説明

ガラスチョップドストランドマットの製造方法及び製造装置、ガラスチョップドストランドマット、並びに自動車成形天井材

【課題】自動車成形天井材などの成形品の補強材として使用した場合にその成形品に必要な柔軟性と剛性とを確保しつつ、マット回巻体から引き出して使用する際に部分的に断裂が発生したり、成形品にひけが生じたりするという事態を確実に抑制し得るガラスチョップドストランドマットを提供する。
【解決手段】本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法は、加熱炉17を通過し結合剤Pが溶融されたシート状堆積物10bが、冷却圧延機1の水冷ロール2aと水冷ロール2bによって圧延冷却される。水冷ロール2a、2bは上下で対をなし、下側の水冷ロール2bの外周には厚み3mm、JIS K6253に従うタイプAデュロメータによって計測値が硬度60度で、耐熱性を有するゴム層3が固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車成形天井材等の補強材として使用されるガラスチョップドストランドマットと、その製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドマットは、所定長に切断された複数のガラスチョップドストランドを結合剤によって相互に結合させてなるシート材であって、種々の製品の補強材として広く利用されている。そして、この種のガラスチョップドストランドマットは、次のような工程によって製造される。まず、均質な状態に熔融されたEガラス等の組成を有する熔融ガラスを耐熱性ノズルより引き出して得られるガラスフィラメントの表面に予め調整した集束剤を塗布して複数本を束ねて集束した状態であるガラスストランドとする。次いで、このガラスストランドを切断機によって所定長に切断してガラスチョップドストランドを製作し、その製作した多数のガラスチョップドストランドを均等無秩序にシート状に堆積させる。その後、このシート状堆積物の上方から結合剤(例えば、粉末ポリエステル樹脂)を適量散布する。そして、最終的に、結合剤が散布されたシート状堆積物を加熱した後に、上下で対をなす冷却ロールの間で圧延しながら冷却固化してシート状堆積物中のガラスチョップドストランドを互いに結合させることによって、ガラスチョップドストランドマットが製造される。
【0003】
具体的には、ガラスストランドとしては、Eガラス組成のガラス繊維で、その単繊維直径が11μm、ストランド番手が25テックス(テックスは、長さ1000m当たりのグラム単位での重量)のものが使用され、これを長さ寸法が約50mmとなるようにカッターで切断してガラスチョップドストランドにする。次いで、目付が50〜900g/mとなるように均等無秩序に堆積させてシート状堆積物にし、さらに、粉末ポリエステル樹脂付着量が1〜20質量%となるように散布し、加熱溶融後に冷却固化させてシート状堆積物中のガラスチョップドストランドを互いに結合する。
【0004】
このような工程で製造されたガラスチョップドストランドマットは、発泡樹脂ポリウレタンシートの両表面に接着することによって、その剛性や寸法安定性を向上させた自動車成形天井材に使用されている。自動車成形天井材に用いる場合に求められる性能は、剛性、寸法安定性、断熱性、あるいは遮音性等の特性に加え、自動車全体の重量を軽減するために、使用される材料の目付け、すなわち単位面積当たりの質量を小さくするということが必要とされる。しかし、ガラスチョップドストランドマットの目付けは小さくなるほど、ガラスチョップドストランドマットのストランド分布が不均一な状態となるため、マットの機械的強度が低下したものとなる。その結果、マットを巻き芯に巻き取った後、その外層からマットを引っ張って解き出す、いわゆる解舒作業の途中でマットが断裂するという現象の発生率が高くなる。そのため、マットが破断しないように注意しながらゆっくりと解舒作業を行う必要が生じることから、作業性が大幅に低下するという問題がある。
【0005】
そこで、チョップドストランドマットの機械的な強度を向上させる試みは、これまでにも行われてきている。例えば特許文献1では、チョップドストランドの形態を規定することによって、搬送コンベアからのチョップドストランドの崩落を防いでいる。また、特許文献2では、強熱減量値を大きくすることによって機械的強度の指標となる引張強さ(引張強度ともいう)を150kgf以上に大きくできるという発明が開示されている。また、特許文献3では、ガラスチョップドストランドを結合させる結合剤として、ポリエチレン樹脂を5質量%以上含有させたものを使用することによって十分な強度を有し、自動車成形天井材の成形性を向上させるという発明も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−93546号公報
【特許文献2】特開2003−175777号公報
【特許文献3】特開2008−038297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の技術では、より安定した品位と性能を有するガラスチョップドストランドマットを提供するには充分ではない。
【0008】
例えば自動車成形天井材については、単繊維直径が10μmから14μmのもので、ストランド平均番手18テックスから30テックスのガラスストランドを約50mmの長さに切断し、目付が50g/mから200g/mの範囲となるように均等無秩序に堆積し、粉末ポリエステル樹脂を、付着量が8質量%から16質量%の範囲となるように散布し、次いで加熱して粉末ポリエステル樹脂を溶融した後、冷却ローラで冷却固化し、各ガラスチョップドストランド同士を互いに結合して得られるガラスチョップドストランドマットが使用されてきた。また、発泡樹脂シートの両表面にガラスチョップドストランドマットが接着された構造を有する自動車用天井材では、少なくともその一方の表面に目付が50g/mから250g/mの範囲のガラスチョップドストランドマットが使用されるようになっている。
【0009】
このようなガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドの分散堆積状態、あるいは上記した結合剤の結合状態に不均等がある等の要因により、部分的に引張強さが低下するという事態が生じる場合がある。そのため、このような状態で接着剤を塗布したチョップドストランドマットを表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡樹脂ポリウレタンシート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ねるために、ロール状に巻き取られたマット回巻体からマットを連続的に引き出す際に、マットが途中で断裂するという事態を招く虞がある。
【0010】
そこで、これまではガラスチョップドストランドの結合剤を限定するなどして、このような問題に対処しており、それなりの成果を上げるものであるが、さらに高い品位を目指すためには十分とは言えない。
【0011】
また、前記したマットでは、ガラスチョップドストランドマットにフェノール、メラミン、あるいはイソシアネート等の接着剤を含浸させて、表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡樹脂シート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ねた状態で、成形天井の形状にプレス成形した際に、成形天井のシェードなどの開口部や、深絞り加工されたコーナー部などに「ひけ」と呼ばれる表皮のしわ(以下、単にひけという。)が発生する場合がある。そして、このようなひけ不良の発生率は、特に部材コストの削減を目的として表皮に目付け50g/m以下の薄い不織布が使用され、あるいは、デザイン性を重視し、フラットニットの表皮が使用されるようになった近年において顕著になっている。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑み、自動車成形天井材などの成形品の補強材として使用した場合にその成形品に必要な柔軟性と剛性とを確保しつつ、マット回巻体から引き出して使用する際に部分的に断裂が発生したり、成形品にひけが生じたりするという事態を確実に抑制し得るガラスチョップドストランドマットを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法は、ガラスチョップドストランドをシート状に堆積させ、シート状堆積物に結合剤を散布し、シート状堆積物を加熱し、シート状堆積物を、上下で対をなすと共に少なくとも一方の外周にゴム層が設けられた冷却ロールで圧延しながら冷却することにより、シート状堆積物中のガラスチョップドストランドを互いに結合させてガラスチョップドストランドマットを製造するものである。
【0014】
本発明者らは、ガラスチョップドストランドマットについての各種研究を行う中で、ガラスチョップドストランドマットの製造工程で使用される冷却圧延機を構成する金属製の冷却ロールは、シート状堆積物を圧延すると共に、加熱溶融された結合剤を容易に冷却固化させるという機能は有するものの、問題点もあることを見出した。すなわち、相互に反対方向に回転する上下一対の金属製の冷却ロールでは、ガラスチョップドストランドの目付けムラによって生じるシート状堆積物の厚みムラの存在や、ロール外周面の凹凸、曲がり、うねりなどにより、圧延時、シート状堆積物の厚みの大きい部分は冷却ロールの外周によって強く圧延されて硬くなり、柔軟性が乏しくなる。このため、このチョップドストランドマットを例えば自動車成形天井材として成形し、シェードなどの開口部や深絞り加工されたコーナー部に施工する場合、当該開口部等にひけが生じて欠陥となる場合がある。また、シート状堆積物の厚みの小さい部分は、ロール外周面の凹凸や曲がり、うねりなどにより、弱く圧延されて結合が弱くなる。ガラスチョップドストランドマットは、フェノール、メラミン、またはイソシアネート等の接着剤を塗布してマットロールの形態に成形されるため、マットロールから引き出す際に、ガラスチョップドストランドマットが結合の弱くなった部分から断裂する場合がある。
【0015】
上記の問題に対して、本発明者らは、上下で対をなす冷却ロールのうち少なくとも一方の外周にゴム層を設けることにより、ガラスチョップドストランドのシート状堆積物を均一に冷却固化して、均質なガラスチョップドストランドマットを製造できることを見出し、ここにその詳細を提示するものである。
【0016】
上記構成において、前記ゴム層が設けられた冷却ロールを下方側に位置させることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、下方側に位置する冷却ロールのゴム層の弾性によって、結合剤が多く付着しているシート状堆積物の上面を上方側の冷却ロールの表面に押し付けて効率よく冷却することができる。そのため、冷却固化時にシート状堆積物が冷却ロールの外周に巻きつくことによるトラブルが生じ難くなるという利点がある。
【0018】
上記構成において、前記ゴム層の厚さが2mm以上4mm以下であり、かつ、前記ゴム層の硬度が日本工業規格JIS K6253(2006)「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」に準拠したタイプAデュロメータ(ゴム硬度計)による計測で40度以上100度以下の値であることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、ゴム層の弾性が最適なものとなり、シート状堆積物の厚みムラや、冷却ロールの外周面の凹凸、曲がり、うねりなどの影響を確実に吸収することができる。すなわち、シート状堆積物の均一な圧延が可能となる。
【0020】
なお、ゴム層の厚さの計測方法としては、レーザー計測機やマイクロメーター等の種々の校正された計測機器を使用してmm単位で小数点1桁までの精度で計測すればよい。
【0021】
ゴム層の厚さが2mm未満であると、ゴム層による冷却ロールの外周面の凹凸や曲がり、うねりを吸収する性能が十分に発揮することができない。一方ゴム層の厚さが4mmを超えると、ゴム層の厚さが過大になり、冷却ロールによる冷却機能が十分に発揮されなくなるので好ましくない。
【0022】
また、ゴム層の硬度が上記の計測で40度未満の値であると、ゴム層が軟らかくなり過ぎ、冷却ローラによる圧延圧が十分にシート状堆積物に伝わらず、ガラスチョップドストランドマットの引張強さが弱くなるため好ましくない。一方、ゴム層の硬度が、100度を超えると、ゴム層が硬くなり過ぎ、冷却ロールの外表面の凹凸、冷却ロールの曲がり、うねりを吸収する性能が十分に発揮できないため好ましくない。このような観点から、ゴム層の硬度は90度以下であることがより好ましく、80度以下であることが一層好ましい。
【0023】
なお、上記のゴム層の材質としては、上記の硬度特性に加えて、経時的な所望の耐熱性能を有するものであることが好ましい。具体的には、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、耐熱金属粉等で補強されたゴム材、あるいは耐熱温度が100℃を超えるフッ素ゴム(耐熱温度230℃)、アクリルゴム(耐熱温度160℃)、ポリエチレンゴム(耐熱温度150℃)、シリコンゴム(耐熱温度230℃)、エチレンプロピレンゴム(耐熱温度140℃)、水素化ニトリルゴム(耐熱温度140℃)、ブチルゴム(耐熱温度140℃)などを使用することが好ましい。また、これらの複数のゴム材を層状に多層積層した構造としてもよい。また、ゴム層は、予めチューブ状のゴム材を成形したものを冷却ロールの外周に外挿して固定してもよい。あるいは、未加硫のリボン状ゴム材を冷却ロールの外周に巻きつけた後、ゴム用接着剤を使用し、150℃の水蒸気中で加硫接着してもよい。また、必要に応じて他の方法によって成形されたものを採用することもできる。
【0024】
また、冷却ロールの冷却方法は冷却効果が十分得られるものであれば特に限定されるものではなく、冷媒としては空気などの気体、水などの液体を用いることが可能であるが、コストや利便性を考えると水による冷却が好ましい。
【0025】
また、ゴム層を設ける冷却ロールは、冷却水等の冷媒を循環する構造を有し、十分な強度を有するものであればよい。また、ゴム層との界面の固着性を向上させるため、必要に応じて冷却ロールの外周面に所望の微細な凹凸、あるいは溝などを設けてもよい。冷却ロールの外周面をサンドブラスト処理等によって粗面化してもよい。冷却水については、地下水、工業用水、市水、酸化防止剤添加水、あるいはさび止め剤添加水等を適宜採用してよい。
【0026】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るガラスチョップドストランドマットは、上記の製造方法によって製造され、目付が50g/m以上200g/m以下であることを特徴とする。ここで、目付は、JIS R3420(2006)に従い測定したものである。
【0027】
目付が50g/m未満であるガラスチョップドストランドマットであると、目付けが小さすぎて十分な引張強さを有していないため、ガラスチョップドストランドマットの解舒作業時に断裂などの問題が発生し易くなり好ましくない。一方、目付が200g/mを超えると、ガラスチョップドストランドマットの目付が大きすぎて、マットを使用した複合材の重量が重くなりすぎるため、用途が限られたものとなり、例えば自動車成形天井材の用途には適さないものとなる。そこで、ガラスチョップドストランドマット目付は、上記の数値範囲であることが好ましく、この数値範囲内であれば、マットの引張強さを十分に保つことができ、しかも、重量についても適度な軽量化を図ることができる。
【0028】
そして、このようなガラスチョップドストランドマットは、発泡樹脂シートの表裏面のいずれか一方の面に接着することで、自動車成形天井材として好適に利用することができる。
【0029】
なお、ガラスチョップドストランドマットを発泡樹脂シートに接着する接着剤としては、例えば、フェノール、メラミン、イソシアネートなどを用いることができる。また、ガラスチョップドストランドマットは、発泡樹脂シートの表面又は裏面にのみ接着してもよく、あるいは、表裏面に接着してもよい。ガラスチョップドストランドマットを発泡樹脂シートの一方の面にのみ接着する場合において、他方の面に他の補強材を使用するかどうかについては、特に限定するものではない。
【0030】
上記課題を解決するために創案された本発明のガラスチョップドストランドマットの製造装置は、ガラスストランドを切断してガラスチョップドストランドにする切断機と、シート状に堆積されたガラスチョップドストランドのシート状堆積物に結合剤を散布する散布機と、シート状堆積物を加熱する加熱機と、上下で対をなし、シート状堆積物を圧延しながら冷却してガラスチョップドストランドマットにする冷却ロールとを備えたガラスチョップドストランドマットの製造装置であって、対をなす前記冷却ロールのうち少なくとも一方の外周にゴム層が設けられていることを特徴とする。
【0031】
なお、上記の構成に加え、シート状堆積物を搬送する搬送手段と、冷却ロールで圧延されたガラスチョップドストランドマットを連続的に巻き取り、その巻き取り長さが所定長さであることを検知してガラスチョップドストランドマットを切断するマット切断機と、所定長のマットロール(回巻体)となるようにガラスチョップドストランドマットを巻き取る駆動系とを具備させると、連続的なマットの製造が円滑に行えるので高い製造効率が実現できる。
【発明の効果】
【0032】
(1)成形されたガラスチョップドストランドマットの引張強さに、局部的な弱部ができにくく、均質なシート状構造を実現することができる。そのため、マットロールからガラスチョップドストランドマットを引き出す際にガラスチョップドストランドマットの断裂等の発生を抑止することができる。また、成形されたガラスチョップドストランドマットに、柔軟性が乏しい部位ができにくく、例えば、このチョップドストランドマットを自動車成形天井材として成形し、シェードなどの開口部や深絞り加工されたコーナー部に施工する場合などであっても、ひけが生じることを抑止することができる。
【0033】
(2)ゴム層が設けられた冷却ロールを下方側に位置させることにより、結合剤が多く付着しているシート状堆積物の上面を効率よく冷却することができ、圧延時にシート状堆積物が冷却ロールの外周に巻きつくことによるトラブルが生じ難くなる。
【0034】
(3)ゴム層の厚さが2mm以上4mm以下であり、かつ、前記ゴム層の硬度が日本工業規格JIS K6253に従うA型硬度計による計測で40度以上100度以下の値であると、ゴム層の適度な弾性により、シート状堆積物の厚みムラ、冷却ロールの外周面の凹凸や曲がり、うねりなどの影響を吸収することができ、均一な圧延を可能にすることができる。
【0035】
(4)本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法によって製造され、目付が50g/m以上200g/m以下であるガラスチョップドストランドマットは、十分な柔軟性を有し、複雑な形状を有する部位を補強することでき、自動車用成形天井材に使用した場合にひけ等の表皮のしわ状の成形欠陥の発生を抑制できる。
【0036】
(5)本発明のガラスチョップドストランドマットを発泡樹脂シートの少なくとも一方の面に接着してなる自動車成形天井材は、軽量で十分な強度を有し、種々の自動車に適用することができ、高い性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】水冷ロール付近の概念図。
【図2】ガラスチョップドストランドマットの製造装置の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0039】
まず、ガラスチョップドストランドの製造工程について説明する。1200本のノズルを有する白金製ブッシングから、直径11.6μmのガラスフィラメントとしてEガラス材質のガラス繊維が成形される。引き出されたガラス繊維の表面には、固形分50質量%のポリ酢酸ビニルエマルジョンが6質量%、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが0.3質量%、第4級アンモニウム塩が0.5質量%、イオン交換水が93.2質量%となるように調整した集束剤が、その付着量が0.4質量%となるように塗布される。集束剤の塗布されたガラスフィラメントは、カーボン製のシューによって18分糸して巻き取られ、ガラスケーキ5となる。例えば1200本のガラスフィラメントよりなるガラスストランドは、およそ68本のガラスフィラメントよりなるガラスストランド18本になる。その後、このガラスケーキ5は、所定時間乾燥され、集束剤はガラスフィラメントの表面上に定着される。
【0040】
乾燥工程を終えたガラスケーキ5の内層からガラスストランド10が連続的に解舒され、複数の切断刃が配設された切断機12に送り込まれ、長さ50mmのチョップドストランド10aに切断される。各切断機12は、反対方向に回転する一対のカッターロール12aとゴムロール12bから構成されている。ガラスストランド10は、切断機12の互いに回転するカッターロール12aとゴムロール12bの間に順次送り込まれて、連続的に切断される。この切断機12は、チャンバー11の天井部分に配設されており、50mmの寸法に切断されたチョップドストランド10aは、チャンバー11の底部に配設された第一搬送コンベア13上に無秩序に落下することになる。
【0041】
長さ50mmの寸法に切断されたガラスチョップドストランド10aは、第一搬送コンベア13の上で均一になるように分散された状態に積もり、次々にシート状に堆積された状態となって第一搬送コンベア13により、チャンバー11外へと搬送される。次いで分散されたガラスチョップドストランド10aのシート状堆積物10bは下流側の第二搬送コンベア14に移載され、第二搬送コンベア14上で移動するシート状堆積物10b上に、散布機15によって、チョップドストランド10aの結合剤が所定の付着量(12質量%)となるように散布される。この結合剤は、例えばビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂からなる粉末状の樹脂Pである。
【0042】
そして、シート状堆積物10bのガラスチョップドストランド10aとその上から散布された粉末状の樹脂Pとが互いに分散した状態で第二搬送コンベア14から第三搬送コンベア16へと移載される。第三搬送コンベア16の途中には、加熱炉17が配置されており、粉末状の樹脂Pが散布されたシート状堆積物10bが、加熱炉17中に移動して所定温度で加熱されることによって、散布された粉末状の樹脂Pが加熱されて軟化し、ガラスチョップドストランド10aの表面上で溶融状態となる。次いで、このシート状堆積物10bを、加熱炉17の外部に移動させ、冷却圧延機1の水冷ロール2aと水冷ロール2bによって圧延冷却する。図1に拡大して示すように、水冷ロール2aと水冷ロール2bは上下で対をなし、下側の水冷ロール2bの外周には厚み3mm、硬度70度(日本工業規格JIS K6253(2006)に従うタイプAデュロメータ(ゴム硬度計)によって計測)で、耐熱性を有するシリコンゴム層3が固着されている。シート状堆積物10bの送り方向Vに対して、水冷ロール2bは同図でKa方向に回転し、水冷ロール2aは同図でKb方向に回転する。シート状堆積物10bが水冷ロール2aと水冷ロール2bとの間隙に入り、圧延される際に、溶融していた粉末状の樹脂Pが冷却固化されて、ガラスチョップドストランドマット19が成形される。冷却圧延機1を出たガラスチョップドストランドマット19は、巻き取り機21によって巻き取られ、最終的にガラスチョップドストランドマット19(目付100g/m)のマットロール(回巻体)20が得られる。尚、ガラスチョップドストランドマット19の巻き取り長さは検尺機などの検出器によって計測され、これが所定値に達したことが検知されると、図示されていない切断機によってガラスチョップドストランドマットが切断される。また、ガラスチョップドストランドマット19の巻き取りは図示されていない回転駆動系によって行われる。
【実施例】
【0043】
上記の製造工程を得て製造されたガラスチョップドストランドマット19を使用して自動車成形天井材を作製し、その性能を調査した。以下でその内容を説明する。
【0044】
まず、表1に示すように、本発明の実施例である試料No.1から試料No.5および比較例である試料No.6、7、計7種類の試料(自動車成形天井材)を作製した。すなわち、表1のストランド番手となるEガラス材質の所定の寸法を有し、所定のマット目付となるように調整したガラスチョップドストランドマット19にイソシアネート系の接着剤を含浸させた後、表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット19、発泡ポリウレタンシート、別のガラスチョップドストランドマット19及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ね合わせた。次いで、この積層物を成形天井の形状をしたプレス型に入れ、その状態でプレス成型を行い、天井部を有する所定の形状にした後、その周囲をトリミングして整えた。
【0045】
なお、ガラスチョップドストランドマット19中のストランド番手tex(テックス)の測定は、ガラスチョップドストランドマット19を620℃で30分間焼却した後、ガラスチョップドストランドマット19を構成するガラスチョップドストランド50本を抜き取り、その平均長さL(mm)を測定した後、感量が0.1mg以下の秤を用いて50本の総質量W(g)を測定し、数1に示した式により算出した。この式は、ストランド長1000mの重量を表すため、単位をmm(ミリメートル)からm(メートル)に換算するものとなっている。
【0046】
【数1】

【0047】
以上の手順によって作成された各試料をそれぞれ次に示す評価方法によって調査した。
【0048】
ガラスチョップドストランドマットの結合剤の付着量は、JIS R3420(2006)に記載の方法によって計測したガラスチョップドストランドマットの強熱減量からガラスチョップドストランドの製造に使用したケーキの強熱減量を引くことにより求めた。
【0049】
また、自動車成形天井材については、1000枚の自動車成形天井材について、その表皮側にしわ状の欠陥であるひけ不良の発生した数量を目視観察によって熟練者が検査を行った。以上の結果を表1に表す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1からも明らかなように、実施例である試料No.1は、ストランド番手が20tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が12%の試料で、下側の水冷ロール2bの外周に厚み2mm、硬度50度のゴム層を固着した冷却圧延機1を有する製造装置で製造したものであるが、マットロールからマットを引き出す際に、ガラスチョップドストランドマットがちぎれることがなく、ひけ不良による不良率も0%であった。
【0052】
また、試料No.2は、ストランド番手が18tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が11%の試料で、下側の水冷ロール2bの外周に厚み3mm、硬度60度のゴム層を固着した冷却圧延機1を有する製造装置で製造したものであるが、マットロールからマットを引き出す際に、ガラスチョップドストランドマットがちぎれることがなく、ひけ不良による不良率も試料No.1と同様に0%であった。
【0053】
さらに、試料No.3は、ストランド番手が20tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が10%、下側の水冷ロール2bの外周に厚み3mm、硬度65度のゴム層を固着した冷却圧延機1を有する製造装置で製造したもの、試料No.4は、ストランド番手が22tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が9%、下側の水冷ロール2bの外周に厚み3mm、硬度70度のゴム層を固着した冷却圧延機1を有する製造装置で製造したもの、試料No.5は、ストランド番手が19tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が9%、下側の水冷ロール2bの外周に厚み3.5mm、硬度80度のゴム層を固着した冷却圧延機1を有する製造装置で製造したものであるが、マットロールからマットを引き出す際に、ガラスチョップドストランドマットがちぎれることがなく、ひけ不良による不良率も試料No.1と同様に0%であった。
【0054】
一方、比較例である試料No.6は、ストランド番手が18tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が10%で、ゴム層を有しない上下の水冷ロールを配置した冷却圧延機1を有する製造装置で製造したものであるが、ガラスチョップドストランドマットに部分的に引張強さが低い部分が存在し、マットロールからの引き出し時にちぎれが発生した。
【0055】
また、比較例である試料No.7は、ストランド番手が20tex、マット目付が107g/cm、結合剤の付着量が15%の試料であるが、ゴム層を有しない上下の水冷ロールを配置した冷却圧延機1を使用して圧延されたものであるため、ガラスチョップドストランドマットに部分的に硬い部分が存在し、柔軟性がなくなり、ひけ不良の発生率が16%と高い値となった。
【0056】
以上のように、本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法は安定した品位のガラスチョップドストランドマットを効率よく製造することのできるものである。また自動車成形天井材は、強度不足による問題を生じさせることなく軽量化が可能であり、外観品位についてもひけ不良の発生することのない優れた品位を有するものを製造可能であることが明瞭になった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガラスチョップドストランドマットは、自動車成形天井材の用途に好適なものであるが、他にも電子工業等の各種精密ハウジング構成体や建築用材料、工業用途の各種構成部材等、種々の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 冷却圧延機
2a 水冷ロール(上側)
2b 水冷ロール(下側)
3 ゴム層
5 ガラスケーキ
10 ガラスストランド
10a ガラスチョップドストランド
10b シート状堆積物
11 チャンバー
12 切断機
12a カッターロール
12b ゴムロール
13 第一搬送コンベア
14 第二搬送コンベア
15 散布機
16 第三搬送コンベア
17 加熱炉
19 ガラスチョップドストランドマット
20 マットロール(ガラスチョップドストランドマット回巻体)
21 巻き取り機
50 ガラス繊維マット製造装置
P 粉末ポリエステル樹脂(結合剤)
Ka 下側の水冷ロールの回転方向
Kb 上側の水冷ロールの回転方向
L ガラスチョップドストランドの平均長さ
V ガラスチョップドストランドマットの移動方向
W ガラスチョップドストランドの50本の総質量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスチョップドストランドをシート状に堆積させたシート状堆積物に結合剤を散布し、該シート状堆積物を加熱し、該シート状堆積物を、上下で対をなすと共に少なくとも一方の外周にゴム層が設けられた冷却ロールで圧延しながら冷却することにより、該シート状堆積物中の前記ガラスチョップドストランドを互いに結合させるガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項2】
前記ゴム層が設けられた冷却ロールを下方側に位置させることを特徴とする請求項1に記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項3】
前記ゴム層の厚さが2mm以上4mm以下であり、かつ、前記ゴム層の硬度が日本工業規格JIS K6253(2006)に従うタイプAデュロメータによる計測で40度以上100度以下の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法によって製造され、目付が50g/m以上200g/m以下であることを特徴とするガラスチョップドストランドマット。
【請求項5】
請求項4に記載のガラスチョップドストランドマットが、発泡樹脂シートの少なくとも一方の面に接着されてなることを特徴とする自動車成形天井材。
【請求項6】
ガラスストランドを切断してガラスチョップドストランドにする切断機と、シート状に堆積されたガラスチョップドストランドのシート状堆積物に結合剤を散布する散布機と、シート状堆積物を加熱する加熱機と、上下で対をなし、シート状堆積物を圧延しながら冷却してガラスチョップドストランドマットにする冷却ロールとを備えたガラスチョップドストランドマットの製造装置であって、対をなす前記冷却ロールのうち少なくとも一方の外周にゴム層が設けられていることを特徴とするガラスチョップドストランドマットの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53503(P2010−53503A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101220(P2009−101220)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(507420732)電気硝子ファイバー加工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】