説明

ガラス板の切断方法、及びガラス板切断用テーブル装置

【課題】 レーザ照射による1つの工程だけで、物理的なブレイク力をガラスに作用させることなく、ガラス板を短時間かつ高品質に切断することができるガラス板の切断方法及び同方法に好適なガラス板切断用テーブル装置を提供すること。
【解決手段】 ガラス板上のレーザビーム照射点が切断予定線に追従移動する際に、レーザビーム照射点の近傍にあって、切断予定線を挟んで存在する一対のテーブルエレメントの双方を真空吸引を介してその上に載置されたガラス板に吸着させ、かつそれら一対のテーブルエレメントのいずれか一方又は双方に、切断予定線から離れる方向への力を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザビームを使用したガラス板の切断方法に係り、特に、YAGレーザ等のように、ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを使用したガラス板の切断方法、及び同方法に好適なガラス板切断用テーブル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の切断については、従来から何種類かの方法が考案され実用化されているが、最も多く使用されている方法は、ダイヤモンド刃や超鋼合金製の刃などでガラス表面にスクライブ線(引っかき傷)を作り、その後、裏面よりブレイク力を与えて、これを割断するものである。このようなホイールカッタを使用したガラス板の切断方法が図8に示されている。
【0003】
同図に示されるように、この方法は、ガラス基板201の表面に、ダイヤモンド刃又は超硬合金刃等からなるホイールカッタ202を使用して、スクライブ線(切り込み線)203を形成し、その後、ガラス基板201に物理的なブレイク力204を付与して、ガラス基板201を撓ませることにより、スクライブ線203に沿って、ガラス基板を割断するようにしたものである。ダイヤモンド刃又は超硬合金刃等からなるホイールについては、切断に適した形状が工夫されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、近年、スクライブ線の生成にCO2レーザを使用するようにしたガラス板の切断方法が考案され一部で実用化されている。このようなCO2レーザを使用したガラス板の切断方法が図9に示されている。
【0005】
同図に示されるように、この方法は、ガラス基板301の表面の切断開始端部に、図8に示されるものと同様のホイールカッタを使用して切れ込みを形成したのち、ガラスを透過しないCO2レーザ等の赤外線レーザ302をガラス表面に照射し、この赤外線レーザ302をガラス基板301に対して相対的に走査し、このレーザ照射部の後方の近傍を純水等の冷却媒体303により急冷するものである。
【0006】
そうすることにより、ガラス基板301の表面に熱応力を発生させてスクライブ線304を形成し、その後、ガラス基板301にブレイク力305を印加してガラス基板301を撓ませることにより、ガラス基板301をスクライブ線11に沿って割断するようにしたものである。
【0007】
その他の従来技術としては、放射ビームの照射により脆性非金属材料の軟化点よりも低い温度に前記脆性非金属材料の表面を加熱し、加熱されたターゲット領域より後方の所定距離離れた位置にある領域に冷媒を供給し、放射ビームと脆性非金属材料本体との相対的な移動速度を、ビームスポットの寸法及び前記所定距離等に基づいて規定する脆性非金属材料の分断方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。このとき、ビーム形状の工夫によりガラス分断速度および分断品質の向上が図れることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3074143号公報
【特許文献2】特許第30277688号公報
【特許文献3】特許第3484603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如く、従来のガラス板の切断方法においては、先ず、ガラスの表面に、機械的な疵付けによりスクライブ線を形成する、あるいは、初期的に機械的な疵付け後スクライブ線に沿ってレーザビームを照射して熱応力をガラスに作用させてスクライブ線を形成した後、物理的なブレイク力をガラスに作用させることにより、分断している。
【0009】
このように、従来のガラス切断方法においては、物理的なブレイク力をガラスに作用させて分断する工程が入り、この工程でガラスの欠けやカレットが形成されることが多発し、ガラス分断品質あるいはガラス強度を劣化させるという問題が発生していた。
【0010】
一方、昨今、YAGレーザ等のように、ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを使用したガラス板の切断方法も提案されている。
【0011】
この方法によれば、レーザビーム照射点のガラス板は、その厚み全体が高温に加熱され、それが冷える過程で、表面から裏面に通ずる亀裂が生じて、ガラス板は独りでに分断されるため、物理的なブレイク力をガラスに作用させずとも、レーザビーム照射点の移動軌跡に沿ってガラス板を切断することができる。そのため、ガラスの欠けやカレットが形成されて、ガラス分断品質あるいはガラス強度を劣化させることがない。
【0012】
しかし、このようなガラス板の切断方法にあっては、ガラス板に吸収されて発熱に寄与するレーザビームのエネルギーは全体の1〜2%に過ぎないため、レーザビームの走査速度は遅くならざるを得ず、切断に時間が掛かると言う問題点がある。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、レーザ照射による1つの工程だけで、物理的なブレイク力をガラスに作用させることなく、ガラス板を高速かつ高品質に切断することができるガラス板の切断方法及び同方法に好適なガラス板切断用テーブル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の技術的課題は、以下の構成を有するガラス板の切断方法及び同方法に好適なガラス板切断用のテーブル装置により解決することができる。
【0015】
すなわち、この発明のガラス板の切断方法は、それぞれ載物面を有する複数のテーブルエレメントを載物面同士が面一となるように平面的に分散配置してなるガラス板切断用テーブルを用意するステップと、ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを出射可能なレーザビーム照射装置を用意するステップと、前記ガラス板切断用テーブルに切断対象となるガラス板を載置し、かつその載置されたガラス板に前記レーザビーム照射装置から出射されるレーザビームを照射し、かつそのレーザビームとガラス板とを相対的に移動させることにより、ガラス板上のレーザビーム照射点を所望の切断予定線に追従移動させるステップと、前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、前記レーザビーム照射点の近傍にあって、前記切断予定線を挟んで存在する一対のテーブルエレメントの双方を真空吸引を介してその上に載置されたガラス板に吸着させ、かつそれら一対のテーブルエレメントのいずれか一方又は双方に、前記切断予定線から離れる方向への力を加えるステップとを包含し、それにより、前記ガラス板上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用を、前記テーブルエレメントを介して前記ガラス板に加えられる面方向への引っ張り力により促進しつつ、当該ガラス板を所望の切断予定線に沿って切断する、ことを特徴とするものである。
【0016】
このような構成によれば、ガラス板体内部では、レーザが通過したほぼ円柱状に発熱が起こり、レーザが通り過ぎた後、発熱部位は熱伝導あるいは輻射により発熱部位外周部より冷却されて温度勾配が形成され、この温度勾配によりガラス板の熱膨張の差から熱応力が発生して、ある領域で引張応力となり、この引張応力がガラスの最大破壊応力を超えると亀裂が形成され、これによりガラスは完全に分断される。このとき、ガラス板上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用は、前記テーブルエレメントを介して前記ガラス板に加えられる面方向への引っ張り力により促進されるため、その分だけレーザビームの走査速度を高速化することにより、切断対象となるガラス板を高速かつ高品質に切断することが可能となる。
【0017】
別の一面から見た本発明は、上述ガラス板の切断方法に好適なガラス板切断用テーブル装置として把握することもできる。
【0018】
すなわち、このガラス板切断用テーブル装置は、ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを、切断対象となるガラス板に照射し、かつそのレーザビームとガラス板とを相対的に移動させて、ガラス板上のレーザビーム照射点を所望の切断予定線に追従移動させることにより、レーザビーム照射点のガラス板に生ずる熱応力による亀裂発生作用を利用して、当該ガラス板を所望の切断予定線に沿って切断するようにしたガラス板の切断方法に使用されるものであります。
【0019】
そして、このガラス板切断用テーブル装置は、それぞれの載物面同士が面一となるようにして、平面的かつ縦横に分散配置された複数のテーブルエレメントと、前記複数のテーブルエレメントのうちで、縦方向又は横方向の想定される切断予定線を挟んでその両側に位置する一連のテーブルエレメントのそれぞれの載物面にあって、その上に載置されるガラス板を真空吸着するための吸引口と、前記複数のテーブルエレメントのうちで、縦方向又は横方向の想定される切断予定線の片側又は両側に位置する一連のテーブルエレメントを切断予定線と直交しかつ切断予定線から離れる方向へと移動させるための駆動手段と、前記吸引口からの吸引動作、並びに、前記テーブルエレメントの移動動作を制御するための制御手段とを包含し、前記制御手段は、前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、前記レーザビーム照射点の近傍にあって、前記切断予定線を挟んで存在する一対のテーブルエレメントの双方を真空吸引を介してその上に載置されたガラス板に吸着させ、かつそれら一対のテーブルエレメントのいずれか一方又は双方に、前記切断予定線から離れる方向への力が加わるように仕組まれている、ことを特徴とするものである。
【0020】
このような構成によれば、切断対象となるガラス板をテーブル装置上に載置しさえすれば、前記ガラス板上のレーザビーム照射点は、その両脇に位置する前記テーブルエレメントを介して切断予定線と離隔する方向へと引っ張られ、この面方向への引っ張り力により亀裂生成作用が促進されるから、その分だけレーザビームの走査速度を高速化することにより、切断対象となるガラス板を短時間かつ高品質に切断することが可能となる。
【0021】
このとき、前記複数のテーブルエレメントのうちの全部又は一部の載物面に、気体吹出孔が設けられており、さらに前記制御手段が、前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、真空吸着動作に寄与しないテーブルエレメントの載物面に設けられた前記気体吹出孔から気体を吹き出すことにより、載物面とガラス板との摩擦を流体ベアリングの原理で軽減するように仕組まれていれば、前記テーブルエレメントを介して前記ガラス板に面方向への引っ張り力が加えられた際に、その引っ張り力はレーザビーム照射点に効率よく敏感に作用することとなる。
【0022】
加えて、前記想定される切断予定線が2以上の本数だけ設定されており、かつ前記制御手段が、2以上の本数の切断予定線の1つが指定されるとき、その指定された切断予定線の両側に位置するテーブルエレメント列に関して、前記吸引動作並びにテーブルエレメントの移動動作を実行するように仕組まれていれば、2以上の本数の切断予定線の1つを任意に指定するだけで、その指定された切断予定線に沿ったレーザビームによる切断を高速にかつ高品質に実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明方法並びに同方法に好適なガラス板切断用テーブル装置によれば、ガラス板上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用は、前記テーブルエレメントを介して前記ガラス板に加えられる面方向への引っ張り力により促進されるため、その分だけレーザビームの走査速度を高速化することにより、切断対象となるガラス板を高速かつ高品質に切断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、この発明に係るガラス板の切断方法、及び同方法に好適なガラス板切断用テーブル装置の好適な実施の一形態を添付図面にしたがって詳細に説明する。
【0025】
先に説明したように、本発明に係るガラス板の切断方法は、複数のステップから構成されている。
【0026】
先ず、第1のステップでは、それぞれ載物面を有する複数のテーブルエレメントを載物面同士が面一となるように平面的に分散配置してなるガラス板切断用テーブルを用意する。このようなガラス切断用テーブルとしては、具体的には、後述するガラス切断用テーブル装置として実現することができる。
【0027】
第2のステップでは、ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを出射可能なレーザビーム照射装置を用意する。このようなレーザビーム照射装置としては、例えばYAG基本波近傍の波長から紫外にかけての波長帯域のレーザビームを用いたレーザビーム照射装置を挙げることができる。
【0028】
第3のステップでは、前記ガラス板切断用テーブルに切断対象となるガラス板を載置し、かつその載置されたガラス板に前記レーザビーム照射装置から出射されるレーザビームを照射し、かつそのレーザビームとガラス板とを相対的に移動させることにより、ガラス板上のレーザビーム照射点を所望の切断予定線に追従移動させる。
【0029】
第4のステップでは、前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、前記レーザビーム照射点の近傍にあって、前記切断予定線を挟んで存在する一対のテーブルエレメントの双方を真空吸引を介してその上に載置されたガラス板に吸着させ、かつそれら一対のテーブルエレメントのいずれか一方又は双方に、前記切断予定線から離れる方向への力を加える。
【0030】
ここで、レーザバームの照射点の位置については、別途専用の位置検知器を設けて、その位置検知器からの情報に基づいて判断してもよいし、この種のレーザビーム照射装置が有するレーザビーム照射位置を制御するための照射点の位置情報を参照するようにしてもよいであろう。
【0031】
このような本発明方法によれば、ガラス板内部では、レーザが通過したほぼ円柱状に発熱が起こり、レーザが通り過ぎた後、発熱部位は熱伝導あるいは輻射により発熱部位外周部より冷却されて温度勾配が形成され、この温度勾配によりガラス板の熱膨張の差から熱応力が発生して、ある領域で引張応力となり、この引張応力がガラスの最大破壊応力を超えると亀裂が形成され、これによりガラスは完全に分断される。
【0032】
このとき、ガラス板上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用は、前記テーブルエレメントを介して前記ガラス板に加えられる面方向への引っ張り力により促進されるため、その分だけレーザビームの走査速度を高速化することにより、切断対象となるガラス板を短時間かつ高品質に切断することが可能となる。
【0033】
次に、上述の本発明に係るガラス板の切断方法に好適なガラス板切断用テーブル装置の実施の一形態(第1実施形態)について詳述する。
【0034】
本発明に係るガラス板切断用テーブル装置の平面図(第1実施形態)が図1に、図1の各矢視図が図2にそれぞれ示されている。それらの図から明らかなように、このガラス板切断用テーブル装置100は、ガラス板10(図5参照)に照射されると、そのガラス板10を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板10を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビーム(例えば、YAG基本波近傍の波長から紫外にかけての波長帯域のレーザビーム)11を、切断対象となるガラス板に照射し、かつそのレーザビーム11とガラス板10とを相対的に移動させて、ガラス板上のレーザビーム照射点を所望の切断予定線に追従移動させることにより、レーザビーム照射点のガラス板に生ずる熱応力による亀裂発生作用を利用して、当該ガラス板を所望の切断予定線に沿って切断するようにしたガラス板の切断方法に使用されるものである。
【0035】
このガラス板切断用テーブル装置100は、それぞれの載物面3a同士が面一となるようにして、平面的かつ縦横(この例では、縦方向6列×横方向4行)に分散配置された複数(この例では、24個)のテーブルエレメント3と、複数のテーブルエレメント3のうちで、縦方向又は横方向の想定される切断予定線(この例では、縦方向5列の切断予定線9−1〜9−5)のそれぞれを挟んでその両側に位置する一連(この例では、縦方向一連)のテーブルエレメント3のそれぞれの載物面3aにあって、その上に載置されるガラス板10を真空吸着するための吸引孔8と、前記複数のテーブルエレメント3のうちで、縦方向又は横方向(この例では、縦方向)の想定される切断予定線の片側又は両側(この例では、右側)に位置する一連(この例では、縦方向一連)のテーブルエレメント3を縦方向へ延びる切断予定線から離れる方向(この例では右方向)へと移動させるための駆動手段として機能するピエゾ素子4と、前記吸引孔8からの吸引動作、並びに、前記テーブルエレメント3の移動動作を制御するための制御手段(制御プログラムを図7に示す)とを包含している。
【0036】
すなわち、図1、図2、図5、及び図6において、1は装置の基礎をなすテーブルベース、2はテーブルベース1上にあって、図中左右方向(X方向)へと延在された4本のリニアガイド、3はリニアガイドを介してそれぞれ図中左右方向(X方向)へと移動自在に支持されたテーブルエレメント、5は切断対象となるガラス板10(図5参照)のX方向基準位置を定義するためのX方向ガイド、6は切断対象となるガラス板10(図5参照)のY方向基準位置を定義するためのY方向ガイド、7はテーブルエレメント3の載物面3aに配置されて、真空吸着作用に寄与する吸引孔、8はテーブルエレメント3の載物面3aに配置されて、流体ベアリング作用に寄与する吹出孔、9は切断完了線、9−1〜5は切断予定線、10は切断対象となるガラス板、100はガラス板切断用テーブル装置である。
【0037】
図1において、最も左下に位置する1行1列のテーブルエレメントをTB(1,1)、最も右上に位置する4行6列のテーブルエレメントをTB(4,6)と表すとすれば、切断予定線9−1の両側に位置する一連の4個のテーブルエレメントは、TB(1.1〜4)とTB(2,1〜4)となり、同様にして、切断予定線9−5の両側に位置する一連の4個のテーブルエレメントは、TB(5.1〜4)とTB(6,1〜4)となる。そのため、図1の例にあっては、結局、全てのテーブルエレメント3の載物面3aには、真空吸着のための吸引孔8が設けられている。
【0038】
加えて、この例にあっては、全てのテーブルエレメント3の載物面3aには、4個の気体(例えば、空気、窒素等々)の吹出孔7が設けられている。そのため、切断予定線9−1〜9−5のいずれが選択された場合にも、吸着に寄与しないテーブルエレメントについては、これらの吹出孔7から気体を吹き出すことにより、流体ベアリングの原理で各載物面3aとその上に載置されるガラス板10との間の摩擦を軽減可能にされている。
【0039】
なお、以上説明した吸引孔8は所定の電磁弁を介して図示しない真空源(例えば、真空ポンプ等)に管路接続されており、同様にして、吹出孔7については所定の電磁弁を介して図示しない圧気源(例えば、エアコンプレッサ等)に管路接続されている。それらの電磁弁は、制御手段を構成する図示しないマイクロコンピュータにより開閉制御される。
【0040】
次に、以上の構成よりなるガラス板切断用テーブル装置100の作用を図6及び図7を参照して詳述する。
【0041】
本発明に係るガラス切断用テーブル装置(第1実施形態)にガラス板10をストッパ5,6により位置決めして載置した状態が図5に、本発明に係るガラス切断用テーブル装置(第1実施形態)の作用説明図が図6に、同装置におけるテーブルエレメント駆動制御処理を示すフローチャートが図7にそれぞれ示されている。なお、図7に示されるテーブルエレメント駆動制御処理は、制御手段を構成する図示しないマイクロコンピュータにより実行されるシステムプログラムを概略的に示すものである。
【0042】
本発明に係るガラス切断用テーブル装置の使用にあたっては、先ず、図5に示されるように、ガラス切断用テーブル装置100の上に、切断対象となるガラス板10を、X方向ストッパ5及びY方向ストッパ6を介して位置決めした状態で載置する。しかるのち、図示しないキー入力装置又はレーザビーム照射装置を介して、装置100に対して切断位置C(X)を指定入力する。すると、図示しない制御手段を構成するマイクロコンピュータの作用により、装置の運転が開始される。
【0043】
図7において、処理が開始されると、X方向の切断位置C(X)(図6参照)の指定を待機する状態となる(ステップ101,102)。この状態において、図示しない手動入力用のキー入力装置又は図示しないレーザビーム照射装置から切断予定線9−1〜9−5のいずれかに相当する切断位置C(X)の指定が行われると(ステップ102YES)、吸引モードとなるテーブルエレメントの設定処理(ステップ103)及び吹出モードとなるテーブルエレメントの設定処理(ステップ104)が行われる。
【0044】
吸引モードとなるテーブルエレメントの設定処理(ステップ103)においては、切断位置C(X)を指定する値(X)に基づいて、吸引モードとなるべきテーブルエレメントが自動的に決定される。このとき、切断位置C(X)に対応する切断予定線の左側に位置する一連の4個のテーブルエレメントTB(X,1〜4)及び左側に位置する一連の4個のテーブルエレメントTB(X+1,1〜4)が吸引モードに設定される。今仮に、X=1とされた場合には、図6に示されるように、切断予定線9−1が自動的に選択されると共に、その左側に位置する一連の4個のテーブルエレメントTB(1,1〜4)及び右側に位置する一連の4個のテーブルエレメントTB(2,1〜4)が吸引モードに設定される。
【0045】
吹出モードとなるテーブルエレメントの設定処理(ステップ104)においては、切断位置C(X)を指定する値(X)に基づいて、吹出モードとなるべきテーブルエレメントが自動的に決定される。このとき、先の処理(ステップ103)で吸引モードとされたテーブルエレメントTB(X,1〜4)及TB(X+1,1〜4)以外の全てのテーブルエレメントが吹出モードに設定される。X=1とされた場合であれば、右側4列に位置する一連の4個のテーブルエレメントTB(3,1〜4),TB(4,1〜4),TB(5,1〜4),TB(6,1〜4)が吹出モードに設定される。
【0046】
以上の設定処理(ステップ103,104)が完了すると、手動入力用のキー入力装置又はレーザビーム照射装置から切断開始信号の到来を待機する状態となる(ステップ105,106)。そして、切断開始信号の到来を待って(ステップ106YES)、切断動作のための処理(ステップ107〜112)へと移行する。
【0047】
切断動作のための処理においては、先ず、ビーム照射点のY方向における駆動対象エレメント切替位置R(Y)を示すポインタ(Y)の値を初期値「1」に設定したのち(ステップ107)、切断位置C(X)とエレメント切替位置R(Y)とで定まる1個のテーブルエレメントTB(X+1,Y)について、ピエゾ素子4を介して右方向へと移動するように力を加える一方、その他のテーブルエレメントについては、静止状態に維持する処理(ステップ108)が、ビーム照射点(切断先端)が進行して切替位置R(Y)に達するまで繰り返される(ステップ109NO)。
【0048】
ここで、例えば、X=1,Y=1の場合には、切断予定線9−1の右側に位置する4個のテーブルエレメントTB(2,1〜4)のうちで、最も切断開始点に近いテーブルエレメントTB(2,1)が駆動対象エレメントとして設定され、この設定されたテーブルエレメントTB(2,1)のみが、矢印AR1に示されるように、図中右方向へと移動するように力が加えられる。このとき、実際の切断完了線9の先端位置はガラス板の端から切替位置R(1)に至る間に存在する。そのため、ガラス板上のレーザビームの照射点においては、切断予定線9−1と直交する方向への引っ張り力が加えられる。
【0049】
これにより、ガラス板上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用は、テーブルエレメントTB(2,1)を介してガラス板に加えられる右方向への引っ張り力により促進されるため、その分だけレーザビームの走査速度を高速化することにより、切断対象となるガラス板を短時間かつ高品質に切断することが可能となる。
【0050】
その後、ガラス板上のレーザビーム照射点が、Y方向に隣接する他のテーブルエレメントとの境界位置R(Y)に達する毎に(ステップ109YES)、ポインタYの値は+1づつ更新されることとなり、その都度、駆動対象となるテーブルエレメントをビーム照射点の進行方向に隣接する他のテーブルエレメントに切り替えては(ステップ110)、新たに設定されたテーブルエレメントについて、右方向へと移動するように力を加える処理(ステップ108)が、ビーム照射点が反対側のガラス端部に達して、切断完了するに至るまで繰り返される(ステップ111NO)。
【0051】
そして、ビーム照射点が反対側のガラス端部に達したことにより、切断先端位置が所定の最大値maxに達するのを待って、すべての処理は終了する(ステップ111YES、112)。
【0052】
このように、この第1実施形態によれば、予め設定された5本の切断予定線のうちの任意の1つを選択すれば、その選択された切断予定線の両側に位置する2列のテーブルエレメントが自動的に吸引モードに設定されると共に、他の全てのテーブルエレメントは自動的に吹出モードに設定され、吸引モードと吹出モードへの設定の手間が不要となる。
【0053】
加えて、2列のテーブルエレメントのうちの右側に位置する1列に関しては、ビーム照射点の進行に先立つようにして、切断開始点側から順に1つずつ、駆動対象エレメントとして選択され、その選択された駆動対象エレメントが、図中矢印AR2,AR3,AR4に示されるように、右方向へと移動するように順に力が加えられる。
【0054】
この状態にて、図5に示されるように、レーザビーム11の照射が行われると、ガラス板10の内部では、レーザが通過したほぼ円柱状に発熱が起こり、レーザが通り過ぎた後、発熱部位は熱伝導あるいは輻射により発熱部位外周部より冷却されて温度勾配が形成され、この温度勾配によりガラス板の熱膨張の差から熱応力が発生して、ある領域で引張応力となり、この引張応力がガラスの最大破壊応力を超えると亀裂が形成され、これによりガラスは完全に分断される。なお、図5において、符号12が付されているのは、ビームスポット位置の検出器である。
【0055】
このとき、ガラス板10上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用は、テーブルエレメントを介してガラス板に加えられる右方向への引っ張り力により促進されるため、その分だけレーザビームの走査速度を高速化することにより、切断対象となるガラス板を短時間かつ高品質に切断することが可能となる。
【0056】
殊に、この例にあっては、駆動対象となるテーブルエレメントは常にビーム照射点近傍又はそれよりやや前方に位置することに加えて、ガラス板の全体は流体ベアリングを介して浮かせて支持され、テーブルエレメントとの摩擦が軽減されるため、駆動対象エレメントに加えられる力は、ガラス板上のビーム照射点に敏感に効率よく伝達され、比較的に小さな駆動源によっても、正確な分断支援制御が可能となる。
【0057】
次に、本発明に係るガラス板切断用テーブルの他の実施形態の構成が図3及び4に示されている。なお、図3は、本発明に係るガラス切断用テーブル装置(第2実施形態)の平面図、図4は、図3の各矢視側面図である。それらの図において、第1実施形態と同一構成部分については、同符号を付すものとする。
【0058】
この第2実施形態にあっては、ガラス板の切断を、切断予定線9−1の1箇所においてのみ可能とすると共に、駆動対象となるテーブルエレメントについては、切断予定線9−1の右側に隣接する1列のテーブルエレメントTB(2,1〜4)にのみ限定し、さらに吸引孔8が付されるテーブルエレメントについては、切断予定線9−1の両側に隣接する2列のテーブルエレメントであるTB(1,1〜4)及びTB(2,1〜4)にのみ限定し、他のテーブルエレメントには吹出孔7のみを設けるように構成を簡素化することにより、装置の低コスト化が図られている。このような低コスト化を図ってはいるものの、この第2実施形態にあっても、高速且つ高品質なガラス切断を実現することができる。なお、切断予定線9−1の右側に隣接する一列のテーブルエレメントTB(2,1〜4)に関する右方向駆動制御については、第1実施形態の場合と同様である。
【0059】
なお、以上の実施形態において、切断対象となるガラス板については、単板のものに限らず、複数枚の単板ガラスを接着剤等を介して積層してなる積層ガラスについても適用が可能である。
【0060】
また、以上の実施形態においては、切断予定線の片側に隣接する1列のテーブルエレメントのみを切断予定線から離れる方向(切断予定線と直交する方向)へと駆動したが、切断予定線の両側に隣接する2列のテーブルエレメントのそれぞれを、切断予定線から離れる方向(切断予定線と直交する方向)へと駆動するようにしてもよいことは勿論である。
【0061】
このとき、駆動手段として機能するピエゾ素子4は、電圧の印加の仕方に応じて駆動力を加減することが容易であるから、左右の駆動力を適宜に調整することで、亀裂の進行方向を正確に制御することもできる。
【0062】
殊に、ガラス板のレーザ照射部位はレーザの一部を吸収し発熱するが、レーザが移動後熱伝導および輻射により冷却され温度勾配が形成され熱応力が発生する。この現象により、レーザ移動後方に引張応力が形成され、該引張応力がガラスの最大破壊応力を越えるとガラスに亀裂が生じレーザ移動方向に亀裂が進展する。このとき、ガラス自身にガラス製造時の残留応力や液晶ディスプレイなどの工程で印加された応力などが残っているとレーザで形成された熱応力とガラスの残留応力とが合成され分断予定線から分断位置がずれたり、また、ガラスと載物台との摩擦により分断を阻害する方向に力が働き分断速度が低下する場合がある。
【0063】
このような場合には、分断方向にピエゾ素子4に印加する電圧を変えることで分断速度を変えたり、応力を変形させ分断方向を制御できるほか、全ガラス載物台の吸引あるいは吸着を使用し、かつ、全ピエゾ素子4に電圧を印加してそれぞれの載物台を移動させることで複雑な応力も形成でき、分断予定線に対して微妙な直進性などの補正が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、プラズマディスプレイパネルや液晶ディプレイパネル等のフラットディスプレイパネル等のガラス基板分断工程において、ガラス分断品質の向上と高精度化及び分断工程の簡略化に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係るガラス板切断用テーブル装置の平面図(第1実施形態)である。
【図2】図1の各矢視側面図である。
【図3】本発明に係るガラス板切断用テーブル装置の平面図(第2実施形態)である。
【図4】図3の各矢視側面図である。
【図5】本発明に係るガラス板切断用テーブル装置に切断対象となるガラス板が載置された状態を概略的に示す説明図である。
【図6】本発明に係るガラス板切断用テーブル装置(第1実施形態)の作用説明図である。
【図7】テーブルエレメント駆動制御処理を示すフローチャートである。
【図8】ホイールカッタを使用したガラス基板の切断方法の説明図である。
【図9】CO2レーザを使用したガラス基板の切断方法の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 テーブルベース
2 リニアガイド
3 テーブルエレメント
3a 載物面
4 ピエゾ素子
5 X方向ストッパ
6 Y方向ストッパ
7 吹出孔
8 吸引孔
9 切断完了線
9−1〜9−5 切断予定線
10 ガラス板
100 ガラス板切断用テーブル装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ載物面を有する複数のテーブルエレメントを載物面同士が面一となるように平面的に分散配置してなるガラス板切断用テーブルを用意するステップと、
ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを出射可能なレーザビーム照射装置を用意するステップと、
前記ガラス板切断用テーブルに切断対象となるガラス板を載置し、かつその載置されたガラス板に前記レーザビーム照射装置から出射されるレーザビームを照射し、かつそのレーザビームとガラス板とを相対的に移動させることにより、ガラス板上のレーザビーム照射点を所望の切断予定線に追従移動させるステップと、
前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、前記レーザビーム照射点の近傍にあって、前記切断予定線を挟んで存在する一対のテーブルエレメントの双方を真空吸引を介してその上に載置されたガラス板に吸着させ、かつそれら一対のテーブルエレメントのいずれか一方又は双方に、前記切断予定線から離れる方向への力を加えるステップとを包含し、
それにより、前記ガラス板上のレーザビーム照射点における熱応力による亀裂発生作用を、前記テーブルエレメントを介して前記ガラス板に加えられる面方向への引っ張り力により促進しつつ、当該ガラス板を所望の切断予定線に沿って切断する、ことを特徴とするガラス板の切断方法。
【請求項2】
ガラス板に照射されると、そのガラス板を透過し、かつ透過の際に一部がガラス板に吸収されて、透過部分のガラス板を全厚みに亘って加熱する性質を有するレーザビームを、切断対象となるガラス板に照射し、かつそのレーザビームとガラス板とを相対的に移動させて、ガラス板上のレーザビーム照射点を所望の切断予定線に追従移動させることにより、レーザビーム照射点のガラス板に生ずる熱応力による亀裂発生作用を利用して、当該ガラス板を所望の切断予定線に沿って切断するようにしたガラス板の切断方法に使用されるガラス板切断用テーブル装置であって、
それぞれの載物面同士が面一となるようにして、平面的かつ縦横に分散配置された複数のテーブルエレメントと、
前記複数のテーブルエレメントのうちで、縦方向又は横方向の想定される切断予定線を挟んでその両側に位置する一連のテーブルエレメントのそれぞれの載物面にあって、その上に載置されるガラス板を真空吸着するための吸引孔と、
前記複数のテーブルエレメントのうちで、縦方向又は横方向の想定される切断予定線の片側又は両側に位置する一連のテーブルエレメントを切断予定線から離れる方向へと移動させるための駆動手段と、
前記吸引孔からの吸引動作、並びに、前記テーブルエレメントの移動動作を制御するための制御手段とを包含し、
前記制御手段は、
前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、前記レーザビーム照射点の近傍にあって、前記切断予定線を挟んで存在する一対のテーブルエレメントの双方を真空吸引を介してその上に載置されたガラス板に吸着させ、かつそれら一対のテーブルエレメントのいずれか一方又は双方に、前記切断予定線から離れる方向への力が加わるように仕組まれている、ことを特徴とするガラス板切断用テーブル装置。
【請求項3】
前記複数のテーブルエレメントのうちの全部又は一部の載物面には、気体吹出孔が設けられており、さらに
前記制御手段は、
前記ガラス板上のレーザビーム照射点が前記切断予定線に追従移動する際に、真空吸着動作に寄与しないテーブルエレメントの載物面に設けられた前記気体吹出孔から気体を吹き出すことにより、載物面とガラス板との摩擦を流体ベアリングの原理で軽減するように仕組まれている、ことを特徴とする請求項2に記載のガラス板切断用テーブル装置。
【請求項4】
前記想定される切断予定線は2以上の本数だけ設定されており、
前記制御手段は、
2以上の本数の切断予定線の1つが指定されるとき、その指定された切断予定線の両側に位置するテーブルエレメント列に関して、前記吸引動作並びにテーブルエレメントの移動動作を実行するように仕組まれている、ことを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス板切断用テーブル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−30834(P2010−30834A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194667(P2008−194667)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】