説明

クロック再生装置、データ受信装置

【課題】 原クロックの周波数に対して再生クロックの周波数が定常的に大きいあるいは小さいという状況が継続しないようにしたクロック再生装置を提供する。
【解決手段】 クロック再生装置は、送信装置から受信中のデータから原クロック情報を取得する信号検出器101と、再生クロックを出力するVCXO111と、信号検出器101にて取得した原クロック情報の中から、同期合わせに用いる同期合わせ用クロック情報として原クロック情報を選択する信号選択器102とを備える。VCXO111は、原クロック情報から求められる同期合わせ用クロック情報の間隔と、再生クロックにより計測される同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を、同期合わせ用クロック情報の間隔で除した値に基づいて制御される。信号選択器102は、再生クロックが原クロックに近づくに従って、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークシステムにおける音声受信装置等に備えられるクロック再生装置に関する。より詳しくは、送信側にて利用されるクロックの周波数を表すクロック情報に基づいてその送信側にて利用されるクロックと同じ周波数のクロックを再生するようにしたクロック再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、音声をデジタル化して送信する送信装置と、音声データを受信する受信装置とからなるリアルタイム伝送システムにおいて、送信装置と受信装置のクロックを同期させる必要がある。すなわち、送信装置から転送される音声データをリアルタイムに処理(例えば、再生処理)するためには、受信される音声データを送信装置にて利用されるクロック(以下、「原クロック」という)の周波数にできるだけ近い周波数(望ましくは同じ周波数)のクロックに同期させて処理する必要がある。同期制御を実現するため、上記のようなシステムでは、送信装置が原クロックの周波数を表す原クロック情報を送信し、受信装置が受信した原クロック情報に基づいて原クロックの周波数と同じ周波数のクロックを生成する。このように、クロックの同期処理を行うための伝送システムは、等間隔にクロック情報を送る送信装置と、クロック再生装置を含む受信装置と有する。
【0003】
図10は、クロック再生装置を含む受信装置の構成を示す図である。クロック再生装置は、送信装置から送信される原クロックに基づく時刻と、カウンタ405にて得られた自装置の再生クロックとの差分が小さくなるように再生クロックの周波数を制御する。これにより、クロック再生装置にて、原クロックと同じ周波数の再生クロックが生成される。
【0004】
このようなクロック同期処理のシステムでは、原クロックの周波数に対して再生クロックの周波数が定常的に大きいあるいは小さいという状況が継続しないように前記再生クロックの周波数制御が可能となるクロック再生装置が提案されている。
【0005】
また、再生精度を向上させるために、原クロックの送信間隔を変えるという方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−153546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来のクロック再生装置では、イーサネット(登録商標)のような伝送遅延が保証されないようなネットワークでは、遅延揺らぎが発生したときにその影響の解消までかなりの時間がかかってしまう。特に、同期精度を上げるため同期間隔を長くした場合、同期に用いたクロック情報が遅延揺らぎの影響を受けた場合には、その影響が更に大きくなってしまう。
【0007】
また、原クロック情報の送信間隔を動的に変えようとした場合、1対1の送受信関係であればよいが、全ての受信装置が同一のタイミングで制御される1対多の伝送では、送信間隔の変更を複数台の受信装置に対して適用することが出来ない。さらに、送信装置または受信装置を追加・削除した場合に、タイミングのずれが大きくなってしまうという課題がある。
【0008】
本発明は、前述したような問題を解決するためになされたもので、原クロックの周波数に対して再生クロックの周波数が定常的に大きいあるいは小さいという状況が継続しないようにし、遅延揺らぎの影響を小さくすることのできる再生クロックの周波数制御が可能となるクロック再生装置およびこのクロック再生装置が適用されるデータ受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のクロック再生装置は、送信装置から受信中のデータから、前記送信装置のクロックに関する原クロック情報を取得する原クロック情報取得手段と、再生クロックを出力する再生クロック出力手段と、前記原クロック情報取得手段にて取得した原クロック情報の中から、同期合わせに用いる同期合わせ用クロック情報として所定の頻度で原クロック情報を選択する同期合わせ用クロック選択手段と、原クロック情報から求められる送信装置のクロックに基づく前記同期合わせ用クロック情報の間隔と、前記再生クロックにより計測される前記同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を、前記同期合わせ用クロック情報の間隔で除した値に基づいて、前記再生クロック出力手段を制御する制御手段とを備え、前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記制御手段による制御により前記再生クロックが前記原クロックに近づくに従って、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くする構成を有する。
【0010】
この構成により、同期動作初期においては原クロック情報の取得に応じて同期制御を行って再生クロックを原クロックに迅速に近づける。再生クロックが原クロックに近づくに従って、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を小さくし、同期合わせ用クロック情報の選択間隔を大きくするので、次第に同期精度を高めることができる。すなわち、選択する頻度を低くすることにより、同期合わせ用クロック情報の間隔が大きくなる。この大きくなった間隔で除した値で同期制御することにより、許容される誤差が小さくなるので、同期の精度を高めることができる。
【0011】
クロック再生装置がこのような構成を有することにより、送信側では、原クロック情報を送信するだけで、受信側でそれぞれのクロック再生装置に合った同期制御を行うことができる。従って、送信側で原クロックの動作中にクロック再生装置を追加および削除を行うことが可能である。また、送信側は、原クロック情報をブロードキャスト、マルチキャスト手法によって送信することができ、クロック再生の対象となる装置が増えても送信側の負荷が増えることはない。
【0012】
本発明のクロック再生装置において、前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記再生クロック出力手段にて出力される再生クロックと前記同期合わせ用クロック情報を選択する所定の頻度とから、前記同期合わせ用クロック情報として選択されるべき原クロック情報を受信するタイミングを予測し、予測したタイミングに原クロック情報を受信できたか否かを判定する構成を有する。
【0013】
この構成により、予測したタイミングに原クロック情報を受信できたか否かを判定するので、原クロック情報が送信される過程でのネットワークの状況による通信遅れなどを判定できる。
【0014】
本発明のクロック再生装置において、前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記予測したタイミングを含む所定の範囲内に前記原クロック情報を取得した場合には、予測したタイミングに原クロック情報を受信できたと判定する構成を有する。
【0015】
この構成により、送信装置との間のネットワークの輻輳等によって原クロック情報の受信間隔に多少の変動が生じた場合にも、正常に受信できたものとして扱うことができる。この所定の範囲については、ネットワークの特性などに応じて適宜設定することができる。
【0016】
本発明のクロック再生装置において、前記同期合わせ用クロック選択手段は、予測したタイミングに原クロック情報を受信できない事象が所定の回数連続した場合には、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を初期値に設定する構成を有する。
【0017】
この構成により、予測したタイミングに原クロック情報を受信できない事象が連続する場合は、それまでデータを送信していた送信装置から他の送信装置に切り替わった可能性があるので、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を初期値に設定し、頻度の高い同期制御を行って、再生クロックを原クロックに迅速に近づける。
【0018】
本発明のクロック再生装置において、前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記制御手段に対し、前記同期合わせ用クロック情報を選択したタイミングを通知し、前記制御手段は、前記同期合わせ用クロック選択手段から通知されたタイミングで、前記再生クロック出力手段から出力される再生クロックをカウントすることにより、前記同期合わせ用クロック情報の取得時間を計測する構成を有する。
【0019】
この構成により、再生クロック出力手段から出力された再生クロックにより、同期合わせ用クロック情報の取得時間を計測することができる。
【0020】
本発明のクロック再生装置において、前記制御手段は、原クロック情報から求められる送信装置のクロックに基づく前記同期合わせ用クロック情報の間隔と前記再生クロックにより計測される前記同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を求める減算手段と、前記減算手段で求めた差を前記同期合わせ用クロック情報の間隔で除する除算手段と、前記除算手段にて求めた値を積算する積算手段とを備え、前記除算手段にて求めた値または前記積算手段にて求めた値に基づいて前記再生クロック出力手段を制御する構成を有する。
【0021】
この構成により、除算手段にて求めた値、または除算手段にて求めた値を積算した値に基づいて、再生クロック出力手段を制御するので、状況に応じて適切に再生クロック出力手段を制御できる。
【0022】
本発明のクロック再生装置において、前記制御手段は、前記積算手段にて得られる値が所定の範囲内であるか否かを判定し、前記所定の範囲内であると所定回数連続して判定された場合に、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くする構成を有する。
【0023】
この構成により、積算手段にて得られる積算値に基づいて、所定の精度の同期合わせがなされたか否かを判定するので、原クロックと再生クロックの各周波数の累積的な大小関係に基づいて再生クロック出力手段を制御することができる。
【0024】
本発明のクロック再生装置において、前記制御手段は、前記積算手段にて求めた値が所定の範囲内であるか否かを判定し、前記所定の範囲内ではないと判定された場合に、前記除算手段にて求めた値に基づいて前記再生クロック出力手段を制御する構成を有する。
【0025】
積算手段にて求めた値が所定の範囲内にない場合には、送信装置が切り替わった可能性があるので、以前に取得した同期合わせ用原クロック情報を積算しないことにより、切替え前の送信装置の原クロック情報に影響を受けない制御を行える。
【0026】
本発明のクロック再生装置において、前記制御手段は、前記除算手段にて求めた値に基づいて前記再生クロック出力手段を制御する場合に、前記積算手段にて求めた値を前記除算手段で求めた値で初期化する構成を有する。
【0027】
この構成により、積算手段にて求めた値を除算手段で求めた値で初期化することにより、次に積算値を判定する場合に、切替え前の送信装置の原クロック情報に影響を受けない制御を行える。
【0028】
本発明の別の態様に係るクロック再生装置は、送信装置から受信中のデータから、前記送信装置のクロックに関する原クロック情報を取得する原クロック情報取得手段と、再生クロックを出力する再生クロック出力手段と、前記原クロック情報取得手段にて取得した原クロック情報の中から、同期合わせに用いる同期合わせ用クロック情報として所定の頻度で原クロック情報を選択する同期合わせ用クロック選択手段と、原クロック情報から求められる送信装置のクロックに基づく前記同期合わせ用クロック情報の間隔と、前記再生クロックにより計測される前記同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を、前記同期合わせ用クロック情報の間隔で除した値がゼロに近づくように前記再生クロック出力手段を制御する制御手段とを備え、前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記制御手段による制御により前記再生クロックが前記原クロックに近づくに従って、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くする構成を有する。
【0029】
この構成により、同期動作初期においては原クロック情報の取得に応じて同期制御を行って再生クロックを原クロックに迅速に近づける。再生クロックが原クロックに近づくに従って、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を小さくし、同期合わせ用クロック情報の選択間隔を大きくし、次第に同期精度を高めることができる。また、この構成により、原クロックと再生クロックの差をなくすように再生クロックの周波数が制御される。
【0030】
本発明のデータ受信装置は、送信装置から所定のネットワークを介して転送されるデータを受信する受信部と、再生クロックを生成するクロック再生部と、前記受信部にて受信されたデータを一時的に蓄積するバッファと、前記バッファに蓄積されたデータを前記クロック再生部にて生成される再生クロックに同期して処理するデータ処理部とを有し、前記クロック再生部は、上記のクロック再生装置を備えた構成を有する。
【0031】
この構成により、本発明のクロック再生装置と同様に、同期動作初期においては再生クロックを原クロックに迅速に近づけ、再生クロックが原クロックに近づくに従って次第に同期精度を高めることができる。この同期制御により、再生クロックに同期してリアルタイムに処理されるデータの量と、送信装置から転送されるデータの量とのバランスをとることができるようになる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、同期動作初期においては頻繁に同期合わせ用クロック情報を用いて同期制御を行って再生クロックを原クロックに迅速に近づけると共に、再生クロックが原クロックに近づくに従って、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を小さくし、同期合わせ用クロック情報の間隔を大きくし、次第に同期精度を高めることができるというすぐれた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態のクロック再生装置および受信装置について、図面を用いて説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態のクロック再生装置の構成を示す図である。図1を用いてクロック再生装置について詳細に説明する前に、本発明のクロック再生装置が適用されるデータ受信装置について説明する。
【0035】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るクロック再生装置が搭載されるデータ受信装置10の構成を示す図である。このデータ受信装置10は、例えば、送信装置から送信される音声データをリアルタイムに再生処理する。
【0036】
図2に示すように、データ受信装置10は、受信部11、入力処理部12、本発明に係るクロック再生装置の実施の一形態としてのクロック再生部13、バッファ14及び再生処理部15を有する。
【0037】
受信部11は、送信装置から所定のネットワークを介して順次転送されるデータを受信し、受信したデータを原クロック情報と音声データとに分離する。入力処理部12は、受信部11にて受信された音声データを所定の形式に変換してバッファ14に供給する。バッファ14は、所定の形式の音声データを蓄積する。クロック再生部13は、受信部11にて受信されたデータから原クロック情報を受け取り、これに基づいて周波数調整のなされた再生クロックを出力する。再生処理部15は、バッファ14に蓄積された音声データをクロック再生部13から出力される再生クロックに同期して再生処理(復号処理等)を行い、音声データを出力する。
【0038】
図1を参照して、クロック再生部13を構成する本実施の形態のクロック再生装置について説明する。クロック再生装置は、信号検出器101と、信号選択器102と、制御情報生成部120と、デジタルアナログ変換器(以下、「D/A変換器」という)109と、ローパスフィルタ(以下、「LPF」という)110と、可変周波数発振器(以下、「VCXO」という)111とを備えている。
【0039】
信号検出器101は、送信装置から受信中のデータから、原クロック情報を検出する機能を有する。送信装置から受信するデータには、再生すべきコンテンツなどのデータと共に、送信装置のクロック情報を示す原クロック情報が含まれている。本実施の形態では、原クロック情報は、基準時刻と通し番号とから構成される。基準時刻は、送信装置からのデータ送信が開始した時刻を「0」としたときの経過時刻を示す。通し番号は、先頭から何番目の原クロック情報であるかを示す。
【0040】
信号選択器102は、信号検出器101にて検出された原クロック情報のうちから所定の選択頻度で原クロック情報を選択する機能を有する。信号選択器102によって選択された原クロック情報は、再生クロックの同期合わせに用いられる。信号選択器102が所定の頻度で選択する原クロック情報を「同期合わせ用クロック情報」という。
【0041】
制御情報生成部120は、同期合わせ用クロック情報に基づいて、再生クロックを制御する制御情報を生成する機能を有する。制御情報生成部120がD/A変換器109に制御情報を入力すると、D/A変換器109は制御情報を制御電圧に変換する。D/A変換器109は、変換された制御電圧をLPF110を介してVCXO111に供給する。VCXO111は、LPF110を介して供給される制御電圧に応じて周波数制御された再生クロックを出力する。
【0042】
次に、制御情報生成部120の詳しい構成について説明する。制御情報生成部120は、減算器103、除算器104、積算器105、積算値評価部106、ラッチ回路107及びカウンタ108を有している。
【0043】
制御情報生成部120は、信号選択器102にて同期合わせ用クロック情報が選択されたタイミングで一連の処理を開始する。すなわち、信号選択器102は、同期合わせ用クロック情報の選択タイミングに同期した信号を生成し、その同期信号を制御情報生成部120に供給する。この同期信号が制御情報生成部120の処理のトリガとなる。
【0044】
減算器103は、信号選択器102にて選択された同期合わせ用クロック情報に基づく送信装置のクロックによる間隔と、再生クロックにより計測される同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を求める。同期合わせ用クロック情報の取得時間は、再生クロックをカウントするカウンタ108のカウント値によって求める。すなわち、信号選択器120から、同期合わせ用クロック情報を選択したタイミングを示す信号が通知されたタイミングで、再生クロックのカウント値を求める。これにより、信号選択器102が、同期合わせ用クロック情報を取得した時刻を再生クロックにより計測することができる。同期合わせ用クロック情報に基づく送信装置のクロックによる間隔と、実際に同期合わせ用クロック情報を取得した時間間隔の差分を求めることにより、両者のずれを検出できる。
【0045】
除算器104は、減算器103にて算出された差分を、同期合わせ用クロック情報の間隔で除する機能を有する。同期合わせ用クロック情報の間隔(選択間隔)は、信号選択器102にて選択頻度の情報と原クロック情報の基準時刻とから求められ、信号選択器102から送信される。
【0046】
積算器105は、除算器104にて同期信号に同期して得られる値を積算し、積算値を出力する。この積算値は、送信装置にて利用される原クロックの周波数と再生クロックの周波数との累積的な大小関係を表す。すなわち、原クロックが再生クロックより速い状態が長く続くと、その積算値は正の値となり、逆に、再生クロックが原クロックより大きくなる状態が長く続くと、その積算値は負の値となる。
【0047】
積算評価部106は、積算器105にて得られる積算値が所定の範囲内(しきい値Th+としきい値Th−との間の範囲)にあるか否かを判定し、その判定結果に基づいて、積算器105にて得られる積算値及び除算器104にて得られる値のいずれかを制御情報として出力する。積算値評価部106は、更に、制御情報を出力する際に、積算器105にリセット信号を送り、今まで得られていた積算値を除算器104にて得られている値に初期化(リセット)する。
【0048】
積算値評価部106から出力された制御情報は、ラッチ107にてラッチされ、D/A変換器109に供給される。D/A変換器109は、入力された制御情報を、所定の分解能で制御電圧に変換し、その制御電圧をLPF110を介してVCXO111に供給する。VCXO111は、D/A変換器109から供給される制御電圧に応じて周波数制御のなされた再生クロックを出力する。
【0049】
図3を参照して、信号選択器102のデータの流れについて説明する。信号選択器102は、最初に、原クロック情報を受け取ったときに、受け取った原クロック情報に含まれる基準時刻および通し番号と、その原クロック情報を受信した時刻(再生クロックに基づく時刻)を原クロック情報記憶部301に記憶する。
【0050】
信号選択器102は、受信した原クロック情報から同期合わせに用いるための同期合わせ用クロック情報を所定の頻度で選択する。図4は、同期合わせ用クロック情報の取得例を示す図である。本実施の形態のクロック再生装置では、信号選択器102は、同期動作の初期状態においては、頻繁に同期合わせ用クロック情報を選択し、再生クロックが原クロックと合ってくるに従って、同期合わせ用クロック情報の選択の頻度を低くする。
【0051】
また、信号選択器102は、同期合わせ用クロック情報として次に選択すべきクロック情報を受信するタイミングを予測する。信号選択器102は、同期合わせ用クロック情報の選択頻度と、クロック情報記憶部301に記憶された原クロック情報の基準時刻から同期合わせ用クロック情報として次に選択すべき原クロック情報の受信時刻を予測する。
【0052】
図5は、信号選択器102によって予測された受信時刻を示す図である。図5に示すように、予想受信時刻を中心とする時間幅2Wの範囲を、原クロック情報を受信するための有効範囲とする。なお、図5では、有効範囲は、予想受信時刻の前後の時間幅Wが同じ長さによって構成されているが、前後の時間幅Wを異なる値としてもよい。また、時間幅Wは、同期合わせ用クロック情報の選択頻度によって異なる値としてもよい。
【0053】
信号選択器102は、予測した有効範囲に原クロック情報を受信したときに、その原クロック情報を同期合わせ用クロック情報として選択し、それ以外の場合には原クロック情報を受信しても無効な原クロック情報として無視する。同期合わせ用クロック情報を選択した場合には、信号選択器102は、選択したタイミングを制御情報生成部120に伝え、その原クロック情報を減算器103に、選択間隔を除算器104に伝える。
【0054】
有効範囲の時間内に原クロック情報を受信しなかった場合、本来受けられるはずであったクロック情報が来なかったとみなし、信号選択器102は、未受信回数カウンタ302をカウントする。未受信回数カウンタ302は、原クロック情報を正常に処理できた時に初期化される。未受信回数カウンタ302が規定値を超えた場合、追従元の送信装置を失ったものとして、信号選択器102全体を初期化する。
【0055】
信号選択器102は、図5に示すように正常受信が続く場合に、その同期合わせ用クロック情報の選択の頻度を低くしてもよい。これにより、同期合わせ用クロック情報の間隔が大きくなり、除算器104が大きい値で除算を行うことになるので、クロックの追従精度を高めることができる。複数の受信装置が存在する場合、各受信装置における選択頻度は、異なっていてもよい。
【0056】
図6は、信号選択器102が原クロック情報を検出した際の動作を示す図である。信号選択器102は、クロック情報を検出した時、予想受信時刻が定義されているかどうかを確認し(S1)、未定義であれば(S1でYES)、クロック情報を受信した現在の時刻を元に、次回の予想受信時刻を設定する(S2)。予想受信時刻が定義されていた場合(S1でNO)、そのタイミングが予想受信時刻の有効範囲内であるかどうかを調べる(S3)。予想受信時刻の有効範囲外である場合は(S3でNO)、極端なずれ、もしくは選択対象外とみなし、そのクロック情報を無視する(S4)。クロック情報が有効範囲内であった場合は(S3でYES)、次回の予想受信時刻を更新し(S5)、選択間隔を除算器104に送出し、原クロック情報を減算器103に送出し、選択タイミングを示す信号を制御情報生成部120に送出する(S6)。その後、必要に応じ選択頻度を更新し(S7)、選択頻度および未受信回数カウンタを初期化する(S8)。
【0057】
図7は、信号選択器102が、予想受信時刻の有効範囲内にクロック情報が得られなかった場合の動作を示す図である。原クロック情報を受信することなく予想受信時刻から時間幅Wが経過したときに、未受信回数カウンタ302を加算し(S11)、未受信回数カウンタ302が規定回数を超えているかどうかを判定する(S12)。規定回数を超えていなければ(S12でNO)、自クロックを使用して次回の予想受信時刻を更新する(S15)。規定回数を超えていれば、クロック追従元の送信装置を失ったとして予想受信時刻を初期化して未定義とし(S13)、選択頻度も初期化する(S14)。
【0058】
以下、信号選択器102は、クロック情報を信号検出器101から受け取るか、有効範囲の時間が経過したときに前述した一連の動きでクロック情報を選択する。
【0059】
制御情報生成部120は、信号選択器102から選択タイミングを示す信号を受信する毎に制御情報を生成する。そして、その制御情報に基づいてVCXO111から出力される再生クロックの周波数が原クロックの周波数に近づくように制御される。
【0060】
本実施の形態のクロック再生装置は、同期制御の初期状態においては、原クロック情報の取得に応じて同期制御を行うことにより、再生クロックを原クロックに迅速に近づけ、再生クロックが原クロックに近づくに従って、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くして次第に同期制御の精度を高めることができる。
【0061】
図8は、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くすると、同期合わせの精度が高くなることを説明するための説明図である。図8の上段は、送信装置における原クロック情報の送信時刻を示す図である。送信装置は、原クロックの発振に従って、原クロック情報を送信しているので、送信装置の送信タイミングは原クロックの発振に従う。図8では、原クロックは、周期Tの送信タイミングで送信している。
【0062】
図8の下段は、クロック再生装置における原クロック情報の受信タイミングを示す図である。クロック再生装置が受信する原クロック情報は、ネットワークの状況により、送信装置のクロックより若干の遅れが生じる場合があり、図8はその様子を示している。
【0063】
クロック再生装置が、最初の原クロック情報C1を受信した時点が、クロック再生装置の同期制御の基準となる。クロック再生装置は、2番目の原クロック情報C2を、送信装置のクロックの周期Tより時間D2だけ遅れて受信している。同様に、3番目の原クロック情報をD3、4番目の原クロック情報をD4、・・・n番目の原クロック情報をDnだけ遅れて受信している。
【0064】
以下の説明の便宜のため、図8には、(1)同期合わせ用クロック情報に基づく間隔、(2)同期合わせ用クロック情報の受信時刻に基づく間隔を表している。本実施の形態のクロック再生装置は、両方の間隔の差分((2)−(1))を、(1)同期合わせ用クロック情報に基づく間隔で除した値に基づいて制御する。
【0065】
同期合わせ用クロック情報として全ての原クロックを選択したとする。例えば、原クロック情報C1、C2を考えた場合、減算器103によって計算される差分は、(2T+D2)−T=T+D2であり、除算器104によって計算される値の遅延時間による影響は、D2/Tとなる。
【0066】
これに対し、同期合わせ用クロック情報を5つおきの頻度で選択する。例えば、原クロック情報C1、C6を考えた場合、減算器103によって計算される差分は、(6T+D6)−T=5T+D6であり、除算器104によって計算される値の遅延時間による影響は、D6/5Tとなる。
【0067】
以上のように、同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くすることにより、(1)の同期合わせ用クロック情報に基づく間隔が大きくなり、遅延時間による影響の除算器104によって計算される値が小さくなる。原クロックと再生クロックとの同期制御を行う際、遅延時間による影響が小さくなるので、原クロックに対する再生クロックの精度を高めることができる。
【0068】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係るクロック再生装置が搭載された受信装置が適用されるネットワーク音声伝送系統を示す図である。
【0069】
この音声伝送系統においては、音声送信装置210、211が、音源201、202から得られた音声をネットワーク220を介して送信する。音声受信装置230、231、232は、音声送信装置210、211から送信された音声を受信し、スピーカ240、241、242で再生する。
【0070】
この音声伝送系統において、音声送信装置210、211は、同一ネットワーク220に接続された音声受信装置230〜232だけでなく、中継装置221を介して、異なるネットワーク222を通る音声受信装置233、スピーカ243に伝送してもよい。
【0071】
音源201、202としては、例えば、CDプレーヤ、ICプレーヤ、マイクなどの装置が用いられる。スピーカ240、241、242、243としては、天井埋め込み型スピーカや、つり下げスピーカなどが用いられる。ネットワーク220、221としては、LANやWANなどを想定している。
【0072】
例えば音場制御のように、音声伝送系統では伝送遅延時間を制御する必要な場合がある。このような場合には、図2に示すデータ受信装置を用いるだけでなく、1台のクロックマスター装置を音声送信装置210、211の中から選び、クロックマスター装置ではないデータ送信装置を含むスレーブ装置に対して制御を行う。クロックマスター装置は、例えばIPマルチキャストで、他のクロックスレーブ装置に対してクロック情報を送出する。これにより、複数のクロックスレーブ装置がその台数にかかわらず一定の負荷のままで受信することができる。
【0073】
図9の音声伝送系統において、伝送遅延の揺らぎを少なくするために、クロック情報や音声データを流す前に、前もって伝送経路を確定させておいてもよく、これにより上記のクロック同期の効果はより大きくなる。これは、異なるネットワーク220、221間を通るような場合に顕著である。
【0074】
図9においては、音声受信装置と、スピーカは別の装置である場合について記述しているが、受信装置はスピーカ内に内蔵している構成であってもよい。この場合のスピーカは、ネットワークスピーカとして動作する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、同期動作初期においては同期制御を行う頻度を高めて再生クロックを原クロックに迅速に近づけ、再生クロックと原クロックとの同期が大まかに合った後に、次第に同期精度を高めることができるというすぐれた効果を有し、伝送遅延が保証されないネットワークシステムにおける音声受信装置等に備えられるクロック再生装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本実施の形態のクロック再生装置の構成を示す図
【図2】本実施の形態のクロック再生装置を使用した受信装置の構成例を示す図
【図3】信号選択器のデータの流れを示す図
【図4】同期合わせ用クロック情報の選択について説明する図
【図5】同期合わせ用クロック情報として選択すべき原クロック情報の受信予測時刻について示す図
【図6】クロック情報受信時の信号選択器動作の説明のためのフロー図
【図7】クロック情報非受信時の信号選択器動作の説明のためのフロー図
【図8】本実施の形態の効果を説明するための図
【図9】第2の実施の形態における全体システムの構成図
【図10】従来のクロック再生装置のブロック図
【符号の説明】
【0077】
10 音声受信装置
11 受信部
12 入力処理部
13 クロック再生部
14 バッファ
15 再生処理部
101 信号検出器
102 信号選択器
103 減算器
104 除算器
105 積算器
106 積算値評価部
107 ラッチ回路
108 カウンタ
109 デジタルアナログ変換器(D/A変換器)
110 ローパスフィルタ(LPF)
111 可変周波数発振器(VCXO)
120 制御情報生成部
201、202 音源
210、211 音声送信装置
220、222 ネットワーク
221 中継装置
230、231、232、233 音声受信装置
240、241、242、243 スピーカ
301 クロック情報記憶部
302 未受信回数カウンタ
401 信号検出器
402 同期信号発生器
403 減算器
404 積算器
405 カウンタ
406 積算値評価部
407 ラッチ回路
408 デジタルアナログ変換器(D/A変換器)
409 ローパスフィルタ(LPF)
410 可変周波数発振器(VCXO)
411 制御情報生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置から受信中のデータから、前記送信装置のクロックに関する原クロック情報を取得する原クロック情報取得手段と、
再生クロックを出力する再生クロック出力手段と、
前記原クロック情報取得手段にて取得した原クロック情報の中から、同期合わせに用いる同期合わせ用クロック情報として所定の頻度で原クロック情報を選択する同期合わせ用クロック選択手段と、
原クロック情報から求められる送信装置のクロックに基づく前記同期合わせ用クロック情報の間隔と、前記再生クロックにより計測される前記同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を、前記同期合わせ用クロック情報の間隔で除した値に基づいて、前記再生クロック出力手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記制御手段による制御により前記再生クロックが前記原クロックに近づくに従って、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くすることを特徴とするクロック再生装置。
【請求項2】
前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記再生クロック出力手段にて出力される再生クロックと前記同期合わせ用クロック情報を選択する所定の頻度とから、前記同期合わせ用クロック情報として選択されるべき原クロック情報を受信するタイミングを予測し、予測したタイミングに原クロック情報を受信できたか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のクロック再生装置。
【請求項3】
前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記予測したタイミングを含む所定の範囲内に前記原クロック情報を受信した場合には、予測したタイミングに原クロック情報を受信できたと判定することを特徴とする請求項2に記載のクロック再生装置。
【請求項4】
前記同期合わせ用クロック選択手段は、予測したタイミングに原クロック情報を受信できない事象が所定の回数連続した場合には、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を初期値に設定することを特徴とする請求項2または3に記載のクロック再生装置。
【請求項5】
前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記制御手段に対し、前記同期合わせ用クロック情報を選択したタイミングを通知し、
前記制御手段は、前記同期合わせ用クロック選択手段から通知されたタイミングで、前記再生クロック出力手段から出力される再生クロックをカウントすることにより、前記同期合わせ用クロック情報の取得時間を計測することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のクロック再生装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
原クロック情報から求められる送信装置のクロックに基づく前記同期合わせ用クロック情報の間隔と前記再生クロックにより計測される前記同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を求める減算手段と、
前記減算手段で求めた差を前記同期合わせ用クロック情報の間隔で除する除算手段と、
前記除算手段にて求めた値を積算する積算手段と、
を備え、
前記除算手段にて求めた値または前記積算手段にて求めた値に基づいて前記再生クロック出力手段を制御することを特徴とする請求項1に記載のクロック再生装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記積算手段にて得られる値が所定の範囲内であるか否かを判定し、前記所定の範囲内であると所定回数連続して判定された場合に、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くすることを特徴とする請求項6に記載のクロック再生装置。
【請求項8】
前記制御手段は、
前記積算手段にて求めた値が所定の範囲内であるか否かを判定し、前記所定の範囲内ではないと判定された場合に、前記除算手段にて求めた値に基づいて前記再生クロック出力手段を制御することを特徴とする請求項6に記載のクロック再生装置。
【請求項9】
前記制御手段は、
前記除算手段にて求めた値に基づいて前記再生クロック出力手段を制御する場合に、前記積算手段にて求めた値を前記除算手段で求めた値で初期化することを特徴とする請求項8に記載のクロック再生装置。
【請求項10】
送信装置から受信中のデータから、前記送信装置のクロックに関する原クロック情報を取得する原クロック情報取得手段と、
再生クロックを出力する再生クロック出力手段と、
前記原クロック情報取得手段にて取得した原クロック情報の中から、同期合わせに用いる同期合わせ用クロック情報として所定の頻度で原クロック情報を選択する同期合わせ用クロック選択手段と、
原クロック情報から求められる送信装置のクロックに基づく前記同期合わせ用クロック情報の間隔と、前記再生クロックにより計測される前記同期合わせ用クロック情報の取得時間の間隔との差を、前記同期合わせ用クロック情報の間隔で除した値がゼロに近づくように前記再生クロック出力手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記同期合わせ用クロック選択手段は、前記制御手段による制御により前記再生クロックが前記原クロックに近づくに従って、前記同期合わせ用クロック情報を選択する頻度を低くすることを特徴とするクロック再生装置。
【請求項11】
送信装置から所定のネットワークを介して転送されるデータを受信する受信部と、
再生クロックを生成するクロック再生部と、
前記受信部にて受信されたデータを一時的に蓄積するバッファと、
前記バッファに蓄積されたデータを前記クロック再生部にて生成される再生クロックに同期して処理するデータ処理部と、
を有し、
前記クロック再生部は、請求項1〜10のいずれかに記載のクロック再生装置を備えたことを特徴とするデータ受信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−158543(P2007−158543A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348375(P2005−348375)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】