説明

ガラス積層体、支持体付き表示装置用パネル、表示装置用パネル、表示装置およびこれらの製造方法

【課題】ガラス基板間へ混入した気泡や塵介等の異物によるガラス欠陥の発生を抑制し、エッチピットを発生させることなく既存の製造ラインで処理することができ、密着した薄板ガラス基板と樹脂層とを容易かつ短時間に分離することができるガラス積層体の提供。
【解決手段】第1主面および第2主面を有する薄板ガラス基板12、第1主面および第2主面を有する支持ガラス基板13、ならびに易剥離性を有する樹脂層14を有し、前記薄板ガラス基板12の第1主面に、前記支持ガラス基板13の第1主面に固定された前記樹脂層14が密着しているガラス積層体10であって、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部15を1箇所以上有するガラス積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、有機EL表示装置等に用いられるガラス基板を含むガラス積層体、それを含む支持体付き表示装置用パネル、それを用いて形成される表示装置用パネルおよびそれを含む表示装置ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置(OLED)、特にモバイルや携帯電話等の携帯型表示装置の分野では、表示装置の軽量化、薄型化が重要な課題となっている。
【0003】
この課題に対応するために、表示装置に用いるガラス基板の板厚をさらに薄くすることが望まれている。板厚を薄くする方法としては、一般に、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成する前または形成した後に、フッ酸等を用いてガラス基板をエッチング処理し、必要に応じてさらに物理研磨して薄くする方法が行われる。
しかしながら、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成する前にエッチング処理等をしてガラス基板を薄くすると、ガラス基板の強度が低下し、たわみ量も大きくなる。そのため既存の表示装置用パネルの製造ラインで処理することが困難になるという問題が生じる。
また、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成した後にエッチング処理等をしてガラス基板を薄くすると、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成する過程においてガラス基板の表面に形成された微細な傷が顕在化する問題、すなわちエッチピット(etchpit)の発生という問題が生じる。
【0004】
そこで、このような問題を解決することを目的として、板厚の薄いガラス基板(以下では「薄板ガラス基板」ともいう。)を他の支持ガラス基板と貼り合わせて積層体とし、その状態で表示装置を製造するための所定の処理を実施し、その後、薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを分離する方法等が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、製品用のガラス基板と補強用ガラス基板とを、ガラス基板同士の静電気吸着力または真空吸着力を利用して貼り合わせて一体化し、製品用のガラス基板を用いた表示装置を製造する方法が記載されている。
例えば特許文献2には、液晶表示装置の基板と支持体との端部をガラスフリット系の接着剤を用いて接着して、その後、電極パターン等を形成する液晶表示装置の製造方法が記載されている。
例えば特許文献3には、2枚のガラス基板の少なくとも周縁部の端面近傍にレーザ光を照射して前記2枚のガラス基板を融合させる工程を有する表示装置用基板の製造方法が記載されている。
【0006】
例えば特許文献4には、粘着材層が支持体上に設けられている基板搬送用治具に基板を貼り付け、液晶表示素子の製造工程を通して基板搬送用治具を搬送することにより、基板搬送用治具に貼り付いている基板に対して液晶表示素子形成処理を順次行い、所定の工程を終了後、基板搬送用治具から基板を剥離する液晶表示装置の製造方法が記載されている。
例えば特許文献5には、液晶表示素子用電極基板を紫外線硬化型粘着剤が支持体上に設けられた治具を用いて、液晶表示素子用電極基板に所定の加工を施した後、紫外線硬化型粘着剤に紫外線を照射することにより、前記紫外線硬化型粘着剤の粘着力を低下させ、前記液晶表示素子用電極基板を前記治具から剥離することを特徴とする液晶表示素子の製造方法が記載されている。
例えば特許文献6には、粘着材によって薄板を支持板に仮固定し、前記粘着材の周縁部をシール材によって封止し、薄板を仮固定した支持板を搬送する搬送方法が記載されている。
【0007】
例えば特許文献7には、薄板ガラス基板と、支持ガラス基板と、を積層させてなる薄板ガラス積層体であって、前記薄板ガラスと、前記支持ガラスと、が易剥離性および非粘着性を有するシリコーン樹脂層を介して積層されていることを特徴とする薄板ガラス積層体が記載されている。そして、薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを分離するには、薄板ガラス基板を支持ガラス基板から垂直方向に引き離す力を与えればよく、剃刀の刃等で端部に剥離のきっかけをいれたり、積層界面へのエアーの注入により、より容易に剥離することが可能であると記載されている。
例えば特許文献8には、薄板ガラス基板と、支持ガラス基板と、を積層させてなる薄板ガラス積層体であって、前記薄板ガラス基板と、前記支持ガラス基板と、が易剥離性および非粘着性を有するシリコーン樹脂層を介して積層されており、かつ前記シリコーン樹脂層と、前記支持ガラス基板と、には互いに連通する少なくとも1つの孔が設けられていることを特徴とする薄板ガラス積層体が記載されている。そして、支持ガラス基板に設けられた孔から薄板ガラス基板とシリコーン樹脂層の界面に圧縮気体を注入することにより、薄板ガラスにガラスの破損につながるような応力を加えることなく、薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを分離することが可能であると記載されている。
【0008】
また、ガラス積層体ではないが、特許文献9には、ガラス製の部品又は該部品を用いてなる製品に貼付される貼り付けシートにおいて、切り欠き部を設けてあることを特徴とする貼り付けシートが記載されている。そして、切り欠き部を設けるために切り込んだ部分を折り返してあるので、剥離のための道具の先端が入り易くなるとともに、折り返した部分により浮き上がり易くなり、容易に剥離することができると記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−241804号公報
【特許文献2】特開昭58−54316号公報
【特許文献3】特開2003−216068号公報
【特許文献4】特開平8−86993号公報
【特許文献5】特開平9−105896号公報
【特許文献6】特開2000−252342号公報
【特許文献7】国際公開第2007/018028号パンフレット
【特許文献8】特開2007−326358号公報
【特許文献9】特開2003−308019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のガラス基板同士を静電吸着力や真空吸着力を利用して固定する方法、特許文献2に記載のガラス基板の両端をガラスフリットを用いて固定する方法、または特許文献3に記載の周縁部の端面近傍にレーザ光を照射して2枚のガラス基板を融合させる方法では、ガラス基板同士を何らの中間層を介さず積層密着させるので、ガラス基板間へ混入した気泡や塵介等の異物によってガラス基板にゆがみ欠陥が生じる。そのため、表面が平滑なガラス基板積層体を得ることは困難である。
【0011】
また、特許文献4〜6に記載のガラス基板間に粘着層等を配置する方法では、上記のようなガラス基板間への気泡等の混入によるゆがみ欠陥の発生を回避し得るものの、両ガラス基板を分離することが困難であり、分離する際に薄板ガラス基板が破損するおそれがある。また分離後の薄板ガラス基板への粘着剤の残存も問題となる。
【0012】
これに対して特許文献7に記載の薄板ガラス積層体によれば、上記のようなガラス基板間への気泡等の混入によるゆがみ欠陥は発生し難い。また、薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを剥離することも可能である。さらに分離後の薄板ガラス基板への粘着剤の残存の問題は解決される。しかし、両ガラス基板の分離は、より容易に、より短時間で行うことが望まれる。特にガラス基板が大型の場合は、工業的に利用する上で重要な点となる。
また、特許文献8に記載のガラス積層体の場合、薄板ガラス基板上に皮膜等を形成する熱処理工程において、薄板ガラス基板におけるシリコーン樹脂層と接している部分と、孔に接している部分とで、熱容量の違いに起因して皮膜する痕跡が生じ易いという欠点を有していた。
【0013】
また、上記のようなガラス積層体を形成する場合、通常、真空積層プレス法、すなわち、支持ガラス基板と薄板ガラス基板とを樹脂層を介して仮積層した状態でプレス機にセットし、真空引き(減圧)した後にプレスする方法を適用するが、プレスしても薄板ガラス基板と樹脂層との間の泡が残存するという問題が生じる。特に薄板ガラス基板のサイズが大きいと顕著となる。この対策としては、例えば薄板ガラス基板を上側の加圧手段に吸着して保持することで、支持ガラス基板と薄板ガラス基板との間に隙間を保ちつつ、両基板が存する空間を真空にし、その後両基板を接触させプレスする方法が考えられる。しかしこの場合、真空吸着法によって薄板ガラス基板を加圧手段に吸着させて保持することはできないので、現に存する代替法として静電吸着法によって保持することとなる。しかしながら、静電吸着装置は非常に高価である。
【0014】
なお、特許文献9には容易に剥離できる貼り付けシートが記載されており、ガラス積層体とは無関係である。
【0015】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、まず本発明の第1の目的は、密着した薄板ガラス基板と樹脂層とを容易かつ短時間に分離することができるガラス積層体を提供することを目的とするものである。
加えて、本発明の第2の目的は、前記のようなガラス積層体を、ガラス基板間に気泡や塵芥等の異物を存在させず、簡易かつ経済的に製造することできる方法を提供することを目的とする。
また、このようなガラス積層体を含む支持体付き表示装置用パネルを提供することを目的とする。また、このような支持体付き表示装置用パネルを用いて形成される表示装置用パネルおよび表示装置を提供することを目的とする。
さらに、このような支持体付き表示装置用パネル、表示装置用パネルおよび表示装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本発明を完成した。
本発明は以下の(1)〜(16)である。
(1)第1主面および第2主面を有する薄板ガラス基板、第1主面および第2主面を有する支持ガラス基板ならびに樹脂層を有し、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面に固定された易剥離性を有する樹脂層が密着しているガラス積層体であって、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を1箇所以上有するガラス積層体。
(2)前記凹陥部の面積が1箇所につき5mm2以上である、上記(1)に記載のガラス積層体。
(3)前記樹脂層がアクリル樹脂層、ポリオレフィン樹脂層、ポリウレタン樹脂層またはシリコーン樹脂層である、上記(1)または(2)に記載のガラス積層体。
(4)前記樹脂層の厚さが5〜50μmである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のガラス積層体。
(5)前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板との線膨張係数の差が150×10−7/℃以下である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のガラス積層体。
(6)前記支持ガラス基板が前記凹陥部を3箇所以上有し、前記凹陥部の各々を頂点とする多角形の重心と、前記薄板ガラス基板の重心とが一致する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のガラス積層体。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のガラス積層体における前記薄板ガラス基板の第2主面に表示装置用部材を有する、支持体付き表示装置用パネル。
(8)上記(7)に記載の支持体付き表示装置用パネルを用いて形成される表示装置用パネル。
(9)上記(8)に記載の表示装置用パネルを有する表示装置。
【0017】
(10)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のガラス積層体の製造方法であって、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を形成する凹陥部形成工程と、前記支持ガラス基板の第1主面上に易剥離性を有する樹脂層を形成し固定する樹脂層形成工程と、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する密着工程とを具備する、ガラス積層体の製造方法。
(11)前記凹陥部形成工程が、各々の凹陥部を頂点とする多角形の重心が前記支持ガラス基板の重心と一致するように、前記支持ガラス基板に3箇所以上凹陥部を形成する工程である、上記(10)に記載のガラス積層体の製造方法。
(12)前記密着工程が、チャンバー内に配設され、基台表面から上側へ突出可能で下側への力を加えることで基台内部へ収納可能な3個以上のピンを有する基台であって、前記基台表面における前記ピンの相互の位置関係が、前記支持ガラス基板が有する凹陥部の位置関係と同一である前記基台の上に、前記ピンの位置と前記凹陥部の位置とが重なるように前記樹脂層が固定された前記支持ガラス基板を、前記樹脂層を上側として載置し、次に、前記薄板ガラス基板と前記樹脂層とが隙間を保持しつつ対向するように、上側へ突出した前記ピンの上へ前記薄板ガラス基板を載置し、次に、前記薄板ガラス基板および前記支持ガラス基板が存するチャンバー内空間を負圧状態にし、その後、加圧手段によって前記薄板ガラス基板を上側から下側へ押すことによって、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する工程である、上記(10)または(11)に記載のガラス積層体の製造方法。
(13)前記密着工程において、前記ピンの各々を頂点とする多角形の前記基台表面における重心と、前記薄板ガラス基板の第1主面における重心とが一致している、上記(10)〜(12)のいずれかに記載のガラス積層体の製造方法。
(14)上記(10)〜(13)のいずれかに記載の製造方法に、さらに、得られたガラス積層体における前記薄板ガラス基板の第2主面に、表示装置用部材を形成する工程を具備する、支持体付き表示装置用パネルの製造方法。
(15)上記(14)に記載の製造方法に、さらに、得られた支持体付き表示装置用パネルにおける前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを、前記凹陥部を起点として分離する分離工程を具備する、表示装置用パネルの製造方法。
(16)上記(15)に記載の製造方法に、さらに、得られた表示装置用パネルを用いて表示装置を得る工程を具備する、表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により得られたガラス基板は、密着した薄板ガラス基板と樹脂層とを容易かつ短時間に分離することができる。そして、分離された薄板ガラス基板は、既存の表示装置用パネルの製造ラインで処理することができる。さらに、本発明のガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板間へ混入した気泡や塵介等の異物によるガラス欠陥の発生や、エッチピットの発生を抑制できる。
その結果、ガラス基板間に気泡がほぼ存在しないガラス積層体を、簡易かつ経済的に製造することできる方法を提供することができる。
また、このようなガラス積層体を含む支持体付き表示装置用パネルを提供することができる。また、このような支持体付き表示装置用パネルを用いて形成される表示装置用パネルおよび表示装置を提供することができる。
さらに、このような支持体付き表示装置用パネル、表示装置用パネルおよび表示装置を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明について説明する。
本発明は、第1主面および第2主面を有する薄板ガラス基板、第1主面および第2主面を有する支持ガラス基板、ならびに易剥離性を有する樹脂層を有し、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面に固定された前記樹脂層が密着しているガラス積層体であって、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を1箇所以上有するガラス積層体である。
このようなガラス積層体を、以下では「本発明の積層体」ともいう。
【0020】
本発明の積層体について図を用いて説明する。
図1は、本発明の積層体の一態様を示す概略正面図であり、図2はそのA−A’断面図(概略断面図)である。
ここで説明する本発明の積層体の一態様を、以下では「態様1」ともいう。
【0021】
態様1において本発明の積層体10は、薄板ガラス基板12、支持ガラス基板13ならびに樹脂層14を有し、両ガラス基板で樹脂層14を挟むように積層している。
そして、図1に示すように、正面から見ると、薄板ガラス基板12、樹脂層14および支持ガラス基板13は各々矩形であり、薄板ガラス基板12の主面面積は樹脂層14の表面面積と同程度であるが、支持ガラス基板13の主面面積よりも小さい。そして、薄板ガラス基板12および樹脂層14は、正面から見た場合に、支持ガラス基板13の内側に収まるように位置している。
【0022】
また、樹脂層14は支持ガラス基板13の第1主面に固定されており、薄板ガラス基板12の第1主面に密着している。また、樹脂層14は薄板ガラス基板12の第1主面に対して易剥離性を具備している。ここで、薄板ガラス基板12が有する2つの主面のうちの支持ガラス基板13の側(樹脂層14の側)の主面が第1主面であり、反対側の主面が第2主面である。また、支持ガラス基板13が有する2つの主面のうちの薄板ガラス基板12の側(樹脂層14が存在する側)の主面が第1主面であり、反対側の主面が第2主面である。
【0023】
そして、態様1における本発明の積層体10は、支持ガラス基板13の端部に凹陥部15を2箇所有している。態様1の場合は、正面から見た場合の支持ガラス基板13が有する四辺の中の一辺に、2箇所の凹陥部15を有している。また、態様1において凹陥部15は正面から見た場合に楕円形の半分の形状となっている。また、凹陥部15は支持ガラス基板13の端部のみならず、樹脂層14にも形成されている。
【0024】
次に、本発明の積層体の別の態様について説明する。
図3は、本発明の積層体の別の一態様を示す概略正面図であり、図4はそのB−B’断面図(概略断面図)である。
ここで説明する本発明の積層体の一態様を、以下では「態様2」ともいう。
態様2は態様1と同様の態様であるが、態様2は態様1と比較して、凹陥部の面積がやや狭く、樹脂層24に凹陥部25が形成されていない点で異なる。
態様2のその他の部分については、態様1と同様である。
【0025】
本発明の積層体は、例えば上記のような態様1、2のガラス積層体である。
【0026】
次に、本発明の積層体が有する薄板ガラス基板、支持ガラス基板、樹脂層および凹陥部の各々について説明する。
【0027】
薄板ガラス基板について説明する。
薄板ガラス基板の厚さ、形状、大きさ、物性(熱収縮率、表面形状、耐薬品性等)、組成等は特に限定されず、例えば従来のLCD、OLED等の表示装置用のガラス基板と同様であってよい。
【0028】
薄板ガラス基板の厚さは特に限定されないが、0.7mm未満であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましい。また、0.05mm以上であることが好ましく、0.07mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
薄板ガラスの形状は限定されないが、矩形であることが好ましい。
【0030】
薄板ガラスの大きさは限定されないが、例えば矩形の場合は100〜2000mm×100〜2000mmであってよく、500〜1000mm×500〜1000mmであることが好ましい。
【0031】
このような好ましい厚さおよび好ましい大きさであっても、本発明の積層体は薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを容易に剥離することができる。
【0032】
薄板ガラス基板の熱収縮率、表面形状、耐薬品性等の特性も特に限定されず、製造する表示装置の種類により異なる。
ただし、薄板ガラス基板の熱収縮率は小さいことが好ましい。具体的には熱収縮率の指標である線膨張係数が150×10−7/℃以下であるものを用いることが好ましく、100×10−7/℃以下であることがより好ましく、45×10−7/℃以下であることがさらに好ましい。その理由は熱収縮率が大きいと高精細な表示装置を作り難くなるためである。
なお、本発明において線膨張係数はJIS R3102(1995年)に規定のものを意味する。
【0033】
薄板ガラス基板の組成は、例えばアルカリガラスや無アルカリガラスと同様であってよい。中でも、熱収縮率が小さいことから無アルカリガラスであることが好ましい。
【0034】
次に、支持ガラス基板について説明する。
支持ガラス基板は樹脂層を介して薄板ガラス基板を支持し、薄板ガラス基板の強度を補強する。
また、支持ガラス基板はその端部に凹陥部を1箇所以上有する。「端部」とは支持ガラス基板の端面付近の部分であり、正面から見た場合の外縁部分でもある。凹陥部については後述する。
【0035】
支持ガラス基板の厚さ、形状、大きさ、物性(熱収縮率、表面形状、耐薬品性等)、組成等は特に限定されない。
【0036】
支持ガラス基板の厚さは特に限定されないが、本発明の積層体を現行の表示装置用パネルの製造ラインで処理できる厚さとする厚さであることが必要である。
例えば0.1〜1.1mmの厚さであることが好ましく、0.3〜0.8mmであることがより好ましく、0.4〜0.7mmであることがさらに好ましい。
例えば、現行の製造ラインが厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、薄板ガラス基板の厚さが0.1mmである場合、支持ガラス基板の厚さと樹脂層の厚さとの和を0.4mmとする。また、現行の製造ラインは厚さが0.7mmのガラス基板を処理するように設計されているものが最も一般的であるが、例えば薄板ガラス基板の厚さが0.4mmならば、支持ガラス基板の厚さと樹脂層の厚さとの和を0.3mmとする。
支持ガラス基板の厚さは、前記薄板ガラス基板よりも厚いことが好ましい。
【0037】
支持ガラス基板の形状は限定されないが、矩形であることが好ましい。
【0038】
支持ガラス基板の大きさは限定されないが、前記薄板ガラス基板と同程度であることが好ましく、前記薄板ガラス基板よりもやや大きい(縦方向または横方向の各々が0.05〜10mm程度大きい)ことが好ましい。理由は、表示装置用パネル製造時の位置決めピン等のアライメント装置の接触から前記薄板ガラス基板の端部を保護しやすいこと、および薄板ガラス基板と支持ガラス基板との剥離をより容易に行うことができるからである。
【0039】
支持ガラス基板は線膨張係数が前記薄板ガラス基板と実質的に同一であってよく、異なってもよい。実質的に同一であると、本発明の積層体を熱処理した際に、薄板ガラス基板または支持ガラス基板に反りが発生し難い点で好ましい。
薄板ガラス基板と支持ガラス基板との線膨張係数の差は150×10−7/℃以下であることが好ましく、100×10−7/℃以下であることがより好ましく、50×10−7/℃以下であることがさらに好ましい。
【0040】
支持ガラス基板の組成は、例えばアルカリ金属酸化物を含有するガラス、無アルカリガラスと同様であってよい。中でも、熱収縮率が小さいことから無アルカリガラスであることが好ましい。
【0041】
次に、樹脂層について説明する。
本発明の積層体において樹脂層は、前記支持ガラス基板の第1主面に固定されている。そして、樹脂層は、前記薄板ガラス基板の第1主面と密着しているが、容易に剥離することができる。すなわち樹脂層は、前記薄板ガラス基板に対して易剥離性を有する。
本発明の積層体において、樹脂層と薄板ガラス基板とは粘着剤が有するような粘着力によっては付いておらず、固体分子間におけるファンデルワールス力に起因する力、すなわち、密着力によって付いている。
【0042】
樹脂層の厚さは特に限定されない。5〜50μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、7〜20μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚さがこのような範囲であると、薄板ガラス基板と樹脂層との密着が十分になるからである。また、気泡や異物が介在しても、薄板ガラス基板のゆがみ欠陥の発生を抑制することができるからである。また、樹脂層の厚さが厚すぎると、形成するのに時間および材料を要するため経済的ではない。
なお、樹脂層は2層以上からなっていてもよい。この場合「樹脂層の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
また、樹脂層が2層以上からなる場合は、各々の層を形成する樹脂の種類が異なってもよい。
【0043】
樹脂層は表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以下であることがより好ましく、22mN/m以下であることがさらに好ましい。このような表面張力であると、より容易に薄板ガラス基板と剥離することができ、同時に薄板ガラス基板との密着も十分になるからである。
【0044】
また、樹脂層はガラス転移点が室温(25℃程度)よりも低い、またはガラス転移点を有しない材料からなることが好ましい。非粘着性の樹脂層となり、より易剥離性を有し、より容易に薄板ガラス基板と剥離することができ、同時に薄板ガラス基板との密着も十分になるからである。
【0045】
また、樹脂層は耐熱性を有していることが好ましい。例えば前記薄板ガラス基板の第2主面上に表示装置用部材を形成する場合に、本発明の積層体を熱処理に供し得るからである。
【0046】
また、樹脂層の弾性率が高すぎると薄板ガラス基板との密着性が低くなる傾向にある。また弾性率が低すぎると易剥離性が低くなる。
【0047】
樹脂層を形成する樹脂の種類は特に限定されない。例えばアクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂およびシリコーン樹脂が挙げられる。いくつかの種類の樹脂を混合して用いることもできる。中でもシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂は耐熱性に優れかつ薄板ガラス基板に対する易剥離性に優れるためである。また、支持ガラス基板表面のシラノール基との縮合反応によって支持ガラス基板に固定し易いからである。シリコーン樹脂層は例えば300〜400℃程度で1時間程度処理しても、易剥離性がほぼ劣化しない点も好ましい。
【0048】
また、樹脂層はシリコーン樹脂の中でも剥離紙用シリコーンからなることが好ましく、その硬化物であることが好ましい。剥離紙用シリコーンは直鎖状のジメチルポリシロキサンを分子内に含むシリコーンを主剤とするものである。この主剤と架橋剤とを含む組成物を、触媒、光重合開始剤等を用いて前記支持ガラス基板の表面(第1主面)に硬化させて形成した樹脂層は、優れた易剥離性を有するので好ましい。また、柔軟性が高いので、薄板ガラス基板と樹脂層との間へ気泡や塵介等の異物が混入しても、薄板ガラス基板のゆがみ欠陥の発生を抑制することができる。
【0049】
このような剥離紙用シリコーンは、その硬化機構により縮合反応型シリコーン、付加反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーンおよび電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用することができる。これらの中でも付加反応型シリコーンが好ましい。硬化反応のし易さ、樹脂層を形成した際に易剥離性の程度が良好で、耐熱性も高いからである。
【0050】
また、剥離紙用シリコーンは形態的に溶剤型、エマルジョン型および無溶剤型があり、いずれの型も使用可能である。これらの中でも無溶剤型が好ましい。生産性、安全性、環境特性の面が優れるからである。また、樹脂層を形成する際の硬化時、すなわち、加熱硬化、紫外線硬化または電子線硬化の時に発泡を生じる溶剤を含まないため、樹脂層中に気泡が残留しにくいからである。
【0051】
また、剥離紙用シリコーンとして、具体的には市販されている商品名または型番としてKNS−320A,KS−847(いずれも信越シリコーン社製)、TPR6700(GE東芝シリコーン社製)、ビニルシリコーン「8500」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11364」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11365」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ等が挙げられる。なお、KNS−320A、KS−847およびTPR6700は、あらかじめ主剤と架橋剤とを含有しているシリコーンである。
【0052】
また、樹脂層を形成するシリコーン樹脂は、シリコーン樹脂層中の成分が薄板ガラス基板に移行しにくい性質、すなわち低シリコーン移行性を有することが好ましい。
【0053】
次に、凹陥部について説明する。
本発明のガラス積層体は、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を1箇所以上有する。
前記支持ガラス基板の端面(2つの主面以外の4つの面)の一部分を削ったり、端部の一部分を切出したりして凹陥部を形成した本発明のガラス積層体は、支持ガラス基板を剥離したい場合に凹陥部を手掛かりとして剥離することができる。具体的には、例えば凹陥部に鋭利な刃物状のものを差込んだり、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。
【0054】
凹陥部の形状について図を用いて説明する。図5(a)は図1の凹陥部15の部分(C)を拡大した図である。図5(a)では支持ガラス基板13とその凹陥部15のみ示しており、図1に示されている薄板ガラス基板12および樹脂層14は記載を省略している。また、図5(b)は図5(a)に記す凹陥部15と、やや異なる形状の凹陥部15’を示している。
【0055】
図5(a)は正面図であり、前述のように凹陥部15は楕円形の半分の形状となっている。凹陥部15は支持ガラス基板13から端部を楕円形の半分の形状に切出して形成したものであり、凹陥部15と支持ガラス基板13の端面との境界に角3が形成されている。図5(b)に記す凹陥部15’は、図5(a)に記す凹陥部15が有する角3が削り取られた形状を有している。
【0056】
凹陥部の形状は図5(a)、図5(b)以外であってよく、特に限定されない。例えば三角形、矩形、多角形、半円形等であってもよい。ただし図5(a)に記した楕円形の半分の形状であることが好ましく、図5(b)に記した、さらに角をなくした形状であることがより好ましい。このような形状の凹陥部は比較的容易に形成することができ、また、本発明の積層体の取り扱い時において欠け難いからである。また、凹陥部は支持ガラス基板の面取り用の砥石を用いて端面を削り出すことによって、賦形が可能である。
【0057】
凹陥部の大きさについて説明する。凹陥部の大きさは特に限定されないが、大き過ぎると薄板ガラス基板における支持ガラス基板に支持されていない部分が多くなるので、薄板ガラス基板の当該部分(エッジ)に工程装置が接触した場合に破損に繋がりやすい。また、小さ過ぎると剥離の際に十分な手掛かりとして用いることが困難になる。凹陥部の端部における幅は1mm〜50mmであることが好ましく、5mm〜30mmであることがより好ましい。ここで凹陥部の幅とは、図5(a)、(b)においてX、Xで示す線分の長さをいう。すなわち、支持ガラス基板13(13’)の端面と凹陥部15(15’)との境界(図5(a)では「角3」で示される2点)の間を結ぶ線分X、Xの長さを意味する。
また、凹陥部の深さはあまり深くまで入り込んでいると、薄板ガラス基板の表示装置形成領域に到達し、加熱工程においてその部分のみ熱容量が異なる結果となる。しかし、あまり浅いと剥離の際に十分な手掛かりとして用いることが困難になる。そこで、凹陥部の深さは5mm〜50mmであることが好ましく、10mm〜30mmであることがより好ましい。ここで凹陥部の深さとは、図5(a)、(b)において、凹陥部の境界線に接する直線(接線)であって線分XまたはXに平行な直線と線分XまたはXとの距離であるYまたはYを意味するものとする。
【0058】
また、凹陥部の面積は特に限定されない。しかし、大き過ぎると薄板ガラス基板における支持ガラス基板に支持されていない部分が多くなるので、薄板ガラス基板の当該部分(エッジ)に工程装置が接触した場合に破損に繋がりやすい。また、小さ過ぎると剥離の際に十分な手掛かりとして用いることが困難になる。1箇所につき5mm2以上であることが好ましく、25mm2以上であることがより好ましく、50mm2以上であることがさらに好ましい。また、1箇所につき2500mm2以下であることが好ましく、1500mm2以下であることがより好ましく、900mm2以下であることがさらに好ましい。ここで凹陥部の面積とは図5(a)、(b)において、凹陥部と支持ガラス基板13(13’)との境界線および線分X(X)によって囲まれた部分の面積を意味するものとする。
【0059】
凹陥部が設けられる位置と個数については特に制限はないが、本発明の積層体の1枚につき3〜4個であることが好ましい。また、本発明の積層体を正面から見た場合に本発明の積層体が有する四辺のうちの向い合う一組の二辺に、各々2個づつ凹陥部が設けられていることが好ましい。
例えば図6(a)〜(c)のような態様であること好ましい。図6(a)〜(c)は本発明の積層体の概略正面図である。これらの図では理解を容易にするために支持ガラス基板とそこに形成された凹陥部のみを記している。図6(a)における態様では、支持ガラス基板33aが凹陥部を3個(35a1、35a2、35a3)有している。各々の凹陥部は、支持ガラス基板が有する四辺のうちの三辺の各々に1個ずつ存在している。図6(b)における態様では、支持ガラス基板33bが凹陥部を4個(35b1、35b2、35b3、35b4)有している。各々の凹陥部は、支持ガラス基板が有する四辺のうちの向い合う一組の辺(二辺)の各々に2個ずつ存在している。図6(c)における態様では、支持ガラス基板33cが凹陥部を4個(35c1、35c2、35c3、35c4)有している。各々の凹陥部は、支持ガラス基板が有する4個の角の部分に各々に存在している。
また、本発明の積層体は、支持ガラス基板が凹陥部を3箇所以上有し、凹陥部の各々を頂点とする多角形の重心と、薄板ガラス基板の重心とが一致することが好ましい。
【0060】
また、凹陥部の間隔は500mm以下であることが好ましく、300mm以下であることがより好ましい。隣り合う凹陥部が500mm超離れると剥離操作がスムーズに行えない可能性が生ずるからである。ここで「凹陥部の間隔」とは、支持ガラス基板を正面から見た場合の四辺上における隣合う凹陥部間の距離を意味するものとする。すなわち、支持ガラス基板の辺に沿って測定される二つの凹陥部の端部間の最短距離である。なお、前記の「凹陥部の端部」とは、凹陥部と支持ガラス基板の辺(直線)との交点にあたる位置をいう。
この距離について図7を用いて説明する。図7は凹陥部を3つ有する本発明の積層体の概略正面図である。図7では薄板ガラス基板および樹脂層の記載は省略している。図7に示す態様の本発明の積層体は、一辺上に2つの凹陥部(451、452)が形成されており、この辺に隣り合う別の辺上に別の凹陥部(453)が形成されている。そして、各々の凹陥部は図1、図5(a)で説明した凹陥部と同様の形状(楕円形の半分の形状)を有しており、図5(a)において「角3」として示した角と同様の角(41a、41b、42a、42b、43a、43b)を有している。図7に示すように凹陥部451および凹陥部452が各々有する2つの角のうち左側が角41aおよび角42aであり、右側が角41bおよび角42bである。また、凹陥部453が有する2つの角のうち凹陥部452に近い側が角43bであり、遠い側が角43aである。このような図7に示される本発明の積層体において、凹陥部451と凹陥部452との距離(間隔)は、各々の凹陥部が有する角の間の距離を意味するものとする。すなわち角41aと角42bとの距離Za1が凹陥部451と凹陥部452との距離(間隔)である。また、凹陥部452と凹陥部453との距離は、支持ガラス基板の辺上における角42aと角43bとの距離であり、距離Za2と距離Za3とを合計した距離を意味するものとする。
凹陥部が角を有さない形状(例えば図5(b)に示した形状)の場合でも、支持ガラス基板の端面と凹陥部との境界を上記の角とみなして、凹陥部間の距離を求めるものとする。
【0061】
このような本発明の積層体における前記薄板ガラス基板の第2主面に、表示装置用部材を形成することで支持体付き表示装置用パネルを得ることができる。
表示装置用部材とは、従来のLCD、OLED等の表示装置用のガラス基板がその表面に有する発光層、保護層、カラーフィルタ、液晶、ITOからなる透明電極等、各種回路パターン等を意味する。
本発明の支持体付き表示装置用パネルには、例えば、TFTアレイ(以下、単に「アレイ」という。)が薄板ガラス基板の第2主面に形成された本発明の支持体付き表示装置用パネル薄板ガラス基板に、さらにカラーフィルタが形成された他のガラス基板(例えば0.3mm以上程度の厚さのガラス基板)が貼り合わされたものも含まれる。
【0062】
また、このような支持体付き表示装置用パネルから、表示装置用パネルを得ることができる。支持体付き表示装置用パネルから、上記で説明したように凹陥部を剥離の手掛かりとすることで、薄板ガラス基板と支持ガラス基板に固定されている樹脂層とを剥離して、表示装置用部材および薄板ガラス基板を有する表示装置用パネルを得ることができる。
【0063】
また、このような表示装置用パネルから表示装置を得ることができる。表示装置としてはLCD、OLEDが挙げられる。LCDとしてはTN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型が挙げられる。
【0064】
次に、本発明の積層体の製造方法を説明する。
本発明の積層体の製造方法は特に限定されないが、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を形成する凹陥部形成工程と、前記支持ガラス基板の第1主面上に易剥離性を有する樹脂層を形成し固定する樹脂層形成工程と、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する密着工程とを具備する、ガラス積層体の製造方法であることが好ましい。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0065】
本発明の製造方法で用いる前記薄板ガラス基板および前記支持ガラス基板自体の製造方法は特に限定されない。例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば従来公知のガラス原料を溶解し溶融ガラスとした後、フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等によって板状に成形して得ることができる。
【0066】
本発明の製造方法における凹陥部形成工程について説明する。
凹陥部形成工程は、前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を形成する工程である。
凹陥部形成工程では、支持ガラス基板を所定の大きさおよび形状(例えば矩形)に切断した後、凹陥部を形成する。例えばダイヤモンド製の砥石を用いて凹陥部形状を削り出すことが好ましい。その後、通常の方法でこば面を同様の砥石で面取り加工する。続いて、洗浄機にて面取り、凹陥部が形成された支持ガラス基板を洗浄する。
【0067】
ここで、形成された各々の凹陥部を頂点とする多角形の重心が前記支持ガラス基板の重心と一致するように、前記支持ガラス基板に3箇所以上凹陥部を形成することが好ましい。後の密着工程における薄板ガラス基板の密着を、精度よく行うことができるからである。
【0068】
次に、樹脂層形成工程について説明する。
前記支持ガラス基板の表面(第1主面)に樹脂層を形成する方法も特に限定されない。
例えばフィルム状の樹脂を支持ガラス基板の表面に接着する方法が挙げられる。具体的にはフィルムの表面と高い接着力を付与するために、支持ガラス基板の表面に表面改質処理(プライミング処理)を行い、支持ガラス基板の第1主面に接着する方法が挙げられる。例えば、シランカップリング剤のような化学的に密着力を向上させる化学的方法(プライマー処理)や、フレーム(火炎)処理のように表面活性基を増加させる物理的方法、サンドブラスト処理のように表面の粗度を増加させることにより引っかかりを増加させる機械的処理方法などが例示される。
【0069】
また、例えば公知の方法によって樹脂層となる樹脂組成物を支持ガラス基板の第1主面上にコートする方法が挙げられる。公知の方法としてはスプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法が挙げられる。このような方法の中から、樹脂組成物に種類に応じて適宜選択することができる。
例えば、無溶剤型の剥離紙用シリコーンを樹脂組成物として用いた場合、ダイコート法、スピンコート法またはスクリーン印刷法が好ましい。
【0070】
また、樹脂組成物を支持ガラス基板の第1主面上にコートする場合、その塗工量は1〜100g/mであることが好ましく、5〜20g/mであることがより好ましい。
例えば付加反応型シリコーンから樹脂層を形成する場合、直鎖状のジメチルポリシロキサンを分子内に含むシリコーン(主剤)、架橋剤および触媒を含む樹脂組成物を、上記のスプレーコート法等の公知の方法により支持ガラス基板上に塗工し、その後に加熱硬化させる。加熱硬化条件は、触媒の配合量によっても異なるが、例えば、主剤および架橋剤の合計量100質量部に対して、白金系触媒を2質量部配合した場合、大気中で50℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃で反応させる。また、この場合の反応時間は5〜60分間、好ましくは10〜30分間とする。低シリコーン移行性を有するシリコーン樹脂層とするためには、シリコーン樹脂層中に未反応のシリコーン成分が残らないように硬化反応をできるだけ進行させることが好ましい。上記のような反応温度および反応時間であると、シリコーン樹脂層中に未反応のシリコーン成分が残らないようにすることができるので好ましい。上記した反応時間よりも長すぎたり反応温度が高すぎる場合には、シリコーン樹脂の酸化分解が同時に起こり低分子量のシリコーン成分が生成して、シリコーン移行性が高くなる可能性がある。シリコーン樹脂層中に未反応のシリコーン成分が残らないように硬化反応をできるだけ進行させることは、加熱処理後の剥離性を良好にするためにも好ましい。
【0071】
また、例えば樹脂層を剥離紙用シリコーンを用いて製造した場合、支持ガラス基板上に塗工した剥離紙用シリコーンを加熱硬化してシリコーン樹脂層を形成した後、密着工程で支持ガラス基板のシリコーン樹脂形成面に薄板ガラス基板を積層させる。剥離紙用シリコーンを加熱硬化させることによって、シリコーン樹脂硬化物が支持ガラスと化学的に結合する。また、アンカー効果によってシリコーン樹脂層が支持ガラスと結合する。これらの作用によって、シリコーン樹脂層が支持ガラス基板に強固に固定される。
【0072】
なお、本発明の製造方法において、凹陥部形成工程と樹脂層形成工程との順番は特に限定されない。支持ガラス基板に凹陥部を形成した後に樹脂層を形成してもよいし、樹脂層を形成した後に凹陥部を形成してもよい。後者の場合、凹陥部が樹脂層にまで達していてもよい。
【0073】
密着工程について説明する。
密着工程は、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する工程である。薄板ガラス基板と樹脂層とは、非常に近接した、相対する固体分子間におけるファンデルワールス力に起因する力、すなわち、密着力によって樹脂層と密着する。この場合、支持ガラス基板と薄板ガラス基板と樹脂層を介して積層させた状態に保持することができる。
【0074】
支持ガラス基板に固定された樹脂層の表面に薄板ガラス基板を積層させる方法は特に限定されない。例えば公知の方法を用いて実施することができる。例えば、常圧環境下で樹脂層の表面に薄板ガラス基板を重ねた後、ロールやプレスを用いて樹脂層と薄板ガラス基板とを圧着させる方法が挙げられる。ロールやプレスで圧着することにより樹脂層と薄板ガラス基板とがより密着するので好ましい。また、ロールまたはプレスによる圧着により、樹脂層と薄板ガラス基板との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると気泡の混入の抑制や良好な密着の確保がより好ましく行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微少な気泡が残存した場合でも加熱により気泡が成長することがなく、薄板ガラス基板のゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
【0075】
また、密着工程は、チャンバー内に配設され、基台表面から上側へ突出可能で下側への力を加えることで基台内部へ収納可能な3個以上のピンを有する基台であって、前記基台表面における前記ピンの相互の位置関係が、前記支持ガラス基板が有する凹陥部の位置関係と同一である前記基台の上に、前記ピンの位置と前記凹陥部との位置が重なるように前記樹脂層が固定された前記支持ガラス基板を、前記樹脂層を上側として載置し、次に、前記薄板ガラス基板と前記樹脂層とが隙間を保持しつつ対向するように、上側へ突出した前記ピンの上へ前記薄板ガラス基板を載置し、次に、前記薄板ガラス基板および前記支持ガラス基板が存するチャンバー内空間を負圧状態にし、その後、加圧手段によって前記薄板ガラス基板を上側から下側へ押すことによって、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する工程であることが好ましい。
このような好ましい密着工程について、図8、図9を用いて説明する。
【0076】
図8は、基台表面に樹脂層を有する支持ガラス基板が載置されていることを表す概略斜視図である。図9は真空チャンバーであって、その内部で、樹脂層を介して支持ガラス基板と薄板ガラス基板とを密着させることができる装置の概略断面図である。図9(a)は密着前の状態を示しており、図9(b)は密着後の状態を示している。
【0077】
図8において、基台50は、その表面から上側へ突出可能で下側への力を加えることで基台内部へ収納可能な4個のピン51を有している。ピン51の根元にはバネ等が取り付けられていて、上側から下側(基台内部側)へ力を加えるとバネ等が縮んで基台内部へ押し込むことができる。ピン51にはロック機構が備えられていて、基台内部へ押し込まれるとロックされ、ロックが解除されるまで基台内部に押し込まれた状態を保持することができる。
基台50の表面におけるピン51の相互の位置関係は、表面に載置された支持ガラス基板52が有する4つの凹陥部53の位置関係と同一であり、基台50の上に、ピン51の位置と凹陥部53との位置が重なるように支持ガラス基板52が載置されている。支持ガラス基板52の主面には樹脂層54が固定されており、樹脂層54が上側となるように支持ガラス基板52は基台50上に載置されている。
【0078】
次に図9(a)に示すように、上記のように載置した支持ガラス基板52の上側に薄板ガラス基板55を載置する。ここでピン51の高さ(基台50の表面から上側へ突き出している長さ)は、支持ガラス基板52と樹脂層54との厚さの合計よりも長いので、薄板ガラス基板55はピン51に支えられ、樹脂層54と接触せず、薄板ガラス基板55と樹脂層54とが隙間を保持しつつ対向する。
ここで、ピン51の各々を頂点とする多角形の基台50の表面における重心と、薄板ガラス基板55の重心とが一致することが好ましい。支持ガラス基板の重心と、薄板ガラス基板の重心とが一致している本発明の積層体を得ることができるからである。また、このような本発明の積層体を精度よく製造することができるからである。
【0079】
次に図9(b)に示すように、薄板ガラス基板55および支持ガラス基板52が存するチャンバー57の内部を減圧して負圧から真空の状態とし、その後、加圧手段56によって薄板ガラス基板55を上側から下側へ押すことによって、薄板ガラス基板55の第1主面に、支持ガラス基板52の第1主面上に固定された樹脂層54を密着することができる。このように負圧から真空の状態で密着することで、樹脂層の表面と薄板ガラス基板の第1主面との間に、気体が残存し難くなるので好ましい。特に、薄板ガラス基板の面積が大きい場合には効果的である。従来、このような真空積層プレス法では、薄板ガラス基板を上側の加圧手段に真空吸着して保持することができないので、非常に高価な静電吸着装置が適用されるが、本発明の製造方法では薄板ガラス基板をピンで支えるので、静電吸着装置と比較して非常に安価な装置とすることができる点で好ましい。
【0080】
密着工程では、支持ガラス基板の樹脂層の表面に薄板ガラス基板を積層させる際には、薄板ガラス基板の表面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。樹脂層と薄板ガラス基板との間に異物が混入しても、樹脂層が変形するので薄板ガラス基板の表面の平坦性に影響を与えることはないが、クリーン度が高いほどその平坦性は良好となるので好ましい。
【0081】
このような本発明の製造方法によって本発明の積層体を製造することができる。
【0082】
本発明の製造方法に、さらに、得られた本発明のガラス積層体における前記薄板ガラス基板の第2主面に、表示装置用部材を形成する工程を具備する製造方法によって、支持体付き表示装置用パネルを製造することができる。
ここで表示装置用部材は特に限定されない。例えばLCDが有するアレイやカラーフィルタが挙げられる。また、例えばOLEDが有する透明電極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が挙げられる。
【0083】
このような表示装置部材を形成する方法も特に限定されず、従来公知の方法と同様であってよい。
例えば表示装置としてTFT−LCDを製造する場合、従来公知のガラス基板上にアレイを形成する工程、カラーフィルタを形成する工程、アレイが形成されたガラス基板とカラーフィルタが形成されたガラス基板とをシール材等を介して貼り合わせる工程(アレイ・カラーフィルタ貼り合わせ工程)等の各種工程と同様であってよい。より具体的には、これらの工程で実施される処理として、例えば純水洗浄、乾燥、成膜、レジスト塗布、露光、現像、エッチングおよびレジスト除去が挙げられる。さらに、アレイ・カラーフィルタ貼り合わせ工程を実施した後に行われる工程として、液晶注入工程および該処理の実施後に行われる注入口の封止工程があり、これらの工程で実施される処理が挙げられる。
また、OLEDを製造する場合を例にとると、薄板ガラス基板の第2主面上に有機EL構造体を形成するための工程として、透明電極を形成する工程、ホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する工程、封止工程等の各種工程を含み、これらの工程で実施される処理として、具体的には例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。
このようにして支持体付き表示装置用パネルを製造することができる。
【0084】
また、このような支持体付き表示装置用パネルを得た後、さらに、得られた支持体付き表示装置用パネルにおける前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを、前記凹陥部を起点として分離する分離工程を具備する製造方法によって表示装置用パネルを得ることができる。
表示装置用パネルは、例えば上記のような本発明の製造方法によって得られる支持体付き表示装置用パネルにおける前記凹陥部を手掛かりにして、前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを分離する分離工程を具備する製造方法で製造することできる。剥離する方法は特に限定されない。具体的には、例えば凹陥部に鋭利な刃物状のものを差込んだり、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。好ましくは、前記支持体付き表示装置用パネルの支持ガラス基板が上側、パネル側が下側となるように定盤上に設置し、パネル側基板を定盤上に真空吸着し(両面に支持ガラス基板が積層されている場合は順次行う)、この状態でガラス積層体の凹陥部において薄板ガラス−樹脂層界面に水と圧縮空気の混合流体を噴きつけ、支持ガラス基板の端部を垂直上方へ引っ張り上げる。そうすると樹脂層とパネル側薄板ガラス基板との界面へ、その凹陥部から空気層が形成され、その空気層が界面の全面に広がり、支持ガラス基板を容易に剥離することができる(表示装置の前面側及び背面側の薄板ガラス基板の両方に支持ガラス基板が積層されている場合は本操作を片面ずつ繰り返す)。
【0085】
さらに、得られた表示装置用パネルを用いて表示装置を得る工程を具備する製造方法によって表示装置を製造することができる。
ここで表示装置を得る工程における操作は特に限定されず、例えば従来公知の方法で表示装置を製造することができる。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
図10に示す態様のガラス積層体を製造した。このガラス積層体は、前述の態様1と類似の態様である。
初めに縦720mm、横600mm、板厚0.4mm、線膨張係数38×10−7/℃の支持ガラス基板63(旭硝子株式会社製、AN100)に、自動面取り装置(CGE1300;シライテック社製)に幅15mm、深さ5mm、面積50mmの半楕円形の凹陥部65を2箇所形成した。その後、純水洗浄、UV洗浄して表面を清浄化した。
【0087】
次に、無溶剤付加反応型剥離紙用シリコーン100質量部と、白金系触媒2質量部との混合物を、支持ガラス基板63の第1主面上に縦715mm、横595mmの大きさで、スクリーン印刷機にて塗工した(塗工量30g/m)。そして、180℃にて30分間大気中で加熱硬化して厚さ20μmのシリコーン樹脂層64を得た。
【0088】
次に、縦720mm、横600mm、板厚0.3mm、線膨張係数38×10−7/℃の薄板ガラス基板62(旭硝子株式会社製、AN100)の第1主面(後にシリコーン樹脂層と接触させる側の面)を純水洗浄、UV洗浄して清浄化した。そして、支持ガラス基板63の第1主面上のシリコーン樹脂層64の表面と薄板ガラス基板62とを、室温下、真空プレスにて貼り合わせガラス積層体A(本発明の積層体60)を得た。
【0089】
このような実施例1に係るガラス積層体Aにおいて、薄板ガラス基板および支持ガラス基板は、シリコーン樹脂層と気泡を発生することなく密着しており、凸状欠点もなく平滑性も良好であった。
【0090】
次に、ガラス積層体Aを下記の剥離試験1に供し、剥離性を評価した。図11〜図13を用いて説明する。
<剥離試験1>
ガラス積層体Aを10枚製造した。そして、そのうちの1枚を、支持ガラス基板63が上側、薄板ガラス基板62が下側となるように定盤61の上に設置した後、薄板ガラス基板62を定盤上に真空吸着した(図11)。
この状態でガラス積層体Aの2箇所の凹陥部65において、薄板ガラス基板62と樹脂層64との界面に水と圧縮空気の混合流体69を噴きつけ(図12)、支持ガラス基板63の端部を垂直上方へ引っ張り上げた(図13)。すると、シリコーン樹脂層64と薄板ガラス基板62との界面へ、その凹陥部65から空気層が形成され、その空気層が界面の全面に広がり、容易に剥離することができた。
【0091】
この操作を残りの9枚のガラス積層体Aについて連続して行った。すると、10枚のガラス積層体Aについて20分以内に剥離作業を問題なく行うことができた。
【0092】
次に、さらにもう1枚のガラス積層体Aを用意した。そして、これを300℃で1時間大気中で加熱処理した。加熱処理に対する耐熱性は良好であった。
そして、上記と同様の剥離試験1に供した。この場合も同様に、剥離を問題なく行うことができた。
【0093】
(実施例2)
実施例2は実施例1と同様であるが、図14に示すように凹陥部の大きさを小さくし、樹脂層に凹陥部が到達していない支持ガラス基板を用いた。
初めに縦720mm、横600mm、板厚0.6mm、線膨張係数38×10−7/℃の支持ガラス基板73(旭硝子株式会社製、AN100)に、自動面取り装置(CGE1300;シライテック社製)に幅10mm、深さ3mm、面積21mmの半楕円形の凹陥部75を2箇所形成した。その後、純水洗浄、UV洗浄して表面を清浄化した。
【0094】
次に樹脂層74を形成するための樹脂として、両末端にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンとを用いた。そして、これを白金系触媒と混合して混合物を調製し、支持ガラス基板73の第1主面上に縦710mm、横595mmの大きさでスクリーン印刷機にて塗工し(塗工量20g/m)、180℃にて30分間大気中で加熱硬化して厚さ20μmのシリコーン樹脂層を形成した。ここで、ハイドロシリル基とビニル基のモル比は1/1となるように、直鎖状ポリオルガノシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとの混合比を調整した。白金系触媒は、直鎖状ポリオルガノシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとの合計100質量部に対して5質量部添加した。
【0095】
次に、薄板ガラス基板72として縦720mm、横600mm、厚さ0.1mm、線膨張係数38×10−7/℃のガラス基板(旭硝子株式会社製AN100)を用いて、支持ガラス基板73の第1主面上のシリコーン樹脂層74の表面と薄板ガラス基板72とを、室温下、真空プレスにて貼り合わせガラス積層体B(本発明の積層体70)を得た。
【0096】
このような実施例2に係るガラス積層体Bにおいて、薄板ガラス基板および支持ガラス基板は、シリコーン樹脂層と気泡を発生することなく密着しており、凸状欠点もなく平滑性も良好であった。
また、実施例1と同様にして剥離試験1を実施したところ、10枚のガラス積層体について30分以内に剥離作業を問題なく行うことができた。また、300℃で1時間大気中で加熱処理した場合のガラス積層体Bは、加熱処理に対する耐熱性は良好であった。さらに剥離性も良好であった。
【0097】
(実施例3)
図15に示す態様のガラス積層体を製造した。このガラス積層体は、前述の態様1と類似の態様である。
初めに縦720mm、横600mm、板厚0.4mm、線膨張係数38×10−7/℃の支持ガラス基板83(旭硝子株式会社製、AN100)に、自動面取り装置(CGE1300;シライテック社製)を用いて幅15mm、深さ5mm、面積50mmの半楕円形の凹陥部85を4箇所、それぞれ近傍の角から10mmの位置に形成した。その後、純水洗浄、UV洗浄して表面を清浄化した。
次に樹脂層84を実施例2と同様にして形成した。
そして、縦720mm、横600mm、板厚0.3mm、線膨張係数38×10−7/℃の薄板ガラス基板82(旭硝子株式会社製、AN100)の第1主面(後にシリコーン樹脂層と接触させる側の面)を純水洗浄、UV洗浄して清浄化した。そして、図16に示すミカドテクノス社製真空ヒータープレス装置(MKP−200TV−WH−ST)を用いて、常温にて積層した。
この積層方法について、図16およびその一部(E)を拡大した図である図17を用いて具体的に説明する。
【0098】
真空ヒータープレス装置100は基台90の表面から上側へ突出可能で下側への力を加えることで基台90の内部へ収納可能な4個のピン91を有している。ピン91の根元にはバネ101が取り付けられていて、上側から下側(基台内部側)へ力を加えるとバネ101が縮んで基台内部へ押し込まれる。ロック用ピン102aおよび凹部102bからなるロック機構102が備えられているので、ピン91が基台内部へ押し込まれると、根元のバネの作用でロック用ピン102aが凹部102bへ収まることでロックされ、ロックが解除されるまでピン91が基台内部に押し込まれた状態で保持される。
基台90の表面におけるピン91の相互の位置関係は、表面に載置される支持ガラス基板83が有する4つの凹陥部85の位置関係と同一である。
【0099】
このような真空ヒータープレス装置100の基台90の上に、ピン91の位置と凹陥部85との位置が重なるように支持ガラス基板83を載置した。ここで、支持ガラス基板83における樹脂層84が固定された面が上側となるようにした。すなわち、前述の図8に示したような状態となるように支持ガラス基板83および樹脂層84を載置した。
次に、図16(a)に示すように、4つのピン91の上に薄板ガラス基板82を静かにセットした。ここで薄板ガラス基板82の第1主面が下側になるようにした。
次に、図16(b)に示すように、加圧手段96を第1下降位置まで下げ、形成されたチャンバーを−100kPaまで減圧した。
次に、図16(c)に示すように、加圧手段96を第2加工位置まで下げ、薄板ガラス基板82の第1主面に支持ガラス基板83の第1主面上に固定された樹脂層84を密着させた。加圧手段96を第2加工位置まで下げた際にロック機構102が作用し、ピン91は基台90に押し込まれた状態で保持された。この状態で積層基板には300kN/mの圧力がかかっていた。そして、この状態を10秒間保持した後、真空を破壊し、加圧手段96を上昇させ、ガラス積層体80を取り出した。
このような実施例3に係るガラス積層体80において、薄板ガラス基板および支持ガラス基板は、シリコーン樹脂層と気泡を発生することなく密着しており、凸状欠点もなく平滑性も良好であった。
【0100】
(実施例4)
本例では、実施例2で得たガラス積層体Bを用いてLCDを製造する。
2枚のガラス積層体Bを準備して、1枚はアレイ形成工程に供して薄板ガラス基板の第2主面上にアレイを形成する。残りの1枚はカラーフィルタ形成工程に供して薄板ガラス基板の第2主面上にカラーフィルタを形成する。アレイが形成されたガラス積層体と、カラーフィルタが形成されたガラス積層体とをシール材を介して貼り合わせた後、片面ずつ上記剥離試験と同様に各積層体の凹陥部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、各々の支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板の表面には、強度低下につながるような傷はみられない。
続いて、ガラス基板を切断し、縦51mm×横38mmの168個のセルに分断した後、液晶注入工程および注入口の封止工程を実施して液晶セルを形成する。形成された液晶セルに偏光板を貼付する工程を実施し、続いてモジュール形成工程を実施してLCDを得る。こうして得られるLCDは特性上問題は生じない。
【0101】
(実施例5)
本例では、実施例1で得たガラス積層体Aを用いてLCDを製造する。
2枚のガラス積層体Aを準備して、1枚はアレイ形成工程に供して薄板ガラス基板の第2主面にアレイを形成する。残りの1枚はカラーフィルタ形成工程に供して薄板ガラス基板の第2主面にカラーフィルタを形成する。アレイが形成されたガラス積層体と、カラーフィルタが形成されたガラス積層体とをシール材を介して貼り合わせた後、片面ずつ上記剥離試験と同様に各積層体の凹陥部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、各々の支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板の表面には強度低下につながるような傷はみられない。
続いて、ケミカルエッチング処理によりそれぞれの薄板ガラス基板の厚さを0.15mmとする。ケミカルエッチング処理後の薄板ガラス基板の表面には光学的に問題となるようなエッチピットの発生はみられない。
その後、薄板ガラス基板を切断し、縦51mm×横38mmの168個のセルに分断した後、液晶注入工程および注入口の封止工程を実施して液晶セルを形成する。形成された液晶セルに偏光板を貼付する工程を実施し、続いてモジュール形成工程を実施してLCDを得る。こうして得られるLCDは特性上問題は生じない。
【0102】
(実施例6)
本例では、実施例2で得たガラス積層体Bと、厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板(旭硝子製AN−100)とを用いてLCDを製造する。
ガラス積層体Bを準備して、カラーフィルタ形成工程に供してガラス積層体の薄板ガラス基板の第2主面にカラーフィルタを形成する。一方、無アルカリガラス基板はアレイ形成工程に供して一方の主面上にアレイを形成する。
カラーフィルタが形成されたガラス積層体と、アレイが形成された無アルカリガラス基板とをシール材を介して貼り合わせた後、片面ずつ上記剥離試験と同様に各積層体の凹陥部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、各々の支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板表面には強度低下につながるような傷はみられない。
続いて、支持ガラス基板を分離したものを縦51mm×横38mmの168個のセルにレーザーカッタまたはスクライブ−ブレイク法を用いて分断する。その後、液晶注入工程および注入口の封止工程を実施して液晶セルを形成する。形成された液晶セルに偏光板を貼付する工程を実施し、続いてモジュール形成工程を実施してLCDを得る。こうして得られるLCDは特性上問題は生じない。
【0103】
(実施例7)
本例では、実施例2で得たガラス積層体Bを用いてOLEDを製造する。
透明電極を形成する工程、補助電極を形成する工程、ホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する工程、これらを封止する工程に供して、ガラス積層体の薄板ガラス基板上に有機EL構造体を形成する。次に積層体の凹陥部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、各々の支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板の表面には強度低下につながるような傷はみられない。
続いて、薄板ガラス基板をレーザーカッタまたはスクライブ−ブレイク法を用いて切断し、縦41mm×横30mmの288個のセルに分断した後、有機EL構造体が形成されたガラス基板と対向基板とを組み立てて、モジュール形成工程を実施してOLEDを作成する。こうして得られるOLEDは特性上問題は生じない。
【0104】
(比較例1)
凹陥部を設けない支持ガラスを用いたこと以外は、実施例1と同様とした試験を行った。得られた比較例1に係るガラス積層体Cは、シリコーン樹脂層と気泡を発生することなくガラス基板が密着しており、凸状欠点もなく平滑性も良好であった。
また、以下に示す剥離試験2に供した。
【0105】
<剥離試験2>
ガラス積層体Cを10枚製造した。そして、そのうちの1枚を、支持ガラス基板が上側、薄板ガラス基板が下側となるように定盤上に設置し、薄板ガラス基板を定盤上に真空吸着した。そして、薄板ガラス基板と樹脂層との端部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、徐々に端から剥離した。
この操作を連続して残りの9枚のガラス積層体Cについて行った。すると、10枚のガラス積層体について剥離作業を行うのに1時間を要した。このように凹陥部を有しないガラス積層体から支持ガラス基板を剥離することは可能ではあるが、剥離作業の効率が低いことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、本発明の積層体の一態様を示す概略正面図である。
【図2】図2は、図1のA−A’断面を示す概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の積層体の別の一態様を示す概略正面図である。
【図4】図4は、図3のB−B’断面を示す概略断面図である。
【図5】図5(a)、(b)は凹陥部の拡大図である。
【図6】図6(a)、(b)、(c)は本発明の積層体の概略正面図である。
【図7】図7は、本発明の積層体の概略正面図である。
【図8】図8は、好ましい密着工程を説明するための概略斜視図である。
【図9】図9(a)、(b)は、好ましい密着工程を説明するための概略断面図である(図8のD−D’端面を示す)。
【図10】図10は、実施例1の態様を説明するための概略正面図である。
【図11】図11は、剥離方法を説明するための概略断面図である。
【図12】図12は、剥離方法を説明するための概略断面図である。
【図13】図13は、剥離方法を説明するための概略断面図である。
【図14】図14は、実施例2の態様を説明するための概略断面図である。
【図15】図15は、実施例3の態様を説明するための概略正面図である。
【図16】図16は、実施例3の製造過程を説明するための概略断面図である。
【図17】図17は、図16の一部分(E)の拡大図である。
【符号の説明】
【0107】
10、20 本発明の積層体
12、22 薄板ガラス基板
13、23 支持ガラス基板
14、24 樹脂層
15、15’、25 凹陥部
3 角
、X 線分
、Y 凹陥部の深さ
33a、33b、33c 支持ガラス基板
35a1、35a2、35a3 凹陥部
35b1、35b2、35b3、35b4 凹陥部
35c1、35c2、35c3、35c4 凹陥部
451、452、453 凹陥部
41a、41b、42a、42b、43a、43b 角
a1、Za2、Za3 凹陥部間距離
50、90 基台
51、91 ピン
52 支持ガラス基板
53 凹陥部
54 樹脂層
55 薄板ガラス基板
56、96 加圧手段
57、97 チャンバー
60、70、80 本発明の積層体
62、72、82 薄板ガラス基板
63、73、83 支持ガラス基板
64、74、84 樹脂層
65、75、85 凹陥部
61 定盤
69 混合流体
100 真空ヒータープレス装置
101 バネ
102a ロック用ピン
102b 凹部
102 ロック機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および第2主面を有する薄板ガラス基板、第1主面および第2主面を有する支持ガラス基板、ならびに易剥離性を有する樹脂層を有し、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面に固定された前記樹脂層が密着しているガラス積層体であって、
前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を1箇所以上有するガラス積層体。
【請求項2】
前記凹陥部の面積が1箇所につき5mm2以上である、請求項1に記載のガラス積層体。
【請求項3】
前記樹脂層がアクリル樹脂層、ポリオレフィン樹脂層、ポリウレタン樹脂層またはシリコーン樹脂層である、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項4】
前記樹脂層の厚さが5〜50μmである、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス積層体。
【請求項5】
前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板との線膨張係数の差が150×10−7/℃以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス積層体。
【請求項6】
前記支持ガラス基板が前記凹陥部を3箇所以上有し、前記凹陥部の各々を頂点とする多角形の重心と、前記薄板ガラス基板の重心とが一致する、請求項1〜5のいずれかに記載のガラス積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガラス積層体における前記薄板ガラス基板の第2主面に表示装置用部材を有する、支持体付き表示装置用パネル。
【請求項8】
請求項7に記載の支持体付き表示装置用パネルを用いて形成される表示装置用パネル。
【請求項9】
請求項8に記載の表示装置用パネルを有する表示装置。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のガラス積層体の製造方法であって、
前記支持ガラス基板の端部に凹陥部を形成する凹陥部形成工程と、
前記支持ガラス基板の第1主面上に易剥離性を有する樹脂層を形成し固定する樹脂層形成工程と、
前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する密着工程とを具備する、ガラス積層体の製造方法。
【請求項11】
前記凹陥部形成工程が、
各々の凹陥部を頂点とする多角形の重心が前記支持ガラス基板の重心と一致するように、前記支持ガラス基板に3箇所以上凹陥部を形成する工程である、請求項10に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項12】
前記密着工程が、
チャンバー内に配設され、基台表面から上側へ突出可能で下側への力を加えることで基台内部へ収納可能な3個以上のピンを有する基台であって、前記基台表面における前記ピンの相互の位置関係が、前記支持ガラス基板が有する凹陥部の位置関係と同一である前記基台の上に、前記ピンの位置と前記凹陥部の位置とが重なるように前記樹脂層が固定された前記支持ガラス基板を、前記樹脂層を上側として載置し、
次に、前記薄板ガラス基板と前記樹脂層とが隙間を保持しつつ対向するように、上側へ突出した前記ピンの上へ前記薄板ガラス基板を載置し、
次に、前記薄板ガラス基板および前記支持ガラス基板が存するチャンバー内空間を負圧状態にし、
その後、加圧手段によって前記薄板ガラス基板を上側から下側へ押すことによって、前記薄板ガラス基板の第1主面に、前記支持ガラス基板の第1主面上に固定された前記樹脂層を密着する工程である、請求項10または11に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項13】
前記密着工程において、前記ピンの各々を頂点とする多角形の前記基台表面における重心と、前記薄板ガラス基板の第1主面における重心とが一致している、請求項10〜12のいずれかに記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法に、さらに、得られたガラス積層体における前記薄板ガラス基板の第2主面に、表示装置用部材を形成する工程を具備する、支持体付き表示装置用パネルの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法に、さらに、得られた支持体付き表示装置用パネルにおける前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを、前記凹陥部を起点として分離する分離工程を具備する、表示装置用パネルの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の製造方法に、さらに、得られた表示装置用パネルを用いて表示装置を得る工程を具備する、表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−18505(P2010−18505A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182537(P2008−182537)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】