説明

エンジン潤滑システム

【課題】蓄熱タンクの蓄熱を有効に利用するとともに、効果的な暖機を行うことができるエンジン潤滑システムを提供することを課題とする。
【解決手段】エンジン潤滑システム2は、特にエンジン暖機時に、油面高さが予め定めた上値まで上昇したと判断したときに、油面高さが予め定めた下値となるまでオイルパン29から蓄熱タンク40にオイルを排出する。暖機が進行し、持ち去り油量が減少すると、油面高さは徐々に高くなる。そして、再び予め定めた上値まで上昇したと判断したとき、油面高さが下値となるまでオイルをオイルパン29から蓄熱タンク40へ排出する。これにより、熱容量を減少させて暖機効果の向上を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン潤滑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油面検出器を用いたオイルパンの油面検出結果に基づいてオイルパンの油面を高位レベルと低位レベルとの間に保持する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−280322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン停止時に、蓄熱タンク内へ高温のオイルを貯留しておき、これをエンジン再始動時にオイルパンに戻せば、エンジンのプレヒートの効果が期待される。これにより、エンジンの暖機の効果も期待される。このようなプレヒートを行うエンジンでは、オイルパン内の油量を調節することにより、暖機効果のさらなる向上が期待できる。オイルパン内の油量の調節には、特許文献1に開示された技術を応用することが可能であると考えられる。
しかしながら、特許文献1開示の技術は、蓄熱タンクからオイルパンへオイルを供給し、蓄熱タンクの蓄熱をエンジンの暖機に利用することについては格別の考慮はなされていない。
【0005】
そこで、本発明は、蓄熱タンクの蓄熱を有効に利用するとともに、効果的な暖機を行うことができるエンジン潤滑システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本明細書開示のエンジン潤滑システムは、エンジン内部に供給されるオイルを貯留するオイルパンと、当該オイルパン内の油面高さの検出手段と、前記オイルを保温して貯留する蓄熱タンクと、前記オイルパンと前記蓄熱タンクとの間でオイルを移送するオイル移送手段と、前記検出手段により検出した油面高さが予め定めた上値まで上昇したと判断したときに、前記検出手段により検出する油面高さが予め定めた下値となるまで前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出するように前記オイル移送手段にオイル排出動作をさせる制御部と、を、備えたことを特徴とする。
【0007】
エンジンが始動すると、その燃焼熱によってエンジンの暖機は進行する。これに伴ってオイルの昇温も進行する。エンジンの暖機時、エンジン内部を循環するオイルの量はできるだけ少ない方が熱容量を減らすことができ都合がよい。その一方、オイルポンプのエアの吸い込みは回避しなければならない。
【0008】
エンジンが稼動しているとき、オイルパン内のオイルは、その一部がエンジン内部に供給された状態となる。すなわち、エンジン内へのオイルの持ち去りが起こっている。このエンジン内へ持ち去られている油量を持ち去り油量と称する。オイルパン内に貯留しておくべき必要最小油量は、この持ち去り油量を考慮し、オイルポンプのエアの吸い込みが起こらないように規定される。
【0009】
ところが、この持ち去り油量は、油温の上昇に伴って減少する。これは、油温が上昇してオイルの粘性が低下すると、エンジン内部からオイルパンへのオイルの戻りがスムーズになることに起因する。
油温が上昇して持ち去り油量が減少すると、オイルパン内の油面高さが上昇する。この結果、エア吸い込みに対する余裕が生じる。すなわち、油温が上昇すると、必要最小油量は、低下することになる。
【0010】
そこで、本明細書開示のエンジン潤滑システムでは、特にエンジン暖機時に、油面高さが予め定めた上値まで上昇したと判断したときに、油面高さが予め定めた下値となるまで前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出する。油温が低い状態では、持ち去り油量が多いため、オイルパン内の油面高さは低くなる。しかし、暖機が進行し、持ち去り油量が減少すると、油面高さは徐々に高くなる。そして、制御部は、予め定めた上値まで上昇したと判断したとき、油面高さが一旦下値となるまでオイルをオイルパンから蓄熱タンクへ排出する。これにより、熱容量を減少させて暖機効果の向上を図る。蓄熱タンクへ戻されたオイルは蓄熱タンク内で保温されることとなり、熱の廃棄を極力抑えることができる。
【0011】
暖機が進行し、油温がさらに上昇することにより、持ち去り油量はさらに減少する。これにより、一旦、下値まで低下した油面高さは再び上昇に転じる。そして、再び上値まで上昇したときはオイルパンから蓄熱タンクへオイルを排出する。本明細書開示のエンジン潤滑システムは、この動作を繰り返す。
【0012】
本明細書開示のエンジン潤滑システムは、前回エンジン始動時に高温となったオイルを蓄熱タンクへ貯留する。そして、この蓄熱をエンジン始動時の暖機に利用することができる。このように、本発明開示のエンジン潤滑システムは、エンジン始動当初から温度の高いオイルを利用することができる。このため、フリクションの低減を図ることができる。この結果、例えば、フリクションの大小に基づいて燃料噴射量を制御するエンジンでは、フリクションの減少により燃費の向上が期待される。
【0013】
なお、オイルパン内にはストレーナが配置される。上値は、このストレーナを通じてエンジン内部に供給されるオイルの油圧低下を生じさせることがない値を採用することができる。下値は、ストレーナのエア吸い込みが発生する手前の値を採用することができる。上値、下値については、エンジン特性等を考慮して適宜設定することができる。
また、油面高さの検出手段は、オイルパン内の油面を検出できるものであればどの様なものであってもよい。例えば、フロートを用い、その位置によって油面高さを把握するオイルレベルセンサを用いることができる。また、オイルの比誘電率と空気の比誘電率との違いにより、液面高さに応じた測定容量が変化することを利用し、油面高さの変化を連続的に検出することができるオイルレベルセンサを用いることができる。
【0014】
本発明開示のエンジン潤滑システムにおいて、前記制御部は、前記オイルパン内に貯留されるオイルの油温に基づいて、前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出するように前記オイル移送手段にオイル排出動作をさせる構成とすることができる。
【0015】
前記のようにオイルパン内に貯留しておくべき必要最小油量は、油温に応じて変化する。このため、油温に基づいてオイルパンからのオイルの排出量を決定することもできる。油温に基づいてオイル排出動作をさせる制御と、油面高さの検出手段を利用してオイル排出動作をさせる制御とを並行して行うこともできる。このような並行した制御は、例えば、油面高さの検出手段が故障した場合に有効である。すなわち、油面高さの検出手段が故障し、油面高さが下値に到達したことを検出できない場合、オイル排出が継続されてしまう。オイル排出が継続されれば、エア吸い込みを引き起こす。並行した制御を行うことにより、このような事態に対応し、オイル排出を停止することができる。
【0016】
本発明開示のエンジン潤滑システムにおいて、前記制御部は、前記検出手段により検出した油面高さが予め定めた下値まで低下したときに、前記蓄熱タンクから前記オイルパンにオイルを供給するように前記オイル移送手段にオイル供給動作をさせることができる。
【0017】
オイル排出により、オイルパン内の油面高さが一旦下値まで低下しても、通常であれば、油温のさらなる上昇に伴って持ち去り油量が減少し、油面高さは再び上昇する。しかしながら、油面高さが下値付近の状態でのエンジンの稼動が続くと、急激なエンジン回転数上昇に対応できないことが考えられる。すなわち、エンジン回転数が上昇すると、持ち去り油量が増加して、オイルパン内の油面が低下し、この結果、エア吸い込みの危険が生じ得る。そこで、油面高さを一旦下値まで低下させ、その後、蓄熱タンクからオイルパン内へオイルを供給する制御を行うことができる。
【0018】
本発明開示のエンジン潤滑システムにおいて、前記制御部は、前記オイルパン内の油面の傾きに基づいて、前記蓄熱タンクから前記オイルパンにオイルを供給するように前記オイル移送手段にオイル供給動作をさせることができる。
【0019】
エンジンが搭載された車両が登坂状態や旋回状態、加速状態にあると、オイルパン内の油面はオイルパンに対して傾く。これにより、ストレーナがオイルから露出するおそれがある。そこで、オイルパン内の油面の傾きに基づいて、オイルパン内の油量を増量する制御を行うことができる。これにより、ストレーナの露出を回避し、油圧低下を抑制することができる。
【0020】
本発明開示のエンジン潤滑システムにおいて、前記制御部は、エンジン始動後にエンジン内部における油温の上昇が観測された後に前記油面高さ検出手段により検出する油面高さが予め定めた下値となるまで前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出するように前記オイル移送手段にオイル排出動作をさせることができる。
【0021】
本発明開示のエンジン潤滑システムは、前記のようにオイルパン内のオイル排出を繰り返す。その1回目のオイル排出の開始条件として、エンジン始動後のエンジン内部における油温の上昇の観測を挙げることができる。本発明開示のエンジン潤滑システムは、エンジン始動前に蓄熱タンク内の保温されたオイルをオイルパンに供給することができる。これにより、蓄熱が暖機に利用される。暖機に利用されたオイルの油温は低下する。そして、エンジンが始動し、燃焼熱が付与されるようになると油温も上昇する。すなわち、油温が低下し続けている間は、蓄熱が暖機に供されている期間であると考えることができる。この期間の終了は、油温の上昇によって把握することができる。本発明開示のエンジン潤滑システムは、油温の上昇を観測したことを条件にオイルパンからのオイルの排出を行う。これにより、蓄熱を最大限利用することが可能となる。また、熱容量の低減を図り、燃焼熱による暖機の促進を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本明細書開示のエンジンの潤滑装置によれば、エンジン始動時に蓄熱タンクからオイルパンに供給されたオイルを、油温の上昇に伴って変化する必要最小油量に追随するように排出する。これにより、蓄熱タンクの蓄熱を有効に利用するとともに、極力少量のオイルを循環させて効果的な暖機を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
図1は、本発明のエンジン潤滑システム2を組み込んだエンジン1の概略構成を模式的に示す説明図である。エンジン1はディーゼルエンジンである。
エンジン1は、シリンダブロック本体21、オイルパン29等を含むシリンダブロック部20と、このシリンダブロック部20の上側に固定されるシリンダヘッド部30を含んでいる。
【0025】
シリンダブロック部20は、シリンダ21aが形成されたシリンダブロック本体21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含む。ピストン22はシリンダ21a内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達される。これによりクランク軸24が回転する。シリンダ21aとピストン22のヘッド部分は、シリンダヘッド部30と共に燃焼室25を形成している。シリンダブロック本体21にはウォータージャケット21bが形成されている。
【0026】
また、シリンダブロック本体21の下端にはオイルパン29が装着されている。オイルパン29は、エンジン1内部に供給されるオイルを貯留する。オイルパン29の内側には、オイルストレーナ26が配置されている。ストレーナ26は、第1オイルポンプ27に接続されている。第1オイルポンプ27には、エンジン1内部に設けられたオイルギャラリに通じるオイルフィードパイプ28が接続されている。第1オイルポンプ27は、クランク軸24の回転によって駆動される。
【0027】
シリンダヘッド部30は、シリンダヘッド本体31に、燃焼室25に連通した吸気ポート39、この吸気ポート39を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフト33、を備えている。また、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、燃料噴射弁37を備えている。また、シリンダヘッド本体31には、ウォータージャケット31aが形成されている。
【0028】
エンジン1に組み込まれるエンジン潤滑システム2は、オイルパン29を含んでいる。また、エンジン停止時にオイルを保温して貯留する蓄熱タンク40を備えている。蓄熱タンク40は周囲に保温部材41を備えている。蓄熱タンク40の底部には、第1オイル移送パイプ42が接続されている。第1オイル移送パイプ42の他端は、第2オイルポンプ45に接続されている。この第2オイルポンプ45は電動式で正逆回転が可能となっており、後述するECU(Electronic control unit)50に電気的に接続されている。第2オイルポンプ45には、さらに第2オイル移送パイプ43が接続されている。第2オイル移送パイプ43の他端は、オイルパン29の底部に接続されている。第2オイル移送パイプ43には、開閉弁49が設置されている。開閉弁49は、後述するECU50に接続されており、第2オイルポンプ45が稼動するときに開状態とされる。
本発明におけるオイル移送手段は、第1オイル移送パイプ42、第2オイルポンプ45、第2オイル移送パイプ43を有している。
なお、第2オイル移送パイプ43からは、第3オイル移送パイプ44が分岐している。第3オイル移送パイプ44の他端は、オイルフィードパイプ28に接続されている。第3オイル移送パイプ44には、逆止弁47が設けられている。逆止弁47は、第1オイルポンプ27が稼動しているときに第3オイル移送パイプ44内をオイルが逆流することを防止する。また、オイルパン29と蓄熱タンク40とはエアパイプ48で接続されている。エアパイプ48は、オイルパン29と蓄熱タンク40との間でオイルの移送が行われるときに、オイルパン29内部と蓄熱タンク40内部の圧力を調整し、スムーズなオイルの移送に寄与する。
【0029】
エンジン潤滑システム2は、オイルパン29内に本発明における油面高さの検出手段に相当するオイルレベルセンサ38を備えている。また、オイルパン29の底部には、油温センサ46が装着されている。図2は、オイルレベルセンサ38の斜視図である。オイルレベルセンサ38は、シャフト部材38aの上端に上部材38bを備え、シャフト部材38aの下端に下部材38cを備えている。また、シャフト部材38aには、環状のフロート部材38dが上下動可能に装着されている。図3(a)はフロート部材が下値を示す低位に位置し、図3(b)はフロート部材が中位に位置し、図3(c)はフロート部材が上値を示す高位に位置した状態のオイルレベルセンサの断面図である。すなわち、図3(a)〜(c)は、フロート部材38dがそれぞれ異なる位置に移動した状態を示している。フロート部材38dは、その内周面に第1電極38d1が設けられている。また、その上面に第2電極38d2が設けられている。シャフト部材38aの表面にはフロート部材38dに設けた第1電極38d1と接触することによって通電状態となる第1電極38a1が設けられている。第1電極38a1の下端と下部材38cとの間は、少なくともフロート部材38dの厚み分の距離を有している。従って、フロート部材38dが下がり、下部材38cに着座するようになると第1電極38a1と第1電極38d1との通電は遮断されてOFF状態となる。また、上部材38bの下面にはフロート部材38dに設けた第2電極38d2と接触することによって通電状態となる第2電極38b1が設けられている。油面の上昇に伴ってフロート部材38dが上昇し、その上面に設けられた第2電極38d2が、上部材38bの下面に設けた第2電極38b1と接触する。
オイルレベルセンサ38は、油面高さが予め定めた上値に到達したときに第2電極が通電状態となるように設置されている。また、油面高さが予め定めた下値に到達したときに第1電極、第2電極ともに通電が切断され、OFF状態となるように設置されている。上値は、ストレーナ26を通じてエンジン内部に供給されるオイルの油圧低下を生じさせることがない値が採用されている。また、下値は、ストレーナのエア吸い込みが発生する手前の値が採用されている。
【0030】
エンジン潤滑システム2は、本発明における制御手段の一例であるECU50を備えている。ECU50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等からなる算術論理回路である。ECU50は、タイマーを内蔵している。このECU50には、オイルレベルセンサ38が電気的に接続されている。また、ECU50には、エンジン1が搭載される車両の傾きを検出するGセンサ51が接続されている。車両の傾きを検出することにより、オイルパン内の油面のオイルパンに対する傾きを検出する。また、ECU50には、イグニション52が接続されており、そのON状態、OFF状態が把握できるようになっている。さらに、ECU50には、オイルパン29内の油温を測定する油温センサ46が接続されている。
【0031】
ECU50は、エンジン始動前のタイミングで、蓄熱タンク40内のオイルの全量をオイルパン29へ移送してプレヒートを行う制御を行う。また、オイルレベルセンサ38により検出した油面高さが予め定めた上値まで上昇したと判断したときに、油面高さが予め定めた下値となるまでオイルパン29から蓄熱タンク40にオイルを排出するように第2オイルポンプ45を稼動させる。また、ECU50は、これに付随する各種制御を行う。ECU50は、これらの制御を行うためのプログラムを格納している。
【0032】
以下、ECU50が行う制御の一例を図4、図5に示したフロー図を参照しつつ説明する。なお、図4は、制御の前半部分を示し、図5は、制御の後半部分を示している。また、図10は、ECU50の制御によるオイルパン29内の油面高さの推移を模式的に示した説明図である。図10では、破線によって油面高さを表している。
【0033】
まず、ECU50は、ステップS1において、エンジン始動予測があったか否かを判断する。エンジン始動予測は、イグニション52のON/OFF状態によって判断される。イグニション52のONを確認したときは、エンジン始動予測がされたとしてステップS2へ進む。イグニション52のONが確認されないときは、ステップS1の処理を繰り返す。ステップS2では、蓄熱タンク40内のオイルを全量、オイルパン29へ移送するように、第2オイルポンプ45へON指令を発する。移送量は第2オイルポンプ45の駆動時間によって管理されている。図10における(I)は、オイルパン29内に全量のオイルを移送した状態を示している。エンジン潤滑システム2は、エンジン停止時にオイルの全量を蓄熱タンク40に回収する。これにより、温まったオイルを蓄熱タンク40で保温することができる。このように保温されていたオイルをエンジン始動前にオイルパン29に戻すことによりエンジン始動直後から温度の高いオイルをエンジン1内に循環させることができる。これにより、早期暖機を図ることができる。
【0034】
ステップS2の処理を行った後は、ステップS3において、エンジン1が始動したか否かの判断を行う。エンジン1が始動したことを確認でき、ステップS3でYESと判断したときは、ステップS4へ進み、オイルパン29内のオイルの温度(オイルパン内油温)を確認する。そして、ステップS5においてt秒をカウントした後、ステップS6において、再びオイルパン内油温を確認する。また、ステップS7において、第2オイルポンプ45を駆動する時間S秒を決定しておく。ステップS4〜ステップS6の処理は、オイルパン内油温の変化を確認するために行う処理である。図6は、エンジン始動後のオイルパン内油温の変化を示したものであり、図6(b)は、図6(a)において破線で囲んだ部分を拡大して示したものである。オイルパン内油温は、エンジン始動直後は蓄熱タンク40内で保温されていたことから高めの温度を示す。この状態から蓄熱が暖機に利用されると、オイルパン内油温は低下する。そして、エンジンが始動し、燃焼熱が付与されるようになるとオイルパン内油温も上昇する。そこで、t秒間にT℃の油温上昇が観測されたら蓄熱を使い果たしたと判断する。これ以後は、エンジン1の燃焼熱により暖機が進行することとなる。燃焼熱による暖機が行われる期間はできるだけオイルの量を低減し、熱容量を低減することが望ましい。そこで、ステップS7に引き続いて行うステップS8において、油温が上昇しているか否かを判断する。この判断は、ステップS4で確認したオイルパン内油温とステップS6で確認したオイルパン内油温とを比較することによって行う。
【0035】
ステップS7で行う処理は、図7に示したマップを参照することによって行う。図7は、オイルパン内油温に基づいて第2オイルポンプ45の駆動時間を決定するためのマップである。オイルは、その温度によって粘性が異なり、いわゆる持ち去り油量が異なる。油温が高くなれば粘性は低くなり、持ち去り油量は低下する。このため、オイルパン29内に貯留するオイルの量は、油温が高いほど少なくてよい。このため、図7に示したマップでは、オイルパン内油温が高くなるほど第2オイルポンプ45の駆動時間は長くなっている。なお、図7に示したマップを参照するときのオイルパン内油温は、ステップS6で取得した値に基づいている。また、このステップS7の処理は、ステップS8の後に行うようにしてもよい。
【0036】
ステップS8でNOと判断したときは、ステップS8でYESと判断するまでステップS4〜ステップS7の処理を繰り返す。
ステップS8でYESと判断したときは、ステップS9へ進む。ステップS9では、第2オイルポンプ45に対し駆動指令を発し、駆動時間のカウントを開始する。すなわち、ECU50は、第2オイルポンプ45にオイル排出動作をさせる。なお、このときの駆動指令は、オイルパン29から蓄熱タンク40側へオイルを移送する向きの駆動指令である。
【0037】
ステップS9の処理を終えた後は、ステップS10へ進む。ステップS10では、オイルレベルセンサ38がOFFとなったか否かを確認する。オイルレベルセンサ38がOFFの状態とは、図3(a)に示すように第1電極、第2電極共に切断された状態である。すなわち、油面高さが下値となった状態である。図10では、(II)に示した状態である。このステップS10でYESと判断されたときは、ステップS11へ進み、第2オイルポンプ45を停止する。このようにオイルパン29内のオイル量を低下させることにより、小油量でのオイル循環を行うことができる。オイルを少量とすることにより、熱容量が低減されるので、燃焼熱によるエンジン1の暖機が促進される。
【0038】
一方、ステップS10でNOと判断したときはステップS12へ進む。ステップS12では、S秒が経過したか否かの判断を行う。このステップS12でNOと判断したときは、再び、ステップS10の処理を行う。一方、ステップS12でYESと判断したときは、ステップS11へ進み、第2オイルポンプ45を停止する。このように、オイルレベルセンサ38の検出値に基づく制御と並行してオイルパン内油温に基づいて第2オイルポンプ45の駆動時間を変更する制御を行うことにより、オイルレベルセンサ38の故障に対応することができる。すなわち、オイルレベルセンサ38が故障し、OFF状態を示すことができない場合であってもオイルパン29からのオイル排出を停止することができる。
【0039】
このように1回目のオイル排出を行うと、図10(II)に示すように小油量の状態となる。これにより暖機が促進され、油温は上昇し易くなる。油温が上昇すると持ち去り油量が減少することから図10(III)に示すように再びオイルパン29内の油量は増加し始める。オイルパン29内の油量が増加し始めると、まず、第1電極38d1が通電し、ON状態となる。ステップS13では、第1電極38d1がON状態であるか否かの判断を行う。ステップS13でNOと判断したときはステップS14へ進む。ステップS14〜ステップS17の処理は、エア吸い込みの防止を図るための処理である。図8は、必要最小油量とオイルパン内油温及びエンジン回転数との関係を示したものである。図8に示すように、エンジン回転数が上昇すると、必要最小油量も上昇する。すなわち、必要最小油量は、油温の影響を受けるだけでなく、エンジン回転数の影響も受ける。このため、下値もエア吸い込みを考慮した値ではあるものの、油面高さが下値である状態が継続すると、エンジン回転数が上昇したときにエア吸い込みに対する余裕が減少する。そこで、油面高さを下値より多少高い状態としておくことにより、エア吸い込みに対し、さらに余裕を持たせることができる。すなわち、下値はオイルパン29内からオイルを排出するときの目安となるものであって、一旦下値までオイルを排出した後は、再び、エア吸い込みに対して余裕を持った油面高さを維持する。前記のように油温が上昇し、持ち去り油量が減少すれば、油面高さは上昇するが、即座に油面高さが上昇しないときは、蓄熱タンク40からオイルパン29へオイルを供給する。
【0040】
蓄熱タンク40からオイルパン29へオイルを戻すとき、ECU50は、油面のオイルパン29に対する傾きを考慮する。ステップS13でNOと判断したとき、ECU50は、ステップS14において、油面の傾きを確認する。この油面の傾きは、Gセンサ51の検出値に基づいて判断する。油面の傾きは、ストレーナ26が露出する方向の傾きを評価する。ステップS14に引き続き行われるステップS15の処理は、図9に示したマップを参照することによって行う。図9は、油面傾きに基づいて第2オイルポンプ45の駆動時間を決定するためのマップである。このマップは、油面の傾きが全く無い場合であっても、第2オイルポンプ45を駆動するものとなっている。すなわち、油面の傾きがなくてもオイルパン29へのオイルの供給を行う。これにより、油面高さに余裕を持たせ、エンジン回転数の上昇に対応している。油面の傾きが大きくなり、ストレーナ26の露出の危険性が増大すると、第2オイルポンプ45の駆動時間を長くとり、オイルパン29へ供給するオイルの量を増加させる。
【0041】
ステップS15の処理に引き続き行われるステップS16では、第2オイルポンプ45に対し駆動指令を発し、駆動時間のカウントを開始する。すなわち、ECU50は、第2オイルポンプ45にオイル供給動作をさせる。なお、このときの駆動指令は、蓄熱タンク40からオイルパン29側へオイルを移送する向きの駆動指令である。
【0042】
ステップS16の処理を終えた後は、ステップS17へ進む、ステップS17では、ステップS15で決定したS秒が経過したか否かを判断する。ステップS17でYESと判断したときは、ステップS18へ進む。ステップS18では、第2電極38d2が通電したか否か、すなわち、ON状態となったか否かを判断する。第2電極38d2がONである状態は油面高さが上値に到達した状態である。すなわち、図10(IV)に示す状態となったか否かを判断する。第2電極38d2がON状態となったことを確認したら、再びオイルパン29からオイルを排出する措置を採る。2回目の排出である。1回目の排出は、ステップS8におけるYESの判断を条件にオイルパン29からのオイルの排出を行ったが、2回目以降は油面高さが上値に到達したことを条件にオイルパン29からのオイルの排出を行う。
【0043】
ステップS18でYESと判断したときは、ステップS19へ進む。ステップS19では、オイルパン内油温を確認する。ステップS19に引き続き行われるステップS20では、ステップS7と同様の処理を行う。すなわち、ステップS20で行う処理は、図7に示したマップを参照することによって行う。ステップS20でステップS7と同様の要領で第2オイルポンプ45の駆動時間を決定した後は、ステップS21に進む。ステップS21では、ステップS21では、ステップS9における処理と同様に第2オイルポンプ45に対し駆動指令を発し、駆動時間のカウントを開始する。なお、このときの駆動指令は、オイルパン29から蓄熱タンク40側へオイルを移送する向きの駆動指令である。
【0044】
ステップS21の処理を終えた後は、ステップS22へ進む。ステップS22では、ステップS10における処理と同様にオイルレベルセンサ38がOFFとなったか否かを確認する。すなわち、油面高さが下値となったか否かを判断する。図10では、(V)に示した状態である。このステップS22でYESと判断されたときは、ステップS23へ進み、第2オイルポンプ45を停止する。このようにオイルパン29内のオイル量を低下させることにより、小油量でのオイル循環を行うことができる。オイルを少量とすることにより、熱容量が低減されるので、燃焼熱によるエンジン1の暖機が促進される。
【0045】
一方、ステップS22でNOと判断したときはステップS24へ進む。ステップS24では、S秒が経過したか否かの判断を行う。このステップS24でNOと判断したときは、再び、ステップS22の処理を行う。一方、ステップS24でYESと判断したときは、ステップS23へ進み、第2オイルポンプ45を停止する。このように、オイルレベルセンサ38の検出値に基づく制御と並行してオイルパン内油温に基づいて第2オイルポンプ45の駆動時間を変更する制御を行うことにより、オイルレベルセンサ38の故障に対応することができる。すなわち、オイルレベルセンサ38が故障し、OFF状態を示すことができない場合であってもオイルパン29からのオイル排出を停止することができる。
【0046】
ステップS23の処理を終えた後は、ステップS25へ進む。
ステップS25では、オイルパン内油温を確認し、引き続き行われるステップS26において、オイルパン内油温に基づいて暖機が完了したか否かを判断する。このステップS26においてNOと判断したときはステップS13へ進む。そして、再び、オイルパン29内の油面高さの制御を行う。その後、ステップS26においてYESと判断されるまで、N回の排出を繰り返す。
【0047】
一方、ステップS26でYESと判断したときは、ステップS27へ進む。ステップS27では、蓄熱タンク40内のオイルを全量オイルパン29へ移送して一連の処理を終了する(エンド)。
【0048】
以上説明したように、本実施例のエンジン潤滑システム2によれば、エンジン始動時に蓄熱タンク40からオイルパン29に供給されたオイルを、油温の上昇に伴って変化する必要最小油量に追随するように繰り返し排出するようにしたので、蓄熱タンクの蓄熱を有効に利用するとともに、極力少量のオイルを循環させて効果的な暖機を行うことができる。
【0049】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。例えば、上記実施例では、ステップS13でNOと判断したときに、油面の傾きを考慮してオイルパン29内のオイルの量を増加させるようにしているが、油面の傾きに基づく制御を別個の制御することもできる。例えば、オイルの比誘電率と空気の比誘電率との違いにより、液面高さに応じた測定容量が変化することを利用したオイルレベルセンサを用いれば、油面高さの変化を連続的に検出することができる。この連続的に変化する油面高さと、油面の傾きからオイルパン29内に貯留すべきオイルの量を決定し、これに基づいて第2オイルポンプ45を駆動するようにしてもよい。また、Gセンサに代えて、ステアリングの舵角と、その時点でのステアリングの操舵トルクとに基づいて車両の旋回力を求め、これから油面の傾きを推定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】エンジン潤滑システムを組み込んだエンジンの概略構成を模式的に示す説明図である。
【図2】オイルレベルセンサの斜視図である。
【図3】(a)はフロート部材が低位に位置し、(b)はフロート部材が中位に位置し、(c)はフロート部材が高位に位置した状態のオイルレベルセンサの断面図である。
【図4】ECUが行う制御の一例の前半部分を示したフロー図である。
【図5】ECUが行う制御の一例の後半部分を示したフロー図である。
【図6】エンジン始動後のオイルパン内油温の変化を示したものであり、図6(b)は、図6(a)において破線で囲んだ部分を拡大して示した図である。
【図7】オイルパン内油温に基づく第2オイルポンプ駆動時間決定マップの一例を示す図である。
【図8】必要最小油量とオイルパン内油温及びエンジン回転数との関係を示す図である。
【図9】油面傾きに基づく第2オイルポンプ駆動時間決定マップの一例を示す図である。
【図10】ECUの制御によるオイルパン内の油面高さの推移を模式的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1…エンジン 2…エンジン潤滑システム
20…シリンダブロック部 21…シリンダブロック本体
21a…シリンダ 21b…ウォータージャケット
27…第1オイルポンプ 29…オイルパン
30…シリンダヘッド部 31…シリンダヘッド本体
31a…ウォータージャケット 46…油温センサ
38…オイルレベルセンサ 40…蓄熱タンク
42…第1オイル移送パイプ 43…第2オイル移送パイプ
44…第3オイル移送パイプ 45…第2オイルポンプ
50…ECU 51…Gセンサ
52…イグニション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン内部に供給されるオイルを貯留するオイルパンと、
当該オイルパン内の油面高さの検出手段と、
前記オイルを保温して貯留する蓄熱タンクと、
前記オイルパンと前記蓄熱タンクとの間でオイルを移送するオイル移送手段と、
前記検出手段により検出した油面高さが予め定めた上値まで上昇したと判断したときに、前記検出手段により検出する油面高さが予め定めた下値となるまで前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出するように前記オイル移送手段にオイル排出動作をさせる制御部と、
を、備えたことを特徴とするエンジン潤滑システム。
【請求項2】
請求項1記載のエンジン潤滑システムにおいて、
前記制御部は、前記オイルパン内に貯留されるオイルの油温に基づいて、前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出するように前記オイル移送手段にオイル排出動作をさせることを特徴としたエンジン潤滑システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエンジン潤滑システムにおいて、
前記制御部は、前記検出手段により検出した油面高さが予め定めた下値まで低下したときに、前記蓄熱タンクから前記オイルパンにオイルを供給するように前記オイル移送手段にオイル供給動作をさせることを特徴としたエンジン潤滑システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載のエンジン潤滑システムにおいて、
前記制御部は、前記オイルパン内の油面の傾きに基づいて、前記蓄熱タンクから前記オイルパンにオイルを供給するように前記オイル移送手段にオイル供給動作をさせることを特徴としたエンジン潤滑システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項記載のエンジン潤滑システムにおいて、
前記制御部は、エンジン始動後にエンジン内部における油温の上昇が観測された後に前記油面高さ検出手段により検出する油面高さが予め定めた下値となるまで前記オイルパンから前記蓄熱タンクにオイルを排出するように前記オイル移送手段にオイル排出動作をさせることを特徴としたエンジン潤滑システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−270534(P2009−270534A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123498(P2008−123498)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】