説明

エンジン制御装置

【課題】 機械的圧縮比が高い状態で、空気過剰率を高くすることにより、良好に燃費を低減する。
【解決手段】 エンジン(1)は、隙間容積及びピストン行程容積から定義される機械的圧縮比、吸気バルブのリフト特性、並びに燃焼室内の燃料混合気の空気過剰率を変更可能に構成されている。エンジン制御装置(3)は、リフト特性制御手段(300)を備えている。このリフト特性制御手段(300)は、機械的圧縮比がその可変範囲における中央値よりも高圧縮比側の所定値である高圧縮比状態にて、空気過剰率が第一の値である場合の方が、同空気過剰率が第一の値より低い第二の値である場合よりも、実圧縮比が低くなるように、吸気バルブ(123)のリフト特性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの運転を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆる可変圧縮比機構と可変動弁機構とを備えたエンジンが知られている(例えば、特開2003−193872号公報、特開2004−218522号公報、特開2007−239550号公報、特開2007−303423号公報、等参照。)。
【0003】
前記可変圧縮比機構は、隙間容積を変更したり(例えば特開2004−218522号公報等参照)ピストン行程容積を変更したり(例えば特開2007−239550号公報等参照)することで、隙間容積とピストン行程容積との和を隙間容積で割った値として定義される機械的圧縮比(膨張比)を変更可能に構成されている。
【0004】
低負荷運転領域においては、吸入空気量が少ないため、圧縮上死点での燃焼室内のガスの温度や圧力が低く、燃焼安定度が悪い。そこで、圧縮比が高く制御される。これにより、燃焼の安定が図られる。また、膨張比が高くなるので、熱効率が向上し、燃料消費量を低減することができる。一方、高負荷運転領域においては、吸入空気量が増加するとともに、前記燃焼室内のガス温度が上昇するため、異常燃焼(ノッキング)が発生しやすくなる。そこで、圧縮比が低く制御される。これにより、ノッキングが抑制されつつ、出力の向上が図られる。このように、低負荷運転領域では高圧縮比に、高負荷運転領域では低圧縮比に、それぞれ制御される。
【0005】
前記可変動弁機構は、吸気バルブのリフト特性(タイミングやリフト量)を変更可能に構成されている。バルブタイミングに関しては、周知の通り、吸入空気の慣性等の影響で、前記吸気バルブの閉弁時期が吸気下死点よりも若干遅角側に設定された場合に、吸気効率が最も高くなる(このような最高効率が得られる遅角量はエンジン回転数等によって変化する)。よって、吸気効率が最高となる時期よりも前記閉弁時期をずらす(例えばより大きく遅角する)ことで、実圧縮比が低くされ得る。ここで、前記実圧縮比は、吸入空気に対する実効的な圧縮比であり、典型的には、吸入空気の圧縮開始時の前記燃焼室の容積を圧縮終了時の前記燃焼室の容積で割った値となる。
【0006】
また、従来、理論空燃比よりもリーン側(空気過剰率が1より大)で燃焼を行うリーンバーン技術が知られている(例えば特開2007−239550号公報等参照)。このリーンバーンは、通常、低負荷運転領域にて行われ、燃料消費性能の向上等の効果を有する。
【特許文献1】特開2003−193872号公報
【特許文献2】特開2004−218522号公報
【特許文献3】特開2007−239550号公報
【特許文献4】特開2007−303423号公報
【特許文献5】特開2006−328969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、前記可変圧縮比機構を備え且つリーンバーン運転可能な構成(例えば特開2007−239550号公報等参照)においては、上述の通り、低負荷運転領域にて、高圧縮比運転及びリーンバーン運転が行われ得る。このため、高圧縮比状態でリーンバーン運転が行われると、高圧縮比化に伴う圧縮端温度の上昇により、前記燃焼室から排出されるガス中のNOx濃度が増加する。
【0008】
このように、高圧縮比運転によりNOx濃度の増加が生じると、排気ガス浄化用触媒装置のNOx吸蔵性能が、その限界に早期に達することとなる。したがって、触媒性能を再生するためのいわゆるリッチスパイク処理(燃料混合気の空燃比を一時的に理論空燃比よりもリッチ側に設定する処理)を比較的高頻度で行う必要が生じる。すると、高圧縮比(及びリーンバーン)運転による燃費低減効果が、リッチスパイク処理によって相殺されてしまうこととなる。
【0009】
本発明は、このような課題に対処するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、前記機械的圧縮比が高い状態で、前記空気過剰率を高くすることにより、良好に燃費を低減することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明のエンジン制御装置は、機械的圧縮比(上述のように隙間容積及びピストン行程容積から定義される)、吸気バルブのリフト特性(例えば前記吸気バルブの閉弁時期)、並びに燃焼室内の燃料混合気の空気過剰率(空燃比)を変更可能に構成されたエンジンの運転を制御するように構成されている。
【0011】
前記機械的圧縮比は、例えば、クランクシャフトが回転可能に支持されたクランクケースと、シリンダヘッドが上端部に固定されたシリンダブロックとを、シリンダの中心軸に沿って相対移動させることで変更され得る。あるいは、前記機械的圧縮比は、コンロッド(ピストンと前記クランクシャフトとを連結する部材)が屈曲可能に構成されている場合に、このコンロッドの屈曲状態を変更することで変更され得る。
【0012】
本発明の特徴は、前記エンジン制御装置が、以下のように前記リフト特性を制御するリフト特性制御手段を備えたことにある。
【0013】
すなわち、本発明においては、前記リフト特性制御手段は、前記機械的圧縮比がその可変範囲における中央値よりも高圧縮比側の所定値である高圧縮比状態にて、前記空気過剰率が第一の値である場合の方が、同空気過剰率が前記第一の値より低い第二の値である場合よりも、実圧縮比が低くなるように前記リフト特性を制御する。
【0014】
例えば、前記高圧縮比状態にて、前記空気過剰率が1を超える(例えば1.1以上の)前記第一の値であるリーン燃焼時の方が、同空気過剰率が1であるストイキ燃焼時よりも、実圧縮比が低くなるように前記リフト特性が制御される。
【0015】
かかる構成によれば、前記機械的圧縮比が前記高圧縮比状態に設定された場合であっても、前記実圧縮比が低くされることで、圧縮端温度の上昇が抑制される。このため、前記高圧縮比状態にて前記空気過剰率を高くすることによる燃費の低減が、良好に行われ得る。すなわち、例えば、前記機械的圧縮比が高い状態で、燃費低減効果を減殺することなく、リーンバーン運転を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において出願人が最良と考えている実施形態)について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。実施形態に対する変形例(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、首尾一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0018】
<システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用されたシステムS(車両等)の全体構成を示す概略図である。このシステムSには、直列複数気筒のエンジン1が搭載されている(なお、図1には、気筒配列方向と直交する面によるエンジン1の側断面図が示されているものとする。)。このエンジン1には、吸排気通路2が接続されている。また、本実施形態のエンジン制御装置3は、エンジン1の運転を制御するように構成されている。
【0019】
<エンジン>
エンジン1は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、クランクケース13と、可変圧縮比機構14と、を備えている。
【0020】
シリンダブロック11には、略円柱形状の貫通孔であるシリンダボア111が形成されている。シリンダボア111の内側には、ピストン112が、シリンダボア111の中心軸線であるシリンダ中心軸CCAに沿って往復移動可能に収容されている。
【0021】
シリンダブロック11の上端部(ピストン112の上死点側の、シリンダブロック11の端部)には、シリンダヘッド12が接合されている。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11に対して相対移動しないように、シリンダブロック11の前記上端部に対して、図示しないボルト等によって固定されている。
【0022】
シリンダヘッド12の下端部には、複数の凹部が、各シリンダボア111の上端部に対応する位置に設けられている。すなわち、シリンダヘッド12がシリンダブロック11に接合されて固定された状態における、ピストン112の頂面よりも上側(シリンダヘッド12側)のシリンダボア111の内側の空間と、上述の凹部の内側(下側)の空間と、によって、燃焼室CCが形成されている。この燃焼室CCに連通するように、シリンダヘッド12には、吸気ポート121及び排気ポート122が形成されている。
【0023】
シリンダヘッド12には、また、吸気バルブ123と、排気バルブ124と、可変吸気バルブタイミング装置125と、可変排気バルブタイミング装置126と、インジェクタ127と、が備えられている。
【0024】
吸気バルブ123は、吸気ポート121と燃焼室CCとの連通状態を制御するためのバルブである。排気バルブ124は、排気ポート122と燃焼室CCとの連通状態を制御するためのバルブである。
【0025】
可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126は、吸気バルブ123及び排気バルブ124の開閉タイミングを変更することで、実圧縮比を変更し得るように構成されている。かかる可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126の具体的な構成については周知なので、その説明を省略する。
【0026】
インジェクタ127は、燃焼室CC内に供給するための燃料を、吸気ポート121内に噴射し得るように構成されている。
【0027】
クランクケース13内には、クランクシャフト131が回転可能に支持されている。クランクシャフト131は、気筒配列方向と平行に配置されている。このクランクシャフト131は、ピストン112のシリンダ中心軸CCAに沿った往復移動に基づいて回転駆動されるように、コンロッド132を介して、ピストン112と連結されている。
【0028】
本実施形態の可変圧縮比機構14は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との接合体を、クランクケース13に対して、シリンダ中心軸CCAに沿って互いに相対移動させて、隙間容積を変更することで、機械的圧縮比を変更し得るように構成されている。
【0029】
可変圧縮比機構14は、特開2003−206771号公報や特開2007−85300号公報等に記載されているものと同様の構成を備えている。したがって、本明細書においては、この機構の詳細な説明は省略され、概要のみが説明されている。
【0030】
可変圧縮比機構14は、連結機構141と、駆動機構142と、を備えている。連結機構141は、シリンダブロック11とクランクケース13とを、シリンダ中心軸CCAに沿って互いに相対移動可能に連結するように構成されている。駆動機構142は、モータやギヤ機構等を備えていて、シリンダブロック11とクランクケース13とをシリンダ中心軸CCAに沿って(すなわち図中上下方向に沿って)互いに相対移動させ得るように構成されている。
【0031】
<吸排気通路>
吸排気通路2は、インテークマニホールドやサージタンク等を含む吸気通路201と、エキゾーストマニホールドを含む排気通路202と、を含んでいて、吸気通路201は吸気ポート121と接続され、排気通路202は排気ポート122と接続されている。
【0032】
吸気通路201には、スロットルバルブ203が介装されている。スロットルバルブ203は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ204によって回転駆動されるように構成されている。
【0033】
また、吸気通路201における、スロットルバルブ203とインジェクタ127との間の位置には、吸気流制御バルブ(SCV)205が設けられている。吸気流制御バルブ205は、DCモータからなるSCVアクチュエータ206によって回転駆動されるように構成されている。この吸気流制御バルブ205は、スワールコントロールバルブ及び/又はタンブルコントロールバルブの機能を有するものであって、極めてリーンな燃料混合気でも燃焼室CC内にて良好に点火され得るように、SCVアクチュエータ206によって回転駆動されることで吸気ポート121及び燃焼室CC内に流入する吸入空気(燃料混合気)の流れの状態を制御して燃焼室CC内の燃料混合気を成層化すべく構成されている。
【0034】
排気通路202は、排気ポート122を介して燃焼室CCから排出される排気ガスの通路である。この排気通路202には、上流側触媒207及び下流側触媒208が介装されている。上流側触媒207及び下流側触媒208は、酸素吸蔵機能を有する三元触媒をその内部に備えていて、排気ガス中のHC、CO、及びNOxを浄化可能に構成されている。上流側触媒207は、下流側触媒208よりも、排気ガスの流動方向における上流側に設けられている。
【0035】
<エンジン制御装置>
エンジン制御装置3は、本発明のリフト特性制御手段を構成する、エンジン電子制御ユニット(以下、「ECU300」と称する。)300を備えている。
【0036】
ECU300は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、バックアップRAM304と、インターフェース305と、バス306と、を備えている。CPU301、ROM302、RAM303、バックアップRAM304、及びインターフェース305は、バス306によって互いに接続されている。
【0037】
ROM302には、CPU301が実行するルーチン(プログラム)、及びこのルーチン実行の際に参照されるテーブル(ルックアップテーブル、マップ)やパラメータ等、が予め格納されている。RAM303は、CPU301がルーチンを実行する際に、必要に応じてデータを一時的に格納し得るように構成されている。バックアップRAM304は、電源が投入された状態でCPU301がルーチンを実行する際にデータが格納されるとともに、この格納されたデータが電源遮断後も保持され得るように構成されている。
【0038】
インターフェース305は、後述する各種のセンサや出力部と電気回路的に接続されていて、これらからの信号をCPU301に伝達し得るように構成されている。また、インターフェース305は、可変吸気バルブタイミング装置125、可変排気バルブタイミング装置126、インジェクタ127、駆動機構142、等の動作部と電気回路的に接続されていて、これらの動作部を動作させるための動作信号をCPU301からこれらの動作部に伝達し得るように構成されている。すなわち、エンジン制御装置3は、インターフェース305を介して上述のセンサ等からの信号を受け取り、当該信号に応じたCPU301の演算結果に基づいて、上述の動作信号を各動作部に向けて送出するように構成されている。
【0039】
<<各種センサ>>
冷却水温センサ311は、シリンダブロック11に装着されている。この冷却水温センサ311は、シリンダブロック11内の冷却水温Twに対応する信号を出力するように構成されている。
【0040】
クランクポジションセンサ312は、クランクケース13に装着されている。このクランクポジションセンサ312は、クランクシャフト131の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。具体的には、クランクポジションセンサ312は、クランクシャフト131が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに、クランクシャフト131が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するように構成されている。すなわち、クランクポジションセンサ312は、エンジン回転数Neに対応する信号を出力するように構成されている。
【0041】
吸気カムポジションセンサ313及び排気カムポジションセンサ314は、シリンダヘッド12に装着されている。吸気カムポジションセンサ313は、吸気バルブ123を往復移動させるための図示しない吸気カムシャフト(可変吸気バルブタイミング装置125に含まれている)の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。排気カムポジションセンサ314も、同様に、図示しない排気カムシャフトの回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。
【0042】
エアフローメータ315、吸気温センサ316、及びスロットルポジションセンサ317は、吸気通路201に装着されている。エアフローメータ315は、吸気通路201内を流れる吸入空気の質量流量である吸入空気流量Gaに対応する信号を出力するように構成されている。吸気温センサ316は、吸入空気の温度に対応する信号を出力するように構成されている。スロットルポジションセンサ317は、スロットルバルブ203の回転位相(スロットルバルブ開度TA)に対応する信号を出力するように構成されている。
【0043】
上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bは、排気通路202に介装されている。上流側空燃比センサ318aは、上流側触媒207よりも排気ガスの流動方向における上流側に配置されている。下流側空燃比センサ318bは、上流側触媒207よりも排気ガスの流動方向における下流側であって、下流側触媒208よりも同方向における上流側に配置されている。
【0044】
上流側空燃比センサ318aは、幅広い空燃比の範囲で比較的リニアな出力特性を有する全領域型の空燃比センサである。具体的には、この上流側空燃比センサ318aは、限界電流式酸素濃度センサから構成されている。
【0045】
下流側空燃比センサ318bは、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側にてほぼ一定である一方で理論空燃比の前後において急変する出力特性を有する空燃比センサである。具体的には、この下流側空燃比センサ318bは、固体電解質型のジルコニア酸素センサから構成されている。
【0046】
アクセル開度センサ319は、運転者によって操作されるアクセルペダル320の操作量Accpに対応する信号を出力するように構成されている。
【0047】
車速出力部321は、図示しない車輪速センサからの矩形波パルス信号を処理することで、車速信号を生成するとともに、この信号をECU300に向けて出力するようになっている。
【0048】
シフト情報出力部322は、図示しない変速機構の動作状態(シフト状態)に対応するシフト情報をECU300に向けて出力するようになっている。
【0049】
<動作の概要>
本実施形態のシステムSにおいては、エンジン制御装置3によって、以下の処理が行われる。
【0050】
<<空燃比制御>>
車速、シフト状態、エンジン負荷、冷却水温、スロットルバルブ開度、等の運転状態に基づいて、目標空燃比が設定される。続いて、設定された目標空燃比と、吸入空気流量等と、に基づいて、インジェクタ127から噴射される燃料量の基本値(基本燃料噴射量)が取得される。
【0051】
エンジン1の始動直後で上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bが充分に暖機されていない場合等、所定のフィードバック制御条件が成立していない場合は、基本燃料噴射量に基づくオープンループ制御が行われる(このオープンループ制御では学習補正係数に基づく学習制御が行われ得る)。
【0052】
これらのセンサの活性化後にフィードバック制御条件が成立した場合は、基本燃料噴射量が、上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bからの出力に基づいてフィードバック補正されることで、インジェクタ127からの実際の燃料噴射量(指令燃料噴射量)が取得される。また、上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bからの出力に基づいて、上述のオープンループ制御の際の学習補正係数を取得するための空燃比学習が行われる。
【0053】
上述の目標空燃比は、通常は理論空燃比に設定される。一方、必要に応じて、理論空燃比からリッチ側あるいはリーン側にシフトした値に目標空燃比が設定され得る。
【0054】
例えば、暖機完了後、所定の車速及び回転数の範囲(これらは上述のシフト状態に応じて異なる)にて、低〜中負荷運転領域にある場合、リーンバーン運転が行われる。このリーンバーン運転時においては、目標空燃比が16(空気過剰率が1.1)程度あるいはそれ以上に設定される。一方、急加速時等においては、目標空燃比が理論空燃比よりもリッチ(空気過剰率が1未満)に設定される。その他の場合においては、目標空燃比が理論空燃比(空気過剰率が1)に設定される(ストイキ運転)。
【0055】
<<圧縮比制御>>
運転状態に基づいて、可変圧縮比機構14により、機械的圧縮比が設定される。すなわち、上述のように、低負荷運転領域においては、機械的圧縮比が高く設定されることで、燃焼の安定及び燃費の向上が図られる。一方、高負荷運転領域においては、機械的圧縮比が低く設定されることで、ノッキングが抑制されつつ、出力の向上が図られる。
【0056】
ここで、本実施形態においては、機械的圧縮比が(可変範囲における中央値よりも)高く設定された状態で、リーンバーン運転が行われる場合に、同一の機械的圧縮比設定状態におけるストイキ運転時よりも実圧縮比が低くなってNOx発生が抑制されるように、可変吸気バルブタイミング装置125により吸気バルブ123の閉弁タイミングが設定される(吸気VVTによる実圧縮比制御)。
【0057】
<動作の詳細>
次に、図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置3の動作の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、以下の説明及び図面において、「ステップ」は“S”と略記されている。
【0058】
CPU301は、図2に示されているVVT制御ルーチン200を、所定タイミング毎に実行する。このルーチン200が起動されると、まず、S210にて、車速、シフト状態、エンジン負荷、冷却水温、スロットルバルブ開度、等の運転状態が取得される。
【0059】
次に、S220にて、これらの運転状態と、当該運転状態に基づいて他のルーチンによって設定された機械的圧縮比と、ROM302に格納された所定のマップと、に基づいて、吸気バルブ123の閉弁時期θcが設定される。このマップにより設定される閉弁時期θcは、上述のように、吸気下死点よりも若干遅角したタイミングに設定されている。すなわち、閉弁時期θcを設定するためのマップは、上述の運転状態等に応じて吸気効率が最も高くなるように、実験あるいは計算機シミュレーションによって予め求められたものである。
【0060】
続いて、S230にて、機械的圧縮比εが、その可変範囲における中央値εc以下であるか否かが判定される。
【0061】
機械的圧縮比εが中央値εc以下である場合(S230=Yes)、上述のように吸気バルブ123の閉弁時期θcが設定された状態で本ルーチンが一旦終了する。すなわち、上述のS220にて設定された閉弁時期θcで、吸気バルブ123の開閉が行われる。
【0062】
機械的圧縮比εが中央値εcより高い場合(S230=No)、処理がS240に進行し、所定のリーンバーン運転条件が成立しているか否かが判定される。リーンバーン運転条件が成立していない場合(S240=No)、処理がS250に進行せず、本ルーチンが一旦終了する。
【0063】
一方、リーンバーン運転条件が成立している場合(S240=Yes)、処理がS250に進行し、その後、本ルーチンが一旦終了する。S250においては、閉弁時期θcが、S220にて設定されたタイミングからさらに遅角される。すなわち、閉弁時期θcが、S220にて設定されたタイミングよりも、吸気下死点からさらに遠ざけられる。これにより、高機械的圧縮比リーンバーン運転にて、同一の機械的圧縮比設定状態におけるストイキ運転時よりも、実圧縮比が低くなるように閉弁時期θcが制御され、圧縮端温度の上昇抑制及びNOx発生量抑制が実現される。
【0064】
<実施形態の構成による効果>
上述の動作説明において記述した通り、本実施形態においては、高圧縮比側の所定の機械的圧縮比にて、空気過剰率が1を超える(例えば1.1以上の)リーンバーン運転時の方が、空気過剰率が1であるストイキ運転時よりも、実圧縮比が低くなるように、吸気バルブ123のリフト特性が制御される。
【0065】
これにより、リーンバーン運転時に機械的圧縮比が高く設定された場合であっても、実圧縮比が低くされることで、圧縮端温度の上昇が抑制され、NOx発生が抑制される。よって、燃費低減効果を減殺することなく(過剰なリッチスパイク処理を介入させることなく)、機械的圧縮比が高く設定された状態でリーンバーン運転を行うことができる。すなわち、機械的圧縮比が高く設定された状態にて空気過剰率を高くすることによる燃費の低減が、良好に行われ得る。
【0066】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具体的構成例を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態に示された具体的構成に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0067】
以下、変形例について幾つか例示する。ここで、以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、当該変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0068】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0069】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成は、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0070】
(1)本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、バイオエタノールエンジン、その他の任意のタイプの内燃機関に適用され得る。気筒数、気筒配列方式(直列、V型、水平対向)、燃料噴射方式(ポート噴射、筒内直接噴射)も、特に限定はない。
【0071】
(2)本発明は、上述の具体的動作態様に限定されない。例えば、上述のフローチャートの説明において、高圧縮比状態(S230=Yes)ではあるがリーンバーン運転時ではない場合(S240=No)、S250におけるΔθcよりも少なめの量で閉弁時期θcが遅角されてもよい。これにより、低〜中負荷におけるストイキ運転中におけるNOxの発生が効果的に抑制され得る。
【0072】
あるいは、S230における中央値εcに代えて、同中央値εcよりも高圧縮比側の所定値εh、あるいは同中央値εcよりも若干低圧縮比側の所定値εlが用いられ得る。
【0073】
(3)可変圧縮比機構14を含むエンジン1の構成も、上述の実施形態のものに限定されない。例えば、コンロッド132がマルチリンク構造を有していて、このコンロッド132の屈曲状態が変更されることで機械的圧縮比が変更されるように、エンジン1が構成されていても、本発明は良好に適用される。
【0074】
また、実圧縮比の変更も、吸気バルブ123の閉弁時期の変更に限定されない。
【0075】
(4)一般に、空燃比が16以上(空気過剰率が1.1以上)になると、空燃比がリーンになるほど(空気過剰率が大きくなるほど)NOxの発生量が少なくなる。よって、リーンバーン運転は、空燃比が16以上(空気過剰率が1.1以上)となるように行われることが好適である。
【0076】
また、機械的圧縮比が高くなるほど、リーンリミットが高くなる。よって、機械的圧縮比が高くなるほど空気過剰率が高くなるように、リーンバーン運転が行われることが好適である。
【0077】
(5)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0078】
さらに、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態が適用されたシステム(車両等)の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(VVT制御)の具体例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
S…システム
1…エンジン
11…シリンダブロック 111…シリンダボア 12…シリンダヘッド
125…可変吸気バルブタイミング装置 127…インジェクタ
13…クランクケース 131…クランクシャフト 132…コンロッド
14…可変圧縮比機構 141…連結機構 142…駆動機構
2…吸排気通路 205…吸気流制御バルブ
3…エンジン制御装置 300…ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隙間容積及びピストン行程容積から定義される機械的圧縮比、吸気バルブのリフト特性、並びに燃焼室内の燃料混合気の空気過剰率を変更可能に構成されたエンジンの運転を制御する、エンジン制御装置において、
前記機械的圧縮比がその可変範囲における中央値よりも高圧縮比側の所定値である高圧縮比状態にて、前記空気過剰率が第一の値である場合の方が、同空気過剰率が前記第一の値より低い第二の値である場合よりも、実圧縮比が低くなるように前記リフト特性を制御する、リフト特性制御手段を備えたことを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置であって、
前記リフト特性制御手段は、前記高圧縮比状態にて、前記空気過剰率が1を超える前記第一の値であるリーン燃焼時の方が、同空気過剰率が1であるストイキ燃焼時よりも、実圧縮比が低くなるように前記リフト特性を制御することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン制御装置であって、
前記第一の値は1.1以上であることを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載のエンジン制御装置であって、
前記リフト特性制御手段は、前記吸気バルブの閉弁時期を制御することを特徴とする、エンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−7538(P2010−7538A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166789(P2008−166789)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】