説明

キャビンのダクト構造

【課題】トラクタ等に搭載するキャビンのダクト構造において、ダクトの部品点数を削減すると共にキャビンのフロントパネルの強度の向上を図る。
【解決手段】 キャビン9の前部に、該キャビン9の室内と室外を仕切るフロントパネル24が配備され、エアコン本体Aから送出される空調空気を案内する送風ダクト77が前記フロントパネル24に沿って上下方向に設けられ、フロントパネル24は、キャビン9の上下方向に延びるダクト形成部79を備え、前記送風ダクト77は、該ダクト形成部79と、該ダクト形成部79をキャビン9室内側から覆うダクト構成部材80とから形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等に搭載されるキャビンのダクト構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタのキャビンにおいては、キャビンの前部に操作部が配備されると共に後部に運転席が配備され、該操作部にキャビン内に向けてエアコンユニットからの空調空気を吹き出すダクト構造を配備したものが知られている。
例えば特許文献1においては、キャビンの後部にエアコン本体が配備され、該エアコン本体は、キャビンの底壁に形成された出口に連通され、該出口は床下送風ダクトに連通され、該床下送風ダクトはキャビン前部のダッシュボード内に形成された送風ダクトに連通され、該送風ダクトがダッシュボード上部に配備されたデフロスタ吹出口及び前面吹出口に連通されている土工車両のキャビン内空気調和装置が提案されている。
【特許文献1】実開昭60−127514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記送風ダクトは、床下送風ダクトとデフロスタ吹出口及び前面吹出口を連通すべくキャビンのフロントパネルに対向した位置に配備されるため、フロントパネルと送風ダクトを形成するための部材がそれぞれ必要となり、これによってキャビンの部品点数が増加すると共にコスト増となる問題があった。
また、前記フロントパネルは単板で形成されており、キャビンを構成する部材として強度の向上を図る必要があった。
そこで、本発明は、ダクトの部品点数を削減すると共にフロントパネルの強度を向上させることができるキャビンのダクト構造を提供するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、キャビンの前部に、該キャビンの室内と室外を仕切るフロントパネルが配備され、エアコン本体から送出される空調空気を案内する送風ダクトが前記フロントパネルに沿って上下方向に設けられたキャビンのダクト構造において、
前記フロントパネルは、キャビンの上下方向に延びるダクト形成部を備え、前記送風ダクトは、該ダクト形成部と、該ダクト形成部をキャビン室内側から覆うダクト構成部材とから形成されている点にある。
【0005】
これによれば、フロントパネルが送風ダクトを形成する部材を兼ねているため、これによって送風ダクトを形成する部品点数の削減が図られる。
また、フロントパネルはダクト構成部材によって補強されることとなり、これによってフロントパネルの強度が向上する。
また、本発明の他の技術的手段は、前記フロントパネルは平板により構成され、前記ダクト形成部は、該平板をプレス成型してなる点である。
これによれば、フロントパネルはプレス成型によって塑性変形されることとなり、該フロントパネルの強度がさらに向上することとなる。
【0006】
また、本発明の他の技術的手段は、前記送風ダクトは、その下端部がエアコン本体からの空調空気を該送風ダクトに送り出す送出しダクトに連結されると共に、その上端部が前記空調空気をキャビン内に吹き出す吹出しダクトに連結されている点である。
これによれば、送出しダクトを介してエアコン本体からの空調空気がキャビン前部まで送り込まれ、送風ダクト及び吹出しダクトを通じて前記空調空気をキャビン前部から後部に吹き出すことができる。
また、本発明の他の技術的手段は、前記送風ダクトには、キャビンの室内外を貫通する筒体が配備され、該筒体には、ステアリング機構の伝動軸が軸心廻りに回転自在に挿通され、該伝動軸のキャビン室外側の端部にパワステコントローラが連結され、該伝動軸のキャビン室内側の端部にステアリングハンドルが連結されている点である。
【0007】
これによれば、空調空気を案内する送風ダクトと、ステアリングハンドルの動きをパワステコントローラに伝達する伝動軸とを、キャビンの前部側に簡単な構造でコンパクトに配置することができるのである。
さらに、本発明の他の技術的手段は、前記エアコン本体は、キャビンの後部に配備され、前記送出しダクトは、キャビンの後部から前部に延出されてエアコン本体と送風ダクトとを連結する延出部を備え、キャビンの底部には、前記延出部を収容する収容部が凹設されており、該収容部に収容された延出部の上面は該収容部の上端縁と略面一若しくは該上端縁よりも下方に位置している点である。
【0008】
これによれば、キャビン内を移動し、或いはキャビンに乗降するオペレータの足場が前記延出部によって盛り上がることはなく、オペレータはキャビン内にて足元を気にすることなくスムーズに該キャビン内を移動し、或いはキャビンに乗降することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のキャビンのダクト構造によれば、ダクトの部品点数が削減されると共にフロントパネルの強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示す如く、本実施の形態に係るトラクタは、エンジン2と、フライホイールハウジング、クラッチハウジング、ミッションケース等からなる伝動ケース3とを連結してなる車体1を有し、該車体1の前部は左右一対の前輪6によって支持され、後部は左右一対の後輪7によって支持されている。該車体1の前部には、ラジエータやバッテリー等の車両機器が配備され、これら車両機器は開閉自在のボンネット8によって覆われている。また、車体1の後部にはキャビン9が搭載されている。
【0011】
図1及び図2に示す如く、キャビン9は、骨格となるキャビンフレーム11を有し、該キャビンフレーム11は、前部に配備された左右一対のフロントピラー12と、後部に配備された左右一対のリアピラー13と、左右一対のフロントピラー12の上端を連結するフロントルーフビーム15と、左右一対のリアピラー13の上端を連結するリアルーフビーム16と、左右方向で同じ側にあるフロントピラー12とリアピラー13の上端を連結する左右一対のサイドルーフビーム17と、左右一対のリアピラー13の下端を連結するリアミドルビーム18と、左右各リアピラー13の下端側から前下方に向けてキャビン9底部にまで延びる左右一対のサイドフレーム19とを備えている。
【0012】
該左右一対のサイドフレーム19は、後輪7に略沿うように前上方に向けて凸湾曲状の湾曲部と、該湾曲部の先端からフロントピラー12の下端側に延びる横架部とから構成されている。
キャビン9の上部側背面には、リアルーフビーム16とリアミドルビーム18とを連結する左右一対の上背面ピラー20が配置され、キャビン9の下部側背面には、リアミドルビーム18からキャビン9の底部に向けて延びる左右一対の下背面ピラー21が配備されている。
【0013】
該左右一対の下背面ピラー21の下端部にはそれぞれ、車体1の前後方向に沿って延びるサイドフロアビーム22が配置されている。
また、図2及び図3に示す如く、左右一対のフロントピアー12の下端部には、対向するフロントピアー12に向けて延びるフロントフロアビーム23が連結されており、前記左右一対のサイドフロアビーム22の先端部は、フロントピアー12の下端部から左右方向で同じ側にあるフロントフロアビーム23の左右方向中途部に連結されている。
また、左右一対のフロントピアー12の間には、キャビン9の室内と室外を仕切る板状のフロントパネル24が該左右一対のフロントピアー12の間の左右方向中央部且つ上下方向やや下方に配備されており、該フロントパネル24の側下端部はそれぞれ、左右方向で同じ側となるフロントフロアビーム23に連結されている。
【0014】
図1に示す如く、左右各サイドフロアビーム22の前端側は、伝動ケース3の前部の側部に設けられたブラケット26にマウントゴム(防振ゴム)を介して取付支持され、左右下背面ピラー21の下部に固定されたブラケット28は、後車軸を支持する後車軸ケースに取付固定された支持台29にマウントゴムを介して取付支持されており、これによってキャビン9が車体1に支持されている。
また、左右一対のフロントピラー12間にはフロントウインド31が設けられ、左右方向で同じ側にあるフロントピラー12とリアピラー13との間は乗降口とされ、該フロントピラー12とリアピラー13との間にはドア32が設けられている。
【0015】
また、左右方向で同じ側にあるリアピラー13と上背面ピラー20との間にはリアサイドウインド33が設けられ、左右の上背面ピラー20間にはリアウインドが設けられている。
また、図2及び図3に示す如く、キャビンフレーム11の側部後下部には、左右方向で同じ側にあるサイドフレーム19の湾曲部からサイドフロアビーム22までを塞ぐ板状のサイドパネル35が左右にそれぞれ配備され、これら左右一対のサイドパネル35の間には、キャビンフレーム11を底部から背面下部にかけて塞ぐ板状のフロアシート36が設けられている。
【0016】
図1及び図2に示す如く、フロアシート36は、キャビン9の底部を構成する底壁部36aと、該底壁部36aの後端縁から後方に向かうに従って上方に移行する傾斜方向に延出された背面壁36bとを備えている。
また、サイドパネル35の左右方向外面側には、後輪7を前方から上方にかけて覆う後輪フェンダ(図示省略)がそれぞれ設けられている。
また、図3に示す如く、キャビンフレーム11の上部にはルーフ39が設けられ、該ルーフ39は中空状に形成されており、該ルーフ39の左右一側、本実施の形態では左側部の後部には、外側方に突出した外気取入れ部42が設けられている。
【0017】
該外気取入れ部42は、キャビン9の外部の空気(外気)をルーフ39の下面に設けられた外気取入れ口43からフィルタを通してルーフ39内の中空状の空間に取り入れるように構成されている。
また、図2に示す如く、左右一対のリアピラー13は中空状に形成されており、左側のリアピラー13の上部開口はルーフ39の前記中空状の空間に連通されている。これによって外気取入れ部42からルーフ39内に取り入れられた外気が該リアピラー13内を通過することが可能となっている。
【0018】
前記キャビンフレーム11、フロントパネル24、フロントウインド31、ドア32、リアサイドウインド33、リアウインド34、サイドパネル35、フロアシート36、ルーフ39等でキャビン室が形成されている。
図1に示す如く、キャビン9の内部には、後部にオペレータが着座すべき着座部51が配備されると共に、前部に車体1を操作するための操作部52が配備されている。
図4、図5及び図8に示す如く、前記操作部52は、前記フロントパネル24の前後面に亘って配備されたステアリング機構53、フロントパネル24の上後方に配備された計器部54a、ワイパモータ54b、フロントパネル24の後方に配備されたクラッチペダル55及び左右一対のブレーキペダル56等を備えている。
【0019】
図1及び図6に示す如く、ステアリング機構53は、キャビン9の外方からフロントパネル24に取り付けられたパワステコントローラ57と、キャビン9の内部に配備されたステアリングハンドル59と、パワステコントローラ57とステアリングハンドル59とを連結すべくキャビン9の内外に架け渡された伝動軸60とを備え、ステアリングハンドル59のハンドル軸59aはハンドルポスト58に軸方向に回転自在に内嵌されている。また、該ハンドル軸59aと伝動軸60とは、フロントパネル24の後方にて自在継手61を介して連結されている。また、ハンドルポスト58及び自在継手61のハンドル軸側は、ハンドルカバー63によって覆われている。
【0020】
また、図8に示す如く、クラッチパネル55及び左右一対のブレーキペダル56は、フロントパネル24の後方に配備された横軸体62に揺動可能に枢支されている。
また、図1に示す如く、前記着座部51は、オペレータが着座するシート64と、該シート64を支持するクッション装置及び前後位置調整装置等を備えたシート支持部65と、該シート支持部65を支持するシート台66とを備えている。
該シート台66は、フロアシート36と上下方向に間隔をおいて位置する上部壁66aと、この上壁部66aの前縁から下方に且つフロアシート36にまで延出する前部壁66bとを備えている。また、該シート台66は、左右両側縁が前記サイドパネル32に溶接等によって固着され、上部壁66aの後縁がフロアシート36の背面壁36bに溶接等によって固着され、前部壁36aの下縁が溶接等によってフロアシート36に固着されている。
【0021】
また、キャビン9には、該キャビン9の内部を空調するためのエアダクト構造70が形成されており、該エアダクト構造70は、外気を導入するための外気導入ダクト部71と、該外気導入ダクト部71から取り入れた外気とキャビン室内の空気(内気)とを取り込んで空調を図るエアコン本体Aを収容したエアコン収容部72と、該エアコン収容部72に連通されてエアコン本体Aからの空調空気をキャビン9内に導出する空調空気導出ダクト部73とを有している。
エアコン本体Aは、冷房装置と暖房装置とを備えている。
【0022】
冷房装置は、例えば、冷媒を圧縮するコンプレッサーと、該コンプレッサーで圧縮された冷媒を放熱させながら凝縮・液化させるコンデンサー(放熱器)と、該コンデンサーで液化された冷媒を減圧して気化しやすい状態とする膨張弁と、冷媒を気化させて周囲から熱を奪って周囲を低温状態とするエバポレータ(蒸発器)とを備えている。
暖房装置は、例えば、エンジン2の熱で熱せられた温媒をヒータに送ると共に該ヒータからエンジン2側に戻すように温媒を循環させるようにした構造のものが採用される。
該エアコン本体Aは、ケーシング内にエバポレータとヒータと送風機(ブロワ)等とを収納してなると共にキャビン9室内に配置されており、コンプレッサーと、放熱器と、膨張弁等はボンネット8内に配置されている。
【0023】
なお、エアコン本体Aは、最低限、冷房装置のエバポレータと送風機とを備えていればよい。
図2及び図3に示す如く、外気導入ダクト部71は、上述の如くルーフ39に形成された外気取り入れ部42と、前記ルーフ39内の中空状の空間を通じて外気取り入れ部42に連通された左側のリアピラー13とを備え、エアコン収容部72は、前記フロアシート36と左右のサイドパネル32とシート台66とによって密閉状に形成されており、該エアコン収容部72と外気導入ダクト部71とは、左側のサイドパネル35の内面側に配備された中継ダクト74を介して互いに連通されている。
【0024】
エアコン収容部72は、上述の如くフロアシート36、シート台66の上壁部66a及び前壁部66bによって形成された密閉状の空間Sによって形成されており、該空間Sにエアコン本体Aが収容されている。
また、エアコン収容部72を構成する壁部、本実施の形態ではシート台66の上壁部66aの左側の後部側には、フィルタを介してキャビン9室内の空気(内気)をエアコン収容室72内に取り入れる内気取入れ部75が設けられている。
また、エアコン本体Aの前面側右側には、該エアコン本体Aから空調空気を送出する送出口A1が設けられ、該送出口A1にはエアコン本体Aから送出された空調空気を導出する前記空調空気導出ダクト部73が接続されている。
【0025】
図4及び図5に示す如く、空調空気導出ダクト部73は、フロアシート36に沿ってキャビン9の底部を前後方向に延びる送出しダクト76と、該送出しダクト76に連通されてキャビン9の前部を上下方向に延びる送風ダクト77と、該送風ダクト77に連通されてエアコン本体Aからの空調空気をキャビン9内に吹き出す吹出しダクト78とから形成されている。
送出しダクト76は、合成樹脂によって形成され、フロアシート36の底壁部31a(キャビン9の底部)に沿って前方に延出した延出部76aと、該延出部76aの後端から後上方に斜行する後斜行部76bと、フロアシート36の底壁部36aの左右方向中央部の形状に沿って前上方に斜行する前斜行部76cとから構成されている。
【0026】
また、フロアシート36の底壁部36a前部の左右方向中央側には、フロアシート36を上方から下方に向けて凹ませることにより形成された収容部36cが形成され、前記送出しダクト76の延出部76aは、該収容部36cに収容されるように下方に向けて凸状に屈曲形成されており、該延出部76aの上面は、収容部36cの上端縁よりも下方に位置している。
また、前記空間Sを形成するフロアシート36の底壁部36aの後部側にも、フロアシート36を上方から下方に向けて凹ませることにより形成された凹部36dが形成され、該凹部36d上にエアコン本体Aを収容することにより、送出しダクト76の後斜行部76aがキャビン9室内に露出しないように構成されている。
【0027】
また、フロアシート36の底壁部36aの上部には、ゴム等からなるフロアマット(図示省略)を敷設可能であり、上述の如く送出しダクト76の延出部76aの上面がフロアシート36の収容部36cの上端縁よりも下方に位置することにより、フロアマットは可及的に平坦に敷設され、これによって、オペレータが移動することとなる足元が凸状に盛り上がることはない。
前記送風ダクト77は、前記フロントパネル24に形成されたダクト形成部79と、該ダクト形成部79をキャビン室内側より覆うダクト構成部材80とから形成されている。
【0028】
図7に示す如く、ダクト形成部79は、フロントパネル24を構成する平板をプレス成型することによって形成され、フロントパネル24の上下方向に延びる左右一対の屈曲部79aと、該左右一対の屈曲部79aの間に形成された平坦部79bとを備え、キャビン9の前側に膨出している。また、左右一対の屈曲部79aは、図8に示す如く、前記ダクト構成部材80の上端部よりもフロントパネル24の上端側にて左右方向に延びる屈曲凹部79cを介して互いに連結されている。
図7に示す如く、ダクト構成部材80は、合成樹脂によって形成され、ダクト形成部79に対向して上下方向に延びる平坦部80aと、該平坦部80aの左右両側からダクト形成部79に向けて延びる左右一対の脚部80bとを備えた断面コ字状に形成されており、各脚部80bは、ダクト形成部79の左右方向で同じ側となる屈曲部79aの外側に当接した状態でフロントパネル24の上下方向に沿って延びている。
【0029】
また、図4及び図5に示す如く、ダクト構成部材80の下端部は、フロントパネル24の屈曲形状に沿って後下方に向けて屈曲しており、前記送出しダクト76の先端部と対向している。そして、これらダクト構成部材80の下端部と送出しダクト76の先端部が帯状のダクト連結部材82を介して連結されることにより、送風ダクト77と送出しダクト76とが互いに連通されている。
また、ダクト構成部材80は、図7に示す如く、平坦部80aに立設された複数の板状の支持体81を介して前記横軸体62を支持している。
【0030】
さらに、図6に示す如く、送風ダクト77にはキャビン9の室内外を貫通する筒体77aが配備され、該筒体77aに前記伝動軸60がブッシュ等を介して軸心廻りに回転自在に挿通されている。
図5及び図6に示す如く、前記吹出しダクト78は、合成樹脂によって形成され、前記エアコン本体Aからの空調空気が送り込まれる吹出し基部83と、該吹出し基部83に連結されてキャビン9内を空調すべく空調空気を吹き出すメインダクト部84と、前記吹出し基部84に連結されて前記空調空気をフロントウインド31に吹き出すデフロスタダクト部85とを備え、前記吹出し基部83には、前記空調空気をメインダクト部84とデフロスタダクト部85に分配する空気分配機構86が配備されている。
【0031】
前記吹出し基部83は、フロントパネル24の上端側に位置して送風ダクト77の上端と対向しており、これら吹出し基部83の下端部と送風ダクト77の上端部とは帯状のダクト連結部材82を介して連結されている。これによって、吹出しダクト78と送風ダクト77とは互いに連通されている。
メインダクト部84は、メイン連通孔87を介して吹出し基部83に連通されており、図4に示す如く、前記ステアリングハンドル59のハンドル軸59aを跨いだ状態でキャビン9の後方に向けて延伸される左右一対のメイン吹出し部84aを備えたマニホールド状に形成され、該メイン吹出し部84aの先端部には、キャビン9の上方に向けて空調空気を吹き出すアッパー吹出し口84bと、キャビン9の下方に向けて空調空気を吹き出すロア吹出し口84cとが形成されている。
【0032】
また、メイン吹出し部84aの前後方向中途部には、キャビン9の後方に向かうに連れて左右方向外方に移行する方向を向くサイド吹出し口84dが設けられている。
なお、前記各吹出し口84b、84c、84dには、風向きを変更する風向き変更グリルが配備されている。
デフロスタダクト部85は、フロントパネル24の外縁部に沿って上下方向に延びる左右一対の側部分85aと、該左右側部分85aの上端を連結する上部分85bとによって、フロントパネル24の外縁に沿う門型状に形成されている。
【0033】
また、図5に示す如く、上部分85bは、前記ワイパモータ54bとフロントウインド31の間に配備されており、デフ挿通孔88を介して吹出し基部83に連結されている。
図3に示す如く、前記左右一対の側部分82a及び上部分82bには、複数箇所にフロントウインド31の内面側に向けて空気を吹き出す複数(本実施の形態においては6つ)のデフ吹出し口89がフロントウインド31に対して放射状に配備されている。
該デフ吹出し口89の幅は、図5及び図7に示す如く、前記側部分82a及び上部分82bの幅よりも小さく形成されている。この様に側部分82a及び上部分82b内を流れるメインの空調空気の流れに対してデフ吹出し口89の開口幅に段差を設けることにより、フロントウインド31の内面側に向けて吹き出される空調空気の流速が側部分82a及び上部分82b内での流速よりも速いものとなって、これによって該空調空気によるフロントウインド31の曇り止め効果がより向上される。
【0034】
また、図7に示す如く、フロントパネル24は、デフロスタダクト部82と対向する外縁部がプレス成型されている。
また、図5に示す如く、前記メイン挿通孔87とデフ挿通孔88は、吹出し基部83内にて互いに対向しており、これらメイン挿通孔87とデフ挿通孔88との間に前記空気分配機構86が配備されている。
空気分配機構86は、メイン連通孔87とデフ連通孔88とを択一的に閉塞可能な蓋体90を備え、該蓋体90は、平板状に形成されて上端がヒンジ機構91を介して枢支されており、メイン連通孔87を閉塞する第1閉塞位置とデフ連通孔88を閉塞する第2閉塞位置との間で揺動自在に支持されている。
【0035】
また、蓋体90は、吹出し基部83からメインダクト部84に流れる空調空気と、吹出し基部83からデフロスタダクト部85に流れる空調空気との割合を変更可能とすべく、前記第1閉塞位置と第2閉塞位置の間の任意の位置で駐止可能に構成されている。
また、送風ダクト77の上部及び吹出しダクト78は、前記ステアリング機構53のハンドルポスト58の基部、横軸体62、支持体81等と共にインストルメントパネル(図示省略)によって覆われており、吹出しダクト78の各吹出し口84b、84c、84dは、該インストルメントパネルに適宜形成された開口を介してキャビン9の内部に通じている。
【0036】
本実施の形態は以上の構成からなるものであって、図3に示す外気取入れ口43を開放することにより、外気がエアダクト構造70の外気導入ダクト部71を通じてエアコン収容部72に導入される。このとき、図2に示す前記内気取り入れ部75を開放することにより、キャビン9内の空気をエアコン収容部72に導入することも可能である。
そして、これら外気及び内気は、エアコン収容部72のエアコン本体Aによって温度・湿度等が調整されると共に塵芥等が除去された空調空気となり、該空調空気は図5に示す空調空気導出ダクト部73によってキャビン9の後下部からキャビン9の前部に案内される。このとき、送出しダクト76の延出部76a、後斜行部76b、前斜行部76c及び送風ダクト77がフロアシート36に沿って配備されることにより、空調空気導出ダクト部73はキャビン9の外方に向けて凸の円弧状に形成されることとなり、これによって、該空調空気導出ダクト部73を流れる空調空気の送風ロスが可及的に減じられる。
【0037】
そして、送出しダクト76によってキャビン9の前部に流れ込んだ空調空気は、キャビン9の前部を上下方向に延びる送風ダクト77を通過し、該送風ダクト77の上部に配備された吹出しダクト78に流れ込む。
吹出しダクト78に至った空調空気は、先ず、吹出し基部83に流れ込む。そして、吹出し基部83内に配備された空気分配機構86によって、メインダクト部84とデフロスタダクト部85に分配される。
空気分配機構86の蓋体90が前記第1閉塞位置に設定された場合、吹出し基部83とメインダクト部84とを連通するメイン連通孔87が蓋体90によって閉塞されるため、メインダクト部84に空調空気が流れ込むことはなく、空調空気はすべてデフ連通孔88を通じてデフロスタダクト部85に流れ込むこととなる。
【0038】
一方、蓋体90が前記第2閉塞位置に設定された場合、吹出し基部83とデフロスタダクト部85とを連通するデフ連通孔88が蓋体90によって閉塞されるため、デフロスタダクト部85に空調空気が流れ込むことはなく、空調空気はすべてメイン連通孔87を通じてメインダクト部84に流れ込むこととなる。
また、蓋体90が第1閉塞位置と第2閉塞位置の位置で駐止された場合、メイン連通孔87側の蓋体90と吹出し基部83の内壁との間隔と、デフ連通孔88側の蓋体90と吹出し基部83の内壁との間隔に応じ、適宜空調空気が分配される。例えば、図6中に二点鎖線で示す如く、蓋体90がメイン連通孔87とデフ連通孔88の中間となる中間位置に駐止された場合、メインダクト部84とデフロスタダクト部85には、それぞれ吹出し基部83に流入した空調空気の半分が流れ込むこととなり、図6中に実線で示す如く蓋体90がデフ連通孔88側に大きく傾いた位置に駐止されている場合には、メインダクト部84にデフロスタダクト部85よりも多量の空調空気が流れ込むこととなる。
【0039】
そして、メインダクト部84に流れ込んだ空調空気は、図4に示す左右一対のメイン吹出し部84aのアッパー吹出し口84b、ロア吹出し口84c及びサイド吹出し口84dを通じてキャビン9内に吹き出され、これによってキャビン9の内部が空調されるのである。
ここで、アッパー吹出し口84bはキャビン9の後上方に向けて配備され、ロア吹出し口84cは前記操作部52の下方に向けて配備されているため、これらの吹出し口84b、85cから空調空気が吹き出されることにより、キャビン9内で空気が滞留することはない。
【0040】
また、サイド吹出し口84dは、左右方向で同じ側に位置するドア32やリアサイドウインド33と対向した位置に配備されているので、該サイド吹出し口か84dら吹き出される空調空気は、ドア32及びリアサイドウインド33に沿ってキャビン9の後方に向けて流れ込むことにより、キャビン9の内部の空調を図ると共にこれらドア32及びリアサイドウインド33の曇り止めとしても有効に機能する。
なお、これらの吹出し口84b、84c、84dから吹き出される空調空気の吹出し方向は、前記風向き変更グリルによって適宜変更可能である。
【0041】
また、デフロスタダクト部85に流れ込んだ空調空気は、左右一対の側部分85a及び上部分85bに形成されたデフ吹出し口89からフロントウインド31に向けて吹き出される。該デフ吹出し口89は、フロントウインド31の左右方向中央部やや下方から該フロントウインド31の上部及び側部に向けて放射状に配備されているため、該空調空気がフロントウインド31に沿って流れることにより、該フロントウインド31の曇りは効果的に除去されるのである。
この様に吹出しダクト78からキャビン9内に吹き出された空調空気は、ドア32、リアサイドウインド33に沿って後方にスムーズに流れると共にインナールーフ40内面に沿って流れてキャビン9後部の内気取入れ部75に至る。該内気取入れ部75に流れ込んだ空調空気は、エアコン収容部72を介してエアコン本体Aに吸引され、該エアコン本体Aの送出口A1から空調空気導出ダクト部73を介して再びキャビン9の前部からキャビン9内に向けて吹き出される。この様なエアダクト構造70によって、キャビン室の内気循環が効率よく行われるようになっている。
【0042】
本実施の形態によれば、送風ダクト77がフロントパネル24のダクト形成部79とダクト構成部材80とによって形成されているので、フロントパネル24が送風ダクト77を構成する部材を兼ねることとなり、これによって、送風ダクト77の部品点数のが削減される。また、単板からなるフロントパネル24がダクト構成部材80によって補強されることとなり、これによってフロントパネル24の強度(剛性)が向上する。
また、フロントパネル24は、ダクト形成部79及び吹出しダクト78のデフロスタダクト部85と対向する外縁部がプレス形成されているため、これによっても強度の向上が図られている。
【0043】
さらに、フロントパネル24のダクト形成部79の平坦部79bの外方に前記パワステコントローラ57が配備され、ダクト構成部材80の平坦部80aに前記支持体81が配備されており、これらによってもダクト形成部79やダクト構成部材80の強度の向上が図られ、ひいては送風ダクト77を構成するフロントパネル24の強度の向上が図られているのである。
また、異なる観点からみれば、キャビン9の前部に配備されたフロントパネル24と該フロントパネル24と補強支持する部材(ダクト構成部材80)とによって送風ダクト77は形成されており、キャビン9室内の省スペース化を図りつつ、キャビン9の内部側に送風ダクト77を配備することが可能となる。これによって、送風ダクト77を通過する空調空気に対するキャビン9外部の外気やボンネット8内部の熱の影響を可及的に低減でき、エアコン本体Aの負荷を抑えることが可能となるのである。
【0044】
また、フロントパネル24のダクト形成部79はキャビン9前方に向けて膨出しており、これによって、キャビン9内部の省スペース化を図りつつも送風ダクト77の断面積が確保されているのである。
また、キャビン9外部のフロントパネル24の前部にパワステコントローラ57が配備され、キャビン9内部のフロントパネル24の後部にステアリングハンドル59が配備され、これらパワステコントローラ57とステアリングハンドル59とを連結する伝動軸60が送風ダクト77を貫通して配備されているため、キャビン9の前部に伝動軸60及び送風ダクト77を別々に配備するための大きなスペースが必要なく、これら伝動軸60及び送風ダクト77の配置構造も簡易なものとなってキャビン9の組立が簡単となると共に製造コストも抑えられる。
【0045】
また、本実施の形態においては、空調空気導出ダクト部73の吹出しダクト78に流れ込んだ空調空気は、吹出し基部83の空気分配機構86によってメインダクト部84に向けて流れ込むものとデフロスタダクト部85に向けて流れ込むものとに分配されることとなり、これによって、各ダクト部84、85から吹き出される空調空気の空気量をオペレータの好みに応じて調整することが可能となる。
また、空気分配機構86が吹出しダクト78に配備されていることにより、該空気分配機構86は、キャビン9室内に吹き出される直前、つまり、空調空気導出ダクト部73の最も川下となる部位に配備されていることとなる。これによって、エアダクト構造70の川上側(例えばエアコン収容部72近傍)からメインダクト部84に連通するダクトとデフロスタダクト部85に連通するダクトを分岐して形成する必要はなく、ダクト構造の簡素化が図られると共にキャビン9室内の省スペース化が図られるのである。
【0046】
また、空気分配機構86の蓋体90を前記第1閉塞位置と第2閉塞位置との間で揺動調整する簡易な操作によって、空調空気の各ダクト部84、85への分配量は適宜調整されることとなり、これによって、状況に応じたキャビン9室内の空調状態を容易に調整することが可能となる。
また、デフロスタダクト部85は、上部分85bと側部分85aとによって門型状に形成され、該上部分85bと吹出し基部83とがデフ連通孔88を介して挿通されているため、両側部分85aの先端には吹出し基部83からの空調空気が略等しく流れ込むこととなり、これによって、デフロスタダクト部85のデフ吹出し口89から吹き出される空調空気の空気量に左右方向の偏りが生じることはなく、フロントウインド31の曇りが略左右対称に除去されるのである。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば、空調空気導出ダクト部73を構成する送出しダクト76、ダクト構成部材80、吹出しダクト78は合成樹脂製とされているが、金属製とした場合にも、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
また、フロントパネル24のダクト形成部79をキャビン9の内部に向けて膨出させた場合にも、本実施の形態と同様の効果が得られる。
また、吹出しダクト78のメインダクト部84の左右一対のメイン吹出し部84aには、アッパー吹出し口84b、ロア吹出し口84c及びサイド吹出し口84dがそれぞれ配備されているが、これらの内の2つ若しくは1つのみを配備した構成としても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】トラクタの左側面図である。
【図2】キャビンの平面図である。
【図3】キャビンの正面図である。
【図4】キャビンの前下部中央側をキャビン室内からみた斜視図である。
【図5】キャビンの前下部中央側の側断面図である。
【図6】キャビンの前部中央側の側断面図である。
【図7】送風ダクト及びデフロスタダクト部の横断面図である。
【図8】フロントパネルの背面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 車体
9 キャビン
11 キャビンフレーム
31 フロントウインド
42 外気取入れ部
70 エアダクト構造
71 外気導入ダクト部
72 エアコン収容部
73 空調空気導出ダクト部
75 内気取入れ部
76 送出しダクト
76a 延出部
77 送風ダクト
78 吹出しダクト
79 ダクト形成部
80 ダクト構成部材
83 吹出し基部
84 メインダクト部
84a メイン吹出し部
84b アッパー吹出し口
84c ロア吹出し口
84d サイド吹出し口
85 デフロスタダクト部
86 空気分配機構
87 メイン挿通孔
88 デフ挿通孔
89 デフ吹出し口
90 蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビン(9)の前部に、該キャビン(9)の室内と室外を仕切るフロントパネル(24)が配備され、エアコン本体(A)から送出される空調空気を案内する送風ダクト(77)が前記フロントパネル(24)に沿って上下方向に設けられたキャビンのダクト構造において、
前記フロントパネル(24)は、キャビン(9)の上下方向に延びるダクト形成部(79)を備え、前記送風ダクト(77)は、該ダクト形成部(79)と、該ダクト形成部(79)をキャビン(9)室内側から覆うダクト構成部材(80)とから形成されていることを特徴とするキャビンのダクト構造。
【請求項2】
前記フロントパネル(24)は平板により構成され、前記ダクト形成部(79)は、該平板をプレス成型してなることを特徴とする請求項1に記載のキャビンのダクト構造。
【請求項3】
前記送風ダクト(77)は、その下端部がエアコン本体(A)からの空調空気を該送風ダクト(77)に送り出す送出しダクト(76)に連結されると共に、その上端部が前記空調空気をキャビン(9)内に吹き出す吹出しダクト(78)に連結されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキャビンのダクト構造。
【請求項4】
前記送風ダクト(77)には、キャビン(9)の室内外を貫通する筒体(77a)が配備され、該筒体(77a)には、ステアリング機構(53)の伝動軸(60)が軸心廻りに回転自在に挿通され、該伝動軸(60)のキャビン室外側の端部にパワステコントローラ(57)が連結され、該伝動軸(60)のキャビン室内側の端部にステアリングハンドル(59)が連結されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のキャビンのダクト構造。
【請求項5】
前記エアコン本体(A)は、キャビン(9)の後部に配備され、前記送出しダクト(76)は、キャビン(9)の後部から前部に延出されてエアコン本体(A)と送風ダクト(77)とを連結する延出部(76a)を備え、キャビン(9)の底部には、前記延出部(76a)を収容する収容部(36c)が凹設されており、該収容部(36c)に収容された延出部(76a)の上面は該収容部(36c)の上端縁と略面一若しくは該上端縁よりも下方に位置していることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のキャビンのダクト構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−199215(P2006−199215A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14842(P2005−14842)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】