ガラス溶着方法及びガラス層定着方法
【課題】 気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法を提供する。
【解決手段】 仮焼成用のレーザ光L1の照射によって、ガラス層3のうちの一部31を除き、その一部31で開いた矩形環状に延在する主部32を溶融させ、ガラス部材4に定着させる。これにより、ガラス部材4に定着したガラス層3の主部32の一端32aと他端32bとの間に、ガラスフリット2が溶融していないガラス層3の一部31が存在することになる。この状態で、ガラス部材4にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせ、ガラス層3の一部31及び主部32に本焼成用のレーザ光L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着すると、ガラス層3でのリークの発生を防止して、気密な溶着を必要とするガラス溶着体1を製造することが可能となる。
【解決手段】 仮焼成用のレーザ光L1の照射によって、ガラス層3のうちの一部31を除き、その一部31で開いた矩形環状に延在する主部32を溶融させ、ガラス部材4に定着させる。これにより、ガラス部材4に定着したガラス層3の主部32の一端32aと他端32bとの間に、ガラスフリット2が溶融していないガラス層3の一部31が存在することになる。この状態で、ガラス部材4にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせ、ガラス層3の一部31及び主部32に本焼成用のレーザ光L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着すると、ガラス層3でのリークの発生を防止して、気密な溶着を必要とするガラス溶着体1を製造することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材同士を溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野における従来のガラス溶着方法として、有機物(有機溶剤やバインダ)、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を、溶着予定領域に沿うように一方のガラス部材に定着させた後、そのガラス部材にガラス層を介して他方のガラス部材を重ね合わせ、溶着予定領域に沿ってレーザ光を照射することにより、一方及び他方のガラス部材同士を溶着する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ガラス部材にガラス層を定着させるために、炉内での加熱に代えて、レーザ光の照射によってガラス層から有機物を除去する技術が提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。このような技術によれば、ガラス部材に形成された機能層等が加熱されて劣化するのを防止することができ、また、炉の使用による消費エネルギの増大及び炉内での加熱時間の長時間化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−527655号公報
【特許文献2】特開2002−366050号公報
【特許文献3】特開2002−367514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光の照射によってガラス部材にガラス層を定着させ(いわゆる仮焼成)、その後、レーザ光の照射によってガラス層を介してガラス部材同士を溶着すると(いわゆる本焼成)、ガラス層でリークが起こり、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を得ることができない場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ガラス溶着体においてガラス層でリークが起こるのは、閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように配置されたガラス層が、レーザ光の照射によってガラス部材に定着させられるときに、切断される場合があることに起因していることを突き止めた。つまり、ガラス粉を溶融させてガラス部材にガラス層を定着させるために、図8に示されるように、ガラス層3の所定の位置Pを始点及び終点として、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光を照射すると、場合によっては、所定の位置Pの近傍でガラス層3が切断されるのである。これは、レーザ光の照射領域が所定の位置Pに戻って来たときに、既に固化しているガラス層3の溶融始端部3aに、ガラス粉の溶融によって収縮するガラス層3の溶融終端部3bが接続し難いからと想定される。
【0008】
そして、図9,10に示されるように、ガラス層3の溶融終端部3bが盛り上がるため、ガラス部材4の溶着対象であるガラス部材5を、ガラス層3を介して重ね合わせても、溶融終端部3bが邪魔となって、ガラス層3にガラス部材5を均一に接触させることができない。この状態で、レーザ光の照射によってガラス部材4とガラス部材5とを溶着しようとしても、均一且つ気密な溶着を実現することは極めて困難である。なお、図8〜10の状態でのガラス層3に関する寸法を例示すると、ガラス層3の幅は1.0mm程度、ガラス層3の厚さは10μm程度、溶融終端部3bの高さは20μm程度、ガラス層3の切れ幅(すなわち、溶融始端部3aと溶融終端部3bとの間隔)は40μm程度である。
【0009】
図11は、ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の平面写真を示す図である。同図に示されるように、ガラス層3は、溶融始端部3aと溶融終端部3bとの間で切断される。なお、溶融始端部3aの幅が中央部から徐々に広がっているのは、次の理由による。
【0010】
すなわち、ガラス部材に配置されたガラス層においては、ガラス粉の粒子性等によって、レーザ光吸収材の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光下において白っぽく見える)。このような状態でガラス部材にガラス層を焼き付けるためにレーザ光を照射すると、ガラス粉の溶融によって粒子性が崩れるなどして、レーザ光吸収材の吸収特性が顕著に現れ、ガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなる(例えば、可視光下において黒っぽく或いは緑っぽく見える)。つまり、図12に示されるように、ガラス層の定着時にガラス層の温度が融点Tmを超えるとガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなるのである。
【0011】
このとき、図13に示されるように、レーザ光は、幅方向(レーザ光の進行方向と略直交する方向)における中央部の温度が高くなる温度分布を有しているのが一般的である。そのため、照射開始位置から幅方向全体にわたってガラス層が溶融する安定領域となるように、レーザ光を照射開始位置に暫く停滞させてから進行させると、幅方向における中央部で最初に始まる溶融により中央部のレーザ光吸収率が上昇し、その上昇により中央部が入熱過多の状態となり、ガラス部材にクラックが生じたりやガラス層が結晶化したりするおそれがある。
【0012】
そこで、図14に示されるように、レーザ光の照射開始位置で幅方向全体にわたってガラス層が溶融しなくてもレーザ光を進行させると、照射開始位置から安定状態に至る領域が中央部から徐々に溶融の幅が広がる不安定領域となる。図11において、溶融始端部3aの幅が中央部から徐々に広がっているのは、以上の理由による。
【0013】
本発明者は、この知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明に係るガラス溶着方法は、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を第1のガラス部材に配置する工程と、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層の主部を定着させる工程と、ガラス層の主部が定着した第1のガラス部材にガラス層を介して第2のガラス部材を重ね合わせ、ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るガラス層定着方法は、第1のガラス部材にガラス層を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法であって、閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を第1のガラス部材に配置する工程と、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層の主部を定着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
これらのガラス溶着方法及びガラス層定着方法では、第1のレーザ光の照射によって、ガラス層のうちの一部を除き、その一部で開いた環状に延在する主部を溶融させ、第1のガラス部材に定着させる。これにより、第1のガラス部材に定着したガラス層の主部の一端と他端との間に、ガラス粉が溶融していないガラス層の一部が存在することになる。この状態で、第1のガラス部材にガラス層を介して第2のガラス部材を重ね合わせ、ガラス層の一部及び主部に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着すると、ガラス層でのリークの発生を防止して、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、溶着予定領域は直線部を有し、ガラス層の主部の一端及び他端は、溶着予定領域の直線部において、ガラス層の一部を挟んで対向していることが好ましい。この場合、ガラス層の主部の一端と他端との間に、所望の幅で精度良くガラス層の一部を存在させることができる。
【0017】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、レーザ光吸収材及びガラス粉に加えてバインダを含むガラス層を第1のガラス部材に配置した場合には、ガラス層の主部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融し、且つガラス層の一部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融しないように、ガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。この場合、第2のレーザ光の照射によって第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着するときに、バインダのガス化によってガラス層の一部に気泡が形成されること、延いては多数の気泡の接続によってガラス層の一部でリークが発生することを確実に防止することができる。
【0018】
このとき、ガラス層の主部における第1のレーザ光の照射パワーよりもガラス層の一部における第1のレーザ光の照射パワーが低くなるように、ガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。或いは、ガラス層の主部における第1のレーザ光の移動速度よりもガラス層の一部における第1のレーザ光の移動速度が高くなるように、ガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。或いは、ガラス層の主部には第1のレーザ光が照射され、且つガラス層の一部には第1のレーザ光が照射されないように、ガラス層に第1のレーザ光を照射し、ガラス層に第1のレーザ光を照射した後、ガラス層に第2のレーザ光を照射する前に、ガラス層の一部においてバインダがガス化するように、ガラス層に第3のレーザ光を照射することが好ましい。
【0019】
これらの場合、ガラス層の主部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融し、且つガラス層の一部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融しない状態を確実に得ることができる。
【0020】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、溶着予定領域に沿って第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第2のレーザ光を照射する場合には、ガラス層の主部における第2のレーザ光の照射パワーよりもガラス層の一部における第2のレーザ光の照射パワーが高くなるように、ガラス層に第2のレーザ光を照射することが好ましい。或いは、溶着予定領域に沿って第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第2のレーザ光を照射する場合には、ガラス層の主部における第2のレーザ光の移動速度よりもガラス層の一部における第2のレーザ光の移動速度が低くなるように、ガラス層に第2のレーザ光を照射することが好ましい。
【0021】
これらの場合、第2のレーザ光の照射によって第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着するときに、ガラス層の主部に比べレーザ光吸収率が低いガラス層の一部においてガラス粉を確実に溶融させ、第1のガラス部材と第2のガラス部材とをガラス層の全体に渡って均一に溶着することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るガラス溶着方法の一実施形態によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図4】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図5】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図6】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図7】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図8】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の平面図である。
【図9】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の断面図である。
【図10】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の断面図である。
【図11】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の平面写真を示す図である。
【図12】ガラス層の温度とレーザ光吸収率との関係を示すグラフである。
【図13】レーザ照射における温度分布を示す図である。
【図14】レーザ照射における安定領域及び不安定領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿って形成されたガラス層3を介して、ガラス部材(第1のガラス部材)4とガラス部材(第2のガラス部材)5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば、無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように所定の幅で矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなり、溶着予定領域Rに沿うように所定の幅で矩形環状に形成されている。
【0026】
次に、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法(ガラス部材4とガラス部材5とを溶着してガラス溶着体1を製造するために、ガラス部材4にガラス層3を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法を含む)について説明する。
【0027】
まず、図2に示されるように、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材4の表面4aにペースト層6を形成する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤及びガラスの軟化点温度以下で熱分解する樹脂成分(アクリル等)であるバインダを混練したものである。つまり、ペースト層6は、有機溶剤、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んでいる。
【0028】
続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去する。これにより、閉じた矩形環状に延在する溶着予定領域Rに沿うように、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含むガラス層3がガラス部材4に配置されることになる。なお、ガラス部材4の表面4aに配置されたガラス層3は、ガラスフリット2の粒子性等によってレーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光下においては、ガラス層3が白っぽく見える)。
【0029】
続いて、図3に示されるように、溶着予定領域Rの直線部上の位置P1を始点及び終点として、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光(第1のレーザ光)L1の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L1を照射することにより、ガラス層3のうち、一部31において開いた矩形環状に延在する主部32を溶融させ、ガラス部材4にガラス層3の主部32を定着させて(仮焼成)、ガラス層定着部材10を得る。なお、ガラス層3の主部32の一端32a及び他端32bは、溶着予定領域Rの直線部において、ガラス層3の一部31を挟んで対向している。
【0030】
ここでは、ガラス層3がレーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2に加えてバインダを含んでいるので、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しないように、ガラス層3にレーザ光L1を照射する。具体的には、図3に示されるように、照射パワーW1で、位置P1から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。そして、位置P2において照射パワーをW1からW2(<W1)に切り替え、その照射パワーW2で、溶着予定領域Rに沿って位置P1までレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L1は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L1の照射パワーよりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L1の照射パワーが低くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量(レーザ光がその照射領域で有するエネルギ密度)よりもガラス層3の一部31における入熱量が低くなるように)、ガラス層3に照射される。なお、レーザ光L1の移動速度(溶着予定領域に対するレーザ光の照射領域の相対的な移動速度)は一定である。
【0031】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P1の直後(ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置)において融点Tmに達して、その後、融点Tm以上に維持され、位置P2(ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置)において融点Tm以下となって、その後、降下する。ただし、位置P2と位置P1の直後との間の部分(ガラス層3の一部31に対応する部分)においては、ガラス層3の温度は、バインダの分解点Td以上に維持される。
【0032】
これにより、ガラス層3の主部32においては、バインダがガス化して除去されると共にガラスフリット2が溶融し、ガラス部材4の表面4aにガラス層3が焼き付けられて定着させられる。一方、ガラス層3の一部31においては、バインダがガス化して除去されるものの、ガラスフリット2が溶融せずに残存している。なお、ガラス層3の主部32では、ガラスフリット2の溶融によってその粒子性が崩れるなどしてレーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れるため、ガラス層3の主部32のレーザ光吸収率は、ガラス層3の一部31に比べて高い状態となる(例えば、可視光下においては、ガラス層3の主部32が黒っぽく或いは緑っぽく見え、ガラス層3の一部31が白っぽく見える)。
【0033】
ところで、仮焼成によってガラス層定着部材10を得るに際し、レーザ光L1の照射パワーを一定にして、次のように、レーザ光L1の移動速度を切り替えてもよい。すなわち、図4に示されるように、位置P1の直前においてレーザ光L1の移動速度をV1に到達させ、その移動速度V1で、位置P1から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。そして、位置P2の直前において移動速度をV2(>V1)に到達させ、その移動速度V2で、溶着予定領域Rに沿って位置P1を過ぎるまでレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L1は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L1の移動速度よりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L1の移動速度が高くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量よりもガラス層3の一部31における入熱量が低くなるように)、ガラス層3に照射される。
【0034】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P1の直後(ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置)において融点Tmに達して、その後、融点Tm以上に維持され、位置P2(ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置)において融点Tm以下となって、その後、降下する。ただし、位置P2と位置P1の直後との間の部分(ガラス層3の一部31に対応する部分)においては、ガラス層3の温度は、バインダの分解点Td以上に維持される。
【0035】
これにより、ガラス層3の主部32においては、バインダがガス化して除去されると共にガラスフリット2が溶融し、ガラス部材4の表面4aにガラス層3が焼き付けられて定着させられる。一方、ガラス層3の一部31においては、バインダがガス化して除去されるものの、ガラスフリット2が溶融せずに残存している。
【0036】
続いて、図5に示されるように、ガラス層定着部材10(すなわち、ガラス層3の主部32が定着したガラス部材4)にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせる。そして、図6に示されるように、溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光(第2のレーザ光)L2を照射する。すなわち、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L2を照射する。これにより、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス部材4,5の表面4a,5a部分)を溶融・再固化させ、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材4とガラス部材5とを溶着して(本焼成)、ガラス溶着体1を得る(溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス部材4,5が溶融しない場合もある)。
【0037】
具体的には、図6に示されるように、照射パワーW3で、ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置の直後の位置P3から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。そして、ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置の直前の位置P4において照射パワーをW3からW4(>W3)に切り替え、その照射パワーW4で、溶着予定領域Rに沿って位置P3を過ぎるまでレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L2は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L2の照射パワーよりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L2の照射パワーが高くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量よりもガラス層3の一部31における入熱量が高くなるように)、ガラス層3に照射される。なお、レーザ光L2の移動速度は一定である。
【0038】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P3の直後において融点Tmに達し、矩形環状の溶着予定領域R一周分は確実に、融点Tm以上の一定温度に維持されて、その後、降下する。このように、レーザ光L2の照射パワーを切り替えても、ガラス層3の一部31及び主部32の温度が融点Tm以上の一定温度に維持されるのは、ガラス層3の一部31のレーザ光吸収率がガラス層3の主部32のレーザ光吸収率よりも低いからである。なお、このことから、照射パワーW3でのレーザ光L2の照射は、ガラス層3の主部32上から開始すべきである。
【0039】
これにより、ガラス層3の全体が過剰加熱されることなく溶融し、ガラス部材4とガラス部材5とが均一に溶着される。このように、レーザ光L2の照射による過剰加熱が抑制されることから、ガラス部材4,5にヒートクラックが生じるなど、ガラス溶着体1における損傷の発生が防止される。
【0040】
ところで、本焼成によってガラス溶着体1を得るに際し、レーザ光L2の照射パワーを一定にして、次のように、レーザ光L2の移動速度を切り替えてもよい。すなわち、図7に示されるように、ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置の直後の位置P3の直前においてレーザ光L2の移動速度をV3に到達させ、その移動速度V3で、位置P3から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。そして、ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置P4の直後において移動速度をV4(<V3)に到達させ、その移動速度V4で、溶着予定領域Rに沿って位置P3を過ぎるまでレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L2は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L2の移動速度よりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L2の移動速度が低くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量よりもガラス層3の一部31における入熱量が高くなるように)、ガラス層3に照射される。
【0041】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P3の直後において融点Tmに達し、矩形環状の溶着予定領域R一周分は確実に、融点Tm以上の一定温度に維持されて、その後、降下する。このように、レーザ光L2の移動速度を切り替えても、ガラス層3の一部31及び主部32の温度が融点Tm以上の一定温度に維持されるのは、ガラス層3の一部31のレーザ光吸収率がガラス層3の主部32のレーザ光吸収率よりも低いからである。なお、このことから、移動速度V3でのレーザ光L2の照射は、ガラス層3の主部32上から開始すべきである。
【0042】
これにより、ガラス層3の全体が過剰加熱されることなく溶融し、ガラス部材4とガラス部材5とが均一に溶着される。このように、レーザ光L2の照射による過剰加熱が抑制されることから、ガラス部材4,5にヒートクラックが生じるなど、ガラス溶着体1における損傷の発生が防止される。
【0043】
以上説明したように、ガラス溶着体1の製造するためのガラス溶着方法(ガラス層定着方法を含む)においては、仮焼成用のレーザ光L1の照射によって、ガラス層3のうちの一部31を除き、その一部31で開いた矩形環状に延在する主部32を溶融させ、ガラス部材4に定着させる。これにより、ガラス部材4に定着したガラス層3の主部32の一端32aと他端32bとの間に、ガラスフリット2が溶融していないガラス層3の一部31が存在することになる。この状態で、ガラス部材4にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせ、ガラス層3の一部31及び主部32に本焼成用のレーザ光L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着すると、ガラス層3でのリークの発生を防止して、気密な溶着を必要とするガラス溶着体1を製造することが可能となる。
【0044】
また、溶着予定領域Rの直線部において、ガラス層3の一部31を挟んで対向するように、ガラス層3の主部32の一端32a及び他端32bを形成する。これによれば、ガラス層3の主部32の一端32aと他端32bとの間に、所望の幅で精度良くガラス層3の一部31を存在させることができる。
【0045】
また、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しないように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。これによれば、本焼成用のレーザ光L2の照射によってガラス部材4とガラス部材5とを溶着するときに、バインダのガス化によってガラス層3の一部31に気泡が形成されること、延いては多数の気泡の接続によってガラス層3の一部31でリークが発生することを確実に防止することができる。
【0046】
このとき、ガラス層3の主部32における照射パワーよりもガラス層3の一部31における照射パワーが低くなるように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。或いは、ガラス層3の主部32における移動速度よりもガラス層3の一部31における移動速度が高くなるように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。これらによれば、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しない状態を確実に得ることができる。
【0047】
また、ガラス層3の主部32における照射パワーよりもガラス層3の一部31における照射パワーが高くなるように、ガラス層3に本焼成用のレーザ光L2を照射する。或いは、ガラス層3の主部32における移動速度よりもガラス層3の一部31における移動速度が低くなるように、ガラス層3に本焼成用のレーザ光L2を照射する。これらによれば、本焼成用のレーザ光L2の照射によってガラス部材4とガラス部材5とを溶着するときに、ガラス層3の主部32に比べレーザ光吸収率が低いガラス層3の一部31においてガラスフリット2を確実に溶融させ、ガラス部材4とガラス部材5とをガラス層3の全体に渡って均一に溶着することができる。
【0048】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、次のように、仮焼成によってガラス層定着部材10を得てもよい。すなわち、ガラス層3の主部32にはレーザ光L1が照射され、且つガラス層3の一部31にはレーザ光L1が照射されないように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。そして、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射した後、ガラス層3に本焼成用のレーザ光L2を照射する前に、ガラス層3の一部31においてバインダがガス化するように、ガラス層3にレーザ光(第3のレーザ光)を照射する。これによっても、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しない状態を確実に得ることができる。
【0049】
また、ガラス層定着部材10を長距離又は長時間搬送する必要がある場合等には、仮焼成時に、ガラス層3の一部31からバインダを除去しなければ、ガラス層3の一部31が崩れるのを防止することができる。
【0050】
また、本焼成用のレーザ光L2の照射は、その照射領域を溶着予定領域Rに沿って相対的に移動させるものに限定されず、ガラス層3の全体に対して一括で行うものであってもよい。また、仮焼成用のレーザ光L1の照射対象となるガラス層3は、有機溶剤、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだペースト層6に相当するものであってもよいし、そのようなペースト層6から有機溶剤及びバインダを除去するなどして、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだものであってもよい。また、ガラスフリット2は、ガラス部材4,5の融点よりも低い融点を有するものに限定されず、ガラス部材4,5の融点以上の融点を有するものであってもよい。また、レーザ光吸収性顔料は、ガラスフリット2自体に含まれていてもよい。更に、溶着予定領域Rは、矩形環状に限定されず、円形環状等、閉じた環状に延在するものであればよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ガラス溶着体、2…ガラスフリット(ガラス粉)、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、10…ガラス層定着部材、31…一部、32…主部、32a…一端、32b…他端、L1…レーザ光(第1のレーザ光)、L2…レーザ光(第2のレーザ光)、R…溶着予定領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材同士を溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野における従来のガラス溶着方法として、有機物(有機溶剤やバインダ)、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を、溶着予定領域に沿うように一方のガラス部材に定着させた後、そのガラス部材にガラス層を介して他方のガラス部材を重ね合わせ、溶着予定領域に沿ってレーザ光を照射することにより、一方及び他方のガラス部材同士を溶着する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ガラス部材にガラス層を定着させるために、炉内での加熱に代えて、レーザ光の照射によってガラス層から有機物を除去する技術が提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。このような技術によれば、ガラス部材に形成された機能層等が加熱されて劣化するのを防止することができ、また、炉の使用による消費エネルギの増大及び炉内での加熱時間の長時間化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−527655号公報
【特許文献2】特開2002−366050号公報
【特許文献3】特開2002−367514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光の照射によってガラス部材にガラス層を定着させ(いわゆる仮焼成)、その後、レーザ光の照射によってガラス層を介してガラス部材同士を溶着すると(いわゆる本焼成)、ガラス層でリークが起こり、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を得ることができない場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法、及びそのためのガラス層定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ガラス溶着体においてガラス層でリークが起こるのは、閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように配置されたガラス層が、レーザ光の照射によってガラス部材に定着させられるときに、切断される場合があることに起因していることを突き止めた。つまり、ガラス粉を溶融させてガラス部材にガラス層を定着させるために、図8に示されるように、ガラス層3の所定の位置Pを始点及び終点として、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光を照射すると、場合によっては、所定の位置Pの近傍でガラス層3が切断されるのである。これは、レーザ光の照射領域が所定の位置Pに戻って来たときに、既に固化しているガラス層3の溶融始端部3aに、ガラス粉の溶融によって収縮するガラス層3の溶融終端部3bが接続し難いからと想定される。
【0008】
そして、図9,10に示されるように、ガラス層3の溶融終端部3bが盛り上がるため、ガラス部材4の溶着対象であるガラス部材5を、ガラス層3を介して重ね合わせても、溶融終端部3bが邪魔となって、ガラス層3にガラス部材5を均一に接触させることができない。この状態で、レーザ光の照射によってガラス部材4とガラス部材5とを溶着しようとしても、均一且つ気密な溶着を実現することは極めて困難である。なお、図8〜10の状態でのガラス層3に関する寸法を例示すると、ガラス層3の幅は1.0mm程度、ガラス層3の厚さは10μm程度、溶融終端部3bの高さは20μm程度、ガラス層3の切れ幅(すなわち、溶融始端部3aと溶融終端部3bとの間隔)は40μm程度である。
【0009】
図11は、ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の平面写真を示す図である。同図に示されるように、ガラス層3は、溶融始端部3aと溶融終端部3bとの間で切断される。なお、溶融始端部3aの幅が中央部から徐々に広がっているのは、次の理由による。
【0010】
すなわち、ガラス部材に配置されたガラス層においては、ガラス粉の粒子性等によって、レーザ光吸収材の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光下において白っぽく見える)。このような状態でガラス部材にガラス層を焼き付けるためにレーザ光を照射すると、ガラス粉の溶融によって粒子性が崩れるなどして、レーザ光吸収材の吸収特性が顕著に現れ、ガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなる(例えば、可視光下において黒っぽく或いは緑っぽく見える)。つまり、図12に示されるように、ガラス層の定着時にガラス層の温度が融点Tmを超えるとガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなるのである。
【0011】
このとき、図13に示されるように、レーザ光は、幅方向(レーザ光の進行方向と略直交する方向)における中央部の温度が高くなる温度分布を有しているのが一般的である。そのため、照射開始位置から幅方向全体にわたってガラス層が溶融する安定領域となるように、レーザ光を照射開始位置に暫く停滞させてから進行させると、幅方向における中央部で最初に始まる溶融により中央部のレーザ光吸収率が上昇し、その上昇により中央部が入熱過多の状態となり、ガラス部材にクラックが生じたりやガラス層が結晶化したりするおそれがある。
【0012】
そこで、図14に示されるように、レーザ光の照射開始位置で幅方向全体にわたってガラス層が溶融しなくてもレーザ光を進行させると、照射開始位置から安定状態に至る領域が中央部から徐々に溶融の幅が広がる不安定領域となる。図11において、溶融始端部3aの幅が中央部から徐々に広がっているのは、以上の理由による。
【0013】
本発明者は、この知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明に係るガラス溶着方法は、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を第1のガラス部材に配置する工程と、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層の主部を定着させる工程と、ガラス層の主部が定着した第1のガラス部材にガラス層を介して第2のガラス部材を重ね合わせ、ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るガラス層定着方法は、第1のガラス部材にガラス層を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法であって、閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を第1のガラス部材に配置する工程と、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層の主部を定着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
これらのガラス溶着方法及びガラス層定着方法では、第1のレーザ光の照射によって、ガラス層のうちの一部を除き、その一部で開いた環状に延在する主部を溶融させ、第1のガラス部材に定着させる。これにより、第1のガラス部材に定着したガラス層の主部の一端と他端との間に、ガラス粉が溶融していないガラス層の一部が存在することになる。この状態で、第1のガラス部材にガラス層を介して第2のガラス部材を重ね合わせ、ガラス層の一部及び主部に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着すると、ガラス層でのリークの発生を防止して、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、溶着予定領域は直線部を有し、ガラス層の主部の一端及び他端は、溶着予定領域の直線部において、ガラス層の一部を挟んで対向していることが好ましい。この場合、ガラス層の主部の一端と他端との間に、所望の幅で精度良くガラス層の一部を存在させることができる。
【0017】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、レーザ光吸収材及びガラス粉に加えてバインダを含むガラス層を第1のガラス部材に配置した場合には、ガラス層の主部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融し、且つガラス層の一部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融しないように、ガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。この場合、第2のレーザ光の照射によって第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着するときに、バインダのガス化によってガラス層の一部に気泡が形成されること、延いては多数の気泡の接続によってガラス層の一部でリークが発生することを確実に防止することができる。
【0018】
このとき、ガラス層の主部における第1のレーザ光の照射パワーよりもガラス層の一部における第1のレーザ光の照射パワーが低くなるように、ガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。或いは、ガラス層の主部における第1のレーザ光の移動速度よりもガラス層の一部における第1のレーザ光の移動速度が高くなるように、ガラス層に第1のレーザ光を照射することが好ましい。或いは、ガラス層の主部には第1のレーザ光が照射され、且つガラス層の一部には第1のレーザ光が照射されないように、ガラス層に第1のレーザ光を照射し、ガラス層に第1のレーザ光を照射した後、ガラス層に第2のレーザ光を照射する前に、ガラス層の一部においてバインダがガス化するように、ガラス層に第3のレーザ光を照射することが好ましい。
【0019】
これらの場合、ガラス層の主部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融し、且つガラス層の一部においてはバインダがガス化すると共にガラス粉が溶融しない状態を確実に得ることができる。
【0020】
また、本発明に係るガラス溶着方法においては、溶着予定領域に沿って第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第2のレーザ光を照射する場合には、ガラス層の主部における第2のレーザ光の照射パワーよりもガラス層の一部における第2のレーザ光の照射パワーが高くなるように、ガラス層に第2のレーザ光を照射することが好ましい。或いは、溶着予定領域に沿って第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させてガラス層に第2のレーザ光を照射する場合には、ガラス層の主部における第2のレーザ光の移動速度よりもガラス層の一部における第2のレーザ光の移動速度が低くなるように、ガラス層に第2のレーザ光を照射することが好ましい。
【0021】
これらの場合、第2のレーザ光の照射によって第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着するときに、ガラス層の主部に比べレーザ光吸収率が低いガラス層の一部においてガラス粉を確実に溶融させ、第1のガラス部材と第2のガラス部材とをガラス層の全体に渡って均一に溶着することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、気密な溶着を必要とするガラス溶着体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るガラス溶着方法の一実施形態によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図4】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図5】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図6】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図7】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図8】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の平面図である。
【図9】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の断面図である。
【図10】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の断面図である。
【図11】ガラス部材に定着したガラス層の溶融始端部及び溶融終端部の平面写真を示す図である。
【図12】ガラス層の温度とレーザ光吸収率との関係を示すグラフである。
【図13】レーザ照射における温度分布を示す図である。
【図14】レーザ照射における安定領域及び不安定領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿って形成されたガラス層3を介して、ガラス部材(第1のガラス部材)4とガラス部材(第2のガラス部材)5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば、無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように所定の幅で矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなり、溶着予定領域Rに沿うように所定の幅で矩形環状に形成されている。
【0026】
次に、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法(ガラス部材4とガラス部材5とを溶着してガラス溶着体1を製造するために、ガラス部材4にガラス層3を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法を含む)について説明する。
【0027】
まず、図2に示されるように、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材4の表面4aにペースト層6を形成する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤及びガラスの軟化点温度以下で熱分解する樹脂成分(アクリル等)であるバインダを混練したものである。つまり、ペースト層6は、有機溶剤、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んでいる。
【0028】
続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去する。これにより、閉じた矩形環状に延在する溶着予定領域Rに沿うように、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含むガラス層3がガラス部材4に配置されることになる。なお、ガラス部材4の表面4aに配置されたガラス層3は、ガラスフリット2の粒子性等によってレーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光下においては、ガラス層3が白っぽく見える)。
【0029】
続いて、図3に示されるように、溶着予定領域Rの直線部上の位置P1を始点及び終点として、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光(第1のレーザ光)L1の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L1を照射することにより、ガラス層3のうち、一部31において開いた矩形環状に延在する主部32を溶融させ、ガラス部材4にガラス層3の主部32を定着させて(仮焼成)、ガラス層定着部材10を得る。なお、ガラス層3の主部32の一端32a及び他端32bは、溶着予定領域Rの直線部において、ガラス層3の一部31を挟んで対向している。
【0030】
ここでは、ガラス層3がレーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2に加えてバインダを含んでいるので、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しないように、ガラス層3にレーザ光L1を照射する。具体的には、図3に示されるように、照射パワーW1で、位置P1から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。そして、位置P2において照射パワーをW1からW2(<W1)に切り替え、その照射パワーW2で、溶着予定領域Rに沿って位置P1までレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L1は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L1の照射パワーよりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L1の照射パワーが低くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量(レーザ光がその照射領域で有するエネルギ密度)よりもガラス層3の一部31における入熱量が低くなるように)、ガラス層3に照射される。なお、レーザ光L1の移動速度(溶着予定領域に対するレーザ光の照射領域の相対的な移動速度)は一定である。
【0031】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P1の直後(ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置)において融点Tmに達して、その後、融点Tm以上に維持され、位置P2(ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置)において融点Tm以下となって、その後、降下する。ただし、位置P2と位置P1の直後との間の部分(ガラス層3の一部31に対応する部分)においては、ガラス層3の温度は、バインダの分解点Td以上に維持される。
【0032】
これにより、ガラス層3の主部32においては、バインダがガス化して除去されると共にガラスフリット2が溶融し、ガラス部材4の表面4aにガラス層3が焼き付けられて定着させられる。一方、ガラス層3の一部31においては、バインダがガス化して除去されるものの、ガラスフリット2が溶融せずに残存している。なお、ガラス層3の主部32では、ガラスフリット2の溶融によってその粒子性が崩れるなどしてレーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れるため、ガラス層3の主部32のレーザ光吸収率は、ガラス層3の一部31に比べて高い状態となる(例えば、可視光下においては、ガラス層3の主部32が黒っぽく或いは緑っぽく見え、ガラス層3の一部31が白っぽく見える)。
【0033】
ところで、仮焼成によってガラス層定着部材10を得るに際し、レーザ光L1の照射パワーを一定にして、次のように、レーザ光L1の移動速度を切り替えてもよい。すなわち、図4に示されるように、位置P1の直前においてレーザ光L1の移動速度をV1に到達させ、その移動速度V1で、位置P1から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。そして、位置P2の直前において移動速度をV2(>V1)に到達させ、その移動速度V2で、溶着予定領域Rに沿って位置P1を過ぎるまでレーザ光L1の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L1は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L1の移動速度よりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L1の移動速度が高くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量よりもガラス層3の一部31における入熱量が低くなるように)、ガラス層3に照射される。
【0034】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P1の直後(ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置)において融点Tmに達して、その後、融点Tm以上に維持され、位置P2(ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置)において融点Tm以下となって、その後、降下する。ただし、位置P2と位置P1の直後との間の部分(ガラス層3の一部31に対応する部分)においては、ガラス層3の温度は、バインダの分解点Td以上に維持される。
【0035】
これにより、ガラス層3の主部32においては、バインダがガス化して除去されると共にガラスフリット2が溶融し、ガラス部材4の表面4aにガラス層3が焼き付けられて定着させられる。一方、ガラス層3の一部31においては、バインダがガス化して除去されるものの、ガラスフリット2が溶融せずに残存している。
【0036】
続いて、図5に示されるように、ガラス層定着部材10(すなわち、ガラス層3の主部32が定着したガラス部材4)にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせる。そして、図6に示されるように、溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光(第2のレーザ光)L2を照射する。すなわち、溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させてガラス層3にレーザ光L2を照射する。これにより、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス部材4,5の表面4a,5a部分)を溶融・再固化させ、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材4とガラス部材5とを溶着して(本焼成)、ガラス溶着体1を得る(溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス部材4,5が溶融しない場合もある)。
【0037】
具体的には、図6に示されるように、照射パワーW3で、ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置の直後の位置P3から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。そして、ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置の直前の位置P4において照射パワーをW3からW4(>W3)に切り替え、その照射パワーW4で、溶着予定領域Rに沿って位置P3を過ぎるまでレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L2は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L2の照射パワーよりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L2の照射パワーが高くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量よりもガラス層3の一部31における入熱量が高くなるように)、ガラス層3に照射される。なお、レーザ光L2の移動速度は一定である。
【0038】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P3の直後において融点Tmに達し、矩形環状の溶着予定領域R一周分は確実に、融点Tm以上の一定温度に維持されて、その後、降下する。このように、レーザ光L2の照射パワーを切り替えても、ガラス層3の一部31及び主部32の温度が融点Tm以上の一定温度に維持されるのは、ガラス層3の一部31のレーザ光吸収率がガラス層3の主部32のレーザ光吸収率よりも低いからである。なお、このことから、照射パワーW3でのレーザ光L2の照射は、ガラス層3の主部32上から開始すべきである。
【0039】
これにより、ガラス層3の全体が過剰加熱されることなく溶融し、ガラス部材4とガラス部材5とが均一に溶着される。このように、レーザ光L2の照射による過剰加熱が抑制されることから、ガラス部材4,5にヒートクラックが生じるなど、ガラス溶着体1における損傷の発生が防止される。
【0040】
ところで、本焼成によってガラス溶着体1を得るに際し、レーザ光L2の照射パワーを一定にして、次のように、レーザ光L2の移動速度を切り替えてもよい。すなわち、図7に示されるように、ガラス層3の主部32の一端32aに対応する位置の直後の位置P3の直前においてレーザ光L2の移動速度をV3に到達させ、その移動速度V3で、位置P3から溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。そして、ガラス層3の主部32の他端32bに対応する位置P4の直後において移動速度をV4(<V3)に到達させ、その移動速度V4で、溶着予定領域Rに沿って位置P3を過ぎるまでレーザ光L2の照射領域を相対的に移動させる。つまり、レーザ光L2は、ガラス層3の主部32におけるレーザ光L2の移動速度よりもガラス層3の一部31におけるレーザ光L2の移動速度が低くなるように(換言すれば、ガラス層3の主部32における入熱量よりもガラス層3の一部31における入熱量が高くなるように)、ガラス層3に照射される。
【0041】
このとき、ガラス層3の温度は、位置P3の直後において融点Tmに達し、矩形環状の溶着予定領域R一周分は確実に、融点Tm以上の一定温度に維持されて、その後、降下する。このように、レーザ光L2の移動速度を切り替えても、ガラス層3の一部31及び主部32の温度が融点Tm以上の一定温度に維持されるのは、ガラス層3の一部31のレーザ光吸収率がガラス層3の主部32のレーザ光吸収率よりも低いからである。なお、このことから、移動速度V3でのレーザ光L2の照射は、ガラス層3の主部32上から開始すべきである。
【0042】
これにより、ガラス層3の全体が過剰加熱されることなく溶融し、ガラス部材4とガラス部材5とが均一に溶着される。このように、レーザ光L2の照射による過剰加熱が抑制されることから、ガラス部材4,5にヒートクラックが生じるなど、ガラス溶着体1における損傷の発生が防止される。
【0043】
以上説明したように、ガラス溶着体1の製造するためのガラス溶着方法(ガラス層定着方法を含む)においては、仮焼成用のレーザ光L1の照射によって、ガラス層3のうちの一部31を除き、その一部31で開いた矩形環状に延在する主部32を溶融させ、ガラス部材4に定着させる。これにより、ガラス部材4に定着したガラス層3の主部32の一端32aと他端32bとの間に、ガラスフリット2が溶融していないガラス層3の一部31が存在することになる。この状態で、ガラス部材4にガラス層3を介してガラス部材5を重ね合わせ、ガラス層3の一部31及び主部32に本焼成用のレーザ光L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着すると、ガラス層3でのリークの発生を防止して、気密な溶着を必要とするガラス溶着体1を製造することが可能となる。
【0044】
また、溶着予定領域Rの直線部において、ガラス層3の一部31を挟んで対向するように、ガラス層3の主部32の一端32a及び他端32bを形成する。これによれば、ガラス層3の主部32の一端32aと他端32bとの間に、所望の幅で精度良くガラス層3の一部31を存在させることができる。
【0045】
また、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しないように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。これによれば、本焼成用のレーザ光L2の照射によってガラス部材4とガラス部材5とを溶着するときに、バインダのガス化によってガラス層3の一部31に気泡が形成されること、延いては多数の気泡の接続によってガラス層3の一部31でリークが発生することを確実に防止することができる。
【0046】
このとき、ガラス層3の主部32における照射パワーよりもガラス層3の一部31における照射パワーが低くなるように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。或いは、ガラス層3の主部32における移動速度よりもガラス層3の一部31における移動速度が高くなるように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。これらによれば、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しない状態を確実に得ることができる。
【0047】
また、ガラス層3の主部32における照射パワーよりもガラス層3の一部31における照射パワーが高くなるように、ガラス層3に本焼成用のレーザ光L2を照射する。或いは、ガラス層3の主部32における移動速度よりもガラス層3の一部31における移動速度が低くなるように、ガラス層3に本焼成用のレーザ光L2を照射する。これらによれば、本焼成用のレーザ光L2の照射によってガラス部材4とガラス部材5とを溶着するときに、ガラス層3の主部32に比べレーザ光吸収率が低いガラス層3の一部31においてガラスフリット2を確実に溶融させ、ガラス部材4とガラス部材5とをガラス層3の全体に渡って均一に溶着することができる。
【0048】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、次のように、仮焼成によってガラス層定着部材10を得てもよい。すなわち、ガラス層3の主部32にはレーザ光L1が照射され、且つガラス層3の一部31にはレーザ光L1が照射されないように、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射する。そして、ガラス層3に仮焼成用のレーザ光L1を照射した後、ガラス層3に本焼成用のレーザ光L2を照射する前に、ガラス層3の一部31においてバインダがガス化するように、ガラス層3にレーザ光(第3のレーザ光)を照射する。これによっても、ガラス層3の主部32においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融し、且つガラス層3の一部31においてはバインダがガス化すると共にガラスフリット2が溶融しない状態を確実に得ることができる。
【0049】
また、ガラス層定着部材10を長距離又は長時間搬送する必要がある場合等には、仮焼成時に、ガラス層3の一部31からバインダを除去しなければ、ガラス層3の一部31が崩れるのを防止することができる。
【0050】
また、本焼成用のレーザ光L2の照射は、その照射領域を溶着予定領域Rに沿って相対的に移動させるものに限定されず、ガラス層3の全体に対して一括で行うものであってもよい。また、仮焼成用のレーザ光L1の照射対象となるガラス層3は、有機溶剤、バインダ、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだペースト層6に相当するものであってもよいし、そのようなペースト層6から有機溶剤及びバインダを除去するなどして、レーザ光吸収性顔料及びガラスフリット2を含んだものであってもよい。また、ガラスフリット2は、ガラス部材4,5の融点よりも低い融点を有するものに限定されず、ガラス部材4,5の融点以上の融点を有するものであってもよい。また、レーザ光吸収性顔料は、ガラスフリット2自体に含まれていてもよい。更に、溶着予定領域Rは、矩形環状に限定されず、円形環状等、閉じた環状に延在するものであればよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ガラス溶着体、2…ガラスフリット(ガラス粉)、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、10…ガラス層定着部材、31…一部、32…主部、32a…一端、32b…他端、L1…レーザ光(第1のレーザ光)、L2…レーザ光(第2のレーザ光)、R…溶着予定領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、
閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層の前記主部を定着させる工程と、
前記ガラス層の前記主部が定着した前記第1のガラス部材に前記ガラス層を介して前記第2のガラス部材を重ね合わせ、前記ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含むことを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記溶着予定領域は直線部を有し、
前記ガラス層の前記主部の一端及び他端は、前記溶着予定領域の前記直線部において、前記ガラス層の前記一部を挟んで対向していることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記レーザ光吸収材及び前記ガラス粉に加えてバインダを含む前記ガラス層を前記第1のガラス部材に配置した場合には、前記ガラス層の前記主部においては前記バインダがガス化すると共に前記ガラス粉が溶融し、且つ前記ガラス層の前記一部においては前記バインダがガス化すると共に前記ガラス粉が溶融しないように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1又は2記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記ガラス層の前記主部における前記第1のレーザ光の照射パワーよりも前記ガラス層の前記一部における前記第1のレーザ光の照射パワーが低くなるように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
前記ガラス層の前記主部における前記第1のレーザ光の移動速度よりも前記ガラス層の前記一部における前記第1のレーザ光の移動速度が高くなるように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載のガラス溶着方法。
【請求項6】
前記ガラス層の前記主部には前記第1のレーザ光が照射され、且つ前記ガラス層の前記一部には前記第1のレーザ光が照射されないように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射し、
前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射した後、前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射する前に、前記ガラス層の前記一部において前記バインダがガス化するように、前記ガラス層に第3のレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載のガラス溶着方法。
【請求項7】
前記溶着予定領域に沿って前記第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射する場合には、前記ガラス層の前記主部における前記第2のレーザ光の照射パワーよりも前記ガラス層の前記一部における前記第2のレーザ光の照射パワーが高くなるように、前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜6記載のガラス溶着方法。
【請求項8】
前記溶着予定領域に沿って前記第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射する場合には、前記ガラス層の前記主部における前記第2のレーザ光の移動速度よりも前記ガラス層の前記一部における前記第2のレーザ光の移動速度が低くなるように、前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜6記載のガラス溶着方法。
【請求項9】
第1のガラス部材にガラス層を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法であって、
閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含む前記ガラス層を前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層の前記主部を定着させる工程と、を含むことを特徴とするガラス層定着方法。
【請求項1】
第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、
閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含むガラス層を前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層の前記主部を定着させる工程と、
前記ガラス層の前記主部が定着した前記第1のガラス部材に前記ガラス層を介して前記第2のガラス部材を重ね合わせ、前記ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含むことを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記溶着予定領域は直線部を有し、
前記ガラス層の前記主部の一端及び他端は、前記溶着予定領域の前記直線部において、前記ガラス層の前記一部を挟んで対向していることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記レーザ光吸収材及び前記ガラス粉に加えてバインダを含む前記ガラス層を前記第1のガラス部材に配置した場合には、前記ガラス層の前記主部においては前記バインダがガス化すると共に前記ガラス粉が溶融し、且つ前記ガラス層の前記一部においては前記バインダがガス化すると共に前記ガラス粉が溶融しないように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1又は2記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記ガラス層の前記主部における前記第1のレーザ光の照射パワーよりも前記ガラス層の前記一部における前記第1のレーザ光の照射パワーが低くなるように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
前記ガラス層の前記主部における前記第1のレーザ光の移動速度よりも前記ガラス層の前記一部における前記第1のレーザ光の移動速度が高くなるように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載のガラス溶着方法。
【請求項6】
前記ガラス層の前記主部には前記第1のレーザ光が照射され、且つ前記ガラス層の前記一部には前記第1のレーザ光が照射されないように、前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射し、
前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射した後、前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射する前に、前記ガラス層の前記一部において前記バインダがガス化するように、前記ガラス層に第3のレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載のガラス溶着方法。
【請求項7】
前記溶着予定領域に沿って前記第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射する場合には、前記ガラス層の前記主部における前記第2のレーザ光の照射パワーよりも前記ガラス層の前記一部における前記第2のレーザ光の照射パワーが高くなるように、前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜6記載のガラス溶着方法。
【請求項8】
前記溶着予定領域に沿って前記第2のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射する場合には、前記ガラス層の前記主部における前記第2のレーザ光の移動速度よりも前記ガラス層の前記一部における前記第2のレーザ光の移動速度が低くなるように、前記ガラス層に前記第2のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜6記載のガラス溶着方法。
【請求項9】
第1のガラス部材にガラス層を定着させてガラス層定着部材を製造するガラス層定着方法であって、
閉じた環状に延在する溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材及びガラス粉を含む前記ガラス層を前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記溶着予定領域に沿って第1のレーザ光の照射領域を相対的に移動させて前記ガラス層に前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層のうち、一部において開いた環状に延在する主部を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層の前記主部を定着させる工程と、を含むことを特徴とするガラス層定着方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図11】
【公開番号】特開2011−111350(P2011−111350A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267814(P2009−267814)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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