説明

ガラス板の製造方法およびガラス板製造装置

【課題】精度の高いガラス板の位置決めを保持することができるガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置およびガラス板の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス板の位置決め装置は、固定部と、ガラス板を基準位置に配置するために、ガラス板を前記固定部に向かって押し、ガラス板を前記固定部に当接させる押圧部材と、を有する。前記固定部は、ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材との組を、少なくとも3組有する。前記3組の前記円筒形状部材はいずれも、前記円筒形状部材にガラス板の破断端面と当接することにより生じる摩耗の長さに対応して設定されている目盛りを有する。前記摩耗が生じることによってガラス板の配置に位置ずれが生じたとき、前記目盛りに従って、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置は、前記円筒形状部材の円周上でシフトされる。この装置が、ガラス板の製造方法に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボン状ガラスから矩形形状に切断されたシート状のガラス板の破断端面を砥石によって加工する際、ガラス板を基準位置に固定する工程を含むガラス板の製造方法、および、リボン状ガラスから矩形形状に切断されたガラス板を、基台上の予め定めた基準位置に位置決めして固定するガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display:FPD)やタッチパネルディスプレイ等の基板にガラス板が用いられる。また、ガラス板は、電子機器等の表示画面にカバーガラスとして用いられる。
このようなガラス板の製造工程においてガラスの素板が切断されて所定のサイズのガラス板が作製されるとき、破断端面に鋭利な凹凸や無数の微小クラックが存在する。このため、破断端面を滑らかで微小クラックのない端面に加工するために、端面の研削、研磨が行われる。これにより、微小クラックや凹凸がなくなるので、FPDや電子機器等に望まれる強度を確保することができる。
【0003】
一般に、ガラス板の端面の研削は、ガラス板を端面研削装置の基台上の所定の基準位置に位置決めして固定し、ガラス板の両側から、ダイヤモンドホイールを用いて、例えば厚さ150μm程度研削する。ガラス板は端面研削装置の基台上に位置決めされて固定されるとき、基準位置に対して、例えば研削量の約3分の1より大きい位置ずれが生じないように、位置決め精度が要求されている。このようにガラス板の位置決め精度を確保するのは、研削後のガラス板にヤケ、すり残し、あるいは欠けが発生することを防止するためである。例えば、ガラス板が、固定されるべき基準位置に対して、研削しようとする一方の端面の側に位置ずれして固定された場合、この一方の端面におけるダイヤモンドホイールの切り込み量は大きくなって、ヤケあるいは欠け等が発生する場合がある。
このため、ガラス板を基台上の基準位置に精度高く位置決めして固定することは重要である。
【0004】
このような状況下、ガラス基板の位置決め精度の向上を図ったガラス基板の位置決め装置が知られている(特許文献1)。
当該ガラス基板の位置決め装置は、具体的には、ガラス基板の一辺に当接可能な受止部材と、この一辺と平行な他辺に当接可能とされ、且つガラス基板を受止部材の側に押動させる押付部材とを備える。当該ガラス基板の位置決め装置は、受止部材と押付部材との相互作用によりガラス基板の位置決めを行うと共に、受止部材を、ガラス基板の押動に追従して移動可能とした上で、ガラス基板の一辺を受止部材に当接させた状態での押付部材による押動時におけるガラス基板の他辺の変位量を基準として、ガラス基板の位置決めを行う。その際、変位量は、押付部材毎に設けた変位センサを用いて測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−231462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当該ガラス基板の位置決め装置は、押付部材がガラス基板を受止部材の側に押動させることにより、ガラス基板の相互に平行な二辺のうちの一辺が受止部材に当接した場合には、その当接を維持した状態で、受止部材がガラス基板の押動に追従して移動する。したがって、ガラス基板が受止部材に当接する際の衝撃が緩和され、受止部材の当接部に傷或いは摩耗等が発生し難くなるため、受止部材の早期摩耗等に起因するガラス基板の位置決め精度の悪化が可及的に抑制される、とされている。
しかも、当該ガラス基板の位置決め装置では、ガラス基板の受止部材への当接を維持した状態で押付部材がガラス基板を押動している場合におけるガラス基板の他辺の変位量を基準として、位置決めが行われることから、換言すればガラス基板の他辺の位置そのものを基準として該ガラス基板の位置決めが行われることから、高精度な位置決めが実現する、とされている。
【0007】
しかし、当該ガラス基板の位置決め装置は、変位センサで測定された変位量を基準にして、ガラス基板の位置決めを行うので、当該ガラス基板の位置決め装置の構成は複雑であった。
【0008】
そこで、本発明は、従来のガラス基板の位置決め装置とは別の方式を用いて、精度の高いガラス板の位置決めを保持することができるガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置およびガラス板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、シート状のガラス板の製造方法である。
当該製造方法は、
リボン状ガラスから矩形形状に切断されたシート状のガラス板を押圧部材が固定部に向かって押してガラス板を前記固定部に当接させることより、ガラス板を基準位置に配置し固定する工程と、
前記基準位置に固定された前記ガラス板の破断端面を砥石によって加工する工程と、を有する。
前記固定部は、ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材とを一組として、少なくとも3組有する。
前記ガラス板の破断端面により前記円筒形状部材の表面に部分的な摩耗が生じることによって、前記基準位置へのガラス板の配置に位置ずれが生じるとき、
前記円筒形状部材における円周方向の前記摩耗の長さに対応して設定されている目盛りに従って、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置を、前記円筒形状部材の円周に沿ってシフトし固定することで、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置を前記基準位置に修正する。
【0010】
本発明の他の態様は、矩形形状に切断されたガラス板を、基台上の予め定めた基準位置に位置決めして固定するガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置である。
当該ガラス板製造装置は、
前記位置決め装置に設けられた固定部と、ガラス板を基準位置に配置するために、ガラス板を前記固定部に向かって押し、ガラス板を前記固定部に当接させる押圧部材と、を有する。
前記固定部は、ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材との組を、少なくとも3組有し、
前記3組の前記円筒形状部材はいずれも、前記円筒形状部材にガラス板の破断端面と当接することにより生じる円周方向の摩耗の長さに対応して設定されている目盛りを有する。
前記摩耗が生じることによって、前記基準位置へのガラス板の配置に位置ずれが生じるとき、
前記目盛りに従って、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置は、前記円筒形状部材の円周上に沿ってシフトされて、前記中心軸部材に対して固定されることで前記基準位置に修正される。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、リボン状ガラスから矩形形状に切断されたガラス板を、基台上の予め定めた基準位置に位置決めして固定するガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置である。
当該位置決め装置は、
ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材とを一組として、少なくとも3組有する固定部と、
ガラス板を基準位置に配置するために、ガラス板を前記固定部に向かって押してガラス板を前記固定部に当接させる押圧部材と、を有する。
前記3組の固定部のうち少なくとも1組の円筒形状部材は、中心軸部材と嵌合することにより前記中心軸部材の円周方向にシフト自在に固定される部材であり、前記少なくとも1組の中心軸部材の外周面には円周上に凹部または凸部が設けられ、前記円筒形状部材の内周面には、前記凹部または前記凸部と嵌合するように、円周上に周期的な凹凸形状が設けられる。前記中心軸部材の前記凹部または前記凸部と、前記円筒形状部材の前記凹凸形状の凸部または凹部との嵌合位置を変更することにより、前記円筒形状部材のガラス面に対する当接位置が円周上でシフトされる。
【発明の効果】
【0012】
上述のガラス板製造装置およびガラス板の製造方法によれば、精度の高いガラス板の位置決めを保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のガラス板の位置決め装置を含むガラス板の研削装置の構成図である。
【図2】図1に示す位置決め装置において、予め定められた基準位置にガラス板を配置する様子を説明する図である。
【図3】図1に示す第1の基準当接部材の移動を具体的に示す図である。
【図4】(a)は、図1に示す第1の基準当接部材と、第1の基準当接部材を固定する中心軸部材を示す図であり、(b)は、第1の基準当接部材の外観斜視図であり、(c)は、第1の基準当接部材の側面図である。
【図5】図1に示す第1の基準当接部材に設けられる目盛りを示す図である。
【図6】図1に示す第1の基準当接部材の線状の摩耗を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラス板製造装置およびガラス板の製造方法について本実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態のガラス板の位置決め装置(以降、位置決め装置という)を含むガラス板の研削装置(ガラス板製造装置)10の構成図である。位置決め装置は、研削装置10に組み込まれている。
研削装置10は、第1研削装置12と、ガラス板反転装置13と、第2研削装置14と、を備える。
【0015】
第1研削装置12において、矩形形状に切断されて搬送されたガラス板Gは、基台上の所定の基準位置に位置決めされて基台に固定される。この状態で、図1中の横方向を長辺とする矩形形状のガラス板Gの長辺の端面に沿って両側の端面が、図示されないダイヤモンドホイール等を用いて研削され、さらに、ガラス板Gの対向するコーナがダイヤモンドホイール等を用いて研削される。研削の際、ガラス板Gの両側の端面および対向するコーナはそれぞれ、2つのダイヤモンドホイール等によって逆方向に研削される。
次に、ガラス板Gは、基台への固定が解除されてガラス板反転装置13に搬送される。ガラス板反転装置13では、ガラス板Gが図1に示すようにC方向に90度回転される。この状態で、ガラス板Gは、第2研削装置14に搬送される。
第2研削装置14では、搬送されたガラス板Gは、基台上の所定の基準位置に位置決めされて基台に固定された状態で、図1中の横方向を短辺とするガラス板Gの短辺の端面に沿って両側の端面が、図示されないダイヤモンドホイール等を用いて研削され、さらに、ガラス板Gの対向するコーナがダイヤモンドホイール等を用いて研削される。
この後、ガラス板Gは、図示されない研磨装置に搬送される。
本実施形態では、研削装置において、以降で説明する位置決め装置16,18が用いられて、研削のためにガラスGが基準位置に配置され基台に固定される。後工程である研磨装置においても、同様の位置決め装置を用いて位置決めされたガラス板Gを研磨することができる。なお、研削装置12,14がダイヤモンドホイール等の研削部材の他にさらに研磨部材を備え、研削と研磨とを同時に行うようにしてもよい。また、研削と研磨とを同時に行うと、研削および研磨の処理時間を短縮することができ、生産性が向上するため好ましい。
【0016】
第1研削装置12および第2研削装置14のそれぞれには、位置決め装置16および位置決め装置18が設けられている。
位置決め装置16は、図1に示すように、一対の円筒形状部材である第1の基準当接部材16aと、円筒形状部材である第2の基準当接部材16bと、一対の第1の押圧部材16cと、第2の押圧部材16dと、を有する。
第1の基準当接部材16aは、ガラス板Gの第1の辺(図1中の横方向のガラス板Gの長辺)を当接させることにより、この第1の辺の向きを第1の基準方向(図1中の横方向)に向かせる。
第2の基準当接部材16bは、ガラス板Gの第1の辺と直交する第2の辺(図1中の縦方向のガラス板Gの短辺)に当接させることにより、この第2の辺の向きを第2の基準方向(図1中の縦方向)に向かせる。
第1の基準方向および第2の基準方向のそれぞれは、第1研削装置12において予め定められた方向であり、ダイヤモンドホイールが研削する際に移動する移動方向およびこの移動方向に直交する方向である。
【0017】
第1の押圧部材16cは、ガラス板Gの第1の辺と対向する第1の対向辺を第1の辺に向かってガラス板Gを押圧する(図1中の方向Aに向かって押す)ことにより、第1の辺を第1の基準当接部材16aに当接させる。
第2の押圧部材16dは、ガラス板Gの第2の辺と対向する第2の対向辺を第2の辺に向かってガラス板Gを押圧する(図1中の方向Bに向かって押す)ことにより、第2の辺を第2の基準当接部材16bに当接させる。
第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bに当接したガラス板Gは位置が定まる。これによって、ガラス板Gは、基準位置に配置される。
このようにガラス板Gが第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bに当接するとき、ガラス板Gは、後述するように、基台の載置面から浮上した状態で当接される。この後、ガラス板Gを基台に下降させるとき、ガラス板Gの位置がずれないように第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bは、第1の押圧部材16cおよび第2の押圧部材16dとともにガラス板Gの位置規制をしながら下降する。これにより、ガラス板Gは基台に固定される。
このように、一対の第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bは、第1の押圧部材16cおよび第2の押圧部材16dによって当接したガラス板Gを基準位置に配置し基台に固定するように機能する固定部である。
【0018】
位置決め装置18は、一対の第1の基準当接部材18aと、第2の基準当接部材18bと、一対の第1の押圧部材18cと、第2の押圧部材18dとを有する。第1の押圧部材18cおよび第2の押圧部材18dは、第1の基準当接部材18aおよび第2の基準当接部材18bに向かって(図1中方向Dおよび方向Eに向かって)押すことにより、第1の基準当接部材18aおよび第2の基準当接部材18bに当接させる。位置決め装置18の構成および作用は、位置決め装置16に対して、ガラス板Gの押す方向が異なるのみであり、それ以外は同様であるので、以降の説明では、位置決め装置16における第1の基準当接部材16aと、第2の基準当接部材16bと、第1の押圧部材16cと、第2の押圧部材16dと、を用いて説明する。
【0019】
図2は、位置決め装置16において、予め定められた基準位置にガラス板Gを配置する様子を説明する図である。
図2では、中心軸部材16eに固定された第1の基準当接部材16aと、中心軸部材16fに固定された第1の押圧部材16cとが示されている。
図2に示すガラス板Gは、エアー噴射/吸引装置12aからエアーを噴射して、ガラス板Gを基台12bから浮上している。基台12bからのガラス板Gの浮上距離は、例えば、2mmである。このようなガラス板Gの状態で、ガラス板Gは搬送されてくる。ガラス板Gが浮上した状態で、第1の押圧部材16cは、第1の基準当接部材16aに向かってガラス板Gを押し、ガラス板Gを第1の基準当接部材16aに当接させる。また、同様に、第1の押圧部材16dは、第1の基準当接部材16bに向かってガラス板Gを押し、ガラス板Gを第2の基準当接部材16bに当接させる。これにより、ガラス板Gは、所定の基準位置に配置される。この状態で、エアー噴射/吸引装置12aは、エアーの噴射を停止して、ガラス板Gを基台12bに下降させて基台12bに載置させる。その際、第1の基準当接部材16a、第2の基準当接部材16b、第1の押圧部材16c、および第2の押圧部材16dも、ガラス板Gの下降に対応して下降する。このように、第1の基準当接部材16a、第2の基準当接部材16b、第1の押圧部材16c、および第2の押圧部材16dもガラス板Gと共に下降してガラス板Gをガイドするのは、ガラス板Gの位置を常に基準位置に規制するためである。
さらに、エアー噴射/吸引装置12aはエアーの吸引を開始して、ガラス板Gを基台12bに固定させる。
【0020】
図3は、第1の基準当接部材16aの移動を具体的に示す図である。
図3中に示す第1の基準当接部材16aの実線の位置は、第1の基準当接部材16aが、浮上状態のガラス板Gと当接してガラス板Gが基準位置に配置されるときの位置である。この位置から、第1の基準当接部材16aは、点線のようにガラス板Gの下降に伴って下降し、さらに、ガラスGの研削時、さらに下降して、研削に用いるダイヤモンドホイールと干渉しないように退避する。この後、第1の基準当接部材16aは、ガラス板Gの外側(図3中の左側)に移動する。この後、別のガラス板Gを基準位置に配置するために、第1の基準当接部材16aは上昇する。このように、第1の基準当接部材16aは、図3に示す点線、実線で示す移動のサイクルを繰り返す。このような移動は、第2の基準当接部材16bも同様に行う。第1の押圧部材16cおよび第2の押圧部材16dについても同様に行うが、上記移動に加えて、第1の押圧部材16cおよび第2の押圧部材16dは、ガラス板Gを押すための動きが加わる。
【0021】
このようなガラス板Gは、スクライブ割断などにより矩形形状にガラス板が切断されたときの破断端面は鋭利な凹凸と微小クラックを有する。このため、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bがガラス板Gの破断端面の当接を繰り返し受けるとき、第1の基準当接部材16a、第2の基準当接部材16bの円周上の表面はガラス板Gの破断端面に対応して線状の摩耗が発生する。また、ガラス板Gが基台12bに下降するとき、ガラス板Gの下降速度と、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bの移動速度とのわずかな差異によって摺動が生じ、面状の摩耗が発生する。
このような摩耗が発生すると、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bは精度の高い位置決めを行うことができない。
本実施形態では、このような摩耗の発生するとき、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bが、ガラス板Gと当接する位置を変更するように、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bが円周方向に所定角度だけシフトするように構成されている。以下、この点を説明する。
なお、ガラス板の位置決めを例えば5000回行うことによって、摩耗により位置決めの精度が低下する、すなわち、ガラス板Gの配置の基準位置に対する位置ずれが許容範囲を超える場合、ガラス板Gの位置決めを5000回行う毎に、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bのガラス板との当接位置を変更するとよい。あるいは、ガラス板Gの位置を測定する位置センサを用いてガラス板Gの配置される位置の測定結果に応じて、第1の基準当接部材16aおよび第2の基準当接部材16bの当接位置を変更することもできる。
【0022】
図4(a)は、円筒形状部材である第1の基準当接部材16aと、第1の基準当接部材16aを固定する中心軸部材16eを示す図である。図4(b)は、第1の基準当接部材16aの外観斜視図であり、図4(c)は、第1の基準当接部材16aの側面図である。第1の基準当接部材16aの他に、第2の基準当接部材16bについても、図4(a)〜(c)に示す構成とすることができる。本発明では、一対の第1の基準当接部材16a、第2の基準当接部材16bのうち少なくとも1つの部材が、図4(a)〜(c)に示す構成であればよい。
【0023】
第1の基準当接部材16aは、図4(b)に示すように、中心軸部材16eと嵌合することにより中心軸部材16eの円周方向にシフト自在に固定される部材である。中心軸部材16eの外周面には図4(a)に示すように、中心軸部材16eの太い円柱部分の円周上に凸部20が複数設けられる。図4(a)の例では、上段及び下段の太い円柱部分の両方に凸部20が設けられるが、少なくとも一方の段に凸部20が設けられてもよい。一方、円筒形状部材である第1の基準当接部材16aの内周面には、凸部20と嵌合するように、内周面の円周上に周期的な凹凸形状22が設けられている。中心軸部材16eの凸部20と、第1の基準当接部材16aの凹凸形状22の凹部との嵌合位置を変更することにより、第1の基準当接部材16aのガラス板Gに対する当接位置を円周上でシフトすることができる。本実施形態では、第1の基準当接部材16aの凹部と中心軸部材16eの凸部20とが嵌合するが、中心軸部材16eの凸部20の代わりに設けられた凹部と第1の基準当接部材16aの凹凸形状22の凸部とが嵌合するように構成することもできる。
【0024】
このように、中心軸部材16eの凸部20に嵌合するように第1の基準当接部材16aに周期的な凹凸形状22を設けるのは、第1の基準当接部材16aがガラス板Gと当接し、さらに摺動することによって生じる摩耗によってガラス板Gの基準位置への配置の精度が低下することを防止するためである。したがって、第1の基準当接部材16aに設けられる周期的な凹凸形状22の周期は、第1の基準当接部材16aの摩耗の長さに応じて設定される。つまり、第1の基準当接部材16aの円周上の一部がガラス板Gによって摩耗したとき、凸部20と嵌合する凹凸形状22の位置を、現在嵌合している凹部の位置(現在の嵌合位置)から、この凹部に隣接する凹部にずらすことにより、ガラス板Gによって摩耗していない第1の基準当接部材16aの部分をガラス板Gと接触する新しい当接位置にすることができる。すなわち、摩耗によって基準位置からずれたガラス板Gとの当接位置を、基準位置に修正することができる。
このような凹凸形状22の一周期は、円筒形状部材である第1の基準当接部材16aの円周の長さの20分の1以上14分の1以下の長さであることが好ましい。
このような周期は、例えば、ガラス板Gによって生じる摩耗の長さを予め測定して定めることができる。また、上記周期は、ガラス板Gによって生じる磨耗の深さの許容範囲から定めることもできる。つまり、精度の高い位置決めを行うために許容される磨耗の深さの最大値から磨耗長さを算出し、最適な周期を定めることができる。例えば、ガラス板Gを5000枚位置決めした後の摩耗量a(摩耗により削られた深さ)が測定され、この摩耗量aと円筒形状部材の半径bとを用いて、摩耗長さを(2×(b2−(b−a)2(1/2))として算出することができる。この場合、摩耗量aは、許容される摩耗深さの最大値である。
【0025】
図5に示すように、円筒形状部材である第1の基準当接部材16aの一方の端面、例えば、下方に向く下端面には、凹凸形状22の周期に対応して、凹凸形状22の凹部または凸部の位置に、この凹部または凸部を識別する目盛り24が表示されていることが好ましい。図5に示す例では、目盛り24として、アルファベット文字A〜Oが記載されている。目盛り24は、アルファベット文字の他に数字や符号が用いられてもよい。少なくとも現在の嵌合位置を目盛り24によって識別できれば、どのような記号、符号、あるいはこれらの組み合わせであってもよい。
目盛り24によって、現在、第1の基準当接部材18aと中心軸部材18eとが嵌合する嵌合位置を特定することができるので、すでに摩耗した部分を誤って新たなガラス板Gの当接位置にすることを防止できる。
本実施形態では、図6に示すように、第1の基準当接部材18aの円周面上で、ガラス板Gによって形成された線状の摩耗が重ならない。勿論、面状に生じる摩耗も重ならない。
【0026】
このような位置決め装置16を用いてガラス板Gを基準位置に配置して固定するとき、ガラス板Gの鋭利な破断端面により円筒形状部材である第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの表面に部分的な摩耗が生じることによって、基準位置へのガラス板Gの配置に位置ずれが生じる。このとき、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの摩耗の長さに対応して設定されている目盛り24に従って、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの当接位置が、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの円周上でシフトされ固定される。第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bを円周上でシフトし固定する方法は、専用の装置によって行うことができ、あるいは、作業者のマニュアルによって行うこともできる。例えば、研削装置10あるいは別途設けられたコンピュータの制御部が、位置センサなどの測定結果からガラス板Gの配置が所定値以上に位置ずれしたことを検出した際に、研削装置10のモータ等を駆動させ、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bを円周上でシフトし固定することで、ガラス板Gと当接する第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの当接位置を作業者の手を煩わせることなく基準位置に修正することができ、生産性を向上させることができる。なお、ガラス板Gと当接する第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bのシフトや固定の動作をコンピュータの制御部が行うことで、同じ位置の重複使用などを確実に防止することができ、ガラス板Gの高い位置決め精度を保持することができる。
【0027】
以上のように、ガラス板Gの破断端面により円筒形状部材である第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの表面に部分的な摩耗が生じることによって、基準位置へのガラス板の配置に位置ずれが生じる。このとき、本実施形態では、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの摩耗の長さに対応して設定されている目盛り24に従って、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bがガラス板Gと当接する当接位置を、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの円周上でシフトし固定する。このため、精度の高いガラス板Gの位置決めを保持することができる。
【0028】
また、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bは、中心軸部材と嵌合することにより中心軸部材の円周方向にシフト自在に固定される部材である。中心軸部材の外周面には円周上に凸部20が設けられ、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの内周面には、凸部20と嵌合するように、円周上に周期的な凹凸形状22が設けられる。第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bの表面に部分的な摩耗が生じるとき、中心軸部材の凸部20と、凹凸形状22の凸部または凹部との嵌合位置を変更することにより、第1の基準当接部材16aあるいは第2の基準当接部材16bのガラス面に対する当接位置が円周上でシフトされる。このため、精度の高いガラス板Gの位置決めを保持することができる。このように精度の高い位置決めが行われることにより、ガラス板の端面の研削量が略一定となるので、ヤケ、すり残し、あるいは欠けがガラス端面に発生することを防止することができ、ガラス板の割れという不都合を防止することができる。
【0029】
本実施形態の位置決め装置16では、矩形形状のガラス板Gの長辺に対して2つの第1の基準当接部材16aが設けられ、ガラス板Gの短辺に対して1つの第2の基準当接部材16bが設けられ、中心軸部材とあわせて合計3組が設けられるが、位置決め装置16では、基準当接部材と中心軸部材の組が少なくとも3組以上設けられ得る。
また、ガラス板Gの搬送および位置決めは、基台から浮上した状態で行われるが、ガラス板Gが浮上しない状態で位置決めあるいは搬送が行われてもよい。しかし、ガラス板Gに傷等が付かない点で、ガラス板Gを浮上させた状態で、位置決めおよび搬送が行われることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、研削装置10が第1研削装置12と、ガラス板反転装置13と、第2研削装置14と、を備える例を挙げたが、少なくとも第1研削装置12を備え、当該第1研削装置12が第2研削装置14の機能を備え、ガラス板の全辺を研削・研磨するようにすることもできる。これにより、研削装置を構成する部材を減少させることができるため、装置規模の縮小およびコストの低減をすることができる。
【0031】
また、本実施形態のガラス板の製造方法およびガラス板製造装置は、液晶ディスプレイ等のFPDやタッチパネルディスプレイ等の基板の製造に特に好適である。これは、液晶ディスプレイ等のFPDは近年大型化および薄板化の傾向にあるため、ガラス板の撓みにより端面加工処理の誤差が大きくなることに起因する。つまり、液晶ディスプレイ等のFPDやタッチパネルディスプレイ等のガラス基板には、より高い位置決め精度が求められるため、本実施形態のガラス板の製造方法およびガラス板製造装置が好適となる。本実施形態のガラス板の製造方法およびガラス板製造装置を適用することで、基準位置に対して、研削量の約10分の1より大きい位置ずれ、例えば15μmより大きい位置ずれが生じないように位置決めを行うことが可能となる。
なお、本実施形態のガラス板の製造方法およびガラス板製造装置は、電子機器等の表示画面のカバーガラスなどの他のガラス板の製造にも適用することが可能である。
また、本実施形態の位置決め方法および位置決め装置は、研削工程前の位置決めだけでなく、切断処理前の位置決めや他の処理前の位置決めにも適用することができる。
【0032】
本実施形態では、ガラス板Gの搬送方法としてエアー噴射/吸引装置12aを用いる例を挙げて説明したがこれに限定されず、どのような搬送方法であっても適用することができる。なお、エアー噴射/吸引装置12aは、他のベルトを用いた搬送方法などに比べてガラス板Gの表面への傷の発生を防止することができるため好ましい。しかし、エアー噴射/吸引装置12aでは、基準当接部材や押圧部材も、ガラス板Gの下降に対応して下降するため、他の搬送方法に比べて基準当接部材の磨耗が生じやすい。つまり、エアー噴射/吸引装置12aを用いる場合には、本実施形態の位置決め装置が特に好適となる。
【0033】
以上、本発明のガラス板の製造方法およびガラス板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0034】
10 研削装置
12 第1研削装置
12a エアー噴射/吸引装置
12b 基台
13 ガラス板反転装置
14 第2研削装置
16,18 位置決め装置
16a,18a 第1の基準当接部材
16b,18b 第2の基準当接部材
16c,18c 第1の押圧部材
16d,18d 第2の押圧部材
16e,16f 中心軸部材
20 凸部
22 凹凸形状
24 目盛り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のガラス板の製造方法であって、
リボン状ガラスから矩形形状に切断されたシート状のガラス板を押圧部材が固定部に向かって押してガラス板を前記固定部に当接させることより、ガラス板を基準位置に配置し固定する工程と、
前記基準位置に固定された前記ガラス板の破断端面を砥石によって加工する工程と、を有し、
前記固定部は、ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材とを一組として、少なくとも3組有し、
前記ガラス板の破断端面により前記円筒形状部材の表面に部分的な摩耗が生じることによって、前記基準位置へのガラス板の配置に位置ずれが生じるとき、
前記円筒形状部材における円周方向の前記摩耗の長さに対応して設定されている目盛りに従って、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置を、前記円筒形状部材の円周に沿ってシフトし固定することで、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置を前記基準位置に修正する、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記円筒形状部材のシフトは、ガラス板の配置に位置ずれが生じたと判断された場合に、前記固定部に設けられた円筒形状部材の駆動手段により行われる、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
リボン状ガラスから矩形形状に切断されたシート状のガラス板の破断端面を砥石によって加工する際、ガラス板を基準位置に固定するガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置であって、
前記位置決め装置は、
前記位置決め装置に設けられた固定部と、ガラス板を基準位置に配置するために、ガラス板を前記固定部に向かって押し、ガラス板を前記固定部に当接させる押圧部材と、を有し、
前記固定部は、ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材との組を、少なくとも3組有し、
前記3組の前記円筒形状部材はいずれも、前記円筒形状部材にガラス板の破断端面と当接することにより生じる円周方向の摩耗の長さに対応して設定されている目盛りを有し、
前記摩耗が生じることによって、前記基準位置へのガラス板の配置に位置ずれが生じるとき、
前記目盛りに従って、ガラス板と当接する前記円筒形状部材の当接位置は、前記円筒形状部材の円周上に沿ってシフトされて、前記中心軸部材に対して固定されることで前記基準位置に修正される、ことを特徴とするガラス板製造装置。
【請求項4】
リボン状ガラスから矩形形状に切断されたガラス板を、基台上の予め定めた基準位置に位置決めして固定するガラス板の位置決め装置を備えるガラス板製造装置であって、
前記位置決め装置は、
ガラス板と当接する円筒形状部材と、前記円筒形状部材を固定する中心軸部材とを一組として、少なくとも3組有する固定部と、
ガラス板を基準位置に配置するために、ガラス板を前記固定部に向かって押してガラス板を前記固定部に当接させる押圧部材と、を有し、
前記3組の固定部のうち少なくとも1組の円筒形状部材は、中心軸部材と嵌合することにより前記中心軸部材の円周方向にシフト自在に固定される部材であり、前記少なくとも1組の中心軸部材の外周面には円周上に凹部または凸部が設けられ、前記円筒形状部材の内周面には、前記凹部または前記凸部と嵌合するように、円周上に周期的な凹凸形状が設けられ、前記中心軸部材の前記凹部または前記凸部と、前記円筒形状部材の前記凹凸形状の凸部または凹部との嵌合位置を変更することにより、前記円筒形状部材のガラス面に対する当接位置が円周上でシフトされる、ことを特徴とするガラス板製造装置。
【請求項5】
前記凹凸形状の周期は、ガラス板の破断端面により前記円筒形状部材の表面に部分的な摩耗が生じるときの前記摩耗の長さに対応して設定されている、請求項4に記載のガラス板製造装置。
【請求項6】
ガラス板を前記基台に対して浮上あるいは吸着する浮上/吸着装置が設けられ、
前記円筒形状部材および前記押圧部材は、前記浮上/吸着装置により浮上したガラス板を位置決めし、前記浮上/吸着装置によってガラス板の浮上が停止したとき、前記前記円筒形状部材および前記押圧部材は、ガラス板を位置決めした状態でガラス板とともに前記基台に向かって下降する、請求項4または5に記載のガラス板製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−76950(P2012−76950A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221834(P2010−221834)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(508271425)安瀚視特股▲ふん▼有限公司 (10)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】