説明

コイルばねの被覆部形成方法

【課題】 コイルばねに均一な樹脂被覆部を形成すること。
【解決手段】 コイルばね10の被覆部形成方法であって、コイルばね10を加熱する工程と、加熱されたコイルばね10を熱硬化性樹脂液に浸漬する工程と、熱硬化性樹脂液から引き上げたコイルばね10を再加熱する工程とを有してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用懸架ばねとして用いて好適なコイルばねの被覆部形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用懸架ばねとして用いられるコイルばねは、走行時に生ずる振動、衝撃等により、相隣るばね素線が互いに接触して異音を生ずる。従来より、この異音を防止するため、コイルばねの一部分に樹脂被覆部を設けることが提案されている。
【0003】
特許文献1に記載のコイルばねの被覆部形成方法は、所定の表面温度に予熱されたコイルばねの少なくとも軸方向一部分を、内部に融点が250℃以下の熱可塑性樹脂粉体を収容した容器内で転動させ、コイルばねのばね素線に付着した樹脂粉体を加熱溶融した後、冷却固化させるものである。
【特許文献1】特公昭59-8430
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のコイルばねの被覆部形成方法では、コイルばねに樹脂粉体を被覆するため、樹脂として熱可塑性樹脂を用いる必要がある。熱可塑性樹脂の粉体は、コイルばねの熱により溶融された後に固化するので、コイルばねのまわりで溶けた樹脂が該コイルばねに付着しないでそのまま容器内に残る場合があり、この樹脂が次のコイルばねに固まりとなって付着する等、コイルばねの樹脂被覆部にムラを生じて均一な被覆に困難がある。
【0005】
本発明の課題は、コイルばねに均一な樹脂被覆部を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、コイルばねを加熱する工程と、加熱されたコイルばねを熱硬化性樹脂液に浸漬する工程と、熱硬化性樹脂液から引き上げたコイルばねを再加熱する工程とを有してなるコイルばねの被覆部形成方法である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記熱硬化性樹脂液がアクリルゾルであるようにしたものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記コイルばねを加熱する工程が、該コイルばねの塗装後の加熱乾燥工程であるようにしたものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のコイルばねの被覆部形成方法の実施に用いられるコイルばねの被覆部形成装置であって、コイルばねの塗装ラインの塗装後の加熱乾燥炉の出側に、熱硬化性樹脂液の浸漬槽と、コイルばねの再加熱乾燥炉を順に設置したコイルばねの被覆部形成装置である。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)
(a)コイルばねに付着した液状の熱可塑性樹脂が該コイルばねの熱により硬化し、ムラなく一定厚の均一な樹脂被覆部が形成される。その後のコイルばねの再加熱により樹脂被覆部を更に硬化させ、熱に強い(耐熱性)安定した樹脂被覆部が形成される。
【0011】
(請求項2)
(b)コイルばねの樹脂被覆部を形成するように、加熱されて硬化したアクリル樹脂は、柔軟性をもち、相隣るばね素線の接触による異音を効果的に防止する。また、アクリル樹脂は耐久性、耐環境性に優れる。
【0012】
(請求項3)
(c)コイルばねの塗装後の加熱乾燥工程で該コイルばねに付与される熱を利用し、コイルばねに付着した液状の熱可塑性樹脂を硬化させることができる。
【0013】
(請求項4)
(d)コイルばねの被覆部形成装置は、コイルばねの塗装ラインの塗装後の加熱乾燥炉の出側に、熱硬化性樹脂液の浸漬槽と、コイルばねの再加熱乾燥炉を順に設置して構成される。コイルばねの塗装ラインを含む製造ラインの一部に被覆部形成装置を設置することで、コイルばねに樹脂被覆部を形成でき、コイルばねの生産性を向上できる。熱可塑性樹脂液の浸漬槽の高さを変更することにより、コイルばねの浸漬深さ、ひいては樹脂被覆部の長さ(2巻目、3巻目等の被覆位置)を調整できる。コイルばねの浸漬時間を変更することにより、樹脂被覆部の被覆厚を調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はコイルばねを示す模式図、図2はコイルばねの被覆部形成装置を示す模式図、図3はコイルばねの製造ラインの一貫生産工程の一例を図表である。
【実施例】
【0015】
コイルばね10は、図1に示す如く、ばね端末部のばね素線11に樹脂被覆部12を形成され、相隣るばね素線11、11の接触による異音を防止する。
【0016】
コイルばね10の樹脂被覆部12は以下の手順で形成される。このとき、コイルばね10の樹脂被覆部12は、例えば図2に示した如くの、塗装ライン100内に設置した被覆部形成装置100Aにより形成できる。被覆部形成装置100Aは、コイルばね10の塗装ライン100の塗装後の加熱乾燥炉101の出側に、熱硬化性樹脂液Aの浸漬槽102と、コイルばね10の再加熱乾燥炉103を順に設置して構成される。
【0017】
(1)コイルばね10を加熱する工程
コイルばね10の塗装後の加熱乾燥工程を利用し、コイルばね10を塗装ライン100の粉体塗装後の粉体を加熱乾燥(焼付乾燥)させる加熱乾燥炉101で所定温度、例えば180℃±20℃に加熱乾燥する。
【0018】
(2)加熱されたコイルばね10を熱硬化性樹脂液Aに浸漬する工程
加熱されたコイルばね10(コイルばね10は加熱乾燥炉101で加熱された余熱(例えば100℃)をもっている)を熱可塑性樹脂液の浸漬槽102に浸漬する。塗装ライン100のコンベヤ111の吊り具111Aに吊下げたコイルばね10のばね端末部を、一定の搬送速度で一定の浸漬時間、例えば1分間だけ浸漬槽102に浸漬する。コイルばね10の浸漬槽102への浸漬深さ、ひいては樹脂被覆部12の長さL(例えば2〜3mm)は、浸漬槽102の高さを浸漬槽102のリフタ102Aによって変更することにより調整できる。
【0019】
熱可塑性樹脂液としては例えば常温の、アクリルゾル(アクリル系ポリマーを主成分とするプラスチゾルの一種)を採用できる。
【0020】
(3)熱可塑性樹脂液から引き上げたコイルばね10を再加熱する工程
コイルばね10を再加熱乾燥炉103で所定温度、例えば180℃±20℃、所定時間、例えば5分間、再加熱乾燥(再焼付乾燥)する。
【0021】
従って、コイルばね10の塗装ライン100を含む製造ラインは、例えば図3に示す如く、コイリング工程、テンパー炉工程、ホットセッチング工程、ショットピーニング工程、セッチング工程、塗装前処理工程、水切り乾燥工程、粉体塗装工程、加熱乾燥工程(加熱乾燥炉101)、余熱工程、浸漬工程(浸漬槽102)、再加熱乾燥工程(再加熱乾燥炉103)、検査・箱詰め工程、マーキング工程を経てコイルばね10の一貫生産を完了する。
【0022】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)コイルばね10に付着した液状の熱可塑性樹脂が該コイルばね10の熱により硬化し、ムラなく一定厚の均一な樹脂被覆部12が形成される。その後のコイルばね10の再加熱により樹脂被覆部12を更に硬化させ、熱に強い(耐熱性)安定した樹脂被覆部12が形成される。
【0023】
(b)コイルばね10の樹脂被覆部12を形成するように、加熱されて硬化したアクリル樹脂は、柔軟性をもち、相隣るばね素線の接触による異音を効果的に防止する。また、アクリル樹脂は耐久性、耐環境性に優れる。
【0024】
(c)コイルばね10の塗装後の加熱乾燥工程で該コイルばね10に付与される熱を利用し、コイルばね10に付着した液状の熱可塑性樹脂を硬化させることができる。
【0025】
(d)コイルばね10の被覆部形成装置100Aは、コイルばね10の塗装ライン100の塗装後の加熱乾燥炉101の出側に、熱硬化性樹脂液Aの浸漬槽102と、コイルばね10の再加熱乾燥炉103を順に設置して構成される。コイルばね10の塗装ライン100を含む製造ラインの一部に被覆部形成装置100Aを設置することで、コイルばね10に樹脂被覆部12を形成でき、コイルばね10の生産性を向上できる。熱可塑性樹脂液の浸漬槽102の高さを変更することにより、コイルばね10の浸漬深さ、ひいては樹脂被覆部12の長さ(2巻目、3巻目等の被覆位置)を調整できる。コイルばね10の浸漬時間を変更することにより、樹脂被覆部12の被覆厚を調整できる。
【0026】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1はコイルばねを示す模式図である。
【図2】図2はコイルばねの被覆部形成装置を示す模式図である。
【図3】図3はコイルばねの製造ラインの一貫生産工程の一例を図表である。
【符号の説明】
【0028】
10 コイルばね
12 樹脂被覆部
100 塗装ライン
100A 被覆部形成装置
101 加熱乾燥炉
102 浸漬槽
103 再加熱乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルばねを加熱する工程と、
加熱されたコイルばねを熱硬化性樹脂液に浸漬する工程と、
熱硬化性樹脂液から引き上げたコイルばねを再加熱する工程とを有してなるコイルばねの被覆部形成方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂液がアクリルゾルである請求項1に記載のコイルばね被覆部形成方法。
【請求項3】
前記コイルばねを加熱する工程が、該コイルばねの塗装後の加熱乾燥工程である請求項1又は2に記載のコイルばねの被覆部形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコイルばねの被覆部形成方法の実施に用いられるコイルばねの被覆部形成装置であって、
コイルばねの塗装ラインの塗装後の加熱乾燥炉の出側に、熱硬化性樹脂液の浸漬槽と、コイルばねの再加熱乾燥炉を順に設置したコイルばねの被覆部形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−125629(P2009−125629A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301014(P2007−301014)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】