説明

オイル供給装置

【課題】オイル供給能力の確保と動力損失の低減とを両立することができるオイル供給装置を提供すること。
【解決手段】車両の動力伝達装置内に配置され、車両の動力源であるエンジンの回転と連動して回転する第一回転部材によって駆動される第一オイルポンプと、動力伝達装置内に配置され、車両の車輪の回転と連動して回転する第二回転部材12によって駆動される第二オイルポンプ40と、第二オイルポンプと第二回転部材との動力伝達を接続あるいは遮断する切替機構50とを備え、切替機構は、接続している動力伝達を車速に応じて作用する力によって遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルポンプによって車両の駆動用装置にオイルを供給する技術が知られている。特許文献1には、エンジンによって駆動されるオイルポンプと、出力軸によって駆動されるオイルポンプとを備えるハイブリッド車両用駆動装置の技術が開示されている。特許文献2には、エンジン駆動のオイルポンプと、モータジェネレータ駆動のオイルポンプとを備えた車両用駆動装置の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−126047号公報
【特許文献2】特開平9−158962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンによって駆動されるオイルポンプでは、エンジンを停止して走行することが可能な車両の場合、エンジンを停止して走行中にオイルポンプも停止してしまうこととなる。出力軸によって駆動されるオイルポンプでは、高速走行時にオイルポンプによる動力損失が大きくなるという問題がある。オイルの供給能力を確保することができ、かつ動力損失を低減できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、オイル供給能力の確保と動力損失の低減とを両立することができるオイル供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオイル供給装置は、車両の動力伝達装置内に配置され、前記車両の動力源であるエンジンの回転と連動して回転する第一回転部材によって駆動される第一オイルポンプと、前記動力伝達装置内に配置され、前記車両の車輪の回転と連動して回転する第二回転部材によって駆動される第二オイルポンプと、前記第二オイルポンプと前記第二回転部材との動力伝達を接続あるいは遮断する切替機構とを備え、前記切替機構は、接続している前記動力伝達を車速に応じて作用する力によって遮断することを特徴とする。
【0007】
上記オイル供給装置において、前記第二オイルポンプは、回転軸を有し、前記回転軸が回転駆動されることによってオイルを吐出するものであって、前記切替機構は、前記第二回転部材の回転と連動して回転し、かつ前記第二回転部材と前記回転軸とを連結する連結状態と、前記第二回転部材と前記回転軸とを連結しない非連結状態とに切り替わる連結部材を有し、前記連結部材は、回転時に作用する遠心力によって前記連結状態から前記非連結状態に切り替わることが好ましい。
【0008】
上記オイル供給装置において、前記第二回転部材は、円筒形状の円筒部を有し、前記回転軸は、前記円筒部に挿入されており、前記切替機構は、更に、前記連結部材を付勢する付勢部材を備え、前記連結部材は、前記円筒部の半径方向内側において前記円筒部に対して相対回転不能かつ半径方向に相対移動可能に支持され、かつ、前記付勢部材によって前記回転軸に向かう半径方向の付勢力を受けており、前記連結部材は、前記第二回転部材の回転速度が低速であると前記付勢力によって前記回転軸と連結して前記連結状態となり、前記第二回転部材の回転速度が高速であると前記遠心力によって前記回転軸から離間して前記非連結状態となることが好ましい。
【0009】
本発明のオイル供給装置は、車両の動力伝達装置内に配置され、回転軸を有し、前記回転軸が回転駆動されることによってオイルを吐出するオイルポンプと、前記車両の動力源であるエンジンの回転と連動して回転するエンジン側回転部材と、前記回転軸と、を接続する第一のワンウェイクラッチと、前記車両の車輪の回転と連動して回転する車輪側回転部材と、前記回転軸と、を接続する第二のワンウェイクラッチと、車速が低いと前記車輪側回転部材と前記第二のワンウェイクラッチとの動力伝達を接続し、車速が高いと前記動力伝達を遮断する切替機構とを備え、前記第一のワンウェイクラッチは、前記エンジン側回転部材から前記回転軸に対する動力の伝達を許容し、かつ前記回転軸から前記エンジン側回転部材に対する動力の伝達を遮断し、前記第二のワンウェイクラッチは、前記車輪側回転部材から前記回転軸に対する動力の伝達を許容し、かつ前記回転軸から前記車輪側回転部材に対する動力の伝達を遮断することを特徴とする。
【0010】
上記オイル供給装置において、前記エンジン側回転部材と、前記車輪側回転部材と、前記回転軸と、前記第一のワンウェイクラッチと、前記第二のワンウェイクラッチとは、同軸上に配置され、かつ半径方向において重なっていることが好ましい。
【0011】
上記オイル供給装置において、前記切替機構は、前記車輪側回転部材の回転と連動して回転し、かつ前記車輪側回転部材と前記第二のワンウェイクラッチとを連結する連結状態と、前記車輪側回転部材と前記第二のワンウェイクラッチとを連結しない非連結状態とに切り替わる連結部材を有し、前記連結部材は、回転時に作用する遠心力によって前記連結状態から前記非連結状態に切り替わることが好ましい。
【0012】
上記オイル供給装置において、前記車輪側回転部材は、円筒形状の円筒部を有し、前記第二のワンウェイクラッチは、前記円筒部に挿入されており、前記切替機構は、更に、前記連結部材を付勢する付勢部材を備え、前記連結部材は、前記円筒部の半径方向内側において前記円筒部に対して相対回転不能かつ半径方向に相対移動可能に支持され、かつ、前記付勢部材によって前記第二のワンウェイクラッチに向かう半径方向の付勢力を受けており、前記連結部材は、前記車輪側回転部材の回転速度が低速であると前記付勢力によって前記第二のワンウェイクラッチと連結して前記連結状態となり、前記車輪側回転部材の回転速度が高速であると前記遠心力によって前記第二のワンウェイクラッチから離間して前記非連結状態となることが好ましい。
【0013】
上記オイル供給装置において、更に、前記動力伝達装置内の上部に配置され、流入口を有するオイルタンクと、前記動力伝達装置内における前記オイルタンクよりも鉛直方向下側に配置され、前記車輪の回転と連動して回転するギアとを備え、前記ギアは、前記動力伝達装置内に貯留されたオイルを回転によって前記流入口に向けて送り出し、前記切替機構は、前記ギアが前記流入口にオイルを到達させることができる車速において前記動力伝達を遮断することが好ましい。
【0014】
上記オイル供給装置において、動力源としてのモータジェネレータを更に有し、前記エンジンを停止して前記モータジェネレータが出力する動力によって走行することが可能なハイブリッド車両に搭載されていることが好ましい。
【0015】
上記オイル供給装置において、動力源としてのモータジェネレータを更に有し、前記エンジンを停止して前記モータジェネレータが出力する動力によって走行することが可能であり、かつ前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリに対して外部電源から充電することが可能なプラグインハイブリッド車両に搭載されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるオイル供給装置は、エンジンの回転と連動して回転する第一回転部材によって駆動される第一オイルポンプと、車輪の回転と連動して回転する第二回転部材によって駆動される第二オイルポンプと、第二オイルポンプと第二回転部材との動力伝達を接続あるいは遮断する切替機構とを備える。切替機構は、接続している動力伝達を車速に応じて作用する力によって遮断する。本発明にかかるオイル供給装置によれば、低車速では第二オイルポンプが駆動され、高車速において第二オイルポンプの駆動がなされなくなることで、オイル供給能力の確保と動力損失の低減とを両立することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、第1実施形態の第二オイルポンプの近傍を示す断面図である。
【図2】図2は、第1実施形態のオイル供給装置が適用された動力伝達装置を示す図である。
【図3】図3は、第1実施形態の切替機構の詳細を示す斜視図である。
【図4】図4は、変形例に係る第二オイルポンプを示す図である。
【図5】図5は、第2実施形態のオイル供給装置を示す図である。
【図6】図6は、第2実施形態の切替機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態にかかるオイル供給装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
(第1実施形態)
図1から図3を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、動力伝達装置のオイル供給装置に関する。図1は、本実施形態にかかる第二オイルポンプの近傍を示す断面図、図2は、本実施形態のオイル供給装置が適用された動力伝達装置を示す図である。図1には、図2のA−A断面が示されている。
【0020】
THS(トヨタハイブリッドシステム)のようなハイブリッドシステムでは、オイルポンプによるプラネタリギア(遊星歯車機構)とMG(モータジェネレータ)の潤滑・冷却が必要となることがある。エンジン軸にオイルポンプを設置すると、EV走行時、エンジン停止に伴いオイルポンプも停止してしまうという問題がある。また、車速軸(デフ、ドライブピニオン、MG2、プラネタリリングギア等)にオイルポンプを設置すると、停車発電時にオイルポンプが停止してプラネタリギアの潤滑ができない問題や、高速走行時にロストルクが大きくなるという問題がある。そこで、エンジン軸に機械式のオイルポンプを設置し、EV走行レンジの広いプラグインHVでは電動オイルポンプを追加することが考えられる。しかしながら、電動オイルポンプは、コスト増につながることが問題となる。
【0021】
本実施形態のオイル供給装置は、エンジン軸に設置されたオイルポンプと、車速軸に設置されたオイルポンプとを備える。これにより、EV走行時や停車発電時においてもオイル供給能力を確保することができる。車速軸に設置されたオイルポンプは、切替機構によって高速走行時に車速軸から切り離される。これにより、ロストルクの増加が抑制される。本実施形態のオイル供給装置によれば、オイルの供給能力の確保と動力損失の低減とを両立することができる。
【0022】
図2において、符号1は、ハイブリッド車両(図示せず)の動力伝達装置を示す。本実施形態のハイブリッド車両は、外部電源からバッテリに充電する充電システムを備えたプラグインハイブリッド車両である。ハイブリッド車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、動力伝達装置1の各軸線は車幅方向に延在している。また、符号1−1は、本実施形態のオイル供給装置を示す。動力伝達装置1は、ケース2を有する。ケース2内には、カウンタドライブギア3、カウンタドリブンギア4、ドライブピニオンギア5、MG2リダクションギア6、デフリングギア(ギア)7、オイル受け部(オイルタンク)8が設けられている。カウンタドライブギア3は、カウンタドリブンギア4よりも車両前後方向の前側に、MG2リダクションギア6およびデフリングギア7は、カウンタドリブンギア4よりも車両前後方向の後側に配置されている。
【0023】
カウンタドライブギア3は、図示しないエンジンの出力軸および第1のモータジェネレータMG1の回転軸と遊星歯車機構を介して接続されており、エンジンの出力は、カウンタドライブギア3および第1のモータジェネレータMG1に分割して入力される。例えば、遊星歯車機構のピニオンギアを支持するキャリアにはエンジンの出力軸が、サンギアには第1のモータジェネレータMG1の回転軸が、リングギアにはカウンタドライブギア3がそれぞれ接続される。カウンタドリブンギア4およびドライブピニオンギア5は、同軸上に配置され、かつ一体に回転する。カウンタドリブンギア4は、カウンタドライブギア3と噛合っている。MG2リダクションギア6は、第2のモータジェネレータMG2のロータの回転軸に連結されている。
【0024】
第1のモータジェネレータMG1および第2のモータジェネレータMG2は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。第1のモータジェネレータMG1および第2のモータジェネレータMG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。車両には、第1のモータジェネレータMG1および第2のモータジェネレータMG2と電力を授受することができるバッテリが搭載されている。また、車両には、家庭用電源等の外部電源からバッテリに充電することを可能とする充電システムが搭載されている。
【0025】
MG2リダクションギア6は、カウンタドリブンギア4と噛合っている。MG2リダクションギア6は、カウンタドリブンギア4よりも小径であり、第2のモータジェネレータMG2の出力は、MG2リダクションギア6からカウンタドリブンギア4に増幅して伝達される。
【0026】
ドライブピニオンギア5は、デフリングギア7と噛合っており、カウンタドリブンギア4に入力されたエンジンの出力トルクおよび第2のモータジェネレータMG2の出力トルクは、ドライブピニオンギア5を介してデフリングギア7に伝達される。デフリングギア7は、差動機構を介して駆動輪と接続されており、駆動輪の回転と連動して回転する。つまり、デフリングギア7は、車両の車輪の回転と連動して回転するギアである。矢印Y1は、車両の前進時におけるデフリングギア7の回転方向を示す。
【0027】
カウンタドライブギア3の回転軸線3aは、カウンタドリブンギア4の回転軸線4aよりも車両前後方向の前側に位置している。MG2リダクションギア6の回転軸線6aおよびデフリングギア7の回転軸線7aは、カウンタドリブンギア4の回転軸線4aよりも車両前後方向の後側に位置している。
【0028】
デフリングギア7の回転軸線7aは、カウンタドライブギア3、カウンタドリブンギア4およびMG2リダクションギア6の回転軸線3a,4a,6aよりも鉛直方向下側に位置している。つまり、デフリングギア7は、ケース2内における鉛直方向の下部に配置されている。また、MG2リダクションギア6の回転軸線6aは、カウンタドライブギア3、カウンタドリブンギア4およびデフリングギア7の回転軸線3a,4a,7aよりも鉛直方向上側に位置している。つまり、MG2リダクションギア6は、ケース2内における鉛直方向の上部に配置されている。また、MG2リダクションギア6は、デフリングギア7の鉛直方向上方に配置されている。
【0029】
ケース2内における鉛直方向の下部には、潤滑油(例えば、ATF)が貯留される貯留部9が形成されている。貯留部9は、ケース2の底面21およびデフリングギア7を軸方向に挟んで互いに対向するケース2の内壁面によって形成されている。以下の説明において、特に記載しない限り「軸方向」とはデフリングギア7の軸方向を示し、「周方向」とはデフリングギア7の回転軸線7aを回転中心とする回転方向を示すものとする。
【0030】
ケース2内におけるデフリングギア7よりも鉛直方向上方には、オイル受け部8が設けられている。オイル受け部8は、車両前後方向に延在するリブ8aによってケース2内の下方の空間と仕切られており、潤滑油を貯留可能である。リブ8aは、カウンタドライブギア3およびMG2リダクションギア6の鉛直方向上側に形成されている。オイル受け部8は、潤滑油の流入口8bを有する。流入口8bは、オイル受け部8における車両前後方向の後端に形成されている。オイル受け部8は、流入口8bを介して流入する潤滑油を第1のモータジェネレータMG1および第2のモータジェネレータMG2などの動力伝達装置1の各部に供給する。
【0031】
ケース2内には、デフリングギア7の外周部に沿って周方向に延在する油路10が形成されている。油路10は、デフリングギア7の側面および外周面7bと、ケース2の内壁面との間に形成されている潤滑油の流路である。
【0032】
デフリングギア7は、ケース2内の下部に配置されており、貯留部9に潤滑油が貯留されると、その貯留された潤滑油にデフリングギア7の一部が浸かる。車両の前進時には、デフリングギア7は、矢印Y1で示す回転方向、すなわち、貯留部9内の潤滑油を油路10に送り込む回転方向に回転する。デフリングギア7の回転により、潤滑油は油路10における潤滑油の流れ方向の上流側から下流側に向けて送られる。すなわち、潤滑油は、デフリングギア7の回転によって油路10内を鉛直方向の上側に送られてオイル受け部8の流入口8bに向けて上方に送り出される。デフリングギア7によって送り出された潤滑油は、流入口8bを介してオイル受け部8に流入する。
【0033】
本実施形態のハイブリッド車両は、エンジンの動力によって走行可能であると共に、エンジンおよび第2のモータジェネレータMG2の動力によって走行することも可能である。また、エンジンを停止して第2のモータジェネレータMG2の動力によって走行するEV走行が可能である。これらの走行状態の切替えは、手動でなされても車両によって自動でなされてもよい。また、本実施形態のハイブリッド車両では、走行時や停止時にエンジンの動力によって第1のモータジェネレータMG1に発電させることができる。さらに、減速時にモータジェネレータMG1,MG2に発電させてバッテリを充電する回生制御が可能となっている。
【0034】
本実施形態のオイル供給装置1−1は、第一オイルポンプ30、第二オイルポンプ40および後述する切替機構50を備える。第一オイルポンプ30は、車両の動力源であるエンジンの回転と連動して回転する第一回転部材11によって駆動される。第一回転部材11は、例えば、エンジンの出力軸と連結されてエンジンの出力軸と一体回転するシャフトとすることができる。第一回転部材11は、第一オイルポンプ30の回転軸であるポンプドライブシャフトと連結されている。第一オイルポンプ30は、例えば、トロコイド式のポンプであり、第一回転部材11によってポンプドライブシャフトが回転駆動されることにより、オイルを吐出することができる。第一オイルポンプ30によって吐出されるオイルは、例えば、エンジンの出力軸上に配置された遊星歯車機構を含む動力伝達装置1の各部に供給される。
【0035】
第二オイルポンプ40は、第2のモータジェネレータMG2の回転軸上に配置されている。図1に示すように、第二オイルポンプ40は、車両の車輪の回転と連動して回転する第二回転部材12によって駆動されるものである。第二回転部材12は、第2のモータジェネレータMG2の回転軸である。第二回転部材12は、中空円筒形状のシャフトである。第2のモータジェネレータMG2は、ステータ13と、ロータ14とを有する。ステータ13は、ケース2に固定されている。ロータ14は、ステータ13の径方向内方に配置され、かつ第二回転部材12を介してステータ13に対して相対回転自在に支持されている。ロータ14は、第二回転部材12の外周面に嵌合して固定されており、第二回転部材12と一体回転する。第二回転部材12は軸方向の両端部においてそれぞれ軸受15,16を介してケース2によって支持されている。つまり、第二回転部材12は、ケース2およびステータ13に対して相対回転自在に支持されている。
【0036】
第二回転部材12は、MG2リダクションギア6が形成されたギア軸17と連結されている。第二回転部材12は、例えばスプライン嵌合によってギア軸17と連結されており、ギア軸17と一体回転することができる。第二回転部材12は、ギア軸17と連結されていることで、車両の車輪の回転と連動して回転することができる。すなわち、第二回転部材12は、ギア軸17、MG2リダクションギア6、カウンタドリブンギア4、ドライブピニオンギア5、デフリングギア7を介して駆動輪と接続されており、駆動輪の回転と連動して回転する。
【0037】
第二オイルポンプ40は、例えば、トロコイド式のポンプとすることができる。第二オイルポンプ40は、本体41、ポンプカバー42、回転軸43、ロータ室44、ロータ45を有する。本体41は、ケース2を構成するエンドカバー2aの一部である。エンドカバー2aは、ケース2に形成された開口部を閉塞している。本体41は、第二回転部材12の軸方向延長線上に位置している。本体41には、ロータ室44が形成されている。ロータ室44は、本体41の外側面に形成された凹部である。ポンプカバー42は、ロータ室44の開口部を閉塞するカバー部材であり、本体41に固定されている。回転軸43は、本体41を軸方向に貫通しており、一端がロータ室44に挿入されている。回転軸43の他端は、第二回転部材12に挿入されている。ロータ室44には、ロータ45が配置されている。ロータ45は、回転軸43に連結されたドライブロータと、ドライブロータと噛み合う回転自在なドリブンロータとを備えている。
【0038】
回転軸43が回転駆動されると、ドライブロータが回転軸43と一体回転し、ドリブンロータを駆動する。ドリブンロータは、ドライブロータに対して偏心している。これにより、ロータ45は、回転に伴って図示しない吸入ポートからロータ室44にオイルを吸入し、加圧したオイルを図示しない吐出ポートから吐出することができる。ロータ室44から吐出されるオイルは、第1のモータジェネレータMG1や第2のモータジェネレータMG2を含む動力伝達装置1の各部に供給される。
【0039】
第二オイルポンプ40の回転軸43は、切替機構50を介して第二回転部材12に接続されている。切替機構50は、以下に説明するように、第二オイルポンプ40と第二回転部材12との動力伝達を接続あるいは遮断するものであり、接続している動力伝達を車速に応じて作用する力により遮断する。
【0040】
図3は、切替機構50の詳細を示す斜視図である。図3に示すように、切替機構50は、リング部材51、ガイド部材52、おもり53、ばね54、ガイド突起55および係合溝43aを備える。リング部材51は、円筒形状をなす円筒部であり、MG2リダクションギア6の回転軸線6aと同軸上に配置されている。リング部材51は、第二回転部材12に挿入されて第二回転部材12の内周面12aに固定されている。つまり、リング部材51は、第二回転部材12と一体回転するものであり、第二回転部材12の一部でもある。第二オイルポンプ40の回転軸43は、リング部材51に挿入されている。
【0041】
ガイド部材52は、リング部材51の径と対応する径を有する円盤形状の板状の部材である。ガイド部材52は、リング部材51における軸方向の一方の端部に接続されている。本実施形態では、ガイド部材52は、リング部材51におけるポンプカバー42側と反対側の端部、すなわちMG2リダクションギア6側の端部に接続されている。ガイド部材52は、軸方向と直交しており、その径方向の中心部には貫通孔52aが形成されている。回転軸43は、貫通孔52aに挿入されている。
【0042】
おもり53は、第二回転部材12と回転軸43とを連結可能な連結部材である。おもり53は、直方体の部材である。おもり53は、図3に示すように、長手方向がリング部材51の半径方向となるように配置される。おもり53は、ガイド部材52に接しており、ガイド部材52に沿って移動する。以下の説明において、リング部材51の半径方向を「MG2軸径方向」とも記載する。MG2軸径方向は、MG2リダクションギア6の回転軸線6aに直交する半径方向である。
【0043】
ガイド部材52には、ガイド突起55が形成されている。ガイド突起55は、ガイド部材52におけるポンプカバー42側の面に形成されており、軸方向に突出している。本実施形態では、ガイド部材52に4つのガイド突起55が形成されている。ガイド突起55の数は、おもり53の配置数4に対応している。4つのガイド突起55は、ガイド部材52の周方向に均等に配置されている。すなわち、4つのガイド突起55は、回転軸43を挟んで対向する一対のガイド突起55a,55aと、他の一対のガイド突起55b,55bとを備える。一対のガイド突起55a,55aを結ぶ方向は、他の一対のガイド突起55b,55bを結ぶ方向と直交している。また、それぞれのガイド突起55とMG2リダクションギア6の回転軸線6aとのMG2軸径方向の距離は等しい。ガイド突起55は、断面形状が楕円形あるいは角を丸めた矩形の棒状の突起である。
【0044】
おもり53には、おもり53を軸方向に貫通する貫通孔56が形成されている。貫通孔56は、ガイド突起55が挿入されるものである。貫通孔56は、長手方向、すなわちMG2軸径方向に延在している。言い換えると、リング部材51の径方向における貫通孔56の幅は、リング部材51の周方向における貫通孔56の幅よりも大きい。軸方向視における貫通孔56の形状は、楕円形あるいは角を丸めた矩形となっている。
【0045】
リング部材51の周方向における貫通孔56の幅は、ガイド突起55の幅に対応している。リング部材51の周方向において、貫通孔56の幅は、ガイド突起55の幅よりもわずかに大きい。すなわち、リング部材51の周方向における貫通孔56の幅は、ガイド突起55を貫通孔56に挿入可能であり、かつおもり53がガイド突起55にガイドされてMG2軸径方向に移動可能であるように定められている。ガイド突起55は、おもり53がガイド部材52およびリング部材51に対して相対回転することを規制している。
【0046】
リング部材51の径方向において、貫通孔56の幅は、ガイド突起55の幅よりも大きい。つまり、おもり53は、ガイド突起55に支持されてMG2軸径方向に移動することができる。このように、おもり53は、リング部材51の径方向内側においてリング部材51に対して相対回転不能かつ径方向に相対移動可能に支持されている。回転軸43には、係合溝43aが形成されている。係合溝43aは、おもり53が係合可能な形状とされている。すなわち、係合溝43aは、MG2軸径方向と直交する断面形状がおもり53の断面形状と対応している。これにより、おもり53が係合溝43aに嵌合すると、おもり53と回転軸43とが連結され、ガイド突起55およびおもり53を介してガイド部材52と回転軸43とが動力を伝達可能に接続される。この状態は、おもり53が、第二回転部材12と第二オイルポンプ40の回転軸43とを連結する連結状態に対応している。
【0047】
ばね54は、おもり53を付勢する付勢部材である。本実施形態のばね54は、コイルスプリングであり、おもり53とリング部材51の内周面との間に圧縮された状態で挿入されている。ばね54の一端はリング部材51の内周面に接続され、他端はおもり53におけるMG2軸径方向の外側端面に接続されている。ばね54は、おもり53に対して回転軸43に向かうMG2軸径方向の付勢力を作用させている。つまり、ばね54は、おもり53に対してMG2軸径方向の内側に向かうばね力を作用させている。
【0048】
車両の走行時には、車輪の回転と連動してリング部材51およびガイド部材52が回転する。また、ガイド突起55によって支持されたおもり53は、リング部材51およびガイド部材52と同じ回転角速度で回転する。回転するおもり53には、回転速度に応じた遠心力が作用する。おもり53は、車輪の回転と連動して回転するものであるため、おもり53には、車速に応じた遠心力が作用することとなる。おもり53は、遠心力の大きさと、ばね54が作用させる付勢力の大きさとに応じてMG2軸径方向に移動する。
【0049】
第二回転部材12の回転速度が低速であると、ばね54の付勢力の大きさが遠心力の大きさを上回り、おもり53に対して作用するMG2軸径方向の内側に向かう力が外側に向かう力よりも大きくなる。この場合、おもり53は、ばね54の付勢力によって回転軸43に向けて駆動され、係合溝43aに挿入される。つまり、おもり53は、第二回転部材12の回転速度が低速であると付勢力によって回転軸43と連結し、第二回転部材12と回転軸43とを連結する連結状態となる。
【0050】
おもり53が連結状態となると、切替機構50は、第二回転部材12と回転軸43との動力伝達を接続する。おもり53の連結状態では、第二回転部材12によって回転軸43が回転駆動され、第二オイルポンプ40が作動してオイルを吐出する。これにより、低車速時に第2のモータジェネレータMG2等に冷却・潤滑用のオイルを供給することができる。例えば、エンジンを停止して第2のモータジェネレータMG2の動力によって走行するEV走行時には、第一オイルポンプ30が停止するが、第二オイルポンプ40によって動力伝達装置1の各部にオイルを供給することができる。
【0051】
第二回転部材12の回転速度が高速であると、ばね54の付勢力の大きさを遠心力の大きさが上回り、おもり53に対して作用するMG2軸径方向の外側に向かう力が内側に向かう力よりも大きくなる。この場合、おもり53は、遠心力によって回転軸43から径方向外側に離間する方向、すなわちリング部材51の内周面に向かう方向に駆動されて係合溝43aから抜け出る。言い換えると、おもり53は、第二回転部材12の回転速度が高速であると遠心力によって回転軸43から離間し、第二回転部材12と回転軸43とを連結しない非連結状態となる。
【0052】
おもり53が非連結状態となると、切替機構50は、第二回転部材12と回転軸43との動力伝達を遮断する。これにより、回転軸43は回転を停止し、第二オイルポンプ40はオイルの吐出を停止する。第二回転部材12と回転軸43との動力伝達が遮断されることで、第二オイルポンプ40を駆動する分の動力損失が低減される。
【0053】
このように、おもり53は、回転時に作用する遠心力に応じて、第二回転部材12と第二オイルポンプ40の回転軸43とを連結する連結状態と、第二回転部材12と回転軸43とを連結しない非連結状態とに切り替わる。おもり53は、車速が低いと第二回転部材12と回転軸43とを連結する連結状態となって動力伝達を接続し、車速が高いと第二回転部材12と回転軸43とを連結しない非連結状態に切り替わって動力伝達を遮断する。つまり、切替機構50は、接続している動力伝達を車速に応じて作用する力(ここでは遠心力)によって遮断するものである。
【0054】
本実施形態では、おもり53が非連結状態となり第二回転部材12と回転軸43との動力伝達が遮断される車速の領域は、デフリングギア7がオイル受け部8の流入口8bまでオイルを到達させることができる車速の領域と対応している。図2を参照して説明したように、デフリングギア7は、車輪の回転と連動して回転するものであるため、低車速時にはオイルを鉛直方向の上方に送り出すエネルギーが不足する。低車速時には、デフリングギア7が送り出すオイルは、流入口8bに到達することができないか、流入口8bに到達することができたとしてもその量は十分ではない。車速の増加につれてデフリングギア7がオイルを送り出すエネルギーは増加し、ある程度以上の高車速の走行状態では、デフリングギア7がオイル受け部8に十分な量のオイルを供給することが可能となる。
【0055】
おもり53が連結状態から非連結状態となる車速である所定車速は、デフリングギア7がオイル受け部8に供給することができるオイル量に基づいて定められている。例えば、所定車速は、デフリングギア7がわずかでもオイル受け部8にオイルを供給可能な車速とされてもよく、デフリングギア7が単位時間あたりに所定量以上のオイルをオイル受け部8に供給可能な車速とされてもよい。上記所定量は、オイル受け部8から動力伝達装置1の各被潤滑部に必要な量のオイルを供給できるだけの量とされてもよい。また、デフリングギア7によって送り出されるオイルがオイル受け部8から第2のモータジェネレータMG2に供給されるようになる車速が所定車速とされてもよい。所定車速においておもり53が連結状態から非連結状態に切り替わるようにするには、例えば、おもり53の質量やばね54のばね係数を予め調節しておけばよい。
【0056】
所定車速よりも低車速では第二オイルポンプ40によってオイルが供給され、所定車速以上の高車速では第二オイルポンプ40が停止し、デフリングギア7によってオイル受け部8に送られたオイルが供給されることで、オイル供給能力の確保が可能となる。例えば、車両の走行状態によらず動力伝達装置1の各部にオイルを供給することができる。一例として、第一オイルポンプ30が停止するEV走行時であっても、車速によらず動力伝達装置1の各被潤滑部に十分な量のオイルが供給される。従来の動力伝達装置には、EV走行時にオイルを供給するための電動オイルポンプが備えられる場合があったが、本実施形態のオイル供給装置1−1によれば、電動オイルポンプが不要となり、コストの低減等が可能となる。
【0057】
また、本実施形態のオイル供給装置1−1によれば、低車速時におけるオイル供給量の確保と、高車速時における動力損失の低減とを両立させることができる。第2のモータジェネレータMG2の冷却油量は、特に低速登坂時に多く必要となる。低速登坂時の必要油量に合わせて第二オイルポンプ40の容量を決定すると、高速走行時には動力損失が大きくなってしまう。例えば、車速20km/hで3L/min吐出するように第二オイルポンプ40の容量を設定すると、100km/hで走行時に第二オイルポンプ40を作動させると15L/minも吐出することとなり、動力損失が大きくなる。
【0058】
本実施形態では、デフリングギア7が掻き上げるオイルによりオイル受け部8を介してオイルを動力伝達装置1に供給可能となると、切替機構50が第二オイルポンプ40を停止させる。これにより、低車速時には第二オイルポンプ40によって十分な量のオイルを供給し、かつ高車速時には第二オイルポンプ40を車輪から切り離し、動力損失を低減することができる。なお、エンジン回転数は、低速登坂時と高速定常走行時との差は小さい。このため、第一オイルポンプ30では、第二オイルポンプ40のような動力損失の問題が生じにくい。
【0059】
本実施形態において説明した切替機構50は、一例に過ぎない。切替機構50は、車速に応じて作用する力により動作することで第二オイルポンプ40と第二回転部材12との動力伝達を接続あるいは遮断するものであればよい。切替機構50は、回転時に作用する遠心力に応じて作動し、第二回転部材12と第二オイルポンプ40の回転軸43とを連結する連結状態と、第二回転部材12と回転軸43とを連結しない非連結状態とに切り替わるものであることが好ましい。
【0060】
切替機構50は、例えば、摩擦係合式とされてもよい。一例として、おもり53と回転軸43の外周面とが摩擦係合することによりおもり53が第二回転部材12と回転軸43との動力伝達を接続する方式とされてもよい。おもり53は、低車速であると回転軸43と係合(例えば、完全係合)し、車速が所定車速以上となると回転軸43から離間する。おもり53が回転軸43に完全係合する車速域と回転軸43から離間する車速域との間の中間の車速域において、おもり53と回転軸43とが半係合することにより、第二オイルポンプ40が駆動され、かつ動力損失の増加が抑制されるようにしてもよい。
【0061】
なお、本実施形態のハイブリッド車両は、プラグインハイブリッド車両であったが、これには限定されない。プラグイン方式以外のハイブリッド車両にもオイル供給装置1−1を適用可能である。また、オイル供給装置1−1は、ハイブリッド車両以外の車両の動力伝達装置にも適用可能である。例えば、走行中にエンジンを停止し、かつ駆動輪から切り離して惰性により走行することが可能な車両において、エンジンの回転と連動して回転する第一回転部材によって駆動される第一オイルポンプと、車両の車輪の回転と連動して回転する第二回転部材によって駆動される第二オイルポンプとが設けられてもよい。
【0062】
(第1実施形態の変形例)
上記第1実施形態では、第二オイルポンプ40が第2のモータジェネレータMG2の回転軸に配置されたが、これには限定されない。第二オイルポンプは、例えば、図4に示すようにドライブピニオン軸に配置されてもよい。図4は、変形例に係る第二オイルポンプを示す図である。
【0063】
第二回転部材18としてのドライブピニオン軸は、カウンタドリブンギア4およびドライブピニオンギア5を有する中空円筒形状のシャフトである。本変形例の第二オイルポンプ60は、第二回転部材18に配置されている。第二回転部材18は、両端部がそれぞれ軸受19,20を介してケース2によって支持されている。つまり、第二回転部材18は、ケース2に対して相対回転自在に支持されている。第二回転部材18は、ドライブピニオンギア5およびデフリングギア7を介して車両の駆動輪と接続されており、駆動輪の回転と連動して回転することができる。
【0064】
第二オイルポンプ60は、第二回転部材18によって駆動されるものである。第二オイルポンプ60は、例えば、上記第1実施形態の第二オイルポンプ40と同様に、本体61、ポンプカバー62、回転軸63、ロータ室64およびロータ65を有するトロコイド式のオイルポンプとされてもよい。
【0065】
切替機構66は、第二オイルポンプ60と第二回転部材18との動力伝達を接続あるいは遮断するものであり、接続している動力伝達を車速に応じて作用する力によって遮断する。切替機構66は、第二回転部材18の内周面18aと回転軸63との間に配置されている。切替機構66において、第二回転部材18と回転軸63とを連結する連結状態と、第二回転部材18と回転軸63とを連結しない非連結状態とに切り替わる機構は、上記第1実施形態の切替機構50と同様のものとすることができる。
【0066】
また、第二オイルポンプ60は、第2のモータジェネレータMG2の回転軸およびドライブピニオン軸以外の車速軸によって駆動されるものであってもよい。例えば、差動機構の回転軸や、エンジンと第1のモータジェネレータMG1とカウンタドライブギア3とを接続する遊星歯車機構のリングギアなど、車輪の回転と連動して回転する回転部材であれば、第二回転部材とすることが可能である。
【0067】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図5は、本実施形態のオイル供給装置1−2を示す図である。図5には、図2のB−B断面に相当する断面が示されている。
【0068】
上記第1実施形態の第一オイルポンプ30および第二オイルポンプ40に代えて、動力伝達装置1内にオイルポンプ70が配置されている。本実施形態のオイル供給装置1−2では、オイルポンプが1つであり、エンジン軸および車速軸によって共通のオイルポンプが駆動される点が上記第1実施形態と異なる。オイルポンプ70の回転軸71は、エンジン軸(インプットシャフト22)および車速軸(車輪側回転部材23)とそれぞれワンウェイクラッチ81,82を介して接続されている。車速軸の回転速度がエンジン軸の回転速度よりも高いときには、車速軸によってオイルポンプ70が駆動される。一方、車速軸の回転速度よりもエンジン軸の回転速度が高いときには、エンジン軸によってオイルポンプ70が駆動される。
【0069】
更に、車速軸の回転速度がある程度高速となると、車速軸とオイルポンプ70とが切り離され、それ以上の車速の領域ではエンジン軸によってオイルポンプ70が駆動される。これにより、高車速の領域における動力損失が低減される。
【0070】
図5に示すように、オイルポンプ70は、インプットシャフト22に配置されている。インプットシャフト22は、動力伝達装置1の入力軸であり、エンジンの出力軸と接続されている。つまり、インプットシャフト22は、エンジンの回転と連動して回転するエンジン側回転部材である。インプットシャフト22の径方向外側には車輪側回転部材23が配置されている。車輪側回転部材23は、中空の円筒形状をなすシャフトであって、インプットシャフト22と同軸上に配置されている。車輪側回転部材23の軸方向の両端部は、それぞれ軸受25,26を介してケース2によって支持されている。インプットシャフト22は、車輪側回転部材23の中空部に挿入されている。インプットシャフト22と車輪側回転部材23との間には、軸受27が配置されている。
【0071】
車輪側回転部材23の外周部には、カウンタドライブギア3が形成されている。車輪側回転部材23は、カウンタドライブギア3、カウンタドリブンギア4、ドライブピニオンギア5およびデフリングギア7を介して駆動輪と接続されている。つまり、車輪側回転部材23は、車両の車輪の回転と連動して回転する回転部材である。なお、以下の説明において、インプットシャフト22の半径方向を「入力軸径方向」と記載する。入力軸径方向は、カウンタドライブギア3の回転軸線3aと直交する半径方向を示す。
【0072】
インプットシャフト22と車輪側回転部材23とは、遊星歯車機構90を介して接続されている。遊星歯車機構90は、サンギア91、ピニオンギア92、リングギア93およびキャリア94を有する。サンギア91は、インプットシャフト22と同軸上に配置されている。リングギア93は、サンギア91と同軸上に、かつサンギア91よりも入力軸径方向の外側に配置されている。ピニオンギア92は、サンギア91とリングギア93との間に配置され、サンギア91およびリングギア93とそれぞれ噛み合っている。ピニオンギア92は、キャリア94によって回転可能に支持されている。キャリア94には、インプットシャフト22が連結されており、キャリア94とインプットシャフト22とは一体回転する。また、リングギア93には、連結部材95を介して車輪側回転部材23が連結されている。サンギア91には、第1のモータジェネレータMG1の回転軸24が連結されている。
【0073】
オイルポンプ70は、回転軸71が回転駆動されることによってオイルを吐出するオイルポンプであって、例えば、トロコイド式のポンプとすることができる。オイルポンプ70が吐出するオイルは、遊星歯車機構90、第1のモータジェネレータMG1、第2のモータジェネレータMG2等の動力伝達装置1の各部に供給される。オイルポンプ70は、回転軸71、ロータ室72、ロータ73および閉塞部材74を備える。ロータ室72は、ケース2、シール部材S、インプットシャフト22および閉塞部材74で囲まれた空間部である。ロータ室72には、ロータ73が配置されている。シール部材Sは、入力軸径方向におけるケース2とインプットシャフト22との間に設けられており、ケース2とインプットシャフト22との間からのオイル漏れを抑制している。ロータ73のドライブロータは、回転軸71に連結されている。閉塞部材74は、ケース2に固定されており、ロータ室72における軸方向のMG側を閉塞している。
【0074】
回転軸71は、円筒形状をなしており、大径部71aと小径部71bとを有する。インプットシャフト22は、回転軸71の中空部に挿入されている。大径部71aの内径は、小径部71bの内径よりも大きい。大径部71aは、回転軸71における軸方向のMG側に、小径部71bは軸方向のエンジン側に形成されている。小径部71bの内径は、インプットシャフト22の外周面に対して摺動可能な径に定められている。大径部71aの内径は、インプットシャフト22の外径よりも大きく、大径部71aの内周面は、インプットシャフト22の外周面に対して入力軸径方向に離間している。
【0075】
インプットシャフト22と回転軸71とは第一のワンウェイクラッチ81を介して接続されている。第一のワンウェイクラッチ81は、インプットシャフト22から回転軸71に対する動力の伝達を許容し、かつ回転軸71からインプットシャフト22に対する動力の伝達を遮断する。第一のワンウェイクラッチ81の内輪はインプットシャフト22の外周面に固定されており、外輪は回転軸71における大径部71aの内周面に固定されている。第一のワンウェイクラッチ81は、インプットシャフト22が駆動側で回転軸71が被駆動側である場合に係合してインプットシャフト22と回転軸71との動力伝達を許容し、インプットシャフト22が被駆動側で回転軸71が駆動側である場合は空転してインプットシャフト22と回転軸71との動力伝達を遮断する。
【0076】
車輪側回転部材23と回転軸71とは、第二のワンウェイクラッチ82および切替機構100を介して接続されている。車輪側回転部材23には、円筒形状の円筒部23aが形成されている。円筒部23aは、車輪側回転部材23において、カウンタドライブギア3よりも軸方向のエンジン側に形成されている。円筒部23aは、第一のワンウェイクラッチ81、第二のワンウェイクラッチ82、回転軸71の大径部71aおよび切替機構100に対して入力軸径方向の外側に位置している。言い換えると、ワンウェイクラッチ81,82、大径部71aおよび切替機構100は、円筒部23aに挿入されている。
【0077】
第二のワンウェイクラッチ82は、切替機構100を介して円筒部23aに接続されている。第二のワンウェイクラッチ82は、車輪側回転部材23から回転軸71に対する動力の伝達を許容し、かつ回転軸71から車輪側回転部材23に対する動力の伝達を遮断する。第二のワンウェイクラッチ82の内輪は回転軸71における大径部71aの外周面に固定されており、外輪は切替機構100と入力軸径方向において対向している。第二のワンウェイクラッチ82は、車輪側回転部材23が駆動側で回転軸71が被駆動側である場合に係合して車輪側回転部材23と回転軸71との動力伝達を許容し、車輪側回転部材23が被駆動側で回転軸71が駆動側である場合は空転して車輪側回転部材23と回転軸71との動力伝達を遮断する。
【0078】
図5に示すように、軸受26と、円筒部23aと、切替機構100と、第二のワンウェイクラッチ82と、大径部71aと、第一のワンウェイクラッチ81と、インプットシャフト22とは、同軸上に配置され、かつ半径方向において重なっている。つまり、インプットシャフト22は、軸方向の配置領域が重なる円筒部23a、切替機構100、ワンウェイクラッチ81,82および大径部71aを介して軸受26によって支持されており、ケース2に対して相対回転自在である。上記のように各部材が半径方向において重なるように配置されていることで、オイル供給装置1−2の小型化や振動の抑制が可能となる。
【0079】
図6は、本実施形態の切替機構100を示す図である。切替機構100は、車輪側回転部材23と第二のワンウェイクラッチ82との動力伝達を車速に応じて接続あるいは遮断するものである。切替機構100は、車速が低いと車輪側回転部材23と第二のワンウェイクラッチ82との動力伝達を接続し、車速が高いと動力伝達を遮断する。
【0080】
切替機構100は、上記第1実施形態の切替機構50と同様の機構とすることができる。図6に示すように、切替機構100は、リング部材101、ガイド部材102、おもり103、ばね104、ガイド突起105および係合溝82bを備える。切替機構100において、上記第1実施形態の切替機構50と異なる点は、リング部材101が円筒部23aの内周面に固定されている点、およびおもり103が係合する係合溝82bが第二のワンウェイクラッチ82の外輪82aに形成されている点である。ガイド部材102に形成されたガイド突起105およびおもり103に形成された貫通孔106は、それぞれ切替機構50のガイド突起55および貫通孔56と同様のものとされてもよい。
【0081】
リング部材101は、円筒形状の円筒部であり、車輪側回転部材23の円筒部23aの内周面に固定されて車輪側回転部材23の一部として機能する。第二のワンウェイクラッチ82は、リング部材101に挿入されている。おもり103は、円筒部23aの半径方向内側において、ガイド突起105によって円筒部23aに対して相対回転不能かつ半径方向に相対移動可能に支持されている。おもり103は、車輪側回転部材23の回転と連動して回転するものであって、車輪側回転部材23と第二のワンウェイクラッチ82の外輪82aとを連結する連結状態と、車輪側回転部材23と第二のワンウェイクラッチ82の外輪82aとを連結しない非連結状態とに切り替わる連結部材である。おもり103は、ばね104によって第二のワンウェイクラッチ82に向かう入力軸径方向の付勢力を受けている。
【0082】
車両の走行時には、車輪の回転と連動しておもり103が回転する。おもり103は、車速に応じて作用する遠心力の大きさと、ばね104が作用させる付勢力の大きさとに応じて入力軸径方向に移動する。車輪側回転部材23の回転速度が低速であると、ばね104の付勢力の大きさが遠心力の大きさを上回り、おもり103は係合溝82bに係合して連結状態となる。一方、車輪側回転部材23の回転速度が高速であると、遠心力の大きさがばね104の付勢力の大きさを上回り、おもり103は係合溝82bから抜け出て非連結状態となる。つまり、おもり103は、回転時に作用する遠心力によって連結状態から非連結状態に切り替わる。
【0083】
おもり103が連結状態から非連結状態となる車速である所定車速は、例えば、上記第1実施形態の所定車速と同様とされてもよい。一例として、デフリングギア7によって送り出されるオイルがオイル受け部8から第2のモータジェネレータMG2に供給されるようになる車速が所定車速とされてもよい。
【0084】
エンジンが運転されている状態での低速走行時や停車発電時など、インプットシャフト22が車輪側回転部材23よりも高速で回転するときは、第一のワンウェイクラッチ81が係合し、かつ第二のワンウェイクラッチ82が解放して空転する。このとき、インプットシャフト22がオイルポンプ70を駆動する。オイルポンプ70は、第一のワンウェイクラッチ81を介してインプットシャフト22から回転軸71に伝達される動力によって回転駆動されてオイルを吐出する。
【0085】
エンジンが運転されている状態での中速走行時やEV走行時など、車輪側回転部材23がインプットシャフト22よりも高速で回転するときは、第二のワンウェイクラッチ82が係合し、かつ第一のワンウェイクラッチ81が解放して空転する。このとき、車輪側回転部材23がオイルポンプ70を駆動する。オイルポンプ70は、第二のワンウェイクラッチ82を介して車輪側回転部材23から回転軸71に伝達される動力によって回転駆動されてオイルを吐出する。
【0086】
車輪側回転部材23がインプットシャフト22よりも高速で回転するときであっても、切替機構100のおもり103が非連結状態となり、車輪側回転部材23と第二のワンウェイクラッチ82との動力伝達が遮断されているときは、オイルポンプ70はインプットシャフト22によって駆動される。つまり、車輪側回転部材23がオイルポンプ70を駆動している間に、車速が所定車速まで上昇すると、車輪側回転部材23と第二のワンウェイクラッチ82とが切り離される。これにより、車輪側回転部材23は回転軸71に対して駆動側ではなくなる。よって、所定車速以上の高速で走行するときには、エンジンが運転していればエンジンがオイルポンプ70を駆動し、エンジンが停止されていればオイルポンプ70は停止する。なお、所定車速以上では、デフリングギア7によってオイル受け部8に送られるオイルが動力伝達装置1の各部に供給されるため、オイルの供給能力を確保することができる。所定車速以上の車速では車輪側回転部材23によってオイルポンプ70が駆動されなくなるため、高車速で走行するときの動力損失が低減される。
【0087】
このように、本実施形態のオイル供給装置1−2によれば、オイル供給能力の確保と動力損失の低減とを両立することができる。また、オイルポンプの数を1つにすることができ、コスト低減が可能となる。
【0088】
上記の各実施形態で開示された内容は、適宜組み合わせて実行することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明にかかるオイル供給装置は、オイル供給能力の確保と動力損失の低減とを両立するのに適している。
【符号の説明】
【0090】
1−1,1−2 オイル供給装置
1 動力伝達装置
7 デフリングギア
11 第一回転部材
12,18 第二回転部材
22 インプットシャフト
23 車輪側回転部材
30 第一オイルポンプ
40,60 第二オイルポンプ
43 回転軸
43a 係合溝
50,66,100 切替機構
51 リング部材
53 おもり
54 ばね
55 ガイド突起
70 オイルポンプ
71 回転軸
81 第一のワンウェイクラッチ
82 第二のワンウェイクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力伝達装置内に配置され、前記車両の動力源であるエンジンの回転と連動して回転する第一回転部材によって駆動される第一オイルポンプと、
前記動力伝達装置内に配置され、前記車両の車輪の回転と連動して回転する第二回転部材によって駆動される第二オイルポンプと、
前記第二オイルポンプと前記第二回転部材との動力伝達を接続あるいは遮断する切替機構とを備え、
前記切替機構は、接続している前記動力伝達を車速に応じて作用する力によって遮断する
ことを特徴とするオイル供給装置。
【請求項2】
前記第二オイルポンプは、回転軸を有し、前記回転軸が回転駆動されることによってオイルを吐出するものであって、
前記切替機構は、前記第二回転部材の回転と連動して回転し、かつ前記第二回転部材と前記回転軸とを連結する連結状態と、前記第二回転部材と前記回転軸とを連結しない非連結状態とに切り替わる連結部材を有し、
前記連結部材は、回転時に作用する遠心力によって前記連結状態から前記非連結状態に切り替わる
請求項1に記載のオイル供給装置。
【請求項3】
前記第二回転部材は、円筒形状の円筒部を有し、
前記回転軸は、前記円筒部に挿入されており、
前記切替機構は、更に、前記連結部材を付勢する付勢部材を備え、
前記連結部材は、前記円筒部の半径方向内側において前記円筒部に対して相対回転不能かつ半径方向に相対移動可能に支持され、かつ、前記付勢部材によって前記回転軸に向かう半径方向の付勢力を受けており、
前記連結部材は、前記第二回転部材の回転速度が低速であると前記付勢力によって前記回転軸と連結して前記連結状態となり、前記第二回転部材の回転速度が高速であると前記遠心力によって前記回転軸から離間して前記非連結状態となる
請求項2に記載のオイル供給装置。
【請求項4】
車両の動力伝達装置内に配置され、回転軸を有し、前記回転軸が回転駆動されることによってオイルを吐出するオイルポンプと、
前記車両の動力源であるエンジンの回転と連動して回転するエンジン側回転部材と、前記回転軸と、を接続する第一のワンウェイクラッチと、
前記車両の車輪の回転と連動して回転する車輪側回転部材と、前記回転軸と、を接続する第二のワンウェイクラッチと、
車速が低いと前記車輪側回転部材と前記第二のワンウェイクラッチとの動力伝達を接続し、車速が高いと前記動力伝達を遮断する切替機構とを備え、
前記第一のワンウェイクラッチは、前記エンジン側回転部材から前記回転軸に対する動力の伝達を許容し、かつ前記回転軸から前記エンジン側回転部材に対する動力の伝達を遮断し、
前記第二のワンウェイクラッチは、前記車輪側回転部材から前記回転軸に対する動力の伝達を許容し、かつ前記回転軸から前記車輪側回転部材に対する動力の伝達を遮断する
ことを特徴とするオイル供給装置。
【請求項5】
前記エンジン側回転部材と、前記車輪側回転部材と、前記回転軸と、前記第一のワンウェイクラッチと、前記第二のワンウェイクラッチとは、同軸上に配置され、かつ半径方向において重なっている
請求項4に記載のオイル供給装置。
【請求項6】
前記切替機構は、前記車輪側回転部材の回転と連動して回転し、かつ前記車輪側回転部材と前記第二のワンウェイクラッチとを連結する連結状態と、前記車輪側回転部材と前記第二のワンウェイクラッチとを連結しない非連結状態とに切り替わる連結部材を有し、
前記連結部材は、回転時に作用する遠心力によって前記連結状態から前記非連結状態に切り替わる
請求項4または5に記載のオイル供給装置。
【請求項7】
前記車輪側回転部材は、円筒形状の円筒部を有し、
前記第二のワンウェイクラッチは、前記円筒部に挿入されており、
前記切替機構は、更に、前記連結部材を付勢する付勢部材を備え、
前記連結部材は、前記円筒部の半径方向内側において前記円筒部に対して相対回転不能かつ半径方向に相対移動可能に支持され、かつ、前記付勢部材によって前記第二のワンウェイクラッチに向かう半径方向の付勢力を受けており、
前記連結部材は、前記車輪側回転部材の回転速度が低速であると前記付勢力によって前記第二のワンウェイクラッチと連結して前記連結状態となり、前記車輪側回転部材の回転速度が高速であると前記遠心力によって前記第二のワンウェイクラッチから離間して前記非連結状態となる
請求項6に記載のオイル供給装置。
【請求項8】
更に、前記動力伝達装置内の上部に配置され、流入口を有するオイルタンクと、前記動力伝達装置内における前記オイルタンクよりも鉛直方向下側に配置され、前記車輪の回転と連動して回転するギアとを備え、
前記ギアは、前記動力伝達装置内に貯留されたオイルを回転によって前記流入口に向けて送り出し、
前記切替機構は、前記ギアが前記流入口にオイルを到達させることができる車速において前記動力伝達を遮断する
請求項1から7のいずれか1項に記載のオイル供給装置。
【請求項9】
動力源としてのモータジェネレータを更に有し、前記エンジンを停止して前記モータジェネレータが出力する動力によって走行することが可能なハイブリッド車両に搭載されている
請求項1から8のいずれか1項に記載のオイル供給装置。
【請求項10】
動力源としてのモータジェネレータを更に有し、前記エンジンを停止して前記モータジェネレータが出力する動力によって走行することが可能であり、かつ前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリに対して外部電源から充電することが可能なプラグインハイブリッド車両に搭載されている
請求項1から8のいずれか1項に記載のオイル供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−72877(P2012−72877A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219583(P2010−219583)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】