説明

カチオン性界面活性剤の酸蝕症から保護するための使用

本発明は、エチル−Nα−ラウロイル−L−アルギネートHCl(LAE)を含有する組成物の口腔および歯を保護するための使用、対応する組成物、および、対応する歯の保護方法に関する。酸蝕症がほぼ流行しているので、酸蝕症から保護するための改良品が引き続いて必要とされている。従って、本発明の目的は、歯を酸蝕症から保護することにある。驚くべきことに、エチル−Nα−ラウロイル−L−アルギネートHCl(LAE)およびその塩が歯に付着して、特にチューインガムおよびロゼンジ組成物などの食品および飲料に含まれる酸の作用に起因する侵蝕から歯を保護することを見出した。本発明の格別な効果は、(a)歯をLAEおよびその類似物で持続的にコーティングすること;(b)コーティング剤が持続的に塩基を生成することにより、歯垢の酸を中和する起源を提供すること;これはLAE中のアルギニンが口腔内常在菌により分解されてアンモニアを生成するからである;それゆえ、この化学は、コーティングにより保護するだけでなく、持続的な方式で塩基を発生させてpHバランスを維持する;および(c)研磨剤入りの洗浄剤を用いた歯磨きを回避できることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有するカチオン性界面活性剤の歯および口腔を保護するための使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸蝕症、すなわち歯牙侵蝕は、歯牙構造の欠損である。基本的には、酸蝕症とは、歯の硬い部分、いわゆるエナメル質の侵蝕を意味する。酸蝕症は、炭酸飲料、果汁および高酸性食品の摂取に起因する。食品および飲料に含まれる酸は、歯のエナメル質を侵蝕して酸蝕症(過敏症、変色、円形歯、亀裂、重篤な過敏症または陥凹)に至らしめる。
【0003】
歯の無機質を恒久的に損失させる(酸蝕症の)他の原因は、化学物質の作用、研磨剤入りの洗浄剤を用いた歯磨き、あるいは、嘔吐または反射の過程で胃酸が逆流して歯と接触するような摂食障害である。
【0004】
通常、唾液に含まれるカルシウムは、少量の酸を摂取した後における歯の再石灰化の正常な過程に役立つ。しかしながら、口腔内に多量の酸が存在すると、置換するより早く歯からカルシウムを除去して酸蝕症に至らしめる。
【0005】
酸蝕症の罹患率および重篤度は、酸性飲料および果汁の摂取が増加するにつれて上昇する。酸性飲料のpHおよび滴定酸度は、酸蝕症の発症および進行における主な原因として確認されている。飲料中における酸の濃度が高ければ高いほど、それが歯に与える損傷の程度が高くなる(非特許文献1)。
【0006】
従って、歯の侵蝕効果を防止するために、酸性食品および飲料を改良する方法が開示されている(特許文献1、2)。これらの特許権者は、口腔摂取用の酸性組成物にカルシウム化合物を添加することにより、酸蝕症を減少させる方法を提供している。
【0007】
他の従来技術では、エナメル質の溶解度を減少させる歯磨き剤の成分を用いている。特許文献3では、合成アミノカルボン酸の実質的に水不溶性の非イオン化キレート剤として第一スズ形態のスズを含有する新規な歯磨き剤(すなわち、洗口液、練り歯磨き、歯磨き粉およびチューインガム)を開発することにより、この目的を達成している。
【0008】
練り歯磨きそれ自体は、研磨剤入り洗浄剤を含有している場合には、酸蝕症の原因の一つである。
【0009】
他の方法は、微生物増殖の副産物である歯垢の形成から歯を保護することに着目している(特許文献4、5、6および7)。歯に歯垢が形成することに関連する問題としては、歯垢が蓄積する傾向にあること、また、歯肉炎、歯周炎、虫歯、口臭および歯石を発生させることである。歯垢は歯の表面に強固に付着するので、厳しい歯磨き管理によっても除去することは困難であり、最終的に酸蝕症それ自体を引き起こす。上記の文献には、カチオン性界面活性剤を用いて歯垢の形成を減少または防止する口腔用組成物が記載されており、その一例はエチルラウロイルアルギニン塩酸塩(LAE)であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,383,473号明細書
【特許文献2】米国特許第6,319,490号明細書
【特許文献3】米国特許第3,914,404号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0031551号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0193791号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0014740号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2007/0140990号明細書
【特許文献8】国際公開第03/034842号パンフレット
【特許文献9】国際公開第03/013453号パンフレット
【特許文献10】国際公開第03/013454号パンフレット
【特許文献11】国際公開第03/043593号パンフレット
【特許文献12】スペイン特許第512643号明細書
【特許文献13】国際公開第96/021642号パンフレット
【特許文献14】国際公開第01/094292号パンフレット
【特許文献15】国際公開第03/064669号パンフレット
【特許文献16】米国特許第3,870,790号明細書
【特許文献17】米国特許第4,226,849号明細書
【特許文献18】米国特許第4,357,469号明細書
【特許文献19】国際公開第2007/014580号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ルッシ(Lussi),カリエス・リサーチ(Caries Res.),1995年,第29巻,p.349−354
【非特許文献2】グランツ・ピー・オー(Glantz PO)(1981年、口腔内における表面相互作用の基礎および応用(Fundametals and application of surface interactionsin the oral cavity)(エス・エイ・リーチ(S.A.Leach)編)における「口腔内における付着(Adhesion in the oral cavity)」、p.49−64、インフォーメーション・リトリーバル・リミテッド(Information Retrieval Ltd.)、ロンドン)
【非特許文献3】米国連邦政府官報(Federal Register)43433、第61巻、第165号、1996年
【非特許文献4】グッゲンハイム(Guggenheim)ら、ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ(J.Dent.Res.),2001年,第80巻,第1号,p.363−370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
酸蝕症がほぼ流行しているので、酸蝕症から保護するための改良品が引き続いて必要とされている。従って、本発明の目的は、歯を酸蝕症から保護することにある。
【0013】
本発明の目的は、抗菌性を有する特定のカチオン性界面活性剤を用いることにより解決される。これらの製品は、好ましくは、スウィーツ、キャンディー、タブレット、ロゼンジ(lozenges)、ロリーズ(lollies)、チューズ(chews)、ゼリー、ガム、ドロップ、および、例えば、水に溶解することを意図した粉末飲料などの乾燥粉末混合物などの口腔内で摂取される製品として用いられる。
【0014】
カチオン性界面活性剤は、食品、化粧品および医薬品業界で用いられる保存料として公知である。カチオン性界面活性剤は、微生物の増殖に対して非常に効果的であると共に、一般的にヒトおよび哺乳動物が摂取しても安全であることが判明している。このような理由から、カチオン性界面活性剤は、上記の業界で魅力的な手段である。
【0015】
脂肪酸とエステル化された二塩基アミノ酸との縮合から得られるカチオン性界面活性剤であり、下記式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
[式中、Xは、有機酸または無機酸に由来する対イオン、好ましくはBr、ClまたはHSO;Rは、アミド結合によりα−アミノ基に連結した炭素数8〜14の飽和脂肪酸またはヒドロキシ酸の直鎖アルキル基;Rは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキル基、あるいは、芳香族基;Rは、
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】


または
【0020】
【化4】

【0021】

nは0〜4である]
で示されるカチオン性界面活性剤が微生物に対する非常に有効な保護物質であることが実証された。
【0022】
対イオンXの起源となる有機酸としては、例えば、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸、プロピオン酸、ソルビン酸、安息香酸、炭酸、グルタミン酸または他のアミノ酸、ラウリル酸、ならびに、オレイン酸およびリノール酸などの脂肪酸類が挙げられるのに対し、無機酸としては、例えば、リン酸、硝酸およびチオシアン酸が挙げられる。
【0023】
アニオンXの起源となるフェノール化合物としては、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)および関連するブチル化ヒドロキシトルエン、t−ブチルヒドロキノン、ならびに、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベンなどのパラベン類が挙げられる。
【0024】
上記のようなカチオン性界面活性剤のうち、最も好ましい化合物は、アルギニン一塩酸塩のラウリルアミドのエチルエステルである。以下、LAE(CAS番号60372−77−2)という。この物質は、現在、その抗菌剤としての用途が公知である。実用上、LAEは、ヒトに対して良好な耐容性を示すと共に非常に低い毒性しか示さないことが判明している。LAEは、下記式(2)で示される化学構造を有する。
【0025】
【化5】

【0026】
化合物LAEは、食品(特許文献8)や化粧品(特許文献9、10および11)中に存在することがある細菌類、カビ類および酵母類のような様々な微生物に対して、顕著な活性を示す。
【0027】
カチオン性界面活性剤の一般的な調製物は、特許文献12、13、14および15に記載されている。
【0028】
LAEは、ラウリックアルギネート(lauric arginate)としても知られており、ラボラトリオス・ミレ(Laboratorios Miret)、エス・ア(ラミルザ、スペイン)により製造されている。ラウリックアルギネートは、FDA(米国食品医薬品局)により、GRAS(一般に安全と認められる)物質であるとして、GRN 000164で、リストに掲載されている。USDA(米国農務省)は、獣肉や家禽肉への使用を承認している。
【0029】
上記式(2)で示されるカチオン性界面活性剤のラットでの代謝が研究されている。これらの研究によれば、急速に吸収され、天然に存在するアミノ酸および脂肪酸であるラウリル酸に代謝され、最終的には、二酸化炭素および尿素として排出される。毒物学的な研究によれば、LAEは動物およびヒトに対して完全に無害であることが実証されている。
【0030】
それゆえ、LAEおよび関連化合物は、すべての生鮮食品の保存に用いるのに特に適している。LAEおよび関連化合物は、化粧品に用いるのにも同様に適している。
【0031】
すでに述べたように、上記カチオン性界面活性剤は、細菌類、カビ類および酵母類などの様々な微生物の増殖に対する顕著な阻害作用を有する。LAEの最小阻止濃度を下記の表1に示す。
【0032】
【表1】

【課題を解決するための手段】
【0033】
驚くべきことに、エチルNα−ラウロイル−L−アルギネートHCl(LAE)などのカチオン性界面活性剤およびその塩が歯に付着し、特に、スウィーツ、キャンディー、タブレット、ロゼンジ、ロリーズ、チューズ、ゼリー、ガム、ドロップ、および、溶解することを意図した粉末飲料などの乾燥粉末混合物などの食品および飲料に含まれる酸の作用に起因する侵蝕から歯を保護することが見い出された。本発明は、カチオン性界面活性剤(具体的には、LAE)を用いた上記の食品および飲料の処方物を提供する。これらの処方物は、以下のような驚くべき効果を示す:(a)LAEおよびその類似物などのカチオン性界面活性剤による歯の持続的なコーティング;これは、LAEなどのカチオン性界面活性剤の存在により生じる抗菌効果と共に、歯に損傷を与える原因となる微生物に対する抗付着効果を意味する;および(b)コーティング剤は、持続的に塩基を生成することにより、歯垢の酸を中和する起源を提供する;これは、本発明により用いたLAE中のアルギニンまたは他のカチオン性界面活性剤中の対応する二塩基アミノ酸が口腔常在菌により分解されてアンモニアを生成するからである;かくして、この化学は、コーティングによる保護を提供するだけでなく、持続的な方式で塩基を生成してpHバランスを維持する;および、その使用は(c)研磨剤入りの洗浄剤を用いた歯磨きの回避を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の特別な特徴および独特の態様は、以下の詳細な説明から当業者に明白となる。
【0035】
本発明の組成物は、好ましくは、チューインガムまたはロゼンジの形態であるが、他の口腔摂取品の形態であってもよい。チューインガムは、主成分としてガムベースマトリクスを含有する。ガムベースマトリクスとしては、例えば、当該技術分野で公知の多数の水や唾液に溶解しないガム材料から選択されるガムベース材料が挙げられる。適当なポリマーガムベースの具体例としては、例えば、合成および天然のエラストマーおよびゴム、ならびにその混合物が挙げられる。例えば、チクル、ジェルトン(jelutong)、ガッタパーチャ(gutta percha)およびクラウンガム(crown gum)などの植物起源の物質を用いることが可能である。ブタジエン−スチレンコポリマー、イソブチレン−イソプレンコポリマー、ポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリ酢酸ビニルなどのポリエステル、および、前記いずれかの混合物などの合成エラストマーは、特に有用である。
【0036】
チューインガムの好ましい実施態様は、口腔環境において、LAEおよび香味成分を制御して放出する。活性成分の持続的な放出を制御するための公知の徐放性送達システムとしては、例えば、ワックス・マトリクス・システム(wax matrix system)、「微小浸透圧ポンプシステム(miniature osmotic pump system)」およびフォレスト・シンクロン薬物送達システム(Forest Synchron Drug Delivery System)が挙げられる。
【0037】
ワックス・マトリクス・システムは、活性成分LAEおよび香味料をワックスバインダーに分散させたものである。ワックスバインダーがゆっくり唾液に溶解して、LAEおよび香味料を徐々に放出する。このシステムでは、活性成分がポリマーコーティング中にカプセル化されており、ポリマーコーティングがpHまたは酵素に応じて変化する溶解度を有するので、活性成分の放出が制御される。
【0038】
「微小浸透圧ポンプシステム」では、活性成分が半透膜でコーティングされている。ポンプは、水溶性のLAEが半透膜に開けられた穴から放出される際に作用する。
【0039】
好ましい徐放性チューインガムおよびロレンジシステムは、フォレスト・シンクロン薬物送達システムである。このシステムでは、活性成分LAEは、マトリクスとして、コヒーレントなネットワーク(coherent network)を形成する水膨潤性の変性セルロース粉末または繊維の塊全体に香味剤と共に均一かつ均質に分散している。繊維状または粉末状の塊および活性成分LAEと、香味料、バインダー、滑剤および加工助剤などの任意の添加物との混合物を、使用前に、チューインガムスティック、ペレットまたはロレンジに圧縮成形する。この送達システムは、唾液環境に曝露された場合には、歯をコーティングして酸蝕症から保護するために、口腔内に活性成分LAEを放出する。フォレスト・シンクロン薬物送達システムのさらなる詳細については、フォレスト・ラボラトリーズ(Forest Laboratories)に譲渡された特許文献16、17および18に開示されている。これらの特許文献は、その内容を本明細書に援用する。
【0040】
また、ガムベースマトリクスは、ガムベースの粘度を所望の硬さまで低下させるのに役立つと共に全体の質感および噛み心地を向上させる可塑剤および軟化剤よりなる群から選択される当該技術分野で公知の他の成分を含有していてもよい。これらの化合物は、それらの乳化性についても知られている。非限定的な例としては、例えば、レシチン、モノ−およびジ−グリセリド、ラノリン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、グリセロールトリアセテートおよびグリセリンなどの化合物が挙げられる。ステアリン酸、レシチン、モノ−およびジ−グリセリドが特に好ましい。
【0041】
ビーズワックス(beeswax;蜜蝋)および微結晶ワックスなどのワックス、大豆および綿の実などの起源に由来の油脂をガムベース処方物の一部として添加してもよい。これらの化合物は、ガムベースに対する軟化剤としても作用する。典型的には、これらの化合物は、単独または組み合わせて、ガムベースマトリクスの0質量%〜25質量%で含有される。より好ましくは、これらの化合物は、ガムベースマトリクスの約5質量%〜約25質量%で含有される。特に望ましい処方物は、微結晶ワックスおよび部分水素化大豆油の組合せを約1:2の質量比で含有する。
【0042】
本発明のチューインガム処方物は、ソルビトール、キシリトール、スクラロース、チクロ、グリシルリジンなどから選択されるバルク甘味料を含有することができるが、これらに限定されるものではない。ソルビトールおよびキシリトールが、単独または組み合わせて、特に好ましい。
【0043】
甘味料に加えて、本発明の組成物は、1種またはそれ以上の香味料を含有する。香味剤としては、例えば、この業界で利用可能な天然および合成の食品用および医薬用の香味料のいずれかが挙げられる。特に好ましいのは、ガムを噛むことにより、摂取した人に、向上した口中感として清涼感および/または冷涼感を与える材料である。非限定的な例としては、例えば、ペパーミント、スペアミント、ウィンターグリーン、シナモンおよびメントールが望ましい。典型的な香味料および清涼剤は、チューインガム組成物の0質量%〜10質量%、より好ましくは0.1質量%〜0.5質量%で含有される。
【0044】
活性成分であるLAEは、カプセル化された形態であってもよい(特許文献19)。香味料と共にカプセル化されたLAEは、最終的な処方物の均一性を高めることができる。カプセル化すれば、市販品を長期間保存する間におけるLAEおよび香味料の安定性が増大する。カプセル化材料は、より持続的な方式でLAEおよび香味料の溶解を制御することもできる。カプセル化は、当該技術分野で公知の方法により行えばよい。チューインガムは食品であるとみなされるので、カプセル化には、食品グレードの材料を用いることが望ましい。これらの材料としては、例えば、食用油性物質(油脂)、サッカリド・タンパク質および他の非毒性ポリマー材料が挙げられる。好ましいカプセル化材料は、ステアリン、キャノーラ油、綿実油および大豆油などのモノ−およびジ−グリセリド脂肪製品である。
【0045】
この種の用途において、さらにLAEと組み合わせてもよい化合物は、ポリソルベートなどの高HLB値(すなわち、親水性/親油性(疎水性)のバランス)を有する物質であり、ソルビタンモノラウレートが好ましい。
【実施例】
【0046】
LAEなどのカチオン性界面活性剤を用いて処方した口腔摂取品の例として、チューインガムの処方物およびロゼンジの処方物を用いた。これらの組成物は、酸蝕症に対するLAEの驚くべき効果を示すために用いる実施例である。
【0047】
チューインガム
処方 含有量(質量%)
ガムベース(天然または合成のエラストマー充填剤、 20〜30%
すなわちアラビアガムおよびソルビトール)
ソルビトール 10〜20%
LAE 0.001〜2%
可塑剤 0.1〜1.5%
香味料 0.1〜2.5%
甘味料 適量 100%
ロゼンジ
処方 含有量(質量%)
保湿剤 75〜85%
非イオン性界面活性剤 1〜20%
LAE 0.1〜1.5%
錠剤化用の滑剤 0.1〜5%
甘味料 0.2〜2%
ソルビトール 0.1〜2.5%
LAEによる歯牙コーティング効果の検証
LAEによる歯牙コーティング効果は、非特許文献2に記載された方法により検証された。この方法では、様々な極性を有する液体の液滴の接触角を測定し、LAEでコーティングされた歯の表面エネルギーの極性成分(γp)および分散成分を求める。LAEを用いなかった場合には、表面エネルギーは、23dyn/cmであった。表面エネルギーの低下は、歯の表面がLAEで濡れている(コーティングされている)ことを示す。表2に示すように、0.0001%のLAEは、表面エネルギーを低下させた。このことは、歯の表面が強くコーティングされていることを示す。LAEの存在下では、表面エネルギーは、11.5dyn/cmの最低レベルまで低下した。このコーティングは、食品および飲料中に含まれる酸に起因する酸蝕症に対する歯の遮蔽効果を提供する。
【0048】
ヒトにおける糖リンスにより生じる酸に対するLAEの効果
糖分を含有する飲料および食品が酸蝕症を促進することは確立されている。米国歯科医師会(American Dental Association;ADA)の食物および栄養プログラムは、食品および飲料を摂取した後に口中のpHを評価する方法を推奨している。これは、非特許文献3に発表されたFDAガイドラインに要約されている。この方法では、香味料、甘味料、可塑剤(チューインガムの成分)を含有する溶液をプラセボとして、0.16%LAEによる処置の有無にかかわらず、被験者(1グループあたり6人の被験者)に10%ショ糖リンスを与えた後に歯と歯垢との界面におけるpHを測定して酸を中和する効果を評価する。表5に示すデータは、プラセボの存在下では、歯界面のpHが、連続してモニターした3日目および7日目に、4.3±0.2(危険ゾーンはpH5以下)であることを示した。これに対し、LAEでリンスした場合には、危険ゾーンより上であるpH5.4±0.3を、連続してモニターした3日間および7日間維持した。このことは、LAEが歯の表面をコーティングするだけでなく、歯の周辺を健康的なpHに維持して侵蝕を防止することを立証している。
【0049】
LAEと、香味料、界面活性剤および甘味料のような他の成分とを含有するLAE溶液(リンス)またはスラリーの有効性を調べた。
【0050】
一般に、1日あたり3分間未満だけ口腔ケア製品に簡単に曝露された場合には、歯垢の細菌が急速に再増殖することが観察されている。
【0051】
調べたモデル
バイオフィルムモデルは、抗菌薬のインビボでの有効性、ならびに、インビトロでバイオフィルムに曝露したエナメル質の脱灰および再石灰化を予測するための信頼できる手段である。
【0052】
実験は、チューリッヒ・バイオフィルム・モデル(Zuerich Biofilm Model)を用いて行った。バイオフィルムは、無刺激で分泌された保存唾液中で前処理したヒドロキシアパタイト(HA)またはウシのエネメル質ディスクのいずれかの上に形成される。バイオフィルムは、37℃で嫌気的にインキュベートした24ウェル細胞培養皿中に形成される。このモデルを調製するための詳細な説明は、非特許文献4に公表されている。このバイオフィルムの微生物組成は、5種類の細菌および1種類の酵母から構成されていた。具体的には、それらは以下のとおりである:ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)、アクチノミセス・ネスルンディ(Actinomyces naeslundii)、ベイロネラ・ディスパー(Veillonella dispar)およびフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum);調べた酵母は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)であった。このバイオフィルムモデルに導入するために選択された細菌は、歯肉縁上の歯垢中に観察される5種類であった。
【0053】
大抵のバイオフィルムモデルは、連続流動培養システムに基づいている。このことは、バイオフィルムが剪断力または脱着力を受けることを意味する。対照的に、これらの実験に用いたバイオフィルムモデルは、浸漬洗浄または軽度旋回の過程で当該力を断続的にだけ受けるバッチ培養システムに基づいていた。かくして、このバイオフィルムシステムによれば、口をすすぐ場合と同様になるように、物質に曝露される回数を制御できる。
【0054】
バイオフィルムは、2日間続けて1分間に6回だけLAEに曝露された。LAE効果の評価は、最後に曝露してから16時間後に調べられた。
【0055】
結果
1−LAEの存在による表面エネルギーの低下
エナメル質の表面エネルギーは、約23dyn/cmである。この表面エネルギーは、LAEの存在により下記の値まで低下する。
【0056】
【表2】

【0057】
LAEの存在により表面エネルギーが低下することは、歯垢形成の原因である微生物の歯に付着する能力が著しく低下することを意味する。
【0058】
2−5種類の細菌および1種類の酵母を有するバイオフィルム上でのLAEの抗菌活性
対照のバイオフィルムを用いて得られた結果を、0.5%LAEで処理されたバイオフィルムと比較した。
【0059】
下記の表における結果は、CFUのlog10として表した。
【0060】
【表3】

【0061】
これらの結果は、バイオフィルムにおけるLAEの抗菌効果の有効性を実証している。
【0062】
3−LAEに曝露した後のバイオフィルムの再増殖
この実験は、LAEに曝露したバイオフィルムに対して、対照のバイオフィルムにおける微生物の再増殖を比較した。各バイオフィルムにおける微生物の含有量を経時的に調べた。各分析点で、各給餌後、対照のバイオフィルムについては、生理食塩水溶液に浸漬する前後に、また、他のバイオフィルムについては、LAEに浸漬する前後に、微生物の増殖を調べた。
【0063】
これらの結果は、CFUのlog10として表す。
【0064】
【表4】

【0065】
4−pHを調整するLAEの効果
LAEにより生じる別の効果は、pH調整である。加水分解により、LAEはアルギニンを生成する。アルギニンは、ヒトの唾液中における天然のpH中和剤である。下記の表に、10%ショ糖リンス後、0日目から7日目までのLAE−対−プラセボによる口腔内pHを示す。
【0066】
【表5】

【0067】
これらの実験から、下記の画期的な特徴が認められる。
・LAEは、口腔内において長時間持続する保護効果を有する。
・LAEは、細菌類に対して抗付着剤として作用する。すなわち、口腔内にLAEが存在すると、酸蝕症の原因となる微生物のコロニー再形成を阻害する。かくして、LAEは、細菌類の付着を阻害する役割を果たす。これにより、歯および口腔に損傷を与える原因となる細菌類の数を減少させると共に、研磨剤入りの洗浄剤を用いた歯磨きを減少させることが可能になる。
・LAEは、それが加水分解されてアルギニンとなることによる中和効果を有し、これにより、pHバランスが維持される。
【0068】
これらの製品を摂取すれば、口腔内にLAEが放出され、酸蝕症から歯を保護し、かつ口腔を保護すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸とエステル化された二塩基アミノ酸との縮合から得られるカチオン性界面活性剤であり、下記式(1):
【化1】


[式中、Xは、有機酸または無機酸に由来する対イオン、好ましくはBr、ClまたはHSO、あるいは、フェノール化合物に基づくアニオン;Rは、アミド結合によりα−アミノ酸基に連結した炭素数8〜14の飽和脂肪酸またはヒドロキシ酸に由来する直鎖アルキル基;Rは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキル基、あるいは、芳香族基;Rは、
【化2】


【化3】


または
【化4】


nは0〜4である]
で示されるカチオン性界面活性剤の歯を酸蝕症から保護する保護手段としての使用。
【請求項2】
前記カチオン性界面活性剤が、スウィーツ、キャンディー、タブレット、ロゼンジ、ロリーズ、チューズ、ゼリー、ガム、ドロップ、または、溶解することを意図した粉末飲料向けの乾燥粉末混合物などの口腔用組成物の形態で用いられる請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記口腔用組成物がチューインガムまたはロゼンジである請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記化合物が、0.001質量%〜5質量%、好ましくは0.001質量%〜2質量%の濃度で、前記組成物中に存在する請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物を食べるか、噛むか、あるいは、飲むことによる請求項2〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記化合物がアルギニン塩酸塩のラウリルアミドのエチルエステル(LAE)である請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
脂肪酸とエステル化された二塩基アミノ酸との縮合から得られるカチオン性界面活性剤であり、下記式(1):
【化5】


[式中、Xは、有機酸または無機酸に由来する対イオン、好ましくはBr、ClまたはHSO、あるいは、フェノール化合物に基づくアニオン;Rは、アミド結合によりα−アミノ酸基に連結した炭素数8〜14の飽和脂肪酸またはヒドロキシ酸に由来する直鎖アルキル基;Rは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキル基、あるいは、芳香族基;Rは、
【化6】


【化7】


または
【化8】


nは0〜4である]
で示されるカチオン性界面活性剤を含有する、スウィーツ、キャンディー、タブレット、ロゼンジ、ロリーズ、チューズ、ゼリー、ガム、ドロップ、溶解することを意図した粉末飲料などの乾燥粉末混合物などの口腔用組成物。
【請求項8】
前記組成物がガムベース材料を含有する請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が合成および/または天然のエラストマーまたはゴムあるいはその混合物を含有する請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、チクル、ジェルトン、ガッタパーチャ、クラウンガム、ブタジエン−スチレンコポリマー、イソブチレン−イソプレンコポリマー、ポリエチレン、ポリイソブチレン、および/または、ポリ酢酸ビニルなどのポリエステルを含有する請求項7〜9の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項11】
前記化合物がワックスまたはワックスバインダーに分散されている請求項7〜10の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項12】
前記化合物がポリマーコーティングにカプセル化されている請求項7〜11の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項13】
前記化合物がマトリクスとしてコヒーレントなネットワークを形成する水膨潤性セルロースパウダーまたはファイバーの塊に分散されている請求項7〜12の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、レシチン、モノ−およびジ−グリセリド、ラノリン、ステアリン酸、ステアリン酸カリウム、グリセロールトリアセテートおよび/またはグリセリンなどの可塑剤および/または軟化剤よりなる群から選択される成分を含有するガムベースマトリクスを含有する請求項7〜13の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、ガムベースマトリクスに添加されたビーズワックスおよび微結晶ワックスなどのワックス、および/または、ガムベースマトリクスに添加された大豆油および綿実油などの油脂を含有する請求項7〜14の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項16】
前記ワックスおよび/または油脂が、ガムベースの50質量%まで、好ましくはガムベースの25質量%〜50質量%で含有される請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が微結晶ワックスおよび部分水素化大豆油の組合せを約1:2の質量比で含有する請求項7〜16の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、ソルビトール、キシリトール、スクラロース、チクロおよび/またはグリシルリジンから好適に選択されるバルク甘味料を含有する請求項7〜17の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、ペパーミント、スペアミント、ウィンターグリーン、シナモンおよび/またはメントールを含有する請求項7〜18の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、香味料および清涼剤を、前記組成物の0質量%〜10質量%の量で、より好ましくは0.1質量%〜0.5質量%の量で含有する請求項7〜19の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、カプセル化されたカチオン性化合物を含有し、前記カプセル化材料が、油脂、サッカリド・タンパク質、ステアリン、ならびに/あるいは、キャノーラ油、綿実油および/または大豆油などのモノ−およびジ−グリセリド脂肪製品のような食用油性物質を包含する請求項7〜20の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物がポリソルベートのような高HLB値を有する別の界面活性剤と組み合わせたカチオン性化合物を含有する請求項7〜21の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物がチューインガムまたはロゼンジである請求項7〜22の1項またはそれ以上に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が、前記カチオン性界面活性剤を、0.001質量%〜5質量%、好ましくは0.001質量%〜2質量%の量で含有する請求項7〜23の1項またはそれ以上に記載の組成物。

【公表番号】特表2011−511825(P2011−511825A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546323(P2010−546323)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051587
【国際公開番号】WO2009/101115
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(508030039)
【Fターム(参考)】