説明

グラファイトナノファイバおよびその製造方法、グラファイトナノファイバ電子源およびフィールドエミッションディスプレイ装置

【課題】垂直配向のグラファイトナノファイバを高密度かつ均一に形成可能なグラファイトナノファイバの製造方法、高出力電流密度のグラファイトナノファイバ電子源、高電流密度で高輝、大容量を有するフィールドエミッションディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】基板18上にカソード電極10を形成する工程と、カソード電極10上に絶縁膜12を形成する工程と、絶縁膜12上にゲート電極14を形成する工程と、絶縁膜12中にカソード電極10表面まで到達するホール11を形成する工程と、ホール11の底面に触媒金属層28を形成する工程と、触媒金属層28上に垂直配向にグラファイトナノファイバ4を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトナノファイバ(GNF:Graphite Nano-Fiber)に関し、特に垂直配向のGNFおよびその製造方法、さらに製造された垂直配向のGNFを適用するGNF電子源およびフィールドエミッションディスプレイ(FED: Field Emission Display)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばカーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano-Tube)やグラファイトナノファイバ(GNF)などのカーボンファイバを、化学気相成長(CVD)法で基板上に成長させる場合、カーボンファイバの核となる基板上に置かれる触媒の温度だけでなく、原料ガスの温度の高温化が必要である。そのため、基板温度が比較的高い、例えば600℃以上の場合は、基板を載せるサセプタの温度を上げて、サセプタからの放熱によって原料ガスの温度を上昇させ、カーボンファイバを基板上に成長させることができる。
【0003】
しかし、ガラスなどの低融点の物質を基板に使用する場合は、原料ガスをカーボンファイバの成長に必要な温度に上げるためにサセプタの温度を上げることによって、基板が変形するおそれがある。よって、基板上の触媒が活性化するためには十分で、かつ基板の融点より低い温度に基板温度を保つ一方で、原料ガスを高温にすることが求められる。
【0004】
基板温度を低く抑えながらカーボンファイバを成長させる技術として、チャンバーのガス導入部をプレーヒーティングすることによって原料ガスを加熱する方法や、プラズマによりチャンバー内の原料ガスをラジカルに分解して反応性の高い状態にし、触媒を核にしてカーボンファイバを成長する方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
一方、従来のGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源は、図18に示すように、基板上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された絶縁膜12と、絶縁膜12上に配置されたゲート電極14と、絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核29と、触媒微結晶核29上にカール状に形成されたグラファイトナノファイバ4とを備える。このような従来のGNFの製造方法を用いて形成したカール状のグラファイトナノファイバのSEM写真を図19に示す。
【0006】
従来のGNF構造は、図18乃至図19に示すように、曲りくねったカール形状をとり、GNFからの電子放出時、エミッションしにくい構造である。例えば、GNFに、電界がかかりやすい箇所があったとしても、GNFの先端が上向きでないため、電界集中しにくい構造となっている。
【特許文献1】特開2005−350342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、一本のファイバの太さが均一であり直線状の形態をとる垂直配向のGNFを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、ファイバ先端がダングリングボンド状態であり、エミッションし易い構造を有する垂直配向のGNFを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、600℃以下の低温にて成長が可能である垂直配向のGNFの製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記垂直配向GNFを用いて、電界放出の際、エミッションサイトが上向きで、エミッション効率が高く、高出力電流密度のGNF電子源を提供することにある。
【0011】
さらに本発明の目的は、上記のGNF製造法により製造されたGNFを適用し、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を有するFED装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、基板上にカソード電極を形成する工程と、前記カソード電極上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、前記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで到達するホールを形成する工程と、前記ホールの底面に触媒微結晶核を形成する工程と、前記触媒微結晶核上に垂直配向にグラファイトナノファイバを形成する工程とを有することを特徴とするグラファイトナノファイバの製造方法が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された絶縁膜と、前記絶縁膜上に配置されたゲート電極と、前記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、前記触媒微結晶核上に垂直配向に形成されたグラファイトナノファイバとを備えることを特徴とするグラファイトナノファイバ電子源が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された絶縁膜と、前記絶縁膜上に配置されたゲート電極と、前記ゲート電極を中間にして前記カソード電極と反対側の前記ゲート電極の上方に配置されたアノード電極と、前記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、前記触媒微結晶核上に垂直配向に形成されたグラファイトナノファイバと、前記アノード電極の前記カソード電極に対向する裏面上に配置された蛍光体とを備えることを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ装置が提供される。
【0015】
本発明の他の態様によれば、基板上にカソード電極を形成する工程と、前記カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、前記第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで到達するホールを形成する工程と、前記ホールの底面に触媒微結晶核を形成する工程と、前記ゲート電極表面上に第2絶縁膜を形成する酸化工程と、前記触媒微結晶核上に垂直配向にグラファイトナノファイバを形成する工程とを有することを特徴とするグラファイトナノファイバの製造方法が提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に配置されたゲート電極と、前記第1絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、
前記ゲート電極表面に形成された第2絶縁膜と、前記触媒微結晶核上に垂直配向に形成されたグラファイトナノファイバとを備えることを特徴とするグラファイトナノファイバ電子源が提供される。
【0017】
本発明の他の態様によれば、基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に配置されたゲート電極と、前記ゲート電極を中間にして前記カソード電極と反対側の前記ゲート電極の上方に配置されたアノード電極と、前第1記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、前記ゲート電極表面に形成された第2絶縁膜と、前記触媒微結晶核上に垂直配向に形成されたグラファイトナノファイバと、前記アノード電極の前記カソード電極に対向する裏面上に配置された蛍光体とを備えることを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一本のファイバの太さが均一であり直線状の形態をとる垂直配向のGNFを提供することができる。
【0019】
本発明によれば、閉殻構造のCNTとは異なり、ファイバ先端がダングリングボンド状態であり、エミッションし易い構造を有する垂直配向のGNFを提供することができる。
【0020】
本発明によれば、CNTに比べ、600℃以下の低温にて成長が可能である垂直配向のGNFの製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明によれば、上記の垂直配向のGNFを用いて、電界放出の際、エミッションサイトが上向きで、エミッション効率が高く、高出力電流密度のGNF電子源を提供することができる。
【0022】
さらに本発明によれば、上記のGNFの製造方法により製造されたGNFを適用し、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を有するFED装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0024】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0025】
[第1の実施の形態]
(グラファイトナノファイバの製造方法)
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法は、微細ホールの形成工程と、触媒金属層の形成工程と、GNFの成長工程とを有する。
【0026】
本発明の第1の実施の形態に係るGNF製造法は、図5に示すように、基板上に形成されたカソード電極10上に絶縁膜12を形成する工程と、絶縁膜12上にゲート電極14を形成する工程と、絶縁膜12中にカソード電極10表面まで到達するホール11を形成する工程と、ホール11の底面に触媒金属層28を形成する工程と、触媒金属層28上に垂直配向にGNFを形成する工程とを有する。
【0027】
微細ホール11の形成工程は、ウェットエッチング、或いはドライエッチングのいずれも適用可能である。
【0028】
触媒金属層28の形成工程は、例えば鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの触媒金属の触媒微結晶核29(図1および図3参照)をスパッタリング技術、もしくは超音波触媒めっき技術を用いて形成する工程を適用することができる。
【0029】
GNFの成長工程は、後述する気相成長装置(構成例1〜4)を用いて、600℃以下の低温成長により形成する工程を適用することができる。
【0030】
(グラファイトナノファイバ電子源およびFED装置)
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて製造した垂直配向のGNFを適用したGNF電子源は、図1乃至図4に示すように、基板18上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された絶縁膜12と、絶縁膜12上に配置されたゲート電極14と、絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホール11の底面に形成された触媒微結晶核29と、触媒微結晶核29上に600℃以下の低温にて垂直配向に形成されたGNF4とを備える。
【0031】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて製造した垂直配向のGNFを適用したGNF−FED装置は、図1に示すように、基板18上に配置されたカソード電極10と、カソード電極10上に配置された絶縁膜12と、絶縁膜12上に配置されたゲート電極14と、ゲート電極14を中間にしてカソード電極10と反対側のゲート電極14の上方に配置されたアノード電極6と、絶縁膜12中にカソード電極10表面まで形成されたホール11の底面に形成された触媒微結晶核29と、触媒微結晶核29上に600℃以下の低温にて垂直配向に形成されたGNF4と、アノード電極6のカソード電極10に対向する裏面上に配置された蛍光体5とを備える。
【0032】
アノード電極6とカソード電極10間には、アノード電極6を正電位、カソード電極10を負電位とするアノード電源Vaが印加され、アノード電極6とカソード電極10間には電子の加速電圧が与えられている。また、ゲート電極14とカソード電極10間には、ゲート電極14を正電位、カソード電極10を負電位とするゲート電源Vgが印加され、ゲート電極14とカソード電極10間には、垂直配向のGNF4からの電子の引出し電圧が与えられている。ゲート電極14とカソード電極10間に印加されたゲート電源Vgによって垂直配向のGNF4から引き出された(出射された)電子は、アノード電極6とカソード電極10間の加速電圧によって、アノード電極6に到達し、アノード電極6の裏面上の蛍光体5に入射して、所望の蛍光発光を放出する。アノード電極6とカソード電極10間は、例えば約数μm以下であり、しかも真空に保たれている。
【0033】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成した垂直配向のGNFを適用したGNF電子源によれば、高出力電流密度を実現することができる。
【0034】
さらに本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成した垂直配向のGNFを適用したGNF−FED装置によれば、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を実現することができる。
【0035】
(ウェットエッチングによる微細ホール形成工程)
図5を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法において、ウェットエッチングによる微細ホール形成工程を説明する。
【0036】
(a)まず、図5(a)に示すように、ガラス基板、SiO2基板、シリコン基板などからなる基板(図示省略)上に配置されたカソード電極10上に絶縁膜12を形成し、さらにゲート電極14およびレジスト16を形成後、パターニングによって、ゲート電極14をストライプ状に加工する。カソード電極10およびゲート電極14の電極材料としては、例えばCr、Moなどを用いることができる。カソード電極10およびゲート電極14は、スパッタリング技術若しくは蒸着技術などを用いて形成する。絶縁膜12の材料としては、例えば、化学的気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によって形成したCVDSiO2膜などを用いることができる。
【0037】
(b)次に、図5(b)に示すように、ウェットエッチングによって、絶縁膜12をエッチングして、複数のホール11を形成し、カソード電極10の表面を露出する。
【0038】
(c)次に、図5(c)に示すように、スパッタリング技術もしくは超音波触媒めっき技術によって、カソード電極10の表面およびレジスト16の表面上に触媒金属層28を形成する。触媒金属層28の材料としては、例えばFe、Co、Niなどを用いる。
【0039】
(d)次に、図5(d)に示すように、リフトオフ工程によって、レジスト16の表面上の触媒金属層28をレジスト16と共に除去する。
【0040】
(e)次に、図5(e)に示すように、GNF成長工程によって、触媒金属層28から600℃以下の低温にて垂直配向にGNF4を成長させる。
【0041】
ウェットホール形成によるGNFの製造方法の場合、ウェットエッチングによって、ホール11が図5(b)に示すように、横方向に広がるため、電界放出マトリックス電極を構成するカソード電極10とゲート電極14の交差部(1ドット)において、ウェットエッチングによる横方向に広がりによって、ホール11の配置密度が制限されている。
【0042】
上記においては、ウェットホール形成によるGNFの製造方法を説明したが、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)などのドライエッチングによる微細ホールの形成工程を適用することもできる。ドライエッチングによる微細ホール形成工程によるGNFの製造方法の場合、ドライエッチングによって、ホール11が、垂直方向に高アスペクト比で形成されるため、電界放出マトリックス電極を構成するカソード電極10とゲート電極14の交差部(1ドット)において、ホール11の配置密度を高密度化することができる。
【0043】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るGBFの製造方法を用いて形成したGNF−FEDの電界放出マトリックス電極であって、1ドットにホール11を多数詰め込んだ2×2マトリックスの模式的鳥瞰図を示す。なお、図2において、絶縁膜12は図示を省略している。
【0044】
電界放出マトリックス電極構造において、ゲート電極14とカソード電極10との交差部に形成される1ドット内のホール成形が複数個・高密度になされ、1ドットあたりの放出電流量が上昇する。
【0045】
ドライエッチングによってホールを形成する場合の方が、ウェットエッチングによってホールを形成する場合よりも、ホール底へ触媒微結晶核の形成密度を高くすることができるため、1ドットあたりの放出電流量を上昇するためには有利である。
【0046】
(超音波触媒めっき工程)
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法において、触媒微結晶核29の形成工程には、前述の通り、スパッタリング技術の他、超音波触媒めっき技術を用いることができる。
【0047】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法において用いる超音波触媒メッキ装置は、水を収納した超音波槽と、超音波槽内に収容され,電解液を収納したメッキ槽と、超音波槽の内壁とメッキ槽の外壁間を接続し,超音波槽内においてメッキ槽を保持する保持台と、メッキ槽内の電解液に浸漬され,互いに交差する複数のゲート電極14と複数のカソード電極10からなる電界放出マトリックス電極構造および対向陰極と、複数のゲート電極14を接続するゲート電極用のクリップと、複数のカソード電極10を接続するカソード電極用のクリップとを備える。
【0048】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に用いる超音波触媒メッキ法においては、ゲート電極(陽極)14の溶解を抑えるために、対向陰極を備え、対向陰極とゲート電極14間には、ゲート電極14を正の電位、対向陰極を負の電位とする電圧が印加される。また、カソード電極(陰極)10とゲート電極14間には、ゲート電極14を正の電位、カソード電極(陰極)10を負の電位とする電圧が印加されている。
【0049】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に用いる超音波触媒メッキ法においては、ゲート電極(陽極)14は溶ける恐れがあるため、クリップは触媒金属と同金属を用いることが望ましい。若しくは、溶けない導体からなるクリップなどで複数のゲート電極(陽極)14の導通をとることが望ましい。ホール11以外のカソード電極10の部分は絶縁膜12で覆われているためメッキされることはない。ホール11内のカソード電極10のみが、メッキされる。
【0050】
―イオン化傾向―
ここで、ゲート電極(陽極)14に使用する電極材料としては、もしも、触媒金属として、Feを利用するならば、Feよりもイオン化傾向の大きいCrなどの金属を使用する。電解液中に溶けた金属イオンが、カソード電極(陰極)10に優先的に析出されないようにするためである。
【0051】
イオン化傾向は、K>Na>Sr>Ca>Mg>Al>Ce>Cr>Mn>Zn>Cd>Fe>Co>Ni>Sn>Pb>(H)>Ge>In>Sb>Bi>Cu>Hg>Ag>Pt>Au>Si>Ti>C>W>Mo>Seで表される。
【0052】
したがって、ゲート電極(陽極)14に使用する電極材料としては、もしも、触媒金属として、Feを利用するならば、Feよりもイオン化傾向の大きい、例えば、Mg、Al、Ce、Cr、Mn、Zn、Cdなどの金属材料を適用する。
【0053】
電解液に溶かし込む触媒金属塩としては、例えば、Feイオンであるならば、FeCl2・4H2O,FeCl3・6H2O,Fe(SO4)・7H2O,Fe(NH4)2(SO4)・6H2Oなどを用いることができる。
【0054】
Coイオンであるならば、CoSO4・7H2O,CuSO4(NH)2 ・6H2O,CoCl2 ・6H2Oなどを用いることができる。
【0055】
Niイオンあるならば、NiO,NiSO4・7H2O,NiCl2・6H2O,NiSO4(NH4) SO4・6H2Oなどを用いることができる。
【0056】
なお、塩化物を含むものはゲート電極(陽極)14において塩素ガスを放出する点に留意する必要がある。
【0057】
(事前酸化工程およびGNFの成長工程)
メッキ後の基板18に対してはアセトン、アルコール洗浄を行い、残留メッキイオン成分を取り除く。
【0058】
GNFの気相成長装置としては、例えば、後述するように熱CVD装置、或いはプラズマCVD装置、リモートプラズマCVD装置などを使用することができる。
【0059】
成長ガスとしては、例えば、CH4,C22,CO,メタノール,エタノールなどを適用することができる。担持ガスとしては、例えば、Ar, H2,Heなどを適用することができる。
【0060】
成長温度は、例えば、約450℃〜600℃程度の範囲を用いることができる。基板18として、ガラス基板を使用する場合には、成長温度は、例えば、約600℃程度以下とする。成長時間は、例えば、約5分〜120分程度である。成長時間は、成長温度、ガス種、触媒によって多種多様である。
【0061】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法においては、ゲート電極14、或いはカソード電極10に対して、事前酸化を実施しても良い。
【0062】
事前酸化工程は、例えば約450℃で、10分〜20分程度実施する。事前酸化工程では、空気(Air)の導入によって酸化する。これによって、ゲート電極14の表面部分、カソード電極10の表面部分およびカソード電極10の表面に形成された触媒微結晶核29の表面部分を酸化することができる。その後一度真空に引き、その後、GNFの成長工程では、例えば約580℃で、10分〜30分程度、例えばCO/H2ガスを導入して、GNF4を成長する。上記事前酸化工程、GNF4の成長工程の温度条件は、一例である。実験的には、例えば約350℃から事前酸化は確認できている。
【0063】
また、GNF4の成長温度は例えば、約600℃以下である。この温度条件によって、垂直配向のGNF4の成長は、後述する図11に示すように、確認されている。
【0064】
事前酸化工程によって、ゲート電極14表面およびカソード電極10表面が予め酸化されて、ゲート電極14およびカソード電極10からの異常成長が防止される。また、GNF4の一部分がゲート電極14近傍に接触していても、ゲート電極14上の絶縁膜によって、短絡が防止されている。
【0065】
或いはまた、メッキによって被膜された触媒微結晶核29が、ホール11内のカソード電極10上に成長し、その後の事前酸化工程によって、ゲート電極14表面、カソード電極10表面および触媒微結晶核29が予め酸化されて、それぞれゲート電極14表面上に絶縁膜が形成されるため、ゲート電極14およびカソード電極10からの異常成長が防止される。ここでは、酸化した触媒金属(Fe,Ni,Co)からはGNF4が成長するという選択性を利用している。例えば、Fe23, FeO, NiO, Co23, CoOが還元されて、結果として、触媒金属が酸化されていたとしても、Fe, Co, Niが生じることで、酸化した触媒金属からは、GNF4が成長する。
【0066】
又、ゲート電極14の表面に絶縁膜が形成されるためGNF4が任意の長さ以上に成長して、ゲート電極14に接触した際、ショートになりにくい点も図2と同様である。
【0067】
(GNF電子源)
図4に示す構造においては、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法において、GNF4の成長後、ゲート電源Vgにより、ゲート・カソード間に電圧を印加することでGNF4の先端から電子放出がなされる。GNF4の成長後、ゲート・カソード間およびアノード・カソード間に電圧を印加することでも電子放出がなされる。
【0068】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFにおいては、エミッション効率を高めるため、GNFの先端を引き出し電極(ゲート電極)に向かって上向きに配向させている。
【0069】
また、本発明の第1の実施の形態に係るGNFにおいては、1本のファイバからのエミッション効率を増やすため、閉殻構造を取りやすいCNTではなく、先端がダングリングボンド形状のGNF構造を保持させている。
【0070】
(気相成長装置)
―構成例1―
本発明の第1の実施の形態に係る垂直配向GNFの製造方法に適用する気相成長装置の一構成例は、図6に示すように、原料ガスが導入されるチャンバー32と、チャンバー32内に配置され、基板100を載せるサセプタ40と、サセプタ40を加熱する加熱源36と、原料ガスに接するチャンバー32の内壁38とサセプタ40との間に配置された熱伝達部50とを備える。そして、サセプタ40から熱伝達部50を介して内壁38に伝達される熱により、チャンバー32内の原料ガスが加熱される。
【0071】
図6に示した気相成長装置は、チャンバー32内に原料ガスを導入するガス導入部30を更に備える。加熱源36に面するチャンバー32の上部であるチャンバー上部34は、加熱源36から発せられる熱が効率よくチャンバー32内のサセプタ40に達するような材料にする必要がある。例えば、加熱源36が赤外線ランプである場合などに、チャンバー上部34として石英ガラスなどが採用可能である。また、チャンバー上部34以外のチャンバー32の内壁38は、熱伝達部50を介してサセプタ40から伝達される熱により原料ガスを加熱する必要がある。そのため、チャンバー32の内壁38は、熱伝導率が高く、且つ熱を外部に放出しやすい材料であることが好ましい。チャンバー32の内壁38には、例えば426合金、ステンレス(SUS)鋼などが採用可能である。
【0072】
サセプタ40は、加熱源30が放出する熱を吸収し、サセプタ40上の基板100を加熱すると同時に、吸収した熱を放出してチャンバー32内の原料ガスを加熱する。サセプタ40には、熱吸収性のよい、熱伝導率が高い材料、例えば炭化ケイ素(SiC)などが採用可能である。例えば、加熱源30が赤外線ランプである場合などは、熱吸収効率が高くなるように、サセプタ40に黒色のSiCを用いることが好ましい。
【0073】
熱伝達部50は、サセプタ40で発生した熱を、効率よくチャンバー32の内壁38に伝達する必要がある。そのため、サセプタ40と同一材料か、或いは熱伝導率がサセプタ40よりも高い材料を用いることが好ましい。
【0074】
以下に、図6に示した気相成長装置によって基板100の表面にGNFを形成する例として、図7に示す温度フローチャートを参照しながら、基板100上にカーボンファイバを成長させる場合を例示的に説明する。図7の縦軸はサセプタ40の温度(以下において「サセプタ温度」という。)、横軸は時間である。
【0075】
(a)先ず、時刻t0において、GNFの核となる触媒、例えば鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの触媒微結晶核を表面に配置した基板100を準備し、この基板100をサセプタ40上に配置する。基板100には、ガラス、石英、シリコン(Si)ウェハなどが使用可能である。このときのサセプタ温度である温度TAは、例えば室温である。
【0076】
(b)次いで、GNFの原料ガスをガス導入部30からチャンバー32内に導入する。原料ガスとしては、例えば一酸化炭素/水素(CO/H2)混合ガスが採用可能であるが、他にも、二酸化炭素(CO2)ガス、メタン(CH4)ガスなどの炭素(C)を供給可能なガスが採用可能である。
【0077】
(c)その後、加熱源36によってサセプタ40が加熱される。具体的には、時刻t1から時刻t2までの昇温期間に、サセプタ温度が、温度TAから基板100上の触媒が活性化する温度TBまで上昇する。時刻t1から時刻t2の間、加熱源36によって加熱されたサセプタ40からチャンバー32内の原料ガスに熱が放出されると共に、サセプタ40から熱伝達部50を介してチャンバー32の内壁38に熱が伝達される。サセプタ40から熱伝達部50への熱流出により、基板100の温度上昇は抑制され、一方、熱伝達部50からの熱流入によりチャンバー32の内壁38の温度は上昇する。サセプタ40から内壁38に伝達された熱はチャンバー32内に放射され、その結果、チャンバー32の内壁38に接する原料ガスの温度が上昇する。上記において、温度TBは、例えば約500℃〜600℃の範囲であり、時刻t1から時刻t2までの昇温期間に、例えば約50℃/分で温度上昇させるように、例えば赤外線ランプによる加熱源36の出力を急激に上げ、触媒微結晶核でのGNF析出を促す。上記条件によって、GNF成長が早くなるため、GNF4は、直線状に成長し易くなる。
【0078】
(d)そして、時刻t2においてサセプタ温度が、触媒の活性化する温度TBに達すると、時刻t2から時刻t3までの成長期間においてサセプタ温度は温度TBに維持され、基板100上にGNFが成長する。GNFが成長している成長期間は、サセプタ40から熱伝達部50を介してチャンバー32の内壁38に熱が伝達されるため、基板100の温度上昇が抑制される。また、サセプタ40から熱伝達部50を介して内壁38に熱が伝達されない場合に比べて、原料ガスの温度が高くなる。
【0079】
(e)時刻t3において、基板100上のGNFが所望の長さまで均一に成長した段階で、加熱源36からの熱放出が停止され、時刻t3から時刻t4までの降温期間、サセプタ温度が温度TBから温度TAまで下げられる。原料ガスは図示を省略する排気系からチャンバー32の外部に排気される。
【0080】
(f)そして、時刻t4においてサセプタ温度が温度TAになった後、チャンバー32から基板100が取り出される。
【0081】
図6に示した気相成長装置では、サセプタ40から熱伝達部50を介してチャンバー32の内壁38に熱が流出する。そのため、熱伝達部50がないチャンバーでGNFを成長させる場合と基板温度を同程度にしたままで、加熱源36から放出する熱を増大することができ、増大された分の熱が内壁38に伝達される。つまり、基板100の基板温度が基板100の融点以下になるように基板温度の上昇を抑制しつつ、原料ガスの温度を上げることができる。その結果、基板100の表面での反応が早まり、GNFの成長時間が短縮される。
【0082】
熱伝達部50の構成は、所望のサセプタ温度と原料ガスの温度に応じて設定される。例えば、原料ガスの温度を高くしたい場合は、熱伝達部50とサセプタ40及びチャンバー32の内壁38との接触面積を大きくしたり、熱伝達部50の厚みを薄くしたりすることにより、サセプタ40から内壁38に伝達される熱量を増大させる。或いは、熱伝達部50の材料を、サセプタ40の材料よりも熱伝導率のよい材料にすることにより、サセプタ40が吸収した熱を内壁38に効率良く伝達できる。逆に、熱伝達部50とサセプタ40及びチャンバー32の内壁38との接触面積を小さくしたり、熱伝達部50の厚みを厚くしたりすることによって、原料ガスの温度を低くできる。
【0083】
通常、基板100上のGNF用の触媒が活性化する基板温度は、例えば約500℃〜600℃程度である。例えば、サセプタ40及び熱伝達部50に熱伝導率が150〜180W/m・℃であるSiCを採用し、CO/H2混合ガスを原料ガスとした場合に、基板100の基板温度500℃において、原料ガスの温度100℃以上(100℃〜150℃)を実現できる。このとき、基板100の表面にGNFを例えば約3μm程度形成させるのに要する時間は、例えば約10〜15分程度である。一方、熱伝達部50を介してサセプタ40からチャンバー32の内壁38に熱を伝達しない場合には、サセプタ40の温度が620℃でも原料ガスの温度は100℃以下であり、基板100の表面にGNFを例えば約3μm成長させるのに要する時間は、40分程度である。したがって、基板温度を上げることが困難な、融点が低い基板100を使用した場合において、GNFの成長時間を短縮することが可能である。
【0084】
上記ではサセプタ40及び熱伝達部50にSiCを使用する例を説明したが、他にも、熱伝導率が420W/m・℃の金(Au)、約1000W/m・℃のダイアモンド、約400W/m・℃の銅(Cu)などの熱伝導率が高い材料が存在する。しかし、上記のようなAu、Cuなどの熱伝導率が高い材料をサセプタ40或いは熱伝達部50に使用した場合は、サセプタ温度や原料ガスの温度の制御が難しくなる。そのため、サセプタ温度や原料ガスを所望の温度にするために注意が必要である。また、ヒータやホットプレートなどの電気を使用する構成部分を有する装置を使用してサセプタ40を加熱する場合は、チャンバー32内の原料ガスなどに引火しないように注意する必要がある。そのため、加熱源36に赤外線ランプを採用することが好ましい。
【0085】
以上に説明したように、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に適用する気相成長装置によれば、基板温度を所望の温度、例えば触媒が活性化するために十分な温度に保ちつつ、原料ガスを高温にすることができる。つまり、図6に示した気相成長装置によれば、基板温度の上昇を抑制しつつ、原料ガスの温度を上げることができる。そのため、融点が低い基板100を使用した場合において、成長時間を短縮することが可能である。
【0086】
また、図6に示した気相成長装置では、加熱源36によって加熱されたサセプタ40から熱伝達部50を介してチャンバー32の内壁38に伝達された熱によって、原料ガスが加熱される。そのため、原料ガスを加熱するための特別な加熱装置は不要であり、気相成長装置の構造が複雑にならない。更に、原料ガスをプラズマによってラジカルに分解する必要がないため、基板100の表面に成長されるGNFなどにプラズマによる欠陥が発生する問題もなく、基板100表面に成長されたGNFなどの品質は劣化しない。また、原料ガスをラジカルに分解するための特別な装置も必要ない。つまり、図6に示した気相成長装置によれば、成長コストが増大せず、基板温度の上昇を抑制しつつ原料ガスを加熱できる。
【0087】
―構成例2―
図6では、1つの熱伝達部50によってサセプタ40とチャンバー32の内壁38が接続された気相成長装置の例を示したが、図8に示すように、複数の熱伝達部50a〜50cによってサセプタ40と内壁38を接続してもよい。この場合、熱伝達部50の個数によっても、基板100の基板温度と原料ガスの温度の差を調整できる。
【0088】
―構成例3―
図9に示した気相成長装置は、シャワープレート60を更に備えることが、図6と異なる点である。シャワープレート60には原料ガスが通過する複数の穴が形成されており、ガス導入部30からチャンバー32内に導入された原料ガスは、シャワープレート60に形成された穴を通過して、基板100の上面に到達する。そのため、基板100の表面全体に原料ガスが均一に供給され、基板100の表面に成長させるGNFなどの厚みを均一にすることができる。
【0089】
例えば、加熱源36として、赤外線ランプを適用し、サセプタ40として、SiCを適用する場合、シャワープレート60の上方から成長ガスCO/H2を流す。赤外線ランプからSiCサセブタ40までの距離を離すことで、SiCサセブタ40が暖まりにくくなる。このため、赤外線ランプの出力を上昇させて、触媒微結晶核29などの触媒部において、GNFからなるカーボンの析出が開始され、GNFの成長と共に、SiCサセブタ40表面が黒くなる。それにより黒体であるGNFからなるカーボン部分に熱吸収が生じ、よりGNFの成長が促される。
【0090】
―構成例4―
図10に示すように、チャンバー32の内壁38の表面に熱吸収体110が配置されていることが、図1と異なる点である。その他の構成については、図6に示す構成例1と同様である。
【0091】
熱吸収体110は、熱吸収性のよい、熱伝導率の高い物質であることが好ましく、例えばSiC、或いはカーボンからなる膜などを採用可能である。また、加熱源36が赤外線ランプである場合は、効率よく熱を吸収するために、熱吸収体110は黒色であることが好ましい。
【0092】
熱吸収体110は、加熱源36から放出される熱を吸収し、吸収した熱をチャンバー32の内壁38に伝達する。そのため、サセプタ40から伝達される熱のみによってチャンバー32の内壁38を加熱する場合に比べて、チャンバー32の内壁38の温度が早く上昇する。つまり、熱吸収体110を備える構成例4の気相成長装置によれば、図6に示した構成例1の気相成長装置よりも効率よくチャンバー32内の原料ガスを加熱するこができる。
【0093】
図10では熱吸収体110がチャンバー32の内壁38に接触する例を示したが、熱吸収体110が内壁38に接触しないように熱吸収体110と内壁38との間に防着板を設け、熱吸収体110からの放熱によってチャンバー32内の原料ガスを加熱しても良い。他は、構成れ1と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。
【0094】
(実験結果)
図11(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る垂直配向GNFの製造方法を用いて形成した垂直配向GNF電子源において、ホール近傍の断面構造のSEM写真を示す。また、図11(b)は、形成された垂直配向GNFの拡大されたSEM写真を示す。図11(a)および図11(b)から明らかのように、ホール内に、約2μm程度の長さを有するGNFが均一に、ほぼ垂直方向にかつ高密度に形成されている。
【0095】
図12(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る垂直配向GNFの製造方法を用いて形成した垂直配向GNF電子源において、垂直配向GNFのTEM写真を示す。また、図11(b)は、図11(a)の拡大されたTEM写真を示す。
【0096】
図13は、図12(b)に示す垂直配向GNFのさらに拡大されたTEM写真を示す。間隔として、約3.13オングストローム程度のグラッフェンシートが積層構造に形成されている。
【0097】
図14は、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、GNFの軸方向に積層されたグラッフェンシート62の模式的断面構造図を示す。本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法により形成された垂直配向GNFは、一例として、図14に示すようなグラッフェンシート62の積層構造として模式的に表すことができる。
【0098】
図15は、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、GNFの軸方向に積層されたグラッフェンシート62の別の模式的断面構造図を示す。本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法により形成された垂直配向GNFは、図15に示すように、一例として、軸構造を有し、軸の周囲に傘状に積層されたグラッフェンシート62の積層構造として模式的に表すことができる。
【0099】
図16は、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、GNFファイバの軸方向に積層されたグラッフェンシートのさらに別の模式的断面構造図を示す。本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法により形成された垂直配向GNFは、図16に示すように、一例として、円筒部64の周囲に傘状に積層されたグラッフェンシート62の積層構造として模式的に表すことができる。
【0100】
図17(a)は、本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF−FEDの評価結果であり、従来例のカール状グラファイトナノファイバの場合と、本発明の垂直配向GNFの場合の比較例あって、エミッション電流(A)とゲート電圧Vg(V)との関係を示す。また、図17(b)は、エミッション電流密度(A/cm2)とゲート電圧Vg(V)との関係を示す。
【0101】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF−FEDにおいては、エミッション効率が上昇し、ゲート電圧Vg(V)閾値が10〜15V近傍でエミッションが開始している。
【0102】
図20(a)は、本発明の比較例に係る多層ナノチューブ(MWNT:Multi-walled Carbon Nano-tube)のTEM写真、図20(b)は、図20(a)の拡大されたTEM写真を示す。また、図21(a)は、図20(b)のさらに拡大されたTEM写真であって、触媒核金属(Fe)を中心として、16層形成されたMWNTの図、図20(b)は、図20(a)の模式的説明図を示す。
【0103】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNFは、図4に示すように、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの触媒微結晶核29上に垂直方向に直線状に成長し、その具体的構造は、図14乃至図16に示すように、グラッフェンシート62が傘状に積層構造を形成した構造を有する。したがって、本発明の比較例に係るNWNTの構成とは明らかに相違している。
【0104】
本発明の比較例に係るMWNTでは、図21に示すように、触媒微結晶核29を内包し、触媒微結晶核29を取り囲むように、多層構造が形成される。
【0105】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFでは、図14乃至図16に示す通り、GNFの軸方向に傘状に多層構造が形成される。
【0106】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNFは、カール状に曲りくねってはいないため、ファイバ同士で電界を弱め合う効果が弱まり、また、GNFが垂直方向に成長したためエミッション効率が良好になり、閾値電圧も低下する。
【0107】
本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法によれば、電界放出マトリックス電極を利用して、簡易かつ安価な方法で、ナノオーダの触媒微結晶核に基づくナノオーダのグラファイトナノファイバを垂直配向で、高密度かつ均一に形成することができる。
【0108】
さらに本発明の第1の実施の形態に係るグラファイトナノファイバ電子源によれば、上記GNFの製造方法により形成された垂直配向GNFを適用し、高出力電流密度を実現することができる。
【0109】
さらに本発明の第1の実施の形態に係るFED装置によれば、上記グラファイトナノファイバ製造法により製造された垂直配向グラファイトナノファイバを適用し、高電流密度で高輝度、大容量かつ大画面を実現することができる。
【0110】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は第1の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0111】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の実施の形態に係るGNFおよびその製造方法によれば、製造された垂直配向のGNFを適用する電子源、電子銃およびFED装置に適用することができ、さらに電子線描画装置、垂直配向のGNFを利用するナノ配線材料、電気2重層キャパシタのGNF電極部、燃料電池用カーボン電極部、ガスセンサの気体吸着用カーボンなど幅広い分野において適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF−FED装置の模式的断面構造図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF−FEDの電界放出マトリックス電極であって、1ドットにホールを複数個詰め込んだ2×2マトリックスの模式的鳥瞰図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、カソード電極上に触媒微結晶核を形成した様子を示す模式的断面構造図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、カソード電極上の触媒微結晶核に垂直配向GNFを形成したGNF電子源の模式的断面構造図。
【図5】本発明の第1の実施の形態として、ウェットエッチングによる微細ホール形成によるGNFの製造方法の一工程を示す模式的断面構造図であって、(a)レジストパターニング工程図、(b)ウェットエッチングによるホール形成工程図、(c)触媒金属層のスパッタリング工程図、(d)リフトオフ工程図、(e)(d)の拡大図において垂直配向GNF成長工程図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に適用する気相成長装置の一構成例を示す模式図(構成例1)。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に適用する気相成長装置によって基板上に垂直配向GNFを成長させる例を説明するための温度フローチャート。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に適用する気相成長装置の別の構成例を示す模式図(構成例2)。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に適用するさらに別の気相成長装置の構成例を示す模式図(構成例3)。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法に適用するさらに別の気相成長装置の構成例を示す模式図(構成例4)。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、(a)断面構造のSEM写真、(b)形成された垂直配向のGNFの拡大されたSEM写真。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、(a)垂直配向のGNFのTEM写真、(b)(a)の拡大されたTEM写真。
【図13】図12(b)に示すGNFのさらに拡大されたTEM写真(グラッフェンシート間隔:約3.13オングストローム)。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、GNFの軸方向に積層されたグラッフェンシートの模式的断面構造図。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、GNFの軸方向に積層されたグラッフェンシートの別の模式的断面構造図。
【図16】本発明の第1の実施の形態に係るGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源において、GNFの軸方向に積層されたグラッフェンシートのさらに別の模式的断面構造図。
【図17】本発明の第1の実施の形態に係るGNFファイバの製造方法を用いて形成したGNF−FEDの評価結果であり、従来例のカール状GNFの場合と、本発明の垂直配向GNFの場合の比較例あって、(a)エミッション電流(A)とゲート電圧Vg(V)との関係を示す図、(b)エミッション電流密度(A/cm2)とゲート電圧Vg(V)との関係を示す図。
【図18】従来のGNFの製造方法を用いて形成したGNF電子源の模式的断面構造図。
【図19】従来のGNFの製造方法を用いて形成したカール状GNFのSEM写真。
【図20】(a)本発明の比較例に係る多層ナノチューブ(MWNT:Multi-walled Carbon Nano-tube)のTEM写真、(b)(a)の拡大されたTEM写真。
【図21】(a)図20(b)のさらに拡大されたTEM写真であって、触媒核金属(Fe)を中心として、16層形成されたMWNTの図、(b)(a)模式的説明図。
【符号の説明】
【0114】
4…グラファイトナノファイバ(GNF)
5…蛍光体
6…アノード電極
7…ガラス基板
8…アノード電源(Va
9…ゲート電源(Vg
10…カソード電極
11…ホール
12…絶縁膜
14…ゲート電極(Cr層)
16…レジスト
18、100…基板
28…触媒金属層
29…触媒微結晶核
30…ガス導入部
32…チャンバー
34…チャンバー上部
36…加熱源
38…内壁
40…サセプタ
50,50a,50b,50c…熱伝達部
60…シャワープレート
62…グラッフェンシート
64…円筒部
110…熱吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にカソード電極を形成する工程と、
前記カソード電極上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで到達するホールを形成する工程と、
前記ホールの底面に触媒微結晶核を形成する工程と、
前記触媒微結晶核上に垂直配向にグラファイトナノファイバを形成する工程と
を有することを特徴とするグラファイトナノファイバの製造方法。
【請求項2】
前記グラファイトナノファイバを形成する工程は、600℃以下の成長温度を有することを特徴とする請求項1に記載のグラファイトナノファイバの製造方法。
【請求項3】
基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に配置されたゲート電極と、
前記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、
前記触媒微結晶核上に垂直配向に形成されたグラファイトナノファイバと
を備えることを特徴とするグラファイトナノファイバ電子源。
【請求項4】
前記グラファイトナノファイバは、600℃以下の成長温度にて形成することを特徴とする請求項3に記載のグラファイトナノファイバ電子源。
【請求項5】
基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に配置されたゲート電極と、
前記ゲート電極を中間にして前記カソード電極と反対側の前記ゲート電極の上方に配置されたアノード電極と、
前記絶縁膜中に前記カソード電極表面まで形成されたホールの底面に形成された触媒微結晶核と、
前記触媒微結晶核上に垂直配向に形成されたグラファイトナノファイバと、
前記アノード電極の前記カソード電極に対向する裏面上に配置された蛍光体と
を備えることを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ装置。
【請求項6】
前記グラファイトナノファイバは、600℃以下の成長温度にて形成することを特徴とする請求項5に記載のフィールドエミッションディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−146693(P2009−146693A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321996(P2007−321996)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】