説明

クロスプライタイヤの製造方法

【課題】成形不良の発生、及びカーカスコードの配列乱れを抑制する。
【解決手段】円筒状の成形ドラム上で、タイヤ構成部材を重ね合わせて積層することにより円筒状の生タイヤを形成する円筒状生タイヤ形成工程と、前記成形ドラムから取り外された円筒状の生タイヤを、ブラダーを有するプリシェーピング手段の前記ブラダーの膨張によりトロイド状の生タイヤにプリシェーピングするプリシェーピング工程と、このプリシェーピングされたトロイド状の生タイヤを、加硫金型に投入して加硫成形する加硫成形工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカスプライ間でカーカスコードを交差させたクロスプライ構造のタイヤを高品質で製造しうるクロスプライタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カーカスコード及びブレーカコードをタイヤ赤道に対して約40〜60°の角度で傾斜させたバイアスタイヤを製造する場合、円筒状の成形ドラム上で、カーカスプライ、ブレーカプライ、トレッドゴムを含むタイヤ構成部材を順次重ね合わせることで円筒状の生タイヤを形成する。そして図5(A)、(B)に示すように、この生タイヤaを円筒状のまま加硫金型bに投入して、トロイド状の製品タイヤに加硫成形している(例えば非特許文献1参照。)。
【0003】
他方、カーカスのコード角度をラジアルタイヤのように70〜90°に高めたクロスプライ構造のタイヤにおいても、例えばATV(全地形走行車両)用タイヤのように、ブレーカのコード角度をバイアスタイヤのブレーカコード角度に近づけた場合には、このブレーカがブラダーによって容易に膨張しうるため、前述のバイアスタイヤと同様、生タイヤを円筒状態にて形成している。
【0004】
同図5の如く、前記加硫金型bには、生タイヤaの内側に、加硫ブラダーc1を有するシェーピング手段cが設けられており、生タイヤaが円筒状の場合には、前記加硫ブラダーc1を介して前記生タイヤaを膨張させながら加硫金型bを閉じるとともに、その後のブラダーc1のさらなる膨張により、前記生タイヤaを加硫金型bの内面(金型面)に押し付けて加硫が行われている。
【0005】
しかしこの時、加硫ブラダーc1の内圧P2が高すぎる場合には、加硫金型bが閉じるまでに生タイヤaが膨らみ過ぎてしまい、金型閉時、生タイヤaの一部が割面からはみ出してしまうなど成形不良を発生させる。又ブラダーc1の内圧P2が低すぎる場合には、生タイヤaを金型面に充分に沿わすことができなくなり、タイヤ外面に皺などの傷が発生するなど同様に成形不良を発生させる。特に、前記カーカスのコード角度が70〜90°と大きいタイヤでは、生タイヤaが急激に膨張する傾向が強いため、前記内圧P2の調整が難しく、成形不良の発生率を高めていた。又急激な膨張によりカーカスのコード配列に乱れが生じて均一性を損ねるなどタイヤのユニフォミティーの低下を招くという問題も生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ドライバーのためのタイヤ工学入門」、株式会社グランプリ出版、1989年発行、第39〜42頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、円筒状の生タイヤを、加硫金型に投入する前に、プリシェーピング手段によってトロイド状に膨張させることを基本として、加硫時のブラダーの圧力調整が容易となり、金型閉時の生タイヤのはみ出し、及びタイヤ外面の傷などの成形不良の発生を抑制するとともに、カーカスコードの配列乱れを抑えてユニフォミティーを向上しうるクロスプライタイヤの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、カーカスコードをカーカスプライ間で交差させたクロスプライタイヤの製造方法であって、
円筒状の成形ドラム上で、カーカスプライ、ブレーカプライ、トレッドゴムを含むタイヤ構成部材を重ね合わせて積層することにより円筒状の生タイヤを形成する円筒状生タイヤ形成工程と、
前記成形ドラムから取り外された円筒状の生タイヤを、ブラダーを有するプリシェーピング手段の前記ブラダーの膨張によりトロイド状の生タイヤにプリシェーピングするプリシェーピング工程と、
このプリシェーピングされたトロイド状の生タイヤを、加硫金型に投入して加硫成形する加硫成形工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
又請求項2の発明では、前記プリシェーピング工程は、前記円筒状の生タイヤを、そのトレッド部の最大外径が、前記加硫金型のトレッド成形面における最大内径の60〜90%となる膨張状態で2分以上保持することによりトロイド状の生タイヤにプリシェーピングすることを特徴としている。
【0010】
又請求項3の発明では、前記プリシェーピング工程は、前記ブラダーの内圧P1を30〜100kPaの範囲としたことを特徴としている。
【0011】
又請求項4の発明では、前記生タイヤは、前記カーカスプライのカーカスコードがタイヤ赤道面に対して70〜90°で配列することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は叙上の如く、加硫金型への投入に先駆け、生タイヤをプリシェーピングによって円筒状からトロイド状に変形させている。そのため生タイヤが金型面に沿い易くなり、ブラダー内圧P2が低い場合にもタイヤ外面への傷が発生しにくくなる。従って、ブラダー内圧P2の調整幅を広げることができるなど圧力調整が容易となり、金型閉時の生タイヤのはみ出し、及びタイヤ外面の傷などの成形不良の発生を抑制することができる。又「円筒状の生タイヤ」→「トロイド状の生タイヤ」→「製品タイヤ」とタイヤ形状が段階的に変化するため、急激な形状変化が抑えられ、カーカスコードの配列乱れを抑えてユニフォミティーを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法によって形成されるクロスプライタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】前記製造方法における円筒状生タイヤ形成工程を略示す説明図である。
【図3】前記製造方法におけるプリシェーピング工程を略示す説明図である。
【図4】前記製造方法における加硫成形工程を略示す説明図である。
【図5】(A)、(B)は、バイアスタイヤの従来の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法によって形成されるクロスプライタイヤ1の一実施例を示す断面図であって、該クロスプライタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るクロスプライ構造のカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるブレーカ7とを具える。本例では、前記クロスプライタイヤ1が、ATV(全地形走行車両)用のタイヤである場合が示される。
【0015】
前記カーカス6は、本例では、カーカスコードをタイヤ周方向に対して例えば70゜以上90゜未満の角度で傾斜させた2枚以上、本例では2枚のカーカスプライ6A、6Bから形成される。このカーカスプライ6A、6Bは、カーカスコードがカーカスプライ間相互で交差したクロスプライ構造をなすよう、カーカスコードの傾斜の向きを違えて重置される。又各カーカスプライ6A、6Bは、前記ビードコア5、5間に跨るトロイド状のプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを一連に具えるとともに、このプライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側に向かって立ち上がるビード補強用のビードエーペックスゴム8が配置される。
【0016】
又前記ブレーカ7は、ブレーカコードをタイヤ周方向に対して例えば40〜50゜の角度で配列した2枚以上、本例では2枚のブレーカプライ7A、7Bから形成される。このようにブレーカのコード角度が一般のラジアルタイヤのブレーカのコード角度よりも大であることにより、トレッド剛性が適度に減じられ、不整地での接地性や路面追従性が高められる。
【0017】
なお図中の符号2Gは、トレッド部2の外表面をなすトレッドゴム、3Gはサイドウォール部3の外表面をなすサイドウォールゴム、4Gはビード部4の外表面をなすクリンチゴム、9Gはタイヤ内腔面をなすインナーライナゴムであり、これらは前記カーカスプライ6A、6B、ブレーカプライ7A、7B、ビードコア5、ビードエーペックスゴム8とともにタイヤ構成部材を構成している。
【0018】
次に、前記クロスプライタイヤ1の製造方法を説明する。この製造方法は、円筒状生タイヤ形成工程(図2に示す。)と、プリシェーピング工程(図3に示す。)と、加硫成形工程(図4に示す。)とを含んで構成される。
【0019】
前記円筒状生タイヤ形成工程では、図2に示すように、円筒状の成形ドラム10上で、カーカスプライ6A、6B、ブレーカプライ7A、7B、トレッドゴム2Gを含む全てのタイヤ構成部材を順次重ね合わせて積層することにより、円筒状の生タイヤ20Aを形成する。この円筒状生タイヤ形成工程は、従来のバイアスタイヤにおける生タイヤ形成工程と実質的に同工程であって、成形ドラム10の両端からはみ出すカーカスプライ6A、6Bのはみ出し部分6Eをビードコア5の廻りで折り返す折り返しステップなども含まれる。なお同図には、便宜上、タイヤ構成部材のうちのインナーライナゴム9G、サイドウォールゴム3G、クリンチゴム4Gなどが省略して描かれている。又前記成形ドラム10として、拡縮径可能な周知構造の円筒状の成形ドラムが採用でき、成形ドラム10の縮径により、形成された円筒状の生タイヤ20Aが取り外される。
【0020】
次に、前記プリシェーピング工程では、前記成形ドラム10から取り外された円筒状の生タイヤ20Aを、図3に示すように、ブラダー21を有するプリシェーピング手段22に装着し、前記ブラダー21の膨張によりトロイド状の生タイヤ20Bにプリシェーピングする。
【0021】
前記プリシェーピング手段22は、支持軸23の上下に取り付く円盤状の保持板24U、24Lと、この保持板24U、24Lに両端部が気密に取り付く膨張可能なゴム製の円筒状のブラダー21とを具え、前記下の保持板24Lは、支持台25に取り付けられる。又プリシェーピング手段22は、前記支持台25に支持されるビード保持部27を有し、このビード保持部27は、前記生タイヤ20Aの下のビード部4を嵌着して該生タイヤ20Aをブラダー21と同心に保持する。なおビード保持部27は、昇降可能に支持され、保持する生タイヤ20Aの高さ中央と、ブラダー21の高さ中央との位置合わせが行われる。
【0022】
そして、前記ブラダー21は、前記支持台25に設ける空気流路28からの加圧空気によって膨張し、円筒状の生タイヤ20Aを、そのトレッド部2の最大外径Dtが、前記加硫金型30のトレッド成形面における最大内径Dm(図4に示す)の60〜90%となる膨張状態で2分以上保持する。これにより、トロイド状の生タイヤ20Bにプリシェーピングする。前記最大外径Dtが最大内径Dmの60%未満では、プリシェーピングによる効果を充分に発揮することが難しく、逆に90%を越えると、生タイヤ20Aが加硫金型30の割面間で噛み込みを起こすという不利を招く。又プリシェーピング工程の時間が2分未満では、プリシェーピング後に、生タイヤ20Bが円筒状に戻る傾向が強く、プリシェーピングの効果が不充分となる。なお前記時間の上限は、特に規制されないが、工程時間を短縮するため、10分以下が好ましい。
【0023】
なお前記最大外径Dtは、例えば光電管などの光センサ29を用いて検出しうるとともに、この最大外径Dtは、前記ブラダー21の内圧P1によってコントロールできる。又前記ブラダー21の内圧P1は、30〜100kPaの範囲が好ましく、タイヤのサイズや構造などに応じて適宜設定される。
【0024】
次に加硫成形工程では、図4に示すように、前記プリシェーピングされたトロイド状の生タイヤ20Bを、加硫金型30に投入して加硫成形する。この加硫成形工程は、従来の加硫成形工程と同様であり、加硫金型30の加硫ブラダー31を介して前記生タイヤ20Bを膨張させながら加硫金型30を閉じるとともに、その後の加硫ブラダー31の膨張により、前記生タイヤ20Bを加硫金型30の内面(金型面)に押し付けて加硫が行われる。
【0025】
このとき、本発明では、加硫金型30に投入する生タイヤが、円筒状からトロイド状に予め変形されているため、生タイヤ20Bが金型面に沿い易くなり、加硫ブラダー31の内圧P2が低い場合にもタイヤ外面への傷が発生しにくくなる。従って、加硫ブラダー31の内圧調整幅を広げることができるなど圧力調整が容易となり、金型閉時の生タイヤのはみ出し、及びタイヤ外面の傷などの成形不良の発生を抑制することができる。又「円筒状の生タイヤ20A」→「トロイド状の生タイヤ20B」→「製品タイヤ1」とタイヤ形状が段階的に変化するため、急激な形状変化が抑えられ、カーカスコードの配列乱れを抑えてユニフォミティーを向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0027】
本発明の効果を確認するため、図1に示す内部構造を有するATV用のクロスプライタイヤ(タイヤサイズ20×10−9)を、表2の仕様に基づき製造するとともに、その時の成形不良の発生状況について比較した。なお各タイヤとも実質的に同仕様である。
<カーカス>
・プライ数−−−−2枚
・コード角度−−−−86°(タイヤ赤道面に対する角度)
・コード構成−−−−940dtex/2(ナイロン)
<ブレーカ>
・プライ数−−−−2枚
・コード角度−−−−40°(タイヤ赤道面に対する角度)
・コード構成−−−−940dtex/2(ナイロン)
【0028】
(1)成形不良の発生状況
・加硫成形工程における加硫ブラダーの内圧P2を変化させて、それぞれ1000本のタイヤを加硫成形した。そして、その時発生した成形不良の形態、及びその発生本数を調査した。
表中の記号は、以下のとおりである。又括弧内の数字は発生本数を示す。
A−−−タイヤの内面に、ベアーが発生している。
B−−−タイヤの外表面に、傷が発生している。
C−−−金型閉時に、ゴムのはみ出しが発生している。
D−−−カーカスコードに、著しい配列乱れが発生している。
【0029】
【表1】

【0030】
表のように、実施例は、成形不良の発生、及びカーカスコードの配列乱れを抑制しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0031】
2G トレッドゴム
6A、6B カーカスプライ
7A、7B ブレーカプライ
10 成形ドラム
20A、20B 生タイヤ
21 ブラダー
22 プリシェーピング手段
30 加硫金型
Dt トレッド部の最大外径
Dm 加硫金型のトレッド成形面における最大内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスコードをカーカスプライ間で交差させたクロスプライタイヤの製造方法であって、
円筒状の成形ドラム上で、カーカスプライ、ブレーカプライ、トレッドゴムを含むタイヤ構成部材を重ね合わせて積層することにより円筒状の生タイヤを形成する円筒状生タイヤ形成工程と、
前記成形ドラムから取り外された円筒状の生タイヤを、ブラダーを有するプリシェーピング手段の前記ブラダーの膨張によりトロイド状の生タイヤにプリシェーピングするプリシェーピング工程と、
このプリシェーピングされたトロイド状の生タイヤを、加硫金型に投入して加硫成形する加硫成形工程とを含むことを特徴とするクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記プリシェーピング工程は、前記円筒状の生タイヤを、そのトレッド部の最大外径が、前記加硫金型のトレッド成形面における最大内径の60〜90%となる膨張状態で2分以上保持することによりトロイド状の生タイヤにプリシェーピングすることを特徴とする請求項1記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記プリシェーピング工程は、前記ブラダーの内圧P1を30〜100kPaの範囲としたことを特徴とする請求項1又は2記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記生タイヤは、前記カーカスプライのカーカスコードがタイヤ赤道面に対して70〜90°で配列することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のクロスプライタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131168(P2012−131168A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286433(P2010−286433)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】