説明

キー電波受信機のアンテナ指向性設定装置及びアンテナ指向性設定方法

【課題】電子キー及びその通信相手の間の通信性能を向上することができるキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置及びアンテナ指向性設定方法を提供する。
【解決手段】通信が成立する通常受信エリアEa1よりも外側のエリア(微弱電波感知エリアEa1)で電子キーから電波が送信されると、車両チューナ9には通信が成立しない微弱電波として届く。車両チューナ9で微弱電波を受信すると、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換え、受信エリアを通常受信エリアEa1から比較受信エリアEbに切り換える。このとき、受信電波の受信強度が高い値に変化すれば、車両チューナ9のアンテナ指向性をそのままにして通信を継続し、受信強度が高い値に変化しなければ、車両チューナ9のアンテナ指向性を元の通常向きに戻して、以降の通信開始に待機する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子キーの通信相手に搭載された受信機のアンテナ指向性を設定するキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置及びアンテナ指向性設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から周知のように、車両のキーシステムとしては、利便性等の面から、車両キーとしての電子キーからキーコードとしてIDコードを無線通信により車両に送信して、車両にID照合を実行させる電子キーシステム(特許文献1等参照)が広く使用されている。この種の電子キーシステムには、車両からのリクエストに電子キーを応答させて、車両にID照合を自動実行させるキー操作フリーシステムや、電子キーでのボタン操作によって遠隔操作により車載機器を動作させるワイヤレスキーシステム等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−262915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両には、図11に示すように、電子キーからの電波を受信する車両チューナ81が設けられるが、この種の車両チューナ81は、アンテナ指向性が円形となるように形成されてはいるものの、実施のところは、同図に示すように、受信エリア82に局地的にヌル地点83が存在してしまう現状がある。よって、このようなヌル地点83に電子キーが位置してしまうと、車両チューナ81は電子キーからの電波を受け取ることができず通信が成立しないので、通信成立性を高めるためにも何らかの対策が必要とされていた。
【0005】
本発明の目的は、電子キー及びその通信相手の間の通信性能を向上することができるキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置及びアンテナ指向性設定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、本発明では、電子キーから送信された識別IDをその受信機に受信させ、当該受信機でID照合を行う電子キーシステムに使用されるキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置において、前記受信機のアンテナ指向性を切り換え可能な指向性切換成分と、アンテナ指向性が一向きとなった前記受信機で、少なくともノイズレベルより高い受信強度の電波を受信しているか否かを判定する判定手段と、当該電波を受信した際、前記指向性切換成分によって前記受信機のアンテナ指向性を、前記一向き時に生じる受信のヌル地点を補完した他向きに切り換える切換手段と、前記アンテナ指向性の切り換え後の電波の受信強度が、通信可能な受信レベルより高くなるか否かを確認する確認手段と、前記確認手段の確認結果を基に、前記受信機のアンテナ指向性を前記一向き及び他向きのどちらかに設定する指向性設定手段とを備えたことを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、少なくともノイズレベルより高い電波(微弱電波)を受信機で受信した際、受信機のアンテナ指向性をそれまでの一向きから他向きに切り換え、この他向きで同じ電波を受信する。このとき、電波の受信強度が高くなれば、元の指向性では電子キーがヌル地点に入って通信が成立できないとして、受信機のアンテナ指向性を他向きのままとし、通信を継続する。一方、電波の受信強度が高くならないのであれば、受信機は元のアンテナ指向性で通信が成立するとして、受信機のアンテナ指向性を元に戻し、以降の通信開始に待機する。これにより、もし仮に受信機のアンテナ指向性が一向きの際に、電子キーがヌル地点に位置していても、通信を成立させることが可能となる。
【0008】
本発明では、前記指向性切換成分は、前記受信機の共振値を切り換え可能なコンデンサからなることを要旨とする。
この構成によれば、指向性切換成分をコンデンサとしたので、入手し易い部品を指向性切換成分とすることが可能となる。
【0009】
本発明では、前記受信機は、L字形状のアンテナエレメントを逆向きに基板に取り付けた逆Lアンテナにより構成されていることを要旨とする。
この構成によれば、例えば逆Lアンテナの先端に指向性切換成分を付加すると、アンテナ指向性が激変する特性があるので、この特性を効果的に利用して、ヌル地点を埋めるアンテナ指向性をより確実に形成することが可能となる。
【0010】
本発明では、電子キーから送信された識別IDをその受信機に受信させ、当該受信機でID照合を行う電子キーシステムに使用されるキー電波受信機のアンテナ指向性設定方法において、前記受信機にそのアンテナ指向性を切り換え可能な指向性切換成分を設け、アンテナ指向性が一向きとなった前記受信機で、少なくともノイズレベルより高い受信強度の電波を受信しているか否かを判定し、当該電波を受信した際、前記指向性切換成分によって前記受信機のアンテナ指向性を、前記一向き時に生じる受信のヌル地点を補完した他向きに切り換え、前記アンテナ指向性の切り換え後の電波の受信強度が、通信可能な受信レベルより高くなるか否かを確認し、この確認結果を基に、前記受信機のアンテナ指向性を前記一向き及び他向きのどちらかに設定することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子キー及びその通信相手の間の通信性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態における電子キーシステムの概略構成を示すブロック図。
【図2】車両チューナアンテナ指向性設定装置の具体的構成を示す構成図。
【図3】通常受信エリアとその微弱電波感知エリアの範囲を示す概念図。
【図4】比較受信エリアの範囲を示す概念図。
【図5】車両チューナにおける受信電波の受信強度変化を示す波形図。
【図6】電子キーが通常受信エリアに位置している状態を示す概念図。
【図7】電子キーが微弱電波感知エリアに位置しつつもヌル地点に位置していない状態を示す概念図。
【図8】電子キーが微弱電波感知エリアに位置しつつ、かつヌル地点に位置している状態を示す概念図。
【図9】車両チューナの実行動作を示すフローチャート。
【図10】別例における車両チューナの構成を示す模式図。
【図11】従来における車両チューナの受信エリアの概念を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を車両の電子キーシステムに具体化したキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置及びアンテナ指向性設定方法の一実施形態を図1〜図9に従って説明する。
図1に示すように、車両1には、電子キー2による遠隔操作によってドアロックの施解錠を切り換えるワイヤレスキーシステム3が設けられている。この場合、電子キー2には、電子キー2の動作を統括管理する通信制御部4が設けられている。この通信制御部4には、キー固有のID(Identification)としてIDコード(識別ID)が登録されている。また、通信制御部4には、UHF(Ultra High Frequency)帯の電波を送信するUHF送信機5が接続されている。なお、ワイヤレスキーシステム3が電子キーシステムに相当する。
【0014】
電子キー2には、ドアロックを施錠する際に操作する施錠ボタン6と、ドアロックを解錠する際に操作する解錠ボタン7とが設けられている。これらボタン6,7の操作は、通信制御部4により管理される。通信制御部4は、施錠ボタン6や解錠ボタン7が操作されたことを検出すると、各ボタンに応じたワイヤレス信号SwlをUHF送信機5から送信する。ワイヤレス信号Swlには、IDコードと機能コードとが含まれ、施錠ボタン6の操作時には、施錠要求信号が送信され、解錠ボタン7の操作時には、解錠要求信号が送信される。なお、ワイヤレス信号Swlが電波に相当する。
【0015】
また、車両1には、電子キー2のIDコードをID照合する照合ECU(Electronic Control Unit)8が設けられている。この照合ECU8には、車両1と組みをなす電子キー2のIDコードが登録されている。また、照合ECU8には、UHF帯の電波を受信可能な車両チューナ9が接続されている。照合ECU8には、ドアロックの施解錠を管理するドアロック装置10が車内バス11を介して接続されている。なお、車両チューナ9が受信機に相当する。
【0016】
照合ECU8は、電子キー2からのワイヤレス信号Swlを車両チューナ9で受信してワイヤレス通信が確立すると、このワイヤレス信号Swl内のIDコードでID照合を行う。そして、ID照合が成立すれば、それに続く機能コードによりドアロックを施解錠する。即ち、照合ECU8は、電子キー2から施錠要求信号を受信すると、ID照合が成立すれば、ドアロック装置10にドアロックを施錠させる。一方、照合ECU8は、電子キー2から解錠要求信号を受信すると、ID照合が成立すれば、ドアロック装置10のドアロックを解錠させる。
【0017】
図1及び図2に示すように、車両1には、車両チューナ9のアンテナ指向性を選択的に切り換え可能な車両チューナアンテナ指向性設定装置12が設けられている。ところで、車両チューナ9のアンテナ指向性には、図3に示すように、局所的に鋭いヌル地点13が存在する場合がある。電子キー2がヌル地点13に位置していると、電子キー2が車両1の近傍に位置しているにもかからず、電子キー2の電波を車両チューナ9で受信することができない。よって、ワイヤレス通信が確立せず、電子キー2でボタン6,7を押し操作してもドアロックが動かないので、ストレスを感じる問題に繋がる。なお、車両チューナアンテナ指向性設定装置12がアンテナ指向性設定装置に相当する。
【0018】
ところで、図3に示すように、車両チューナ9には、実際の通信を実行できる受信エリア(通常受信エリアEa1)の外側に、実際の通信を実行することはできないが、電子キー2からの電波を微弱ながら受信できる受信エリア(以降、微弱電波感知エリアEa2(図3のドット領域)と記す)が存在する。この微弱電波感知エリアEa2では、通信相手が何であるのかを正確に把握することはできないが、何らかの受信周波数の電波を受信している状況にあることは分かる。即ち、車両1の近傍に電子キー2が位置している可能性があることは認識できる。
【0019】
そこで、本例の場合、車両チューナ9が通常向き(一向き)のアンテナ指向性をとる際、電波を通信不可の低い受信強度(弱いレベル)で受信すると、車両1に電子キー2が近づいているとみなす。そして、このとき、図4に示すように、車両チューナ9のアンテナ指向性を、それまでの通常向きから他向きに切り換えて、同向きの受信エリア(以降、比較受信エリアEbと記す)を車両1の周囲に形成する。この比較受信エリアEbは、通常受信エリアEa1に発生するヌル地点13を補完するエリアであって、通常受信エリアEa1との差領域(図4の斜線領域:以降、補償領域Ekと記す)に位置する電子キー2との通信成立を確保するためのものである。そして、車両チューナ9が比較受信エリアEbをとるときの電波の受信強度Vxを求め、受信強度Vxが高くなれば、そのまま受信を継続し、受信強度Vxが高くならなければ、車両チューナ9のアンテナ指向性を元の通常向きに戻して、車両チューナ9のアンテナ指向性を設定する。
【0020】
図2に示すように、車両チューナ9は、アンテナエレメント14が逆L字形状をとる逆Lアンテナとなっている。アンテナエレメント14は、車両チューナ9の電子部品の実装先である基板15に取り付けられている。アンテナエレメント14には、車両チューナ9のアンテナ指向性の切り換え要素としてコンデンサ16がスイッチ17を介して接続されている。コンデンサ16は、車両チューナ9の共振値をずらすためのもので、アンテナエレメント14と繋がるときと繋がらないときとで、車両チューナ9の受信パワーを変えずに車両チューナ9のアンテナ指向性を切り換えることが可能である。なお、コンデンサ16が指向性切換成分を構成し、スイッチ17が切換手段を構成する。
【0021】
ここで、コンデンサ16がアンテナエレメント14に付加されていないと、車両チューナ9の受信エリアは、通常受信エリアEa1をとる。また、コンデンサ16がアンテナエレメント14に付加されると、車両チューナ9の受信エリアが大きく変化し、比較受信エリアEbをとる。なお、比較受信エリアEbは、車両チューナ9が通常受信エリアEa1をとる際に、同エリアEa1に生じてしまうヌル地点13を補完、つまりカバーする受信エリアとして形成されている。ヌル地点13は、通常受信エリアEa1が理想としてとるべき受信エリアを円形とすると、この円形に対して車両1側に鋭く切れ込む電波の届きづらい箇所に相当する。
【0022】
ところで、図5に示すように、車両チューナ9の受信強度Vx(受信レベル)は、近くで電波を受信できれば高い値をとり、値が閾値Vth0を超えると、受信電波のデータが読み取れてワイヤレス通信(ID照合)が可能となるが、受信電波が閾値Vth0を超えていなくても、ノイズレベル(Vnoise)よりも高い値をとれば、通信を実行できないが何らかの微弱電波を受信していることは判断可能である。即ち、受信強度がVth0〜Vnoiseの間の電波は、微弱電波として感知可能である。
【0023】
そこで、図1及び図2に示すように、照合ECU8には、車両チューナ9が通常受信エリアEa1をとる際、ノイズレベルVnoiseよりも高い微弱レベルの電波、即ち微弱電波を受信したか否かを見る微弱電波検出部18が設けられている。本例の微弱電波検出部18は、この微弱電波の有無を見ることにより、微弱電波受信の有り無し、即ち電子キー2が微弱電波感知エリアEa2に位置しているか否かを判定する。なお、微弱電波検出部18が判定手段に相当し、閾値Vth0が通信可能な受信レベルに相当する。
【0024】
照合ECU8には、車両チューナ9で微弱電波を受信した際に車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換える指向性切換部19が設けられている。指向性切換部19は、スイッチ17をオンしてコンデンサ16をアンテナエレメント14に繋ぐことにより、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向き切り換え、同じ電波を今度は比較受信エリアEbで受信させる。なお、指向性切換部19が切換手段を構成する。
【0025】
照合ECU8には、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換えた際の受信電波の受信強度Vxが、閾値Vth0よりも高くなるか否かを確認する受信強度確認部20が設けられている。このとき、受信強度Vxが高い値に切り換われば、電子キー2が比較受信エリアEbに位置することが分かり、同エリアEbで電波受信をとれば、ヌル地点13が補完できることが分かる。一方、受信強度Vxが高い値に切り換わらなければ、電子キー2がヌル地点13に無いので、指向性切り換え前の通常受信エリアEa1で受信を行う方がよいことが分かる。なお、受信強度確認部20が確認手段に相当する。
【0026】
照合ECU8には、受信強度確認部20の確認結果を基に、車両チューナ9のアンテナ指向性を設定する指向性設定部21が設けられている。指向性設定部21は、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換えたときの受信強度Vxが閾値Vth0よりも高くなれば、スイッチ17のオンを継続して車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きのままとする。一方、指向性設定部21は、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換えたときの受信強度Vxが閾値Vth0以下となれば、スイッチ17をオフに戻し、車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きに戻す。なお、指向性設定部21が指向性設定手段に相当する。
【0027】
次に、本例の車両チューナアンテナ指向性設定装置12の動作を図6〜図8に従って説明する。
まず、図6に示すように、電子キー2が通常受信エリアEa1に位置するときに、電子キー2で施錠ボタン6(解錠ボタン7)が操作されたとする。なお、前提として、車両チューナ9は、最初、通常向きのアンテナ指向性をとるものとする。このとき、車両チューナ9には、電子キー2からの電波が閾値Vth0よりも高い値で届くので、これら2者間の通信が成立する。よって、微弱電波検出部18は、微弱電波を検出する状態をとらず、動作しない。これにより、車両チューナ9のアンテナ指向性は通常向きのままに設定され、以降の通信が継続される。
【0028】
続いては、図7に示すように、電子キー2が補償領域Ek以外の微弱電波感知エリアEa2に位置するときに、電子キー2で施錠ボタン6(解錠ボタン7)が操作されたとする。このとき、車両チューナ9には、電子キー2からの電波が、ノイズレベルVnoiseよりも高いが閾値Vth0よりは低い値で届く。よって、微弱電波検出部18は、Vx>Vnoiseが成立することを認識し、電子キー2が車両1に近づきつつあるかもしれないことを認識する。
【0029】
このとき、指向性切換部19は、直ちにスイッチ17をオンしてアンテナエレメント14にコンデンサ16を付加して、車両チューナ9のアンテナ指向性を、それまでの通常向きから他向きに切り換える。車両チューナ9が他向きに切り換えられると、車両チューナ9の受信エリアが比較受信エリアEbに切り換わる。そして、車両チューナ9は、アンテナ指向性が通常向きのときに受信した電波を、今度は他向きに切り換えて受信する。受信強度確認部20は、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換えたときの受信電波の受信強度Vxが、閾値Vth0よりも高くなるか否かを確認する。
【0030】
ここでは、電子キー2が補償領域Ek以外の微弱電波感知エリアEa2に位置する場合を想定しているので、車両チューナ9の受信エリアが比較受信エリアEbに切り換わった際、電子キー2は比較受信エリアEb内に位置しない状態をとる。このため、車両チューナ9で受信される電波は、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換えても、高い値に切り換わらず、閾値Vth0よりも低いままの値をとる。即ち、車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きから他向きに切り換えても、車両1と電子キー2とのワイヤレス通信は成立しない。
【0031】
よって、受信強度確認部20は、電子キー2が補償領域Ek以外の微弱電波感知エリアEa2に位置する際、車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きから他向きに切り換えても、結果、Vx>Vth0が不成立となることを認識する。指向性設定部21は、Vx>Vth0が不成立となることを確認すると、車両チューナ9のアンテナ指向性を元の通常向きに戻し、車両チューナ9のアンテナ指向性を同向きに設定する。よって、車両チューナ9は、電子キー2が車両1に近づきつつあることを把握し、電子キー2が通常受信エリアEa1に近々進入することを認識する。
【0032】
今度は、図8に示すように、電子キー2が補償領域Ekに位置するときに、電子キー2で施錠ボタン6(解錠ボタン7)が操作されたとする。補償領域Ekは、微弱電波感知エリアEa2の一部であるので、電子キー2からの電波は、閾値Vth0よりも低い値で車両チューナ9に届く。よって、微弱電波検出部18は、微弱電波の受信を検出することになり、電子キー2が車両1に近づきつつあるかもしれないことを認識する。
【0033】
このとき、指向性切換部19は、図7の例と同様に、直ちにスイッチ17をオンしてアンテナエレメント14にコンデンサ16を付加して、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きに切り換え、車両チューナ9の受信エリアを比較受信エリアEbとする。そして、車両チューナ9は、アンテナ指向性が通常向きのときに受信した電波を、今度は他向きに切り換えて受信する。
【0034】
ここでは、電子キー2が補償領域Ekに位置する場合を想定しているので、車両チューナ9の受信エリアが比較受信エリアEbに切り換えられると、電子キー2はこの比較受信エリアEb内に位置する状態をとる。このため、車両チューナ9で受信される電波は、高い値に切り換わり、結果として閾値Vth0よりも高い値に変化する。即ち、車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きから他向きに切り換えると、車両1と電子キー2とのワイヤレス通信が確立する。
【0035】
よって、受信強度確認部20は、電子キー2が補償領域Ekに位置する際、車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きから他向きに切り換えると、結果、Vx>Vth0が成立することを認識する。指向性設定部21は、Vx>Vth0が成立することを確認すると、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きのままとし、この状態で以てワイヤレス通信を継続する。これにより、電子キー2がヌル地点13に位置していても、電子キー2からの電波が車両チューナ9に届くようになるので、電子キー2でのドアロック操作を問題無く実行することが可能となる。
【0036】
次に、車両チューナ9の実行動作を図9のフローチャートに従って説明する。なお、同図のフローチャートは、車両チューナ9が電源オン状態をとったときに繰り返し実行される。
【0037】
ステップ100では、車両チューナ9で受信した電波の受信強度Vxが閾値Vth0を超えるか否かを判定する。即ち、電子キー2が微弱電波感知エリアEa2に位置しているか否かが判定される。なお、閾値Vth0は、電子キー2が微弱電波感知エリアEa2に位置しているか否かを見る際の基準となる値であって、図5に示すスレッショルド値に相当する。ここで、Vx>Vth0が成立すれば、電波の受信レベルが充分であるとしてステップ101に移行し、Vx>Vth0が成立しなければ、ステップ102に移行する。
【0038】
ステップ101では、電波の受信動作を実行する。即ち、コンデンサ16を付加しない状態、即ち通常向きのアンテナ指向性で電波受信を実行する。
ステップ102では、受信強度VxがノイズレベルVnoiseを超えるか否かを判定する。ここで、Vx>Vnoiseが成立すれば、ステップ103に移行する。また、Vx>Vnoiseが成立しなければ、電波受信が付加であるので、リターンに進み、フローを終了する。
【0039】
ステップ103では、オフ状態にあるスイッチ17をオンに切り換えて、車両チューナ9にコンデンサ16を付加する。これにより、車両チューナ9のアンテナ指向性が通常向きから他向きに切り換わり、車両周囲に比較受信エリアEbが形成される。
【0040】
ステップ104では、受信強度Vxが閾値Vth0よりも高くなるか否かを判定する。このとき、受信強度Vxが閾値Vth0よりも高い値をとれば、車両チューナ9のアンテナ指向性は、通常向きよりも他向きの方が好ましいことが分かる。よって、Vx>Vth0が成立すればステップ105に以降し、Vx>Vth0が成立しなければステップ106に以降する。
【0041】
ステップ105では、電波の受信動作を実行する。即ち、コンデンサ16を付加した状態、即ち他向きのアンテナ指向性で、電波受信が可能かどうかを試みる。
ステップ106では、オン状態に切り換えたスイッチ17をオフに戻し、車両チューナ9のコンデンサ16をオフする。即ち、車両チューナ9をアンテナエレメント14のみで動作させて、車両チューナ9のアンテナ指向性を元の通常位置に戻す。これにより、車両周囲には、車両チューナ9の受信エリアとして通常受信エリアEa1が形成され、同エリアEa1による通信開始が待たれる。
【0042】
従って、本例の場合、アンテナ指向性を通常向きとした車両チューナ9で微弱電波を受信すると、車両チューナ9のアンテナ指向性を、それまでの通常向きから他向きに切り換える。そして、指向性切り換え後の受信強度Vxが閾値Vth0よりも高くなるかを見ることによって、電子キー2の位置を判定する。このとき、受信強度Vxが閾値Vth0よりも高くならなければ、車両チューナ9のアンテナ指向性を元の通常向きに戻して以降のワイヤレス通信の実行開始を待ち、受信強度Vxが閾値Vth0よりも高くなれば、車両チューナ9のアンテナ指向性を他向きのままとして、ワイヤレス通信を継続する。
【0043】
このため、もし仮に電子キー2がヌル地点13に位置していても、このときの電子キー2からの送信電波は、アンテナ指向性を他向きに切り換えた車両チューナ9で受信することが可能となる。よって、電子キー2がヌル地点13に位置していても、電子キー2からの電波を車両チューナ9に届かせることが可能となるので、この状況下であってもワイヤレス通信を成立させることが可能となる。このため、ワイヤレス通信の通信成立性を高いものとすることが可能となる。
【0044】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)車両チューナ9のアンテナ指向性が通常向きをとる際、同指向性のヌル地点13に電子キー2が位置していても、本例の通信シーケンスを使用することにより、電子キー2からの送信電波を車両チューナ9に受信させることができる。よって、ヌル地点13における通信不成立状況が解消されるので、ワイヤレス通信の通信成立性を高いものとすることができる。
【0045】
(2)車両チューナ9のアンテナ指向性を切り換える成分としてコンデンサ16を使用するので、コンデンサ16という入手し易い安価な部品によって車両チューナ9のアンテナ指向性を切り換えることができる。
【0046】
(3)逆Lアンテナの先端にコンデンサ16を付加すると、アンテナ指向性が激変する特性がある。本例の場合、この特性を利用して車両チューナ9のアンテナ指向性を切り換えるので、ヌル地点13を埋める比較受信エリアEbを、効率よく作り出すことができる。
【0047】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・車両チューナ9のアンテナ指向性を変える要素は、コンデンサ16に限定されない。例えば、図10に示すように、金属板51等のように受信のアンテナ指向性を変えることができるものであれば、何を用いてもよい。
【0048】
・車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きから他向きに切り換える際、通常はオフ状態をとるスイッチ17をオンすることで向きを切り換えることに限定されない。例えば、スイッチ17は通常、オン状態をとりものとし、オン状態のスイッチ17をオフに切り換えることにより、車両チューナ9のアンテナ指向性を通常向きから他向きに切り換えるようにしてもよい。
【0049】
・比較受信エリアEbは、ヌル地点13を補完(カバー)できていれば、どのようなエリア形状をとっていてもよい。
・車両チューナ9は、逆Lアンテナにより構成されることに限らず、例えばダイポールアンテナやスロットアンテナ等の他のアンテナとしてもよい。
【0050】
・ワイヤレスキーシステム3の周波数は、UHFに限定されず、これ以外の帯域を使用してもよい。
・車両チューナアンテナ指向性設定装置12は、ワイヤレスキーシステム3を利用した構成のものに限定されない。例えば、ワイヤレスキーシステム3とは独立したシステムとしてもよい。
【0051】
・車両チューナアンテナ指向性設定装置12は、ワイヤレスキーシステム3に応用されることに限定されず、例えばキー操作フリーシステムに応用してもよい。なお、キー操作フリーシステムとは、車両からキーID返信のリクエストを自動送信し、このリクエストに応答して電子キーが返信してきたIDコードでID照合を行うシステムである。
【0052】
・車両チューナアンテナ指向性設定装置12は、車両1のみに搭載されることに限らず、無線によりキー照合を行う機器、装置、システムであれば、その搭載先は別に問わない。
【0053】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項1〜3のいずれかにおいて、前記電子キーには、前記受信機が設置された操作対象を動作させる際に操作する操作手段が設けられ、当該操作手段が操作されると、前記電子キーの前記識別IDとともに、当該操作手段に応じた機能コードとを含む送信信号が送信され、当該送信信号を基に前記車両チューナのアンテナ指向性が設定される。この構成によれば、電子キーからの送信信号を利用して、車両チューナのアンテナ指向性を設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
2…電子キー、3…電子キーシステムとしてのワイヤレスキーシステム、9…受信機としての車両チューナ、12…アンテナ指向性設定装置としての車両チューナアンテナ指向性設定装置、13…ヌル地点、14…アンテナエレメント、15…基板、16…指向性切換成分を構成するコンデンサ、17…切換手段を構成するスイッチ、18…判定手段としての微弱電波検出部、19…切換手段を構成する指向性切換部、20…確認手段としての受信強度確認部、21…指向性設定手段としての指向性設定部、51…指向性切換成分を構成する金属板、Swl…電波としてのワイヤレス信号、Vx…受信強度、Vth0…閾値、Vnoise…ノイズレベル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子キーから送信された識別IDを受信する電子キーシステムに使用されるキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置において、
前記受信機のアンテナ指向性を切り換え可能な指向性切換成分と、
アンテナ指向性が一向きとなった前記受信機で、少なくともノイズレベルより高い受信強度の電波を受信しているか否かを判定する判定手段と、
当該電波を受信した際、前記指向性切換成分によって前記受信機のアンテナ指向性を、前記一向き時に生じる受信のヌル地点を補完した他向きに切り換える切換手段と、
前記アンテナ指向性の切り換え後の電波の受信強度が、通信可能な受信レベルより高くなるか否かを確認する確認手段と、
前記確認手段の確認結果を基に、前記受信機のアンテナ指向性を前記一向き及び他向きのどちらかに設定する指向性設定手段と
を備えたことを特徴とするキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置。
【請求項2】
前記指向性切換成分は、前記受信機の共振値を切り換え可能なコンデンサからなる
ことを特徴とする請求項1に記載のキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置。
【請求項3】
前記受信機は、L字形状のアンテナエレメントを逆向きにして基板に取り付けた逆Lアンテナにより構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のキー電波受信機のアンテナ指向性設定装置。
【請求項4】
電子キーから送信された識別IDを受信する電子キーシステムに使用されるキー電波受信機のアンテナ指向性設定方法において、
前記受信機にそのアンテナ指向性を切り換え可能な指向性切換成分を設け、アンテナ指向性が一向きとなった前記受信機で、少なくともノイズレベルより高い受信強度の電波を受信しているか否かを判定し、当該電波を受信した際、前記指向性切換成分によって前記受信機のアンテナ指向性を、前記一向き時に生じる受信のヌル地点を補完した他向きに切り換え、前記アンテナ指向性の切り換え後の電波の受信強度が、通信可能な受信レベルより高くなるか否かを確認し、この確認結果を基に、前記受信機のアンテナ指向性を前記一向き及び他向きのどちらかに設定する
ことを特徴とするキー電波受信機のアンテナ指向性設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−109588(P2011−109588A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265139(P2009−265139)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】