説明

エンジンシステム

【課題】エンジンの制御装置において、使用する燃料由来の排ガスの性状をオンラインで検出して不具合の発生を未然に防止する。
【解決手段】第1燃料タンクから供給された燃料Fを用いてエンジンを駆動させた際に発生する排ガス201の一部を分取し、排ガス201中にレーザ光11Bを照射することにより発生する第1のラマン散乱光15Aにより、排ガス中の粒子状物質や炭化水素を計測するレーザ分析装置10Aを設け、レーザ分析装置10Aでの分析の結果、排ガス成分の結果より、燃料の良否を燃料判定手段41により判定し、燃料判定手段51の判定結果に基づいて前記エンジンを制御装置42により制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、重油を燃料として使用するディーゼルエンジンにおいて、この燃焼排ガスの性状を判定することができるエンジンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、船舶に適用されるディーゼルエンジンは、主に燃料として重油が使用される。このディーゼルエンジンに使用される重油は、石油の精製過程で、軽油などの良質な油が精製されたあとに残るものであり、粘性が高いものとなっている。近年、この石油精製工程の進歩により石油残渣に近いC重油が取り出され、燃料として使用されるようになってきている。ところが、このC重油は、重油の中でも特に粘性が高いものであり、ディーゼルエンジンの燃料として使用する場合には、燃焼性がばらついてしまう。近年、厳しさを増している環境規制の動向及びエンジン自身の安定運転の実現を鑑みるとき、その解決手段として、燃焼排ガス中の粒子状物質や炭化水素(HC)の濃度をオンラインで計測することが求められている。
【0003】
従来、燃料ガス中のダスト(粒子状物質)成分の濃度を、レーザ照射によるミー散乱光により計測することが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−24249号公報
【特許文献2】特開2005−24250号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS Z 8808「排ガス中のダスト濃度の測定方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のレーザ装置で粒子状物質濃度を求めるには、ミー散乱光を計測するという独自の操作が必要であった。例えばレーザラマン散乱分析を実施する場合には、ミー散乱による粒子物質分析を実施するためには、それとは別の計測装置が必要であった。
しかしながら、独立の装置構成は大掛かりとなり、コンパクトなガス成分分析と、粒子状物質濃度分析とを同時にできる分析手法の確立が要望されている。
特に、単一の検知手段のみを使用することにより、複数の分析(ガス組成、粒子状物質濃度、炭化水素濃度)を実現することができれば、装置内部品点数を減少でき、コンパクトな分析装置が提供できることとなる。すなわち、複数の分析装置を用いる場合には、各々の装置のメンテナンスが必要となり、コストと手間がかかるという問題もある。
また、測定対象の同時性(同じ試料を測定)が失われるため、分析精度が悪化する問題がある。
【0007】
特に、航行中の船舶のディーゼルエンジンジンの不完全燃焼等に由来する排ガス中の炭素由来の粒子状物質(PM(Particulate Matter))に起因するようなトラブルが発生した場合においては、航行中に分析することができず、その分析結果が出るまでに長期間を要し、その対策実施までの期間、多くの損失を招いているのが現状であるので、粒子状物質の検出と炭化水素濃度の簡易迅速な計測装置の出現が求められている。
【0008】
また、近年はディーゼルエンジンのランニングコストの低減のために、粗悪質の燃料が使用される一方、排ガス規制は年々厳しくなってきており、粒子状物質の排出の抑制のみならず、炭化水素(HC:hydrocarbons)類、ガス状物質、特に多環芳香族炭化水素(PAH:polycyclic aromatic hydrocarbons)の低減のための簡易な分析手法の確立及びその対策が切望されている。
【0009】
上述したように、ディーゼルエンジンは、燃料として使用する重油の品質がばらつき、この重油の粗悪化が進んだ場合、エンジンの着火遅れなどの問題が発生するおそれがある。エンジンの着火遅れが発生すると、ピストンが下降したときに燃焼室で燃焼が開始され、火炎に対するシリンダライナの露出面積が大きくなり、このシリンダライナは広い範囲で熱負荷を受けることとなる。その結果、エンジンは、潤滑油の蒸発による潤滑油不足が生じ、局所的な劣化やコーキングなどが発生するおそれがある。
【0010】
そのためには、エンジン内にて、導入される粒子物質(PM)や、炭化水素類の総量を把握することが必要となるが、従来の分析法を単に適用するには、間欠的な分析となり、時間がかり、総量を求める際に十分な精度が得られず、分析頻度を確保するのにもコスト面で、実現困難であるという問題がある(非特許文献1:JIS Z 8808「排ガス中のダスト濃度の測定方法」)。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、使用する燃料としての重油の性状を、燃焼後の排気ガスの組成、粒子物質及び炭化水素類をオンラインで検出し、エンジンに導入される各々の総量を把握することで、その不具合の発生を未然に防止するエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、第1燃料タンクから供給された燃料を用いてエンジンを駆動させた際に発生する排ガスの一部を分取し、排ガス中のガス組成、粒子状物質及び炭化水素を計測する分析装置と、該分析装置での分析し、ガス状の粒子物質、炭化水素類の総量を求め、ガス中の粒子状物質又は炭化水素が所定の閾値を超えているか否かを確認し、燃料の良否を判定する燃料判定手段とを具備し、燃料判定手段の判定結果に基づいて前記エンジンを制御する、ことを特徴とするエンジンシステムにある。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記分析装置は、排ガス中にレーザ光を照射することにより発生するラマン散乱光又はミー散乱光により、排ガス中の粒子状物質及び炭化水素を計測することを特徴とするエンジンシステムにある。
【0014】
第3の発明は、第1の発明において、前記分析装置は、排ガス中に可視光又は紫外光を照射することにより発生するミー散乱光又は蛍光により、排ガス中の粒子状物質及び炭化水素を計測することを特徴とするエンジンシステムにある。
【0015】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、排ガス中の粒子状物質の濃度が閾値を超えたときに、粒子状物質をフィルタにより除き、その排ガスをエンジン吸気用として用いることを特徴とするエンジンシステムにある。
【0016】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つにおいて、燃焼性の良好な重油を貯留可能な第2燃料タンクと、前記燃料判定手段により、燃料使用継続不可であると判定した際、前記第2燃料タンクの燃料を燃料供給管に供給することを特徴とするエンジンシステムにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエンジンシステムによれば、駆動するエンジンに使用されている燃料中の粗悪成分の含有量(総量)を計測し、この計測の結果に基づいてエンジンを制御するので、使用する燃料による不具合の発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るエンジンシステムの概略構成図である。
【図2】図2は、実施例1に係るレーザ分析装置の概略図である。
【図3】図3は、実施例2に係るレーザ分析装置の概略図である。
【図4】図4は、実施例3に係るレーザ分析装置の概略図である。
【図5】図5は、ディーゼルエンジン排ガスを第1の波長変換レーザ光(532nm)で計測したラマン散乱光のピーク信号スペクトルチャートである。
【図6】図6は、ディーゼルエンジン排ガスを第2の波長変換レーザ光(355nm)で計測したラマン散乱光のピーク信号スペクトルチャートである。
【図7−1】図7−1は、波長532nmにおけるミー散乱光強度と粒子物質濃度との関係の検量線を示す図である。
【図7−2】図7−2は、波長355nmにおけるミー散乱光強度と粒子物質濃度との関係の検量線を示す図である。
【図8】図8は、実施例4に係る分析装置の概略図である。
【図9】図9は、粒子状物質及び炭化水素の計測結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0020】
図1は、本実施例に係るエンジンシステムの概略図である。
実施例1のディーゼルエンジンは、例えば船舶に搭載されて航行用として使用されるものであり、燃料として重油を使用している。このディーゼルエンジンにおいて、図1に示すように、エンジン本体101は、複数のシリンダボア102が形成され、各シリンダボア102の内面にはシリンダライナ103が装着されており、ピストン104がそれぞれ上下移動自在に支持されている。燃焼室105は、エンジン本体101(シリンダライナ103)とピストン104の頂面とにより区画されて形成されている。この燃焼室105は、上部に吸気ポート116及び排気ポート117が連通し、吸気弁118及び排気弁119の下端部が位置している。この吸気弁118及び排気弁119は、吸気ポート116及び排気ポート117を閉止する方向に付勢支持されており、図示しない吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの吸気カム及び排気カムがこの吸気弁118及び排気弁119に作用することで、吸気ポート116及び排気ポート117を開閉することができる。また、エンジン本体101は、燃焼室105の上部に、この燃焼室105に高圧燃料を噴射可能な高圧インジェクタ120が装着されている。なお、図1中、符号V1、V2は開閉弁を図示する。
【0021】
そして、エンジン本体101は、吸気ポート116にインテークマニホールドを介して吸気管(吸気通路)121が連結される一方、排気ポート117にエキゾーストマニホールドを介して排気管(排気通路)122(202)が連結されており、この排気管202には排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害物質を浄化処理する触媒装置等の浄化手段210が装着されている。
【0022】
また、第1燃料タンク123Aは、燃料としての重油を貯留可能であり、外部から重油を補充可能となっており、この第1燃料タンク123Aの燃料をエンジン本体101の燃焼室105に供給可能な第1燃料供給系124Aが設けられている。即ち、第1燃料タンク123Aと高圧インジェクタ120とが燃料供給管125により連結され、この燃料供給管125に燃料ポンプ126Aが装着されている。従って、燃料ポンプ126Aを駆動することで、第1燃料タンク123A内の燃料が加圧された後、燃料供給管125を通して高圧インジェクタ120まで輸送することができ、この高圧インジェクタ120を駆動することで、高圧燃料を所定のタイミングで燃焼室105に噴射することができる。
【0023】
船舶には、ディーゼルエンジンを総合的に制御する制御装置42が設けられている。即ち、制御装置42は、図示しない各種センサが検出したエンジン回転数やアクセル開度などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量や燃料噴射時期などの最適値を演算し、高圧インジェクタ120を制御可能となっている。
【0024】
また、図示しないタービンより上流側の排気管122と圧縮器より下流側の吸気管121とを連絡する排気ガス環流装置(以下「EGR」という)のEGR通路を具備するようにして、EGRバルブの開度を制御することで、還流する排ガスの割合を調整するようにしている。
【0025】
このように構成された本実施例のディーゼルエンジンにて、燃料として使用する重油の品質がばらついて粗悪化が進んだ場合、エンジンの着火遅れなどの問題が発生するおそれがある。そこで、実施例1のエンジンシステムでは、第1燃料タンク123Aから供給された燃料Fを用いてエンジンを駆動させた際に発生する排ガス201の一部を分取し、排ガス201中にレーザ光11Bを照射することにより発生する第1のラマン散乱光15Aにより、排ガス中の粒子状物質や炭化水素を計測するレーザ分析装置10Aを設け、分析手段10(後述するレーザ分析装置A〜C、分析装置10D〜F)での分析の結果、排ガス成分の結果より、燃料の良否を燃料判定手段41により判定し、燃料判定手段41の判定結果に基づいて前記エンジンを制御装置42により制御するようにしている。
【0026】
図2は、本発明の実施例1にかかるレーザ分析装置10Aの概略図である。
図2に示すように、レーザ分析装置10Aは、基本レーザ光(1064nm)11Aを発振するレーザ照射装置13と、発振された基本レーザ光11Aを第1の波長変換レーザ光11Bに波長変換する第1の波長変換部12Aと、波長変換された第1の波長変換レーザ光11Bを導入し、排ガス201に照射して第1のラマン散乱光15Aを発生させる測定領域14と、発生した第1のラマン散乱光15Aを計測するラマン散乱光検出器18とを具備し、第1のラマン散乱光15Aの計測結果により、排ガス201のガス組成をラマン散乱光のピーク信号スペクトルより求めると共に、排ガス201中の粒子状物質(PM)濃度をそのピーク信号スペクトルを除いたベースラインより求めるものである。
【0027】
図5は、ディーゼルエンジン排ガスを第1の波長変換レーザ光(532nm)で計測したラマン散乱光のピーク信号スペクトルチャートである。ここで、図5中、そのピーク信号スペクトルを除いたベースラインが粒子状物質起因のミー散乱光による濃度である。
【0028】
一般にはベースラインは静電ノイズや迷光などのノイズ情報でしかない。
しかし、ラマン散乱光が適切に計測できる光学系を備えた計測システムにおいては、これらの静電ノイズ、迷光は微小であるため、532nmの第1の波長変換レーザ光11Bを用いる場合には、このベースラインの情報には粒子状物質に起因するミー散乱光が含まれているので、粒子状物質濃度情報として価値がある。
【0029】
本発明では、波長としてYAGレーザ光の第2高調波である532nmを用いているが、本発明はこれに限定されず、400nm以上のレーザ光、さらに好適には500nm以上のレーザ光とするのが好ましい。なお、波長が長くなるにつれてミー散乱強度が減少するので、400〜1,100nmの範囲、より好適には400〜700nmの範囲のレーザ光を用いることが好ましい。
【0030】
ここで、本実施例では、ラマン散乱光検出器18は、第1の波長変換レーザ光11Bの照射により発生する第1のラマン散乱光15Aを計測する分光部16とICCD(Intensified Charge Coupled Device)カメラ17から構成されている。
【0031】
ここで、図2において、符号14は排ガス201が導入され、第1の波長変換レーザ光11Bを照射してガス成分を計測する測定領域、21aは第1の波長変換レーザ光11Bを反射する反射ミラー、22は第1の波長変換レーザ光11Bを集光する集光レンズ、23はデータ処理手段(CPU)を各々図示する。
【0032】
ここで、レーザ照射装置13からの基本レーザ光11Aは、第1の波長変換部12Aにより、基本レーザ光(YAG:1064nm)11Aを532nmのYAGレーザの第2高調波の第1の波長変換レーザ光11Bに波長変換させ、反射ミラー21aを介して測定領域14側へ反射させて、集光手段である集光レンズ22により集光し、次いで排気管202内へ送られ、測定領域14内に第1の波長変換レーザ光11Bを入射させ、排気管202内に導入される排ガス201へ照射している。
なお、測定には排気管から排ガス201を、測定チャンバへ分岐するようにしてもよい。
【0033】
また、測定領域14の中心部から散乱された第1のラマン散乱光15Aは、例えば偏光子、集光レンズ及びフィルタ等の光学群(図示せず)を介して分光部16で分光され、該分光部16に接続されたICCDカメラ17により各波長の光の強度を計測する。
前記ICCDカメラ17からの計測データは、データ処理手段(CPU)23に送られ、ここで計測データの処理がなされる。
また、同時に発生する粒子状物質起因のミー散乱光も同様に計測され、計測データの処理がなされる。
【0034】
図5はディーゼルエンジン排ガスのラマン散乱光計測結果のチャートであり、これより各ピーク強度から各組成(二酸化炭素、酸素、窒素等)の濃度を求めることができる。
なお、図中、横軸は、ICCDカメラ17のピクセルであり、波長(nm)に対応する。
図5に示すとおり、ラマン散乱光強度を測定することで、CO2、O2、N2組成が分析することができる。
【0035】
本発明では、特定の532nmのYAGレーザの第2高調波の第1の波長変換レーザ光11Bを用いてラマン散乱光のピーク信号スペクトルからガス組成を求めると共に、そのピーク信号スペクトルを除いたベースラインから粒子状物質濃度を求めることができ、一度の計測でガス成分と粒子状物質の濃度とを同時に測定が可能となる。
【0036】
以下に、レーザ装置を用いたレーザ分析装置10Aの各構成部材について説明する。
【0037】
なお、排気管202内に設けられるパワーメータ26は、レーザ照射装置13から出力される第1の波長変換レーザ光11Bの進行方向上に設けられており、第1の波長変換レーザ光11Bの出力を正確に計測することが出来る計算機器である。この数値をフィードバックし、レーザ照射装置13の出力を調整する。
これにより、レーザ光の位置検出精度が向上し、光軸修正を迅速に行うことが可能となる。ただし、劣悪環境では一定流量のパージガスを噴出させる等して、検出素子が劣化することを防止することができる。
【0038】
また、反射ミラー21aは、波長変換された第1の波長変換レーザ光11Bの進行方向を、排ガス201の存在する方向へ反射により向けさせるミラーである。この反射ミラー21aの角度を調整することにより、測定領域14内で任意の位置での計測を可能としている。
【0039】
測定用の第1の波長変換レーザ光11B及び排ガス201からの第1のラマン散乱光15Aは、第1の窓27−1及び第2の窓27−2から出入りする。
【0040】
第2の窓27−2は、排ガス201を外部へ流出させないための石英ガラス製の窓である。石英ガラス製にしているのは、その窓を第1の波長変換レーザ光11Bが透過できるようにするためである。なお、この窓は二重にしており、石英ガラス1枚が破損しても、ガスがリークしないようにしている。
【0041】
また、第1の波長変換レーザ光11Bの通路には、電磁弁(図示せず)が設けられており、通常は、閉じている。
【0042】
測定領域14に存在する排ガス201に第1の波長変換レーザ光11Bが照射されることにより測定がなされる。
【0043】
また、第1のラマン散乱光15Aを分光し、測定データとして取り出す機能を有する分光部16を有するラマン散乱光検出器18について説明する。ここで、測定領域14の中心部から散乱された第1のラマン散乱光15Aは、第1の波長変換レーザ光11Bからある角度をなして、第2の窓27−2及び第1の窓27−1を経由して分光部16へ入る。
【0044】
上記分光部16内に設けられる偏光子(図示せず)は、特定の偏光面を持つ散乱光のみを進行方向は変えずに透過させる偏光手段であり、この偏光子で透過した散乱光は、集光レンズ(図示せず)により集光された後に、フィルタ(図示せず)により、特定の波長の散乱光のみ透過させるようにしている。
【0045】
そして、特定の波長領域となった第1のラマン散乱光15Aは分光部16で分光され、ここに接続されているICCDカメラ17により、光の強度を計測している。そして、このICCDカメラ17は光電子増倍型のデバイスであり、ここで分光部16により分光された各波長の光の強度を計測するようにしている。また、光検出器は、ICCDカメラの他に、例えばアバランシェ・フォトダイオード(APD)、光電子増倍管(PMT)等を例示することができる。
【0046】
また、粒子状物質濃度の計測精度を向上させるために、排ガス201中に存在する基準ガス(窒素)のラマン散乱光の信号強度(R0)を計測しておき、計測を行う都度、測定領域に存在する基準ガスのラマン散乱光の信号強度(R1)を計測し、得られたR0/R1を校正定数(K)とし、前記ピーク信号スペクトルの各検出信号強度(X1)に、校正係数(K=R0/R1)を乗じて真の信号強度を求め、真の信号強度からガス組成と粒子状物質の濃度(M2)を算出する。
【0047】
これにより、通常のラマン散乱測定にて分析されるガス組成成分(CO2、O2、N2)の分析の他に、測定の都度、初期値のラマン散乱光の窒素濃度を基準として校正係数Kを用いて、校正することで、濃度校正された真の値の粒子状物質濃度(M2)を迅速に求めることができる。
この際、基準ガスとして用いる窒素は、外部から導入するものではなく、排ガス中に含まれているガスそのものであるので、計測精度が向上する。
【0048】
以上説明した図2に示すレーザ分析装置10Aを用いて、粒子状物質濃度を計測した結果、燃料判定手段51により燃焼排ガスから燃料中の粗悪成分の含有量が高いと判断した際には、このまま運転が可能な場合には、運転を継続する指令を制御装置42により行う。
さらに、燃焼排ガスの状態より、燃料自体が悪いと判断した場合には、燃料を切り替える指令を制御装置42より行う。
また、現状では排ガス中の粒子状物質の量は多いものの、運転制御を行う必要がない場合でも、将来の増加の動向が予測される場合には、警報等のアラームを発生する手段を設けるようにしてもよい。
【0049】
このため、本実施例では、図1に示すように、第2燃料タンク123Bが設けられている。
この第2燃料タンク123Bは、燃料としての良質な重油を貯留可能であり、外部から良質な重油を補充可能となっており、この第2燃料タンク123Bの燃料を第1燃料供給系124Aの燃料供給管125に供給可能な第2燃料供給系124Bが設けられている。即ち、第2燃料タンク123Bと燃料供給管125とが燃料供給管127により連結され、この燃料供給管127に燃料ポンプ126B及び開閉弁V2が装着されている。この場合、第2燃料タンク123Bは、燃料性状が良好で燃焼性の良い良質な重油が貯留されている。
【0050】
従って、燃料ポンプ126Bを駆動すると共に開閉弁V2を開放することで、第2燃料タンク123B内の良質な燃料が加圧された後、燃料供給管127を通して燃料供給管25に供給することができる。
【0051】
このように構成された実施例1のエンジンシステムでは、燃料供給管125を流れる燃料Fの一部を分取し、この燃料を灰化処理して粗悪成分を間接的に検出するレーザ分析装置10Aを設け、第1のラマン散乱光15Aの計測結果をデータ処理手段23で処理し、この検出結果に基づいて燃料判定手段51で燃料の良否を判定し、制御装置52によりディーゼルエンジンを制御するようにしている。
【0052】
ここで、制御装置42は、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であると判定すると、第2燃料タンク123B内にある良質な燃料を燃料供給管125に供給し、高圧インジェクタ120が良質な重油が混合した重油を燃焼室105に噴射する。すると、エンジン本体101の燃焼室105にて、ピストン104の上死点で混合気が適正な圧力となって着火することとなり、着火遅れが抑制される。そのため、着火遅れによりシリンダライナ103が広い範囲で熱負荷を受けることが抑制され、潤滑油の蒸発による潤滑油不足、局所的な劣化やコーキングなどの発生が防止される。
【0053】
なお、第2燃料タンク123Bにある良質な燃料を燃料供給管125に供給するときの供給量は、現在使用している重油の燃焼性、第1燃料タンク123A内の良質でない燃料量、第2燃料タンク123B内の良質な燃料量、新しい重油を充填することができるまでの時間などに基づいて設定される。この場合、各燃料タンク123A,123Bにある燃料の割合を設定して開閉弁V2の開度を設定するが、第2燃料タンク123Bにある良質な燃料だけを用いてエンジンを駆動してもよい。
【0054】
従って、制御装置42は、駆動するエンジンに使用されている重油の燃焼性を検出し、この重油の燃焼性が悪いと判定されたら、第2燃料タンク123Bの良質な重油を燃料供給管125に供給することで、燃焼性が悪い重油に燃焼性の良好な重油が混合されることとなり、燃焼性の低下を抑制して潤滑油膜への熱負荷増大を効果的に抑制することができる。
【0055】
このように、本実施例によれば、燃料中の粗悪物質を、その燃焼排ガスにより間接的にオンライン分析できるので、燃料の良否を常に監視することができる。
これにより精度良く粗悪物質の総量の把握が可能となる。
【0056】
このように、ディーゼルエンジン運転中において、常に正確な粒子状物質の濃度を計測することで、燃料噴射圧、過給圧の変化に応じて、実際にどれくらいの粒子状物資(PM)が排出されたかどうかの確認をオンラインで行うことができる。
また、ラマン散乱分析は、図5に示すように、N2、CO2、O2、H2Oも同時に検出できるので、リアルタイムでO2、CO2濃度もトレースできる。
【0057】
この計測には、吸気管においてもレーザ装置と第2の光検出器とからなるレーザ分析装置を設置することで、排出ガスの組成をリアルタイムで確認することができるため、例えばEGRシステムに適用することで、EGRの吸気中のガス組成(O2、CO2、N2)をリアルタイムに把握することにより、そのガス組成に応じたエンジン制御を行うことができる。
【0058】
例えば排ガス中の粒子状物質の濃度が閾値を超えたときに、粒子状物質をフィルタにより除き、その排ガスをEGRシステムのエンジン吸気用として用いるように制御することができる。また、例えば酸素濃度が低い場合には、それに応じて着火タイミングを早める等の制御を行うことができる。
【実施例2】
【0059】
図3は、実施例2に係るレーザ分析装置の概略図である。
図3に示すように、レーザ分析装置10Bは、基本レーザ光(1064nm)11Aを発振するレーザ照射装置13と、発振された基本レーザ光11Aを532nmの第2高調波の第1の波長変換レーザ光11Bに波長変換する第1の波長変換部12Aと、基本レーザ光(1064nm)11Aを第1の波長変換部12Aの後流側に迂回させる迂回光路31と、1064nmの基本レーザ光11Aと532nmの第1波長変換レーザ光11Bとの合波光11Cを、第3高調波(355nm)の第2の波長変換レーザ光11Dに波長変換する第2の波長変換部12Bと、355nmの第2の波長変換レーザ光11Dを導入し、排ガス201に照射して第2のラマン散乱光15Bを発生させる測定領域13と、発生した第2のラマン散乱光15Bを計測するラマン散乱光検出器18とを具備し、波長355nmの第2の波長変換レーザ光11Dの計測結果により、排ガス201のガス組成をラマン散乱光のピーク信号スペクトルより求めると共に、排ガス201中の粒子状物質及び炭化水素(HC)濃度をそのピーク信号スペクトルを除いたベースラインより求めるようにしたものである。
ここで、符号21b、21c、21dは反射ミラーであり、第1の波長変換部12Aを迂回する迂回光路を形成している。
【0060】
実施例2では、1064nmの基本レーザ光11Aと532nmの第1の波長変換レーザ光11Bとを合波させて合波光11Cとし、この合波光11Cを第2の波長変換部12Bにより355nmの第2の波長変換レーザ光11Dとし、この第2の波長変換レーザ光11Dを用いて、355nm以下の波長をカットしてラマン散乱光検出器18で検出することで、ガス組成と、粒子状物質濃度(ミー散乱光)とHC(蛍光)濃度とを併せたものを計測できる。
【0061】
図6がその結果を示すチャートである。ここで、図6中、ベースラインが粒子状物質濃度(ミー散乱光)と炭化水素(HC)濃度(蛍光)とを併せたものである。
【0062】
一般にはベースラインは静電ノイズや迷光などのノイズ情報でしかないが、355nmの第2の波長変換レーザ光11Dを用いる場合には、このベースラインの情報には粒子状物質に起因するミー散乱光と炭化水素に起因する蛍光とが含まれているので、粒子状物質濃度情報及び炭化水素濃度情報として価値がある。
【0063】
本発明では、波長としてYAGレーザ光の第3高調波である355nmを用いているが、本発明はこれに限定されず、400nm以下の蛍光を発生させるレーザ光を用いるのが好ましい。
【実施例3】
【0064】
図4は、実施例3に係るレーザ分析装置の概略図である。
図4に示すように、レーザ分析装置10Cは、基本レーザ光(1064nm)11Aを発振するレーザ照射装置13と、発振された基本レーザ光11Aを532nmの第2高調波の第1の波長変換レーザ光11Bに波長変換する第1の波長変換部12Aと、基本レーザ光(1064nm)11Aを第1の波長変換部12Aの後流側に迂回させる迂回光路31と、1064nmの基本レーザ光11Aと532nmの第1の波長変換レーザ光11Bとの合波光11Cを、第3高調波(355nm)の第2の波長変換レーザ光11Dに波長変換する第2の波長変換部12Bと、532nmの第1の波長変換レーザ光11Bと、355nmの第2の波長変換レーザ光11Dとを時間遅れで導入し、排ガス201に照射して第1及び第2のラマン散乱光15A、15Bを発生させる測定領域14と、発生した第1及び第2のラマン散乱光15A、15Bを計測するラマン散乱光検出器18とを具備し、波長532nmの第1の波長変換レーザ光11Bの計測結果により、排ガス201のガス組成をラマン散乱光のピーク信号スペクトルより求めると共に、排ガス201中の粒子状物質濃度をそのピーク信号スペクトルを除いたベースラインより求め、且つ波長355nmの第2の波長変換レーザ光11Dの計測結果により、排ガス201のガス組成をラマン散乱光のピーク信号スペクトルより求めると共に、排ガス201中の粒子状物質及び炭化水素(HC)濃度をそのピーク信号スペクトルを除いたベースラインより求め、両者の差分から粒子状物質濃度を推定するようにしたものである。なお、図4中、符号22a、22bは集光レンズ、21e〜21gは反射ミラーを図示する。
【0065】
ここで、両者の差分から粒子状物質濃度を推定する工程を説明する。
図7−1は、波長532nmにおけるミー散乱光強度と粒子状物質濃度との関係の検量線である。図7−2は、波長355nmにおけるミー散乱光強度と粒子状物質濃度との関係の検量線である。
【0066】
工程1) 実施例3では、実施例1と実施例2とを組合せた構成であり、波長532nmの第1の波長変換レーザ光11Bの計測結果により、計測値(例えば1.8A.U)から粒子状物質濃度(1.0mg/mN)を、第1の検量線(図7−1)により求める。
工程2) 次に、波長355nmの第2の波長変換レーザ光11Dの計測結果により、粒子状物質濃度(1.0mg/mN)から、ミー散乱光強度(例えば15A.U)を、第2の検量線(図7−2)により求める。
工程3) そして、波長355nmの第2の波長変換レーザ光11Dでの実際の計測値から、工程2により求めたミー散乱光強度(例えば15A.U)を除して、炭化水素(HC)の濃度を求める。
【0067】
ここで、炭化水素(HC)は、アントラセンやナフタレン誘導体といった多環芳香族炭化水素(PAH)の集合物であり、その濃度の傾向によりエンジンの燃焼状況を予測することができる。
さらには、特定のHC(例えばアントラセンやナフタレン誘導体等)に対して、予め検量線を作成しておき、その検量線にHC濃度を当てはめて、おおよそのアントラセンやナフタレン誘導体等の濃度を求めるようにしてもよい。
【0068】
実施例3のレーザ分析装置10Cにより、粒子状物質と炭化水素の濃度を確認することができる。
図9は、粒子状物質(PM)及び炭化水素(HC)の計測結果を表すグラフである。
【0069】
図9に示すように、時間の経過と共に、粒子状物質(PM)及び炭化水素(HC)の濃度が高くなり、閾値を超える場合には、運転制御を行うようにしている。
なお、閾値は複数設定するようにしている。
【0070】
そして、分析の結果、燃料中の粗悪成分に起因して燃焼不良となり、排ガス中の粒子状物質及び炭化水素の量(総量)が閾値を超えていると判断した際には、燃料を切り替える指令を制御装置42により行う。
また、複数の閾値を設け、運転制御を行う必要がない場合でも、将来の増加の動向が予測される場合には、警報等のアラームを発生する手段を設けるようにしてもよい。
【実施例4】
【0071】
図8は、実施例4に係る分析装置の概略図である。
図8に示すように、本実施例に係る分析装置10Dは、紫外線又は可視光の照射光52を照射する光源51と、排ガス201を導入すると共に、照射光52を排ガスに照射し、その散乱光を検出する第1の検出器55を備えた第1の測定部53と、第1の測定部53の後流側にダストフィルタ56を介して設けられ、紫外線を照射し、その蛍光を検出する第2の検出器58備えた第2の測定部57とを具備するものである。
本実施例では、第1の検出器55でミー散乱光を検出し、その後ダストフィルタ56で粒子状物質を除去し、紫外線を照射することで炭化水素(HC)由来の蛍光を発生させ、炭化水素(HC)類を検出している。
【0072】
そして、第1の検出器55で検出したミー散乱光から求めた粒子物質及び炭化水素(HC)の濃度より、第2の検出器57で検出した蛍光からの求めた炭化水素(HC)の濃度を引くことにより、排ガス中の粒子状物質の濃度を簡易に求めることができる。
【0073】
図8に示す分析装置10Dを用いて測定してデータ処理手段23で処理し、粒子状物質濃度を計測した結果、燃料判定手段41により燃焼排ガスから燃料中の粗悪成分の含有量が高いと判断した際には、実施例1と同様にして、その状況に応じた制御指令を制御装置42により行う。
【0074】
なお、上述した各実施例にて、本発明に係るエンジンの制御装置を船舶に搭載されて航行用としてのディーゼルエンジンに適用して説明したが、陸用ボイラなどに使用されているディーゼルエンジンに適用してもよい。
【0075】
以上、本発明によれば、ガス中の粒子状物質の濃度やガス成分計測装置を備えたエンジンシステムを用いることにより、舶用ディーゼルエンジンの運転中において、オンラインで排ガス中の粒子状物質や炭化水素の濃度計測ができ、エンジンの不完全燃焼に対しての適切な予防対策(点火タイミングの変更、燃料混合比率の変更、フィルタ等の切替え等)を講じることができる。
【符号の説明】
【0076】
101 エンジン本体
105 燃焼室
120 高圧インジェクタ
123A 第1燃料タンク
123B 第2燃料タンク
124A 第1燃料供給系
124B 第2燃料供給系
125 燃料供給管
52 制御装置
10A〜10C レーザ分析装置
10D〜10D 分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1燃料タンクから供給された燃料を用いてエンジンを駆動させた際に発生する排ガスの一部を分取し、排ガス中のガス組成、粒子状物質及び炭化水素を計測する分析装置と、該分析装置での分析し、ガス状の粒子物質、炭化水素類の総量を求め、ガス中の粒子状物質又は炭化水素が所定の閾値を超えているか否かを確認し、燃料の良否を判定する燃料判定手段とを具備し、燃料判定手段の判定結果に基づいて前記エンジンを制御する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記分析装置は、排ガス中にレーザ光を照射することにより発生するラマン散乱光又はミー散乱光により、排ガス中の粒子状物質及び炭化水素を計測することを特徴とするエンジンシステム。
【請求項3】
請求項1において、
前記分析装置は、排ガス中に可視光又は紫外光を照射することにより発生するミー散乱光又は蛍光により、排ガス中の粒子状物質及び炭化水素を計測することを特徴とするエンジンシステム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一において、
排ガス中の粒子状物質の濃度が閾値を超えたときに、粒子状物質をフィルタにより除き、その排ガスをエンジン吸気用として用いることを特徴とするエンジンシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
燃焼性の良好な重油を貯留可能な第2燃料タンクと、
前記燃料判定手段により、燃料使用継続不可であると判定した際、
前記第2燃料タンクの燃料を燃料供給管に供給することを特徴とするエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184682(P2012−184682A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46891(P2011−46891)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】