説明

コイル多段積み方法

【課題】安全なコイルの段積み方法
【解決手段】コイルを多段積み方法において、その上段に載置するコイルと、該上段コイルと接触し、既にスキッドに載置されている2つの下段コイルにおけるコイルとスキッドあるいはコイル同士の接触点において発生する抗力がゼロ以上コイル耐荷重未満で、且つ、下段コイルの重心周りのモーメント力がつり合っている時にのみ上段コイルの載置を行うことにより段積みの際の荷崩れを発生させないようにしたことを特徴とするコイル多段積み方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板あるいは金属条のコイル(以降、コイルと呼ぶ)を、自動クレーンを用いてコイル置場へ搬入、または、コイル置場からの移動、取り出し、搬出を行う際に、段積みによる荷崩れを発生させないようなコイルの多段積み方法およびその方法に使用されるコイル置場の床面に配置されたコイル置台(以後、スキッドと呼ぶ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コイル多段積み方法に関しては、一般に3コイル2段積みの幾何学配位(下段コイル中心座標、半径)で上段コイルの中心座標を算出して、クレーンにコイル移動を命じるというコイルの自動搬送システムが採用されている(特許第2975268号公報、特開2000−255785号公報、特開平8−2682号公報、特開平10−67487号公報、特開2008−195535号公報)。例えば、特開2000−255785号公報では、幾何学条件以外に力学条件としてコイル同士およびコイルとスキッドの間の抗力を計算し、コイル座屈とコイル荷崩れを評価している。しかし、そこではコイル同士あるいはコイルとスキッドの間の摩擦力が無視されているため、下段コイルの回転に起因する荷崩れを表現できず、コイル多段積みの安定性を確実には判定できてはいない。
【特許文献1】特許第2975268号公報
【特許文献2】特開2000−255785号公報
【特許文献3】特開平8−2682号公報
【特許文献4】特開平10−67487号公報
【特許文献5】特開2008−195535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
コイル多段積みの安定性を評価する上で、コイル同士およびコイルとスキッドの間に働く摩擦力も考慮した解析方法を確立し、より安全なコイルの段積み方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記問題に鑑み鋭意検討の結果、コイル多段積みで基本体系となる上段のコイルとそれに接触する下段の2つのコイルからなる3コイル体系において、剛体力学に基づく力のつり合いから、コイル同士あるいはコイルとスキッドの間の抗力と摩擦力(抗力と摩擦係数の積)を求め、下段コイルの重心周りの力のモーメント(摩擦力と重心から摩擦力が作用する点までの距離の積)を算出することによりコイル多段積みの安定性を評価する方法を見出した。ここで、力のモーメントの算出に用いる摩擦力は、該摩擦力の作用点と重心を結ぶ直線の垂直方向の分力であるが、コイル断面を略円形と考えているため、前記摩擦力の垂直方向分力はそのまま該摩擦力と等しいと見なす。
【0005】
すなわち、請求項1に記載の第1の発明は、金属板あるいは金属条のコイルを保管するコイル置場の床面に配置されたスキッドの位置座標とサイズが登録され、コイル置場にあるコイルの位置座標、巾、外径、内径、重量等がコイル情報として入力されるコイル自動搬送システムを利用したコイルを多段積み方法において、その上段に載置するコイルと、該上段コイルと接触し、既にスキッドに載置されている2つの下段コイルにおけるコイルとスキッドあるいはコイル同士の接触点において発生する抗力がゼロ以上コイル耐荷重未満で、且つ、下段コイルの重心周りのモーメント力がつり合っている時にのみ上段コイルの載置を行うことにより段積みの際の荷崩れを発生させないようにしたことを特徴とするコイル多段積み方法である。
【0006】
請求項2に記載の第2の発明は、請求項1記載のコイル多段積み方法に使用されるスキッドにおいて、コイルを段積みするにあたり、その上段に載置するコイルと、該上段コイルと接触し、既にスキッドに載置されている2つの下段コイルにおけるコイルとスキッドあるいはコイル同士の接触点において発生する抗力がゼロ以上コイル耐荷重未満で、且つ、下段コイルの重心周りのモーメント力がつり合うスキッド角を有することを特徴とするスキッドである。
【発明の効果】
【0007】
本発明ではコイル多段積みの安定性を厳密に評価するため、上下段コイル間およびコイルースキッド間の摩擦係数を考慮することにした。摩擦係数の設定状況によっては荷崩れが発生することが予測され、従来技術で述べられている抗力評価だけでは見逃していた危険性も検討することができ、より安全性の高いコイルの多段積み方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】コイル段積み安定性解析の設定条件
【図2】同径コイルによる2段積み安定性評価結果
【図3】摩擦係数を小さくした場合のコイル2段積み安定性評価結果
【図4】ケース1のコイル接触角θ、θを35°から40°に変更した場合
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1のように、3つのコイル重量をそれぞれW、W、W、上段コイルと下段コイル間の抗力と静摩擦係数をそれぞれF1R、F1L、μは、下段コイルとスキッド間の抗力と静摩擦係数をそれぞれF2R、F2L、F3R、F3L、μ、上下段のコイル間の接触角をθ、θ、スキッドの設置角度(スキッド角)をφ、φと表す。添え字のT、R、Lは上段コイル、下段の右コイルと左コイルをそれぞれ表す。
【0010】
力のつり合いから、以下の6つの数式(以下、見出しの「数」は「数式」を示す。)が導かれる。
(1)上段コイルに働く鉛直方向の力のつり合いより、
【0011】
【数1】

【0012】
(2)上段コイルに働く水平方向の力のつり合いより、
【0013】
【数2】

【0014】
(3)下段右コイルに働く水平方向の力のつり合いより、
【0015】
【数3】

【0016】
(4)下段右コイルに働く鉛直方向の力のつり合いより、
【0017】
【数4】

【0018】
(5)下段左コイルに働く水平方向の力のつり合いより、
【0019】
【数5】

【0020】
(6)下段左コイルに働く鉛直方向の力のつり合いより、
【0021】
【数6】

【0022】
上記連立方程式を解くには、まず数式1、数式2の連立方程式よりF1R、F1Lを求める。次に、これらを数式3〜数式6に代入することにより、数式3、数式4の連立方程式よりF2R、F3Rが、数式5、数式6の連立方程式よりF2L、F3Lが求まる。
【0023】
さて、安定的なコイル段積みのためには、θ、θおよびφ、φの関数である抗力F1R、F2R、F3R、F1L、F2L、F3Lが下段コイルの重心周りのモーメント力に関して下記数式7、数式8のようにつり合う必要がある。
【0024】
【数7】

【0025】
【数8】

【0026】
もし、ある閾値内で上記数式7および数式8の等式が成立しないとすれば、そのコイル段積みには安定性がないと判断される。すなわち、その場合には、そのコイル段積みの条件であるコイル間の距離、スキッド角を調整し、θ、θ、φ、φを見直す必要がある。
【0027】
さらに、下段コイル間には吊り上げ作業用に隙間が必要なため、コイル外径と絡むコイル間接触角の拘束条件である数式9を満たさなければならない。
【0028】
【数9】

【0029】
尚、コイル間接触角θ、θとコイル重心座標との関係は以下数式10及び数式11の通りである。
【0030】
【数10】

【0031】
【数11】

【実施例】
【0032】
2段積みが左側より連続的に成立してきたと仮定する。図1において、段積みしようとする上段コイルTに対して下段右に当たるコイルRにとっては、上段コイルTからの摩擦力で左回転するモーメント力とスキッドから受ける摩擦力で右回転のモーメント力が発生する。もし両者のモーメント力がつり合えば、つまりモーメント力の和がゼロになれば、コイル段積みは安定であると判断される。
【0033】
簡単のため、下記条件で同径サイズのコイルにおける2段積みを想定し、コイル同士およびコイルとスキッドの間の摩擦係数を考慮した解析例を示す。
【0034】
(ケース1)
コイル外径:2300mm
コイル内径:610mm
コイル巾:2000mm
コイル重量W、W、W:21ton
上下段コイル接触角θ、θ:35°
コイル間の静摩擦係数μ:0.8
コイルとスキッドの間の静摩擦係数μ:0.2
【0035】
本条件のもとで解析した結果を図2に示す。上段コイルTを安定して積載するためには、下段コイルRに働く3つのモーメント力μ1R、μ2R、μ3Rがつり合い、その和が0(ゼロ)になる必要がある。図2に示すモーメント力の和はスキッド角が23°のときにゼロになる。すなわち、スキッド角φを23°とすることで安定したコイル多段積みが可能となる。
【0036】
(ケース2)
コイル外径:2300mm
コイル内径:610mm
コイル巾:2000mm
コイル重量W、W、W:21ton
上下段コイル接触角θ、θ:35°
コイル間の静摩擦係数μ:0.2
コイルとスキッドの間の静摩擦係数μ:0.2
【0037】
本条件で解析した結果を図3に示す。本ケースの場合、ケース1と同様にコイルRに働くモーメント力の和がゼロとなる、つまり安定した2段積みが可能なスキッド角が存在しない。この場合、無理に積載を行うと下段の2つのコイルが離れるように転がり、荷崩れを起こすと予測される。
【0038】
一方、特開平11−058001号公報にある方法では、単にコイルに働く抗力がゼロ以上座屈応力以下となることを判定基準としているため、ケース2のような場合でも安定な積載が可能であると予測してしまう。
【0039】
(ケース3)
コイル外径:2300mm
コイル内径:610mm
コイル巾:2000mm
コイル重量W、W、W:21ton
上下段コイル接触角θ、θ:40°
コイル間の静摩擦係数μ:0.8
コイルとスキッドの間の静摩擦係数μ:0.2
【0040】
上述のケース1に対し、上下段コイル接触角θ、θを40°にしたケース3を想定する。解析した結果を図4に示す。コイル2段積みが安定化するモーメント力の和がゼロとなるスキッド角は22°であり、ケース1と殆ど同じ値である。下段の2つのコイルRとコイルLの重心間距離に換算すると2640mmから2950mmに大きく広がるため荷崩れが発生し易くなる方向ではあるが、本発明評価によるとコイル2段積みは安定と判定する。その理由は上下段コイル間の摩擦係数が大きいために下段2コイルを3コイル体系の内側に回す力が大きく、それにより上段コイルが直下に滑り落ちることを防いでいるからである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、コイルの多段積みを行う場合の安全性を的確に判断でき、また必要なスキッド角を有するスキッドを設置することが可能となり安定した操業を行うことが可能となり産業上顕著な効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0042】
1 上段に積載するコイルT
2 下段右側のコイルR
3 下段左側のコイルL
4 スキッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板あるいは金属条のコイル(以後、コイルと呼ぶ)を保管するコイル置場の床面に配置されたコイル置台(以後、スキッドと呼ぶ)の位置座標とサイズが登録され、コイル置場にあるコイルの位置座標、巾、外径、内径、重量等がコイル情報として入力されるコイル自動搬送システムを利用したコイルを多段積み方法において、その上段に載置するコイルと、該上段コイルと接触し、既にスキッドに載置されている2つの下段コイルにおけるコイルとスキッドあるいはコイル同士の接触点において発生する抗力がゼロ以上コイル耐荷重未満で、且つ、下段コイルの重心周りのモーメント力がつり合っている時にのみ上段コイルの載置を行うことにより段積みの際の荷崩れを発生させないようにしたことを特徴とするコイル多段積み方法。
【請求項2】
請求項1記載のコイル多段積み方法に使用されるスキッドにおいて、コイルを段積みするにあたり、その上段に載置するコイルと、該上段コイルと接触し、既にスキッドに載置されている2つの下段コイルにおけるコイルとスキッドあるいはコイル同士の接触点において発生する抗力がゼロ以上コイル耐荷重未満で、且つ、下段コイルの重心周りのモーメント力がつり合うスキッド角を有することを特徴とするスキッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−225302(P2011−225302A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94577(P2010−94577)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】