説明

オーステナイト系合金大径管の製造方法

【課題】インゴットを穿孔して素管とする際に素管の外面に疵が形成されるのを抑制できるオーステナイト系合金からなる大径管の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】質量%でCr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有する合金からなるインゴットを熱間で穿孔する工程を含むオーステナイト系合金大径管の製造方法であって、穿孔工程の前に、インゴットを下記(1)式により算出される断面減少加工度Rが20%以上で熱間加工することを特徴とするオーステナイト系合金大径管の製造方法である。
R=(1−S2/S1)×100(%) ・・・(1)
S1:熱間加工前におけるインゴット断面積(mm2)、
S2:熱間加工後におけるインゴット断面積(mm2
ただし、2回以上の熱間加工を行う場合は下記(2)式による。
R=R1+R2+・・・+Rn-1+Rn ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管を製造する方法に関する。さらに詳しくは、インゴットを穿孔して素管とする前に、熱間加工でインゴットの断面を減少させる加工量(以下、「断面減少加工度」という)を確保することにより、素管の外面に疵が形成されるのを抑制できる大径管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、火力発電の蒸気温度・圧力を高めて高効率化した超々臨界圧(USC:Ultra Super Critical)ボイラが世界中で新設されている。これは、CO2ガス排出削減が、エネルギー問題の解決課題の一つとなるとともに、重要な産業政策となっているので、化石燃料を燃焼させる発電用ボイラでは、高効率でCO2ガス排出削減に有利な超々臨界圧ボイラが採用され易いからである。現在の超々臨界圧ボイラは、蒸気温度は600℃程度まで高温化されている。
【0003】
超々臨界圧ボイラでは、通常、発電用火力設備の技術基準の解釈に記載される火STPA28や火STPA29などからなる管が配管される。火STPA28や火STPA29は、9質量%程度のCrを含有する高Crフェライト鋼である。
【0004】
これらの合金鋼からなる管のうち、外径が250〜1000mm、肉厚が20〜150mmである大径管を製造する方法として、エルハルト・プッシュベンチ法やマンドレル・フォージ法といった鍛造製管法が商業的に確立されている。
【0005】
図1は、エルハルト・プッシュベンチ法により大径管を製造する方法を示す図であり、同図(a)は円形堅型壺にインゴットを装入した状態、同図(b)はインゴットを穿孔する状態、同図(c)は底付中空素管を取り出す状態、同図(d)は底付中空素管を押し抜く状態をそれぞれ示す。
【0006】
エルハルト・プッシュベンチ法による大径管の製造は、一般的に、以下の手順からなる:
(1)長手方向に垂直な面において断面が略四角形状であり、鋳込みままのインゴット1を所定の温度に加熱し、同図(a)に示すように、テーパ形状の内腔を有する円形堅型壺2(以下、単に「壺」ともいう)に装入する。
(2)同図(b)に示すように、ガイド4を利用して壺に装入されたインゴット1の中心に、マンドレル3を上方から臨ませ、圧入して穿孔し、コップ状の底付中空素管とする。
(3)同図(c)に示すように、壺2の底部に配置された取り出し棒5を上方に移動させて、底付中空素管6を壺2から取り出す。
【0007】
(4)同図(d)に示すように、底付中空素管6にマンドレル3を挿入して複数連設されたダイス7内を熱間で押し抜き、底付中空素管を減肉する。
(5)上記(4)の工程を複数回繰り返して所定の寸法に仕上げた後、底付中空素管の底部を切断して底無しの中空素管とする。
(6)底無しの中空素管に熱処理を施した後、その内面および外面を切削し、所定の表面性状および寸法に仕上げて大径管とする。
【0008】
また、マンドレル・フォージ法による大径管の製造は、一般的に、以下の手順からなる:
(1)先端が尖った工具を回転させた状態で、長手方向を垂直方向にして配置されたインゴットの上面に押し当て、インゴットを熱間で穿孔して中空素管とする。
(2)長手方向を水平にして中空素管を配置し、当該中空素管を回転させた状態で、マンドレルを中空素管の内面に熱間で押し当てて減肉する。
(3)上記(2)の工程を複数回繰り返して所定の寸法に仕上げた後、中空素管に熱処理を施す。
(4)中空素管の内面および外面を切削し、所定の表面性状および寸法に仕上げて大径管とする。
【0009】
CO2排出削減の要望がさらに高まる中、火力発電の蒸気温度をさらに高温高圧化しようとする動きが活発になっている。具体的には、蒸気温度を700℃程度に高温化する研究開発がすすめられている。高Crフェライト鋼からなる大径管は、600℃級の超々臨界圧ボイラでは、主蒸気管や再熱蒸気管といった用途に用いられるが、700℃級の超々臨界圧ボイラには、高温強度が不足することから用いることができない。そのため、700℃級の超々臨界圧ボイラでは、Crを20質量%以上およびNiを40質量%以上含有し、オーステナイト組織を有する合金を適用した大径管を用いることが考えられている。
【0010】
この高Cr−高Niのオーステナイト系合金に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば特許文献1および2がある。特許文献1には、MoおよびCoを含有した高Cr−高Niのオーステナイト系合金が開示されている。特許文献1に開示されるオーステナイト系合金は、M6C炭化物およびM236炭化物からなる特殊な微細構造により、応力−破壊強さを高めることができるとしている。
【0011】
また、特許文献2には、Wを多量に添加することにより、700℃以上の高温域において優れたクリープ強度を有する高Cr−高Niのオーステナイト系合金が開示されている。
【0012】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示される高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管を製造するため、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを熱間で穿孔すると、得られる素管の外面に疵が形成される場合がある。
【0013】
図2は、従来のエルハルト・プッシュベンチ法を用いた大径管の製造において、インゴットを穿孔して得られた素管の外面に形成される疵を示す図である。同図は、前記図1を参照して説明した従来のエルハルト・プッシュベンチ法による大径管の製造において、インゴットを穿孔して得られた底付中空素管の外観を示す写真である。同図に示す底付中空素管は、高Cr−高Niのオーステナイト系合金であり、後述する実施例の表1で示す合金Aからなるインゴットを穿孔したものである。同図では、図の上下方向を長手方向とする底付中空素管の外面6aを示し、二点鎖線で囲む部分6bに疵を確認することができる。
【0014】
穿孔により素管の外面に疵が形成されると、複数のダイスで押し抜く前に、グラインダー等を用いた手作業により外面を手入れし、外面から疵を除去する必要がある。しかし、オーステナイト系合金からなる素管の外面に形成される疵は、深さが最大で30mm程度であり、手入れに多大な手間を要するうえ、手入れによる外径削り代が大きくなることから、製造歩留りが悪化する。このため、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管の製造では、穿孔により素管の外面に疵が形成されて問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平2−107736号公報
【特許文献2】特開2004−3000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述の通り、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管の製造では、穿孔により素管の外面に疵が形成される問題がある。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、インゴットを穿孔して素管とする際に、素管の外面に疵が形成されるのを抑制できる大径管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記問題を解決するため、インゴットを穿孔して素管とする際に、素管の外面に疵が形成される原因について検討した。
【0018】
図3は、エルハルト・プッシュベンチ法による大径管の製造において、インゴットを穿孔する際に用いられる壺の内腔の形状と、インゴットの形状とを示す上面図である。同図には、壺の内腔2aと、壺に装入されたインゴットの上面の輪郭(外面1a)とを模式的に示す。同図に示すように、インゴットの上面の輪郭は略四角形状であり、複数の凸部を有する。このため、インゴットの外面1aと壺の内腔2aは、インゴットの外面が有する複数の凸部のうち、一部の凸部が接触した状態となり、例えば同図ではインゴットの外面が有する複数の凸部のうち、点線で囲む4つの凸部1bが接触した状態となる。
【0019】
このようにインゴットの外面1aと壺の内腔2aが部分的に接触した状態で、マンドレルによりインゴットの中心を穿孔すると、インゴットの外面のうち、壺の内腔とクリアランスを有する部分が張出し(同図のハッチングを施した矢印参照)、インゴットの外面が壺の内腔形状に沿って円形となる。このインゴットの外面の一部が張出す際に、インゴットの外面付近において、同図の太線矢印で示す方向に引張応力が作用する。
【0020】
従来から大径管に用いられていた高Crフェライト鋼(例えば火STPA28)からなるインゴットの穿孔でも、前記図3に示すインゴットおよび壷と同様の形状のものが使用される。このため、高Crフェライト鋼からなるインゴットを穿孔する際も、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを穿孔する際と同様に引張応力が働くと推定される。しかし、高Crフェライト鋼からなるインゴットを穿孔した素管の外面に疵は形成されないことから、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを穿孔する際に素管の外面に形成される疵は、高Cr−高Niのオーステナイト系合金固有の特性によるものと推定される。
【0021】
高Cr−高Niのオーステナイト系合金の成分による影響が最も懸念されるのは、穿孔時に材料の粒界近傍が溶融することにより表面に割れが発生する粒界溶融割れである。この粒界溶融割れについて評価するため、グリーブル試験(通電加熱による引張試験)を行った。
【0022】
グリーブル試験の試験条件は下記の通りである。
試験片:寸法 平行部直径10mm、長さ130mmの丸棒
材質 高Cr−高Niのオーステナイト系合金であって、後述する実施例の表1で示す合金A
試験方法:
1)試験温度が1200℃以下の場合:1200℃で5分加熱した後、所定の試験温度まで100℃/分で冷却し、その後、1/sの引張速度で引張り試験を行い、絞り値を測定した。
2)試験温度が1200℃より高温の場合:試験温度(例えば1225℃で試験する場合1225℃)で5分加熱した後、1/sの引張速度で引張り試験を行い、絞り値を測定した。
【0023】
図4は、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる試験片によるグリーブル試験の結果を示す図である。同図に示す試験結果では、試験温度が1275℃を超えると、グリーブル絞り絞り値が大きく低下していることが確認される。このため、インゴットを穿孔して素管とする際は、インゴットの加熱温度を1275℃以下として穿孔すれば延性が確保可能であることが推定される。
【0024】
グリーブル試験の結果に基づき、インゴットを1230℃に加熱して穿孔する試験を行ったが、前記図2と同様に穿孔された素管の外面に疵が形成された。そこで、実機でインゴットを穿孔する際には、加工発熱により穿孔されるインゴットの温度が上昇する場合があることを考慮し、加熱温度をさらに50℃下げて試験を行った。すなわち、インゴットを1180℃に加熱して穿孔する試験を行ったが、前記図2と同様に穿孔された素管の外面に疵が形成された。したがって、素管の外面に形成される疵は粒界溶融割れに起因するものではないと推定される。
【0025】
次に、インゴットの凝固組織を調査し、高Cr−高Niのオーステナイト系合金によりインゴットの凝固組織が変化し、熱間加工性に悪影響を及ぼしている可能性を検討した。凝固組織の調査は、インゴットの長手方向に垂直な断面から板状の試験材を採取し、採取した試験材を王水で腐食した後、試験材表面の凝固組織を観察して行った。
【0026】
図5は、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットにおける長手方向に垂直な断面の凝固組織を示す図である。同図では、白抜きの2点鎖線でインゴットの外面1aと、×印でインゴットの中心1cとをそれぞれ示す。同図から、インゴットの外面1aから中心1cの方向に長い柱状晶と呼ばれる凝固組織が、インゴットの外面付近に存在し、柱状晶のインゴットの外面から中心の方向の長さは数mmと粗大であることが明らかになった。
【0027】
ここで、柱状晶の界面の大部分は、柱状晶が細長いことから、前記図3で示した引張応力が作用する方向と、角度が略垂直となることが確認される。また、柱状晶の界面はインゴットの凝固過程の後期に凝固したと考えられることから、柱状晶の界面でPやSなどが偏析して材料の延性が低下している可能性がある。このため、柱状晶に垂直な方向に大きな引張応力が加わった場合に柱状晶の界面で割れる可能性があると考え、前記図2に示す外面に疵が形成された素管の凝固組織を調査した。
【0028】
図6は、従来の大径管の製造方法で、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを穿孔した素管における長手方向に垂直な断面の凝固組織を示す図である。同図は、素管の外面6a付近の凝固組織を示し、素管外面で疵が形成された部分6bを点線で囲んで示す。同図から、インゴットを穿孔した素管の凝固組織は、前記図5に示したインゴットの凝固組織と同様に、素管の外面から中心の方向に長い柱状晶が存在し、柱状晶の界面で割れが発生して疵が形成されていることが明らかになった。
【0029】
以上の結果から、インゴットが凝固する際に生じる柱状晶が、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを穿孔した素管の外面に疵を形成する原因であると推定した。素管の外面に形成される疵を抑制する方法として、インゴットの外面付近に存在する柱状晶を、穿孔する前に熱間加工を施して破壊することが有効との考えに至り本発明を完成させた。
【0030】
本発明は、下記(1)〜(4)のオーステナイト系合金大径管の製造方法を要旨としている。
【0031】
(1)質量%でCr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有する合金からなるインゴットを熱間で穿孔する工程を含むオーステナイト系合金大径管の製造方法であって、前記穿孔工程の前に、前記インゴットを下記(1)式により算出される断面減少加工度Rが20%以上で熱間加工することを特徴とするオーステナイト系合金大径管の製造方法。
R=(1−S2/S1)×100(%) ・・・(1)
S1:熱間加工前におけるインゴット断面積(mm2)、
S2:熱間加工後におけるインゴット断面積(mm2
ただし、2回以上の熱間加工を行う場合は下記(2)式による。
R=R1+R2+・・・+Rn-1+Rn ・・・(2)
【0032】
(2)前記合金が、質量%で、C:0.05〜0.10%,Si:0.05〜0.4%,Mn:0.01〜1.3%,P:0.030%以下,S:0.010%以下,Cr:21〜31%,Ni:43〜60%,Al:0.005〜1.5%,B:0.001〜0.005%,N:0.05%以下,および下記の1群および2群の各々のグループに属する1種以上の元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする上記(1)に記載のオーステナイト系合金大径管の製造方法。
第1群:Mo:10%以下、W:9%以下およびCo:13%以下。
第2群:Ti:1%以下,Nb:1%以下およびZr:0.5%以下。
【0033】
(3)前記合金が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下および希土類元素:0.1%以下の1種以上を含有することを特徴とする上記(2)に記載のオーステナイト系合金大径管の製造方法。
【0034】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のオーステナイト系合金大径管の製造方法であって、さらに前記穿孔工程により得られた素管を熱間で押し抜いて所定の寸法に仕上げる工程を含むことを特徴とするオーステナイト系合金大径管の製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明のオーステナイト系合金大径管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する。
(1)穿孔工程の前に、インゴットを断面減少加工度20%以上で熱間加工することにより、インゴットの外面付近に存在する粗大な柱状晶が破壊されるとともに、凝固組織の界面での偏析が軽減される。
(2)上記(1)により、インゴットを穿孔して素管とする際に、素管の外面に疵が形成されるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】エルハルト・プッシュベンチ法により大径管を製造する方法を示す図であり、同図(a)は円形堅型壺にインゴットを装入した状態、同図(b)はインゴットを穿孔する状態、同図(c)は底付中空素管を取り出す状態、同図(d)は底付中空素管を押し抜く状態をそれぞれ示す。
【図2】従来のエルハルト・プッシュベンチ法を用いた大径管の製造において、インゴットを穿孔して得られた素管の外面に形成される疵を示す図である。
【図3】エルハルト・プッシュベンチ法による大径管の製造において、インゴットを穿孔する際に用いられる壺の内腔の形状と、インゴットの形状とを示す上面図である。
【図4】高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる試験片によるグリーブル試験の結果を示す図である。
【図5】高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットにおける長手方向に垂直な断面の凝固組織を示す図である。
【図6】従来の大径管の製造方法で、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを穿孔した素管における長手方向に垂直な断面の凝固組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明のオーステナイト系合金大径管の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の大径管の製造方法は、質量%でCr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有する合金からなるインゴットを熱間で穿孔する工程を含むオーステナイト系合金大径管の製造方法であって、穿孔工程の前に、インゴットを前記(1)式により断面減少加工度Rが20%以上で熱間加工することを特徴とする。
【0039】
本発明において、インゴットが質量%でCr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有する合金からなると規定するのは、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットを穿孔する際に、素管の外面に形成され疵を抑制することを、本発明が目的とすることによる。CrおよびNiの含有量を限定する理由は後述する。
【0040】
本発明の大径管の製造方法は、穿孔工程の前に、断面減少加工度が20%以上である熱間加工、例えばその表面に熱間鍛造を加えて長手方向に垂直な断面積を減少させる熱間加工をインゴットに施す。この熱間加工でインゴットは外面から中心方向の圧縮応力を受けることから、インゴットの外面付近に存在する粗大な柱状晶が破壊されるとともに、凝固組織の界面でPやSなどが偏析するのが軽減される。
【0041】
これにより、インゴットの外面付近に存在する外面から中心に向かって長い柱状晶が破壊され、凝固組織を微細化することができるとともに、偏析による延性の低下を抑えることができる。このため、熱間加工後のインゴットを穿孔する際に外面付近に引張方向の力が作用しても、粗大な柱状晶の界面を起点とした粒界溶融割れは発生することなく、その結果、穿孔された素管の外面に疵が形成されるのを抑制することができる。
【0042】
熱間加工の断面減少加工度が20%未満であると、インゴットの外面付近に存在する粗大な柱状晶が十分に破壊されないとともに、凝固組織の界面での偏析を十分に軽減することができない。このため、インゴットを穿孔して素管とする際に粒界溶融割れに起因して素管の外面に疵が形成される場合があるので、本発明では、熱間加工の断面減少加工度を20%以上とした。また、熱間加工の断面減少加工度は上限を75%とするのが好ましい。断面減少加工度が75%を超える熱間加工をインゴットに施すためには穿孔に必要な鋼塊に対して非常に断面積の大きい鋼塊を準備する必要があり、大径管の製造歩留りが著しく低下するためである。
【0043】
本発明の大径管の製造方法は、断面減少加工度を確保する熱間加工を、従来から用いられているプレスによる鍛造により行うことができる。具体的には、インゴットを所定の角度ごとに長手方向を軸に回転させつつ、フラットな押圧面を持つ金型によりインゴット外面をプレスして鍛錬する熱間鍛造(以下、「外径鍛造」という)により熱間加工を行うことができる。
【0044】
本発明の大径管の製造方法では、熱間加工を、後述する実施例に示すように、1回で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。インゴット断面積が小さいと、1回の熱間加工で断面減少加工度20%以上を確保するのが困難となる。このような場合は、例えば、インゴットを外径鍛造した後、据え込み鍛造してインゴット断面積を増加させ、その後、外径鍛造することにより、複数回に分けて熱間加工を行うことができる。
【0045】
すなわち、据え込み鍛造とは、インゴットの長手方向に圧縮応力を付与して、インゴットの長手方向の長さを減少させる熱間加工である。据え込み鍛造をインゴットに施すことにより、インゴットの長さが減少するのに伴い、インゴット断面積を増加させることができる。
【0046】
熱間加工を複数回に分けて行う場合、下記(2)式により、断面減少加工度Rを算出する。
R=R1+R2+・・・+Rn-1+Rn ・・・(2)
【0047】
上記(2)式に示すように、断面減少加工度Rはそれぞれの熱間加工の加工度Rmを合計したものである。m回目の熱間加工における断面減少加工度Rmは、m回目の熱間加工前におけるインゴット断面積(mm2)をS1、m回目の熱間加工後におけるインゴット断面積(mm2)をS2として前記(1)式により算出する。
【0048】
S2(m回目の熱間加工後の断面積)≧S1(m回目の熱間加工前の断面積)となる場合は、前記(2)式により合計の加工度を算出する際の断面減少加工度Rmを0%とする。これは、据え込み鍛造といったインゴット断面積が増加する熱間加工では、インゴットの外面付近に存在する粗大な柱状晶の破壊効果が外径鍛造と比較して小さいためである。
【0049】
断面減少加工度20%以上で熱間加工する際に、複数回の熱間加工により断面減少加工度を確保する場合でも、前記(2)式で算出される断面減少加工度が20%以上であれば、後述する実施例に示すように、穿孔された素管の外面に疵が形成されるのを抑制できる。
【0050】
インゴットに熱間加工を施すことにより、インゴットの外面に軽微な疵が形成される場合があるが、この場合は穿孔工程の前にインゴットを手入れすることにより、容易に疵を除去することができる。熱間加工によりインゴットの外面に形成される疵の深さは最大でも3〜5mm程度で、穿孔の際に素管の外面に形成される疵と比べて軽微であることから、手入れによる製造歩留りへの影響は小さい。
【0051】
本発明の大径管の製造方法は、穿孔工程により得られた素管を熱間で押し抜いて所定の寸法に仕上げることができる。上述の熱間加工をインゴットに施すことにより、穿孔工程により得られる素管の外面に疵が形成されるのを抑制できる。これにより、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管の製造歩留を向上できる。
【0052】
次に、本発明の大径管の製造方法において、合金の化学組成を限定する理由を説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0053】
Cr:21〜31%
Crは、耐酸化性、耐水蒸気酸化性および耐食性を確保するための重要な元素である。高温下での耐食性を確保するためには最低限21%の含有量が必要である。前記の耐食性はCr含有量が多いほど向上するが、その含有量が31%を超えると、組織安定性が低下してクリープ強度を損なう。また、オーステナイト組織を安定にするために高価なNi含有量の増加を余儀なくされるだけでなく、溶接性も低下する。したがって、Cr含有量は21〜31%とする。
【0054】
Ni:43〜60%
Niは、オーステナイト組織を安定にする元素であり、耐食性の確保にも重要な合金元素である。上記のCr量とのバランスからNiは43%以上の量が必要である。一方、過剰なNiはコスト上昇を招くだけでなく、クリープ強度の低下を招くので、その上限は60%とする。
【0055】
本発明の大径管の製造方法に用いられるオーステナイト系合金は、質量%で、C:0.05〜0.10%,Si:0.05〜0.4%,Mn:0.01〜1.3%,P:0.030%以下,S:0.010%以下,Cr:21〜31%,Ni:43〜60%,Al:0.005〜1.5%,B:0.001〜0.005%,N:0.05%以下,および下記の1群および2群の各々のグループに属する1種以上の元素を含有し、残部をFeおよび不純物とするのが好ましい。
第1群:Mo:10%以下、W:9%以下およびCo:13%以下。
第2群:Ti:1%以下,Nb:1%以下およびZr:0.5%以下。
【0056】
C:0.05〜0.10%
Cは炭化物を形成して高温用オーステナイト系ステンレス鋼として必要な高温引張強さ、高温クリープ強度を確保する上で重要な成分であり、0.05%以上を含有させるのが好ましい。しかし、その含有量が0.10%を超えると、未固溶炭化物が生じたり、Crの炭化物が増えて溶接性が低下するので上限は0.10%とするのが好ましい。
【0057】
Si:0.05〜0.4%
Siは、製鋼時に脱酸剤として添加されるが、鋼の耐水蒸気酸化性を高めるためにも重要な元素であり、0.05%以上を含有させるのが好ましい。しかし、その含有量が過剰になると鋼の加工性が悪くなるので上限は0.4%とするのが好ましい。
【0058】
Mn:0.01〜1.3%
Mnは、鋼中に含まれる不純物のSと結合してMnSを形成し、熱間加工性を向上させるが、その含有量が0.01%未満ではこの効果が低下するので、0.01%以上を含有させるのが好ましい。一方、その含有量が過剰になると、鋼が硬くなって脆くなり、かえって加工性や溶接性を損なうので上限は1.3%とするのが好ましい。
【0059】
P:0.030%以下
Pは不純物として不可避的に混入するが、過剰なPは溶接性および加工性を害するので、上限を0.030%とするのが好ましい。なお、P含有量は少ないほどよい。
【0060】
S:0.010%以下
Sも上記のPと同様に不純物として不可避的に混入するが、過剰なSは溶接性および加工性を害するため、上限は0.010%とするのが好ましい。
【0061】
Al:0.005〜1.5%
Alは、脱酸剤として添加する場合、十分な脱酸効果を得るには0.005%以上を含有させるのが好ましい。また、Alは、Niと結合し金属間化合物として微細に粒内析出し、高温でのクリープ強度を確保することができるため、その場合は、0.1%以上含有させるのが好ましい。一方、Alの含有量が多くなって、特に1.5%を超えると、高温での使用中に金属間化合物相が急速に粗大化して、クリープ強度および靱性の極端な低下をきたすおそれがある。したがって、Alの含有量の上限は1.5%とするのが好ましい。
【0062】
B:0.001〜0.005%
Bは、粒界すべりクリープ抑制作用を有する元素であるが、その含有量が0.001%未満ではこの作用効果が低下するので、0.001%以上を含有させるのが好ましい。一方、0.005%を超えて含有させると溶接性を損なうため、上限は0.005%とするのが好ましい。
【0063】
N:0.05%以下
Nは、オーステナイト相を安定にするのに有効な元素である。しかしながら、Nの含有量が過剰になって0.05%を超えると、TiやAlの窒化物以外にもCrの窒化物を形成し、クリープ延性や靱性の低下を招く。したがって、Nの含有量を0.05%以下とするのが好ましい。
【0064】
第1群:Mo:10%以下、W:9%以下およびCo:13%以下。
Mo:10%以下、W:9%以下
WおよびMoは、いずれもマトリックスであるオーステナイト組織に固溶して高温でのクリープ強度の向上に寄与するので、こうした効果を得るためにWやMoを添加してもよい。しかしながら、WおよびMoの含有量が多くなって、特にMoが10%またはWが9%を超えると、逆にオーステナイト相の安定性が低下してクリープ強度の低下を招くことに加え、長時間使用中のHAZの脆化割れ感受性が高くなる。このため、WおよびMoの含有量は各々10%以下および9%以下とする。一方、前記したWやMoの効果を確実に得るためには、合計で1%以上のWおよびMoを含有させるのが好ましい。
【0065】
Co:13%以下
Coは、Niと同様オ−ステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与するので、こうした効果を得るためにCoを添加してもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため含有量が多くなるとコスト増加を招き、特に、13%を超えるとコスト増加が著しくなる。したがって、添加する場合のCoの含有量は、13%以下とする。一方、前記したCoの効果を確実に得るためには、Co含有量の下限は0.5%とすることが好ましい。
【0066】
第2群:Ti:1%以下,Nb:1%以下およびZr:0.5%以下。
Ti:1%以下
Tiは、高温域での使用において、炭化物の析出により高温強度の向上に寄与するので、こうした効果を得るためにTiを添加してもよい。しかし、Tiは含有量が多くなると、未固溶炭窒化物や酸化物を形成してオーステナイト結晶粒の混粒化を助長したり、不均一なクリープ変形や延性低下の原因となるので、その含有量は1%以下とする。一方、その含有量が0.01%未満では、炭化物の析出により高温強度が向上する効果を得がたいので、Ti含有量は0.01%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは0.03〜0.2%である。
【0067】
Nb:1%以下
Nbは、Tiのように有害な酸化物にはならないことから、炭化物によるクリープ強度の向上のために添加してもよい。しかし、過剰なNbは溶接性を害するので上限は1%とする。一方、その含有量が0.01%未満では、炭化物によりクリープ強度を向上させる効果が得がたいので、Nb含有量は0.01%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは0.1〜0.5%である。
【0068】
Zr:0.5%以下
Zrは、粒界を強化して高温強度を向上させる作用を有する。したがって、その効果を得たい場合には積極的に添加含有させてもよい。しかし、その含有量が0.5%を超えると、前記のTiと同様に未固溶の酸化物や窒化物を生成し、粒界すべりクリープおよび不均一なクリープ変形を助長するだけでなく鋼質をも劣化させ、高温域でのクリープ強度および延性を損なう。したがって、Zr含有量の上限は0.5%以下とする。一方、Zr含有量が0.0005%未満であると、粒界を強化して高温強度を向上させる効果が低下するので、Zr含有量は0.0005%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは0.001〜0.2%である。
【0069】
本発明の大径管の製造方法は、合金が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下および希土類元素:0.1%以下の1種以上を含有するのが好ましい。
【0070】
Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下および希土類元素:0.1%以下
これらの元素は、いずれも無害で安定な酸化物や硫化物を形成して、OおよびSの好ましくない影響を小さくし、耐食性、加工性、クリープ強度およびクリープ延性を向上させる作用を有する。従って、その効果を得たい場合には1種以上を積極的に添加含有させてもよく、その場合、それぞれ0.0005%以上の含有量で上記の効果が顕著になる。しかし、CaやMgはそれぞれの含有量が0.03%超えると、また希土類元素(REM)は0.1%を超えると酸化物等の介在物が多くなり、加工性および溶接性を損なうだけでなく、コストの上昇を招く。したがって、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下および希土類元素:0.1%以下とする。
【0071】
なお、REMとは、原子番号57のLaから同71のLuまでの15元素にYおよびScを加えた17元素の総称であり、これらの元素から選択される1種以上を含有させることができる。REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。
【0072】
REMの中でもNdは高温の加工性を阻害するSと結合して無害化し、熱間加工性や靭性、クリープ延性を大幅に改善する。したがって、REMを含有させる場合には、Ndを含有させるのが好ましい。Ndを使用する場合は、Ndの含有量の上限は0.1%とするのが好ましい。なお、Ndを含有させることによる効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させるのが好ましく、0.05%がより好ましい。
【0073】
「Feおよび不純物」における「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
【実施例】
【0074】
本発明の大径管の製造方法による効果を検証するため、前記図1を用いて説明したエルハルト・プッシュベンチ法による大径管の製造方法により、管を得る試験を行った。
【0075】
[試験方法]
高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなるインゴットから、前記図1を用いて説明したエルハルト・プッシュベンチ法による大径管の製造方法により、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる管を得た。この際、穿孔工程の前にインゴットに熱間加工を施した。表1に本発明例および比較例でインゴットに用いた合金Aの化学組成(質量%)を示す。
【0076】
【表1】

【0077】
本発明例および比較例ともに、穿孔工程の前にインゴットに施す熱間加工は、1回の外径鍛造により施した。ダイスとマンドレルを用いた押し抜きは、2〜3個のダイスを連設して行い、押し抜きを合計で5回施して所定寸法の底付中空素管に仕上げた。
【0078】
表2に、試験区分、熱間加工前のインゴットの寸法、熱間加工後のインゴットの寸法、前記(1)式により算出した断面減少加工度、穿孔工程で用いた壺の内腔径およびマンドレルの外径、素管外面の疵発生状況並びに得られた管の寸法を示す。表2並びに後述する表3および5に示すインゴットの対角長の寸法は長手方向の垂直な断面におけるインゴットを正方形とした時の対角の長さであり、インゴットの長さ寸法は長手方向の長さである。また、本実施例では、前記(1)式により断面減少加工度を算出する際の熱間加工前または熱間加工後のインゴット断面積は、インゴットの対角長寸法を対角の長さとする正方形の面積を用いて算出した。
【0079】
【表2】

【0080】
[評価基準]
インゴットを穿孔した底付中空素管の外面を検査し、疵の発生状況を確認した。表2並びに後述する表3および5に示す「素管外面の疵発生状況」の欄の記号の意味は次の通りである:
○:外面に疵が確認されなかったことを示す。
×:外面に疵が確認されたことを示す。
【0081】
[試験結果]
表2に示すとおり、比較例1では、穿孔工程の前にインゴットを断面減少加工度12.1%で熱間加工し、比較例2では、穿孔工程の前にインゴットを断面減少加工度16.0%で熱間加工した。このように、熱間加工の断面減少加工度が20%未満である比較例1および2では、インゴットを穿孔した素管の外面に疵が確認された。
【0082】
一方、本発明例1では、穿孔工程の前にインゴットを断面減少加工度23.4%で熱間加工し、本発明例2では、穿孔工程の前にインゴットを断面減少加工度30.6%で熱間加工した。このように、熱間加工の断面減少加工度が20%以上である本発明例1および2では、インゴットを穿孔した素管の外面に疵が確認されなかった。
【0083】
これらから、本発明の大径管の製造方法は、穿孔工程の前にインゴットを断面減少加工度20%以上で熱間加工することにより、穿孔された素管の外面に疵が形成されるのを抑制できることが明らかになった。
【0084】
次に、穿孔工程の前の熱間加工を複数回に分けて行う試験を行った。
【0085】
[試験方法]
比較例3、本発明例3および本発明例4では、外径鍛造を行った後、据え込み鍛造を行うことにより、インゴットに2回に分けて熱間加工を施した。本発明例5では、外径鍛造を行った後、据え込み鍛造を行い、その後、外径鍛造を行うことにより、インゴットに3回に分けて熱間加工を施した。
【0086】
比較例3および本発明例3〜5では、インゴットは、前記表1に示す合金Aからなるものを用いた。熱間加工を施したインゴットは、穿孔工程で内腔径が670mmである壺と、外径が315mmであるマンドレルを用いて底付中空素管とした。この際、底付中空素管の外面を検査して疵の発生状況を確認した。底付中空素管の押し抜きでは、連設された3個のダイスを用いて行い、押し抜きを合計で5回施して外径が305mm、肉厚が25mmである管に仕上げた。
【0087】
表3に、試験区分、熱間加工前のインゴットの寸法、各熱間加工後のインゴットの寸法および各熱間加工での断面減少加工度、前記(2)式により算出した合計の断面減少加工度並びに素管外面の疵発生状況を示す。
【0088】
【表3】

【0089】
[試験結果]
比較例3、本発明例3および本発明例4では、穿孔工程の前に据え込み鍛造と外径鍛造とからなる熱間加工を施した。表3に示すとおり、合計の断面減少加工度が14.8%である比較例3では、インゴットを穿孔した素管の外面に疵が確認された。一方、合計の断面減少加工度が26.5%である本発明例3および合計の断面減少加工度が36.0%である本発明例4では、インゴットを穿孔した素管の外面に疵が確認されなかった。
【0090】
また、本発明例5では、外径鍛造を行った後、据え込み鍛造を行い、その後、外径鍛造を行うことにより熱間加工を施し、合計の断面減少加工度は30.8%であった。本発明例5では、インゴットを穿孔した素管の外面に疵が確認されなかった。
【0091】
これらから、複数回に分けてインゴットに熱間加工を施す場合でも、合計の断面減少加工度を20%以上とすることにより、穿孔された素管の外面に疵が形成されるのを抑制できることが明らかになった。
【0092】
次に、化学組成が異なる合金を用いて試験を行った。
【0093】
[試験方法]
本発明例6では、合金Bからなるインゴットを用い、本発明例7では、合金Cからなるインゴットを用いた。本発明例6および7では、それ以外の試験条件を前述の本発明例2と同様の条件とした。表4に、合金Bおよび合金Cの化学組成をそれぞれ示す。また、表5に試験区分、インゴットの合金、熱間加工前のインゴットの寸法、熱間加工後のインゴットの寸法、前記(1)式により算出した断面減少加工度、および素管外面の疵発生状況を示す。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
[試験結果]
表5に示すとおり、合金Bからなるインゴットを用いた本発明例6および合金Cからなるインゴットを用いた本発明例7では、インゴットを断面減少加工度30.6%で熱間加工し、当該インゴットを穿孔した素管の外面に疵が確認されなかった。
【0097】
以上より、本発明の大径管の製造方法は、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管を製造する際、穿孔工程の前に、インゴットを断面減少加工度20%以上で熱間加工することにより、穿孔された素管の外面に疵が形成されるのを抑制できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のオーステナイト系合金大径管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する。
(1)穿孔工程の前に、インゴットを断面減少加工度20%以上で熱間加工することにより、インゴットの外面付近に存在する粗大な柱状晶が破壊されるとともに、凝固組織の界面での偏析が軽減される。
(2)上記(1)により、インゴットを穿孔して素管とする際に素管の外面に疵が形成されるのを抑制できる。
【0099】
したがって、本発明の大径管の製造方法を、高Cr−高Niのオーステナイト系合金からなる大径管の製造に適用すれば、製造歩留りを向上することができ、超々臨界圧ボイラにおける蒸気温度の高温化に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0100】
1:インゴット、 1a:インゴットの外面、 1b:壺の内腔との接触部、
1c:インゴットの中心、 2:円形堅型壺、 2a:円形堅型壺の内腔、
3:マンドレル、 4:ガイド、 5:取り出し棒、 6:底付中空素管、
6a:素管の外面、 6b:素管外面の疵部、 7:ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でCr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有する合金からなるインゴットを熱間で穿孔する工程を含むオーステナイト系合金大径管の製造方法であって、
前記穿孔工程の前に、前記インゴットを下記(1)式により算出される断面減少加工度Rが20%以上で熱間加工することを特徴とするオーステナイト系合金大径管の製造方法。
R=(1−S2/S1)×100(%) ・・・(1)
S1:熱間加工前におけるインゴット断面積(mm2)、
S2:熱間加工後におけるインゴット断面積(mm2
ただし、2回以上の熱間加工を行う場合は下記(2)式による。
R=R1+R2+・・・+Rn-1+Rn ・・・(2)
【請求項2】
前記合金が、質量%で、C:0.05〜0.10%,Si:0.05〜0.4%,Mn:0.01〜1.3%,P:0.030%以下,S:0.010%以下,Cr:21〜31%,Ni:43〜60%,Al:0.005〜1.5%,B:0.001〜0.005%,N:0.05%以下,および下記の1群および2群の各々のグループに属する1種以上の元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系合金大径管の製造方法。
第1群:Mo:10%以下、W:9%以下およびCo:13%以下。
第2群:Ti:1%以下,Nb:1%以下およびZr:0.5%以下。
【請求項3】
前記合金が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下および希土類元素:0.1%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項2に記載のオーステナイト系合金大径管の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のオーステナイト系合金大径管の製造方法であって、さらに前記穿孔工程により得られた素管を熱間で押し抜いて所定の寸法に仕上げる工程を含むことを特徴とするオーステナイト系合金大径管の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102375(P2012−102375A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252693(P2010−252693)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】