説明

グラフェン素材の製造方法

【課題】所望形状のグラフェン素材を容易に作製する。
【解決手段】まず、基板本体12を用意し、その基板本体12の全面にNiの結晶層14を成膜する。続いて、リソグラフィ法により結晶層14をジグザグ状にパターニングし、触媒金属層16とする。さらに、触媒金属層16の側面にTiを形成してこれをマスク材17とする。次に、触媒金属層16に対してアセチレンとアルゴンとの混合ガスによりC原子を供給する。すると、Ni表面は(111)面に再配列されると共に、供給されたC原子は六角格子を形成してグラフェンが成長していく。グラフェンは触媒金属層16上に形成されるため、触媒金属層16と同じ形状つまりジグザグ状となる。次に、ジグザグ状のグラフェンの両末端に四角形の電極18,20を取り付ける。その後、触媒金属層16を酸性溶液で溶かし、グラフェンをグラフェン素材10として取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン素材の製造方法
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子の六員環が単層で連なって平面状になった二次元材料である。このグラフェンは、電子移動度がシリコンの100倍以上と言われている。近年、グラフェンをチャネル材料として利用したトランジスタが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、絶縁基板上に、絶縁分離膜で分離された触媒膜パターンを形成し、その触媒膜パターン上にグラフェンシートを成長させたあと、そのグラフェンシートの両側にドレイン電極及びソース電極を形成すると共に、グラフェンシート上にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成している。ここで、触媒膜パターンは絶縁膜で分離されているが、グラフェンシートは触媒膜パターンの端では横方向に延びることから、絶縁分離膜の両側の触媒膜パターンからグラフェンシートが延びて絶縁分離膜上でつながった構造が得られると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−164432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、グラフェン素材を単離する方法については、これまであまり多く報告されていない。一例としては、グラファイトに粘着テープを付着させたあとそのテープを剥がすことにより、粘着テープの粘着面にグラファイトから分離したグラフェンシートを付着させるという方法が知られている。
【0005】
しかしながら、こうした方法では、グラファイトからきれいにグラフェンシートが分離しないことがあるため、所望形状のグラフェンシートを得ることが困難であった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、所望形状のグラフェン素材を容易に作製することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のグラフェン素材の製造方法は、
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層と該触媒金属層の側面をマスクするマスク材とを基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面に炭素源を供給してグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記触媒金属層から前記所定形状のグラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含むものである。
【0008】
このグラフェン素材の製造方法によれば、グラフェン素材の形状は触媒金属層の形状をそのまま受け継ぐことになるため、触媒金属層を所望形状にパターニングしさえすれば、その所望形状のグラフェン素材を得ることができる。また、触媒金属層の側面にマスク材が形成されていることで、グラフェン素材が触媒金属層の側面で成長することを抑制することが可能である。これにより、所望形状により近いグラフェンを作製でき、また、触媒金属層からグラフェン素材を容易に引き剥がすことができる。
【0009】
ここで、グラフェン素材とは、炭素原子の六員環が単層で連なったグラフェンを1層又は複数層有する素材をいう。また、グラフェン化を促進する機能とは、炭素源と接触してその炭素源に含まれる炭素成分が互いに結合してグラフェンになるのを促進する機能をいう。
【0010】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(a)では、前記触媒金属層として一筆書きが可能な形状のものを形成してもよい。こうすれば、基板の面積が小さい場合であっても、得られるグラフェン素材の長さを長くすることができる。この場合、金属層と同形状のグラフェンが得られるが、その両端を把持して伸ばすことにより線状のグラフェン素材が得られる。こうした線状のグラフェン素材は、電気配線等に利用可能である。一筆書きが可能な形状は、例えば、ジグザグ状であってもよいし渦巻き状であってもよいし螺旋状であってもよい。具体的には、基板本体が平板状の場合には触媒金属層をジグザグ状又は渦巻き状に形成し、基板本体が円筒状の場合には触媒金属層を螺旋状に形成してもよい。
【0011】
工程(a)において、基板本体としては、特に限定するものではないが、例えばc面サファイア基板、a面サファイア基板、表面にSiO2層が形成されたSi基板、SiC基板、ZnO基板、GaN基板(テンプレート基板を含む)、W等の高融点金属基板、グラフェン化促進触媒能を有する金属の基板などが挙げられる。こうした基板本体は、単結晶基板の方が触媒金属層の結晶方位を揃えやすいため好ましい。但し、単結晶基板でなくても触媒金属層の方位は揃うことがあり得る。また、基板本体は、基本的には、グラフェンを成長させる工程(b)において劣化しないことが必要である。なお、基板本体として、表面にSiO2層が形成されたSi基板を用いる場合には、Siと触媒金属層との反応を抑制するために、基板と触媒金属層との間にTi,Pt,SiO2等の中間層を設けることが好ましい。中間層の厚さは、特に限定するものではないが、例えば1nm−10nm程度としてもよい。
【0012】
工程(a)において、触媒金属層の材質としては、Cu,Ni,Co,Ru,Fe,Pt,Au等が挙げられる。こうした金属のうち、表面に三角格子(三角形の頂点に金属原子が配置された構造)を持つものが好ましい。例えば、FCCの(111)面、BCCの(110)面、HCPの(0001)面が三角格子になる。触媒金属層の厚さは、特に限定するものではないが、例えば1−500nm程度としてもよい。但し、膜厚が薄すぎると、触媒金属が粒子化してしまうおそれがあるため、粒子化しない程度の厚さとするのが好ましい。また、触媒金属層の材質としては、炭素を固溶可能なものが好ましい。炭素を固溶した触媒金属を用いた場合、後述する工程(b)において、触媒金属層から放出された炭素がグラフェンとなることにより、グラフェンを容易に厚膜化できる。なお、グラフェンを厚膜化するには、触媒金属層が厚い(例えば200nm以上など)ことが好ましい。このような炭素を固溶可能な触媒金属層としては、炭素を最大で4.1at%固溶可能なCoや、炭素を最大で2.7at%固溶可能なNi、炭素を最大で0.095at%固溶可能なFeなどが挙げられる。なかでも、炭素と安定な酸化物をつくらないCoやNiが好ましい。なお、Co、Ni、Feなどに炭素を含有させるためには、金属を真空中若しくは不活性ガス中に高温で保持し、その表面に炭素原料(メタン、アセチレン、アルコールなど)を供給すればよい。
【0013】
工程(a)において、所定形状の触媒金属層を形成するには、例えば、周知のフォトリソグラフィ法によってパターニングしてもよい。その場合、まず基板の全面に触媒金属製の全面被覆層(結晶層)を形成し、次に所定形状の触媒金属層が残るようにレジストパターンを形成したあとウェットエッチング又はドライエッチングを行ってもよい。ウェットエッチングは、触媒金属層の金属種に応じて適宜エッチング液を選定すればよい。ドライエッチングも、触媒金属層の金属種に応じて適宜使用するガスを選定すればよい。また、所定形状の触媒金属層を形成するには、所定形状以外の部分を被覆するシャドウマスクを用いて触媒金属を蒸着又はスパッタしてもよい。
【0014】
工程(a)において、マスク材の材質は特に限定されないが、SiO2やSi34などの絶縁物や、触媒金属層と比較して触媒作用が低く炭素の溶解度が低いTi,W,Ta,Moなどの高融点金属などが挙げられる。このようなマスク材表面にはグラフェンが成長しにくいため、触媒金属層の形状により近い、所望形状のグラフェンシートを得ることができる。マスク材を形成する方法は特に限定されないが、例えばマスク材を蒸着又はスパッタしてもよい。
【0015】
工程(a)では、前記基板本体上に前記所定形状の触媒金属層を形成し、次に前記基板本体上に、前記触媒金属層が埋設されるようにマスク層を形成し、前記マスク層のうち前記触媒金属層と対向する部分以外の部分を覆うようにレジストパターンを形成したあと、前記マスク層のエッチングを行うことにより、前記触媒金属層の側面を前記マスク材でマスクしてもよい。
【0016】
工程(a)では、前記基板本体の全面を被覆する触媒金属製の全面被覆層を形成し、次に該全面被覆層の上に前記所定形状と同形状のレジストパターンを形成したあと、前記全面被覆層のエッチングを行うことにより、前記基板本体上に前記所定形状の触媒金属層を形成し、次に前記触媒金属層の上に前記レジストパターンを残した状態で、前記基板本体及び前記レジストパターンの上に前記触媒金属層よりも厚く前記触媒金属層と前記レジストパターンとの厚さの和よりも薄いマスク層を形成し、次に前記レジストパターンと前記レジストパターン上のマスク層とを除去することにより、前記触媒金属層の側面を前記マスク材でマスクしてもよい。なお、触媒金属はグラフェン化を促進する機能を有するものである。
【0017】
工程(b)において、炭素源としては、例えば、炭素数1〜6の炭化水素やアルコールなどが挙げられる。また、グラフェンを成長させる方法としては、例えば、アルコールCVD、熱CVD、プラズマCVD、ガスソースMBEなどが挙げられる。
【0018】
アルコールCVDは、例えば、成長温度を400−850℃とし、炭素源としてメタノールやエタノールなどのアルコールの飽和蒸気を供給する。アルコール飽和蒸気は、バブラにキャリアガスを流すことにより発生させてもよい。キャリアガスとしては、アルゴン、水素、窒素などを利用することができる。圧力は大気圧であってもよいし、減圧下であってもよい。
【0019】
熱CVDは、例えば、成長温度を800−1000℃とし、炭素源としてメタン、エチレン、アセチレン、ベンゼンなどを供給する。炭素源はアルゴンや水素などをキャリアガスとして供給し、炭素源の分圧は例えば0.002−5Pa程度とする。成長時間は例えば1−20分、圧力は加圧下(例えば1kPa)であってもよいし減圧下であってもよい。炭素源を分解するためにホットフィラメントを使用することが多い。
【0020】
プラズマCVDは、例えば、成長温度を950℃、圧力を1−1.1Pa、炭素源をメタン、メタン流量を5sccm、キャリアガスを水素、水素流量を20sccmとし、プラズマパワーを100W程度とする。
【0021】
ガスソースMBEは、例えば、炭素源としてエタノールを用い、エタノールで飽和した窒素ないしは水素ガスの流量を0.3−2sccmとし、真空中で炭素源分解のため2000℃に加熱したWフィラメントを使用する。基板温度は400−600℃程度である。
【0022】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(c)では、前記触媒金属層を溶かして前記所定形状のグラフェンをグラフェン素材として取り出してもよい。こうすれば、グラフェン素材を容易に取り出すことができる。
【0023】
工程(c)において、触媒金属層を溶かすには、例えば酸性溶液を用いる。どのような酸性溶液を用いるかは触媒金属層の金属種による。例えば、触媒金属層の材質がNiの場合には希硝酸を使用する。あるいは、触媒金属層からグラフェン素材を引き剥がすには、例えば触媒金属層の外周部分だけを酸性溶液でエッチングしてえぐり取り、エッチングされた箇所からグラフェン素材をめくるようにして機械的に引き剥がしてもよい。
【0024】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、工程(c)では、マスク材をも溶かして前記所定形状のグラフェンをグラフェン素材として取り出してもよい。こうすれば、グラフェン素材をより容易に取り出すことができる。例えば、マスク材の材質がSiO2やTiの場合には、フッ酸を使用する。
【0025】
本発明のグラフェン素材は、一筆書きが可能な形状(例えばジグザグ状又は渦巻き状)の自立したグラフェン素材である。こうしたグラフェン素材は、上述したグラフェン素材の製造方法によって容易に得ることができる。なお、「自立した」とは、テープなどの支持体などを有さず独立しているという意味である。
【0026】
あるいは、上述したグラフェン素材の製造方法の他に、以下の製造方法を採用してもよい。すなわち、
(a)基板本体の全面を被覆する触媒金属製の全面被覆層を形成し、次に前記全面被覆層の表面に所定形状とネガの関係にある形状のマスク材を形成する工程と、
(b)前記マスク材を形成した前記全面被覆層の表面に炭素源を供給して前記マスク材が形成されていない部分にグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記全面被覆層から前記所定形状のグラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含むものとしてもよい。この製造方法では、全面被覆層をパターニングして触媒金属層とする工程を経ることなく、触媒金属製の全面被覆層の表面にマスク材を形成してからグラフェンを成長させる。このため、より簡単な工程で所望形状のグラフェン素材を得ることができる。ここで、所定形状とネガの関係にある形状とは、所定形状以外の部分(残部)の形状をいう。なお、この製造方法においても、上述したグラフェン素材の製造方法で説明した種々の態様を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】グラフェン素材10を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。
【図2】グラフェン形成用基板11の製造工程を表す説明図(断面図)である。
【図3】グラフェン形成用基板31の製造工程を表す説明図(断面図)である。
【図4】グラフェン形成用基板41の製造工程を表す説明図(断面図)である。
【図5】グラフェン素材110を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。
【図6】渦巻き状の触媒金属層56が形成された基板本体52の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下には、実施形態として、ジグザグ状の自立したグラフェン素材10を製造する場合を例に挙げて説明する。図1は、グラフェン素材10を製造する手順を表す説明図(斜視図)であり、図2は、グラフェン形成用基板11の製造工程を表す説明図(断面図)である。
【0029】
まず、四角形状のc面サファイアからなる基板本体12を用意し(図2(a)参照)、その基板本体12の全面にNiを成膜して全面被覆層(結晶層)14とする(図1(a)、図2(b)参照)。続いて、リソグラフィ法により全面被覆層14を一筆書きが可能な形状、ここではジグザグ状にパターニングするようレジストパターン13を形成し(図2(c)参照)、全面被覆層14をジグザグ状の触媒金属層16とする(図2(d)参照)。次に、レジストパターン13を除去して触媒金属層16を露出させ(図2(e)参照)、この触媒金属層が埋設されるようにTiを形成してこれをマスク層17とし(図2(f)参照)、マスク層17の表面を研磨して触媒金属層16を露出させる(図1(b)、図2(g)参照)。このようにして、触媒金属層16の側面にTi製のマスク材19が形成されたグラフェン形成用基板11を製造する。
【0030】
次に、触媒金属層16のNiに対して、温度600℃、圧力1kPaにてアセチレンとアルゴンとの混合ガスによりC原子を供給する。すると、Ni表面は(111)面に再配列される。Ni(111)面には、Ni原子を頂点とした三角格子が構成される。そして、供給されたC原子は、Ni原子から構成されるそれぞれの三角形の重心の真上に配置されることで、C原子を頂点とした六角形が形成され、この六角形が互いに結合していくことでグラフェンが成長していく(図1(c)参照)。グラフェンは触媒金属層16上に形成され、マスク材19上には形成されにくいため、触媒金属層16と同じ形状つまりジグザグ状となる。
【0031】
次に、ジグザグ状のグラフェンの両末端に四角形の電極18,20を取り付ける(図1(d)参照)。その後、触媒金属層16及びマスク材19を酸性溶液で溶かす。ここでは、触媒金属層16はNiであるため、希硝酸を用いる。また、マスク材19はTiであるため、フッ酸を用いる。そして、触媒金属層16及びマスク材19が溶けたあと、グラフェンをグラフェン素材10として取り出す(図1(e)参照)。
【0032】
このようにして得られたグラフェン素材10は、ジグザグ状の自立した素材であるが、両末端の電極18,20を把持して伸ばすことにより線材にすることができる(図1(f)参照)。こうした線材は細くて大きな電流を流せる電気配線として利用可能である。また、グラフェンシートの特長を生かし、このように作製した電気配線の途中に、トランジスタ構造を作製し、電流の流れを制御することも可能である。
【0033】
以上説明した本実施形態のグラフェン素材10の製造方法によれば、グラフェン素材10の形状は触媒金属層16の形状をそのまま受け継ぐことになるため、触媒金属層16を所望形状にパターニングしさえすれば、その所望形状のグラフェン素材10を得ることができる。また、触媒金属層16の側面にマスク材19が形成されていることで、グラフェンが触媒金属層16の側面で成長することを抑制することが可能である。これにより、所望形状により近いグラフェン素材10を作製できる。また、触媒金属層16からグラフェン素材10を容易に引き剥がすことができる。また、触媒金属層16は、一筆書きが可能なジグザグ状であるため、基板本体12の面積が小さい場合であっても、得られるグラフェン素材10の長さを長くすることができる。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。基板本体は、線状、円筒状でも良く、このような形状の基板を用いることにより、より長い配線構造を容易に作製することが可能となる。
【0035】
例えば、上述した実施形態では、図1,2に示すグラフェン形成用基板11を用いてグラフェンを成長させたが、図3に示すグラフェン形成用基板31や、図4に示すグラフェン形成用基板41を作製し、これを用いてグラフェンを成長させてもよい。グラフェン形成用基板31,41では、マスク材39,49が触媒金属層16より高くなるように形成されているため、グラフェンが横方向に成長することを抑制可能であり、所望形状により近い形状のグラフェンシートが得られる。特に、グラフェンシートを厚膜化(多層化)する場合には、グラフェンが横方向にも成長しやすいため、マスク材を触媒金属層より高く形成することが好ましい。
【0036】
図3は、グラフェン形成用基板31の製造工程を表す説明図(断面図)である。この製造工程では、図3(a)〜(f)は、図2(a)〜(f)と同様のため、ここでは記載を省略する。図3(f)のようにマスク層17を形成したあと、マスク層17のうち触媒金属層16と対向する部分以外の部分を覆うようにレジストパターン35を形成する(図3(g)参照)。そして、レジストパターン35が形成されていない部分のマスク層17をエッチングを行うことにより除去し(図3(h)参照)、さらにレジストパターン35を除去する(図3(i)参照)。このようにして、触媒金属層16の側面にTi製のマスク材39が形成されたグラフェン形成用基板31が得られる。なお、パターン35を除去していないもの(図3(h)参照)をそのままグラフェン形成用基板として用いてもよい。
【0037】
図4は、グラフェン形成用基板41の製造工程を表す説明図(断面図)である。この製造工程では、まず、基板本体12を用意し(図4(a)参照)、その基板本体12の全面にNiを成膜して全面被覆層14とする(図4(b)参照)。続いて、グラフェンシート10と同様のジグザグ状と同形状のレジストパターン13を形成し(図4(c)参照)、全面被覆層14のうちレジストパターン13が形成されていない部分をエッチングにより除去してジグザグ状の触媒金属層16とする(図4(d)参照)。続いて、触媒金属層16の上にレジストパターン13を残した状態で、基板本体12及びレジストパターン13の上に触媒金属層16よりも厚く触媒金属層16とレジストパターン13との厚さの和よりも薄くなるようにTiを成膜してこれをマスク層47とする(図4(e)参照)。そして、レジストパターン13を除去することにより、レジストパターン13上に形成されたマスク層47をも除去する(図4(f)参照)。このようにして、触媒金属層16の側面にTi製のマスク材49が形成されたグラフェン形成用基板41が得られる。
【0038】
上述した実施形態では、図1に示す製造方法でグラフェン素材10を製造するものとしたが、例えば図5に示す方法でグラフェン素材を製造するものとしてもよい。図5は、グラフェン素材110を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。まず、四角形上のc面サファイアからなる基板本体112を用意し、その基板本体112の全面にNiを成膜して全面被覆層114とする(図5(a)参照)。続いて、全面被覆層114の表面に一筆書きが可能な形状、ここではジグザグ状、とネガの関係にある形状のマスク材119を形成する(図5(b)参照)。このようにして、グラフェン形成用基板111を製造する。次に、全面被覆層114のNiに対して、温度600℃、圧力1kPaにてアセチレンとアルゴンとの混合ガスによりC原子を供給する。これによりグラフェンが成長していく(図5(c)参照)。グラフェンは全面被覆層114上に形成され、マスク材119上には形成されにくいため、マスク材119が形成された残部の全面被覆層114と同じ形状つまりジグザグ状となる。次に、ジグザグ状のグラフェンの両末端に四角形の電極118,120を取り付ける(図5(d)参照)。その後、全面被覆層114及びマスク材119を酸性溶液で溶かす。そして、全面被覆層114及びマスク材119が溶けたあと、グラフェンをグラフェン素材110として取り出す(図5(e)参照)。このようにして得られたグラフェン素材110は、ジグザグ状の自立した素材であるが、両末端の電極118,120を把持して伸ばすことにより線材にすることができる(図5(f)参照)。この製造方法によれば、触媒金属層のパターニングを行う必要がないため、より容易に、所望形状のグラフェンシートを得ることができる。
【0039】
上述した実施形態では、ジグザグ状の触媒金属層16を基板本体12上に形成したが、図6(平面図)に示すように渦巻き状の触媒金属層56を基板本体52上に形成してもよい。この場合も上述した実施形態と同様にして触媒金属層56上にグラフェンを成長させたあと、グラフェンの両末端に電極を取り付け、その後触媒金属層56を溶かせば、グラフェンを渦巻き状のグラフェン素材として取り出すことができる。また、渦巻き状のグラフェン素材の両末端を把持して伸ばせば線材にすることができる。あるいは、ジグザグ状や渦巻き状以外でも、一筆書き形状であれば上述した実施形態と同様にしてその形状のグラフェン素材を取り出すことができる。あるいは、一筆書き形状以外の形状、例えば三角形や四角形などの多角形、円形、楕円形、星形など任意の形状を採用してもよい。この場合には、任意の形状のグラフェン素材を取り出すことができる。
【0040】
上述した実施形態では、熱CVDによりグラフェンを成長させたが、熱CVD以外の方法、例えばアルコールCVD、プラズマCVD、ガスソースMBEなどによりグラフェンを成長させてもよい。
【0041】
上述した実施形態では、触媒金属層16の材質としてNiを採用したが、グラフェンの成長を促進する機能を有する金属であればどのような材質を採用してもよい。Ni以外には、例えばCu,Co,Ru,Fe,Pt,Auなどが挙げられる。
【0042】
上述した実施形態では、触媒金属層16からグラフェン素材10を取り出すにあたり、触媒金属層16をすべて溶かしたが、例えば電極18,20を作製した触媒金属層16の端部付近だけを酸性溶液でエッチングしてえぐり取り、エッチングされた箇所からグラフェンをめくるようにして機械的に引き剥がすことでグラフェン素材10を取り出してもよい。グラフェンは六角形状の炭素が2次的に結合してなる平面構造が積層したものであるため、グラフェンのうち1,2層程度は触媒金属層16上に残るものの、残りはきれいに剥がれる。なお、グラフェンのうち触媒金属層16上に残ったものは、触媒金属層16を再利用する場合、グラフェン成長のシード的な役割を果たすことも可能である。また、上述した実施形態では、マスク材19を溶かしたが、物理的に切断してもよい。
【0043】
上述した実施形態では、基板本体12が板状の場合について説明したが、基板本体が円筒状であってもよい。その場合には、例えば基板本体にリボンを巻き付けるような感じで触媒金属層のパターニングを行い、その触媒金属層の表面にグラフェンを成長させることで、非常に長く滑らかな線状のグラフェン素材を簡単に得ることができる。このとき、基板本体は、中空(中が空)であってもよいし、中実(中が詰まっている)であってもよい。円筒状で中空の基板本体にグラフェンを成長させる場合には、基板本体の外面及び内面のいずれか一方に触媒金属層をパターニングし、その触媒金属層の表面にグラフェンを成長させてもよいし、あるいは、基板本体の外面及び内面の両方に触媒金属層をパターニングし、両触媒金属層の表面にグラフェンを成長させてもよい。また、円筒状の基板本体に触媒金属層を形成する方法としては、通常のフォトリソグラフィーに準じた手法を基板本体を回転させながら適用してもよいし、ナノインプリントの技術を用いて機械的にリソグラフィーパターンを転写してもよいし、細いけがき針を使用して機械的にパターニングしてもよい。触媒金属を成膜する方法は、蒸着を採用してもよいし、その金属を含む液状の原料を吹き付ける、もしくはその液中に基板を浸し、その後、熱処理を行い触媒金属の薄膜を形成する方法を採用してもよい。触媒金属層の表面にグラフェンを成長させるには、触媒金属層の表面に炭素源を供給するが、基板本体が円筒状で中空の場合には、基板本体を真空チャンバーと見立ててその中に炭素源となる原料ガスを流してグラフェンを成長させることができるため、真空チャンバーを用意する必要がなくなり、装置構成の大幅な簡略化、ひいては生産性の向上や生産コストの削減など多くの優れた効果を期待できる。
【0044】
円筒形状の基板を用いた場合、基板から他の支持材に転写することにより、また、基板から引きはがすことなくそのままの形状で使用することにより、優れたコイル特性が示される。一般的に、コイルから発生する磁界の大きさは、電磁気学が示すようにコイルの巻き数と流す電流の積で決まる。グラフェンシートを用いた場合は、通常の銅線を用いた場合より細い線形状が作製しやすく、なおかつより大きな電流を流すこともできるので、本発明によるコイルはより小さな形状で、より大きな磁界を発生することができる。すなわち、大きなコンダクタンスを示すことができる。例えば、20マイクロメータ幅のグラフェンシートを、隣同士のグラフェンシートの間隔5マイクロメータで、すなわち、周期25マイクロメータで作製しコイルを形成すれば、1cmの長さでコイルを400回巻くことができる。このように、本発明によれば、極めて簡便な作製方法により、すなわち、コイルを巻くことなしに、従来より大幅に小型化した高性能なコイルの生産が可能である。グラフェンシートに流せる電流も通常の銅線より大きいため、上記コイルから発生する磁力は、より大きくできる。このコイルは、単にインダクタンスとして使用するばかりでなく、二つのコイルを鉄心などによりカップリングし組み合わすことによりトランスとして、また、モーター等に使用する電磁石として使用できることはいうまでもない。さらに、コイル形状は円筒状ばかりでなく、モーター等の鉄心形状にあわせ楕円筒状、四角筒状などと必要によって基板形状を変化させれば、成長したそのままの形で機器にアセンブルすることもできる。トランスを作製する場合は、サイズを変えた基板を用い、鉄心の周りに同心的にこのコイルを重ねることで良い。また、円筒状基板の外側、内側に形成したコイルに鉄心を装備し利用する。もしくは、鉄心を入れたグラフェンシートコイルを部分に分割し、それぞれを独立した巻き線として利用することで、トランスを構成することができる。以上のように、本発明によれば、各種磁性機器の性能向上、小型化、生産性向上が実現できる。
【0045】
一方、線状形状の基板として、銅などの金属線を用いた場合は、グラフェンシートの成長後、基板から分離せずにそのままの形状で使用することも可能である。この場合は、中心の金属部も伝導性に寄与し、周囲のグラフェンシートも同時に導電性に寄与するため、従来の金属線よりも優れた導電率ならびに耐電流特性が示される。本構造は配線材料に用いることができるほか、コイル形状に巻くことにより、モーター、トランス等の機器に応用することが可能である。以上の様に、金属導体をグラフェンシートと融合した構造も、本発明によれば簡便に作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法で得られたグラフェン素材は、微細な電気配線などに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10,110 グラフェン素材、11,31,41,111 グラフェン形成用基板、12,52,112 基板本体、13,35,43 レジストパターン、14,114 全面被覆層、16,56 触媒金属層、17,47 マスク層、19,39,49,119 マスク材、18,20,118,120 電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層と該触媒金属層の側面をマスクするマスク材とを基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面に炭素源を供給してグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記触媒金属層から前記所定形状のグラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含むグラフェン素材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)では、前記基板本体上に前記所定形状の触媒金属層を形成し、次に前記基板本体上に、前記触媒金属層が埋設されるようにマスク層を形成し、前記マスク層のうち前記触媒金属層と対向する部分以外の部分を覆うようにレジストパターンを形成したあと、前記マスク層のエッチングを行うことにより、前記触媒金属層の側面を前記マスク材でマスクする、
請求項1に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)では、前記基板本体の全面を被覆する触媒金属製の全面被覆層を形成し、次に該全面被覆層の上に前記所定形状と同形状のレジストパターンを形成したあと、前記全面被覆層のエッチングを行うことにより、前記基板本体上に前記所定形状の触媒金属層を形成し、次に前記触媒金属層の上に前記レジストパターンを残した状態で、前記基板本体及び前記レジストパターンの上に前記触媒金属層よりも厚く前記触媒金属層と前記レジストパターンとの厚さの和よりも薄いマスク層を形成し、次に前記レジストパターンと前記レジストパターン上のマスク層とを除去することにより、前記触媒金属層の側面を前記マスク材でマスクする、
請求項1に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項4】
前記マスク材は、絶縁物であるか、又は、前記触媒金属層と比較して触媒作用が低く炭素の溶解度が低い金属、である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項5】
(a)基板本体の全面を被覆する触媒金属製の全面被覆層を形成し、次に前記全面被覆層の表面に所定形状とネガの関係にある形状のマスク材を形成する工程と、
(b)前記マスク材を形成した前記全面被覆層の表面に炭素源を供給して前記マスク材が形成されていない部分にグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記全面被覆層から前記所定形状のグラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含むグラフェン素材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144420(P2012−144420A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149418(P2011−149418)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】