説明

カーボンナノチューブ集合体及びそれを備える2端子スイッチ

【課題】異方性及び形状復元性を有する複数のCNTからなり、所望の位置に所望の形状で形成することのできる集合体及びそれを備える2端子スイッチを提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられ該基板の表面と平行な一方向に配向する複数のカーボンナノチューブを備えるカーボンナノチューブ層を備え、前記カーボンナノチューブ層は、純度;98質量%以上、本数密度;1.0×1012〜4.0×1013本/cm2を備え、かつ形状復元性を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体。前記カーボンナノチューブ集合体を備える2端子スイッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブからなる集合体及びそれを備える2端子スイッチに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、異方性及び形状復元性を有し、所望の位置に所望の形状で形成することのできるカーボンナノチューブ集合体及びそれを備える2端子スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノテク分野におけるマイクロマシン(MEMS)用デバイスの構成材料としてカーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する)を適用する機運が高まっている。例えばセンサのプローブや、リレー、メモリ等のスイッチング素子の可動接点を支持するための梁状体へのCNTの利用が期待されている。なお、本明細書において「梁状体」とは、少なくとも一方の端部が、基板又は基台の表面又は壁面から水平若しくはそれに近い方向に延設された細長い棒状の構造体を意味する。
【0003】
このような梁状体として、1本あるいは複数のCNTを用いた例(特許文献1)や、パターニングによって基板上に形成された溝及びモールドに、CNTを溶媒に分散させた懸濁液を塗布し、溶媒が蒸発した後にモールドを取り除くことでMEMS用デバイスなどを作製する技術(特許文献2)が知られている。
【特許文献1】特開2006−228818号公報
【特許文献2】特開2007−63116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1に記載のものは、形状を自由に設定できない上、バンドル化の防止を企図している(段落0048)ことに明らかな通り、複数のCNTを集合体化して用いる技術思想は認められない。より詳しく言うと、CNTからなる梁状体をMEMS用デバイス等に適合させるためには、電気的特性(例えば導電率)や光学的特性(例えば透過率)や機械的特性(例えば曲げ特性)などの物理特性が所望に応じて制御された梁状体を製作することが不可欠であるが、このような物理特性はその形状に依存する。この点に関し、特許文献1に記載の技術によると、上述の通り、所望の位置に所望の形状でCNT梁状体を形成することはできず、特に外力や電流を断った時に元の位置に復帰する形状復元性を得ることは困難である。
【0005】
他方、複数のCNTを同一方向に配向させたCNT集合体には、物理特性について、配向方向とそれに直交する方向とで異なる特性、すなわち異方性を持たせることができるが、特許文献2に記載のものは、その製法上、異方性を持たせることは困難である。また複数のCNTの向きがランダムであると、均一に且つ隙間なく複数のCNTを充填することができないため、特許文献2に記載のものでは、所望の機械的強度を備えた高密度なCNT層を得ることも困難である。
【0006】
つまるところ従来の技術によると、異方性及び形状復元性を有する梁状体を、CNT集合体を用いて所望の位置に所望の形状で形成することは極めて困難であり、制御され且つ安定した物理特性を持つCNTからなる梁状体を、歩留まりよく製造することはできなかった。なお、本明細書においてCNT集合体とは、複数のCNT(例えば本数密度が5×1011本/cm以上)が層状または束状に集合した構造体を意味する。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実状に鑑みてなされたもので、異方性及び形状復元性を有する複数のCNTからなり、所望の位置に所望の形状で形成することのできる集合体及びそれを備える2端子スイッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記課題を解決するため、以下の発明が提供される。
【0009】
〔1〕複数のCNTからなる梁状体1、11を、同一方向に配向した複数のCNTからなり、その重量密度が0.1〜1.5g/cm、より好ましくは0.2〜1.5g/cmのCNT集合体25で形成されているものとする。このようにすれば、異方性及び形状復元性を有する梁状体を得ることができる(図1、図2)。より詳しく言うと、同一方向に配向した複数のCNTは、均一に且つ隙間なく充填することが容易である。かかるCNT集合体は、ファン・デア・ワールス力で複数のCNT同士が強く結合しており、高密度なものとすることにより、一体性、形状保持性を有する云わば固体状の物質となり、MEMS用デバイス等に必要な物理特性を備えたものとなる。従ってCNT集合体に求められるCNTの配向性は、高密度化工程の実施が可能となり、MEMS用デバイス等を実用化する上でのCNT集合体の一体性、形状保持性、並びに形状加工性が許容される程度であればよく、必ずしも完全である必要はない。
【0010】
〔2〕複数のCNTからなる梁状体の製造方法として、金属触媒のパターンを表面に形成してなる基板を用い、前記金属触媒のパターンから複数のCNTを同一方向に化学気相成長させる化学気相成長工程S1と、前記複数のCNTからなるCNT集合体を前記基板の表面に倒伏させる倒伏工程S2と、前記基板の表面に倒伏した前記CNT集合体をその重量密度が0.1〜1.5g/cm、より好ましくは0.2〜1.5g/cmとなるように高密度化する高密度化工程S3と、前記高密度化したCNT集合体の無用部分を選択的に除去する除去工程S4とを含むこととする(図3)。このようにすれば、周知のパターニング技術やエッチング技術を適用し得るので、異方性及び形状復元性を有する梁状体を、所望の位置に所望の形状で容易に形成することができる。
【0011】
〔3〕特に前記倒伏工程を、前記CNT集合体を液体に浸した後に引き上げて前記基板の表面に倒伏させる工程とし、前記高密度化工程を、前記倒伏工程の後に、前記CNT集合体を乾燥させる工程とする。これにより、局部的に応力が集中することなく均一に高密度化したCNT集合体を得ることができる。
【0012】
〔4〕複数のCNTからなる梁状体の製造方法として、金属触媒膜を表面に形成してなる基板を用い、前記金属触媒膜から複数のCNTを同一方向に化学気相成長させる化学気相成長工程と、前記同一方向に配向した複数のCNTからなるCNT集合体を、第2の基板の表面にその配向軸を該第2の基板の表面と平行にして載置する載置工程と、前記第2の基板の表面に載置した前記CNT集合体をその重量密度が0.1〜1.5g/cm、より好ましくは0.2〜1.5g/cmとなるように高密度化する高密度化工程と、前記高密度化したCNT集合体の不用部分を選択的に除去する除去工程とを含むこととする。これにより、異方性及び形状復元性を有する梁状体を、所望の位置に所望の形状で容易に形成することができることはもとより、CNT集合体を成長させる基板と梁状体を形成する基板とが別々になるので、梁状体を形成する基板の加工自由度を高められる。
【0013】
〔5〕特に前記高密度化工程を、前記CNT集合体を液体に晒して前記第2の基板に載置した状態で乾燥させる工程とするとよい。
【0014】
上記のような技術的手段ないし手法を採用した本発明によれば、同一方向に配向した複数のCNTからなるCNT集合体で形成された梁状体を所望の位置に形成することができる。また高密度なCNT集合体は、保形性が高まるので形状復元性が得られると共に、周知のパターニング技術やエッチング技術を適用し得るので、所望の形状の梁状体を容易に形成することができる。特に梁状体の物理特性は形状に依存するため、所望の形状の梁状体が形成可能なことは、所望の物理特性を持つ梁状体の形成を可能にし、梁状体のMEMS用デバイス等への適応性が高まることを意味する。即ち本発明により、異方性及び形状復元性を有するCNT集合体からなり、所望の位置に所望の形状で形成することのできる梁状体を提供する上に多大な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る梁状体の構造を示す模式的断面図であり、(a)は片持ち梁タイプを、(b)は両持ち梁タイプを示す。
【図2】図2は、本発明の梁状体の製造方法の一例を示す模式図であり、(a)は溝付き基板上に金属触媒の直線状パターンを形成した様子を示す平面図、(b)は溝付き基板上の垂直配向した複数のCNTを倒伏させた様子を示す側面図、(c)は基板上に垂直配向したCNTを液体に浸した後に引き上げる様子を示す図、(d)は溝付き基板上にCNT層が被着した状態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の物品の製造方法の概略工程を示すフロー図である。
【図4】図4は、CNT層を被着させた溝付き基板の電子顕微鏡写真像である。
【図5】図5は、図4に示す基板の一部を拡大して示す電子顕微鏡写真像である。
【図6】図6は、実施例の製造に用いたCVD装置の概略構造図である。
【図7】図7は、高密度化したCNT層の表面の一部を拡大して示す走査型原子間力顕微鏡写真像である。
【図8】図8は、CNT層の光透過率の異方性を示す測定グラフである。
【図9】図9は、片持ち梁の一例を示す電子顕微鏡写真像である。
【図10】図10は、両持ち梁の一例を示す電子顕微鏡写真像である。
【図11】図11は、基板に溝を形成し、その溝の上方に梁状体を形成する製造方法の一例を示す模式図である。
【図12】図12は、図11に示す製造方法で製造された梁状体の電子顕微鏡写真像である。
【図13】図13は、別の製造方法で製造された梁状体の光学顕微鏡写真像である。
【図14】図14は、本発明が適用された水平動作型2端子スイッチを示し、(a)はその電子顕微鏡写真像であり、(b)は平面図である。
【図15】図15は、長さが互いに異なる梁状体におけるそれぞれの共振周波数と長さとの関係を示すグラフである。また、表は測定から得られたCNT梁状体の音速及び過去に報告されている単結晶シリコンの(111)方向の音速を示す。さらに、2つの式は、弾性体の片持ち梁および両持ち梁の長さと共振周波数との関係を示す理論式である。
【図16】図16は、CNT梁状体が電圧印加によって変位する様子を示した電子顕微鏡写真像である。
【図17】図17は、CNT梁状体に外力を加えた様子を示す電子顕微鏡写真像である。
【図18】図18は、高密度化工程前後のフィルム状CNT集合体の厚さ変化を示す関係図である。
【図19】図19は、高密度化工程前のフィルム状CNT集合体の厚さと高密度化工程後のフィルム状CNT集合体の重量密度との関係図である。
【図20】図20は、CNTの直径と最密充填した時の重量密度との関係線図である。
【符号の説明】
【0016】
1 片持ち梁
2 基板
3 段差
4 張出部
11 両持ち梁
12 基板
13 凹部
14 架橋部
22 基板
23 凹部
24 金属触媒膜
25 CNT集合体
26 液体
27 CNT層
S1 化学気相成長工程
S2 倒伏工程
S3 高密度化工程
S4 除去工程
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1に本発明による梁状体の一実施形態の典型的な構造例を断面図で模式的に示す。図1(a)は、一端が固定された片持ち梁タイプの梁状体1(以下片持ち梁とも称す)であり、図1(b)は、両端が固定された両持ち梁タイプの梁状体11(以下両持ち梁とも称す)である。片持ち梁1は、同一方向に配向した複数のCNTからなるCNT集合体で構成され、一端が基板2の表面に接し、他端が基板2に形成された段差3の上方へ張り出し、その張出部4がフリーとなっている。また、両持ち梁11も、片持ち梁1と同様のCNT集合体で構成され、基板12に形成された凹部13の上方に架け渡され、両端が基板12の表面と接し、凹部13の上方に架け渡された架橋部14がフリーとなっている。
【0019】
両梁状体1、11は、基板2、12の表面と平行な一方向に配向する複数のCNTの集合体から構成されている。このため、CNTの配向方向とそれに直交する方向とで電気的特性や光学的特性や機械的特性などの物理特性の異方性を持たせることができる。
【0020】
このCNTの配向方向としては、梁状体の用途に応じていずれの方向へも配向させることができるが、機械的強度の異方性により、一般的な梁に要求される曲げ強度についてより高い値を示すことから、典型的には、両梁状体1、11の長手方向もしくはそれに近い方向と平行に配向させることが好ましい。
【0021】
両梁状体1、11を構成するCNT集合体は、互いに隣接するCNT同士が配向しているため、ファン・デア・ワールス力によって強く結合した状態となっており、その重量密度は、0.1g/cm以上、より好ましくは0.2g/cm以上である。このように、両梁状体1、11構成するCNT集合体におけるCNTの重量密度が上記の値以上であると、均一に且つ隙間なくCNTが充填され、両梁状体1、11が固体としてのリジッドな様相を呈し、所要の機械的強度(弾性、剛性等)が得られるようになる。この逆に、CNTの重量密度が上記の値に満たないと、CNT集合体を構成するCNT同士間に有意な隙間が発生する。そのため、CNT集合体がリジッドな固体ではなくなり、所要の機械的強度が得られなくなることはもとより、周知のパターニング技術やエッチング技術を適応した際に、例えばレジスト等の薬液がCNT同士間の隙間に沁み込んでしまい、梁状体を所望の形状に形成することが困難となる。ここでCNT集合体におけるCNTの重量密度は、一般的には大きければ大きいほど好ましいが、製造上の制限から、その上限値は1.5g/cm程度である。
【0022】
両梁状体1、11の厚さ、幅、長さは、用途に応じて適宜設定でき、またその断面形状は、四角形、円形、楕円形、多角形等、各種形状とすることができる。これら梁状体1、11の大きさや断面形状は、長さ方向にわたって均一であってもよいし変化していてもよい。
【0023】
両梁状体1、11を構成するCNT集合体のCNTは、単層CNTであってもよいし多層CNTであってもよい。いずれの種類のCNTを用いるかは、両梁状体1、11の用途に応じて決めることができ、例えば、高い導電性や可撓性などが要求される場合には単層CNTを用いることができ、剛性や金属的性質などが重視される場合には多層CNTを用いることができる。
【0024】
なお、上記では、段差3あるいは凹部13を有する基板2、12上に梁状体1、11を設けるものとしたが、本発明によれば、直方体状の空間を形成する凹部や、皿の内側のような略半球状空間あるいはそれを変形させた形状の空間を形成する凹部をはじめ、任意形状の凹部の上に張り出すように、あるいは架橋するように、梁状体を設けることができる。
【0025】
次に、本発明に係る梁状体の製造方法について述べる。
【0026】
本発明に係る梁状体の製造方法は次の各工程よりなる。
A.化学気相成長工程
金属触媒膜を表面に形成してなる基板を用い、金属触媒膜から基板の表面と交差する一定方向に複数のCNTを化学気相成長(以下CVDとも称す)させる。ここで複数のCNTの成長する方向は、一般的には基板の表面に対して垂直方向であるが、実質的に一定方向でありさえすれば、その角度に格別な規定はない。
B.倒伏工程
基板から成長した複数のCNTからなるCNT集合体を液体に浸した後に引き上げて基板の表面に倒伏させる。
C.高密度化工程
基板の表面に倒伏した状態でCNT集合体を高密度化する。
D.除去工程
高密度化したCNT集合体の一部(不用部分)を選択的に除去する。
【0027】
以下、本発明による梁状体の製造方法の一例について図2及び図3を参照して更に具体的に説明する。
【0028】
先ず、化学気相成長工程(図3のステップS1)においては、図2(a)に示すように、真っ直ぐな溝状の凹部23と直線状パターンの金属触媒膜24とが、互いに適宜な間隔をあけて平行に形成された基板22を用意する。そしてこれらの金属触媒膜24から基板22の表面と交差する一定方向(基板22に対して垂直な方向)に、CVD法によって複数のCNTを成長させる。なお、本実施形態においては、複数の凹部23と直線状パターンの金属触媒膜24とが互いに平行に形成された基板22を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
複数のCNTを化学気相成長させるのに用いる基板22としては、従来周知の各種の材料を用いることができ、典型的には、鉄、ニッケル、クロム等の金属および金属の酸化物やそれらの合金、あるいはシリコン、石英、ガラス等の非金属、あるいはセラミックス等からなる表面が平坦なシート材や板材などを使用することができる。
【0030】
金属触媒膜24としては、これまでCNTの製造に使用された実績のある適宜な金属を用い、周知の成膜技術を用いて形成することができる。典型的には、マスクを用いたスパッタリング蒸着法で成膜した金属薄膜、例えば鉄薄膜、塩化鉄薄膜、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、アルミナ−鉄−モリブデン薄膜等を例示することができる。
【0031】
この金属触媒膜24の膜厚は、触媒として用いる金属に応じた最適値に設定すればよく、例えば、鉄金属を用いた場合には、0.1nm以上100nm以下が好ましい。
【0032】
金属触媒膜24の幅は、最終的に用いる梁状体の所要厚さに応じて設定することができ、高密度化後における梁状体の厚さの5〜20倍程度の値に設定される。
【0033】
CVD法におけるCNTの原料となる炭素化合物としては、従来と同様に、炭化水素、なかでも低級炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン等や、これらの混合気体が好適なものとして使用可能である。
【0034】
反応の雰囲気ガスは、CNTと反応せず、成長温度で不活性であればよく、そのようなものとしては、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、ネオン、クリプトン、二酸化炭素、塩素等や、これらの混合気体が例示できる。
【0035】
反応の雰囲気圧力は、これまでCNTが製造された圧力範囲であれば適用可能であり、例えば102Pa〜107Paの範囲の適切な値に設定することができる。
【0036】
CVD法における成長反応時の温度は、反応圧力、金属触媒、原料炭素源等を考慮することにより適宜定められるが、通常、400〜1200(より好ましくは600〜1000)℃の範囲であるとCNTを良好に成長させることができる。
【0037】
また、CNT集合体の製造方法としては、本発明と同一出願人が先に提案した、反応雰囲気中に水分などを存在させて多量の垂直配向CNTを成長させる方法(Kenji Hata et al, Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes, SCIENCE, 2004.11.19, vol. 306, p. 1362-1364、あるいはPCT/JP2008/51749号明細書などを参照されたい)を適用するとよい。
【0038】
この方法によって得られたCNTは、純度98質量%以上、重量密度0.03g/cm程度、比表面積600〜1300m(未開口)/1600〜2500m(開口)、異方性の大小の大きさ比が1:3以上、最大1:100という優れた特性を有しており、これに倒伏、高密度化工程を施したものは本発明の梁状体に好適に適用可能である。
【0039】
なお、本発明に適用可能な垂直配向のCNT集合体を得るための技術としては、種々の公知の方法を適宜用いることができ、例えば、プラズマCVD法(Guofang Zhong et al, Growth Kinetics of 0.5 cm Vertically Aligned Single-Walled Carbon Nanotubes, Journal of Physical Chemistry B, 2007, vol. 111, p. 1907-1910)を用いてもよい 。
【0040】
次のCNT倒伏工程(図3のステップS2)においては、図2の(c)に示すように、同一方向へ同時に成長した複数のCNTにてフィルム状をなすCNT集合体25が形成された基板22の全体を液体26に浸した後、液体26から一定速度で引き上げる。そうすると図2の(b)の右側の図と(c)の右側の図に模式的に示すように、CNT集合体25が基板22上に倒伏する。これにより、複数のCNT集合体25にて基板22の表面が覆われる。
【0041】
ここで浸す液体26としては、CNTと親和性があり、蒸発後に残留する成分がないものを使用することが好ましい。このような液体としては、例えば水、アルコール類(イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール)、アセトン類(アセトン)、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。また液体に浸す時間としては、CNT集合体25の内部に気泡が残らずに全体が満遍なく濡れるのに十分な時間であればよい。
【0042】
なお、CNT集合体25を倒伏し且つ高密度化する手法としては、ローラやプレス板などを圧接してCNT集合体25を基板22の表面に押し倒した後に霧吹き等を用いて液体を含浸させる方法も考えられるが、固体を押し当ててCNT集合体25を倒伏させると、局部的に応力が集中してCNTがダメージを受けたり、CNT集合体25の全体、もしくは一部が押し当てた固体に付着したりする不都合が生ずるので、上述の液体26に浸す手法が好ましい。
【0043】
次の高密度化工程(図3のステップS3)においては、基板22の表面に倒伏した状態にある複数のCNT集合体25を高密度化し、基板22の表面に被着したCNT層27を形成する。この工程は、典型的には、液体26が付着したCNT集合体25を乾燥させることで行う。CNT集合体25を乾燥させる手法としては、たとえば室温窒素雰囲気下での自然乾燥、真空引き乾燥、アルゴン等の不活性ガス存在下での加熱などを用いることができる。
【0044】
CNT集合体25は、液体26に浸されると、各CNT同士が密着して全体の体積が少し収縮し、液体を蒸発させるときに密着度がより一層高まって体積がかなり収縮し、結果として高密度化したCNT層27が形成される。このとき、基板22との接触抵抗により基板22と平行な面の面積収縮はほとんど無く、専らCNT層27の厚さ方向に収縮する。そのため、高密度化の前後で配向状態が変化せず、成長時の配向状態がそのまま継承される。
【0045】
以上の各工程により、基板22の表面と平行な一方向に配向する複数のCNT集合体25からなるCNT層27が被着された基板22が完成する。
【0046】
このようにして得られたCNT層27の主要な特性は以下の通りである。
CNT直径:1〜5nm(平均2.8nm)単層CNT
重量密度:0.1〜1.5g/cm(より好ましくは0.2〜1.5g/cm
本数密度:1.0×1012〜4.0×1013本/cm
充填率:25〜75%
ビッカース硬度:5〜100Hv
【0047】
このようにして形成されたCNT層27におけるCNTの重量密度が上記の範囲であると、例えばCNT層27上にレジストを塗布し、リソグラフィーでレジストに任意のパターンを描き、レジストをマスクとしてCNT層27の不用部分をエッチングし、任意形状の梁状体を形成することが容易に実行可能となる。すなわちこれによれば、CNT層27に対して周知のパターニング技術やエッチング技術を適用しての加工が可能となり、集積回路製造プロセスとの親和性が高まる。
【0048】
CNT層27の厚さは、梁状体の用途に応じてその望ましい値を任意に設定することができるが、これが10nm以上であると、膜としての一体性を保持できるようになると共に、電子デバイスやMEMS用デバイスとしての機能を発揮する上に要する導電性が得られるようになる。この膜厚の上限値に格別な制限はないが、本発明が対象とする梁状体に利用する場合は、100nm〜50μm程度の範囲が好ましい。
【0049】
図4にCNT層27が被着された溝付き基板22の一例の電子顕微鏡写真像を示し、図5に図4の電子顕微鏡写真像を異なる倍率で示す。
【0050】
次の除去工程(図3のステップS4)においては、CNT層27の表面に所定パターンのレジスト層を形成し、次いでCNT層27におけるレジスト層から露出した部分をエッチングにより除去し、その後にレジスト層を除去する。これにより、基板2に予め形成された段差3の上方に張り出した遊端を備えた片持ち梁1(図1−a)、あるいは基板12に予め形成された凹部13の上方に架橋された両持ち梁11(図1−b)が作製される。
【0051】
上述の製造方法においては、CNT集合体25を成長させた基板22をそのまま梁状体1、11を設ける基板2、12として用いるものとしたが、本発明においては、梁状体1、11を設ける基板2、12を、CNT集合体25を成長させた基板22とは別の第2の基板(図示せず)とすることもできる。第2の基板に梁状体を設ける場合は、垂直配向してフィルム状に成長したCNT集合体25を成長基板22の表面から取り外し、それを液体に晒した上でその配向軸を第2の基板の表面と平行にして該第2の基板の表面に載置するか、あるいは成長基板22から取り外したフィルム状CNT集合体25を、その配向軸を第2の基板の表面と平行にして該第2の基板の表面に載置した状態で液体に晒すかした上で乾燥させればよい。この場合、上述の倒伏工程(図3のステップS2)に替えて、成長基板22から取り外したCNT集合体25を第2の基板の表面に載置する工程とすればよい。ここで第2の基板には、必要に応じて段差あるいは凹部を予め形成しておけばよいことは言うまでもない。
【0052】
液体に晒したCNT集合体25を第2の基板の表面に載置した状態で乾燥させることで行う高密度化工程や、第2の基板の表面にて高密度化したCNT層の表面に所定パターンのレジスト層を形成し、次いでCNT層におけるレジスト層から露出した部分をエッチングにより除去した後にレジスト層を除去することで行う除去工程については、上述の製造工程と基本的に同様である。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明についてさらに詳しく説明する。もちろん、以下の例のみに本発明が限定されることはない。
【0054】
〔実施例1〕
先ず、CNT集合体を成長させる基板と梁状体を形成する基板とが共通の例について説明する。
【0055】
厚さが100nmの酸化膜を有するシリコン基板に周知の反応性イオンエッチング法を用い、深さ10μm、幅10μm、長さ50μmの溝を形成し、溝付き基板とした。
【0056】
同基板上の溝に沿う位置に、厚さ1nm、幅4μm、長さ30μmの直線状パターンの鉄金属触媒膜を、周知のスパッタリング蒸着法を用いて成膜し、以下の条件において、公知のCVD法により基板上にCNT集合体を成長させた。
【0057】
原料ガス:エチレン;供給速度1000sccm
雰囲気ガス:ヘリウム、水素混合ガス;供給速度1000sccm
圧力1大気圧
水分(存在量):150ppm
反応温度:750℃
反応時間:10分
【0058】
本実施例に適用するCNT集合体の製造に用いたCVD装置の一例を図6に示す。このCVD装置31は、金属触媒を担持した基板22を受容する石英ガラスからなる管状の反応チャンバ32(直径1インチ)と、反応チャンバ32を外囲するように設けられた加熱コイル33と、原料ガス34並びに雰囲気ガス35を供給すべく反応チャンバ32の一端に接続された供給管36と、反応チャンバ32の他端に接続された排気管37と、図示省略したキャリアガスと共に水蒸気38を供給すべく供給管36の中間部に接続された水蒸気供給管39とからなる。また非常に微量の水蒸気を高精度に制御して供給するために、原料ガス並び雰囲気ガスの供給管36には、原料ガス34並びに雰囲気ガス35から酸化物質を除去するための純化装置40が付設されている。さらに図示していないが、流量制御弁や圧力制御弁などを含む制御装置が適所に付設されている。なお、本発明に適用可能なCNT集合体を製造可能なCVD装置は、上に例示した構成に限るものではない。
【0059】
ここで原料ガスと共に基板22の金属触媒膜24に接触させる水蒸気は、CNTの成長雰囲気中に加えることにより、触媒の活性を向上したり、触媒の寿命を延ばしたりする効果があり、結果として、効率よくCNTの成長を行うことを可能にするものである。水蒸気のこのような機能のメカニズムは、以下のように推察される。つまり水蒸気を含まないCNT合成法においては、触媒微粒子がすぐにカーボン膜に覆われて失活してしまう。これに対し、水蒸気を雰囲気中に含ませるCNT合成法によると、触媒膜24に水蒸気が接触すると、触媒微粒子を覆うカーボン膜を水蒸気が取り除いて触媒の地肌を清浄にする結果、触媒を賦活させるものと考えられる。
【0060】
このような機能をもつ物質としては、一般には酸素を含む物質であり、成長温度でCNTにダメージを与えずに上記作用を発現する物質であれば何でもよく、水蒸気の他に、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類や、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、アルデヒドロ類、酸、エステル類、酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物の使用も反応条件に応じて許容される。
【0061】
また、原料ガスの供給に先立って、雰囲気ガスに還元ガスを混入し、これを金属触媒膜24に所定時間接触させるとよい。これにより、金属触媒膜24に存在する金属触媒が微粒子化され、例えば単層CNTの成長に適合した状態に金属触媒が調整される。ここで適切な金属触媒膜の厚さ並びに還元反応条件を選択することにより、直径数ナノメートルの触媒微粒子を、1.0×1011〜1.0×1013(個/cm)の密度に調整可能である。この密度は、基板の触媒膜形成面に直交する向きに配向した複数のCNTを成長させるのに好適である。なお、還元ガスとしては、金属触媒に作用してCNTの成長に適合した状態の微粒子化を促進し得るガスであればよく、例えば水素ガス並びにアンモニアや、これらの混合ガスが使用可能である。
【0062】
これによって垂直配向のCNT集合体25が成長した基板22を、液体26(例えばイソプロピルアルコール、以下IPAと略称する)に10秒間浸した後に一定速度で引き上げ、室温窒素雰囲気下で自然乾燥させることにより、一定厚みの高密度化したCNT層を基板の溝上に被着させた。合成直後4μm厚であったシート状のCNT集合体は、IPAから引き上げて乾燥したところ、250nm厚に圧縮されていた。その様子を図7に走査型原子間力顕微鏡写真像で示す。図7から、このCNT集合体が高密度で優れた配向性を有していることがわかる。なお、ここで使用したIPA以外に、エタノール、メタノール、アセトンを用いても同様の作用が得られた。
【0063】
図8に、異方性の一例として、本発明の梁状体に適用されるCNT集合体の光透過率の測定例を示す。図8から、配向方向に対する角度が異なると透過率が変化し、異方性が発現していることがわかる。
【0064】
本実施例におけるCNT層は、膜厚が250nm、重量密度が0.464g/cm、CNTの本数密度が8.0×1012本/cm、充填率が50%、ビッカース硬度が7Hv、比表面積が1000m/g、純度が99.98質量%、であった。
【0065】
次に、上記のようにして形成したCNT層に、レジスト(HSQ)(FOX16/ダウコーニング社製)をスピンコート法で塗布し、90℃で10分間ベークした。ここでFOX16は、CNT層27に直接コーティングするとCNT層27に浸み込んでしまうので、下地処理(PMMA495/マイクロケム社製の5倍希釈液をスピンコート法で塗布、180℃で1分間ベーク)を行うとよい。ここでCNT層が極薄の場合、あるいは梁状体の所要スパンが大きい場合は、レジストの重さでCNT層が撓んでしまうことを避けるために、できるだけ比重の小さいレジストを用いることが好ましい。
【0066】
次に、電子線描画装置(CABL8000/クレステック社製)にてレジスト被膜に適宜な幅のストライプ状のパターンを描画し、それを水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(2.38%、ZTMA-100/日本ゼオン社製)で現像してマスクを形成した。これを反応性イオンエッチング装置(RIE-200L/サムコ社製)にてO及びArを供給し、CNT層27のマスクから露出した部分、すなわち不用部分を除去した。具体的には、まず、O:80W、10sccm、7minの条件でエッチングを施した後、連続して、O及びArをそれぞれ同時に10sccm、供給しながら、80W、10Pa、3minの条件でエッチングを施した。ここでArを導入することにより、CNTのケバがきれいに除去され、シャープなエッジが得られた。
【0067】
最後にFOX16のマスクを緩衝弗酸(4.7%HF,36.2%NHF,59.1%HO/森田化学工業社製)で、PMMA495のマスクを剥離剤(Remover PG/マイクロケム社製)で、それぞれ除去し、且つIPA等で洗浄することにより、図9に示す片持ち梁と図10に示す両持ち梁のモデルを得た。このモデルの寸法は以下の通りであった。
【0068】
厚さ:250nm
長さ:片持ち梁/2μm、5μm、7μm、両持ち梁/10μm
幅:2μm、5μm
断面形状:長方形
CNTの種類:単層
【0069】
なお、所望の梁状体が微細な場合は、洗浄液が気化する際にCNT層との界面に作用する表面張力で梁状体が変形する虞があるので、超臨界乾燥を行うことが好ましい。
【0070】
以上にて、本発明による梁状体が、周知のパターニング技術及びエッチング技術を適用して製造可能であることが分かった。
【0071】
〔実施例2〕
次に化学気相成長工程で得られたCNT集合体を、化学気相成長工程で用いた成長基板とは別の第2の基板に被着して梁状体を形成する製造方法について図11を参照して説明する。
【0072】
第2の基板として500nmの酸化膜付きのシリコン基板41を用意し、これの表面をIPAで超音波洗浄した後にOプラズマを300Wで1分間照射して清浄化した上で、レジスト(ZEP−520A/日本ゼオン社製)をスピンコート法で塗布し、150℃で3分間ベークした。
【0073】
次に、電子線描画装置(CABL8000/クレステック社製)を用いてレジスト層に溝(又は段差)をパターンニングし、現像液(ZED-N50/日本ゼオン社製)を用いて現像し、溝とする部分にマスクを形成した。その後、マスクから露出した部分に厚さ100nmとなるようにNiをスパッタリング蒸着した後、ストリップ液(ZDMAC/日本ゼオン社製)でレジストを除去し、かつIPAでリンスした。このようにして表面の一部がNi層42でマスクされたシリコン基板41が得られた(図11-a)。
【0074】
このNi層マスク付きシリコン基板41の表面をOプラズマで清浄化し、Ni層42のパターンをマスクとして酸化膜と共にシリコン基板41を反応性イオンエッチング装置(RIE-200L/サムコ社製)にてCHF、SF、及びOを供給し(CHF:100W,8.5Pa,40sccm,45min/SF:100W,8.5Pa,60sccm,45min/O:100W,8.5Pa,55sccm,45min)、シリコン基板41をエッチングして溝42を形成した(図11-b)。具体的には、CHF、SF、及び、Oをそれぞれ同時に、40sccm、60sccm、及び55sccm供給した状態で、100W、8.5Pa、45minの条件でエッチングを施した。
【0075】
このようにして加工されたシリコン基板41の表面に、別工程で製造したフィルム状のCNT集合体を載置し、それをIPAに満遍なく晒し、真空引き中で180℃で10分間ベークして乾燥させた。これにより、CNT集合体が高密度化すると共にシリコン基板41の表面に密着し、表面にCNT層44が形成されたシリコン基板41を得た(図11-c)。CNT層44の重量密度は0.464g/cmであった。ここでシリコン基板41の表面に残ったNi層42が、CNT層44の密着性をより一層高める作用をなす。
【0076】
次に、シリコン基板41の表面に被着したCNT層44に、上記第1実施例と同様に、FOX16及びPMMA495をスピンコート法で塗布し且つ焼成してレジスト層を形成し、このレジスト層により、第1実施例と同様にして所定パターンのマスク45を形成した(図11-d)。そして反応性イオンエッチング装置にてCNT層44のマスク45から露出した不用部分を除去した(図11-e)。
【0077】
最後にマスク45を除去し、且つ洗浄することにより、図12に示す通り、溝の上方へ張り出した部分にダレなどを生じない両持ち梁タイプ並びに片持ち梁タイプのCNT梁状体のモデルを得た。このモデルの寸法は以下の通りであった。
【0078】
厚さ:250nm
長さ:片持ち梁/1〜7μm(1μmおき)、両持ち梁/10μm
幅:2μm
断面形状:長方形
CNTの種類:単層
【0079】
以上にて、成長基板とは別の第2の基板に転写したCNT層に、本発明による梁状体が、周知のパターニング技術及びエッチング技術を適用して製造可能であることが分かった。
【0080】
〔実施例3〕
次に、化学気相成長工程で用いた成長基板とは別の第2の基板に被着したCNT層から梁状体を形成する製造方法の別例について説明する。
【0081】
先ず、厚さが500nmの酸化膜を表面に有するシリコン基板(第2の基板)の裏面(酸化膜が無い面)を、一辺が200μmの正方形の穴を残してレジストマスク(ZEP−512A)で被覆し、これをCsOHに一晩浸してシリコン基板の裏面をウェットエッチングした。これにより、当該シリコン基板における200μm角の部分が、500nm厚の酸化膜のみを残して除去された。
【0082】
次いで、シリコン基板の表面、即ち酸化膜上に、実施例2の手法と同様にして別工程で製造したCNT集合体を載置し且つ高密度化処理を施すことにより、シリコン基板の表面(酸化膜上)におけるウェットエッチングで形成された200μmの角穴の部分に、厚さが250nm、重量密度が0.464g/cmのCNT層を被着した。さらに実施例2の手法と同様にリソグラフィー技術及び反応性イオンエッチング技術を用いてCNT層の不用部分を除去した。このとき、CNT層の下部には酸化膜があるため、レジストにはFOX16のみを用い、PMMA495は用いなかった点が実施例2とは異なる。
【0083】
最後に、弗酸蒸気を用いて500nm厚の酸化膜及びレジストFOX16を除去することにより、図13に示す通り、一辺が200μmの角穴(中央の黒く見える部分)の対向内縁間を架橋する両持ち梁タイプの梁状体(図13の最上位の1つ)、並びに角孔の内方へ張り出す片持ち梁タイプの梁状体が得られた。
【0084】
これらの梁状体の寸法は以下の通りであった。
厚さ:250nm
長さ:片持ち梁/10〜60μm(10μmおき)、110μm、150μm
両持ち梁/200μm
幅:20μm
CNTの種類:単層
【0085】
この手法によれば、シリコン基板の表面に残った酸化膜でCNT層の変形が規制されるので、スパンが大きな両持ち梁、あるいは張出し量が大きな片持ち梁の場合でも、CNT層のエッチング工程の中で外力が作用しても、微細な梁状体が変形する虞がない。
【0086】
〔実施例4〕
以上詳述した本発明を適用して形成した具体的な実施例として、基板に予め形成された溝の上方を覆うように基板に被着されたCNT層から、溝51の上方へ張り出した片持ち梁タイプの可動電極52と、可動電極52の左右両側に適宜なギャップをおいて配置された固定電極53、54とから成る水平動作型2端子スイッチを図14に示す。これの可動電極52の張出し長さは2.5μmであり、可動電極52と固定電極53、54とのギャップは750nmである。
【0087】
〔検証例1〕
本発明による梁状体の物理特性が、形状によって制御可能であることを、実施例1と同様の方法で製作した梁状体を用いて以下に示す。
片持ち梁仕様
厚さ:250nm
重量密度:0.464g/cm
長さ:10、20、30、70μm
幅:10μm
両持ち梁仕様
厚さ:310nm
重量密度:0.374g/cm
長さ:30、40μm
幅:10μm
【0088】
これらの長さが互いに異なる複数の梁状体について、パルスレーザーによる梁状体の加熱振動およびレーザー反射による振動検出法(B. Ilic, S. Krylov, K. Aubin, R. Reichenbach, and H. G. Craighead, ”Optical excitation of nanoelectromechanical oscillators”, Appl. Phys. Lett. 86, 193114 (2005)を参照されたい )により、共振周波数を測定した。その結果、図15に示す通り、本発明によるCNT梁状体は、長さ寸法が小さくなるに従って共振周波数が高くなる傾向を示すことが分かった。この梁状体の長さと共振周波数との関係は、片持ち梁、両持ち梁ともに、図15中に引いた弾性体の理論値曲線(細線:両持ち梁、太線:片持ち梁)とよく一致する。なお、理論値曲線は、図15の右下に付記した理論式(f:共振周波数、t:厚さ、L:長さ、E:ヤング係数、ρ:密度)より、E、ρをフィッティング係数として導出されたものである。
【0089】
この結果は、本発明によるCNT梁状体の共振周波数すなわち力学特性が、形状に依存する、換言すると形状によって制御可能であることを示している。さらに、この結果は、本発明による梁状体が周期的に振動可能なことを示しており、これは、本発明によるCNT梁状体が、弾性体として機能し、すなわち、形状保持性、形状復元性を有していることを示している。
【0090】
また図15の右上に付記した表は、物質の力学特性を表す指標のひとつである音速である。音速が高い物質は軽量で強靭であり、MEMSデバイス等の機械的要素に好適な材料と言える。測定結果からフィッティング係数によって得られた本発明によるCNT梁状体の音速は、報告されている単結晶シリコン(Si)の最高値である結晶方位(111)方向での特性と比して同等以上の値を示しており、本発明によるCNT梁状体が、MEMSデバイス等に極めて好適であることを示している。
【0091】
〔検証例2〕
本発明によるCNT梁状体が、一体の弾性体及び導電体として機能し、また、形状保持性、形状復元性を有していることを図16に示す。具体的には、長さ:60μm、幅:10μm、厚さ:230nm、重量密度:0.504g/cmの片持ち梁タイプのCNT梁状体Bにタングステンのプローブ電極Cを距離500nm程度まで近づけて静止させ、これに5V程度の電圧を印加することにより、CNT梁状体Bが静電引力によって変位する様子を走査型電子顕微鏡(Hitachi4300)によって観察した。
【0092】
この結果、静電引力によって引き寄せられたCNT梁状体Bは、図16の上段側写真に示すようにプローブ電極Cに接触し、印加電圧を0Vにすると図16の下段側写真に示すようにプローブ電極Cから離れて元の状態へと復帰した。
【0093】
この結果から、本発明によるCNT梁状体が、一体の弾性体および導電体としてプローブ電極に対して接離可能であることが分かった。またCNT梁状体は、プローブ電極から離れると元の形状を保持することから、形状保持性、形状復元性を有することが分かった。
【0094】
〔検証例3〕
図17は、上述の片持ちタイプのCNT梁状体Bの遊端に押し当てたプローブ電極Cを変位させ、これによって外力を加えられたCNT梁状体Bが湾曲する様子を段階的に観察し、CNT梁状体Bがどの程度の柔軟性と形状保持性とを有するかを検証した電子顕微鏡写真像である。図17に明示されるように、CNT梁状体Bは、外力を加えられても、折れたりせずに撓曲して一体の梁状体としての形状を保持している。この結果から、本発明のCNT梁状体が高密度かつ一方向に配向したCNTの集合体であることが、高い形状保持性を得る上に有為に作用していることを示している。
【0095】
〔検証例4〕
以下に本発明の高密度化工程における高密度化処理の前後での膜厚および重量密度の制御性を検証した結果を示す。このための実験条件は、所望の膜厚のフィルム状CNT集合体を所望の枚数得るために、化学気相成長工程に供する金属触媒の幅(高密度化前の膜厚)を、1μmを2セット、2μmを1セット、4μmを2セット、7.5μmを4セットと設定した。
【0096】
この結果を図18、19を参照して以下に説明する。図18(元の膜厚と高密度化後の膜厚との関係図)に示す通り、高密度化前の膜厚が7.5μmであったフィルム状CNT集合体は、高密度化後は平均0.5μm程度に収縮するのに対し、高密度化前の膜厚が1、2、4μmのフィルム状CNT集合体は、高密度化後は0.2μm〜0.3μmに収縮した。これは、高密度化後のCNT膜が、高密度化前の膜厚に応じて異なる密度となることを示す。
【0097】
他方、高密度化前のフィルム状CNT集合体は、重量が極めて小さいため、その重量密度の計測は困難である。そこで、高密度化前のフィルム状CNT集合体の重量密度を、線状のパターニングを施さずに全面に金属触媒膜を成膜した基板から成長させたバルク状CNT集合体の密度をもって推定するものとした。
【0098】
ここでバルク状CNT集合体の密度は、重さ/体積で計算されるが、様々な条件の下で、バルク状CNT集合体の密度は一定となることが知られている。例えば非特許文献(Don N. Futaba, et al, 84% Catalyst Activity of Water-Assisted Growth of Single Walled Carbon Nanotube Forest Characterization by a Statistical and Macroscopic Approach, Journal of Physical Chemistry B, 2006, vol. 110, p. 8035-8038)には、バルク状CNT集合体の重量密度は、集合体の高さが200μmから1mmまで一定の値(0.029g/cm)であることが報告されている。つまりバルク状CNT集合体の成長と略同等の成長条件および触媒を用いて成長させたフィルム状CNT集合体の密度は、バルク状CNT集合体の密度と大きく相違しないものと推察できる。
【0099】
高密度化工程でのフィルム状CNT集合体の圧縮率を〈圧縮率=元の厚さ÷高密度化後の厚さ〉と定義すると、高密度化後のフィルム状CNT集合体の重量密度は〈CNT密度=圧縮率×0.029g/cm〉となる。これによって各厚さのフィルム状CNT集合体の高密度化後の重量密度を導出すると、図19に示した関係となる。本検証例では、膜厚を制御することにより、重量密度を0.11g/cmから0.54g/cmまで制御することができた。
【0100】
このようにして得られた重量密度が0.11g/cmのフィルム状CNT集合体においても、基板との密着性が十分に保たれており、上述の各実施例と同様のパターニングが可能であった。これに対し、高密度化処理前のフィルム状CNT集合体(重量密度0.029g/cm)の場合は、基板との密着性不足やレジストの侵食などにより、公知のエッチング、リソグラフィー技術の適応が実質的に不可能であった。
【0101】
本発明において制御可能なフィルム状CNT集合体の重量密度の上限は、検証例に用いた0.54g/cmに限定されない。本明細書では明記しないが、原理的には、CNTの直径を制御することによってさらに幅広い範囲での重量密度を実現することが可能である。すべてのCNTが等しい直径を有し、且つ高密度化工程によってすべてのCNTが最密充填されるものと仮定すると、CNTの直径寸法が小さくなるに従って高密度化後のCNT密度は増加することが容易に計算できる(図20を参照されたい)。上述した実施例で用いたフィルム状CNT集合体のCNTの平均直径は2.8nm程度であるが、この場合のCNTが最密充填したとして重量密度は、図20に示す通り、0.78g/cm程度である。この点に関しては、すでに非特許文献(Ya-Qiong Xu, et al, Vertical Array Growth of Small Diameter Single-Walled Carbon Nanotubes, J. Am. Chem. Soc., 128 (20), 6560 -6561, 2006)に報告されている技術を用いることにより、CNTの直径をより小さいもの(1.0nm程度)にすることは可能であることが分かっている。このことから、CNTの直径を小さくすることにより、最大1.5g/cm程度までは重量密度を高めることが可能であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ該基板の表面と平行な一方向に配向する複数のカーボンナノチューブを備えるカーボンナノチューブ層を備え、
前記カーボンナノチューブ層は、純度;98質量%以上、本数密度;1.0×1012〜4.0×1013本/cm2を備え、かつ形状復元性を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
前記基板は、シリコンであることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ層は、任意形状のパターンを備えることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ集合体を備える2端子スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−193104(P2012−193104A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104426(P2012−104426)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2009−500215(P2009−500215)の分割
【原出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「高集積・複合MEMS製造技術開発事業/ナノ材料(CNTなど)の選択的形成技術」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】