説明

カセット式基板搬送装置及びこれを用いた基板の処理方法

【課題】基板を、大気に接触させずに真空状態のまま処理装置間で搬送することができ、フラットパネルディスプレイ製造工程の自動化と性能向上とを可能とするカセット式基板搬送装置及びこれを用いた基板の処理方法を提供する。
【解決手段】基板Pが収納される気密構造のカセット本体10の前面フランジ部12に、その開口部11を封止するスライド式のシャッタープレート16を設け、マグネット式18の密着手段17により密着させる。処理装置の開口部6には、カセット本体10の前面フランジ部12が気密に装着されるロック手段と、シャッタープレート16を引き込む戸袋部20と、シャッタープレート16の開閉手段21を設ける。カセット本体10の内部に基板Pを収納して真空状態を維持したままで複数の処理装置間を搬送し、各処理装置においてシャッタープレート16を開いて基板Pをロボットハンドにより取り出し、処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ等の製造工程において、基板を真空中で取り扱うために用いられるカセット式基板搬送装置及びこれを用いた基板の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイは、ガラスその他の基板の表面に、陽極、EL膜、陰極等を含む多数の層を形成することによって製造されるが、製造工程中は封止完了までに大気と接触させないことが必要とされている。
【0003】
しかし、有機ELディスプレイの製造に必要な多数の処理を、真空中で行うことは容易ではない。すなわち、真空中で基板を扱うためには、特許文献1に示されるようにグローブボックスを用い、厚いゴム手袋を通して基板を取り扱うのが普通である。しかし、精密なハンドリングは困難である。
【0004】
また単一の工程であれば単一のグローブボックス内での処理は容易であるものの、製造に必要な工程数が増加すると、単一のグローブボックス内で処理することは困難となる。このため基板を他の処理装置に搬送しなければならず、その際に基板が大気に接して性能が劣化してしまう可能性がある。このように、多数の処理工程が必要な基板を、大気に接触させずに処理装置間で搬送できる技術は、未だ確立されていない。
【特許文献1】特開2003−173871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、多数の処理工程が必要な基板を、大気に接触させずに真空状態のまま処理装置間で搬送することができ、フラットパネルディスプレイ製造工程の自動化と性能向上とを可能とするカセット式基板搬送装置及びこれを用いた基板の処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明のカセット式基板搬送装置は、基板が収納される気密構造の移動用カセットであって、そのカセット本体の前面フランジ部に、カセット本体の開口部を封止するスライド式のシャッタープレートと、このシャッタープレートをカセット本体の前面に密着保持させる密着手段とを設けるとともに、処理装置の開口部にはカセット本体の前面フランジ部が気密に装着されるロック手段と、前記シャッタープレートを引き込む戸袋部と、シャッタープレートの開閉手段とを設けたことを特徴とするものである。
【0007】
なお、シャッタープレートの密着手段が、マグネットの吸着力を利用したものであることが好ましく、シャッタープレートの開閉手段が、蛇腹の内部にシャッタープレートと係合させてスライドさせるフックバーを設け、その端部を外部に露出させた構造のものであることが好ましい。
【0008】
また本発明の基板の処理方法は、上記したカセット式基板搬送装置を使用し、カセット本体の内部に基板を収納して真空状態を維持したままで複数の処理装置間を搬送し、各処理装置においてはシャッタープレートを開いてカセット本体の内部から基板をロボットハンドにより取り出し、必要な処理を順次行うことを特徴とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカセット式基板搬送装置は、基板が収納されたカセット本体の前面フランジ部を処理装置の開口部にロック手段によって気密に接合したうえ、カセット本体の開口部を封止しているシャッタープレートを外部から操作して戸袋部にスライドさせ、処理装置とカセット本体とを連通させることができる。
【0010】
このように処理装置とカセット本体とを連通させれば、処理装置の内部に設置されたロボットハンドのような自動搬送手段によってカセット本体内部から基板を取り出し、処理することができる。また処理後は基板を再びカセット本体内部に戻し、シャッタープレートをスライドさせて閉じたうえ、密着手段によってシャッタープレートをカセット本体の開口部に密着させれば、カセット本体を完全に気密シールすることができるから、この状態で基板を他の処理装置に搬送することができる。
【0011】
従って本発明によれば、多数の処理工程が必要なフラットパネルディスプレイ製造用の基板を、大気に接触させずに真空状態のまま、且つ電気や計装の配線無しで処理装置間で搬送することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明の実施形態を示す平面図、図2はその正面図である。1はスクリーン室2と乾燥室3とを備えた処理装置であって、ロボットハンド4を備えた搬入搬出室5の一面に、基板を搬入・搬出するための開口部6が形成されている。なお、各室間の接続部及び開口部6にはそれぞれシリンダ式の開閉扉7が設けられており、開閉扉7を下方にスライドさせることによって、各室間を連通させることができるようになっている。搬入搬出室5の開口部6には図3に示されるようにカセット本体10が装着される。
【0013】
図4は開口部6にカセット本体10が装着された状態を示す水平断面図、図5は図4の正面図である。これらの図に示すように、カセット本体10は内部に基板Pが収納される気密構造のボックスである。この実施形態ではカセット本体10は偏平な直方体状であり、その前側のみに基板Pを出し入れするための開口部11が形成されている。基板Pは例えば適宜構造のラックに多段に支持された状態で、カセット本体10の内部に収納される。基板Pは例えば有機EL用のガラス基板である。
【0014】
カセット本体10の開口部11の周囲には、前面フランジ部12が形成されている。一方、処理装置1の開口部6には、図4に示すようにカセット本体10の前面フランジ部12を気密に装着するためのロック手段が設けられている。このロック手段は開口部6の外周部にねじ込まれるロックボルト13と、このロックボルト13により締め付けられるL型のロック片14とを備えている。そこでカセット本体10の前面フランジ部12を処理装置1の開口部6に当てたうえ、ロックボルト13をねじ込んでロック片14により前面フランジ部12を押圧すれば、開口部6の周囲に設けられたOリング15によって、処理装置1の開口部6とカセット本体10の前面フランジ部12とを気密にシールすることができる。
【0015】
またこの前面フランジ部12には、カセット本体10の開口部11を封止するためのスライド式のシャッタープレート16と、このシャッタープレート16をカセット本体10の前面フランジ部12に密着保持させる密着手段17とが設けられている。密着手段17は図5に示されるように開口部11の周囲に配置された多数のマグネット18からなり、シャッタープレート16を全周にわたってマグネット18によって強く吸着し、カセット本体10の開口部11を気密に封止する。このためにはシャッタープレート16を磁石に吸着されるステンレス鋼板製としておくことが好ましい。
【0016】
このシャッタープレート16の密着手段17は、カセット本体10を処理装置1から取り外し、別の処理装置に搬送する間に、カセット本体10の内部を真空に保つ役割を持つものである。しかしカセット本体10を処理装置1に装着したときには、外部からシャッタープレート16の吸着を解いてシャッタープレート16を開くことができるようにしておかねばならない。
【0017】
そこでこの実施形態では、図6、図7に示すように前面フランジ部12に内蔵させたマグネットスイッチを使用している。これは各マグネット18を外部操作レバー19によって前面フランジ部12の内部でスライドできるようにしたもので、図6のように各マグネット18をシャッタープレート16に接近させた状態では吸着力が働くが、図7のように外部操作レバー19によって各マグネット18をシャッタープレート16から遠ざければ、吸着力が小さくなる現象を利用したものである。しかしマグネットスイッチの構造はこれに限定されるものではなく、市販の回転式マグネットスイッチを利用してもよいことはいうまでもない。
【0018】
このように、カセット本体10の前面フランジ部12を処理装置1の開口部6に装着し、密着手段17によるシャッタープレート16を解けば、シャッタープレート16はスライド可能な状態となるが、シャッタープレート16は真空中にあるため、これを外部からスライドさせ開閉するための手段が必要である。
【0019】
そこで、処理装置1の開口部6の側方にはシャッタープレート16のための戸袋部20が突設されており、シャッタープレート16を上下のガイドレールに沿ってスライドさせることができるようになっている。この戸袋部20の内部も当然に外気から遮断された状態にあるが、戸袋部20には外部からシャッタープレート16を動かせる開閉手段21を設けてある。
【0020】
この実施形態では、開閉手段21として戸袋部20の端部に蛇腹22を設け、その内部にフックバー23を設けてその後端部24を蛇腹22の端部から外部に露出させた構造を採用している。フックバー23の先端部25は下向きに屈曲させてあり、シャッタープレート16のカセット本体10とは反対側の表面には、フックバー23の先端部25を装入するための孔26が適宜ピッチで複数個形成された板27が固定されている。
【0021】
そこで図8〜図9のように、フックバー23の後端部24を手で掴んで先端部25を孔26に引っ掛け、長手方向に動かす操作を繰り返すことによって、シャッタープレート16を小刻みにスライドさせ、戸袋部20の内部にまでスライドさせたり、また元に戻したりすることができる。なお、このような小刻みなスライド方式を採用したのは、蛇腹22の伸縮ストロークを小さくし、その耐久性を確保するためである。図10と図11に全開状態を示す。
【0022】
このように、カセット本体10を処理装置1の開口部6に気密に取り付けた状態とし、マグネットスイッチを操作してシャッタープレート16の吸着を解き、開閉手段21操作してシャッタープレート16を戸袋部20の内部にスライドさせてカセット本体10の開口部11を全開すれば、処理装置1の搬入搬出室5の内部に設けたロボットハンド4によって、カセット本体10の内部から基板Pを搬入搬出室5の内部に取り出すことができ、この間に基板Pが外気と接触することはない。
【0023】
上記のように構成された本発明のカセット式基板搬送装置を用いて基板Pの搬送を行う手順は、次の通りである。
先ず、基板Pが真空状態で収納されたカセット本体10を、処理装置1まで搬送する。このときカセット本体10の開口部11はシャッタープレート16により封鎖され、密着手段17がシャッタープレート16を強く吸着しているので、カセット本体10の内部は真空に保たれる。
【0024】
次にカセット本体10の前面フランジ部12を処理装置1の開口部6にロック手段によって固定する。この状態で密着手段17によるシャッタープレート16の吸着を解放し、開閉手段21操作してシャッタープレート16を戸袋部20の内部にスライドさせてカセット本体10の開口部11を全開させる。そして処理装置1の開口部6に設けられたシリンダ式の開閉扉7を下方にスライドさせて開き、処理装置1の搬入搬出室5の内部とカセット本体10の内部とを連通させる。
【0025】
次にロボットハンド4によって、カセット本体10の内部から基板Pを搬入搬出室5の内部に取り出し、さらに基板Pをスクリーン室2に搬送して必要な塗装・印刷処理を施す。次に基板Pをスクリーン室2から取り出して乾燥室3に搬送し、乾燥処理を行う。その後基板Pは再び搬入搬出室5に戻す。なおここでは代表的な処理工程について説明したが、最初に記載したように、有機ELディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイの製造には、基板の表面に多数の層を形成する必要があるため、処理装置1の処理内容は様々である。
【0026】
処理装置1における処理が完了した基板Pはロボットハンド4によってカセット本体10の内部に戻され、シリンダ式の開閉扉7を閉じて理装置1の搬入搬出室5の内部とカセット本体10の内部とを遮断する。さらに前記と逆の操作によりシャッタープレート16を戸袋部20の内部からスライドさせ、カセット本体10の開口部11をシャッタープレート16により封鎖し、密着手段17によってシャッタープレート16を強く吸着させる。その後、ロック手段を解放してカセット本体10を処理装置1から取り外し、別の処理装置に搬送して次の処理を行う。
【0027】
このように本発明によれば、カセット本体10の内部に基板Pを収納して真空状態を維持したままで複数の処理装置間を搬送し、各処理装置においてカセット本体10の内部から基板Pをロボットハンド4により取り出し、必要な処理を行ったうえで再びカセット本体10の内部に収納して搬送する工程を順次実施することが可能となる。従って、多数の処理工程が必要な基板Pを、大気に接触させずに真空状態のまま処理装置1、1間で搬送することができ、フラットパネルディスプレイ製造工程の自動化と性能向上とを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】搬入搬出室の開口部にカセット本体を装着する状態を示す平面図である。
【図4】開口部にカセット本体が装着された状態を示す水平断面図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】マグネットスイッチの吸着状態を示す説明図である。
【図7】マグネットスイッチの解放状態を示す説明図である。
【図8】フックバーの操作を示す正面図である。
【図9】フックバーの操作を示す正面図である。
【図10】シャッタープレートの全開状態を示す正面図である。
【図11】シャッタープレートの全開状態を示す処理装置の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 処理装置
2 スクリーン室
3 乾燥室
4 ロボットハンド
5 搬入搬出室
6 開口部
7 開閉扉
10 カセット本体
11 開口部
12 前面フランジ部
13 ロックボルト
14 ロック片
15 Oリング
16 シャッタープレート
17 密着手段
18 マグネット
19 外部操作レバー
20 戸袋部
21 開閉手段
22 蛇腹
23 フックバー
24 後端部
25 先端部
26 孔
27 板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が収納される気密構造の移動用カセットであって、そのカセット本体の前面フランジ部に、カセット本体の開口部を封止するスライド式のシャッタープレートと、このシャッタープレートをカセット本体の前面に密着保持させる密着手段とを設けるとともに、処理装置の開口部にはカセット本体の前面フランジ部が気密に装着されるロック手段と、前記シャッタープレートを引き込む戸袋部と、シャッタープレートの開閉手段とを設けたことを特徴とするカセット式基板搬送装置。
【請求項2】
シャッタープレートの密着手段が、マグネットの吸着力を利用したものであることを特徴とする請求項1記載のカセット式基板搬送装置。
【請求項3】
シャッタープレートの開閉手段が、蛇腹の内部にシャッタープレートと係合させてスライドさせるフックバーを設け、その端部を外部に露出させた構造のものであることを特徴とする請求項1記載のカセット式基板搬送装置。
【請求項4】
請求項1記載のカセット式基板搬送装置を使用し、カセット本体の内部に基板を収納して真空状態を維持したままで複数の処理装置間を搬送し、各処理装置においてはシャッタープレートを開いてカセット本体の内部から基板をロボットハンドにより取り出し、必要な処理を順次行うことを特徴とする基板の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−66656(P2008−66656A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245684(P2006−245684)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】