説明

オートテンショナ

【課題】捻りコイルばね50の捻りトルクにより回動部材30をベルト押圧方向に回動付勢する一方、上記捻りトルクの反力を利用して回動部材30の回動に対するダンピング力を発生させるようにしたオートテンショナにおいて、固定部材10の軸部11上に外嵌合された内側ダンピング部材14との間に回動部材30のボス部31を挟圧するようにした外周側ダンピング部材17を省略することなく、エンジンの回転変動や振動による捻りコイルばね50の共振を十分に抑えられるようにする。
【解決手段】捻りコイルばね50のコイル部51に対し、弾性変形可能な断面略円弧状の防振部材70を、コイル部51を外周側から抱持する状態に弾性的に嵌着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捻りコイルばねの捻りトルクにより自動車用エンジンの補機駆動ベルトを押圧する一方、捻りトルクの反力を利用してベルト押圧作動に対するダンピング力を発生させるようにしたオートテンショナに関し、特に、捻りコイルばねの共振による応力を減少させる対策に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用エンジンのベルト式補機駆動装置に使用されるオートテンショナとして、固定部材の軸部上に内周側ダンピング部材を介して外嵌合されたボス部において回動可能に支持された回動部材を、該回動部材のボス部上に外周側ダンピング部材を介して配置した捻りコイルばねの捻りトルクによりベルト押圧方向に回動付勢する一方、上記捻りトルクの反力により外周側ダンピング部材の周方向の一部を半径方向内方に押圧し、この外周側ダンピング部材と内周側ダンピング部材との間でボス部を挟圧することで、回動部材の回動に対するダンピング力を発生させるようにしたものが知られている。
【0003】
ところで、上記のオートテンショナでは、捻りコイルばねがエンジンの回転変動や振動などにより加振されたときに、その加振周波数が捻りコイルばねの固有振動数に一致すると、捻りコイルばねに共振現象が生じ、その共振現象により捻りコイルばねに大きな応力が発生して捻りコイルばねが折損する虞がある。
【0004】
一方、捻りオイルばねの固有振動数は、付与すべきベルト張力に応じて設計される形状や特性によって決定されるものであり、したがって、捻りコイルばねの固有振動数自体を変更することはできない。
【0005】
そこで、従来の場合には、特許文献1に記載されているように、回動部材のボス部外周に、円筒状の防振部材を設け、この防振部材の周方向の一部を捻りコイルばねのコイル部に内周側から接触させるようにし、これにより、捻りコイルばねの固有振動数を変更せずに該捻りコイルばねの共振を防止するようになされている。
【特許文献1】特開2003−120768号公報(第4頁,図3〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の場合には、防振部材がボス部外周面上に位置しているために、外周側ダンピング部材を省略せざるを得ず、その分だけ、ダンピング力が低下するという難点がある。
【0007】
しかも、防振部材は、捻りコイルばねのコイル部とは周方向の狭い範囲でしか接触していないために、共振を十分に抑えることができないという欠点がある。
【0008】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、捻りコイルばねの捻りトルクにより回動部材をベルト押圧方向に回動付勢する一方、上記捻りトルクの反力を利用して回動部材の回動に対するダンピング力を発生するようにしたオートテンショナにおいて、外周側ダンピング部材を省略しなくても、捩りコイルばねの共振を十分に抑えられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく、本発明では、防振部材を、ボス部外周面上、つまり、捩りコイルばねのコイル部の内周側ではなく、捻りコイルばねのコイル部の外周側に配置するようにした。
【0010】
具体的には、本発明では、軸部を有していて、固定側に固定される固定部材と、上記軸部上に該軸部の軸心回りに回動可能に外嵌合されたボス部を有するとともに、ベルトを押圧するためのベルト押圧部を有していて、上記ボス部において固定部材により軸心回りに回動可能に支持された回動部材と、これら固定部材と回動部材との間に介装されていて、該回動部材を上記ベルト押圧部がベルトを押圧する方向に回動付勢する捻りコイルばねとを備えたオートテンショナを前提としている。
【0011】
そして、上記捻りコイルばねのコイル部に該コイル部を外周側から抱持する状態に嵌着された弾性変形可能な断面略円弧状の防振部材を備えているものとする。
【0012】
尚、上記の構成において、防振部材における周方向両端部を、それぞれ、半径方向外方側に反り返らせるように形成することができる。
【0013】
また、防振部材を、断面略円弧状の導電性金属板と、この金属板の表面に形成された電着塗装層とを有してなるものとすることができる。その際に、防振部材の金属板に、電着塗装層の形成時に該金属板を吊り下げるための係止部を設けるようにすることもできる。
【0014】
ところで、捻りコイルばねのコイル部と防振部材とは、互いに摺接していることから、例えば両者間の静止摩擦係数と動摩擦係数との差が大きいことなどに起因して発生するスティックスリップ減少により、騒音としての摺動音が発生することがある。これに対しては、コイル部における防振部材との接触部および防振部材におけるコイル部との接触部のうちの何れか一方を、コイル部および防振部材の相対摺動に伴う摺動音の発生を抑える摺動音低減部とすることができる。
【0015】
上記の摺動音低減部を、防振部材におけるコイル部との接触部とする場合には、防振部材を、防振部材本体と、この防振部材本体の内周側に脱着可能に保持されていて、上記摺動音低減部を形成する摺動音低減体とを有するものとすることができる。その具体例としては、摺動音低減体の周方向長さを、防振部材本体の周方向長さよりも大きくし、その摺動音低減体の周方向両端を、該摺動音低減体が防振部材本体に保持されるようにそれぞれ半径方向外方側に折り曲げるようにすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、捻りコイルばねの捻りトルクにより回動部材をベルト押圧方向に回動付勢する一方、上記捻りトルクの反力により回動部材の回動に対するダンピング力を発生させるようにしたオートテンショナにおいて、捻りコイルばねのコイル部に対し、防振部材を半径方向外方から抱持する状態に弾性嵌着させるようにしたので、外周側ダンピング部材を省略しなくても、捩りコイルばねの共振を十分に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るオートテンショナの全体構成を示しており、このオートテンショナは、自動車用エンジンの出力トルクの一部を1本の伝動ベルトBを介して複数の補機に伝達するようにしたサーペンタインレイアウトのベルト伝動装置において伝動ベルトBに所定の張力を付与するために使用される。
【0019】
このオートテンショナは、エンジンに固定される固定部材10と、この固定部材10に回動可能に支持された回動部材30とを備えている。
【0020】
上記の固定部材10は、エンジンのテンショナ取付面に対し直交する方向(図1の左右方向)に延びるように配置される軸部11と、この軸部11の一方(同図の右方)の端部(以下、基端部という)の外周に半径方向に突出するように周設されたフランジ部12と、このフランジ部12上に軸部11を取り囲むように周設された側壁部13とを有する。フランジ部12の外周には、図示は省略するが、複数の取付片が半径方向外方に向かって突出するように設けられており、各取付片には、該取付片を軸部11の延びる方向(以下、軸方向という)に貫通するボルト孔が設けられている。これらのボルト孔は、オートテンショナをエンジンに取り付ける際のボルトを通すために使用される。さらに、側壁部13におけるフランジ部12の近傍には、該側壁部13を半径方向に貫通する図外の固定側係止孔が設けられている。
【0021】
上記軸部11の外周は、該軸部11の他方(図1の左方)の端部(以下、先端部という)に向かって外径が漸次小さくなる断面テーパ状に形成されており、このテーパ状の外周には、略軸方向に延びるキー溝11aが設けられている。この軸部11上には、樹脂材からなる略円筒状の内周側ダンピング部材としてのインサートベアリング14が外嵌合されている。インサートベアリング14の内周は、軸部11の外周の場合と略同じテーパ角度の断面テーパ状に形成されている。この内周には、軸方向に延びるキー部14aが設けられており、このキー部14aが軸部11のキー溝11aに係入していることで軸部11に対するインサートベアリング14の回り止めがなされている。また、インサートベアリング14の外周は、周方向におけるキー部14a側の部分(図1の下側の部分)が厚肉部14bに形成されている一方、キー部14aとは反対側の部分(同図の上側の部分)が薄肉部14cに形成されている。
【0022】
一方、上記の回動部材30は、固定部材10の軸部11上にインサートベアリング14を介して外嵌合された略円筒状のボス部31と、このボス部31において軸部11の先端部に対応する部位の外周に半径方向外方に向かって突出するように周設されたフランジ部32と、このフランジ部32の周縁上に、固定部材10の側壁部13に相対向するように周設された側壁部33と、フランジ部32の外周から半径方向外方に向かって延びるように設けられたアーム部34とを有する。また、側壁部33におけるフランジ部32の近傍部位には、該側壁部33を半径方向に貫通する図外の回動側係止孔が設けられている。
【0023】
上記回動部材30のボス部31は、インサートベアリング14を介して固定部材10の軸部11上に外嵌合しており、これにより、インサートベアリング14の厚肉部14bの外周面に対し、ボス部31の内周面が軸心回りに回動可能に摺接するようになっている。尚、固定部材10の軸部11は、回動部材30のボス部31を貫通しており、その先端には、円板状のフロントプレート15が回動不能に取り付けられている。
【0024】
上記回動部材30のフランジ部32の上面には、回動軸心と同心状の円形凹部35が凹設されている。この円形凹部35内には、該円形凹部35の底面に摺接可能な樹脂製の平板材からなるスラストワッシャ16が配置されており、このスラストワッシャ16は、回動部材30とフロントプレート15との間に挟まれている。
【0025】
上記回動部材30のアーム部34の先端には、回動軸心に平行に延びるボルト取付孔36が設けられている。このボルト取付孔36には雌ねじが螺設されていてボルト37が螺着されている。このボルト37の頭部とアーム部34との間には、ボルト37の軸方向に重ねられた2つのベアリング38,38がその内輪において挟圧固定されており、これらベアリング38,38の外輪には、伝動ベルトBを押圧するベルト押圧部としてのテンションプーリ39が外嵌合されていて回転一体に連結されている。また、ボルト37の頭部側のベアリング38と該頭部との間には、ベアリング38内にダストが侵入するのを防止する円板状のダストシール40が配置されている。
【0026】
上記の回動部材30におけるボス部31と側壁部33との間には、樹脂材からなる外周側ダンピング部材としてのスプリングサポート17が配置されている。このスプリングサポート17は、回動部材30のボス部31上に外嵌合するように配置された略円筒状をなす摺動部としての円筒部17aと、この円筒部17aにおいて、軸部11の基端部に対応する部位の外周に半径方向外方に向かって突出するように周設されていて、固定部材10のフランジ部12上に配置された鍔部17bとからなっている。円筒部17aの内周は、ボス部31の外周と略同じテーパ角度を持つ断面テーパ状に形成されていて、該ボス部31の外周面に摺接可能とされている。
【0027】
上記スプリングサポート17の鍔部17b上には、固定部材10に対し回動部材30をテンションプーリ39が伝動ベルトBを押圧する方向に常時付勢する捻りコイルばね50が配置されている。この捻りコイルばね50のコイル部51は、左巻きにされていて、スプリングサポート17の円筒部17a上に遊嵌状態に配置されている。捻りコイルばね50の固定側および回動側の2つのタング52,53は、それぞれコイル部51から半径方向外方に向かって突出するように設けられている。そして、固定側タング52は固定部材10の固定側係止孔に係止されており、回動側タング53は回動部材30の回動側係止孔に係止されている。
【0028】
この捻りコイルばね50は、コイル部51が縮径する方向に捻られて固定部材10および回動部材30間に介装されており、このことで、コイル部51が拡径する方向の捻りトルクでもって回動部材30をベルト押圧方向に付勢するとともに、その捻りトルクの反力でもって、インサートベアリング14の厚肉部14bに対応するスプリングサポート17の円筒部17aの部位をコイル部51における周方向の一部により半径方向内方に押圧するようになっている。そして、スプリングサポート17の円筒部17aが押圧されることで、その円筒部17aの内周面が回動部材30のボス部31の外周面に、また、インサートベアリング14の厚肉部14bの外周面が回動部材30のボス部31の内周面にそれぞれ圧接するようになっている。また、捻りコイルばね50は、軸方向に圧縮されており、このことで、回動部材30の円形凹部35の底面にスラストワッシャ16が圧接するようになっている。
【0029】
そして、本実施形態では、上記捻りコイルばね50には、弾性変形可能な断面略円弧状の防振部材としての防振カラー70がコイル部51を外周側から抱持する状態に弾性的に嵌着されている。
【0030】
具体的には、防振カラー70は、自己減衰作用の高い金属板(例えば、炭素工具鋼鋼材など)を曲げ加工してなっており、その表面には、防錆を主目的として電着塗装層が形成されている。また、図2〜図5に示すように、防振カラー70は、周方向長さがコイル部51の外周長さの半分を超えているとともに、中心角が180°以上でありかつ内径がコイル部51の外径よりも小さくされており、これにより、コイル部51に対し周方向の半分を超える範囲で弾接するようになっている。
【0031】
また、防振カラー70の幅寸法(図3および図5の各左右方向寸法)は、捻りコイルばね50のコイル部51における各タング52,53からそれぞれ略1巻分を除く部位の長さ寸法とされており、このことで、防振カラー70が捻りコイルばね50の各タング52,53に接触しないようになっている。
【0032】
また、防振カラー70の周方向両端部は、図2および図4に示すように、それぞれ、半径方向外方側に小さく反り返っており、このことで、防振カラー70を捻りコイルばね50のコイル部51に装着するなどの際に、防振カラー70の周方向両端部のエッジ部分が、捻りコイルばね50の線材の表面に施されている塗膜に傷を付けることがないようになっているとともに、防振カラー70を拡径方向に弾性変形させて行われる装着作業自体が容易化されるようになっている。
【0033】
さらに、この防振カラー70の金属板には、電着塗装作業を容易なものにすべく、吊下用孔71が設けられている。
【0034】
上記のように構成されて自動車用エンジンに取り付けられたオートテンショナにおける防振カラー70の作用について説明すると、エンジンの回転変動や振動により、オートテンショナの捻りコイルばね50が該捻りコイルばね50の固有振動数に一致する周期でもって加振されると、捻りコイルばね50に共振が生じる。このとき、その共振に伴い、防振カラー70と捻りコイルばね50のコイル部51との間に摺動摩擦が生じるので、その摩擦力により、共振は減衰させられることとなる。
【0035】
ここで、防振カラー70の効果を確認するために行ったテストについて説明する。テストの要領は、エンジンにオートテンショナを取り付け、防振カラー70の装着前と装着後とにおいて、それぞれ、エンジンをアイドル回転速度(略550rpm)から許容最大回転速度(略6600rpm)までの間で作動させたときの捻りコイルばね50に発生した応力(単位:MPa)を計測した。また、防振カラー70の材料には炭素工具鋼鋼材(「JIS G 4401」のSK5)を採用し、その金属板(板厚は0.5mm)を曲げ加工して防振カラー70を形成した。この防振カラー70の各部位の寸法については、内径が22mであり、幅寸法が45mmであり、周方向長さに対応する中心角が260°(開口側の周方向長さに対応する中心角は100°)である。以上の結果を、図6に併せて示す。尚、同図(a)が装着前であり、同図(b)が装着後である。
【0036】
図6(a)から判るように、防振カラー70の装着前では、エンジンの高回転域(5800rpm当り)で応力が大きく(略±200MPa)なっており、このままでは、捻りコイルばね50の折損が懸念される。尚、このような場合には、一般には、常用回転域内において共振が発生しないようにばね緒元を変更する(例えば、ばね常数を大きくする)必要があるが、そのようにすると、伝動ベルトBの張力が高くなることから、ばね折損の発生は回避できるものの、エンジンに対しては燃費悪化などの悪影響を及ぼすこととなる。
【0037】
一方、防振カラー70の装着後では、図6(b)から判るように、捻りコイルばね50に発生する応力は、エンジン回転速度の全域に亘って、±100MPa以内であった。つまり、本実施形態の防振カラー70を装着することで、共振により発生する応力が半分以下に抑えられることが判る。よって、この場合には、ばね緒元の変更は不要であり、エンジンに悪影響を及ぼすこともない。
【0038】
尚、捩りコイルばね50のコイル部51の振動の代表的な形態としては、径方向の振動(特に、コイル部51の軸方向中央部分)や、軸方向の振動などがあり、実際には、複数の形態が組み合わさっているものと推察される。そして、そのようなコイル部51の振動に対する防振カラー70の振動減衰作用としては、径方向の振動については、防振カラー70がコイル部51を径方向にくわえ込む力によって該コイル部51の動きを拘束するもとの考えられる。また、軸方向の振動については、防振カラー70とコイル部51との間の軸方向の相対摺動による摩擦力によってコイル部51の動きを拘束するものと考えられる。
【0039】
したがって、本実施形態によれば、捻りコイルばね50の捻りトルクにより回動部材30をベルト押圧方向に回動付勢する一方、上記捻りトルクの反力によりインサートベアリング14とスプリングサポート17との間に回動部材30のボス部31を挟圧して該回動部材30の回動に対するダンピング力を発生させるようにしたオートテンショナにおいて、捻りコイルばね50のコイル部51に対し、断面略円弧状をなす弾性変形可能な防振カラー70を半径方向外方から抱持する状態に弾性的に嵌着するようにしたので、スプリングサポートを省略するようにした場合に生じるダンピング力の低下を招くことなく、捻りコイルばね50の共振を十分に抑えることができる。
【0040】
また、防振カラー70は、捻りコイルばね50のコイル部51外周に弾性的に嵌着されるものであるので、オートテンショナの組立時に予め防振カラー70を捻りコイルばね50に装着しておき、その捻りコイルばね50を組み付けるようにすることができるなど、オートテンショナに容易に組み付けることができる。
【0041】
さらに、上記の防振カラー70は、捻りコイルばね50のコイル部51外周に略密着した状態に装着されるので、収容スペースとしては捻りコイルばね50のコイル部51と固定部材10および回動部材30の各側壁部13,33との間の僅かな隙間空間で済み、オートテンショナ自体の構造の変更が不要である結果、既存のオートテンショナへの追加設定も容易である。
【0042】
尚、上記の実施形態では、防振カラー70の幅寸法を、捻りコイルばね50のコイル部51における各タング52,53からそれぞれ略1巻分を除く部位の長さ寸法とするようにしているが、本発明に係る防振部材としては、カラーコイル部51に対する接触状態や材質および形状などを含め、捻りコイルばねの固有振動数や、捻りコイルばねに対する加振振動数の頻度分布などの条件に応じて任意に設計することができる。
【0043】
また、上記の実施形態では、防振カラー70の材料として、炭素工具鋼鋼材を採用するようにしているが、材料の種類としては特に限定されるものではなく、自己減衰性や製造コスト(加工性)などの条件に応じて適宜採用することができる。因みに、鉄系金属材料の場合には、一般に、炭素を多く含有するほど、自己減衰作用は高くなるものの、加工性の点では悪化する。
【0044】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係るオートテンショナの全体構成を示している。尚、実施形態1の場合と同じ部分には同じ符号を付して示している。
【0045】
本実施形態では、図8にも示すように、防振カラー70における捩りコイルばね50のコイル部51との接触部は、防振カラー70およびコイル部51の相対摺動に伴う摺動音の発生を抑える摺動音低減部とされている。
【0046】
具体的には、防振カラー70は、カラー本体71と、このカラー本体71の内周側に脱着可能に保持されていて、上記の摺動音低減部を形成する摺動音低減体72とを有する。この摺動音低減体72は、コイル部51との間の静摩擦係数と動摩擦係数との差がカラー本体71の場合よりも小さい樹脂製の摺動材からなっている。また、摺動音低減体72は、カラー本体71の場合と同じく断面円弧状に形成されている。但し、その円弧長さ寸法は、カラー本体71の円弧長さ寸法よりも少しだけ長くされており、その円弧長さ方向両端部は、それぞれ、半径方向外側に折り曲げられている。この折曲げ部分は、摺動音低減体72がカラー本体71に保持されるように該カラー本体71に係合する係合部72aとなっている。尚、カラー本体71の構成は、実施形態1における防振カラー70と同じであり、また、その他の構成は実施形態1の場合と同じであるので、説明は省略する。
【0047】
上記のように構成されたオートテンショナでは、カラー本体71と捩りコイルばね50のコイル部51とが直接に接触していると、カラー本体71が金属製であって金属同士の接触となることから、摺動音が発生しやすく、その摺動音が騒音となる虞がある。これに対し、本実施形態では、防振カラー70におけるコイル部51との接触部が樹脂製の摺動音低減体72からなっていて樹脂と金属との接触であるので、そのような摺動音の発生は金属同士の場合に比べて抑えられる。
【0048】
したがって、本実施形態によれば、防振カラー70における捻りコイルばね50のコイル部51との接触部が、摺動音低減体72からなる摺動音低減部であるので、防振カラー70と捻りコイルばね50のコイル部51との間の相対摺動に伴う摺動音の発生を抑えることができ、よって、実施形態1の効果に加え、防振カラー70を付加したことに起因する騒音の増大を抑制することができる。
【0049】
尚、上記の実施形態では、摺動音低減部を、カラー本体71とは別体に形成した摺動音低減体72により構成するようにしているが、例えばカラー本体71の少なくともコイル部51との接触面に摺動音低減体72と同じ樹脂材料をコーティングするなどして一体形成するようにしてもよい。
【0050】
また、上記の実施形態では、摺動音低減部を防振カラー70側に設けるようにしているが、捩りコイルばね50のコイル部51側に設けるようにしてもよく、その場合には、摺動音低減部は、コイル部51に対し一体であっても別体であってもよい。
【0051】
さらに、上記の実施形態では、摺動音低減部を、樹脂材料により構成するようにしているが、捩りコイルばね50のコイル部51と防振カラー70の間の摺動音が、要求される騒音レベルまで低減されるものであれば、摺動音低減部の材料は特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態1に係るオートテンショナの全体構成を示す縦断面図である。
【図2】防振カラーを示す平面図である。
【図3】図2を正面図としたときの防振カラーを示す右側面図である。
【図4】防振カラーが捻りコイルばねに嵌着された状態を示す平面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】防振カラー装着前のオートテンショナにおけるエンジン回転速度−捻りコイルばねの発生応力の関係を示す特性図(a)および防振カラー装着後のオートテンショナにおけるエンジン回転速度−捻りコイルばねの発生応力の関係を示す特性図(b)である。
【図7】本発明の実施形態2に係るオートテンショナの全体構成を示す図1相当図である。
【図8】カラー本体および摺動音低減体からなる防振カラーが捻りコイルばねに嵌着された状態を示す図4相当図である。
【符号の説明】
【0053】
10 固定部材
11 軸部
30 回動部材
31 ボス部
39 テンションプーリ(ベルト押圧部)
50 捻りコイルばね
51 コイル部
70 防振カラー(防振部材)
70a 吊下用孔(係止部)
71 カラー本体(防振部材本体)
72 摺動音低減体(摺動音低減部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有し、固定側に固定される固定部材と、
上記軸部上に該軸部の軸心回りに回動可能に外嵌合されたボス部と、ベルトを押圧するためのベルト押圧部とを有し、上記ボス部において上記固定部材により上記軸心回りに回動可能に支持された回動部材と、
上記固定部材と上記回動部材との間に介装され、該回動部材を上記ベルト押圧部がベルトを押圧する方向に回動付勢する捻りコイルばねとを備えたオートテンショナであって、 上記捻りコイルばねのコイル部に該コイル部を外周側から抱持する状態に嵌着された弾性変形可能な断面略円弧状の防振部材を備えていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
請求項1に記載のオートテンショナにおいて、
防振部材における周方向両端部は、それぞれ、半径方向外方側に反り返っていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項3】
請求項2に記載のオートテンショナにおいて、
防振部材は、断面略円弧状をなす導電性の金属板と、該金属板の表面に形成された電着塗装層とを有することを特徴とするオートテンショナ。
【請求項4】
請求項3に記載のオートテンショナにおいて、
防振部材の金属板は、電着塗装層の形成時に該金属板を吊り下げるための係止部を有することを特徴とするオートテンショナ。
【請求項5】
請求項1に記載のオートテンショナにおいて、
捩りコイルばねのコイル部における防振部材との接触部および防振部材における捩りコイルばねのコイル部との接触部のうちの何れか一方は、コイル部および防振部材の相対摺動に伴う摺動音の発生を抑える摺動音低減部とされていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項6】
請求項5に記載のオートテンショナにおいて、
摺動音低減部は、防振部材における捩りコイルばねのコイル部との接触部であり、
上記防振部材は、防振部材本体と、上記防振部材本体の内周側に脱着可能に保持され、上記摺動音低減部を形成する摺動音低減体とを有することを特徴とするオートテンショナ。
【請求項7】
請求項6に記載のオートテンショナにおいて、
摺動音低減体の周方向長さは、防振部材本体の周方向長さよりも大きく、
上記摺動音低減体の周方向両端は、該摺動音低減体が防振部材本体に保持されるようにそれぞれ半径方向外方側に折り曲げられていることを特徴とするオートテンショナ。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−170435(P2006−170435A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337659(P2005−337659)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】