説明

カルボン酸誘導体又はその塩

【課題】EP1受容体が関与する疾患、特に過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患の治療薬に用いることができる化合物の提供。
【解決手段】スルホンアミド構造を有し、かつ、当該スルホンアミドのN原子上の置換基として、ヘテロ環で置換されたメチル基を有することを化学構造上の特徴とするカルボン酸誘導体又はその塩が強力なEP1受容体拮抗作用を有することを確認し、本発明を完成した。
本発明化合物は、良好なEP1受容体拮抗作用を有することから、EP1受容体が関与する疾患、特に過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患の治療薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患、疼痛、癌等の治療剤として有用なカルボン酸誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
過活動膀胱は失禁の有無にかかわらず尿意切迫感を訴える病態であり、通常頻尿および夜間頻尿を伴う(非特許文献1)。現在その治療には主に抗コリン薬が使用され、一定の治療成績を示している。しかし、一方で口渇、便秘、かすみ目といった副作用の発現も知られているほか、尿閉の危険性もあるため、前立腺肥大患者や高齢者には使いづらいことが報告されている。また、抗コリン治療で有効性を示さない患者の存在も知られている。以上のことから、過活動膀胱に対する新規機序の薬剤への期待は大きい。
【0003】
プロスタグランジンE2(PGE2)はアラキドン酸を前駆物質とする生体内活性物質であり、G蛋白共役型受容体であるEP1、EP2、EP3およびEP4の4種類のサブタイプを介して生体の機能調節に関与することが知られている。
PGE2の膀胱内注入がヒトで強い尿意切迫感と膀胱容量減少をきたすこと(非特許文献2)、PGE2の膀胱内注入がラットの膀胱容量を減少させることが知られており(非特許文献3)、PGE2が下部尿路機能に影響する可能性が示唆されている。近年、脊髄損傷モデルラットに対するEP1受容体拮抗剤の投与が排尿機能改善に有用であるとの報告がなされていることから(非特許文献4)、EP1受容体拮抗剤は過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患治療薬として有用であると考えられる。
【0004】
加えて、EP1受容体拮抗剤は作用機序が異なるため、抗コリン薬に特有の副作用の回避が期待できるほか、抗コリン治療で有効性を示さない患者に対しても効果が期待できる。また、本剤は知覚神経に作用してより強い自覚症状の改善効果が期待できる。更に脊髄損傷ラットの排尿効率を低下させることなく病態改善効果を示すことが報告されており(非特許文献5)、前立腺肥大症患者や高齢者にも安全に投与できることが期待できる。
【0005】
また、PGE2は炎症や組織障害に伴い局所で産生され、炎症反応を増強すると共に発痛・発熱にも関与することが広く知られている。近年EP1受容体拮抗剤が、炎症性疼痛(非特許文献6)、術後疼痛(非特許文献7)、神経因性疼痛(非特許文献8)といった各種疼痛モデル動物において有効性を示すことが知られ、また酢酸誘発内臓痛に対するEP1受容体拮抗剤投与の臨床効果についても報告されている(非特許文献9)。
【0006】
更にEP1受容体拮抗薬は大腸粘膜異常腺窩および腸内ポリープ形成の抑制作用を有することが知られており(特許文献1)、EP1受容体拮抗剤は、大腸癌、膀胱癌、前立腺癌等の治療薬として有用であると考えられる。
【0007】
EP1受容体拮抗薬としては、以下の特許文献2〜4に示される化合物が報告されている。
特許文献2には式(A)で示される化合物が開示されている。
【化2】

(式中R4は水素、C1〜8アルキル、C2〜8アルケニル、C2〜8アルキニル、1個または2個のCOOZ8、CONZ9Z10、OZ8、C1〜4アルコキシからなる群から選ばれる基によって置換されたC1〜6アルキル、C3〜7シクロアルキル、フェニルまたはC3〜7シクロアルキルで置換されたC1〜4アルキル、C2〜4アルケニル、C2〜4アルキニルを示す。他の記号は当該公報参照。)
しかしながら、式(A)の化合物のR4として、本発明化合物の特徴である置換されていてもよいヘテロ環基で置換された低級アルキレンの開示はない。
【0008】
特許文献3には式(B)で示される化合物が開示されている。
【化3】

(式中、R5はイソプロピル、イソブチル、2−メチル−2−プロペニル、シクロプロピルメチル、メチル、エチル、プロピル、2−プロペニルまたは2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルを示す。他の記号は当該公報参照。)
しかしながら、式(B)の化合物においてR5として、本発明化合物の特徴である置換されていてもよいヘテロ環基で置換された低級アルキレンの開示はない。
【0009】
特許文献4には広範な化合物を含む式(C)で示される化合物が開示されているが、Xとして置換されていてもよいフェニル、置換されていてもよい単環式ヘテロアリールのような環状構造を有していない点で、本発明化合物とは化学構造を異にする。
【化4】

(式中の記号は当該公報参照。)
【0010】
【非特許文献1】「ニューロウロロジー・アンド・ウロダイナミクス(Neurourology and Urodynamics)」、(英国)、2002年、第21巻、p.167-78
【非特許文献2】「ウロロジカル・リサーチ(Urological Research)」、(米国)、1990年、第18巻、第5号、p.349-52
【非特許文献3】「ザ・ジャーナル・オブ・ウロロジー(The Journal of Urology)」、(米国)、1995年6月、第153巻、第6号、p.2034-8
【非特許文献4】「日本泌尿器科学会雑誌」、2001年2月、第92巻、第2号、p.304
【非特許文献5】「第89回日本泌尿器科学会総会予稿集」、神戸、2001年、MP-305
【非特許文献6】「アネシージオロジー(Anesthesiology)」、(米国)、2002年11月、第97巻、第5号、p.1254-62
【非特許文献7】「アネシージア・アンド・アナルジージア(Anesthesia and Analgesia)」、(米国)、2002年12月、第95巻、第6号、p.1708-12
【非特許文献8】「アネシージア・アンド・アナルジージア(Anesthesia and Analgesia)」、(米国)、2001年10月、第93巻、第4号、p.1012-7
【非特許文献9】「ガストロエンテロロジー(Gastroenterology)」、2003年1月、第124巻、第1号、p.18-25
【特許文献1】国際公開第00/69465号パンフレット
【特許文献2】国際公開第98/27053号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/72564号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/20371号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように既存の過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患治療剤は、有効性、安全性等の点で満足できるものではなく、有効性、安全性に優れた下部尿路疾患の治療剤の提供が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のように、EP1受容体拮抗剤は、口渇、尿閉等の副作用が少なく、安全性の高い下部尿路疾患治療剤となることが期待できる。そこで本発明者等は下部尿路疾患等の治療に有用な新規化合物を提供することを目的として、EP1受容体拮抗活性を有する化合物につき鋭意研究した。その結果、後記一般式(I)で示される新規なカルボン酸誘導体が強力なEP1受容体拮抗作用を有することを知見し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、下記一般式(I)で示されるカルボン酸誘導体又はその製薬学的に許容される塩に関する。
【化5】

(式中の記号は以下の意味を示す。
1及びR2:同一又は互いに異なって、H、ハロゲン、低級アルキル、ハロゲノ低級アルキル、-OH、-O-低級アルキル、或いは、R1及びR2が結合している炭素原子と一体となって(1)シクロペンテン、(2)シクロヘキセン、(3)シクロへプテン、(4)シクロオクテン、又は(5)ベンゼン環を形成してもよく、
3:-OH、又は-O-低級アルキル、
A:置換されていてもよいフェニル、又は置換されていてもよい単環式ヘテロアリール、
B:置換されていてもよいヘテロ環基、
C:置換されていてもよいフェニル、又は置換されていてもよい単環式ヘテロアリール、
X:低級アルキレン、低級アルケニレン、-O-低級アルキレン-*、
又は-低級アルキレン-O-*、
Y:単結合、低級アルキレン、低級アルケニレン、又は*-O-低級アルキレン、
Z:低級アルキレン、
ただし、X及びYにおける*はC環への結合を示す。以下同様。)
【発明の効果】
【0014】
本発明化合物は、強力なEP1受容体拮抗作用を有することから、EP1受容体が関与する疾患、特に過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患の治療薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中、「低級」なる語は、特に断らない限り炭素数1〜6個の直鎖または分枝状の炭化水素鎖を意味する。
【0016】
「低級アルキル」とは、C1-6のアルキルを意味する。具体的には、メチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ノルマルペンチル、ノルマルヘキシル等が挙げられる。好ましくは炭素数1〜3のものであり、より好ましくはメチル、エチルである。
「低級アルキレン」とは、C1-6のアルキルの任意の位置の水素を1個除去してなる2価基を意味する。具体的にはメチレン、エチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、プロピレン等が挙げられる。好ましくはメチレン、エチレン、プロピレンであり、より好ましくはメチレン、エチレンである。
「低級アルケニレン」とは、C2-6のアルケニルの任意の位置の水素を1個除去してなる2価基を意味する。具体的にはビニレン、プロペニレン、1−ブテニレン、2−ブテニレン等が挙げられる。好ましくはビニレンである。
【0017】
「ハロゲン」とは、ハロゲン原子を意味する。具体的にはフルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードが挙げられる。好ましくはフルオロ、クロロである。
【0018】
「ハロゲノ低級アルキル」とは、前記「低級アルキル」の1個以上の任意の水素原子が、同一または互いに異なって前記「ハロゲン」で置換された基を意味する。具体的には、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル等が挙げられる。好ましくは、トリフルオロメチルである。
【0019】
「単環式ヘテロアリール」とは、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜3個含有する単環5又は6員芳香環基であり、環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。具体的には、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル等が挙げられる。好ましくは、ピリジル、フリル、チエニル、チアゾリルである。
【0020】
「ヘテロ環基」とは、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜4個含有する飽和、不飽和又は部分的に不飽和の3〜8員単環へテロ環基、8〜14員二環式へテロ環基、11〜20員三環式へテロ環基を意味する。環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよく、また、架橋環やスピロ環を形成してもよい。単環へテロ環基としては具体的には、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、フリル、ジヒドロフリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル等が挙げられる。二環式へテロ環基としては具体的には、インドリル、ベンゾフラニル、ジヒドロベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、キノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、シンノリニル等が挙げられる。三環式へテロ環基としては具体的には、カルバゾリル、アクリジニル等が挙げられる。
「ヘテロ環基」として好ましくは、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、フリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、ピロリジニル、ピペリジニル、インドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニルであり、より好ましくは、ピリジル、ピラジニル、チアゾリル、オキサジアゾリル、オキセタニル、テトラヒドロフラニルである。
【0021】
本明細書において、「置換されていてもよいフェニル」、「置換されていてもよい単環式ヘテロアリール」及び「置換されていてもよいヘテロ環基」は便宜上一価基として記載してあるが、構造によっては二価基以上の多価基である場合がある。本発明はそれらの構造を包含するものである。例えば二価基の具体的な態様としては、有機化合物命名法に従って上記環基の接尾辞をジイルに変換したものが対応する。例えば、一価基であるフェニル基に対応する二価基はフェニレンである。また、一価基であるオキセタニル基に対応する二価基はオキセタンジイルである。この場合、例えば3,3-オキセタンジイル等のジェミナル置換形式であるものも包含する。
【0022】
「置換されていてもよい」とは、「置換されていない」、あるいは「同一又は異なる1〜5個の置換基で置換された」ことを意味する。
【0023】
本明細書において、「置換されていてもよい」の語の許容される置換基としては、それぞれの基の置換基として、当該技術分野で通常用いられる置換基であればいずれでもよい。また、それぞれの基に同一又は異なった置換基が1つ以上存在していてもよい。
A及びCの「置換されていてもよいフェニル」における置換基としては、好ましくは、低級アルキル、ハロゲン、ハロゲノ低級アルキル、-OH、-O-低級アルキルが挙げられる。
A及びCの「置換されていてもよいヘテロアリール」における置換基としては、好ましくは、低級アルキル、ハロゲン、ハロゲノ低級アルキル、-O-低級アルキルが挙げられる。
Bの「置換されていてもよいヘテロ環基」における置換基としては、好ましくは、低級アルキル、ハロゲン、ハロゲノ低級アルキル、-OH、-O-低級アルキルが挙げられる。
【0024】
本発明における好ましい態様を以下に示す。
Aとして好ましくは、置換されていてもよいチアゾリル、置換されていてもよいフリル、若しくは、置換されていてもよいフェニルである。ここに、A上の置換基としては、上記に記載の置換基が好ましい。
Bとして好ましくは、置換されていてもよいオキセタニル、置換されていてもよいテトラヒドロフラニル、若しくは、置換されていてもよいピリジルである。ここに、B上の置換基としては、上記に記載の置換基が好ましい。
Cとして好ましくは、置換されていてもよいフェニレン、置換されていてもよいチオフェンジイル、若しくは、置換されていてもよいピリジンジイルである。ここに、C上の置換基としては、上記に記載の置換基が好ましい。
1、R2として好ましくは、R1及びR2が結合している炭素と一体となってシクロヘキセン環を形成する場合である。
3として好ましくは、-OHである。
Xとして好ましくは、-O-低級アルキレン-*であり、より好ましくは-O-メチレン-*である。
Yとして好ましくは、単結合である。
Zとして好ましくは、メチレン、メチルメチレン、エチレンである。
本発明の特に好ましい態様としては、上記に記載の各好ましい基の組合わせからなる化合物である。
【0025】
本発明化合物は置換基の種類によっては幾何異性体や互変異性体が存在する場合があるが、本発明にはこれらの異性体の分離したもの、あるいは混合物が包含される。
また、本発明化合物は不斉炭素原子を有する場合があり、これに基づく(R)体、(S)体などの光学異性体が存在しうる。本発明はこれらの光学異性体の混合物や単離されたものを全て包含する。
【0026】
更に、本発明化合物には、薬理学的に許容されるプロドラッグも含まれる。薬理学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により、または生理学的条件下で本発明のNH2、OH、CO2H等に変換できる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、「プログレス・イン・メディシン(Progress in Medicine)」、ライフサイエンス・メディカ社、1985年、5巻、p.2157-2161や「医薬品の開発(第7巻)分子設計」、廣川書店、1990年、p.163-198に記載の基が挙げられる。
【0027】
本発明化合物は、酸付加塩または置換基の種類によっては塩基との塩を形成する場合もある。かかる塩としては、製薬学的に許容される塩であり、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マイレン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
さらに、本発明は、化合物(I)及びその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質をも包含する。
【0028】
(製造法)
本発明化合物(I)及びその製薬学的に許容される塩は、その基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基で保護、又は当該官能基に容易に転化可能な基に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような官能基としては例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基等であり、それらの保護基としては例えばグリーン(T. W. Greene)及びウッツ(P. G. M. Wuts)著、「プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)」、(米国)、第3版、ジョン・ウィレイ・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)社、1999年に記載の保護基を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行った後、必要に応じて保護基を除去、あるいは所望の基に転化することにより、所望の化合物を得ることができる。
【0029】
以下に本発明化合物の代表的な製造法を説明する。
(製法1)
【化6】

(式中、Lvは脱離基を示し、その他の記号は前記と同じ意味を表す。)
【0030】
本工程は化合物(II)を脱離基を有する化合物(III)を用いてアルキル化することにより本発明化合物(I)を製造する工程である。Lvで示される脱離基は、求核置換反応において常用される脱離基であればいずれでもよく、クロロ、ブロモ等のハロゲン、メタンスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ等のスルホニルオキシ、低級アルキルスルホニル、アリールスルホニル等のスルホニル等が好適に用いられる。本工程のアルキル化反応は当業者が通常用いうるアルキル化を採用することができる。例えば、無溶媒下、若しくはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等の反応に不活性な溶媒、あるいはアルコール類等の溶媒中、室温乃至加熱還流下に行うことができる。化合物によっては、有機塩基(トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン等が好適に用いられる)、又は金属塩塩基(炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、tert-ブトキシカリウム等が好適に用いられる)の存在下に行うことが、反応を円滑に進行させる上で有利な場合がある。
【0031】
また、式(III)においてLvが-OHである化合物を用いて、THF、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、DMF等の溶媒中、トリフェニルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、トリフェニルホスファイト、ジフェノキシフェニルホスフィン、ジフェニル(2-ピリジル)ホスフィン、(4-ジメチルアミノ)ジフェニルホスフィンなどのホスフィン及びジエチルアゾジカルボキシレート、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート、ジメチルアゾジカルボキシレート等のアゾジカルボキシレートの存在下、冷却下乃至室温下にて行うこともできる。
【0032】
(製法2)
【化7】

(式中、Rは低級アルキルを示し、その他の記号は前記と同じ意味を表す。)
【0033】
本工程は、加水分解によりR3が-ORである本発明化合物(I-a)より、R3が-OHである本発明化合物(I-b)を製造する工程である。本工程の加水分解反応は、例えば前記の「プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)」に記載の脱保護反応に準じて行うことができる。
【0034】
本発明化合物(I)の製造に使用する原料化合物は、例えば下記の方法、公知の方法、あるいはその変法を用いて容易に製造することができる。
(原料合成1)
【化8】

(式中、Lvは脱離基を示し、その他の記号は前記と同じ意味を表す。)
【0035】
第一工程
本工程は化合物(IV)を、脱離基を有する化合物(V)を用いてアルキル化することにより、化合物(VI)を製造する工程である。本工程のアルキル化は製法1と同様の方法で行うことができる。
【0036】
第二工程
本工程は化合物(VI)をニトロ化して化合物(VII)を製造する工程である。ニトロ化は当業者が通常採用しうる方法により製造することができる。例えば、酢酸、濃硫酸等の溶媒中、濃硝酸をニトロ化剤として行うことができる。
【0037】
第三工程
本工程はニトロ化合物(VII)を還元して化合物(VIII)を製造する工程である。本工程のニトロ基の還元反応は当業者が通常採用しうるニトロ基の還元反応を用いることができる。例えば、還元鉄、塩化スズ等の還元剤を用いた還元反応や、パラジウム-炭素等を触媒とした水素添加反応が挙げられる。
【0038】
(原料合成2)
【化9】

(式中、Lvは脱離基を示し、その他の記号は前記と同じ意味を表す。)
【0039】
第一工程
本工程は化合物(IX)を化合物(V)を用いてアルキル化することにより化合物(VII)を製造する工程である。本工程のアルキル化は製法1と同様の方法で行うことができる。
【0040】
第二工程
本工程はニトロ化合物(VII)を還元して化合物(VIII)を製造する工程である。本工程のニトロ基の還元は原料合成1の第三工程と同様の方法で行うことができる。
【0041】
(原料合成3)
【化10】

(式中、Lvは脱離基を示し、その他の記号は前記と同じ意味を表す。)
【0042】
本工程は化合物(VIII)を化合物(X)によりスルホニル化することにより、化合物(II)を製造する工程である。Lvの脱離基としてはクロロ、ブロモ等のハロゲンが好適に用いられる。反応は例えば、前記の「プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)」に記載のスルホニル化の条件が適用できる。具体的には、無溶媒下、又はテトラヒドロフラン、塩化メチレン、アセトニトリル等の溶媒中、必要によりトリエチルアミン、ピリジン等の塩基の存在下、冷却下乃至加熱還流下にて行うことができる。
【0043】
上記各製法により得られた反応生成物は、遊離化合物、その塩あるいは水和物など各種の溶媒和物として単離、精製することができる。塩は通常の造塩処理に付すことにより製造できる。
単離、精製は、抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等通常の化学操作を適用して行うことができる。
各種異性体は異性体間の物理化学的な差を利用して常法により単離できる。例えば、光学異性体は一般的な光学分割法、例えば分別結晶化またはクロマトグラフィー等により分離できる。また、光学異性体は、適当な光学活性な原料化合物より製造することもできる。
【0044】
本発明化合物(I)の有用性は以下の試験により確認した。
(1)EP1受容体発現細胞を用いた受容体拮抗活性の測定実験
ラットEP1を安定的に発現させたHEK293細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション社(American Type Culture Collection))を、実験前日に2×104細胞/ウェルとなるように、96ウェル(well) ポリ-D-リジン-コートプレート(商品名:バイオコートPDL96Wブラック/クリアー、日本ベクトンディッキンソン社)に分注し、37℃、5% 二酸化炭素(CO2)下にて、10%ウシ胎児血清(FBS)を含む培地(商品名:DMEM、インビトロジェン社)中、一晩培養する。培地をローディングバッファー(蛍光標識試薬(商品名:Fluo3-AM、同仁堂社)、4μMを含む洗浄溶液:ハンクスバランス塩溶液(HBSS)、20mM 2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)-水酸化ナトリウム(NaOH)、2.5mMプロベネシド、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA))に置き換え、室温で3時間静置した後、洗浄溶液をセットしたプレートウォッシャー(商品名:ELx405、バイオ-テック(BIO-TEK)インスツルメント社)にて細胞を洗浄する。洗浄溶液であらかじめ溶解、希釈した化合物を添加し、細胞内カルシウム(Ca)濃度測定システム(商品名:FLIPR、モレキュラーデバイス社)にセットする。5分後に最終濃度100nMとなるようにPGE2を添加し、細胞内Ca濃度変化を測定する。細胞内Ca濃度変化の最大値と最小値の差を算出し、測定データとして保存した。100nMのPGE2添加時を0%、バッファー添加時の応答を100%としたときに、50%阻害する濃度をIC50値として算出した。
結果を下記表1に示す。Exは後記実施例化合物番号を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
(2)EP1受容体発現細胞を用いた受容体結合実験
ラットEP1受容体は、N末端にシグナルペプチド(MKTIIALSYIFCLVFA:配列番号1)、およびFLAG配列(DYKDDDDK:配列番号2)を導入したうえ、発現ベクター(商品名:pCEP4、インビトロジェン社)へサブクローニングした。このラットEP1発現ベクターを、トランスフェクション試薬(商品名:Fugene-6、ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いてHEK293EBNA細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション社(American Type Culture Collection))にトランスフェクションした後、37℃、5% CO2下にて、10% FBSを含む培地(商品名:DMEM、インビトロジェン社)中、2日間培養した。培養後の細胞を回収し、細胞溶解液(20mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液pH7.5、 5mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA))にて細胞を処置し、超遠心(23000回転、 25分×2回)により膜標品を粗調整した。
調整した膜標品(15μg)と3H-PGE2を含む反応液(150μl、組成:10mM 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)/水酸化カリウム(KOH)pH6.0、 1mM EDTA、10mM 塩化マグネシウム(MgCl2)、0.02% 3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸(CHAPS))を、室温で1時間インキュベートした。反応を氷冷バッファーで停止し、減圧下、吸引ろ過して結合した3H-PGE2をガラスフィルター(商品名:ユニフィルター-96、 GF/B、パーキンエルマー社)にトラップし、結合放射活性をマイクロシンチ(商品名:マイクロシンチ20、パーキンエルマー社)を用いてマイクロプレートシンチレーションカウンター(商品名:トップカウント、パッカード社)で測定した。
解離定数(Kd)値と最大結合量(Bmax)値は、スキャッチャードプロットから求めた(「アナルス・オブ・ザ・ニュー・ヨーク・アカデミー・オブ・サイエンス(Annals of the New York Academy of Science)」、(米国)、1949年、第51巻、p.660)。非特異的結合は過剰量(2.5μM)の非標識PGE2の存在下での結合として求めた。本発明化合物による3H-PGE2結合阻害作用の測定は、3H-PGE2を2.5nM、および本発明化合物を添加して行った。
各化合物の阻害定数Ki(nM)は次式により求めた:
Ki=IC50/(1+([C]/Kd))
式中、[C]は反応系に用いた3H-PGE2濃度を表す。
結果を下記表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(3)酢酸誘発頻尿ラットに対する化合物の作用
化合物の抗頻尿作用を病態モデルを用いて検討した。酢酸のラット膀胱内処置により膀胱粘膜が障害され、侵害刺激伝達求心性神経が活性化されることが知られている(「ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(The Journal of Neuroscience)」、(米国)、1992年12月、第12巻、第12号、p.4878-89)。酢酸の膀胱内処置により頻尿状態が誘発されるため、これら症状に対する薬効評価が可能である。
実験には体重200〜450gのWistar系雄性ラット(チャールズリバー社)を用いた。ペントバルビタール(50mg/kg、 i.p.)麻酔下に腹部を正中切開して膀胱を露出し、27Gの注射針を装着したシリンジで膀胱内の残尿を除去した。その後1%酢酸溶液0.5〜0.7mLを膀胱内に注射し、閉創した。その2日後に実験を行った。ラットを代謝ケージに入れ、1時間馴化した後に、被検薬を投与し、その直後から6時間排尿重量変化を連続的に測定した。総排尿量を総排尿回数で除することにより、有効膀胱容量を算出した。その結果、酢酸膀胱内処置群においては偽手術群に比べて有効膀胱容量が減少し、頻尿状態を呈した。一方、本発明化合物は頻尿状態を良好に改善した。
以上の試験(1)〜(3)の結果より、本発明化合物は強力なEP1受容体拮抗作用を有すること、及び、動物実験において頻尿状態を良好に改善することが確認できた。
【0049】
本発明化合物またはその塩の1種または2種以上を有効成分として含有する製剤は通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、あるいは静注、筋注等の注射剤、坐剤、経皮剤、経鼻剤あるいは吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。投与量は症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常、経口投与の場合、成人1日当たり0.001 mg/kg乃至100 mg/kg程度であり、これを1回で、あるいは2〜4回に分けて投与する。また、静脈投与される場合は、通常、成人1回当たり0.0001 mg/kg乃至10 mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回投与される。また、経鼻投与の場合、通常、成人1回当たり0.0001 mg/kg乃至10 mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回投与される。また、吸入の場合は、通常、成人1回当たり0.0001 mg/kg乃至1 mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回投与される。
【0050】
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、一つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等の崩壊剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤または丸剤は必要により糖衣または胃溶性若しくは腸溶性コーティング剤で被膜してもよい。
【0051】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な溶剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な溶剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を含む。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体、半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、ラクトースや澱粉のような賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入または吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独でまたは処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液または懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回または多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末または粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカンまたは二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明化合物の製造例を挙げ、本発明化合物の製造方法を具体的に説明するが本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、本発明化合物の原料化合物には新規な化合物も含まれており、これらの化合物の製造方法を参考例として説明する。
【0053】
なお、参考例、実施例中の記号は以下の意味を示す(以下同様)。
Rf:参考例番号、Ex:実施例番号、No:化合物番号、Structure:構造式、Data:物理学的データ((EI:EI-MS([M]+); EP:ESI-MS(Pos)(無記載である場合は[M+H]+); EN:ESI-MS(Neg)([M-H]-) ; API:API-MS(Pos)(無記載である場合は[M+H]+); FP:FAB-MS(Pos)(無記載である場合は[M+H]+); FN:FAB-MS(Neg)(無記載である場合は[M-H]-); NMR1:DMSO-d6中の1HNMRにおける特徴的なピークのδ(ppm); NMR2:CDCl3中の1HNMRにおける特徴的なピークのδ(ppm); Sal:塩(無記載はフリー体であることを示し、例えばHClが記載されている場合、その化合物が塩酸塩であることを示す。))、Me:メチル、Et:エチル、Ph:フェニル、Py:ピリジル。置換基の前の数字は置換位置を示し、従って、例えば3,5-diF-Phは3,5-ジフルオロフェニルを示す。)、Syn:製造方法(数字は、その番号を実施例番号として有する実施例化合物と同様に、対応する原料を用いて製造したことを示す。数字の前にRが付いている場合はその番号を参考例番号として有する参考例化合物と同様に、対応する原料を用いて製造したことを示す。)。
【0054】
参考例1
5-ヒドロキシインダンをジメチルホルムアミド中、炭酸カリウム存在下、エチル 5-(ブロモメチル)チオフェン-2-カルボン酸と反応させることにより、エチル 5-[(2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イルオキシ)メチル]チオフェン-2-カルボン酸を製造した。
参考例2
エチル 5-[(2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イルオキシ)メチル]チオフェン-2-カルボン酸を酢酸中、濃硝酸を用いてニトロ化を行い、エチル 5-{[(6-ニトロ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}チオフェン-2-カルボン酸を製造した。
参考例3
2-ニトロ-4-(トリフルオロメチル)フェノールをジメチルホルムアミド中、炭酸カリウム存在下、メチル 4-(ブロモメチル)安息香酸と反応させることにより、メチル 4-{[2-ニトロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]メチル}安息香酸を製造した。
【0055】
参考例4
エチル 5-{[(6-ニトロ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}チオフェン-2-カルボン酸を酢酸中、還元鉄を用いてニトロ基の還元を行い、エチル 5-{[(6-アミノ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}チオフェン-2-カルボン酸を製造した。
参考例5
メチル 6-{[(6-アミノ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}ニコチン酸をピリジン中、4-メチル-1,3-チアゾール-2-スルホニルクロリドと反応させることにより、メチル 6-{[(6-{[(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル]アミノ}-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}ニコチン酸を製造した。
【0056】
上記参考例1〜5の方法と同様にして、後記表3〜7に示す参考例化合物をそれぞれ対応する原料を使用して製造した。表3〜7にの参考例化合物の構造及び物理化学的データを示す。
【0057】
実施例1
メチル 4-{[(6-{[(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル]アミノ}-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}安息香酸2.00g、(3-メチルオキセタン-3-イル)メタノール445mg、トリフェニルホスフィン2.29gをテトラヒドロフラン8.00mLに溶解し、これに氷冷下、ジエチルアゾジカルボキシレートの40%トルエン溶液3.97mLを滴下し、室温にて12時間攪拌した。反応液に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により精製を行い、メチル 4-{[(6-{[(3-メチルオキセタン-3-イル)メチル][(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル]アミノ}-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}安息香酸2.36gを製造した。
実施例2
メチル 4-{[(6-{[(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル]アミノ}-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}安息香酸459mgをDMF10.0mlに溶解し、これに5-(ブロモメチル)テトラヒドロフラン198mg、炭酸カリウム166mg、ヨウ化カリウム166mgを加え、100℃にて7時間攪拌した。反応液を減圧濃縮して得られた残渣に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製を行い、メチル 4-[({6-[[(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル](テトラヒドロフラン-2-イルメチル)アミノ]-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル}オキシ)メチル]安息香酸286mgを得た。
【0058】
実施例3
メチル 4-[({6-[[(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル](テトラヒドロフラン-2-イルメチル)アミノ]-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル}オキシ)メチル]安息香酸260mgをテトラヒドロフラン5.00mlとメタノール5.00mlに溶解し、これに1M水酸化ナトリウム水溶液2.00mlを加え、室温にて終夜攪拌した。反応液を減圧濃縮して得られた残渣に1M塩酸とクロロホルムを加え、有機層をIsotute社製Phase Separate-filterを用いて分離した。溶媒を減圧留去して得られた残渣にヘキサンと酢酸エチルを加え、析出した結晶を濾取した。得られた粗製物をヘキサン/酢酸エチルから再結晶し、4-[({6-[[(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル](テトラヒドロフラン-2-イルメチル)アミノ]-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル}オキシ)メチル]安息香酸219mgを得た。
実施例4
メチル 4-{[(6-{[(3-メチルオキセタン-3-イル)メチル][(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル]アミノ}-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}安息香酸1.64gをメタノール15.00mlに溶解し、これに1M水酸化ナトリウム水溶液3.10mlを加え、室温にて30分攪拌した。反応液を減圧濃縮して得られた粗結晶をエタノール/イソプロピルエーテルから再結晶し、4-{[(6-{[(3-メチルオキセタン-3-イル)メチル][(4-メチル-1,3-チアゾール-2-イル)スルホニル]アミノ}-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-5-イル)オキシ]メチル}安息香酸ナトリウム 1.7水和物1.51gを得た。
【0059】
上記実施例1〜4の方法と同様にして、後記表8〜16に示す実施例化合物をそれぞれ対応する原料を使用して製造した。表8〜16に実施例化合物の構造及び物理化学的データを示す。
【0060】
また、表17及び表18に本発明の別の化合物の構造を示す。これらは、上記の製造法や実施例に記載の方法及び当業者にとって自明である方法、またはこれらの変法を用いることにより、容易に合成することができる。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
【表9】

【0068】
【表10】

【0069】
【表11】

【0070】
【表12】

【0071】
【表13】

【0072】
【表14】

【0073】
【表15】

【0074】
【表16】

【0075】
【表17】

【0076】
【表18】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明化合物は、EP1受容体拮抗活性に優れており、EP1受容体が関与する疾患、特に過活動膀胱に伴う頻尿・尿意切迫感や尿失禁、膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎などの下部尿路疾患の治療薬として有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0078】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号1の配列で表されるアミノ酸配列は、人工的に合成したシグナルペプチド配列である。また、配列表の配列番号2の配列で表されるアミノ酸配列は、人工的に合成したFLAG配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるカルボン酸誘導体又はその製薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中の記号は以下の意味を示す。
1及びR2:同一又は互いに異なって、H、ハロゲン、低級アルキル、ハロゲノ低級アルキル、-OH、-O-低級アルキル、或いは、R1及びR2が結合している炭素原子と一体となって(1)シクロペンテン、(2)シクロヘキセン、(3)シクロへプテン、(4)シクロオクテン、又は(5)ベンゼン環を形成してもよく、
3:-OH、又は-O-低級アルキル、
A:置換されていてもよいフェニル、又は置換されていてもよい単環式ヘテロアリール、
B:置換されていてもよいヘテロ環基、
C:置換されていてもよいフェニル、又は置換されていてもよい単環式ヘテロアリール、
X:低級アルキレン、低級アルケニレン、-O-低級アルキレン-*、
又は-低級アルキレン-O-*、
Y:単結合、低級アルキレン、低級アルケニレン、又は*-O-低級アルキレン、
Z:低級アルキレン、
ただし、X及びYにおける*はC環への結合を示す。)

【公開番号】特開2009−57282(P2009−57282A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365566(P2005−365566)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】