説明

ガスバリア材

【課題】ハイドロキシアパタイトを膜形成成分として含む蒸着膜がプラスチック基材の表面に形成されており、ハイドロキシアパタイトの特性が活かされ、プラスチック基材のガスバリア性が著しく高められたガスバリア材を提供する。
【解決手段】プラスチック基材1と、その表面に、リン酸カルシウム化合物が層状に分布している領域3aを含む蒸着膜3が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材の表面に蒸着膜が形成されたガスバリア材に関するものであり、より詳細には、リン酸カルシウム系化合物成分を含む蒸着膜がプラスチック基材表面に形成されているガスバリア材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウム系化合物が知られている。この化合物は、下記式:
Ca10(PO(OH)
で表され、人間の骨や歯の成分に近いことから生体親和性が高く、この特性を利用して種々の用途に適用されている。例えば、人口骨、人口歯根(インプラント)、歯科用研磨剤などの医療用に使用されており、また、酸化チタンとの組み合わせで抗菌材料としても使用されている。さらには、化粧品や食品の添加剤、タンパク質の分離精製用としてクロマトグラフィーなどの用途にも使用されており、エタノールのガソリンへの添加用触媒としての用途も知られている。
【0003】
このように、ハイドロキシアパタイトは、生体親和性が高いことを利用して種々の用途に使用されているが、近年では、包装材への用途に適用することも提案されており、例えば特許文献1には、ポリカーボネートなどの薄膜フィルムの表面にハイドロキシアパタイトの蒸着膜を形成することにより、抗菌性を付与することが提案され、特許文献2には、透明な食品包装用シートの表面にハイドロキシアパタイトと二酸化チタンとのコーティング層を形成することにより大腸菌等を吸着保持させ、包装される食品での雑菌の繁殖を防止し、食品の鮮度が保持できることが示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−92366号公報
【特許文献2】特開2001−191458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハイドロキシアパタイトの包装材への適用はほとんど確立されておらず、十分な検討は行われていない。例えば、特許文献1で提案されているハイドロキシアパタイトの蒸着膜は全くの誤りであり、このような蒸着膜は抗菌性を有していない。事実、特許文献1の実施例では、抗菌性の評価も行っておらず、このことから考えて、特許文献1では、ハイドロキシアパタイト蒸着膜の特性が全く認識されていないと言ってよい。さらに、特許文献2では、アパタイトと二酸化チタンとを含むコーティング膜が菌に対する吸着性に優れていることを示すが、その他の特性、例えばガスバリア性などの包装材として最も要求される特性についての検討はなされていない。
【0006】
本発明者等は、上記のようなハイドロキシアパタイトの蒸着膜について、包装材の観点から研究を重ねた結果、この蒸着膜は、透明性に優れているばかりか、ガスバリア性にも優れていることを見出した。
従って、本発明の目的は、ハイドロキシアパタイトを膜形成成分として含む蒸着膜がプラスチック基材の表面に形成されており、ハイドロキシアパタイトの特性が活かされ、プラスチック基材のガスバリア性が著しく高められたガスバリア材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前述したハイドロキシアパタイトの蒸着膜のガスバリア性についての研究をさらに進めた結果、このようなハイドロキシアパタイトの蒸着膜を他の蒸着膜と組み合わせてプラスチック基材の表面に形成することにより、ガスバリア性が相乗的に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明によれば、プラスチック基材と、該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、リン酸カルシウム化合物が層状に分布している領域を表面もしくは内部に含む蒸着膜が形成されていることを特徴とするガスバリア材が提供される。
【0009】
本発明においては、
(1)前記リン酸カルシウム化合物がハイドロキシアパタイトであること、
(2)前記リン酸カルシウム化合物が層状に分布した領域が少なくとも2nm以上の厚みを有していること、
(3)前記蒸着膜が、前記リン酸カルシウムが層状に分布した領域と共に、ケイ素化合物が層状に分布した領域を含んでいること、
(4)前記ケイ素化合物が、酸化ケイ素、窒化ケイ素または窒化酸化ケイ素から選択された少なくとも1種であること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスバリア材は、プラスチック基材の表面に蒸着膜が形成された構造を有するものであるが、この蒸着膜には、リン酸カルシウム化合物が層状に分布している領域(以下、リン酸カルシウム化合物層と呼ぶことがある)が形成されているため、ガスバリア性が著しく向上している。
【0011】
例えば、後述する実施例の実験結果に示されているように、100μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に100nmの厚みの酸化ケイ素蒸着膜を形成したときの水分透過量は4.0×10−2g/m/dayであり、同じPETフィルムの表面に100nmの厚みのハイドロキシアパタイトの蒸着膜を形成したときの水分透過量は、酸化ケイ素蒸着膜を形成したときと同じ4.0×10−2g/m/dayである(実験例1、実験例2)。従って、このPETフィルムに50nmの酸化ケイ素蒸着膜と50nmのハイドロキシアパタイトの蒸着膜とを形成したとき(これらの膜の形成順序は何れでもよい)の水分透過量は、4.0×10−2g/m/dayであることが予想される。しかるに、実験例3に示されているように、実際にPETフィルム上に上記の厚みの酸化ケイ素蒸着膜とハイドロキシアパタイト蒸着膜とを形成したときの水分透過量は10−3g/m/day以下であり、予想よりも遥かにバリア性が向上していることが判る。このようなバリア性は、酸素に対しても同様である。
【0012】
このように、本発明においては、蒸着膜中にリン酸カルシウム化合物が層状に分布した層が形成されていることにより、リン酸カルシウム化合物の蒸着膜及び他の化合物の蒸着膜をそれぞれ単独で形成した場合から予想されるよりも著しく優れたガスバリア性が得られるのである。
【0013】
本発明において、上記のように優れたガスバリア性が得られる理由は明確に解明されたわけではないが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、スパッタリングなどにより蒸着膜を形成した場合には、僅かではあるが膜中にピンホールの如き欠陥が存在することが知られており、これは、ハイドロキシアパタイトに代表されるリン酸化合物の蒸着膜に限らず、他の化合物の蒸着膜を形成した場合も同様である。しかるに、ハイドロキシアパタイト等のリン酸化合物の蒸着膜は、それ自体でもガスバリア性に優れており、しかも、本願発明の蒸着膜では、このようにガスバリア性に優れた化合物が層状に分布された領域を表面或いは内部に有する多層構造を有しているため、各層に存在している欠陥が隣接する層によって閉じられることとなり、この結果、蒸着膜中に存在する欠陥によるガスバリア性の低下が有効に防止され、この結果、リン酸カルシウム化合物が分布した領域のガスバリア性と他の化合物が分布した領域のガスバリア性とが、何れも低減されることなく十分に発揮され、上記のように優れたガスバリア性が発現されるものと思われる。
【0014】
本発明のガスバリア材は、水分(水蒸気)や酸素に対して優れたバリア性を有していることから、包装材の分野に極めて有用であるが、リン酸カルシウム化合物が分布した領域は透明性も良好であるため、このような領域を透明性の良好な蒸着膜中に形成することにより、ガスバリア性と同時に透明性が要求される包装材以外の分野の用途にも有効に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を、以下、添付図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のガスバリア材の概略断面構造を示す図である。
【0016】
図1において、本発明のガスバリア材は、プラスチック基材1と、プラスチック基材1の表面に形成された蒸着膜3とからなっており、蒸着膜3には、リン酸カルシウム化合物が層状に分布した領域(リン酸カルシウム化合物層)3aが形成されており、このようなリン酸カルシウム化合物層3aと共に、他の無機化合物が分布した領域(他の無機化合物層)3bを有している。
【0017】
図1から理解されるように、蒸着膜3中のリン酸カルシウム化合物層3aの位置は特に制限されず、図1(a)に示されているように、リン酸カルシウム化合物層3aがプラスチック基材1の表面側に位置していてもよいし、また、図1(b)に示されているように、蒸着膜3の表面に露出して形成していてもよいし、さらに図1(c)に示されているように、リン酸カルシウム化合物層3aが他の無機化合物層3bの間にサンドイッチされた構造となっていてもよい。また、図示されていないが、リン酸カルシウム化合物層3bが複数形成された構造とすることもできるし、プラスチック基材1の両面に蒸着膜3を形成することも勿論可能である。即ち、蒸着膜3の層構造は、このガスバリア材の用途や要求される特性に応じて適宜の層構造とすることができる。
【0018】
<プラスチック基材1>
本発明において、上記の蒸着膜3を形成すべきプラスチック基材1としては、それ自体公知の熱可塑性樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフエニレンオキサイド樹脂;ポリ乳酸など生分解性樹脂;あるいはそれらの樹脂のブレンド物;などであってもよい。
【0019】
これらのプラスチック基材1は、用途に応じて任意の形態を有していてよく、例えば、フィルム乃至シート、ボトル、カップ、チューブ、或いはその他の形状の成形品の形態であってよく、さらには、一軸或いは二軸延伸などが施されたものであってもよいが、蒸着膜3をスパッタリングにより成膜する場合には、一般に、フィルム乃至シート形態のフィルム基材1が使用され、プラズマCVDなどにより成膜が行われる場合には、フィルム基材1は任意の形態を有していてよく、例えばボトル等の形態として、その内面及び外面の何れにも蒸着膜3を形成することができる。また、このガスバリア材を包装材の分野で用いるときには、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリオレフィン樹脂がプラスチック基材1の素材として最も一般的である。
【0020】
さらに、プラスチック基材1は、多層構造を有するものであってもよく、例えば、前述した熱可塑性樹脂(好ましくはオレフィン系樹脂)を内外層とし、これらの内外層の間に酸素吸収性層を設けたガスバリア性の多層構造物であってもよい。
【0021】
上述したプラスチック基材1の厚みも特に制限されず、その用途に応じて適宜の厚みを有するものであってよい。
【0022】
<リン酸カルシウム化合物層3a>
蒸着膜3中のリン酸カルシウム化合物層3aは、リン酸カルシウム化合物により成膜されている領域であり、リン酸カルシウム化合物が層状に分布しており、水分や酸素等に対して高いバリア性を示す。
【0023】
本発明において、上記のリン酸カルシウム化合物層3aの厚みは、特に制限されないが、ガスバリア性向上効果を十分に発揮させる上で、2nm以上であることが好ましい。また、必要以上に厚く形成すると、ガスバリア性はその分だけ向上するとしても、プラスチック基材1が有する柔軟性、透明性などの特性が損なわれるおそれがあるので、用途に応じてプラスチック基材1に要求される特性が損なわれない程度の厚みとすべきであり、例えばリン酸カルシウム化合物層3aの厚みは、1μm以下の範囲とするのがよい。
【0024】
また、上記のリン酸カルシウム化合物としては、ハイドロキシアパタイトが代表的である。先にも述べたように、ハイドロキシアパタイトは、理想的には、下記式:
Ca10(PO(OH)
で表されるが、このような化合物を蒸着により形成する場合には、Pの欠損等などにより組成が変動し易いため、膜中のリン酸カルシウム化合物の組成は、例えば原子比で、
Ca:P:O=1:0.1乃至0.7:0.3乃至2.7
の範囲に調整されていればよく、このような組成で優れたガスバリア性が発揮される。
【0025】
リン酸カルシウム化合物層3aを形成する蒸着は、スパッタリングやマイクロ波プラズマ或いは高周波プラズマなどによるCVD法によって行うことができるが、スパッタリングが好適である。即ち、CVD法により成膜を行う場合には、有機酸のCa塩などをCa源として含み且つリン酸などをP源として含む反応性ガスが使用されるが、膜の組成調整が難しいため、スパッタリングによる成膜が好適である。
【0026】
スパッタリングにより蒸着を行う場合には、ターゲットとして、ハイドロキシアパタイトが好適に使用されるが、Pの欠損を考慮して、P/Ca(原子比)が0.8〜1.2程度のリン酸カルシウム化合物(例えばCaHPO)等を使用することもできる。また、スパッタ用イオン源としては、He、Ne、Ar、Kr、Xe等の不活性ガスのイオンが使用され、通常、10Pa以下の真空度の雰囲気下で、膜を形成すべきプラスチック基材1を熱変形しない程度の温度に加熱下でスパッタリングが行われ、目的とする厚みのリン酸カルシウム化合物層3aが形成されるまでの時間、成膜が行われる。
【0027】
さらに、スパッタリングに際しては、組成調整のためにイオン照射を併用することが好適であり、照射するイオンとしては、上記で例示した不活性ガスのイオン及び酸素イオンが好適であり、このときのイオン加速電圧は、通常、100V〜2kVの範囲であればよい。
【0028】
<他の無機化合物層3b>
本発明において、上述したリン酸カルシウム化合物3aと共に蒸着膜3を形成する他の無機化合物層3bは、蒸着により成膜が可能であり、透明な蒸着膜を形成可能な種々の金属化合物、例えばSi、Al、Ti、Zr等の化合物により形成されるが、特に酸素等に対して高いガスバリア性を示し且つ成膜が容易であるという観点から、ケイ素化合物、特に酸化ケイ素、窒化ケイ素または窒化酸化ケイ素により形成されていることが好適である。また、無機化合物層3bは、多層構造を有していてもよく、例えば酸化ケイ素からなる層の上に窒化ケイ素等からなる層が形成されている構造とすることも可能である。もちろん、酸化ケイ素、窒化ケイ素または酸化ケイ素の表面もしくは内部に有機ケイ素重合膜や有機無機ケイ素重合膜を有していてもよい。
さらに、蒸着膜3bとしてDLC膜などの炭化水素系膜を成膜することも可能である。
【0029】
このような他の無機化合物層3bの厚みは特に制限されず、ガスバリア材の用途に応じて適宜の厚みを有していればよいが、かかる層3bの特性を十分に発揮させるという観点からは、2nm以上の厚みを有していることが好ましい。また、無機化合物層3bの厚みが過度に厚いと、プラスチック基材1に特有の可撓性や透明性等が損なわれてしまうおそれがあるため、一般には、前述したリン酸カルシウム化合物層3aの厚みに応じて、蒸着層3のトータル厚みが2μm以下となるように、無機化合物層3bの厚みを設定すればよい。
【0030】
蒸着膜3中の無機化合物層3bは、定法にしたがい、スパッタリングやプラズマCVDなどにより形成することができる。
スパッタリングも公知の条件でよく、例えばターゲットとして、層3bを形成すべき無機化合物、例えば酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素或いは窒化酸化ケイ素などの焼結体を使用し、不活性ガスイオンをスパッタ用イオン源として使用し、適宜の真空度の雰囲気中でプラスチック基材1を変形が生じない程度の温度に加熱しながら行うことができ、この際、必要により、不活性ガスイオンによるイオン照射を併用することもできる。
【0031】
<用途>
上記のようにしてプラスチック基材1の表面に蒸着膜3が形成されている本発明のガスバリア材は、ガスバリア性、特に水分に対するバリア性が極めて高く、しかも、リン酸カルシウム化合物層3aが透明性を低下させる領域ではないため、全体として優れた透明性を有しているばかりか、リン酸カルシウム系化合物、特にハイドロキシアパタイトが食品と共に体内に取り込まれても問題がない物質であり、体内に埋め込まれたり、皮膚に貼り付けたりしても使用されるものであることから、これらの特性を活かして、包装材としての用途、特にフィルム乃至シートの形態で袋状容器とし、食品乃至医療品用の容器として最も好適に使用される。
【0032】
また、水分や酸素の浸入防止が要求され、しかも透明性が要求される用途、例えば液晶表示板の保護パネルや太陽電池のガラス代替プラスチックシートや有機EL素子のバリア材としての使用も期待される。特に、透明電極基板と対向電極基板との間に有機発光層が設けられている有機EL素子の透明電極側に、上述した特性を有する本発明のバリア材を設けることは最も好適である。
【実施例】
【0033】
本発明を次の実験例で説明する。
【0034】
1.膜中の組成分析法
PHI社製、X線光電子分光装置(Quantum2000)により、膜の組成を測定した。ケイ素酸化膜の場合はケイ素、酸素のそれぞれの組成を測定し、窒化ケイ素膜の場合はケイ素、窒素のそれぞれの組成を測定し、窒化ケイ素酸化膜の場合はケイ素、窒素、酸素のそれぞれの組成を測定し、ハイドロキシアパタイト膜の場合はカルシウム、リン、酸素のそれぞれの組成を測定した。
【0035】
2.水分透過性測定法
水分透過量測定装置(モダンコントロール社製、PERMATRAN)により、蒸着膜を形成したフィルム基材の水分透過量(40℃−90%)を測定した。
【0036】
3.酸素透過量測定法
酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製、OX−TRAN)により、蒸着膜を形成したフィルム基材の酸素透過量(25℃−60%)を測定した。
【0037】
<実験例1>
ケイ素酸化膜の蒸着には周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。
プラスチック基材は120mm角で100μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
処理室内の並行平板にプラスチック基材を設置し、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により600Wの出力で高周波を発振させ、プラズマ処理をおこないプラスチック基材の一方の面にケイ素酸化膜を被覆した。
膜中のケイ素酸化膜化合物の組成は、原子比で、Si:O=1:2.1であり、膜厚は100nmになるように被覆時間を制御した。
このケイ素酸化膜を被覆したプラスチック基材の水分透過量及び酸素透過量を表1に示した。
【0038】
<実験例2>
ハイドロキシアパタイト膜の蒸着には周波数13.56MHz、最大出力200Wの高周波出力電源、マッチングボックス、直径400mm、高さ500mmの金属型円筒形スパッタ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するスパッタ装置(ULVAC社製:製造番号MB04−1047)を用いた。
プラスチック基材は実験例1と同じ基材を用いた。
処理室内にプラスチック基材を設置し、アルゴンを4sccm導入後、高周波発振器により150Wの出力で高周波を発振させ、ハイドロキシアパタイトのターゲットにスパッタ処理をおこないプラスチック基材の一方の面にハイドロキシアパタイト膜を被覆した。
膜中のハイドロキシアパタイト膜化合物の組成は、原子比で、
Ca:P:O=1:0.3:0.6であり、膜厚は100nmになるように被覆時間を制御した。
このハイドロキシアパタイト膜を被覆したプラスチック基材の水分透過量及び酸素透過量を表1に示した。
【0039】
<実験例3>
実験例1と同じ装置、同じプラスチック基材を用い、同じ被覆方法にて、膜厚が50nmになるように被覆時間を制御しケイ素酸化膜を被覆した。
その後、そのプラスチック基材の表面に実験例2と同じ装置、同じ被覆方法にて、膜厚が50nmになるように被覆時間を制御しハイドロキシアパタイト膜を被覆した。
結果、ケイ素酸化膜とハイドロキシアパタイト膜の合わせた膜厚を実験例1、実験例2と同じ100nmとした。
このケイ素酸化膜の表面にハイドロキシアパタイト膜を被覆したプラスチック基材の水分透過量及び酸素透過量を表1に示した。
【0040】
<実験例4>
実験例2と同じ装置、同じプラスチック基材を用い、同じ被覆方法にて、膜厚が50nmになるように被覆時間を制御しハイドロキシアパタイト膜を被覆した。
その後、そのプラスチック基材の表面に実験例1と同じ装置、同じ被覆方法にて、膜厚が50nmになるように被覆時間を制御しケイ素酸化膜を被覆した。
結果、ハイドロキシアパタイト膜とケイ素酸化膜の合わせた膜厚を実験例1乃至3と同じ100nmとした。
このヒドロキシアパタイト膜の表面にケイ素酸化膜を被覆したプラスチック基材の水分透過量及び酸素透過量を表1に示した。
【0041】
<実験例5>
実験例2と同じ装置、同じプラスチック基材を用い、処理室内にプラスチック基材を設置し、窒素を15sccm導入後、高周波発振器により150Wの出力で高周波を発振させ、ケイ素のターゲットにスパッタ処理をおこないプラスチック基材の一方の面に窒化ケイ素膜を被覆した。
膜中の窒化ケイ素膜化合物の組成は、原子比で、Si:N=1:1.3であり、膜厚は50nmになるように被覆時間を制御し被覆した。
その後、そのプラスチック基材の表面に実験例2と同じ装置、同じプラスチック基材を用い、同じ被覆方法にて、ハイドロキシアパタイトのターゲットにスパッタ処理をおこない膜厚が50nmになるように被覆時間を制御しハイドロキシアパタイト膜を被覆した。
結果、窒化ケイ素膜とハイドロキシアパタイト膜の合わせた膜厚を実験例1乃至4と同じ100nmとした。
この窒化ケイ素膜の表面にヒドロキシアパタイト膜を被覆したプラスチック基材の水分透過量及び酸素透過量を表1に示した。
【0042】
<実験例6>
実験例2と同じ装置、同じプラスチック基材を用い、処理室内にプラスチック基材を設置し、アルゴンを6sccm導入後、高周波発振器により150Wの出力で高周波を発振させ、窒化ケイ素のターゲットにスパッタ処理をおこないプラスチック基材の一方の面に窒化酸化ケイ素膜を被覆した。
膜中の窒化酸化ケイ素膜化合物の組成は、原子比で、Si:N:O=1:0.8:0.2であり、膜厚は50nmになるように被覆時間を制御し被覆した。
その後、そのプラスチック基材の表面に実験例2と同じ装置、同じプラスチック基材を用い、同じ被覆方法にて、ハイドロキシアパタイトのターゲットにスパッタ処理をおこない膜厚が50nmになるように被覆時間を制御しハイドロキシアパタイト膜を被覆した。
結果、窒化酸化ケイ素膜とハイドロキシアパタイト膜の合わせた膜厚を実験例1乃至5と同じ100nmとした。
この窒化酸化ケイ素膜の表面にヒドロキシアパタイト膜を被覆したプラスチック基材の水分透過量及び酸素透過量を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
上記の結果より実験例1、実験例2のケイ素酸化膜もしくはハイドロキシアパタイト膜の蒸着膜は未処理PETフィルムに比べて水分透過量及び酸素透過量が減少していることがわかるが、実験例3乃至6の様に他の蒸着膜との組み合わせにより、水分透過量及び酸素透過量が大幅に減少していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のガスバリア材の概略断面構造を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1:プラスチック基材
3:蒸着膜
3a:リン酸カルシウム化合物層
3b:他の無機化合物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、リン酸カルシウム化合物が層状に分布している領域を表面もしくは内部に含む蒸着膜が形成されていることを特徴とするガスバリア材。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム化合物がハイドロキシアパタイトである請求項1に記載のガスバリア材。
【請求項3】
前記リン酸カルシウム化合物が層状に分布した領域が少なくとも2nm以上の厚みを有している請求項1または2に記載のガスバリア材。
【請求項4】
前記蒸着膜が、前記リン酸カルシウムが層状に分布した領域と共に、ケイ素化合物が層状に分布した領域を含んでいる請求項1乃至3の何れかに記載のガスバリア材。
【請求項5】
前記ケイ素化合物が、酸化ケイ素、窒化ケイ素または窒化酸化ケイ素から選択された少なくとも1種である請求項4に記載のガスバリア材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100916(P2010−100916A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275270(P2008−275270)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】