説明

カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤

【課題】COMTによるNEの代謝能力を高めることのできるCOMT活性化剤の提供。
【解決手段】次の一般式(1)


(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい低級ヒドロキシアルキル基を示し;R2は水素原子、低級アルキル基又は複素環基を示し;R3は水素原子又は低級アルキル基を示し;R4及びR5は同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示すか、或いはR4及びR5が結合する原子と一緒になって置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基又は複素環基を形成してもよく;R6は水素原子又は低級アルキル基を示し;A1は酸素原子又はN−R7;A2は炭素原子又は窒素原子を示し;破線は単結合又は二重結合を示す)で表される化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビシクロ化合物、含窒素五員環化合物等を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病(糖尿病)に起因する腎不全患者数は年々増加を続けており、既に従来の慢性腎炎を起因とする患者数を上回っている。我が国における慢性腎不全(CKD)発症者は1300万人と見積もられ、透析医療費は総医療費(33兆円)の5%にまで拡大し(非特許文献1)、病態進展による透析への移行は、社会的に大きな問題となっている。
【0003】
CKD患者に代表される腎機能障害患者では交感神経系が亢進し、血中ノルエピネフリン(NE)濃度が上昇していることは古くから知られている(非特許文献2,3)。大規模な疫学的研究により、末期腎不全患者の透析導入開始から36ヶ月後生存率は、透析導入時の血中NE濃度が5.57nmol/Lを越える群で45%、越えない群で75%であると報告されている(非特許文献4)。また、透析患者の死因の多くは感染症と心血管病変(CVD、特に心不全)によるものであるが、血中NE濃度は特にCVDによる死亡と強く相関している。すなわち交感神経の亢進は、腎機能障害の進行・増悪のみならず、CVDにも関連していると考えられる。
かつて、腎機能障害者の血中NEが高い理由は、腎機能が低下しているためと考えられていたが、今日ではNEの代謝能力が低下しているためと考えられている。
【0004】
NEの代謝酵素として、神経節のモノアミン酸化酵素(MAO)、腎臓が血中に分泌しているMAOのリナラーゼ(非特許文献5)、肝臓・肺に存在するカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)の3つが知られている。
MAOは末梢でのNE代謝には影響力がなく、リナラーゼは不活性型タンパク質として腎から分泌されて血中を循環し、血中NEの上昇により30秒程度で活性化され、血中NEを代謝することが判明しているが、腎機能不全とともに失われることが報告されている(非特許文献6、7)。そのため、末梢循環のNE代謝にはCOMTが最も重要と考えられる。
ヒトCOMTは、分子量約24kDaの酵素であり、活性中心にSH基を有し、反応を行うためには第一基質のカテコールアミン(CA)、第二基質のS−アデノシルメチオニン(SAM)と、2価金属イオンであるMg2+が必要である(非特許文献8)。NEはCOMTによる代謝を受けるとノルメタネフリン(NMN)となり、これは本来の受容体への親和性を示さない(非特許文献8)。
【0005】
現在、CKDの治療薬としては、レニン―アンギオテンシン系(RAS)を抑制するアンギオテンシン受容体遮断薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬等の降圧剤が使用されているが、心血管病変(CVD)に対する効果は満足度が低い。また、アドレナリン受容体遮断薬は臨床で試みられたが、RASの抑制効果と比較して明確な腎保護効果が得られていない(非特許文献9)。
そこで、腎保護作用を有し、透析導入の抑制、心血管病変(CVD)の予防等が可能な新たな薬剤が強く望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009(2009)東京医学社、社団法人日本人腎臓学会編1−8
【非特許文献2】Beretta−Piccoli C.et al.Kindney International(1982)22,297−303
【非特許文献3】Ishii M.et al.Hypertension(1983)5,545−551
【非特許文献4】Zoccali,C.et al.Circulation(2002),105,1354−1359
【非特許文献5】Xu J.et al.The Journal of clinical investigation(2005)115,1275−1280
【非特許文献6】Li G.et al.Circulation(2008)117,1277−1282
【非特許文献7】Desir GV.Journal of the American Society of Hypertension(2007)1,99−103
【非特許文献8】第3版 酵素バンドブック(2008)朝倉書店八木ら編、247−248,617
【非特許文献9】Kooman et al.J Am Soc Nephrol(2004)15,524−537
【非特許文献10】Iijima,H.et al.Nephron Physiology in press(2010)116,9−16
【非特許文献11】S.P.et al.J.Cardiovasc Pharmacol(2005)46,25−35
【非特許文献12】Tsunoda M.et al.Hypertension Research(2003)26,923−927
【非特許文献13】蘓武 高行,高宮 知子,角田 誠,今井 一洋,飯島 洋 日本薬学会第130年会 29TG−am14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アドレナリン受容体遮断薬は、NEが亢進しているCKD患者への有効性は小さいとされてきた。そこで本発明者らは、先ず血中NE濃度が高濃度となるのは、NEの代謝低下によるものであるという可能性を検証する目的で、腎障害時におけるNEのCOMT代謝物であるNMNに注目し、糖尿病由来の腎不全並びに腎傷害の二種類の動物モデルにおける腎機能低下と、動物の血中NEとNMNの量比を測定した。その結果、COMT代謝物の量比(NMNの血中濃度を、NEとNMNの和で割った比)と、血中尿素窒素量、クレアチニンクリアランス等の腎機能のパラメーターとが有為な相関を示し、どちらのモデル動物においても腎機能低下とCOMTの活性低下に相関があることが示唆された(非特許文献10)。また、COMTは2−水酸化エストラジオール(2−HE)から2−メトキシエストラジオール(2−ME)を生じるが、この2−MEには強力な心臓血管・毛細血管の保護作用があることが報告されている(非特許文献11)。これらのことから、COMTの活性低下がCKD患者における心血管系保護能力の低下につながる可能性が考えられた。
したがって、CKD患者におけるNEクリアランスの鍵となるCOMTを活性化し、末梢血中のNE代謝能力を高める物質(酵素代謝賦活化物質)は新しい作用メカニズムを持った新規CKD治療薬となりうる。
本発明は、斯かる実情に鑑み、COMTによるNEの代謝能力を高めることのできるCOMT活性化剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
COMTには膜結合型COMT(MB‐COMT)と可溶型COMT(S‐COMT)が存在する。MB−COMTのNEに対するKm値は、S−COMTに比べて100倍ほど小さいことが分かっているが、ヒトの本態性高血圧のモデルラットである自然発症型高血圧ラットでは、コントロール群のWistar−Kyotoラットと比較して、MB−COMTの発現量・活性が低下し、S−COMTの発現量・活性が増加しているという報告がある(非特許文献12)。この結果は、MB−COMTの高い触媒能力はCAのメチル代謝において、触媒能力の低いS−COMTよりも寄与が大きいことを示唆すると同時に、高血圧患者のNEの代謝ではS−COMTにより大きく依存せざるを得ないことを示唆している。
そこで、本発明者らは、組換えヒトCOMTを用いたノルメタネフリン(NMN)酵素活性の評価系を構築し(非特許文献13)、S‐COMT(以下、COMTともいう)の活性を高める物質について鋭意研究したところ、下記式(1)で表されるビシクロ化合物、下記式(2)で表される含窒素五員環化合物、及び下記式で表される化合物等に優れたCOMT活性化作用があることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい低級ヒドロキシアルキル基を示し;
2は水素原子、低級アルキル基又は複素環基を示し;
3は水素原子又は低級アルキル基を示し;
4及びR5は同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示すか、或いはR4及びR5が結合する原子と一緒になって置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基又は複素環基を形成してもよく;
6は水素原子又は低級アルキル基を示し;
1は酸素原子又はN−R7(R7は、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキルチオ低級アルキル基又は置換基を有していてもよい低級アルカノイル基を示し;
2は炭素原子又は窒素原子を示し;
破線は単結合又は二重結合を示す)
で表される化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤を提供するものである。
また、本発明は、次の一般式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R10は置換基を有していてもよい低級アルキル基又は置換基を有していてもよい低級アルキルチオ基を示し;
11は水素原子、ハロゲン原子又はハロ低級アルキル基を示し;
Xは置換基を有していてもよいフェニル基又は複素環基を示し;
Yは基−C(=O)−、基−R12−NH−C(=O)−、基−S−C(=O)−NH−R12−又は基−R12−O−(基中、R12は低級アルキレン基を示す)を示し;
1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環は窒素を1〜3個有する5員の複素環基を示し、Z3及びZ4上にはヒドロキシ基又はオキソ基(=O)が置換されていてもよい)
で表される化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤を提供するものである。
また、本発明は、次の化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤を提供するものである。
【0014】
【化3】

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、COMTを活性化し、末梢血中のNE代謝能力を強化することにより、腎機能障害の進展・増悪の抑制、ひいては透析への移行抑制や、心血管系リスクの低減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】COMT活性測定法の手順を示す図である。
【図2】SAHase共存でのCOMT活性を示す図である。
【図3】SAHとサンプル化合物共存での反応阻害曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のCOMT活性化剤の第一の有効成分は、一般式(1)で表される化合物又はその塩である。
一般式(1)中、R1で示される低級ヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のヒドロキシアルキル基が挙げられ、具体的にはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。このうちヒドロキシメチル基が特に好ましい。
【0018】
当該ヒドロキシアルキル基の置換基としては、低級アルカノイル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基が挙げられる。
低級アルカノイル基としては、炭素数1〜8のアルカノイル基が挙げられ、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、マロニル基、スクシニル基等が挙げられる。このうちアセチル基が好ましい。
【0019】
置換基を有していてもよいカルバモイル基としては、次の一般式(3)
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R8及びR9は同一又は異なって水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基を示す)
で表される基が挙げられる。炭素数3〜6のシクロアルキル基に置換し得る基としては、フリル基、フルフリル基等が挙げられる。
なかでもN−C1-6アルキルカルバモイル基、N−C3-6シクロアルキルカルバモイル基が好ましく、特にN−プロピルカルバモイル基、N−シクロヘキシルカルバモイル基が好ましい。
【0022】
2で示される低級アルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、ジメチル基、トリメチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。なかでもn−プロピル基、n−ブチル基が好ましい。
【0023】
2で示される複素環基としては、酸素、窒素又は硫黄原子等を1又は2個含み、芳香環と縮合していてもよい脂環族あるいは芳香族の複素環基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、イミダゾリル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ピロリジニル基、モルホリノ基等が挙げられる。なかでもフリル基、チエニル基、ピリジル基が好ましい。
【0024】
3、R4、R5及びR6で示される低級アルキル基は、前述と同義である。なかでも、メチル基が好ましい。
【0025】
4及びR5は、それらが結合する原子と一緒になって置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基又は複素環基を形成するが、置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基を形成する場合、R4が結合する原子は炭素原子である(すなわち、A2は炭素原子を示す)。
ここで、置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基等が挙げられる。
当該脂環式不飽和炭化水素基の置換基としては、前述と同義の低級アルキル基が挙げられ、なかでもジメチル基が好ましい。
【0026】
4及びR5が結合する原子と一緒になって形成される複素環基は、前述と同義である。
ここでの複素環基においては、同一の炭素原子上に2つの水素原子を有する複素環の場合、それらの水素原子がオキソ基と置換して、2−ピリドン、2−ピラジノン等の複素環式ケトンを形成してもよい。すなわち、R4及びR5が結合する原子と一緒になって形成される複素環基としては、ピリジル基、又は2−ピリドン等の複素環式ケトンが好ましい。この場合、R4が結合する原子は窒素原子、すなわちA2は窒素原子であることが好ましい。
【0027】
1で示されるN−R7におけるR7は、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキルチオ低級アルキル基、又は置換基を有していてもよい低級アルカノイル基であり、当該低級アルカノイル基は前述と同義である。
低級アルキルチオ低級アルキル基は、炭素数1〜6のアルキルチオ基を有する前述と同義の低級アルキル基が挙げられ、なかでもブチルチオプロピル基が好ましい。
7における低級アルキルチオ低級アルキル基の置換基としては、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0028】
7における低級アルカノイル基の置換基としては、置換基を有していてもよいカルバモイル基が挙げられる。ここで、置換基を有していてもよいカルバモイル基は前述と同義である。なかでもN−C1-6アルキルカルバモイル基、置換基を有していてもよいN−C3-6シクロアルキルカルバモイル基が好ましく、特にフルフリル基で置換されていてもよいN−シクロヘキシルカルバモイル基が好ましい。
【0029】
一般式(1)中、A1がN−R7である場合、R1は水素原子が好ましい。また、A1が酸素原子である場合、R1は置換基を有していてもよい低級ヒドロキシアルキル基が好ましい。
【0030】
一般式(1)中、破線は、この部分に二重結合があってもよいことを示す。
【0031】
一般式(1)において、好ましい置換基の組み合わせの一例として、例えば、R1、R2、R3及びR6が水素原子であり、R4及びR5がそれらと結合する原子と一緒になって芳香族複素環基を形成し、A1がN−R7であり、A2が窒素原子であることを挙げることができる。
また、R1が置換基を有していてもよい低級ヒドロキシアルキル基であり、R2が低級アルキル基又は芳香族複素環基であり、R3及びR6が低級アルキル基であり、R4及びR5が同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基であり、A1が酸素原子であり、A2が炭素原子であること;R1が置換基を有していてもよい低級ヒドロキシアルキル基であり、R2及びR3が水素原子であり、R4及びR5がそれらと結合する原子と一緒になって置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基を形成し、R6が低級アルキル基であり、A1が酸素原子であり、A2が炭素原子であることを挙げることができる。
【0032】
さらに、好ましい置換基の組合せの一例として、例えば、R1、R2、R3及びR6が水素原子であり、R4及びR5がそれらと結合する原子と一緒になって複素環式ケトンを形成しを形成し、A1がN−R7であり、R7が置換基を有していてもよい低級アルキルチオ低級アルキル基又は置換基を有していてもよい低級アルカノイル基であり、A2で窒素原子であり、破線が単結合であることを挙げることができる。
また、R1がN−低級アルキルカルバモイル基で置換されていてもよい低級ヒドロキシアルキル基であり、R2が低級アルキル基又はフリル基であり、R3及びR6が低級アルキル基であり、R4及びR5が同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基であり、A1が酸素原子であり、A2が炭素原子であり、破線が二重結合であること;R1が低級アルカノイル基で置換されていてもよい低級ヒドロキシアルキル基であり、R2、R3及びR6が低級アルキル基であり、R4及びR5が同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基であり、A1が酸素原子であり、A2が炭素原子であり、破線が二重結合であること;R1が低級アルカノイル基で置換されていてもよい低級ヒドロキシアルキル基であり、R2及びR3が水素原子であり、R4及びR5がそれらと結合する原子と一緒になって置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基を形成し、R6が低級アルキル基であり、A1が酸素原子であり、A2が炭素原子であり、破線が単結合であることを挙げることができる。
【0033】
一般式(1)の化合物のうち、特に好ましい化合物は次の化合物1〜7である。
【0034】
【化5】

【0035】
本発明のCOMT活性化剤の第二の有効成分は、一般式(2)で表される化合物又はその塩である。
一般式(2)中、R10で示される低級アルキル基としては、前述と同義である。なかでもメチル基、n−プロピル基が好ましい。
当該低級アルキル基の置換基としては、前述と同義の複素環基が挙げられ、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ピロリジニル基、モルホリノ基が好ましく、特にモルホリノ基が好ましい。
【0036】
10で示される低級アルキルチオ基としては、炭素数1〜6のアルキルチオ基が挙げられ、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等が挙げられる。このうちメチルチオ基が特に好ましい。
当該低級アルキルチオ基の置換基としては、カルボキシル基又は低級アルコキシカルボニル基が挙げられる。ここで、低級アルコキシカルボニル基としては、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基を有するカルボニル基で、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられる。なかでもメトキシカルボニル基が好ましい。
【0037】
11で示されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素が挙げられ、なかでもフッ素又は塩素好ましい。置換位置は特に限定されないが、メタ位又はパラ位が好ましく、特にパラ位が好ましい。
【0038】
11で示されるハロ低級アルキル基としては、前記ハロゲン原子で置換された前記低級アルキル基を意味し、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、2−クロロ−1,1−ジメチルエチル基等が挙げられる。なかでもトリフルオロメチル基が好ましい。
【0039】
Xで示される置換基を有していてもよいフェニル基とは、1〜3個の置換基を任意の位置に有していてもよいフェニル基を意味する。ここで置換基としては、前述と同義の低級アルキル基、低級アルコキシ基が挙げられる。低級アルキル基としては、メチル基、tert−ブチル基が好ましい。低級アルコキシ基は、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられ、なかでもエトキシ基が好ましい。
置換基の数としては、1又は2が好ましい。なお、置換基が2個以上の時は相異なる基の組合せであってもよい。
【0040】
Xで示される複素環基としては、前述と同義の複素環基が挙げられ、なかでもキノリル基、イソキノリル基が好ましい。
【0041】
Yは、基−C(=O)−、基−R12−NH−C(=O)−、基−S−C(=O)−NH−R12−又は基−R12−O−(基中、R12は低級アルキレン基を示す)を示すが、ここで、R12で示される低級アルキレン基としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が挙げられ、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。なかでもメチレン基が好ましい。
【0042】
1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される窒素を1〜3個有する5員の複素環基としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピロリニル基、ピロリジニル基、トリアゾリル基等が挙げられる。なかでもピロリル基、トリアゾリル基が好ましい。トリアゾリル基の具体例としては、1,3,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等が挙げられる。
【0043】
3及びZ4上にはヒドロキシ基又はオキソ基(=O)が置換されていてもよい。すなわち、Z1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される窒素を1〜3個有する5員の複素環基において、同一の炭素原子上に2つの水素原子を有する複素環の場合、それらの水素原子がオキソ基と置換して、2−オキソピロリン、2−オキソピロリジン等の複素環式ケトンを形成してもよい。
本発明において、Z1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環としては、1,3,4−トリアゾール−1−イル基又は3−ヒドロキシ−2−オキソピロリン−5−イル基が好ましい。
【0044】
一般式(1)において、好ましい置換基の組み合わせの一例として、例えば、R10が置換基を有していてもよい低級アルキル基であり、R11がハロゲン原子であり、Xが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Yが基−C(=O)−であり、Z1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環が3−ヒドロキシ−2−オキソピロリン−5−イル基であること;R10が置換基を有していてもよい低級アルキルチオ基であり、R11がハロゲン原子であり、Xが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Yが基−R12−NH−C(=O)−であり、Z1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環が1,3,4−トリアゾール−1−イル基であること;R10が置換基を有していてもよい低級アルキルチオ基であり、R11がハロ低級アルキル基であり、Xが複素環基であり、Yが基−R12−O−であり、Z1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環が1,3,4−トリアゾール−1−イル基であること;R10が置換基を有していてもよい低級アルキル基であり、R11がハロゲン原子であり、Xは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Yが基−S−C(=O)−NH−R12−であり、Z1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環が1,3,4−トリアゾール−1−イル基であることを挙げることができる。
【0045】
一般式(2)の化合物のうち、特に好ましい化合物は次の化合物8〜11である。
【0046】
【化6】

【0047】
本発明のCOMT活性化剤の第三の有効成分は、次の化合物又はその塩である。
【0048】
【化7】

【0049】
本発明において、化合物の塩としては、薬学的に許容できるものであれば特に制限はない。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩;塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の化合物もしくはその塩は溶媒和物であってもよい。溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。さらに、本発明の化合物には、立体異性体或いは不斉炭素原子に由来する光学異性体が存在することもあるが、これらの立体異性体、光学異性体及びこれらの混合物のいずれも本発明に含まれる。
【0051】
本発明の化合物は、天然物から抽出することにより又は公知の化学合成法により製造することができる。また、Inter Bio Screen社等から市販品として入手することができる。
【0052】
後述する実施例において示されるように、本発明で用いられる化合物は、組換えヒトCOMTを用いた酵素活性の評価系において、COMT活性を有意に上昇させる作用を示した。
従って、本発明の薬剤は、COMT活性化、末梢血中のNE代謝能力の強化を通じ、腎機能障害の進展・増悪の抑制、透析導入の遅延や抑制、心血管病変(CVD)リスクの低減に有用である。
【0053】
本発明のCOMT活性化剤の投与形態としては、特に限定されず治療目的に応じて適宜選択でき、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤等による経口投与や、注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。
斯かる製剤は、本発明で用いられる化合物又はその塩を単独、又は他の薬学的に許容される担体を用いて、公知の方法で製造することができる。
【0054】
薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、例えば、乳糖、マンニトール、無水リン酸水素カルシウム等の賦形剤;ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤;でんぷん、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤;塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム等の緩衝剤;溶解補助剤、着色剤、保存剤、矯味剤、香料等が挙げられる。
【0055】
本発明で用いられる化合物又はその塩の成人1日当たりの投与量は、患者の症状や体重、年齢、化合物の種類、投与経路等によって変動し得るが、経口投与の場合には、投与量は約1〜1,000mgが適切であり、約10〜300mgが好ましい。非経口投与の場合は、経口投与の場合の10分の1量〜2分の1量を投与すればよい。これらの投与量は、患者の症状や体重、年齢等により適宜増減することが可能である。
投与対象者としては、それを必要としている者であれば特に限定されないが、本発明のCOMT活性化剤はNEの代謝能力を高めることができることから、特にNEが亢進している腎機能障害患者における投与が有効である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0057】
参考例1
<組換えヒトCOMTの調製>
完全長のヒトCOMTcDNA(NCBI登録受入番号:BC011935)が挿入されたプラスミドpOTB7を有する大腸菌(MGC Colection FL1002)をInvitrogen社より購入し、特開2006−23号公報を参考に組換えヒトCOMTをグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質として発現させ、グルタチオンアフィニティーカラムで精製し、トロンビン処理によりGST部分を除去して精製した。
【0058】
参考例2
<HPLC−蛍光検出法>
CAとそれらの3−O−メチル代謝物を同時に測定するために、角田ら(Tsunoda M.et al.Analyst(2001)126,637−640)によって開発されたCA分析法を適用した。
具体的には、サンプルをオートサンプラー(AS−950,Jasco,Japan)より注入し、前処理用溶媒(10mM phosphate buffer(pH7.5))により前処理カラム(陽イオン交換カラム)に導入する。このとき、CAとそれらの3 −O−メチル代謝物を含むアミンのみが前処理カラムに吸着される。次に、カラムセレクション(HV−1592−01,Jasco,Japan)によりバルブを切り替え、前処理カラムに分離用溶媒(75mM potassium acetate,75mM phosphoric acid,4mM 1−hexanesulfonic acid sodium salt,6% acetnitrile(pH3.2))を流すことにより、前処理カラムからCAとそれらの3−O−メチル代謝物を脱離させ、分離カラム(octadecylsilicaカラム:ODSカラム)にて、CAとそれらの3−O−メチル代謝物を分離する。分離されたCAとそれらの3−O−メチル代謝物を電気化学酸化ユニット(Guard Cell 5020,ESA,Inc.,USA)によりo−キノン体に導き、次に、o−キノン体とエチレンジアミン溶液(105mM ethylenediamine,175mM imidazoleを含むacetnitrile:ethanol:D.W.forHPLC=85.25:4.75:10の溶液)を反応オーブン(RO−2061,Jasco,Japan)内で反応させ(90℃、10m)、蛍光物質(キノキサリン誘導体)に導き、蛍光検出器(FP−1520,Jasco,Japan,励起波長Ex:410nm,蛍光波長Em:500nm)にて検出する。
前処理用溶媒の流速は1mL/minに、分離用溶媒の流速は0.5mL/minに、エチレンジアミン溶液の流速は0.32mL/minに設定した。
前処理カラムは陽イオン交換カラム(CAPCELL MF SCX S−5,SHISEIDO,Japan)を、分離カラムはODSカラム(UK−C18 150×4.6mm, Imtakt,Japan)を使用した。ODSカラムはカラムオーブン(CO−1560,Jasco,Japan)により、40℃に保温した。
【0059】
なお、上記分析法により、COMTの基質であるNEとその3−O−メチル代謝物であるNMN、4−O−メチル代謝物である4−メトキシノルエピネフリン(4−OMe)が20分以内に十分に分離可能であることが確認された。検出限界は10〜20pmole程度であり、NMNのピーク面積における日内変動は2.7%、日間変動は3.6%であった。
【0060】
参考例3
<COMT活性測定法>
(1)酵素反応条件の至適化
COMT活性測定の至適化を行うため、酵素反応の反応時間、酵素量、基質量に対する直線性を確認し、かつKm等の酵素の触媒反応に関する諸性質を確認した。
酵素濃度を28,83,250,500,1000nMに、かつ反応時間を1〜5,8,10,15,20,25,30,40,50,60minに変化させ検討したところ、[COMT]=250nMでは、検出限界以上のNMNの生成が[NE]0=2000μM、[SAMe]0=400μMという条件下で([X]0は物質Xの初期濃度を示す)、反応開始直後(1min)から、反応開始20分まで反応時間と生成物の生成量に直線性が見られた。なお、酵素濃度28nMは0.33μgタンパク質/500μL反応液に相当する。
【0061】
2)至適NE濃度を決定するため、[COMT]=250nM、反応時間:15minの条件で、NE濃度を10,20,50,100,200,500,1000,2000μMに変化させてCOMT活性測定を行い、NEのKm値を算出した。
その結果、KmNEは124〜188μMであり、文献値(ブタ肝臓COMT:488μM,組換えヒトS−COMT:369μM,ラット赤血球S−COMT:366μM,ヒト赤血球:91.3μM,Tsunoda M.et al.Analyst(2001)126,637−640;Masuda et al.Annals of Clinical Biochemistry(2002)39,589−594;Timo L.et al.Biochemistry(1995)34,4202−4210;Aoyama N.et al.JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY A(2005)1074,47−51)と実験精度内で一致し、S−COMT活性測定のためには[NE]0は1000μM程度で十分と考えられた。
【0062】
3)至適SAM濃度を決定するため、[COMT]=250nM、反応時間:15minの条件で、SAM濃度を3,10,30,100,300,400,1000,2000,3000μMに変化させてCOMT活性測定を行い、SAMのKm値を算出した。
その結果、KmSAMは70〜160μM程度と推定され、文献値(組換えヒトS−COMT:47μM,ヒト赤血球:7μM,Masuda M.et al.Annals of Clinical Biochemistry(2002)39,589−594;Timo L.et al.Biochemistry(1995)34,4202−4210)との乖離は1.5〜20倍程度となり、実験精度内で一致していると考えられた。また、[SAM]0=2000μM以上では反応速度vの低下が見られたが、これはSAMの代謝物であり、COMTの阻害物質であるSAHの影響によるものと考えられた。よって、S−COMT活性測定のためには[SAM]0は1000μM程度で十分であると考えられた。
【0063】
4)上記決定した活性測定条件にて、COMTの阻害剤として多くの研究報告がある3,5−dinitrocatechol(3,5−DNC)のIC50値およびKi値、SAHのIC50値およびKi値を算出した。
3,5−DNCは終濃度が1〜3,6,10,20,30,60,100,200,300,600,1000nMとなるようにDMSOを用いて調製し、反応系では予めCOMT、3,5−DNC及びNEを共存させ、SAMを加えることで反応を開始した。また、SAHは終濃度が0.3,0.5,1,3,5,10,30,50,100,300,500,1000μMとなるようにDMSOを用いて調製し、反応系では予めCOMT、SAM及びSAHを共存させ、NEを加えることで反応を開始した。
その結果、IC503,5-DNCは30〜60nM、Ki3,5-DNCは4nMであり、IC50は文献値(組み換えラットS−COMT:44nM,Maria J B.et al.Protein Expression and Purification(2001)23,106−112)と実験精度内でほぼ一致した値となった。また、IC50SAHはSAM濃度:300μMの場合に50〜100μM、SAM濃度:1000μMの場合に100〜300μM、KiSAHは14μMであり、IC50は文献値(ラット肝臓COMT:133μM,M.A.Vieira−Coelho.et al.Brain Research(1999)821,69−78)と実験精度内でほぼ一致した値となった。
【0064】
以上により、組換えヒトCOMTの至適反応条件は[酵素濃度:250nM,反応時間:15min]であり、酵素反応速度論定数は、基質に対しては[KmNE:160μM,KmSAM:100μM]、NEの代表的な競合阻害剤である3,5−DNCに対しては[IC503,5-DNC:30〜60nM,Ki3,5-DNC:4nM]、COMTのプロダクト阻害剤であるSAHに対しては[IC50SAHはSAM濃度が300μMの場合:50〜100μM,SAM濃度が1000μMの場合:100〜300μMとなった。またKiSAH=14μM]となり、既に報告されている天然型COMTの酵素反応速度論的定数と同等であることが確認された。
【0065】
5)サンプル化合物によるCOMT活性化を定量的に測定できる系を決定するため、任意化合物を用いて、酵素反応至適条件[酵素濃度:250nM,反応時間:15min]を保ったまま[NE]と[SAM]の初期濃度を変化させ、COMT活性を評価した。
その結果、反応条件が[NE]0=1000μM、[SAM]0=100μMの場合に最大のCOMT活性化が確認され、NEの濃度によらずSAMの濃度が低濃度(Km値の1倍の濃度)である場合に、安定したCOMT活性化が確認された。それに対して、SAMが飽和濃度(Km値の10倍の濃度)の条件では、COMTの活性化はほとんど確認できなかった。よって、COMT活性作用を有する化合物は、SAMの酵素への親和性あるいは触媒反応速度に影響を与えることでその作用を示す可能性が示唆された。
【0066】
以上より、COMT活性測定法は、[酵素濃度]=250nM、反応時間:15min、[NE]0=1000μM(Km値の6倍の濃度)、[SAM]0=100μM(Km値の1倍の濃度)の条件を用いることに決定した。
【0067】
(2)COMT活性測定法
具体的な手順は図1に示した。
反応液A(A1+A2)と反応液Bをそれぞれの調製し、反応液A及びサンプル化合物を475μLずつ1.5mLチューブに分注し、ヒートブロック上で37℃にて、10分間のプレインキュベーションを行った後、反応液Bを25μL加えて、ヒートブロック上で37℃にて、15分間の酵素反応を行った。反応開始から15分後、氷冷した4M HClO4 50μLを加えて反応を停止し、10,000r/min(10,000g)、4℃にて、10分間の遠心分離を行った。次に、得られた上清400μLを、氷冷した希釈溶液(10mM Reduced Glutathione,10mM Citric acid,0.1%Triton−X100,0.1mg/mL EDTA−2Na)400μLの入った2.0mLチューブに回収し、その一部(30μL)をHPLCに導入し、COMT活性を測定した。
【0068】
試験例1
サンプル化合物として、Inter Bio Screen社(IBS社)から購入した化合物1〜7(表1)、化合物8〜11(表3)、化合物12〜23(表5)並びに参考化合物(表2、4)を用いた。
サンプル化合物はDMSOに溶解し、終濃度100μMとなるように反応液に加えた。COMT賦活化の評価はコントロールであるDMSOをサンプル化合物の代わりに用いた場合と比較した。
その結果を表1〜5に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2−1】

【0071】
【表2−2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4−1】

【0074】
【表4−2】

【0075】
【表4−3】

【0076】
【表5−1】

【0077】
【表5−2】

【0078】
表1、3及び5より、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物及び上記表5に示す化合物は優れたCOMT活性化作用を有することが確認された。
【0079】
試験例2 COMTに対する生成物阻害の影響
1)SAHase共存下におけるSAHのCOMTへの影響
COMTはSAHによる生成物阻害を受ける。反応系からSAHを消去するべく、SAHaseを共存させてCOMT活性測定を行い、反応系からin situにSAHを除去することによるCOMT活性への影響を検討した。
SAHaseはSAHをアデノシンとホモシステインに分解する酵素である。SAHaseによる加水分解反応の平衡は合成方向に著しく傾いているが、生体内では生成物がアデノシンデアミナーゼ(ADA)等により速やかに代謝されるため、実際には分解系に作用する(第3版 酵素バンドブック(2008)朝倉書店(東京)八木ら編、247−248,617)。
まず、John L.palmerら(The Journal of biological chemistry(1979)254,1217−1226)の文献を参考に、Sigma社より購入したSAHaseの活性を下記方法により測定すると、50[nmole/min/mgprotein]となった。
【0080】
<SAHaseの活性測定>
反応液Aならびに反応液Bをそれぞれ表6に示す通りに調製した。1mL石英セルに反応液Aを975μL加えて、37℃に設定した分光光度計(V−550,Jasco,Japan)に10分間静置した。次に、反応液Bを25μL加え、37℃に設定した分光光度計に静置して、254nmにおける吸光度を5分おきに2時間測定した。
【0081】
【表6】

【0082】
共存させるSAHaseの量を0.25,0.5,1,2,4unitsに決定し、COMTの活性測定を行った。この条件では、NMNとSAHは反応時間15分の間におよそ7nmole生じている。つまり、COMTの反応に共役してSAHの供給は0.5nmole/minで行われている。
SAHaseの量を横軸(unit)、SAHaseが存在した場合の見かけの反応速度比を縦軸(%)にプロットを示した(図2)。SAHaseの共存下でCOMT活性測定を行うと、SAHaseの用量依存的にCOMTの見かけの反応速度が上昇した。つまり、COMTの反応系からSAHを除去することで、COMTの見かけの活性が上昇することが示唆された。
【0083】
2)SAHのCOMTへの影響
上記試験例1で用いた化合物と、終濃度5,30,180,1000μMとなるようにDMSOを用いて調製したSAHを反応開始時から反応系へ共存させ、COMTへの影響を検討した。
SAH濃度(横軸,μM)と反応速度v(縦軸,nmole/15min/mgprotein)をプロットした結果を図3に示した。その結果、本発明で用いられる化合物は、反応初期からSAHが存在している場合でも、COMTを活性化した。共存SAH濃度が5μMでは最大49%、SAHが30μMで最大55%、SAHが180μMで最大75%の見かけの活性の上昇が見られ、賦活化の割合は反応初期から存在していたSAH濃度が高くなるほどに大きくなった。本発明のCOMT活性化剤はSAHによるCOMT活性の低下を抑制している。
以上より、本発明の化合物はCOMTのSAHに対する親和性を低下させたと考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい低級ヒドロキシアルキル基を示し;
2は水素原子、低級アルキル基又は複素環基を示し;
3は水素原子又は低級アルキル基を示し;
4及びR5は同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示すか、或いはR4及びR5が結合する原子と一緒になって置換基を有していてもよい脂環式不飽和炭化水素基又は複素環基を形成してもよく;
6は水素原子又は低級アルキル基を示し;
1は酸素原子又はN−R7(R7は、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキルチオ低級アルキル基又は置換基を有していてもよい低級アルカノイル基を示し;
2は炭素原子又は窒素原子を示し;
破線は単結合又は二重結合を示す)
で表される化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項2】
1が水素原子、又は低級アルカノイル基もしくは次の一般式(3)
【化2】

(式中、R8及びR9は同一又は異なって水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を示す)
で表されるカルバモイル基で置換されていてもよい低級ヒドロキシアルキル基である、請求項1記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項3】
1が酸素原子又はN−R7(R7は、水素原子、ヒドロキシ基で置換されていてもよい低級アルキルチオ低級アルキル基又は次の一般式(3)
【化3】

(式中、R8及びR9は同一又は異なって水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、又はフリル基もしくはフルフリル基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基を示す)
で表されるカルバモイル基で置換されていてもよい低級アルカノイル基を示す)である、請求項1又は2記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項4】
2が水素原子、低級アルキル基又はフリル基である、請求項1〜3のいずれか1項記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項5】
4及びR5が同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示すか、或いはR4及びR5が結合する原子と一緒になって低級アルキル基で置換されていてもよい脂環式不飽和炭化水素基又は複素環基を形成してもよい、請求項1〜4のいずれか1項記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項6】
4及びR5が同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示すか、或いはR4及びR5が結合する炭素原子と一緒になって低級アルキル基で置換されていてもよいシクロヘキセニル基を形成するか、又はR4及びR5が結合する窒素原子及び炭素原子と一緒になって2−ピリドンを形成する、請求項1〜4のいずれか1項記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項7】
一般式(1)で表される化合物が次の化合物である、請求項1記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【化4】

【請求項8】
次の一般式(2)
【化5】

(式中、R10は置換基を有していてもよい低級アルキル基又は置換基を有していてもよい低級アルキルチオ基を示し;
11は水素原子、ハロゲン原子又はハロ低級アルキル基を示し;
Xは置換基を有していてもよいフェニル基又は複素環基を示し;
Yは基−C(=O)−、基−R12−NH−C(=O)−、基−S−C(=O)−NH−R12−又は基−R12−O−(基中、R12は低級アルキレン基を示す)を示し;
1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成される環は窒素を1〜3個有する5員の複素環基を示し、Z3及びZ4上にはヒドロキシ基又はオキソ基(=O)が置換されていてもよい)
で表される化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項9】
10が複素環基で置換されていてもよい低級アルキル基、又はカルボキシル基もしくは低級アルコキシカルボニル基で置換されていてもよい低級アルキルチオ基である、請求項8記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項10】
Xが低級アルキル基もしくは低級アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基又は複素環基である、請求項8又は9記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項11】
1、Z2、Z3、Z4及びZ5で構成させる環が、1,3,4−トリアゾール−1−イル基又は3−ヒドロキシ−2−オキソピロリン−5−イル基である請求項8〜10のいずれか1項記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項12】
10がモルホルノ基で置換されていてもよい低級アルキル基又はカルボキシル基もしくは低級アルコキシカルボニル基で置換されていてもよい低級アルキルチオ基である、請求項8〜11のいずれか1項記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項13】
Xが低級アルキル基もしくは低級アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基、キノリル基又はイソキノリル基である、請求項8〜12のいずれか1項記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【請求項14】
一般式(2)で表される化合物が次の化合物である、請求項8記載のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【化6】

【請求項15】
次の化合物又はその塩を有効成分とするカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ活性化剤。
【化7】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−197234(P2012−197234A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61230(P2011−61230)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成23年2月18日、日本大学大学院薬学研究科発行の「平成23年3月博士前期課程修了予定者修士論文発表要旨集」に発表 (2)平成23年2月18日、日本大学大学院薬学研究科主催の「平成22年度日本大学大学院薬学研究科修士論文発表会」に文書をもって発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】