説明

カーボンファイバー製造法、カーボンファイバー電子源およびフィールドエミッションディスプレイ装置

【課題】簡易かつ安価な方法で、電極配線金属からの異常成長を防止し、カーボンナノチューブを高密度かつ均一に形成可能なカーボンファイバー製造法、高出力電流密度のカーボンファイバー電子源、高電流密度で高輝度、大容量を有するFED装置を提供する。
【解決手段】基板18上にカソード電極10を形成する工程と、カソード電極10上に第1絶縁膜12を形成する工程と、第1絶縁膜12上にゲート電極14を形成する工程と、第1絶縁膜12中にカソード電極10表面まで到達するホール(11)を形成する工程と、ホールの底面に触媒微結晶核29を形成する工程と、ゲート電極14表面上に第2絶縁膜50を形成する酸化工程と、触媒微結晶核29上にカーボンナノチューブ4を形成する工程とを有することを特徴とするカーボンファイバー製造法、カーボンファイバー電子源、およびFED装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンファイバー製造法に関し、特に電極酸化により異常成長を防止するカーボンファイバー製造法、さらに製造されたカーボンファイバーを適用するカーボンファイバー電子源およびフィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のカーボンナノチューブの製造方法においては、レジストをマスクにしてホール内にスパッタリングによって、触媒が形成されている(例えば、特許文献1参照。)。さらに、触媒スパッタ後レジストをリフトオフする必要がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
しかし、ホール径の微細化に伴うドライホール形成プロセスにおいてレジストが変性し、触媒スパッタ後レジストがリフトオフ出来ないという問題点がある。
【0004】
ウェットホール形成ではレジストの変性は無いが、等方的にホールエッチングされ、1ドット内への詰め込みに限界がある。
【0005】
又、微細な垂直ホールが形成されても、ホールのアスペクト比が大きくなり、触媒スパッタ時、ホール内壁への触媒付着がなされ、成長プロセスにて壁面からのカーボンファイバーの異常成長が生じるという問題点がある。
【0006】
図18は、従来のカーボンファイバー製造法であって、カーボンナノチューブの成長工程における成長温度と成長時間との関係を説明する図である。従来のカーボンファイバー製造法においては、図18に示すように、室温(RT)から徐々に上昇させて、例えば、約580℃の成長温度で約10分〜30分程度で、カーボンナノチューブの成長を行っている。
【0007】
また、図19は、従来のカーボンファイバー製造法を用いて形成したホール11内の触媒金属層28の拡大された模式的断面構造図を示す。従来のカーボンファイバー製造法においては、ホール11内のカソード電極10表面上に触媒金属のスパッタリングによって、触媒金属層28を形成している。絶縁膜12に形成されたホール11は、ウェットエッチング技術若しくはドライエッチング技術によって形成される。
【0008】
また、図20は、従来のカーボンファイバー製造法を用いて形成したホール11内のカーボンナノチューブ4であって、ゲート電極14上の異常成長44を示す拡大された模式的断面構造図を示す。絶縁膜12上に配置されたゲート電極14とカソード電極10間にVGK、アノード電極6とゲート電極14間にVGAを印加した状態で、図18に示した成長条件によって、カーボンナノチューブ4を成長させると、図20に示すように、ゲート電極14上に異常成長44が観測される。
【0009】
カーボンファイバー成長時、触媒金属(Fe,Ni,Co)以外の触媒能が低い配線金属(Cr,Mo)からも異常成長する。この状態であると配線全体からの異常電子放出が生じてしまう。これにより電極ラインでの異常電子放出が生じてしまう。この結果、マトリックス毎の電子放出ができないという問題点がある。
【0010】
電極ラインをシリコン酸化膜(SiO2)などの絶縁膜で覆う製造工程も考えられるが、煩雑な工程となる。
【0011】
図21は、従来のカーボンファイバー製造法を用いて形成したCNT−FEDの電界放出マトリックス電極であって、1ドットにホールを複数個詰め込んだ2×2マトリックスにおいて、ゲート電極14上の異常成長44を示す模式的斜視図を示す。
【0012】
また、図22は、従来のカーボンファイバー製造法によって形成されたカーボンナノチューブの拡大された断面SEM写真を示す。図22から明らかなように、ゲート電極14表面には、Aで示される部位において、ゲート電極14からの異常成長44が観測されている。また、ホール11内のカーボンナノチューブ4の成長部位以外のカソード電極10表面においても異常成長が観測されている。
【0013】
このようなゲート電極14からの異常成長44によって、アノード電圧を上げるとゲート電極ラインでの電子放出が懸念され、マトリックス毎の電子放出が出来ないという問題点がある。
【0014】
さらに、図22に示すように、カーボンナノチューブ4を長く成長させると、カーボンナノチューブ4の先端部位とゲート電極14との短絡も懸念される。
【特許文献1】特開2005−72171号公報
【特許文献2】特開2006−40723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
カーボンファイバー成長時、触媒金属(Fe,Ni,Co)以外の触媒能が低いゲート電極およびカソード電極による配線金属(Cr,Mo)からも異常成長する。この状態であると配線全体からの異常電子放出が生じてしまう。
【0016】
本発明の目的は、電界放出マトリックス電極を利用した選択的超音波触媒メッキ法を用いて、簡易かつ安価な方法で、電極配線金属からの異常成長を防止し、触媒微結晶核に基づくカーボンナノチューブを高密度かつ均一に形成可能なカーボンファイバー製造法を提供することにある。
【0017】
さらに本発明の目的は、上記のカーボンファイバー製造法により製造されたカーボンファイバーを適用し、高出力電流密度のカーボンファイバー電子源を提供することにある。
【0018】
さらに本発明の目的は、上記のカーボンファイバー製造法により製造されたカーボンファイバーを適用し、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を有するFED装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、基板上にカソード電極を形成する工程と、前記カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、前記第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで到達するホールを形成する工程と、前記ホールの底面に触媒微結晶核を形成する工程と、前記ゲート電極表面上に第2絶縁膜を形成する酸化工程と、前記触媒微結晶核上にカーボンナノチューブを形成する工程とを有するカーボンファイバー製造法が提供される。
【0020】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に配置され,前記カソード電極と直交するゲート電極と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールからなる電界放出マトリックス電極構造をメッキ槽内に配置する工程と、カーボンファイバー成長の核となる触媒を電着させる際、前記ホール内への触媒電着は、前記ホール底の前記カソード電極を陰極、前記ゲート電極を陽極として電着させ、前記ホール底の前記カソード電極上にナノオーダの触媒微結晶核を付着させる工程と、酸化工程によって前記ゲート電極表面を酸化して第2絶縁膜を形成する工程と、前記触媒微結晶核にカーボンナノチューブを成長する工程とを有するカーボンファイバー製造法が提供される。
【0021】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に配置され,前記カソード電極と直交するゲート電極と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールからなる電界放出マトリックス電極構造をメッキ槽内に配置する工程と、前記ゲート電極を中心に、前記カソード電極に対向させて、前記メッキ槽内に対向陰極を配置し、かつ前記対向陰極の電位を前記ゲート電極よりも低電位にする工程と、カーボンファイバー成長の核となる触媒を電着させる際、前記ホール内への触媒電着は、前記ホール底の前記カソード電極を陰極、前記ゲート電極を陽極として電着させ、前記ホール底の前記カソード電極上にナノオーダの触媒微結晶核を付着させる工程と、酸化工程によって前記ゲート電極表面を酸化して第2絶縁膜を形成する工程と、前記触媒微結晶核にカーボンナノチューブを成長する工程とを有するカーボンファイバー製造法が提供される。
【0022】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に配置されたゲート電極と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、前記ゲート電極表面に形成された第2絶縁膜と、前記触媒微結晶核上に形成されたカーボンナノチューブとを備えるカーボンファイバー電子源が提供される。
【0023】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に配置されたゲート電極と、前記ゲート電極を中間にして前記カソード電極と反対側の前記ゲート電極の上方に配置されたアノード電極と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、前記ゲート電極表面に形成された第2絶縁膜と、前記触媒微結晶核上に形成されたカーボンナノチューブと、前記アノード電極の前記カソード電極に対向する裏面上に配置された蛍光体とを備えるフィールドエミッションディスプレイ装置が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のカーボンファイバー製造法によれば、カーボンナノチューブの成長プロセス前に、基板を事前酸化することで配線金属からの異常成長を防ぐことができる。
【0025】
又、本発明のカーボンファイバー製造法によれば、酸化した触媒金属からはカーボンナノチューブは成長するという選択性を利用することができる。
【0026】
又、本発明のカーボンファイバー製造法によれば、ゲート電極の表面に絶縁膜が形成されるため、カーボンファイバーが任意の長さ以上に成長してゲート電極に接触した際、ショートになりにくい。
【0027】
又、本発明のカーボンファイバー製造法によれば、異常成長を抑えるに際し、電極をSiO2等の絶縁膜で被覆することを必要とせず、プロセスが平易になる。
【0028】
又、本発明のカーボンファイバー製造法によれば、長く成長しすぎたカーボンファイバーに対し、再度酸化処理することで、短くしたり、太さの制御が可能となる。
【0029】
本発明のカーボンファイバー製造法によれば、電界放出マトリックス電極を利用した選択的超音波触媒メッキ法を用いて、簡易かつ安価な方法で、電極配線金属からの異常成長を防止し、ナノオーダの触媒微結晶核に基づくナノオーダのカーボンナノチューブを高密度かつ均一に形成することができる。
【0030】
さらに本発明のカーボンファイバー電子源によれば、上記カーボンファイバー製造法により製造されたカーボンファイバーを適用し、高出力電流密度を実現することができる。
【0031】
さらに本発明のFED装置によれば、上記カーボンファイバー製造法により製造されたカーボンファイバーを適用し、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0033】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0034】
なお、以下の説明において、カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano-Tube)は、カーボンナノファイバー(CNF:Carbon Nano-Fiber)と同義のものであるとして用いている。微細構造上は、カーボンナノチューブ(CNT)であっても、巨視的にはカーボンナノファイバー(CNF)形状を有するからである。
【0035】
また、以下の説明において、カーボンナノチューブ(CNT)は、グラファイトナノチューブ(GNT:Graphite Nano-Tube)で置換されていても良い。すなわち、カーボンナノチューブ(CNT)の代わりに、グラファイトナノシートの形状を備えていても良い。
【0036】
また、同様に、以下の説明において、グラファイトナノチューブ(GNT:Graphite Nano-Tube)は、グラファイトナノファイバー(GNF:Graphite Nano-Fiber)と同義のものであるとして用いている。微細構造上は、グラファイトナノチューブ(GNT)であっても、巨視的にはグラファイトナノファイバー(GNF)形状を有するからである。
【0037】
[第1の実施の形態]
(カーボンファイバー製造法)
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法は、ドライエッチングによる微細ホールの形成工程と、超音波触媒メッキ工程と、事前酸化工程をおよびカーボンナノチューブの成長工程とを有する。ドライエッチングによる微細ホール形成工程は、図4乃至図6および図8(a)乃至(b)に示され、超音波触媒メッキ工程は、図7および図8(c)に示され、事前酸化工程およびカーボンナノチューブの成長工程は、図8(d)および図9に示されている。
【0038】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法による実験結果は、図10乃至図17に示す通りである。
【0039】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法は、CNT,GNFなどのカーボンファイバーの成長時、事前酸化工程を実施する点に特徴を有する。
【0040】
これによって、ゲート電極14表面の異常成長を防ぎ、ゲート電極ラインでの異常電子放出を防ぐことができる。また、酸化した触媒からはカーボンファイバーの成長がなされるため、酸化した触媒金属からの選択的なカーボンファイバーの成長が可能となる。
【0041】
更にまた、事前酸化を導入することによって、カソード電極10表面の異常成長も防ぐことができる。
【0042】
すなわち、カーボンファイバー成長時、触媒金属(Fe,Ni,Co)以外の触媒能が低いゲート電極14およびカソード電極10の配線金属(Cr,Mo)からも異常成長する。この状態であると配線全体からの異常電子放出が生じてしまう。
【0043】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、カーボンフイバー成長プロセス前に、基板を事前酸化することで配線金属からの異常成長を防ぐことが可能となった。
【0044】
又、酸化した触媒金属(Fe,Ni,Co)からは成長するという選択性を利用した効果も含む。例えば、Fe23, FeO, NiO, Co23, CoOが還元されて、結果として、触媒金属が酸化されていたとしても、Fe, Co, Niが生じることで、酸化した触媒金属からは、カーボンナノチューブ4が成長する。
【0045】
又、ゲート電極14の表面に絶縁膜が形成されるため、カーボンナノチューブ4が任意の長さ以上に成長して、ゲート電極14に接触した際、ショートになりにくい点で有効である。異常成長を抑えるに際し、電極をSiO2等の絶縁膜で被覆することを必要とせず、プロセスが平易になる。又、長く成長しすぎたカーボンナノチューブ4に対し、再度酸化処理することで、短くしたり、太さの制御が可能となる。
【0046】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法は、図4乃至図9に示すように、基板18上にカソード電極10を形成する工程と、カソード電極10上に第1絶縁膜12を形成する工程と、第1絶縁膜12上にゲート電極14を形成する工程と、第1絶縁膜12中にカソード電極10表面まで到達するホール11を形成する工程と、ホール11の底面に触媒微結晶核29を形成する工程と、ゲート電極14表面上に第2絶縁膜50を形成する事前酸化工程と、触媒微結晶核29上にカーボンナノチューブ4を形成する工程とを有する。
【0047】
また、触媒微結晶核29を形成する際、カソード電極10をメッキ槽34内にて陰極として電着させる工程と、さらにメッキ槽34に超音波を印加する工程とを有する。
【0048】
また、事前酸化工程において、同時にカソード電極10表面も酸化して第3絶縁膜52を形成する工程を有していても良い。
【0049】
また、事前酸化工程において、同時にカソード電極10表面および触媒微結晶核29表面も酸化して、カソード電極10表面および触媒微結晶核29表面に第3絶縁膜52を形成する工程を有していても良い。
【0050】
また、前記事前酸化工程は、カーボンナノチューブ4を形成する工程よりも前に実施することを特徴とする。
【0051】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法は、図4乃至図9に示すように、基板18上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された第1絶縁膜12と、第1絶縁膜12上に配置され,カソード電極10と直交するゲート電極14と、第1絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホール11からなる電界放出マトリックス電極構造(図6)をメッキ槽34内に配置する工程と、カーボンファイバー成長の核となる触媒を電着させる際、ホール11内への触媒電着は、ホール11底のカソード電極10を陰極、ゲート電極14を陽極として電着させ、ホール11底のカソード電極10上にナノオーダの触媒微結晶核29を付着させる工程と、事前酸化工程によってゲート電極14表面を酸化して第2絶縁膜50を形成する工程と、触媒微結晶核29にカーボンナノチューブ4を成長する工程とを有する。
【0052】
また、触媒微結晶核29を付着させる工程において、メッキ槽34に超音波を印加する工程を有する。
【0053】
また、ゲート電極14は、触媒イオンよりイオン化傾向の高い金属、又はカーボン、Pt,Au,Siなどの溶解しにくい物質からなる。陽極となる引き出し電極(ゲート電極14)はエッチングされ、イオン化される。よって、カソ―ド電極(陰極)10への再析出を防ぐため、触媒イオンよりイオン化傾向の高い金属、又はカーボン、Pt,Au,Si等の溶解しにくい物質をゲート電極(陽極)14として選択すると良いからである。
【0054】
また、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法は、図4乃至図9に示すように、基板18上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された第1絶縁膜12と、第1絶縁膜12上に配置され,カソード電極10と直交するゲート電極14と、第1絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホール11からなる電界放出マトリックス電極構造(図6)をメッキ槽34内に配置する工程と、ゲート電極14を中心に、カソード電極10に対向させて、メッキ槽34内に対向陰極30を配置し、かつ対向陰極30の電位をゲート電極14よりも低電位にする工程と、カーボンファイバー成長の核となる触媒を電着させる際、ホール11内への触媒電着は、ホール11底のカソード電極10を陰極、ゲート電極14を陽極として電着させ、ホール11底のカソード電極10上にナノオーダの触媒微結晶核29を付着させる工程と、事前酸化工程によってゲート電極14表面を酸化して第2絶縁膜50を形成する工程と、触媒微結晶核29にカーボンナノチューブ4を成長する工程とを有する。
【0055】
また、触媒微結晶核29を付着させる工程において、メッキ槽34に超音波を印加する工程を有する。
【0056】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法は、触媒スパッタリング法よりも装置面で安価であり、煩雑な触媒リフトオフ工程が無くなる。又、エミッションマトリックスの大型化、ホールの微細化によるアスベスト比の増大により、スパッタリングではホール11に対して斜角が入るなど均一な触媒成形が不可能であるのに対して、触媒メッキ法では陽極、陰極間距離と電位が固定されるため、ホール11内への均一な触媒微結晶核29が形成できる。
【0057】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、ドライエッチングによる微細ホールを形成した後に、酸素アッシングによってレジスト26(図5(i))を取り去った基板のゲート電極14を陽極、カソード電極10を陰極にして、メッキ槽34中において、ホール11底に触媒を電着させる。メッキ時、異常触媒核成長の防止と、微細ホール内へメッキ用の電解液33を導入させるために、超音波を印加しながらメッキ電着を行う。これによって、泡がみを防ぐことができる。
【0058】
メッキ時、ゲート電極14およびカソード電極10の電位固定が不完全である場合、陽極であるゲート電極14に触媒が異常電着することがある。この場合には、もう1つ対向陰極30を設けることで、三極構造として、陽極をよりエッチングすることで、陽極への触媒電着を防ぐことができる。
【0059】
メッキ時、触媒イオンよりもイオン化傾向が大きい金属をゲート電極(陽極)14の電極材料として用いることによって、陽極電極が溶出しても陰極への再付着を抑制することができる。若しくは、溶出し無い導体をゲート電極(陽極)14として利用することもできる。
【0060】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、リフトオフが困難なドライエッチングホールであっても、容易にホール底へ触媒微結晶核29を形成することができる。特に、ホールのアスペクト比が高い場合にも容易にホール底へ触媒微結晶核29を形成することができる。
【0061】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、図6に示すように、電界放出マトリックス電極構造において、ゲート電極14とカソード電極10との交差部に形成される1ドット内のホール11の成形が複数個・高密度になされ、1ドットあたりの放出電流量が上昇する。1ドットあたりの放出電流量を上昇するためには、ドライエッチングによってホール11を形成する場合の方が、ウェットエッチングによってホールを形成する場合よりも、ホール11底へ触媒微結晶核29の形成密度を高くすることができるため有利である。
【0062】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法のように、触媒メッキ技術に超音波技術を付加することによって、例えば、約10nmφ程度の細いカーボンナノチューブ4のみが成長し、副生成物であるアモルフォスカーボンの析出は見られなくなり、ファイバーの品質(純度)が向上する。また、触媒微結晶核29の析出がなされるカソード電極(陰極)10の他に、ゲート電極(陽極)14を積極的にエッチングするための対向陰極30を配置することで、カソード電極(陰極)10のみに触媒が電着される。
【0063】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、高価な触媒スパッタ装置を利用することなく、装置構成が簡易な超音波触媒メッキ法を用いることで安価に、均一化されかつ微細なCNFを形成することができる。
【0064】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、成長させたい導体基板上において、意図する場所のみに電流が流れるように、超音波触媒メッキを行うことによって、その部分全体に電着され、その部分のみにカーボンファイバーを成長することができる。
【0065】
また、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法においては、均一な太さ、長さで、高純度のカーボンファイバーの量産方法を提供することができる。
【0066】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、カーボンナノチューブの成長プロセス前に、基板を事前酸化することで配線金属からの異常成長を防ぐことができる。
【0067】
又、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、酸化した触媒金属からはカーボンナノチューブは成長するという選択性を利用することができる。
【0068】
又、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、ゲート電極の表面に絶縁膜が形成されるため、カーボンファイバーが任意の長さ以上に成長してゲート電極に接触した際、ショートになりにくい。
【0069】
又、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、異常成長を抑えるに際し、電極をSiO2等の絶縁膜で被覆することを必要とせず、プロセスが平易になる。
【0070】
又、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、長く成長しすぎたカーボンファイバーに対し、再度酸化処理することで、短くしたり、太さの制御が可能となる。
【0071】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、電界放出マトリックス電極を利用した選択的超音波触媒メッキ法を用いて、簡易かつ安価な方法で、電極配線金属からの異常成長を防止し、ナノオーダの触媒微結晶核に基づくナノオーダのカーボンナノチューブを高密度かつ均一に形成することができる。
【0072】
(カーボンファイバー電子源およびFED装置)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成したCNT−FED装置の模式的断面構造図を示す。
【0073】
また、図2は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成したカーボンファイバー電子源の拡大された模式的断面構造図を示す。
【0074】
また、図3は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成した別のカーボンファイバー電子源の拡大された模式的断面構造図を示す。
【0075】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて製造したカーボンファイバーを適用したカーボンファイバー電子源は、図2若しくは図3に示すように、基板18上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された第1絶縁膜12と、第1絶縁膜12上に配置されたゲート電極14と、第1絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホール11の底面に形成された触媒微結晶核29と、ゲート電極14表面に形成された第2絶縁膜50と、触媒微結晶核29上に形成されたカーボンナノチューブ4とを備える。
【0076】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて製造したカーボンファイバーを適用したCNT−FED装置は、図1に示すように、基板18上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された第1絶縁膜12と、第1絶縁膜12上に配置されたゲート電極14と、ゲート電極14を中間にしてカソード電極10と反対側のゲート電極14の上方に配置されたアノード電極6と、第1絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホール11の底面に形成された触媒微結晶核29と、ゲート電極14表面に形成された第2絶縁膜50と、触媒微結晶核29上に形成されたカーボンナノチューブ4と、アノード電極6のカソード電極10に対向する裏面上に配置された蛍光体5とを備える。
【0077】
アノード電極6とカソード電極10間には、アノード電極6を正電位、カソード電極10を負電位とするアノード電源Vaが印加され、アノード電極6とカソード電極10間には電子の加速電圧が与えられている。また、ゲート電極14とカソード電極10間には、ゲート電極14を正電位、カソード電極10を負電位とするゲート電源Vgが印加され、ゲート電極14とカソード電極10間には、カーボンナノチューブ4からの電子の引出し電圧が与えられている。ゲート電極14とカソード電極10間に印加されたゲート電源Vgによってカーボンナノチューブ4から引き出された(出射された)電子は、アノード電極6とカソード電極10間の加速電圧によって、アノード電極6に到達し、アノード電極6の裏面上の蛍光体5に入射して、所望の蛍光発光を放出する。アノード電極6とカソード電極10間は、例えば約数μm以下であり、しかも真空に保たれている。
【0078】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて製造したカーボンファイバーを適用したカーボンファイバー電子源によれば、高出力電流密度を実現することができる。
【0079】
さらに本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて製造したカーボンファイバーを適用したCNT−FED装置によれば、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を実現することができる。
【0080】
(ドライエッチングによる微細ホールの形成工程)
図4は、本発明の第1の実施の形態として、ドライエッチングによる微細ホール形成によるカーボンファイバー製造法の一工程を示す模式的断面構造図であって、図4(a)は、基板を準備する工程図、図4(b)は、スパッタリングによるカソード電極形成工程図、図4(c)は、レジスト塗布後、カソードラインフォトリソグラフィー工程図、図4(d)は、カソード電極形成後、リフトオフ工程図、図4(e)は、絶縁膜堆積工程図、図4(f)は、スパッタリングによるゲート電極形成工程図をそれぞれ示す。
【0081】
さらに、図5は、図4(f)に引続き、カーボンファイバー製造法の一工程を示す模式的断面構造図であって、図5(g)は、レジスト塗布後、ゲートラインフォトリソグラフィー工程図、図5(h)は、ゲート電極ラインエッチング後、リフトオフ工程図、図5(i)は、レジスト塗布後、微細ホールパターン形成工程図、図5(j)は、ホールドライエッチング後、レジストアッシング工程図をそれぞれ示す。
【0082】
図8は、本発明の第1の実施の形態として、ドライホール形成によるカーボンファイバー製造法の一工程を示す模式的断面構造図であって、図5の工程後(図5(i)、(j)と一部重複する)の工程図を示す。図8(a)は、レジストパターニング工程図、図8(b)は、ドライエッチングによるホール形成工程図、図8(c)は、選択的超音波触媒メッキ法による触媒微結晶核の形成工程図、図8(d)は、事前酸化工程図を示す。
【0083】
以下に製造方法を説明する。
【0084】
(a)まず、図4(a)に示すように、ガラス基板、SiO2基板、シリコン基板などからなる基板18を準備する。
【0085】
(b)次に、図4(b)に示すように、カソード電極10をスパッタリング技術などを用いて形成する。カソード電極10の材料としては、例えば、Cr,Moなどを用いることができる。
【0086】
(c)次に、図4(c)に示すように、レジスト16を塗布後、カソード電極10のストライプ形状を形成するために、フォトリソグラフィー工程によって、レジスト16を、パターニングする。
【0087】
(d)次に、図4(d)に示すように、リフトオフ工程によって、カソード電極10のストライプ形状をエッチングにより形成する。
【0088】
(e)次に、図4(e)に示すように、第1絶縁膜12をカソード電極10のストライプパターン上および露出した基板18上に堆積する。第1絶縁膜12の材料としては、例えば、化学的気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によって形成したCVDSiO2膜などを用いることができる。
【0089】
(f)次に、図4(f)に示すように、ゲート電極14を、スパッタリング技術若しくは蒸着技術などを用いて形成する。ゲート電極14の材料としては、例えばCr,Moなどを用いることができる。
【0090】
(g)次に、図5(g)に示すように、レジスト24を塗布後、ゲート電極14のストライプ形状を形成するために、フォトリソグラフィー工程によって、レジスト24を、パターニングする。
【0091】
(h)次に、図5(h)に示すように、リフトオフ工程によって、ゲート電極14のストライプ形状をエッチングにより形成する。図5(h)中の互いに直交するXY方向は、後述する図6のXY方向に対応しており、X方向はカソード電極10が延伸する方向、Y方向はゲート電極14が延伸する方向である。
【0092】
(i)次に、図5(i)および図8(a)に示すように、レジスト26を塗布後、フォトリソグラフィー工程によって、レジスト26をパターニングして、ホール11を形成するためのドライエッチングパターンを形成する。
【0093】
(j)次に、図5(j)および図8(b)に示すように、ホール11を形成するためのドライエッチングによって、Crからなるゲート電極14およびSiO2膜からなる第1絶縁膜12を除去後、アッシングによって、レジスト26を除去する。図5(i)および図5(j)は、後述する図6において、I−I線に沿って切った断面構造に模式的に対応する。上記ドライエッチング技術は、例えば反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)技術などを用いることができる。
【0094】
(k)次に、図8(c)に示すように、後述する超音波触媒メッキ法によって、触媒微結晶核29をホール内のカソード電極10の表面上に形成する。
【0095】
(l)次に、図8(d)に示すように、後述する事前酸化工程によって、ゲート電極14表面上に第2絶縁膜50を形成し、カソード電極10表面および触媒微結晶核29表面上に第3絶縁膜52を形成する。
【0096】
図6は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成したCNT−FEDの電界放出マトリックス電極であって、1ドットにホール11を多数詰め込んだ2×2マトリックスの模式的斜視図を示す。なお、図6において、第1絶縁膜12は図示を省略している。
【0097】
ドライエッチングによる微細ホール形成工程によるカーボンファイバー製造法の場合、ドライエッチングによって、ホール11が図5(j)に示すように、垂直方向に高アスペクト比で形成されるため、電界放出マトリックス電極を構成するカソード電極10とゲート電極14の交差部(1ドット)において、ホール11の配置密度を高密度化することができる。
【0098】
電界放出マトリックス電極構造において、ゲート電極14とカソード電極10との交差部に形成される1ドット内のホール成形が複数個・高密度になされ、1ドットあたりの放出電流量が上昇する。
【0099】
ドライエッチングによってホールを形成する場合の方が、ウェットエッチングによってホールを形成する場合よりも、ホール底へ触媒微結晶核の形成密度を高くすることができるため、1ドットあたりの放出電流量を上昇するためには有利である。
【0100】
(超音波触媒メッキ工程)
図7は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法に用いる超音波触媒メッキ装置の模式的構成図を示す。
【0101】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法に用いる超音波触媒メッキ装置は、図7に示すように、水を収納した超音波槽36と、超音波槽36内に収容され,電解液33を収納したメッキ槽34と、超音波槽36の内壁とメッキ槽の外壁間を接続し,超音波槽36内においてメッキ槽34を保持する保持台38と、メッキ槽34内の電解液33に浸漬され,互いに交差する複数のゲート電極14と複数のカソード電極10からなる電界放出マトリックス電極構造および対向陰極30と、複数のゲート電極14を接続するゲート電極用のクリップ40と、複数のカソード電極10を接続するカソード電極用のクリップ32とを備える。
【0102】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法に用いる超音波触媒メッキ法においては、ゲート電極(陽極)14の溶解を抑えるために、対向陰極30を備え、対向陰極30とゲート電極14間には、ゲート電極14を正の電位、対向陰極30を負の電位とする電圧が印加されている。また、カソード電極(陰極)10とゲート電極14間には、ゲート電極14を正の電位、カソード電極(陰極)10を負の電位とする電圧が印加されている。
【0103】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法に用いる超音波触媒メッキ法においては、ゲート電極(陽極)14は溶ける恐れがあるため、クリップ40は触媒金属と同金属を用いることが望ましい。若しくは、溶けない導体からなるクリップ40などで複数のゲート電極(陽極)14の導通をとることが望ましい。ホール11以外のカソード電極10の部分は第1絶縁膜12で覆われているためメッキされることはない。ホール11内のカソード電極10のみが、メッキされる。
【0104】
―イオン化傾向―
ここで、ゲート電極(陽極)14に使用する電極材料としては、もしも、触媒金属として、Feを利用するならば、Feよりもイオン化傾向の大きいCrなどの金属を使用する。電解液33中に溶けた金属イオンが、カソード電極(陰極)10に優先的に析出されないようにするためである。
【0105】
イオン化傾向は、K>Na>Sr>Ca>Mg>Al>Ce>Cr>Mn>Zn>Cd>Fe>Co>Ni>Sn>Pb>(H)>Ge>In>Sb>Bi>Cu>Hg>Ag>Pt>Au>Si>Ti>C>W>Mo>Seで表される。
【0106】
したがって、ゲート電極(陽極)14に使用する電極材料としては、もしも、触媒金属として、Feを利用するならば、Feよりもイオン化傾向の大きい、例えば、Mg、Al、Ce、Cr、Mn、Zn、Cdなどの金属材料を適用する。
【0107】
電解液33に溶かし込む触媒金属塩としては、例えば、Feイオンであるならば、FeCl2・4H2O,FeCl3・6H2O,Fe(SO4)・7H2O,Fe(NH4)2(SO4)・6H2Oなどを用いることができる。
【0108】
Coイオンであるならば、CoSO4・7H2O,CuSO4(NH)2 ・6H2O,CoCl2 ・6H2Oなどを用いることができる。
【0109】
Niイオンあるならば、NiO,NiSO4・7H2O,NiCl2・6H2O,NiSO4(NH4) SO4・6H2Oなどを用いることができる。
【0110】
なお、塩化物を含むものはゲート電極(陽極)14において塩素ガスを放出する点に留意する必要がある。
【0111】
(事前酸化工程およびカーボンナノチューブの成長工程)
メッキ後の基板18に対してはアセトン、アルコール洗浄を行い、残留メッキイオン成分を取り除く。カーボンファイバーの成長装置としては、例えば、熱CVD装置、プラズマCVD装置を使用することができる。成長ガスとしては、例えば、CH4,C22,CO,メタノール,エタノールなどを適用することができる。担持ガスとしては、例えば、Ar, H2,Heなどを適用することができる。成長温度は、例えば、約450℃〜800℃程度の広い範囲を用いることができる。基板18として、ガラス基板を使用する場合には、成長温度は、例えば、約650℃程度以下とする。成長時間は、例えば、約5分〜120分程度である。成長時間は、成長温度、ガス種、触媒によって多種多様である。
【0112】
図9は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化を実施するカーボンナノチューブの成長工程であって、成長温度と成長時間との関係を説明する模式図を示す。
【0113】
図9に示すように、事前酸化工程は時刻t1〜t2において、例えば約450℃で、10分〜20分程度実施する。事前酸化工程では、空気(Air)の導入によって酸化する。これによって、ゲート電極14の表面部分、カソード電極10の表面部分およびカソード電極10の表面に形成された触媒微結晶核29の表面部分を酸化することができる。その後一度真空に引き、その後、カーボンナノチューブの成長工程では、時刻t3〜t4において、例えば約580℃で、10分〜30分程度、例えばCO/H2ガスを導入して、カーボンナノチューブ4を成長する。上記事前酸化工程、カーボンナノチューブ4の成長工程の温度条件は、一例である。実験的には、例えば約350℃から事前酸化は確認できている。また、カーボンナノチューブ4の成長温度は任意であって、例えば500℃以上からの、カーボンナノチューブ4の成長は確認されている。
【0114】
図2に示すカーボンファイバー電子源の構造例では、メッキによって被膜された触媒微結晶核29が、ホール内側壁12a,12bによって囲まれたホール11内のカソード電極10上に成長し、その上に直接カーボンナノチューブ4が成長している。事前酸化工程によって、ゲート電極14表面およびカソード電極10表面が予め酸化されて、それぞれ第2絶縁膜50、第3絶縁膜52が形成されており、ゲート電極14およびカソード電極10からの異常成長が防止される。また、カーボンナノチューブ4の一部分がゲート電極14近傍に接触していても、第2絶縁膜50によって、短絡が防止されている。すなわち、図2に示す構造では、ゲート電極14の表面に第2絶縁膜50が形成されるため、カーボンナノチューブ4が任意の長さ以上に成長して、ゲート電極14に接触した際、ショートになりにくい点で有効である。
【0115】
或いはまた、図3に示すカーボンファイバー電子源の構造例では、メッキによって被膜された触媒微結晶核29が、ホール内側壁12a,12bによって囲まれたホール11内のカソード電極10上に成長し、その後の事前酸化工程によって、ゲート電極14表面、カソード電極10表面および触媒微結晶核29が予め酸化されて、それぞれゲート電極14表面上に第2絶縁膜50、カソード電極10表面および触媒微結晶核29上に第3絶縁膜52が形成されるため、ゲート電極14およびカソード電極10からの異常成長が防止される。ここでは、酸化した触媒金属(Fe,Ni,Co)からはカーボンナノチューブ4が成長するという選択性を利用している。例えば、Fe23, FeO, NiO, Co23, CoOが還元されて、結果として、触媒金属が酸化されていたとしても、Fe, Co, Niが生じることで、酸化した触媒金属からは、カーボンナノチューブ4が成長する。
【0116】
又、ゲート電極14の表面に第2絶縁膜50が形成されるため、カーボンナノチューブ4が任意の長さ以上に成長して、ゲート電極14に接触した際、ショートになりにくい点も図2と同様である。異常成長を抑えるに際し、電極をSiO2等の絶縁膜で被覆することを必要とせず、プロセスが平易になる。
【0117】
又、長く成長しすぎたカーボンナノチューブ4に対し、再度酸化処理することで、短くしたり、太さの制御が可能となる。
【0118】
図2および図3に示す構造においては、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、カーボンナノチューブ4の成長後、ゲート電源Vgにより、ゲート・カソード間に電圧を印加することでカーボンナノチューブ4の先端から電子放出がなされる。カーボンナノチューブ4の成長後、ゲート・カソード間およびアノード・カソード間に電圧を印加することでも電子放出がなされる。
【0119】
(実験結果)
図10は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化処理後、カーボンナノチューブを成長した結果得られたカーボンファイバーの拡大された断面SEM写真を示す。事前酸化無しでカーボンナノチューブを成長した場合には、図22に示したように、ゲート電極(Cr)14からの異常成長が見られたが、事前酸化処理後にカーボンナノチューブ4を成長した場合には、図10に示すように、異常成長は見られない。
【0120】
図11は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化処理前のゲート電極近傍の拡大された断面SEM写真を示す。事前酸化処理前の第1絶縁膜12上のゲート電極(Cr)14が示されている。
【0121】
図12は、図11のゲート電極(Cr)14のA1部分のエネルギー分散型X線蛍光分析(EDX:Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer)による元素分析結果を示す。自然酸化による酸素(O)のピークは観測されているが、主としてゲート電極14の主材料であるクロム(Cr)元素のピークが観測されている。
【0122】
図13は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化処理後のゲート電極近傍の拡大された断面SEM写真を示す。事前酸化処理後の第1絶縁膜12上のゲート電極(Cr)14および第2絶縁膜50が示されている。
【0123】
ゲート電極14のCr金属が酸化されて、Cr23、CrO3などのクロム酸化膜が形成されている。ゲート電極14のCr金属の事前酸化の度合いは、例えば、約10分〜30分の成長雰囲気では、約30nm程度である。すなわち、第2絶縁膜50の厚さとしては、約30nm程度の酸化膜厚が必要である。自然酸化膜厚(例えば、約10nm以下)では上記の処理時間ではゲート電極14が還元ガスにより還元され(Cr23→Cr)、触媒能が戻り、異常成長が生じるからである。
【0124】
後述する図15乃至図17に示すように、確実に異常成長を防ぐには上記処理では30nm以上あれば良い。又、電極膜厚に対し酸化膜厚が厚くなると配線抵抗が上昇するため電極膜厚の10%程度で酸化膜を形成することが望ましい。
【0125】
図14(a)は、図13の絶縁膜(Cr酸化膜)50が形成されているB1部分のEDX元素分析結果、図14(b)は、図13のゲート電極14のB2部分のEDX元素分析結果をそれぞれ示す。図14(a)から明らかなように、酸素(O)元素のピークが強く出ている様子が観測され、図13の絶縁膜(Cr酸化膜)50が形成されているB1部分には、Cr23、CrO3などのクロム酸化膜が形成されていることがわかる。一方、図14(b)から明らかなように、図13のゲート電極14のB2部分のEDX元素分析結果からは、自然酸化による酸素(O)のピークは観測されているが、主としてゲート電極14の主材料であるクロム(Cr)元素のピークが観測されている。
【0126】
図15は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、ゲート電極の自然酸化Crの表層のオージェ分析結果を示し、図16は、ゲート電極の自然酸化Crの表層からの深さ2nmのオージェ分析結果、図17は、ゲート電極の自然酸化Crの表層からの深さ10nmのオージェ分析結果をそれぞれ示す。
【0127】
上記の分析結果によれば、表層〜10nmで酸素ピークが存在し、酸化膜が形成されていることがわかる。しかしながら、ゲート電極14からの異常成長は生じることが観測されている。これは、カーボンナノチューブ4の成長時、還元ガス(CO/H2)などによって、処理するため薄い酸化膜が還元され、触媒能が戻るからである。したがって、還元処理時間を考慮して、酸化膜厚を決定する必要がある。すなわち、酸化膜が残る膜厚にする必要があり、実験的には、上記のように、約10分〜30分の成長雰囲気で、約30nm程度である。すなわち、第2絶縁膜50の厚さとしては、約30nm程度の酸化膜厚が必要であり、例えば約30nm以上であることが望ましい。
【0128】
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、電界放出マトリックス電極を利用した選択的超音波触媒メッキ法を用いて、簡易かつ安価な方法で、電極配線金属からの異常成長を防止し、ナノオーダの触媒微結晶核に基づくナノオーダのカーボンナノチューブを高密度かつ均一に形成することができる。
【0129】
さらに本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー電子源によれば、上記カーボンファイバー製造法により製造されたカーボンファイバーを適用し、高出力電流密度を実現することができる。
【0130】
さらに本発明の第1の実施の形態に係るFED装置によれば、上記カーボンファイバー製造法により製造されたカーボンファイバーを適用し、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を実現することができる。
【0131】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は第1の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0132】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法によれば、製造されたカーボンファイバーを適用する電子源、電子銃およびFED装置に適用することができ、さらに電子線描画装置、カーボンファイバーを利用するナノ配線、電気2重層キャパシターのカーボン電極部、燃料電池用カーボン電極部、ガスセンサの気体吸着用カーボンなど幅広い分野において適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成したCNT−FED装置の模式的断面構造図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成したカーボンファイバー電子源の拡大された模式的断面構造図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成した別のカーボンファイバー電子源の拡大された模式的断面構造図。
【図4】本発明の第1の実施の形態として、ドライエッチングによる微細ホール形成によるカーボンファイバー製造法の一工程を示す模式的断面構造図であって、(a)基板を準備する工程図、(b)スパッタリングによるカソード電極形成工程図、(c)レジスト塗布後、カソードラインフォトリソグラフィー工程図、(d)カソード電極形成後、リフトオフ工程図、(e)絶縁膜堆積工程図、(f)スパッタリングによるゲート電極形成工程図。
【図5】本発明の第1の実施の形態として、ドライエッチングによる微細ホール形成によるカーボンファイバー製造法の一工程を示す模式的断面構造図であって、(g)レジスト塗布後、ゲートラインフォトリソグラフィー工程図、(h)ゲート電極ラインエッチング後、リフトオフ工程図、(i)レジスト塗布後、微細ホールパターン形成工程図、(j)ホールドライエッチング後、レジストアッシング工程図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法を用いて形成したCNT−FEDの電界放出マトリックス電極であって、1ドットにホールを複数個詰め込んだ2×2マトリックスの模式的斜視図。
【図7】選択的超音波触媒メッキ法によるカーボンファイバー製造装置の模式的構成図。
【図8】本発明の第1の実施の形態として、ドライホール形成によるカーボンファイバー製造法の一工程を示す模式的断面構造図であって、(a)レジストパターニング工程図、(b)ドライエッチングによるホール形成工程図、(c)選択的超音波触媒メッキ法による触媒微結晶核の形成工程図、(d)事前酸化工程図。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化を実施するカーボンナノチューブの成長工程であって、成長温度と成長時間との関係を説明する図。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化処理後、カーボンナノチューブを成長した結果得られたカーボンファイバーの拡大された断面SEM写真。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化処理前のゲート電極近傍の拡大された断面SEM写真。
【図12】図11のゲート電極のA1部分のEDX元素分析結果。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、事前酸化処理後のゲート電極近傍の拡大された断面SEM写真。
【図14】(a)図13のCr酸化膜が形成されているB11部分のEDX元素分析結果、(b)図13のゲート電極のB2部分のEDX元素分析結果。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、ゲート電極の自然酸化Crの表層のオージェ分析結果。
【図16】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、ゲート電極の自然酸化Crの表層からの深さ2nmのオージェ分析結果。
【図17】本発明の第1の実施の形態に係るカーボンファイバー製造法において、ゲート電極の自然酸化Crの表層からの深さ10nmのオージェ分析結果。
【図18】従来のカーボンファイバー製造法であって、カーボンナノチューブの成長工程における成長温度と成長時間との関係を説明する図。
【図19】従来のカーボンファイバー製造法を用いて形成したホール内の触媒金属層の拡大された模式的断面構造図。
【図20】従来のカーボンファイバー製造法を用いて形成したホール内のカーボンナノチューブであって、ゲート電極14上の異常成長を示す拡大された模式的断面構造図。
【図21】従来のカーボンファイバー製造法を用いて形成したCNT−FEDの電界放出マトリックス電極であって、1ドットにホールを複数個詰め込んだ2×2マトリックスにおいて、ゲート電極14上の異常成長を示す模式的斜視図。
【図22】従来のカーボンファイバー製造法によって形成されたカーボンナノチューブの拡大された断面SEM写真。
【符号の説明】
【0135】
4…カーボンナノチューブ
5…蛍光体
6…アノード電極
7…ガラス基板
8…アノード電源(Va
9…ゲート電源(Vg
10…カソード電極
11…ホール
12…第1絶縁膜
50…第2絶縁膜
52…第3絶縁膜
12a,12b…ホール内側壁
14…ゲート電極(Cr層)
16,24,26…レジスト
18…基板
28…触媒金属層
29…触媒微結晶核
30…対向陰極
32,40…クリップ
33…電解液
34…メッキ槽
36…超音波槽
38…保持台
44…異常成長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にカソード電極を形成する工程と、
前記カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで到達するホールを形成する工程と、
前記ホールの底面に触媒微結晶核を形成する工程と、
前記ゲート電極表面上に第2絶縁膜を形成する酸化工程と、
前記触媒微結晶核上にカーボンナノチューブを形成する工程と
を有することを特徴とするカーボンファイバー製造法。
【請求項2】
前記触媒微結晶核を形成する際、前記カソード電極をメッキ槽内にて陰極として電着させる工程と、
さらに前記メッキ槽に超音波を印加する工程と
を有することを特徴とする請求項1に記載のカーボンファイバー製造法。
【請求項3】
前記酸化工程において、同時に前記カソード電極表面も酸化して第3絶縁膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のカーボンファイバー製造法。
【請求項4】
前記酸化工程において、同時に前記カソード電極表面および前記触媒微結晶核表面も酸化して前記カソード電極表面上および前記触媒微結晶核表面上に第3絶縁膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のカーボンファイバー製造法。
【請求項5】
前記酸化工程は、前記カーボンナノチューブを形成する工程よりも前に実施することを特徴とする請求項1に記載のカーボンファイバー製造法。
【請求項6】
基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に配置されたゲート電極と、
前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、
前記ゲート電極表面に形成された第2絶縁膜と、
前記触媒微結晶核上に形成されたカーボンナノチューブと
を備えることを特徴とするカーボンファイバー電子源。
【請求項7】
基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に配置されたゲート電極と、
前記ゲート電極を中間にして前記カソード電極と反対側の前記ゲート電極の上方に配置されたアノード電極と、
前第1記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、
前記ゲート電極表面に形成された第2絶縁膜と、
前記触媒微結晶核上に形成されたカーボンナノチューブと、
前記アノード電極の前記カソード電極に対向する裏面上に配置された蛍光体と
を備えることを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−48937(P2009−48937A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216140(P2007−216140)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】