説明

ガス化複合発電設備およびその制御方法

【課題】 発電負荷要求の変動が大きい場合でも、発電負荷要求の変動に対して複合発電設備の運転を確実に安定追従させる。
【解決手段】 燃料ガスを製造するガス化炉23を備えたガス化設備を設ける。蒸気タービンとともにガス化設備にて製造された燃料ガスによってガスタービンを回転させて発電する複合発電設備25を設ける。複合発電設備25への発電負荷要求に応じ、複合発電設備25にて必要となる燃料ガスをガス化設備にて製造させるべく、ガス化設備をフィードフォワード制御する制御系を設ける。ガス化設備に存在する無駄時間及び制御の遅れに基づいて複合発電設備25への発電負荷要求を遅らせて複合発電設備25を一定の遅れをもって追従運転させる無駄時間補償回路46を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス化設備と複合発電設備とを統合したガス化複合発電設備およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガス化設備と複合発電設備(ガスタービンとスチームタービンの組み合わせ)とを統合したガス化複合発電設備として、IGCC(Integrated Gasification Combined Cycle)が注目されている。このIGCCでは、ガスタービンの燃料となる残渣油、石炭等の原料に含まれる重金属、硫黄等を合成ガスの製造過程でほぼ除去し、天然ガスと同等のクリーンな燃料ガスとして用いるため、環境負荷を低減できることから、環境にやさしい次世代の発電設備として高く評価されている。
一般に、この種のシステムでは、残渣油、石炭等の原料をガス化炉にてガス化し、その後、ガス処理設備にて有害物質を除去してクリーンな燃料ガスに変換し、この燃料ガスを用いてガスタービンにて発電している。
【0003】
そして、このようなシステムでは、その制御方式として、発電設備側の要求に対して必要な量の燃料ガスを製造すべくガス化炉を制御し、この製造した燃料ガスにガスタービンを追従させるガス化炉リード方式、発電負荷の要求に対して必要な量の発電をさせるべくガスタービンを制御し、このガスタービンの運転に必要な合成ガスをガス化炉から供給させるタービンリード方式があるが、最近では、発電負荷要求の変動に対して俊敏に追従させるべく、ガス化炉リード方式及びタービンリード方式を組み合わせてガス化炉をフィードフォワード制御する協調制御方式が採用されている。
【0004】
ここで、協調制御方式について説明する。
図3に示すように、ガス化複合発電設備は、燃料をガス化するガス化プロセス部1と、ガス化プロセス部1からの燃料ガスによりガスタービンにて発電する複合発電プロセス部2とを有している。
また、ガス化プロセス部1への燃料の供給管に設けられた燃料制御弁3には、ガス圧設定器4から設定値が送られるガス化プロセスコントローラ5が接続され、燃料制御弁3は、ガス化プロセスコントローラ5からの制御信号に基づいて制御される。ガス化プロセスコントローラ5は、ガス化プロセス部1におけるガス圧を検出するガス圧力検出器6からの検出信号とガス圧設定器4からの設定値とから制御値を演算し、燃料制御弁3へ制御信号を出力する。
また、複合発電プロセス部2へのガスの供給管に設けられたガス制御弁7には、発電負荷設定器8からの設定値が送られる発電プロセスコントローラ9が接続され、ガス制御弁7は、発電プロセスコントローラ9からの制御信号に基づいて制御される。発電プロセスコントローラ9は、複合発電プロセス部2における発電出力を検出する発電出力検出器10からの検出信号と発電負荷設定器8からの設定値とから制御値を演算し、ガス制御弁7へ制御信号を出力する。
【0005】
そして、上記のガス化複合発電設備において、協調制御方式を行う場合は、フィードフォワード演算器11を設け、このフィードフォワード演算器11へ発電負荷設定器8からの設定値を送信し、このフィードフォワード演算器11から燃料制御弁3へフィードフォワード制御信号を送信する。これにより、ガス化プロセス部1への燃料の供給量が、発電負荷要求の変動に対応して増減される。
【0006】
つまり、この協調制御方式では、ガス化プロセス部1のガス化炉におけるガス化を、発電負荷要求の変動に対して迅速に追従させることが可能である。
なお、この種の制御の先行技術文献としては、以下のものがある。
【特許文献1】特開2002−129910号公報
【特許文献2】特開平7−234701号公報
【特許文献3】特許第2685341号公報
【特許文献4】特開平11−210412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、フィードフォワード制御を行うと、ガス化プロセス部1のガス化炉におけるガス化を、発電負荷要求の変動に対する追従性を向上させることができるが、ガス化プロセス部1のガス化炉には、無駄時間及び制御の遅れが存在する。したがって、例えば、発電負荷要求の変動が一定以上に大きくなると、特に、無駄時間の存在により燃料ガスの増加の検出が遅れ、その後の燃料ガスの製造量が極端に増減するなどして、発電負荷要求の変動に対する追従性が悪くなってしまう。
具体的には、発電負荷の要求が急に減少した場合、燃料ガスの消費量が減るのに対し供給量は急には減らないので燃料ガスが余剰になる。その際、余剰の燃料ガスの圧力が一定以上になると、フレアスタックから燃料ガスを燃焼して放出するか、予備タンクなどへ放出して圧力の異常上昇を防ぐ対応をする必要がある。フレアスタックから燃料ガスを燃焼放出する場合、単なる経済的な損失だけでなく、新たな環境負荷を発生させる問題点を有することになる。また、予備タンクを設ける場合には設備費やスペースの増加が必要となりコスト増となる。
一方、発電負荷の要求が急に増加し燃料ガスの供給が間に合わずに圧力が一定以下に低下した場合には、タービンの出力は増加せず逆に低下することになる。そして圧力の低下が一定以上となるとタービントリップによる停止信号が出され、発電停止の事態を招くこととなる。
上記の如く発電負荷要求の変動に対する追従性が悪いと、ガス化複合発電設備としての運転信頼性に大きな影響を与えることになり、特に発電停止などにより連続運転ができなくなれば経済的に膨大な損失を蒙ることとなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、発電負荷要求の変動が大きい場合でも、ガス化設備における燃料ガスの製造量を安定させることができ、発電負荷要求の変動に対する追従性をさらに向上させることが可能なガス化複合発電設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガス化複合発電設備は、ガス化設備と該ガス化設備により製造したガスを燃料とする複合発電設備とを備え、前記ガス化設備にて製造した燃料ガスを用いてガスタービンおよびスチームタービンを回転させることにより前記複合発電設備にて発電を行うガス化複合発電設備であって、前記複合発電設備への発電負荷要求に応じ、前記複合発電設備で必要な量の燃料ガスを前記ガス化設備にて製造させるべく、前記ガス化設備をフィードフォワード制御する制御系を備え、該制御系は、前記ガス化設備に存在する無駄時間及び制御の遅れに基づいて前記複合発電設備への発電負荷要求を遅らせて前記複合発電設備を一定の遅れをもって追従運転させる無駄時間補償回路を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記制御系が、さらに前記無駄時間補償回路により追従運転される前記複合発電設備にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガスの流量の変動との差異に基づいて、前記ガス化設備へ送信されるフィードフォワード制御のための設定値を補正する燃料ガス流量変化量補償回路を備えたことを特徴とする。
さらに、本発明は、前記制御系が、前記ガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を、前記ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて追従させるべく、前記ガス化設備へ酸素を圧縮して送る圧縮機をフィードフォワード制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記制御系は、前記ガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を前記ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて追従させるべく、空気から酸素を分離して前記ガス化設備へ供給する空気分離装置をフィードフォワード制御することを特徴とする。
【0012】
本発明の制御方法は、ガス化設備と該ガス化設備により製造したガスを燃料とする複合発電設備とを備え、前記ガス化設備にて製造した燃料ガスを用いてガスタービンおよびスチームタービンを回転させることにより前記複合発電設備にて発電を行うガス化複合発電設備の制御方法であって、前記複合発電設備への発電負荷要求に応じ、前記複合発電設備で必要な量の燃料ガスを前記ガス化設備にて製造させるべく、前記ガス化設備を構成する機器へ前記燃料ガスの製造量を増減させるフィードフォワード信号を出力する工程と、
前記ガス化設備に存在する無駄時間及び制御の遅れを想定して前記複合発電設備への発電負荷要求を遅らせ、前記複合発電設備を一定の遅れをもって追従運転させるように複合発電設備に疑似信号を出力する工程とを実行することにより、ゼロフレア運転できるように制御することを特徴とする。
また、前記複合発電設備にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガスの流量の変動との差異に基づいて、前記ガス化設備へ送信されるフィードフォワード制御のための設定値を補正する工程を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス化複合発電設備によれば、ガス化設備に存在する無駄時間及び制御の遅れに基づいて複合発電設備への発電負荷要求を遅らせて複合発電設備を一定の遅れをもって追従運転させる無駄時間補償回路を制御系に設けたので、発電負荷要求の変動が大きい場合にも、ガス化設備を発電負荷要求に応じてフィードフォワード制御するとともに、フィードフォワード制御されるガス化設備に対して、その無駄時間及び制御遅れを考慮して複合発電設備を一定の遅れをもって確実に安定追従させて運転させることができ、発電負荷要求の変動に対する追従性をさらに向上させることができる。特に、発電負荷変動が1分間に3%以下である場合には、余剰ガス吸収のためのバッファとしてのタンクなどの設備を用いることなく、ガス化設備をゼロフレア運転することができる。
【0014】
また、本発明によれば、無駄時間補償回路により追従運転される複合発電設備にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガス流量の変動との差異に基づいて、ガス化設備のフィードフォワード制御のための設定値を補正する燃料ガス流量変化量補償回路を設けたので、ガス化設備からの燃料ガスと複合発電設備にて必要とされる燃料ガスとの流量差を極力抑えることができ、複合発電設備の安定運転を図ることができる。
【0015】
また、本発明によれば、制御系が、ガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を、ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて追従させるべく、ガス化設備へ酸素を圧縮して送る圧縮機をフィードフォワード制御するので、ガス化設備への酸素の供給量を、ガス化設備の負荷に応じて安定して供給することができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、制御系が、ガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を、ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて空気から酸素を分離させて追従させるべく、空気から酸素を分離する空気分離装置をフィードフォワード制御するので、ガス化設備への酸素の供給量を、ガス化設備の負荷に応じてさらに安定して供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施形態が適応される基準となる協調制御方式が適応されたガス化複合発電設備について説明する。
図1は、図3により原理を示した協調制御方式が適用されたガス化複合発電設備のより具体的な構成を示すもので、その構成を本願実施形態との比較例として説明する。
図に示すように、このガス化複合発電設備21は、空気分離装置22、ガス化炉23、ガス処理設備24及び複合発電設備25を備えている。
空気分離装置22は、送り込まれた空気を、酸素と窒素に分離する。この空気分離装置22によって分離された酸素は、酸素圧縮機26により加圧されてガス化炉23へ送られ、窒素は、窒素圧縮機27により加圧されて複合発電設備25へ送られる。
【0018】
ガス化炉23には、残渣油、石炭などの燃料原料及び複合発電設備25からの蒸気が供給される。そして、このガス化炉23は、酸素、燃料原料及び蒸気から水素及び一酸化炭素を主成分とする粗燃料ガスを製造する。この粗燃料ガスは、ガス処理設備24へ送られ、このガス処理設備24にて、脱塵,脱硫等により精製した燃料ガスとし、この燃料ガスが複合発電設備25へ送られる。
【0019】
複合発電設備25は、ガスタービン、スチームタービン及び発電機を備えている。ガスタービンには、窒素圧縮機27からの窒素が混合されて所定の濃度に調整されたガス処理設備24からの燃料ガスが供給される。そして、このガスタービンは、供給される燃料ガスを燃焼させてタービンを回転させる。このガスタービンからの排気は、ボイラへ送られ、ボイラでは、排気熱と燃料の燃焼熱により蒸気を発生させ、その蒸気をスチームタービンに送り込む。これにより、スチームタービンは、供給される蒸気をタービンの回転という運動エネルギに変換する。そして、これらガスタービン及びスチームタービンによって発電機が駆動されて発電が行われる。なお、この複合発電設備25には、図示しない供給ラインから灯油などの補助燃料が供給可能とされており、ガスタービンは、燃料ガスによる運転あるいは補助燃料による運転が可能とされている。
【0020】
また、複合発電設備25へ燃料ガスを供給する燃料ガスラインには、フレアスタック28が接続されている。このフレアスタック28は、なんらかの原因により、燃料ガスラインのガス圧が規定圧力以上となった際に、ガスを放出して圧力上昇を抑制することを目的として燃料ガスをフレアリングするものである。
そして、上記ガス化複合発電設備21には、ガス化炉23への燃料原料の供給ライン、酸素の供給ライン及び蒸気の供給ラインに、それぞれ制御弁31、32、33が設けられ、ガス化炉23への燃料原料、酸素及び蒸気の供給量が調節可能とされている。なお、流量制御手段として、制御弁を用いた場合について説明するが、この制御弁に代えて、例えば、燃料供給ポンプ、送風機等の機器の駆動モータの回転数を制御することにより流量を制御する場合を含むものとする。
【0021】
また、複合発電設備25への燃料ガスの供給ライン及び窒素の供給ラインにも、それぞれ制御弁34、36が設けられ、複合発電設備23への燃料ガス及び窒素の供給量が調節可能とされている。
さらに、フレアスタック28につながる燃料ガスの分岐ラインにも制御弁37が設けられ、フレアスタック28への燃料ガスの流量が調節可能とされている。
【0022】
次に、上記ガス化複合発電設備21の制御系について説明する。
このガス化複合発電設備21は、空気分離装置負荷コントローラ41、ガス化炉負荷コントローラ42及び発電負荷コントローラ43を備えている。
空気分離装置負荷コントローラ41は、空気分離装置22へ制御信号を出力して制御する。
ガス化炉負荷コントローラ42は、燃料原料の供給ライン、酸素の供給ライン及び蒸気の供給ラインに設けられた制御弁31、32、33へ制御信号を出力し、これら制御弁31、32、33を制御する。また、ガス化炉負荷コントローラ42は、酸素供給ラインの制御弁32へ送信する制御信号を空気分離装置負荷コントローラ41にも送信する。
【0023】
発電負荷コントローラ43には、発電負荷設定器44から設定値が送信される。また、この発電負荷コントローラ43には、複合発電設備25における発電出力を検出する発電出力検出器45から発電出力の検出データが送信される。発電負荷コントローラ43は、燃料ガス供給ラインの制御弁34及び窒素供給ラインの制御弁36へ制御信号を出力し、これら制御弁34、36を制御する。つまり、発電負荷コントローラ43は、発電出力を被制御変数として複合発電設備25を制御している。
また、この発電負荷コントローラ43は、加算器61、62を介してガス化炉負荷コントローラ42及び窒素圧縮機コントローラ52にも制御信号を出力する。
【0024】
酸素圧縮機26には、酸素圧縮機コントローラ51が設けられ、この酸素圧縮機コントローラ51には、酸素圧縮機コントローラ設定器53から設定値が送信される。また、酸素圧縮機コントローラ52には、ガス化炉23への酸素の供給ラインにおける圧力または流量を検出する検出器55から検出データが送信される。そして、この酸素圧縮機コントローラ51は、酸素圧縮機コントローラ設定器53からの設定値及び検出器55からの検出データに基づいて、酸素圧縮機26にフィードバック制御信号を出力し、酸素圧縮機26を制御する。これにより、酸素圧縮機26は、下流圧力あるいは流量を被制御変数として制御される。
【0025】
窒素圧縮機27には、窒素圧縮機コントローラ52が設けられ、この窒素圧縮機コントローラ52には、窒素圧縮機コントローラ設定器54から設定値が送信される。また、窒素圧縮機コントローラ52には、複合発電設備25への窒素の供給ラインにおける圧力または流量を検出する検出器56から加算器62を介して検出データが送信される。そして、この窒素圧縮機コントローラ52は、窒素圧縮機コントローラ設定器54からの設定値及び検出器56からの検出データと発電負荷コントローラ43からの制御信号との加算値に基づいて、窒素圧縮機27に制御信号を出力し、窒素圧縮機27を制御する。これにより、窒素圧縮機27は、下流圧力あるいは流量を被制御変数として制御される。なお、上記酸素圧縮機26及び窒素圧縮機27の制御は、負荷の状況に応じて圧力制御または流量制御のいずれかに切り換えられるものである。
【0026】
また、複合発電設備25へ燃料ガスを供給する燃料ガスラインには、燃料ガスの圧力を検出するガス圧力検出器57が設けられ、このガス圧力検出器57からの検出データが、ガス化炉用ガス圧力コントローラ58及びフレア用ガス圧力コントローラ59へそれぞれ送信される。
ガス化炉用ガス圧力コントローラ58は、加算器61へ制御信号を出力する。これにより、ガス化炉負荷コントローラ42には、ガス化炉用ガス圧力コントローラ58及び発電負荷コントローラ43からの制御信号が加算器61にて加算されて送信される。つまり、ガス化炉23は、ガス処理設備24の下流側における燃料ガスのガス圧力を被制御変数として制御される。
また、フレア用ガス圧力コントローラ59は、フレアスタック28への分岐ラインの制御弁37へ制御信号を出力し、この制御弁37を制御する。ここで、フレア用ガス圧力コントローラ59は、ガス化炉用ガス圧力コントローラ58よりも圧力設定値が少し高くされている。これにより、通常運転時に、分岐ラインの制御弁37が閉じているが、ガス圧力検出器57の検出値がフレア用ガス圧力コントローラ59の設定値を超えた場合には、分岐ラインの制御弁37が開かれ、フレアスタック28にてフレアリングするようになっている。
【0027】
そして、上記ガス化複合発電設備21では、発電負荷設定器44からの設定値に基づく発電負荷コントローラ43からの制御信号が、フィードフォワード制御信号として、加算器61を介してガス化炉負荷コントローラ42へ送信される。これにより、ガス化炉負荷コントローラ42は、フィードフォワード制御信号が加算された信号に基づいて、ガス化炉23への燃料原料、酸素及び蒸気の供給ラインの制御弁31、32、33を制御するとともに、空気分離装置負荷コントローラ41へ制御信号を送信して空気分離装置22を制御する。これにより、ガス化炉23及びガス処理設備24による燃料ガスの製造量を、発電負荷要求の一定範囲の変動に対して迅速に追従させることができる。
【0028】
つまり、この比較例における協調制御を適用したガス化複合発電設備21では、ガス化炉23及びガス処理設備24からなるガス化設備における燃料ガスの製造量を、発電負荷要求の変動に対して迅速に追従させることができる。
また、このガス化複合発電設備21では、発電負荷設定器44からの設定値に基づく発電負荷コントローラ43からの制御信号が、フィードフォワード制御信号として、加算器62を介して窒素圧縮機コントローラ52にも送信される。これにより、窒素圧縮機27による複合発電設備25への窒素の供給量が、発電負荷要求の変動に対応して迅速に追従されて増減される。
【0029】
ここで、上記比較例のガス化複合発電設備21では、発電負荷要求の変動に対応してガス化炉23及びガス処理設備24による燃料ガスの製造量を増減させるフィードフォワード制御を行うが、ガス化炉23及びガス処理設備24による燃料ガスの製造設備には、燃料が前記ガス化設備から発電設備に供給される間に無駄時間及び制御の遅れが存在する。
ここで無駄時間とは、プロセスやシステムに命令(信号)が入力されてから、その結果が全く現れない時間であり、より正確には、図4に示す通りである。
すなわち、(a)に示すように、制御出力(操作変数)が瞬時に立ち上がって出力された場合であっても、一般に被制御変数の挙動は(b)に示すような遅れ特性を持っており、さらに、無駄時間が存在すると、実際の被制御変数の挙動は(c)に示すように多くの遅れを生じることとなる。本発明においては、図4(c)に示すような無駄時間と制御の遅れの両方が存在する場合の補償を実行するものである。
そして、発電負荷要求の変動が大きいと、特に、無駄時間の存在により燃料ガスの増減の検出が遅れ、その後の燃料ガスの製造量が極端に増減するなどして、発電負荷要求の変動に対する追従性が悪くなる。
【0030】
このため、本実施形態では、図2に示すように、図1の協調制御方式に加えて、上記で説明した無駄時間および制御の遅れを想定して複合発電設備への発電負荷要求を遅延させ、複合発電設備を一定の遅れをもって追従運転させる無駄時間補償回路を備えている。すなわち発電負荷コントローラ43と発電負荷設定器44との間には、ガス化プラント無駄時間補償回路46を設けている。このガス化プラント無駄時間補償回路46は、発電負荷設定器44からの設定値の変化に対する燃料ガスの圧力への影響及びガス圧力コントローラ58の出力の変化に対する燃料ガスの圧力への影響を含む動的モデルを用いたもので、発電負荷設定器44からの設定値に対してガス化炉23及びガス処理設備24などからなるガス化設備における無駄時間を補償するものである。そして、このガス化プラント無駄時間補償回路46により、複合発電設備25は、その運転が意図的に遅らせられ、発電負荷設定器44からの発電負荷の設定値に対して、常にある一定の遅れをもって安定追従する。
【0031】
このように、上記ガス化複合発電設備21によれば、発電負荷要求の変動が大きい場合にも、ガス化炉23及びガス処理設備24などからなるガス化設備を発電負荷要求に応じてフィードフォワード制御するとともに、フィードフォワード制御されるガス化設備に対して、その無駄時間及び制御遅れを考慮して複合発電設備25を一定の遅れをもって確実に安定追従させて運転させることができ、発電負荷要求の変動に対する追従性をさらに向上させることができる。
【0032】
また、上記ガス化複合発電設備21は、ガス化プラント無駄時間補償回路46による発電負荷の設定値の意図的な遅れ及び複合発電設備25にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガス流量の変動との差異を補償するために、燃料ガス流量変化量補償回路47を備えている。そして、この燃料ガス流量変化量補償回路47は、発電負荷設定器44からガス化炉負荷コントローラ42へ送信される発電負荷の設定値に加算器63にて補正値を加算し、このフィードフォワード制御信号として送信される発電負荷の設定値を補正するようになっている。
このように、ガス化プラント無駄時間補償回路46により追従運転される複合発電設備25にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガス流量の変動との差異に基づいて、ガス化炉負荷コントローラ42へ送信されるフィードフォワード制御のための設定値を補正する燃料ガス流量変化量補償回路47を設けたので、ガス化炉23及びガス処理設備24などからなるガス化設備からの燃料ガスと複合発電設備25にて必要とされる燃料ガスとの流量差を極力抑えることができ、複合発電設備25の安定運転を図ることができる。
【0033】
また、上記フィードフォワード制御により、発電負荷要求の変動に対応してガス化炉23及びガス処理設備24による燃料ガスの製造量を増減させる場合、燃料ガスに必要となる酸素の供給量も増減させる必要が生じる。
このため、本実施形態では、酸素圧縮機コントローラ51からの制御信号にガス化炉負荷コントローラ42からの制御信号を加算して酸素圧縮機26へ送信する加算器72を設けている。これにより、発電負荷コントローラ43からのフィードフォワード制御信号に基づいて送信されたガス化炉負荷コントローラ42からの制御信号がフィードフォワード信号として酸素圧縮機コントローラ51からの制御信号に加算され、その制御信号にて酸素圧縮機26が制御される。
【0034】
つまり、ガス化炉23における燃料ガスの製造量の増減に対して酸素圧縮機26を俊敏に制御し、特に、ガス化炉23内の温度変化に大きく影響を与える酸素の供給量を、ガス化炉23及びガス処理設備24からなるガス化設備の負荷に応じて安定して供給することができる。
また、ガス化炉23及びガス処理設備24からなるガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を、ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて空気から酸素を分離させて追従させるべく、空気分離装置22をフィードフォワード制御するので、酸素の供給量を、ガス化炉23及びガス処理設備24からなるガス化設備の負荷に応じてさらに安定して供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】協調制御方式が適応されたガス化複合発電設備の比較例を説明する回路図である。
【図2】実施形態に係るガス化複合発電設備を説明する回路図である。
【図3】従来のガス化複合発電設備を説明する回路図である。
【図4】操作変数および被制御変数と無駄時間との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
21 ガス化複合発電設備
22 空気分離装置
23 ガス化炉(ガス化設備)
24 ガス処理設備(ガス化設備)
25 複合発電設備
26 酸素圧縮機(圧縮機)
42 ガス化炉負荷コントローラ(制御系)
43 発電負荷コントローラ(制御系)
46 ガス化プラント無駄時間補償回路(無駄時間補償回路)
47 燃料ガス流量変化量補償回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化設備と該ガス化設備により製造したガスを燃料とする複合発電設備とを備え、前記ガス化設備にて製造した燃料ガスを用いてガスタービンおよびスチームタービンを回転させることにより前記複合発電設備にて発電を行うガス化複合発電設備であって、
前記複合発電設備への発電負荷要求に応じ、前記複合発電設備にて必要となる燃料ガスを前記ガス化設備にて製造させるべく、前記ガス化設備をフィードフォワード制御する制御系を備え、
該制御系は、前記ガス化設備に存在する無駄時間及び制御の遅れを想定して前記複合発電設備への発電負荷要求を遅延させ、前記複合発電設備を一定の遅れをもって追従運転させる無駄時間補償回路を備えたことを特徴とするガス化複合発電設備。
【請求項2】
前記制御系は、さらに前記無駄時間補償回路により追従運転される前記複合発電設備にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガスの流量の変動との差異に基づいて、前記ガス化設備へ送信されるフィードフォワード制御のための設定値を補正する燃料ガス流量変化量補償回路を備えたことを特徴とする請求項1に記載のガス化複合発電設備。
【請求項3】
前記制御系は、前記ガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を前記ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて追従させるべく、前記ガス化設備へ酸素を圧縮して送る圧縮機をフィードフォワード制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス化複合発電設備。
【請求項4】
前記制御系は、前記ガス化設備における燃料ガスの製造に必要な酸素の供給量を前記ガス化設備における燃料ガスの製造量の増減に応じて追従させるべく、空気から酸素を分離して前記ガス化設備へ供給する空気分離装置をフィードフォワード制御することを特徴とする請求項3に記載のガス化複合発電設備。
【請求項5】
ガス化設備と該ガス化設備により製造したガスを燃料とする複合発電設備とを備え、前記ガス化設備にて製造した燃料ガスを用いてガスタービンおよびスチームタービンを回転させることにより前記複合発電設備にて発電を行うガス化複合発電設備の制御方法であって、
前記複合発電設備への発電負荷要求に応じ、前記複合発電設備で必要な量の燃料ガスを前記ガス化設備にて製造させるべく、前記ガス化設備を構成する機器へ前記燃料ガスの製造量を増減させるフィードフォワード信号を出力する工程と、
前記ガス化設備に存在する無駄時間及び制御の遅れを想定して前記複合発電設備への発電負荷要求を遅らせ、前記複合発電設備を一定の遅れをもって追従運転させるように複合発電設備に疑似信号を出力する工程と、
を実行することにより、ゼロフレア運転できるように制御することを特徴とするガス化複合発電設備の制御方法。
【請求項6】
さらに前記複合発電設備にて必要とされる燃料ガスの流量の変動と実際の燃料ガスの流量の変動との差異に基づいて、前記ガス化設備へ送信されるフィードフォワード制御のための設定値を補正する工程を備えた請求項5記載のガス化複合発電設備の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−105022(P2006−105022A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292847(P2004−292847)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(000231707)新日本石油精製株式会社 (33)
【Fターム(参考)】