するための吸気弁7及び排気弁8が設けられる。吸気ポート5の上流側にはインテークマニホールド(以下、インマニという)9が設けられる。このインマニ9には吸気ポート5側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク10が設けられる。サージタンク10よりも下流側のインマニ9は、複数のシリンダ2に向かって分岐するように形成され、その分岐点にサージタンク10が位置する。サージタンク10は、各々のシリンダ2で発生する吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0027】
インマニ9の上流端には、スロットルボディ(図示略)が接続され、スロットルボディの内部には電子制御式のスロットルバルブ11が内蔵され、インマニ9側へと流通する空気量がスロットルバルブ11の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、後述するエンジンECU35によって電子制御される。スロットルボディのさらに上流側には、吸気通路12が接続される。この吸気通路12の最も上流側にはエアフィルタ13が介装され、エアフィルタ13で濾過された新気が吸気通路12に導入される。
【0028】
一方、排気ポート6よりも排気流の下流側には、エキゾーストマニホールド(以下、エキマニという)15,排気通路16及び排気浄化装置17が設けられる。エキマニ15は複数のシリンダ2から合流するように形成され、その下流側の排気通路16に接続される。また、排気通路16に介装された排気浄化装置17は、触媒17aとフィルタ17bとが内蔵されて構成される。この触媒17aは、排気中に含まれる炭化水素(HC)成分や一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)等を浄化する機能を持ち、例えば酸化触媒や三元触媒である。
【0029】
また、フィルタ17bは、排気中に含まれる粒子状物質(Particulate Matter、以下、PMと略称する)を捕集する多孔質フィルタ(例えば、セラミックフィルタ)である。なお、PMとは、炭素からなる黒煙(すす)の周囲に燃え残った燃料や潤滑油の成分,硫黄化合物等が付着した粒子状の物質である。フィルタ17bでは、捕集されたPMが連続的に酸化された後に、エンジンECU35によってPMが強制的に燃焼されてフィルタ17bを再生する再生制御が実施される。
【0030】
また、このエンジン1の吸排気系には、排気圧を利用してシリンダ2内に吸気を過給するターボチャージャー(過給機)18が設けられる。ターボチャージャー18は、吸気通路12と排気通路16との両方にまたがって介装された過給機である。ターボチャージャー18は、排気通路16内の排気圧でタービンを回転させ、その回転力を利用してコンプレッサを駆動することにより、吸気通路12側の吸気を圧縮してエンジン1への過給を行う。なお、吸気通路12におけるコンプレッサよりも吸気流の下流側にはインタクーラー14が設けられ、圧縮された空気が冷却される。
【0031】
本実施形態に係るエンジン1には、排気通路16を流通する排気を吸気通路12へ還流させる二つの還流通路(排気再循環通路やEGR通路ともいう)が設けられる。第一の還流通路(以下、第一還流通路という)19は、排気浄化装置17の下流側の排気通路16とターボチャージャー18のコンプレッサよりも上流側の吸気通路12(ここでは、エアフィルタ13の下流)とを連通し、いわゆる低圧EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路を構成する。
【0032】
第一還流通路19と吸気通路12との接続部には、第一制御弁(還流ガス制御手段)20が内蔵され、第一還流通路19を流通する還流ガス量(すなわち、吸気通路12へ導かれる排気の量)が第一制御弁20の開度に応じて調節される。還流ガス量は、第一制御弁20の開度が大きいほど増加し、開度がゼロ(閉弁)のときにゼロとなる。第一制御弁20の開度は、エンジンECU35に設けられた開閉制御部35bによって制御される。
【0033】
第二の還流通路(以下、第二還流通路という)22は、ターボチャージャー18のタービンよりも上流側の排気通路16とコンプレッサよりも下流側の吸気通路12とを連通し、いわゆる高圧EGR通路を構成する。第二還流通路22と吸気通路12との接続部には、第二制御弁(還流ガス制御手段)23が内蔵され、第二還流通路22を流通する還流ガス量が第二制御弁23の開度に応じて調節される。第二還流通路22からの還流ガス量は、第二制御弁23の開度が大きいほど増加し、開度がゼロ(閉弁)のときにゼロとなる。この第二制御弁23の開度も、エンジンECU35に設けられた開閉制御部35bによって制御される。
【0034】
したがって、エンジン1の吸気ポート5には、新気と第一還流通路19及び第二還流通路22から流入する排気(還流ガス)とが混合された吸気(混合気)が導入される。このように吸気中に還流ガスが混合されることで、過度の排気温度上昇やNOxの排出が抑制される。なお、第一還流通路19及び第二還流通路22には、それぞれ還流ガスを冷却するための還流ガスクーラー21,24が設けられる。
【0035】
吸気通路12には、吸気の空燃比を検出するための二つの吸気系空燃比センサが配設される。第一の空燃比センサ25は、吸気通路12と第一還流通路19との接続部(第一制御弁20が内蔵される部分)の下流に設けられるコンプレッサよりも下流側であって、かつ、吸気通路12と第二還流通路22との接続部よりも上流側に配設される。第二の空燃比センサ26は、吸気通路12と第二還流通路22の接続部(第二制御弁23が内蔵される部分)よりも下流側に配設される。
【0036】
この第一の空燃比センサ25及び第二の空燃比センサ26(以下、特に区別しない場合は単に吸気系空燃比センサ25,26という)は、吸気通路12を流通する吸気の酸素濃度を検出し、酸素濃度にほぼ比例するセンサ値を出力する、いわゆるリニア空燃比センサである。吸気系空燃比センサ25,26は、例えば図2中に実線で示すように、空燃比(酸素濃度)が大きいほど電圧信号や電流信号等の出力を増大させる特性を持つ。吸気系空燃比センサ25,26で検出された酸素濃度に対応する出力信号はエンジンECU35へ伝達される。また、吸気通路12には、吸気の圧力(吸気圧力)を検出する吸気系圧力センサ28が、第二制御弁23とスロットルバルブ11との間に配設される。
【0037】
排気通路16には、排気の空燃比を検出するための空燃比センサ(以下、排気系空燃比センサという)27が配設される。ここでは、排気系空燃比センサ27は、排気浄化装置17の触媒17aの上流側であって、触媒17a及びフィルタ17bを収納するケーシングに配設される。この排気系空燃比センサ27は、排気通路16を流通する排気の酸素濃度を検出し、酸素濃度にほぼ比例するセンサ値を出力する、いわゆるリニア空燃比センサであって、上記の吸気系空燃比センサ25,26と同様の特性を有するものである。
【0038】
また、排気通路16には、排気の圧力(排気圧力)を検出する排気系圧力センサ29が、排気浄化装置17の触媒17aの上流側であって、触媒17a及びフィルタ17bを収納するケーシングに配設される。また、車両の任意の位置には、大気圧を検出する圧力センサ(大気圧センサ)30が設けられ、この大気圧センサ30により車両が走行している場所の圧力(大気圧)が検出される。
【0039】
クランクシャフトには、その回転角を検出するクランク角センサ31が設けられる。回転角の単位時間あたりの変化量はエンジン1の実回転数に比例する。したがって、クランク角センサ31はエンジン1の実回転数を検出する機能を持つものといえる。ここで検出(または演算)された実回転数の情報は、エンジンECU35に伝達される。なお、クランク角センサ31で検出された回転角に基づき、エンジンECU35で実回転数を演算する構成としてもよい。以下、エンジン1の実回転数のことを単にエンジン回転数という。
【0040】
車両に設けられたエンジンECU35は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインを介して上記した車両ECU41や第一制御弁20,第二制御弁23,各種センサ類と接続される。
【0041】
このエンジンECU35は、エンジン1に関する点火系,燃料系及び吸排気系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置である。エンジンECU35の具体的な制御対象としては、通常運転時やアイドル時にインジェクタ4から噴射される燃料量や噴射時期,還流ガス量を制御する第一制御弁20及び第二制御弁23の開度,スロットルバルブ11の開度,フィルタ17bの再生制御等が挙げられる。本実施形態では、吸気通路12に配設された吸気系空燃比センサ25,26及び排気通路16に配設された排気系空燃比センサ27の酸素濃度の基準値補正について詳述する。
【0042】
基準値補正とは、例えば重さを量る秤では、何も載せない状態で秤が基準値であるゼロを指すように調整すること(一般的にはゼロ点補正と呼ばれるもの)に相当し、計測装置自体を調整できる場合はこの装置自体を調整することをいう。また、その装置自体の調整ができない場合は、本来は基準値であるゼロであるはずのときの指示値(すなわち、基準値からのずれ,誤差)を記憶し、次回以降は計測された値からこの指示値を減算する補正をした値を本来の値とすることをいう。ここでいう基準値補正は後者を意味する。
【0043】
つまり、吸気通路12に配設された吸気系空燃比センサ25,26及び排気通路16に配設された排気系空燃比センサ27自体の調整はできないため、吸気通路12及び排気通路16を大気の状態と同等にしたときに吸気系空燃比センサ25,26及び排気系空燃比センサ27で検出されたセンサ値(酸素濃度に対応する出力信号;例えば電圧信号,電流信号等)を、大気の状態(酸素濃度≒21%)と比較する。このとき、大気の酸素濃度(基準値)に対してずれ(誤差)がある場合にはその誤差を記憶する。そして、次回以降は、吸気系空燃比センサ25,26及び排気系空燃比センサ27で検出されるセンサ値からこの誤差を加算又は減算した値を、吸気通路12及び排気通路16内の実際の酸素濃度に対応する出力信号であるものと判断する。このような補正演算のことを吸気系空燃比センサ25,26及び排気系空燃比センサ27の酸素濃度の基準値補正という。
【0044】
[2.制御構成]
エンジンECU35には、上記の基準値補正を実施するための機能要素として、アイドルストップ制御部35a,開閉制御部35b,モータ制御部35c及び補正制御部35dが設けられる。
【0045】
アイドルストップ制御部35aは、所定の自動停止条件(アイドルストップ条件)が成立したか否かを判定し、自動停止条件が成立したと判定されたらエンジン1を自動的に停止させるものである。ここでいうエンジン1の停止とは、インジェクタ4からの燃焼噴射を停止することを意味する。すなわち、クランクシャフトが慣性でわずかに回転している状態でも、燃料噴射が停止されていればエンジン1は停止しているものとする。また、自動停止条件とは、例えば、車速がゼロでブレーキ操作がされていることや、車速がゼロでアクセル操作がされていないこと等である。このアイドルストップ制御部35aの制御構成は、周知の技術を種々適用可能であり詳細は省略する。
【0046】
開閉制御部(還流ガス制御手段)35bは、還流通路19,22を流通する還流ガスを制御する第一制御弁20及び第二制御弁23の開度(開閉)を制御するものである。この開閉制御部35bは、エンジン1への出力要求や排気温度等との関係から、第一制御弁20及び第二制御弁23の開度をそれぞれ調節して還流ガス量を制御する。また、この開閉制御部35bは、補正制御部35dから後述する還流ガス遮断指令を受けた場合は、還流ガスを減少させるべく第一制御弁20及び第二制御弁23の開度を小さくし、還流ガスの流通を抑制する。ここでは、開閉制御部35bは、還流ガス遮断指令を受けたら、基準値補正に最も適した状態である「還流ガス量がゼロ」という状態にするために、第一制御弁20及び第二制御弁23を完全に閉弁し、還流ガスを遮断する。
【0047】
モータ制御部(電動機制御手段)35cは、エンジン1を電動でアシストする(すなわち、燃料噴射せずにクランキングする)電動機34を制御するものである。ここでは、電動機34はエンジン1とともに車両40の駆動源であり、モータ制御部35cは車両ECU41からの指令に基づいて、電動機34をモータや発電機として作動させる。また、モータ制御部35cは、補正制御部35dからエンジン1を電動アシストするように指令を受けたら、エンジン1を電動アシストする制御を行う(以下、この制御をモータリングという)。つまり、モータ制御部35cは、補正制御部35dから上記の指令を受けたら電動機34を作動させ、エンジン1のクランクシャフトを回転させて電動アシストする。これにより、エンジン1において燃料噴射が停止されているときでも、ピストン3を上下方向に往復摺動させる。
【0048】
補正制御部(補正制御手段)35dは、空燃比センサ25,26及び27の酸素濃度の基準値補正が必要であるか否かを判定し、必要であると判定した場合に開閉制御部35b及びモータ制御部35cに対して指令を発して、これらの制御部35b及び35cに基準値補正のための制御をさせるものである。ここで、上記した吸気系空燃比センサ25,26及び排気系空燃比センサ27の基準値補正を実施するためには、吸気通路12及び排気通路16内の酸素濃度をそれぞれ大気の状態と同等にすることが必要とされる。さらにここでは、吸気通路12及び排気通路16内の圧力も大気圧と同等にし、圧力の影響を排除してより精度よく吸気系空燃比センサ25,26及び排気系空燃比センサ27の基準値補正を実施する。以下、補正制御部35dで実施される判定内容及び制御内容(指令内容)を説明する。
【0049】
まず、補正制御部35dは、車両40の走行距離が予め設定された所定距離以上であるか否かを判定する。補正制御部35dは、走行距離が所定距離以上であると判定したら空燃比センサ25,26及び27の基準値補正が必要であると判断し、走行距離が所定距離未満であると判定したら基準値補正は不要であると判断する。つまり、この判定は空燃比センサ25,26及び27の基準値補正の要否判定である。以下、基準値補正の必要があると判断されるための「走行距離が所定距離以上である」という条件を、補正条件という。
【0050】
なお、ここでいう走行距離は、前回の空燃比センサ25,26及び27の基準値補正終了後から走行した距離である。つまり、基準値補正終了後から走行距離は積算され、基準値補正が実施されたらそれまで積算された走行距離がゼロにリセットされて再び積算が開始される。また、判定閾値である所定距離は、空燃比センサ25,26及び27が経時変化によってそのセンサ値に誤差を生じ始めるまでの距離であり、予め実験等によって求められる。
【0051】
補正制御部35dは、上記の補正条件が成立したと判定すると、次にエンジン1が停止しているか否かを判定する。このエンジン1の停止は、例えば上記のアイドルストップ制御部35aによって自動停止条件が成立したと判定されてエンジン1を停止する指令を受けてエンジン1が停止された場合や、エンジン1を停止させて電動機34のみで走行しているような場合である。エンジン1の停止により、吸気が停止されるため吸気通路12及び排気通路16内の圧力が大気圧と同等となる。なお、本実施形態ではターボチャージャー18が設けられているが、エンジン1の停止によりこの作動も停止するため、過給による圧力変化もなくなる。
【0052】
補正制御部35dは、エンジン1が停止していると判定したら、モータ制御部35cに対して、エンジン1を電動アシストするように指令を発し、電動機34を作動させてモータリングを開始する。補正制御部35dは、この指令と同時に、開閉制御部35bに対して、第一制御弁20及び第二制御弁23をいずれも閉弁するように指令を発し、還流ガス量をゼロとする。つまり、エンジン1が停止しているときに、還流ガスをカットするとともに電動機34を作動させてモータリングすることにより、吸気通路12及び排気通路16内の排気を一掃する。言い換えると、吸気通路12及び排気通路16内には新気のみが流通することになり、吸気通路12及び排気通路16内の酸素濃度を大気の酸素濃度と同等にする。
【0053】
また、補正制御部35dは、上記の電動アシストの指令を発すると同時にタイマーをスタートさせ、モータリングしている時間を計測する。そして、モータリング時間が所定時間以上となったらモータ制御部35cに対して電動機34を停止するように指令を発し、電動機34を停止させてモータリングを終了する。すなわち、補正制御部35dは、エンジン1が停止していると判定してから所定時間のみ電動機34を作動させて、吸気通路12及び排気通路16内の排気を掃気する。
【0054】
なお、ここでいう所定時間は、排気を全て掃気するためにかかる時間であって、電動機34によるエンジン回転数と吸気通路12及び排気通路16の総延長(吸気通路12と排気通路16の総体積)とによって設定される。つまり、所定時間は、予め設定された吸気通路12及び排気通路16の総延長に応じて、クランク角センサ31で検出されたエンジン回転数が速いほど短く設定され、エンジン回転数が遅いほど長く設定される。また、この他に、吸気通路12及び排気通路16の通路形状や流路抵抗等に応じて所定時間を設定してもよい。
【0055】
補正制御部35dは、エンジン1が自動停止されたら、吸気系圧力センサ28で検出された吸気通路12内の圧力及び排気系圧力センサ29で検出された排気通路16内の圧力が、ともに大気圧センサ30で検出された大気圧と同等であるか否かを判定する。エンジン1が自動停止された場合は、吸気通路12及び排気通路16内の圧力は大気圧と同等となるはずであるが、補正の精度をより高めるために実際に圧力を検出して大気圧と同等であるか否かを判定する。補正制御部35dは、吸気通路12内の圧力が大気圧と同等であると判定したら、吸気系空燃比センサ25,26の基準値補正を実施可能であると判断し、排気通路16内の圧力が大気圧と同等であると判定したら、排気系空燃比センサ27の基準値補正を実施可能であると判断する。なお、吸気通路12及び排気通路16内の酸素濃度や圧力が大気の状態と「同等」とは、完全一致でなくても略一致していればよいという意味である。すなわち、数%の誤差は許容されるという意味である。
【0056】
補正制御部35dは、空燃比センサ25,26及び27の基準値補正が実施可能であると判断したら、空燃比センサ25,26及び27の酸素濃度の基準値補正を実施する。エンジンECU35には、予め酸素濃度(空燃比)に対する空燃比センサ25,26及び27による出力の関係(図3のようなマップ)がセンサ毎に記憶されている。補正制御部35dは、基準値補正が実施可能であると判断したら、このマップの補正を実施する。
【0057】
補正制御部35dが行う空燃比センサ25,26及び27の基準値補正について図3を用いて説明する。なお、ここでは例として空燃比センサ25について説明するが、空燃比センサ26及び27についても同様である。図3は、実際の空燃比(酸素濃度)に対するセンサ値(出力)の関係を示すグラフである。空燃比センサ25が新品のときは、図3中に実線で示すグラフaのような空燃比と出力との関係を有し、空燃比がAのときはグラフa上の点PAのセンサ値XAが検出される。
【0058】
しかし、空燃比センサ25は経時変化すると、出力に誤差を生じる。例えば、図3に示すように、実際の空燃比がAであっても、空燃比センサ25からの出力がXBとなり、センサ値に誤差ΔX(=XA−XB)を生じる。言い換えると、空燃比センサ25からの出力がXBのときグラフa上では点PA′となるため、このときの空燃比はA′であると判断されるが、実際の空燃比はAであるため、空燃比にずれを生じる。そこで、この誤差がどの程度あるのかを知るために、実際の空燃比をある既知の値とし、このとき空燃比センサ25から出力されるセンサ値がこの既知の空燃比に対応する出力信号(センサ値)でなかったときは、その分のセンサ値の誤差を記憶する。そして、次回以降の空燃比センサ25による検出時において、出力されたセンサ値に記憶した誤差を加算又は減算して、実際の空燃比を判断するようにする。
【0059】
例えば、実際の空燃比(ここでは酸素濃度)を既知の値である大気中の酸素濃度A(約21%)としたときに、空燃比センサ25で出力されるべきセンサ値はXAでなければならないのに、センサ値XBが出力されたとする。このときのセンサ値の誤差はΔX(=XA−XB)となるため、このΔXがエンジンECU35に記憶される。そして、次回以降、空燃比センサ25で出力されるセンサ値には、この誤差ΔXが常に加算されることにより、実際の酸素濃度を検出することができるようになる。
【0060】
つまり、補正制御部35dは、酸素濃度Aのときにセンサ値XBが出力される(すなわち、点PBとなる)ように、図3に示すグラフaを右側にシフトさせる補正をし、経時変化した空燃比センサ25における空燃比に対する出力の関係を示す新たなグラフbを作成する。そして、次回以降の空燃比センサ25による検出では、このグラフbを用いることで空燃比センサ25の経時変化を考慮し、正確な空燃比を検出することが可能となる。
【0061】
[3.フローチャート]
次に、図4を用いて、エンジンECU35の補正制御部35d実施される空燃比センサ25,26及び27の基準値補正の手順の例を説明する。このフローチャートは所定の周期で動作する。また、下記の各ステップは、コンピュータのハードウェアに割り当てられた各機能(手段)が、ソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することによって実施される。
ドライバによる車両のイグニッションスイッチ(IG_SW)のオン操作が行われると、図4に示す制御フローがスタートする。
【0062】
図4に示すように、まず、ステップS10において、フラグF=0であるか否かを判定する。ここで、フラグFとは、上述した補正制御部35dにおいて、補正条件が成立したか否かをチェックするための変数であり、制御開始時はフラグF=0と設定されている。そのため、制御開始時はステップS10においてYESルートとなり、ステップS20へ進む。ステップS20において、走行距離が所定距離以上であるか否かが判定される。走行距離が所定距離以上であれば、YESルートからステップS30へ進み、フラグFがF=1に設定されてステップS40へ進む。一方、走行距離が所定距離未満の場合は、NOルートへ進み制御フローがリターンされる。したがって、走行距離が所定距離以上になった後には、フラグFの状態が変化しない限り、ステップS40以降のフローが繰り返される。
【0063】
ステップS40では、エンジン1が停止されているか否かが判定される。エンジン1が停止されているときはYESルートからステップS50へ進み、開閉制御部35bに対して第一制御弁20及び第二制御弁23をいずれも閉弁させ、モータ制御部35cに対して電動機34を作動させる(モータリング開始)。これにより、吸気通路12及び排気通路16内に残留する排気の掃気が実施される。また、モータリング開始と同時にタイマーがスタートされてモータリング時間が計測される。
【0064】
次いでステップS60において、モータリング時間が所定時間以上であるか否かが判定される。モータリング時間が所定時間未満のときはNOルートへ進み、制御フローがリターンされてステップS10へ進む。このとき、前回のステップS30でフラグFがF=1に設定されていれば、ステップS10の判定ではNOルートからステップS40へ進む。ステップS40では、再びエンジン1が停止しているか否かが判定される。エンジン1が停止しているときは、ステップS50を経てステップS60の判定ステップへ進み、モータリング時間が所定時間以上になるまで繰り返される。
【0065】
一方、ステップS40において、エンジン1が停止していない場合は、NOルートからステップS45へ進む。そして、ステップS45においてモータリング中であるか(すなわち、開閉制御部35bによって第一制御弁20及び第二制御弁23がいずれも閉弁され、モータ制御部35cによって電動機34が作動されているか)否かが判定される。モータリング中であればYESルートからステップS55へ進み、電動機34の作動と、第一制御弁20及び第二制御弁23の制御(還流ガスの制御)とを通常の運転モード(すなわち、エンジン1の出力要求や排気温度等に応じた開度)へ戻すようにモータ制御部35c及び開閉制御部35bに指示し(モータリング停止し)、計測していたモータリング時間をリセットして制御フローがリターンされる。また、ステップS45において、モータリング中でないと判定された場合は、NOルートに進みそのまま制御フローがリターンされる。
【0066】
つまり、空燃比センサ25,26及び27の基準値補正が必要であると判定されてフラグFがF=1に設定されたときであっても、エンジン1が停止していないときは、制御フローがリターンされて基準値補正は実施されない。この場合は、ステップS30においてフラグFがF=1に設定されているため、ステップS10の判定で常にNOルートへ進み、ステップS40においてエンジン1が停止していると判定されるまで制御フローが繰り返される。
【0067】
ステップS60において、モータリング時間が所定時間以上であると判定されたら、YESルートからステップS70へ進み、モータリングが停止される。そして、ステップS80で吸気圧力が大気圧と同等であるか否かが判定され、吸気圧力が大気圧と同等であればYESルートからステップS90へ進み、排気圧力が大気圧と同等であるか否かが判定される。排気圧力も大気圧と同等であるときは、YESルートからステップS100へ進み、空燃比センサ25,26及び27の基準値補正が実施される。次いでステップS110においてフラグFがF=0にリセットされ、制御フローがリターンされる。
【0068】
一方、ステップS80又はステップS90において、吸気圧力又は排気圧力が大気圧と同等でないと判定された場合は、いずれもNOルートからステップS120へ進み、何らかの原因で吸気圧力や排気圧力が大気圧と同等とならなかったため、エラーと判断してステップS110へ進み、フラグFがF=0にリターンされ、制御フローがリターンされる。つまり、本来であれば、エンジン1を停止すれば、吸気圧力及び排気圧力は大気圧と同等になるはずであるが、この制御周期においてはそれが成立しなかったため、この制御周期では基準値補正を実施せず、次回以降の制御周期において、条件が成立したときに基準値補正を実施する。
【0069】
[4.効果]
したがって、本制御装置によれば、エンジン1が停止しているときに電動機34を所定時間作動させることにより、エンジン1の吸排気系の排気を掃気することができ、吸排気系と大気とを同等の状態にすることができる。また、エンジン1が停止しているので、吸排気系の圧力も大気圧と同等である。この状態で空燃比センサ25,26及び27の基準値補正を実施するため、簡素な構成で精度よく補正を実施することができる。
【0070】
また、排気系は燃焼ガスの影響で酸素濃度が大気と同等となる機会が少なく、学習頻度が少ないため、排気系空燃比センサ27の経時変化によって実際の空燃比に対するセンサ値の誤差が大きくなり易い。これに対して、本制御装置では、電動機34により排気通路16内の排気を掃気するため、排気通路16内を大気と同等の酸素濃度にすることができる。さらにエンジン1の停止によって排気通路16内の圧力も大気圧と同等にすることができる。この状態で排気通路16に配設された排気系空燃比センサ27の基準値補正を実施するため、精度よく補正を実施することができる。
【0071】
さらにこのとき、排気系圧力センサ29で排気通路16の圧力を実際に検出して、大気圧センサ30で検出した大気圧と同等であるか否かを確認し、同等であれば排気系空燃比センサ27の基準値補正を実施するため、より精度よく排気系空燃比センサ27の補正を実施することができる。
【0072】
また、エンジン1が停止しているときに、開閉制御部35bによって還流ガス量を減少させ、電動機34を所定時間作動させて吸気通路12内に導入された排気を掃気するため、吸気系空燃比センサ25,26についても精度よく基準値補正を実施することができる。
さらにこのとき、吸気系圧力センサ28で吸気通路12の圧力を実際に検出して、大気圧センサ30で検出した大気圧と同等であるか否かを確認し、同等であれば吸気系空燃比センサ25,26の基準値補正を実施するため、より精度よく吸気系空燃比センサ25,26の補正を実施することができる。
【0073】
また、補正制御部35dによって走行距離を積算し、この積算された走行距離が所定距離以上になったら基準値補正を実施することにより、適切なタイミングで空燃比センサ25,26及び27の基準点補正を実施することができる。
また、電動機34が駆動用電動機であり、電動機34のみでも走行可能なハイブリッド車40に適用されているため、車両40の走行中であってもエンジン1が停止していれば空燃比センサ25,26及び27の基準値補正を実施することができる。つまり、空燃比センサ25,26及び27の基準値補正を実施できる頻度が増加し、空燃比センサ25,26及び27の計測精度が高い状態を維持することができる。
【0074】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上記実施形態では、基準値補正を実施するか否かを判定するときに、まず走行距離によって判断しているが、走行距離にかかわらず、補正を実施できる条件が成立したときは常に補正をするように構成してもよい。この場合、空燃比センサ25,26及び27の計測精度を高い状態により維持することができる。
【0075】
エンジン1が停止しているか否かの判定の代わりに、自動停止条件が成立しているか否かを判定し、自動停止条件が成立しているときに補正制御部35dがエンジン1を停止させるように構成してもよい。つまり、エンジン1が停止されるのを待つのではなく、補正制御部35dが積極的にエンジン1を停止させる構成としてもよい。
また、エンジン1が停止していると判定してから電動機34を作動させる所定時間は、予め設定された固定値としてもよい。
【0076】
また、還流ガスが完全に遮断されている場合に限られず、吸気通路12内の酸素濃度を大気の酸素濃度と同等にすることができる程度であれば、僅かに還流ガスが吸気通路12へ導入されていてもよい。
また、本制御装置によって基準値補正を行う対象となる空燃比センサは、上記したような酸素濃度にほぼ比例した出力を検出するリニア空燃比センサでなくてもいい。また、空燃比センサは、酸素濃度を検出するものでなくてもよい。少なくとも、燃焼反応に係る気体の物質量を測定可能なものであればよく、例えば二酸化炭素濃度を検出することで空燃比を検出するようなセンサであってもよい。つまり、空燃比センサとは、酸素濃度を検出するものに限られず、基準値補正も酸素濃度の基準値補正に限られない。
【0077】
また、エンジン1の構成は、図1に示したものに限られない。排気系空燃比センサ27及び排気系圧力センサ29の位置は、上記したものに限られない。例えば、タービンの上流側に配設されていてもよく、排気浄化装置17の下流側にさらに排気浄化装置が設けられているような場合であれば、排気浄化装置17の下流側に配設されていてもよい。例えば還流通路は第一還流通路19及び第二還流通路22のいずれか一方であってもよい。この場合は、空燃比センサも一つ設けられていればよい。また、還流通路が設けられていない構成であってもよく、この場合は吸気系空燃比センサは不要である。また、ターボチャージャー18は設けられていなくてもよい。
【0078】
また、本制御装置は、ディーゼルエンジンが搭載された車両に限られず、ガソリンエンジンが搭載された車両にも適用可能である。また、本制御装置は、ハイブリッド車に限られず、セルモータなどエンジンを電動アシストすることができる車両であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 ディーゼルエンジン(エンジン)
12 吸気通路
16 排気通路
19 第一還流通路(還流通路)
20 第一制御弁(還流ガス制御手段)
22 第二還流通路(還流通路)
23 第二制御弁(還流ガス制御手段)
25,26 吸気系空燃比センサ(空燃比センサ)
27 排気系空燃比センサ(空燃比センサ)
28 吸気系圧力センサ
29 排気系圧力センサ
30 大気圧センサ
34 電動発電機(電動機)
35 エンジンECU
35a アイドルストップ制御部(アイドルストップ制御手段)
35b 開閉制御部(還流ガス制御手段)
35c モータ制御部(電動機制御手段)
35d 補正制御部(補正制御手段)
40 車両(ハイブリッド車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも燃焼を伴うことなくエンジンを機械的に駆動するための駆動力を付与可能な電動機を有するエンジンと、前記エンジンの吸排気系に配設された空燃比センサとを備えたエンジンの制御装置であって、
前記電動機を制御する電動機制御手段と、
前記エンジンの停止時に前記電動機制御手段に前記電動機を作動させ、所定時間経過後に前記電動機を停止させて前記空燃比センサの基準値補正を実施する補正制御手段とを備える
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記空燃比センサが、前記エンジンの排気通路に配設された排気系空燃比センサである
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記排気通路の圧力を検出する排気系圧力センサを備え、
前記補正制御手段が、前記排気系圧力センサで検出された前記排気通路の圧力が大気圧と同等であれば前記排気系空燃比センサの基準値補正を実施する
ことを特徴とする、請求項2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する排気還流用の還流通路と、前記還流通路を流通する還流ガス量を制御する還流ガス制御手段とを備え、
前記空燃比センサが、前記吸気通路と前記還流通路との接続部よりも下流側の前記吸気通路に配設された吸気系空燃比センサであり、
前記補正制御手段が、前記エンジンが停止していると判定したら前記還流ガス制御手段に前記還流ガス量を減少させる
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記吸気通路の圧力を検出する吸気系圧力センサを備え、
前記補正制御手段が、前記吸気系圧力センサで検出された前記吸気通路の圧力が大気圧と同等であれば前記吸気系空燃比センサの基準値補正を実施する
ことを特徴とする、請求項4記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記補正制御手段が、前回の前記空燃比センサの基準値補正終了後から走行した距離が予め設定された所定距離以上であれば前記基準値補正を実施する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記電動機が、車両の駆動源として用いられる駆動用電動機であり、
前記車両が、少なくとも前記エンジン及び前記電動機の一方を駆動源として走行可能なハイブリッド車である
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83208(P2013−83208A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223977(P2011−223977)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】