説明

ガラス、ガラス粉末、光ファイバー、光ファイバーアレイ及び光導波路

【課題】耐結晶化特性に優れ、化学的耐久性に優れた特性を有するガラス材料や、このガラス材料を使った光ファイバー及びそれを束ねた光ファイバーアレイまたは光導波路を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される組成であることを特徴とするガラス。
aRO・bP2O5・cB2O3・・・(1)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、cはそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.001≦c≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c=1を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収特性を有するホウリン酸系のガラス、ガラス粉末、光ファイバー、光ファイバーアレイ及び光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
光吸収特性を有するガラスのうち近赤外線吸収特性を有するガラス組成として、ケイ酸塩ガラスに鉄などの遷移金属元素を含有させたものがあったが、製品への加工過程で再加熱工程が存在するため結晶化が起きやすく製品への適用が限られたものとなっていた。
【0003】
一方、リン酸塩ガラスは遷移金属イオンや希土類イオンを高濃度に含有可能であり、低光弾性、低融性、紫外線の高い光透過率などの特性を有する。このため、近赤外シャープカットフィルタ、精密成型光学レンズ、紫外線透過率の高い光学レンズ、光偏向制御素子用低光弾性定数ガラス等への応用が研究されている。
【0004】
リン酸塩ガラスは遷移金属イオンや希土類イオンを高濃度に含有可能であり、BaO-P2O5ガラスにB2O3やGeO2などの3B〜5B族酸化物を添加することで耐結晶化性を向上した低光弾性リン酸塩ガラスの光ファイバが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−246642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のリン酸塩ガラスに銅などの遷移金属元素を高濃度で含有させることにより特定波長域の光を吸収する特性を有するガラス材料が実現できると考えられる。しかし、リン酸塩ガラスは一般に化学的耐久性に劣るためそれを改善する組成を見出すことが不可欠である。さらに、再加熱過程での耐結晶化特性に優れるリン酸塩ガラス組成は見出されていない。
【0006】
本発明は再加熱工程で発生する結晶化を防止するため、耐結晶化特性に優れ、化学的耐久性に優れた特性を有するガラスやその材料となるガラス粉末、このガラスを使った光ファイバー及びそれを束ねた光ファイバーアレイまたは光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、下記一般式(1)で表される組成であることを特徴とするガラスである。
aRO・bP2O5・cB2O3・・・(1)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、cはそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.001≦c≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c=1を満たす。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、一般式(1)でRをMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素とし、ROを38〜55mol%、P2O5を38〜55mol%、B2O3を0.1〜20mol%の範囲となるようにガラスの組成を調整することで、良好な耐結晶化特性を得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガラスにおいて、前記a及びbは1≦a/b≦1.3を満たすことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、一般式(1)で表される組成のガラスの内、a/bの値が1≦a/b≦1.3を満たす、すなわちRO/P2O5のモル比が1〜1.3の間で最適な耐水性と耐結晶化性の特性を得ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のガラスにおいて、前記RはMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、RとしてMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snの少なくとも1種類の金属を選ぶことで、耐結晶化特性に優れて可視域から近赤外域まで光吸収帯域を持たないガラス材料を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載のガラスであって、下記一般式(2)で表される組成であることを特徴とする。
a1CuO・(a−a1)R'O・bP2O5・cB2O3・・・(2)
ここで、R'はMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属であり、0<a1<aである。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、CuOがa1mol%含まれており、R'がMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属であるので、耐結晶化特性に優れかつ波長700〜900nmに吸収帯を有するガラス材料を得ることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のガラスにおいて、前記a1は0.10≦a1≦0.20の範囲の数値を示すことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、a1を0.10≦a1≦0.20の範囲の数値とすることにより、すなわちCuOの含有量を10〜20mol%にすることにより10μm以下の厚みの光吸収層を実現できる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラスであって、下記一般式(3)で表される組成であることを特徴とする。
a2BaO・(a−a2)R''O・bP2O5・cB2O3・・・(3)
ここで、R''はCu,Mg,Ca,Sr,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属であり、0<a2<aである。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、一般式(1)で表されるガラス材料組成において、BaOがa2mol%含まれており、他のROをCu,Mg,Ca,Sr,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属の一酸化物とすることにより、より耐結晶化特性と耐水性に優れたガラス材料となる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のガラスにおいて、前記a2はa2≧(a−a2)を満たすことを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、一般式(3)でa2がa2≧(a−a2)を満たす組成のガラスとすることにより、すなわち、一般式(1)で表されるガラス材料組成において、ROに占めるBaOの比率を半分以上とすることにより、さらに耐結晶化特性と耐水性に優れたガラス材料となる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、下記一般式(4)で表される組成であることを特徴とするガラス粉末である。
aRO・bP2O5・c1B2O3・・・(4)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、c1はそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.06<c1≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c1=1を満たす。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、一般式(4)で表されるガラス粉末の組成の内、0.06<c1≦0.20とすることでで、すなわちB2O3の含有量を6mol%よりも大きく20mol%以下とすることで、製造時のガラス粉末の軟化過程で結晶化や相分離が起こりにくい最適な特性のガラスを得ることができる。
【0023】
請求項9に記載の発明は、コアと、コアの外周に設けられたクラッドと、クラッドの外周に設けられた光吸収層とからなる光ファイバーにおいて、前記コア及びクラッドには請求項3に記載のガラスが用いられ、前記光吸収層には請求項4に記載のガラスが用いられることを特徴とする光ファイバーである。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、コアやクラッドに請求項3に記載のガラスを用いることにより、耐結晶化特性に優れて可視域から近赤外域まで光吸収帯域を持たないコアやクラッドとすることができる。また、光吸収層に請求項4のガラスを用いることにより、耐結晶化特性に優れかつ波長700〜900nmにおいて減衰特性を有する光吸収層とすることができる。
【0025】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の光ファイバーにおいて、前記コア、クラッド及び光吸収層に用いられる各ガラスの少なくともひとつは、請求項8に記載のガラス粉末を原料とすることを特徴とする。
【0026】
請求項10に記載の発明によれば、請求項8に記載のガラス粉末を原料とすることで、製造時のガラス粉末の軟化過程で結晶化や相分離が起こりにくい最適な特性のコア、クラッド及び光吸収層からなる光ファイバーを得ることができる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、請求項9または10に記載の光ファイバーを束ねたことを特徴とする光ファイバーアレイである。
【0028】
請求項11に記載の発明によれば、耐結晶化特性に優れた光ファイバーアレイとすることができる。
【0029】
請求項12に記載の発明は、コアと、コアの外周に設けられたクラッドと、クラッドの外周に設けられた光吸収層とからなる光導波路において、前記コア及びクラッドには請求項3に記載のガラスが用いられ、前記光吸収層には請求項4に記載のガラスが用いられることを特徴とする光導波路である。
【0030】
請求項12に記載の発明によれば、コアやクラッドに請求項3に記載のガラスを用いることにより、耐結晶化特性に優れて可視域から近赤外域まで光吸収帯域を持たないコアやクラッドとすることができる。また、光吸収層に請求項4のガラスを用いることにより、耐結晶化特性に優れかつ波長700〜900nmにおいて減衰特性を有する光吸収層とすることができる。
【0031】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の光導波路において、前記コア、クラッド及び光吸収層に用いられる各ガラスの少なくともひとつは、請求項8に記載のガラス粉末を原料とすることを特徴とする。
【0032】
請求項13に記載の発明によれば、請求項8に記載のガラス粉末を原料とすることで、製造時のガラス粉末の軟化過程で結晶化や相分離が起こりにくい最適な特性のコア、クラッド及び光吸収層からなる光導波路を得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、耐結晶化特性に優れ、化学的耐久性に優れた特性を有し、再加熱工程で発生する結晶化を防止することができるガラス材料や、このガラス材料を使った光ファイバー及びそれを束ねた光ファイバーアレイや、光導波路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明においては下記一般式(1)で表される組成のガラスを基材とする。
aRO・bP2O5・cB2O3・・・(1)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、cはそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.001≦c≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c=1を満たす。
【0035】
すなわち、本発明ではROを38〜55mol%、P2O5を38〜55mol%、B2O3を0.1〜20mol%の範囲となるようにガラスの組成を調整することで、良好な耐結晶化特性を得ることができる。
【0036】
B2O3は耐結晶化特性に寄与し、B2O3の含有量が0.1 mol%より少ないと、ガラスの軟化過程で結晶化が起こり所望の形状への成形が困難であり、B2O3の含有量が20 mol%より多いと相分離が起こり均質なガラスを得ることが困難である。
また、ROが55 mol%以上では耐結晶化特性に問題がある。また、P2O5が55 mol%より多いと耐水性に問題がある。
【0037】
一般式(1)で表される組成のガラスの内、a/bの値、すなわちRO/P2O5のモル比は耐水性と耐結晶化性に影響を与える。モル比が1以下では耐水性に劣り、1.3以上では耐結晶化特性が劣る。1≦a/b≦1.3を満たす場合、すなわちRO/P2O5のモル比が1〜1.3の間で最適な特性を得ることができる。
【0038】
一般式(1)で表される組成のガラスの内、RとしてMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snの少なくとも1種類の金属を選んだ場合、耐結晶化特性に優れて可視域から近赤外域まで光吸収帯域を持たないガラス材料を得ることができ、光ファイバーのコアおよびクラッド等に適用できる。
【0039】
なお、ガラスの屈折率を調整するために、ROの組成を変化させてもよい。あるいは、他の酸化物を少量(例えば5mol%以下)加えてもよい。他の酸化物としては、具体的には、アルカリ金属酸化物(Li2O,Na2O,K2O,Rb2O,Cs2O),Re2O3(ReはYまたはランタノイド),Nb2O5,Ta2O5,Al2O3,Ga2O3,In2O3,SiO2,GeO2,As2O3,Sb2O3,Bi2O3等が挙げられる。
【0040】
屈折率の測定は、ガラスプリズムを用いた最小偏角法や、アッベ屈折率計を用いる方法により測定することができる。屈折率は所望の波長で測定することができ、例えばNaのD線を用い589nmで屈折率を測定することができる。
【0041】
また、一般式(1)で表される組成のガラスの内、下記一般式(2)で表される組成のガラスは、耐結晶化特性に優れ、かつ波長700〜900nmに吸収帯を有するガラス材料となる。
a1CuO・(a−a1)R'O・bP2O5・cB2O3・・・(2)
ここで、R'はMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属である。
【0042】
このガラス材料は、後述する三層構造からなる光ファイバーの光吸収層に適用できる。
また、a1を0.10≦a1≦0.20の範囲の数値とすることにより、すなわちCuOの含有量を10〜20mol%にすることにより10μm以下の厚みの光フィルター(光吸収層)を実現できる。
【0043】
また、下記一般式(3)で表される組成であるガラスは、耐結晶化特性と耐水性に優れたガラス材料となる。
a2BaO・(a−a2)R''O・bP2O5・cB2O3・・・(3)
ここで、R''はCu,Mg,Ca,Sr,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属であり、a2は0<a2<aを満たす。
【0044】
すなわち、一般式(1)で表されるガラス材料組成において、BaOがa2mol%含まれており、他のROをCu,Mg,Ca,Sr,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属の一酸化物とすることにより、より耐結晶化特性と耐水性に優れたガラス材料となる。
【0045】
また、a2はa2≧(a−a2)を満たすことが好ましい。すなわち、一般式(1)で表されるガラス材料組成において、ROに占めるBaOの比率を半分以上とすることが好ましい。これにより、さらに耐結晶化特性と耐水性に優れたガラス材料となる。
【0046】
上記組成のガラスは、下記一般式(4)で表される組成のガラス粉末を原料として形成することができる。
aRO・bP2O5・c1B2O3・・・(4)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、c1はそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.06<c1≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c1=1を満たす。
また、ガラス粉末とは、ふるい分けした100μm径以下のものをいう。
【0047】
c1の値、すなわちB2O3の含有量はガラス製造時のガラス粉末の軟化過程での結晶化や相分離に影響を与える。B2O3の含有量が6mol%以下であるとガラス粉末の軟化過程で結晶化が起こり、厚膜など所望のガラス形状を得ることが困難である。また、B2O3の含有量が20mol%より多いと相分離が起こり均質なガラスを得ることが困難である。0.06<c1≦0.20で、すなわちB2O3の含有量が6mol%よりも大きく20mol%以下のガラス粉末を用いることで、ガラス粉末の軟化過程で結晶化や相分離が起こりにくい最適な特性のガラスを得ることができる。
【0048】
ここで、本発明の組成のガラスを作製する方法について説明する。まず、市販の高純度Ba(PO3)2,Sr(PO3)2,Ca(PO3)2,Mg(PO3)2,Zn(PO3)2,CuO,P2O5,B2O3を原料に用い、溶融法によりガラスの作製を行う。
【0049】
原料にP2O5を含む場合には、水分の影響を最小限に抑えるためにN2雰囲気で水蒸気分圧と酸素分圧を1ppm以下に制御したグローブボックス内で秤量と混合を行う。なお、原料にP2O5を用いず、他のリン酸塩(Ba(PO3)2,Sr(PO3)2,Ca(PO3)2,Mg(PO3)2,Zn(PO3)2)を用いる場合には、グローブボックスを使わなくてもよい。
所定の組成に混合した原料はシリカ製ルツボに入れ、焼成することで脱水を行った後、溶融する。焼成は例えば500℃で2時間行い、溶融は例えば1250℃で2時間行う。
【0050】
溶融した後、ステンレス製のモールドに流し出し、各ガラス組成のガラス転移温度より20〜30℃上の温度でアニールを行う。以上により、所定の組成のガラスが作製される。
【0051】
次に、上記組成のガラスを用いる光ファイバーについて説明する。
通常の光ファイバーはコアと、コアの外周に設けられたクラッドからなる二層構造を有しているが、クラッドの外層に光吸収層を有することにより、その三層構造を有する光ファイバーを多数束ねて光ファイバーアレイを製作することができる。
【0052】
この光ファイバーアレイの特性として、端面投影された画像が片方の端面にそのまま伝播される。この特性を利用して光ファイバーアレイを光軸に対してある角度で夫々の端面を平行になるように切断した場合、コアの屈折率とほぼ同じ屈折率を持つ物質が接触して、それを介して光ファイバーに入射する光はその反対の端面まで到達するが、それ以外は光ファイバーアレイ内で減衰して到達しない特性を持った光吸収層が実現できる。これは指紋撮像素子などに応用され、小型の指紋撮像素子を実現できる。
【0053】
ここで、光ファイバーのコアやクラッドには、一般式(1)で表される組成のガラスの内、RとしてMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snの少なくとも1種類の金属を選んだ組成のガラスを用いることができる。上記組成のガラスを用いることにより、耐結晶化特性に優れて可視域から近赤外域まで光吸収帯域を持たないコアやクラッドとすることができる。
【0054】
また、光吸収層には、一般式(2)で表される組成のガラスを用いることができる。上記組成のガラスを用いることにより、耐結晶化特性に優れかつ波長700〜900nmに吸収帯を有する光吸収層とすることができる。
【0055】
また、コアと、コアの外周に設けられたクラッドと、クラッドの外周に設けられた光吸収層とからなる光導波路でも、光ファイバー構造と同様の特性を持ったものが実現できる。
【0056】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0057】
〔ガラスの作製方法〕
市販の高純度Ba(PO3)2,Sr(PO3)2,Ca(PO3)2,Mg(PO3)2,Zn(PO3)2,CuO,P2O5,B2O3を原料に用い、溶融法によりガラスの作製を行った。原料としてP2O5を用いる場合には、N2雰囲気で水蒸気分圧と酸素分圧を1ppm以下に制御したグローブボックス内で秤量と混合を行い、原料としてP2O5を用いずに他のリン酸塩を用いる場合には、大気雰囲気で秤量と混合を行った。
【0058】
下記表1〜5の比較例1,2及び実施例1〜38に示す組成となるように混合した原料はシリカ製ルツボに入れ、500℃で2時間焼成することで脱水を行った後、1250℃で2時間溶融した。その後、ステンレス製のモールドに流し出し、各ガラス組成のガラス転移温度より20〜30℃上の温度でアニールを行った。得られたガラス試料は以下の試験に供した。
【0059】
なお、ガラス転移温度Tgと結晶化開始温度Txの測定において、比較例1及び実施例1〜9(表1)、実施例16〜38(表3〜5)の場合は約1〜2mmの塊状ガラス試料を用いた。比較例2及び実施例10〜15(表2)の場合はふるい分けした100 μm径以下のガラス粉末を用いた。
【0060】
〔耐結晶化性の評価〕
ガラス転移温度Tgと結晶化開始温度Txを示差走査熱分析装置(DTA)を用い大気中で評価した。昇温速度は10℃/minとした。
【0061】
〔熱膨張係数の評価〕
熱膨張率の測定には熱機械測定装置TMAを用いた。昇温速度は10℃/minとした。4×4×15mmの棒状ガラス試料を測定に用いた。30〜300℃までの試料の伸びを測定し、熱膨張係数aを算出した。
【0062】
〔屈折率の評価〕
屈折率nの測定にはアッベ屈折率計を用いた。8×15×2mmのガラス試料についてNaのD線を用い589nmで屈折率を測定した。
【0063】
〔耐水性の評価〕
耐水性の評価には10×10×1 mmの板状で表面を鏡面に研磨したガラス試料を用いた。pH6〜7の蒸留水を用い、MCC-1(静的浸出試験法)で浸出試験を行った。水温は70℃とし72時間保持した後、水中へのガラスの溶出に伴う、単位面積当りの重量減少量Dw(g/mm2)を測定した。
【0064】
〔板状ガラスの光透過・吸収スペクトルの測定〕
分光光度計を用い、200〜1000nmにおいて厚み0.23mmの板状ガラスについて光透過・吸収スペクトルを測定した。
【0065】
〔結果〕
(1)塊状ガラス原料
表1に、原料として約1〜2mmの塊状ガラスを用いたガラスについて、評価したガラス転移温度Tg、結晶化開始温度Tx、及び熱膨張係数aを示す。ここで、ガラス組成については、BaOとP2O5の含有量を同量(mol%)とし、B2O3の含有量を0〜20.0mol%の間で変化させた。また、RO/P2O5は全て1とした。
【0066】
【表1】

【0067】
塊状ガラスを用いた場合には、耐結晶化性について、Txが存在しない場合は優れた耐結晶化性を有すると評価できるが、Tx-Tg≧160℃であれば充分な耐結晶化性を有すると評価できる。
【0068】
B2O3を含有するもの(実施例1〜9)は含有しないもの(比較例1)と比べてガラス転移温度Tg、及び結晶化開始温度Txが高い傾向が見られた。
B2O3の含有量が3.0mol%(実施例1)ではTx-Tgが164℃(≧160℃)であるので、充分な耐結晶化性を有すると評価できた。また、B2O3の含有量が5.0mol%以上(実施例2〜9)では、結晶化開始温度Txが存在せず、優れた耐結晶化性を有すると評価できた。一方、B2O3を含有しないもの(比較例1)ではTx-Tgが129℃(≦160℃)であるので、充分な耐結晶化性を有すると評価できなかった。
【0069】
また、B2O3を含有するもの(実施例1〜9)は含有しないもの(比較例1)と比べて熱膨張係数aが小さい傾向が見られ、B2O3の含有量が増大するにしたがって、熱膨張係数aが小さくなる傾向が見られた。
【0070】
(2)ガラス粉末原料
表2に原料として100μm径以下のガラス粉末を用いたガラスについて、評価したガラス転移温度Tg及び結晶化開始温度Txを示す。ここで、ガラス組成について、BaOとP2O5の含有量を同量(mol%)とし、B2O3の含有量を0〜10.0mol%の間で変化させた。また、RO/P2O5は全て1とした。なお、実施例15は実施例7,16,34と組成が同じだが原料が異なる。
【0071】
【表2】

【0072】
ガラス粉末を用いた場合には、耐結晶化性について、結晶化開始温度Txが存在しない場合は優れた耐結晶化性を有すると評価できるが、Txが存在する場合は充分な耐結晶化性を有すると評価できない。これは、ガラス粉末では粒径が小さい(比表面積が大きい)ために、より表面から再結晶化しやすいためと考えられる。
【0073】
ガラス粉末を用いた場合、B2O3の含有量が7.5mol%以上(実施例13〜15)では、結晶化開始温度Txが存在せず、優れた耐結晶化性を有すると評価できた。一方、B2O3を6.0mol%以上含むもの(比較例2及び実施例10〜12)ではTxが存在し、充分な耐結晶化性を有すると評価できなかった。
【0074】
また、B2O3を含有するもの(実施例10〜15)は含有しないもの(比較例2)と比べて熱膨張係数aが小さい傾向が見られ、B2O3の含有量が増大するにしたがって、熱膨張係数aが小さくなる傾向が見られた。
【0075】
(3)CaO含有率
表3に、P2O5の含有量を45.0mol%、B2O3の含有量を10.0mol%とし、BaOとCaOの含有量を0.0〜45.0mol%の間で変化させた組成のガラスについて、評価したガラス転移温度Tg、結晶化開始温度Tx、熱膨張係数a、及び屈折率nを示す。ここで、RO/P2O5は全て1とした。なお、実施例16は実施例7と組成が同じである。
【0076】
【表3】

【0077】
CaOの含有量が増えるに従って、熱膨張係数aが低下する傾向が見られた。また、CaOの含有量が増えるに従って、屈折率nが低下する傾向が見られた。このように、BaOとCaOのモル比を変えることにより、所定の屈折率のガラスが得られると考えられる。
なお、実施例16〜20のいずれにおいても結晶化開始温度Txが存在せず、優れた耐結晶化性を有すると評価できた。
【0078】
(4)RO/P2O5の比率と耐結晶化性
表4に、CuOを含有する組成のガラスについて、評価したガラス転移温度Tg、結晶化開始温度Tx、及び熱膨張係数aを示す。B2O3の含有量を10.0mol%とし、BaOの含有量を31.4〜40.0mol%、CuOの含有量を5.0〜15.7mol%、P2O5の含有量を39.1〜45.0mol%、RO/P2O5を1.0〜1.3の間で変化させている。
【0079】
【表4】

【0080】
RO/P2O5が1または1.1である場合(実施例21〜26,29,30)では、結晶化開始温度Txが存在せず、優れた耐結晶化性を有すると評価できた。また、RO/P2O5が1.2(実施例27)または1.3である場合(実施例28)では、Tx-Tgがそれぞれ196℃(≧160℃)、160℃(≧160℃)であり、充分な耐結晶化性を有すると評価できた。なお、例で示さないが、RO/P2O5が1.3以上ではTx-Tgが160℃を下回り、耐結晶化特性が劣っていた。
【0081】
(5)CuO含有率と光透過・吸収スペクトル
この実施例21(CuO含有率5mol%)と、実施例25(CuO含有率12mol%)について、板状ガラスの光透過・吸収スペクトルの測定を行ったところ、図1に示す結果が得られた。
【0082】
CuOを含有するガラスでは、波長700〜900nmの光を吸収する性質が見られた。CuO含有率12mol%のガラスでは、CuO含有率5mol%のガラスと比較して波長700〜900nmの透過率が低かった。
【0083】
(6)耐水性
表5の実施例31〜33に、CuOの含有量を5.0mol%、B2O3の含有量を10.0mol%とし、BaO/P2O5の比率を0.8〜1.0の間で変化させた組成のガラスについて、単位面積当りの重量減少量Dwを示す。また、表5の実施例34〜38に、P2O5の含有量を45.0mol%、B2O3の含有量を10.0mol%とし、他の45.0mol%のROの種類をBaO,SrO,CaO,MgO,ZnOとした組成のガラスについて、単位面積当りの重量減少量Dwを示す。
なお、実施例34は実施例7,16と同じ組成である。また、実施例36は実施例20と同じ組成である。
【0084】
【表5】

【0085】
単位面積当りの重量減少量Dwについては、Dwが3.0×10-5(g/mm2)以下であれば、長期使用に耐えうる充分な耐水性を有すると評価できる。一方、Dwが3.0×10-5(g/mm2)よりも大きい場合は、長期使用に耐えうる充分な耐水性を有さないと評価できる。
【0086】
(i)BaO/P2O5の比率と耐水性
実施例31〜33において、BaO/P2O5の比率が大きいほど、単位面積当りの重量減少量Dwが減少する傾向が見られた。BaO/P2O5が1の場合(実施例33)は、Dwが2.1×10-5g/mm2(≦3.0×10-5)であるので、長期使用に耐えうる充分な耐水性を有すると評価された。一方、BaO/P2O5が0.8(実施例31)、0.9(実施例32)の場合は、Dwがそれぞれ6.9×10-5g/mm2(>3.0×10-5)、3.5×10-5g/mm2(>3.0×10-5)であるので、長期使用に耐えうる充分な耐水性を有さないと評価された。
【0087】
(ii)ROの種類と耐水性
BaOを含有する組成のガラス(実施例34)では4.6×10-6g/mm2(≦3.0×10-5)であるので、長期使用に耐えうる充分な耐水性を有すると評価された。
一方、SrOを含有する組成のガラス(実施例35)では4.3×10-5g/mm2(>3.0×10-5),CaOを含有する組成のガラス(実施例36)では1.1×10-4g/mm2(>3.0×10-5),MgOを含有する組成のガラス(実施例37)では1.7×10-4g/mm2(>3.0×10-5),ZnOを含有する組成のガラス(実施例38)では1.5×10-3g/mm2(>3.0×10-5)であるので、いずれも長期使用に耐えうる充分な耐水性を有さないと評価された。
したがって、ROとしてBaOを用いることが耐水性の面から好ましいと評価された。
【0088】
〔コア/クラッド/光吸収層積層体およびファイバプリフォームの作製〕
上記ガラス材料を用いてコア/クラッド/光吸収層積層体およびファイバプリフォームを作製したところ、割れのない積層体およびプリフォームの作製に成功した。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明のガラスの光透過・吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される組成であることを特徴とするガラス。
aRO・bP2O5・cB2O3・・・(1)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、cはそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.001≦c≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c=1を満たす。
【請求項2】
前記a及びbは1≦a/b≦1.3を満たすことを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
前記RはMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される組成であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス。
a1CuO・(a−a1)R'O・bP2O5・cB2O3・・・(2)
ここで、R'はMg,Ca,Sr,Ba,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属であり、0<a1<aである。
【請求項5】
前記a1は0.10≦a1≦0.20の範囲の数値を示すことを特徴とする請求項4に記載のガラス。
【請求項6】
下記一般式(3)で表される組成であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス。
a2BaO・(a−a2)R''O・bP2O5・cB2O3・・・(3)
ここで、R''はCu,Mg,Ca,Sr,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種類の金属であり、0<a2<aである。
【請求項7】
前記a2はa2≧(a−a2)を満たすことを特徴とする請求項6に記載のガラス。
【請求項8】
下記一般式(4)で表される組成であることを特徴とするガラス粉末。
aRO・bP2O5・c1B2O3・・・(4)
ここで、RはMg,Ca,Sr,Ba,Mn,Ni,Cu,Zn,Cd,Sn,Pbから選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、a、b、c1はそれぞれ0.38≦a≦0.55、0.38≦b≦0.55、0.06<c1≦0.20の範囲の数値を示し、かつa+b+c1=1を満たす。
【請求項9】
コアと、コアの外周に設けられたクラッドと、クラッドの外周に設けられた光吸収層とからなる光ファイバーにおいて、
前記コア及びクラッドには請求項3に記載のガラスが用いられ、
前記光吸収層には請求項4に記載のガラスが用いられることを特徴とする光ファイバー。
【請求項10】
前記コア、クラッド及び光吸収層に用いられる各ガラスの少なくともひとつは、請求項8に記載のガラス粉末を原料とすることを特徴とする請求項9に記載の光ファイバー。
【請求項11】
請求項9または10に記載の光ファイバーを束ねたことを特徴とする光ファイバーアレイ。
【請求項12】
コアと、コアの外周に設けられたクラッドと、クラッドの外周に設けられた光吸収層とからなる光導波路において、
前記コア及びクラッドには請求項3に記載のガラスが用いられ、
前記光吸収層には請求項4に記載のガラスが用いられることを特徴とする光導波路。
【請求項13】
前記コア、クラッド及び光吸収層に用いられる各ガラスの少なくともひとつは、請求項8に記載のガラス粉末を原料とすることを特徴とする請求項12に記載の光導波路。

【図1】
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【公開番号】特開2007−51030(P2007−51030A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237740(P2005−237740)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月19日 国立大学法人九州大学主催の「九州大学工学部エネルギー科学科・平成16年度卒業研究発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月22日 社団法人日本セラミックス協会発行の「2005年年会講演予稿集」に発表
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】