説明

コイル検査システムおよびコイル検査方法

【課題】カセットコイル単体での検査が可能であり,製造効率が良いコイル検査システムおよびコイル検査方法を提供すること。
【解決手段】コイル検査システム100は,ボビン保持治具21と,絶縁検査装置31と,コイルタンク4と,データ処理計算機5とを有している。ボビン保持治具21は,巻線装置2に組み付けられた部品であり,コイルボビンを保持する保持機能に加え,電極としての電極機能を有している。そして,ボビン保持治具21は,絶縁検査装置31と電気的に接続されている。また,ボビン保持治具21は,カセットコイルが挿入されるステータコアのカセットコイル装着部と同形状に成形されている。そして,コイル検査システム100では,ボビン保持治具21がコイルボビンを保持し,導線を巻き付けながらコイルの絶縁検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成し,そのカセットコイルの絶縁検査を行うコイル検査システムおよびコイル検査方法に関する。さらに詳細には,導線を巻き付けつつカセットコイルの絶縁検査を行うことができるコイル検査システムおよびコイル検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,低公害等の観点からハイブリッド自動車,電気自動車等が注目されている。ハイブリッド自動車等に搭載される車両駆動用モータでは,カセットコイルを利用した集中巻モータが提案されている。カセットコイルを利用した集中巻モータは,分布巻モータと比較して,作業者の熟練度に左右されない,品質のばらつきが少ない等の利点がある。
【0003】
また,ハイブリッド自動車等に搭載される車両駆動用モータにおいては,大電流かつ高電圧で高精度の性能特性が要求されることから,そのモータの構成部品について種々の性能検査が行われている。勿論,コイル単体での性能検査も行われる。
【0004】
また,一般的なモータの性能検査としては,種々の検査装置および検査方法が開示されている。例えば,特許文献1に開示された電動機の絶縁検査装置では,コイル側の電極とステータコア側の電極とを設け,コイルとステータコアとの間に挿入される絶縁材(コイルボビン等)の絶縁検査を行うとしている。この他,例えば特許文献2に開示されたコイル巻線装置は,コイル端を成形する成形手段を設け,さらにその成形手段を利用して導通検査を行うとしている。
【特許文献1】特開2004−233182号公報
【特許文献2】特開平8−279431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の絶縁検査には,次のような問題があった。すなわち,特許文献1に開示された検査装置のように,導線を巻き付ける前にコイルボビン単体の検査を行ったとしても,導線が巻き付けられた状態あるいはステータコアに挿入された状態の性能を保証しているわけではない。そのため,導線を巻き付けた後にもコイル単体の絶縁検査やコイル−ステータコア間の絶縁検査が行われる。つまり,検査−巻線−検査と工程が多く,製造サイクルが長くなってしまう。
【0006】
また,特許文献2に開示された検査装置のように,コイル端を成形すると同時に絶縁検査を行うことができれば効率的である。しかしながら,カセットコイル単体ではコイル端を成形する工程がなく,そのまま適用することができない。
【0007】
また,カセットコイルをステータコアに組み付けた後で絶縁検査を行うことにより,コイル単体の不良の他,コイルとスタータコアとの間の絶縁不良を検出することができる。しかしながら,カセットコイルを組み付け後に不良が検出されたとしても,そのコイル端が圧着端子とかしめられて組み付けられているため,不良カセットコイルのみを廃棄することができない。その結果,廃棄ロスが多くなる。
【0008】
本発明は,前記した従来の絶縁検査が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,カセットコイル単体での検査が可能であり,製造効率が良いコイル検査システムおよびコイル検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされたコイル検査システムは,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成する巻線装置を備え,そのカセットコイルの絶縁状態を検査するコイル検査システムであって,巻線装置に付設され,コイルボビンを保持するとともにその保持部が通電可能な電極であるボビン保持治具と,コイルボビンに巻き付けられる導線とボビン保持治具とに電気的に接続され,所定の電圧を印加するとともに,ボビン保持治具に流れた電流を検出する絶縁検査装置とを備え,絶縁検査装置は,ボビン保持治具がコイルボビンを保持し,導線の巻付け中にあるいは導線の巻付け直後に電圧を印加することを特徴としている。
【0010】
また,本発明のコイル検査方法は,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成し,そのカセットコイルの絶縁状態を検査するコイル検査方法であって,コイルボビンを保持するとともにその保持部が通電可能な電極であるボビン保持治具にてコイルボビンを保持し,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成する巻線ステップと,コイルボビンに巻き付けられる導線とボビン保持治具とを絶縁検査装置に電気的に接続し,導線の巻付け中にあるいは導線の巻付け直後に電圧を印加してコイルの絶縁を検査する絶縁検査ステップとを含むことを特徴としている。
【0011】
本発明のコイル検査システムでは,コイルボビンを保持する機能と電極としての機能とを兼ねるボビン保持治具が付設された巻線装置を備える。そして,ボビン保持治具にてコイルボビンを保持し,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成する(巻線ステップ)。
【0012】
そして,導線を巻き付けながらに,あるいは導線を巻き付けた直後(すなわちボビン保持治具がカセットコイルを保持したままの状態)に,ボビン保持治具および導線(コイル)と電気的に接続する絶縁検査装置により,所定の電圧をコイルに印加してコイルの絶縁を検査する(絶縁検査ステップ)。具体的には,コイルに電圧を印加した際に,ボビン保持治具に流れた電流を検出する。この電流値を基にコイル−ボビン保持治具間の絶縁状態を判断する。これにより,巻線を行うとともに,あるいは巻線を終えた直後に,ワークを移動させることなくカセットコイルの絶縁検査を行うことができる。そのため,製造効率が良い。
【0013】
また,絶縁検査は,巻線工程中あるいは巻線工程直後(すなわち巻線工程後であって,そのカセットコイルがステータコアに組み付けられる前)に行われる。よって,不良カセットコイルのみを廃棄することができる。そのため,廃棄ロスが少ない。また,巻線工程中に絶縁不良と判断された場合には,巻線を中止するとよりよい。これにより,無駄に導線を巻くことがなく,導線のロスを少なくすることができる。
【0014】
また,ボビン保持治具のコイルボビンの保持部は,ステータコアのコイルボビンの装着部と同形状であることとするとよりよい。これにより,カセットコイルがステータコアに組み付けられた状態を再現できる。そのため,この状態で絶縁検査を行うことで,カセットコイルがステータコアに組み付けられた後の,コイル−ステータコア間の絶縁性を確保することができる。なお,本願でいう同形状とは,厳密な同一性を要求するものではなく,コイルボビンの装着部を模した形状であればよい。例えば,製造上の誤差は同形状の範囲内である。また,実際のコイルボビンの装着部よりも僅かに大きいサイズとすることで,実際よりも厳しい検査を行うことが可能になる。
【0015】
また,本発明のコイル検査システムでは,コイルボビンに巻き付けられる導線がペア線であり,ペア線を構成する各導線にそれぞれ電気的に接続され,それら導線間に所定の電圧を印加し,その導線に流れた電流を検出する第2絶縁検査装置を備え,第2絶縁検査装置は,ボビン保持治具がコイルボビンを保持し,導線を巻き付けながらにあるいは導線を巻き付けた後に電圧を印加することとするとよりよい。
【0016】
すなわち,導線を巻き付けながらに,あるいは導線を巻き付けた直後に,ペア線を構成する各導線(コイル)と電気的に接続する第2絶縁検査装置により,所定の電圧をコイルに印加してコイルの絶縁を検査する(第2絶縁検査ステップ)。具体的には,コイルに電圧を印加した際に,ペア線を構成する導線間に流れた電流を検出する。この電流値を基にペア線の絶縁状態を判断する。これにより,巻線を行うとともに,あるいは巻線を終えた直後に,コイル−ステータコア間の絶縁検査のほか,ペア線の絶縁検査を行うことができる。
【0017】
また,本発明のコイル検査システムでは,巻線装置に付設され,ロータの外形の少なくとも一部と同形状であり,ボビン保持治具に電気的に接続されるロータ側電極を備え,ロータ側電極は,絶縁検査装置による検査の際にコイルボビンのロータ側側面に対向配置されることとするとよりよい。
【0018】
すなわち,ロータの外形もしくはその一部と同形状のロータ側電極をコイルボビンのロータ側側面に配置することで,カセットコイルがステータコアおよびロータを組み付けたときの位置関係を模擬する。そして,ロータ側電極をボビン保持治具に接続した後,絶縁検査装置により所定の電圧をコイルに印加してコイルの絶縁を検査する。これにより,コイル−ボビン保持治具間(つまり,コイル−ステータコア間)の絶縁検査の他,コイル−ロータ側電極間(つまり,コイル−ロータ間)の絶縁検査を行うことができる。よって,巻線工程後,カセットコイル単体で,コイル−ステータ間のほか,コイル−ロータ間も絶縁性も確保される。
【0019】
さらには,本発明のコイル検査システムは,検査項目に応じて被検体(カセットコイルやボビン保持治具)と検査装置との電気的な接続を切り替える切替装置を備えることとするとよりよい。
【0020】
すなわち,リレー等の切替装置によって,検査項目ごとに検査装置と被検体との接続を切り替える。例えば,コイル−ステータコア間の絶縁を検査する場合には,コイルおよびボビン保持治具を検査装置に接続する。また,ペア線のレイヤショートを検査する場合には,ペア線を構成する各導線を第2絶縁検査装置に接続する。これにより,複数の項目の絶縁検査を容易に切り替えることができ,製造効率がより一層向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば,ボビン保持治具がボビンの保持機能とともに電極機能を兼ねることにより,カセットコイルを形成しつつコイルの絶縁検査を行うことができる。よって,カセットコイル単体での検査が可能であり,製造効率が良いコイル検査システムおよびコイル検査方法が実現されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,本実施の形態は,車両駆動用モータに利用されるカセットコイルのコイル検査システムに本発明を適用したものである。
【0023】
まず,カセットコイルおよびカセットコイルを装着したステータの構成例について簡単に説明する。図1は,カセットコイルの外観を示す斜視図である。図2は,ステータコアの外観を示す斜視図である。そして,図3は,カセットコイルをステータコアに装着した状態の外観を示す斜視図である。
【0024】
カセットコイル10は,図1に示すように,コイルボビン101に導線102を巻装してコイルを形成したものである。導線102は,単線であってもペア線であってもよい。コイルボビン101は,導線102が巻装される断面矩形の筒体104と,筒体104の両端に位置する一対の鍔部105,106とを有している。コイルボビン101および鍔部105,106は,絶縁性を有する材料からなり,例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)が適用可能である。
【0025】
カセットコイル10は,筒体104内の貫通孔109からステータコア11のティース111に嵌め込まれることでステータコア11に装着される(図2,図3参照)。また,カセットコイル10は,ステータコア11に装着された際に,鍔部105がステータコアの外径側に,鍔部106が内径側になるように配置される。すなわち,鍔部106がロータと対向するように配置される。
【0026】
また,導線102の巻き始め部分であるコイル端102aおよび巻き終わり部分であるコイル端102bは,鍔部105から取り出されている。そして,鍔部105は両コイル端を非接触で把持している。
【0027】
ステータコア11は,図2に示すように,円環状であり,内側にティース111およびスロット112を有している。さらに,ステータコア11の上面には,カセットコイル10が装着された際に,カセットコイル10,10間を電気的に接続するためのバスバーモジュール113が付設されている。バスバーモジュール113からは,コイル端102aあるいはコイル端102bと電気的に接続するための端子114が上方に取り出されている。
【0028】
カセットコイル10は,図3に示すように,ステータコア11に組み付けられる。具体的には,ステータコア11のティース111にカセットコイル10が挿し込まれる。そして,カセットコイル10のコイル端102a,102bがそれぞれバスバーモジュール113の端子114とかしめられて接続される。さらに,カセットコイル10,10間を絶縁するために,絶縁紙(インシュレータ)12がカセットコイル10,10間に配設される。このように構成されたステータの中心に,ロータを配置することにより集中巻モータが構成される。
【0029】
続いて,コイル検査システムについて説明する。本形態のコイル検査システムでは,コイルボビンに導線が巻き付けられるカセットコイルを被検体(検査ワーク)とする。
【0030】
[第1の形態]
第1の形態のコイル検査システム100は,図4に示すように,巻線装置2と,絶縁検査装置31と,コイルタンク4と,データ処理計算機5とを有している。この他,検査ワーク1の温度を測定する温度測定器や,試験室内の温度および湿度を測定する温湿測定器等を付設してもよい。検査ワーク1は,例えば図5に示すように結線されるカセットコイルの1つである。なお,コイル数や相数は,モータの仕様によって異なることは言うまでもない。コイルタンク4は,検査ワーク1のコイルボビンに巻き付けられる導線の供給源である。なお,本形態で供給される導線はペア線であるが,単線であってもよい。
【0031】
巻線装置2は,コイルボビンにコイルタンク4から供給された導線を巻き付けるものであり,コイルボビンを保持するボビン保持治具21を備えている。ボビン保持治具21は,図4の矢印方向に回転可能に設けられており,ボビン保持治具21が回転することで保持されているコイルボビンも回転する。そして,コイルボビンが回転することで導線がコイルボビンに巻き付けられる。なお,巻線装置2の機構や巻付け方法は一般的なものと同様であり,詳細な説明および図面は省略する。
【0032】
また,ボビン保持治具21は,少なくともコイルボビンの保持部が導電部材により構成され,コイルボビンの保持機能のほか,電極としての機能を兼ねる。そのため,ボビン保持治具21には,所定の電圧を印加することができる。また,ボビン保持治具21の保持部は,ステータコアのカセットコイルの装着部と同形状に成形されている。なお,カセットコイルの装着部とは,カセットコイルの貫通孔に挿入されるティース部分だけではなく,コイルボビンの鍔部と対向するスロットの溝部分も含む。そして,コイルボビンが挿入されることで,カセットコイルを組み付けたときのコイル−ステータ間の位置関係を模擬する。
【0033】
絶縁検査装置31は,負極端子をボビン保持治具21に接続し,正極端子をコイル(コイルタンク4)に接続する。そして,所定の電圧を印加することにより,ボビン保持治具21とコイルとの間の絶縁を検査する。具体的に,絶縁検査装置31が部分放電試験機であれば,検査ワーク1に対して所定の検査電圧(例えば,2.4kV,60Hzの正弦波)を印加し,ボビン保持治具21に流れた放電電流を検出する。
【0034】
データ処理計算機5は,放電電流値等を基に,検査ワーク1の良否判定を行うものである。判定結果は,データ処理計算機5に付設されたモニタ51やプリンタ52等の出力手段に出力される。検査者は,例えばモニタ51を通じて試験結果を知ることができる。さらに,検査者は,キーボードやマウス等の入力手段により出力内容を加工することができる。
【0035】
続いて,コイル検査システム100による検査方法について説明する。本検査では,絶縁検査装置31によるカセットコイルの絶縁検査を行う。なお,あらかじめ絶縁検査装置31とボビン保持治具21とを電気的に接続しておく。また,絶縁検査装置31とコイルタンク4のコイル端とを電気的に接続しておく。以下,ステータの作製および検査の手順について,図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0036】
まず,コイルボビンを用意し,巻線装置2にそのコイルボビンを装着する(S11)。すなわち,ボビン保持治具21にてコイルボビンを保持する。次に,コイルタンク4から導線を引き出し,その導線をコイルボビンに巻き付ける(S12)。具体的には,コイルボビンの鍔部がコイル端を把持し,その状態でボビン保持治具21が回転することにより,導線がコイルボビンに巻き付けられる。
【0037】
さらに,この巻線工程(S12)時に,コイル単体の絶縁検査を行う。すなわち,巻線工程中に,絶縁試験器31により,コイルタンク4を介してコイル−ボビン保持治具21間に検査電圧を印加する。そして,ボビン保持治具21に流れた放電電流を検出する。データ計算機5では,検出した放電電流を基に絶縁性能の良否を判断する。
【0038】
絶縁性能が不良であれば,直ちにボビン保持治具21の回転を停止し,不良のカセットコイルを廃棄する。一方,絶縁性能が良好であれば,巻線機を稼動し続けてカセットコイルを形成する。
【0039】
巻線終了後は,良品のカセットコイルをステータコアに組み付ける(S13)。その後,カセットコイルのコイル端をステータに付設されたバスバーモジュールの端子と併せてかしめる(S14)。その後,隣り合うカセットコイル間を絶縁するためのインシュレータを組み付け,インシュレータが組み付けられた状態で再度性能検査を行う(S15)。
【0040】
なお,本形態では,絶縁検査をコイルの巻き付けとともに行っているが,コイルが巻き終えた後であって,ステータコアに装着する前に行うとしてもよい。すなわち,ボビン保持字部21がカセットコイルを保持している状態であればよい。
【0041】
以上詳細に説明したように第1の形態のコイル検査システム100は,コイルボビンを保持する保持機能と電極としての電極機能とを兼ねるボビン保持治具21を備えることとしている。そして,ボビン保持治具21にてコイルボビンを保持し,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成している。そして,巻線工程中に,ボビン保持治具21および導線(コイル)と電気的に接続する絶縁検査装置31により,所定の電圧をコイルに印加してコイルの絶縁を検査している。これにより,巻線を行うとともに,ワークを移動させることなくカセットコイル単体の絶縁検査を行うことができる。そのため,製造効率が良い。
【0042】
また,この絶縁検査は,カセットコイル単体での検査であり,カセットコイルがステータコアに組み付けられる前に行われる。よって,不良カセットコイルのみを廃棄することができる。そのため,廃棄ロスは少ない。また,巻線工程中に絶縁不良と判断された場合には,巻線を中止している。これにより,無駄に導線を巻くことがなく,導線のロスを少なくすることができる。
【0043】
また,ボビン保持治具21は,ステータコアのコイルボビン装着部と同形状であることから,カセットコイルがステータコアに組み付けられた状態を再現できる。そのため,カセットコイルがステータコアに組み付けられた後の,カセットコイル−ステータコア間の絶縁性をも確保することができる。従って,カセットコイル単体での検査が可能であり,製造効率が良いコイル検査システムおよびコイル検査方法が実現している。
【0044】
[第2の形態]
第2の形態のコイル検査システム200は,図7に示すように,ボビン保持治具21が付設された巻線装置2と,絶縁検査装置31と,絶縁検査装置32と,コイルタンク41,42と,データ処理計算機5と,切替ボックス6とを有している。なお,図7中,図4で示したコイル検査システム100と同一記号の構成要素は,その構成要素と同一機能を有するものである。
【0045】
本形態の検査ワーク1は,コイルボビンに巻き付けられる導線がペア線であり,それぞれの導線がコイルタンク41,42から供給される。また,本形態のコイル検査システム200は,2台の絶縁検査装置31,32を備えており,検査項目に応じて被検体と検査装置との電気的な接続を切り替える。この点,第1の形態と異なる。
【0046】
絶縁検査装置32は,カセットコイルを構成するペア線間に対して所定の電圧を印加し,ペア線間に流れた電流値を取得するものである。絶縁検査装置32は,切替ボックス6を介し,コイルタンク41およびコイルタンク42にそれぞれ電気的に接続される。
【0047】
切替ボックス6は,検査ワーク1の検査項目に応じて被検体と各検査装置との電気的接続の切替えを行うものである。具体的に,ペア線間の絶縁を検査する際には,図8に示すようにコイル1(コイルタンク41)を絶縁検査装置32の正極端子に,コイル2(コイルタンク42)を絶縁検査装置32の負極端子に,それぞれ接続する。一方,コイル−ボビン保持治具(ステータコア)間の絶縁を検査する際には,図9に示すように両コイルを絶縁検査装置31の正極端子に,ボビン保持治具21を絶縁検査装置の負極端子に,それぞれ接続する。
【0048】
なお,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査と,ペア線間の絶縁検査とが同じ絶縁検査装置で実施できるのであれば,絶縁試験器を1台だけ設置するとしてもよい。その場合には,切替ボックス6により,被検体の接続のみを切り替える。
【0049】
続いて,コイル検査システム200による検査方法の一例について説明する。本検査では,絶縁検査装置31によるコイル−ボビン保持治具の絶縁検査と,絶縁検査装置32によるペア線間の絶縁検査とを検査する。以下,ステータの作製および検査の手順について,図10のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
まず,コイルボビンを用意し,巻線装置2のボビン保持治具21にてそのコイルボビンを保持する(S21)。次に,コイルタンク41,42から導線を引き出し,ペア線としてコイルボビンに巻き付ける(S22)。
【0051】
この巻線工程(S22)時に,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査を併せて行う。すなわち,切替ボックス6にてコイルタンク41,42およびボビン保持治具21と絶縁試験装置31とを接続(図9)する。そして,巻線工程中に,絶縁試験器31により,コイルタンク41,42を介してコイル−ボビン保持治具21間に検査電圧を印加する。そして,ボビン保持治具21に流れた放電電流を検出する。データ計算機5では,検出した放電電流を基に絶縁性能の良否を判断する。
【0052】
絶縁性能が不良であれば,直ちにボビン保持治具21の回転を停止し,不良のカセットコイルを廃棄する。一方,絶縁性能が良好であれば,巻線機を稼動し続けてカセットコイルを形成する。
【0053】
巻線の終了後は,ペア線間の絶縁検査を行う(S23)。すなわち,切替ボックス6にてコイルタンク41,42と絶縁試験装置32とを接続(図8)し,絶縁試験器32により,コイルタンク41,42を介してコイルに検査電圧を印加する。このとき,両コイル間に流れた電流を検出する。データ計算機5では,検出した電流を基に絶縁性能の良否を判断する。
【0054】
ペア線の絶縁検査の終了後は,良品のカセットコイルをステータコアに組み付ける(S24)。その後,カセットコイルの端子をステータに付設されたバスバーモジュールの端子と併せてかしめる(S25)。その後,隣り合うカセットコイル間を絶縁するためのインシュレータを組み付け,インシュレータが組み付けられた状態で再度性能検査を行う(S26)。
【0055】
なお,図10に示した手順では,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査がペア線間の絶縁検査よりも先に行われているが,順序は逆であってもよい。また,一定の間隔で被検体と絶縁検査装置との接続を切り替え,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査とペア線間の絶縁検査とを交互に行いながら巻線を行ってもよい。これにより,巻線工程中に,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査とペア線間の絶縁検査とを行うことができる。
【0056】
以上詳細に説明したように第2の形態のコイル検査システム200は,コイル−ボビン保持治具間の絶縁を検査する絶縁検査装置31のほか,ペア線間の絶縁を検査する絶縁試験装置32を設けることとしている。また,切替ボックス6によって被検体と絶縁検査装置との電気的接続を切り替えることとしている。そのため,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査の他,ペア線間の絶縁検査を行うことができる。これにより,巻線工程中,ワークを移動させることなく複数の項目の絶縁検査を行うことができる。
【0057】
[第3の形態]
第3の形態のコイル検査システム300は,図11に示すように,ボビン保持治具21およびロータ側電極22が付設された巻線装置2と,絶縁検査装置31と,コイルタンク4と,データ処理計算機5とを有している。なお,図11中,図4で示したコイル検査システム100と同一記号の構成要素は,その構成要素と同一機能を有するものである。
【0058】
本形態の検査ワーク1は,コイルボビンに導線が巻き付けられるカセットコイルであり,ボビン保持治具21に保持されている。また,コイル検査システム300は,ロータの形状を模したロータ側電極22を有している。この点,第1の形態と異なる。
【0059】
ロータ側電極22は,巻線装置2に組み付けられた部品であり,図12に示すようにコイルボビンのロータ側鍔部に対向配置されるとともにボビン保持治具21に電気的に接続された状態となる。ロータ側電極22は,ロータの外形もしくはその一部と同形状に成形されている。そして,ロータ側電極22をコイルボビンのロータ側側面に配置することで,ロータ側電極22がコイルとロータとの位置関係を模擬する。すなわち,カセットコイルがステータコアに取り付けられ,さらにロータに対峙した状態が再現される。
【0060】
絶縁検査装置31は,負極端子をボビン保持治具21に接続し,正極端子をコイル(コイルタンク4)に接続する。そして,所定の電圧を印加することにより,ボビン保持治具21とコイルとの間の絶縁を検査する。この絶縁検査の際に,ロータ側電極22が検査ワーク1に隣接配置され,さらにボビン保持治具21と電気的に接続される。そのため,この絶縁検査はコイル−ロータ側電極間の絶縁検査を兼ねる。
【0061】
本形態のコイル検査システム300は,第1の形態と同様の手順(図6参照)で検査する。ただし,ボビン保持時具21がコイルボビンを保持した後であって巻線を開始する前に,ロータ側電極22をコイルボビンのロータ側に配置する。これにより,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査の際,コイル−ロータ側電極間の絶縁も併せて検査される。
【0062】
以上詳細に説明したように第3の形態のコイル検査システム300は,ロータの位置関係を模したロータ側電極22を設けることとしている。そして,絶縁検査装置31は,コイル−ボビン保持治具間の絶縁検査と,コイル−ロータ側電極間の絶縁検査とを兼ねることとしている。そのため,コイル−ボビン保持治具間(つまり,コイル−ステータコア間)の絶縁検査の他,コイル−ロータ側電極間(つまり,コイル−ロータ間)の絶縁検査を行うことができる。これにより,巻線工程後,カセットコイル単体で,コイル−ステータ間のほか,コイル−ロータ間も絶縁性も確保される。
【0063】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本実施の形態では,車両駆動用モータについて検査を行っているが,これに限るものではない。すなわち,家電製品用モータの検査に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】カセットコイルの概略構成を示す図である。
【図2】ステータの概略構成を示す図である。
【図3】カセットコイルを装着したステータの概略構成を示す図である。
【図4】第1の形態にかかるコイル検査システムの概略構成を示す図である。
【図5】検査ワークの結線状態を示す図である。
【図6】第1の形態におけるステータの作製および検査の手順を示すフローチャートである。
【図7】第2の形態にかかるコイル検査システムの概略構成を示す図である。
【図8】被検体と絶縁検査装置との電気的接続を示す図(ペア線間の絶縁検査)である。
【図9】被検体と絶縁検査装置との電気的接続を示す図(コイル−ステータコア間の絶縁検査)である。
【図10】第2の形態におけるステータの作製および検査の手順を示すフローチャートである。
【図11】第3の形態にかかるコイル検査システムの概略構成を示す図である。
【図12】ロータ側電極の配置を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 検査ワーク
2 巻線装置(巻線装置)
21 ボビン保持治具(ボビン保持治具)
22 ロータ側電極(ロータ側電極)
31 絶縁検査装置(絶縁検査装置)
32 絶縁検査装置(第2絶縁検査装置)
4 コイルタンク
5 データ処理計算機
6 切替ボックス(切替装置)
100 コイル検査システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成する巻線装置を備え,そのカセットコイルの絶縁状態を検査するコイル検査システムにおいて,
前記巻線装置に付設され,コイルボビンを保持するとともにその保持部が通電可能な電極であるボビン保持治具と,
コイルボビンに巻き付けられる導線と前記ボビン保持治具とに電気的に接続され,所定の電圧を印加するとともに,前記ボビン保持治具に流れた電流を検出する絶縁検査装置とを備え,
前記絶縁検査装置は,前記ボビン保持治具がコイルボビンを保持し,導線の巻付け中にあるいは導線の巻付け直後に電圧を印加することを特徴とするコイル検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載するコイル検査システムにおいて,
前記ボビン保持治具のコイルボビンの保持部は,ステータコアのコイルボビンの装着部と同形状であることを特徴とするコイル検査システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するコイル検査システムにおいて,
コイルボビンに巻き付けられる導線がペア線であり,ペア線を構成する各導線にそれぞれ電気的に接続され,それら導線間に所定の電圧を印加し,その導線に流れた電流を検出する第2絶縁検査装置を備え,
前記第2絶縁検査装置は,前記ボビン保持治具がコイルボビンを保持し,導線を巻き付けながらにあるいは導線を巻き付けた直後に電圧を印加することを特徴とするコイル検査システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載するコイル検査システムにおいて,
前記巻線装置に付設され,ロータの外形の少なくとも一部と同形状であり,前記ボビン保持治具に電気的に接続されるロータ側電極を備え,
前記ロータ側電極は,前記絶縁検査装置による検査の際にコイルボビンのロータ側側面に対向配置されることを特徴とするコイル検査システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載するコイル検査システムにおいて,
被検体と検査装置との電気的な接続を検査項目に応じて切り替える切替装置を備えることを特徴とするコイル検査システム。
【請求項6】
コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成し,そのカセットコイルの絶縁状態を検査するコイル検査方法において,
コイルボビンを保持するとともにその保持部が通電可能な電極であるボビン保持治具にてコイルボビンを保持し,コイルボビンに導線を巻き付けてカセットコイルを形成する巻線ステップと,
コイルボビンに巻き付けられる導線と前記ボビン保持治具とを絶縁検査装置に電気的に接続し,導線の巻付け中にあるいは導線の巻付け直後に所定の電圧を印加し,前記ボビン保持治具に流れた電流を検出し,その電流を基にコイルの絶縁良否を判断する絶縁検査ステップとを含むことを特徴とするコイル検査方法。
【請求項7】
請求項6に記載するコイル検査方法において,
前記巻線ステップでは,前記ボビン保持治具のコイルボビンの保持部がステータコアのコイルボビンの装着部と同形状に形成されていることを特徴とするコイル検査方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載するコイル検査方法において,
前記巻線ステップでは,前記絶縁検査ステップにて不良と判断された場合に,導線の巻き付けを中止することを特徴とするコイル検査方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか1つに記載するコイル検査方法において,
コイルボビンに巻き付けられる導線がペア線であり,ペア線を構成する各導線を第2絶縁検査装置にそれぞれ電気的に接続し,導線の巻付け中にあるいは導線の巻付け直後にそれら導線間に所定の電圧を印加し,その導線に流れた電流を検出し,その電流を基にコイルの絶縁良否を判断する第2絶縁検査ステップを含むことを特徴とするコイル検査方法。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1つに記載するコイル検査方法において,
導線の巻付けを開始する前に,通電可能な電極であり,ロータの外形の少なくとも一部と同形状なロータ側電極を前記ボビン保持治具に電気的に接続し,そのロータ側電極をコイルボビンのロータ側側面に対向配置することを特徴とするコイル検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−189144(P2007−189144A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7352(P2006−7352)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】