説明

ガラス板の端面研削装置およびその方法

【課題】ガラス板の端面研削工程において、研削液がガラス板の平面へ飛散するのを効果的に抑制し、また、研削液の効率的な回収を図る。
【解決手段】遮蔽板6は、接触部4をガラス基板2の平面中央側から包囲する包囲部9を有する。この包囲部9の一端は砥石3の回転方向前方側でガラス基板2の端面2aと交差して延びている。また、遮蔽板6を挟んで砥石3とは反対側の位置にはパージノズル7が配設されている。このパージノズル7には、遮蔽板6とガラス基板2との間隙を通って研削液がガラス基板2の平面に侵入するのを阻止するためのパージ水13を噴射する複数のノズル開口部が並列に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の端面研削装置およびその方法に関し、詳しくは、回転する砥石をガラス板の端面に接触させ、この接触部に研削液を供給しながら砥石とガラス板とをガラス板の端面の長手方向に相対移動させることでガラス板の端面を研削する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイなどの各種画像表示機器の製作に際しては、大型のガラス基板に対して複数の表示素子を形成した後に、各表示素子の区画ごとに分割する、いわゆる多面取りという手法が採用されるに至っている。そのため、ガラスメーカー等で製造されるガラス基板の大型化が推進されている現状がある。
【0003】
これらのガラス基板は、成形後の素材ガラスを矩形状かつ所定の大きさに切断した後、その切断端面を研削する処理などを行うことにより、ガラス基板製品として得られる。
【0004】
この種のガラス基板の端面研削は、通常、ガラス基板の端面に回転状態の砥石を接触させた状態で、かかる砥石をガラス基板に対してその端面に沿った向きに相対移動させることで行われる。この際、砥石とガラス基板の端面との接触部(研削部)の冷却や摩擦低減等の目的で、研削部に研削液を供給する場合が多い。しかしながら、研削部に供給された研削液は、研削液の供給方向や、砥石の回転等に起因してガラス基板の表面にも飛散し、この飛散した研削液に含まれている切粉等がガラス基板の表面に付着することでガラス基板の表面性状が悪化したり、後の洗浄工程が煩雑化したりする事態を招き得る。そのため、この種の端面研削装置においては、以下に示すような対策が講じられている。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、略鉛直に保持されたガラス基板の表裏面のうちプラズマディスプレイパネルの構成要素が形成された面上に、ガラス基板の鉛直下方に位置する砥石と前記構成要素との間を遮蔽する遮蔽板を配置し、この状態で、研削すべき割断面に砥石を接触させ、砥石に液体を供給しながら、保持されたガラス基板を割断面の長手方向に移動させつつ砥石を回転させて割断面を研削する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−317235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなど、各種画像表示ディスプレイの高精細化がなされており、これに伴い、PDPをはじめとする各ディスプレイ用ガラス基板についても高精細化の要求が高まっている。かかる要求に応えるためには、ガラス基板の表面性状を一層良好なものとする必要があり、このために、研削部に供給された研削液をガラス基板の表面に飛散させないようにすることが肝要となる。
【0007】
ここで、上記特許文献1に開示の遮蔽板はフラットな形状をなし、研削対象となるガラス板の端面に対して平行にかつ所定距離だけ上方に配置されている。砥石とガラス板の端面との接触部に供給された研削液は、砥石の回転とガラス板の相対移動に伴って該接触部から斜め上方に飛散して遮蔽板に至る。そして、遮蔽板に至った研削液の大半は、遮蔽板に沿ってガラス板の端面と平行な方向に流れ、流速が低下した位置で自重により流下してガラス板より下方に落下する。そのため、飛散した研削液が遮蔽板に至り、遮蔽板に沿ってガラス板の端面と平行な方向に流れる領域では、研削液が遮蔽板とガラス板との間の間隙を通ってガラス板の平面中央側に侵入しやすく、同文献の図3に示されているようなガス供給ノズル23を設けたとしても、ガラス板の平面中央側への研削液の侵入を効果的に抑制することは難しい。特に、ガラス板を水平姿勢にして加工する場合は、その傾向が顕著である。また、同文献は、接触部(研削部)に供給した研削液の回収について特に配慮していない。
【0008】
以上の事情に鑑み、本発明では、ガラス板の端面研削工程において、研削液がガラス板の平面へ飛散するのを効果的に抑制し、また、研削液の効率的な回収を図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係るガラス板の研削装置により達成される。すなわち、このガラス板の研削装置は、回転させつつガラス板の端面に接触させることで端面を研削する砥石と、砥石とガラス板の端面との接触部に研削液を供給する研削液供給部と、接触部に供給された研削液からガラス板の平面を遮蔽するための遮蔽板とを備えたガラス板の端面研削装置において、遮蔽板は、接触部をガラス板の平面中央側から包囲する包囲部を有し、包囲部の一端は、接触部よりも砥石の回転方向前方側でガラス板の端面と交差して延びている点をもって特徴づけられる。
【0010】
このような構成によれば、接触部に供給された研削液は、接触部での加工に寄与した後、接触部を包囲する包囲部に到達し、包囲部に沿って、接触部よりも砥石の回転方向前方側でガラス板の端面と交差する位置を超える位置まで誘導される。すなわち、接触部から砥石の回転方向前方側において、研削液は包囲部に沿って、ガラス板の平面中央側から離れる方向に流れ、ガラス板の端面を超える位置まで誘導される。これにより、接触部で飛散した研削液がガラス板の平面中央側に流れて、平面中央側に付着することが効果的に防止される。また、研削液は包囲部によって流れの方向性を与えられるため、研削液を効率的に回収することもできる。
【0011】
この場合、包囲部は、ガラス板の平面に対する平面視で、砥石の外周面に沿った湾曲形状を有していることが好ましい。
【0012】
包囲部を上記の形状とすることで、包囲部に到達した研削液を砥石の回転方向に沿って円滑に誘導して、上記の効果を高めることができる。
【0013】
また、包囲部は、ガラス板の一面側に位置する構成とする他、その両面側に位置している構成とすることもできる。
【0014】
包囲部がガラス板の両面側に位置するように遮蔽板を配設することで、包囲部による上記作用をガラス板の両面に対して得ることができる。そのため、当該研削装置により得られたガラス板を、高精細な液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の各種画像表示機器用のガラス基板として広く提供することができる。
【0015】
また、包囲部がガラス板の両面側に位置する構成とする場合、包囲部は、ガラス板の端面を含む一部を挿通するためのスリットを有していることが好ましい。
【0016】
このような形状とすることで、ガラス板の両面側に位置する包囲部を1つの遮蔽板で構成して、構造の簡素化を図ることができる。
【0017】
また、上記構成に加えて、包囲部を挟んで砥石と反対側の位置に、パージ流体を噴射するパージノズルが配設されている構成としてもよい。この場合、パージ流体は、前記包囲部とガラス板との間の間隙に供給される。
【0018】
かかる構成とすることで、包囲部とガラス板との間の間隙を通ってガラス板の平面中央側に侵入しようとする研削液は、パージノズルから噴出するパージ流体によって砥石の側に押し戻される。よって、ガラス板の平面中央側への研削液の付着をより効果的に防止することができる。なお、ここでいう「パージ流体」には、水等の液体、空気等の気体が含まれるが、包囲部とガラス板との間隙を通ってガラス板の平面中央側に侵入しようとする研削液を砥石側に押し戻すのに十分な圧力を付与するとの観点からは、水等の液体がより好ましい。また、その圧力は研削液の供給量に応じて適宜設定すればよい。
【0019】
この場合、パージノズルは、パージ流体が包囲部とガラス板との間の間隙を通ってガラス板に達するように、その設置角度が設定されていることが好ましい。
【0020】
上述の如くパージノズルの設置角度を定めることで、パージ流体によって、遮蔽板とガラス板の間隙よりも砥石に近い位置で研削液を押し戻すことができ、当該間隙を介して研削液がガラス板の平面中央側に侵入する事態をより一層効果的に防止することができる。
【0021】
また、パージノズルは、遮蔽板の包囲部と同様、ガラス板の一面側に配置する他、その両面側に配置することもできる。
【0022】
このような構成とすることで、上記パージノズルによる作用と同一の作用をガラス板の両面側で得ることができる。
【0023】
また、この場合、包囲部を有する遮蔽板とパージノズルとはユニット化されたものであってもよい。
【0024】
このようにユニット化されていれば、砥石の交換のために上記端面研削装置を分解した場合であっても、遮蔽板とパージノズル相互の位置関係を維持したままで当該ユニットを取り外しできる。そのため、砥石交換後の再組立時に砥石と上記ユニットとの位置関係を調整するだけで済み、砥石の交換作業に要する時間を短縮することができる。
【0025】
もちろん、遮蔽板とパージノズルに加えて、研削液供給部もユニット化することも可能である。すなわち、遮蔽板と研削液供給部、およびパージノズルとがユニット化されたものであってもよい。
【0026】
上記構成に係るガラス板の端面研削装置は、少なくとも砥石と研削液供給部とを収容するハウジングをさらに備え、このハウジングは、所定の端面に、ガラス板の一部を挿通し、当該ガラス板の端面を砥石に接触可能とするための開口部を有することが好ましい。
【0027】
このような構成とすることで、ガラス板の挿通側となる開口部を除き、砥石がハウジングで覆われる。そのため、上記遮蔽板あるいはパージノズルによる上記作用と相俟って、研削液のガラス板平面中央側への飛散を一層確実に防止することができる。また、砥石と研削液供給部がハウジングで覆われることで、包囲部によりガラス板から遠ざかる向きに誘導された研削液を漏れなく回収することができる。
【0028】
また、上記構成に係るガラス板の端面研削装置は、ガラス板を水平姿勢にして加工する場合に特に好適である。
【0029】
一方、前記課題の解決は、本発明に係るガラス板の端面研削方法によっても達成される。すなわち、このガラス板の研削方法は、砥石を回転させながらガラス板の端面に接触させることで端面の研削を行う方法であって、砥石とガラス板の端面との接触部に研削液を供給すると共に、接触部に供給された研削液からガラス板の平面を遮蔽するための遮蔽板を配設した状態で端面の研削を行うガラス板の端面研削方法において、遮蔽板は、接触部をガラス板の平面中央側から包囲する包囲部を有し、包囲部の一端は、接触部よりも砥石の回転方向前方側で端面と交差して延びている点をもって特徴づけられる。
【0030】
このような方法によれば、先に述べた本発明に係るガラス板の研削装置についての事項と、同一の事項が当てはまり、故に当該装置による作用効果と同一の作用効果を得ることができる。
【0031】
また、この場合、包囲部を挟んで砥石と反対側の位置に、パージ流体を噴射するパージノズルが配設され、パージ流体が遮蔽板とガラス板との間の間隙に供給されるように構成されていることが好ましい。
【0032】
このように、上述した端面研削方法においても、上記供給態様のパージノズルを配設することで、先に述べた端面研削装置におけるパージノズルについての事項と、同一の事項が当てはまり、故に当該装置による作用効果と同一の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明に係るガラス板の研削装置およびその方法によれば、ガラス板の端面研削工程において、研削水がガラス板の平面へ飛散するのが可及的に抑制される。そのため、ガラス板の表面性状を良好なものとして、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の各種画像表示機器用の表示素子の高精細化を図ることができる。また、研削液の効率的な回収を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0035】
まず、図1に示す平面図に基づいて、本発明の一実施形態に係るガラス板の研削装置の全体構成を説明する。なお、本実施形態では、液晶ディスプレイ用のガラス基板の端面を研削する場合を例にとって説明する。
【0036】
同図に示すように、ガラス基板の端面研削装置1は、成形後の素板ガラスから切り出されたガラス基板2の端面2a(切断面)に対して研削加工を施すための装置であり、水平姿勢で所定の方向に搬送されるガラス基板2の一方の側(又は両方の側)に配設される。ここで、この端面研削装置1は、ガラス基板2の搬送方向の一辺に沿った端面2aを回転を伴って研削する砥石3と、砥石3とガラス基板2との接触部(研削部)4を基準として砥石3の回転方向後方側(図1でいえば、接触部4よりも右側領域)に配設され、接触部4の周辺に向けて研削液(ここでは純水)を供給する研削液供給ノズル5と、後述する遮蔽板6、および、パージノズル7とを備える。また、本実施形態では、上記構成要素(砥石3、研削液供給ノズル5、遮蔽板6、パージノズル7)が略矩形状のハウジング8内に収容されると共に、このハウジング8の一端面に設けた開口部8aにより、ガラス基板2の一部がハウジング8内部に挿通でき、かつ、挿通したガラス基板2の一部に係る端面2aを砥石3の外周面と接触できるように構成されている。
【0037】
砥石3は、ガラス基板2の平面に直交する軸と平行な軸まわりに回転するように構成されており、その回転方向は、ガラス基板2の研削部(接触部4)においてガラス基板2の搬送方向と相対する方向(図1中、反時計回りの方向)とされている。なお、研削面となる砥石3の外周面3aは、例えば図4に示すように、略凹部円弧状の断面輪郭形状をなし、ガラス基板2の端面2aの両縁部を一度にR面取りできるように構成されている。
【0038】
研削液供給ノズル5は、ガラス基板2と砥石3との接触部4を基準として、砥石3の回転方向後方側から、接触部4に向けて研削液を供給するように構成されている。
【0039】
遮蔽板6は、図2に示すように、長手方向に沿って湾曲状、例えば略円弧状(円弧状を含む)に形成された部分を有しており、この円弧状部が接触部4を含む砥石3のガラス基板2側の周囲を包囲する包囲部9となる。詳細には、包囲部9は、ガラス基板2の平面を平面視した状態では、図1に示すように、砥石3の外周面3aに沿った略円弧状をなし、また、その長手方向に沿って幅寸法一定のスリット10を有している。そして、このスリット10にガラス基板2の一部を挿通し、挿通部分の端面2aを砥石3と接触させた状態では、図4に示すように、包囲部9が接触部4よりもガラス基板2の平面中央側の位置に配置される。また、包囲部9の一端が、接触部4を基準として砥石3の回転方向前方側(図1中、接触部4よりも左側領域)でガラス基板2の端面2aと交差して延びるように、遮蔽板6がハウジング8に固定されている。上記構成の包囲部9は、ガラス基板2の表裏双方の平面側に配置される。なお、スリット10の幅寸法に関し、上述の如くガラス基板2が挿通できる程度の大きさは少なくとも必要であり、できれば、研削時のガラス基板2のバタつき(板厚方向への振幅)を考慮して当該幅寸法を設定するのが好ましい。
【0040】
パージノズル7は、本実施形態では、図3に示すように、複数のノズル開口部11を集約してなるノズルユニットとして構成されており、遮蔽板6を挟んで砥石3とは反対側の位置に配設されている。ここで、パージノズル7は、遮蔽板6と同様、ガラス基板2を挿通するためのスリットを有し、このスリットを間に挟んで対向する一対の斜面12,12には、各斜面12,12の長手方向に沿って複数のノズル開口部11がそれぞれ一列に配置されている。また、これらノズル開口部11は、一律に同じ方向を指向するように配置されている。そのため、パージノズル7の斜面12,12間(スリット)にガラス基板2の一部を挿通し、その端面2aを砥石3に接触させた状態では、これら複数のノズル開口部11から噴射されたパージ水(例えば純水)13が、当該複数のノズル開口部11とガラス基板2の平面との間にカーテン状の水壁を形成するようになっている。なお、パージノズル7に設けられたスリットの幅寸法に関しては、遮蔽板6のスリット10と同様、挿通されるガラス基板2の厚みに応じて設定されるのがよく、好ましくは、研削時のガラス基板2のバタつき度合いをも考慮して設定されるのがよい。
【0041】
ここで、パージノズル7から吐出されるパージ水13の鉛直方向における指向態様について詳述すると、図5に示すように、各ノズル開口部11は、当該ノズル開口部11から噴射されたパージ水13が、砥石3と接触状態にあるガラス基板2と遮蔽板6との間隙に供給されるように指向されている。ここで、好ましくは、ノズル開口部11から噴射されたパージ水13のガラス基板2の平面に対する入射角θが10度以上45度以下となるように、より好ましくは、入射角θが25度以上35度以下となるように、パージノズル7の取り付け角度、もしくはノズル開口部11の形成角度が設定される。これは、パージ水13のガラス基板2平面への着地点が砥石3の側に近いほど、研削液の押し戻し作用は高い一方で、ガラス基板2との干渉を回避するには、両者間(ガラス基板2とパージノズル7)の鉛直方向隙間をなるべく大きく取るほうがよい、との理由に基づく。逆に言えば、上述の理由から、パージノズル7のノズル開口部11は、パージ水13が包囲部9とガラス基板2との間の間隙を通ってガラス基板2の平面に達するように、その設置角度が設定されていることが好ましい。
【0042】
また、ガラス基板2の平面を平面視した状態でパージ水13の指向態様を詳述すると、図6に示すように、各ノズル開口部11は、当該ノズル開口部11から噴射されたパージ水13が砥石3と接触状態にあるガラス基板2の端面2aのうち未研削の部分を斜めに横切って砥石3に向かうよう指向されている。言い換えると、ノズル開口部11から噴射されたパージ水13の噴出方向と、砥石3の接触部4における接線方向V(回転方向前方側。図6を参照)とのなす角θが90度を越え180度未満となるようにノズル開口部11の指向角度が設定されている。
【0043】
以下、上記構成の装置を用いたガラス基板の研削方法につき、図7および図8を参照して説明する。なお、図7は遮蔽板6の作用に焦点を当てて当該作用を説明するための要部平面図であり、図8はパージノズル7の作用に焦点を当てて当該作用を説明するための要部平面図を示している。
【0044】
まず、遮蔽板6の作用について説明する。図7に示すように、研削時、接触部4の近傍に向けて供給された研削液(同図中、太矢印で示されている)は、接触部4に到った後、その周囲に向けて飛散する。この際、接触部4は、遮蔽板6に設けた包囲部9によって包囲されているため、接触部4の周囲に飛散した研削液は、包囲部9に沿って、接触部4よりも砥石3の回転方向前方側でガラス基板2の端面2aとの交差位置を超える位置まで誘導される。すなわち、接触部4から砥石3の回転方向前方側において、研削液は包囲部9に沿って、ガラス基板2の平面中央側から離れる方向に流れ、ガラス基板2の端面2aを超える位置まで誘導される。これにより、接触部4で飛散した研削液がガラス基板2の平面中央側に流れて、平面中央側に付着することが効果的に防止される。また、研削液は包囲部9によって流れの方向性を与えられるため、研削液が効率的に回収される。
【0045】
また、本実施形態のように、包囲部9を砥石3の外周面3aに沿って略円弧状に形成していれば、包囲部9に到達した研削液を砥石3の回転方向に沿って円滑に誘導して、上記の効果を高めることができる。また、当該形状とすることで、ガラス基板2を平面視した状態では、包囲部9と砥石3との間に半径方向の対向間隔が略一定な流路が形成され、これによっても研削液の送出がスムーズに行われる。
【0046】
次に、パージノズル7の作用について説明すると、図8に示すように、パージノズル7(のノズル開口部)から噴射されたパージ水13は、接触部4から見て斜め前方側から遮蔽板6とガラス基板2との隙間に供給される。そのため、包囲部9とガラス基板2との間の間隙を通じてガラス基板2の平面に侵入しようとする研削液は、パージ水13により砥石3の側に押し戻される。また、接触部4から砥石3の回転方向前方側へ飛散した研削液は当該飛散方向への勢いを弱められると共に、その飛散方向(流動方向)を変え、ガラス基板2から遠ざかる向きに誘導される。加えて、包囲部9によりガラス基板2から遠ざかる向きに誘導されている研削液に対しては、包囲部9による誘導を促進する向きに押し込むように作用する。以上より、遮蔽板6とガラス基板2との間隙を通じて研削液がガラス基板2の平面中央側へ侵入するのを防ぐと共に、この遮蔽板6とガラス基板2との隙間を通じて研削液がハウジング8の外部へ漏れ出すのを防ぐことができる。
【0047】
また、本実施形態のように、砥石3や研削液供給ノズル5を収容するハウジング8を設けることで、ガラス基板2の挿通側となる開口部8aを除き、砥石3がハウジング8で覆われる。よって、上記遮蔽板6による遮蔽作用や、上記パージノズル7によるパージ作用(排出作用)と相乗的に作用し合って、ガラス基板2の平面中央側への研削液の漏れ出しだけでなく、ハウジング8外への研削液の漏れ出しも可及的に防止される。また、包囲部9によりガラス基板2から遠ざける向きに逃がした研削液を漏れなく回収することができる。これにより、例えば研削工程後の検査工程にて検出が困難な微小なガラスパーティクルや砥粒残渣がガラス板の平面に残存付着している可能性をできる限り零に近づけて、上記ディスプレイ用パネルの高精細化を図ることができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係るガラス板の端面研削装置もしくはその方法は、本発明の範囲内において任意に変更が可能であることはもちろんである。
【0049】
例えば上記実施形態では包囲部9の形状を部分的に略円弧状に湾曲させた形状としたが、特にこれに限ることはない。包囲部9としての機能を有する限りにおいて、その形状は任意である。例えば図示は省略するが、包囲部9は円弧状以外の湾曲形状を有するものでもよく、また、フラットな面を部分的に含むものであってもよい。あるいは、上記長手方向に沿った形状のみならず、これと直交する向き(ガラス基板2の厚み方向)に沿って湾曲する形状をなすものでもよい。
【0050】
また、パージノズル7に形成されるノズル開口部11の配列態様に関し、全てのノズル開口部11がガラス基板2上に配置されている必要はなく、並列された複数のノズル開口部11の一部がガラス基板2の端面2aを境として砥石3の側に配置されていてもよい。また、上記実施形態では、ガラス基板2の両面側に複数のノズル開口部11を1列に配置したが、2列以上の複列とすることも可能である。なお、ノズル開口部11の形状に関しても、丸穴形状に限ることなく、例えばスリット状にしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態ではそれぞれ別体に形成し、配置した遮蔽板6とパージノズル7とを一体化した構成を採ることも可能である。この場合、図示は省略するが、遮蔽板6に設けられたスリット10の砥石3側の角部を面取りし、このスリット長手方向に沿った面取り部に例えば図3に示す複数のノズル開口部11を並列配置した構成が上記一体化(ユニット化)の一例として挙げられる。かかる構成によれば、ハウジング8への取り付け部品を1部品に集約できるため、ハウジング8への取り付け精度が向上する。もちろん、遮蔽板6やパージノズル7をそれぞれハウジング8と一体化することもできる。
【0052】
ここで、図9は、上記ユニット化の他の構成例を示し、具体的には、遮蔽板と研削液供給ノズル、およびパージノズルをユニット化した研削液飛散防止ユニット20の斜視図を示している。また、図10は、上記研削液飛散防止ユニット20を組み込んだ端面研削装置の要部平面図を示している。この研削液飛散防止ユニット20は図2に示す遮蔽板6を一体に有する略箱状に形成されており、その側面に設けられた包囲部9’がスリット10’により上下に分割された形態をなす。そして、上記実施形態と同様、このスリット10’にガラス基板2の一部を挿通し、挿通部分の端面2aを砥石3と接触させた状態では、図10に示すように、包囲部9’の一端が、接触部4を基準として砥石3の回転方向前方側(図10中、接触部4よりも左側領域)でガラス基板2の端面2aと交差して延びるように、研削液飛散防止ユニット20が例えば図1に示す形状のハウジング8に固定されている。また、包囲部9’を挟んで砥石3とは反対の側には複数のノズル開口部11’が配置されており(図10を参照)、研削時、ガラス基板2の平面に向けてパージ水13を噴射できるように研削液飛散防止ユニット20内に配置されている。なお、この図示例では、研削液飛散防止ユニット20の上部に研削液供給ノズル5’が一体に配設されているが、代わりに下部に研削液供給ノズル5’を配設することもでき、あるいは、上部と下部の双方にそれぞれ配設することもできる。
【0053】
このように構成することで、砥石3の交換時には、研削液飛散防止ユニット20を脱着するのみで砥石3の交換が可能となる。加えて、研削液供給ノズル5’や包囲部9’、およびパージノズルのノズル開口部11’相互間の位置関係を改めて調整し直す必要がないので、砥石3の交換に要する時間が短縮される。
【0054】
また、上記実施形態では、ガラス基板2の上下両面側に遮蔽板6やパージノズル7(ノズル開口部11)を配置した場合を例示したが、必ずしも両面側に配置する必要はなく、例えばガラス基板2の上面側にのみ遮蔽板6とパージノズル7の一方または双方を配置してもよい。また、この際、ガラス基板2の一面側にのみ遮蔽板6(包囲部9)とパージノズル7とが配置されるように、両構成要素9,7をユニット化した構成を採ることも可能である。
【0055】
また、以上の説明に係るガラス基板の端面研削装置1は、ガラス基板2の両方の側に配置されているが、素板ガラスから切り出されたガラス基板2の4辺に係る端面全てを研削する場合には、例えば、ガラス基板2の搬送ラインの相対的に上流側となる位置および下流側となる位置に、当該搬送方向に直交する向きにそれぞれ2台の端面研削装置1を対向配置した構成を採ることも可能である。また、ガラス基板2のサイズ変更等に同一の端面研削装置1で対応できるよう、端面研削装置1を搬送方向に直交する向きに移動可能に構成することも可能である。あるいは、砥石3など特定の構成要素のみをハウジング8内で搬送直交方向に相対移動可能に構成することも可能である。
【0056】
なお、搬送手段は、ここでは図示は省略するが、ベルトコンベア等の搬送手段により構成されていてもよい。また、この際、真空吸着等によりガラス基板2を搬送手段を構成する要素(例えばベルト)の所定位置に固定するように構成されていてもよい。もちろん、ガラス基板2と砥石3との間で相対移動がなされる限りにおいて、その構成は任意であり、例えば、ガラス基板2を固定し、砥石3を含むガラス板の端面研削装置1をガラス基板2の配列方向に沿って移動可能に構成することも可能である。
【0057】
以上、本発明を液晶用ディスプレイ用のガラス基板の研削工程に適用する場合を例にとって説明したが、本発明に係るガラス板の研削装置およびその方法は、液晶ディスプレイ用のガラス基板の他に、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等の各種画像表示機器用のガラス基板や、各種電子表示機能素子や薄膜を形成するための基材として用いられるガラス基板のように、高い面精度が要求されるガラス板の端面を研削するに際しても好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス基板の研削装置の平面図である。
【図2】ガラス基板の研削装置を構成する遮蔽板の斜視図である。
【図3】ガラス基板の研削装置を構成するパージノズルの要部斜視図である。
【図4】図1に示すガラス基板の研削装置の要部A−A断面図である。
【図5】パージノズルの鉛直方向での指向態様を説明する研削装置の要部拡大断面図である。
【図6】ガラス基板を平面視した状態におけるパージノズルの指向態様を説明する研削装置の要部拡大平面図である。
【図7】遮蔽板による作用を説明するための研削装置の要部平面図である。
【図8】パージノズルによる作用を説明するための研削装置の要部平面図である。
【図9】遮蔽板と研削液供給ノズル、およびパージノズルとを一体に有する研削液飛散防止ユニットの斜視図である。
【図10】研削液飛散防止ユニットを有する端面研削装置の要部平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 研削装置
2 ガラス基板
3 砥石
4 接触部
5 研削液供給ノズル
6 遮蔽板
7 パージノズル
9 包囲部
10 スリット
11 ノズル開口部
13 パージ水
θ1 入射角
θ2 パージ水の噴射方向と端面の接線方向とがなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させつつガラス板の端面に接触させることで該端面を研削する砥石と、該砥石と前記ガラス板の端面との接触部に研削液を供給する研削液供給部と、前記接触部に供給された研削液から前記ガラス板の平面を遮蔽するための遮蔽板とを備えたガラス板の端面研削装置において、
前記遮蔽板は、前記接触部を前記ガラス板の平面中央側から包囲する包囲部を有し、該包囲部の一端は、前記接触部よりも前記砥石の回転方向前方側で前記ガラス板の端面と交差して延びていることを特徴とするガラス板の端面研削装置。
【請求項2】
前記包囲部は、前記ガラス板の平面に対する平面視で、前記砥石の外周面に沿った湾曲形状を有している請求項1に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項3】
前記包囲部は、前記ガラス板の両面側に位置している請求項1又は2に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項4】
前記包囲部は、前記ガラス板の前記端面を含む一部を挿通するためのスリットを有している請求項3に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項5】
前記包囲部を挟んで前記砥石と反対側の位置に、パージ流体を噴射するパージノズルが配設され、前記パージ流体が前記遮蔽板と前記ガラス板との間の間隙に供給されるように構成されている請求項1から4の何れか1項に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項6】
前記パージノズルは、前記パージ流体が前記包囲部と前記ガラス板との間の間隙を通って前記ガラス板に達するように、その設置角度が設定されている請求項5に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項7】
前記パージノズルが、前記ガラス板の両面側にそれぞれ配置されている請求項5に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項8】
少なくとも前記砥石と前記研削液供給部とを収容するハウジングをさらに備え、該ハウジングは、所定の端面に、前記ガラス板の一部を挿通し、該ガラス板の前記端面を前記砥石に接触可能とするための開口部を有している請求項1から7の何れか1項に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項9】
前記ガラス板を水平姿勢にして加工するように構成されている請求項1から8の何れか1項に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項10】
前記包囲部を有する遮蔽板と前記パージノズルとがユニット化されている請求項5に記載のガラス板の端面研削装置。
【請求項11】
砥石を回転させながらガラス板の端面に接触させることで該端面の研削を行う方法であって、前記砥石と前記ガラス板の前記端面との接触部に研削液を供給すると共に、前記接触部に供給された前記研削液から前記ガラス板の平面を遮蔽するための遮蔽板を配設した状態で前記端面の研削を行うガラス板の端面研削方法において、
前記遮蔽板は、前記接触部を前記ガラス板の平面中央側から包囲する包囲部を有し、該包囲部の一端は、前記接触部よりも前記砥石の回転方向前方側で前記端面と交差して延びていることを特徴とするガラス板の端面研削方法。
【請求項12】
前記包囲部を挟んで前記砥石と反対側の位置に、パージ流体を噴射するパージノズルが配設され、前記パージ流体が前記遮蔽板と前記ガラス板との間の間隙に供給されるように構成されている請求項11に記載のガラス板の端面研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−172749(P2009−172749A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160801(P2008−160801)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】